説明

細菌ゲノム増幅反応用プライマー

【課題】ヒトおよび動物の感染症起因菌の迅速な同定のために、選択した62菌種を対象として、目的とする各細菌の16S rRNA遺伝子配列を、効率よく増幅することのできるプライマー、またはプライマーセットを提供する。
【解決手段】Staphylococcus属、Streptococcus属、Enterococcus属、Pseudomonas属等の、各細菌の16S rRNA遺伝子中の、特定の塩基配列を含む、細菌ゲノム増幅反応用プライマー、およびそのセット。さらに、それらを含む細菌同定用キット、および該キットを用いる細菌検出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細菌の16SrRNAコード領域のゲノム増幅反応に用いるプライマーに関する。また、同プライマーを組み合わせたプライマーセット、さらにはプライマーセットを有するキット、プライマーセットを用いた細菌の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血液、喀痰といった検体中の感染症の原因菌を特定する方法は、従来から培養法が主に採用され、コロニーの形状や培地ごとの生育状況より原因菌の特定がなされている。しかし、患者に対しより早く適切な治療、投薬を行うために、原因菌の特定方法の改良や新しい方法の提案がなされている。
【0003】
代表的な方法として、菌のDNA配列を解析し、配列から菌種を同定する方法が開発されている。例えば江崎らは特許文献1において、DNAプローブとして染色体DNAが固定化されたDNAチップを用いる微生物同定法を提案している。この方法によれば、互いにGC含量の異なる複数の既知微生物由来の染色体DNAと、検体中の未知微生物由来の染色体DNAとを反応させ、生じたハイブリダイゼーション複合体を検出することで検体中の未知微生物を検出することが可能である。
【0004】
また、大野らは感染症の起炎菌検査のためのDNAチップに用いるプローブとして、特許文献2で制限酵素断片を利用した真菌の検出用プローブを提案している。大野らは、更に、特許文献3で緑膿菌の検出用プローブを、特許文献4でEscherichia coli(エシェリキア コリ)菌、Klebsiella pneumoniae(クレブシエラ ニューモニエ)菌ならびにEnterobacter cloacae(エンテロバクター クロアカエ)菌の制限酵素断片を利用した検出用プローブをそれぞれ提案している。
【0005】
特許文献5には、より精度の高い検出を行うため、比較的短い鎖長のオリゴヌクレオチドをプローブとしたDNAチップを作製し、血液感染症の起炎菌として臨床上高い頻度で検出される以下の10菌種を同定できるDNAチップを開示している。
Staphylococcus aureus、Staphylococcus epidermidis、Escherichia coli、Klebsiella pneumoniae、Pseudomonas aeruginosa、Serratia marcescens、Streptococcus pneumoniae、Haemophilus influenzae、Enterobacter cloacae及びEnterococcus faecalis
同文献で開示している方法では、菌種特異的なオリゴプローブを各菌ごとに設定し、検体中のDNAがどの菌のプローブとハイブリするかを測定し菌種を同定している。具体的には、検体の前処理としてDNAを抽出した後、対象となる核酸領域の増幅および標識を行うため、PCR増幅を行う。得られたPCR産物をDNAチップとハイブリダイゼーションし、DNAチップの輝度データをもとに菌種の同定を行っている。
【特許文献1】特開2001−299396号公報
【特許文献2】特開平6−133798号公報
【特許文献3】特開平10−304896号公報
【特許文献4】特開平10−304897号公報
【特許文献5】特開2004−313181号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献5で行っている菌種同定方法は、前処理としてPCR増幅を行っている。PCR増幅は核酸増幅としては非常に効率の良い手法であるが、対象検体に含まれるテンプレート量によってその重要性は変わってくる。すなわち、寒天培地などで培養した菌であれば、その菌数は極めて多く、PCRにおいてある程度増幅効率があれば十分な検出感度を得ることが出来る。人の血液を検体とする場合においても、通常1日以上かけて行われる血液培養を行った場合には、増殖が充分行われており、潤沢な菌ゲノム、すなわちテンプレート量を確保できる。
【0007】
しかし、人の血液中に含まれる菌を培養(増殖)せずに直接、菌種同定する場合、極めて高い感度を要求される。なぜならば、血中の菌濃度は極めて低く、比較的、血中菌濃度が高い敗血症の場合でも、1mLの血液に含まれる生菌数は数十菌から数百菌と言われているからである。血中の菌の濃縮を行わない場合、PCR増幅のテンプレートとして持ち込める量は、血液換算で0.3mL程度が限界であり、その場合、菌由来ゲノムは最大でも100菌分程度となる。軽度の感染症の場合にはさらに血中菌濃度は低くなることは当然である。
【0008】
PCR増幅は原理的には1サイクルごとに2倍量に増幅していくため、1コピーでもテンプレートが存在すれば増幅可能であるが、一般的にPCR増幅の効率は2倍以下であり、テンプレート量が少ない場合には見かけ上ほとんど増幅しないことも珍しくない。PCR効率を上下させる要素は様々である。代表的な要素としては、酵素の種類、サーマルサイクルのプログラム、プライマーの配列、バッファー条件などである。このうち特にプライマー配列は増幅効率を上下させる重要な要素であり、適切なプライマーの選択が必要である。62菌種を対象として、すべての菌を効率よく増幅可能とするためには、2種類以上のプライマーを混ぜたミックスを調製する必要があり、その場合の各プライマーの設計や適当なプライマーセットの組み合わせの設定は困難である場合が多い。
【0009】
本発明の目的は、62菌種を対象として、目的とする細菌の16S rRNA遺伝子配列を効率よく増幅可能なプライマーまたはプライマーセットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
これらの課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、62菌種の16SrRNAの特定領域を増幅するためのプライマーとして、塩基配列として配列番号1から6のいずれかの塩基配列を有するプライマーが効果的であることを見いだした。
【0011】
すなわち、本発明にかかるPCR用プライマーは、細菌の16S rRNAの遺伝子配列をPCR増幅させるのに用いられるプライマーであり、以下の配列番号1から6のいずれか1つの塩基配列からなることを特徴とする細菌ゲノム増幅反応用プライマーである。
(1) GCGGCGTGCCTAATACATGCAAGTCG(配列番号1)
(2) GCGGCAGGCCTAACACATGCAAGTCG(配列番号2)
(3) GCGGCAGGCTTAACACATGCAAGTCG(配列番号3)
(4) ATCCAGCCGCACCTTCCGATACGGC(配列番号4)
(5) ATCCAACCGCAGGTTCCCCTACGG(配列番号5)
(6) ATCCAGCCGCAGGTTCCCCTACGG(配列番号6)
本発明の細菌の16S rRNAの遺伝子配列をPCR増幅させるのに用いられるプライマーセットは、以下の(A)乃至(L)のプライマーのうち少なくとも2つのプライマーから構成され、そのうち少なくとも1つのプライマーは(A)乃至(F)のプライマーから選択された少なくとも1種であることを特徴とする細菌ゲノム増幅反応用プライマーセット。
(A) GCGGCGTGCCTAATACATGCAAGTCG(配列番号1)からなるプライマー、
(B) GCGGCAGGCCTAACACATGCAAGTCG(配列番号2)からなるプライマー、
(C) GCGGCAGGCTTAACACATGCAAGTCG(配列番号3)からなるプライマー、
(D) ATCCAGCCGCACCTTCCGATACGGC(配列番号4)からなるプライマー、
(E) ATCCAACCGCAGGTTCCCCTACGG(配列番号5)からなるプライマー、
(F) ATCCAGCCGCAGGTTCCCCTACGG(配列番号6)からなるプライマー、
(G) GCGGCGTGCCTAATACATGCAAG(配列番号7)からなるプライマー、
(H) GCGGCAGGCCTAACACATGCAAG(配列番号8)からなるプライマー、
(I) GCGGCAGGCTTAACACATGCAAG(配列番号9)からなるプライマー、
(J) ATCCAGCCGCACCTTCCGATAC(配列番号10)からなるプライマー、
(K) ATCCAACCGCAGGTTCCCCTAC(配列番号11)からなるプライマー、
(L) ATCCAGCCGCAGGTTCCCCTAC(配列番号12)からなるプライマー。
【0012】
また、本発明の試薬キットは、上記のプライマーまたはプライマーセットを含む、細菌の同定のために用いられる試薬キットである。
【0013】
また、本発明の細菌検出方法は、上記のプライマーまたはプライマーセットを用いてゲノム増幅処理を行い、DNAプローブによる細菌ゲノムの検出を行うことを特徴とする細菌検出方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明のプライマーを用いることにより、62菌種の16SrRNAの特定領域を極めて効率よくPCR増幅することが可能となった。また、本発明によるプライマーを適宜組み合わせたプライマーセットを用いることにより、対象とする62菌種をすべて効率よく増幅出来るようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明により提示するプライマーは、菌ゲノムの16SrRNAの特定領域をPCR増幅するために供するプライマーであり、下記に示す配列番号1から6のいずれかからなるプライマーである。
(1) GCGGCGTGCCTAATACATGCAAGTCG(配列番号1)
(2) GCGGCAGGCCTAACACATGCAAGTCG(配列番号2)
(3) GCGGCAGGCTTAACACATGCAAGTCG(配列番号3)
(4) ATCCAGCCGCACCTTCCGATACGGC(配列番号4)
(5) ATCCAACCGCAGGTTCCCCTACGG(配列番号5)
(6) ATCCAGCCGCAGGTTCCCCTACGG(配列番号6)
本発明のプライマーは、これによりPCR増幅可能なゲノムであれば、配列の一致、不一致にかかわらずいかなる細菌やその他の生物由来物であっても適用することができるが、その中でも種として下記に示す62菌種を増幅するために好適に用いられる。
S.aureus、S.epidermidis、E.coli、K.pneumoniae、P.aeruginosa、S.marcescens、S.pneumoniae、H.influenzae、E.cloacae、E.faecalis、Staphylococcus haemolyticus、Staphylococcus hominis、Staphylococcus saprophyticus、Pseudomonas fluorescens、Pseudomonas putida、Burkholderia cepacia、Acinetobacter baumannii、Bacillus cereus、Bacillus subtilis、Acinetobacter calcoaceticus、Achromobacter xylosoxidans、Salmonella choleraesuis、Mycobacterium chelonae、Nocardia asteroides、Klebsiella oxytoca、Enterobacter aerogenes、Hafnia alvei、Serratia liquefaciens、Proteus mirabilis、Proteus vulgaris、Morganella morganii、Providencia rettgeri、Aeromonas hydrophila、Streptococcus agalactiae、Streptococcus mutans、Streptococcus pyogenes、Streptococcus sanguinis、Enterococcus avium、Enterococcus faecium、Stenotrophomonas maltophilia、Citrobacter freundii、Aeromonas sobria、Vibrio vulnificus、Gardnerella vaginalis、Bacteroides fragilis、Bacteroides thetaiotaomicron、Propionibacterium acnes、Clostridium difficile、Clostridium perfrigens、Eggerthella lenta、Fusobacterium nucleatum、Lactobacillus acidophilus、Anaerococcus prevotii、Peptoniphilus asaccharolyticus、Porphyromonas asaccharolytica、Porphyromonas gingivalis、Corynebacterium diphtheriae、Legionella pneumophila、Mycobacterium kansasii、Mycobacterium intracellulare、Fusobacterium necrophorum、Prevotella denticola、
本発明のプライマーは、これらの細菌の16SrRNA領域を特異的に認識しPCR増幅出来るように設計がなされている。すなわち、菌のDNA配列の対象領域を増幅するために特異的な配列を有するように設計されているだけでなく、血液からの菌ゲノム回収時に共存する可能性のあるヒト由来のDNA配列に対し類似した配列を有さないような配慮がなされている。その一方で、各菌種内で株による違いや突然変異などによらず対象菌が均一に増幅するような配列の選択がなされている。
【0016】
対象となる検体の状態は、菌体から抽出されたDNAなど、PCR増幅時に直接PCR試薬が作用できる状態でなければならないが、それに至る過程については、なんら制限はない。すなわち、液体培地、寒天培地などで培養された菌であっても、ゲノム抽出、あるいはゲノムがPCR試薬と作用できるのであれば構わない。また、ヒト、家畜等の動物由来の試料、すなわち、血液、血液の一部の成分、髄液、喀痰、胃液、膣分泌物、口腔内粘液等の体液、尿及び糞便のような排出物等細菌が存在すると思われるあらゆるものが対象となる。また、食中毒、汚染の対象となる食品、飲料水及び温泉水のような環境中の水等、または空気清浄機等のフィルタなど、細菌による汚染が引き起こされる可能性のある媒体全てが検査対象となりうる。さらに、輸出入時における検疫等の動植物も対象となる。また、各種の生化学的手法により取得された検体であってもよく、各種試薬類、PCR産物、制限酵素により処理された核酸断片なども対象となる。
【0017】
本発明によるプライマーは、一般的に行われているPCR増幅に関連するあらゆる手法に用いることが可能である。フォワード側(F鎖)、リバース側(R鎖)、それぞれを任意の濃度で1本ずつ用意し、PCR増幅することは当然可能であり、片鎖だけを用いた非対称PCR増幅も可能である。また、本発明で提供されたプライマーは任意の標識を任意の位置にあらかじめ取り込ませておくことも可能であり、たとえば蛍光物質や放射線同位体での標識が可能である。
【0018】
また、本発明で供されるプライマーは、F鎖、R鎖それぞれを複数種混合したミックスプライマーとして使用することも出来る。プライマーミックスの構成は目的とする増幅対象に応じて任意である。好適に用いられるのが、以下の(A)乃至(L)のプライマーのうち少なくとも2つのプライマーから構成され、そのうち少なくとも1つのプライマーは(A)乃至(F)のプライマーから選択された少なくとも1種であるプライマーセットである。
(A) GCGGCGTGCCTAATACATGCAAGTCG(配列番号1)からなるプライマー、
(B) GCGGCAGGCCTAACACATGCAAGTCG(配列番号2)からなるプライマー、
(C) GCGGCAGGCTTAACACATGCAAGTCG(配列番号3)からなるプライマー、
(D) ATCCAGCCGCACCTTCCGATACGGC(配列番号4)からなるプライマー、
(E) ATCCAACCGCAGGTTCCCCTACGG(配列番号5)からなるプライマー、
(F) ATCCAGCCGCAGGTTCCCCTACGG(配列番号6)からなるプライマー、
(G) GCGGCGTGCCTAATACATGCAAG(配列番号7)からなるプライマー、
(H) GCGGCAGGCCTAACACATGCAAG(配列番号8)からなるプライマー、
(I) GCGGCAGGCTTAACACATGCAAG(配列番号9)からなるプライマー、
(J) ATCCAGCCGCACCTTCCGATAC(配列番号10)からなるプライマー、
(K) ATCCAACCGCAGGTTCCCCTAC(配列番号11)からなるプライマー、
(L) ATCCAGCCGCAGGTTCCCCTAC(配列番号12)からなるプライマー。
【0019】
更に、(D)乃至(I)の6種のプライマーを少なくとも含むプライマーセットや、(D)、(F)、(G)、(H)、(I)及び(K)の6種のプライマーを少なくとも含むプライマーセットが好ましい。
【0020】
(D)乃至(I)の6種のプライマーを等量ずつ混合したプライマーセットや、(D)、(F)、(G)、(H)、(I)及び(K)の6種のプライマーを等量ずつ混合したプライマーセットが更に好ましい。これらのプライマーセットは本明細書中に記載の62菌種をバランスよく増幅することが可能であり、たとえば検体中に含まれる菌種が不明である場合に、本プライマーセットを用いてPCR増幅し、PCR産物を何らかの方法により解析する時などに利用可能である。
【0021】
また、プライマーセットとして2種以上のプライマーを混ぜて用いる場合においても、構成される各プライマーを独立して任意の標識をすることが可能である。
【0022】
PCR用に用いられる酵素(耐熱性DNAポリメラーゼ)は制限無くあらゆる酵素を用いることが出来る。代表的な酵素としては、タカラバイオ社から供給されるExTaq、ABI社から供給されるAmpliTaq Gold、インビトロジェン社から供給されるAccuPrimeなどがあげられる。PCR増幅反応においては、通常の基質を用いる以外に、標識された基質をPCR反応液に混合しておき、PCR産物中に基質由来の標識を取り込ませることも可能である。
【0023】
本発明で提供したプライマーやプライマーセットの利用目的は特に制限はなく、様々な目的に利用することが可能である。たとえば、DNAマイクロアレイの固相担体に固定するプローブとして用いる事も可能であり、この場合増幅率の高い本プライマーは、DNAマイクロアレイの効率的な作製に好適に用いることが可能である。また、測定対象物(検体)に何の菌種が含まれているのかを調べる場合、本発明のプライマーは極めて効率よく増幅することが可能である。増幅されたPCR試薬産物(増幅産物)の分析方法としては、様々な手法があるが、一般的に行われる解析方法としては、電気泳動、シークエンス、定量PCR法、DNAマイクロアレイによる解析などがあげられる。このうち、検出対象としての標的核酸を検出するためのプローブを固定したDNAマイクロアレイによる解析は、増幅領域の配列解析が簡便かつ定量的に行える事から特に好適に用いられる。具体的には、菌の有無も不明な検体に対し、62菌種すべてが増幅可能な本発明によるプライマーセットによるPCR増幅を行い、PCR産物を得る。得られたPCR産物は、標識プライマーによる再PCR等を行って標識を行う。標識化PCR産物をDNAマイクロアレイにハイブリダイズし、マイクロアレイ上のどのプローブにハイブリしたかを観察し定量する。プローブは対象菌種が有する特徴的な塩基配列のオリゴプローブとし、対象菌種がPCR産物中に含まれている場合に、主にハイブリダイズする様な設計がなされている。
【0024】
本発明によるプライマーまたはプライマーセットをパッケージしキットとして供給することも可能である。プライマーは少なくとも(A)乃至(F)のいずれかのプライマーが含まれたものであれば良く、少なくとも1つ以上のプライマーを組み込んであればキットとして供給できる。プライマーまたはプライマーセットの供給形態はいかなる供給形態も可能である。緩衝液や、水などの溶媒にプライマーを溶解し、液体として供給することが一般的ではあるが、液体成分が少ない粉末として供給する事も可能である。また、ビーズ、ガラス担体、樹脂などの表面に薄く吸着させて供給することも可能である。また、キットとして供給する場合には、プライマー以外にも、PCRの酵素類、バッファー類、標識物質と合わせて供給することも多いため、それらと合わせて試薬キットとして供給することもできる。特にDNAマイクロアレイとキットとすることで、「菌種同定キット」として供給することは、感染症などにおいて菌種を特定したい場合などに好適に用いられる。本発明によれば、これらのプライマー、プライマーセット、キットなどを用いた、細菌検出方法を提供できる。
【0025】
また、本発明に係るプライマーまたはプライマーセットの検出対象となる細菌は、Staphylococcus属、Streptococcus属、Enterococcus属、Pseudomonas属、Enterobacter属、Haemophilus属、Serratia属、Klebsiella属、Escherichia属、Burkholderia属、Stenotrophomonas属、Acinetobacter属、Achromobacter属、Vibrio属、Salmonella属、Citrobacter属、Hafnia属、Proteus属、Morganella属、Providencia属、Aeromonas属、Gardnerella属、Corynebacterium属、Legionella属、Bacillus属、Mycobacterium属、Nocardia属、Bacteroides属、Clostridium属、Eggerthella属、Fusobacterium属、Lactobacillus属、Anaerococcus属、Peptoniphilus属、Porphyromonas属、Prevotella属又はPropionibacterium属からなる群より選ばれることができる。
【実施例】
【0026】
以下実施例においては、本文中で記載した62菌種について、本発明によるプライマーを用いたPCR増幅実験を示し、本発明を詳細に説明する。なお、本実施例に記載した内容は本発明の説明においての一例であり、他の実施方法に対し何ら制限をかけるものではない。
【0027】
実施例1(10菌種)
1.菌の培養
本発明において主な検出対象とする10菌種それぞれに関し、ATCC収載されている標準的な菌株を所定の手続きを経て入手した。入手した菌株は所定の保存処置を施した後、凍結保存(―80℃)をした。なお10菌の菌名は下記の通りである。
【0028】
なお、これらの菌としては、以下のATCCに寄託され、公的入手可能な菌株が利用可能である。
S.aureus:ATCC12600、
S.epidermidis:ATCC14990、
E.coli:ATCC11775、
K.pneumoniae:ATCC13883、
P.aeruginosa:ATCC10145、
S.marcescens:ATCC13880、
S.pneumoniae:ATCC33400、
H.influenzae:ATCC33391、
E.cloacae:ATCC13047、
E.faecalis:ATCC19433
凍結した菌のストックの表面を、白金耳を用いてごくわずかに掻き取った後、シャーレに固めた平板培地に塗抹した。培地の種類は、H.influenzae1菌種のみチョコレート寒天培地を使用し、他の9菌種については羊血寒天培地を使用した。37℃で菌の生育状況をみながら培養を行った結果、概ね1〜2日程度で全菌種増殖した。濁度計等を用いて適当な菌濃度の菌液を調製した。
【0029】
2.菌ゲノムおよびヒトゲノムの抽出
この微生物培養液から、核酸精製キット(FastPrep FP100A・FastDNA Kit:フナコシ株式会社製)を用いて、DNAの抽出と精製を行なった。回収された微生物のDNAは、定法に従って、アガロース電気泳動と260/280nmの吸光度測定を行い、その品質(低分子核酸の混入量、分解の程度)と回収量を検定した。本実施例において抽出した10菌種に関しては、菌種による差はあるが、概ね5から15μgの菌由来DNA が回収された。各DNAの純度に関しては、デグラデーションやrRNAの混入は認められず良好であった。回収したDNAは、TEを用いて希釈し、1μlあたり10菌分のDNAとなるようにした。
【0030】
また、健常者から採血した血液を用いて、血液中のヒト由来ゲノムの抽出も行った。血液由来のヒトゲノムを抽出するため、核酸精製キット(QIAamp DNA Blood Mini Kit:キアゲン社製)を用いた。約200μlの血液から抽出し、約8μgのGenome DNAが得られた。得られたDNAはTEで溶解し、1μlあたり200ngの濃度となるよう調製した。それぞれ得られた細菌ゲノムとヒトゲノムの溶液を等量ずつ混合することにより、2μlあたり、菌ゲノム10コピー、ヒトゲノム200ngのゲノム混合液が調製されたモデル検体を入手した。
【0031】
3.プライマーの調製
細菌検出用の為の16SrRNA遺伝子(標的遺伝子)増幅用PCRプライマーとして以下に示す核酸配列を設計した。具体的には、16SrRNAをコーディングしているゲノム部分を特異的に増幅するプローブセット、つまり約1400〜1700塩基長の16SrRNAコーディング領域の両端部分で、特異的な融解温度をできるだけ揃えるよう設計されたプライマーを使用した。なお、変異株や、ゲノム上に複数存在する16SrRNA遺伝子も同時に増幅できるように複数種類のプライマーが設計されている。
(A) ATCCAGCCGCACCTTCCGATACGGC(配列番号4)
(B) ATCCAGCCGCAGGTTCCCCTACGG(配列番号6)
(C) GCGGCGTGCCTAATACATGCAAG(配列番号7)
(D) GCGGCAGGCCTAACACATGCAAG(配列番号8)
(E) GCGGCAGGCTTAACACATGCAAG(配列番号9)
(F) ATCCAACCGCAGGTTCCCCTAC(配列番号11)
これらのプライマーはDNA自動合成機により合成し、合成後、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により精製した。各プライマーはトリス塩酸EDTA緩衝液(1×TE)により溶解し、各3.0μMとなるよう調製した。AからFの6種のプライマー溶液を等量ずつ混ぜ合わせ、6種のプライマーが0.5μMとなったプライマーミックス(プライマーセット)を調製した。
【0032】
4.PCR増幅
上記で調製したプライマーセットを用いたPCRは次の様にして行った。PCRの酵素キットとして用いたのは、アプライドバイオシステム社製AmpliTaq Gold LDタイプ の酵素(キット)である。 酵素に付属の説明書に従った調製を行っており、下記の構成でPCR反応液を調製した。
【0033】
【表1】

【0034】
PCR反応には市販のサーマルサイクラーを利用した。サーマルサイクラーの温度設定は下記のように設定した。
a) 95℃ 600秒
b) 92℃ 45秒
c) 65℃ 45秒 b)→d)を合計40サイクル
d) 72℃ 45秒
e) 72℃ 600秒
f) 4℃ 保管
5.電気泳動
得られたPCR産物は、増幅反応の増幅量を測定するため、電気泳動を行った。電気泳動は、アジレント社製のマイクロチップ型電気泳動装置、「バイオアナライザー」を使用した。使用したゲルのキットはDNA用7500シリーズである。説明書に従って、各PCR産物の1.0μlをチップにアプライし電気泳動を行った。電気泳動後、装置付属のソフトにより対象となるPCR産物の合成量を定量した。増幅すべきPCR産物の鎖長は、約1500bp付近である。下記表2に、全10菌種のPCR産物量を示す。
【0035】
【表2】

【0036】
いずれのバンドも、理論鎖長に極めて近く、他の鎖長に目立ったバンドは観察されないことから、極めて効率よく細菌由来のゲノムが増幅されていることが確認できた。また、菌種により増幅量におおきな違いはなく、プライマーミックスとして10菌種に対し、均一に作用していることがわかった。さらに、本実施例ではヒト由来ゲノムをPCRチューブ当たり200ng相当加えているが、ヒトゲノムに由来する増幅もおこらず、反対にヒトゲノムによる増幅阻害を起こさないこともわかった。
【0037】
実施例2
1.DNAマイクロアレイ作製
10菌種を対象とした菌種の識別ができるDNAマイクロアレイの作製を行った。ここで作製したDNAマイクロアレイは、実施例1で増幅した16SrRNAの配列を詳細に解析することで菌種の識別ができるように設計がなされたDNAマイクロアレイである。すなわち各菌ごとに、その菌に特異的なオリゴヌクレオチドプローブが設計され、ガラス担体上に微少スポットとして搭載されているDNAマイクロアレイである。
【0038】
各菌種ごとに設計したプローブは下記の通りである。
プローブA: S.aureus:5' TAACCTTTTAGGAGCTAGCCGTCGA 3' (配列番号13)
プローブB: S.epidermidis:5' AGTAACCATTTGGAGCTAGCCGTC 3' (配列番号14)
プローブC: E.coli:5' CGGACCTCATAAAGTGCGTCGTAGT 3' (配列番号15)
プローブE: K.pneumoniae :5' CCTTTGTTGCCAGCGGTTAGGC 3' (配列番号16)
プローブF: P.aeruginosa :5' TGGCCTTGACATGCTGAGAACTTTC 3' (配列番号17)
プローブG: S.marcescens :5' GAAACTGGCAAGCTAGAGTCTCGTAGA 3' (配列番号18)
プローブH: S.pneumoniae :5' GACGGCAAGCTAATCTCTTAAAGCCA 3' (配列番号19)
プローブI: H.influenzae :5' GGCGTTTACCACGGTATGATTCATGA 3' (配列番号20)
プローブJ: E..cloacae :5' ATTCGAAACTGGCAGGCTAGAGTCT 3' (配列番号21)
プローブK: E.faecalis :5' CGAGGTCATGCAAATCTCTTAAAGCTTCT 3' (配列番号22)
これらのオリゴヌクレオチドプローブを搭載したDNAマイクロアレイは、特開2004−313181に記載の方法に従って作製した。
【0039】
2.2nd PCR
実施例1で得られたPCR産物に対し、標識等を行うための処理を行った。まず、実施例1で得られたPCR産物を、定法に従って精製した。精製に用いたキットはキアゲン社から市販されているQIAquick PCR Purification Kit である。キットで供給されているカラムに吸着させた後、水50μlを使用して溶出を行った。得られた精製済みPCR産物を実施例1と同様にバイオアナライザーで分析し、各菌種のDNA濃度を測定した。続いて2nd PCR用のプライマーGを合成した。プライマーは以降の実験において可視化する必要があるため、通常の方法により5’末端にCy3標識を行った。合成後、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により精製した。プライマーGは、濃度が10pmol/μlとなるようにTE緩衝液に溶解した。
【0040】
(G)TACCTTGTTACGACTTCACCCCA(配列番号23)
上記で得られた、PCR産物をテンプレートとし、プライマーG1種を使用した非対称PCRを行った。PCRは下記の調製により実施した。なお、テンプレートとなるDNAについては、1st PCRで精製したDNAを20μl使用する事を基本とするが、総DNA量が30ngを超過しそうな場合には、水により希釈し、30ngを超過しないよう調製した。(*)
【0041】
【表3】

【0042】
得られたPCR産物は、同様にキアゲン社の精製キットにより精製した。(水50μlで溶出)
3.ハイブリダイゼーション
上述の[1.チップ作製]で作製したDNAマイクロアレイと[2.2nd PCR]で調製した標識化検体を用いて、ハイブリ反応を行った。
【0043】
3-1.DNAマイクロアレイのブロッキング
BSA(牛血清アルブミンFraction V:Sigma社製)を1wt%となるように100mM NaCl/10mM Phosphate Buffer(pH7.0)に溶解した。次に、この溶液に先に作製したDNAマイクロアレイを室温で2時間浸し、ブロッキングを行った。ブロッキング終了後、以下の洗浄液で洗浄を行った後、純水でリンスしてからスピンドライ装置で水切りを行った。
洗浄液:0.1wt%SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)を含む2×SSC溶液(NaCl 300mM 、Sodium Citrate (trisodium citrate dihydrate, C6H5Na3・2H2O) 30mM、p.H.7.0)
3-2.ハイブリダイゼーション
水切りしたDNAチップをハイブリダイゼーション装置(Genomic Solutions Inc. Hybridization Station)にセットし、以下に示すハイブリダイゼーション溶液、条件でハイブリダイゼーション反応を行った。
【0044】
3-3.ハイブリダイゼーション溶液
6xSSPE / 10% Formamide / Target(2nd PCR Products 全量)/ 0.05wt% SDS
(6xSSPE: NaCl 900mM、NaH2PO4・H2O 50mM、EDTA 6mM、p.H. 7.4)
3-4.ハイブリダイゼーション条件
65℃ 3min → 55℃ 4hr → Wash 2xSSC / 0.1% SDS at 50℃ → Wash 2xSSC at 20℃ → (Rinse with H2O : Manual) → Spin dry
4.スキャン
上記ハイブリダイゼーション反応終了後のDNAマイクロアレイをDNAマイクロアレイ用蛍光検出装置(Axon社製、GenePix 4000B)を用いで蛍光測定を行った。その結果、再現性良く、十分なシグナルで各菌種をそれぞれ検出することができた。以下の表4に、各菌種ごとにハイブリダイゼーションした蛍光測定結果を示す。
【0045】
【表4】

【0046】
この結果から示されるように、各菌種とも、それぞれが対応するプローブに効率的にハイブリダイズし、高い輝度値となった。また、各菌種の標識DNAは、他の菌種のプローブにはほとんどハイブリダイズしないが一部で他菌種検出用のプローブでも輝度が得られている場合がある。これらの現象は配列上クロスハイブリが想定されており、正常なハイブリダイゼーションである。従って本発明で提供したプライマーセットによる増幅産物を解析することで特異性の高い検出が出来ることが示された。
【0047】
実施例3(52菌種)
1.菌の培養
本発明において主な検出対象とする52菌種それぞれに関し、ATCC収載されている標準的な菌株を所定の手続きを経て入手した。一部入手できなかった菌株は、JCMから所定の手続きを経て入手し、また臨床分離株から分離した菌株を使用した。入手した菌株は所定の保存処置を施した後、凍結保存(―80℃)をした。なお52菌の菌名は下記の通りである。菌名は培養時に使用した培地種類毎に示す。
S. haemolyticus ATCC29970、
S. hominis ATCC27844、
S. saprophyticus ATCC15305、
P. fluorescens ATCC13525、
P. putida ATCC12633、
B.cepacia JCM5964、
A. baumannii ATCC19606、
B. cereus ATCC14579、
B. subtilis ATCC6051、
A.calcoaceticus ATCC23055、
A. xylosoxidans ATCC27061、
S. choleraesuis ATCC15478、
M. chelonae ATCC35752、
N. asteroides ATCC19247、
K. oxytoca ATCC13182、
E. aerogenes ATCC13048、
H. alvei ATCC13337、
S. liquefaciens ATCC27592、
P. mirabilis ATCC29906、
P. vulgaris ATCC33420、
M. morganii ATCC25830、
P. rettgeri ATCC29944、
A. hydrophila ATCC7966、
(以上の菌は、Nutrient Agar培地を用いた)
S. agalactiae ATCC13813、
S. mutans ATCC25175、
S. pyogenes ATCC12344、
S.sanguinis ATCC10556、
E. avium ATCC14025、
E. faecium ATCC19434、
S.maltophilia ATCC13637、
C.freundii ATCC8090、
A. sobria ATCC43979、
(以上の菌は、Soybean Casein Digest Agar培地を用いた)
V. vulnificus ATCC27562、
(以上の菌は、Marine Agar培地を用いた)
G. vaginalis ATCC14018、
B. fragilis ATCC25285、
B. thetaiotaomicron ATCC29148、
P. acnes ATCC6919、
C. difficile ATCC9689、
C. perfrigens ATCC13124、
E. lenta ATCC25559、
F. nucleatum ATCC25586、
L. acidophilus ATCC4356、
A. prevotii ATCC9321、
P. asaccharolyticus ATCC14963、
P. asaccharolytica ATCC25260、
P. gingivalis ATCC33277、
(以上の菌は、anaerobic culture medium Agar培地を用いた)
C. diphtheriae ATCC27010、
(以上の菌は、Brain Heart Infusion Agar培地を用いた)
L. pneumophila ATCC33152、
(以上の菌は、Buffered Charcoal Yeast extract Agar培地を用いた)
M. kansasii ATCC12478、
M. intracellulare ATCC13950、
(以上の菌は、2%小川培地を用いた)
F. necrophorum ATCC25286、
P. denticola ATCC35308、
(以上の菌は、羊血液寒天培地を用いた)
凍結した菌のストックの表面を、白金耳を用いてごくわずかに掻き取った後、各々の培地に塗抹した。各々の菌の培養に最適な温度(30度〜37度)で菌の生育状況をみながら培養を行った結果、概ね数日程度で全菌種増殖した。濁度計等を用いて適当な菌濃度の菌液を調製した。
【0048】
2.菌ゲノム及びヒトゲノムの抽出
この微生物培養液から、核酸精製キット(MORA-EXTRACT:極東製薬工業株式会社製)を用いて、DNAの抽出と精製を行なった。回収された微生物のDNAは、定法に従って、アガロース電気泳動と260/280nmの吸光度測定を行い、その品質(低分子核酸の混入量、分解の程度)と回収量を検定した。本実施例において抽出した52菌種に関しては、菌種による差はあるが、概ね5から15μgの菌由来DNA が回収された。各DNAの純度に関しては、デグラデーションやrRNAの混入は認められず良好であった。回収したDNAは、TEを用いて希釈し、1μlあたり1000000菌分のDNAとなるようにした。
【0049】
また、健常者から採血した血液を用いて、血液中のヒト由来ゲノムの抽出も行った。血液由来のヒトゲノムを抽出するため、核酸精製キット(QIAamp DNA Blood Mini Kit:キアゲン社製)を用いた。約200μlの血液から抽出し、約8μgのDNAが得られた。得られたDNAはTEで溶解し、1μlあたり200ngの濃度となるよう調製した。それぞれ得られた菌ゲノムとヒトゲノムの溶液を等量ずつ混合することにより、2μlあたり、菌ゲノム100000コピー、ヒトゲノム200ngのゲノム混合液が調製されたモデル検体を入手した。
【0050】
3.プライマーの調製
実施例1の3と同様に、プライマーの調整を行った。
【0051】
4.PCR増幅
実施例1の4と同様に、PCR増幅を行った。なお、実施例1の表1に示されるTemplateDNAは、実施例2-2で調整したものを用いた。
【0052】
5.電気泳動
得られたPCR産物は、増幅反応の増幅量を測定するため、電気泳動を行った。電気泳動は、アジレント社製のマイクロチップ型電気泳動装置、「バイオアナライザー」を使用した。使用したゲルのキットはDNA用7500シリーズである。説明書に従って、各PCR産物の1.0μlをチップにアプライし電気泳動を行った。電気泳動後、装置付属のソフトにより対象となるPCR産物の合成量を定量した。増幅すべきPCR産物の鎖長は、約1500bp付近である。下記表5に、全52菌種のPCR産物量を示す。
【0053】
【表5】

【0054】
いずれのバンドも、理論鎖長に極めて近く、他の鎖長に目立ったバンドは観察されないことから、極めて効率よく細菌由来のゲノムが増幅されていることが確認できた。また、菌種により増幅量におおきな違いはなく、プライマーミックスとして52菌種に対し、均一に作用していることがわかった。さらに、本実施例ではヒト由来ゲノムをPCRチューブ当たり200ng相当加えているが、ヒトゲノムに由来する増幅もおこらず、反対にヒトゲノムによる増幅阻害を起こさないこともわかった。
【0055】
実施例4(DNAマイクロアレイでの検出)
ここでは、実施例3にて得た増幅産物の一部の菌を用いて、DNAマイクロアレイで検出した結果を示す。
【0056】
1.DNAマイクロアレイ作製
9菌種を対象とした菌種の識別ができるDNAマイクロアレイの作製を行った。ここで作製したDNAマイクロアレイは、実施例3で増幅した16SrRNAの配列を詳細に解析することで菌種の識別ができるように設計がなされたDNAマイクロアレイである。すなわち各菌ごとに、その菌に特異的なオリゴヌクレオチドプローブが設計され、ガラス担体上に微少スポットとして搭載されているDNAマイクロアレイである。
【0057】
各菌種ごとに設計したプローブは下記の通りである。
プローブ11:A.prevotii:5' CGTTGGAAACGACGAATAATACCCTATGA 3' (配列番号23)
プローブ12:P.asaccharolyticus:5' AGTGACACATGTCATAACGATCAAAGTGA 3' (配列番号24)
プローブ13:P.asaccharolytica:5' GTGGTGAATAACCCGATGAAAGTCGG 3' (配列番号25)
プローブ14:A.hydrophila:5' GGCTGTGACGTTACTCGCAGAAG 3' (配列番号26)
プローブ15:A.sobria:5' TAATGCCTGGGGATCTGCCCAG 3' (配列番号27)
プローブ16:B.fragilis:5' AATACCCGATAGCATAATGATTCCGCATG 3' (配列番号28)
プローブ17:B.thetaiotaomicron:5' CACGTATCCAACCTGCCGATAACTC 3' (配列番号29)
プローブ18:P.acnes:5' AAAGTTTCGGCGGTTGGGGATG 3' (配列番号30)
プローブ19:C.difficile:5' GCATCTCTTGAATATCAAAGGTGAGCC 3' (配列番号31)
これらのオリゴヌクレオチドプローブを搭載したDNAマイクロアレイは、特開2004−313181に記載の方法に従って作製した。
【0058】
2.2nd PCR
実施例2-2と同様に、2ndPCRを行った。なおここで用いたPCR産物は、実施例3で得られた物を用いた。
【0059】
3.ハイブリダイゼーション
上述の[1.DNAマイクロアレイ作成]で作製したDNAマイクロアレイと[2.2nd PCR]で調製した標識化検体を用いて、実施例2-3-1から2-3-4と同様にハイブリダイゼーション反応を行った。
【0060】
4.スキャン
上記ハイブリダイゼーション反応終了後のDNAマイクロアレイをDNAマイクロアレイ用蛍光検出装置(Axon社製、GenePix 4000B)を用いで蛍光測定を行った。その結果、再現性良く、十分なシグナルで各菌種をそれぞれ検出することができた。以下の表6に、各菌種ごとにハイブリダイゼーションをした蛍光測定結果を示す。
【0061】
【表6】

【0062】
この結果から示されるように、各菌種とも、それぞれが対応するプローブに効率的にハイブリダイズし、高い輝度値となった。また、各菌種の標識DNAは、他の菌種のプローブにはほとんどハイブリダイズしないが一部で他菌種検出用のプローブでも輝度が得られている場合がある。これらの現象は配列上クロスハイブリが想定されており、正常なハイブリダイゼーションである。従って本発明で提供したプライマーセットによる増幅産物を解析することで特異性の高い検出が出来ることが示された。
【0063】
なお、上記実施例では、特に9菌種を対象とした菌種の識別ができるDNAマイクロアレイを用いて検出した結果を示したが、前途の残り43菌種に関しても同様の手法が適用できる。それぞれの菌を検出する為のDNAマイクロアレイを作成し、ハイブリダイゼーションを行う事により、それぞれの菌に設計したプローブから得られる蛍光輝度が高くなる結果が得られ、再現性良く十分なシグナルで、それぞれの菌を検出する事ができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細菌の16S rRNA遺伝子配列をPCR増幅させるのに用いられるプライマーであって、
配列番号1から6のいずれか1つの塩基配列からなることを特徴とする細菌ゲノム増幅反応用プライマー。
(1) GCGGCGTGCCTAATACATGCAAGTCG(配列番号1)
(2) GCGGCAGGCCTAACACATGCAAGTCG(配列番号2)
(3) GCGGCAGGCTTAACACATGCAAGTCG(配列番号3)
(4) ATCCAGCCGCACCTTCCGATACGGC(配列番号4)
(5) ATCCAACCGCAGGTTCCCCTACGG(配列番号5)
(6) ATCCAGCCGCAGGTTCCCCTACGG(配列番号6)
【請求項2】
細菌の16S rRNA遺伝子配列をPCR増幅させるのに用いられるプライマーセットであって、
以下の(A)乃至(L)のプライマーのうち少なくとも2つのプライマーから構成され、そのうち少なくとも1つのプライマーは(A)乃至(F)のプライマーから選択された少なくとも1種であることを特徴とする細菌ゲノム増幅反応用プライマーセット。
(A) GCGGCGTGCCTAATACATGCAAGTCG(配列番号1)からなるプライマー、
(B) GCGGCAGGCCTAACACATGCAAGTCG(配列番号2)からなるプライマー、
(C) GCGGCAGGCTTAACACATGCAAGTCG(配列番号3)からなるプライマー、
(D) ATCCAGCCGCACCTTCCGATACGGC(配列番号4)からなるプライマー、
(E) ATCCAACCGCAGGTTCCCCTACGG(配列番号5)からなるプライマー、
(F) ATCCAGCCGCAGGTTCCCCTACGG(配列番号6)からなるプライマー、
(G) GCGGCGTGCCTAATACATGCAAG(配列番号7)からなるプライマー、
(H) GCGGCAGGCCTAACACATGCAAG(配列番号8)からなるプライマー、
(I) GCGGCAGGCTTAACACATGCAAG(配列番号9)からなるプライマー、
(J) ATCCAGCCGCACCTTCCGATAC(配列番号10)からなるプライマー、
(K) ATCCAACCGCAGGTTCCCCTAC(配列番号11)からなるプライマー、
(L) ATCCAGCCGCAGGTTCCCCTAC(配列番号12)からなるプライマー。
【請求項3】
前記(D)乃至(I)のプライマーを少なくとも含むことを特徴とする、請求項2に記載の細菌ゲノム増幅反応用プライマーセット。
【請求項4】
前記(D)、(F)、(G)、(H)、(I)及び(K)のプライマーを少なくとも含むことを特徴とする、請求項2に記載の細菌ゲノム増幅反応用プライマーセット。
【請求項5】
請求項1記載のプライマーまたは請求項2乃至4のいずれかに記載のプライマーセットを含む、細菌の同定のために用いられる試薬キット。
【請求項6】
請求項1記載のプライマーまたは請求項2乃至4のいずれかに記載のプライマーセットを用いてゲノム増幅処理を行い、DNAプローブによる細菌ゲノムの検出を行うことを特徴とする細菌検出方法。
【請求項7】
前記細菌が、Staphylococcus属、Streptococcus属、Enterococcus属、Pseudomonas属、Enterobacter属、Haemophilus属、Serratia属、Klebsiella属、Escherichia属、Burkholderia属、Stenotrophomonas属、Acinetobacter属、Achromobacter属、Vibrio属、Salmonella属、Citrobacter属、Hafnia属、Proteus属、Morganella属、Providencia属、Aeromonas属、Gardnerella属、Corynebacterium属、Legionella属、Bacillus属、Mycobacterium属、Nocardia属、Bacteroides属、Clostridium属、Eggerthella属、Fusobacterium属、Lactobacillus属、Anaerococcus属、Peptoniphilus属、Porphyromonas属、Prevotella属又はPropionibacterium属からなる群より選ばれる事を特徴とする請求項1記載のプライマーまたは請求項2乃至4のいずれかに記載のプライマーセット。

【公開番号】特開2008−154581(P2008−154581A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−305628(P2007−305628)
【出願日】平成19年11月27日(2007.11.27)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】