説明

細菌バイオフィルムの酵素破壊

バイオフィルム形成細菌を致死または損傷させる少なくとも1種の抗菌酵素を、バイオフィルムに接触させると少なくとも部分的にバイオフィルムを破壊するのに有効な量投与することにより、損傷組織または留置人工装置もしくはカテーテル上に細菌バイオフィルムが成長している患者を、バイオフィルムを少なくとも部分的に破壊するように治療する方法。さらに、患者を予防的に治療する方法、および、生体外(ex vivo)で表面を消毒または滅菌してバイオフィルムを除去またはバイオフィルム成長を予防する方法、ならびに、バイオフィルム成長が生じやすいインプラント用品に予防的抗菌酵素コーティングを施したものも開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌酵素による細菌バイオフィルムの破壊に関する。より具体的には、本発明は、リソスタフィンによるブドウ球菌バイオフィルムの破壊に関する。
【背景技術】
【0002】
(関連出願の相互参照)
本願は、米国特許法第119条(e)のもとに、2002年3月26日出願の米国仮出願第60/368,112号の優先権を主張するものであり、この仮出願の開示内容は参照により本明細書に援用される。
【0003】
A.バイオフィルム
埋め込み医療装置または損傷組織に付着する細菌は、多糖体とタンパク質とからなる水和構造体内に自身を埋め込んで、バイオフィルムとしても知られているスライム層を形成し得る。バイオフィルム関連微生物の高い抗菌剤耐性、および留置医療装置または損傷組織を有する患者におけるこれらの微生物と感染との関連性が原因で、バイオフィルムは公衆衛生上重大な問題をもたらす。バイオフィルム中で増殖する細菌の抗生物質耐性は、感染、例えば埋め込み医療装置に関連した感染の持続および慢性化の一因となる。バイオフィルムの耐性機構は、現在良く知られている個々の細菌細胞に生得的な耐性を付与するプラスミド、トランスポゾンおよび突然変異とは異なる。バイオフィルムの場合、耐性は多細胞的な戦略によるようである。
【0004】
バイオフィルムは表面に付着するか、または接触面もしくは損傷組織に結合した複合微生物群集である。現代の微生物学研究が純粋培養、浮遊性の(自由遊泳性の)細菌に集中しているにもかかわらず、自然、臨床および工業条件下に見出されるほとんどの細菌がバイオフィルムとして表面との結合を強力に維持することは今や広く認められている。さらに、これらの微生物群集は、多くの場合、互いに相互作用し、かつ環境と相互作用する複数の種からなる。バイオフィルム構造、特に小集落(細胞集塊)の相互の空間的配置を決定することは、これらの複合群集の機能に関して重大な影響がある。
【0005】
バイオフィルム構造体は、その構成要素である微生物細胞が恒常状態に到達するようであり、すべての利用可能な栄養素を利用するように最適に組織化されている動的環境である。したがって、この構造体は、内部に数々の微小環境が存在しうる高度の微小不均一性を示す。バイオフィルム形成は、細菌細胞が表面に付着し、次いで、細菌が増殖を繰り返して多層細胞集塊に集積するという2段階のプロセスであると考えられている。菌体外多糖は構造体の骨格となるが、バイオフィルム内ではさまざまな酵素活性を検出することができ、そのなかには、構造の完全性および安定性に大きな影響を与えるものがある。
【0006】
より具体的には、第1形成期においては、宿主血漿のフィブリノーゲンやフィブロネクチンが医療用インプラントまたは損傷組織の表面を覆い、構成的に発現されている微生物の表面成分によって識別され、これらの成分が生体材料または損傷組織の表面への細菌の初期付着を媒介すると仮定される。第2段階では、細菌細胞内の特定の遺伝子座、いわゆる細胞内接着(ica(intracellular adhesion))遺伝子座が、細菌細胞の相互接着を活性化し、二次バイオフィルム層を形成させる。ica遺伝子座は莢膜多糖オペロン(capsular polysaccharide operon)の発現に関与し、莢膜多糖オペロンは、‐1.6結合グルコサミノグリカンである糖類ポリ‐N‐スクシニルグルコサミン(PNSG)を介して多糖細胞間接着(PIA)を活性化する。この多糖層ができると、電子顕微鏡を使って見たときに、バイオフィルムはス
ライム様外観を呈する。
【0007】
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)は極めて伝染力の強いヒト病原菌である。黄色ブドウ球菌もコアグラーゼ陰性ブドウ球菌も、埋め込み医療装置や損傷組織上のバイオフィルム形成に関与する主要な院内病原菌として浮上している。これらの微生物はヒトの皮膚や粘膜の常在細菌叢の仲間であり、侵襲手術または長期入院の間および後に合併症を流行させる。細菌は健康な人も病人も持っているので、ブドウ球菌は開いた傷口や生体材料インプラントを介して患者に侵入する日和見病原菌とみなされている。
【0008】
黄色ブドウ球菌に関連するバイオフィルム感染は、特に、病院や、老人ホーム、診療所などの環境における罹患や死亡の重大な要因である。リスクの高い患者には、幼児、高齢者、免疫不全患者、免疫抑制患者や、頻繁に入院を必要とする慢性症状を有する患者が含まれる。血管内および他の埋め込み人工装置を有する患者は、免疫力が低下していること、ならびに組織損傷の原因となりかつ/またはバイオフィルム形成表面となる異物が挿入されていることから、黄色ブドウ球菌感染にかかるリスクがさらに高くなる。そのような感染は、命にかかわるとはいわないまでも、慢性化する可能性がある。
【0009】
カテーテル関連の感染は、常に、カテーテル挿入を必要する患者の罹患率および死亡率の重大な原因となっている。米国で報告された発症率は4%であるが、これは、1年あたりの患者200,000人に相当する。さらに、カテーテル関連の感染は寄与死亡率が14〜24%であり、入院の長期化により医療費を増大させる。結果として、これらのカテーテル関連の感染の発生を予防することにより、または発生率を低下させるだけでも、保健医療上の大きな利点を得ることができるであろう。
【0010】
カテーテル感染は、通常、ブドウ球菌、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CoNS)または黄色ブドウ球菌のいずれかによって引き起こされる。CoNSによって引き起こされる感染は軽い傾向があり、カテーテルを抜去するか、カテーテルを所定の位置に配置した状態で抗生物質治療によって治療できるものもある。黄色ブドウ球菌感染は通常これより重く、カテーテルまたは他の人工装置の抜去に加えて、長期抗生物質治療を必要とする。
【0011】
黄色ブドウ球菌は、並外れた毒素産生菌であり、かつ極めて悪性のヒト病原菌である。黄色ブドウ球菌は、局所的皮膚感染から生死にかかわる菌血症や重要臓器への感染に及ぶ多様なヒト疾患の要因である。黄色ブドウ球菌感染は、早急に制御しないと、たちまち原発感染部位から他の臓器に広がり得る。感染巣がはっきりしない場合もあるが、特に感染しやすい臓器には、心臓弁、腎臓、肺、骨、髄膜および火傷患者の皮膚が含まれる。
【0012】
抗生物質感受性のブドウ球菌感染に対して有効な抗菌剤は開発されたが、抗生物質耐性の黄色ブドウ球菌、特に埋め込み人工装置や損傷組織上のバイオフィルムに関連する黄色ブドウ球菌を確実かつ完全に死滅させて、持続的および慢性的なブドウ球菌感染源を除去する薬剤が依然として必要とされている。残念ながら、バイオフィルム中の黄色ブドウ球菌は(浮遊性の状態では抗生物質感受性のものでも)抗生物質に対する感受性が低く、従って感染を除去することがより難しい傾向がある。
【0013】
バイオフィルムの抗生物質耐性の要因としては、一部の抗菌剤がバイオフィルムのすべての層に浸透できないこと、ある種のバイオフィルム細胞は増殖速度が遅く、そのために活発な細菌増殖を必要とする抗菌剤に対する感受性が低いこと、およびバイオフィルム中に埋め込まれた細菌細胞による遺伝子の発現パターンが浮遊性(自由遊泳)状態で発現される遺伝子とは異なることを挙げることができる。バイオフィルム関連の細菌におけるこれらの違いによって、浮遊性細菌の殺菌には有効に作用する抗菌剤が、バイオフィルム関
連細菌の殺菌には無効になる。多くの場合、バイオフィルムが形成されているカテーテルまたは人工装置を処理する唯一の方法は汚染された装置を抜去することであるが、それには、追加手術を必要として患者にさらなるリスクを与える恐れがある。
【0014】
カテーテルまたは他の人工装置を抗菌剤でコーティングする方法は、これらの異物関連感染の制御および予防に有望な方法である。これまでに、6つのタイプの抗菌カテーテル、すなわち、セファゾリン、テイコプラニン、バンコマイシン、銀、クロロヘキシジン‐銀スルファジアジンおよびミノサイクリン‐リファンピンでコーティングされたカテーテルが臨床試験でテストされてきた。しかし、カテーテル関連の血流感染(CRBI)の発生率を低下させると証明されたのはミノサイクリン‐リファンピンコーティングカテーテルだけで、その長期効果は未だ研究されていない。CRBIを減少させてカテーテルの耐久力を向上させる特性を有する新規抗菌剤、および、カテーテル上であれ、人工装置上であれ、または損傷組織上であれ、外科的除去の必要なくその場所でバイオフィルム関連ブドウ球菌感染を除去する能力を有する薬剤を見出す必要があることは明らかである。
【0015】
B.リソスタフィン
当初バイオフィルムに対して有効ではないと考えられていたそのような抗菌剤の1つがリソスタフィンである。リソスタフィンは〔かつて、S.スタフィロリティカス(S.staphylolyticus)として知られていた〕スタフィロコッカス・シムランス(Staphylococcus simulans)において最初に同定された強力な抗菌酵素である。細菌のグリシルグリシンエンドペプチダーゼであるリソスタフィンは、ブドウ球菌細胞壁の架橋結合しているポリグリシンの特定の架橋部分(ブリッジ)を開裂する能力を有し、したがって、活発に増殖中のブドウ球菌に対しても休止状態のブドウ球菌に対しても高い致死性を示す。リソスタフィンは単一のポリペプチド鎖として発現され、約27kDaの分子量を有する。
【0016】
リソスタフィンは、黄色ブドウ球菌の細胞壁ブリッジがグリシンを多く含んでいるために、黄色ブドウ球菌の溶解に特に有効である。また、リソスタフィンは、病院環境で見出される最も一般的なコアグラーゼ陰性菌感染の表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)を溶解する能力があることも実証されている。しかし、バイオフィルム構造の複雑性と、リソスタフィンのブドウ球菌溶解機構とのために、リソスタフィンは定着したバイオフィルム中のブドウ球菌に対しては有効ではないだろうと予想された。
【0017】
クリモ(Climo)らの特許文献1は、リソスタフィンによるブドウ球菌病の治療法を開示している。治療には、体重1kgあたり、少なくとも50ミリグラム、好ましくは100ミリグラムという比較的高用量のリソスタフィンが用いられる。リソスタフィンは、単回投与治療または複数回投与治療に用いることも、単独で、または別の抗生剤と組み合わせて使用することも可能である。上記特許文献は、さらに、リソスタフィン遺伝子のクローニングおよび配列決定により、野生型リソスタフィンの特性と類似または異なる特性を有し得る変異型の単離が可能であることも開示している。
【0018】
オキャラハン(O’Callaghan)らの特許文献2は、ブドウ球菌角膜感染の局所治療に有効な抗生物質としてリソスタフィンを使用する方法を開示している。ブラックバーン(Blackburn)らの特許文献3は、リソスタフィンを用いて、乳房内注入による乳牛の乳腺炎の治療を含めたブドウ球菌感染の除去・治療法を開示している。
【0019】
ゴールドシュタイン(Goldstein)らの特許文献4は、0.5〜45mg/kg/日のオーダーの低用量のリソスタフィンならびにその変異体などの類似体および関連酵素が、カテーテルまたは人工装置「に関連する」ものを含めたほとんどのブドウ球菌感
染の根絶に「十分」であることを開示している。よって、この公報にも他の刊行物にも、リソスタフィンが、埋め込み人工装置、カテーテルまたは損傷組織の表面に定着したブドウ球菌または他の細菌起源のバイオフィルムの破壊に有効であると期待するように当業者を導く開示は存在しない。
【特許文献1】米国特許第6,028,051号
【特許文献2】米国特許第6,315,996号
【特許文献3】米国特許第5,760,026号
【特許文献4】米国公開特許公報第2002/0006406号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
CRBIを減少させてカテーテルの耐久力を向上させる特性を有する新規抗菌剤、および、カテーテル上であれ、人工装置上であれ、または損傷組織上であれ、外科的除去の必要なくその場所でバイオフィルム関連ブドウ球菌感染を除去する能力を有する薬剤を見出す必要があることは明らかである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
リソスタフィンなどの抗菌酵素が、バイオフィルム中のすべての細菌を死滅させるだけでなく、バイオフィルム構造体を完全に破壊し、バイオフィルムをその形成表面から根絶することが思いがけず発見された。これによって、バイオフィルム関連感染、特に、損傷組織上または留置人工装置およびカテーテルの表面に生じる感染を、外科切除手段に頼ることなく治療することができる。
【0022】
したがって、本発明の1つの態様により、表面上にバイオフィルムが成長している損傷組織または留置人工装置もしくはカテーテルを有する患者を、バイオフィルムを少なくとも部分的に破壊するように治療する方法が提供され、この方法は、患者に、バイオフィルム形成細菌を致死または損傷させる少なくとも1種の抗菌酵素を、バイオフィルムと接触させると該バイオフィルムを少なくとも部分的に破壊するのに有効な量投与することを含む。ブドウ球菌および他の細菌によるバイオフィルムの場合、バイオフィルム成長の予防にも、すでに定着しているバイオフィルムの根絶にも、リソスタフィンおよびリソスタフィン類似体が特に有効であることが証明された。
【0023】
本発明は、さらに、組織損傷または人工装置もしくはカテーテルを有するバイオフィルム感受性患者におけるバイオフィルムの成長を予防するために、抗菌酵素を予防的に投与することも含む。したがって、本発明の別の態様により、バイオフィルム形成細菌を致死または損傷させる抗菌酵素を予防上有効量投与して、バイオフィルム感受性患者におけるバイオフィルム成長を予防する方法が提供される。例えば、リソスタフィンおよびリソスタフィン類似体を予防的に投与して、バイオフィルム感受性患者におけるブドウ球菌バイオフィルムの成長を予防し得る。
【0024】
本発明は、さらに、必ずしも患者との接触を対象としない生体外の表面を消毒または滅菌する方法を含む。すなわち、本発明のこの方法は、バイオフィルムがすでに成長しているか、成長する可能性があるが望ましくない、体内に埋め込み可能な任意のもの、例えば、ポリマーやチタンなどの金属を含めた、実質的にあらゆる表面の消毒または滅菌に適している。実際に使用する場合、本発明のこの方法は、主に、苛酷な使用化学物質の微量残留物が有害であると考えられる状況など、バイオフィルムの除去または予防に用いられる比較的厳しい滅菌または消毒条件が適していない状況に用いられるであろう。それゆえ、本発明のこの方法は、患者体内の医療用インプラントを対象とする表面のバイオフィルム成長の予防またはバイオフィルム形成が始まる前の雑菌混入の排除に特に有用である。
【0025】
したがって、本発明の別の態様により、細菌バイオフィルムが成長している表面を生体外で消毒または滅菌して、該表面からバイオフィルムを少なくとも部分的に除去する方法が提供され、この方法においては、表面を、バイオフィルムと接触してバイオフィルムを少なくとも部分的に破壊するのに有効な量の、バイオフィルム形成細菌を致死または損傷させる少なくとも1種の抗菌酵素と接触させる。本発明のこの態様は、表面を消毒または滅菌してバイオフィルム成長を予防または排除するのに特に有効である。
【0026】
本発明は、さらに、バイオフィルム感受性表面上のバイオフィルム成長を予防する生体外における方法を含む。したがって、本発明の別の態様により、バイオフィルム形成細菌を致死または損傷させる少なくとも1種類の予防上有効量の抗菌酵素と表面を接触させることにより、生体外で表面を消毒、保護または滅菌してバイオフィルム形成細菌の該表面上での増殖を予防する方法が提供される。本発明のこの態様は、カテーテルや人工装置など患者への医療用埋め込みを目的とした、バイオフィルムが成長しやすい表面を殺菌、保護または滅菌するのに特に有効である。
【0027】
リソスタフィンなどの抗菌酵素は、表面、特にポリマー表面に付着する傾向を有する程度にin situでイオン帯電される。それゆえ、抗菌酵素で処理した表面は、生体内で消毒または滅菌状態を維持して該表面上のバイオフィルム形成を予防するのに役立つ酵素コーティングを保持する。したがって、本発明は、埋め込みを必要とする患者に埋め込み可能で細菌バイオフィルム成長が生じやすい少なくとも1つの表面を有する、バイオフィルム形成の予防に有効な量のバイオフィルム形成細菌を致死させる少なくとも1種の抗菌酵素でコーティングされた人工装置およびカテーテルを含む。
【0028】
コーティング剤は酵素のイオン電荷によって物理的に保持され得る。ポリマー表面の場合、ポリマー表面に酵素を共有結合させてコーティング剤を保持してもよいし、酵素をポリマー表面から実質的に放出させることなく表面に提示させる技術を用いて、酵素を表面ポリマーとブレンドしてもよい。したがって、本発明はさらに、ポリマーと、バイオフィルム形成細菌を致死させる少なくとも1種の有効量の抗菌酵素とをブレンドすることによりポリマー組成物を調製する方法であって、該組成物から形成される表面上における細菌バイオフィルムの成長に抵抗性のポリマー組成物を調製する方法を含む。また、本発明は、人工装置またはカテーテル製造用ポリマー組成物であって、ポリマーと、該組成物から形成される表面上におけるバイオフィルム形成の予防に有効な量のバイオフィルム形成細菌を致死させる少なくとも1種の抗菌酵素とがブレンドされている組成物を含む。
【0029】
人工装置の例としては、シャント、ステント、組織構築用足場、栄養補給管、パンクタルプラグ、人工関節、ペースメーカー、人工弁などを含むがそれらには限定されない、体内挿入用の実質的にすべての装置が含まれる。この定義は、細菌バイオフィルム成長が生じる恐れのある実質的にすべての表面を含むものとする。
【0030】
本発明の上記および他の目的、特徴ならびに利点は、添付図面と併せて以下に記載する発明を実施するための最良の形態からより容易に明らかにされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明は、抗菌酵素を用いて細菌バイオフィルム感染の治療および予防を行う。本発明において、用語「バイオフィルム感染」とは、感染が生じやすい損傷組織上または留置カテーテルもしくは人工装置の表面上のバイオフィルム形成と定義される。この定義は、患者体内でバイオフィルム形成後に続発する持続性感染および慢性感染とは区別され、それらの感染は含まない。これらの二次感染は、従来の治療や、バイオフィルムの完全除去には有効ではないかもしれない本発明の抗菌酵素投与量に一時的に応答し得る。
【0032】
「抗菌酵素」とは、当業者がこの用語に与える意味に従って定義され、ある細菌種またはその特定の菌株を死滅または損傷させる任意のタンパク質分解酵素、孔形成(pore−forming)酵素、分解酵素または阻害酵素を指す。その効果は、細菌の細胞壁の損傷、細胞壁に結合しているか細菌内部の細胞膜の破壊、細菌内タンパク質合成の阻害、糖主鎖の破壊により、または当業者が抗菌酵素であるとみなすペプチドもしくはタンパク質によって起こる任意の他のメカニズムによって達成され得る。抗菌酵素は、天然の野生型酵素でも、従来技術で修飾した酵素でも、他の分子に結合させた酵素でも、組換え発現酵素でも、合成的に構築された酵素でもよい。
【0033】
これは材料の種類を無制限とするということではない。本明細書から本出願人が抗菌酵素の殺菌能および該殺菌能に基づく細菌バイオフィルム破壊能を発見したことを知れば、当業者は、過度な実験を行うことなく、本発明での使用に適した酵素を容易に特定することができる。抗菌酵素の1例はリソスタフィンである。リソスタフィンはブドウ球菌およびブドウ球菌から形成されたバイオフィルムの処理に有効であるので、重要である。
【0034】
「リソスタフィン」および「リソスタフィン類似体」とは、生体内および生体外(in
vitro)で、ブドウ球菌の細胞壁ペプチドグリカンの架橋結合ポリグリシンブリッジを開裂するタンパク質分解能を保持する、リソスタフィン(野生型)、任意のリソスタフィン突然変異体もしくは変異体、任意の組換え体、または関連酵素(類似体)もしくは任意の合成体あるいはリソスタフィン断片(合成かどうかにかかわらない)を包含するものと定義される。これらの酵素は、(生産菌株内に存在する酵素、またはプロセシングの任意のステージで導入される酵素もしくは試薬のいずれかによる)タンパク質の翻訳後プロセシング、または構造遺伝子の突然変異によって産生され得る。突然変異には、部位欠失、挿入、ドメイン除去および置換突然変異が含まれる。
【0035】
本発明のリソスタフィンは、合成的に構築しても、哺乳動物細胞、昆虫、細菌、酵母、は虫類または菌類中で発現させても、細胞培養物またはマウスなどの高等な組換え生物種から組換え発現させてもよいし、あるいはその他の方法でもよい。これには、合成ペプチドおよび合成ポリペプチドを含めた活性を維持した人工合成、あるいはブドウ球菌または他のバイオフィルム形成菌種のいずれかに有効な1種以上の他の抗菌酵素の活性部位を含有する、キメラタンパク質を含めた大型タンパク質もしくはペプチドの一部としてブドウ球菌に対するその活性を担うリソスタフィン酵素部分の組換え発現が含まれるであろう。
【0036】
均質なリソスタフィンの組換え発現、および発現タンパク質から調製した均質で完全な活性を有するリソスタフィン含有組成物が、2002年12月21日に、ジェフリー リチャード スティンソン(Jeffery Richard Stinson)、リュボフ グリンバーグ(Lioubov Grinberg)、ジョン コーカイ‐クン(Jon Kokai‐Kun)、アンドリュー リース(Andrew Lees)およびジェイムス ヤコブ モンド(James Jacob Mond)により出願された「ブドウ球菌溶解活性が増強されたリソスタフィン分子(Lysostaphin Molecule with Enhanced Staphylolytic Activity )」と題する米国特許出願に開示されており、同出願は引用によりその全文が本明細書に援用される。同出願は、2001年12月21日出願の米国仮特許出願第60/341,804号の優先権を主張している。
【0037】
有効な抗菌酵素医薬製剤としては、水溶液または活性物質の非経口送達に適した液体で再構成するための乾燥製剤(例えば、凍結乾燥した結晶または非結晶質(アモルファス)であり、浸透圧平衡を得るための追加の溶質を含んでも含まなくてもよい)がある。製剤は、ボーラスの静注、筋注もしくは末梢注入に適した少量の液体としてもよく、同液体中で再構成しても、または大量の静脈内点滴溶液に添加して再構成してもよく、あるいは、低速静注により投与される大量の液体としても、同液体中で再構成してもよい。
【0038】
送達は、活性物質の最低阻害濃度(MIC)または最低殺菌濃度(MBC)を上回る血中レベルおよび組織レベルを達成することにより、細菌力価を低下させて、形成されているバイオフィルムを破壊するか、または潜在的バイオフィルム形成を阻害するように、静脈内(iv)、筋肉内、皮下、腹腔内経路を介するか、鞘内もしくは吸入によるか、あるいは感染部位(または、予防のためには、バイオフィルム形成が生じやすい組織損傷部位か、留置カテーテルもしくは人工装置部位)への直接注入によるのが好ましい。
【0039】
本発明の抗菌酵素が、細菌種、または状況によりその1種以上の菌株に特異的である場合、医薬製剤は、バイオフィルム感染に対して広範なスペクトルを得るために複数の酵素を含有してもよい。しかし、本発明の抗菌酵素は、単独投与の状況下で同酵素の効力が証明されているようなバイオフィルム感染を治療するためには、単独で投与し得る。
【0040】
本発明の抗菌酵素の適当な投与量および投与計画は、患者の生物種、バイオフィルム感染の重篤度、感染微生物の感受性に応じて異なり、組み合わせ療法の場合には、組み合わせて用いられる特定の抗菌剤に依存し得る。患者候補の生物種はヒトには限定されず、抗菌酵素による治療の利益を享受すると考えられるバイオフィルム感染に罹患しているか罹患の恐れがある実質的にすべての冷血または温血脊椎動物種を含む。投与量は、約0.1〜約100mg/kg/日の範囲、典型的には、約5〜約50mg/kg/日の範囲であってよく、単回用量または分割用量として投与される。これらの用量は、持続注入または1日当たり複数の投与量に分割することを含めた多くの手段により投与し得る。バイオフィルム形成の予防には、比較的低い用量が有効であろう。
【0041】
さらに、本発明の抗菌酵素は、バイオフィルムをより効果的に破壊し、かつその再発を防止するように、他の抗菌剤と同時または交互に併用(coadministration)することができる。例えば、リソスタフィンおよびその類似体を、細胞壁合成を妨害または阻害する抗生物質、例えば、ペニシリン、ナフシリン、オキサシリン、および他のβ‐ラクタム抗生物質、セファロチンなどのセファロスポリン、バンコマイシンなどのグリコペプチドや他のポリペプチドと併せて投与することができる。または、リソスタフィンおよびその類似体を、タンパク質合成を阻害する抗生物質、例えば、ストレプトマイシンなどのアミノグリコシド、テトラサイクリンおよびストレプトグラミンと併せて投与し得る。さらに、リソスタフィンおよびその類似体を、モノクローナル抗体;またはリゾチーム、ムタノリシンおよびセロジル(cellozyl)ムラミダーゼなどの他の抗菌酵素;デフェンシンなどのペプチド;およびナイシンなどのランチビオティクス;または任意の他のランチオン(lanthione)含有分子、例えばズブチリンと併せて投与してもよい。リソスタフィンおよびその類似体と共投与しようとする抗ブドウ球菌剤を、一定の組み合わせとして一緒に製剤化してもよいし、または、利用可能かつ実用的などのような製剤中にも、感染部位で適切なレベルの上記薬剤を提供することが知られているどのような経路を介しても即時的に使用し得る。
【0042】
また、バイオフィルム形成が生じやすい少なくとも1つの表面を有する埋め込み型の金属またはプラスチック製カテーテルまたは人工装置を、バイオフィルム形成しやすい表面上にバイオフィルム形成を阻害する本発明の抗菌酵素コーティングを形成するのに十分な時間酵素溶液に浸漬することにより、該カテーテルまたは人工装置の表面に同酵素をコーティングすることもできる。最低濃度の酵素でも、ある程度の保護を与えるであろう。典型的には、約10μg/ml〜約100mg/mlの濃度を用い得る。装置表面の場合、酵素を表面に共有結合させてコーティングを形成させることもできる。ポリマー製装置の場合、酵素を表面から実質的に放出させることなく表面に酵素の金属イオン封鎖または局在化をもたらす技術により酵素と表面ポリマーとをブレンドし得る。また、リソスタフィンおよび他の阻害因子を、カテーテルおよび留置装置の埋め込み前または後に、留置装置
またはカテーテルの表面をバイオフィルム形成から保護するリソスタフィンおよび他の阻害因子のコーティングが得られるような速度で、カテーテルおよび留置装置を介して直接導入してもよい。この導入速度には、カテーテルにリソスタフィンおよび他の阻害因子を充填すること、およびリソスタフィンおよび他の阻害因子がカテーテル表面をコーティングする時間を見越してカテーテルを密閉すること、または密閉ループ内または埋め込みカテーテルを介して、リソスタフィンおよび他の因子がカテーテルをコーティングできるような速度でリソスタフィンおよび他の因子をポンプ注入することを含み得る。これらの技術は留置装置の製造業者には周知であり、これ以上の説明は無用である。
【0043】
当業者に本発明の実施法を教示する以下の実施例により本発明をさらに説明する。以下の実施例は、単に本発明を例証するに過ぎず、本発明の特定の実施形態の種々の有利な特性を開示するものである。以下の実施例は、特許請求の範囲に記載の発明を限定するものと解釈すべきではない。
【実施例1】
【0044】
(in vitroにおける100μg/mlのリソスタフィンによる黄色ブドウ球菌バイオフィルムの破壊)
ブドウ球菌株を、〜0.5mlのトリプシン大豆ブロス(Tryptic Soy Broth(TSB)、ディフコ・バクト社(Difco Bacto)製)のアリコート中−70℃で保存した。各実験の前に、フリーザーからアリコートを1つ取り出し、ヒツジ血液寒天〔リメル社(Remel)〕上に播種し、37℃で一晩インキュベートした。
【0045】
【表1】

(バイオフィルムアッセイ)
0.25%グルコース(シグマアルドリッチ社)を追加した5mlのTSBに、分離した5つのブドウ球菌コロニーを接種した。培養物を振盪下に37℃で一晩インキュベートした。
【0046】
Spectronic(登録商標)20D+を用いて、一晩培養物を〜3ml PBS(バイオウィッタカー社(Bio Whittaker))中でAbs578が0.1になるように調整した。200μlのTSB+0.25%グルコースを含有する1枚の96ウエルプレート、またはそれぞれ1mlのTSB+0.25%グルコールを含有し、24ウエル組織培養プレート(ナルジェヌンクインターナショナル社(Nalge Nunc
International))にはめ込んだ24個の滅菌済0.02mm Anopore(登録商標)メンブレンポリスチレンプレートインサート(ナルジェヌンクインターナショナル社)に、1:200希釈した調整済み一晩培養物を接種した。プレートを37℃で一晩インキュベートしてバイオフィルムを形成させた。
【0047】
(処理)
約24時間成長させた後、半分のウエルまたはインサートに、100μg/mlのリソスタフィン(AMBI社、現在はニュートリション21社(Nutrition21)、またはバイオシネクサスインコーポレイテッド社(Biosynexus Incorporated))を注入した。次いで、プレートを37℃で一晩インキュベートした。
【0048】
(バイオフィルムの検出)
48時間インキュベートした後、ウエルまたはインサートをPBSで2回軽く洗浄した。洗浄済み96ウエルプレートまたは24インサートを室温下に完全に風乾した。96ウエルプレートはバイオフィルム検出のためにサフラニン(リメル社)で染色し、インサートは、走査電子顕微鏡検査(SEM)に備えて、3×グルタルアルデヒド緩衝液(0.7M NaCl、0.014M KCl、0.007M KHPO、0.039M NaHPO、1M OHC(CH3CHO)で固定した。
【0049】
図1は、リソスタフィンで処理しなかったインサート上のバイオフィルムの成長を示す2レベルの倍率(2,000×および660×)のSEM写真である。
図2は、リソスタフィンで処理したインサートを示す倍率6,600×および660×のSEM写真である。24時間の成長後のバイオフィルム形成を破壊するリソスタフィンの能力が直ちに明白である。
【実施例2】
【0050】
(in vitroにおける50μg/mlのリソスタフィンによる黄色ブドウ球菌バイオフィルムの破壊)
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌株MBT5040を、実施例1と同様にTSB+グルコース中で一晩増殖させた。24時間後、これも実施例1と同じように、200μlのTSB+グルコースを含有する96ウエル組織培養プレートに1:200希釈した一晩培養物を接種した。96ウエルプレートを振盪下に37℃で一晩インキュベートし、静置型の37℃インキュベータに移してさらに24時間インキュベートした。2回目のインキュベーションの後、ウエルをPBSで2回洗浄して浮遊細胞を除去し、室温下に3時間、リソスタフィンを含まないPBS(−)または50μg/mlのリソスタフィンを含むPBS(+)と共にインキュベートした。この3時間のインキュベーション後、ウエルをPBSで2回洗浄し、次いで、ブアン液(シグマアルドリッチ社)中で5分間固定した。ウエルをサフラニンで1分間染色し、再度PBSで洗浄した。結果を図3に示すが、この図は、リソスタフィン処理の結果生じたバイオフィルムの破壊を示している。処理しなかったウエルはバイオフィルムを含んでいたが、処理したウエルでは、バイオフィルムが完全に破壊された。
【実施例3】
【0051】
(バイオフィルム形成抵抗性リソスタフィンコーティングカテーテルの作製)
6つのウエルを、PBSで希釈して10mg/ml、1mg/mlまたは100μg/mlとしたリソスタフィン300μlと共にインキュベートした。試料はすべて2連とした。該プレートを4℃で一晩インキュベートした。翌朝、ウエルを1mlのPBSで10回洗浄したが、ウエルを空にするために真空吸引を使用した。黄色ブドウ球菌株SA5をPBSで透過率40%に希釈した。この溶液の1:10,000希釈液を作成し、各ウエルに300μl加えた。プレートを、75rpmの振盪式インキュベータに37℃で2時
間入れておいた。2時間後、各ウエルから40μlを採取し、血液寒天プレート上に播種し、インキュベータに37℃で一晩入れておいた。翌朝、プレート上のコロニーを計数した。
【0052】
2つのアンジオカット(Angiocath(商標))カテーテル(ベクトンディッキンソン社(Becton Dickinson))をリソスタフィンの100μg/ml溶液200μlと共にインキュベートし、他の2つをPBS中でインキュベートした。該カテーテルを4℃で一晩インキュベートした。翌朝、流速1.5ml/分のポンプを用い、カテーテルを50mlのPBSで洗浄した。カテーテルが洗浄されたら、黄色ブドウ球菌SA5をPBSで透過率40%に希釈した。この溶液の1:10,000希釈液を作成し、各カテーテルに100μlを加えた。カテーテルを37℃で2時間インキュベートした。インキュベートした後、カテーテル流出液を血液寒天プレート上に播種し、インキュベータに37℃で一晩入れておいた。翌朝、プレート上のコロニーを計数した。
【0053】
【表2】

(結果)
リソスタフィンは2つの異なる表面上で細菌(黄色ブドウ球菌SA5)を効果的に死滅させることができた。ポリスチレン表面を、10mg/ml、1mg/mlおよび100μg/mlの3種の異なる濃度のリソスタフィンと共にインキュベートした。3種の濃度のリソスタフィン全てについて、加えた黄色ブドウ球菌を37℃で2時間の間に死滅させるのに十分な酵素がポリマー表面に結合して残ったが、コーティングされていない対照ウエルは有意に高い細菌数を示した。
【0054】
アンジオカットカテーテルの内部を100μg/mlのリソスタフィン溶液と共にインキュベートした。リソスタフィンでコーティングされたカテーテルは黄色ブドウ球菌を37℃で2時間の間に死滅させることができたが、コーティングされていない対照カテーテルはカテーテル内の細菌を死滅させる効果が全くなかった。
【0055】
(比較実施例)
黄色ブドウ球菌株をトリプシン大豆ブロス(TSB)+グルコース中で一晩増殖させた。24時間後、200μlのTSB+グルコースを含有する96ウエル組織培養プレートに1:200希釈した一晩培養物を接種した。96ウエルプレートを振盪下に37℃で一晩インキュベートし、次いで、静置型37℃インキュベータに移してさらに24時間インキュベートした。2回目のインキュベーション後、ウエルをPBSで2回洗浄して浮遊性細胞を除去し、次いで、室温下に3時間、リソスタフィンを含まないPBS(−)または50μg/mlのリソスタフィンを含むPBS(+)と共にインキュベートした。この3時間インキュベーションの後、ウエルをPBSで2回洗浄し、次いで、ブアン液中で5分間固定した。固定ウエルをサフラニンで染色し、次いで再度PBSで洗浄した。リソスタフィンが黄色ブドウ球菌のリソスタフィン耐性株のバイオフィルムを破壊できないことが図4に示されているが、これは、リソスタフィンが同酵素に感受性の細菌に対して特異的であることを示している。この知見はさらに、リソスタフィンがバイオフィルム中の細菌細胞そのものに作用し、これらのバイオフィルム関連細胞を破壊すればバイオフィルムを完全に破壊するのに十分であることをも示唆している。
【実施例4】
【0056】
(リソスタフィンは他の抗生物質より迅速かつより効果的に黄色ブドウ球菌のバイオフィルムを破壊する)
黄色ブドウ球菌バイオフィルムの抗生物質感受性の研究には、オキサシリンおよびバンコマイシンが用いられることが多かった。これらの抗生物質を、リソスタフィンが黄色ブドウ球菌株ATCC35556のバイオフィルムの破壊に従来の抗生物質より有効であるかどうかを判定するために、リソスタフィンと比較した。ポリスチレン製96ウエル組織培養プレート中の24時間バイオフィルムを、系列希釈したリソスタフィン、オキサシリンおよびバンコマイシンで処理した(図7)。
【0057】
バイオフィルムに及ぼすリソスタフィン、オキサシリンおよびバンコマイシンの速度論的効果を調べるために、96ウエル組織培養プレートに定着したバイオフィルムの吸光度を経時的に(0〜3時間および24時間)測定した。黄色ブドウ球菌SA113のバイオフィルムを有する組織培養ウエルを、系列希釈したリソスタフィン(0.8g/ml〜200g/ml)、オキサシリン(1.6g/ml〜400g/ml)、またはバンコマイシン(3.2g/ml〜800g/ml)と共に24時間インキュベートし、650nMでの吸光度を、最初の3時間は20分毎に、次いで24時間目に再びモニターした。PBS中6.25μg/mlの用量のリソスタフィンで処理すると、リソスタフィン処理バイオフィルムの吸光度は、0時間での約0.35から処理後3時間の0.125に低下し、24時間までにベースライン近く(0.04)まで低下した(図7)。バイオフィルムをPBS中400μg/mlもの多量のオキサシリンまたは800μg/mlもの多量のバンコマイシンで処理したにも拘わらず、オキサシリンまたはバンコマイシンで24時間処理したバイオフィルムの吸光度にはほとんど変化がなく、0.325辺りのままであった(図7)。オキサシリンまたはバンコマシンのような抗菌剤は活発に代謝を行っている細菌に有効なので、類似の実験を行い、ただしバイオフィルムを細菌用培地(TSB)中の3種の抗菌剤と共にインキュベートした。PBS中ではなくTSB中でアッセイを行ったときにも極めて類似した結果が認められた。リソスタフィンは24時間までにバイオフィルムの吸光度をバックグラウンド近くまで低下させたが、オキサシリンおよびバンコマイシンは24時間のインキュベーション後にもほとんど効果がなかった(データは示さず)。
【0058】
上記3種の薬剤の、ポリスチレンウエル中の黄色ブドウ球菌バイオフィルムの破壊能力を、処理ウエルと対照(緩衝液処理)ウエルとの染色強度を比較することにより視覚化することができる。24時間処理した上述の速度論的実験由来のバイオフィルムはウエルの底で黒っぽく染まるが(図8)、バイオフィルムの無いウエルはサフラニンで染まらない
。PBS中0.8μg/ml(図8A)およびTSB+0.25%グルコース中12.5g/ml(図8B)程度の少量のリソスタフィンは、トランスウエルからバイオフィルムを除去しているように見えたが、PBSまたはTSB中400μg/mlのオキサシリンまたは800μg/mlのバンコマイシンは24時間処理した後でも定着バイオフィルムに明らかな影響を与えなかった(図8Aおよび8B)。
【実施例5】
【0059】
(リソスタフィンは表皮ブドウ球菌バイオフィルムを破壊する)
リソスタフィンは黄色ブドウ球菌バイオフィルムに対して活性を示したが、リソスタフィンに対して感受性が低いことが知られている表皮ブドウ球菌のバイオフィルムもリソスタフィンのバイオフィルム破壊作用に対して感受性であるかどうかを調べることは重要であった。それぞれ異なるグリコカリックス(スライム)産生能力を有する3種の表皮ブドウ球菌株、表皮ブドウ球菌株Hay(低スライム産生株)、表皮ブドウ球菌株SE1175(中程度スライム産生株)および表皮ブドウ球菌ATCC35984(高スライム産生株)、を調べた。予想通り、これら3種の表皮ブドウ球菌株はすべてガラスチャンバスライド上にバイオフィルムを産生し(図9)、ATCC35984が最も厚く、最も黒っぽく染まるバイオフィルムを産生した。これらの表皮ブドウ球菌バイオフィルムを200g/mlのリソスタフィンと共に3時間インキュベートすると、3種の表皮ブドウ球菌株すべてのバイオフィルムが破壊された(図9)。この実験には対照として黄色ブドウ球菌株SA113も含めた。破壊されたバイオフィルムの顕微鏡検査により、この人工表面に結合したまま残る無傷の細菌は存在しないことが判明した(データは示さず)。リソスタフィン処理ウエル中に見える染色された物質は、サフラニンでピンク色に染まった細胞外グリコカリックスであり、無傷のグラム陽性表皮ブドウ球菌細胞は含んでおらず、細胞破片だけがあった。
【実施例6】
【0060】
(マウスにおいて成立した感染の治療)
頚静脈カテーテル挿入したマウス(チャールスリバーラボラトリーズ社(Charles River Labs))を用いた。尾静脈を介してマウスに黄色ブドウ球菌(カテーテルを挿入していないマウスに感染を成立させるのに通常必要な用量5×10CFU以上よりはるかに低い10〜10CFU)を負荷投与した。感染が成立した負荷投与後4日目に治療を開始した。留置カテーテルを介して200μ容量のPBS中のリソスタフィンを投与した(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌の場合には、治療にナフシリンを加えた)。その日の最終治療後、リソスタフィン(さらに、使用する場合にはナフシリン)を治療に用いたのと同じ濃度で加えた50μlのロック溶液(50%滅菌グルコース溶液)をカテーテルに入れた。対照マウスには、PBSおよびロック溶液だけで同じ治療をした。
【0061】
最終治療の翌日、肝臓、心臓および心臓内のカテーテルの一部を採取した。カテーテル部分は超音波処理して細菌を分離した。回収された細菌(黄色ブドウ球菌)の数(CFU)が表3〜表11に示されている。
【0062】
【表3】

【0063】
【表4】

【0064】
【表5】

【0065】
【表6】

【0066】
【表7】

【0067】
【表8】

【0068】
【表9】

【0069】
【表10】

【0070】
【表11】

マウスにおいて成立したカテーテル感染を除去するためには、メチシリン感受性黄色ブドウ球菌に対しては20mg/kgのリソスタフィン、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌に対しては15mg/kgリソスタフィン+50mg/kgナフシリンを1日3回4日間投与する必要があった(注:リソスタフィンおよびナフシリンは黄色ブドウ球菌に対して相乗的殺菌効果を有することが知られている)。リソスタフィンの用量を少なくするか、または異なる投与計画(例えば、40mg/kgを1回に続いて以後5mg/kg、または初日に15mg/kgを3回に続いて以後5mg/kg)を実施した場合には、黄色ブドウ球菌感染の完全な除去は生じなかった。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌をリソスタフィンだけで治療すると、2,3のケースでリソスタフィン耐性が発生したが、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌をリソスタフィンとナフシリンで組み合わせ治療すると、リソスタフィン耐性は全く検出されなかった。リソスタフィン耐性とβ‐ラクタム耐性は相互に排他的であることが知られている。SEMにより、黄色ブドウ球菌が埋め込みカテーテル上でバイオフィルムとして増殖し(図5)、リソスタフィンがこれらのカテーテルから黄色ブドウ球菌バイオフィルムを除去することが示された(図6)。
【実施例7】
【0071】
(カテーテル挿入マウスのリソスタフィンによる前処理)
実施例4のように黄色ブドウ球菌を負荷投与する前に、カテーテルを介して頚静脈カテーテル挿入マウスをリソスタフィンで1または2回前処理した。マウスには、リソスタフィン(40mg/kg)を負荷投与24時間前に1回、またはリソスタフィン(40mg/kg)を負荷投与24時間前と2時間前の2回投与した。リソスタフィン溶液は負荷投与中カテーテルに入れたままにした。対照マウスには、標準的なリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を投与した。負荷投与後4日目にマウスを屠殺した。
【0072】
3匹の対照マウスのうち2匹は、カテーテル、肝臓および心臓に感染していた。処理した8匹のマウスにはいずれも黄色ブドウ球菌はなかった。
上記実施例において、リソスタフィン溶液を細菌の負荷投与時にカテーテルに入れたままにしたので、溶液中のこのリソスタフィンがカテーテルを黄色ブドウ球菌感染から保護したと主張することができよう。もっと厳しい実験を実施するために、カテーテル挿入マ
ウスに、カテーテルを介して200μlのPBS中40mg/kgのリソスタフィンを1回注入した。1群には、その後さらに、前注入投与と同じ濃度のリソスタフィンを含む50μlのロック溶液を投与した。22時間後、これらのマウスすべてのカテーテルをPBSで徹底的にすすいだ。すすぎの2時間後に、動物に10個の黄色ブドウ球菌を負荷投与した。黄色ブドウ球菌負荷投与の4日後に動物を屠殺し、カテーテルと臓器を細菌に関して調査分析した。表12に示すように、過剰なリソスタフィンがすすぎ流されても、カテーテルを黄色ブドウ球菌感染から保護するのに十分なリソスタフィンが頚静脈カーテルに結合して残っていた。
【0073】
【表12】

in vivoの実施例における上記結果は、カテーテル感染マウスモデルにおいてリソスタフィンが感染カテーテルから黄色ブドウ球菌バイオフィルムを除去できることを示している。これらの実施例において、マウス内のカテーテルを清浄化するには、最低用量で40mg/kgを1日3回4日間投与する必要があった。上記実施例はさらに、マウス内のカテーテルに単回で40mg/kgのリソスタフィンを予め注入すれば、カテーテルから過剰なリソスタフィンを洗い流しても、カテーテルが黄色ブドウ球菌バイオフィルム形成から保護されるであろうことを実証している。マウスのバイオフィルム感染を除去または防ぐのに必要なリソスタフィン用量はヒトおよび他の動物の治療に必要な用量とは異なり得るので、これらの実施例は本特許の特許請求の範囲を制限することを意図するものではない。
【0074】
上記結果は、リソスタフィンがカテーテルに結合してその殺ブドウ球菌活性を維持することを示す実施例3の結果と相関しており、カテーテルの前処理がリソスタフィンをカテーテル感染の療法として用いるよりも実用的であり得ることを示唆している。
【実施例8】
【0075】
(リソスタフィンコーティング静脈内カテーテルの生体外(in vitro)における効力)
(材料および方法)
(材料) ポリスチレン製24ウエル組織培養プレートは、米国マサチューセッツ州アクトン(Acton)所在のコスター社(Costar)から購入した。アンジオカットカテーテルおよびトリプシン大豆ブロスは、米国メリーランド州スパークス(Sparks)所在のベクトンディッキンソン社(Becton Dickinson)から購入した。リン酸緩衝生理食塩水(pH7.2)は、米国メリーランド州ロックビル(Rockville)所在のギブコライフテクノロジーズ社(Gibco Life Technologies)から購入した。血液寒天プレートは、米国カンザス州レネクサ(Lenexa)所在のリメル社から購入した。リソスタフィン(Ambicin(登録商標)L
)は、AMBIインコーポレイテッド社(AMBI,Inc.)から入手した。種々のアッセイにおいて、菌株:黄色ブドウ球菌莢膜型5型(SA5)および8型(臨床分離株);メチシリン耐性黄色ブドウ球菌MBT5040(WRAMC由来の臨床分離株)、表皮ブドウ球菌SE380(臨床分離株)、1175(臨床分離株)、ATCC35984(ATCCから購入)を用いた。
【0076】
(ポリスチレンウエルのコーティング) PBSに希釈した10mg/ml、1mg/mlまたは0.1mg/mlのリソスタフィン300μlでウエルをコーティングした。プレートを4℃で一晩インキュベートした。ウエルを1mlのPBSで10回洗浄し、洗浄液を真空吸引して除去した。各ウエルに、黄色ブドウ球菌の5×10CFU/ml溶液300μlを加えた。プレートを37℃下に2時間、75rpmで振盪した。次いで、各ウエルから40μlを採取し、血液寒天プレート上に画線塗布(ストリーク)し、37℃下に一晩インキュベートした。
【0077】
(カテーテルのコーティング) アンジオカットカテーテルから針を除去し、処分した。1mlシリンジを用いて、カテーテルをリソスタフィンの0.1mg/ml溶液200μlでコーティングした。カテーテルは、特に断りのない限り、室温下に1時間インキュベートした。次いで、蠕動ポンプを用いて1.5ml/分の流速で50mlのリン酸緩衝生理食塩水によりカテーテルを洗浄した。次いで、カテーテルに、細菌の〜5×10CFU/ml溶液(TSBで希釈したもの)120μlを接種し、37℃で2時間インキュベートした。次いで、カテーテルから流出させた液を血液寒天プレート上に画線塗布し、37℃下に一晩インキュベートした。
【0078】
(リソスタフィンの浸出) リソスタフィンがカテーテルから管腔溶液中にゆっくり放出されるかどうかをテストするために、リソスタフィンコーティングカテーテルを100μlのPBSと共に37℃で2時間インキュベートした。次いで、PBSをエッペンドルフチューブ内に移し、この流出液に10CFUのSA5を加え、37℃で1時間インキュベートした。試料から40μlを採取し、血液寒天プレート上に画線塗布し、37℃で一晩インキュベートした。もう1つの方法として、リソスタフィンコーティングカテーテルをPBSと共に37℃で一晩インキュベートした。翌朝、PBSを洗浄除去し、カテーテルに〜5×10CFU/mlのSA5を37℃で2時間接種した。次いで、流出液を血液寒天プレート上に画線塗布し、37℃で一晩インキュベートした。ポリスチレン表面からの浸出を検出するために、ウエルを10、1および0.1mg/mlのリソスタフィンで60分かけてコーティングした。次いで、ウエルを洗浄し、各ウエルに300μlのPBSを加えて2時間おいてから取り除いた。このPBS洗浄液に5×10CFU/ml溶液300μlを加え、37℃で一晩インキュベートした。次いで、40μlを採取し、血液寒天プレート上に画線塗布し、37℃で一晩インキュベートした。
【0079】
(リソスタフィンの長期浸出) 10個のリソスタフィンコーティングカテーテル(10mg/mlのコーティング濃度)をPBSと共に37℃で2時間インキュベートした。次いで、カテーテルを洗浄し、10個のリソスタフィンコーティングカテーテルのうち2個をSA5の5×10CFU/ml溶液200μlと共に37℃で2時間インキュベートした。流出液を血液寒天プレート上に画線塗布し、37℃で一晩インキュベートした。残りのカテーテルを新鮮なPBSと共にインキュベートし、一晩37℃下に放置した。翌日、全8個のカテーテルを洗い流し、そのうち2個のカテーテルを上記のように細菌と共にインキュベートした。他の6個のカテーテルは再び新鮮なPBSと共にインキュベートし、一晩37℃下に放置した。この手順を4日間毎日繰り返した。
【0080】
(細菌のカテーテルへの付着) リソスタフィンコーティングカテーテルを、振盪下に2時間、0.1mg/mlのリソスタフィン溶液2ml中に入れておき、カテーテルの外
側をコーティングした。次いで、カテーテルを洗浄し、5×10CFU/mlのSA5溶液に入れ、37℃で3時間インキュベートした。この細菌溶液40μlを血液寒天プレート上に画線塗布し、37℃で一晩インキュベートした。カテーテルを2mlのTSB中37℃で一晩インキュベートし、増殖について調べた。処理していないカテーテルを50mlのPBSで洗浄し、次いで、5×10CFU/mlの細菌溶液120μlを接種し、2または24時間インキュベートした。次いで、カテーテル流出液を血液寒天プレート上に画線塗布し、一晩37℃下に放置した。カテーテルを50mlのPBSで洗浄し、最後の1mlの洗浄液を回収し、100μlを血液寒天プレート上に画線塗布して37℃で一晩インキュベートした。次いで、カテーテルを1mlのTSB中37℃で一晩インキュベートし、増殖について調べた。
【0081】
(血清タンパク質の存在下におけるリソスタフィン活性) カテーテルを室温下に60分かけて0.1mg/mlでコーティングした。次いで、カテーテルを洗浄し、ヒト血清またはTBSと共に37℃で24時間インキュベートした。カテーテルを洗浄し、次いで、5×10CFU/mlの細菌を37℃で2時間接種した。カテーテルからの流出液を血液寒天プレート上に画線塗布し、37℃で一晩インキュベートした。
【0082】
固定化されたリソスタフィンにより、ポリスチレンおよびカテーテルの表面から細菌を効果的に除去することができた。対照ウエルからは平均して610CFUが回収されたのに対し、リソスタフィンでコーティングしたウエルにはわずか3CFUしか残っておらず、細菌数が99.5%減少した。3種の濃度はいずれも細菌に対して極めて活性が高かったので、この範囲における殺菌は濃度依存的ではなかった。リソスタフィンコーティングカテーテルでは細菌が完全に除去されたのに対し、対照カテーテルでは493CFUが回収された。これらの結果は、リソスタフィンがプラスチック表面に結合している間、黄色ブドウ球菌に対する活性を維持することを示唆している。
【0083】
殺菌活性がリソスタフィンコーティング時間の関数であるかどうかを突きとめるために、カテーテルを、5、10または15分間かけて、0.1mg/mlのリソスタフィンでコーティングし、それらの黄色ブドウ球菌殺菌効力を調べた。図10に示すように、カテーテルは、リソスタフィンでわずか5分間コーティングしただけでも高レベルの殺菌活性を有していたが、コーティング時間が長くなるにつれ、効力が増大する傾向があった。細菌数は、5分間のコーティング後には98.7%、10分後には99.4%減少し、わずか15分間のコーティング後では完全に除去された。
【0084】
(コーティング表面からのリソスタフィンの浸出)
リソスタフィンコーティングカテーテルのPBS洗浄液は、ごくわずかな細菌数減少しか示さなかった(表14)。リソスタフィンコーティングカテーテルは、PBSで一晩洗浄した後でも細菌を完全に除去したことを示したのに対し、非処理カテーテルでは1500CFUが回収された。このデータは、リソスタフィンがカテーテルから浸出しているとしても、このような細菌負荷に対しては有効でない量の浸出であることを示唆している。
【0085】
ポリスチレンからのリソスタフィン浸出の結果として、細菌除去に及ぼすコーティング濃度依存的効果が存在する。10mg/mlについての洗浄液は、SA5の力価を、対照に比べて1.4log減少させ、1mg/mlの洗浄液は1.3log減少させた。しかし、0.1mg/mlコーティングでは、浸出による細菌数の減少はわずか0.33logであった。一方、0.1mg/mlでコーティングしたウエルに同じ細菌力価を直接加えると、細菌数が2.4log減少した(表13)。
【0086】
【表13】

【0087】
【表14】

コーティングカテーテルの殺菌活性に及ぼすリソスタフィンの連続浸出の効果を図11に示す。カテーテルを、24時間毎にPBSを新しくしながら、最大96時間までPBSとともにインキュベートした。次いで、カテーテルが黄色ブドウ球菌殺菌活性を維持しているかどうかを調べるために、カテーテルを細菌で負荷曝露した。図11に示すように、PBSと共に2時間インキュベートした後では、リソスタフィンコーティングカテーテルから回収された細菌は非コーティングカテーテルに比べて2.8log減少していた。細菌数は、24時間後には1.8log、48時間後には1.5log、72時間後には0.7log、96時間後には0.3log減少した。
【0088】
(リソスタフィンコーティングカテーテルに対する種々の菌株の感受性)
表15は、生体外(in vitro)カテーテルモデルでテストした、MRSA株および原型のバイオフィルム産生表皮ブドウ球菌株を含めた数種の黄色ブドウ球菌株および表皮ブドウ球菌株の感受性を示している。
【0089】
【表15】

以前の研究では、リソスタフィンは黄色ブドウ球菌に比べて表皮ブドウ球菌に対して活性が低いことが示されたが、リソスタフィンコーティングカテーテルは、黄色ブドウ球菌株に対するより幾分効果が低いとは言え、表皮ブドウ球菌の3種の菌株を効果的に死滅させることができた。表皮ブドウ球菌380型は表皮ブドウ球菌のうちで最も感受性が高く、2.2log減少した。バイオフィルム産生表皮ブドウ球菌ATCC35984は、対照試料に対して1.8logの減少、表皮ブドウ球菌1175は1.1logの減少を示した。リソスタフィンコーティングカテーテルは、黄色ブドウ球菌MBT5040(MRSA)および黄色ブドウ球菌莢膜型8型(SA8)のいずれにも非常に有効であった。平均すると、MRSAと共にインキュベートしたカテーテルからは1CFUが回収され、一方、SA8と共にインキュベートしたカテーテルでは完全に清浄化(細菌除去)されたのに比べ、非コーティングカテーテルからは1250CFUの細菌が回収された。
【0090】
(細菌のカテーテルへの付着)
非コーティングカテーテル流出液中の細菌数は多すぎて数えられなかったが、洗浄液の最後の1mlを回収して、血液寒天プレート上に画線塗布した。洗浄液中の細菌数はインキュベーション時間に比例し、24時間ではより多数の細菌が付着していた。平均して、24時間洗浄液からは1000CFUが回収されたのに対し、2時間洗浄液からは約30CFUが回収された。洗浄液中の細菌数は、カテーテル内の細菌付着レベルを示す可能性が高い。次に、非コーティングカテーテルを培養し、細菌増殖について調べた。培地中で一晩インキュベートすると、カテーテルにはかなりのコロニーが形成され、培地中で細菌が増殖することが示された。このデータは、細菌がカテーテル表面に付着し、感染を引き起こし得ることを示唆している。大量の接種細菌中で3時間インキュベートしたリソスタフィンカテーテルは溶液を清浄化(細菌を除去)した。一晩インキュベートした後、培地には細菌がなかったが、これは、リソスタフィンコーティングカテーテルが3時間で細菌
溶液を清浄化することができ、カテーテルは無菌状態に保たれることを示唆している。
【0091】
(血清タンパク質存在下のリソスタフィン活性)
図12に示すように、0.1mg/mlのリソスタフィンでコーティングしたカテーテルをヒト血清と共にインキュベートすると、細菌数が99%減少することが示され、一方、10および1mg/mlのリソスタフィンでコーティングしたカテーテルをヒト血清と共にインキュベートすると、細菌が完全に除去された。これらの結果は、血清タンパク質の存在がカテーテル上のリソスタフィンの活性に有意な影響を与えないことを示唆している。
【0092】
上記実施例は人工的な表面へのリソスタフィンコーティングの効力を実証している。リソスタフィンでコーティングされた表面は、カテーテル関連感染およびインプラント関連感染のいずれの予防においても重要な新規療法となり得る。
【0093】
上述の特徴の種々の変形形態および組み合わせが、特許請求の範囲に記載されている本発明から逸脱することなく利用可能であることは容易に理解されよう。それらの変形形態は本発明の思想および範囲から逸脱したものとは見なされず、そのような変更形態はすべて以下の特許請求の範囲内に包含されるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】リソスタフィンで処理していない組織培養インサート上の黄色ブドウ球菌バイオフィルムの成長を示す、2通りの倍率(左側が2000×、右側が660×)のSEM写真。
【図2】リソスタフィンで処理したインサートを示す、倍率が左側6,600×、右側660×のSEM写真。黄色ブドウ球菌バイオフィルムはすべて根絶されている。
【図3】黄色ブドウ球菌株MBT5040バイオフィルムがそれぞれ50μg/mlのリソスタフィンで処理された(+)8ウエルと、処理されていない(−)8ウエルとからなる16ウエルの組織培養プレートの走査を示す図。
【図4】2種のリソスタフィン耐性黄色ブドウ球菌(LysoR)変異株を含めた種々の黄色ブドウ球菌株のバイオフィルムを50μg/mlのリソスタフィンで処理した(+)ウエルと、比較のために処理していない(−)ウエルとからなる30ウエルの組織培養プレートの走査を示す図。
【図5A】リソスタフィンで治療する前の、黄色ブドウ球菌感染マウスの頚静脈カテーテル上に生体内(in vivo)で成長したバイオフィルムを示す倍率4000×のSEM写真。
【図5B】リソスタフィンで治療する前の、黄色ブドウ球菌感染マウスの頚静脈カテーテル上に生体内(in vivo)で成長したバイオフィルムを示す倍率4000×のSEM写真。
【図6A】リソスタフィンによる治療後に、黄色ブドウ球菌に感染した頚静脈カテーテル挿入マウス(図5と類似)のカテーテルからバイオフィルムが除去されたことを示す倍率4000×のSEM写真。
【図6B】リソスタフィンによる治療後に、黄色ブドウ球菌に感染した頚静脈カテーテル挿入マウス(図5と類似)のカテーテルからバイオフィルムが除去されたことを示す倍率4000×のSEM写真。
【図7】リソスタフィン(6.25cg/ml)が時間とともに黄色ブドウ球菌バイオフィルムの吸光度を即時かつ連続的に低下させるのに対し、バンコマイシン(800cg/ml)およびオキサシリン(400□cg/ml)はバイオフィルムに何の影響も与えないことを示すグラフ。
【図8】オキサシリン(1.6cg/ml〜400cg/ml)またはバンコマイシン(3.2cg/ml〜800cg/ml)がPBS(A)または細菌培地(B)中での24時間インキュベーション後に黄色ブドウ球菌バイオフィルムに何の影響も与えないのに対し、リソスタフィンがPBS中では0.8cg/ml(A)で、TSB+0.25%グルコース中では12.5cg/ml(B)でバイオフィルムを除去したことを示す走査の図。
【図9】リソスタフィンが、表皮ブドウ球菌バイオフィルム(対照としての黄色ブドウ球菌(A)、表皮ブドウ球菌株Hay(B)、表皮ブドウ球菌株ATCC35984(C)または表皮ブドウ球菌株SE1175(D))を破壊することを示す走査の図。2つの拡大部分は、表皮ブドウ球菌株ATCC35984の多層バイオフィルム(上)と、リソスタフィン処理後の、無傷のブドウ球菌を含まない同菌株の残留グリコカリックス(下)を示している。
【図10】リソスタフィンコーティング時間の関数としてのカテーテルの抗菌効力を示す図。
【図11】黄色ブドウ球菌に対するリソスタフィンコーティングカテーテルの長期抗菌効力を示す図。
【図12】血清タンパク質の存在下におけるリソスタフィンコーティングカテーテルの抗菌効力を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面上に細菌バイオフィルムが成長している損傷組織または留置人工装置もしくはカテーテルを体内に有する患者を、前記バイオフィルムを少なくとも部分的に破壊するように治療する方法であって、前記患者に、バイオフィルム形成細菌を致死または損傷させる少なくとも1種の抗菌酵素を、バイオフィルムと接触させると該バイオフィルムを少なくとも部分的に破壊するのに有効な量投与することを含む方法。
【請求項2】
前記抗菌酵素量が、前記バイオフィルムが成長している表面から前記バイオフィルムを完全に根絶するのに有効である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
抗菌酵素を少なくとも1種の他の抗菌剤と併用する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記バイオフィルムがブドウ球菌性である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記バイオフィルムが黄色ブドウ球菌を含んでなる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記バイオフィルムが表皮ブドウ球菌を含んでなる、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記バイオフィルムが黄色ブドウ球菌と表皮ブドウ球菌とを含んでなる、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
リソスタフィンまたはリソスタフィン類似体を投与することを含んでなる、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
リソスタフィンまたはリソスタフィン類似体もしくはリソスタフィンと同じ酵素活性を有するキメラ分子を投与することを含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
組換え発現され完全な活性を有する同種リソスタフィンを投与する、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記リソスタフィンが人工合成されている、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記抗菌酵素が人工合成されている、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記リソスタフィンが天然由来である、請求項8に記載の方法。
【請求項14】
前記リソスタフィンをブドウ球菌に有効な他の抗生物質と併用する、請求項8に記載の方法。
【請求項15】
前記他の抗生物質が細胞壁合成を妨害または阻害する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記抗生物質が、β‐ラクタム、セファロスポリン、グリコペプチド、アミノグリコシド、スルホノミド(sulfonomide)、マクロライド、葉酸、ポリペプチドおよびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記他の抗生物質がタンパク質合成を妨害する、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記他の抗生物質が、グリコシド、テトラサイクリンおよびストレプトグラミンを含んでなる、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
バイオフィルム形成細菌を致死または損傷させる少なくとも1種の抗菌酵素を予防上有効な量投与して、患者内のバイオフィルム成長が生じやすいインプラント表面または損傷組織上におけるバイオフィルム成長を予防する方法。
【請求項20】
前記患者が、バイオフィルム成長が生じやすい表面を備えた留置カテーテルまたは人工装置を有する、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記バイオフィルムがブドウ球菌のバイオフィルムである、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記バイオフィルムが黄色ブドウ球菌を含んでなる、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記バイオフィルムが表皮ブドウ球菌である、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記バイオフィルムが、黄色ブドウ球菌と表皮ブドウ球菌とを含んでなる、請求項21に記載の方法。
【請求項25】
前記投与が、少なくとも1種のリソスタフィンまたはリソスタフィン類似体もしくはリソスタフィンと同じ酵素活性を有するキメラ分子を投与することを含んでなる、請求項21に記載の方法。
【請求項26】
前記投与が、少なくとも1種のリソスタフィンまたはリソスタフィン類似体もしくはリソスタフィンと同じ酵素活性を有するキメラ分子を投与するステップを含んでなる、請求項19に記載の方法。
【請求項27】
組換え発現され完全な活性を有する同種リソスタフィンを投与する、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
前記リソスタフィンが人工合成されている、請求項25に記載の方法。
【請求項29】
前記抗菌酵素が人工合成されている、請求項19に記載の方法。
【請求項30】
前記リソスタフィンが天然由来である、請求項25に記載の方法。
【請求項31】
前記リソスタフィンをブドウ球菌に有効な他の抗生物質と併用する、請求項19に記載の方法。
【請求項32】
前記他の抗生物質が細胞壁合成を妨害または阻害する、請求項19に記載の方法。
【請求項33】
前記抗生物質が、β‐ラクタム、セファロスポリン、アミノグリコシド、スルホノミド、マクロライド、葉酸、グリコペプチド、ポリペプチドおよびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項19に記載の方法。
【請求項34】
前記他の抗生物質がタンパク質合成を妨害する、請求項19に記載の方法。
【請求項35】
前記他の抗生物質が、グリコシド、テトラサイクリンおよびストレプトグラミンを含んでなる、請求項19に記載の方法。
【請求項36】
前記リソスタフィンを、埋め込む前の前記カテーテル内または前記人工装置上に導入する、請求項20に記載の方法。
【請求項37】
溶液のポンプ注入により前記リソスタフィンを前記カテーテルに導入する、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記リソスタフィンを挿入後の前記カテーテルに導入する、請求項20に記載の方法。
【請求項39】
ボーラス注入により前記リソスタフィンを前記カテーテルに導入する、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
低速注入により前記リソスタフィンを前記カテーテルに導入する、請求項38に記載の方法。
【請求項41】
表面を生体外(ex vivo)で消毒または殺菌して、バイオフィルム形成細菌の該表面上での増殖を予防する方法であって、前記表面と、前記バイオフィルム形成細菌を致死または損傷させる少なくとも1種の予防上有効な量の抗菌酵素とを接触させることを含んでなる方法。
【請求項42】
前記バイオフィルム形成細菌がブドウ球菌を含む、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記バイオフィルム形成細菌が黄色ブドウ球菌を含む、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記バイオフィルム形成細菌が表皮ブドウ球菌を含む、請求項42に記載の方法。
【請求項45】
前記バイオフィルム形成細菌が、黄色ブドウ球菌と表皮ブドウ球菌とを含む、請求項42に記載の方法。
【請求項46】
前記接触が、前記表面と、少なくとも1種のリソスタフィンまたはリソスタフィン類似体もしくはリソスタフィンと同じ酵素活性を有するキメラ分子とを接触させることを含んでなる、請求項42に記載の方法。
【請求項47】
前記接触が、前記表面と、少なくとも1種のリソスタフィンまたはリソスタフィン類似体もしくはリソスタフィンと同じ酵素活性を有するキメラ分子とを接触させることを含んでなる、請求項41に記載の方法。
【請求項48】
前記表面と、組換え発現され完全な活性を有する同種リソスタフィンとを接触させる、請求項41に記載の方法。
【請求項49】
前記リソスタフィンが人工合成されている、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記抗菌酵素が人工合成されている、請求項41に記載の方法。
【請求項51】
前記リソスタフィンを、ブドウ球菌に有効な他の抗生物質と併用する、請求項48に記載の方法。
【請求項52】
前記他の抗生物質が細胞壁合成を妨害または阻害する、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
前記抗生物質が、β‐ラクタム、セファロスポリン、グリコペプチド、ポリペプチドおよびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
前記他の抗生物質がタンパク質合成を妨害する、請求項51に記載の方法。
【請求項55】
前記他の抗生物質がグリコシド、テトラサイクリンおよびストレプトグラミンを含んでなる、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
人工装置またはカテーテルであって、それを必要とする患者に埋め込み可能であり、細菌バイオフィルムが成長しやすい少なくとも1つの表面を有し、バイオフィルム形成の予防に有効な量のバイオフィルム形成細菌を致死させる少なくとも1種の抗菌酵素でコーティングされている人工装置またはカテーテル。
【請求項57】
前記酵素コーティングが前記表面に共有結合している、請求項56に記載の装置またはカテーテル。
【請求項58】
前記少なくとも1つの表面は、前記酵素をポリマー表面から実質的に放出させることなく前記ポリマー表面に呈するように、前記ポリマーと前記酵素とのブレンドを含んでなる、請求項56に記載の装置またはカテーテル。
【請求項59】
前記装置が、シャント、ステント、組織構築用足場、栄養補給菅、パンクタルプラグ、人工関節、ペースメーカー、人工弁からなる群から選択される、請求項56に記載の装置またはカテーテル。
【請求項60】
前記装置またはカテーテルが埋め込み式金属装置である、請求項59に記載の装置またはカテーテル。
【請求項61】
前記金属がチタンである、請求項60に記載の装置またはカテーテル。
【請求項62】
ポリマーと、バイオフィルム形成細菌を致死させる少なくとも1種の有効量の抗菌酵素とをブレンドすることを含んでなる、ポリマー組成物を製造する方法であって、該組成物から形成される表面上におけるバイオフィルム形成細菌の増殖に抵抗性のポリマー組成物を製造する方法。
【請求項63】
前記バイオフィルム形成細菌がブドウ球菌である、請求項62に記載の方法。
【請求項64】
前記バイオフィルム形成細菌が黄色ブドウ球菌を含む、請求項63に記載の方法。
【請求項65】
前記バイオフィルム形成細菌が表皮ブドウ球菌を含む、請求項63に記載の方法。
【請求項66】
前記バイオフィルム形成細菌が黄色ブドウ球菌と表皮ブドウ球菌とを含む、請求項63に記載の方法。
【請求項67】
前記酵素が、リソスタフィン、リソスタフィン類似体またはリソスタフィンと同じ酵素活性を有するキメラ分子を含んでなる、請求項62に記載の方法。
【請求項68】
前記リソスタフィンまたはリソスタフィン類似体が、組換え発現され完全な活性を有する同種リソスタフィンである、請求項67に記載の方法。
【請求項69】
前記リソスタフィンが天然由来である、請求項67に記載の方法。
【請求項70】
前記リソスタフィンが合成由来である、請求項67に記載の方法。
【請求項71】
前記リソスタフィンを、ブドウ球菌に有効な他の抗生物質と併用する、請求項67に記
載の方法。
【請求項72】
前記酵素がリソスタフィンまたはリソスタフィン類似体を含んでなる、請求項62に記載の方法。
【請求項73】
前記リソスタフィンが天然由来である、請求項72に記載の方法。
【請求項74】
前記リソスタフィンが合成由来である、請求項72に記載の方法。
【請求項75】
前記リソスタフィンを、ブドウ球菌に有効な他の抗生物質と併用する、請求項62に記載の方法。
【請求項76】
前記他の抗生物質が細胞壁合成を妨害または阻害する、請求項62に記載の方法。
【請求項77】
前記抗生物質が、β‐ラクタム、セファロスポリン、グリコペプチド、ポリペプチドおよびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項76に記載の方法。
【請求項78】
前記他の抗生物質がタンパク質合成を妨害する、請求項62に記載の方法。
【請求項79】
前記他の抗生物質が、グリコシド、テトラサイクリンおよびストレプトグラミンを含んでなる、請求項62に記載の方法。
【請求項80】
人工装置またはカテーテル製造用ポリマー組成物であって、ポリマー組成物に用いるのに適したポリマーと、前記ポリマー組成物から形成される表面上におけるバイオフィルム形成の予防に有効な量のバイオフィルム形成細菌を致死させる少なくとも1種の抗菌酵素とをブレンドしたポリマー組成物。
【請求項81】
前記バイオフィルム形成細菌がブドウ球菌である、請求項80に記載のポリマー組成物。
【請求項82】
前記バイオフィルム形成細菌が黄色ブドウ球菌を含む、請求項81に記載のポリマー組成物。
【請求項83】
前記バイオフィルム形成細菌が表皮ブドウ球菌を含む、請求項81に記載のポリマー組成物。
【請求項84】
前記バイオフィルム形成細菌が黄色ブドウ球菌と表皮ブドウ球菌とを含む、請求項81に記載のポリマー組成物。
【請求項85】
前記酵素が、リソスタフィン、リソスタフィン類似体またはリソスタフィンと同じ酵素活性を有するキメラ分子を含んでなる、請求項81に記載のポリマー組成物。
【請求項86】
前記リソスタフィンまたはリソスタフィン類似体が組換え発現され完全な活性を有する同種リソスタフィンである、請求項85に記載のポリマー組成物。
【請求項87】
前記リソスタフィンが天然由来である、請求項85に記載のポリマー組成物。
【請求項88】
前記リソスタフィンが合成由来である、請求項85に記載のポリマー組成物。
【請求項89】
前記リソスタフィンがブドウ球菌に有効な他の抗生物質とブレンドされている、請求項
85に記載のポリマー組成物。
【請求項90】
前記酵素がリソスタフィンまたはリソスタフィン類似体を含んでなる、請求項80に記載のポリマー組成物。
【請求項91】
前記リソスタフィンが天然由来である、請求項90に記載の方法。
【請求項92】
前記リソスタフィンが合成由来である、請求項90に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2006−507850(P2006−507850A)
【公表日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−579694(P2003−579694)
【出願日】平成15年3月26日(2003.3.26)
【国際出願番号】PCT/US2003/009354
【国際公開番号】WO2003/082148
【国際公開日】平成15年10月9日(2003.10.9)
【出願人】(502448775)バイオシネクサス インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】