説明

細菌性[2Fe−2S]ジヒドロキシ酸デヒドラターゼの同定および使用

[2Fe−2S]クラスターを有する細菌性ジヒドロキシ酸デヒドラターゼの群が発見された。細菌性[2Fe−2S]DHADが、バクテリアおよび酵母菌細胞内で異種タンパク質として発現されたが、これは2,3−ジヒドロキシイソ吉草酸からα−ケトイソ吉草酸への変換または2,3−ジヒドロキシメチル吉草酸からα−ケトメチル吉草酸への変換を行うためのDHAD活性をもたらす。イソブタノールおよび他の化合物が、細菌性[2Fe−2S]DHAD活性を含む経路で合成されうる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2008年9月29日出願の米国仮特許出願第61/100,792号明細書に関連し、その優先権を主張するものであり、その全体を参照により本明細書に援用する。
【0002】
本発明は、工業微生物学の分野およびジヒドロキシ酸デヒドラターゼ活性の発現に関する。さらに具体的には、[2Fe−2S]クラスターを有する細菌性ジヒドロキシ酸デヒドラターゼが同定され、細菌性宿主および酵母菌宿主内で異種タンパク質として発現される。
【背景技術】
【0003】
ジヒドロキシ酸デヒドラターゼ(DHAD)(アセトヒドロキシ酸デヒドラターゼとも呼ばれる)は、2,3−ジヒドロキシイソ吉草酸からα−ケトイソ吉草酸への変換および2,3−ジヒドロキシメチル吉草酸(2,3−dihydroxymethylvalerate)からα−ケトメチル吉草酸(α−ketomethylvalerate)への変換を触媒する。E.C.4.2.1.9として分類されるDHAD酵素は、バリン、イソロイシン、ロイシンおよびパントテン酸(ビタミンB5)を作り出す天然生合成経路の一部である。DHAD活性の発現を増大させることは、分枝鎖アミノ酸またはパントテン酸の微生物生産を増大させる上で望ましい。
【0004】
2,3−ジヒドロキシイソ吉草酸からα−ケトイソ吉草酸へのDHAD触媒変換は、共同所有で同時係属中の特許文献1に開示されている複数のイソブタノール生合成経路における共通ステップでもある。その中には、イソブタノール産生用の組換え微生物の工学が開示されている。イソブタノールは燃料添加物として有用であり、それが入手しやすくなれば石油燃料の需要を減らすことができる。
【0005】
ジヒドロキシ酸デヒドラターゼを含む経路で合成される化合物の産生を向上させるために、関心のある産生宿主(production host)内でこの酵素活性をもたらす異種酵素を発現させるのが望ましい。異種宿主内でのジヒドロキシ酸デヒドラターゼの機能発現を高めることは、Fe−Sクラスターに関する酵素の要件に、クラスターの入手のしやすさおよびDHADアポタンパク質へのクラスターの適切な導入が関係しており、複雑である。
【0006】
Fe−Sクラスターを必要とするDHAD酵素は、当該技術分野において知られており、[4Fe−4S]または[2Fe−2S]のいずれかの形態で見出される。幾種類かの細菌性酵素が知られており、その特徴を有する最たるものが大腸菌(E.coli)からのものである(非特許文献1)。しかしながら、そうした細菌性酵素はすべて[4Fe−4S]形態のものである。これまでに報告されている唯一の[2Fe−2S]形態のものは、ホウレンソウ酵素である(非特許文献2)。
【0007】
導入された生合成経路の生産量を向上させるために、宿主細胞内で[2Fe−2S]形態の酵素を使用することが望ましい。というのは、[2Fe−2S]形態を使用すると、Fe−Sクラスター合成及び/または構築に加わる負荷が少なくなるからである。残念ながら、知られているのは、この酵素の1種類の[2Fe−2S]形態のみである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許出願公開第20070092957A1号明細書
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Flint,DH,et al.(1993)J.Biol.Chem.268:14732−14742
【非特許文献2】Flint and Emptage(1988)J.Biol.Chem.263:3558−3564
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
それゆえに、組換え宿主細胞で用いるためのDHADの新規の[2Fe−2S]形態を同定することが必要とされている。ただし、組換え宿主細胞は、2,3−ジヒドロキシイソ吉草酸からα−ケトイソ吉草酸への変換が、望ましい生合成経路における代謝経路ステップであるものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本明細書では、[2Fe−2S]DHAD酵素を同定するための方法であって、
a)配列番号:164、168、230、232、298、310、344、および346のタンパク質を使用して作成されたプロファイル隠れMarkovモデル(Profile Hidden Markov Model)を用いて1つまたは複数のアミノ酸配列を問い合わせるステップであって、E値が10−5未満である一致により第1サブセットの配列が提供され、また前記第1サブセットの配列が1種または複数種のDHAD関連タンパク質に対応する、問い合わせステップと;
b)ステップ(a)の1種または複数種のDHAD関連タンパク質に対応する前記第1サブセットの配列を、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)ジヒドロキシ酸デヒドラターゼのアミノ酸配列(配列番号:168)内の位置56、129、および201に対応する3個の保存システインが存在するかどうかについて分析するステップであって、[2Fe−2S]DHAD酵素をコード化する第2サブセットの配列が同定される、分析ステップと;
c)ステップ(b)の前記第2サブセットの配列を、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)DHADのアミノ酸配列(配列番号:168)内の各位置に対応する位置にサイン保存アミノ酸(signature conserved amino acids)(位置88のアスパラギン酸、位置142のアルギニンまたはアスパラギン、位置208のアスパラギン、および位置454のロイシン)が存在するかどうかについて分析するステップであって、[2Fe−2S]DHAD酵素をコード化する第3サブセットの配列がさらに同定される、分析ステップと
を含む、[2Fe−2S]DHAD酵素を同定するための方法が提供される。
【0012】
本発明の別の態様では、上記の方法は、
d)ステップa)、b)、およびc)のいずれか1つまたは全部によって同定できる配列を有するポリペプチドを細胞内で発現させるステップと、
e)前記ポリペプチドが細胞内でDHAD活性を有することを確認するステップと
をさらに含む。
【0013】
本発明の別の態様では、上記の方法は、
d)ステップa)、b)、およびc)のいずれか1つまたは全部よって同定できる配列でコード化されたタンパク質を精製するステップと、
e)紫外・可視(UV−vis)およびEPRスペクトロスコピーによって前記タンパク質が[2Fe−2S]DHAD酵素であることを確認するステップと
をさらに含む。
【0014】
本発明の別の態様では、上記の方法は、ステップa)、b)、およびc)のいずれか1つまたは全部によって同定された細菌性[2Fe−2S]DHAD酵素配列に対応する1つまたは複数の配列を選択することをさらに含む。前記選択された配列は細胞内で発現させることができ、また細胞内でのDHAD活性を確認できる。前記選択された配列は、精製タンパク質が得られるようにさらに精製することができ、前記精製タンパク質の[2Fe−2S]DHAD酵素活性は、紫外・可視およびEPRスペクトロスコピーで確認できる。
【0015】
本発明の別の態様は、本明細書に記載の方法によって同定できる少なくとも1種の異種[2Fe−2S]DHAD酵素を含む微生物宿主細胞に関する。前記細胞は、バクテリア細胞または酵母菌細胞であってよい。細胞は、イソブタノール産生する組換え細胞であってもよい。
【0016】
本発明の別の態様は、
a)本明細書に記載の方法によって同定できる少なくとも1種の異種[2Fe−2S]DHAD酵素を含む微生物宿主細胞を用意するステップであって、前記宿主細胞がイソブタノール生合成経路をさらに含む、微生物宿主細胞を用意するステップと;
b)イソブタノールが産生される条件下でステップ(a)の宿主細胞を成長させるステップと
を含む、イソブタノールを産生する方法である。
【0017】
本発明の別の態様は、
a)本明細書に記載の方法によって同定できる少なくとも1種の異種[2Fe−2S]DHAD酵素と2,3−ジヒドロキシイソ吉草酸の供給源とを含む微生物宿主細胞を用意するステップと;
b)2,3−ジヒドロキシイソ吉草酸がα−ケトイソ吉草酸に変換される条件下で(a)の微生物宿主細胞を成長させるステップと
を含む、2,3−ジヒドロキシイソ吉草酸をα−ケトイソ吉草酸へ変換する方法である。
【0018】
本発明は、本出願の一部を構成する以下の詳細な説明、図、および添付の配列記述からより詳しく理解できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】代表的な細菌性[2Fe−2S]DHADおよび[4Fe−4S]DHADにおける保存システイン領域(システインを表すCは太字である)を示す。1文字のアミノ酸略号を使用している。
【図2】DHAD関連タンパク質の系統樹を示す。[4Fe−4S]および[2Fe−2S]DHADならびにEDD、アルドン酸デヒドラターゼおよび未定義群(Und)の枝に印を付けてある。個々の選択DHADに名前を付けてある。
【図3】イソブタノール産生の生合成経路を示す。
【図4A】S.ミュータンス(S.mutans)DHADの空気中における活性の安定性のグラフを示す。
【図4B】大腸菌(E.coli)DHADの空気中における活性の安定性のグラフを示す。
【図5】S.ミュータンス(S.mutans)DHADの紫外・可視スペクトルの図を示す。
【図6】20°Kから90°Kの間の種々の温度でのS.ミュータンス(S.mutans)DHADの電子常磁性共鳴(EPR)スペクトルの図を示す。
【図7】アセト乳酸合成酵素、KARI、およびS.ミュータンス(S.mutans)DHAD遺伝子を発現する酵母菌細胞の抽出物のHPLC分析を示す(イソブタノールのピークが47.533分にある)。
【図8】空気中のL.ラクティス(L.lactis)DHADの安定性のグラフを示す。
【図9】精製L.ラクティス(L.lactis)DHADの紫外・可視スペクトルの図を示す。
【0020】
表1は、試験された機能を有する酵素に基づく、実施例1に記載されたようにして作成されたジヒドロキシ酸デヒドラターゼに関するプロファイルHMMの表である。表1はここに電子的手段で提出し、参照により本明細書に援用する。
【0021】
以下の配列は、37 C.F.R. 1.821−1.825(「ヌクレオチド配列および/またはアミノ酸配列開示を含む特許出願の要件−配列規則」(Requirements for Patent Applications Containing Nucleotide Sequences and/or Amino Acid Sequence Disclosures−the Sequence Rules))を満たし、世界知的所有権機関(WIPO)標準ST.25(1998)およびEPOおよびPCTの配列リスト要件(規則5.2および49.5(aの2)、および実施細則第208号および附属書C)と一致する。ヌクレオチドおよびアミノ酸の配列データに用いられている記号および形式は、37 C.F.R.§1.822に規定された規則に従っている。
【0022】
【表1】

【0023】
【表2】

【0024】
【表3】

【0025】
【表4】

【0026】
【表5】

【0027】
【表6】

【0028】
【表7】

【0029】
【表8】

【0030】
【表9】

【0031】
【表10】

【0032】
【表11】

【0033】
【表12】

【0034】
【表13】

【0035】
配列番号:395−409、412−421、424、および431−436は、本明細書中の実施例に記載のように使用した、PCR、クローニングまたはシークエンシング分析用のプライマーである。
配列番号:410は、pDM1ベクターのヌクレオチド配列である。
配列番号:411は、pLH532ベクターのヌクレオチド配列である。
配列番号:425は、S.セレビシエ(S.cerevisiae)FBAプロモーターである。
配列番号:430は、pRS423 FBA ilvD(Strep)ベクターのヌクレオチド配列である。
配列番号:437は、pNY13ベクターのヌクレオチド配列である。
配列番号:438は、枯草菌(B.subtilis)のalsSコード領域である。
配列番号:439は、S.セレビシエ(S.cerevisiae)GPDプロモーターである。
配列番号:440は、S.セレビシエ(S.cerevisiae)CYC1ターミネーターである。
配列番号:442は、S.セレビシエ(S.cerevisiae)ILV5遺伝子である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本明細書に開示されているように、出願人らは[2Fe−2S]DHADの同定方法を発見することにより既述の問題を解決した。この発見により、こうした酵素および組換え宿主におけるそれらの使用、DHADを用いた経路技術においてこれまで真価が認められていなかった活性上の利点が明らかになった。
【0037】
本発明は、[2Fe−2S]クラスターを有するジヒドロキシ酸デヒドラターゼ(DHAD)の異種発現を生じさせるように操作された組換え酵母菌またはバクテリア細胞に関する。発現されたDHADは、バリン、イソロイシン、ロイシン、パントテン酸、またはイソブタノールなどの化合物を産生するための生合成経路の1成分として機能する。こうしたアミノ酸およびパントテン酸は栄養補助品として使用でき、またイソブタノールは石油化学製品の需要を減らすための燃料添加物として使用できる。
【0038】
以下の略号および定義が、本明細書および請求項を解釈する際に使用される。
【0039】
本明細書で使用される「含む(comprises)」、「含む(comprising)」、「含む(includes)」、「含む(including)」、「有する(has)」、「有する(having)」、「含む(contains)」または「含む(containing)」またはそれらの他のいずれの変化形も、非排他的な包含を表すことを意図している。例えば、列挙された要素を含む組成物、混合物、プロセス、方法、物品、または装置は、かならずしもそうした要素に限定されるわけではなく、明確に列挙されていない他の要素またはそうした組成物、混合物、プロセス、方法、物品、または装置に固有の要素も含みうる。さらに、逆のことを特に述べていない限り、「または」は、包含的な「または」であり、排他的な「または」ではない。例えば、条件AまたはBは、以下のいずれか1つによって満たされる:Aが正しく(または存在し)かつBが誤りである(または存在しない)、Aが誤りであり(または存在せず)かつBが正しい(または存在する)、さらにAおよびBの両方が正しい(または存在する)。
【0040】
また、本発明の要素または成分の前に付いている不定冠詞の「ある(a)」および「ある(an)」は、要素または成分の事例(すなわち、発生)の数に関して非制限的であることを意図している。したがって「ある(a)」または「ある(an)」は、1つまたは少なくとも1つを含むと理解すべきであり、さらに要素または成分の単数形も、数が明らかに単数を意味するのでない限り、複数を含む。
【0041】
本明細書で使用される「発明」または「本発明」という用語は、非制限的用語であり、特定の発明のいずれかの1つの実施態様を指すことを意図するものではなく、本明細書および請求項に記載された可能な実施態様すべてを包含する。
【0042】
使用される本発明の成分または反応物の量を修飾する、本明細書で使用される「約」という用語は、起こりうる数値的量の変動を指し、そうした変動は、例えば、現実の世界で濃縮物または使用溶液を作るために使用する典型的な測定および液体処理手順によって;そうした手順における不注意による間違いによって;組成物を作るかまたは方法を実施するために用いる成分の製造、源、または純度の違いなどによって起こりうる。「約」という用語は、特定の初期混合物から得られる組成物の種々の平衡状態のせいで違ってくる量も包含する。「約」という用語で修飾されているかどうかにかかわりなく、請求項は量に相当するようなものを含む。1つの実施態様では、「約」という用語は、報告されている数値の10%以内、好ましくは報告されている数値の5%以内を意味する。
【0043】
「[2Fe−2S]DHAD」という用語は、結合した[2Fe−2S]クラスターを有するDHAD酵素を指す。
【0044】
「[4Fe−4S]DHAD」という用語は、結合した[4Fe−4S]クラスターを有するDHAD酵素を指す。
【0045】
ここで、「ジヒドロキシ酸デヒドラターゼ」という用語がDHADと略され、2,3−ジヒドロキシイソ吉草酸をα−ケトイソ吉草酸に変換する酵素を指すことになる。
【0046】
「イソブタノール生合成経路」という用語は、ピルベートからイソブタノールを作り出す酵素経路を指す。
【0047】
「通性嫌気性菌」という用語は、有酸素環境および無酸素性環境のどちらでも成長できる微生物を指す。
【0048】
「炭素物質」または「発酵性炭素物質」という用語は、本発明の宿主生物が代謝できる炭素源、特に単糖類、オリゴ糖類、多糖類、および炭素1つの物質またはそれらの混合物よりなる群から選択される炭素源を指す。炭素物質としては、C6およびC5の糖およびそれらの混合物が挙げられる。
【0049】
「遺伝子」という用語は、特定のタンパク質として発現可能な核酸フラグメントを指し、これは任意選択でコード配列の前にくる制御配列(5’非コード配列)および後にくる制御配列(3’非コード配列)を含む。「ネイティブ遺伝子(native gene)」は、独自の制御配列を有する自然に存在する遺伝子を指す。「キメラ遺伝子」は、自然には一緒に見出されない制御配列およびコード配列を含む、ネイティブ遺伝子ではない任意の遺伝子を指す。したがってキメラ遺伝子は、異なる源から誘導される制御配列およびコード配列、または同じ源から誘導されるが、自然に見出されるものとは違った仕方で配置されている制御配列およびコード配列を含みうる。「内在性遺伝子」は、生物体のゲノム内で自然の位置にあるネイティブ遺伝子を指す。「外来遺伝子」または「異種遺伝子」は、通常は宿主生物に存在しないが、遺伝子導入によって宿主生物に導入される遺伝子を指す。外来遺伝子は、天然でない生物体に挿入されたネイティブ遺伝子、またはキメラ遺伝子を含みうる。「導入遺伝子」は、形質転換法によってゲノムに導入された遺伝子である。
【0050】
本明細書で使用される「コード領域」という用語は、特定のアミノ酸配列をコードするDNA配列を指す。「好適な制御配列」は、コード配列の上流に位置するヌクレオチド配列(5’非コード配列)、コード配列の内部に位置するヌクレオチド配列、または下流に位置するヌクレオチド配列(3’非コード配列)を指し、関連したコード配列の転写、RNAプロセシングまたは安定性、あるいは翻訳に影響を及ぼすものである。制御配列としては、プロモーター、翻訳リーダー配列、イントロン、ポリアデニル化認識配列、RNAプロセシング部位、エフェクター結合部位およびステムループ構造体を挙げることができる。
【0051】
「プロモーター」という用語は、コード配列の発現または機能RNAの発現を制御できるDNA配列を指す。一般に、コード配列はプロモーター配列の3’に位置する。プロモーターは、その全体がネイティブ遺伝子から誘導されうるか、または自然に見出される種々のプロモーターから誘導される種々の要素から構成されうるか、または合成DNA断片を含むことさえできる。種々のプロモーターは、種々の組織または細胞型内で、または発育の種々の段階で、または種々の環境条件または生理学的条件に応じて遺伝子の発現を指示できる、と当業者は理解している。ほとんどの細胞型でほとんどの場合に遺伝子の発現を引き起こすプロモーターは、一般的に、「常時発現プロモーター(constitutive promoters)」と呼ばれる。さらに、大抵の場合、制御配列の正確な境界が完全には定まっていないので、様々な長さのDNAフラグメントが同一のプロモーター活性を有しているであろうと理解される。
【0052】
「作動的に連結(operably linked)」という用語は、単一の核酸フラグメント上の核酸配列の結合であって、一方の機能が他方によって影響されるようなものを指す。例えば、プロモーターが、あるコード配列の発現に影響を与えることができる場合、プロモーターはそのコード配列と作動的に連結されている(すなわち、そのコード配列はそのプロモーターの転写制御下にある)。コード配列は、センス方向またはアンチセンス方向に向かって制御配列に作動的に連結できる。
【0053】
本明細書で使用される「発現」という用語は、本発明の核酸フラグメントから誘導されるセンスRNA(mRNA)またはアンチセンスRNAの転写および安定した蓄積を指す。発現は、mRNAをポリペプチドに翻訳することを指す場合もある。
【0054】
本明細書で使用される「形質転換」という用語は、宿主生物への核酸フラグメントの導入を指し、その結果として遺伝的に安定した遺伝形質が生じる。形質転換された核酸フラグメントを含む宿主生物は、「トランスジェニック」生物または「組換え」生物または「形質転換」生物と呼ばれる。
【0055】
本明細書で使用される「プラスミド」および「ベクター」という用語は、細胞の中央代謝の一部ではない遺伝子(普通は、環状二本鎖DNA分子の形である)を持っていることが多い余分の染色体要素を指す。そのような要素は、任意の源から誘導される自己複製配列、ゲノム組込み配列、ファージまたはヌクレオチド配列、線状または環状の一本鎖または二本鎖DNAまたはRNAであってよく、それらにおいては、幾つかのヌクレオチド配列が固有の構成体に結合されるかまたは再結合されており、その構成体は、選択された遺伝子産物のプロモーターフラグメントおよびDNA配列を、適切な3’未翻訳配列と一緒に細胞に導入することができる。
【0056】
本明細書で使用される「コドン縮重」という用語は、コード化ポリペプチドのアミノ酸配列に影響を与えることなく、ヌクレオチド配列が変化するのを許すという遺伝暗号の性質を指す。当業者は、ある特定のアミノ酸を指定するためのヌクレオチドコドンの使用の際に特定の宿主細胞が示す「コドンバイアス」についてよく知っている。それゆえに、宿主細胞内での発現を向上させるために遺伝子を合成する場合、そのコドン使用の頻度が宿主細胞の好ましいコドン使用の頻度に近づくように遺伝子を設計するのが望ましい。
【0057】
「コドン最適化」という用語は、様々な宿主の形質転換を行うための核酸分子の遺伝子またはコード領域と関係している場合、DNAがコードするポリペプチドを変化させることなく、核酸分子の遺伝子またはコード領域におけるコドンを変更して宿主生物の典型的なコドン使用頻度を反映させることを指す。
【0058】
本明細書で使用される「単離された核酸フラグメント」または「単離された核酸分子」は、同義語として用いられ、1本鎖または二本鎖であるRNAまたはDNAのポリマーを意味し、任意選択で、合成された、自然のものでない、または変更されたヌクレオチド塩基を含んでいる。DNAポリマーの形の単離された核酸フラグメントは、cDNA、ゲノムDNAまたは合成DNAの1つまたは複数の断片から作成されうる。
【0059】
温度および溶液イオン強度の適切な条件下で、一本鎖の形の核酸フラグメントが他の核酸フラグメントにアニールしうる場合、核酸フラグメントは、別の核酸フラグメント(cDNA、ゲノムDNA、またはRNA分子)と「ハイブリッド形成可能」である。ハイブリッド形成および洗浄の条件はよく知られており、Sambrook,J.,Fritsch,E.F.and Maniatis,T. Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd ed.,Cold Spring Harbor Laboratory:Cold Spring Harbor,NY(1989)、特にその中の第11章および表11.1(全体を参照により本明細書に援用する)に例示されている。温度およびイオン強度の条件により、ハイブリッド形成の「緊縮性」が決まる。緊縮性の条件は、類似性が中程度のフラグメント(遠縁関係にある生物からの相同配列など)を探すため、また類似性の高いフラグメント(近縁関係にある生物からの機能酵素を複製する遺伝子など)を探すために調整できる。ハイブリッド形成後の洗浄により、緊縮性条件が決まる。好ましい一式の条件では、6×SSC、0.5%SDS、室温、15minから開始し、次いで2×SSC、0.5%SDS、45℃、30minを繰り返し、その後、0.2×SSC、0.5%SDS、50℃、30minを2回繰り返すという一連の洗浄を使用する。より好ましい一式の緊縮条件では、もっと高い温度を使用し、その場合、0.2×SSC、0.5%SDS中での最後の2回の30minの洗浄の温度を60℃まで増大させたこと以外は洗浄が上記と同じである。別の好ましい一式の高緊縮条件では、0.1×SSC、0.1%SDS、65℃での2回の最終洗浄を使用する。更なる一式の緊縮条件は、例えば、0.1×SSC、0.1%SDS、65℃でのハイブリッド形成、2×SSC、0.1%SDSでの洗浄、その後に0.1×SSC、0.1%SDSを含む。
【0060】
ハイブリッド形成では、2個の核酸が相補的配列を含んでいることが必要であるが、ハイブリッド形成の緊縮性によっては、塩基間のミスマッチも可能である。核酸のハイブリッド形成のための適切な緊縮性は、核酸の長さおよび相補性の度合い、当該技術分野において周知である変数によって異なる。2つのヌクレオチド配列間の類似性または相同性の度合いが大きいほど、そうした配列を有する核酸のハイブリッドのTm値は大きくなる。核酸ハイブリッド形成の相対的安定性(Tmが大きくなることに対応する)は、RNA:RNA、DNA:RNA、DNA:DNAの順序で減少する。長さが100個より長いヌクレオチドのハイブリッドの場合、Tmの計算式が導かれている(Sambrook et al.,(上記参照),9.50−9.51を参照)。短い核酸(すなわち、オリゴヌクレオチド)とのハイブリッド形成では、ミスマッチの位置がより重要になり、オリゴヌクレオチドの長さによってその特異性が決まる(Sambrook et al.,(上記参照),11.7−11.8を参照)。1つの実施態様では、ハイブリッド形成可能な核酸の長さは、少なくとも約10個のヌクレオチドである。好ましくは、ハイブリッド形成可能な核酸の最小長さは少なくとも約15個のヌクレオチドであり、より好ましくは少なくとも約20個のヌクレオチド、もっとも好ましくはその長さは少なくとも約30個のヌクレオチドである。さらに、当業者であれば、プローブの長さなどの因子に応じて、必要な場合に温度および洗浄溶液の塩濃度を調節できることを認めるであろう。
【0061】
アミノ酸配列またはヌクレオチド配列の「実質的部分」とは、当業者による配列の手作業での評価か、またはBLAST(Altschul、S.F.,et al.,J.Mol.Biol.,215:403 410(1993))などのアルゴリズムを使用したコンピュータによる自動化配列比較および同定のいずれかによって、推定的にそのポリペプチドまたは遺伝子を同定するための、十分なポリペプチドのアミノ酸配列または遺伝子のヌクレオチド配列を含んでいる部分である。一般に、ポリペプチド配列または核酸配列を、既知のタンパク質または遺伝子と類似のものであると推定的に同定するためには、10個以上の連続アミノ酸の配列または30個以上のヌクレオチドの配列が必要である。さらに、ヌクレオチド配列に関しては、20〜30個の連続ヌクレオチドを含んでいる遺伝子特有のオリゴヌクレオチドプローブを、遺伝子同定(例えば、サザンハイブリダイゼーション)および分離(例えば、細菌コロニーまたはバクテリオファージ・プラークのインサイツハイブリダイゼーション)の配列依存法で使用できる。加えて、プライマーを含む特定の核酸フラグメントを得るために、12から15個の塩基の短いオリゴヌクレオチドを、PCRでの増幅プライマーとして使用できる。したがって、ヌクレオチド配列の「実質的部分」は、その配列を含む核酸フラグメントを明確に同定し、かつ/または単離するのに十分な配列を含む。本明細書は、特定のタンパク質をコード化する完全なアミノ酸およびヌクレオチド配列を教示するものである。本明細書で報告している配列の恩恵を受ける当業者は、開示されている配列の全部または実質的部分を、当業者に知られている目的のために今や使用することができるであろう。したがって本発明は、添付の配列リストで報告されている完全な配列、ならびに上に記載した配列の実質的部分を含む。
【0062】
「相補的」という用語は、互いにハイブリッド形成することができるヌクレオチド塩基間の関係を記述するのに用いられる。例えば、DNAに関しては、アデノシンはチミンと相補的であり、シトシンはグアニンと相補的である。
【0063】
当該技術分野において知られている「同一性パーセント」という用語は、2つ以上のポリペプチド配列または2つ以上のポリヌクレオチド配列の間の関係であり、それらの配列を比較することによって求められる。当技術分野においては、「同一性」または「配列同一性」は、場合によっては、ポリペプチド配列間またはポリヌクレオチド配列間の配列の類似度をも意味し、そのような配列の糸と糸との間での突き合わせによって求められる。「同一性」および「類似性」は、以下に記載されている方法(これらに限定されない)を含む周知の方法で容易に計算できる:
1.)Computational Molecular Biology (Lesk,A.M.,Ed.)Oxford University:NY(1988);2.)Biocomputing:Informatics and Genome Projects(Smith,D.W.,Ed.)Academic:NY(1993);3.)Computer Analysis of Sequence Data,Part I (Griffin,A.M.,and Griffin,H.G.,Eds.)Humania:NJ(1994);4.)Sequence Analysis in Molecular Biology (von Heinje,G.,Ed.) Academic(1987);および5.)Sequence Analysis Primer(Gribskov,M.and Devereux,J.,Eds.)Stockton:NY(1991)。
【0064】
同一性を求める好ましい方法は、試験する配列間で最高の一致をもたらすように設計される。同一性および類似性を求める方法は、公的に入手可能なコンピュータプログラムで分類される。配列アラインメントおよび同一性パーセントの計算は、LASERGENEバイオインフォマティクス計算スーツ(LASERGENE bioinformatics computing suite)のMegAlign(商標)プログラム(DNASTAR Inc.,Madison,WI)を用いて実施できる。多重配列アラインメントは、「Clustalアラインメント法」を用いて実施されるが、その方法は、Clustal Vと名付けられたアラインメント法(Higgins and Sharp,CABIOS.5:151−153(1989);Higgins,D.G.et al.,Comput.Appl.Biosci.,8:189−191(1992)に記載)に対応する「Clustal Vアラインメント法」を含め、アルゴリズムの幾つかの種類を包含する。またそれはLASERGENEバイオインフォマティクス計算スーツのMegAlign(商標)プログラム(DNASTAR Inc.)の中に見出される。多重アラインメント(multiple alignment)の場合、デフォルト値は、GAP PENALTY=10およびGAP LENGTH PENALTY=10に対応する。Clustal法を用いたペアワイズアラインメントおよびタンパク質配列の同一性パーセントの計算でのデフォルト・パラメーターは、KTUPLE=1、GAP PENALTY=3、WINDOW=5およびDIAGONALS SAVED=5である。核酸の場合、これらのパラメーターは、KTUPLE=2、GAP PENALTY=5、WINDOW=4およびDIAGONALS SAVED=4である。Clustal Vプログラムを用いて配列のアラインメントを行った後、同じプログラムの「配列距離(sequence distances)」表を見て「同一性パーセント」を得ることが可能である。さらに「Clustal Wアラインメント法」が入手可能であり、これはClustal Wと名付けられたアラインメント法(Higgins and Sharp,CABIOS.5:151−153(1989);Higgins,D.G.et al.,Comput.Appl.Biosci.8:189−191(1992)Thompson,J.D.,Higgins,D.G.、およびGibson T.J.(1994)Nuc.Acid Res.22:4673 4680に記載)に対応しており、LASERGENEバイオインフォマティクス計算スーツのMegAlign(商標)v6.1 プログラム(DNASTAR Inc.)の中に見出される。多重アラインメントのデフォルト・パラメーター(GAP PENALTY=10、GAP LENGTH PENALTY=0.2、Delay Divergen Seqs(%)=30、DNA Transition Weight=0.5、Protein Weight Matrix=Gonnet Series、DNA Weight Matrix=IUB )。Clustal Wプログラムを用いて配列のアラインメントを行った後、同じプログラムの「配列距離」表を見て「同一性パーセント」を得ることが可能である。
【0065】
数多くの配列同一性レベルが、(他の種からの)ポリペプチドを同定するのに役立ち、そのようなポリペプチドは同一または類似の機能または活性を有していることは、当業者によく理解されている。同一性パーセントの有用な例としては、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、または95%があるが、これらに限定されない。あるいは55%から100%の任意の整数のパーセントが本発明を記述するのに役立ちうるが、それには、55%、56%、57%、58%、59%、60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%などがある。好適な核酸フラグメントは、上記の相同性を有しているだけでなく、典型的には、少なくとも50個のアミノ酸、好ましくは少なくとも100個のアミノ酸、より好ましくは少なくとも150個のアミノ酸、さらにより好ましくは少なくとも200個のアミノ酸、もっとも好ましくは少なくとも250個のアミノ酸を有するポリペプチドをコード化する。
【0066】
「配列分析ソフトウェア」という用語は、ヌクレオチドまたはアミノ酸配列の分析に役立つ任意のコンピュータアルゴリズムまたはソフトウェアプログラムを指す。「配列分析ソフトウェア」は、市販のものでも、独自に開発したものでもよい。典型的な配列分析ソフトウェアとしては次のものがあるであろうが、それらに限定されない:1.)GCGプログラムスーツ(GCG suite of programs)(Wisconsin Package Version 9.0,Genetics Computer Group (GCG),Madison,WI);2.)BLASTP,BLASTN,BLASTX(Altschul et al.,J.Mol.Biol.,215:403−410(1990));3.)DNASTAR(DNASTAR,Inc.Madison,WI);4.)Sequencher(Gene Codes Corporation,Ann Arbor,MI);および5.)Smith−Watermanアルゴリズムを組み込んだFASTAプログラム(W.R.Pearson,Comput.Methods Genome Res.,[Proc.Int.Symp.](1994),Meeting Date 1992,111−20.Editor(s):Suhai,Sandor.Plenum:New York,NY)。本出願との関連においては、配列分析ソフトウェアを分析に用いる場合、特に明記されていない限り、分析の結果は、参照されているプログラムの「デフォルト値」に基づくものであることが理解されるであろう。本明細書で使用される「デフォルト値」とは、最初の初期設定時に、ソフトウェアと一緒に初めにロードされる値またはパラメーターの任意のセットを意味する。
【0067】
ここで用いられる標準組換えDNAおよび分子クローニング技術は、当該技術分野において周知であり、Sambrook,J.,Fritsch,E.F.and Maniatis,T.,Molecular Cloning: A Laboratory Manual,Second Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY(1989)(以下、「Maniatis」);およびSilhavy,T.J.,Bennan,M.L.and Enquist,L.W.,Experiments with Gene Fusions,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY(1984);およびAusubel,F.M.et al.,Current Protocols in Molecular Biology,published by Greene Publishing Assoc.and Wiley Interscience(1987)に記載されている。ここで用いられる更なる方法は、Methods in Enzymology,Volume 194,Guide to Yeast Genetics and Molecular and Cell Biology (Part A,2004,Christine Guthrie and Gerald R. Fink (Eds.),Elsevier Academic Press,San Diego,CA)にある。
【0068】
[2Fe−2S]DHADの発見
DHADタンパク質は、酵素活性に必要な結合した鉄−硫黄(Fe−S)クラスターを含んでいることが知られている。今までに報告されている[2Fe−2S]クラスターを有する唯一のDHADは、ホウレンソウの酵素である(Flint and Emptage(1988)J.Biol.Chem.263:3558−3564)。幾つかの細菌性酵素も知られており、その特徴を有する最たるものが、大腸菌(E.coli)からのものであり(Flint,DH,et al.(1993)J.Biol.Chem.268:14732−14742)、[4Fe−4S]クラスターを有している。
【0069】
出願人らは、このほど[2Fe−2S]クラスターを含む細菌性DHAD([2Fe−2S]DHAD)類があることを明らかにした。出願人らは、[2Fe−2S]DHADの群は、タンパク質中に3個の保存システイン残基が存在する点で、[4Fe−4S]DHADの群とは区別されうることを見出した。この3個の保存システインは、[4Fe−4S]クラスターを含んでいると報告されたアゾスピリルム・ブラシレンセ(Azospirillum brasiliense)アラボネート(arabonate)(アルドン酸)デヒドラターゼ(Watanabe,S et al.J.Biol.Chem.(2006)281:33521−33536)で報告されている3個の必須システインと類似している。アゾスピリルム・ブラシレンセ(Azospirillum brasiliense)アラボネートデヒドラターゼ(arabonate dehydratase)のタンパク質では、アミノ酸位置56、124、および197にあるシステインは、酵素活性に必須なものであり、おそらくFe−Sクラスターへの配位に関与しているとされた。驚くべきことに出願人らは、アゾスピリルム・ブラシレンセ(Azospirillum brasiliense)アラボネートデヒドラターゼの3個の必須システインの対応位置にある3個の保存システインが、[2Fe−2S]クラスターを含むDHADに特有のものであることを見出した。出願人らは、[4Fe−4S]クラスターを含んでいる大腸菌(E.coli)DHADが、保存システインの2個を有しているが、3番目の保存システインを有していないことを見出した。大腸菌(E.coli)の[4Fe−4S]クラスター含有DHADの保存システインの配列領域と、本明細書の実施例1で同定した[2Fe−2S]クラスターDHADの系統群の代表例の保存システインの配列領域を比較したものを図1に示し、以下に説明する。
【0070】
出願人らは、[2Fe−2S]DHADを同定するための方法を開発した。本発明では、この方法で同定できる細菌性[2Fe−2S]DHADを、バクテリア内での異種発現に使用できる。
【0071】
DHAD酵素を構造的に特徴付けるために、本明細書の実施例2で測定された実験的に検証された機能を有するDHADタンパク質のアミノ酸配列を用いて、実施例1に記載したようにしてプロファイル隠れMarkovモデル(HMM)を作成した。それを表1に示す。それらのDHADは、ニトロソモナス・ユーロピア(Nitrosomonas europaea)(DNA 配列番号:309;タンパク質 配列番号:310)、シネコシスティス(Synechocystis)種PCC6803(DNA 配列:297;タンパク質 配列番号:298)、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)(DNA 配列番号:167;タンパク質 配列番号:168)、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)(DNA 配列番号:163;配列番号:164)、ラルストニア・メタリデュランス(Ralstonia metallidurans)(DNA 配列番号:345;タンパク質 配列番号:346)、ラルストニア・ユートロファ(Ralstonia eutropha)(DNA 配列番号:343;タンパク質 配列番号:344)、およびラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)(DNA 配列番号:231;タンパク質 配列番号:232)からのものである。加えて、フラボバクテリウム・ジョンソニアエ(Flavobacterium johnsoniae)(DNA 配列番号:229;タンパク質 配列番号:230)からのDHADは、大腸菌(E.coli)内で発現された場合にジヒドロキシ酸デヒドラターゼ活性を有することが見出されたので、プロファイルの作成に用いた。DHAD用のこのプロファイルHMMは、DHAD関連タンパク質を同定するのに使用できる。E値が<10−5でプロファイルHMMと一致するタンパク質はいすれもDHAD関連タンパク質であり、それには[4Fe−4S]DHAD、[2Fe−2S]DHAD、アルドン酸デヒドラターゼ、およびホスホグルコン酸デヒドロゲナーゼがある。このプロファイルHMMに一致する配列の系統樹を図2に示す。
【0072】
その後、本明細書に示すプロファイルHMMと一致する配列は、上述の3個の保存システインが存在するかどうかについて分析される。3個の保存システインの正確な位置は変わりうるものであり、それらは、Clustal Wアルゴリズム(Thompson,J.D.,Higgins,D.G.,and Gibson T.J.(1994)Nuc.Acid Res.22: 4673 4680)を用いて実行される多重配列アラインメントを使用して、周囲の配列との関連で同定できる。その場合に、以下のパラメーターを使用する:1)ペアワイズアラインメントパラメーターの場合、Gap opening=10;Gap extend=0.1;matrixはGonnet 250である;モード−緩慢・正確(Slow−accurate)、2)多重アラインメントのパラメーターの場合、Gap opening=10;Gap extension=0.2;matrixはGonnet seriesである。例えば、3個の保存システインは、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)DHAD(配列番号:168)内のアミノ酸位置56、129、および201と、ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)DHAD(配列番号:232)内のアミノ酸位置61、135、および207にある。他のタンパク質配列内の3個の保存システインの正確な位置は、S.ミュータンス(S.mutans)またはL.ラクティス(L.lactis)アミノ酸配列内のそれらの位置に対応する。当業者は、ペアワイズアラインメントまたは多重配列アラインメントを用いて、DHADタンパク質のアミノ酸配列内の3個の保存システインのそれぞれの有無を容易に識別することができるであろう。さらに、目視による分析など他の方法を用いて、3個の保存システインの存在を判定することもできる。
【0073】
2個の保存システインを持つが3番目の(位置56)保存システインは持たない、プロファイルHMMと一致するDHADタンパク質としては、[4Fe−4S]DHADおよびホスホグルコン酸デヒドラターゼ(EDD)がある。3個の保存システインを持つタンパク質には、アルボネートデヒドラターゼ(arabonate dehydratases)および[2Fe−2S]DHADがあり、3個の保存システインを持つタンパク質は[2Fe−2S]DHAD/アルドン酸デヒドラターゼ群のメンバーである。[2Fe−2S]DHADは、アルドン酸デヒドラターゼと区別できるが、それは、[2Fe−2S]DHAD内またはアルドン酸デヒドラターゼ内において、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)DHADのアミノ酸配列内の以下の位置に対応する位置に存在することが見出されるサイン保存アミノ酸について分析することにより行う。こうしたサインアミノ酸はそれぞれ(90%を超える出現率で)[2Fe−2S]DHADまたはアルドン酸デヒドラターゼ内の以下の位置にある:88においてアスパラギンであるのに対してグルタミン酸;113において非保存であるのに対してグルタミン酸;142においてアルギニンまたはアスパラギンであるのに対して非保存;165において非保存であるのに対してグリシン;208においてアスパラギンであるのに対して非保存;454においてロイシンであるのに対して非保存;477においてフェニルアラニンまたはチロシンであるのに対して非保存;さらに487においてでグリシンであるのに対して非保存。
【0074】
開示されている[2Fe−2S]DHAD酵素の同定方法は、単一の配列かまたは配列群に対して実施できる。好ましい実施態様では、本明細書に記載のプロファイルHMMを用いて1つまたは複数の配列データベースに問い合わせる。好適な配列データベースは当業者に知られており、それには、Genbank非冗長タンパク質データベース、SwissProtデータベース、またはUniProtデータベースあるいは他の利用可能なデータベース(GQPat(GenomeQuest,Westboro,MA)およびBRENDA(Biobase,Beverly,MA)など)があるが、これらに限定されない。
【0075】
この方法によって同定できる[2Fe−2S]DHADの中から、バクテリアタイプである自然源の生物によって細菌性[2Fe−2S]DHADを容易に同定できる。この方法によって同定できる任意の細菌性[2Fe−2S]DHADは、微生物宿主細胞内での異種発現に好適でありうる。配列によって本明細書に明示的に開示されている任意の細菌性[2Fe−2S]DHADは、バクテリア細胞内での異種発現に好適でありうることも理解されるであろう。好ましい細菌性[2Fe−2S]DHAD酵素は、宿主細胞内で発現させることができ、DHAD活性をもたらすことができる。
【0076】
最初、配列同一性が95%未満である193の種々の細菌性[2Fe−2S]DHAD(95%より大きい同一性のタンパク質は、分析を簡単にするため排除する)を、実施例1に記載したようにして同定し、それらのタンパク質アミノ酸およびコード配列を、表2aに示した配列番号と一緒に配列リストに示す。
【0077】
実施例11に記載したその後の分析では、268の種々の細菌性[2Fe−2S]DHADが戻された。最初の同定で示されなかった193種類の細菌性[2Fe−2S]DHADのいずれとも同じではないアミノ酸およびコード配列を、表2bに示したS配列番号と一緒に配列リストに含めてある。
【0078】
本明細書に開示されている方法で同定できる配列と一致するか、または同一性が少なくとも約95%、96%、97%、98%、または99%である本明細書に明示的に開示されている配列と一致する任意の[2Fe−2S]DHADのタンパク質は、本明細書に開示されているバクテリア細胞内での異種発現に使用できる[2Fe−2S]DHADである。本明細書に明示的に開示されている細菌性[2Fe−2S]DHADの中には、100%保存のサインアミノ酸が次の位置にある:88(アスパラギン酸)、142(アルギニンまたはアスパラギン)、208(アスパラギン)、および454(ロイシン)。
【0079】
さらに、本発明に使用できる細菌性[2Fe−2S]DHADは、DHAD関連タンパク質の系統樹(図2に示され、また実施例1に記載されているものなど)の[2Fe−2S]DHAD分枝の中のそれらの位置で同定可能である。さらに、使用できる細菌性[2Fe−2S]DHADは、配列が本明細書に示されている、配列同一性が少なくとも約80%−85%、85%−90%、90%−95%または95%−99%であってよい281の細菌性[2Fe−2S]DHADのいずれかと配列を比較して同定可能である。
【0080】
さらに、本明細書に示す[2Fe−2S]DHADの配列は、自然界の他の相同体を識別するのに使用できる。例えば、本明細書に記載されているDHADをコード化する核酸フラグメントのそれぞれは、相同タンパク質をコード化する遺伝子を単離するのに使用できる。配列に依存するプロトコルを使用する相同遺伝子の単離は、当該技術分野において周知である。配列依存のプロトコルの例としては、以下のものがあるが、これらに限定されない:1.)核酸のハイブリッド形成方法;2.)核酸増幅技術の様々な使用によって例示されているDNAおよびRNAの増幅方法[例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR),Mullis et al.,米国特許第4,683,202号明細書;リガーゼ連鎖反応(LCR),Tabor,S.et al.,Proc.Acad.Sci.USA 82:1074(1985);または鎖置換増幅(strand displacement amplification)(SDA),Walker,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,89:392(1992)];および3.)補完によるライブラリーの作成および選別の方法。
【0081】
例えば、類似のタンパク質またはポリペプチドをコードする遺伝子および本明細書に示す[2Fe−2S]DHADをコードする遺伝子は、当該核酸フラグメントの全部または一部を、当業者よく知られている方法論を用い、任意の所望の生物体からのライブラリーを選別するDNAハイブリッド形成プローブとして使用することにより、直接単離できる。開示されている核酸配列に基づく特定のオリゴヌクレオチドプローブを設計することができ、それは当該技術分野において知られている方法(Maniatis,(上記参照))で合成できる。さらに、配列全体を直接使用すれば、当業者に知られている方法(例えば、ランダムプライマーDNA標識化、ニックトランスレーンョンまたは末端標識の技術)を用いてDNAプローブを合成できるか、または利用可能な試験管内転写系を用いてRNAプローブを合成できる。加えて、特定のプライマーは、当該配列の一部(または全長)を増幅するよう設計して使用できる。得られた増幅産物は、増幅反応の間に直接標識できるか、または増幅反応後に標識でき、さらに、プローブとして用いて、ふさわしい緊縮性条件下でハイブリッド形成によって全長DNAフラグメントを単離することができる。
【0082】
普通、PCRタイプの増幅技術では、プライマーは種々の配列を有しており、互いに相補的ではない。望ましい試験条件に応じて、プライマーの配列は、標的核酸の効率的かつ忠実な複製を行えるように設計すべきである。PCRプライマー設計の方法は、ありふれたものであり、当該技術分野において周知である(Thein and Wallace,”The use of oligonucleotides as specific hybridization probes in the Diagnosis of Genetic Disorders”,in Human Genetic Diseases: A Practical Approach,K.E.Davis Ed.,(1986)pp 33−50,IRL:Herndon,VA;and Rychlik,W.,In Methods in Molecular Biology,White,B.A.Ed.,(1993)Vol.15,pp 31−39,PCR Protocols:Current Methods and Applications.Humania:Totowa,NJ)。
【0083】
一般に、既述の配列の2つの短い断片は、DNAまたはRNAからの相同遺伝子をコード化するもっと長い核酸フラグメントを増幅するために、ポリメラーゼ連鎖反応のプロトコルで使用できる。ポリメラーゼ連鎖反応は、クローン化核酸フラグメントのライブラリーに対して実行することもできるが、その場合、1つのプライマーの配列は、既述の核酸フラグメントから誘導され、他のプライマーの配列は、微生物遺伝子をコード化するmRNA前駆体の3’末端へのポリアデニル酸経路の存在を利用する。
【0084】
あるいはまた、第2プライマー配列は、クローニングベクターから得られた配列に基づいたものにすることができる。例えば、当業者は、RACEプロトコル(Frohman et al.,PNAS USA 85:8998(1988))に従って、PCRを用いて転写産物内の1点と3’または5’末端との間の領域のコピーを増幅することにより、cDNAを生成できる。3’および5’方向に配向したプライマーは、本配列から設計できる。市販の3’RACEまたは5’RACE系(例えば、BRL,Gaithersburg,MD)を用いて、特定の3’または5’cDNAフラグメントを単離できる(Ohara et al.,PNAS USA 86:5673(1989);Loh et al.,Science 243:217(1989))。
【0085】
あるいはまた、得られた[2Fe−2S]DHADコード化配列は、相同体を同定するためのハイブリッド形成試薬として使用できる。核酸ハイブリッド形成試験の基本構成要素としては、プローブ、関心のある遺伝子または遺伝子フラグメントが含まれていると思われる試料、および特定のハイブリッド形成方法がある。プローブは、典型的には、検出する核酸配列と相補的な一本鎖核酸配列である。プローブは、検出する核酸配列と「ハイブリッド形成可能」である。プローブの長さは、5個の塩基から数万個の塩基まで様々でありうる。またその長さは、実施する特定の試験によって異なるであろう。典型的には、約15塩基から約30塩基のプローブ長さが適している。プローブ分子の一部のみが、検出する核酸配列と相補的である必要がある。加えて、プローブと標的配列との間の相補性は完全である必要はない。相補性が不完全な分子間では、ハイブリッド形成は起こらず、その結果、ハイブリッド領域内の塩基の特定部分が適切な相補的塩基と対にならない。
【0086】
ハイブリッド形成法は詳細に明らかにされている。典型的には、プローブと試料を、核酸ハイブリッド形成が可能となるような条件下で混合しなければならない。これは、適切な濃度および温度条件において無機塩または有機塩の存在下でプローブと試料とを接触させることを含む。プローブおよび試料の核酸は、プローブの核酸と試料の核酸との間で可能などんなハイブリッド形成でも起きうる十分長い時間の間接触させなければならない。混合物中のプローブまたは標的の濃度により、ハイブリッド形成が起こるのに必要な時間が決まることになる。プローブまたは標的の濃度が高くなるほど、必要とされるハイブリッド形成の温置時間は短くなる。任意選択で、カオトロピック剤を添加してもよい。カオトロピック剤は、ヌクレアーゼ活性を阻害することによって核酸を安定化する。さらに、カオトロピック剤により、室温において短いオリゴヌクレオチドプローブの敏感かつ厳密なハイブリッド形成が可能になる(Van Ness and Chen,Nucl.Acids Res.19:5143−5151(1991))。好適なカオトロピック剤としては、とりわけ、塩化グアニジウム、チオシアン酸グアニジウム、チオシアン酸ナトリウム、テトラクロロ酢酸リチウム、過塩素酸ナトリウム、テトラクロロ酢酸ルビジウム、ヨウ化カリウムおよびトリフルオロ酢酸セシウムがある。典型的には、カオトロピック剤は約3Mの最終濃度で存在することになる。所望される場合には、ホルムアミドを、典型的には30から50%(v/v)でハイブリッド形成混合物に加えることができる。
【0087】
様々なハイブリッド形成溶液を使用できる。典型的には、それらは約20から60体積%(好ましくは30%)の極性有機溶媒を含む。一般的なハイブリッド形成溶液では、約30から50%(v/v)のホルムアミド、約0.15から1M塩化ナトリウム、約0.05から0.1M緩衝液(例えば、クエン酸ナトリウム、Tris−HCl、PIPESまたはヘペス(pHの範囲は約6から9))、約0.05から0.2%の洗浄剤(例えば、ドデシル硫酸ナトリウム)、または0.5から20mMのEDTA、FICOLL(Pharmacia Inc.)(約300から500kdal)、ポリビニルピロリドン(約250から500kdal)および血清アルブミンを使用する。典型的なハイブリッド形成溶液には、約0.1から5mg/mLの非標識のキャリアー核酸、フラグメント化核DNA(例えば、子牛胸腺またはサケ精子のDNA、または酵母菌RNA)、および任意選択的に、約0.5から2%(wt/vol)のグリシンも含まれるであろう。様々な極性水溶性のまたは膨潤性の試剤(例えば、ポリエチレングリコール)、陰イオンポリマー(例えば、ポリアクリレートまたはポリアクリル酸メチル)および陰イオンサッカリドポリマー(anionic saccharidic polymers)(例えば、硫酸デキストラン)を含む体積排除剤(volume exclusion agents)など、他の添加剤も含めることができる。
【0088】
核酸ハイブリッド形成は、様々なアッセイ形式(assay formats)に適応させることができる。もっとも好適なものの1つは、サンドイッチアッセイ形式である。サンドイッチアッセイは、非変性条件下でのハイブリッド形成に特に適応性がある。サンドイッチ型アッセイの主要構成要素は固体支持体である。固体支持体には、配列の一部と相補的である非標識の固定化核酸プローブが吸着されているか、または共有結合している。
【0089】
細菌性宿主および酵母菌宿主内での異種細菌性[2Fe−2S]DHADの発現
出願人らは、微生物細胞内で発現された場合、異種[2Fe−2S]DHADによりDHAD活性がもたらされることを見出した。本明細書で述べたようにして同定できる[2Fe−2S]DHADはいずれも、異種微生物細胞内で発現されうる。これらのいずれのタンパク質の発現でも、2,3−ジヒドロキシイソ吉草酸からα−ケトイソ吉草酸への変換または2,3−ジヒドロキシメチル吉草酸からα−ケトメチル吉草酸への変換を含む生合成経路のDHAD活性がもたらされる。4Fe−4DDHADとは対照的に、[2Fe−2S]DHADの発現では、酵素活性を得るためのクラスター内のFeおよびSに関する要件が緩くなる。加えて、S.ミュータンス(S.mutans)[2Fe−2S]DHADは、大腸菌(E.coli)[4Fe−4S]DHADの空気中での敏感性と比べて、ここでは空気中での安定性が高くなることが認められた。このことは、異種宿主細胞内での活性をより優れたものにするのに望ましい。
【0090】
異種細菌性[2Fe−2S]DHADを発現する宿主になりうるバクテリア細胞としては、クロストリジウム属(Clostridium)、ジモモナス属(Zymomonas)、エシェリキア属(Escherichia)、サルモネラ属(Salmonella)、ロドコッカス属(Rhodococcus)、シュードモナス属(Pseudomonas)、バシラス属(Bacillus)、ラクトバシラス属(Lactobacillus)、エンテロコッカス属(Enterococcus)、ペジオコックス属(Pediococcus)、アルカリゲネス属(Alcaligenes)、クレブシエラ属(Klebsiella)、パエニバチルス属(Paenibacillus)、アルトロバクター属(Arthrobacter)、コリネバクテリウム属(Corynebacterium)、およびブレビバクテリウム属(Brevibacterium)、ラクトコッカス属(Lactococcus)、ロイコノストック属(Leuconostoc)、オエノコッカス属(Oenococcus)、ペジオコックス属(Pediococcus)、および連鎖球菌属(Streptococcus)があるが、これらに限定されない。異種細菌性[2Fe−2S]DHADの工学的発現により、[2Fe−2S]DHADまたは[4Fe−4S]DHADを自然に発現する宿主バクテリア細胞内でのDHAD活性を増大させることができる。そのような宿主細胞としては、例えば、大腸菌(E.coli)およびバシラス・サチリス(Bacillus subtilis)を挙げることができる。さらに、異種細菌性[2Fe−2S]DHADの工学的発現により、内生DHAD活性を持たない宿主バクテリア細胞内でDHAD活性がもたらされる。そのような宿主細胞としては、例えば、ラクトバシラス属(Lactobacillus)、エンテロコッカス属(Enterococcus)、ペジオコックス属(Pediococcus)およびロイコノストック属(Leuconostoc)を挙げることができる。
【0091】
具体的な宿主としては次のものがある:大腸菌(Escherichia coli)、アルカリゲネス・ユートロフス(Alcaligenes eutrophus)、バシラス・リシェニフォルミス(Bacillus licheniformis)、パエニバチルス・マセランス(Paenibacillus macerans)、ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)、エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)、エンテロコッカス・ガリナリウム(Enterococcus gallinarium)、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)、およびバシラス・サチリス(Bacillus subtilis)。
【0092】
宿主バクテリア細胞は、当業者によく知られている方法で操作して、異種細菌性[2Fe−2S]DHADを発現させることができる。発現されるDHADのコード領域は、当業者によく知られているように、標的宿主細胞用に最適化されたコドンであってよい。様々な宿主細胞の形質転換に役立つベクターは、ありふれたものであり、EPICENTRE(登録商標)(Madison,WI)、Invitrogen Corp.(Carlsbad,CA)、Stratagene(La Jolla,CA)、およびNew England Biolabs,Inc.(Beverly,MA)などの会社から市販されている。典型的にはベクターは、選択マーカーおよび配列を含み、所望の宿主内での自律増殖または染色体の組込みが可能である。加えて、好適なベクターは、転写開始制御領域(transcriptional initiation controls)および転写終結制御領域を内部に有するプロモーター領域を含み、それらの間にコード領域DNAフラグメントを挿入することができ、挿入されたコード領域の発現がもたらされる。どちらの制御領域も、形質転換宿主細胞と相同の遺伝子から誘導できるが、そのような制御領域は、産生宿主として選択された特定の種に固有でない遺伝子から誘導することもできることを理解すべきである。
【0093】
開始制御領域またはプロモーターは、望ましい細菌性宿主細胞内で細菌性[2Fe−2S]DHADコード領域の発現を駆動するのに役立つもので、数多くあり、当業者によく知られている。こうした遺伝因子を駆動することのできるプロモーターは実質的にどんなものでも本発明に適しており、それにはlac、ara、tet、trp、lP、lP、T7、tac、およびtrcの各プロモーター(大腸菌(Escherichia coli)、アルカリゲネス属(Alcaligenes)、およびシュードモナス属(Pseudomonas)での発現に有用);amy、apr、およびnprの各プロモーター、および様々なphageプロモーター(バシラス・サチリス(Bacillus subtilis)、バシラス・リシェニフォルミス(Bacillus licheniformis)、およびパエニバチルス・マセランス(Paenibacillus macerans)での発現に有用);nisA(グラム陽性菌での発現に有用。Eichenbaum et al.Appl.Environ.Microbiol.64(8):2763−2769(1998));およびP11合成プロモーター(ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)での発現に有用。Rud et al.,Microbiology 152:1011−1019(2006))があるが、それらに限定されない。
【0094】
終結制御領域も、好ましい宿主に固有の様々な遺伝子から誘導することができる。任意であるが、終結部位は不要であってもよい。しかし、含まれているのがもっとも好ましい。
【0095】
ある特定のベクターは、広範囲の宿主バクテリア内で複製する能力があり、接合によって移すことができる。pRK404および3種類の関連ベクター(pRK437、pRK442、およびpRK442(H))の注釈付きの完全な配列が利用可能である。こうした誘導体は、グラム陰性菌における遺伝子操作のための価値あるツールであることが証明されている(Scott et al.,Plasmid 50(1):74−79(2003))。広宿主域のInc P4 プラスミド RSF1010の幾種類かのプラスミド誘導体も、ある範囲のグラム陰性菌内で機能できるプロモーターと一緒に入手可能である。プラスミドpAYC36およびpAYC37は、複数のクローニング部位と共に活性プロモーターを有しており、グラム陰性菌内での異種遺伝子発現が可能である。バシラス・サチリス(Bacillus subtilis)およびラクトバシラス属(Lactobacillus)の形質転換に役立つベクターの中には、pAMβ1およびその誘導体(Renault et al.,Gene 183:175−182(1996);およびO’Sullivan et al.,Gene 137:227−231(1993));pMBB1およびpHW800、pMBB1の誘導体(Wyckoff et al.Appl.Environ.Microbiol.62:1481−1486(1996));pMG1、接合性プラスミド(Tanimoto et al.,J.Bacteriol.184:5800−5804(2002));pNZ9520(Kleerebezem et al.,Appl.Environ.Microbiol.63:4581−4584(1997));pAM401(Fujimoto et al.,Appl.Environ.Microbiol.67:1262−1267(2001));およびpAT392(Arthur et al.,Antimicrob.Agents Chemother.38:1899−1903(1994))がある。ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)からの幾つかのプラスミドも報告されている(van Kranenburg et al.,Appl.Environ.Microbiol.71(3):1223−1230(2005))。
【0096】
染色体遺伝子の置換ツールも広く入手可能である。例えば、広宿主域レプリコンpWV101の温度感受性変種は、プラスミドpVE6002を作成するように改変されたが、このプラスミドはある範囲のグラム陽性菌内での遺伝子置換を行うのに使用できる(Maguin et al.,J.Bacteriol.174(17):5633−5638(1992))。さらに、様々なゲノム内にランダム突然変異を引き起こす試験管内トランスポゾンが、EPICENTRE(登録商標)などの商業的供給源から入手可能である。
【0097】
異種細菌性[2Fe−2S]DHADを発現するための宿主となりうる酵母菌細胞は、遺伝子操作の可能な任意の酵母菌細胞であり、それには、サッカロミセス属(Saccharomyces)、シゾサッカロミセス属(Schizosaccharomyces)、ハンゼヌラ属(Hansenula)、カンジダ属(Candida)、クリベロミセス属(Kluyveromyces)、ヤロウイア属(Yarrowia)およびピキア属(Pichia)があるが、これらに限定されない。好適な株としては、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、クルイベロミセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)、クリベロマイセス・サーモトレランス(Kluyveromyces thermotolerans)、カンジダ・グラブラタ(Candida glabrata)、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、ピキア・スティピティス(Pichia stipitis)およびアルカン資化酵母(Yarrowia lipolytica)があるが、これらに限定されない。もっとも好適なのは、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)である。
【0098】
発現は、こうした[2Fe−2S]DHADのいずれかをコード化する配列を含む遺伝子を用いた形質転換によって達成される。発現させるDHADのコード領域は、当業者によく知られているように、標的宿主細胞用に最適化されたコドンであってよい。酵母菌内での遺伝子発現方法は、当該技術分野において知られている(例えば、Methods in Enzymology,Volume 194,Guide to Yeast Genetics and Molecular and Cell Biology (Part A,2004,Christine Guthrie and Gerald R. Fink (Eds.),Elsevier Academic Press,San Diego,CAを参照)。酵母菌内での遺伝子の発現には、典型的には、プロモーター(関心のあるコード領域へ作動的に連結されたもの)、および転写ターミネーターが必要とされる。多数の酵母菌プロモーターを、酵母菌内で遺伝子の発現カセットを作成するのに使用でき、それには以下の遺伝子から誘導されるプロモーターがあるが、それらに限定されない:CYC1、HIS3、GAL1、GAL10、ADH1、PGK、PHO5、GAPDH、ADC1、TRP1、URA3、LEU2、ENO、TPI、CUP1、FBA、GPD、GPM、およびAOX1。好適な転写ターミネーターとしては、FBAt、GPDt、GPMt、ERG10t、GAL1t、CYC1、およびADH1があるが、これらに限定されない。
【0099】
好適なプロモーター、転写ターミネーター、および[2Fe−2S]DHADコード領域は、大腸菌(E.coli)−酵母菌シャトルベクター内にクローン化し、また酵母菌細胞内に入れて形質転換することができる。こうしたベクターにより、大腸菌(E.coli)および酵母菌株の両方で菌株増殖が可能になる。典型的には、使用するベクターは、望ましい宿主での自律増殖または染色体組込みを可能にする配列および選択マーカーを含む。典型的には、酵母菌内の使用プラスミドは、シャトルベクターpRS423、pRS424、pRS425、およびpRS426(American Type Culture Collection,Rockville,MD)であり、これらは大腸菌(E.coli)複製オリジン(例えば、pMB1)、酵母菌の2μ複製オリジン、および栄養選択(nutritional selection)用マーカーを含む。これら4つのベクター用の選択マーカーは、His3(ベクターpRS423)、Trp1(ベクターpRS424)、Leu2(ベクターpRS425)およびUra3(ベクターpRS426)である。既述のDHADをコード化しているキメラ遺伝子を有する発現ベクターの作成は、大腸菌(E.coli)内での標準分子クローニング技術、または酵母菌内でのギャップ修復組換え(gap repair recombination)法のいずれかによって実施できる。
【0100】
ギャップ修復クローニングの取り組み方は、酵母菌内での高効率な相同組換えを利用している。典型的には、酵母菌ベクターDNAは(例えば、その複数のクローニング部位で)消化されて、その配列内に「ギャップ」が作られる。5’末端と3’末端の両方に≧21bpの配列を含む、関心のある幾つかのDNAが生成され、それらの末端は、互いに順次に重なり、またベクターDNAの5’および3’終端と順次に重なる。例えば、「遺伝子X」用の酵母菌発現ベクターを作成するためには、酵母菌プロモーターおよび酵母菌ターミネーターを発現カセット用として選択する。プロモーターおよびターミネーターは酵母菌のゲノムDNAから増幅し、遺伝子Xは、そのソース生物からPCR増幅するか、または遺伝子X配列を含むクローニングベクターから得る。線状にしたベクターの5’末端とプロモーター配列との間、プロモーターと遺伝子Xとの間、遺伝子Xとターミネーター配列との間、およびターミネーターと線状にしたベクターの3’末端との間に少なくとも21bpのオーバーラップ配列がある。その後、「ギャップ」ベクターおよび挿入DNAを一緒に酵母菌株に入れて形質転換し、プラスミド上での栄養選択マーカーの相補を可能にする適切な化合物混合物を含む培地に蒔く。正しい挿入物の組み合わせが存在することは、選択した細胞から調製したプラスミドDNAを用いて、PCRマッピングにより確認できる。次いで、酵母菌から単離されたプラスミドDNA(普通は低濃度)を大腸菌(E.coli)株(例えば、TOP10)に入れて形質転換し、続いてミニプレップおよび制限酵素マッピングを行ってプラスミド作成物をさらに検証する。最後に、作成物は配列分析で検証できる。
【0101】
ギャップ修復技術のように、酵母菌ゲノムへの組み込みも酵母菌内の相同組換え系を利用する。典型的には、コード領域および調節領域(プロモーターおよびターミネーター)と栄養要求性マーカーとを含むカセットは、高忠実度DNAポリメラーゼでPCR増幅するが、その際に、カセットとハイブリッド形成し、かつ挿入の望まれるゲノム領域の領域5’および3’と配列相同性のある40から70個の塩基対を含んでいるプライマーを用いて行う。その後、PCR産物を酵母菌内に入れて形質転換し、組み込まれた栄養要求性マーカーの選択が可能なふさわしい化合物混合物を含む培地上に蒔く。例えば、「遺伝子X」を染色体の位置「Y」に組み込むために、プロモーターとコード領域Xとターミネーターとの作成物をプラスミドDNA作成物からPCR増幅し、SOE PCRによるかまたは一般の制限消化とクローニングによるかのいずれかで独立栄養性マーカー(URA3など)に結合させる。プロモーターとコード領域XとターミネーターとURA3との領域を含む全カセットを、プライマー配列でPCR増幅するが、そのプライマー配列は、酵母菌染色体上の場所「Y」の領域5’および3’との相同性のある40から70bpを含む。PCR産物を酵母菌に入れて形質転換し、ウラシルの欠乏した増殖培地上で選択する。形質転換体は、コロニーPCRかまたは染色体DNAの直接シークエンシングのいずれかで検証できる。
【0102】
DHAD活性の確認
細菌性[2Fe−2S]DHADを発現するよう操作された細胞内においてDHAD活性があることは、当該技術分野において知られている方法を用いて確認できる。一例として、また本明細書の実施例に示されているように、細菌性[2Fe−2S]DHADを発現するよう操作された細胞からの未精製の抽出物を、FlintおよびEmptageが述べている、ジニトロフェニルヒドラジンを使用したDHAD試験法(J.Biol.Chem.(1988)263(8):3558−64)に使用できる。別の例として、また本明細書の実施例に示すように、内生DHAD活性のない酵母菌株内で、本明細書に開示されている方法で同定できる細菌性DHADを発現させることによってDHAD活性を検査することができる。DHAD活性がある場合、酵母菌株は分枝鎖アミノ酸の非存在下で成長するであろう。DHAD活性は、DHAD活性を必要とする経路の下流産物の検査など、もっと間接的な方法でも確認できる。経路中間体がα−ケトイソ吉草酸またはα−ケトメチル吉草酸である産物はいずれも、DHAD活性の検査として測定できる。そのような産物のリストには、バリン、イソロイシン、ロイシン、パントテン酸、2−メチル−1−ブタノール、3−メチル−1−ブタノールおよびイソブタノールが含まれるが、これらに限定されない。
【0103】
イソブタノールの産生
本明細書で述べるバクテリアまたは酵母菌内での細菌性[2Fe−2S]DHADの発現により、2,3−ジヒドロキシイソ吉草酸からα−ケトイソ吉草酸への変換または2,3−ジヒドロキシメチル吉草酸からα−ケトメチル吉草酸への変換を行うためのジヒドロキシ酸デヒドラターゼ活性を有する、形質転換された組換え宿主細胞が生じる。経路中間体がα−ケトイソ吉草酸またはα−ケトメチル吉草酸である産物は、既述の異種[2Fe−2S]DHADを有する本明細書に開示の菌株または酵母菌株において、より効果的に産生しうる。そのような産物のリストには、バリン、イソロイシン、ロイシン、パントテン酸、2−メチル−1−ブタノール、3−メチル−1−ブタノールおよびイソブタノールが含まれるが、これらに限定されない。
【0104】
例えば、酵母菌では、バリンの生合成は、アセトヒドロキシ酸レダクトイソメラーゼ(acetohydroxyacid reductoisomerase)(ILV5)による2,3−ジヒドロキシ−イソバレレートへのアセト乳酸の変換ステップ、ジヒドロキシ酸デヒドラターゼによる2,3−ジヒドロキシ−イソバレレートからα−ケトイソ吉草酸(2−ケト−イソバレレートとも呼ばれる)への変換ステップ、および分枝鎖アミノ酸トランスアミナーゼ(BAT2)および分枝鎖アミノ酸アミノトランスフェラーゼ(BAT1)によるα−ケトイソ吉草酸からバリンへの変換ステップを含む。ロイシンの生合成は、α−ケトイソ吉草酸への同じステップと、その後に、アルファ−イソプロピルリンゴ酸シンターゼ(LEU9、LEU4)によるα−ケトイソ吉草酸からアルファ−イソプロピルリンゴ酸への変換、イソプロピルリンゴ酸イソメラーゼ(LEU1)によるアルファ−イソプロピルリンゴ酸からベータ−イソプロピルリンゴ酸への変換、ベータ−IPMデヒドロゲナーゼ(LEU2)へのベータ−イソプロピルリンゴ酸からアルファ−ケトイソカプロン酸への変換、最後に分枝鎖アミノ酸トランスアミナーゼ(BAT2)と分枝鎖アミノ酸アミノトランスフェラーゼ(BAT1)によるアルファ−ケトイソカプロン酸からロイシンへの変換を含む。細菌性経路は、類似しており、異なる仕方で名付けられたタンパク質および遺伝子を含む。2,3−ジヒドロキシ−イソバレレートからα−ケトイソ吉草酸の変換が増大すると、こうした経路における流れが増大することになるが、特に経路の1種または複数種の更なる酵素が過剰発現された場合に増大する。したがって、バリンまたはロイシンの産生では、本明細書に開示されている菌株を使用するのが望ましい。
【0105】
パントテン酸の生合成は、DHADによって行われるステップ、ならびにケトパントエート(ketopantoate)ヒドロキシメチル転移酵素およびパントテナートシンターゼによって行われるステップを含む。微生物内でのパントテン酸生合成の産生を増大させるためのこうした酵素の発現の工学は、米国特許第6177264号明細書に記載されている。
【0106】
DHADのα−ケトイソ吉草酸産物は、共同所有で同時係属中の米国特許出願公開第20070092957A1号明細書(参照により本明細書に援用する)に開示されている、イソブタノール生合成経路における中間体である。開示されているイソブタノール生合成経路の図を図3に示す。本明細書に開示されている菌株内でのイソブタノールの産生は、DHAD活性が増大することから恩恵を受ける。本明細書に開示されているように、DHAD活性は、細菌性細胞または酵母菌細胞内での細菌性[2Fe−2S]DHADの発現によって提供される。米国特許出願公開第20070092957A1号明細書に記載されているように、イソブタノール生合成経路の例の中のステップは、以下の変換を含む:
− ピルベートからアセト乳酸への変換(図1とその中の経路のステップaを参照)(例えば、アセト乳酸合成酵素によって触媒される)、
− アセト乳酸から2,3−ジヒドロキシイソ吉草酸への変換(図1とその中の経路のステップbを参照)(例えば、アセトヒドロキシ酸イソメロレダクターゼ(acetohydroxy acid isomeroreductase)によって触媒される);
− 2,3−ジヒドロキシイソ吉草酸からα−ケトイソ吉草酸への変換(図1とその中の経路のステップcを参照)(例えば、アセトヒドロキシ酸デヒドラターゼ(ジヒドロキシ酸デヒドラターゼ(DHAD)とも呼ばれる)によって触媒される);
− α−ケトイソ吉草酸からイソブチルアルデヒドへの変換(図1とその中の経路のステップdを参照)(例えば、分枝鎖α−ケト酸デカルボキシラーゼによって触媒される);および
− イソブチルアルデヒドからイソブタノールへの変換(図1とその中の経路のステップeを参照)(例えば、分枝鎖アルコールデヒドロゲナーゼによって触媒される)。
【0107】
代替経路のステップf、g、h、I、j、およびkにおける、物質から産物への変換、およびこうした反応に関与する酵素は、米国特許出願公開第20070092957A1号明細書に記載されている。
【0108】
上に名前を挙げた経路ステップの酵素(本明細書に開示されている細菌性[2Fe−2S]DHADを除く)および2種類の更なるイソブタノール経路用の酵素の発現に使用できる遺伝子が、米国特許出願公開第20070092957A1号明細書に記載されており、また使用できる更なる遺伝子は、バイオインフォマティクスによりまたは上述のように実験により当業者が同定できる。3つの経路すべてでの、特に高い活性を有するケトール酸レダクトイソメラーゼ(KARI)酵素の好ましい使用は、共同所有で同時係属中の米国特許出願公開第20080261230A1号明細書に開示されている。その中に開示されている高活性KARIの例として、ビブリオ・コレラエ(Vibrio cholerae)からのもの(DNA:配列番号:389;タンパク質 配列番号:390)、シュードモナス・エルジノーサ(Pseudomonas aeruginosa)PAO1からのもの(DNA:配列番号:422;タンパク質 配列番号:423)、およびシュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens)PF5からのもの(DNA:配列番号:391;タンパク質 配列番号:392)がある。
【0109】
さらに、キメラ遺伝子の作成および開示されている生合成経路を用いたイソブタノール産生のためのバクテリアおよび酵母菌の遺伝子工学が、米国特許出願公開第20070092957A1号明細書に記載されている。
【0110】
産生のための成長
本明細書に開示されている組換えバクテリアまたは酵母菌宿主は、好適な炭素物質を含む発酵培地で成長する。更なる炭素物質としては、単糖類(フルクトースなど)、オリゴ糖類(乳糖 マルトース、ガラクトース、またはスクロースなど)、多糖類(デンプンまたはセルロースなど)またはそれらの混合物および再生可能な供給原料(チーズホエーの透過物、コーンスティープリカー、砂糖てん菜糖みつ、および大麦の麦芽など)からの未精製混合物があるが、これらに限定されない。他の炭素物質としては、エタノール、ラクテート、スクシネート、またはグリセロールを挙げることができる。
【0111】
さらに、炭素物質は、重要な生化学的中間体への代謝変換が実証されている炭素1個の物質(二酸化炭素、またはメタノールなど)であってもよい。炭素1個および2個の物質に加えて、メチローフ生物は、メチルアミン、グルコサミンおよび様々なアミノ酸などの他の幾つかの種類の炭素含有化合物を代謝活性に利用することも知られている。例えば、メチロトローフ酵母は、メチルアミンの炭素を利用してトレハロースまたはグリセロールを生じることが知られている(Bellion et al.,Microb.Growth C1 Compd.,[Int.Symp.],7th(1993),415−32,Editor(s):Murrell,J.Collin;Kelly,Don P.Publisher:Intercept,Andover,UK)。同様に、カンジダ属(Candida)の様々な種がアラニンまたはオレイン酸を代謝する(Sulter et al.,Arch.Microbiol.153:485−489(1990))。それゆえに、本発明に利用する炭素源は多種多様な炭素含有物質を包含することができ、またそれは生物の選択によって限定されるのみであることが考えられる。
【0112】
本発明においては上述の炭素物質およびそれらの混合物はすべて適すると考えられるが、好ましい炭素物質は、グルコース、フルクトース、およびスクロース、あるいはこれらとC5の糖類を利用するよう改変された酵母細胞用のC5の糖類(キシロース及び/またはアラビノースなど)との混合物である。スクロースは、サトウキビ、サトウダイコン、カッサバ、サトウモロコシ、およびそれらの混合物などの再生可能な砂糖源から得ることができる。グルコースおよびデキストロースは、穀物(トウモロコシ、小麦、ライ麦、大麦、オートムギ、およびそれらの混合物など)を含むデンプン系の供給原料を糖化させることによって、再生可能な穀物源から得ることができる。さらに、発酵性糖類は、例えば、共同所有で同時係属中の米国特許出願公開第2007/0031918A1号明細書(これを参照により本明細書に援用する)に記載されている前処理および糖化の工程によって、再生可能なセルロースまたはリグノセルロースのバイオマスから誘導できる。バイオマスとは、任意のセルロース系物質またはリグノセルロース系物質を指し、それには、セルロースを含む物質、および任意選択的に、ヘミセルロース、リグニン、デンプン、オリゴ糖類及び/または単糖類をさらに含む物質がある。バイオマスは、タンパク質及び/または脂質などの更なる成分を含んでもよい。バイオマスは単一源から得ることもできるが、バイオマスは複数の源から得られる混合物を含むこともできる。例えば、バイオマスは、トウモロコシの穂軸とトウモロコシのわらの混合物、または草と葉の混合物を含むことができる。バイオマスとしては、バイオエネルギー作物、農業残渣、固形都市廃棄物、固形産業廃棄物、紙製造のスラッジ、庭ゴミ、木屑および林業廃棄物があるが、これらに限定されない。バイオマスの例としては、トウモロコシ殻粒、トウモロコシの穂軸、穀物残渣(トウモロコシの皮など)、トウモロコシのわら、草、小麦、小麦のわら、大麦、大麦のわら、干し草、稲わら、スイッチグラス、紙くず、サトウキビバガス、モロコシ、大豆、(穀物、木、枝、根、葉、木片、おがくず、低木および灌木の)粉砕によって得られる成分、野菜、果物、花、家畜ふん尿、およびそれらの混合物があるが、これらに限定されない。
【0113】
ふさわしい炭素源に加えて、発酵培地は、好適な無機質、塩類、共同因子、緩衝液および当業者に知られている他の成分(培養物を成長させ、細菌性[2Fe−2S]DHADを含む酵素経路を促進するのに適したもの)を含まなければならない。
【0114】
培養条件
典型的には、細胞は、約20℃から約40℃の範囲の温度においてふさわしい培地中で成長する。本発明における好適な増殖培地は、一般の商業生産された培地であり、それにはLuria Bertani(LB)培地、サブローデキストロース(SD)培地、Yeast Medium(YM)培地(つまり、酵母菌窒素塩基、硫酸アンモニウム、および(炭素/エネルギー源として)デキストロースを含む培地)あるいはYPD培地(ほとんどのサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)株を成長させるのに最適な割合のペプトンと酵母菌抽出物とデキストロースとのブレンド)などがある。他の定められた増殖培地または合成増殖培地を使用してもよく、特定の微生物の成長に適した培地は微生物学または発酵科学の当業者に知られているであろう。カタボライトリプレッションを直接または間接的に調整することで知られている試薬を使用すること、例えば、環状アデノシン2’:3’モノホスフェートを発酵培地に含めることもできる。
【0115】
酵母菌の発酵に適したpH範囲は、典型的にはpH3.0からpH9.0の間であり、初期条件としてはpH5.0からpH8.0が好ましい。他の微生物の発酵に適したpH範囲は、pH3.0からpH7.5の間であり、初期条件としてpH4.5.0からpH6.5が好ましい。
【0116】
発酵は好気条件または嫌気条件のもとで実施でき、嫌気条件または微好気的条件が好ましい。
【0117】
バッチ式および連続式の工業発酵
発酵は、バッチ式発酵法であってよい。古典的なバッチ発酵は、培地の組成物を発酵の開始時に設定し、発酵の間に人為的な変更を実施しない閉鎖系である。したがって、発酵の開始時に培地に、所望の生物体(1種または複数種)を接種し、その系に何も添加せずに発酵を行わせる。しかし、典型的には「バッチ」発酵は、炭素源の添加に関してはバッチ式であるが、pHおよび酸素濃度などの因子を制御する試みを行うことがよくある。バッチ系では、系の代謝産物およびバイオマスの組成は、発酵が停止する時まで絶えず変化する。バッチ培養物内では、細胞は穏やかに静的な停滞期を通過して、高度対数増殖期(high growth log phase)に向かい、最後に成長速度が減少または停止する定常期になる。処置を行わなければ、定常期の細胞はやがては死滅することになる。一般に、対数期にある細胞が、最終産物または中間体の産生の大部分と関係する。
【0118】
標準バッチシステムの変形形態が供給バッチシステム(fed batch system)である。供給バッチ発酵プロセスも本発明では好適であり、発酵の進行につれて物質を徐々に添加することを除いて、これは典型的なバッチシステムを含む。カタボライトリプレッションが細胞の代謝を妨げる傾向があるとき、また培地における物質の量を限定することが望ましい場合に、供給バッチシステムは有用である。供給バッチシステムにおける実際の物質濃度は、測定するのが困難であるため、pH、溶解酸素および排ガス(COなど)の分圧などの測定可能因子の変化に基づいて推定する。バッチ式発酵および供給バッチ式発酵は一般的かつ当該技術分野において周知のものであり、その例は、Thomas D.Brock in Biotechnology:A Textbook of Industrial Microbiology,Second Edition(1989)Sinauer Associates,Inc.,Sunderland,MA.,またはDeshpande,Mukund V.,Appl.Biochem.Biotechnol.,36:227,(1992)(参照により本明細書に援用する)に見出すことができる。
【0119】
発酵培養物は、連続式発酵法に適合させることができる。連続式発酵は、定められた発酵培地が連続的にバイオリアクターに添加され、同時に、同量の馴化培地が処理のために除去される開放系である。連続式発酵は一般に、培養物を一定の高密度に維持する。
【0120】
連続式発酵では、細胞成長または最終産物濃度に影響を及ぼす1つの因子または任意の数の因子を調節することが可能である。例えば、ある方法は、炭素源などの制限的栄養物質または一定速度での窒素レベルを維持し、他のすべてのパラメーターが適度になるようにすることができる。他のシステムでは、培養培地の濁り度で測定される細胞濃度を一定に保ちつつ、成長に影響する幾つかの因子を連続的に変えることができる。連続システムは、定常状態の成長条件を維持しようとし、そのようにして、培地が取り除かれることによる細胞損失と、発酵での細胞成長速度との釣り合いを保たなければならない。連続式発酵方法での栄養素および成長因子の調節方法ならびに産物形成の速度を最大にする技術は、工業微生物学の技術分野において周知であり、様々な方法がBrock(上記を参照)によって詳述されている。
【0121】
発酵のバッチ法、供給バッチ法、連続法、または任意の周知の方式が、既述の組換え微生物宿主細胞を成長させるのに好適であると考えられる。さらに、細胞は、全細胞触媒としての物質上に固定化し、イソブタノール産生のための発酵条件にさらしてよいと考えられる。
【0122】
発酵培地から産物を分離する方法
生物産生イソブタノールは、ABE発酵の場合など、当該技術分野において知られている方法を用いて発酵培地から分離することができる(例えば、Durre,Appl.Microbiol.Biotechnol.49:639−648(1998),Groot et al.,Process Biochem.27:61−75(1992)、およびその中の文献を参照)。例えば、固体は、遠心分離、濾過、デカンテーションなどによって発酵培地から除去できる。その後、イソブタノールは、蒸留、共沸蒸留、液−液抽出、吸着、気体ストリッピング、膜蒸発(membrane evaporation)、または透析蒸発などの方法を用いて、発酵培地から分離できる。
【0123】
イソブタノールは、低沸点の、水との共沸混合物を生じるので、蒸留を用いて混合物をその共沸組成物まで分離することができる。蒸留は、別の分離方法と組み合わせて用いて、共沸混合物とならないようにして分離を行うことができる。蒸留と併用してブタノールを分離および精製する方法には、デカンテーション、液−液抽出、吸着、および膜に基づく技法があるが、これらに限定されない。さらに、ブタノールは共留剤を用いた共沸蒸留を使用して分離できる(例えば、Doherty and Malone,Conceptual Design of Distillation Systems,McGraw Hill,New York,2001を参照)。
【0124】
ブタノール−水の混合物は、不均一な共沸混合物を生じるので、蒸留をデカンテーションと併用してイソブタノールを分離および精製することができる。この方法では、発酵ブロスを含んでいるイソブタノールを蒸留して共沸組成物に近づけることができる。その後、共沸混合物を濃縮し、イソブタノールをデカンテーションで発酵培地から分離する。デカンテーションで取られた水性相は、還流液として第1蒸留カラムに戻すことができる。イソブタノールを多量に含んでいる、デカンテーションで取られた有機相は、第2蒸留カラムにおいて蒸留でさらに精製することができる。
【0125】
イソブタノールは、液−液抽出を蒸留と併用して発酵培地から分離することもできる。
この方法では、イソブタノールは、好適な溶媒による液−液抽出を用いて発酵ブロスから抽出される。次いで、イソブタノールを含んでいる有機相を蒸留して、ブタノールを溶媒から分離する。
【0126】
吸着と組み合わせた蒸留も、イソブタノールを発酵培地から分離するのに使用できる。この方法では、イソブタノールを含んでいる発酵ブロスを蒸留して共沸組成物に近づけ、その後、残っている水を、モレキュラーシーブなどの吸着剤を使用して除去する(Aden et al.Lignocellulosic Biomass to Ethanol Process Design and Economics Utilizing Co−Current Dilute Acid Prehydrolysis and Enzymatic Hydrolysis for Corn Stover,Report NREL/TP−510−32438,National Renewable Energy Laboratory,June 2002)。
【0127】
さらに、透析蒸発と組み合わせた蒸留を用いて、イソブタノールを発酵培地から分離し、精製することができる。この方法では、イソブタノールを含んでいる発酵ブロスを蒸留して共沸組成物に近づけ、その後、残っている水を親水性膜に通して透析蒸発によって除去する(Guo et al.,J.Membr.Sci.245,199−210(2004))。
【0128】
本発明を、以下の実施例でさらに明確に示す。そうした実施例は、本発明の好ましい実施態様を示すものだが、単なる例として示すものであることを理解すべきである。上記の説明およびこうした実施例から、当業者は本発明の本質的な特徴を見定めることができ、本発明の精神および範囲を逸脱しない範囲で本発明に様々な変更および修正を加えて様々な用途および条件に適合させることができる。
【0129】
一般的方法
実施例に記載されている標準的組換えDNAおよび分子クローニング技術は、当該技術分野において周知であり、Sambrook,J.,Fritsch,E.F.and Maniatis,T.Molecular Cloning:A Laboratory Manual;Cold Spring Harbor Laboratory Press:Cold Spring Harbor,NY,(1989) (Maniatis)およびT.J.Silhavy,M.L.Bennan,and L.W.Enquist,Experiments with Gene Fusions,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.(1984)およびAusubel,F.M.et al.,Current Protocols in Molecular Biology,pub.by Greene Publishing Assoc.and Wiley−Interscience (1987)およびMethods in Yeast Genetics,2005,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NYに記載されている。
【0130】
細菌性培養物の維持および成長に適した物質および方法は、当該技術分野において周知である。以下の実施例に用いるのに適した技術は、Manual of Methods for General Bacteriology(Phillipp Gerhardt,R.G.E.Murray,Ralph N.Costilow,Eugene
W.Nester,Willis A.Wood,Noel R.Krieg and
G.Briggs Phillips,eds),American Society
for Microbiology,Washington,DC.(1994))ま
たはThomas D.Brock in Biotechnology:A Textbook of Industrial Microbiology,Second Edition,Sinauer Associates,Inc.,Sunderland,MA(1989)に示されており、その中に見出すことができるであろう。バクテリア細胞の成長および維持のために使用する試薬、制限酵素および物質はすべて、特に明記されていない限り、Aldrich Chemicals(Milwaukee,WI)、BD Diagnostic Systems(Sparks,MD)、Life Technologies(Rockville,MD)、またはSigma Chemical Company(St.Louis,MO)から得た。
【0131】
微生物株は、特に記載のない限り、The American Type Culture Collection(ATCC),Manassas,VAから得た。以下の実施例で使用したオリゴヌクレオチドプライマーは、Sigma−Genosys(Woodlands,TX)またはIntegrated DNA Technologies(Coralsville,IA)が合成したものである。
【0132】
合成完全培地については、Amberg,Burke and Strathern,2005,Methods in Yeast Genetics,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NYに記載されている。
【0133】
HPLC
発酵の副産物組成物の分析は、当業者よく知られている。例えば、ある高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法では、Shodex SH−1011 カラムとShodex SH−Gガードカラム(どちらもWaters Corporation,Milford,MAから入手可能)を一緒に使用し、屈折率(RI)検出を用いる。クロマトグラフ分離は、0.01M HSOを移動相として用い、0.5mL/minの流量および50℃のカラム温度で実施する。イソブタノールの保持時間は約47.6分である。
【0134】
略号の意味は以下のとおりである:「s」は秒を意味し、「min」は分を意味し、「h」は時間を意味し、「psi」はポンド/平方インチを意味し、「nm」はナノメートルを意味し、「d」は日を意味し、「μL」はマイクロリットルを意味し、「mL」はミリリットルを意味し、「L」はリットルを意味し、「mm」はミリメートルを意味し、「nm」はナノメートルを意味し、「mM」はミリモルを意味し、「μM」はマイクロモルを意味し、「M」はモルを意味し、「mmol」はミリモルを意味し、「μmol」はマイクロモルを意味し「g」はグラムを意味し、「μg」はマイクログラムを意味し、「ng」はナノグラムを意味し、「PCR」はポリメラーゼ連鎖反応を意味し、「OD」は光学濃度を意味し、「OD600」は600nmの波長で測定した光学濃度を意味し、「kDa」はキロダルトンを意味し、「g」は重力定数を意味し、「bp」は塩基対を意味し、「kbp」はキロ塩基対を意味し、「〜」は約を意味し、「% w/v」は重量/体積パーセントを意味し、「% v/v」は体積/体積パーセントを意味し、「HPLC」は高速液体クロマトグラフィーを意味し、「GC」はガスクロマトグラフィーを意味する。
【実施例】
【0135】
実施例1
[2Fe−2S]クラスターを有する細菌性ジヒドロキシ酸デヒドラターゼの同定
系統発生分析
ジヒドロキシ酸デヒドラターゼ(DHAD)および関連タンパク質に関して、系統発生的関係を求めた。関連タンパク質は、大腸菌(E.coli)DHAD(配列番号:382)、大腸菌(E.coli)ホスホグルコン酸デヒドラターゼ(EDD;配列番号:384;コード領域 配列番号:383)、およびアゾスピリルム・ブラシリエンセ(Azospirillum brasiliense)アラボネートデヒドラターゼ(配列番号:386;コード領域 配列番号:385)のアミノ酸配列を用いて、公的に入手可能なデータベースのBlastP検索によって同定した。検索パラメーターは以下のものを用いた:E value=10、word size=3、Matrix=Blosum62、およびGAP opening=11およびgap extension=1。3種類の異なるタンパク質配列を用いたBlast検索では、オーバーラップする配列一致のセットが生成された。95%同一性配列のものを排除し、10−5のE値カットオフに基づいて検索結果から配列を選択した。350個のアミノ酸よりも短かった配列および650個のアミノ酸よりも長かった配列も排除した。得られた976個のアミノ酸配列セットには、ジヒドロキシ酸デヒドラターゼ、ホスホグルコン酸デヒドラターゼ、およびアルドン酸デヒドラターゼが含まれていた。
【0136】
プロファイルHMMは、実施例2に記載されている実験的に検証されたDHADから生成させた。作成、較正およびこのプロファイルHMMを用いた検索に関しては、以下の詳細を参照されたい。問い合わせ(query)としてこのプロファイルHMMを使用して、この976個の配列に対してhmmer検索を行うと、E値が<10−5ですべての配列と一致した。アミノ酸配列の多重配列アラインメントは、Clustal Wアルゴリズム(Thompson,J.D.,Higgins,D.G.,and Gibson T.J.(1994)Nuc.Acid Res.22: 4673 4680)を用いて実施したが、その際に以下のパラメーターを使用した: 1)ペアワイズアラインメントパラメーターの場合、Gap opening=10;Gap extend=0.1;matrixはGonnet 250である;モード−緩慢・正確(Slow−accurate)、2)多重アラインメントパラメーターの場合、Gap opening=10;Gap extension=0.2;matrixはGonnet seriesである。系統樹は、Neighbor Joining法に基づいて配列アラインメントから生成させた。976個の配列間の系統発生的関連を表す樹木を図2に示す。4つの主要な分枝がこの分析から出現した。それらは、以下に詳述する基準に基づいて、「4Fe−4S DHAD」、「2Fe−2S DHAD」、「アルドン酸デヒドラターゼ」、および「EDD」と名付けてある。5番目の小さい分枝の17の配列には、未定義を表す「Und」の印を付けてある。
【0137】
アラインメントされた配列は、最初に、酵素活性にとって必須と判断された3つのシステインがあるかどうか分析した。3つのシステインは、アゾスピリルム・ブラシリエンセ(Azospirillum brasiliense)アラボネートデヒドラターゼ内のFe−Sの配位に関与していると思われ、そのアラボネートデヒドラターゼは、[4Fe−4S]クラスタータンパク質として報告されたものである(Watanabe,S et al.J.Biol.Chem.(2006)281:33521−33536)。976の配列のそれぞれは、アゾスピリルム・ブラシリエンセ(Azospirillum brasiliense)アラボネートデヒドラターゼの(位置124および197の)必須システインの2つに対応するシステインを有する。系統樹の中に、ザイモモナス・モビリス(Zymomonas mobilis)の[4Fe−4S]ホスホグルコン酸デヒドラターゼ(Rodriguez,M.et.al.(1996)Biochem Mol Biol Int.38:783−789)を含んでいる168個の配列の分枝がある。アラニン、バリンまたはセリンまたはグリシンの4個のアミノ酸のみが、A.ブラシリエンセ(A.brasiliense)アラボネートデヒドラターゼの3番目の必須システインの位置(位置56)に見出されたが、システインは見出されなかった。この168個の配列の分枝は、図2では「EDD」と名付けられている。
【0138】
この樹木の別の分枝は、322個の配列を含み、その中には知られている大腸菌(E.
coli)の[4Fe−4S]クラスターDHADが含まれている。この322個の配列の分枝は図2内で「4Fe−4SDHAD」と名付けられている。この分枝内、および17個の配列の分枝(「Und」)内のすべての配列は、3番目のシステインに対応する位置にグリシンを含む。残りの469個の配列は、2つの分枝にクラスター化されていて、アルドン酸を認識するA.ブラシリエンセ(A.brasiliense)アラボネートデヒドラターゼと1組のDHADの両方を含み、3つのシステインすべてを有している。これらのシステインは、S.ミュータンス(S.mutans)DHAD(配列番号:168)内の位置56、129、および201、およびL.ラクティス(L.lactis)DHAD(配列番号:232)内の位置61、135、および207にある。保存システインを含んでいる多重配列アラインメントからの領域の例を図1に示す。
【0139】
多重配列アラインメントおよび系統樹の更なる分析を行って、DHAD固有の残基(サイン)を同定して、DHADをアラボネートデヒドラターゼおよび他のアルドン酸デヒドラターゼと区別した。3つの特定の保存システインを含む配列の中において、274個の配列のクレイドが、S.ミュータンス(S.mutans)およびL.ラクティス(L.lactis)からのDHADを含んでいることが見出された。A.ブラシリエンセ(A.brasiliense)アラボネートデヒドラターゼは、195個の配列の別個のクレイド中に見出された。274個からなるDHAD群、アルドン酸デヒドラターゼ群、および「[4Fe−4S]DHAD」分枝からの配列を含む多重配列アラインメントを分析して、各位置に保存残基があるかどうか調べた。両方のDHAD群の大多数に保存されているが、アルドン酸デヒドラターゼの群にはない1組の残基が、検出された。それを表4に示す。さらに、アルドン酸デヒドラターゼに保存されているが、この2つのDHAD群のどちらにも含まれていない残基も見出された。そのように異なった仕方で保存されている残基は、それぞれの酵素の基質特異性決定因子としての機能を果たすことができる。
【0140】
【表14】

【0141】
[4Fe−4S]クラスターの大腸菌(E.coli)DHAD、[4Fe−4S]クラスターのZ.モビリス(Z.mobilis)ホスホグルコン酸デヒドラターゼ、また伝えられたところによる[4Fe−4S]クラスターのA.ブラシリエンセ(A.brasiliense)アラボネートデヒドラターゼのいずれも含まない、274個の配列のクレイドを形成するDHADの群は、系統発生学によって、また上述の多重配列アラインメント中に見出される保存残基によって他の群とは異なるものとして識別された。その群が[2Fe−2S]クラスターDHADを含むという提案と一致して、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)DHADおよびS.ソルファタリカス(S.solfataricus)DHADは、この群に含まれる。シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)はホウレンソウように植物であり、ホウレンソウDHADは[2Fe−2S]クラスターDHADと同定されているので(Flint and Emptage(1988)J.Biol.Chem.263:3558−3564)、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)DHADは、[2Fe−2S]クラスターDHADでありうる。S.ソルファタリカス(S.solfataricus)DHADは、[2Fe−2S]クラスターホウレンソウDHADのように酸素耐性であることが報告されており(Kim and Lee(2006)J.Biochem.139,591−596)、このことは、S.ソルファタリカス(S.solfataricus)DHADが[2Fe−2S]クラスターDHADでありうることを示している。
【0142】
274個の配列のクレイドは、図4では「2Fe−2SDHAD」と名付けられている。こうした配列の193個は細菌源からのものである。3個の保存システインおよび表4に明記した保存残基は、上述のアラインメント手順を用いて、193個の細菌性DHADの多重配列アラインメントで同定できる。193個の細菌性[2Fe−2S]DHADの配列が配列リストに示されており、配列番号が表2aに列挙されている。
【0143】
[2Fe−2S]DHAD群における幾種類かの細菌性タンパク質の同一性は、本明細書の他の実施例に記載されているDHADとしての機能分析で確認した。本明細書の他の実施例は、S.ミュータンス(S.mutans)DHADおよびL.ラクティス(L.lactis)DHADなどのこの群の中のタンパク質が、[2Fe−2S]クラスターを含むことを示している。
【0144】
プロファイルHMMの作成
以下の実施例2に記載されているようにして、[2Fe−2S]系統発生群のメンバーとして同定された7種類の細菌性DHADを大腸菌(E.coli)内で発現させ、ジヒドロキシ酸デヒドラターゼ活性を見出した。これらのDHADは、ニトロソモナス・ユーロピア(Nitrosomonas europaea)(配列番号O:310)、シネコシスティス(Synechocystis)種PCC6803(配列番号:298)、連鎖球菌属ミュータンス(配列番号:168)、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)(配列番号:164)、ラルストニア・メタリデュランス(Ralstonia metallidurans)(配列番号:346)、ラルストニア・ユートロファ(Ralstonia eutropha)(配列番号:344)、およびラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)(配列番号:232)からのものである。さらに、フラボバクテリウム・ジョンソニアエ(Flavobacterium johnsoniae)(配列番号:230)からのDHADも、大腸菌(E.coli)内で発現されたときにジヒドロキシ酸デヒドラターゼ活性を有していることが見出された。実験的に決定されたこれらの機能細菌性DHADのアミノ酸配列は、HMMERソフトウェアパッケージを用い(プロファイルHMMを支持する理論は、R.Durbin,S.Eddy,A.Krogh,and G.Mitchison,Biological sequence analysis:probabilistic models of proteins and nucleic acids,Cambridge University Press,1998;Krogh et al.,1994;J.Mol.Biol.235:1501-1531に記載されている)、HMMER(Janelia Farm Research Campus,Ashburn,VA)から入手可能なユーザーガイドに従って分析した。HMMERソフトウェアプログラムの出力は、入力配列を特徴付けるプロファイル隠れMarkovモデル(HMM)である。ユーザーガイドに述べられているように、プロファイルHMMは多重配列アラインメントの統計モデルである。それは、アラインメントの各カラムがどのように保存されているか、また各位置にくるもっとも可能性の高いアミノ酸残基はどれかに関する、位置固有の情報を取得する。したがって、HMMには正式な確率論的な基盤がある。多数のタンパク質ファミリー用のプロファイルHMMは、PFAMデータベース(Janelia Farm Research Campus,Ashburn,VA)で公的に入手可能である。
【0145】
プロファイルHMMは以下のようにして作成した。
【0146】
ステップ1.配列アラインメントを作成する
デフォルト・パラメーターを用いたClustal Wを使用して、上に挙げた機能の検証されたDHADの8個の配列をアラインメントさせた。
【0147】
ステップ2.プロファイルHMMを作成する
アラインメントさせた配列のセットに対して、デフォルト・パラメーターを用いたhmmbuildプログラムを実行した。hmmbuildは、多重配列アラインメントファイルを読み取り、新しいプロファイルHMMを作成し、そのプロファイルHMMをファイルに保管する。このプログラムを用いて、上述のサブユニット配列のそれぞれのセットについて多重アラインメントから未較正のプロファイルを生成させた。
【0148】
HMMERソフトウェアのユーザーガイドに基づく以下の情報は、hmmbuildプログラムがプロファイルHMMを作成する仕方に関する幾らかの説明となるものである。プロファイルHMMは、ギャップアラインメント(gapped alignments)(例えば、挿入および削除を含む)をモデル化することができ、それにより、ソフトウェアは(単なる小さなギャップなしのモチーフではなく)完全な保存ドメインを記述することになる。挿入および削除は、挿入(I)状態および削除(D)状態を用いてモデル化される。間隙文字の特定小数部xより多くを含むカラムはすべて、挿入カラムとして割り当てられることになる。デフォルトでは、xは0.5に設定される。それぞれの一致状態は、それに関連づけられたI状態とD状態を有する。HMMERは、アラインメント「ノード」内の同じコンセンサス位置で3つの状態(M/D/I)のグループを呼び出す。これらの状態は、状態遷移確率と呼ばれる矢印で互いに連結される。MおよびIの状態はエミッター(emitter)であり、D状態はサイレント(silent)である。遷移は、各ノードにおいて、M状態を使用する(また残基がアラインメントされ、点数が入る)か、またはD状態を使用する(また残基はアラインメントされず、削除間隙文字「−」が入る)かのいずれかとなるように配列される。ノード間で挿入が発生し、I状態が自己遷移を持つと、コンセンサスカラム間に1個または複数個の挿入残基が入るのが許される。
【0149】
一致状態の残基の点数(すなわち、一致状態エミッション点数(match state emission scores))、または挿入状態の残基の点数(すなわち、挿入状態エミッション点数)は、Log_2(p_x)/(null_x)に比例する。ここで、p_xは、プロファイルHMMに従ったアラインメント内の特定位置でのアミノ酸残基の確率であり、null_xは、ヌルモデル(Null model)に従った確率である。ヌルモデルは、SWISSPROTリリース24でのアミノ酸分布から得られる20個のアミノ酸のそれぞれについて事前に計算されたエミッション確率を有する、単純な1つの状態の確率論的モデルである。
【0150】
状態遷移点数もlog oddsパラメーターとして計算され、これはLog_2(t_x)に比例する。ここで、t_xはエミッターまたは非エミッター状態に遷移する確率である。
【0151】
ステップ3.プロファイルHMMの較正
hmmcalsibrateを用いて、プロファイルHMMを読み取ったが、hmmcalibrateは、そのプロファイルを用いて多数の合成ランダム配列に点数を付け(使用される合成配列の、デフォルトの数は5,000である)、極値分布(EVD)をそれらの点数のヒストグラムに当てはめ、こうしてEVDパラメーターが入れられたHMMファイルを再び保管するものである。タンパク質配列データベースに対してプロファイルの検索を実行する時に、こうしたEVDパラメーター(μおよびλ)を用いてビット点数(bit scores)のE値を計算する。hmmcalibrateは、2つのパラメーターをHMMファイルの「EVD」のラベルの付けられた行に書き込む:これらのパラメーターは、SWISS−PROTとほぼ同じ長さおよび残基組成のランダム生成配列に関して計算された点数のヒストグラムにもっともうまく当てはまる極値分布(EVD)のμ(場所)およびλ(スケール)パラメーターである。この較正は、プロファイルHMMに関して一度行った。
【0152】
DHADの配列セットに関する較正プロファイルHMMを、表1に示す。プロファイルHMMを、アミノ酸配列内の各位置にくる各アミノ酸の確率を示す図表で示す。最高確率は、位置ごとに強調表示してある。それぞれの位置の最初の行は、一致エミッション点数(各アミノ酸がその状態にある確率(最高点数は強調表示されている))を示している。第2行は挿入エミッション点数を示し、第3行は状態遷移点数を示している(M→M、M→I、M→D;I→M、I→I;D→M、D→D;B→M;M→E)。
【0153】
例えば、DHADのプロファイルHMMは、メチオニンが第1位置にある確率が1757(強調表示されている最大確率)であることを示す。第2位置では、グルタミン酸が最大確率を持ち、それは1356である。第3位置では、リジンが最大確率を持ち、それは1569である。
【0154】
ステップ4.作成したプロファイルHMMの特異性および敏感度の試験
プロファイルHMMは、hmmsearchを用いて評価したが、hmmsearchは、プロファイルHMMをhmmfileから読み取って著しく類似した配列の一致がないか配列ファイルを探すものである。検索した配列ファイルには976個の配列が含まれていた(上記を参照)。この検索の間、データベースのサイズ(Zパラメーター)は10億に設定されていた。このサイズ設定により、現行データベースに対する有意のE値は、当面の間は有意のままとなることが確実にされる。E値カットオフを10に設定した。
【0155】
実験的に検証済みの機能を有する8個のDHADのアラインメントから生成されたプロファイルHMMを用いたhmmer検索では、E値が<10−5で、976個の配列すべてと一致した。この結果は、デヒドラターゼのスーパーファミリーのメンバーが有意の配列類似性を共有していることを示す。10−5のE値のカットオフでhmmer検索を使用して、上述のようにして、DHAD関連デヒドラターゼを他のいっそう遠縁の(但し、関連した)タンパク質から分けた。
【0156】
実施例2
大腸菌(E.coli)内での細菌性[2Fe−2S]ジヒドロキシ酸デヒドラターゼの発現および特性決定
種々のバクテリアのilvDコード領域(これは、実施例1に記載した系統発生分析から、[2Fe−2S]群内にある)は、大腸菌(E.coli)内のベクターpET28a(Novagen)のT7プロモーターの制御下で発現した。それぞれのilvDコード領域を、NheI制限酵素部位を有する特定の順方向プライマーおよびNotI制限酵素部位を有する特定の逆方向プライマー(表5に列挙)を用いて増幅した。
【0157】
【表15】

【0158】
それぞれの細菌性株のゲノムDNAをテンプレートとして使用した。ゲノムDNAは、表1に列挙されているそれぞれの菌株から、MasterPure DNA Purification Kit(Epicentre,Madison,WI)を使用して作成した。プラスミドベクターを、プライマーpET28a−F(NotI)(配列番号:397)およびpET28a−R(NheI)(配列番号:398)で増幅して、hisタグ領域を除去した。遺伝子フラグメントおよびプラスミドフラグメントの両方を、NheIおよびNotIで消化してから連結した。連結混合物を大腸菌(E.coli)(Top 10)のコンピテント細胞(Invitrogen)に入れて形質転換した。形質転換体は、50μg/mlのカナマイシンで補われたLB寒天平板で成長させた。シークエンシングで確認した陽性クローンを、発現のために大腸菌(E.coli)Tuner(DE3)株(Novagen)に入れて形質転換した。選択したコロニーを、カナマイシンで補われたLB液体培地中で、30℃で成長させた。大腸菌(E.coli)培養物が600nmで0.3から0.4のO.D.に達したときに、0.5mMのIPTGを加えて誘導を実施した。5時間の誘導後に培養物を回収した。細胞のペレットをトリス緩衝液(pH8.0)で洗った。
【0159】
未精製抽出物の酵素活性を37℃で以下のように試験した。DHADに関して試験する細胞を、2から5倍の量の50mM Tris、10mM MgSO(pH8.0)(TM8)緩衝液中に懸濁させ、その後0℃で超音波処理によって破壊した。破壊細胞からの未精製抽出物を遠心分離して、細胞の残屑をペレット状にした。上澄みを除去し、試験まで氷上に保存した(最初の試験は細胞破壊の2時間以内に行った)。ここで試験したDHADは、氷上に保持された未精製抽出物内で数時間安定していたことが分かった。少量の試料を液体Nの中で凍らせて−80℃で貯蔵した場合、活性も維持された。
【0160】
上澄みは、FlintおよびEmptage(J.Biol.Chem.(1988)263:3558−64)によって説明されているように、試薬である2,4−ジニトロフェニルヒドラジンを用いて試験した。活性が高すぎたため、正確な試験を行うために未精製の抽出物を希釈する必要が生じた場合、5mg/ml BSA−TM8で希釈した。
【0161】
BSAを標準として用い、Pierce Better Bradford試薬(カタログの23238)を使用してタンパク質試験を行った。必要に応じて、タンパク質試験用の希釈液をTM8緩衝液で作った。
【0162】
大腸菌(E.coli)内で発現された場合、DHADはすべて活性であった。比活性を表6に示す。ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)からのDHADの比活性がもっとも高かった。
【0163】
【表16】

【0164】
実施例3
大腸菌(E.coli)内で発現されたストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)からのDHADの精製および特性決定
S.ミュータンス(S.mutans)からのDHADをさらに精製し、特性を決定した。S.ミュータンス(S.mutans)DHADを精製するために、S.ミュータンス(S.mutans)ilvDを有するpET28aプラスミドを内部に持つ大腸菌(E.coli)Tuner株の培養物6リットルを成長させ、IPTGで誘導した。細胞を(実施例2に記載されているようにして)、10mM MgClを含んでいる50mMトリス緩衝液(pH8.0)(TM8緩衝液)中で破壊し、遠心処理で細胞残屑を除去し、次いで未精製の抽出物の上澄みをQセファロース(GE Healthcare)カラムに注加し、TM8緩衝液中のNaCl濃度を増大させながらDHADを溶出させることにより、酵素を精製した。DHADを含む分画(外観の色に基づく)(褐色はFe−Sクラスターが存在するせいである)をためて、Sephacryl S−100(GE Healthcare)カラムに注加し、TM8緩衝液で溶出させた。SDSゲルで判定した場合、Sephacrylカラムから溶出したタンパク質の純度は60から80%であると推定された。部分的に精製された酵素の活性を、Flintら(J.Biol.Chem.(1988)263(8):3558−64)が述べているようにして37℃で試験した。その精製タンパク質の比活性は40μmol 分−1mg−1であった。精製酵素のkcatは、50から70秒−1であると推定された。
【0165】
様々な時間間隔の間、周囲空気の存在下において精製酵素を23℃で温置し、その後、上述の活性試験を行って、空気中での精製DHADの安定性を詳しく調べた。ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)からのDHADの活性は、大腸菌(E.coli)からの同様に精製されたDHADとは対照的に、図4に示すように、72時間温置した後であっても安定していた。図4では、(A)は、S.ミュータンス(S.mutans)DHADの場合の結果を示し、(B)は大腸菌(E.coli)DHADの場合の結果を示す。
【0166】
精製S.ミュータンス(S.mutans)の紫外・可視スペクトルを図5に示す。300nmより上のピークの数は、[2Fe−2S]クラスターを有するタンパク質に特有である。S.ミュータンス(S.mutans)DHADを亜ジチオン酸ナトリウムで還元し、様々な温度でEPRスペクトルを取った。図6は、20°Kから70°Kの間の温度で測定したスペクトルを示す。S.ミュータンス(S.mutans)のEPRスペクトルが最高70°Kまで測定可能であるということは、それが[2Fe−2S]クラスターを含んでいることを示している。例えば、[4Fe−4S]クラスターを含んでいるタンパク質のEPRスペクトルは、10°Kよりかなり上の温度では観察できないことはよく知られている。(例えば、Rupp,et al.Biochimica et Biophysica Acta(1978)537:255−269を参照)
【0167】
実施例4
ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)のジヒドロキシ酸デヒドラターゼ(DHAD)発現カセットの作成
この実施例の目的は、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)PN0512(ATCC PTA−7727)内で、種々の細菌源からのジヒドロキシ酸デヒドラターゼ遺伝子(ilvD)をクローン化し発現させる方法を説明することである。ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)亜種ラクティス(lactis)NCDO2118(NCIMB 702118)[Godon et al.,J.Bacteriol.(1992)174:6580−6589]からのilvD遺伝子およびストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)UA159(ATCC 700610)からのilvD遺伝子を、L.プランタルム(L.plantarum)PN0512内でクローン化し発現させるために、シャトルベクターpDM1(配列番号:410)を使用した。プラスミドpDM1は、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)ATCC14917のプラスミドpLF1からの最小のpLF1レプリコン(〜0.7Kbp)およびpemK−pemI毒素抗毒素混合物(TA)、pACYC184からのP15Aレプリコン、大腸菌(E.coli)およびL.プランタルム(L.plantarum)の両方での選択用クロラムフェニコールマーカー、およびP30合成プロモーター[Rud et al、Microbiology(2006)152:1011−1019]を含む。プラスミドpLF1(C.−F.Lin et al.,GenBank受入番号AF508808)は、プラスミドp256[Sorvig et al.、Microbiology(2005)151:421−431]と密接に関連しており、そのコピー数は、L.プランタルム(L.plantarum)NC7の染色体当たり〜5から10コピーであると推定された。P30合成プロモーターは、乳酸菌(LAB)中の最強プロモーターの中の1つであることが知られているL.プランタルム(L.plantarum)のrRNAプロモーター[Rud et al.Microbiology(2005)152:1011−1019]から誘導した。
【0168】
ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)のilvDコード領域(配列番号:231)は、プライマー3T−ilvDLI(BamHI)(配列番号:408)および5B−ilvDLI(NotI)(配列番号:409)を含むラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)亜種ラクティス(lactis)NCDO2118のゲノムDNAからPCR増幅した。L.ラクティス(L.lactis)亜種ラクティス(lactis)NCDO2118のゲノムDNAは、Puregene Gentra Kit(QIAGEN,CA)を用いて調製した。1.7KbpのL.ラクティス(L.lactis)ilvD PCR産物(ilvDLI)をNotIで消化し、DNAポリメラーゼのKlenowフラグメントで処理して、平滑末端を作った。得られたL.ラクティス(L.lactis)のilvDコード領域フラグメントをBamHIで消化し、QIAGENゲル抽出キット(QIAGEN,CA)を用いてゲル精製した。プラスミドpDM1をApaLIで消化し、DNAポリメラーゼのKlenowフラグメントで処理して平滑末端を作り、その後、BamHIで消化した。ゲル精製したL.ラクティス(L.lactis)のilvDコード領域フラグメントを、プラスミドpDM1のBamHI部位およびApaLI(平滑末端化)部位に連結した。連結混合物を大腸菌(E.coli)Top10細胞(Invitrogen,CA)に入れて形質転換した。選択するために、形質転換体をLBクロラムフェニコール平板上に蒔いた。SalIによる消化によって陽性クローンを選別して、期待サイズが5.3Kbpである1つのフラグメントを得た。陽性クローンはDNAシークエンシングによってさらに確認した。正しいクローンにpDM1−ilvD(L.ラクティス(L.lactis))という名前を付けた。
【0169】
プラスミドpET28aからのS.ミュータンス(S.mutans)UA159(ATCC 700610)ilvDコード領域を、プラスミドpDM1上にクローン化した。S.ミュータンス(S.mutans)ilvDを含むpET28aの作成は、実施例2で説明した。S.ミュータンス(S.mutans)のilvDを含むプラスミドpET28aをXbaIおよびNotIで消化し、DNAポリメラーゼのKlenowフラグメントで処理して平滑末端を作り、S.ミュータンス(S.mutans)のilvDコード領域を含む1,759bpフラグメントをゲル精製した。プラスミドpDM1をBamHIで消化し、DNAポリメラーゼのKlenowフラグメントで処理して平滑末端を作り、その後、PvuIIで消化した。S.ミュータンス(S.mutans)のilvDコード領域を含むゲル精製フラグメントを、プラスミドpDM1のBamHI(平滑末端化)部位およびPvuII部位に連結した。連結混合物を大腸菌(E.coli)Top10細胞(Invitrogen,CA)に入れて形質転換した。選択するために、形質転換体をLBクロラムフェニコール平板上に蒔いた。ClaIによる消化によって陽性クローンを選別して、期待サイズが5.5Kbpである1つのフラグメントを得た。正しいクローンに、pDM1−ilvD(S.ミュータンス(S.mutans))という名前を付けた。
【0170】
実施例5
L.プランタルム(L.plantarum)PN0512内の発現されたDHAD活性の測定
L.プランタルム(L.plantarum)PN0512を、電気穿孔法によりプラスミドpDM1−ilvD(L.ラクティス(L.lactis))またはpDM1−ilvD(S.ミュータンス(S.mutans))で形質転換した。エレクトロコンピテント細胞(electro−competent cells)を以下の手順で作成した。1%のグリシンを含む5mlの乳酸菌(Lactobacilli)MRS培地に、PN0512細胞を接種し、30℃で一晩成長させた。1%のグリシンを含む100mlのMRS培地に、一晩培養物をOD600=0.1になるまで接種し、30℃でOD600=0.7になるまで成長させた。細胞は、3700 × g、8min、4℃で回収し、100mlの冷たい1mM MgClで洗浄し、3700 × g、8min、4℃で遠心分離し、100mlの冷たい30%PEG−1000(81188,Sigma−Aldrich,St.Louis,MO)で洗浄し、3700 × g、20min、4℃で再遠心分離し、その後、1mlの冷たい30%PEG−1000中に再懸濁させた。60μlのエレクトロコンピテント細胞を、冷たい1mmのギャップ電気穿孔キュベット中で〜100ngのプラスミドDNAと混合し、BioRad Gene Pulser(Hercules,CA)内において、1.7kV、25μF、および400Ωで電気穿孔した。500mMスクロースと100mM MgClとを含む1mlのMRS培地中に細胞を再懸濁させ、30℃で2時間培養してから、10μg/mlのクロラムフェニコールを含むMRS培地板に蒔いた。
【0171】
pDM1−ilvD(L.ラクティス(L.lactis))またはpDM1−ilvD(S.ミュータンス(S.mutans))を持っているL.プランタルム(L.plantarum)PN0512の形質転換体、ならびにpDM1ベクターのみを有する対照形質転換体を、30℃において乳酸菌(Lactobacilli)MRS培地中で一晩成長させた。100mM MOPS(pH7.5)、40μMクエン酸第二鉄、0.5mM L−システイン、および10μg/mlのクロラムフェニコールで補われた120mlのMRS培地に、それぞれの一晩試料について、125mlのねじ蓋フラスコ中でOD600=0.1になるまで一晩培養物を接種した。培養物は、OD600が1から2までの間に達するまで、37℃で嫌気的に培養した。培養物は、4℃において3700 × gで10分間遠心分離した。ペレットは、50mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.2)(6.2g/L KHPOおよび1.2g/L KHPO)で洗浄し、再び遠心分離した。DHAD活性の試験が行われるまで、ペレットを−80℃で凍結させ保存した。実施例2に記載されているようにジニトロフェニルヒドラジンに基づく方法を用いて、細胞抽出試料をDHAD活性について試験した。DHAD活性の結果を表7に示す。L.プランタルム(L.plantarum)PN0512内のL.ラクティス(L.lactis)DHADおよびS.ミュータンス(S.mutans)DHADの比活性は、それぞれ0.02および0.06μmol 分−1 mg−1であることが示されたが、ベクターの対照試料は検出可能な活性を示さなかった。
【0172】
【表17】

【0173】
実施例6
酵母菌内でのS.ミュータンス(S.mutans)からのジヒドロキシ酸デヒドラターゼの発現
ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)からのDHADを発現させるために、シャトルベクターpRS423 FBA ilvD(Strep)(配列番号:430)を用いた。このシャトルベクターは、大腸菌(E.coli)内での維持のためのF1複製オリジン(1423から1879)および酵母菌内での複製のための2ミクロンオリジン(2 micron origin)(nt 8082から9426)を含んでいた。ベクターは、FBAプロモーター(nt 2111から3108;配列番号:425)およびFBAターミネーター(nt 4861から5860)を有している。さらに、それは、酵母菌内での選択用のHisマーカー(nt 504から1163)および大腸菌(E.coli)内での選択用のアンピシリン耐性マーカー(nt 7092から7949)を持っている。ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)UA159(ATCC 700610)のilvDコード領域(nt 3116から4828)は、FBAプロモーターとFBAターミネーターとの間にあり、発現のためのキメラ遺伝子を形成する。
【0174】
酵母菌株BY4741(当該技術分野において知られており、ATCCから入手可能(#201388))内でのストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)からのDHADの発現を試験するために、発現ベクターpRS423 FBA IlvD(Strep)を、空ベクターpRS426と組み合わせてBY4741細胞(ATCCから入手可能(#201388))に入れて形質転換した。形質転換体を、ヒスチジンおよびウラシルの含まれていない合成培地(Teknova)上で成長させた。試験のための液体培地上での成長は、5mlの一晩培養物を250mlフラスコ内の100ml培地に加えることにより行わせた。培養物は、600nmで1から2のO.D.に達したときに回収した。試料を10mlの20mM Tris(pH7.5)で洗浄してから、1mlの同じトリス緩衝液中に再懸濁させた。試料を、0.1mmシリカ(Lysing Matrix B,MP biomedicals)を含んでいる2.0ml管の中に移した。次いで、細胞をビーズビーター(bead−beater)(BIO101)内で破壊した。4℃、13,000rpmでの30分間の微量遠心管での遠心分離によって、上澄みを得た。典型的には、0.06から0.1mgの未精製抽出物のタンパク質を、FlintおよびEmptage(J.Biol.Chem.(1988)263(8):3558−64)が述べているようにして、37℃でジニトロフェニルヒドラジンを用いたDHAD試験法に使用した。ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)からのデヒドラターゼは、酵母菌内で発現させた場合、比活性が0.24μmol 分−1mg−1であった。空ベクターpRS423およびpRS426を含んでいる対照株は、バックグラウンド活性が0.03から0.06μmol 分−1mg−1であった。
【0175】
実施例7
酵母菌内でのL.ラクティス(L.lactis)からのIlvD遺伝子の発現
L.ラクティス(L.lactis)からのilvDコード領域を、順方向プライマーIlvD(Ll)−F(配列番号:420)および逆方向プライマーIlvD(Ll)−R(配列番号:421)で増幅した。増幅フラグメントは、ギャップ修復によってシャトルベクターpNY13内にクローン化した。pNY13(配列番号:437)はpRS423から得た。このシャトルベクターは、大腸菌(E.coli)内での維持用のF1複製オリジン(1423から1879)および酵母菌内での複製用の2ミクロンオリジン(nt 7537から8881)を含んでいた。このベクターは、FBAプロモーター(nt 2111から3110)およびFBAターミネーター(nt 4316から5315)を有している。さらに、それは、酵母菌内での選択用のHisマーカー(nt 504から1163)および大腸菌(E.coli)内での選択用のアンピシリン耐性マーカー(nt 6547から7404)を持っている。
【0176】
陽性クローンは、ilvDコード領域用の順方向および逆方向プライマーによる増幅に基づいて選択し、さらにシークエンシングによって確認した。この新しい作成物をpRS423 FBA ilvD(L.ラクティス(L.lactis))と名付けた。この作成物を、実施例6に記載した空ベクターpRS426と一緒に酵母菌株BY4743(ΔLEU1)(Open Biosystems,Huntsville,AL;Catalog ♯YSC1021−666629)に入れて形質転換した。発現ベクターを含んでいる酵母菌株の成長および試験も、実施例6に記載した手順に従って実施した。L.ラクティス(L.lactis)のIlvD遺伝子を有する酵母菌株内のジヒドロキシ酸デヒドラターゼ活性を測定すると、0.05から0.17μmol分−1mg−1の範囲になった。この活性は対照よりもやや大きかった。相補性実験を実施して、このDHADおよび他のバクテリアからのDHADの発現を調査した(実施例8)。
【0177】
実施例8
細菌性DHADによるILV3欠失酵母菌株の補完
S.セレビシエ(S.cerevisiae)の内生DHAD酵素は、ILV3遺伝子によってコード化され、タンパク質はミトコンドリアを標的にする。この遺伝子の欠失の結果として、内生DHAD活性が失われ、またこの遺伝子の欠失により異種性細胞質ゾルDHAD活性の発現を容易に試験できる試験株が得られる。ILV3の欠失の結果として、分枝鎖アミノ酸の非存在下では菌株は成長できなくなる。種々の細菌性DHADの発現は、ILV3欠失酵母菌株を補完してそれが分枝鎖アミノ酸の非存在下で成長するようになる能力を測定することによって試験した。
【0178】
表8に列挙されているバクテリアからのDHADをコード化するilvD遺伝子配列を含んでいる発現シャトルベクターを作成した。こうした発現作成物の基礎要素は、実施例6に記載したpRS423 FBA ilvD(strep)ベクターと同じであった。それぞれのilvDコード領域は、実施例2に記載したようにPCRで作成し、さらにクローン化して、pRS423 FBA ilvD(Strep)内にあるストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)ilvDコード領域と置換して、表8に列挙されているプラスミドを作成した。こうした発現作成物をILV3欠失株に入れて形質転換し、BY4741 ilv3::URA3を以下のようにして作成した。プライマー「ILV3::URA3 F」および「ILV3::URA3 R」(配列番号:431および432として示す)を含んでいるpRS426(ATCC No.77107)からのURA3マーカーをPCR増幅して、ilv3::URA3破壊カセット(disruption cassette)を作成した。こうしたプライマーにより、相同組換え用のILV3染色体座の配列の上流および下流と等しい70bpの5’および3’延長部(extensions )を含んでいる1.4kb URA3 PCR産物が作り出された。標準遺伝子操作(Methods in Yeast Genetics,2005,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY,pp.201−202)を用いて、PCR産物をBY4741細胞(ATCC 201388)に入れて形質転換し、得られた形質転換体を、2%グルコースで補われたウラシルを含んでいない完全な合成培地上で30℃において維持した。形質転換体は、プライマー「ILV3 Fチェック」および「URA3 REVチェック」(これらを配列番号:433および434として示す)を用いてPCRによって選別して、正しい部位での組込みおよび内生ILV3座の破壊を確認した。
【0179】
表8の細菌性DHADを有する形質転換体を、ヒスチジンを含まない酵母菌合成培地を有する平板上で選択した。その後、選択したコロニーを、バリン、ロイシンおよびイソロイシンを含まない平板上に斑点状に付着させた。表8に列挙した発現ベクターを含んでいる菌株は、分枝鎖アミノ酸を含まないそうした平板上で成長することができたが、対照プラスミドを持つ対照菌株は成長できなかった。この結果は、こうしたバクテリアからのDHADは、S.セレビシエ(S.cerevisiae)内で活発に発現されたことを示した。
【0180】
【表18】

【0181】
実施例9
大腸菌(E.coli)内で発現されるラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)からのDHADの精製および特性決定
L.ラクティス(L.lactis)からのDHADを精製し、特性を決定した。L.ラクティス(L.lactis)DHADを精製するために、L.ラクティス(L.lactis)ilvDを含んでいるpET28aプラスミドを内部に持つ大腸菌(E.coli)Tuner(DE3)株(Novagen)の培養物14リットルを成長させ、IPTGで誘導した。細胞を、10mM MgClを含む50mMトリス緩衝液(pH8.0)(TM8緩衝液)120ml中で(実施例2に記載したようにして)破壊し、遠心処理して細胞残屑を除去し、その後、未精製の抽出物の上澄みを5×15cmのQ Sepharose(GE Healthcare)カラムに注加し、TM8緩衝液中のNaClの濃度を増大させながらDHADを溶出させることにより、酵素を精製した。DHADを含んでいる分画をため、(NHSOが1Mとなるようにし、1M (NHSO−TM8緩衝液で平衡化された2.6×15cmのフェニル−Sepharose(GE Healthcare)カラムに注加し、(NHSOを減少させながら溶出させた。フェニル−Sepharoseカラムから出るDHADを含んでいる分画をためて、濃縮して10mlにする。これを3.5×60cmのSuperdex−200カラム(GE Healthcare)に注加し、TM8を用いて溶出させた。DHAD活性のある分画をためて、濃縮し、N2(l)中でビーズとして凍結させた。SDSゲルで判定すると、Superdex−200カラムから溶出したタンパク質の純度は>80%であると推定された。酵素の活性は、Flintら(J.Biol.Chem.(1988)263(8):3558−64)が述べているようにして37℃で試験した。精製タンパク質の比活性は、pH8および37℃において、64μmol分−1mg−1であった。精製酵素のkcatは、71秒−1であった。
【0182】
空気中での精製DHADの安定性を、様々な時間間隔の間、周囲空気の存在下において精製酵素を23℃で温置し、その後、上述のように活性試験を行って詳しく調べた。L.ラクティス(L.lactis)からのDHADは、図8に示すように、空気中に20時間温置した後でさえほとんど完全な活性状態であった。
【0183】
精製L.ラクティス(L.lactis)の紫外・可視スペクトルを図9に示す。これは[2Fe−2S]クラスターを有するタンパク質に特有のものである。
【0184】
実施例10
酵母菌でのイソブタノール産生経路を構成するためのジヒドロキシ酸デヒドラターゼの使用
イソブタノール生合成経路の最初の3つのステップは、酵素であるアセト乳酸合成酵素、ケトール酸レダクトイソメラーゼ(KARI)、およびジヒドロキシ酸デヒドラターゼによって行われる。アセト乳酸合成酵素はalsSによってコード化されている。KARI遺伝子は、酵母菌内のILV5またはバクテリア内のilvCとして知られている。いったんα−ケトイソ吉草酸(KIV)がこれら3種類の酵素の反応によってピルベートから形成されると、それは酵母菌内でアルコールデヒドロゲナーゼによってイソブタノールにさらに変換することができる。
【0185】
KARIおよびalsS遺伝子を発現するようにベクターpLH532(配列番号:411)を作成した。このベクターは、2ミクロン系のベクターpHR81から誘導される。pLH532では、枯草菌(B.subtilis)からのalsSコード領域(nt 14216から15931)は、CUP1プロモーター(nt.15939から16386)の制御下にあった。pLH532には次のような2種類のKARI遺伝子があった:P.フルオレッセンス(P.fluorescens)Pf5からのilvCコード領域(nt.10192から11208)は、酵母菌のILV5プロモーター(nt.11200から12390)の制御下にあり、酵母菌のILV5コード領域(nt.8118から9167)はFBAプロモーター(nt.7454から8110)の制御下にあった。選択マーカーはURA3(nt.3390から4190)であった。
【0186】
イソブタノール産生用の酵母菌宿主は、BY4741 pdc1::FBAp−alsS−LEU2であった。この菌株は次のようにして作成した。最初に、発現プラスミドpRS426−FBAp−alsSを作成した。pRS426::GPD::alsS::CYCの1.7kbのalsSコード領域フラグメントを、BbvCIおよびPacIによる消化に続いてゲル精製を行って分離した。このプラスミドは、GPDプロモーター(配列番号:439)、バシラス・サチリス(Bacillus subtilis)からのalsSコード領域(配列番号:438)、およびCYC1ターミネーター(配列番号:440)を含んでいるキメラ遺伝子を有している。これについては、米国特許出願公開第20070092957A1号明細書(これを参照により本明細書に援用する)の実施例17に記載されていた。プラスミドpRS426::FBA::ILV5::CYCからのILV5フラグメント(これも、米国特許出願公開第20070092957号明細書の実施例17に記載)を、BbvCIおよびPacIによる制限消化によって除去し、残りの6.6kbのベクターフラグメントをゲル精製した。このベクターは、S.セレビシエ(S.cerevisiae)のILV5遺伝子のコード領域の境界を示すFBAプロモーター(配列番号:425)とCYC1ターミネーター(配列番号:442)とを含んでいるキメラ遺伝子を有する。これら2種類の精製フラグメントを16℃で一晩連結し、大腸菌(E.coli)TOP10の化学的コンピテント細胞(Invitrogen)に入れて形質転換した。形質転換体は、LB Amp100培地に細胞を蒔くことによって得た。ベクターへのalsSの挿入は、制限消化パターンおよびPCRによって確認した(プライマーN98SeqF1およびN99SeqR2、配列番号:412および413)。
【0187】
pdc1::FBAp−alsS−LEU2破壊カセットは、SOE PCR(Horton et al.(1989)Gene 77:61−68に記載)によって、pRS426−FBAp−alsSからのFBAp−alsSセグメントをpRS425(ATCC No.77106)からのLEU2遺伝子に結合することによって作成した。その際に、テンプレートとしてpRS426−FBAp−alsSおよびpRS425プラスミドDNAを使用し、Phusion DNAポリメラーゼ(New England Biolabs Inc.,Beverly,MA;catalog no.F−540S)およびプライマー112590−48Aおよび112590−30BからDまで(配列番号:414、配列番号:415、416、および417として示す)を用いて行った。SOE PCR用の外側プライマー(outer primers)(112590−48Aおよび112590−30D)は、PDC1のプロモーターおよびターミネーターの上流および下流にある領域と類似した50bpの5’および3’領域を含んでいた。完成したカセットPCRフラグメントをBY4741(ATCC No.201388)に入れて形質転換し、形質転換体を、30℃において、ロイシンを含んでいない2%グルコースで補われた合成完全培地上に維持したが、その際に標準遺伝子操作(Methods in Yeast Genetics,2005,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY,pp.201−202)を用いて行った。形質転換体は、プライマー112590−30Eおよび112590−30F(配列番号:419および418として示される)を用いてPCRで選別して、PDC1座での組込みとPDC1コード領域の欠損を確認した。正しい形質転換体は、BY4741 pdc1::FBAp−alsS−LEU2の遺伝子型を有している。
【0188】
ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)からのilvDコード化DHADをイソブタノールの生合成に使用できるかどうかをテストするために、このilvDを含んでいる発現ベクター(実施例6で作成されたpRS423 FBA ilvD(strep))を、ベクターpLH532と一緒に酵母菌株BY4741 pdc1::FBAp−alsS−LEU2に入れて同時形質転換した。コンピテント細胞の作成、形質転換、および形質転換体選択用の増殖培地は、実施例6に記載されているのと同じであった。選択したコロニーは、酸素制限条件下で20mlの栓付き血清瓶内の15mlの培地で成長させた。瓶は、30℃において225回転/minの一定速度のシェーカー内で温置した。48時間温置した後、イソブタノールが存在するかどうかについて試料をHPLCで分析した。HPLC分析の結果を図7に示す。イソブタノールの存在は、47.533minの保持時間におけるピークによって示された。この結果により、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)からのilvD遺伝子の発現、ならびにalsSおよびKARI遺伝子の発現により、酵母菌内でイソブタノールが産生したことが分かった。
【0189】
実施例11
更新されたデータベースに問い合わせて更なる[2Fe−2S]ジヒドロキシ酸デヒドラターゼを同定する
更新された公共データベースへ、後ほど別の問い合わせを行って、新たに配列された[2Fe−2S]ジヒドロキシ酸デヒドラターゼを見つけた。95%同一性カットオフの場合、1425個の配列の最初のセットが、実施例1「系統発生分析」に記載されているようなデータベース問い合わせから生成された。その後、実施例1に記載されているように、多重配列アラインメントをClustal Wで実施した。その後、配列は、S.ミュータンス(S.mutans)DHADの中の位置に対応する位置にある以下の保存残基に関して分析を行った:位置56、129、および201のシステイン、位置88のアスパラギン酸、位置142のアルギニンまたはアスパラギン、位置208のアスパラギン、および位置454のロイシン。193個からなる元々のセットに加えて、バクテリアからの88個の新規の[2Fe−2S]ジヒドロキシ酸デヒドラターゼが同定された。それらを表2bに列挙する。
【0190】
【表19】

【0191】
【表20】

【0192】
【表21】

【0193】
【表22】

【0194】
【表23】

【0195】
【表24】

【0196】
【表25】

【0197】
【表26】

【0198】
【表27】

【0199】
【表28】

【0200】
【表29】

【0201】
【表30】

【0202】
【表31】

【0203】
【表32】

【0204】
【表33】

【0205】
【表34】

【0206】
【表35】

【0207】
【表36】

【0208】
【表37】

【0209】
【表38】

【0210】
【表39】

【0211】
【表40】

【0212】
【表41】

【0213】
【表42】

【0214】
【表43】

【0215】
【表44】

【0216】
【表45】

【0217】
【表46】

【0218】
【表47】

【0219】
【表48】

【0220】
【表49】

【0221】
【表50】

【0222】
【表51】

【0223】
【表52】

【0224】
【表53】

【0225】
【表54】

【0226】
【表55】

【0227】
【表56】

【0228】
【表57】

【0229】
【表58】

【0230】
【表59】

【0231】
【表60】

【0232】
【表61】

【0233】
【表62】

【0234】
【表63】

【0235】
【表64】

【0236】
【表65】

【0237】
【表66】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
[2Fe−2S]DHAD酵素を同定するための方法であって、
a)配列番号:164、168、230、232、298、310、344、および346のタンパク質を使用して作成されたプロファイル隠れマルコフモデルを用いて1つまたは複数のアミノ酸配列を問い合わせるステップであって、E値が10−5未満である一致により第1サブセットの配列が提供され、また前記第1サブセットの配列が1種または複数種のDHAD関連タンパク質に対応する、問い合わせステップと;
b)ステップ(a)の1種または複数種のDHAD関連タンパク質に対応する前記第1サブセットの配列を、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)ジヒドロキシ酸デヒドラターゼのアミノ酸配列(配列番号:168)内の位置56、129、および201に対応する3個の保存システインが存在するかどうかについて分析するステップであって、[2Fe−2S]DHAD酵素をコード化する第2サブセットの配列が同定される、分析ステップと;
c)ステップ(b)の前記第2サブセットの配列を、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)DHADのアミノ酸配列(配列番号:168)内の各位置に対応する位置にサイン保存アミノ酸(位置88のアスパラギン酸、位置142のアルギニンまたはアスパラギン、位置208のアスパラギン、および位置454のロイシン)が存在するかどうかについて分析するステップであって、[2Fe−2S]DHAD酵素をコード化する第3サブセットの配列がさらに同定される、分析ステップと
を含む、[2Fe−2S]DHAD酵素を同定するための方法。
【請求項2】
d)ステップa)、b)、およびc)のいずれか1つまたは全部によって同定できる配列を有するポリペプチドを細胞内で発現させるステップと、
e)前記ポリペプチドが前記細胞内でDHAD活性を有することを確認するステップとをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
d)ステップa)、b)、およびc)のいずれか1つまたは全部によって同定できる配列でコード化されたタンパク質を精製するステップと、
e)紫外・可視およびEPRスペクトロスコピーによって前記タンパク質が[2Fe−2S]DHAD酵素であることを確認するステップと
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ステップa)、b)、およびc)のいずれか1つまたは全部によって同定された細菌性[2Fe−2S]DHAD酵素の配列に対応する1つまたは複数の配列を選択することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記細胞には内生DHAD活性がない、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
d)細菌性[2Fe−2S]DHAD酵素の配列に対応する前記選択された1つまたは複数の配列を細胞内で発現させるステップと、
e)前記酵素の配列が細胞内でDHAD活性を有することを確認するステップと
をさらに含む、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
d)細菌性[2Fe−2S]DHAD酵素の配列に対応する前記選択された1つまたは複数の配列でコード化されたタンパク質を精製するステップであって、精製タンパク質が製造される、精製ステップと、
e)前記タンパク質が[2Fe−2S]DHAD酵素であることを紫外・可視およびEPRスペクトロスコピーによって確認するステップと
をさらに含む、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法によって同定できる少なくとも1種の異種[2Fe−2S]DHAD酵素を含む微生物宿主細胞。
【請求項9】
前記細胞がバクテリア細胞または酵母菌細胞である、請求項8に記載の微生物宿主細胞。
【請求項10】
前記バクテリア宿主細胞が、クロストリジウム属(Clostridium)、ジモモナス属(Zymomonas)、エシェリキア属(Escherichia)、サルモネラ属(Salmonella)、ロドコッカス属(Rhodococcus)、シュードモナス属(Pseudomonas)、バシラス属(Bacillus)、ラクトバシラス属(Lactobacillus)、エンテロコッカス属(Enterococcus)、ペジオコックス属(Pediococcus)、アルカリゲネス属(Alcaligenes)、クレブシエラ属(Klebsiella)、パエニバチルス属(Paenibacillus)、アルトロバクター属(Arthrobacter)、コリネバクテリウム属(Corynebacterium)、およびブレビバクテリウム属(Brevibacterium)、ラクトコッカス属(Lactococcus)、ロイコノストック属(Leuconostoc)、オエノコッカス属(Oenococcus)、ペジオコックス属(Pediococcus)、および連鎖球菌属(Streptococcus)よりなる群から選択されるバクテリア属のメンバーである、請求項9に記載の微生物宿主細胞。
【請求項11】
前記酵母菌細胞が、サッカロミセス属(Saccharomyces)、シゾサッカロミセス属(Schizosaccharomyces)、ハンゼヌラ属(Hansenula)、カンジダ属(Candida)、クリベロミセス属(Kluyveromyces)、ヤロウイア属(Yarrowia)およびピキア属(Pichia)よりなる群から選択される酵母菌属のメンバーである、請求項9に記載の微生物宿主細胞。
【請求項12】
前記細胞がイソブタノールを産生する、請求項8に記載の微生物宿主細胞。
【請求項13】
a)請求項8に記載の微生物宿主細胞を用意するステップであって、前記宿主細胞がイソブタノール生合成経路を含む、用意するステップと、
b)イソブタノールが産生される条件下でステップ(a)の宿主細胞を成長させるステップと
を含む、イソブタノールの産生方法。
【請求項14】
a)請求項8に記載の微生物宿主および2,3−ジヒドロキシイソ吉草酸の供給源を用意するステップと、
b)前記2,3−ジヒドロキシイソ吉草酸がα−ケトイソ吉草酸に変換される条件下で(a)の微生物宿主細胞を成長させるステップと
を含む、2,3−ジヒドロキシイソ吉草酸をα−ケトイソ吉草酸に変換する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2012−503993(P2012−503993A)
【公表日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−529364(P2011−529364)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【国際出願番号】PCT/US2009/058827
【国際公開番号】WO2010/037112
【国際公開日】平成22年4月1日(2010.4.1)
【出願人】(310011310)ビュータマックス・アドバンスド・バイオフューエルズ・エルエルシー (24)
【Fターム(参考)】