組み付け構造、カップ状部材、その成形方法、及びディスク駆動装置
【課題】接着強度のさらなる向上とコストダウンを可能とする。
【解決手段】プレス成形された有底のカップ状部材である軸受ハウジング3を取付孔5に嵌合させて接着固定する組み付け構造であって、軸受ハウジング3の外周面3aの接着面に、凹部内部に複数の凸部9を備え又は凹部縁部にエッジ部11を備えて接着強度を高めるアンカー凹部7を設けた組み付け構造である。接着面の界面面積をアンカー凹部7により増加させることができ、且つアンカー凹部7内の界面面積を凹部内部の複数の凸部9又は凹部縁部のエッジ部11により増加させることができる。接着剤13が固化したとき凹部内部の複数の凸部9又は凹部縁部のエッジ部11に係合させることができる。
【解決手段】プレス成形された有底のカップ状部材である軸受ハウジング3を取付孔5に嵌合させて接着固定する組み付け構造であって、軸受ハウジング3の外周面3aの接着面に、凹部内部に複数の凸部9を備え又は凹部縁部にエッジ部11を備えて接着強度を高めるアンカー凹部7を設けた組み付け構造である。接着面の界面面積をアンカー凹部7により増加させることができ、且つアンカー凹部7内の界面面積を凹部内部の複数の凸部9又は凹部縁部のエッジ部11により増加させることができる。接着剤13が固化したとき凹部内部の複数の凸部9又は凹部縁部のエッジ部11に係合させることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハード・ディスク・ドライブ(HDD)などに供される組み付け構造、カップ状部材、その成形方法、及びディスク駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、HDD等のディスク駆動装置に動圧流体軸受を用いたものがある。
【0003】
図15は、従来のディスク駆動装置の要部断面図である。この図15のように、動圧流体軸受101は、シャフト103と、シャフト103が挿通される略円筒状のスリーブ105と、シャフト103とスリーブ105との間に充填されたオイル107とで構成されている。
【0004】
スリーブ105の外周面は、カップ状部材としての軸受ハウジング109の内周面に取り付けられ、シャフト103の上端部は、ロータ・ハブ111に取り付けられている。これらシャフト103、スリーブ105、軸受ハウジング109、ロータ・ハブ111それらで囲まれた空間には、オイル107が満たされている。
【0005】
シャフト103がスリーブ105に対して回転すると、径方向微少間隙に保持されているオイルがシャフト103の外周面とスリーブ105の内周面との間で動圧を発生させ、ラジアル(径方向)の荷重支持圧が発生する。また、同様にシャフト103がスリーブ105に対して回転すると、軸方向微少間隙に保持されているオイルが軸受ハウジング109上端面とロータ・ハブ111天板部の下面との間で動圧を発生させ、スラスト(軸方向)の荷重支持圧が発生する。
【0006】
こうしてロータ・ハブ111をベース113に対し円滑に回転させることができる。
【0007】
かかるディスク駆動装置の軸受ハウジング109は、ベース113の取付孔115に接着により固定される組み付け構造となっている。
【0008】
図16は、軸受ハウジングの接着面を含む外周面を拡大して模式的に示す軸受ハウジングの概略側面図である。軸受ハウジング109は、例えば旋削加工等の機械加工により形成され、接着面を構成する外周面109aの面粗度がRa=0.2程度に設定されている。
【0009】
したがって、外周面109aの旋削による山形の凹凸部により接着剤との界面面積を増加させることができ、界面強度を向上させることができる。
【0010】
しかし、接着面となる旋削加工の外周面109aは、機械加工上の制限から凹凸部の斜面の面積が小さくならず、接着剤自体の剥離破壊が発生し、接着強度の向上には限界があった。
【0011】
特に、軸受ハウジング109の場合には、モーター回転方向の接着強度が要求され、旋削方向に沿って剥離破壊が発生し易いという問題があった。
【0012】
これに対し、機械加工品である軸受ハウジング109にラップ材(研磨剤)を用いてラッピングを施し、外周面109aの面粗度をRa=0.02程度に小さくすることもできるが、加工工数が増加する上に面粗度が小さくなることで却って接着強度は低下する。
【0013】
一方、旋削加工の軸受ハウジング109は、相対的に高価であり、コストダウンの要求からプレス成形することも望まれている。
【0014】
しかし、プレス成形の軸受けハウジングは、外周面に旋削加工のような凹凸部が形成されず、図17の接着強度の比較グラフのように、旋削加工の軸受ハウジング109に対して20〜30%も接着強度が低下するという問題があり、プレス成形の軸受ハウジングを採用することができなかった。
【0015】
これに対し、図18のように軸受ハウジング109の外周面109aに横溝117を形成し、或いは図19のように軸受ハウジング109の外周面109aに縦溝119を形成して接着強度をある程度向上させることができる。
【0016】
この場合、横溝117は、円板状の基材表面に同心円の溝を予め形成し、この基材をプレス絞り成形することで軸受ハウジング109の外周面109aに形成することができる。
【0017】
しかし、基材表面に予め形成される同心円の溝が浅いとプレス成形により溝が消失し、溝が深いと軸受ハウジング109がプレス成形により溝で切れるため、プレス成形による横溝117の形成が困難となっていた。
【0018】
また、縦溝119を同様な手法でプレス成形する場合は、軸受ハウジング109の外径公差を満足することができなかった。
【0019】
一方、横溝117、縦溝119を軸受ハウジング109のプレス成形後に切削加工により形成すると、機械加工によるコストアップを招くだけでなく、外径交差や真円度の悪化を招いた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特開2007−247726号公報
【特許文献2】特開2007−14047号公報
【特許文献3】特開2007−274755号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
解決しようとする問題点は、旋削加工によるカップ状部材は、接着強度の向上に限界があると共に相対的に高価であり、プレス成形のカップ状部材は、相対的に安価ではあるが、旋削加工のカップ状部材に対して接着強度が低下する点である。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は、接着強度のさらなる向上とコストダウンを可能とするため、プレス成形された有底のカップ状部材を取付孔に嵌合させて接着固定する組み付け構造であって、前記カップ状部材の少なくとも接着面に、凹部内部に複数の凸部を備え又は凹部縁部にエッジ部を備えて接着強度を高めるアンカー凹部を設けたことを組み付け構造の特徴とする。
【0023】
本発明は、前記組み付け構造に用いる前記アンカー凹部を設けたカップ状部材を特徴とする。
【0024】
本発明は、板材をプレスにより規定寸法よりも深く絞り成形してカップ状部材半製品を形成し、前記カップ状部材半製品の底部を加圧して規定寸法のカップ状部材とする成形方法で、よりアンカー凹部を形成し易くなる。
【0025】
本発明は、前記組み付け構造を備えたディスク駆動装置であって、ベースに取り付けられた軸受ハウジングにスリーブ及び潤滑流体を介してシャフトを回転可能に支持する動圧流体軸受を備え、前記取付孔は、前記ベースに設けられ、前記カップ状部材は、前記取付孔に接着固定される前記軸受ハウジングであることをディスク駆動装置の特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明は、接着強度のさらなる向上とコストダウンを可能とするため、プレス成形された有底のカップ状部材を取付孔に嵌合させて接着固定する組み付け構造であって、前記カップ状部材の少なくとも接着面に、凹部内部に複数の凸部を備え又は凹部縁部にエッジ部を備えて接着強度を高めるアンカー凹部を設けた組み付け構造である。
【0027】
したがって、接着面の界面面積をアンカー凹部により増加させることができ、且つアンカー凹部内の界面面積を凹部内部の複数の凸部又は凹部縁部のエッジ部により増加させることができる。
【0028】
しかも、接着剤が固化したとき凹部内部の複数の凸部又は凹部縁部のエッジ部に係合させることができる。
【0029】
このため、接着剤のアンカー凹部に対する剥離破壊の発生が抑制され、カップ状部材と取付孔との接着強度のさらなる向上を図ることができる。
【0030】
しかも、プレス成形された有底のカップ状部材であるため、旋削加工等の機械加工によるものに比較して安価にすることができる。
【0031】
本発明は、前記組み付け構造に用いる前記アンカー凹部を設けたカップ状部材である。
【0032】
このため、前記組み付け構造の接着強度を向上させることができると共に、プレス成形により安価に製造することができる。
【0033】
本発明形態は、板材をプレスにより規定寸法よりも深く絞り成形してカップ状部材半製品を形成し、前記カップ状部材半製品の底部を加圧して規定寸法のカップ状部材とすることで、形成されやすい。
【0034】
このため、カップ状部材に、凹部内部に複数の凸部を備え又は凹部縁部にエッジ部を備えて接着強度を高めるアンカー凹部を設けることができる。
【0035】
本発明は、前記組み付け構造を備えたディスク駆動装置であって、ベースに取り付けられた軸受ハウジングにスリーブ及び潤滑流体を介してシャフトを回転可能に支持する動圧流体軸受を備え、前記取付孔は、前記ベースに設けられ、前記カップ状部材は、前記取付孔に接着固定される前記軸受ハウジングである。
【0036】
このため、動圧流体軸受の軸受ハウジングをベースの取付孔へ接着強度を向上させて組み付けることができる。
【0037】
しかも、プレス成形された有底の軸受ハウジングであるため、旋削加工等によるものに比較して安価な動圧流体軸受を備えたディスク駆動装置にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】動圧流体軸受を備えたディスク駆動装置のベース及び軸受ハウジングの接着部を模式的に示す拡大断面図である。(実施例1)
【図2】軸受ハウジングのアンカー凹部を工具顕微鏡により倍率100により半径方向から観察した写真である。(実施例1)
【図3】軸受ハウジングの特定のアンカー凹部を工具顕微鏡により倍率250により観察し、90°回転させた写真である。(実施例1)
【図4】軸受ハウジングの図3と同一箇所のアンカー凹部を工具顕微鏡により倍率1200により観察し、90°回転させた写真である。(実施例1)
【図5】軸受ハウジングの図3と同一箇所のアンカー凹部を工具顕微鏡により倍率3500により観察し、90°回転させた写真である。(実施例1)
【図6】軸受ハウジングの図3と同一箇所のアンカー凹部を工具顕微鏡により倍率3500により周方向傾斜位置から観察した写真である。(実施例1)
【図7】アンカー凹部の断面を模式的に示す拡大断面図である。(実施例1)
【図8】アンカー凹部を模式的に示した正面図である。(実施例1)
【図9】アンカー凹部の幅及び高さの最大値及び最小値を示す図表である。(実施例1)
【図10】軸受ハウジングの外周面を工具顕微鏡により観察した写真である。(比較例)
【図11】軸受ハウジングの外周面を工具顕微鏡により観察した写真である。(比較例)
【図12】軸受ハウジングの面粗度の測定結果の図表である。(実施例1,比較例)
【図13】面粗度と接着強度との関係を示すグラフである。(実施例1,比較例)
【図14】軸受ハウジングの成形方法の概略を示し、(a)は、軸受ハウジング半製品の概略正面図、(b)は、(a)のXIVb−XIVb線矢視に応じた部分断面図、(c)は、軸受ハウジングにアンカー凹部を形成する工程図、(d)は、(c)のXIVd−XIVd線矢視に応じた部分断面図である。(実施例1)
【図15】ディスク駆動装置の要部断面図である。(従来例)
【図16】軸受ハウジングの接着面を拡大して模式的に示す軸受ハウジングの側面図である。(従来例)
【図17】接着強度の比較グラフである。(従来例)
【図18】軸受ハウジングの側面図である。(従来例)
【図19】軸受ハウジングの側面図である。(従来例)
【発明を実施するための形態】
【0039】
接着強度のさらなる向上とコストダウンを可能にするという目的を、凹部内部に複数の凸部を備え又は凹部縁部にエッジ部を備えて接着強度を高めるアンカー凹部をプレス成形されたカップ状部材に形成して実現した。
【実施例1】
【0040】
[組み付け構造及びカップ状部材]
図1は、動圧流体軸受を備えたディスク駆動装置のベース及び軸受ハウジングの接着部を模式的に示す拡大断面図である。図1は、図15に対応し、例えば図15と同様に、ベース1に取り付けられた軸受ハウジング3にスリーブ(図示せず。)及び潤滑流体(図示せず。)を介してシャフト(図示せず。)を回転可能に支持する動圧流体軸受(図示せず。)を備えている。したがって、スリーブ等、図1に図示されていない構造は、図15を参照する。
【0041】
図1において、ディスク駆動装置は、ベース1に設けられた取付孔5に軸受ハウジング3を嵌合させて接着固定する組み付け構造を備えている。
【0042】
軸受ハウジング3は、ステンレスの板材をプレス成形した有底のカップ状部材である。この軸受ハウジング3の外周面3aには、アンカー凹部7が複数形成されている。このアンカー凹部7は、ランダムな形状で周方向横長に形成されている。アンカー凹部7は、取付孔5に対する接着面にも形成されており、カップ状部材である軸受ハウジング3の少なくとも接着面に、接着強度を高めるアンカー凹部7を設けた構成となっている。
【0043】
図2〜図6は、図1の軸受ハウジング3のアンカー凹部7を工具顕微鏡により倍率を変化させて観察した写真である。
【0044】
図2は、軸受ハウジングのアンカー凹部を工具顕微鏡により倍率100により半径方向から観察した写真である。図3は、軸受ハウジングの特定のアンカー凹部を工具顕微鏡により倍率250により観察し、90°回転させた写真である。図4は、軸受ハウジングの図3と同一箇所のアンカー凹部を工具顕微鏡により倍率1200により観察し、90°回転させた写真である。図5は、軸受ハウジングの図3と同一箇所のアンカー凹部を工具顕微鏡により倍率3500により観察し、90°回転させた写真である。図6は、軸受ハウジングの図3と同一箇所のアンカー凹部を工具顕微鏡により倍率3500により周方向傾斜位置から観察した写真である。
【0045】
図2は、図上の上下が図1の軸受ハウジング3の上下軸方向となっている。図3〜図6は、図上の上下が図1、図2の軸受ハウジング3の周方向となっている。
【0046】
図7は、図2〜図6の観察結果を基に模したアンカー凹部と接着剤との関係を示す断面模式図である。図7の上下は、図1の上下に対応している。
【0047】
図7のように、アンカー凹部7は、凹部内部に複数の凸部9を備え、凹部縁部にエッジ部11を備えている。取付孔5に軸受ハウジング3を嵌合させて接着剤13により接着固定すると、接着剤13がアンカー凹部7内に入り込み、凸部9或いはエッジ部11に係合するように固化する。
【0048】
このようにアンカー凹部7に接着剤13が入り込み固化して軸受ハウジング3を取付孔5に機械的に結合すると凸部9或いはエッジ部11によりいわゆるアンカー効果を高めることができる。
【0049】
図8は、アンカー凹部を模式的に示した正面図、図9は、アンカー凹部の幅及び高さの最大値及び最小値を示す図表である。
【0050】
図8において、アンカー凹部7の幅W、高さHを規定する。幅Wは、図1の軸受ハウジング3の外周面3a周方向の幅であり、高さHは、図1の軸受ハウジング3の軸方向の高さである。図9は、図2〜図6の観察結果である。
【0051】
図8,図9のように、アンカー凹部7の最大幅W(Max)は、0.192mm、最小幅W(Min)は、0.022mm、最大高さH(Max)は、0.019mm、最小高さH(Min)は、0.016mmであった。
【0052】
図10、図11は、比較例にかかり、軸受ハウジングの外周面を工具顕微鏡により観察した写真である。図10、図11は、倍率100であり、図2の観察に対応している。
【0053】
図10の軸受ハウジング3Aは、旋削加工による機械加工品であり、図11の軸受ハウジング3Bは、プレス加工によるプレス品である。
【0054】
図12は、図2、図10、図11の軸受ハウジング3,3A,3Bの面粗度Raの測定結果の図表である。図12中のXは、軸受ハウジング3,3A,3Bの周方向の面粗度、Yは、軸方向の面粗度を現している。
【0055】
図12のように、実施例1の軸受ハウジング3のX,Yの面粗度は、プレス品の軸受ハウジング3Bと同等である。軸受ハウジング3のXの面粗度は、比較例の機械加工品の軸受ハウジング3Aと同等であるのに対し、Yの面粗度は、1/10程度にすることができた。
【0056】
なお、軸受ハウジング3の表面粗さは、X,Yの双方でRa=0.05〜0.1の範囲で設定することができる。
【0057】
上記のように、切削加工では機械加工上の制限から凹凸部の斜面の面積が小さくならず、接着剤自体の剥離破壊が発生し、接着強度の向上には限界があった。
【0058】
また、機械加工品は、軸受ハウジングの外周径を小さくすると、斜面の界面面積が少なくなり、接着剤自体の破壊強度となる。
【0059】
これに対し、軸受ハウジング3の外周径を同様に小さくしても機械加工品のような斜面部を有さずにアンカー凹部7による面粗度の設定により界面面積を機械加工品と比較して大きくすることができる。
【0060】
このため、接着強度に係合力も働くことになり、機械加工品と比較して接着強度を強くすることができる。
【0061】
図13は、面粗度と接着強度との関係を示すグラフである。
【0062】
図13には、アンカー凹部が設けられた実施例のプレス品である面粗度Ra=0.04の実施例、機械加工品である軸受ハウジング3Aの面粗度Ra=0.2の比較例1、軸受ハウジング3Aの表面をラッピングして面粗度Ra=0.02とした比較例2、プレス品である軸受ハウジング3Bの面粗度Ra=0.04の比較例3の接着強度をそれぞれ示した。
【0063】
図13のように、比較例1の機械加工品である軸受ハウジング3Aの接着強度を100%としたとき、比較例3のプレス加工品である軸受ハウジング3Bの接着強度は、面粗度を小さくした機械加工品の比較例2と同等の接着強度80%であった。
【0064】
これに対し、比較例3のプレス加工品と同じ面粗度でも、実施例1は、アンカー凹部7の存在により120%の接着強度が得られた。
【0065】
これは、アンカー凹部7の凸部9或いはエッジ部11の存在に起因している。
[軸受ハウジングの成形方法]
図14は、軸受ハウジングの成形方法の概略を示し、(a)は、軸受ハウジング半製品の概略正面図、(b)は、(a)のXIVb−XIVb線矢視に応じた部分断面図、(c)は、軸受ハウジングにアンカー凹部を形成する工程図、(d)は、(c)のXIVd−XIVd線矢視に応じた部分断面図である。
【0066】
プレス工程により、円形のステンレス板材をプレスし、規定寸法の全長よりも2〜5%程度の割合で深く絞り成形し、図14(a)のようにカップ状部材半製品である軸受ハウジング半製品30を形成する。規定寸法よりも深く絞り成形することで、図14(a),(b)のように軸受ハウジング半製品30の外周表面に絞り方向に延びた凹部70が形成される。
【0067】
図14(c)の工程では、前記軸受ハウジング半製品30の外周面を治具15で把持させ、軸受ハウジング半製品30の底部をハンマー部材17により繰り返し叩くように加圧する。
【0068】
この加圧により図14(c),(d)のように外周表面にアンカー凹部7が複数形成され、規定寸法のカップ状部材である軸受ハウジング3が形成される。前記のように軸受ハウジング半製品30の底部をハンマー部材17により繰り返し叩くため、アンカー凹部7は、絞り方向で開口を潰すような断面形状を呈する。
【0069】
なお、治具15での把持力は、ハンマー部材17で叩いたときに軸受ハウジング3が外径側に広がらない程度である。ハンマー部材17により叩く回数は、少なくとも1回有ればよく、単なる加圧でも良い。
【0070】
このように、軸受ハウジング半製品30の底部をハンマー部材17により繰り返し叩くように加圧すると、図14(a),(b)の凹部70が変形し、図14(c),(d)のアンカー凹部7となる。
[実施例1の効果]
本発明実施例は、プレス成形された有底のカップ状部材である軸受ハウジング3を取付孔5に嵌合させて接着固定する組み付け構造であって、前記軸受ハウジング3の外周面3aの接着面に、凹部内部に複数の凸部9を備え又は凹部縁部にエッジ部11を備えて接着強度を高めるアンカー凹部7を設けた組み付け構造である。
【0071】
したがって、接着面の界面面積をアンカー凹部7により増加させることができ、且つアンカー凹部7内の界面面積を凹部内部の複数の凸部9又は凹部縁部のエッジ部11により増加させることができる。
【0072】
しかも、接着剤13が固化したとき凹部内部の複数の凸部9又は凹部縁部のエッジ部11に係合させることができる。
【0073】
このため、接着剤13のアンカー凹部7に対する剥離破壊の発生が抑制され、軸受ハウジング3と取付孔5との接着強度のさらなる向上を図ることができる。
【0074】
しかも、プレス成形された有底の軸受ハウジング3であるため、旋削加工等の機械加工によるものに比較して安価な組み付け構造にすることができる。
【0075】
前記軸受ハウジング3の表面粗さは、Ra=0.05〜0.1である。
【0076】
このため、従来のプレス品の軸受ハウジング3Bと同等の精度を維持しながら、接着強度を機械加工品である軸受ハウジング3Aよりも更に向上させることができる。
【0077】
前記組み付け構造は、前記アンカー凹部7を設けた軸受ハウジング3が用いられる。
【0078】
このため、前記組み付け構造の接着強度を向上させることができると共に、プレス成形により安価に製造することができる。
【0079】
ステンレスなどの板材をプレスにより規定寸法よりも深く絞り成形して軸受ハウジング半製品30を形成し、前記軸受ハウジング半製品30の底部を繰り返し叩いて加圧し、規定寸法の軸受ハウジング3とする。
【0080】
このため、軸受ハウジング3に、凹部内部に複数の凸部9を備え又は凹部縁部にエッジ部11を備えて接着強度を高めるアンカー凹部7を設けることができる。
【0081】
前記組み付け構造を備えたディスク駆動装置であって、ベース1に取り付けられた軸受ハウジング3にスリーブ及び潤滑流体を介してシャフトを回転可能に支持する動圧流体軸受を備え、前記取付孔5は、前記ベース1に設けられ、前記軸受ハウジング3は、前記取付孔5に接着固定される。
【0082】
このため、動圧流体軸受の軸受ハウジング3をベース1の取付孔5へ接着強度を向上させて組み付けることができる。
【0083】
しかも、プレス成形された有底の軸受ハウジング3であるため、旋削加工等の機械加工によるものに比較して安価な動圧流体軸受を備えたディスク駆動装置にすることができる。
[その他]
本発明のカップ状部材は、ディスク駆動装置の軸受ハウジング3以外にも適用することができ、取付孔に対する接着強度を向上させることができる。
【符号の説明】
【0084】
1 ベース
3 軸受ハウジング(カップ状部材)
5 取付孔
7 アンカー凹部
30 軸受ハウジング半製品(カップ状部材半製品)
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハード・ディスク・ドライブ(HDD)などに供される組み付け構造、カップ状部材、その成形方法、及びディスク駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、HDD等のディスク駆動装置に動圧流体軸受を用いたものがある。
【0003】
図15は、従来のディスク駆動装置の要部断面図である。この図15のように、動圧流体軸受101は、シャフト103と、シャフト103が挿通される略円筒状のスリーブ105と、シャフト103とスリーブ105との間に充填されたオイル107とで構成されている。
【0004】
スリーブ105の外周面は、カップ状部材としての軸受ハウジング109の内周面に取り付けられ、シャフト103の上端部は、ロータ・ハブ111に取り付けられている。これらシャフト103、スリーブ105、軸受ハウジング109、ロータ・ハブ111それらで囲まれた空間には、オイル107が満たされている。
【0005】
シャフト103がスリーブ105に対して回転すると、径方向微少間隙に保持されているオイルがシャフト103の外周面とスリーブ105の内周面との間で動圧を発生させ、ラジアル(径方向)の荷重支持圧が発生する。また、同様にシャフト103がスリーブ105に対して回転すると、軸方向微少間隙に保持されているオイルが軸受ハウジング109上端面とロータ・ハブ111天板部の下面との間で動圧を発生させ、スラスト(軸方向)の荷重支持圧が発生する。
【0006】
こうしてロータ・ハブ111をベース113に対し円滑に回転させることができる。
【0007】
かかるディスク駆動装置の軸受ハウジング109は、ベース113の取付孔115に接着により固定される組み付け構造となっている。
【0008】
図16は、軸受ハウジングの接着面を含む外周面を拡大して模式的に示す軸受ハウジングの概略側面図である。軸受ハウジング109は、例えば旋削加工等の機械加工により形成され、接着面を構成する外周面109aの面粗度がRa=0.2程度に設定されている。
【0009】
したがって、外周面109aの旋削による山形の凹凸部により接着剤との界面面積を増加させることができ、界面強度を向上させることができる。
【0010】
しかし、接着面となる旋削加工の外周面109aは、機械加工上の制限から凹凸部の斜面の面積が小さくならず、接着剤自体の剥離破壊が発生し、接着強度の向上には限界があった。
【0011】
特に、軸受ハウジング109の場合には、モーター回転方向の接着強度が要求され、旋削方向に沿って剥離破壊が発生し易いという問題があった。
【0012】
これに対し、機械加工品である軸受ハウジング109にラップ材(研磨剤)を用いてラッピングを施し、外周面109aの面粗度をRa=0.02程度に小さくすることもできるが、加工工数が増加する上に面粗度が小さくなることで却って接着強度は低下する。
【0013】
一方、旋削加工の軸受ハウジング109は、相対的に高価であり、コストダウンの要求からプレス成形することも望まれている。
【0014】
しかし、プレス成形の軸受けハウジングは、外周面に旋削加工のような凹凸部が形成されず、図17の接着強度の比較グラフのように、旋削加工の軸受ハウジング109に対して20〜30%も接着強度が低下するという問題があり、プレス成形の軸受ハウジングを採用することができなかった。
【0015】
これに対し、図18のように軸受ハウジング109の外周面109aに横溝117を形成し、或いは図19のように軸受ハウジング109の外周面109aに縦溝119を形成して接着強度をある程度向上させることができる。
【0016】
この場合、横溝117は、円板状の基材表面に同心円の溝を予め形成し、この基材をプレス絞り成形することで軸受ハウジング109の外周面109aに形成することができる。
【0017】
しかし、基材表面に予め形成される同心円の溝が浅いとプレス成形により溝が消失し、溝が深いと軸受ハウジング109がプレス成形により溝で切れるため、プレス成形による横溝117の形成が困難となっていた。
【0018】
また、縦溝119を同様な手法でプレス成形する場合は、軸受ハウジング109の外径公差を満足することができなかった。
【0019】
一方、横溝117、縦溝119を軸受ハウジング109のプレス成形後に切削加工により形成すると、機械加工によるコストアップを招くだけでなく、外径交差や真円度の悪化を招いた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特開2007−247726号公報
【特許文献2】特開2007−14047号公報
【特許文献3】特開2007−274755号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
解決しようとする問題点は、旋削加工によるカップ状部材は、接着強度の向上に限界があると共に相対的に高価であり、プレス成形のカップ状部材は、相対的に安価ではあるが、旋削加工のカップ状部材に対して接着強度が低下する点である。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は、接着強度のさらなる向上とコストダウンを可能とするため、プレス成形された有底のカップ状部材を取付孔に嵌合させて接着固定する組み付け構造であって、前記カップ状部材の少なくとも接着面に、凹部内部に複数の凸部を備え又は凹部縁部にエッジ部を備えて接着強度を高めるアンカー凹部を設けたことを組み付け構造の特徴とする。
【0023】
本発明は、前記組み付け構造に用いる前記アンカー凹部を設けたカップ状部材を特徴とする。
【0024】
本発明は、板材をプレスにより規定寸法よりも深く絞り成形してカップ状部材半製品を形成し、前記カップ状部材半製品の底部を加圧して規定寸法のカップ状部材とする成形方法で、よりアンカー凹部を形成し易くなる。
【0025】
本発明は、前記組み付け構造を備えたディスク駆動装置であって、ベースに取り付けられた軸受ハウジングにスリーブ及び潤滑流体を介してシャフトを回転可能に支持する動圧流体軸受を備え、前記取付孔は、前記ベースに設けられ、前記カップ状部材は、前記取付孔に接着固定される前記軸受ハウジングであることをディスク駆動装置の特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明は、接着強度のさらなる向上とコストダウンを可能とするため、プレス成形された有底のカップ状部材を取付孔に嵌合させて接着固定する組み付け構造であって、前記カップ状部材の少なくとも接着面に、凹部内部に複数の凸部を備え又は凹部縁部にエッジ部を備えて接着強度を高めるアンカー凹部を設けた組み付け構造である。
【0027】
したがって、接着面の界面面積をアンカー凹部により増加させることができ、且つアンカー凹部内の界面面積を凹部内部の複数の凸部又は凹部縁部のエッジ部により増加させることができる。
【0028】
しかも、接着剤が固化したとき凹部内部の複数の凸部又は凹部縁部のエッジ部に係合させることができる。
【0029】
このため、接着剤のアンカー凹部に対する剥離破壊の発生が抑制され、カップ状部材と取付孔との接着強度のさらなる向上を図ることができる。
【0030】
しかも、プレス成形された有底のカップ状部材であるため、旋削加工等の機械加工によるものに比較して安価にすることができる。
【0031】
本発明は、前記組み付け構造に用いる前記アンカー凹部を設けたカップ状部材である。
【0032】
このため、前記組み付け構造の接着強度を向上させることができると共に、プレス成形により安価に製造することができる。
【0033】
本発明形態は、板材をプレスにより規定寸法よりも深く絞り成形してカップ状部材半製品を形成し、前記カップ状部材半製品の底部を加圧して規定寸法のカップ状部材とすることで、形成されやすい。
【0034】
このため、カップ状部材に、凹部内部に複数の凸部を備え又は凹部縁部にエッジ部を備えて接着強度を高めるアンカー凹部を設けることができる。
【0035】
本発明は、前記組み付け構造を備えたディスク駆動装置であって、ベースに取り付けられた軸受ハウジングにスリーブ及び潤滑流体を介してシャフトを回転可能に支持する動圧流体軸受を備え、前記取付孔は、前記ベースに設けられ、前記カップ状部材は、前記取付孔に接着固定される前記軸受ハウジングである。
【0036】
このため、動圧流体軸受の軸受ハウジングをベースの取付孔へ接着強度を向上させて組み付けることができる。
【0037】
しかも、プレス成形された有底の軸受ハウジングであるため、旋削加工等によるものに比較して安価な動圧流体軸受を備えたディスク駆動装置にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】動圧流体軸受を備えたディスク駆動装置のベース及び軸受ハウジングの接着部を模式的に示す拡大断面図である。(実施例1)
【図2】軸受ハウジングのアンカー凹部を工具顕微鏡により倍率100により半径方向から観察した写真である。(実施例1)
【図3】軸受ハウジングの特定のアンカー凹部を工具顕微鏡により倍率250により観察し、90°回転させた写真である。(実施例1)
【図4】軸受ハウジングの図3と同一箇所のアンカー凹部を工具顕微鏡により倍率1200により観察し、90°回転させた写真である。(実施例1)
【図5】軸受ハウジングの図3と同一箇所のアンカー凹部を工具顕微鏡により倍率3500により観察し、90°回転させた写真である。(実施例1)
【図6】軸受ハウジングの図3と同一箇所のアンカー凹部を工具顕微鏡により倍率3500により周方向傾斜位置から観察した写真である。(実施例1)
【図7】アンカー凹部の断面を模式的に示す拡大断面図である。(実施例1)
【図8】アンカー凹部を模式的に示した正面図である。(実施例1)
【図9】アンカー凹部の幅及び高さの最大値及び最小値を示す図表である。(実施例1)
【図10】軸受ハウジングの外周面を工具顕微鏡により観察した写真である。(比較例)
【図11】軸受ハウジングの外周面を工具顕微鏡により観察した写真である。(比較例)
【図12】軸受ハウジングの面粗度の測定結果の図表である。(実施例1,比較例)
【図13】面粗度と接着強度との関係を示すグラフである。(実施例1,比較例)
【図14】軸受ハウジングの成形方法の概略を示し、(a)は、軸受ハウジング半製品の概略正面図、(b)は、(a)のXIVb−XIVb線矢視に応じた部分断面図、(c)は、軸受ハウジングにアンカー凹部を形成する工程図、(d)は、(c)のXIVd−XIVd線矢視に応じた部分断面図である。(実施例1)
【図15】ディスク駆動装置の要部断面図である。(従来例)
【図16】軸受ハウジングの接着面を拡大して模式的に示す軸受ハウジングの側面図である。(従来例)
【図17】接着強度の比較グラフである。(従来例)
【図18】軸受ハウジングの側面図である。(従来例)
【図19】軸受ハウジングの側面図である。(従来例)
【発明を実施するための形態】
【0039】
接着強度のさらなる向上とコストダウンを可能にするという目的を、凹部内部に複数の凸部を備え又は凹部縁部にエッジ部を備えて接着強度を高めるアンカー凹部をプレス成形されたカップ状部材に形成して実現した。
【実施例1】
【0040】
[組み付け構造及びカップ状部材]
図1は、動圧流体軸受を備えたディスク駆動装置のベース及び軸受ハウジングの接着部を模式的に示す拡大断面図である。図1は、図15に対応し、例えば図15と同様に、ベース1に取り付けられた軸受ハウジング3にスリーブ(図示せず。)及び潤滑流体(図示せず。)を介してシャフト(図示せず。)を回転可能に支持する動圧流体軸受(図示せず。)を備えている。したがって、スリーブ等、図1に図示されていない構造は、図15を参照する。
【0041】
図1において、ディスク駆動装置は、ベース1に設けられた取付孔5に軸受ハウジング3を嵌合させて接着固定する組み付け構造を備えている。
【0042】
軸受ハウジング3は、ステンレスの板材をプレス成形した有底のカップ状部材である。この軸受ハウジング3の外周面3aには、アンカー凹部7が複数形成されている。このアンカー凹部7は、ランダムな形状で周方向横長に形成されている。アンカー凹部7は、取付孔5に対する接着面にも形成されており、カップ状部材である軸受ハウジング3の少なくとも接着面に、接着強度を高めるアンカー凹部7を設けた構成となっている。
【0043】
図2〜図6は、図1の軸受ハウジング3のアンカー凹部7を工具顕微鏡により倍率を変化させて観察した写真である。
【0044】
図2は、軸受ハウジングのアンカー凹部を工具顕微鏡により倍率100により半径方向から観察した写真である。図3は、軸受ハウジングの特定のアンカー凹部を工具顕微鏡により倍率250により観察し、90°回転させた写真である。図4は、軸受ハウジングの図3と同一箇所のアンカー凹部を工具顕微鏡により倍率1200により観察し、90°回転させた写真である。図5は、軸受ハウジングの図3と同一箇所のアンカー凹部を工具顕微鏡により倍率3500により観察し、90°回転させた写真である。図6は、軸受ハウジングの図3と同一箇所のアンカー凹部を工具顕微鏡により倍率3500により周方向傾斜位置から観察した写真である。
【0045】
図2は、図上の上下が図1の軸受ハウジング3の上下軸方向となっている。図3〜図6は、図上の上下が図1、図2の軸受ハウジング3の周方向となっている。
【0046】
図7は、図2〜図6の観察結果を基に模したアンカー凹部と接着剤との関係を示す断面模式図である。図7の上下は、図1の上下に対応している。
【0047】
図7のように、アンカー凹部7は、凹部内部に複数の凸部9を備え、凹部縁部にエッジ部11を備えている。取付孔5に軸受ハウジング3を嵌合させて接着剤13により接着固定すると、接着剤13がアンカー凹部7内に入り込み、凸部9或いはエッジ部11に係合するように固化する。
【0048】
このようにアンカー凹部7に接着剤13が入り込み固化して軸受ハウジング3を取付孔5に機械的に結合すると凸部9或いはエッジ部11によりいわゆるアンカー効果を高めることができる。
【0049】
図8は、アンカー凹部を模式的に示した正面図、図9は、アンカー凹部の幅及び高さの最大値及び最小値を示す図表である。
【0050】
図8において、アンカー凹部7の幅W、高さHを規定する。幅Wは、図1の軸受ハウジング3の外周面3a周方向の幅であり、高さHは、図1の軸受ハウジング3の軸方向の高さである。図9は、図2〜図6の観察結果である。
【0051】
図8,図9のように、アンカー凹部7の最大幅W(Max)は、0.192mm、最小幅W(Min)は、0.022mm、最大高さH(Max)は、0.019mm、最小高さH(Min)は、0.016mmであった。
【0052】
図10、図11は、比較例にかかり、軸受ハウジングの外周面を工具顕微鏡により観察した写真である。図10、図11は、倍率100であり、図2の観察に対応している。
【0053】
図10の軸受ハウジング3Aは、旋削加工による機械加工品であり、図11の軸受ハウジング3Bは、プレス加工によるプレス品である。
【0054】
図12は、図2、図10、図11の軸受ハウジング3,3A,3Bの面粗度Raの測定結果の図表である。図12中のXは、軸受ハウジング3,3A,3Bの周方向の面粗度、Yは、軸方向の面粗度を現している。
【0055】
図12のように、実施例1の軸受ハウジング3のX,Yの面粗度は、プレス品の軸受ハウジング3Bと同等である。軸受ハウジング3のXの面粗度は、比較例の機械加工品の軸受ハウジング3Aと同等であるのに対し、Yの面粗度は、1/10程度にすることができた。
【0056】
なお、軸受ハウジング3の表面粗さは、X,Yの双方でRa=0.05〜0.1の範囲で設定することができる。
【0057】
上記のように、切削加工では機械加工上の制限から凹凸部の斜面の面積が小さくならず、接着剤自体の剥離破壊が発生し、接着強度の向上には限界があった。
【0058】
また、機械加工品は、軸受ハウジングの外周径を小さくすると、斜面の界面面積が少なくなり、接着剤自体の破壊強度となる。
【0059】
これに対し、軸受ハウジング3の外周径を同様に小さくしても機械加工品のような斜面部を有さずにアンカー凹部7による面粗度の設定により界面面積を機械加工品と比較して大きくすることができる。
【0060】
このため、接着強度に係合力も働くことになり、機械加工品と比較して接着強度を強くすることができる。
【0061】
図13は、面粗度と接着強度との関係を示すグラフである。
【0062】
図13には、アンカー凹部が設けられた実施例のプレス品である面粗度Ra=0.04の実施例、機械加工品である軸受ハウジング3Aの面粗度Ra=0.2の比較例1、軸受ハウジング3Aの表面をラッピングして面粗度Ra=0.02とした比較例2、プレス品である軸受ハウジング3Bの面粗度Ra=0.04の比較例3の接着強度をそれぞれ示した。
【0063】
図13のように、比較例1の機械加工品である軸受ハウジング3Aの接着強度を100%としたとき、比較例3のプレス加工品である軸受ハウジング3Bの接着強度は、面粗度を小さくした機械加工品の比較例2と同等の接着強度80%であった。
【0064】
これに対し、比較例3のプレス加工品と同じ面粗度でも、実施例1は、アンカー凹部7の存在により120%の接着強度が得られた。
【0065】
これは、アンカー凹部7の凸部9或いはエッジ部11の存在に起因している。
[軸受ハウジングの成形方法]
図14は、軸受ハウジングの成形方法の概略を示し、(a)は、軸受ハウジング半製品の概略正面図、(b)は、(a)のXIVb−XIVb線矢視に応じた部分断面図、(c)は、軸受ハウジングにアンカー凹部を形成する工程図、(d)は、(c)のXIVd−XIVd線矢視に応じた部分断面図である。
【0066】
プレス工程により、円形のステンレス板材をプレスし、規定寸法の全長よりも2〜5%程度の割合で深く絞り成形し、図14(a)のようにカップ状部材半製品である軸受ハウジング半製品30を形成する。規定寸法よりも深く絞り成形することで、図14(a),(b)のように軸受ハウジング半製品30の外周表面に絞り方向に延びた凹部70が形成される。
【0067】
図14(c)の工程では、前記軸受ハウジング半製品30の外周面を治具15で把持させ、軸受ハウジング半製品30の底部をハンマー部材17により繰り返し叩くように加圧する。
【0068】
この加圧により図14(c),(d)のように外周表面にアンカー凹部7が複数形成され、規定寸法のカップ状部材である軸受ハウジング3が形成される。前記のように軸受ハウジング半製品30の底部をハンマー部材17により繰り返し叩くため、アンカー凹部7は、絞り方向で開口を潰すような断面形状を呈する。
【0069】
なお、治具15での把持力は、ハンマー部材17で叩いたときに軸受ハウジング3が外径側に広がらない程度である。ハンマー部材17により叩く回数は、少なくとも1回有ればよく、単なる加圧でも良い。
【0070】
このように、軸受ハウジング半製品30の底部をハンマー部材17により繰り返し叩くように加圧すると、図14(a),(b)の凹部70が変形し、図14(c),(d)のアンカー凹部7となる。
[実施例1の効果]
本発明実施例は、プレス成形された有底のカップ状部材である軸受ハウジング3を取付孔5に嵌合させて接着固定する組み付け構造であって、前記軸受ハウジング3の外周面3aの接着面に、凹部内部に複数の凸部9を備え又は凹部縁部にエッジ部11を備えて接着強度を高めるアンカー凹部7を設けた組み付け構造である。
【0071】
したがって、接着面の界面面積をアンカー凹部7により増加させることができ、且つアンカー凹部7内の界面面積を凹部内部の複数の凸部9又は凹部縁部のエッジ部11により増加させることができる。
【0072】
しかも、接着剤13が固化したとき凹部内部の複数の凸部9又は凹部縁部のエッジ部11に係合させることができる。
【0073】
このため、接着剤13のアンカー凹部7に対する剥離破壊の発生が抑制され、軸受ハウジング3と取付孔5との接着強度のさらなる向上を図ることができる。
【0074】
しかも、プレス成形された有底の軸受ハウジング3であるため、旋削加工等の機械加工によるものに比較して安価な組み付け構造にすることができる。
【0075】
前記軸受ハウジング3の表面粗さは、Ra=0.05〜0.1である。
【0076】
このため、従来のプレス品の軸受ハウジング3Bと同等の精度を維持しながら、接着強度を機械加工品である軸受ハウジング3Aよりも更に向上させることができる。
【0077】
前記組み付け構造は、前記アンカー凹部7を設けた軸受ハウジング3が用いられる。
【0078】
このため、前記組み付け構造の接着強度を向上させることができると共に、プレス成形により安価に製造することができる。
【0079】
ステンレスなどの板材をプレスにより規定寸法よりも深く絞り成形して軸受ハウジング半製品30を形成し、前記軸受ハウジング半製品30の底部を繰り返し叩いて加圧し、規定寸法の軸受ハウジング3とする。
【0080】
このため、軸受ハウジング3に、凹部内部に複数の凸部9を備え又は凹部縁部にエッジ部11を備えて接着強度を高めるアンカー凹部7を設けることができる。
【0081】
前記組み付け構造を備えたディスク駆動装置であって、ベース1に取り付けられた軸受ハウジング3にスリーブ及び潤滑流体を介してシャフトを回転可能に支持する動圧流体軸受を備え、前記取付孔5は、前記ベース1に設けられ、前記軸受ハウジング3は、前記取付孔5に接着固定される。
【0082】
このため、動圧流体軸受の軸受ハウジング3をベース1の取付孔5へ接着強度を向上させて組み付けることができる。
【0083】
しかも、プレス成形された有底の軸受ハウジング3であるため、旋削加工等の機械加工によるものに比較して安価な動圧流体軸受を備えたディスク駆動装置にすることができる。
[その他]
本発明のカップ状部材は、ディスク駆動装置の軸受ハウジング3以外にも適用することができ、取付孔に対する接着強度を向上させることができる。
【符号の説明】
【0084】
1 ベース
3 軸受ハウジング(カップ状部材)
5 取付孔
7 アンカー凹部
30 軸受ハウジング半製品(カップ状部材半製品)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレス成形された有底のカップ状部材を取付孔に嵌合させて接着固定する組み付け構造であって、
前記カップ状部材の少なくとも接着面に、凹部内部に複数の凸部を備え又は凹部縁部にエッジ部を備えて接着強度を高めるアンカー凹部を設けた、
ことを特徴とする組み付け構造。
【請求項2】
請求項1に記載の組み付け構造であって、
前記カップ状部材の表面粗さは、Ra=0.05〜0.1である、
ことを特徴とする組み付け構造。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の組み付け構造に用いる前記アンカー凹部を設けたカップ状部材。
【請求項4】
請求項3に記載のカップ状部材であって、
板材をプレスにより規定寸法よりも深く絞り成形してカップ状部材半製品を形成し、
前記カップ状部材半製品の底部を加圧して規定寸法のカップ状部材とする、
ことを特徴とするカップ状部材の成形方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の組み付け構造を備えたディスク駆動装置であって、
ベースに取り付けられた軸受ハウジングにスリーブ及び潤滑流体を介してシャフトを回転可能に支持する動圧流体軸受を備え、
前記取付孔は、前記ベースに設けられ、
前記カップ状部材は、前記取付孔に接着固定される前記軸受ハウジングである、
ことを特徴とするディスク駆動装置。
【請求項1】
プレス成形された有底のカップ状部材を取付孔に嵌合させて接着固定する組み付け構造であって、
前記カップ状部材の少なくとも接着面に、凹部内部に複数の凸部を備え又は凹部縁部にエッジ部を備えて接着強度を高めるアンカー凹部を設けた、
ことを特徴とする組み付け構造。
【請求項2】
請求項1に記載の組み付け構造であって、
前記カップ状部材の表面粗さは、Ra=0.05〜0.1である、
ことを特徴とする組み付け構造。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の組み付け構造に用いる前記アンカー凹部を設けたカップ状部材。
【請求項4】
請求項3に記載のカップ状部材であって、
板材をプレスにより規定寸法よりも深く絞り成形してカップ状部材半製品を形成し、
前記カップ状部材半製品の底部を加圧して規定寸法のカップ状部材とする、
ことを特徴とするカップ状部材の成形方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の組み付け構造を備えたディスク駆動装置であって、
ベースに取り付けられた軸受ハウジングにスリーブ及び潤滑流体を介してシャフトを回転可能に支持する動圧流体軸受を備え、
前記取付孔は、前記ベースに設けられ、
前記カップ状部材は、前記取付孔に接着固定される前記軸受ハウジングである、
ことを特徴とするディスク駆動装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2010−270840(P2010−270840A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−123618(P2009−123618)
【出願日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【出願人】(000004640)日本発條株式会社 (1,048)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【出願人】(000004640)日本発條株式会社 (1,048)
【Fターム(参考)】
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