組み換えウイルスベクターを含む多価ワクチン
本発明は、組み換えアデノウイルスなどの組み換えベクターを含むワクチンに関する。該ベクターは、1種又は複数の結核を引き起こす桿菌由来の少なくとも2種の抗原をコードする異種の核酸を含む。また、本発明は、コードされる抗原が切断時に分離される抗原を連結する特異的なプロテアーゼ認識部位の使用にも関する。切断後、抗原は別個の様式で免疫反応に貢献する。組み換えベクターは、リンカーを切断し、抗原を分断するプロテアーゼをコードする核酸を含んでもよい。さらに、本発明は、組み換えベクターによってコードされる遺伝子アジュバントの使用に関し、当該遺伝子アジュバントも、切断可能なリンカー及び特異的なプロテアーゼの存在によって切断してもよい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組み換えDNA及びウイルスベクターのワクチンの分野に関し、特に、多数の抗原及び/又はアジュバントをコードする核酸を宿す組み換えDNA及びウイルスベクターに関する。
【背景技術】
【0002】
結核(tuberculosis、TB)は、数千年の間、ヒトの健康にとって主要な世界規模の驚異であり続けている。Mycobacterium tuberculosisによって引き起こされるTBは、空気伝染のM.tuberculosis桿菌に曝されることによって感染が引き起こされる肺の感染病である。この桿菌は、極めて感染しやすく、現在、世界の人口の約三分の一(20億人のヒト)が感染していると推測されている。さらに、TBによって、年間200万人を超える人々が死亡していると推測されている。5〜10%の免疫適格性のヒトのみTBに感受性が高く、それらのうち85%を越えるヒトがもっぱら肺において病気を発症し、一方で、HIVに感染したヒトもより容易に死を招く全身性の病気を発症している可能性がある。
【0003】
約90%のM.tuberculosisに感染したヒトは病気を発症していない。しかしながら、これらの潜在的に感染している個体において、桿菌は長年の間生存でき、例えばHIV感染後など免疫システムが弱くなった場合に再活性化することとなる。潜在性の性質により、感染した個体は、一般に最大12ヶ月までの間、いくつかの抗生物質の投与によって治療する必要があり、これは、コストと多剤耐性の発生の可能性があることから、概してあまり魅力のある治療ではなく、多くの発展途上国においてあまり有効な治療ではない。
【0004】
比較的成功しているTBワクチンが一つ開発されており、カルメット・ゲラン桿菌(BCG)ワクチンが20世紀の初期に作製され、1921年に最初に個体に与えられた。BCGワクチンは、ウシから得られたMycobacterium bovis分離菌を基にした細菌の弱毒株である。該ワクチンは比較的安全なワクチンであり、容易かつ多少安く製造される。2000年には、BCGワクチン接種は世界人口の86%に及んだ。しかしながら、ワクチンは成人の肺結核にあまり有効ではないようであり、発展途上国の多くの地域では、BCGワクチンプログラムにもかかわらず、未だにTBの割合が非常に高い。BCGワクチンによって、TBによる総てのワクチンで防ぐことが可能な死の5%しか防げないと推測されている(非特許文献1)。
【0005】
概してBCGワクチンの防御の割合がかなり低く、かつ小児期及び播種性のTBに関して特に防御するために、他の熱帯の感染病及びHIVに対するワクチン接種などの他の分野において得られた他のシステム及び知識に基づいて、新規な、より幅広く適用可能なTBに対するワクチンの開発により多くの努力がなされている(非特許文献2)。
【0006】
サブユニットのワクチン及びDNAワクチンからマイコバクテリウム株の改変にわたって、新規なTBワクチンを開発するために種々のアプローチがとられてきた。また、組み換えウイルスを基にしたワクチンも作製され、それによって、改変されたVaccinia Ankara(MVA)ベクター及び複製欠損アデノウイルスベクターなどの遺伝子送達媒体を介してM.tuberculosis抗原の抗原提示細胞への移動が可能となった。
【0007】
TBに対する裸DNAワクチンが特許文献1に記載されているが(特許文献2も参照)、組み換え型又は精製した状態のMycobacterium tuberculosis由来の多数の抗原をワクチン用途に使用することについて多くの報告がなされている(特許文献3〜15)。種々のTB抗原を含む融合タンパク質の使用も提案されており(特許文献8、16、17参照)、ESAT-6とMPT59(MPT59は、Ag85B又は85B抗原とも称される)との融合ポリペプチドの使用が開示されている。
【0008】
【特許文献1】国際公開第96/15241号パンフレット
【特許文献2】欧州特許出願公開第0792358号明細書
【特許文献3】国際公開第95/01441号パンフレット
【特許文献4】国際公開第95/14713号パンフレット
【特許文献5】国際公開第96/37219号パンフレット
【特許文献6】米国特許第6,599,510号明細書
【特許文献7】国際公開第98/31388号パンフレット
【特許文献8】国際公開第98/44119号パンフレット
【特許文献9】国際公開第99/04005号パンフレット
【特許文献10】国際公開第99/24577号パンフレット
【特許文献11】国際公開第00/21983号パンフレット
【特許文献12】国際公開第01/04151号パンフレット
【特許文献13】国際公開第01/79274号パンフレット
【特許文献14】国際公開第2004/006942号パンフレット
【特許文献15】米国特許出願公開第2002/0150592号明細書
【特許文献16】欧州特許出願公開第097205号明細書
【特許文献17】欧州特許出願公開第1449922号明細書
【非特許文献1】Kaufmann SHE (2000) Is the development of a new tuberculosis vaccine possible? Nat Med 6:955-960
【非特許文献2】Wang J and Xing Z (2002) Tuberculosis vaccines: the past, present and future. Expert Rev Vaccines 1(3):341-354
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
強力な細胞反応、強力な体液反応に加えて長期に渡る高い防御率も保証する結核に対するワクチンを作製するこれら総ての努力とそれ以外の努力にもかかわらず、そのようなワクチンは未だ利用可能となっていない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、組み換えウイルスベクター、好ましくは複製欠損アデノウイルス、より好ましくは組み換えヒトアデノウイルス抗原型Ad11、Ad24、AD26、AD34、Ad35、Ad48、Ad49及びAd50に関し、ウイルスベクターは、1種又は複数の結核を引き起こす桿菌由来の少なくとも2種の抗原の(融合)ポリペプチドをコードする異種の核酸配列を含む。コードされている抗原は直接結合している、すなわち1つの単独のポリペプチドを形成していてもよい。好ましい一実施態様において、共発現される特異的なプロテアーゼによって認識されるリンカー配列を介して結合しているという意味では、抗原は、前駆体のポリタンパク質中に存在する。異種の核酸は、プロテアーゼをコードする遺伝子を含んでもよい。直接結合を有する融合タンパク質は、融合産物中に存在する抗原により望ましい免疫反応を誘発するが、プロテアーゼ部位を含むタンパク質は、別々の個々の抗原の形状に切断され、それぞれ望ましい免疫反応に寄与する。プロテアーゼは、好ましくは細胞のプロテアーゼによって認識されるプロテアーゼ認識部位によって抗原に連結されている。両方の設定によって、単一の導入遺伝子をコードするユニットのみを含むウイルスベクターを用いたワクチン接種又は治療と比較して、追加の効果又は相乗効果が得られる。より一般的には、本発明は、プロテアーゼに特異的な切断部位によって分断された多数の抗原をコードする異種の核酸配列を含むウイルスベクターにも関する。当然のことながら、そのような抗原は、特に限定されないがウイルス、細菌及び寄生動物などの感染病原体を含めた多種多様の供給源由来であってもよく、従って、本発明の本態様に従って、結核を引き起こす桿菌由来の抗原であるが特に限定されない。Tuberculosis mycobacterium由来の抗原は、そのような多価ウイルスベクターワクチンをどのようにして作製するのか、ホスト細胞に移行した際にどのようにして抗原が分離し、免疫反応に寄与することができるのかについての例となるが、特に限定するものではない。
【0011】
また、本発明は、ウイルスベクターから共発現される遺伝子のアジュバントの使用にも関する。これらのアジュバントは、ウイルスベクターのゲノムに導入される異種の核酸配列の一部である核酸によってコードされる。アジュバントは特異的な抗原と共に発現され、それによって抗原に対する免疫反応を刺激することができる。明らかなのは、アジュバントをコードする配列は、抗原をコードする配列に直接連結されていてもよいが、プロテアーゼ認識部位をコードするリンカー配列によって1種又は複数の抗原をコードする配列と離れていることが好ましいことである。後者の場合、アジュバントは抗原と離れてホスト内に存在し、その免疫刺激効果を抗原と共にもたらすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、組み換えウイルスベクターを含む多価ワクチンに関する。好ましいウイルスベクターは組み換えアデノウイルス(Ad)ベクターである。本発明に従う組み換えアデノウイルスベクターは、少なくとも2種の異なる抗原をコードする異種の核酸配列を含む。抗原は単独のポリペプチド内であってもよい。これらの決定因子は、ウイルス、細菌及び寄生の病原体由来の抗原であるか、又は特に限定されないが自己免疫抗原もしくは腫瘍抗原などのホストの抗原であってもよい。好ましい実施態様において、抗原は、結核(TB)を引き起こす桿菌由来であり、より好ましくはMycobacterium tuberculosis、M. africanumもしくはM. bovis由来又はそれらの組み合わせ由来である。抗原は、全長の天然タンパク質、抗原とホストタンパク質もしくは模倣物(mimetic)とのキメラ融合物、病原体が起源である抗原のそれらの断片、又は望ましい免疫反応を依然として誘発する他の変異体であってもよい。本発明のウイルスベクターに通常用いることができるTB抗原をコードする遺伝子としては、Ag85A(MPT44)、Ag85B(MPT59)、Ag85C(MPT45)、TB10.4(CFP7)、ESAT-6、CFP7A、CFP7B、CFP8A、CFP8B、CFP9、CFP10、CFP10A、CFP11、CFP16、CFP17、CFP19、CFP19A、CFP19B、CFP20、CFP21、CFP22、CFP22A、CFP23、CFP23A、CFP23B、CFP25、CFP25A、CFP26(MPT51)、CFP27、CFP28、CFP29、CFP30A、CFP30B、CWP32、CFP50、MPT63、MTC28、LHP、MPB59、MPB64、MPT64、TB15、TB18、TB21、TB33、TB38、TB54、TB12.5、TB20.6、TB40.8、TB10C、TB15A、TB17、TB24、TB27B、TB13A、TB64、TB11B、TB16、TB16A、TB32、TB32A、TB51、TB14、TB27、HBHA、GroEL、GroES(国際公開第95/01441号パンフレット、国際公開第98/44119号パンフレット、米国特許第6,596,281号明細書、米国特許第6,641,814号明細書、国際公開第99/04005号パンフレット、国際公開第00/21983号パンフレット、国際公開第99/24577号パンフレット)が挙げられるが特に限定されない。抗原は、国際公開第92/14823号パンフレット、国際公開第95/14713号パンフレット、国際公開第96/37219号パンフレット、米国特許第5,955,077号明細書、米国特許第6,599,510号明細書、国際公開第98/31388号パンフレット、米国特許公開第2002/0150592号明細書、国際公開第01/04151号パンフレット、国際公開第01/70991号パンフレット、国際公開第01/79274号パンフレット、国際公開第2004/006952号パンフレット、国際公開第97/09428号パンフレット、国際公開第97/09429号パンフレット、国際公開第98/16645号パンフレット、国際公開第98/16646号パンフレット、国際公開第98/53075号パンフレット、国際公開第98/53076号パンフレット、国際公開第99/42076号パンフレット、国際公開第99/42118号パンフレット、国際公開第99/51748号パンフレット、国際公開第00/39301号パンフレット、国際公開第00/55194号パンフレット、国際公開第01/23421号パンフレット、国際公開第01/24820号パンフレット、国際公開第01/25401号パンフレット、国際公開第01/62893号パンフレット、国際公開第01/98460号パンフレット、国際公開第02/098360号パンフレット、国際公開第03/070187号パンフレット、米国特許第6,290,969号明細書、米国特許第6,338,852号明細書、米国特許第6,350,456号明細書、米国特許第6,458,366号明細書、米国特許第6,465,633号明細書、米国特許第6,544,522号明細書、米国特許第6,555,653号明細書、米国特許第6,592,877号明細書、米国特許第6,613,881号明細書、米国特許第6,627,198号明細書に開示されている。特に有用な抗原融合物は、ここで初めて開示されるものであるが(Ag85A-Ag85B-TB10.4及びそれらの組み合わせなど)、国際公開第98/44119号パンフレット及び上記で引用されている文献に開示されているESAT-6-MPT59及びMPT59-ESAT-6などの既知の融合物でもよい。
【0013】
複数の抗原を適用する一つのアプローチは、2種又は3種以上の別個の発現カセットを単一のベクター内に存在させることによるものであってもよく、各カセットは、所定の別個の遺伝子を含む。このアプローチが、例えばベクターにおける空間の利用可能性と関連して、すなわち別個のカセットは概して別個のプロモーター及び/又はインデューサー並びに別個のポリアデニル化シグナル配列を含むことから、不利益を有することは明らかである。そのようなカセットは、典型的にはウイルスベクター内で別々に位置付けられることを必要とし、それによって、クローン化手順がより困難となるのに対して、「プロモーター干渉」又は「スケルチング(squelching)」(プロモーターが作用するのに必要な細胞因子の利用可能性が制限されること)として知られている現象によって、種々のプロモーターからの発現レベルが制限される可能性がある。
【0014】
複数のTB抗原間の融合物に関連する本明細書に開示されている組み換えウイルスベクターによって例示されているように、2種以上の抗原をコードするいくつかの核酸を含む組み換えアデノウイルスベクターを作製することができ、該ウイルスベクターは、強力な免疫反応を誘発するが、単一のインサートを使用することによって、限定された効果が誘発される。明らかなのは、これらのベクターが組み換え遺伝子キメラをコードし、該キメラは、例えば融合タンパク質の形状で2種又は3種以上の抗原を単一のシストロンのmRNAにて発現することである。このアプローチは、DNAワクチン又はウイルスベクターを使用してパッセンジャーの抗原に対してT細胞の免疫を発動させる場合に有効である。しかしながら、当該融合タンパク質は、当該融合物が免疫優性のパターンを歪曲する可能性があり、すべての目標の抗原に対して免疫を等しい効力で常に発動するとは限らないことから、常に予め想定することができるとは限らない更なる欠点を有する可能性があるが、遺伝子融合物の発現のもう一つのおそらくより重大な欠点は、それらの融合のパートナーが近くに存在することによるか、又は他の理由により、個々の成分が天然の構造に折り畳めない可能性があることである。この結果として、遺伝子融合物は、ナンセンスなエピトープに対し抗体反応を発動する可能性があり、当該抗体は創始者の病原体によって示される天然のエピトープを認識せず、感染症と戦うのに弱い可能性がある。
【0015】
本発明の発明者らは、単一の異種の核酸によって複数の抗原がコードされ、発現したポリタンパク質を別個の抗原ポリペプチドに加工するシステムを開発した。従って、一実施態様において、本発明は、後に別個の抗原に加工される複数の抗原を発現可能にし、従って、遺伝子融合物と関連した起こりうる制限を回避するが、別個の発現カセットを必要としないウイルスベクターに関する。従来、ウイルスベクターによって発現された遺伝子融合物を別個の抗原に正確に加工できるようにする組成物又は方法は全く明らかにされていなかった。DNA又はウイルスベクター中に含まれる核酸によってコードされ、後に別個の抗原に加工される複数の抗原の発現が、トリ白血病ウイルスによってコードされるウイルスプロテアーゼ(Avian Leucosis Virus、ALV;ここでは、PR-ALVと呼ぶ)などのプロテアーゼ(PR)を用いることによって実証される。ALVにおいて、ALV-PRは、ALV複製における重要なステップであるgag及びgag-pol前駆体の加工を触媒することが知られているgagタンパク質のC末端ドメインを形成する(Skalka 1989の総説)。
【0016】
独特のALV-PRに向けられた加工システムを作出した。ALV-PR及び所定の抗原を含むポリタンパク質をDNA又はウイルスベクターによって発現し、ALV-PRは好ましくはポリタンパク質のN末端を形成し、続いて抗原配列がALV-PRの消化部位と連結されている。2つの異なる切断部位をシステムにおいて使用するのが好ましい。一方の切断部位(GSSGPWPAPEPPAVSLAMTMEHRDRPLV;配列番号22)は、ALV-PRを放出するためのものであり、他方の切断部位(PPSKSKKGGAAAMSSAIQPLVMAVVNRERDGQTG;配列番号21)はALV-PRによって認識され、他のコードされている抗原を別個のポリペプチドに分離するために使用される。
【0017】
または、PR及びその切断部位は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、マウス白血病ウイルス、サル免疫不全ウイルス(SIV)及びラウス肉腫ウイルスなどの他のレトロウイルスによってコードされているか、又はそれらを基にしたものであってもよい。
【0018】
好ましい実施態様において、本発明は、Mycobacterium tuberculosis由来の複数の抗原をコードする核酸配列を含む組み換えウイルスベクターを明らかにし、該ベクターにおいて、種々の核酸配列がALVプロテアーゼ認識部位をコードする配列によって互いに分断されている。これにおいて、別個のTB抗原がポリタンパク質として生産され、続いてそれら抗原が、それぞれ免疫反応に寄与する別個の抗原ポリペプチドに切断されるように加工される。当然のことながら、ALVプロテアーゼシステムはTB特異的な抗原の使用に限定されない。当業者であれば、TB抗原と異なるか、又はTB抗原と組み合わせた他の抗原にシステムが適用される可能性並びに遺伝子治療及び腫瘍ワクチン接種などの他の治療設定状況への適用を認識できる。
【0019】
好ましくは、プロテアーゼ部位によって分断される複数の抗原をコードする配列を含むウイルスベクターはアデノウイルスベクターである。ウイルスベクターはそれ自体ウイルス粒子であってもよいが、ウイルスベクターという用語は、ウイルス粒子をコードする核酸も指す。アデノウイルスベクターは、低パーセンテージのターゲットの集団において活性の中和を受けるアデノウイルス種又は抗原型を基にするか、又はこれらに由来する組み換えベクターであるのが好ましい。当該アデノウイルスは、概してヒト個体群内で常に循環しているわけではないことから、「レア」アデノウイルスと呼ばれることもある。従って、好ましい抗原型は、Ad11、Ad24、Ad26、Ad34、Ad35、Ad48、Ad49及びAd50である。
【0020】
本明細書で使用されているように、「抗原」とは、動物又はヒトの細胞又は組織で発現した場合、免疫反応を引き起こすことが可能なタンパク質又はその断片を意味する。例として、ウイルスタンパク質、細菌タンパク質、寄生動物タンパク質、サイトカイン、ケモカイン、免疫調節物質及び治療物質が挙げられるが、これらに限定されない。抗原は、それぞれの場合において、ワクチン接種される動物又はヒトのホストにおける発現による免疫反応に寄与することが可能な野生型タンパク質、該タンパク質の先端を切り取った形状のもの、該タンパク質の変異型又は該タンパク質のその他の変形であってもよい。当然のことながら、抗原が直接融合している場合、この融合は組み換え分子生物学の結果であり、従って、本明細書で使用される2種の抗原の直接融合は、自然において生じる単一の野生型タンパク質の2種の抗原部分を指すものではない。明瞭にするために、単一の野生型タンパク質の2種の抗原部分(2種の部分が通常タンパク質内で直接連結されている)が本明細書に記載されているリンカー(下記のALVプロテアーゼ部位など)を介して連結されている場合、当該融合は本発明の一部である。好ましい実施態様において、本発明は、直接連結されているか、又は1種もしくは複数のプロテアーゼ部位を介して連結されている種々のタンパク質(抗原活性を有するもの)に関する。より好ましい実施態様において、プロテアーゼをコードする遺伝子は、所定のタンパク質と連結されており、さらにより好ましくは、さらに別のプロテアーゼ部位を介して該遺伝子は所定のタンパク質と連結されている。
【0021】
種々の抗原は、必ずしも1つの病原種由来であるとは限らない。単一のベクター内の核酸配列によってコードされている複数の種由来の種々の抗原の組み合わせも本発明に包含される。
【0022】
「ホストの抗原」とは、レシピエントの動物細胞又は組織に存在するタンパク質又はその一部を意味し、細胞タンパク質、免疫調節物質又は治療物質などがあるが、それらに限定されない。
【0023】
抗原は、コドンが最適化された合成遺伝子によってコードされていてもよく、従来の組み換えDNA法を用いて構築されてもよい。
【0024】
上述したように、ALVプロテアーゼシステムを含む組み換えウイルスベクターによって発現される抗原は、動物ホストへ侵入する前にもしくは侵入する間に、動物ホストに定着する前にもしくは定着する間に、又は動物ホストにおいて複製する前にもしくは複製する間に、いずれのウイルス性、細菌性もしくは寄生の病原体によって発現されるいずれの分子であってもよい。これらの病原体はヒト、家畜又は野生動物ホストに感染性を有してもよい。
【0025】
ウイルス抗原の由来であるウイルス性病原体としては、インフルエンザウイルスなどのオルソミクソウイルス;RSV、HTLV-1、HTLV-IIなどのレトロウイルス;EBVなどのヘルペスウイルス;CMVもしくは単純ヘルペスウイルス;HIV-1およびHIV-2などのレンチウイルス;狂犬病ウイルスなどのラブドウイルス;ポリオウイルスなどのピコルナウイルス;ワクシニアウイルスなどのポックスウイルス;ロタウイルス;並びにアデノ随伴ウイルス(AAV)などのパルボウイルスが挙げられるが、これらに限定されない。
【0026】
ウイルス抗原の例としては、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)抗原であるRev、Pol、Nef、Gag、Env、Tat、Tat-Δ31-45などのTatの変異誘導体、gp120のT細胞エピトープ及びB細胞エピトープ、gp120とCD4との融合などのHIV-1 Env及びgp120のキメラ誘導体、gp140などの切断されたもしくは修飾されたHIV-1 Env、又はHIV-1 Env及び/もしくはgp140の誘導体からなる群に含まれるものがあるが、これらに限定されない。他の例としては、B型肝炎表面抗原、VP4及びVP7などのロタウイルス抗原、赤血球凝集素、ノイラミニダーゼもしくは核タンパク質などのインフルエンザウイルス抗原、並びにチミジンキナーゼなどの単純ヘルペスウイルス抗原がある。
【0027】
細菌抗原の由来である細菌性病原体の例としては、Mycobacterium spp.,Helicobacter pylori、Salmonella spp.、Shigella spp.、E. coli、Rickettsia spp.、Listeria spp.、Legionella pneumoniae、Fansicella spp.、Pseudomonas spp.、Vibrio spp.及びBorellia burgdorferiが挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
細菌性病原体の感染防御抗原の例としては、CFA/I線毛抗原及び熱不安定性毒素の非毒性Bサブユニットなどの腸管毒素原性大腸菌の菌体抗原、Bordetella pertussisのパータクチン、B. pertussisのアデニル酸シクラーゼ−溶血素、Clostridium tetaniの破傷風毒素のフラグメントC、Borellia burgdorferiのOspA、Rickettsia prowazekii及びRickettsia typhiの保護性パラクリスタリン表面層タンパク質、Listeria monocytogenesのリステリオリシン(「Llo」及び「Hly」としても知られている)及び/又はスーパーオキシド・ジスムターゼ(「SOD」及び「p60」としても知られている)、Helicobacter pyloriのウレアーゼ、並びにBacillus anthraxの致死毒素及び/又は感染防御抗原の受容体結合ドメインが挙げられる。
【0029】
寄生虫抗原の由来である寄生病原体としては、Plasmodium falciparumなどのPlasmodium spp.、Trypanosoma cruziなどのTrypanosome spp.、Giardia intestinalisなどのGiardia spp.、Boophilus spp.、Babesia microtiなどのBabesia spp.、Entamoeba histolyticaなどのEntamoeba spp.、Eimeria maximaなどのEimeria spp.、Leishmania spp.、Schistosome spp.、Brugia spp.、Fascida spp.、Dirofilaria spp.、Wuchereria spp及びOnchocerea spp.が挙げられるが、これらに限定されない。
【0030】
寄生病原体の感染防御抗原の例としては、P. bergeriiもしくはP. falciparumもしくはそれらの免疫原性の変異体のLSA-1及びLSA-3などのPlasmodium spp.のスポロゾイト周囲の(circumsporozoite、CS)もしくは肝臓ステージ特異的抗原(Liver Stage Specific antigens、LSA)であるLSA-1及びLSA-3、Plasmodium spp.のメロゾイト表面抗原、Entamoeba histolyticaのガラクトース特異的レクチン、Leishmania spp.のgp63、Leishmania majorのgp46、Brugia malayiのパラミオシン、Schistosoma mansoniのトリオースリン酸イソメラーゼ、Trichostrongylus colubriformisの分泌型グロブリン様タンパク質、Frasciola hepatica、Schistosoma bovis及びS. japonicumのグルタチオン−S−トランスフェラーゼ、Schistosoma bovis及びS. japonicumのKLHが挙げられる。
【0031】
先に述べたように、ALV又はALV様プロテアーゼをコードする核酸を含む組み換えウイルスベクターは、ホストの抗原をコードしてもよく、該ホストの抗原は、レシピエント細胞にて発現し得る如何なる細胞タンパク質、免疫調節物質又は治療物質又はそれらの一部であってもよく、該ホストの抗原としては、腫瘍抗原、移植抗原、自己免疫抗原、又はそれら腫瘍抗原、移植抗原、自己免疫抗原の断片及び誘導体が挙げられるが、これらに限定されない。従って、本発明においては、ウイルスベクターは腫瘍抗原、移植抗原もしくは自己免疫抗原、又はそれらの一部もしくは誘導体をコードしてもよい。または、ウイルスベクターは、腫瘍特異的抗原、移植抗原もしくは自己免疫抗原、又はそれらの一部をコードする合成遺伝子(上記のように作製されたもの)をコードしてもよい。当該抗原の例としては、前立腺特異的抗原、MUC1、gp100、HER2、TAG-72、CEA、MAGE-1、チロシナーゼ、CD3及びIASβ鎖が挙げられるが、これらに限定されない。
【0032】
明らかなのは、本明細書に開示されているALVプロテアーゼ部位の技術が、複数のポリペプチドを単一のポリタンパク質内に導入し、これらの複数の(別個の)ポリペプチドを必要とするホストにおいて該ポリタンパク質を別個のポリペプチドに加工することによって遺伝子治療の用途にも適用できることである。
【0033】
ウイルスベクターの免疫原性さらに高める手段として、少なくとも1種の抗原とアジュバントとをコードする発現カセットを構築し、該発現カセットを用いて、前記ウイルスベクターによって発現した抗原に対するホストの反応を増大させることができる。当該アジュバントは、遺伝子がアジュバントとして作用するタンパク質をコードすることから、本明細書において「遺伝子アジュバント」とも呼ばれる。翻訳後に抗原をアジュバントから切り離す上記のプロテアーゼ及び連結するプロテアーゼ部位を使用するのが好ましいが、特定の実施態様において、アジュバントは抗原に直接連結していてもよい。
【0034】
ウイルスベクターによってコードされる特定のアジュバントは、多種多様の遺伝子アジュバントから選択されてもよい。好ましい実施態様において、アジュバントは、コレラ毒素のAサブユニット(CtxA;例:GenBankアクセッション番号X00171、AF175708、D30053、D30052)又はCtxのAサブユニットのA1ドメイン(CtxA1;GenBankアクセッション番号K02679)などのその機能を有する部分及び/もしくは機能を有する変異誘導体である。または、細菌性アデノシン2リン酸−リボシル化外毒素のファミリーのメンバーである如何なる細菌毒素を使用してもよい。例として、腸管毒素原性大腸菌の熱不安定性毒素のAサブユニット(EltA)、百日咳毒素S1サブユニットがあるが、これらに限定されない。他の例としては、Bordetella pertussis、B. bronchiseptica又はB. parapertussisのcyaA遺伝子などのアデニル酸シクラーゼ−溶血素がある。または、特定のADP−リボシルトランスフェラーゼ毒素が、ADP−リボシルトランスフェラーゼ触媒活性の減少を示すが、構造完全性を保持する如何なる古典のVibrio cholerae菌株(例えば395株)又はEl Tor V. cholerae(例えば2125株)由来のコレラ毒素のAサブユニット(すなわちCtxA)の如何なる誘導体又はそれらの部分(すなわちCtxのAサブユニットのA1ドメイン(すなわちCtxA1))であってもよく、アルギニン−7をリジンに置換したもの(R7K)、セリン−41をフェニルアラニンに置換したもの(S41F)、セリン−61をリジンに置換したもの(S61K)、セリン−63をリジンに置換したもの(S63K)、バリン−53をアルパラギン酸に置換したもの(V53D)、バリン−97をリジンに置換したもの(V97K)もしくはチロシン−104をリジンに置換したもの(Y104K)、又はそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。または、特定のADP−リボシルトランスフェラーゼ毒素が、充分に構築されているが、触媒部位又は触媒部位付近のそれぞれの変異により非毒性のタンパク質であるコレラ毒素の如何なる誘導体であってもよい。そのような変異は下記のように従来の特定部位の突然変異誘発手段によって成される。
【0035】
別の実施態様において、ADP−リボシルトランスフェラーゼ毒素は、如何なる腸管毒素原性大腸菌から単離された腸管毒素原性大腸菌の熱不安定性毒素のAサブユニット(LtxA)の如何なる誘導体であり、該腸管毒素原性大腸菌として、特に限定されないが、ADP−リボシルトランスフェラーゼの触媒活性の減少を示すが構造完全性を保持する大腸菌株H10407が挙げられる。当該誘導体としては、R7K、S41F、S61K、S63K、V53D、V97KもしくはY104K又はそれらの組み合わせが挙げられるが、特に限定されない。または、特定のADP−リボシルトランスフェラーゼ毒素は、触媒部位における変異又は触媒部位付近における変異により非毒性であるコレラ毒素の充分に構築された如何なる誘導体であってもよい。そのような変異は下記のように従来の特定部位の突然変異誘発手段によって成される。
【0036】
ADP−リボシル化毒素は強力なアジュバントであり、本発明におけるウイルスベクターによってコードされるアジュバントは、ウイルス生物、細菌生物、原虫生物、免疫調節DNA、二本鎖RNA又は阻害的低分子RNA(本明細書ではsiRNAを呼ぶ)由来の如何なる生物活性タンパク質であってもよい。特定の生物活性タンパク質は、特に限定されないが、以下のクラスから選択されることができる。
クラス1. このクラスのアジュバントはホストの小サイズのGTPaseであるRhoを阻害することによってアポトーシスを誘導する。Rhoの阻害は、明らかにアポトーシスの誘導と関連している。アポトーシスの誘導は、バイスタンダーのT細胞の反応を開始させる有用な方法であり、かつ強力なCTLs誘導方法である。この戦略はこれまで如何なる実験システムにおいても評価されていない。SopEの活性ドメインには、78〜240のアミノ酸が含まれ、発現のために486bpの遺伝子を必要とするのみである。大腸菌CNF-1の触媒ドメインは同様の特性を有すると可能性がある。
クラス2. 細菌のポーリンは免疫調節活性を有することが示されている。これらの疎水性ホモ三量体タンパク質は、膜を介してMr<600Daの分子を通過させる膜孔を形成する。ポーリンの例として、EnterobacteriaceaeのOmpF、OmpC及びOmpDタンパク質が挙げられる。
クラス3. 二本鎖RNA(dsRNA)は樹状細胞を含めたホスト細胞を活性化する。イントロン又はリボザイムによって間隔があけられている逆方向反復配列をコードするmRNAの発現によって、dsRNAの発現が生じる。
クラス4. ペプチドモチーフ[WYF]xx[QD]xx[WYF]は、CD1dによって制限されたNK T細胞の反応を誘導することが知られている(Kronenberg及びGapin、2002)。T4フィブリチン(fibritin)コイルドコイルドモチーフと融合したこのモチーフを有するペプチドの発現によって、CD1dによって制限されたT細胞上にTCRを架橋結合する三量体のペプチドが生じ、それによって生来のホストの反応を活性化させる。
クラス5. siRNAを使用して、免疫反応を抑制するホストのmRNA分子(例えばkir)、免疫反応を制御するホストのmRNA分子(例えばB7.2)、又は交差提示を妨げるホストのmRNA分子(例えばRho)を標的にすることができる。
クラス6. siRNAを、CD80及びCD86などの同時刺激分子を標的にするワクチンに用いることができる。これらの分子を阻害することによって同時刺激を防ぎ、それによってT細胞アネルギーをもたらす。
【0037】
驚くべきことに、本明細書に開示されているように、TB10.4タンパク質などのTBを引き起こす桿菌由来の抗原が、それ自体抗原として作用するだけでなく、例えばAg85Aなどの他のTB抗原に対するアジュバントとして作用することが可能であることを見出した。すなわち、3種類のインサートが存在した場合(Ag85A-Ag85B-TB10.4)、驚くべきことに、このコンストラクト中にTB10.4が存在することによって、Ag85Aに対する免疫反応が刺激されたが、TB10.4が欠如していると、CD8+脾細胞に対する効果がより小さいことが示されたことを見出した(実施例4及び図13B参照)。TB10.4のアジュバント効果をさらに調査し、TB10.4が、3種類のコンストラクト中に存在する場合、Ag85Aに対し向けられたCD8細胞の活性化を実際に刺激したが、それぞれ別個の抗原をコードする別個のベクターによる感染によって、そのような刺激が生じなかったことを見出し、このことは、同じベクター内又は同じ翻訳産物内のいずれかにTB10.4抗原が存在すべきであることを強く示唆するものである。
【0038】
また、本発明は、プロテアーゼ認識部位によって融合した少なくとも1種の抗原及びサイトカインをコードするウイルスベクターにも関する。当該ベクターを用いて、前記ウイルスベクターによって発現されるパッセンジャー抗原に対するホストの反応を増大させる。ウイルスベクターによってコードされるサイトカインの例としては、インターロイキン4(IL-4)、IL-5、IL-6、IL-10、IL-12p40、IL-12p70、TGFβ及びTNFαがある。
【0039】
機能的な発現カセットを導入して真核細胞又は組織において免疫調節物質を発現することが可能なウイルスベクターを作製する組み換えDNA及びRNAの手法は本技術分野において既知である。
【0040】
ここでは、TBを引き起こす桿菌、好ましくはMycobacterium tuberculosis、M. africanum及び/又はM. bovis由来の2種以上の抗原を発現するウイルスベクターの構築のための組成物及び方法について説明する。好ましくは、ウイルスベクターは、複製欠損組み換えアデノウイルスベクターである。1つの広く研究されており、一般に用いられているアデノウイルスの抗原型はアデノウイルス5(Ad5)である。マウス及びアカゲザルにおける研究において、抗Ad-5免疫の存在によって、Ad5ベースのワクチンの免疫原性が実質的に抑制されることが示された。第1相臨床試験からの初期データは、このような問題がヒトでも起こる可能性があることを示す。
【0041】
最も一般的なヒトアデノウイルス(Ad5など)に予め感染した個体における既存の免疫の存在を回避する一つの有望な戦略には、そのような既存の免疫を受けないアデノウイルス抗原型由来の組み換えベクターの開発が含まれる。特に有用であると確認されたヒトアデノウイルスベクターは、国際公開第00/70071号パンフレット、国際公開第02/40665号パンフレット及び国際公開第2004/037294号パンフレットに示されているように、抗原型11、26、34、35、48、49及び50を基にしたものである(Vogelsら 2003も参照)。他にも、アデノウイルス24(Ad24)が、まれな抗原型であることが示されている(国際公開第2004/083418号パンフレット)ことから、特に興味あるものであると思われる。従って、好ましい実施態様において、前記ウイルスベクターは、Ad11、Ad24、Ad26、Ad34、Ad35、Ad48、Ad49及びAd50からなる群より選択される抗原型に由来するアデノウイルスである。ワクチンのベクターとしてヒトアデノウイルスをこのように選択する利益は、ヒトがこれらの野生型のアデノウイルスに常に感染するとはかぎらないという事実にあることは明らかである。結果として、これらの抗原型に対する中和抗体は、概してヒトの集団においてあまり蔓延しているものではない。これは、ヒトが抗原型5にかなり定期的に感染していることから、この野生型の抗原型とは対照的である。親の野生型の抗原型に感染している間に上昇した免疫反応は、アデノウイルスが適用されたマラリアに対するワクチンなどのその後の組み換えワクチンベクターとして使用した場合に、組み換えアデノウイルスの抗原型の効力に悪影響を与えることができる。世界中のヒトの集団への種々のアデノウイルスの抗原型の広がりは、地理上の区域によって異なる。国際特許第00/70071号パンフレットにおいて概説されているように、一般に、好ましい抗原型は世界の大部分におけるホストにおいて低い中和活性を受ける。別の好ましい実施態様において、サル、イヌ、又はウシのアデノウイルスも、組み換えウイルスが投与される(ヒトの)ホストにおいて既存の免疫を受けないので、アデノウイルスはそれら動物のウイルスである。ヒトの遺伝子治療又はワクチンに使用するサルのアデノウイルスの適用は当業者によく認識されている。これに加えて、イヌ及びウシのアデノウイルスがヒト細胞にインビトロで感染したことが見出され、それ故にヒトへの使用にも適用可能である。特に好ましいサルアデノウイルスは、チンパンジーから単離されたものである。適した例として、C68(Pan 9としても知られる;米国特許第6,083,716号明細書)、並びにPan 5、6及び7(国際特許第03/046124号パンフレット)が挙げられる。国際特許第03/000851号パンフレットも参照されたい。
【0042】
従って、組み換えベクターの選択は、ワクチン接種を必要とするヒト集団の低パーセンテージにおいて中和活性を受けるものによって影響される。本発明の利点は、幾重にも折り畳まれている。組み換えアデノウイルスなどの組み換えウイルスを、安全とみなされ、かつ動物又はヒトに由来する成分を全く含まない培地を用いて非常に高いボリュームとなるように懸濁培養できる細胞を用いて、非常に高い力価となるように製造できる。また、組み換えアデノウイルスは、アデノウイルスゲノム内の異種の核酸配列によってコードされるタンパク質に対する劇的な免疫反応を誘発することが知られている。本発明の発明者らは、複数の抗原を含むワクチンによって、TBを引き起こす桿菌に対してより強力かつより幅広い免疫反応がもたらされることに気付いた。また、単一の抗原が単独でマウス近交系において防御を誘導することができるのにもかかわらず、いくつかの抗原を含むカクテルが、異種の集団におけるMHCに関連した無反応をあまり受けない可能性があることから、ヒトへの適用にとってより良いワクチンであると考えられる。
【0043】
しかしながら、ワクチン開発の実用的な見地より、複数のコンストラクトから成るワクチンは、製造し、製剤するのに非常に高価である。製造工程を簡略化することに加えて、単一のコンストラクトが、抗原提示細胞によって成分の等しい取り込みを確保し、同様に広く特異的な免疫反応を生じてもよい。
【0044】
本発明の特定の一態様において、複製欠損組み換えウイルスベクターは、抗原決定基をコードしている核酸配列を含み、前記異種の核酸配列が、哺乳動物、好ましくはヒトにおける発現上昇のためにコドンにおいて最適化されている。コドン最適化は、必要とされるアミノ酸の内容、所定の哺乳動物における一般的な最適なコドンの使用法、適切な発現を確実にするために避けるべきいくつかの状況に基づいている。そのような状況は、スプライス供与部位、スプライス受容部位、停止コドン、カイ部位、ポリA配列、GCリッチ配列及びATリッチ配列、内部TATAボックスなどである。哺乳動物ホストにおけるコドンの最適化方法は当業者によく知られており、分子生物学の文献中のいくつかの箇所において見ることができる。
【0045】
好ましい実施態様において、本発明は、本発明に従う複製欠損組み換えアデノウイルスベクターに関し、該ベクターにおいて、前記異種の核酸におけるアデニンプラスチミンの含量が、シトシンプラスグアニンの含量と比較して87%以下であり、好ましくは80%以下であり、より好ましくは59%以下であり、最も好ましくは約45%と同程度である。
【0046】
異種遺伝子を宿す組み換えアデノウイルスベクターの製造は本技術分野において既知であり、典型的には、パッケージング細胞株、アダプター・コンストラクト、コスミド及びアデノウイルスゲノムからE1領域の少なくとも機能的な部分を除去したものの使用を伴う(下記のパッケージングシステム及び好ましい細胞株についても参照)。
【0047】
本発明のワクチンは、典型的には、医薬として受容可能な担体又は賦形剤中に保持される。医薬として受容可能な担体又は賦形剤は本技術分野においてよく知られており、広範囲の治療薬において広く使用されている。ワクチンにおいてよく機能する担体を用いることが好ましい。ワクチンはさらにアジュバントを含むことがより好ましい。アジュバントが、適用した抗原決定基に対する免疫反応をさらに増大させることは本技術分野において既知である。
【0048】
また、本発明は、TBの治療上の処置、予防上の処置、又は診断上の処置への本発明に従うキットの使用にも関する。
【0049】
本発明のTB抗原を含む組み換えウイルスベクターを、BCGと組み合わせてそれらを用いるワクチン接種の場面に使用してもよい。また、該ベクターを、BCGワクチン接種前又は接種後にそれぞれ望ましい免疫反応を増大させる初回抗原刺激剤又は追加免疫剤として使用してもよい。本明細書に開示されている種々のウイルスベクターを初回抗原刺激−追加免疫の設定状況において使用し、該使用において、あるベクターが別のベクターを伴うことを想定することができる。また、直接連結した抗原を含むベクター自体をプロテアーゼ部位によって連結された抗原を含むベクターと組み合わせてもよい。また、初回抗原刺激としてあるアデノウイルス抗原型を使用し、追加免疫として別の抗原型を使用する(好ましいヒト、サル、イヌ又はウシのアデノウイルスから選択される)初回抗原刺激−追加免疫の場面も想定される。また、本発明に従うウイルスベクターを、精製した(組み換えて製造した)抗原を含むワクチンと組み合わせて、及び/又は類似の又は同一の抗原をコードする裸のDNAもしくはRNAを含むワクチンと組み合わせて使用してもよい。
【0050】
従って、本発明は、少なくとも1種の結核(TB)を引き起こす桿菌由来の2種又は3種以上の抗原をコードする核酸配列を含む組み換え複製欠損アデノウイルスに関する。当然のことながら、ポリペプチドは、いくつかの抗原部分又は抗原断片(=抗原)を含んでもよい。また、タンパク質自体も「抗原」であるとみなしてもよい。好ましくは、前記組み換えアデノウイルスは、ヒト又はサルのアデノウイルスである。より好ましくは、本発明における組み換えベクターとして使用するアデノウイルスは、ヒトアデノウイルス抗原型であるAd11、Ad24、Ad26、Ad34、Ad35、Ad48、Ad49及びAd50からなる群より選択される。好ましい抗原を提供するために用いられるTBを引き起こす桿菌は、Mycobacterium tuberculosis、Mycobacterium africanum及び/又はMycobacterium bovisが好ましく、前記2種又は3種以上の抗原は、M. tuberculosisのAg85A、Ag85B、ESAT-6、f72及びTB10.4の翻訳領域によってコードされる抗原からなる群より選択されるのが好ましい。極めて好ましい実施態様において、前記核酸配列は、M. tuberculosisのAg85A、Ag85B及びTB10.4の翻訳領域によってコードされる抗原からなる群より選択される抗原の少なくとも2種をコードする。さらにより好ましい実施態様において、本発明に従うアデノウイルスは、全長タンパク質のAg85A、Ag85B及びTB10.4をコードする核酸配列を含み、これら3種のタンパク質が、各タンパク質をコードする遺伝子が5’から3’の順でクローン化されている(Ag85A-Ag85B-TB10.4)配列を含む核酸によってコードされるのがさらにより好ましい。
【0051】
本発明は、前記抗原の少なくとも2種が1種のポリタンパク質から発現される本発明に従う組み換えアデノウイルスに関する。好ましい一実施態様において、前記抗原のうち少なくとも2種を融合タンパク質を形成するために連結する。連結は直接であるか、又は少なくとも1種のアミノ酸の連結リンカーを介してでもよい。リンカーを用いて2種の別個の抗原を連結し、こうして本発明に従う2種又は3種以上抗原の融合タンパク質を得る場合、配列番号23に示される1種又は複数のリンカーを用いるのが好ましい。
【0052】
また、本発明は、本発明に従う組み換えアデノウイルス又は本発明に従う組み換えポリヌクレオチドベクターを含み、さらに医薬として受容可能な賦形剤及び任意選択的にアジュバントを含む多価ワクチンにも関する。多くの医薬として受容可能な賦形剤及びアジュバントは本技術分野において既知である。
【0053】
本発明は、さらにTBの予防又は治療のために哺乳動物にワクチンを接種する方法に関し、該方法は、本発明に従う組み換えアデノウイルス、多価TBワクチン又は組み換えポリヌクレオチドベクターを前記哺乳動物に投与することを含む。一態様において、本発明は、TBの予防又は治療のために哺乳動物にワクチンを接種する方法に関し、該方法は、本発明に従う組み換えアデノウイルス、多価TBワクチン又は組み換えポリヌクレオチドベクターを初回抗原刺激のワクチン接種として前記哺乳動物に投与するステップと、本発明に従う組み換えアデノウイルス、多価TBワクチン又は組み換えポリヌクレオチドベクターを追加免疫のワクチン接種として前記哺乳動物に投与するステップとを含む。また、本発明は、好ましくは結核の予防上の処置、治療上の処置又は診断上の処置のいずれか一つに薬剤として用いる、本発明に従う組み換えアデノウイルス、多価TBワクチン又は組み換えポリヌクレオチドベクターにも関する。また、本発明は、結核の予防上の処置又は治療上の処置用の薬剤の調整への本発明に従う組み換えアデノウイルス、多価TBワクチン又は組み換えポリヌクレオチドベクターの使用にも関する。
【0054】
特定の一態様において、本発明は、2種又は3種以上の抗原とプロテアーゼ認識部位とをコードする核酸配列を含む組み換えポリヌクレオチドベクターに関し、該ベクターにおいて前記抗原はポリタンパク質として発現され、前記ポリタンパク質は2種又は3種以上の抗原のうち少なくとも2種を分断しているプロテアーゼ認識部位を含む。前記ポリヌクレオチドベクターは、裸DNAベクター、裸RNAベクター、プラスミドベクター又はウイルスベクターであるのが好ましい。好ましい実施態様において、前記ウイルスベクターは、複製欠損のヒト又はサルのアデノウイルス中にパッケージされている。当然のことながら、ウイルスベクターは2種類の存在物と考えてもよく、すなわちウイルスをコードするウイルスDNAが核酸ベクターとして用いられてもよいし、ウイルス(ウイルスベクターDNAを含む)を使用して、所定の核酸をホスト細胞に前記ホスト細胞の感染によって移行させてもよい。従って、本明細書にて使用される「ベクター」とは、所定の単数の遺伝子又は複数の遺伝子をホストに移行させる手段を指す。これは、DNA、RNA、プラスミド又はウイルス核酸ベクターを直接注入することによって達成してもよいが、ホスト細胞に組み換えウイルス(その後ベクターとして作用する)を感染させることによって達成してもよい。本明細書に例示されているように、ウイルスを用いて、哺乳動物(例えばマウス)を免疫してもよいが、DNA(例えば所定の遺伝子及びウイルスDNAの一部を保有するアダプタープラスミドの形態のもの)を哺乳動物を免疫するために直接前記哺乳動物に注入しても良い。裸DNA、裸RNA又はプラスミドをベースにしたワクチンは本技術分野において既知であるが、組み換えウイルスをベースにしたワクチンも既知である。問題を明らかにするために、所定の単数の遺伝子又は複数の遺伝子をホスト細胞に送達する総ての存在物を「ベクター」と見なす。
【0055】
好ましい一実施態様において、前記ベクター中に存在する核酸は、プロテアーゼをコードする配列を含み、発現の際に前記プロテアーゼがポリタンパク質の一部として発現され、プロテアーゼ認識部位によって前記抗原の少なくとも1種に連結されている。特に好ましいプロテアーゼ認識部位は、配列番号21又は22に示される配列を含む。前記プロテアーゼがトリ白血病ウイルス(ALV)由来である本発明に従う組み換えポリヌクレオチドベクターがより好ましい。好ましい態様において、プロテアーゼ認識部位を介して連結されている抗原が少なくとも1種の結核(TB)を引き起こす桿菌由来であり、前記TBを引き起こす桿菌は、好ましくはMycobacterium tuberculosis、Mycobacterium africanum及び/又はMycobacterium bovisである。2種又は3種以上の抗原は、M. tuberculosisのAg85A、Ag85B、ESAT-6、f72及びTB10.4の翻訳領域によってコードされる抗原からなる群より選択されるのが好ましく、前記異種の核酸配列は、M. tuberculosisのAg85A、Ag85B及びTB10.4の翻訳領域によってコードされる抗原からなる群より選択される抗原の少なくとも2種をコードするのが最も好ましい。抗原が全長のAg85A、Ag85B及びTB10.4ポリペプチドであり、それらのコードする遺伝子が5’から3’の順でクローン化されている、本発明に従うポリヌクレオチドがさらにより好ましい。これらの及び他の結核抗原をベースにした融合タンパク質は、米国特許第5,916,558号明細書、国際公開第01/24820号パンフレット、国際公開第03/070187号パンフレット、国際公開第2005/061534号パンフレットに記載されている。しかしながら、組み換えアデノウイルスベクターに組み込むために本明細書に開示されている融合タンパク質をコードする本発明に従う核酸を使用することは開示されていない。
【0056】
さらに別の態様において、本発明は、抗原と遺伝子アジュバントとをコードする異種の核酸配列を含む組み換えポリヌクレオチドベクターに関する。「遺伝子アジュバント」という用語は、核酸配列によってコードされるタンパク質性の分子を指す。前記抗原と前記遺伝子アジュバントとを直接連結するか、又は別の実施態様においては間接的に、例えば第1のプロテアーゼ認識部位を含む連結によって連結してもよい。別の好ましい態様において、前記ポリヌクレオチドベクターは、裸DNAベクター、裸RNAベクター、プラスミドベクター又はウイルスベクターである。ウイルスベクターは、複製欠損のヒト又サルのアデノウイルス中にパッケージされているのが好ましく、前記アデノウイルスは、ヒトアデノウイルス抗原型であるAd11、Ad24、Ad26、Ad34、Ad35、Ad48、Ad49及びAd50からなる群より選択されるのがさらにより好ましい。また、プロテアーゼをコードする配列を含む核酸が好ましく、前記プロテアーゼは、前記抗原に及び/又は前記遺伝子アジュバントに第2のプロテアーゼ認識部位によって連結されているのが好ましい。好ましい第2のプロテアーゼ認識部位は、配列番号22に示される配列を含むのに対して、好ましい第1のプロテアーゼ認識部位は、配列番号21で示される配列を含む。好ましいプロテアーゼは、トリ白血病ウイルス(ALV)由来のプロテアーゼである一方で、抗原は少なくとも結核(TB)を引き起こす桿菌由来であるのが好ましく、Mycobacterium tuberculosis、Mycobacterium africanum及び/又はMycobacterium bovisがより好ましい。好ましい抗原は、Ag85A、Ag85B、ESAT-6、f72及びTB10.4からなる群より選択される。最も好ましい実施態様は、前記異種の核酸配列が、M. tuberculosisの抗原であるAg85A、Ag85B及びTB10.4からなる群より選択される抗原の少なくとも2種をコードし、N末端からC末端の順に全長のAg85A、Ag85B及びTB10.4のタンパク質を含む融合ポリペプチド有するのがさらに好ましい。
【0057】
本明細書に開示されているように、TB10.4は、ポリタンパク質中に含まれる他の(特にAg85A)抗原に対する免疫反応を刺激することが見出されたことから、予想外のアジュバントの活性を有する。TB10.4アジュバントは、好ましい遺伝子アジュバントである。したがって、また、本発明は、TB10.4抗原を、少なくとも1種の他の抗原と共にコードする核酸を含む組み換えベクターも提供し、該他の抗原は、結核抗原であるのが好ましく、Ag85A抗原がより好ましい。さらにより好ましい実施態様において、ベクターは、TB10.4抗原と少なくともAg85A抗原とAg85B抗原とをコードする核酸を含む。下記に概要が示されているように、TB10.4は、プロテオソームに対し、複数の抗原の翻訳産物の加工を増大させて、CD8の反応を非常に著しく増大させることが示唆されている。効果がAg85A及びTB10.4単独に制限されず、TB10.4抗原の適用が結核ワクチン単独に制限されたものよりも幅広いものである可能性が非常に高い。したがって、さらに別の実施態様において、本発明は、TB10.4と少なくとも1種の他の抗原とをコードする核酸を含む組み換えベクターに関し、該他の抗原はMycobacterium抗原ではない。本発明では、MycobacteriumのTB10.4抗原を遺伝子アジュバントとして使用することが開示される。また、本発明では、TB10.4抗原を、結核以外の病気、少なくとも所定の抗原に対する免疫反応がアジュバントの作用によって刺激される必要がある病気においての治療用、診断用及び/又は予防用の薬剤の製造に使用することが開示される。それ故に、Mycobacterium tuberculosisのTB10.4内の抗原が、Ag85Aなどの他の抗原に対するアジュバントとして作用できることが開示される。従って、本発明は、またMycobacteriumの抗原であるTB10.4を遺伝子アジュバントとして使用することにも関する。さらに、別の実施態様において、本発明は、Mycobacteriumの抗原であるTB10.4を、特定の抗原又は所定の治療成分に対するホストの免疫反応が刺激される必要がある病気の治療用又は予防用の薬剤の調整に使用することに関する。当業者であれば、所定の抗原に対する免疫反応のレベルと、本明細書にてTB10.4によって実証されている、遺伝子アジュバントなどのアジュバントの使用による付加的な刺激が治療対象において有益であるかどうかを決定できる。
【0058】
本発明は、さらに本発明に従う組み換えポリヌクレオチドベクターに関し、前記遺伝子アジュバントがコレラ毒素(CtxA1)又はその変異誘導体を含み、前記変異誘導体が63番目のアミノ酸の位置におけるセリンのリジンへの置換を有する(A1K63)。また、本発明は、本発明に従う組み換えポリヌクレオチドベクターを含み、さらに医薬として受容可能な賦形剤と任意選択的にアジュバントを含む多価TBワクチンにも関する。
【実施例1】
【0059】
(M. tuberculosis抗原を保有するAd35ベースのアダプタープラスミドの構築)
ここでは、単一又は複数のTB抗原を発現することが可能なE1欠失Ad35ベースのベクターを作製するのに適したアダプタープラスミドの構築について説明する。実施例は、アデノウイルスベースの複製欠損ベクターを用いる単一及び複数の抗原ワクチン調整物を作製する手段及び方法の例として、TB抗原であるAg85A(スイスプロット#P17944)、Ag85B(スイスプロット#P31952)及びTB10.4(スイスプロット#O53693)に関するが、これらの例に制限されるものではない。上記で既述したように、ここで用いられた原理は、予防又は治療のポリペプチドの如何なる組み合わせにも適用できる。
【0060】
(pAdApt35Bsu.mycの構築)
アダプタープラスミドであるpAdApt35Bsuは、出願人の出願である国際公開第2004/001032号パンフレットに記載されている。このプラスミドは、Ad35ゲノムの左部分(左側の逆位末端配列(Inverted Terminal Repeat、ITR)を有する)を含み、さらに機能的なE1領域を欠如しており、CMVプロモーターを含む発現カセットがE1領域に挿入されている。また、アダプターは、機能的なpIXプロモーターと、E1領域のAd35の下流の領域も含み、該領域は、Ad35ゲノムの残存部分を含むコスミドとの相同組み換えに充分なものであり、パッケージング細胞内で組み換え複製欠損アデノウイルスの作製をもたらし、該パッケージング細胞は、生産されるウイルスの機能的な複製及びパッケージングに必要な総てのエレメント及び機能を提供するものである。当該アダプタープラスミドを用いる組み換えアデノウイルスの作製は、当業者によく知られている方法である。
【0061】
pAdApt35Bsuを、NheI及びXbaIで消化し、5kbのベクター含有断片を、Qiaquick gel extraction kit(Qiagen)を用いて製造業者の使用説明書に従ってアガロースゲルから単離した。二本鎖(ds)リンカーを以下の一本鎖(single stranded、ss)オリゴ(Sigmaによって合成されたもの):Myc-オリゴ1:5’- CTA GCA AGA AAA CCG AGC AGA AGC TGA TCT CCG AGG AGG ACC TGT GAT AAT -3’(配列番号1)及びMyc-オリゴ2:5’- CTA GAT TAT CAC AGG TCC TCC TCG GAG ATC AGC TTC TGC TCG GTT TTC TTG -3’(配列番号2)から調整した。2つのオリゴヌクレオチドを、0.5μg/μlのストックの総容量20μlのアニーリング緩衝液(10mM Tris-HCl pH7.9、10mM MgCl2、1mMジチオスレイトール)の溶液2μl、を用いて混合し、98℃で2分間インキュベートし、次いでPCR機器を用いて1分当たり0.6℃の速度で4℃に冷却した。次に、生じたdsリンカーを、上記の調整したpAdApt35Bsuベクターと3x、6x又は9xモル過剰のリンカーにてライゲーションした。正しい方向においてのみ修復される部位であるNheI又はXbaIで消化することによって正しい方向にリンカー配列が挿入されているかについてコロニーを試験した。配列決定によって、リンカーが期待される配列からなることが確認された。生じたアダプタープラスミドをpAdApt35Bsu.mycと名付けた(図1)。
【0062】
以下に、種々のコンストラクトの多数のセットをクローン化する方法を示す。総てのコンストラクトの概要及びそれぞれのインサートを表1に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
(3種のTB抗原を含有するpAdApt35Bsuベースのアダプタープラスミドの構築)
本発明の異種の核酸は、3種の M. tuberculosisの抗原であるAg85A、Ag85B及びTB10.4を1つのmRNA由来のポリタンパク質としてコードする。総ての融合配列において、「M」は、別個のTB抗原に特異的な抗体が適切に融合物を認識しない場合に、mycに特異的な抗体を用いて発現の分析が可能となるように、配列の3'末端に付着させたmycエピトープ(mycタグ:SKKTEQKLISEEDL;配列番号9)を含むことを示す。従って、下記の総てのコンストラクトの名前における「M」は、mycタグを示すが、総てのコンストラクトをmycタグなしで作製した。
【0065】
第1の実施態様(TB-SM)において、3種の抗原は、直接融合ポリタンパク質:Ag85A-Ag85B-TB10.4-myc(TB-S=Ag85A-Ag85B-TB10.4)として発現される。
【0066】
第2の実施態様(TB-LM)において、ポリタンパク質の前駆体はプロテアーゼを含有し、該プロテアーゼは、3種の抗原を、それらを分断する組み込まれた消化部位、すなわちリンカー/消化部位配列:PPSKSKKGGAAAMSSAIQPL VMAVVNRERDGQTG(配列番号21)にて細胞内において切断するものである。このような消化は融合タンパク質のN末端に融合した配列特異的なプロテアーゼによって生じる。トリ白血病ウイルス(ALV)のgag遺伝子に由来するこのプロテアーゼも切断され、4つの別個のタンパク質がプロテアーゼ消化後に生じる。ポリタンパク質は、下記の通り:ALV-dig*-Ag85A-dig-Ag85B-dig-TB10.4-myc(「dig*」は抗原とプロテアーゼを分断するプロテアーゼの消化部位[GSSGPWPAPEPPAV SLAMTMEHRDRPLV;配列番号22]に関し、「dig」は、抗原間の消化部位に関し、上記を参照されたい;TB-L=ALV-dig*-Ag85A-dig-Ag85B-dig-TB10.4)であってもよい。両プロテアーゼで切断可能なリンカーに加えて自己切断リンカーを本発明のベクターに使用してもよく、本発明に含まれる。自己加工切断部位の使用については、国際公開第2005/017149号パンフレットに記載されている。
【0067】
第3の実施態様において、ポリタンパク質(TB-FLM)は、切断されないリンカー配列によって分断されている上述したM. tuberculosis抗原を含むが(上記第2の実施態様と同様に)、3種の抗原のそれぞれが適切かつ独立して折り畳まれるようにするものである:Ag85A-X-Ag85B-X-TB10.4-myc(「X」は可動性リンカー:GTGGSGGTGSGTGGSV;配列番号23を示す)。総てのこれらの融合タンパク質をmycタグなしで(TB-S、TB-L及びTB-FLとそれぞれ呼ぶ)同様の構築方法を用いて(下記参照)作製してもよい。
【0068】
望ましいタンパク質配列を、M. tuberculosis抗原に関する上記に示した公開されているタンパク質配列、Genbank(アクセッションNo.CAA86524)に公開されているALVプロテアーゼPR p15配列及びGenbankアクセッションNo.AAK13202のアミノ酸配列476〜500と同様のプロテアーゼ消化部位を用いて構築した。次に、3種のタンパク質配列をDNAコード配列に逆翻訳し、ヒトでの発現に最適化し、その後Geneart(ドイツ)によってpCR-Scriptベクターに合成され、構築され、クローン化された。
【0069】
TB-LMのコドン最適化DNA配列を図19及び配列番号3に示し、TB-SMのものを図20及び配列番号4に示し、TB-FLMのものを図21及び配列番号5に示し、加えてTB-LMのタンパク質配列を図22及び配列番号6に示し、TB-SMのものを図23及び配列番号7に示し、TB-FLMのものを図24及び配列番号8に示す。mycエピトープは、各融合タンパク質におけるC末端の配列SKKTEQKLISEEDL(配列番号9)中に含まれ、該配列はそれぞれTB-L、TB-S及びTB-FLの場合には存在しない。
【0070】
次に、クローン化した融合遺伝子をHindIII、XbaI及びApaLIで消化した後、2.7kb(TB-L)、2.2kb(TB-FL)及び2.1kb(TB-S)の断片を上述したようにアガロースゲルから単離した。ApaLIでの消化を行うことによって、プラスミドベクターをインサートからより良好に分離可能な断片に消化した。プラスミドpAdApt35BsuもHindIII及びXbaIで消化し、ベクター含有断片を上述したようにゲルから単離した。単離したpAdApt35Bsuベクターを、TB配列を含有する単離した断片の各々に別々の反応にてライゲーションし、DH5aコンピテント細菌(Invitrogen)に形質転換した。生じたコロニーをHindIII及びXbaIで消化することによって分析し、期待されるインサートを含有するプラスミドクローンを選別した。この結果として、pAdApt35Bsu.TB.LM(図2)、pAdApt35Bsu.TB.SM(図3)及びpAdApt35Bsu.TB.FLM(図4)が生じ、総てmycタグを含有するものである。mycタグがない融合遺伝子を発現するアダプタープラスミドを作製するために、最初にインサートを、下記のプライマー及び鋳型を用いてPCRで増幅した。
TB-L断片
ALVprot.FW:5’- GCC CAA GCT TGC CAC CAT GCT GGC CAT GAC CAT GG ‐3’(配列番号10)及び10.4.RE.stop:5’- GCT AGT CTA GAT TAT CAG CCG CCC CAC TTG GC ‐3’(配列番号11)、TB-LMを鋳型として使用。
TB-FL断片及びTB-S断片
85A.FW:5’- GCC CAA GCT TGC CAC CAT GTT CAG C ‐3’(配列番号12)及び10.4.RE.stop、TB-FLM又はTB-SMを鋳型として使用。
【0071】
増幅を、Phusion DNA polymerase(Bioke)を用いて、製造業者の使用説明書に従って行った。以下のプログラム:98℃で2分間の後、30サイクルの(98℃で20秒間、58℃で30秒間、72℃で2分30秒間)、72℃で10分間によって終了、を用いた。生じた断片をQiaquick PCR purification kit(Qiagen)を用いて精製し、HindIII及びXbaIで消化した。その後、消化した断片を再び上記のQiaquick PCR purificationカラムを通して精製し、同じ酵素を用いて消化したpAdApt35Bsuとライゲーションし、Qiaquick PCR purificationカラムを通して精製した。コンピテントDH5a細菌(Invitrogen)に形質転換し、HindIII及びXbaIを診断酵素として用いて正しいインサートを含有するクローンを選別した結果、pAdApt35Bsu.TB-L、pAdApt35Bsu.TB-S及びpAdApt35Bsu.TB-FLが得られた。これらのコンストラクトは、C末端にmycエピトープを含まない点で図2、3及び4に示すコンストラクトとは異なる。
【0072】
(2種のTB抗原を含有するpAdApt35Bsuベースのアダプタープラスミドの構築)
ここでは、例としてAg85A及びAg85Bを用いる2種のTB抗原を含有するアダプタープラスミドの構築について説明する。当業者に明らかであるように、M. tuberculosis抗原の他の組み合わせ及び異なる順序を、ここで概説された一般的な戦略を用いて作製することができる。ここで説明する融合物は、TB-3M:ALV-dig*-Ag85A-dig-Ag85B-myc及びTB-4M:Ag85A-Ag85B-myc及びmycタグがない同様のコンストラクトである。特異的なプライマーを設計して、上記のTM-LM及びTM-SM融合タンパク質からAg85A及びAg85Bの配列を増幅した(下記参照)。上記のように、mycタグを有する融合物、及びmycタグを有さない融合物(それぞれTB-3及びTB-4)を作製した。この点に関して、種々のプライマーのセット及び鋳型を用いた。
TB.3M断片:
ALVprot.FW及び85B.RE myc:5’- GCC TAG CTA GCG CCG GCT CCC AGG CTG C ‐3’(配列番号13)、TB-LMを鋳型として使用。
TB.4M断片:
85A.FW.TB.L:5’- GCC CAA GCT TGC CAC CAT GTT CAG CAG ACC CGG CCT G -3’(配列番号14)及び85B.RE myc(上記参照)、TB-SMを鋳型として使用。
【0073】
総ての反応を、Phusion(Bioke)のDNAポリメラーゼを用いて、上記の条件で行った。PCR断片を、Qiaquick PCR purification kitを用いて精製し、HindIII及びNheIで消化し、再びPCR purification kitを用いて精製した。その後、増幅した断片を、同様の酵素で消化したpAdApt35Bsu.mycプラスミドにライゲーションした。コンピテントDH5a細菌(Invitrogen)に形質転換した後、正しい長さのインサートを含有するクローンを選別した。この結果として、pAdApt35Bsu.TB.3Mコンストラクト(図5)及びpAdApt35Bsu.TB.4Mコンストラクト(図6)が得られた。
【0074】
TB.3断片及びTB.4断片を、上記のTB.3M断片及びTB.4M断片について上述したのと同様のフォワードプライマーと鋳型を用いるが、85B.RE.stop:5’- GCT AGT CTA GAT TAT CAG CCG GCT CCC AGG CTG C ‐3’(配列番号15)と名付けた異なるリバースプライマーを用いて作製した。増幅した断片を上記のように精製し、HindIII及びXbaIで消化し、再び上記のように精製し、クローン化部位としてHindIII及びXbaIを用いてpAdApt35Bsuにクローン化した。これによって、図5及び6のコンストラクトとは、C末端にmycエピトープを有さない点でのみ異なるpAdApt35Bsu.TB.3及びpAdApt35Bsu.TB.4が得られた。
【0075】
有用であるが、本明細書にて詳細なクローン化手順を説明していない他の組み合わせは、下記の通りである。
ALV-dig*-Ag85B-dig-Ag85A-myc
ALV-dig*-Ag85A-dig-TB10.4-dig-Ag85B-myc
ALV-dig*-TB10.4-dig-Ag85A-dig-Ag85B-myc
ALV-dig*-TB10.4-dig-Ag85B-dig-Ag85A-myc
ALV-dig*-Ag85B-dig-Ag85A-dig-TB10.4-myc
ALV-dig*-Ag85B-dig-TB10.4-dig-Ag85A-myc
ALV-dig*-Ag85A-dig-TB10.4-myc
ALV-dig*-Ag85B-dig-TB10.4-myc
ALV-dig*-TB10.4-dig-Ag85A-myc
ALV-dig*-TB10.4-dig-Ag85B-myc
Ag85B-Ag84A-myc
Ag85A-TB10.4-myc
Ag85B-TB10.4-myc
TB10.4-Ag85A-myc
TB10.4-Ag85B-myc
Ag85A-X-Ag85B-myc
Ag85B-X-Ag85A-myc
Ag85A-X-TB10.4-myc
Ag85B-X-TB10.4-myc
TB10.4-X-Ag85A-myc
TB10.4-X-Ag85B-myc
Ag85A-X-TB10.4-X-Ag85B-myc
Ag85B-X-Ag85A-X-TB10.4-myc
Ag85B-X-TB10.4-X-Ag85A-myc
TB10.4-X-Ag85A-X-Ag85B-myc
TB10.4-X-Ag85B-X-Ag85A-myc
dig*、dig、myc及びXは総て上記で概説した同様の特徴を示す。当然のことながら、これらのコンストラクトもmycタグなしで製造してもよい。
【0076】
(単一のTB抗原を含有するpAdApt35Bsuベースのアダプタープラスミドの構築)
ここでは、単一のTB抗原を含有するAd35アダプタープラスミドについて説明する。上述したように、タンパク質は、mycタグありで、又はmycタグなしで発現される。この点に関して、適切なコード領域をTB-L及びTB-Sの鋳型から、下記の特異的なプライマーのセットをを用いて増幅した。
TB.5M断片:
85A.FW.TB.L及び85A.RE myc:5’- GCC TAG CTA GCG CCC TGG GGG G ‐3’(配列番号16)、TB-LMを鋳型として使用。
TB.6M断片:
85B.FW:5’- GCC CAA GCT TGC CAC CAT GTT CAG CCG GCC TGG CCT G -3’(配列番号17)及び85B.RE myc、TB-LMを鋳型として使用。
TB.7M断片:
10.4.FW:5’- GCC CAA GCT TGC CAC CAT GAG CCA GAT CAT GTA CAA CTA CCC -3’(配列番号18)及び10.4.RE myc:5’- GCT AGT CTA GAT TAT CAC AGG TCC TCC TCG -3’(配列番号19)、TB-LMを鋳型として使用。
【0077】
mycタグを有さない断片を同様のフォワードプライマーを用いるが、異なるリバースプライマー:85A.RE.stop(TB.5について):5’- GCT AGT CTA GAT TAT CAG CCC TGG GGG GCA G ‐3’(配列番号20)、85B.RE.stop(TB.6について)及び10.4.RE.stop(TB.7について)を用いて作製した。総ての反応を、上述したように、Phusion(Bioke)を用いて行った。総ての増幅した断片を、Qiaquick PCR purification kitを用いて精製した。次に、TB-5M断片及びTB-6M断片をHindIII及びNheIで消化し、上述したように精製した後、同様の酵素で消化したpAdApt35Bsu.mycにクローン化した。TB-7M断片、TB-5断片、TB-6断片及びTB-7断片をHindIII及びXbaIで消化した。上述したように精製した後、断片を、上述した制限酵素を用いて消化したpAdApt35Bsuにライゲーションした。この結果として、pAdApt35Bsu.TB.5M(図7)、pAdApt35Bsu.TB.6M(図8)、pAdApt35Bsu.TB.7M(図9)、pAdApt35Bsu.TB.5、pAdApt35Bsu.TB.6及びpAdApt35Bsu.TB.7が得られた。後者の3つは、図7、8及び9のものとはC末端にmycエピトープが存在しない点でのみ異なるものである。
【実施例2】
【0078】
(TB抗原をコードする核酸を保有する複製欠損Ad35ウイルスの作製)
異種の発現カセットを保有する安定した複製欠損組み換えAd35ベースのアデノウイルスベクターを作製する方法は当業者によく知られており、公開された特許出願である国際公開第00/70071号パンフレット、国際公開第02/40665号パンフレット、国際公開第03/104467号パンフレット及び国際公開第2004/001032号パンフレットに既に記載されている。本実施例では、PER.C6(登録商標)細胞、並びにAd35のバックボーンにおいて同種のE4-Orf6配列及び6/7配列を置き換えてAd5由来E4-Orf6及びE4-Orf6/7遺伝子を含むAd35ウイルス(国際公開第03/104467号パンフレット及び国際公開第2004/001032号パンフレットに概して記載されている)を用いたAd35ベースのTBベクターの作製について説明する。本発明において、PER.C6(登録商標)細胞とは、Centre of Applied Microbiology & Research(CAMR)(Porton Down, Salisbury, Wiltshire, SP4 0JG United Kingdom)のEuropean Collection of Cell Cultures(ECACC)に特許寄託番号96022940の下、1996年2月29日に寄託されている細胞を指す。
【0079】
本明細書に記載されている種々のTB抗原を含有する作製したアダプタープラスミドをPi-PspIで消化して、プラスミドのバックボーンからAd35配列及び導入遺伝子のカセット(アダプター断片)を遊離させた。pWE.Ad35.pIX-EcoRVコンストラクト(国際公開第03/104467号パンフレット及び国際公開第2004/001032号パンフレット参照)をNotI及びEcoRvで消化し(フラグメント2)、pBr.Ad35.ΔE3.PR5Orf6コンストラクト(国際公開第03/104467号パンフレット及び国際公開第2004/001032号パンフレット参照)をPacI及びNotIで消化した(フラグメント3)。消化したDNA混合物を65℃でインキュベートして、酵素を失活させた。各トランスフェクションにおいて、消化したアダプター断片(360ng)、フラグメント2(1.4μg)及びフラグメント3(1μg)を混合し、(最大)15μlの容積とし、DMEM(培地、Invitrogen)で25μlに調整した。第2の混合物を、14.4μlのリポフェクタミン(Invitrogen)を10.6μlのDMEMと混合することによって調整し、その後、2つの混合物を一緒に添加し、チューブをタッピング(tapping)することによって混合した。次に、生じたDNA−リポフェクタミン混合物を室温で30〜40分インキュベートした後、4.5mlのDMEMをチューブに添加した。インキュベーションの間に、前日に10% FBS(GIBCO)と10 mM MgCl2を含有するDMEM(Invitrogen)中で1.5x106細胞/ウェルで6ウェルのプレートに播いたPER.C6細胞をDMEMで洗浄した。その後、最初の2ウェルに0.5mlのDMEMと0.5mlのインキュベートしたトランスフェクション混合物を添加した。次の2ウェルに0.25mlの培地と0.75mlのトランスフェクション混合物を添加した。最後の2ウェルに1mlのトランスフェクション混合物を入れた。次に、6ウェルのプレートを37℃、10%CO2で4時間インキュベートした後、下記の通りにアガーで表面を覆った。4時間のインキュベーションの期間の終了30分前に、9mlの2xMEM(Invitrogen)、0.36mlのFBS、0.18mlの1M MgCl2及び1.3
mlのPBSを含有する混合物を調整し、37℃で静置した。2.5%アガロース水溶液の無菌の予め作製された溶液(Seaplaque;Cambrex)を融解させ、37℃に維持した(使用前の少なくとも15分間)。次に、トランスフェクション培地を細胞から除去し、細胞をPBSで1回洗浄した。その後、7.5mlのアガー溶液をMEM培地混合物に添加し、混合し、3mlを各ウェルに迅速に添加した。表面の覆いを流動状態で(in the flow)凝固させた後、プレートを37℃、10%CO2で少なくとも7日間インキュベートした。充分に大きくなった際に、無菌のフィルターチップ(20μl)を備えたピペットを用いて単一のプラークをプラークの数が最も少ないウェルから取り出した。取り出したプラークをそれぞれ200μlの培地に混合し、このうち100μlを用いて6ウェルプレート内でPER.C6細胞に接種した。CPEの時点で、T25フラスコ内でPER.C6細胞上でウイルスをもう1回増幅した後、培地を回収し、1回凍結融解し、粗溶解物として貯蔵した。これらのウイルスのストックを用いて、単離したウイルスDNAでのPCRによって正しい導入遺伝子の存在を確認し、発現について試験した。次に、増幅したプラークのうち1つを選択して、ウイルス種のストックを作製し、2ステップのCsCl精製方法を用いて、本技術分野に既知の手法に従って、精製したウイルスのバッチを生産した。精製ウイルスの濃度は、通常はShabramら(1997)に記載されているHPLCによって決定した。
【実施例3】
【0080】
(Ad35ウイルスベクター感染におけるTB抗原の発現の分析)
融合したTB抗原の発現をウェスタンブロッティングによって決定した。この点に関して、A549細胞をTB抗原をコードする遺伝子を含有する種々のAd35ウイルスに感染させた。感染から48時間後、PBS(NPBI)で細胞を2回洗浄し、溶解バッファー(20mM Tris-HCl pH7.5、150mM NaCl、0.5%DOC、1%Tween-20の蒸留水の溶液に1%SDSを追加し、錠剤としてプロテアーゼ阻害剤(Roche社)を添加したもの)中で溶解し、解体した。氷上の溶解バッファー中で5〜10分後、溶解物を回収し、遠心分離によって除去した。等量の全細胞抽出物を、4-12%Bis-Tris NuPAGE(登録商標) Pre-Cast Gels(Invitrogen)を用いて分画した。タンパク質をImmobilon-Pメンブレン(Millipore)上に転写し、M. tuberculosisの培養濾液タンパク質(Culture Filtrate Protein)に向けられたポリクローナル抗体とインキュベートした。このポリクローナル血清は、分泌タンパク質を含むM. tuberculosis培養物に対してウサギ内で産生されたものである。基本的には、ポリクローナル血清は、総て分泌タンパク質であるAg85A、Ag85B及びTB10.4に対する抗体を含有する。二次抗体は西洋ワサビペルオキシダーゼ結合ヤギ抗ウサギ抗体(Biorad)とした。ウェスタンブロッティングの手順及びインキュベーションを本技術分野において既知である一般的な方法に従って行った。複合体をECL検出システム(Amersham)で製造業者の使用説明書に従って可視化した。
【0081】
図10Aは、本明細書に記載されているmycエピトープを含む核酸をコードするTBを保有するAd35ウイルスを用いた結果を示す。図10Aの種々のレーンは、使用した種々のウイルスベクターを示し、表1は、どの名称がどのインサートを指すのか示す。同様に、mycエピトープを含まないAd35ウイルスからのTB抗原の発現を測定した(図10B)。図10Cは同様の結果を示し、分子量が右側に示されている。Ad35ウイルスから発現した特異的なTB(融合)タンパク質をこの方法によって検出し、さらにTB-3及びTB-Lの特定の切断産物を検出した。図10Aより、TB-3Mと比較してTB-LMのレーンにおいてより高いバンドが存在する(TB-SのレーンのバンドがTB-4Mの特異的なバンドより高い)ことから、総ての3種のTB抗原を含むポリタンパク質が発現したと結論できる。TB10.4がTB-LMポリタンパク質及びTB-SMポリタンパク質において最もC末端側のポリペプチドであるので、このことは、全ポリタンパク質が翻訳されていることを示す。また、切断が完全ではないことも注目されるが、TB-3MのレーンとTB-LMのレーンで切断産物を見ることができる。Ag85A抗原及びAg85B抗原(それぞれレーンTB-5(M)及びレーンTB-6(M))が発現した。TB10.4抗原に関連した特異的な染色がレーンTB-7(M)で見られなかった。1種類の発現コンストラクト(TB-7M)に存在する一方で3種類のコンストラクト(TB-LM、TB-L及びTB-S)に存在する場合に、抗原が、ウェスタンブロットにおいてCFPポリクローナルによって認識されない可能性があるのに対して、タンパク質が、ゲルから移動するか、又はA549細胞において不充分に発現している可能性がある。図10Aにおいて、レーンTB-LMのわずかに短いバンドが最も高い(おそらく切断されていない)バンドの下に見ることができる。このことによって、ポリタンパク質の残存部分からのTB10.4抗原の切断が示唆される。
【0082】
更なる実験によって、タンパク質の物理的な存在が明らかにされるべきであるが、TB10.4抗原が免疫反応に寄与することは明らかであり(下記参照)、このことは、抗原が存在し、免疫反応に積極的に関与していることを強く示すものである。
【実施例4】
【0083】
(M. tuberculosis抗原をコードするベクターのマウスにおける免疫原性)
最初に、実施例1に記載のアダプタープラスミド(DNAコンストラクト)の免疫原性をマウスにおいて調査した。コンストラクトは1種、2種又は3種のTB抗原:Ag85A、Ag85B及びTb10.4をコードしている。複数のTB抗原をコードするDNAコンストラクトを上記の2つの方法で、すなわちmycタグを含まない直接的な融合物を含むポリタンパク質を発現するもの、並びにポリタンパク質(mycタグを含まない)の別個のポリペプチドへの切断をもたらすプロテアーゼ及びプロテアーゼ認識部位をコードする配列を含むポリタンパク質を発現するように設計した。以下のDNAコンストラクトを用いた(実施例1参照)。
1種類の抗原のコンストラクト
TB-5(Ag85A)、TB-6(Ag85B)及びTB-7(TB10.4)
2種類の抗原のコンストラクト
TB-3(ALV-dig*-Ag85A-dig-Ag85B)及びTB-4(Ag85A-Ag85B 直接融合)
3種類の抗原のコンストラクト
TB-L(ALV-dig*-Ag85A-dig-Ag85B-dig-TB10.4)及びTB-S(Ag85A-Ag85B-TB10.4直接融合)
【0084】
実験の設定条件を図11に示す。7グループのマウスに個々のTB DNAコンストラクトを免疫した(2回の実験、下記参照)。各免疫において、DNAを2.5週間の間隔で3回(3x50μg)筋肉注射した。ネガティブコントロールとして、1グループのマウスにPBSを3回注射した。更に、コントロールのグループに6x105cfuのBCG(SSI1331株)を皮下に単回投与した。
【0085】
最後のDNA免疫から1週間後、かつBCG免疫から6週間後、マウスを屠殺した。脾臓を単離して、細胞免疫アッセイ用の細胞源として使用した。体液反応分析に必要な血清を心臓に穴を開けることによって回収し、グループ毎に貯留した。
【0086】
特異的な細胞免疫反応のレベルを、細胞内IFNγ染色(ICS)FACSアッセイを用いて、対応する抗原のペプチドプールによってインビトロで再刺激した後にIFNγ+ CD4+脾細胞及びIFNγ+ CD8+脾細胞の発生頻度を測定することによって決定した。免疫血清を、対応する抗原をコードするアデノウイルスで形質導入したA549細胞の免疫蛍光を用いて試験した。
【0087】
2つの独立した免疫実験を行った。第1の実験においては、グループ当たり3匹のマウスを用い、免疫反応を各マウスについて個別に分析した。第2の実験においては、DNA免疫用にグループ当たり8匹のマウスを用い、コントロールの免疫用にグループ当たり4匹のマウスを用いた。ペプチドによるインビトロでの刺激の後に、同じグループからの2匹ずつのマウスのサンプルを貯留し、FACS分析のために染色した。両実験において同様の結果が得られ、データを統計分析用に一つにまとめた。
【0088】
細胞内のIFNγ染色(ICS)を下記の通りに行った。脾細胞(96ウェルプレート当たり106)を、上述した適切なペプチドプール(最終濃度はペプチド当たり2μg/ml)によって、1:1000の最終希釈の同時刺激抗体、すなわち抗マウスCD49d及び抗マウスCD28(Pharmingen)の存在下で二連で刺激した。ペプチドプールは、下記の実施例6及び7において概説するように、10アミノ酸長(Ag84B)又は11アミノ酸長(Ag85A、TB10.4)の重複配列を有する15アミノ酸長のペプチドにまたがる全抗原からなるか、又はAg85BについてAg85A由来のペプチドであるp1及びp2で調整した。更に、BCG及びPBSで免疫したマウス由来のサンプルを、BCG免疫におけるインビトロでの刺激によく利用される抗原であるCFP(培養濾液タンパク質(Culture Filtrate Protein);最終濃度10μg/ml)及びPPD(精製タンパク質誘導体(Purified Protein Derivative);最終濃度10μg/ml)で刺激した。ポジティブコントロールとして、サンプルをPMA/イオノマイシン(最終濃度:それぞれ50ng/ml及び2μg/ml)で刺激するのに対して、培地でのインキュベーションをネガティブコントロール(非刺激)とした。37℃で1時間刺激後、分泌遮断剤であるGolgiPlug(Pharmingen;最終希釈1:200)を添加し、インキュベーションをさらに5時間継続した。対応する二連のサンプルを貯留し、FACS分析のために処理した。簡単に説明すると、細胞を0.5%BSA含有PBSで洗浄し、FcR遮断剤(Pharmingen;最終希釈1:50)と氷上で10分間インキュベートした。洗浄ステップの後、細胞をCD4-FITC(Pharmingen;最終希釈1:250)及びCD8-APC(Pharmingen;最終希釈1:50)と氷上で30分間インキュベートした。洗浄時に、細胞をCytofix/Cytoperm(Pharmingen)を用いて氷上で20分間固定及び透過処理し、続いてPerm/Wash緩衝液(Pharmingen)で洗浄を行った。細胞内のIFNγを抗IFNγ-PE(Pharmingen;最終希釈1:100)を用いて氷上で30分間染色した。最後の洗浄ステップ
後、細胞をCellFix(BD)に再懸濁し、フローサイトメーターを用いて分析した。少なくとも10,000のCD8+細胞を各個別のサンプルについて測定した。結果を、IFNγを発現するCD4+又はCD8+の細胞のパーセンテージで表した。
【0089】
インビトロでの再刺激サンプルの概要を表2に示す。ICSの結果を図12〜図16に示す。
【0090】
【表2】
【0091】
図12A及びBは、細胞が刺激されていない場合のバックグラウンドのレベルが非常に低いことを示す。図13Aは、Ag85Aプールのペプチドによる刺激後に、IFNγ+ CD4+脾細胞の発生頻度が高いことを示す。Ag85Bコード遺伝子を宿すコンストラクトを注射したマウスから得られたCD4+細胞との明らかな交差反応性があり、このことは、Ag85AとAg85Bとの構造的な相同性が高いことから予期せぬことではない。CD4+細胞において見られたことに対して、Ag85A単独をコードするか、又はAg85Bと関連するコンストラクト(レーンAg85A、Ag85B、TB-3L、TB-4S)を注射したマウス由来の細胞のCD8+脾細胞が刺激されていないことを検出した(図13B参照)。しかしながら、3種類のコンストラクトであるTB-L及びTB-Sを注射したマウスにおいてIFNγ+ CD8+脾細胞の著しい増加があり、このことは、これらのコンストラクト中に存在する追加の抗原(TB10.4)の重要な役割を明らかに示すものである。明らかに、この設定条件では、TB10.4抗原は、Ag85Aペプチドに対する反応性を有するCD8+脾細胞の発生頻度を大きく増加させることができ、Ag85A単独(又はAg85Bと組み合わせたもの)では全く反応をもたらさなかった。図14Aは、Ag85Bが存在した総ての設定条件においてAg85BはIFNγ+ CD4+脾細胞の発生頻度を増加させることができるが、IFNγ+ CD8+脾細胞への影響は最小限であることを示す(図14B)。ここでも、上記のAg85BとAg85Aとの交差反応が見られた(図14A)。図15Aは、TB10.4に関連したペプチドプールに反応するIFNγ+ CD4+脾細胞の発生頻度が存在し、TB10.4を単独で有するコンストラクト又は3種類のインサートを含むコンストラクトを注射したマウスの間に実質的な差異が見られなかった。しかしながら、図15Bに示されているように、TB10.4抗原をコードする遺伝子を含むコンストラクトを注射したマウス由来のIFNγ+ CD8+脾細胞の発生頻度は、TB10.4に関連したペプチド、特に3種類のインサートと関連したものでの刺激において劇的に増加した(y軸が、平均1.5%の脾細胞が反応性であったことを示すのに留意されたい)。結果を、図16A(TB-L中の3種類のインサート:プロテアーゼ及びプロテアーゼ消化部位を有するもの)及び図16B(TB-S:直接連結した抗原)にまとめる。明らかなのは、種々の抗原が種々の様式で免疫反応に貢献していることであり、すなわち、Ag85AがCD4とCD8の反応の両方を誘導し、Ag85Bが強力なCD4の反応を誘導するのみであり、CD8の反応をほとんど誘導しないことである。Ag85Bに対して、TB10.4抗原は強力なCD8の反応を引き起こし、より小さいCD4の反応を引き起こす。このことは、3種類のインサート中に存在する配列によってコードされる種々の抗原の明らかで有益な補助効果を示すものである。
【0092】
BCGの免疫によって、有意なICS反応がもたらされなかった。しかしながら、BCG免疫マウスの脾細胞は、CFP又はPPDによる刺激から72時間後に高レベルのIFNγを生産し(IFNγELISAキットを用いて決定したもの)、このことは、マウスが効率的に免疫化されたことを示すものである(データ示さず)。
【0093】
いずれの抗原特異的抗体も、種々のDNAコンストラクトを注射したマウスにおいて実際に産生されるかどうか決定するために、96ウェルプレート内でA549細胞にTB抗原をコードするAD35組み換えアデノウイルスを形質導入した。アデノウイルスは、実施例2に記載されている通りに製造した。このために、ウェル当たり1x104細胞を播き、ウイルスを5000の感染効率で感染させた。感染から2日後、細胞をCytofix/Cytopermで固定し(4℃、20分間)、続いてPerm/Washバッファーを用いて洗浄を行った。細胞を、Perm/Washバッファーで1:2で希釈した免疫マウス血清と37℃で1時間インキュベートした。洗浄時に、Perm/Washバッファーで1:5で希釈したヤギ抗マウスFITCを添加し、37℃で30分間インキュベートした。最後の洗浄後、細胞を蛍光顕微鏡を用いて分析した。
【0094】
免疫蛍光分析によって、TB-6(Ag85B単独)、TB-3(ALV-dig*-Ag85A-dig-Ag85B)、TB-4(Ag85A-Ag85B 直接融合)及びTB-L(ALV-dig*-Ag85A-dig-Ag85B-dig-TB10.4)で免疫したマウスから得られた血清による細胞の抗原特異的な強い染色が明らかとなった。TB-S(Ag85A-Ag85B-TB10.4 直接融合)で免疫したマウス由来の血清による弱い染色が見られたが、TB-5(Ag85A単独)及びTB-7(TB10.4単独)で免疫することにより得られた血清は、染色を全く示さなかった。このことは、少なくともいくつかの抗原が抗体反応を誘発することができることを示すものである。ポリタンパク質の残存部分からの全プロテアーゼの切断及び別個の抗原の発現レベルは本実験では決定しなかった。
【実施例5】
【0095】
(抗原及びアジュバントをコードするrAdベクターの構築)
ここでは、新規な組み換え複製欠損アデノウイルスベクターを構築し、Ad35-X-A1K63と名付けた。該ベクターは、抗原(Xと呼ぶ)と、親のCtxA1中に存在するセリンの代わりに63番目のアミノ酸においてリジンの置換を有するCtxA1の変異誘導体(すなわち、本明細書においてA1K63と呼ぶ)を共発現する。
【0096】
X及びA1K63を発現することが可能なE1欠失Ad35ベースのベクター作製するのに適したアダプタープラスミドの構築を当業者に既知の標準的なPCR手法を用いてPCR増幅したXを導入し、適切なクローン化制限部位を導入することによって達成した。生じたPCR生成DNA断片を各制限エンドヌクレアーゼで消化し、Ag85A、Ag85及びTB10.4について概して上述したようにアダプタープラスミドにアニールした。クローン化したPCR断片の制限エンドヌクレアーゼでの消化、PCR及び配列決定による更なる分析を行って、DNAが構築の間に変化しなかったことを確認した。
【0097】
A1K63をコードするDNAをCtxA1のコピーを含むプラスミドpOGL1-Aから増幅する。ctxA1の核酸配列は、GenBank(アクセッション番号A16422)にて入手可能であり、セリン−63のTCAコドン(核酸 187〜189)をリジンのコドンAAAに置き換えることによって改変する。変異誘導体を、QuikChange(登録商標)Site-Directed Mutagenesis Kit(Stratagene)を用いて生成する。部位特異的突然変異誘発処理では、鋳型としてpOGL1-A DNAと、フォワードプライマー5’-TGT TTC CCA CCA AAA TTA GTT TGA GAA GTG C-3’(配列番号24)と、リバースプライマー5’- CAA ACT AAT TTT GGT GGA AAC ATA TCC ATC-3’(配列番号25)とを用いる全プラスミドPCRを行う。この手法によって、TCAコドンをAAAコドンに置き換えることで187〜189の核酸が改変される(下線の配列参照)。生じたPCR生成プラスミドをDpnIで消化して、鋳型DNAを除去し、消化したDNAを大腸菌に化学的形質転換によって導入し、寒天上で30℃で16時間培養する。単離したコロニーを選別し、一晩の液体培養物からDNAを抽出した。A1K63に特異的なプライマーを用いるプラスミドのPCRとアガロースゲル電気泳動を行って、適切な誘導体を求めてスクリーニングした。その後、変異インサートを、Xを含有する同様のアダプタープラスミドにXの上流又は下流にクローン化し、アデノウイルスを上記の通りに生産する。
【実施例6】
【0098】
(Ad35.TBベクターのマウスにおける用量反応)
種々の単一及び融合したTB抗原を発現するAd35組み換えウイルスを用いて、マウスにおける抗原性を試験した。タンパク質又はペプチドプールによる刺激後にインターフェロンγ(IFNγ)を産生するT細胞を定量する方法は典型的には本技術分野にて既知である方法、例えば国際公開第2004/037294号パンフレット、Sanderら(1991)及びJungらに記載されいるものを用いて行う。詳細を以下で説明する。
【0099】
3種類のインサートベクターであるTB-Sを用量反応免疫原性試験に用いた。4つの異なる用量のウイルス粒子(107、108、109及び1010vp)を異なるグループのC57BL/6マウス(グループ当たり5匹のマウス)に筋肉注射するのに対して、3匹のマウスをネガティブコントロールとし、これらのマウスに1010vpの空のウイルスベクターを注射した。免疫から2週間後、マウスを屠殺し、脾細胞を単離して、細胞免疫学調査用の細胞源とした。抗原特異的細胞免疫反応のレベルを、上記のように、細胞内IFNγ染色(ICS)FACSアッセイを用いて、IFNγ CD4+及びCD8+脾細胞の発生頻度を測定することによって決定した。結果を図17に示す。明らかなのは、Ad35べースのTB-Sベクターが、Ag85B特異的CD4細胞との反応の増加に特に関連して抗原特異的免疫反応を用量依存的様式で誘導することである(図17C)。TB10.4特異的CD4細胞に関して全く反応が見られず(図17E)、Ag85B特異的CD8細胞に関して全く反応が見られなかった(図17D)。Ag85A特異的CD8細胞及びTB10.4特異的CD8細胞に関して107及び108の用量ではほとんど反応が検出されなかったが(それぞれ図17B及び17F)、109及び1010の用量によって顕著な増加が見られた。どの設定条件においても107の用量によって有意な効果が全く得られなかったが、108の用量によって、Ag85A特異的CD4細胞及びAg85B特異的CD4細胞において増加がもたらされた(ぞれぞれ図17A及び17C)。同様のデータがTB-Lコンストラクトによって見られた(データ示さず)。
【0100】
マウスにおけるM.tuberculosis抗原のCD8免疫優性配列エピトープマッピングの評価において、Ag85Aのp1(FSRPGLPVEYLQVPS;配列番号26)及びp2(GLPVEYLQVPSPSMG;配列番号27)と呼ばれるペプチドがC57BL/6マウスにおける唯一のCD8免疫優性エピトープであることが見出された。下線部は、C57BL/6マウスのMHC分子に理論上適合するものである。タンパク質のこの領域におけるAg85A抗原の配列(アミノ酸1〜19:FSRPGLPVEYLQVPSPSMG;配列番号28)は、同じ領域におけるAg85Bの配列と同一である。しかしながら、Ag85Bプール由来のペプチドp1及びp2は、Ag85A由来のペプチドと同一の配列からなるが、CD8反応を全く示さなかった(図17D参照)。このことは、Ag85B由来のペプチドp1及びp2が、おそらく生産の影響又は汚染のために正常な状態でないことを示唆するものである。したがって、Ag85Aプール由来のp1及びp2を用いてAg85Bのインビトロでの刺激のペプチドプールを再構成した用量反応の実験をさらに行った。TB-Sベクター及びTB-Lベクターの両方によって、107、108、109及び1010vpの用量を用いて実験を行った。免疫から2週間後、概して上述したように、T細胞の反応を決定した。ネガティブコントロールとして、1グループのマウスにPBSを注射し、1グループに空のAd35ウイルス(1010vp)を注射した。CD8細胞についての結果を図17G(TB-L、左のグラフ、TB-S、右のグラフ)に示す。明らかなのは、CD8陽性細胞が、調整したAg85Bプールを用いたインビトロでの刺激において測定されたが、Ag85A抗原由来のペプチドは、本来使用され、陽性の結果を全く示さなかったAg85B抗原のペプチドと同一であったことである。にもかかわらず、これらの観察は、Ad35ベースのアデノウイルスによってコードされているAg85Bタンパク質も前記ウイルスの注射後にCD8陽性T細胞の反応を誘導することができることを示す。
【実施例7】
【0101】
(BCGによる初回抗原刺激における追加免疫として使用したAd35ベースのTBベクター)
別の実験において、TB抗原を発現するAd35ベクターをBCG免疫用の追加免疫剤として試験した。この点に関して、マウスのグループにBCGワクチン(カルメット・ゲラン桿菌;FDAの標準品及び結核ワクチン接種の分野において概して既知である)を、FDAによって供給されたプロトコール(CBERの基準及び試験セクション)に従って皮下注射した。
【0102】
4グループのマウス(グループ当たり8匹のマウス)をBCG(6x105cfu/マウス)を用いて皮下で抗原刺激してから10週間後に、3種の直接連結したTB抗原(TB-S)を保有するAd35を基にしたアデノウイルスベクター又は以下の組み合わせの抗原を保有するアデノウイルスAd35ベクター:
−TB-4単独(Ag85A及びAg85Bの直接融合物を含む)
−TB-4+TB-7(TB10.4を単独で含む)
−TB-5(Ag85Aを単独で含む)+TB-6(Ag85Bを単独で含む)+TB-7
を、注射した。2つのコントロールのグループ(グループ当たり4匹のマウス)を、PBS又はBCGを用いて初回抗原刺激し、その後、PBSグループにPBSを偽の免疫として与え、BCGで初回抗原刺激したコントロールのグループに109vpの空のAd35ベクターを与えた。Ad35ベースのベクターを用いた注射を総てのケースにおいて109vpで筋肉注射で行った。感染から4週間後(初回抗原刺激から14週間後)マウスを屠殺し、脾細胞を単離し、上記のように使用した。結果を図18に示す。Ag85A抗原の存在によって、Ag85A特異的CD4細胞に対し顕著な効果がもたらされた(図18A)。予測したとおり(図13Bも参照)、3種類のコンストラクトであるTB-Sは、Ag85A特異的CD8反応を誘導したが、TB-4ベクターはそのような反応を誘導しなかった(図18B)。同様の結果が以前に見られ(図13B)、このことは、Ag85Aが単独で存在するか、又はAg85Bと共に存在することによって、CD8反応がもたらされないが、そのような反応がTB10.4が存在する場合に見られることを示すものである。興味深いことに、別個のベクターを1回の注射で注射した場合に(図18B中のTB-4/TB-7又はTB-5/TB-6/TB-7)全く効果が見出されず、このことは、抗原が同一のコンストラクト又は少なくとも同一の細胞内に存在するべきであることから、なおさらTB10.4抗原が同時に注射した際にAg85Aに特異的なCD8反応を誘導できないことを示すものである。TB10.4のアジュバント効果のメカニズムは未だ不明である。
【0103】
Ag85B抗原によって見られる効果は先に見られたことと一致している(図18C及びD)。注意しなければならないことは、Ag85Aで見られたこととは対照的に、3種類のコンストラクトであるTB-S中にTB10.4抗原が存在することによって、Ag85Bに特異的なCD8反応が生じないことである。図10Bに示されているように、両抗原はコンストラクトから良く発現している。ネガティブな効果は、Ag85Bに対するいずれのCD8の反応を測定するのに使用された汚染したペプチドプールによるものである可能性がある(実施例6及び下記参照)。
【0104】
TB10.4を用いたCD4+細胞の誘導は非常に低いものである(図18E)。別個のベクター(TB-5/TB-6/TB-7)におけるTB10.4を用いたCD8+細胞の誘導は顕著なものであった(y軸上の目盛を注目されたい;図15Bも参照)。TB-Sを用いたTB10.4特異的CD8細胞の誘導は、IFNγ陽性CD8細胞が平均約12%と非常に高いものである(図18F)。
【0105】
TB10.4抗原が、1種類のコンストラクトとしてはCD8反応を生じない抗原(Ag85A)に対するCD8反応を誘導することができるという結論に達することができる。CD8細胞の活性化が、少なくとも一部はMHCクラスI分子による抗原の加工及び提示に関与する複雑な機構によるものであるCD4細胞の活性化より幾分高い抗原の閾値を必要とすることが知られている(Storin及びBachmann.2004)。ここで、3種類の抗原のコンストラクト内でTB10.4がAg85A抗原及びAg85B抗原に連結している場合、TB10.4自身に対してのみならず、Ag85Aに対しても強いCD8反応が誘発されたことを発見した。コンストラクト内にTB10.4が物理的に存在することによって、CD8細胞への有効な提示及び該細胞の活性化に必要である融合タンパク質のプロテオソームへの輸送の効率が上がる可能性がある。TB10.4特異的CD8細胞のより高い反応の理由は、TB10.4抗原を単独で保有するベクターに比較して3種類のコンストラクトの発現レベルが増大したことによる可能性が最も高い。TB10.4単独に対するCD8反応も有意ではあったが、ウェスタンブロッティング用のTB10.4に特異的な抗血清を欠いているため、TB10.4の発現レベルは決定できなかった。
【0106】
プロテオソームへのターゲティングの増加は、ユビキチン(もしくは加工することになっているタンパク質の標識を担う他の分子)もしくはトランスポータータンパク質の結合に関与する配列、又はMHCクラスI分子との関連において別の方法で加工及び提示を増大させる配列などのTB10.4分子内に特異的な部位が存在する結果である可能性がある(Wangら 2004)。または、TB10.4タンパク質がコンストラクト中に存在することによって、融合タンパク質が物理的に不安定化され、それによって分子の分解率の上昇がもたらされる可能性がある。抗原の加工のレベルの増大によって、概してCD8細胞の活性化の増大がもたらされる。さらに、多くのタンパク質がクラスI提示のためのプロテオソームで終わる場合、サイトゾル及び細胞外により少ない量で存在し、それ故にB細胞の活性化に利用できない。抗原の加工(すなわちCD8の活性化)と抗原に特異的な抗体の力価との間に逆相関が存在することが報告されている(Deloguら.2000)。興味深いことには、3種類の抗原のコンストラクトで免役したマウス由来の血清よりも、はるかに強力な抗原−免疫蛍光が2種類の抗原のコンストラクトで免役したマウス由来の血清において認められたことである。この発見は、TB10.4を含む本発明者らの3種類の抗原分子が、プロテオソームの分解及びCD8細胞の活性化の影響を極めて受けやすく、それ故に抗体の誘導にあまり利用できないことを示唆するものである。強力なT細胞の反応が結核に対してより好ましい反応であるので、TB10.4抗原と少なくとも1種の他のTB抗原、好ましくはAg85A、より好ましくはAg85A及びAg85Bの両方をコードする核酸を含むAd35ベースの3種類の抗原ベクターは、結核に対するワクチンに使用するのに非常に適しているという結論に達する。発見された効果は、図18に示す結果によって示されるように、BCGを初回抗原刺激剤として用いることによってさらに増大する可能性がある。
【0107】
また、Ag85Aのp1及びp2ペプチドを添加したAg85Bの新規なペプチドプール(実施例6記載)を用いて、BCGの初回抗原刺激、Ad35-TBの追加免疫を用いた初回抗原刺激/追加免疫調査を繰り返したが、脾細胞を、初回抗原刺激から26週間後(免疫から16週間後)に屠殺したマウスから除去した。マウス(グループ当たり8匹)をPBS、Ad35.エンプティー、Ad35.TB-S又はAD35.TB-Lで、109又は1010vpの各ウイルスベクターを用いて免疫した。結果を図25(Ag85A刺激)、26(Ag85B刺激)及び27(TB10.4刺激)に示す。結果は、顕著なCD4及びCD8反応が長い時間を経た後でも測定することができたことを明らかに示す。
【実施例8】
【0108】
(モルモットにおける初回抗原刺激−追加免疫曝露実験)
次の実験では、曝露の設定状況においてBCGによる初回抗原刺激の後にAd35ベースのTBベクターによる追加免疫を行うことによって、Mycobacterium tuberculosis感染が防御されるかどうか調査した。
【0109】
モルモットを最初にBCGで典型的には上述したように初回抗原刺激した(動物当たり6x105cfu)。14週間後、動物を1010vpのAd35.TB-S(Ag85A-Ag85B-TB10.4)又はAd35.TB-4(Ag85A-Ag85B)の組み換えウイルスで免疫するか、又は動物にPBSを注射した(コントロールグループ)。8週間後、動物に、動物当たり〜100cfuのM.tuberculosisを曝露した。初回抗原刺激後約78週間まで動物を生存について観測した。中間の観察によって、BCGの初回抗原刺激後にAg35-TBの追加免疫を行うことによって、BCG単独よりも生存率が高くなることが示唆された。
【0110】
(参考文献)
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】図1は、pAdApt35Bsu.mycの地図を示す図である。
【図2】図2は、pAdApt35Bsu.TB.LMの地図を示す図である。
【図3】図3は、pAdApt35Bsu.TB.SMの地図を示す図である。
【図4】図4は、pAdApt35Bsu.TB.FLMの地図を示す図である。
【図5】図5は、pAdApt35Bsu.TB.3Mの地図を示す図である。
【図6】図6は、pAdApt35Bsu.TB.4Mの地図を示す図である。
【図7】図7は、pAdApt35Bsu.TB.5Mの地図を示す図である。
【図8】図8は、pAdApt35Bsu.TB.6Mの地図を示す図である。
【図9】図9は、pAdApt35Bsu.TB.7Mの地図を示す図である。
【図10】図10は、mycタグを有する(A)及びmycタグを有さない(B)種々のセットのTB抗原をコードする核酸を含むAd35ウイルスに感染したA549細胞由来の溶解物での抗TB抗原ポリクローナルを用いたウェスタンブロットを示す図であり、(C)は(B)と同様であり、分子量マーカーと共に示した図である(表1の表記参照)。
【図11】図11は、結核抗原をコードする核酸の種々のセットを宿す7種の種々のアデノウイルスベクター(DNA)を用いる免疫プロトコールの実験計画を示す図である。
【図12】図12は、ペプチドを全く用いない刺激によるインターフェロンγ生産において陽性(IFNγ+)を染色する抗原特異的脾細胞のパーセンテージを示す図である(A:CD4+細胞、B:CD8+細胞)。
【図13】図13は、Ag85A抗原に関連したペプチドのプールを用いた刺激によるインターフェロンγ生産において陽性(IFNγ+)を染色する抗原特異的脾細胞のパーセンテージを示す図である(A:CD4+細胞、B:CD8+細胞)。
【図14】図14は、Ag85B抗原に関連したペプチドのプールを用いた刺激によるインターフェロンγ生産において陽性(IFNγ+)を染色する抗原特異的脾細胞のパーセンテージを示す図である(A:CD4+細胞、B:CD8+細胞)。
【図15】図15は、TB10.4抗原に関連したペプチドのプールを用いた刺激によるインターフェロンγ生産において陽性(IFNγ+)を染色する抗原特異的脾細胞のパーセンテージを示す図である(A:CD4+細胞、B:CD8+細胞)。
【図16】図16は、3種類のインサートであるTB-L(A)及びTB-S(B)を注射したマウスから得られた血清において、ICNにて陽性を染色するCD4+及びCD8+脾細胞のパーセンテージの概要を示す図である。
【図17A】図17Aは、Ag85A抗原、Ag85B抗原及びTb10.4抗原をコードする核酸を含むTB-Sの種々の用量を用いる用量反応効果を示し、Ag85Aに対するCD4反応を示す図である。
【図17B】図17Bは、Ag85A抗原、Ag85B抗原及びTb10.4抗原をコードする核酸を含むTB-Sの種々の用量を用いる用量反応効果を示し、Ag85Aに対するCD8反応を示す図である。
【図17C】図17Cは、Ag85A抗原、Ag85B抗原及びTb10.4抗原をコードする核酸を含むTB-Sの種々の用量を用いる用量反応効果を示し、Ag85Bに対するCD4反応を示す図である。
【図17D】図17Dは、Ag85A抗原、Ag85B抗原及びTb10.4抗原をコードする核酸を含むTB-Sの種々の用量を用いる用量反応効果を示し、Ag85Bに対するCD8反応を示す図である。
【図17E】図17Eは、Ag85A抗原、Ag85B抗原及びTb10.4抗原をコードする核酸を含むTB-Sの種々の用量を用いる用量反応効果を示し、TB10.4に対するCD4反応を示す図である。
【図17F】図17Fは、Ag85A抗原、Ag85B抗原及びTb10.4抗原をコードする核酸を含むTB-Sの種々の用量を用いる用量反応効果を示し、TB10.4に対するCD8反応を示す図である。
【図17G】図17Gは、Ag85A抗原、Ag85B抗原及びTb10.4抗原をコードする核酸を含むTB-Sの種々の用量を用いる用量反応効果を示し、調整したペプチドプールを有するAg85B(実施例6参照)に対するCD8反応を示す図である(左のグラフ、TB-L感染におけるもの;右のグラフ、TB-S感染におけるもの)。
【図18A】図18Aは、BCGで初回抗原刺激し、種々のAd-TBベクターで追加免疫後のCD4及びCD8の反応を示し、Ag85Aに対するCD4反応を示す図である。
【図18B】図18Bは、BCGで初回抗原刺激し、種々のAd-TBベクターで追加免疫後のCD4及びCD8の反応を示し、Ag85Aに対するCD8反応を示す図である。
【図18C】図18Cは、BCGで初回抗原刺激し、種々のAd-TBベクターで追加免疫後のCD4及びCD8の反応を示し、Ag85Bに対するCD4反応を示す図である。
【図18D】図18Dは、BCGで初回抗原刺激し、種々のAd-TBベクターで追加免疫後のCD4及びCD8の反応を示し、Ag85Bに対するCD8反応を示す図である。
【図18E】図18Eは、BCGで初回抗原刺激し、種々のAd-TBベクターで追加免疫後のCD4及びCD8の反応を示し、TB10.4に対するCD4反応を示す図である。
【図18F】図18Fは、BCGで初回抗原刺激し、種々のAd-TBベクターで追加免疫後のCD4及びCD8の反応を示し、TB10.4に対するCD8反応を示す図である。
【図19】図19は、TB-LMの核酸配列を示す図である。
【図20】図20は、TB-SMの核酸配列を示す図である。
【図21】図21は、TB-FLMの核酸配列を示す図である。
【図22】図22は、TB-LMのアミノ酸配列を示す図である。
【図23】図23は、TB-SMのアミノ酸配列を示す図である。
【図24】図24は、TB-FLMのアミノ酸配列を示す図である。
【図25】図25は、長期に渡って読み取ったBCG初回抗原刺激/AD35-TB追加免疫実験におけるAg85Aでの刺激を示す図である(パネル上部:CD4反応、パネル下部:CD8反応。Ad35.E=空のAD35ウイルス)。
【図26】図26は、長期に渡って読み取ったBCG初回抗原刺激/AD35-TB追加免疫実験におけるAg85Bでの刺激を示す図である(パネル上部:CD4反応、パネル下部:CD8反応。Ad35.E=空のAD35ウイルス)。
【図27】図27は、長期に渡って読み取ったBCG初回抗原刺激/AD35-TB追加免疫実験におけるTB10.4での刺激を示す図である(パネル上部:CD4反応、パネル下部:CD8反応。Ad35.E=空のAD35ウイルス)。
【技術分野】
【0001】
本発明は、組み換えDNA及びウイルスベクターのワクチンの分野に関し、特に、多数の抗原及び/又はアジュバントをコードする核酸を宿す組み換えDNA及びウイルスベクターに関する。
【背景技術】
【0002】
結核(tuberculosis、TB)は、数千年の間、ヒトの健康にとって主要な世界規模の驚異であり続けている。Mycobacterium tuberculosisによって引き起こされるTBは、空気伝染のM.tuberculosis桿菌に曝されることによって感染が引き起こされる肺の感染病である。この桿菌は、極めて感染しやすく、現在、世界の人口の約三分の一(20億人のヒト)が感染していると推測されている。さらに、TBによって、年間200万人を超える人々が死亡していると推測されている。5〜10%の免疫適格性のヒトのみTBに感受性が高く、それらのうち85%を越えるヒトがもっぱら肺において病気を発症し、一方で、HIVに感染したヒトもより容易に死を招く全身性の病気を発症している可能性がある。
【0003】
約90%のM.tuberculosisに感染したヒトは病気を発症していない。しかしながら、これらの潜在的に感染している個体において、桿菌は長年の間生存でき、例えばHIV感染後など免疫システムが弱くなった場合に再活性化することとなる。潜在性の性質により、感染した個体は、一般に最大12ヶ月までの間、いくつかの抗生物質の投与によって治療する必要があり、これは、コストと多剤耐性の発生の可能性があることから、概してあまり魅力のある治療ではなく、多くの発展途上国においてあまり有効な治療ではない。
【0004】
比較的成功しているTBワクチンが一つ開発されており、カルメット・ゲラン桿菌(BCG)ワクチンが20世紀の初期に作製され、1921年に最初に個体に与えられた。BCGワクチンは、ウシから得られたMycobacterium bovis分離菌を基にした細菌の弱毒株である。該ワクチンは比較的安全なワクチンであり、容易かつ多少安く製造される。2000年には、BCGワクチン接種は世界人口の86%に及んだ。しかしながら、ワクチンは成人の肺結核にあまり有効ではないようであり、発展途上国の多くの地域では、BCGワクチンプログラムにもかかわらず、未だにTBの割合が非常に高い。BCGワクチンによって、TBによる総てのワクチンで防ぐことが可能な死の5%しか防げないと推測されている(非特許文献1)。
【0005】
概してBCGワクチンの防御の割合がかなり低く、かつ小児期及び播種性のTBに関して特に防御するために、他の熱帯の感染病及びHIVに対するワクチン接種などの他の分野において得られた他のシステム及び知識に基づいて、新規な、より幅広く適用可能なTBに対するワクチンの開発により多くの努力がなされている(非特許文献2)。
【0006】
サブユニットのワクチン及びDNAワクチンからマイコバクテリウム株の改変にわたって、新規なTBワクチンを開発するために種々のアプローチがとられてきた。また、組み換えウイルスを基にしたワクチンも作製され、それによって、改変されたVaccinia Ankara(MVA)ベクター及び複製欠損アデノウイルスベクターなどの遺伝子送達媒体を介してM.tuberculosis抗原の抗原提示細胞への移動が可能となった。
【0007】
TBに対する裸DNAワクチンが特許文献1に記載されているが(特許文献2も参照)、組み換え型又は精製した状態のMycobacterium tuberculosis由来の多数の抗原をワクチン用途に使用することについて多くの報告がなされている(特許文献3〜15)。種々のTB抗原を含む融合タンパク質の使用も提案されており(特許文献8、16、17参照)、ESAT-6とMPT59(MPT59は、Ag85B又は85B抗原とも称される)との融合ポリペプチドの使用が開示されている。
【0008】
【特許文献1】国際公開第96/15241号パンフレット
【特許文献2】欧州特許出願公開第0792358号明細書
【特許文献3】国際公開第95/01441号パンフレット
【特許文献4】国際公開第95/14713号パンフレット
【特許文献5】国際公開第96/37219号パンフレット
【特許文献6】米国特許第6,599,510号明細書
【特許文献7】国際公開第98/31388号パンフレット
【特許文献8】国際公開第98/44119号パンフレット
【特許文献9】国際公開第99/04005号パンフレット
【特許文献10】国際公開第99/24577号パンフレット
【特許文献11】国際公開第00/21983号パンフレット
【特許文献12】国際公開第01/04151号パンフレット
【特許文献13】国際公開第01/79274号パンフレット
【特許文献14】国際公開第2004/006942号パンフレット
【特許文献15】米国特許出願公開第2002/0150592号明細書
【特許文献16】欧州特許出願公開第097205号明細書
【特許文献17】欧州特許出願公開第1449922号明細書
【非特許文献1】Kaufmann SHE (2000) Is the development of a new tuberculosis vaccine possible? Nat Med 6:955-960
【非特許文献2】Wang J and Xing Z (2002) Tuberculosis vaccines: the past, present and future. Expert Rev Vaccines 1(3):341-354
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
強力な細胞反応、強力な体液反応に加えて長期に渡る高い防御率も保証する結核に対するワクチンを作製するこれら総ての努力とそれ以外の努力にもかかわらず、そのようなワクチンは未だ利用可能となっていない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、組み換えウイルスベクター、好ましくは複製欠損アデノウイルス、より好ましくは組み換えヒトアデノウイルス抗原型Ad11、Ad24、AD26、AD34、Ad35、Ad48、Ad49及びAd50に関し、ウイルスベクターは、1種又は複数の結核を引き起こす桿菌由来の少なくとも2種の抗原の(融合)ポリペプチドをコードする異種の核酸配列を含む。コードされている抗原は直接結合している、すなわち1つの単独のポリペプチドを形成していてもよい。好ましい一実施態様において、共発現される特異的なプロテアーゼによって認識されるリンカー配列を介して結合しているという意味では、抗原は、前駆体のポリタンパク質中に存在する。異種の核酸は、プロテアーゼをコードする遺伝子を含んでもよい。直接結合を有する融合タンパク質は、融合産物中に存在する抗原により望ましい免疫反応を誘発するが、プロテアーゼ部位を含むタンパク質は、別々の個々の抗原の形状に切断され、それぞれ望ましい免疫反応に寄与する。プロテアーゼは、好ましくは細胞のプロテアーゼによって認識されるプロテアーゼ認識部位によって抗原に連結されている。両方の設定によって、単一の導入遺伝子をコードするユニットのみを含むウイルスベクターを用いたワクチン接種又は治療と比較して、追加の効果又は相乗効果が得られる。より一般的には、本発明は、プロテアーゼに特異的な切断部位によって分断された多数の抗原をコードする異種の核酸配列を含むウイルスベクターにも関する。当然のことながら、そのような抗原は、特に限定されないがウイルス、細菌及び寄生動物などの感染病原体を含めた多種多様の供給源由来であってもよく、従って、本発明の本態様に従って、結核を引き起こす桿菌由来の抗原であるが特に限定されない。Tuberculosis mycobacterium由来の抗原は、そのような多価ウイルスベクターワクチンをどのようにして作製するのか、ホスト細胞に移行した際にどのようにして抗原が分離し、免疫反応に寄与することができるのかについての例となるが、特に限定するものではない。
【0011】
また、本発明は、ウイルスベクターから共発現される遺伝子のアジュバントの使用にも関する。これらのアジュバントは、ウイルスベクターのゲノムに導入される異種の核酸配列の一部である核酸によってコードされる。アジュバントは特異的な抗原と共に発現され、それによって抗原に対する免疫反応を刺激することができる。明らかなのは、アジュバントをコードする配列は、抗原をコードする配列に直接連結されていてもよいが、プロテアーゼ認識部位をコードするリンカー配列によって1種又は複数の抗原をコードする配列と離れていることが好ましいことである。後者の場合、アジュバントは抗原と離れてホスト内に存在し、その免疫刺激効果を抗原と共にもたらすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、組み換えウイルスベクターを含む多価ワクチンに関する。好ましいウイルスベクターは組み換えアデノウイルス(Ad)ベクターである。本発明に従う組み換えアデノウイルスベクターは、少なくとも2種の異なる抗原をコードする異種の核酸配列を含む。抗原は単独のポリペプチド内であってもよい。これらの決定因子は、ウイルス、細菌及び寄生の病原体由来の抗原であるか、又は特に限定されないが自己免疫抗原もしくは腫瘍抗原などのホストの抗原であってもよい。好ましい実施態様において、抗原は、結核(TB)を引き起こす桿菌由来であり、より好ましくはMycobacterium tuberculosis、M. africanumもしくはM. bovis由来又はそれらの組み合わせ由来である。抗原は、全長の天然タンパク質、抗原とホストタンパク質もしくは模倣物(mimetic)とのキメラ融合物、病原体が起源である抗原のそれらの断片、又は望ましい免疫反応を依然として誘発する他の変異体であってもよい。本発明のウイルスベクターに通常用いることができるTB抗原をコードする遺伝子としては、Ag85A(MPT44)、Ag85B(MPT59)、Ag85C(MPT45)、TB10.4(CFP7)、ESAT-6、CFP7A、CFP7B、CFP8A、CFP8B、CFP9、CFP10、CFP10A、CFP11、CFP16、CFP17、CFP19、CFP19A、CFP19B、CFP20、CFP21、CFP22、CFP22A、CFP23、CFP23A、CFP23B、CFP25、CFP25A、CFP26(MPT51)、CFP27、CFP28、CFP29、CFP30A、CFP30B、CWP32、CFP50、MPT63、MTC28、LHP、MPB59、MPB64、MPT64、TB15、TB18、TB21、TB33、TB38、TB54、TB12.5、TB20.6、TB40.8、TB10C、TB15A、TB17、TB24、TB27B、TB13A、TB64、TB11B、TB16、TB16A、TB32、TB32A、TB51、TB14、TB27、HBHA、GroEL、GroES(国際公開第95/01441号パンフレット、国際公開第98/44119号パンフレット、米国特許第6,596,281号明細書、米国特許第6,641,814号明細書、国際公開第99/04005号パンフレット、国際公開第00/21983号パンフレット、国際公開第99/24577号パンフレット)が挙げられるが特に限定されない。抗原は、国際公開第92/14823号パンフレット、国際公開第95/14713号パンフレット、国際公開第96/37219号パンフレット、米国特許第5,955,077号明細書、米国特許第6,599,510号明細書、国際公開第98/31388号パンフレット、米国特許公開第2002/0150592号明細書、国際公開第01/04151号パンフレット、国際公開第01/70991号パンフレット、国際公開第01/79274号パンフレット、国際公開第2004/006952号パンフレット、国際公開第97/09428号パンフレット、国際公開第97/09429号パンフレット、国際公開第98/16645号パンフレット、国際公開第98/16646号パンフレット、国際公開第98/53075号パンフレット、国際公開第98/53076号パンフレット、国際公開第99/42076号パンフレット、国際公開第99/42118号パンフレット、国際公開第99/51748号パンフレット、国際公開第00/39301号パンフレット、国際公開第00/55194号パンフレット、国際公開第01/23421号パンフレット、国際公開第01/24820号パンフレット、国際公開第01/25401号パンフレット、国際公開第01/62893号パンフレット、国際公開第01/98460号パンフレット、国際公開第02/098360号パンフレット、国際公開第03/070187号パンフレット、米国特許第6,290,969号明細書、米国特許第6,338,852号明細書、米国特許第6,350,456号明細書、米国特許第6,458,366号明細書、米国特許第6,465,633号明細書、米国特許第6,544,522号明細書、米国特許第6,555,653号明細書、米国特許第6,592,877号明細書、米国特許第6,613,881号明細書、米国特許第6,627,198号明細書に開示されている。特に有用な抗原融合物は、ここで初めて開示されるものであるが(Ag85A-Ag85B-TB10.4及びそれらの組み合わせなど)、国際公開第98/44119号パンフレット及び上記で引用されている文献に開示されているESAT-6-MPT59及びMPT59-ESAT-6などの既知の融合物でもよい。
【0013】
複数の抗原を適用する一つのアプローチは、2種又は3種以上の別個の発現カセットを単一のベクター内に存在させることによるものであってもよく、各カセットは、所定の別個の遺伝子を含む。このアプローチが、例えばベクターにおける空間の利用可能性と関連して、すなわち別個のカセットは概して別個のプロモーター及び/又はインデューサー並びに別個のポリアデニル化シグナル配列を含むことから、不利益を有することは明らかである。そのようなカセットは、典型的にはウイルスベクター内で別々に位置付けられることを必要とし、それによって、クローン化手順がより困難となるのに対して、「プロモーター干渉」又は「スケルチング(squelching)」(プロモーターが作用するのに必要な細胞因子の利用可能性が制限されること)として知られている現象によって、種々のプロモーターからの発現レベルが制限される可能性がある。
【0014】
複数のTB抗原間の融合物に関連する本明細書に開示されている組み換えウイルスベクターによって例示されているように、2種以上の抗原をコードするいくつかの核酸を含む組み換えアデノウイルスベクターを作製することができ、該ウイルスベクターは、強力な免疫反応を誘発するが、単一のインサートを使用することによって、限定された効果が誘発される。明らかなのは、これらのベクターが組み換え遺伝子キメラをコードし、該キメラは、例えば融合タンパク質の形状で2種又は3種以上の抗原を単一のシストロンのmRNAにて発現することである。このアプローチは、DNAワクチン又はウイルスベクターを使用してパッセンジャーの抗原に対してT細胞の免疫を発動させる場合に有効である。しかしながら、当該融合タンパク質は、当該融合物が免疫優性のパターンを歪曲する可能性があり、すべての目標の抗原に対して免疫を等しい効力で常に発動するとは限らないことから、常に予め想定することができるとは限らない更なる欠点を有する可能性があるが、遺伝子融合物の発現のもう一つのおそらくより重大な欠点は、それらの融合のパートナーが近くに存在することによるか、又は他の理由により、個々の成分が天然の構造に折り畳めない可能性があることである。この結果として、遺伝子融合物は、ナンセンスなエピトープに対し抗体反応を発動する可能性があり、当該抗体は創始者の病原体によって示される天然のエピトープを認識せず、感染症と戦うのに弱い可能性がある。
【0015】
本発明の発明者らは、単一の異種の核酸によって複数の抗原がコードされ、発現したポリタンパク質を別個の抗原ポリペプチドに加工するシステムを開発した。従って、一実施態様において、本発明は、後に別個の抗原に加工される複数の抗原を発現可能にし、従って、遺伝子融合物と関連した起こりうる制限を回避するが、別個の発現カセットを必要としないウイルスベクターに関する。従来、ウイルスベクターによって発現された遺伝子融合物を別個の抗原に正確に加工できるようにする組成物又は方法は全く明らかにされていなかった。DNA又はウイルスベクター中に含まれる核酸によってコードされ、後に別個の抗原に加工される複数の抗原の発現が、トリ白血病ウイルスによってコードされるウイルスプロテアーゼ(Avian Leucosis Virus、ALV;ここでは、PR-ALVと呼ぶ)などのプロテアーゼ(PR)を用いることによって実証される。ALVにおいて、ALV-PRは、ALV複製における重要なステップであるgag及びgag-pol前駆体の加工を触媒することが知られているgagタンパク質のC末端ドメインを形成する(Skalka 1989の総説)。
【0016】
独特のALV-PRに向けられた加工システムを作出した。ALV-PR及び所定の抗原を含むポリタンパク質をDNA又はウイルスベクターによって発現し、ALV-PRは好ましくはポリタンパク質のN末端を形成し、続いて抗原配列がALV-PRの消化部位と連結されている。2つの異なる切断部位をシステムにおいて使用するのが好ましい。一方の切断部位(GSSGPWPAPEPPAVSLAMTMEHRDRPLV;配列番号22)は、ALV-PRを放出するためのものであり、他方の切断部位(PPSKSKKGGAAAMSSAIQPLVMAVVNRERDGQTG;配列番号21)はALV-PRによって認識され、他のコードされている抗原を別個のポリペプチドに分離するために使用される。
【0017】
または、PR及びその切断部位は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、マウス白血病ウイルス、サル免疫不全ウイルス(SIV)及びラウス肉腫ウイルスなどの他のレトロウイルスによってコードされているか、又はそれらを基にしたものであってもよい。
【0018】
好ましい実施態様において、本発明は、Mycobacterium tuberculosis由来の複数の抗原をコードする核酸配列を含む組み換えウイルスベクターを明らかにし、該ベクターにおいて、種々の核酸配列がALVプロテアーゼ認識部位をコードする配列によって互いに分断されている。これにおいて、別個のTB抗原がポリタンパク質として生産され、続いてそれら抗原が、それぞれ免疫反応に寄与する別個の抗原ポリペプチドに切断されるように加工される。当然のことながら、ALVプロテアーゼシステムはTB特異的な抗原の使用に限定されない。当業者であれば、TB抗原と異なるか、又はTB抗原と組み合わせた他の抗原にシステムが適用される可能性並びに遺伝子治療及び腫瘍ワクチン接種などの他の治療設定状況への適用を認識できる。
【0019】
好ましくは、プロテアーゼ部位によって分断される複数の抗原をコードする配列を含むウイルスベクターはアデノウイルスベクターである。ウイルスベクターはそれ自体ウイルス粒子であってもよいが、ウイルスベクターという用語は、ウイルス粒子をコードする核酸も指す。アデノウイルスベクターは、低パーセンテージのターゲットの集団において活性の中和を受けるアデノウイルス種又は抗原型を基にするか、又はこれらに由来する組み換えベクターであるのが好ましい。当該アデノウイルスは、概してヒト個体群内で常に循環しているわけではないことから、「レア」アデノウイルスと呼ばれることもある。従って、好ましい抗原型は、Ad11、Ad24、Ad26、Ad34、Ad35、Ad48、Ad49及びAd50である。
【0020】
本明細書で使用されているように、「抗原」とは、動物又はヒトの細胞又は組織で発現した場合、免疫反応を引き起こすことが可能なタンパク質又はその断片を意味する。例として、ウイルスタンパク質、細菌タンパク質、寄生動物タンパク質、サイトカイン、ケモカイン、免疫調節物質及び治療物質が挙げられるが、これらに限定されない。抗原は、それぞれの場合において、ワクチン接種される動物又はヒトのホストにおける発現による免疫反応に寄与することが可能な野生型タンパク質、該タンパク質の先端を切り取った形状のもの、該タンパク質の変異型又は該タンパク質のその他の変形であってもよい。当然のことながら、抗原が直接融合している場合、この融合は組み換え分子生物学の結果であり、従って、本明細書で使用される2種の抗原の直接融合は、自然において生じる単一の野生型タンパク質の2種の抗原部分を指すものではない。明瞭にするために、単一の野生型タンパク質の2種の抗原部分(2種の部分が通常タンパク質内で直接連結されている)が本明細書に記載されているリンカー(下記のALVプロテアーゼ部位など)を介して連結されている場合、当該融合は本発明の一部である。好ましい実施態様において、本発明は、直接連結されているか、又は1種もしくは複数のプロテアーゼ部位を介して連結されている種々のタンパク質(抗原活性を有するもの)に関する。より好ましい実施態様において、プロテアーゼをコードする遺伝子は、所定のタンパク質と連結されており、さらにより好ましくは、さらに別のプロテアーゼ部位を介して該遺伝子は所定のタンパク質と連結されている。
【0021】
種々の抗原は、必ずしも1つの病原種由来であるとは限らない。単一のベクター内の核酸配列によってコードされている複数の種由来の種々の抗原の組み合わせも本発明に包含される。
【0022】
「ホストの抗原」とは、レシピエントの動物細胞又は組織に存在するタンパク質又はその一部を意味し、細胞タンパク質、免疫調節物質又は治療物質などがあるが、それらに限定されない。
【0023】
抗原は、コドンが最適化された合成遺伝子によってコードされていてもよく、従来の組み換えDNA法を用いて構築されてもよい。
【0024】
上述したように、ALVプロテアーゼシステムを含む組み換えウイルスベクターによって発現される抗原は、動物ホストへ侵入する前にもしくは侵入する間に、動物ホストに定着する前にもしくは定着する間に、又は動物ホストにおいて複製する前にもしくは複製する間に、いずれのウイルス性、細菌性もしくは寄生の病原体によって発現されるいずれの分子であってもよい。これらの病原体はヒト、家畜又は野生動物ホストに感染性を有してもよい。
【0025】
ウイルス抗原の由来であるウイルス性病原体としては、インフルエンザウイルスなどのオルソミクソウイルス;RSV、HTLV-1、HTLV-IIなどのレトロウイルス;EBVなどのヘルペスウイルス;CMVもしくは単純ヘルペスウイルス;HIV-1およびHIV-2などのレンチウイルス;狂犬病ウイルスなどのラブドウイルス;ポリオウイルスなどのピコルナウイルス;ワクシニアウイルスなどのポックスウイルス;ロタウイルス;並びにアデノ随伴ウイルス(AAV)などのパルボウイルスが挙げられるが、これらに限定されない。
【0026】
ウイルス抗原の例としては、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)抗原であるRev、Pol、Nef、Gag、Env、Tat、Tat-Δ31-45などのTatの変異誘導体、gp120のT細胞エピトープ及びB細胞エピトープ、gp120とCD4との融合などのHIV-1 Env及びgp120のキメラ誘導体、gp140などの切断されたもしくは修飾されたHIV-1 Env、又はHIV-1 Env及び/もしくはgp140の誘導体からなる群に含まれるものがあるが、これらに限定されない。他の例としては、B型肝炎表面抗原、VP4及びVP7などのロタウイルス抗原、赤血球凝集素、ノイラミニダーゼもしくは核タンパク質などのインフルエンザウイルス抗原、並びにチミジンキナーゼなどの単純ヘルペスウイルス抗原がある。
【0027】
細菌抗原の由来である細菌性病原体の例としては、Mycobacterium spp.,Helicobacter pylori、Salmonella spp.、Shigella spp.、E. coli、Rickettsia spp.、Listeria spp.、Legionella pneumoniae、Fansicella spp.、Pseudomonas spp.、Vibrio spp.及びBorellia burgdorferiが挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
細菌性病原体の感染防御抗原の例としては、CFA/I線毛抗原及び熱不安定性毒素の非毒性Bサブユニットなどの腸管毒素原性大腸菌の菌体抗原、Bordetella pertussisのパータクチン、B. pertussisのアデニル酸シクラーゼ−溶血素、Clostridium tetaniの破傷風毒素のフラグメントC、Borellia burgdorferiのOspA、Rickettsia prowazekii及びRickettsia typhiの保護性パラクリスタリン表面層タンパク質、Listeria monocytogenesのリステリオリシン(「Llo」及び「Hly」としても知られている)及び/又はスーパーオキシド・ジスムターゼ(「SOD」及び「p60」としても知られている)、Helicobacter pyloriのウレアーゼ、並びにBacillus anthraxの致死毒素及び/又は感染防御抗原の受容体結合ドメインが挙げられる。
【0029】
寄生虫抗原の由来である寄生病原体としては、Plasmodium falciparumなどのPlasmodium spp.、Trypanosoma cruziなどのTrypanosome spp.、Giardia intestinalisなどのGiardia spp.、Boophilus spp.、Babesia microtiなどのBabesia spp.、Entamoeba histolyticaなどのEntamoeba spp.、Eimeria maximaなどのEimeria spp.、Leishmania spp.、Schistosome spp.、Brugia spp.、Fascida spp.、Dirofilaria spp.、Wuchereria spp及びOnchocerea spp.が挙げられるが、これらに限定されない。
【0030】
寄生病原体の感染防御抗原の例としては、P. bergeriiもしくはP. falciparumもしくはそれらの免疫原性の変異体のLSA-1及びLSA-3などのPlasmodium spp.のスポロゾイト周囲の(circumsporozoite、CS)もしくは肝臓ステージ特異的抗原(Liver Stage Specific antigens、LSA)であるLSA-1及びLSA-3、Plasmodium spp.のメロゾイト表面抗原、Entamoeba histolyticaのガラクトース特異的レクチン、Leishmania spp.のgp63、Leishmania majorのgp46、Brugia malayiのパラミオシン、Schistosoma mansoniのトリオースリン酸イソメラーゼ、Trichostrongylus colubriformisの分泌型グロブリン様タンパク質、Frasciola hepatica、Schistosoma bovis及びS. japonicumのグルタチオン−S−トランスフェラーゼ、Schistosoma bovis及びS. japonicumのKLHが挙げられる。
【0031】
先に述べたように、ALV又はALV様プロテアーゼをコードする核酸を含む組み換えウイルスベクターは、ホストの抗原をコードしてもよく、該ホストの抗原は、レシピエント細胞にて発現し得る如何なる細胞タンパク質、免疫調節物質又は治療物質又はそれらの一部であってもよく、該ホストの抗原としては、腫瘍抗原、移植抗原、自己免疫抗原、又はそれら腫瘍抗原、移植抗原、自己免疫抗原の断片及び誘導体が挙げられるが、これらに限定されない。従って、本発明においては、ウイルスベクターは腫瘍抗原、移植抗原もしくは自己免疫抗原、又はそれらの一部もしくは誘導体をコードしてもよい。または、ウイルスベクターは、腫瘍特異的抗原、移植抗原もしくは自己免疫抗原、又はそれらの一部をコードする合成遺伝子(上記のように作製されたもの)をコードしてもよい。当該抗原の例としては、前立腺特異的抗原、MUC1、gp100、HER2、TAG-72、CEA、MAGE-1、チロシナーゼ、CD3及びIASβ鎖が挙げられるが、これらに限定されない。
【0032】
明らかなのは、本明細書に開示されているALVプロテアーゼ部位の技術が、複数のポリペプチドを単一のポリタンパク質内に導入し、これらの複数の(別個の)ポリペプチドを必要とするホストにおいて該ポリタンパク質を別個のポリペプチドに加工することによって遺伝子治療の用途にも適用できることである。
【0033】
ウイルスベクターの免疫原性さらに高める手段として、少なくとも1種の抗原とアジュバントとをコードする発現カセットを構築し、該発現カセットを用いて、前記ウイルスベクターによって発現した抗原に対するホストの反応を増大させることができる。当該アジュバントは、遺伝子がアジュバントとして作用するタンパク質をコードすることから、本明細書において「遺伝子アジュバント」とも呼ばれる。翻訳後に抗原をアジュバントから切り離す上記のプロテアーゼ及び連結するプロテアーゼ部位を使用するのが好ましいが、特定の実施態様において、アジュバントは抗原に直接連結していてもよい。
【0034】
ウイルスベクターによってコードされる特定のアジュバントは、多種多様の遺伝子アジュバントから選択されてもよい。好ましい実施態様において、アジュバントは、コレラ毒素のAサブユニット(CtxA;例:GenBankアクセッション番号X00171、AF175708、D30053、D30052)又はCtxのAサブユニットのA1ドメイン(CtxA1;GenBankアクセッション番号K02679)などのその機能を有する部分及び/もしくは機能を有する変異誘導体である。または、細菌性アデノシン2リン酸−リボシル化外毒素のファミリーのメンバーである如何なる細菌毒素を使用してもよい。例として、腸管毒素原性大腸菌の熱不安定性毒素のAサブユニット(EltA)、百日咳毒素S1サブユニットがあるが、これらに限定されない。他の例としては、Bordetella pertussis、B. bronchiseptica又はB. parapertussisのcyaA遺伝子などのアデニル酸シクラーゼ−溶血素がある。または、特定のADP−リボシルトランスフェラーゼ毒素が、ADP−リボシルトランスフェラーゼ触媒活性の減少を示すが、構造完全性を保持する如何なる古典のVibrio cholerae菌株(例えば395株)又はEl Tor V. cholerae(例えば2125株)由来のコレラ毒素のAサブユニット(すなわちCtxA)の如何なる誘導体又はそれらの部分(すなわちCtxのAサブユニットのA1ドメイン(すなわちCtxA1))であってもよく、アルギニン−7をリジンに置換したもの(R7K)、セリン−41をフェニルアラニンに置換したもの(S41F)、セリン−61をリジンに置換したもの(S61K)、セリン−63をリジンに置換したもの(S63K)、バリン−53をアルパラギン酸に置換したもの(V53D)、バリン−97をリジンに置換したもの(V97K)もしくはチロシン−104をリジンに置換したもの(Y104K)、又はそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。または、特定のADP−リボシルトランスフェラーゼ毒素が、充分に構築されているが、触媒部位又は触媒部位付近のそれぞれの変異により非毒性のタンパク質であるコレラ毒素の如何なる誘導体であってもよい。そのような変異は下記のように従来の特定部位の突然変異誘発手段によって成される。
【0035】
別の実施態様において、ADP−リボシルトランスフェラーゼ毒素は、如何なる腸管毒素原性大腸菌から単離された腸管毒素原性大腸菌の熱不安定性毒素のAサブユニット(LtxA)の如何なる誘導体であり、該腸管毒素原性大腸菌として、特に限定されないが、ADP−リボシルトランスフェラーゼの触媒活性の減少を示すが構造完全性を保持する大腸菌株H10407が挙げられる。当該誘導体としては、R7K、S41F、S61K、S63K、V53D、V97KもしくはY104K又はそれらの組み合わせが挙げられるが、特に限定されない。または、特定のADP−リボシルトランスフェラーゼ毒素は、触媒部位における変異又は触媒部位付近における変異により非毒性であるコレラ毒素の充分に構築された如何なる誘導体であってもよい。そのような変異は下記のように従来の特定部位の突然変異誘発手段によって成される。
【0036】
ADP−リボシル化毒素は強力なアジュバントであり、本発明におけるウイルスベクターによってコードされるアジュバントは、ウイルス生物、細菌生物、原虫生物、免疫調節DNA、二本鎖RNA又は阻害的低分子RNA(本明細書ではsiRNAを呼ぶ)由来の如何なる生物活性タンパク質であってもよい。特定の生物活性タンパク質は、特に限定されないが、以下のクラスから選択されることができる。
クラス1. このクラスのアジュバントはホストの小サイズのGTPaseであるRhoを阻害することによってアポトーシスを誘導する。Rhoの阻害は、明らかにアポトーシスの誘導と関連している。アポトーシスの誘導は、バイスタンダーのT細胞の反応を開始させる有用な方法であり、かつ強力なCTLs誘導方法である。この戦略はこれまで如何なる実験システムにおいても評価されていない。SopEの活性ドメインには、78〜240のアミノ酸が含まれ、発現のために486bpの遺伝子を必要とするのみである。大腸菌CNF-1の触媒ドメインは同様の特性を有すると可能性がある。
クラス2. 細菌のポーリンは免疫調節活性を有することが示されている。これらの疎水性ホモ三量体タンパク質は、膜を介してMr<600Daの分子を通過させる膜孔を形成する。ポーリンの例として、EnterobacteriaceaeのOmpF、OmpC及びOmpDタンパク質が挙げられる。
クラス3. 二本鎖RNA(dsRNA)は樹状細胞を含めたホスト細胞を活性化する。イントロン又はリボザイムによって間隔があけられている逆方向反復配列をコードするmRNAの発現によって、dsRNAの発現が生じる。
クラス4. ペプチドモチーフ[WYF]xx[QD]xx[WYF]は、CD1dによって制限されたNK T細胞の反応を誘導することが知られている(Kronenberg及びGapin、2002)。T4フィブリチン(fibritin)コイルドコイルドモチーフと融合したこのモチーフを有するペプチドの発現によって、CD1dによって制限されたT細胞上にTCRを架橋結合する三量体のペプチドが生じ、それによって生来のホストの反応を活性化させる。
クラス5. siRNAを使用して、免疫反応を抑制するホストのmRNA分子(例えばkir)、免疫反応を制御するホストのmRNA分子(例えばB7.2)、又は交差提示を妨げるホストのmRNA分子(例えばRho)を標的にすることができる。
クラス6. siRNAを、CD80及びCD86などの同時刺激分子を標的にするワクチンに用いることができる。これらの分子を阻害することによって同時刺激を防ぎ、それによってT細胞アネルギーをもたらす。
【0037】
驚くべきことに、本明細書に開示されているように、TB10.4タンパク質などのTBを引き起こす桿菌由来の抗原が、それ自体抗原として作用するだけでなく、例えばAg85Aなどの他のTB抗原に対するアジュバントとして作用することが可能であることを見出した。すなわち、3種類のインサートが存在した場合(Ag85A-Ag85B-TB10.4)、驚くべきことに、このコンストラクト中にTB10.4が存在することによって、Ag85Aに対する免疫反応が刺激されたが、TB10.4が欠如していると、CD8+脾細胞に対する効果がより小さいことが示されたことを見出した(実施例4及び図13B参照)。TB10.4のアジュバント効果をさらに調査し、TB10.4が、3種類のコンストラクト中に存在する場合、Ag85Aに対し向けられたCD8細胞の活性化を実際に刺激したが、それぞれ別個の抗原をコードする別個のベクターによる感染によって、そのような刺激が生じなかったことを見出し、このことは、同じベクター内又は同じ翻訳産物内のいずれかにTB10.4抗原が存在すべきであることを強く示唆するものである。
【0038】
また、本発明は、プロテアーゼ認識部位によって融合した少なくとも1種の抗原及びサイトカインをコードするウイルスベクターにも関する。当該ベクターを用いて、前記ウイルスベクターによって発現されるパッセンジャー抗原に対するホストの反応を増大させる。ウイルスベクターによってコードされるサイトカインの例としては、インターロイキン4(IL-4)、IL-5、IL-6、IL-10、IL-12p40、IL-12p70、TGFβ及びTNFαがある。
【0039】
機能的な発現カセットを導入して真核細胞又は組織において免疫調節物質を発現することが可能なウイルスベクターを作製する組み換えDNA及びRNAの手法は本技術分野において既知である。
【0040】
ここでは、TBを引き起こす桿菌、好ましくはMycobacterium tuberculosis、M. africanum及び/又はM. bovis由来の2種以上の抗原を発現するウイルスベクターの構築のための組成物及び方法について説明する。好ましくは、ウイルスベクターは、複製欠損組み換えアデノウイルスベクターである。1つの広く研究されており、一般に用いられているアデノウイルスの抗原型はアデノウイルス5(Ad5)である。マウス及びアカゲザルにおける研究において、抗Ad-5免疫の存在によって、Ad5ベースのワクチンの免疫原性が実質的に抑制されることが示された。第1相臨床試験からの初期データは、このような問題がヒトでも起こる可能性があることを示す。
【0041】
最も一般的なヒトアデノウイルス(Ad5など)に予め感染した個体における既存の免疫の存在を回避する一つの有望な戦略には、そのような既存の免疫を受けないアデノウイルス抗原型由来の組み換えベクターの開発が含まれる。特に有用であると確認されたヒトアデノウイルスベクターは、国際公開第00/70071号パンフレット、国際公開第02/40665号パンフレット及び国際公開第2004/037294号パンフレットに示されているように、抗原型11、26、34、35、48、49及び50を基にしたものである(Vogelsら 2003も参照)。他にも、アデノウイルス24(Ad24)が、まれな抗原型であることが示されている(国際公開第2004/083418号パンフレット)ことから、特に興味あるものであると思われる。従って、好ましい実施態様において、前記ウイルスベクターは、Ad11、Ad24、Ad26、Ad34、Ad35、Ad48、Ad49及びAd50からなる群より選択される抗原型に由来するアデノウイルスである。ワクチンのベクターとしてヒトアデノウイルスをこのように選択する利益は、ヒトがこれらの野生型のアデノウイルスに常に感染するとはかぎらないという事実にあることは明らかである。結果として、これらの抗原型に対する中和抗体は、概してヒトの集団においてあまり蔓延しているものではない。これは、ヒトが抗原型5にかなり定期的に感染していることから、この野生型の抗原型とは対照的である。親の野生型の抗原型に感染している間に上昇した免疫反応は、アデノウイルスが適用されたマラリアに対するワクチンなどのその後の組み換えワクチンベクターとして使用した場合に、組み換えアデノウイルスの抗原型の効力に悪影響を与えることができる。世界中のヒトの集団への種々のアデノウイルスの抗原型の広がりは、地理上の区域によって異なる。国際特許第00/70071号パンフレットにおいて概説されているように、一般に、好ましい抗原型は世界の大部分におけるホストにおいて低い中和活性を受ける。別の好ましい実施態様において、サル、イヌ、又はウシのアデノウイルスも、組み換えウイルスが投与される(ヒトの)ホストにおいて既存の免疫を受けないので、アデノウイルスはそれら動物のウイルスである。ヒトの遺伝子治療又はワクチンに使用するサルのアデノウイルスの適用は当業者によく認識されている。これに加えて、イヌ及びウシのアデノウイルスがヒト細胞にインビトロで感染したことが見出され、それ故にヒトへの使用にも適用可能である。特に好ましいサルアデノウイルスは、チンパンジーから単離されたものである。適した例として、C68(Pan 9としても知られる;米国特許第6,083,716号明細書)、並びにPan 5、6及び7(国際特許第03/046124号パンフレット)が挙げられる。国際特許第03/000851号パンフレットも参照されたい。
【0042】
従って、組み換えベクターの選択は、ワクチン接種を必要とするヒト集団の低パーセンテージにおいて中和活性を受けるものによって影響される。本発明の利点は、幾重にも折り畳まれている。組み換えアデノウイルスなどの組み換えウイルスを、安全とみなされ、かつ動物又はヒトに由来する成分を全く含まない培地を用いて非常に高いボリュームとなるように懸濁培養できる細胞を用いて、非常に高い力価となるように製造できる。また、組み換えアデノウイルスは、アデノウイルスゲノム内の異種の核酸配列によってコードされるタンパク質に対する劇的な免疫反応を誘発することが知られている。本発明の発明者らは、複数の抗原を含むワクチンによって、TBを引き起こす桿菌に対してより強力かつより幅広い免疫反応がもたらされることに気付いた。また、単一の抗原が単独でマウス近交系において防御を誘導することができるのにもかかわらず、いくつかの抗原を含むカクテルが、異種の集団におけるMHCに関連した無反応をあまり受けない可能性があることから、ヒトへの適用にとってより良いワクチンであると考えられる。
【0043】
しかしながら、ワクチン開発の実用的な見地より、複数のコンストラクトから成るワクチンは、製造し、製剤するのに非常に高価である。製造工程を簡略化することに加えて、単一のコンストラクトが、抗原提示細胞によって成分の等しい取り込みを確保し、同様に広く特異的な免疫反応を生じてもよい。
【0044】
本発明の特定の一態様において、複製欠損組み換えウイルスベクターは、抗原決定基をコードしている核酸配列を含み、前記異種の核酸配列が、哺乳動物、好ましくはヒトにおける発現上昇のためにコドンにおいて最適化されている。コドン最適化は、必要とされるアミノ酸の内容、所定の哺乳動物における一般的な最適なコドンの使用法、適切な発現を確実にするために避けるべきいくつかの状況に基づいている。そのような状況は、スプライス供与部位、スプライス受容部位、停止コドン、カイ部位、ポリA配列、GCリッチ配列及びATリッチ配列、内部TATAボックスなどである。哺乳動物ホストにおけるコドンの最適化方法は当業者によく知られており、分子生物学の文献中のいくつかの箇所において見ることができる。
【0045】
好ましい実施態様において、本発明は、本発明に従う複製欠損組み換えアデノウイルスベクターに関し、該ベクターにおいて、前記異種の核酸におけるアデニンプラスチミンの含量が、シトシンプラスグアニンの含量と比較して87%以下であり、好ましくは80%以下であり、より好ましくは59%以下であり、最も好ましくは約45%と同程度である。
【0046】
異種遺伝子を宿す組み換えアデノウイルスベクターの製造は本技術分野において既知であり、典型的には、パッケージング細胞株、アダプター・コンストラクト、コスミド及びアデノウイルスゲノムからE1領域の少なくとも機能的な部分を除去したものの使用を伴う(下記のパッケージングシステム及び好ましい細胞株についても参照)。
【0047】
本発明のワクチンは、典型的には、医薬として受容可能な担体又は賦形剤中に保持される。医薬として受容可能な担体又は賦形剤は本技術分野においてよく知られており、広範囲の治療薬において広く使用されている。ワクチンにおいてよく機能する担体を用いることが好ましい。ワクチンはさらにアジュバントを含むことがより好ましい。アジュバントが、適用した抗原決定基に対する免疫反応をさらに増大させることは本技術分野において既知である。
【0048】
また、本発明は、TBの治療上の処置、予防上の処置、又は診断上の処置への本発明に従うキットの使用にも関する。
【0049】
本発明のTB抗原を含む組み換えウイルスベクターを、BCGと組み合わせてそれらを用いるワクチン接種の場面に使用してもよい。また、該ベクターを、BCGワクチン接種前又は接種後にそれぞれ望ましい免疫反応を増大させる初回抗原刺激剤又は追加免疫剤として使用してもよい。本明細書に開示されている種々のウイルスベクターを初回抗原刺激−追加免疫の設定状況において使用し、該使用において、あるベクターが別のベクターを伴うことを想定することができる。また、直接連結した抗原を含むベクター自体をプロテアーゼ部位によって連結された抗原を含むベクターと組み合わせてもよい。また、初回抗原刺激としてあるアデノウイルス抗原型を使用し、追加免疫として別の抗原型を使用する(好ましいヒト、サル、イヌ又はウシのアデノウイルスから選択される)初回抗原刺激−追加免疫の場面も想定される。また、本発明に従うウイルスベクターを、精製した(組み換えて製造した)抗原を含むワクチンと組み合わせて、及び/又は類似の又は同一の抗原をコードする裸のDNAもしくはRNAを含むワクチンと組み合わせて使用してもよい。
【0050】
従って、本発明は、少なくとも1種の結核(TB)を引き起こす桿菌由来の2種又は3種以上の抗原をコードする核酸配列を含む組み換え複製欠損アデノウイルスに関する。当然のことながら、ポリペプチドは、いくつかの抗原部分又は抗原断片(=抗原)を含んでもよい。また、タンパク質自体も「抗原」であるとみなしてもよい。好ましくは、前記組み換えアデノウイルスは、ヒト又はサルのアデノウイルスである。より好ましくは、本発明における組み換えベクターとして使用するアデノウイルスは、ヒトアデノウイルス抗原型であるAd11、Ad24、Ad26、Ad34、Ad35、Ad48、Ad49及びAd50からなる群より選択される。好ましい抗原を提供するために用いられるTBを引き起こす桿菌は、Mycobacterium tuberculosis、Mycobacterium africanum及び/又はMycobacterium bovisが好ましく、前記2種又は3種以上の抗原は、M. tuberculosisのAg85A、Ag85B、ESAT-6、f72及びTB10.4の翻訳領域によってコードされる抗原からなる群より選択されるのが好ましい。極めて好ましい実施態様において、前記核酸配列は、M. tuberculosisのAg85A、Ag85B及びTB10.4の翻訳領域によってコードされる抗原からなる群より選択される抗原の少なくとも2種をコードする。さらにより好ましい実施態様において、本発明に従うアデノウイルスは、全長タンパク質のAg85A、Ag85B及びTB10.4をコードする核酸配列を含み、これら3種のタンパク質が、各タンパク質をコードする遺伝子が5’から3’の順でクローン化されている(Ag85A-Ag85B-TB10.4)配列を含む核酸によってコードされるのがさらにより好ましい。
【0051】
本発明は、前記抗原の少なくとも2種が1種のポリタンパク質から発現される本発明に従う組み換えアデノウイルスに関する。好ましい一実施態様において、前記抗原のうち少なくとも2種を融合タンパク質を形成するために連結する。連結は直接であるか、又は少なくとも1種のアミノ酸の連結リンカーを介してでもよい。リンカーを用いて2種の別個の抗原を連結し、こうして本発明に従う2種又は3種以上抗原の融合タンパク質を得る場合、配列番号23に示される1種又は複数のリンカーを用いるのが好ましい。
【0052】
また、本発明は、本発明に従う組み換えアデノウイルス又は本発明に従う組み換えポリヌクレオチドベクターを含み、さらに医薬として受容可能な賦形剤及び任意選択的にアジュバントを含む多価ワクチンにも関する。多くの医薬として受容可能な賦形剤及びアジュバントは本技術分野において既知である。
【0053】
本発明は、さらにTBの予防又は治療のために哺乳動物にワクチンを接種する方法に関し、該方法は、本発明に従う組み換えアデノウイルス、多価TBワクチン又は組み換えポリヌクレオチドベクターを前記哺乳動物に投与することを含む。一態様において、本発明は、TBの予防又は治療のために哺乳動物にワクチンを接種する方法に関し、該方法は、本発明に従う組み換えアデノウイルス、多価TBワクチン又は組み換えポリヌクレオチドベクターを初回抗原刺激のワクチン接種として前記哺乳動物に投与するステップと、本発明に従う組み換えアデノウイルス、多価TBワクチン又は組み換えポリヌクレオチドベクターを追加免疫のワクチン接種として前記哺乳動物に投与するステップとを含む。また、本発明は、好ましくは結核の予防上の処置、治療上の処置又は診断上の処置のいずれか一つに薬剤として用いる、本発明に従う組み換えアデノウイルス、多価TBワクチン又は組み換えポリヌクレオチドベクターにも関する。また、本発明は、結核の予防上の処置又は治療上の処置用の薬剤の調整への本発明に従う組み換えアデノウイルス、多価TBワクチン又は組み換えポリヌクレオチドベクターの使用にも関する。
【0054】
特定の一態様において、本発明は、2種又は3種以上の抗原とプロテアーゼ認識部位とをコードする核酸配列を含む組み換えポリヌクレオチドベクターに関し、該ベクターにおいて前記抗原はポリタンパク質として発現され、前記ポリタンパク質は2種又は3種以上の抗原のうち少なくとも2種を分断しているプロテアーゼ認識部位を含む。前記ポリヌクレオチドベクターは、裸DNAベクター、裸RNAベクター、プラスミドベクター又はウイルスベクターであるのが好ましい。好ましい実施態様において、前記ウイルスベクターは、複製欠損のヒト又はサルのアデノウイルス中にパッケージされている。当然のことながら、ウイルスベクターは2種類の存在物と考えてもよく、すなわちウイルスをコードするウイルスDNAが核酸ベクターとして用いられてもよいし、ウイルス(ウイルスベクターDNAを含む)を使用して、所定の核酸をホスト細胞に前記ホスト細胞の感染によって移行させてもよい。従って、本明細書にて使用される「ベクター」とは、所定の単数の遺伝子又は複数の遺伝子をホストに移行させる手段を指す。これは、DNA、RNA、プラスミド又はウイルス核酸ベクターを直接注入することによって達成してもよいが、ホスト細胞に組み換えウイルス(その後ベクターとして作用する)を感染させることによって達成してもよい。本明細書に例示されているように、ウイルスを用いて、哺乳動物(例えばマウス)を免疫してもよいが、DNA(例えば所定の遺伝子及びウイルスDNAの一部を保有するアダプタープラスミドの形態のもの)を哺乳動物を免疫するために直接前記哺乳動物に注入しても良い。裸DNA、裸RNA又はプラスミドをベースにしたワクチンは本技術分野において既知であるが、組み換えウイルスをベースにしたワクチンも既知である。問題を明らかにするために、所定の単数の遺伝子又は複数の遺伝子をホスト細胞に送達する総ての存在物を「ベクター」と見なす。
【0055】
好ましい一実施態様において、前記ベクター中に存在する核酸は、プロテアーゼをコードする配列を含み、発現の際に前記プロテアーゼがポリタンパク質の一部として発現され、プロテアーゼ認識部位によって前記抗原の少なくとも1種に連結されている。特に好ましいプロテアーゼ認識部位は、配列番号21又は22に示される配列を含む。前記プロテアーゼがトリ白血病ウイルス(ALV)由来である本発明に従う組み換えポリヌクレオチドベクターがより好ましい。好ましい態様において、プロテアーゼ認識部位を介して連結されている抗原が少なくとも1種の結核(TB)を引き起こす桿菌由来であり、前記TBを引き起こす桿菌は、好ましくはMycobacterium tuberculosis、Mycobacterium africanum及び/又はMycobacterium bovisである。2種又は3種以上の抗原は、M. tuberculosisのAg85A、Ag85B、ESAT-6、f72及びTB10.4の翻訳領域によってコードされる抗原からなる群より選択されるのが好ましく、前記異種の核酸配列は、M. tuberculosisのAg85A、Ag85B及びTB10.4の翻訳領域によってコードされる抗原からなる群より選択される抗原の少なくとも2種をコードするのが最も好ましい。抗原が全長のAg85A、Ag85B及びTB10.4ポリペプチドであり、それらのコードする遺伝子が5’から3’の順でクローン化されている、本発明に従うポリヌクレオチドがさらにより好ましい。これらの及び他の結核抗原をベースにした融合タンパク質は、米国特許第5,916,558号明細書、国際公開第01/24820号パンフレット、国際公開第03/070187号パンフレット、国際公開第2005/061534号パンフレットに記載されている。しかしながら、組み換えアデノウイルスベクターに組み込むために本明細書に開示されている融合タンパク質をコードする本発明に従う核酸を使用することは開示されていない。
【0056】
さらに別の態様において、本発明は、抗原と遺伝子アジュバントとをコードする異種の核酸配列を含む組み換えポリヌクレオチドベクターに関する。「遺伝子アジュバント」という用語は、核酸配列によってコードされるタンパク質性の分子を指す。前記抗原と前記遺伝子アジュバントとを直接連結するか、又は別の実施態様においては間接的に、例えば第1のプロテアーゼ認識部位を含む連結によって連結してもよい。別の好ましい態様において、前記ポリヌクレオチドベクターは、裸DNAベクター、裸RNAベクター、プラスミドベクター又はウイルスベクターである。ウイルスベクターは、複製欠損のヒト又サルのアデノウイルス中にパッケージされているのが好ましく、前記アデノウイルスは、ヒトアデノウイルス抗原型であるAd11、Ad24、Ad26、Ad34、Ad35、Ad48、Ad49及びAd50からなる群より選択されるのがさらにより好ましい。また、プロテアーゼをコードする配列を含む核酸が好ましく、前記プロテアーゼは、前記抗原に及び/又は前記遺伝子アジュバントに第2のプロテアーゼ認識部位によって連結されているのが好ましい。好ましい第2のプロテアーゼ認識部位は、配列番号22に示される配列を含むのに対して、好ましい第1のプロテアーゼ認識部位は、配列番号21で示される配列を含む。好ましいプロテアーゼは、トリ白血病ウイルス(ALV)由来のプロテアーゼである一方で、抗原は少なくとも結核(TB)を引き起こす桿菌由来であるのが好ましく、Mycobacterium tuberculosis、Mycobacterium africanum及び/又はMycobacterium bovisがより好ましい。好ましい抗原は、Ag85A、Ag85B、ESAT-6、f72及びTB10.4からなる群より選択される。最も好ましい実施態様は、前記異種の核酸配列が、M. tuberculosisの抗原であるAg85A、Ag85B及びTB10.4からなる群より選択される抗原の少なくとも2種をコードし、N末端からC末端の順に全長のAg85A、Ag85B及びTB10.4のタンパク質を含む融合ポリペプチド有するのがさらに好ましい。
【0057】
本明細書に開示されているように、TB10.4は、ポリタンパク質中に含まれる他の(特にAg85A)抗原に対する免疫反応を刺激することが見出されたことから、予想外のアジュバントの活性を有する。TB10.4アジュバントは、好ましい遺伝子アジュバントである。したがって、また、本発明は、TB10.4抗原を、少なくとも1種の他の抗原と共にコードする核酸を含む組み換えベクターも提供し、該他の抗原は、結核抗原であるのが好ましく、Ag85A抗原がより好ましい。さらにより好ましい実施態様において、ベクターは、TB10.4抗原と少なくともAg85A抗原とAg85B抗原とをコードする核酸を含む。下記に概要が示されているように、TB10.4は、プロテオソームに対し、複数の抗原の翻訳産物の加工を増大させて、CD8の反応を非常に著しく増大させることが示唆されている。効果がAg85A及びTB10.4単独に制限されず、TB10.4抗原の適用が結核ワクチン単独に制限されたものよりも幅広いものである可能性が非常に高い。したがって、さらに別の実施態様において、本発明は、TB10.4と少なくとも1種の他の抗原とをコードする核酸を含む組み換えベクターに関し、該他の抗原はMycobacterium抗原ではない。本発明では、MycobacteriumのTB10.4抗原を遺伝子アジュバントとして使用することが開示される。また、本発明では、TB10.4抗原を、結核以外の病気、少なくとも所定の抗原に対する免疫反応がアジュバントの作用によって刺激される必要がある病気においての治療用、診断用及び/又は予防用の薬剤の製造に使用することが開示される。それ故に、Mycobacterium tuberculosisのTB10.4内の抗原が、Ag85Aなどの他の抗原に対するアジュバントとして作用できることが開示される。従って、本発明は、またMycobacteriumの抗原であるTB10.4を遺伝子アジュバントとして使用することにも関する。さらに、別の実施態様において、本発明は、Mycobacteriumの抗原であるTB10.4を、特定の抗原又は所定の治療成分に対するホストの免疫反応が刺激される必要がある病気の治療用又は予防用の薬剤の調整に使用することに関する。当業者であれば、所定の抗原に対する免疫反応のレベルと、本明細書にてTB10.4によって実証されている、遺伝子アジュバントなどのアジュバントの使用による付加的な刺激が治療対象において有益であるかどうかを決定できる。
【0058】
本発明は、さらに本発明に従う組み換えポリヌクレオチドベクターに関し、前記遺伝子アジュバントがコレラ毒素(CtxA1)又はその変異誘導体を含み、前記変異誘導体が63番目のアミノ酸の位置におけるセリンのリジンへの置換を有する(A1K63)。また、本発明は、本発明に従う組み換えポリヌクレオチドベクターを含み、さらに医薬として受容可能な賦形剤と任意選択的にアジュバントを含む多価TBワクチンにも関する。
【実施例1】
【0059】
(M. tuberculosis抗原を保有するAd35ベースのアダプタープラスミドの構築)
ここでは、単一又は複数のTB抗原を発現することが可能なE1欠失Ad35ベースのベクターを作製するのに適したアダプタープラスミドの構築について説明する。実施例は、アデノウイルスベースの複製欠損ベクターを用いる単一及び複数の抗原ワクチン調整物を作製する手段及び方法の例として、TB抗原であるAg85A(スイスプロット#P17944)、Ag85B(スイスプロット#P31952)及びTB10.4(スイスプロット#O53693)に関するが、これらの例に制限されるものではない。上記で既述したように、ここで用いられた原理は、予防又は治療のポリペプチドの如何なる組み合わせにも適用できる。
【0060】
(pAdApt35Bsu.mycの構築)
アダプタープラスミドであるpAdApt35Bsuは、出願人の出願である国際公開第2004/001032号パンフレットに記載されている。このプラスミドは、Ad35ゲノムの左部分(左側の逆位末端配列(Inverted Terminal Repeat、ITR)を有する)を含み、さらに機能的なE1領域を欠如しており、CMVプロモーターを含む発現カセットがE1領域に挿入されている。また、アダプターは、機能的なpIXプロモーターと、E1領域のAd35の下流の領域も含み、該領域は、Ad35ゲノムの残存部分を含むコスミドとの相同組み換えに充分なものであり、パッケージング細胞内で組み換え複製欠損アデノウイルスの作製をもたらし、該パッケージング細胞は、生産されるウイルスの機能的な複製及びパッケージングに必要な総てのエレメント及び機能を提供するものである。当該アダプタープラスミドを用いる組み換えアデノウイルスの作製は、当業者によく知られている方法である。
【0061】
pAdApt35Bsuを、NheI及びXbaIで消化し、5kbのベクター含有断片を、Qiaquick gel extraction kit(Qiagen)を用いて製造業者の使用説明書に従ってアガロースゲルから単離した。二本鎖(ds)リンカーを以下の一本鎖(single stranded、ss)オリゴ(Sigmaによって合成されたもの):Myc-オリゴ1:5’- CTA GCA AGA AAA CCG AGC AGA AGC TGA TCT CCG AGG AGG ACC TGT GAT AAT -3’(配列番号1)及びMyc-オリゴ2:5’- CTA GAT TAT CAC AGG TCC TCC TCG GAG ATC AGC TTC TGC TCG GTT TTC TTG -3’(配列番号2)から調整した。2つのオリゴヌクレオチドを、0.5μg/μlのストックの総容量20μlのアニーリング緩衝液(10mM Tris-HCl pH7.9、10mM MgCl2、1mMジチオスレイトール)の溶液2μl、を用いて混合し、98℃で2分間インキュベートし、次いでPCR機器を用いて1分当たり0.6℃の速度で4℃に冷却した。次に、生じたdsリンカーを、上記の調整したpAdApt35Bsuベクターと3x、6x又は9xモル過剰のリンカーにてライゲーションした。正しい方向においてのみ修復される部位であるNheI又はXbaIで消化することによって正しい方向にリンカー配列が挿入されているかについてコロニーを試験した。配列決定によって、リンカーが期待される配列からなることが確認された。生じたアダプタープラスミドをpAdApt35Bsu.mycと名付けた(図1)。
【0062】
以下に、種々のコンストラクトの多数のセットをクローン化する方法を示す。総てのコンストラクトの概要及びそれぞれのインサートを表1に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
(3種のTB抗原を含有するpAdApt35Bsuベースのアダプタープラスミドの構築)
本発明の異種の核酸は、3種の M. tuberculosisの抗原であるAg85A、Ag85B及びTB10.4を1つのmRNA由来のポリタンパク質としてコードする。総ての融合配列において、「M」は、別個のTB抗原に特異的な抗体が適切に融合物を認識しない場合に、mycに特異的な抗体を用いて発現の分析が可能となるように、配列の3'末端に付着させたmycエピトープ(mycタグ:SKKTEQKLISEEDL;配列番号9)を含むことを示す。従って、下記の総てのコンストラクトの名前における「M」は、mycタグを示すが、総てのコンストラクトをmycタグなしで作製した。
【0065】
第1の実施態様(TB-SM)において、3種の抗原は、直接融合ポリタンパク質:Ag85A-Ag85B-TB10.4-myc(TB-S=Ag85A-Ag85B-TB10.4)として発現される。
【0066】
第2の実施態様(TB-LM)において、ポリタンパク質の前駆体はプロテアーゼを含有し、該プロテアーゼは、3種の抗原を、それらを分断する組み込まれた消化部位、すなわちリンカー/消化部位配列:PPSKSKKGGAAAMSSAIQPL VMAVVNRERDGQTG(配列番号21)にて細胞内において切断するものである。このような消化は融合タンパク質のN末端に融合した配列特異的なプロテアーゼによって生じる。トリ白血病ウイルス(ALV)のgag遺伝子に由来するこのプロテアーゼも切断され、4つの別個のタンパク質がプロテアーゼ消化後に生じる。ポリタンパク質は、下記の通り:ALV-dig*-Ag85A-dig-Ag85B-dig-TB10.4-myc(「dig*」は抗原とプロテアーゼを分断するプロテアーゼの消化部位[GSSGPWPAPEPPAV SLAMTMEHRDRPLV;配列番号22]に関し、「dig」は、抗原間の消化部位に関し、上記を参照されたい;TB-L=ALV-dig*-Ag85A-dig-Ag85B-dig-TB10.4)であってもよい。両プロテアーゼで切断可能なリンカーに加えて自己切断リンカーを本発明のベクターに使用してもよく、本発明に含まれる。自己加工切断部位の使用については、国際公開第2005/017149号パンフレットに記載されている。
【0067】
第3の実施態様において、ポリタンパク質(TB-FLM)は、切断されないリンカー配列によって分断されている上述したM. tuberculosis抗原を含むが(上記第2の実施態様と同様に)、3種の抗原のそれぞれが適切かつ独立して折り畳まれるようにするものである:Ag85A-X-Ag85B-X-TB10.4-myc(「X」は可動性リンカー:GTGGSGGTGSGTGGSV;配列番号23を示す)。総てのこれらの融合タンパク質をmycタグなしで(TB-S、TB-L及びTB-FLとそれぞれ呼ぶ)同様の構築方法を用いて(下記参照)作製してもよい。
【0068】
望ましいタンパク質配列を、M. tuberculosis抗原に関する上記に示した公開されているタンパク質配列、Genbank(アクセッションNo.CAA86524)に公開されているALVプロテアーゼPR p15配列及びGenbankアクセッションNo.AAK13202のアミノ酸配列476〜500と同様のプロテアーゼ消化部位を用いて構築した。次に、3種のタンパク質配列をDNAコード配列に逆翻訳し、ヒトでの発現に最適化し、その後Geneart(ドイツ)によってpCR-Scriptベクターに合成され、構築され、クローン化された。
【0069】
TB-LMのコドン最適化DNA配列を図19及び配列番号3に示し、TB-SMのものを図20及び配列番号4に示し、TB-FLMのものを図21及び配列番号5に示し、加えてTB-LMのタンパク質配列を図22及び配列番号6に示し、TB-SMのものを図23及び配列番号7に示し、TB-FLMのものを図24及び配列番号8に示す。mycエピトープは、各融合タンパク質におけるC末端の配列SKKTEQKLISEEDL(配列番号9)中に含まれ、該配列はそれぞれTB-L、TB-S及びTB-FLの場合には存在しない。
【0070】
次に、クローン化した融合遺伝子をHindIII、XbaI及びApaLIで消化した後、2.7kb(TB-L)、2.2kb(TB-FL)及び2.1kb(TB-S)の断片を上述したようにアガロースゲルから単離した。ApaLIでの消化を行うことによって、プラスミドベクターをインサートからより良好に分離可能な断片に消化した。プラスミドpAdApt35BsuもHindIII及びXbaIで消化し、ベクター含有断片を上述したようにゲルから単離した。単離したpAdApt35Bsuベクターを、TB配列を含有する単離した断片の各々に別々の反応にてライゲーションし、DH5aコンピテント細菌(Invitrogen)に形質転換した。生じたコロニーをHindIII及びXbaIで消化することによって分析し、期待されるインサートを含有するプラスミドクローンを選別した。この結果として、pAdApt35Bsu.TB.LM(図2)、pAdApt35Bsu.TB.SM(図3)及びpAdApt35Bsu.TB.FLM(図4)が生じ、総てmycタグを含有するものである。mycタグがない融合遺伝子を発現するアダプタープラスミドを作製するために、最初にインサートを、下記のプライマー及び鋳型を用いてPCRで増幅した。
TB-L断片
ALVprot.FW:5’- GCC CAA GCT TGC CAC CAT GCT GGC CAT GAC CAT GG ‐3’(配列番号10)及び10.4.RE.stop:5’- GCT AGT CTA GAT TAT CAG CCG CCC CAC TTG GC ‐3’(配列番号11)、TB-LMを鋳型として使用。
TB-FL断片及びTB-S断片
85A.FW:5’- GCC CAA GCT TGC CAC CAT GTT CAG C ‐3’(配列番号12)及び10.4.RE.stop、TB-FLM又はTB-SMを鋳型として使用。
【0071】
増幅を、Phusion DNA polymerase(Bioke)を用いて、製造業者の使用説明書に従って行った。以下のプログラム:98℃で2分間の後、30サイクルの(98℃で20秒間、58℃で30秒間、72℃で2分30秒間)、72℃で10分間によって終了、を用いた。生じた断片をQiaquick PCR purification kit(Qiagen)を用いて精製し、HindIII及びXbaIで消化した。その後、消化した断片を再び上記のQiaquick PCR purificationカラムを通して精製し、同じ酵素を用いて消化したpAdApt35Bsuとライゲーションし、Qiaquick PCR purificationカラムを通して精製した。コンピテントDH5a細菌(Invitrogen)に形質転換し、HindIII及びXbaIを診断酵素として用いて正しいインサートを含有するクローンを選別した結果、pAdApt35Bsu.TB-L、pAdApt35Bsu.TB-S及びpAdApt35Bsu.TB-FLが得られた。これらのコンストラクトは、C末端にmycエピトープを含まない点で図2、3及び4に示すコンストラクトとは異なる。
【0072】
(2種のTB抗原を含有するpAdApt35Bsuベースのアダプタープラスミドの構築)
ここでは、例としてAg85A及びAg85Bを用いる2種のTB抗原を含有するアダプタープラスミドの構築について説明する。当業者に明らかであるように、M. tuberculosis抗原の他の組み合わせ及び異なる順序を、ここで概説された一般的な戦略を用いて作製することができる。ここで説明する融合物は、TB-3M:ALV-dig*-Ag85A-dig-Ag85B-myc及びTB-4M:Ag85A-Ag85B-myc及びmycタグがない同様のコンストラクトである。特異的なプライマーを設計して、上記のTM-LM及びTM-SM融合タンパク質からAg85A及びAg85Bの配列を増幅した(下記参照)。上記のように、mycタグを有する融合物、及びmycタグを有さない融合物(それぞれTB-3及びTB-4)を作製した。この点に関して、種々のプライマーのセット及び鋳型を用いた。
TB.3M断片:
ALVprot.FW及び85B.RE myc:5’- GCC TAG CTA GCG CCG GCT CCC AGG CTG C ‐3’(配列番号13)、TB-LMを鋳型として使用。
TB.4M断片:
85A.FW.TB.L:5’- GCC CAA GCT TGC CAC CAT GTT CAG CAG ACC CGG CCT G -3’(配列番号14)及び85B.RE myc(上記参照)、TB-SMを鋳型として使用。
【0073】
総ての反応を、Phusion(Bioke)のDNAポリメラーゼを用いて、上記の条件で行った。PCR断片を、Qiaquick PCR purification kitを用いて精製し、HindIII及びNheIで消化し、再びPCR purification kitを用いて精製した。その後、増幅した断片を、同様の酵素で消化したpAdApt35Bsu.mycプラスミドにライゲーションした。コンピテントDH5a細菌(Invitrogen)に形質転換した後、正しい長さのインサートを含有するクローンを選別した。この結果として、pAdApt35Bsu.TB.3Mコンストラクト(図5)及びpAdApt35Bsu.TB.4Mコンストラクト(図6)が得られた。
【0074】
TB.3断片及びTB.4断片を、上記のTB.3M断片及びTB.4M断片について上述したのと同様のフォワードプライマーと鋳型を用いるが、85B.RE.stop:5’- GCT AGT CTA GAT TAT CAG CCG GCT CCC AGG CTG C ‐3’(配列番号15)と名付けた異なるリバースプライマーを用いて作製した。増幅した断片を上記のように精製し、HindIII及びXbaIで消化し、再び上記のように精製し、クローン化部位としてHindIII及びXbaIを用いてpAdApt35Bsuにクローン化した。これによって、図5及び6のコンストラクトとは、C末端にmycエピトープを有さない点でのみ異なるpAdApt35Bsu.TB.3及びpAdApt35Bsu.TB.4が得られた。
【0075】
有用であるが、本明細書にて詳細なクローン化手順を説明していない他の組み合わせは、下記の通りである。
ALV-dig*-Ag85B-dig-Ag85A-myc
ALV-dig*-Ag85A-dig-TB10.4-dig-Ag85B-myc
ALV-dig*-TB10.4-dig-Ag85A-dig-Ag85B-myc
ALV-dig*-TB10.4-dig-Ag85B-dig-Ag85A-myc
ALV-dig*-Ag85B-dig-Ag85A-dig-TB10.4-myc
ALV-dig*-Ag85B-dig-TB10.4-dig-Ag85A-myc
ALV-dig*-Ag85A-dig-TB10.4-myc
ALV-dig*-Ag85B-dig-TB10.4-myc
ALV-dig*-TB10.4-dig-Ag85A-myc
ALV-dig*-TB10.4-dig-Ag85B-myc
Ag85B-Ag84A-myc
Ag85A-TB10.4-myc
Ag85B-TB10.4-myc
TB10.4-Ag85A-myc
TB10.4-Ag85B-myc
Ag85A-X-Ag85B-myc
Ag85B-X-Ag85A-myc
Ag85A-X-TB10.4-myc
Ag85B-X-TB10.4-myc
TB10.4-X-Ag85A-myc
TB10.4-X-Ag85B-myc
Ag85A-X-TB10.4-X-Ag85B-myc
Ag85B-X-Ag85A-X-TB10.4-myc
Ag85B-X-TB10.4-X-Ag85A-myc
TB10.4-X-Ag85A-X-Ag85B-myc
TB10.4-X-Ag85B-X-Ag85A-myc
dig*、dig、myc及びXは総て上記で概説した同様の特徴を示す。当然のことながら、これらのコンストラクトもmycタグなしで製造してもよい。
【0076】
(単一のTB抗原を含有するpAdApt35Bsuベースのアダプタープラスミドの構築)
ここでは、単一のTB抗原を含有するAd35アダプタープラスミドについて説明する。上述したように、タンパク質は、mycタグありで、又はmycタグなしで発現される。この点に関して、適切なコード領域をTB-L及びTB-Sの鋳型から、下記の特異的なプライマーのセットをを用いて増幅した。
TB.5M断片:
85A.FW.TB.L及び85A.RE myc:5’- GCC TAG CTA GCG CCC TGG GGG G ‐3’(配列番号16)、TB-LMを鋳型として使用。
TB.6M断片:
85B.FW:5’- GCC CAA GCT TGC CAC CAT GTT CAG CCG GCC TGG CCT G -3’(配列番号17)及び85B.RE myc、TB-LMを鋳型として使用。
TB.7M断片:
10.4.FW:5’- GCC CAA GCT TGC CAC CAT GAG CCA GAT CAT GTA CAA CTA CCC -3’(配列番号18)及び10.4.RE myc:5’- GCT AGT CTA GAT TAT CAC AGG TCC TCC TCG -3’(配列番号19)、TB-LMを鋳型として使用。
【0077】
mycタグを有さない断片を同様のフォワードプライマーを用いるが、異なるリバースプライマー:85A.RE.stop(TB.5について):5’- GCT AGT CTA GAT TAT CAG CCC TGG GGG GCA G ‐3’(配列番号20)、85B.RE.stop(TB.6について)及び10.4.RE.stop(TB.7について)を用いて作製した。総ての反応を、上述したように、Phusion(Bioke)を用いて行った。総ての増幅した断片を、Qiaquick PCR purification kitを用いて精製した。次に、TB-5M断片及びTB-6M断片をHindIII及びNheIで消化し、上述したように精製した後、同様の酵素で消化したpAdApt35Bsu.mycにクローン化した。TB-7M断片、TB-5断片、TB-6断片及びTB-7断片をHindIII及びXbaIで消化した。上述したように精製した後、断片を、上述した制限酵素を用いて消化したpAdApt35Bsuにライゲーションした。この結果として、pAdApt35Bsu.TB.5M(図7)、pAdApt35Bsu.TB.6M(図8)、pAdApt35Bsu.TB.7M(図9)、pAdApt35Bsu.TB.5、pAdApt35Bsu.TB.6及びpAdApt35Bsu.TB.7が得られた。後者の3つは、図7、8及び9のものとはC末端にmycエピトープが存在しない点でのみ異なるものである。
【実施例2】
【0078】
(TB抗原をコードする核酸を保有する複製欠損Ad35ウイルスの作製)
異種の発現カセットを保有する安定した複製欠損組み換えAd35ベースのアデノウイルスベクターを作製する方法は当業者によく知られており、公開された特許出願である国際公開第00/70071号パンフレット、国際公開第02/40665号パンフレット、国際公開第03/104467号パンフレット及び国際公開第2004/001032号パンフレットに既に記載されている。本実施例では、PER.C6(登録商標)細胞、並びにAd35のバックボーンにおいて同種のE4-Orf6配列及び6/7配列を置き換えてAd5由来E4-Orf6及びE4-Orf6/7遺伝子を含むAd35ウイルス(国際公開第03/104467号パンフレット及び国際公開第2004/001032号パンフレットに概して記載されている)を用いたAd35ベースのTBベクターの作製について説明する。本発明において、PER.C6(登録商標)細胞とは、Centre of Applied Microbiology & Research(CAMR)(Porton Down, Salisbury, Wiltshire, SP4 0JG United Kingdom)のEuropean Collection of Cell Cultures(ECACC)に特許寄託番号96022940の下、1996年2月29日に寄託されている細胞を指す。
【0079】
本明細書に記載されている種々のTB抗原を含有する作製したアダプタープラスミドをPi-PspIで消化して、プラスミドのバックボーンからAd35配列及び導入遺伝子のカセット(アダプター断片)を遊離させた。pWE.Ad35.pIX-EcoRVコンストラクト(国際公開第03/104467号パンフレット及び国際公開第2004/001032号パンフレット参照)をNotI及びEcoRvで消化し(フラグメント2)、pBr.Ad35.ΔE3.PR5Orf6コンストラクト(国際公開第03/104467号パンフレット及び国際公開第2004/001032号パンフレット参照)をPacI及びNotIで消化した(フラグメント3)。消化したDNA混合物を65℃でインキュベートして、酵素を失活させた。各トランスフェクションにおいて、消化したアダプター断片(360ng)、フラグメント2(1.4μg)及びフラグメント3(1μg)を混合し、(最大)15μlの容積とし、DMEM(培地、Invitrogen)で25μlに調整した。第2の混合物を、14.4μlのリポフェクタミン(Invitrogen)を10.6μlのDMEMと混合することによって調整し、その後、2つの混合物を一緒に添加し、チューブをタッピング(tapping)することによって混合した。次に、生じたDNA−リポフェクタミン混合物を室温で30〜40分インキュベートした後、4.5mlのDMEMをチューブに添加した。インキュベーションの間に、前日に10% FBS(GIBCO)と10 mM MgCl2を含有するDMEM(Invitrogen)中で1.5x106細胞/ウェルで6ウェルのプレートに播いたPER.C6細胞をDMEMで洗浄した。その後、最初の2ウェルに0.5mlのDMEMと0.5mlのインキュベートしたトランスフェクション混合物を添加した。次の2ウェルに0.25mlの培地と0.75mlのトランスフェクション混合物を添加した。最後の2ウェルに1mlのトランスフェクション混合物を入れた。次に、6ウェルのプレートを37℃、10%CO2で4時間インキュベートした後、下記の通りにアガーで表面を覆った。4時間のインキュベーションの期間の終了30分前に、9mlの2xMEM(Invitrogen)、0.36mlのFBS、0.18mlの1M MgCl2及び1.3
mlのPBSを含有する混合物を調整し、37℃で静置した。2.5%アガロース水溶液の無菌の予め作製された溶液(Seaplaque;Cambrex)を融解させ、37℃に維持した(使用前の少なくとも15分間)。次に、トランスフェクション培地を細胞から除去し、細胞をPBSで1回洗浄した。その後、7.5mlのアガー溶液をMEM培地混合物に添加し、混合し、3mlを各ウェルに迅速に添加した。表面の覆いを流動状態で(in the flow)凝固させた後、プレートを37℃、10%CO2で少なくとも7日間インキュベートした。充分に大きくなった際に、無菌のフィルターチップ(20μl)を備えたピペットを用いて単一のプラークをプラークの数が最も少ないウェルから取り出した。取り出したプラークをそれぞれ200μlの培地に混合し、このうち100μlを用いて6ウェルプレート内でPER.C6細胞に接種した。CPEの時点で、T25フラスコ内でPER.C6細胞上でウイルスをもう1回増幅した後、培地を回収し、1回凍結融解し、粗溶解物として貯蔵した。これらのウイルスのストックを用いて、単離したウイルスDNAでのPCRによって正しい導入遺伝子の存在を確認し、発現について試験した。次に、増幅したプラークのうち1つを選択して、ウイルス種のストックを作製し、2ステップのCsCl精製方法を用いて、本技術分野に既知の手法に従って、精製したウイルスのバッチを生産した。精製ウイルスの濃度は、通常はShabramら(1997)に記載されているHPLCによって決定した。
【実施例3】
【0080】
(Ad35ウイルスベクター感染におけるTB抗原の発現の分析)
融合したTB抗原の発現をウェスタンブロッティングによって決定した。この点に関して、A549細胞をTB抗原をコードする遺伝子を含有する種々のAd35ウイルスに感染させた。感染から48時間後、PBS(NPBI)で細胞を2回洗浄し、溶解バッファー(20mM Tris-HCl pH7.5、150mM NaCl、0.5%DOC、1%Tween-20の蒸留水の溶液に1%SDSを追加し、錠剤としてプロテアーゼ阻害剤(Roche社)を添加したもの)中で溶解し、解体した。氷上の溶解バッファー中で5〜10分後、溶解物を回収し、遠心分離によって除去した。等量の全細胞抽出物を、4-12%Bis-Tris NuPAGE(登録商標) Pre-Cast Gels(Invitrogen)を用いて分画した。タンパク質をImmobilon-Pメンブレン(Millipore)上に転写し、M. tuberculosisの培養濾液タンパク質(Culture Filtrate Protein)に向けられたポリクローナル抗体とインキュベートした。このポリクローナル血清は、分泌タンパク質を含むM. tuberculosis培養物に対してウサギ内で産生されたものである。基本的には、ポリクローナル血清は、総て分泌タンパク質であるAg85A、Ag85B及びTB10.4に対する抗体を含有する。二次抗体は西洋ワサビペルオキシダーゼ結合ヤギ抗ウサギ抗体(Biorad)とした。ウェスタンブロッティングの手順及びインキュベーションを本技術分野において既知である一般的な方法に従って行った。複合体をECL検出システム(Amersham)で製造業者の使用説明書に従って可視化した。
【0081】
図10Aは、本明細書に記載されているmycエピトープを含む核酸をコードするTBを保有するAd35ウイルスを用いた結果を示す。図10Aの種々のレーンは、使用した種々のウイルスベクターを示し、表1は、どの名称がどのインサートを指すのか示す。同様に、mycエピトープを含まないAd35ウイルスからのTB抗原の発現を測定した(図10B)。図10Cは同様の結果を示し、分子量が右側に示されている。Ad35ウイルスから発現した特異的なTB(融合)タンパク質をこの方法によって検出し、さらにTB-3及びTB-Lの特定の切断産物を検出した。図10Aより、TB-3Mと比較してTB-LMのレーンにおいてより高いバンドが存在する(TB-SのレーンのバンドがTB-4Mの特異的なバンドより高い)ことから、総ての3種のTB抗原を含むポリタンパク質が発現したと結論できる。TB10.4がTB-LMポリタンパク質及びTB-SMポリタンパク質において最もC末端側のポリペプチドであるので、このことは、全ポリタンパク質が翻訳されていることを示す。また、切断が完全ではないことも注目されるが、TB-3MのレーンとTB-LMのレーンで切断産物を見ることができる。Ag85A抗原及びAg85B抗原(それぞれレーンTB-5(M)及びレーンTB-6(M))が発現した。TB10.4抗原に関連した特異的な染色がレーンTB-7(M)で見られなかった。1種類の発現コンストラクト(TB-7M)に存在する一方で3種類のコンストラクト(TB-LM、TB-L及びTB-S)に存在する場合に、抗原が、ウェスタンブロットにおいてCFPポリクローナルによって認識されない可能性があるのに対して、タンパク質が、ゲルから移動するか、又はA549細胞において不充分に発現している可能性がある。図10Aにおいて、レーンTB-LMのわずかに短いバンドが最も高い(おそらく切断されていない)バンドの下に見ることができる。このことによって、ポリタンパク質の残存部分からのTB10.4抗原の切断が示唆される。
【0082】
更なる実験によって、タンパク質の物理的な存在が明らかにされるべきであるが、TB10.4抗原が免疫反応に寄与することは明らかであり(下記参照)、このことは、抗原が存在し、免疫反応に積極的に関与していることを強く示すものである。
【実施例4】
【0083】
(M. tuberculosis抗原をコードするベクターのマウスにおける免疫原性)
最初に、実施例1に記載のアダプタープラスミド(DNAコンストラクト)の免疫原性をマウスにおいて調査した。コンストラクトは1種、2種又は3種のTB抗原:Ag85A、Ag85B及びTb10.4をコードしている。複数のTB抗原をコードするDNAコンストラクトを上記の2つの方法で、すなわちmycタグを含まない直接的な融合物を含むポリタンパク質を発現するもの、並びにポリタンパク質(mycタグを含まない)の別個のポリペプチドへの切断をもたらすプロテアーゼ及びプロテアーゼ認識部位をコードする配列を含むポリタンパク質を発現するように設計した。以下のDNAコンストラクトを用いた(実施例1参照)。
1種類の抗原のコンストラクト
TB-5(Ag85A)、TB-6(Ag85B)及びTB-7(TB10.4)
2種類の抗原のコンストラクト
TB-3(ALV-dig*-Ag85A-dig-Ag85B)及びTB-4(Ag85A-Ag85B 直接融合)
3種類の抗原のコンストラクト
TB-L(ALV-dig*-Ag85A-dig-Ag85B-dig-TB10.4)及びTB-S(Ag85A-Ag85B-TB10.4直接融合)
【0084】
実験の設定条件を図11に示す。7グループのマウスに個々のTB DNAコンストラクトを免疫した(2回の実験、下記参照)。各免疫において、DNAを2.5週間の間隔で3回(3x50μg)筋肉注射した。ネガティブコントロールとして、1グループのマウスにPBSを3回注射した。更に、コントロールのグループに6x105cfuのBCG(SSI1331株)を皮下に単回投与した。
【0085】
最後のDNA免疫から1週間後、かつBCG免疫から6週間後、マウスを屠殺した。脾臓を単離して、細胞免疫アッセイ用の細胞源として使用した。体液反応分析に必要な血清を心臓に穴を開けることによって回収し、グループ毎に貯留した。
【0086】
特異的な細胞免疫反応のレベルを、細胞内IFNγ染色(ICS)FACSアッセイを用いて、対応する抗原のペプチドプールによってインビトロで再刺激した後にIFNγ+ CD4+脾細胞及びIFNγ+ CD8+脾細胞の発生頻度を測定することによって決定した。免疫血清を、対応する抗原をコードするアデノウイルスで形質導入したA549細胞の免疫蛍光を用いて試験した。
【0087】
2つの独立した免疫実験を行った。第1の実験においては、グループ当たり3匹のマウスを用い、免疫反応を各マウスについて個別に分析した。第2の実験においては、DNA免疫用にグループ当たり8匹のマウスを用い、コントロールの免疫用にグループ当たり4匹のマウスを用いた。ペプチドによるインビトロでの刺激の後に、同じグループからの2匹ずつのマウスのサンプルを貯留し、FACS分析のために染色した。両実験において同様の結果が得られ、データを統計分析用に一つにまとめた。
【0088】
細胞内のIFNγ染色(ICS)を下記の通りに行った。脾細胞(96ウェルプレート当たり106)を、上述した適切なペプチドプール(最終濃度はペプチド当たり2μg/ml)によって、1:1000の最終希釈の同時刺激抗体、すなわち抗マウスCD49d及び抗マウスCD28(Pharmingen)の存在下で二連で刺激した。ペプチドプールは、下記の実施例6及び7において概説するように、10アミノ酸長(Ag84B)又は11アミノ酸長(Ag85A、TB10.4)の重複配列を有する15アミノ酸長のペプチドにまたがる全抗原からなるか、又はAg85BについてAg85A由来のペプチドであるp1及びp2で調整した。更に、BCG及びPBSで免疫したマウス由来のサンプルを、BCG免疫におけるインビトロでの刺激によく利用される抗原であるCFP(培養濾液タンパク質(Culture Filtrate Protein);最終濃度10μg/ml)及びPPD(精製タンパク質誘導体(Purified Protein Derivative);最終濃度10μg/ml)で刺激した。ポジティブコントロールとして、サンプルをPMA/イオノマイシン(最終濃度:それぞれ50ng/ml及び2μg/ml)で刺激するのに対して、培地でのインキュベーションをネガティブコントロール(非刺激)とした。37℃で1時間刺激後、分泌遮断剤であるGolgiPlug(Pharmingen;最終希釈1:200)を添加し、インキュベーションをさらに5時間継続した。対応する二連のサンプルを貯留し、FACS分析のために処理した。簡単に説明すると、細胞を0.5%BSA含有PBSで洗浄し、FcR遮断剤(Pharmingen;最終希釈1:50)と氷上で10分間インキュベートした。洗浄ステップの後、細胞をCD4-FITC(Pharmingen;最終希釈1:250)及びCD8-APC(Pharmingen;最終希釈1:50)と氷上で30分間インキュベートした。洗浄時に、細胞をCytofix/Cytoperm(Pharmingen)を用いて氷上で20分間固定及び透過処理し、続いてPerm/Wash緩衝液(Pharmingen)で洗浄を行った。細胞内のIFNγを抗IFNγ-PE(Pharmingen;最終希釈1:100)を用いて氷上で30分間染色した。最後の洗浄ステップ
後、細胞をCellFix(BD)に再懸濁し、フローサイトメーターを用いて分析した。少なくとも10,000のCD8+細胞を各個別のサンプルについて測定した。結果を、IFNγを発現するCD4+又はCD8+の細胞のパーセンテージで表した。
【0089】
インビトロでの再刺激サンプルの概要を表2に示す。ICSの結果を図12〜図16に示す。
【0090】
【表2】
【0091】
図12A及びBは、細胞が刺激されていない場合のバックグラウンドのレベルが非常に低いことを示す。図13Aは、Ag85Aプールのペプチドによる刺激後に、IFNγ+ CD4+脾細胞の発生頻度が高いことを示す。Ag85Bコード遺伝子を宿すコンストラクトを注射したマウスから得られたCD4+細胞との明らかな交差反応性があり、このことは、Ag85AとAg85Bとの構造的な相同性が高いことから予期せぬことではない。CD4+細胞において見られたことに対して、Ag85A単独をコードするか、又はAg85Bと関連するコンストラクト(レーンAg85A、Ag85B、TB-3L、TB-4S)を注射したマウス由来の細胞のCD8+脾細胞が刺激されていないことを検出した(図13B参照)。しかしながら、3種類のコンストラクトであるTB-L及びTB-Sを注射したマウスにおいてIFNγ+ CD8+脾細胞の著しい増加があり、このことは、これらのコンストラクト中に存在する追加の抗原(TB10.4)の重要な役割を明らかに示すものである。明らかに、この設定条件では、TB10.4抗原は、Ag85Aペプチドに対する反応性を有するCD8+脾細胞の発生頻度を大きく増加させることができ、Ag85A単独(又はAg85Bと組み合わせたもの)では全く反応をもたらさなかった。図14Aは、Ag85Bが存在した総ての設定条件においてAg85BはIFNγ+ CD4+脾細胞の発生頻度を増加させることができるが、IFNγ+ CD8+脾細胞への影響は最小限であることを示す(図14B)。ここでも、上記のAg85BとAg85Aとの交差反応が見られた(図14A)。図15Aは、TB10.4に関連したペプチドプールに反応するIFNγ+ CD4+脾細胞の発生頻度が存在し、TB10.4を単独で有するコンストラクト又は3種類のインサートを含むコンストラクトを注射したマウスの間に実質的な差異が見られなかった。しかしながら、図15Bに示されているように、TB10.4抗原をコードする遺伝子を含むコンストラクトを注射したマウス由来のIFNγ+ CD8+脾細胞の発生頻度は、TB10.4に関連したペプチド、特に3種類のインサートと関連したものでの刺激において劇的に増加した(y軸が、平均1.5%の脾細胞が反応性であったことを示すのに留意されたい)。結果を、図16A(TB-L中の3種類のインサート:プロテアーゼ及びプロテアーゼ消化部位を有するもの)及び図16B(TB-S:直接連結した抗原)にまとめる。明らかなのは、種々の抗原が種々の様式で免疫反応に貢献していることであり、すなわち、Ag85AがCD4とCD8の反応の両方を誘導し、Ag85Bが強力なCD4の反応を誘導するのみであり、CD8の反応をほとんど誘導しないことである。Ag85Bに対して、TB10.4抗原は強力なCD8の反応を引き起こし、より小さいCD4の反応を引き起こす。このことは、3種類のインサート中に存在する配列によってコードされる種々の抗原の明らかで有益な補助効果を示すものである。
【0092】
BCGの免疫によって、有意なICS反応がもたらされなかった。しかしながら、BCG免疫マウスの脾細胞は、CFP又はPPDによる刺激から72時間後に高レベルのIFNγを生産し(IFNγELISAキットを用いて決定したもの)、このことは、マウスが効率的に免疫化されたことを示すものである(データ示さず)。
【0093】
いずれの抗原特異的抗体も、種々のDNAコンストラクトを注射したマウスにおいて実際に産生されるかどうか決定するために、96ウェルプレート内でA549細胞にTB抗原をコードするAD35組み換えアデノウイルスを形質導入した。アデノウイルスは、実施例2に記載されている通りに製造した。このために、ウェル当たり1x104細胞を播き、ウイルスを5000の感染効率で感染させた。感染から2日後、細胞をCytofix/Cytopermで固定し(4℃、20分間)、続いてPerm/Washバッファーを用いて洗浄を行った。細胞を、Perm/Washバッファーで1:2で希釈した免疫マウス血清と37℃で1時間インキュベートした。洗浄時に、Perm/Washバッファーで1:5で希釈したヤギ抗マウスFITCを添加し、37℃で30分間インキュベートした。最後の洗浄後、細胞を蛍光顕微鏡を用いて分析した。
【0094】
免疫蛍光分析によって、TB-6(Ag85B単独)、TB-3(ALV-dig*-Ag85A-dig-Ag85B)、TB-4(Ag85A-Ag85B 直接融合)及びTB-L(ALV-dig*-Ag85A-dig-Ag85B-dig-TB10.4)で免疫したマウスから得られた血清による細胞の抗原特異的な強い染色が明らかとなった。TB-S(Ag85A-Ag85B-TB10.4 直接融合)で免疫したマウス由来の血清による弱い染色が見られたが、TB-5(Ag85A単独)及びTB-7(TB10.4単独)で免疫することにより得られた血清は、染色を全く示さなかった。このことは、少なくともいくつかの抗原が抗体反応を誘発することができることを示すものである。ポリタンパク質の残存部分からの全プロテアーゼの切断及び別個の抗原の発現レベルは本実験では決定しなかった。
【実施例5】
【0095】
(抗原及びアジュバントをコードするrAdベクターの構築)
ここでは、新規な組み換え複製欠損アデノウイルスベクターを構築し、Ad35-X-A1K63と名付けた。該ベクターは、抗原(Xと呼ぶ)と、親のCtxA1中に存在するセリンの代わりに63番目のアミノ酸においてリジンの置換を有するCtxA1の変異誘導体(すなわち、本明細書においてA1K63と呼ぶ)を共発現する。
【0096】
X及びA1K63を発現することが可能なE1欠失Ad35ベースのベクター作製するのに適したアダプタープラスミドの構築を当業者に既知の標準的なPCR手法を用いてPCR増幅したXを導入し、適切なクローン化制限部位を導入することによって達成した。生じたPCR生成DNA断片を各制限エンドヌクレアーゼで消化し、Ag85A、Ag85及びTB10.4について概して上述したようにアダプタープラスミドにアニールした。クローン化したPCR断片の制限エンドヌクレアーゼでの消化、PCR及び配列決定による更なる分析を行って、DNAが構築の間に変化しなかったことを確認した。
【0097】
A1K63をコードするDNAをCtxA1のコピーを含むプラスミドpOGL1-Aから増幅する。ctxA1の核酸配列は、GenBank(アクセッション番号A16422)にて入手可能であり、セリン−63のTCAコドン(核酸 187〜189)をリジンのコドンAAAに置き換えることによって改変する。変異誘導体を、QuikChange(登録商標)Site-Directed Mutagenesis Kit(Stratagene)を用いて生成する。部位特異的突然変異誘発処理では、鋳型としてpOGL1-A DNAと、フォワードプライマー5’-TGT TTC CCA CCA AAA TTA GTT TGA GAA GTG C-3’(配列番号24)と、リバースプライマー5’- CAA ACT AAT TTT GGT GGA AAC ATA TCC ATC-3’(配列番号25)とを用いる全プラスミドPCRを行う。この手法によって、TCAコドンをAAAコドンに置き換えることで187〜189の核酸が改変される(下線の配列参照)。生じたPCR生成プラスミドをDpnIで消化して、鋳型DNAを除去し、消化したDNAを大腸菌に化学的形質転換によって導入し、寒天上で30℃で16時間培養する。単離したコロニーを選別し、一晩の液体培養物からDNAを抽出した。A1K63に特異的なプライマーを用いるプラスミドのPCRとアガロースゲル電気泳動を行って、適切な誘導体を求めてスクリーニングした。その後、変異インサートを、Xを含有する同様のアダプタープラスミドにXの上流又は下流にクローン化し、アデノウイルスを上記の通りに生産する。
【実施例6】
【0098】
(Ad35.TBベクターのマウスにおける用量反応)
種々の単一及び融合したTB抗原を発現するAd35組み換えウイルスを用いて、マウスにおける抗原性を試験した。タンパク質又はペプチドプールによる刺激後にインターフェロンγ(IFNγ)を産生するT細胞を定量する方法は典型的には本技術分野にて既知である方法、例えば国際公開第2004/037294号パンフレット、Sanderら(1991)及びJungらに記載されいるものを用いて行う。詳細を以下で説明する。
【0099】
3種類のインサートベクターであるTB-Sを用量反応免疫原性試験に用いた。4つの異なる用量のウイルス粒子(107、108、109及び1010vp)を異なるグループのC57BL/6マウス(グループ当たり5匹のマウス)に筋肉注射するのに対して、3匹のマウスをネガティブコントロールとし、これらのマウスに1010vpの空のウイルスベクターを注射した。免疫から2週間後、マウスを屠殺し、脾細胞を単離して、細胞免疫学調査用の細胞源とした。抗原特異的細胞免疫反応のレベルを、上記のように、細胞内IFNγ染色(ICS)FACSアッセイを用いて、IFNγ CD4+及びCD8+脾細胞の発生頻度を測定することによって決定した。結果を図17に示す。明らかなのは、Ad35べースのTB-Sベクターが、Ag85B特異的CD4細胞との反応の増加に特に関連して抗原特異的免疫反応を用量依存的様式で誘導することである(図17C)。TB10.4特異的CD4細胞に関して全く反応が見られず(図17E)、Ag85B特異的CD8細胞に関して全く反応が見られなかった(図17D)。Ag85A特異的CD8細胞及びTB10.4特異的CD8細胞に関して107及び108の用量ではほとんど反応が検出されなかったが(それぞれ図17B及び17F)、109及び1010の用量によって顕著な増加が見られた。どの設定条件においても107の用量によって有意な効果が全く得られなかったが、108の用量によって、Ag85A特異的CD4細胞及びAg85B特異的CD4細胞において増加がもたらされた(ぞれぞれ図17A及び17C)。同様のデータがTB-Lコンストラクトによって見られた(データ示さず)。
【0100】
マウスにおけるM.tuberculosis抗原のCD8免疫優性配列エピトープマッピングの評価において、Ag85Aのp1(FSRPGLPVEYLQVPS;配列番号26)及びp2(GLPVEYLQVPSPSMG;配列番号27)と呼ばれるペプチドがC57BL/6マウスにおける唯一のCD8免疫優性エピトープであることが見出された。下線部は、C57BL/6マウスのMHC分子に理論上適合するものである。タンパク質のこの領域におけるAg85A抗原の配列(アミノ酸1〜19:FSRPGLPVEYLQVPSPSMG;配列番号28)は、同じ領域におけるAg85Bの配列と同一である。しかしながら、Ag85Bプール由来のペプチドp1及びp2は、Ag85A由来のペプチドと同一の配列からなるが、CD8反応を全く示さなかった(図17D参照)。このことは、Ag85B由来のペプチドp1及びp2が、おそらく生産の影響又は汚染のために正常な状態でないことを示唆するものである。したがって、Ag85Aプール由来のp1及びp2を用いてAg85Bのインビトロでの刺激のペプチドプールを再構成した用量反応の実験をさらに行った。TB-Sベクター及びTB-Lベクターの両方によって、107、108、109及び1010vpの用量を用いて実験を行った。免疫から2週間後、概して上述したように、T細胞の反応を決定した。ネガティブコントロールとして、1グループのマウスにPBSを注射し、1グループに空のAd35ウイルス(1010vp)を注射した。CD8細胞についての結果を図17G(TB-L、左のグラフ、TB-S、右のグラフ)に示す。明らかなのは、CD8陽性細胞が、調整したAg85Bプールを用いたインビトロでの刺激において測定されたが、Ag85A抗原由来のペプチドは、本来使用され、陽性の結果を全く示さなかったAg85B抗原のペプチドと同一であったことである。にもかかわらず、これらの観察は、Ad35ベースのアデノウイルスによってコードされているAg85Bタンパク質も前記ウイルスの注射後にCD8陽性T細胞の反応を誘導することができることを示す。
【実施例7】
【0101】
(BCGによる初回抗原刺激における追加免疫として使用したAd35ベースのTBベクター)
別の実験において、TB抗原を発現するAd35ベクターをBCG免疫用の追加免疫剤として試験した。この点に関して、マウスのグループにBCGワクチン(カルメット・ゲラン桿菌;FDAの標準品及び結核ワクチン接種の分野において概して既知である)を、FDAによって供給されたプロトコール(CBERの基準及び試験セクション)に従って皮下注射した。
【0102】
4グループのマウス(グループ当たり8匹のマウス)をBCG(6x105cfu/マウス)を用いて皮下で抗原刺激してから10週間後に、3種の直接連結したTB抗原(TB-S)を保有するAd35を基にしたアデノウイルスベクター又は以下の組み合わせの抗原を保有するアデノウイルスAd35ベクター:
−TB-4単独(Ag85A及びAg85Bの直接融合物を含む)
−TB-4+TB-7(TB10.4を単独で含む)
−TB-5(Ag85Aを単独で含む)+TB-6(Ag85Bを単独で含む)+TB-7
を、注射した。2つのコントロールのグループ(グループ当たり4匹のマウス)を、PBS又はBCGを用いて初回抗原刺激し、その後、PBSグループにPBSを偽の免疫として与え、BCGで初回抗原刺激したコントロールのグループに109vpの空のAd35ベクターを与えた。Ad35ベースのベクターを用いた注射を総てのケースにおいて109vpで筋肉注射で行った。感染から4週間後(初回抗原刺激から14週間後)マウスを屠殺し、脾細胞を単離し、上記のように使用した。結果を図18に示す。Ag85A抗原の存在によって、Ag85A特異的CD4細胞に対し顕著な効果がもたらされた(図18A)。予測したとおり(図13Bも参照)、3種類のコンストラクトであるTB-Sは、Ag85A特異的CD8反応を誘導したが、TB-4ベクターはそのような反応を誘導しなかった(図18B)。同様の結果が以前に見られ(図13B)、このことは、Ag85Aが単独で存在するか、又はAg85Bと共に存在することによって、CD8反応がもたらされないが、そのような反応がTB10.4が存在する場合に見られることを示すものである。興味深いことに、別個のベクターを1回の注射で注射した場合に(図18B中のTB-4/TB-7又はTB-5/TB-6/TB-7)全く効果が見出されず、このことは、抗原が同一のコンストラクト又は少なくとも同一の細胞内に存在するべきであることから、なおさらTB10.4抗原が同時に注射した際にAg85Aに特異的なCD8反応を誘導できないことを示すものである。TB10.4のアジュバント効果のメカニズムは未だ不明である。
【0103】
Ag85B抗原によって見られる効果は先に見られたことと一致している(図18C及びD)。注意しなければならないことは、Ag85Aで見られたこととは対照的に、3種類のコンストラクトであるTB-S中にTB10.4抗原が存在することによって、Ag85Bに特異的なCD8反応が生じないことである。図10Bに示されているように、両抗原はコンストラクトから良く発現している。ネガティブな効果は、Ag85Bに対するいずれのCD8の反応を測定するのに使用された汚染したペプチドプールによるものである可能性がある(実施例6及び下記参照)。
【0104】
TB10.4を用いたCD4+細胞の誘導は非常に低いものである(図18E)。別個のベクター(TB-5/TB-6/TB-7)におけるTB10.4を用いたCD8+細胞の誘導は顕著なものであった(y軸上の目盛を注目されたい;図15Bも参照)。TB-Sを用いたTB10.4特異的CD8細胞の誘導は、IFNγ陽性CD8細胞が平均約12%と非常に高いものである(図18F)。
【0105】
TB10.4抗原が、1種類のコンストラクトとしてはCD8反応を生じない抗原(Ag85A)に対するCD8反応を誘導することができるという結論に達することができる。CD8細胞の活性化が、少なくとも一部はMHCクラスI分子による抗原の加工及び提示に関与する複雑な機構によるものであるCD4細胞の活性化より幾分高い抗原の閾値を必要とすることが知られている(Storin及びBachmann.2004)。ここで、3種類の抗原のコンストラクト内でTB10.4がAg85A抗原及びAg85B抗原に連結している場合、TB10.4自身に対してのみならず、Ag85Aに対しても強いCD8反応が誘発されたことを発見した。コンストラクト内にTB10.4が物理的に存在することによって、CD8細胞への有効な提示及び該細胞の活性化に必要である融合タンパク質のプロテオソームへの輸送の効率が上がる可能性がある。TB10.4特異的CD8細胞のより高い反応の理由は、TB10.4抗原を単独で保有するベクターに比較して3種類のコンストラクトの発現レベルが増大したことによる可能性が最も高い。TB10.4単独に対するCD8反応も有意ではあったが、ウェスタンブロッティング用のTB10.4に特異的な抗血清を欠いているため、TB10.4の発現レベルは決定できなかった。
【0106】
プロテオソームへのターゲティングの増加は、ユビキチン(もしくは加工することになっているタンパク質の標識を担う他の分子)もしくはトランスポータータンパク質の結合に関与する配列、又はMHCクラスI分子との関連において別の方法で加工及び提示を増大させる配列などのTB10.4分子内に特異的な部位が存在する結果である可能性がある(Wangら 2004)。または、TB10.4タンパク質がコンストラクト中に存在することによって、融合タンパク質が物理的に不安定化され、それによって分子の分解率の上昇がもたらされる可能性がある。抗原の加工のレベルの増大によって、概してCD8細胞の活性化の増大がもたらされる。さらに、多くのタンパク質がクラスI提示のためのプロテオソームで終わる場合、サイトゾル及び細胞外により少ない量で存在し、それ故にB細胞の活性化に利用できない。抗原の加工(すなわちCD8の活性化)と抗原に特異的な抗体の力価との間に逆相関が存在することが報告されている(Deloguら.2000)。興味深いことには、3種類の抗原のコンストラクトで免役したマウス由来の血清よりも、はるかに強力な抗原−免疫蛍光が2種類の抗原のコンストラクトで免役したマウス由来の血清において認められたことである。この発見は、TB10.4を含む本発明者らの3種類の抗原分子が、プロテオソームの分解及びCD8細胞の活性化の影響を極めて受けやすく、それ故に抗体の誘導にあまり利用できないことを示唆するものである。強力なT細胞の反応が結核に対してより好ましい反応であるので、TB10.4抗原と少なくとも1種の他のTB抗原、好ましくはAg85A、より好ましくはAg85A及びAg85Bの両方をコードする核酸を含むAd35ベースの3種類の抗原ベクターは、結核に対するワクチンに使用するのに非常に適しているという結論に達する。発見された効果は、図18に示す結果によって示されるように、BCGを初回抗原刺激剤として用いることによってさらに増大する可能性がある。
【0107】
また、Ag85Aのp1及びp2ペプチドを添加したAg85Bの新規なペプチドプール(実施例6記載)を用いて、BCGの初回抗原刺激、Ad35-TBの追加免疫を用いた初回抗原刺激/追加免疫調査を繰り返したが、脾細胞を、初回抗原刺激から26週間後(免疫から16週間後)に屠殺したマウスから除去した。マウス(グループ当たり8匹)をPBS、Ad35.エンプティー、Ad35.TB-S又はAD35.TB-Lで、109又は1010vpの各ウイルスベクターを用いて免疫した。結果を図25(Ag85A刺激)、26(Ag85B刺激)及び27(TB10.4刺激)に示す。結果は、顕著なCD4及びCD8反応が長い時間を経た後でも測定することができたことを明らかに示す。
【実施例8】
【0108】
(モルモットにおける初回抗原刺激−追加免疫曝露実験)
次の実験では、曝露の設定状況においてBCGによる初回抗原刺激の後にAd35ベースのTBベクターによる追加免疫を行うことによって、Mycobacterium tuberculosis感染が防御されるかどうか調査した。
【0109】
モルモットを最初にBCGで典型的には上述したように初回抗原刺激した(動物当たり6x105cfu)。14週間後、動物を1010vpのAd35.TB-S(Ag85A-Ag85B-TB10.4)又はAd35.TB-4(Ag85A-Ag85B)の組み換えウイルスで免疫するか、又は動物にPBSを注射した(コントロールグループ)。8週間後、動物に、動物当たり〜100cfuのM.tuberculosisを曝露した。初回抗原刺激後約78週間まで動物を生存について観測した。中間の観察によって、BCGの初回抗原刺激後にAg35-TBの追加免疫を行うことによって、BCG単独よりも生存率が高くなることが示唆された。
【0110】
(参考文献)
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】図1は、pAdApt35Bsu.mycの地図を示す図である。
【図2】図2は、pAdApt35Bsu.TB.LMの地図を示す図である。
【図3】図3は、pAdApt35Bsu.TB.SMの地図を示す図である。
【図4】図4は、pAdApt35Bsu.TB.FLMの地図を示す図である。
【図5】図5は、pAdApt35Bsu.TB.3Mの地図を示す図である。
【図6】図6は、pAdApt35Bsu.TB.4Mの地図を示す図である。
【図7】図7は、pAdApt35Bsu.TB.5Mの地図を示す図である。
【図8】図8は、pAdApt35Bsu.TB.6Mの地図を示す図である。
【図9】図9は、pAdApt35Bsu.TB.7Mの地図を示す図である。
【図10】図10は、mycタグを有する(A)及びmycタグを有さない(B)種々のセットのTB抗原をコードする核酸を含むAd35ウイルスに感染したA549細胞由来の溶解物での抗TB抗原ポリクローナルを用いたウェスタンブロットを示す図であり、(C)は(B)と同様であり、分子量マーカーと共に示した図である(表1の表記参照)。
【図11】図11は、結核抗原をコードする核酸の種々のセットを宿す7種の種々のアデノウイルスベクター(DNA)を用いる免疫プロトコールの実験計画を示す図である。
【図12】図12は、ペプチドを全く用いない刺激によるインターフェロンγ生産において陽性(IFNγ+)を染色する抗原特異的脾細胞のパーセンテージを示す図である(A:CD4+細胞、B:CD8+細胞)。
【図13】図13は、Ag85A抗原に関連したペプチドのプールを用いた刺激によるインターフェロンγ生産において陽性(IFNγ+)を染色する抗原特異的脾細胞のパーセンテージを示す図である(A:CD4+細胞、B:CD8+細胞)。
【図14】図14は、Ag85B抗原に関連したペプチドのプールを用いた刺激によるインターフェロンγ生産において陽性(IFNγ+)を染色する抗原特異的脾細胞のパーセンテージを示す図である(A:CD4+細胞、B:CD8+細胞)。
【図15】図15は、TB10.4抗原に関連したペプチドのプールを用いた刺激によるインターフェロンγ生産において陽性(IFNγ+)を染色する抗原特異的脾細胞のパーセンテージを示す図である(A:CD4+細胞、B:CD8+細胞)。
【図16】図16は、3種類のインサートであるTB-L(A)及びTB-S(B)を注射したマウスから得られた血清において、ICNにて陽性を染色するCD4+及びCD8+脾細胞のパーセンテージの概要を示す図である。
【図17A】図17Aは、Ag85A抗原、Ag85B抗原及びTb10.4抗原をコードする核酸を含むTB-Sの種々の用量を用いる用量反応効果を示し、Ag85Aに対するCD4反応を示す図である。
【図17B】図17Bは、Ag85A抗原、Ag85B抗原及びTb10.4抗原をコードする核酸を含むTB-Sの種々の用量を用いる用量反応効果を示し、Ag85Aに対するCD8反応を示す図である。
【図17C】図17Cは、Ag85A抗原、Ag85B抗原及びTb10.4抗原をコードする核酸を含むTB-Sの種々の用量を用いる用量反応効果を示し、Ag85Bに対するCD4反応を示す図である。
【図17D】図17Dは、Ag85A抗原、Ag85B抗原及びTb10.4抗原をコードする核酸を含むTB-Sの種々の用量を用いる用量反応効果を示し、Ag85Bに対するCD8反応を示す図である。
【図17E】図17Eは、Ag85A抗原、Ag85B抗原及びTb10.4抗原をコードする核酸を含むTB-Sの種々の用量を用いる用量反応効果を示し、TB10.4に対するCD4反応を示す図である。
【図17F】図17Fは、Ag85A抗原、Ag85B抗原及びTb10.4抗原をコードする核酸を含むTB-Sの種々の用量を用いる用量反応効果を示し、TB10.4に対するCD8反応を示す図である。
【図17G】図17Gは、Ag85A抗原、Ag85B抗原及びTb10.4抗原をコードする核酸を含むTB-Sの種々の用量を用いる用量反応効果を示し、調整したペプチドプールを有するAg85B(実施例6参照)に対するCD8反応を示す図である(左のグラフ、TB-L感染におけるもの;右のグラフ、TB-S感染におけるもの)。
【図18A】図18Aは、BCGで初回抗原刺激し、種々のAd-TBベクターで追加免疫後のCD4及びCD8の反応を示し、Ag85Aに対するCD4反応を示す図である。
【図18B】図18Bは、BCGで初回抗原刺激し、種々のAd-TBベクターで追加免疫後のCD4及びCD8の反応を示し、Ag85Aに対するCD8反応を示す図である。
【図18C】図18Cは、BCGで初回抗原刺激し、種々のAd-TBベクターで追加免疫後のCD4及びCD8の反応を示し、Ag85Bに対するCD4反応を示す図である。
【図18D】図18Dは、BCGで初回抗原刺激し、種々のAd-TBベクターで追加免疫後のCD4及びCD8の反応を示し、Ag85Bに対するCD8反応を示す図である。
【図18E】図18Eは、BCGで初回抗原刺激し、種々のAd-TBベクターで追加免疫後のCD4及びCD8の反応を示し、TB10.4に対するCD4反応を示す図である。
【図18F】図18Fは、BCGで初回抗原刺激し、種々のAd-TBベクターで追加免疫後のCD4及びCD8の反応を示し、TB10.4に対するCD8反応を示す図である。
【図19】図19は、TB-LMの核酸配列を示す図である。
【図20】図20は、TB-SMの核酸配列を示す図である。
【図21】図21は、TB-FLMの核酸配列を示す図である。
【図22】図22は、TB-LMのアミノ酸配列を示す図である。
【図23】図23は、TB-SMのアミノ酸配列を示す図である。
【図24】図24は、TB-FLMのアミノ酸配列を示す図である。
【図25】図25は、長期に渡って読み取ったBCG初回抗原刺激/AD35-TB追加免疫実験におけるAg85Aでの刺激を示す図である(パネル上部:CD4反応、パネル下部:CD8反応。Ad35.E=空のAD35ウイルス)。
【図26】図26は、長期に渡って読み取ったBCG初回抗原刺激/AD35-TB追加免疫実験におけるAg85Bでの刺激を示す図である(パネル上部:CD4反応、パネル下部:CD8反応。Ad35.E=空のAD35ウイルス)。
【図27】図27は、長期に渡って読み取ったBCG初回抗原刺激/AD35-TB追加免疫実験におけるTB10.4での刺激を示す図である(パネル上部:CD4反応、パネル下部:CD8反応。Ad35.E=空のAD35ウイルス)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の結核(TB)を引き起こす桿菌由来の2種又は3種以上の抗原をコードする核酸配列を含む組み換え複製欠損アデノウイルス。
【請求項2】
前記アデノウイルスが、ヒトアデノウイルスの抗原型であるAd11、Ad24、Ad26、Ad34、Ad35、Ad48、Ad49及びAd50からなる群より選択される請求項1に記載の組み換えアデノウイルス。
【請求項3】
前記TBを引き起こす桿菌が、Mycobacterium tuberculosis、Mycobacterium africanum及び/又はMycobacterium bovisである請求項1又は2に記載の組み換えアデノウイルス。
【請求項4】
前記核酸配列が、M. tuberculosisのAg85A、Ag85B及びTB10.4の翻訳領域によってコードされる抗原からなる群より選択される抗原の少なくとも2種をコードする請求項1〜3項のいずれか1項に記載の組み換えアデノウイルス。
【請求項5】
前記抗原の少なくとも2種が1つのポリタンパク質から発現される請求項1〜4項のいずれか1項に記載の組み換えアデノウイルス。
【請求項6】
前記抗原の少なくとも2種が融合タンパク質を形成するために連結されている請求項1〜5項のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項7】
前記核酸配列がAg85A、Ag85B及びTB10.4の3種の抗原すべてをコードし、5’から3’の順でクローン化されている請求項4に記載の組み換えアデノウイルス。
【請求項8】
2種又は3種以上の抗原とプロテアーゼ認識部位とをコードする核酸配列を含む組み換えポリヌクレオチドベクターであって、前記抗原がポリタンパク質として発現され、前記ポリタンパク質が2種又は3種以上の抗原のうち少なくとも2種を分断しているプロテアーゼ認識部位を含む組み換えポリヌクレオチドベクター。
【請求項9】
前記ポリヌクレオチドベクターが複製欠損アデノウイルス中にパッケージされており、前記アデノウイルスが、ヒトアデノウイルスの抗原型であるAd11、Ad24、Ad26、Ad34、Ad35、Ad48、Ad49及びAd50からなる群より選択される請求項8に記載の組み換えポリヌクレオチドベクター。
【請求項10】
前記核酸配列がさらにプロテアーゼをコードする配列を含む請求項8又は9に記載の組み換えポリヌクレオチドベクター。
【請求項11】
発現の際に前記プロテアーゼがポリタンパク質の一部として発現され、プロテアーゼ認識部位によって前記抗原の少なくとも1種に連結されている請求項10に記載の組み換えポリヌクレオチドベクター。
【請求項12】
前記プロテアーゼ認識部位が配列番号21又は22に示される配列を含む請求項11に記載の組み換えポリヌクレオチドベクター。
【請求項13】
前記プロテアーゼがトリ白血病ウイルス(ALV)由来である請求項10〜12項のいずれか1項に記載の組み換えポリヌクレオチドベクター。
【請求項14】
前記抗原が少なくとも1種の結核(TB)を引き起こす桿菌由来である請求項8〜13項のいずれか1項に記載の組み換えポリヌクレオチドベクター。
【請求項15】
前記TBを引き起こす桿菌が、Mycobacterium tuberculosis、Mycobacterium africanum及び/又はMycobacterium bovisである請求項14に記載の組み換えポリヌクレオチドベクター。
【請求項16】
前記核酸配列が、M. tuberculosisのAg85A、Ag85B及びTB10.4の翻訳領域によってコードされる抗原の少なくとも2種をコードする請求項8〜15項のいずれか1項に記載の組み換えポリヌクレオチドベクター。
【請求項17】
前記核酸配列が抗原であるAg85A、Ag85B及びTB10.4をコードし、前記抗原をコードする核酸配列が5’から3’の順でクローン化されている請求項16に記載の組み換えポリヌクレオチドベクター。
【請求項18】
抗原と遺伝子アジュバントとをコードする核酸配列を含む組み換えポリヌクレオチドベクターであって、前記抗原と前記遺伝子アジュバントとが、好ましくは第1のプロテアーゼ認識部位によって連結されている組み換えポリヌクレオチドベクター。
【請求項19】
前記ポリヌクレオチドベクターが複製欠損アデノウイルス中にパッケージされている請求項18に記載の組み換えポリヌクレオチドベクター。
【請求項20】
前記アデノウイルスが、ヒトアデノウイルスの抗原型であるAd11、Ad24、Ad26、Ad34、Ad35、Ad48、Ad49及びAd50からなる群より選択される請求項19に記載の組み換えポリヌクレオチドベクター。
【請求項21】
前記核酸配列がさらにプロテアーゼをコードする配列を含む請求項18〜20項のいずれか1項に記載の組み換えポリヌクレオチドベクター。
【請求項22】
前記プロテアーゼが、前記抗原に及び/又は前記遺伝子アジュバントに第2のプロテアーゼ認識部位によって連結されている請求項21に記載の組み換えポリヌクレオチドベクター。
【請求項23】
前記第2のプロテアーゼ認識部位が配列番号22に示される配列を含む請求項22に記載の組み換えポリヌクレオチドベクター。
【請求項24】
前記第1のプロテアーゼ認識部位が配列番号21に示される配列を含む請求項19〜23項のいずれか1項に記載の組み換えポリヌクレオチドベクター。
【請求項25】
前記プロテアーゼがトリ白血病ウイルス(ALV)由来である請求項21〜24項のいずれか1項に記載の組み換えポリヌクレオチドベクター。
【請求項26】
前記抗原が結核(TB)を引き起こす桿菌由来である請求項18〜25項のいずれか1項に記載の組み換えポリヌクレオチドベクター。
【請求項27】
前記結核(TB)を引き起こす桿菌がMycobacterium tuberculosis、Mycobacterium africanum又はMycobacterium bovisである請求項26に記載の組み換えポリヌクレオチドベクター。
【請求項28】
前記抗原が、M. tuberculosisのAg85A、Ag85B及びTB10.4の翻訳領域によってコードされる抗原からなる群より選択される請求項18〜27項のいずれか1項に記載の組み換えポリヌクレオチドベクター。
【請求項29】
前記遺伝子アジュバントがコレラ毒素(CtxA1)又はその変異誘導体を含み、前記変異誘導体が63番目のアミノ酸の位置におけるセリンのリジンへの置換を有する(A1K63)請求項18〜28項のいずれか1項に記載の組み換えポリヌクレオチドベクター。
【請求項30】
請求項1〜7項のいずれか1項に記載の組み換えアデノウイルス、又は請求項8〜17項のいずれか1項に記載の組み換えポリヌクレオチドベクター、又は請求項18〜29項のいずれか1項に記載の組み換えポリヌクレオチドベクターを含み、さらに医薬として受容可能な賦形剤と任意選択的にアジュバントとを含む多価ワクチン。
【請求項31】
Mycobacteriumの抗原であるTB10.4を遺伝子アジュバントとして使用する方法。
【請求項32】
Mycobacteriumの抗原であるTB10.4を、特定の抗原又は所定の治療成分に対するホストの免疫反応が刺激される必要がある病気の治療用又は予防用の薬剤の調整に使用する方法。
【請求項1】
少なくとも1種の結核(TB)を引き起こす桿菌由来の2種又は3種以上の抗原をコードする核酸配列を含む組み換え複製欠損アデノウイルス。
【請求項2】
前記アデノウイルスが、ヒトアデノウイルスの抗原型であるAd11、Ad24、Ad26、Ad34、Ad35、Ad48、Ad49及びAd50からなる群より選択される請求項1に記載の組み換えアデノウイルス。
【請求項3】
前記TBを引き起こす桿菌が、Mycobacterium tuberculosis、Mycobacterium africanum及び/又はMycobacterium bovisである請求項1又は2に記載の組み換えアデノウイルス。
【請求項4】
前記核酸配列が、M. tuberculosisのAg85A、Ag85B及びTB10.4の翻訳領域によってコードされる抗原からなる群より選択される抗原の少なくとも2種をコードする請求項1〜3項のいずれか1項に記載の組み換えアデノウイルス。
【請求項5】
前記抗原の少なくとも2種が1つのポリタンパク質から発現される請求項1〜4項のいずれか1項に記載の組み換えアデノウイルス。
【請求項6】
前記抗原の少なくとも2種が融合タンパク質を形成するために連結されている請求項1〜5項のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項7】
前記核酸配列がAg85A、Ag85B及びTB10.4の3種の抗原すべてをコードし、5’から3’の順でクローン化されている請求項4に記載の組み換えアデノウイルス。
【請求項8】
2種又は3種以上の抗原とプロテアーゼ認識部位とをコードする核酸配列を含む組み換えポリヌクレオチドベクターであって、前記抗原がポリタンパク質として発現され、前記ポリタンパク質が2種又は3種以上の抗原のうち少なくとも2種を分断しているプロテアーゼ認識部位を含む組み換えポリヌクレオチドベクター。
【請求項9】
前記ポリヌクレオチドベクターが複製欠損アデノウイルス中にパッケージされており、前記アデノウイルスが、ヒトアデノウイルスの抗原型であるAd11、Ad24、Ad26、Ad34、Ad35、Ad48、Ad49及びAd50からなる群より選択される請求項8に記載の組み換えポリヌクレオチドベクター。
【請求項10】
前記核酸配列がさらにプロテアーゼをコードする配列を含む請求項8又は9に記載の組み換えポリヌクレオチドベクター。
【請求項11】
発現の際に前記プロテアーゼがポリタンパク質の一部として発現され、プロテアーゼ認識部位によって前記抗原の少なくとも1種に連結されている請求項10に記載の組み換えポリヌクレオチドベクター。
【請求項12】
前記プロテアーゼ認識部位が配列番号21又は22に示される配列を含む請求項11に記載の組み換えポリヌクレオチドベクター。
【請求項13】
前記プロテアーゼがトリ白血病ウイルス(ALV)由来である請求項10〜12項のいずれか1項に記載の組み換えポリヌクレオチドベクター。
【請求項14】
前記抗原が少なくとも1種の結核(TB)を引き起こす桿菌由来である請求項8〜13項のいずれか1項に記載の組み換えポリヌクレオチドベクター。
【請求項15】
前記TBを引き起こす桿菌が、Mycobacterium tuberculosis、Mycobacterium africanum及び/又はMycobacterium bovisである請求項14に記載の組み換えポリヌクレオチドベクター。
【請求項16】
前記核酸配列が、M. tuberculosisのAg85A、Ag85B及びTB10.4の翻訳領域によってコードされる抗原の少なくとも2種をコードする請求項8〜15項のいずれか1項に記載の組み換えポリヌクレオチドベクター。
【請求項17】
前記核酸配列が抗原であるAg85A、Ag85B及びTB10.4をコードし、前記抗原をコードする核酸配列が5’から3’の順でクローン化されている請求項16に記載の組み換えポリヌクレオチドベクター。
【請求項18】
抗原と遺伝子アジュバントとをコードする核酸配列を含む組み換えポリヌクレオチドベクターであって、前記抗原と前記遺伝子アジュバントとが、好ましくは第1のプロテアーゼ認識部位によって連結されている組み換えポリヌクレオチドベクター。
【請求項19】
前記ポリヌクレオチドベクターが複製欠損アデノウイルス中にパッケージされている請求項18に記載の組み換えポリヌクレオチドベクター。
【請求項20】
前記アデノウイルスが、ヒトアデノウイルスの抗原型であるAd11、Ad24、Ad26、Ad34、Ad35、Ad48、Ad49及びAd50からなる群より選択される請求項19に記載の組み換えポリヌクレオチドベクター。
【請求項21】
前記核酸配列がさらにプロテアーゼをコードする配列を含む請求項18〜20項のいずれか1項に記載の組み換えポリヌクレオチドベクター。
【請求項22】
前記プロテアーゼが、前記抗原に及び/又は前記遺伝子アジュバントに第2のプロテアーゼ認識部位によって連結されている請求項21に記載の組み換えポリヌクレオチドベクター。
【請求項23】
前記第2のプロテアーゼ認識部位が配列番号22に示される配列を含む請求項22に記載の組み換えポリヌクレオチドベクター。
【請求項24】
前記第1のプロテアーゼ認識部位が配列番号21に示される配列を含む請求項19〜23項のいずれか1項に記載の組み換えポリヌクレオチドベクター。
【請求項25】
前記プロテアーゼがトリ白血病ウイルス(ALV)由来である請求項21〜24項のいずれか1項に記載の組み換えポリヌクレオチドベクター。
【請求項26】
前記抗原が結核(TB)を引き起こす桿菌由来である請求項18〜25項のいずれか1項に記載の組み換えポリヌクレオチドベクター。
【請求項27】
前記結核(TB)を引き起こす桿菌がMycobacterium tuberculosis、Mycobacterium africanum又はMycobacterium bovisである請求項26に記載の組み換えポリヌクレオチドベクター。
【請求項28】
前記抗原が、M. tuberculosisのAg85A、Ag85B及びTB10.4の翻訳領域によってコードされる抗原からなる群より選択される請求項18〜27項のいずれか1項に記載の組み換えポリヌクレオチドベクター。
【請求項29】
前記遺伝子アジュバントがコレラ毒素(CtxA1)又はその変異誘導体を含み、前記変異誘導体が63番目のアミノ酸の位置におけるセリンのリジンへの置換を有する(A1K63)請求項18〜28項のいずれか1項に記載の組み換えポリヌクレオチドベクター。
【請求項30】
請求項1〜7項のいずれか1項に記載の組み換えアデノウイルス、又は請求項8〜17項のいずれか1項に記載の組み換えポリヌクレオチドベクター、又は請求項18〜29項のいずれか1項に記載の組み換えポリヌクレオチドベクターを含み、さらに医薬として受容可能な賦形剤と任意選択的にアジュバントとを含む多価ワクチン。
【請求項31】
Mycobacteriumの抗原であるTB10.4を遺伝子アジュバントとして使用する方法。
【請求項32】
Mycobacteriumの抗原であるTB10.4を、特定の抗原又は所定の治療成分に対するホストの免疫反応が刺激される必要がある病気の治療用又は予防用の薬剤の調整に使用する方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17A】
【図17B】
【図17C】
【図17D】
【図17E】
【図17F】
【図17G】
【図18A】
【図18B】
【図18C】
【図18D】
【図18E】
【図18F】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17A】
【図17B】
【図17C】
【図17D】
【図17E】
【図17F】
【図17G】
【図18A】
【図18B】
【図18C】
【図18D】
【図18E】
【図18F】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【公表番号】特表2008−520198(P2008−520198A)
【公表日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−540658(P2007−540658)
【出願日】平成17年11月15日(2005.11.15)
【国際出願番号】PCT/EP2005/055984
【国際公開番号】WO2006/053871
【国際公開日】平成18年5月26日(2006.5.26)
【出願人】(301055549)クルセル ホランド ベー ヴェー (27)
【出願人】(507158972)アエラス グローバル ティービー ワクチン ファウンデーション (2)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年11月15日(2005.11.15)
【国際出願番号】PCT/EP2005/055984
【国際公開番号】WO2006/053871
【国際公開日】平成18年5月26日(2006.5.26)
【出願人】(301055549)クルセル ホランド ベー ヴェー (27)
【出願人】(507158972)アエラス グローバル ティービー ワクチン ファウンデーション (2)
【Fターム(参考)】
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