説明

組合せオイルリング

【課題】合口隙間を通じたオイル消費を確実に低減できる2ピース形の組合せオイルリングを提供する。
【解決手段】オイルリング11と、このオイルリング11を半径方向外方に押圧付勢するコイルエキスパンダ12とからなる組合せオイルリング10において、前記コイルエキスパンダ12に挿通されているラッチピン21の一端部が半径方向外側に屈曲されており、この屈曲された端部21aがコイルエキスパンダ12の隣り合う素線間の隙間を挿通してコイルエキスパンダ12から外側に突出し、オイルリング11の合口隙間27に配置している。ラッチピンの屈曲端部に樹脂製チューブが装着されていることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合口隙間を通じたオイル消費を低減した2ピース形の組合せオイルリングに関する。
【背景技術】
【0002】
ピストンリングの合口隙間は、ピストンがシリンダボアに挿入された後、ピストンリングが熱膨張した際にその熱膨張分を逃すための空間を確保するために必要とされる。しかし、合口隙間があると、オイルの掻き残しを生じたり、エンジンブレーキが働く減速時などの燃焼室が負圧となる場合、合口隙間を通じてオイルが燃焼室に吸い上げられやすい。
【0003】
特許文献1では、ピストンリングの合口隙間に樹脂製部材を固定して合口隙間を通じた漏れを低減している。また、特許文献2も、ピストンリングの合口隙間に樹脂部を一体的に形成して、合口隙間を通じた漏れを低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−105880号公報
【特許文献2】特開2008−249124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、合口端面に穴を形成したり、リング端部の外周面に切り欠き溝を形成する加工を必要とし、また、合口が広がった場合に樹脂製部材が脱離する可能性がある。特許文献2でも、衝撃などにより、樹脂部が脱離してしまう可能性がある。
【0006】
本発明の目的は、合口隙間を通じたオイル消費を確実に低減できる2ピース形の組合せオイルリングを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明は次の解決手段を採る。すなわち、
本発明は、オイルリングと、このオイルリングを半径方向外方に押圧付勢するコイルエキスパンダとからなる組合せオイルリングにおいて、前記コイルエキスパンダに挿通されているラッチピンの一端部が半径方向外側に屈曲されており、この屈曲された端部がコイルエキスパンダの隣り合う素線間の隙間を挿通してコイルエキスパンダから外側に突出し、オイルリングの合口隙間に配置していることを特徴とする。
【0008】
前記ラッチピンは同一の太さであってもよいが、径が異なる部分があってもよい。例えば、屈曲端部の少なくとも一部分を他の部分よりも大きな幅を有するようにしてもよい。
【0009】
前記ラッチピンの屈曲端部に樹脂製チューブが装着されていることが好ましい。樹脂製チューブの材料は特に限定されないが、フッ素樹脂から形成されていることが好ましい。オイルリングの合口端面と樹脂製チューブが接触していることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ラッチピンの屈曲端部がオイルリングの合口隙間から脱離することがないので、オイルリングの合口隙間を通じたオイル消費量を確実に低減できる。ラッチピンの屈曲端部に樹脂製チューブが装着されていれば、熱膨張によりオイルリングの合口端面に樹脂製チューブが接触した場合においても、樹脂製チューブが収縮可能であるため、オイルリングの合口隙間を小さくすることが可能である。その結果、オイル掻き残し量とオイル消費量をより一層低減できる。また、樹脂製チューブが収縮可能であるため、合口端面の接触によるオイルリングの外周への張り出しによるスカッフの発生を防止できる。樹脂製チューブが最初からオイルリングの合口端面に接触している場合は、オイル掻き残し量とオイル消費量を更に低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態を示し、(a)は組合せオイルリングの合口付近を示す一部断面平面図、(b)はラッチピンの平面図である。
【図2】組合せオイルリングを装着したピストンがシリンダ内に装着されている状態を示す縦断面図である。
【図3】ラッチピンの別の例を示す平面図である。
【図4】本発明の別の実施形態を示し、組合せオイルリングの合口付近を示す一部断面平面図である。
【図5】ラッチピンの先端面とオイルリングの合口付近を外側から見た図である。
【図6】本発明の更に別の実施形態を示し、組合せオイルリングの合口付近を示す一部断面平面図である。
【図7】ラッチピンの先端面とオイルリングの合口付近を外側から見た図である。
【図8】本発明の更に別の実施形態を示し、(a)は組合せオイルリングの合口付近を示す一部断面平面図、(b)はラッチピンの一部断面平面図である。
【図9】組合せオイルリングを装着したピストンがシリンダ内に装着されている状態を示す縦断面図である。
【図10】ラッチピンの先端面とオイルリングの合口付近を外側から見た図である。
【図11】本発明の更に別の実施形態を示し、組合せオイルリングの合口付近を示す一部断面平面図である。
【図12】ラッチピンの別の例を示す一部断面平面図である。
【図13】オイル消費量の試験結果を示すグラフである。
【図14】オイル消費量の試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態を図面を参照しながら説明する。
【0013】
図1及び図2において、シリンダ1内のピストン2の外周面3に形成されているオイルリング溝4に組合せオイルリング10が装着されている。組合せオイルリング10は2ピース形の鋼製組合せオイルリングであり、オイルリング11とコイルエキスパンダ12とから構成されている。
【0014】
オイルリング11は、合い口を有する略I字形断面の鋼製リングで、円周方向に延びる上下一対のレール13,14と、円周方向に延び上下のレール13,14を連結する薄肉の真っ直ぐな柱部15とからなっている。上下のレール13,14の外周面16,17はシリンダ1の内周面5と接触し、シリンダ1の内周面5上のオイルを掻き取る摺動面を構成する。柱部15と上下のレール13,14とで形成される外周溝18はオイル受容溝であり、上下のレール13,14の外周面16,17でシリンダ1の内周面5から掻き取ったオイルは、外周溝18から、柱部15に円周方向に間隔をおいて形成されている複数個のオイル孔19を通ってオイルリング11の内周側に移動し、ピストン2のオイルリング溝4の底面6に形成されている複数のオイル逃し孔(図示せず)を通ってオイルパンに落とされる。
【0015】
上下のレール13,14と柱部15とで形成されている内周溝20にコイルエキスパンダ12が装着されており、オイルリング11を半径方向外方に押圧付勢する。コイルエキスパンダ12は、素線をコイル状に巻き、それをリング状に形成したものである。コイルエキスパンダ12を形成する素線の断面形状は円形や長方形などが使用されるが、特に限定はない。コイルエキスパンダ12の巻線ピッチは、隣合う素線間の隙間が後述するラッチピン21の太さよりも若干大きい寸法になるようにされているが、巻線ピッチは部分的に異なるように構成することもできる。コイルエキスパンダ12の両合口端部の端面22,23は研磨加工されている。
【0016】
コイルエキスパンダ12の円周方向孔24にはラッチピン21が、コイルエキスパンダ12の一対の合口端部に跨って挿通されている。ラッチピン21は鋼等からなり、コイルエキスパンダ12と略同じ曲率を有している円弧形の線材で、半径方向外側に屈曲されている一端部21aを有しており、他端は半径方向に屈曲せずにコイルエキスパンダ12と略同じ曲率で延びている。ラッチピン21の断面形状は円形、楕円形又は長方形などが使用されるが、特に限定はない。ラッチピン21は、屈曲している一端部21aがコイルエキスパンダ12の隣合う素線間の隙間を挿通して、コイルエキスパンダ12から半径方向外側に突出して、オイルリング11の一対の軸方向に平行な合口端面25,26間に形成されている合口隙間27に配置している。
【0017】
コイルエキスパンダ12は、ピストン2のオイルリング溝4内に、両合口端部の端面が突き合わされて縮められた状態で装着され、半径方向外方への拡張力を生じるようにされている。コイルエキスパンダ12の半径方向外方への拡張力によって、オイルリング11は半径方向外方へ押圧され、オイルリング11の上下のレール13,14の外周面16,17がシリンダ1の内周面5に押接される。また、ラッチピン21の屈曲端部21aはコイルエキスパンダ12から半径方向外側に突出して、オイルリング11の合口隙間27に配置している。
【0018】
したがって、ラッチピン21の屈曲端部21aがオイルリング11の合口隙間27に配置することによって、オイルリング11の合口隙間27を通じてオイルが燃焼室側に吸い上げられる量が減少し、オイル消費量を低減できる。そしてラッチピン21の屈曲端部21aがオイルリング11の合口隙間27から脱離することがない。
【0019】
上記実施形態では、ラッチピン21は同一の太さであったが、径が異なる部分があってもよい。例えば、図3は、本発明の別の実施形態を示しており、ラッチピン21の屈曲端部21aの先端部を潰して扁平とし、他の部分よりも大きな幅を有するようにしたものである。このようなラッチピン21の構成は、合口隙間が部分的に広い寸法部分を有している合口形状の場合(本発明の別の実施形態である図4〜図5及び図6〜図7を参照)に特に有効である。
【0020】
図4及び図5は、オイルリング11の一対の合口端面25,26が、軸方向に平行な端面と、その下に下方に向かって広がるテーパ面とから形成されている場合を示している。ラッチピン21は、屈曲端部21aの先端部が潰されて扁平とされ、他の部分よりも大きな幅を有するように形成されており、屈曲端部21aがオイルリング11の一対のテーパ面間に形成される合口隙間27部分に配置される。本構成によれば、オイルリング11の合口隙間27でのオイル掻き残し量と合口隙間27を通じてオイルが燃焼室側に吸い上げられる量が減少し、オイル消費量を低減できる。
【0021】
図6及び図7は、オイルリング11の一対の合口端面25,26がU字状に凹んで凹部28,29が形成されている場合を示している。ラッチピン21は、屈曲端部21aの先端部が潰されて扁平とされ、他の部分よりも大きな幅を有するように形成されており、屈曲端部21aがオイルリング11の一対の合口端面25,26の凹部28,29間に形成される合口隙間27部分に配置される。本構成によれば、オイルリング11の合口隙間27でのオイル掻き残し量と合口隙間27を通じてオイルが燃焼室側に吸い上げられる量が減少し、オイル消費量を低減できる。
【0022】
図8〜図10は、本発明の更に別の実施形態を示している。本実施形態では、ラッチピン21の屈曲端部21aがオイルリング11の合口隙間27に配置され、ラッチピン21の屈曲端部21aの先端部にPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等からなる樹脂製チューブ30が装着されている場合を示す。樹脂製チューブ30とラッチピン21との固定は、チューブの熱収縮やラッチピン21の先端を潰してチューブを抜け止めする方法等によって行なわれる。樹脂製チューブ30は、ピストン2がシリンダ1内に装着時、オイルリング11の合口端面25,26と接触している。樹脂製チューブ30の先端面は本実施形態ではシリンダ1の内周面5に接触させているが、接触させない場合もある。ラッチピン21の先端面とシリンダ1の内周面5との間には隙間がある。
【0023】
上記によれば、オイルリング11の合口隙間27が樹脂製チューブ30によって閉塞されるので、オイルリング11の合口隙間27でのオイルの掻き残し量と合口隙間27を通じてオイルが燃焼室側に吸い上げられる量が減少し、オイル消費量を一層低減できる。また、樹脂製チューブ30が収縮可能であるため、熱膨張によるオイルリング11の外周への張り出しによるスカッフの発生を防止できる。
【0024】
図11は本発明の更に別の実施形態を示している。上記実施形態では、樹脂製チューブ30がオイルリング11の合口端面25,26に接触している場合を示したが、図11は、樹脂製チューブ30がオイルリング11の合口端面25,26に接触せず、隙間を有している場合を示している。
【0025】
上記によれば、熱膨張によりオイルリング11の合口端面25,26に樹脂製チューブ30が接触した場合においても、樹脂製チューブ30が収縮可能であるため、オイルリング11の合口隙間27を小さくできる。その結果、オイルリング11の合口隙間27でのオイル掻き残し量と合口隙間27を通じてオイルが燃焼室側に吸い上げられる量が減少し、オイル消費量を低減できる。また、樹脂製チューブ30が収縮可能であるため、熱膨張による合口端面25,26の接触によるオイルリング11の外周への張り出しによるスカッフの発生を防止できる。
【0026】
前記実施形態では、ラッチピン21の屈曲端部21aの先端部に樹脂製チューブ30を装着した例を示したが、これに限定されることがないことはいうまでもない。例えば、図12に別の例を示す。図12は樹脂製チューブ30をラッチピン21の屈曲端部21aの全体とコイルエキスパンダ12の円周方向孔24に挿通配置されている部分の所定範囲とにわたって被覆するように装着したものである。
【0027】
図13は、1.8lガソリンエンジンを使用し、回転数6000rpm、全負荷運転で、オイルリングの合口隙間に何も配置していない従来の組合せオイルリングのオイル消費量を1として、図8〜図10に示す本発明の組合せオイルリングのオイル消費量比を示したものである。図13により、本発明の組合せオイルリングは、従来の組合せオイルリングに比べて約40%オイル消費量が少ないことがわかる。これは、本発明の組合せオイルリングは、オイルリングの合口隙間部分のオイルの掻き残し量が少ないためであると考えられる。
【0028】
図14は、高負圧運転条件で、オイルリングの合口隙間に何も配置していない従来の組合せオイルリングの絶対圧20kPaでのオイル消費量を1として、従来の組合せオイルリング及び図8〜図10に示す本発明の組合せオイルリングのオイル消費量比を示したものである。図14により、従来の組合せオイルリングは、負圧が大きくなる(絶対圧が0に近づく)とともに、オイル消費量が上昇することがわかる。一方、本発明の組合せオイルリングは、負圧が大きくなってもオイル消費量に変化がないことがわかる。これは、負圧が大きくなることにより、従来の組合せオイルリングは合口隙間からオイルが燃焼室側に吸い上げられてしまうが、本発明の組合せオイルリングは合口隙間が閉塞されているため、オイルが燃焼室側に吸い上げられることを阻止されるためであると考えられる。
【符号の説明】
【0029】
1・・シリンダ、2・・ピストン、3・・ピストン外周面、4・・オイルリング溝、5・・シリンダ内周面、6・・リング溝底面、10・・組合せオイルリング、11・・オイルリング、12・・コイルエキスパンダ、13・・上側レール、14・・下側レール、15・・柱部、16,17・・外周面、18・・外周溝、19・・オイル孔、20・・内周溝、21・・ラッチピン、21a・・屈曲端部、22,23・・コイルエキスパンダ合口端面、24・・円周方向孔、25,26・・オイルリング合口端面、27・・合口隙間、28,29・・凹部、30・・樹脂製チューブ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オイルリングと、このオイルリングを半径方向外方に押圧付勢するコイルエキスパンダとからなる組合せオイルリングにおいて、前記コイルエキスパンダに挿通されているラッチピンの一端部が半径方向外側に屈曲されており、この屈曲された端部がコイルエキスパンダの隣り合う素線間の隙間を挿通してコイルエキスパンダから外側に突出し、オイルリングの合口隙間に配置していることを特徴とする組合せオイルリング。
【請求項2】
前記ラッチピンの屈曲端部の少なくとも一部分が他の部分よりも大きな幅を有していることを特徴とする請求項1記載の組合せオイルリング。
【請求項3】
前記ラッチピンの屈曲端部に樹脂製チューブが装着されていることを特徴とする請求項1又は2記載の組合せオイルリング。
【請求項4】
前記樹脂製チューブがフッ素樹脂から形成されていることを特徴とする請求項3記載の組合せオイルリング。
【請求項5】
前記オイルリングの合口端面と樹脂製チューブが接触していることを特徴とする請求項3又は4記載の組合せオイルリング。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−174562(P2011−174562A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−39757(P2010−39757)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(000215785)帝国ピストンリング株式会社 (80)
【Fターム(参考)】