説明

組成が均一で、かつ分子量分布が狭い熱可塑性樹脂およびその製造方法

本発明の一態様は、熱可塑性樹脂の製造方法に関し、その方法は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、芳香族ビニルモノマーおよび不飽和ニトリルモノマーを含む混合原料を、直列に連結された反応器中で、各反応器中での転換率が約40%以下になるように制御しながら連続して重合する段階を含む。本発明の他の態様は、その熱可塑性樹脂をマトリックスとして使用した透明ABS樹脂組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、組成が均一で、かつ分子量分布が狭い熱可塑性樹脂の製造方法に関する。さらに詳しくは、透明ABS樹脂のマトリックス樹脂のための、連続重合工程を用いた、組成が均一でかつ分子量分布が狭い熱可塑性樹脂の製造方法およびその熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂として使用した透明ABS樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
背景技術
一般に、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)樹脂は、構成成分であるスチレン、アクリロニトリル、およびブタジエンにより、加工性、剛性、耐薬品性および耐衝撃性などの物性バランスに優れており、さらに優れた外観特性を有する。したがって、ABS樹脂は、自動車、電気製品、事務機器、電子製品、玩具類、文具類などに広く用いられている。しかしながら、ABS樹脂は通常不透明であるために、透明性が要求される製品には適用できない。このため、透明性が要求される場合には、SAN(スチレン−アクリロニトリル)、PC(ポリカーボネート)、PS(ポリスチレン)、PMMA(ポリメチルメタクリレート)などの他の透明樹脂が主として用いられてきた。
【0003】
しかしながら、SAN、PSおよびPMMAは、透明性に優れ、値段が安いという長所を有しているものの、耐衝撃性に乏しく、その用途範囲に限界がある。ポリカーボネートの場合は、優れた透明性および耐衝撃性を有する反面、高価で、耐薬品性が良くないために、用途に限界がある。したがって、透明なABS樹脂を提供することにより耐衝撃性および透明性を同時に満たすため、透明ABS樹脂の開発が進められている。
【0004】
ABS樹脂を透明にするには、用いるゴム粒子の大きさを適宜調節することにより可視光線の領域で光の散乱を最小化する方法が知られている。他には、分散相(ゴム)の屈折率と連続相(マトリックス樹脂)の屈折率とを一致させ、連続相と分散相との間の界面で光の散乱および屈折を最小化する方法が知られている。
【0005】
韓国特許第0429062号、第0507336号、第0519116号、韓国特許出願公開第2006−016853号、米国特許第4767833号、米国特許出願公開第2006/0041062号、および特開2006−63127号公報では、分散相とマトリックス樹脂との屈折率差を0.005以内に調節することにより製造された透明ABS樹脂を開示している。しかしながら、前記特許で製造されたマトリックス樹脂は、転換率(Conversion)が95%以上であり、重合するモノマーの反応性が互いに異なるため、初期の重合段階に得られるポリマーの組成と最終の重合段階に得られるポリマーの組成とが異なる可能性がある。
【0006】
G.Odian(Principles of Polymerization 第4版 John wiley&Sons,2004)およびM.Hocking(J.of Polymer Science:Part A,vol. 34,pp,2481〜2497,1996)は、3つ以上のモノマーを含むモノマー混合物を使用して、ラジカル重合により製造したポリマーの組成を予測する方程式を提案した。モノマー混合物中の各モノマーの反応性の比を用いてポリマーの組成を予測するこれらの方程式は、共沸組成を除き、モノマーの組成とポリマーの組成とが同じにはならないことを示している。すなわち、反応速度が速いモノマーは急速にポリマーに転換されるから、重合の初期段階には反応速度の速いモノマー由来のポリマーが主として存在する。一方、重合が後の段階に進むに連れて、反応速度の遅いモノマー由来のポリマーが主に存在することになる。転換率が95%以上である場合は、投入したモノマーが大部分ポリマーに転換されるため、ポリマーの平均的な組成は、モノマーの組成と類似する。しかし、実際にはポリマーの製造時期によってポリマーは異なる組成を有すると予想される。このため、前記の特許により製造されたマトリックス樹脂の平均屈折率は分散相(ゴム)と一致するとしても、マトリックスの屈折率は部分的にはゴムのそれと異なるので、透明性に良くない影響を与える傾向がある。
【0007】
一方、従来技術では、多様な手法で製造したゴム粒子を使用することにより、透明ABS樹脂の衝撃強度を高めることを提案している。しかし、マトリックス樹脂の特性に依存する衝撃強度の改善方法については見出されていない。前記の技術により製造されるマトリックス樹脂は、一般に分子量分布が2.3を超えるが、分子量分布が広いほど低分子量のポリマーにより衝撃強度が低下する。
【0008】
したがって、本発明者は、均一な組成および狭い分子量分布を有する熱可塑性樹脂を製造する方法、および、これを透明ABS樹脂のマトリックス樹脂として用いることにより、透明性および衝撃強度を向上した透明ABS樹脂およびを開発した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】韓国特許第0429062号
【特許文献2】韓国特許第0507336号
【特許文献3】韓国特許第0519116号
【特許文献4】韓国特許出願公開第2006−016853号
【特許文献5】米国特許第4767833号
【特許文献6】米国特許出願公開第2006/0041062号
【特許文献7】特開2006−63127号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】G.Odian,Principles of Polymerization 第4版 John wiley&Sons,2004
【非特許文献2】M.Hocking,J.of Polymer Science:Part A,vol. 34,pp,2481〜2497,1996
【発明の概要】
【0011】
技術的課題
本発明の目的は、組成が均一で、かつ分子量分布が狭い熱可塑性樹脂の製造方法を提供することにあり、該熱可塑性樹脂はそれゆえに透明ABS樹脂のマトリックス樹脂に好適である。
【0012】
本発明の他の目的は、本発明により製造された熱可塑性樹脂を用いることにより、透明性および耐衝撃性に優れた透明ABS樹脂を提供することにある。
【0013】
本発明の他の目的および優位点は、以下の開示および添付の特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【0014】
技術的解決方法
本発明の一態様は、熱可塑性樹脂の製造方法を提供し、この方法は、直列に連結した反応器中の(メタ)アクリル酸アルキルエステル、芳香族ビニルモノマーおよび不飽和ニトリルモノマーを含む混合原料を、各反応器における転換率が約40%以下になるよう制御しながら連続して重合する段階を含む。
【0015】
本発明の実施の形態の一例では、前記直列に連結した反応器の数は約2〜6である。
【0016】
本発明の実施の形態の一例では、前記転換率は、反応温度、滞留時間、開始剤の種類および量により調節される。
【0017】
本発明の実施の形態の一例では、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、芳香族ビニルモノマー、不飽和ニトリルモノマーおよびこれらの混合物からなる群から選択されたモノマーを、各反応器の間にさらに投入する。
【0018】
本発明の実施の形態の一例では、前記混合原料は、モノマー混合物100重量部に対して、重合開始剤を約0.2重量部以下含む。
本発明の実施の形態の一例では、前記混合原料は、モノマー混合物100重量部に対して、溶媒を約20重量部以下含む。
【0019】
本発明の実施の形態の一例では、前記熱可塑性樹脂は、重量平均分子量が約60,000〜150,000であり、分子量分布が約2.3以下である。
【0020】
本発明の他の態様は、前記熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂として使用した透明ABS樹脂組成物を提供する。
【0021】
本発明の実施の形態の一例では、前記透明ABS樹脂組成物は、ゴム/メチルメタクリレート−スチレン−アクリロニトリルグラフト共重合体を含む。
【0022】
本発明の他の実施の形態の一例では、前記ゴム/メチルメタクリレート−スチレン−アクリロニトリルグラフト共重合体と前記熱可塑性樹脂との屈折率差が約0〜0.002である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
発明の実施のための最良の形態
(メタ)アクリル酸アルキルエステル、芳香族ビニル化合物および不飽和ニトリル化合物の混合物を連続して反応器に投入し、混合物を重合させるために反応器内で一定の滞留時間保持した後、生成したポリマーを連続して反応器の外部へ排出させる。
【0024】
上記のように少なくとも2の連続重合反応器を直列に連結し、反応速度の差のために直前の反応器で先に大量に消費されたモノマーを、重合反応に参与させるために反応器の間にさらに連続して追加する。これにより、各反応器で製造されるポリマーの組成を常に均一に維持することができる。
【0025】
前記反応器は、約2〜6つの連続重合反応器を直列に連結したものが好ましい。
前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーとしては、例えばメチルメタクリレート、エチルメタクリレート、2−エチルへキシルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルへキシルアクリレートなどが含まれる。
【0026】
前記芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレンなどが含まれる。
【0027】
前記不飽和ニトリル化合物としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどが含まれる。
【0028】
一方、各連続重合反応器中でモノマーからポリマーに転換される転換率は、約40%以下になるように制御することができる。転換率が40%を超えると、重合の初期段階で得られるポリマーの組成と重合の後の段階で得られるポリマーの組成が相違する可能性があり、平均屈折率が同じであっても、部分的にわずかな屈折率差が生じ、ABS樹脂の透明性を損なう結果となる可能性がある。転換率が15%未満であれば、ポリマーは均一な組成を有することができるが、経済的でないか、反応器または反応器の間に関与する装置の数が多くなるため望ましくない。したがって、前記転換率は各反応器において約15〜40%となるよう制御することが好ましい。
【0029】
各反応器における転換率を約40%以下に維持するためには、反応温度、滞留時間、および重合開始剤の種類および量を調節することができる。前記反応温度、滞留時間、重合開始剤の種類および量を調節するための方法は、本発明が属する分野における通常の知識を有する者には明らかである。
【0030】
本発明において重合開始剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソブチレート、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2−ビス(4,4−ジ−t−ブチルパーオキシシクロヘキサン)プロパン、t−へキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシ2−エチルへキシルモノカーボネート、t−へキシルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシアセテート、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジ−t−アミルパーオキサイドなどが含まれる。前記重合開始剤の使用量は、モノマー混合物100重量部に対して約0〜1重量部であり、好ましくは約0.01〜0.2重量部である。重合開始剤の使用量が1重量部を超えると、急激な重合反応により反応温度または滞留時間を制御することが難しくなり、得られるポリマーの分子量が小さくなることによって、衝撃強度が低下する可能性がある。
【0031】
本発明において、任意に溶媒を使用することができる。溶媒は、反応物の粘度を低くするために、モノマー100重量部に対して約20重量部以下の量で使用される。これにより、攪拌が円滑になり、分子量分布が狭い熱可塑性樹脂を製造するのに有利である。前記溶媒としては、例えばエチルベンゼン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族溶媒、メチルエチルケトン、アセトンなどを含む。
【0032】
本発明では、分子量調節剤を追加しても良い。前記分子量調節剤としては、CH(CHSHで表されるアルキルメルカプタンを使用することができる。例えば、n−ブチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタンなどを用いることができる。
【0033】
本発明の製造方法により製造される熱可塑性樹脂は、重量平均分子量が約60,000〜約150,000であり、分子量分布が約2.3以下である。前記熱可塑性樹脂の製造方法の特徴の一つは、各連続反応器内で同一の反応条件を維持して反応器別に得られるポリマーの分子量を均一にすることである。
【0034】
一般に、透明ABSの耐衝撃性は、その中で用いられるゴムの種類、大きさおよび形状などに大きく影響を受ける。同じゴムを用いる場合、耐衝撃性は透明ABS樹脂のマトリックスをなす熱可塑性樹脂の分子量および分子量分布に影響を受ける。前記熱可塑性樹脂の重量平均分子量が60,000を下回る場合は、耐衝撃性が低下する可能性がある。また、150,000を上回る場合は、流動性が低くなって、加工性が低下する可能性がある。重量平均分子量と数平均分子量との比(Mw/Mn)で定義される分子量分布が2.3より大きい場合は、同一の重量平均分子量でも分子量の低い樹脂が多量に製造される場合があり、耐衝撃性が低下する可能性がある。
【0035】
上記の連続重合により最終的に得られた熱可塑性樹脂は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル約50〜85重量部、芳香族ビニル化合物約10〜50重量部および不飽和ニトリル化合物約2〜15重量部を含む。
【0036】
前記製造された熱可塑性樹脂は、透明ABS樹脂組成物中で、マトリックス樹脂として使用することができる。
【0037】
本発明の実施の形態の一例において、前記透明ABS樹脂組成物は、前記熱可塑性樹脂と、ゴム/メチルメタクリレート−スチレン−アクリロニトリルグラフト共重合体とを含む。
【0038】
本発明の実施の形態の一例では、前記熱可塑性樹脂と、ゴム/メチルメタクリレート−スチレン−アクリロニトリルグラフト共重合体とをブレンドすることにより、透明ABS組成物を製造することができる。前記ゴムとしては、共役ジエン系ゴム、SBRゴム(スチレン−ブタジエンゴム)を使用することができる。
【0039】
本発明の実施の形態の一例では、前記透明ABS樹脂組成物は、約50〜90重量%の前記熱可塑性樹脂および約10〜50重量%のゴム/メチルメタクリレート−スチレン−アクリロニトリルグラフト共重合体を含む。
【0040】
前記熱可塑性樹脂と前記ゴム/メチルメタクリレート−スチレン−アクリロニトリルグラフト共重合体との屈折率差は、約0.008以下、好ましくは約0.004以下、更に好ましくは約0.002以下であり得る。屈折率差が0.008より大きい場合には得られる透明ABS樹脂の曇り度(haze)が増すことにより、透明度が低下する可能性がある。
【0041】
前記透明ABS樹脂は、日本電色社製ヘーズメーターにより測定した曇り度が約4.5以下であり、ASTM D−256に従って測定した1/8インチ厚さの試料のIzod衝撃強度が約13kgf・cm/cm以上であるものが、多様な用途に好ましい。
【0042】
本発明の実施の形態の一例では、前記透明ABS樹脂は、日本電色社製ヘーズメーターにより測定した曇り度が約0.1〜4.5を有し、ASTM D−256に従って測定した1/8インチ厚さの試料のIzod衝撃強度が約13〜35kgf・cm/cmを有する。
【0043】
本発明は、下記の実施例によって更によく理解することができる。下記の実施例は、本発明の説明のためのものであり、本発明の範囲を限定するものと解釈してはならず、本発明の範囲は添付された特許請求の範囲により定義される。以下の実施例において、特に指摘しない限り、部および%は重量基準である。
【0044】
発明の実施の形態
製造例1
スチレン15部、メチルメタクリレート80部、およびアクリロニトリル5部からなるモノマー混合物100部に対して、エチルベンゼン15部、ジ−t−アミルパーオキサイド0.03部、ジ−t−ドデシルメルカプタン0.2部を混合し原料とし、次いでこれを反応温度と攪拌の調節が可能な2リットルのステンレス反応器に連続して投入した。反応器中の反応物は、130℃で平均滞留時間が2時間になるように維持した後、連続的して結果物を排出させた。この際、反応器内におけるモノマー転換率を35%に制御した。排出した結果物は、連続して第2の反応器に投入し、同時にモノマー混合物100部に対してスチレン3.8部を連続して第2の反応器に投入した。第2の反応器の反応物は、130℃で平均滞留時間が2時間となるように維持した後、連続して生成物を排出した。この際、反応器内のモノマー転換率を35%となるよう制御し、最終転換率が70%になるようにした。第2の反応器から排出された最終生成物を220℃、20Torrに制御した液化器(devolatilizer)に連続投入して未反応モノマーと溶媒を除いた。次いで、ペレタイザーにより、ペレット状の熱可塑性樹脂を得た。メトリコン社製のプリズムカプラーにより測定した熱可塑性樹脂の屈折率は1.513、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した重量平均分子量は98,000であり、分子量分布は2.1であり、元素分析機により分析した熱可塑性樹脂の組成は、スチレン22%、アクリロニトリル3.5%、メチルメタクリレート74.5%であった。
【0045】
製造例2
製造例2では、スチレン32部、メチルメタクリレート58部、アクリロニトリル10部からなるモノマー混合物を使用し、第2の反応器に追加するスチレンを6部とした以外は、製造例1と同様にして製造した。熱可塑性樹脂の屈折率は1.533、重量平均分子量は95,000、分子量分布は2.2であり、熱可塑性樹脂の組成は、スチレン41%、アクリロニトリル7.5%、メチルメタクリレート51.5%であった。
【0046】
製造例3
製造例3では、スチレン21部、メチルメタクリレート73部、アクリロニトリル6部からなるモノマー混合物を用いた以外は、製造例1と同様にして製造した。熱可塑性樹脂の屈折率は1.520、重量平均分子量は98,000、分子量分布は2.2であり、熱可塑性樹脂の組成は、スチレン29%、アクリロニトリル4.2%、メチルメタクリレート66.8%であった。
【0047】
製造例4
スチレン18部、メチルメタクリレート77部、アクリロニトリル5部からなるモノマー混合物100部に対してエチルベンゼン15部、ジ−t−アミルパーオキサイド0.02部、およびジ−t−ドデシルメルカプタン0.1部を混合し原料とし、次いでこれを反応温度と攪拌の調節が可能な2Lのステンレス反応器に連続して投入した。反応器中の反応物を130℃で平均滞留時間が2時間になるように維持した後、連続して生成物を排出した。この際、反応器内におけるモノマー転換率が70%になるように制御した。生成物を220℃、20Torrに制御した液化器(devolatilizer)に連続投入して、未反応モノマーと溶媒とを除いた。その後、ペレタイザーによりペレット状の熱可塑性樹脂を得た。熱可塑性樹脂の屈折率は1.513、重量平均分子量は96,000、分子量分布は2.4であり、熱可塑性樹脂の組成は、スチレン22.5%、アクリロニトリル3.5%、メチルメタクリレート74%であった。
【0048】
製造例5
スチレン22部、メチルメタクリレート73部、およびアクリロニトリル5部からなるモノマー混合物100部に対して、蒸留水130部、ナトリウムラウリルサルフェート0.5部、および2−2’−アゾビスイソブチロニトリル0.3部を混合し原料とし、次いでこれを反応温度および攪拌の調節が可能な10リットルのステンレス反応器に投入した。原料は75℃で3時間重合させ、その後、80℃で1.5時間熟成した。生成物は2%硫酸水溶液を70℃で攪拌下に滴下して凝集させ、脱水し、洗浄しおよび、乾燥して粉末状の熱可塑性樹脂を得た。モノマー転換率は98.8%であった。上記のバッチプロセスにより得られた熱可塑性樹脂の屈折率は1.513、重量平均分子量は95,000、分子量分布は2.5であり、熱可塑性樹脂の組成は、スチレン22.3%、アクリロニトリル4.5%、メチルメタクリレート73.2%であった。
【0049】
製造例6
製造例6では、スチレン16部、メチルメタクリレート79部、およびアクリロニトリル5部からなるモノマー混合物を使用した以外は、製造例1と同様にして製造した。第1の反応器におけるモノマー転換率を50%、第2の反応器における転換率を20%、最終転換率が70%になるように制御した。3部のスチレンを第2の反応器に投入した。熱可塑性樹脂の屈折率は1.513、重量平均分子量は96,500、分子量分布は2.35であり、熱可塑性樹脂の組成はスチレン22%、アクリロニトリル3.5%、メチルメタクリレート74.5%であった。
【0050】
製造例7
製造例7では、スチレン28部、メチルメタクリレート67部、およびアクリロニトリル5部からなるモノマー混合物を使用した以外は、製造例5と同様にして製造した。モノマー転換率は98.5%であった。熱可塑性樹脂の屈折率は1.520、重量平均分子量は96,000、分子量分布は2.5であり、熱可塑性樹脂の組成はスチレン28.5%、アクリロニトリル4.5%、メチルメタクリレート67%であった。
【実施例】
【0051】
実施例および比較例
実施例1
製造例1で得られた熱可塑性樹脂65部に、屈折率が1.513であるブタジエンゴム/メチルメタクリレート−スチレン−アクリロニトリルグラフト共重合体35部、熱安定剤としてIRGANOX1076(CIBA−GEIGY社製)0.2部、および滑剤としてエチレンビスステアリン酸アミド0.1部を混合し、210℃の温度で溶融押出しして、ペレット状の透明ABSを製造した。この透明ABSを射出成形して試験片を製造し、この試験片の物性を測定した。測定結果は表1に示す。
【0052】
実施例2
実施例2では、製造例2で得られた熱可塑性樹脂65部と、屈折率が1.533であるSBRゴム/メチルメタクリレート−スチレン−アクリロニトリルグラフト共重合体35部とを使用した以外は、実施例1と同様にしてABSを製造した。物性は表1に示す。
【0053】
実施例3
実施例3では、製造例3で得られた熱可塑性樹脂65部と、屈折率が1.513であるブタジエンゴム/メチルメタクリレート−スチレン−アクリロニトリルグラフト共重合体35部とを使用した以外は、実施例1と同様にしてABSを製造した。物性は、表2に示す。
【0054】
比較例1
比較例1では、製造例4で得られた熱可塑性樹脂65部と、屈折率が1.513であるブタジエンゴム/メチルメタクリレート−スチレン−アクリロニトリルグラフト共重合体35部とを使用した以外は、実施例1と同様にしてABSを製造した。物性は表1に示す。
【0055】
比較例2
比較例2では、製造例5で得られた熱可塑性樹脂65部と、屈折率が1.513であるブタジエンゴム/メチルメタクリレート−スチレン−アクリロニトリルグラフト共重合体35部とを使用した以外は、実施例1と同様に行った。物性は表1に示す。
【0056】
比較例3
比較例3では、製造例6で得られた熱可塑性樹脂65部と、屈折率が1.513であるブタジエンゴム/メチルメタクリレート−スチレン−アクリロニトリルグラフト共重合体35部とを使用した以外は、実施例1と同様にしてABSを製造した。物性は表1に示す。
【0057】
比較例4
比較例4では、製造例7で得られた熱可塑性樹脂65部と、屈折率が1.513であるブタジエンゴム/メチルメタクリレート−スチレン−アクリロニトリルグラフト共重合体35部とを使用した以外は、実施例1と同様にしてABSを製造した。物性は、表2に示す。
【0058】
試験片の物性は、以下の方法に従って測定した。
【0059】
(1)Izod衝撃強度(kgf・cm/cm、1/8インチ):Izod衝撃強度は、ASTM D−256に従って測定した。
【0060】
(2)曇り度(%):曇り度は、3mm厚さの試験片を使用して、日本電色社製ヘーズメーターにより測定した。
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
表1に示すように、組成が均一で、かつ分子量分布の狭い熱可塑性樹脂をマトリックスとして使用した実施例1〜2の透明ABS樹脂は、優れた透明性および衝撃強度を示した。しかしながら、熱可塑性樹脂とゴム相との間に屈折率差がないにもかかわらず、組成の均一性が不十分で、かつ分子量分布の広い比較例1〜2の熱可塑性樹脂は、透明性および衝撃強度が劣ることが分かった。これは、1つの反応器のみを用いる連続工程またはバッチプロセスにより高転換率の熱可塑性樹脂を製造する場合には、重合の初期段階で得られるポリマーの組成と重合の最後の段階で得られるポリマーの組成とが異なる可能性があるためである。したがって、平均屈折率が同じであっても、部分的にわずかな屈折率差が生じ、ABS樹脂の透明性が低下する結果になる可能性がある。さらに、実施例と同レベルの重量平均分子量を有する広い分子量分布を有するポリマーでも低い数平均分子量を有する可能性があるために、比較例の衝撃強度が低下したのである。一つの反応器における転換率が40%を超える比較例3でも、屈折率差はないが、不十分な組成均一性と広い分子量分布のゆえに、実施例1〜2に比べて低い透明性および衝撃強度を示した。これは、熱可塑性樹脂の組成均一性が低く、分子量分布が広いためである。
【0064】
一方、屈折率差が0.007の場合である表2に示すように、組成が均一で、かつ分子量分布の狭い熱可塑性樹脂を使用した実施例3が、比較例4に比べて、より優れた透明性および衝撃強度を示した。これは、本発明の熱可塑性樹脂の組成が均一であるため、ゴム相との屈折率差による透明性の低下が最小化されたからである。
【0065】
以上の実施例および比較例は、本発明の製造方法により製造された熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂として使用した透明ABS樹脂は、良好な透明性および衝撃強度を有することの証拠を提供する。
【0066】
上記では、具体的な好ましい実施形態に基づいて本発明を詳細に説明したが、本発明は、添付の特許請求の範囲に定義された本発明の思想および範囲から逸脱することなく様々な変更や修正を加え得ることは、この分野における通常の知識を有する者にはあきらかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル、芳香族ビニルモノマーおよび不飽和ニトリルモノマーを含む混合原料を、直列に連結した反応器中で、各反応器中の転換率を約40%以下になるように制御しながら、連続して重合する段階を含むことを特徴とする熱可塑性樹脂の製造方法。
【請求項2】
前記直列に連結された反応器が、約2〜6の反応器を含むことを特徴とする、請求項1に記載の熱可塑性樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記各反応器中の転換率を、反応温度、滞留時間、重合開始剤の種類および量により制御することを特徴とする、請求項1に記載の熱可塑性樹脂の製造方法。
【請求項4】
前記各反応器中の転換率を、約15〜40%になるように制御することを特徴とする、請求項1に記載の熱可塑性樹脂の製造方法。
【請求項5】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル、芳香族ビニルモノマー、不飽和ニトリルモノマーおよびこれらの混合物からなる群から選択されたモノマーを各反応器の間にさらに追加することにより、各反応器で製造されるポリマーの組成を均一に維持することを特徴とする、請求項1に記載の熱可塑性樹脂の製造方法。
【請求項6】
前記混合原料が、モノマー混合物100重量部に対して、重合開始剤を約0.2重量部以下含むことを特徴とする、請求項1に記載の熱可塑性樹脂の製造方法。
【請求項7】
前記混合原料が、モノマー混合物100重量部に対して、溶媒を約20重量部以下含むことを特徴とする、請求項1に記載の熱可塑性樹脂の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法により製造された、重量平均分子量が約60,000〜150,000であり、かつ分子量分布が約2.3以下である熱可塑性樹脂。
【請求項9】
前記熱可塑性樹脂が、(メタ)アクリル酸アルキルエステル約50〜85重量部、芳香族ビニル化合物約10〜50重量部および不飽和ニトリル化合物約2〜15重量部を含むことを特徴とする、請求項8に記載の熱可塑性樹脂。
【請求項10】
請求項9に記載の熱可塑性樹脂を含有する透明ABS樹脂組成物。
【請求項11】
前記透明ABS樹脂組成物は、ゴム/メチルメタクリレート−スチレン−アクリロニトリルグラフト共重合体を含むことを特徴とする、請求項10に記載の透明ABS樹脂組成物。
【請求項12】
前記ゴム/メチルメタクリレート−スチレン−アクリロニトリルグラフト共重合体と前記熱可塑性樹脂との間の屈折率差が約0〜0.008であることを特徴とする、請求項11に記載の透明ABS樹脂組成物。
【請求項13】
前記ゴム/メチルメタクリレート−スチレン−アクリロニトリルグラフト共重合体と前記熱可塑性樹脂との間の屈折率差が約0〜0.002であることを特徴とする、請求項11に記載の透明ABS樹脂組成物。
【請求項14】
請求項8に記載の熱可塑性樹脂約50〜90重量%およびゴム/メチルメタクリレート−スチレン−アクリロニトリルグラフト共重合体約10〜50重量%を含み、日本電色社製ヘーズメーターにより測定した曇り度(haze)が約0.1〜4.5であり、ASTM D−256に従って測定した1/8インチ厚さの試料のIzod衝撃強度が約13〜35kgf・cm/cmであることを特徴とする透明ABS樹脂組成物。

【公表番号】特表2010−509427(P2010−509427A)
【公表日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−536143(P2009−536143)
【出願日】平成18年12月26日(2006.12.26)
【国際出願番号】PCT/KR2006/005695
【国際公開番号】WO2008/056849
【国際公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【出願人】(500005066)チェイル インダストリーズ インコーポレイテッド (263)
【Fターム(参考)】