組成物、保護/再生促進組成物、cAMP産生促進組成物、及び組成物
【課題】副作用が少なく、それぞれの組成物を単独で用いるよりもインスリン分泌を促進する糖尿病治療/肥満治療用の組成物を提供する。
【解決手段】GLP−1関連組成物とグレリン阻害組成物とを含有する組成物により、糖尿病及び/又は肥満を治療する。この糖尿病としては、主に2型糖尿病に用いることができる。また、GLP−1関連組成物とグレリン阻害組成物は、それぞれ単独で使用する用量よりも低い投与用量で使用可能である。
【解決手段】GLP−1関連組成物とグレリン阻害組成物とを含有する組成物により、糖尿病及び/又は肥満を治療する。この糖尿病としては、主に2型糖尿病に用いることができる。また、GLP−1関連組成物とグレリン阻害組成物は、それぞれ単独で使用する用量よりも低い投与用量で使用可能である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血糖値を正常に維持するための治療用組成物に係るものであり、特に糖尿病の治療又は予防用の組成物、膵臓ランゲルハンス島β細胞の保護/再生促進組成物、膵臓ランゲルハンス島β細胞のcAMP産生促進組成物、及び糖尿病及び/又は肥満を治療する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病には、小児期や若年期から発症する1型糖尿病と、主に成人になってから発症する2型糖尿病が知られている。
このうち、1型糖尿病は、先天的な自己免疫疾患であり、膵臓のランゲルハンス島(膵島)のβ細胞が破壊されて、血糖値を下げるペプチドホルモンであるインスリンの分泌が欠乏し、血糖値を下げることができなくなる代謝異常の疾病である。
2型糖尿病は、膵島β細胞は残存していることもあり得るが、インスリン分泌異常、インスリン抵抗性といった要因で、血糖値のコントロールがうまくいかず、長期的には動脈硬化、神経障害、網膜剥離、腎臓障害等の合併症を引き起こす疾病である。2型糖尿病は、遺伝的、潜在的な要因に加えて、偏食(過食)、ストレス、運動不足等の生活習慣(ライフスタイル)の影響により発病すると考えられている。そのうち、肥満が発症因子として重要である。
我が国の糖尿病の95%以上は2型糖尿病であり、国民的な疾病となっている。
【0003】
この2型糖尿病の治療薬として、従来より、インスリンの分泌を促進するスルフォニル尿素剤(SU剤)、インスリン製剤等が用いられてきた。
このうち、SU剤は、膵島β細胞を刺激して、インスリンを分泌させる働きにより、血糖値を下げる作用がある。また、インスリン製剤も、注射することで血中のインスリン濃度を上げて血糖値を下げることができる。
しかしながら、SU剤は、膵島β細胞を刺激して疲弊させる副作用が存在するという問題があった。
また、SU剤、インスリン製剤とも、血漿インスリン濃度が必要以上に上昇し、低血糖を引き起こすという副作用があった。
低血糖の状態は患者の死を招くこともあり、より副作用の少ない治療薬が求められていた。
【0004】
そこで、非特許文献1を参照すると、次世代の2型糖尿病の治療薬として、GLP−1のアナログが注目されている。GLP−1はグルカゴン様ペプチド(glucagon−like peptide)のことで、ヒトの消化管の粘膜から分泌されるペプチドホルモンである。
【0005】
まず、図17を参照して、このGLP−1の作用について説明する。通常、膵島β細胞は、血糖値が上がる、すなわち血中のグルコースの濃度が上がると、インスリンの分泌が促進されて血糖値を下げる。
より詳しく説明すると、まず、食事摂取により小腸から吸収されたグルコースが、膵臓の膵島β細胞を刺激してインスリン分泌を起こす。それと同時に、小腸からGLP−1が分泌され、膵島のβ細胞を刺激して、インスリン分泌を増強する。
GLP−1の分泌は食事により刺激され、さらにその作用は食後の血糖値が上昇した状態で強く、食前の血糖値の低い状態では弱い。すなわち、GLP−1は、食後のグルコース誘発インスリン分泌を促進する因子である。
【0006】
ところが、2型糖尿病患者においては、このグルコース誘発インスリン分泌が低下していることが多い。
すなわち、2型糖尿病の患者では、膵島β細胞のグルコース受容が障害されており、その結果、十分な量のインスリン分泌が起こらない。
そこで、膵島β細胞のインスリン分泌を促進するGLP−1を治療薬として用いることが考えられている。
しかしながら、生体内のGLP−1は、食物の消化に伴い消化管から分泌されるものの、通常、体内のGLP−1は、産生からわずか1〜2分で分解酵素により分解されてしまう。
【0007】
このため、GLP−1を治療薬として使用するために、化学的に修飾して、長時間作用させるGLP−1アナログが開発されている。
また、GLP−1の体内濃度を保つため、体内のGLP−1を分解する分解酵素であるジペプチジルペプチターゼ(DPP)4の働きを抑えるDPP4阻害剤についても、開発が進んでいる。
【0008】
一方、特許文献1を参照すると、従来、胃から分泌されて摂食を亢進する内分泌物質として知られてきたペプチドホルモンのグレリン(Ghrelin)が、膵島β細胞にも存在し、インスリンの分泌を抑制していることが分かってきた。
【0009】
ここで、図18を参照して、より詳しくグレリンの作用について説明する。
図18は、2型糖尿病のモデルのラットに高脂肪食を与えたときの、予防・治療の概念を示す図である。
まず、グレリン阻害組成物を与えていない場合には、高脂肪食が与えられたラットではインスリンに対する抵抗性を生じ、それを乗り越えるまでにはインスリン分泌が増加しないために、血糖値が上昇し、耐糖能障害が生じ、2型糖尿病を発症する。
それに対して、グレリン阻害組成物を与えた場合には、高脂肪食が与えられたラットではインスリンに対する抵抗性は上がるものの、グレリンが阻害されることによってインスリンの分泌量が上昇する。これにより、結果的に、血糖値も上昇しないため、正常状態を維持できる。
このように、グレリンに特異的な抗体のようなグレリン阻害組成物によって、インスリン分泌のブレーキが解除され、インスリン分泌が促進されると考えられる。
【0010】
上述のように、グレリンはインスリン分泌を抑制するホルモンであるため、内在性グレリン阻害組成物を投与すると、投与対象においてインスリン分泌が増加し血糖値を低下させることができる。
つまり、図18の概念図によれば、グレリン阻害組成物を与えてグレリンの働きを抑制すると、インスリンの分泌が促進されて、血糖値が下がると理論的に考えられる。このため、2型糖尿病治療用組成物として有効である。
よって、グレリン阻害組成物により、GLP−1アナログやDPP4阻害剤と同様のインスリン分泌促進効果を得ることが期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2008−127377号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Knudsen et al.、J Med Chem 2000、43、1664−9
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、GLP−1アナログやDPP4阻害剤のようなGLP−1関連組成物は、従来の2型糖尿病治療組成物(SU剤)に比べ、低血糖発作の副作用が少ないが皆無ではなく、かなりの頻度で嘔吐などの副作用を起こしていた。
また、GLP−1関連組成物は、比較的インスリン分泌促進及び血糖降下作用が弱いため、治療用組成物としての適用が、比較的軽度の2型糖尿病に限られていた。
一方、グレリン阻害組成物は、インスリン分泌を促進することで2型糖尿病を抑える効果が考えられるものの、その作用機構はインスリン分泌の抑制を阻害するものなので、治療用組成物として使用しても効果が比較的弱いと推察されていた。
【0014】
このため、副作用を抑えて治療効果が高い、2型糖尿病の治療に用いることができる治療用の組成物が求められていた。
【0015】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、上述の課題を解消することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の組成物は、GLP関連組成物とグレリン阻害組成物とを含有する、糖尿病及び/又は肥満を治療する組成物であることを特徴とする。
本発明の組成物は、前記糖尿病は2型糖尿病であり、前記GLP−1関連組成物及び/又はグレリン阻害組成物は、成人における投与用量より低い濃度であることを特徴とする。
本発明の組成物は、前記グレリン阻害組成物及び前記GLP−1関連組成物の併用により膵臓ランゲルハンス島β細胞のcAMP産生量を増やすことを特徴とする。
本発明の組成物は、前記GLP関連組成物がGLP−1である場合は、1日投与用量が0.1nmol/kg体重〜0.3nmol/kg体重であることを特徴とする。
本発明の組成物は、前記GLP関連組成物がGLP−1アナログのExenatideである場合は、成人における1日投与用量が1μg〜6μgであることを特徴とする。
本発明の組成物は、前記GLP関連組成物がGLP−1アナログのLiraglutideである場合は、成人における1日投与用量が0.1mg〜0.3mgであることを特徴とする。
本発明の組成物は、前記グレリン阻害組成物が[D−Lys3]−GHRP−6である場合に、1日投与用量は0.1μmol/kg体重〜0.3μmol/kg体重であることを特徴とする。
本発明の膵臓ランゲルハンス島β細胞の保護/再生促進組成物は、前記組成物を含むことを特徴とする。
本発明の膵臓ランゲルハンス島β細胞のcAMP産生促進組成物は、前記組成物を含むことを特徴とする。
本発明の組成物は、GLP関連組成物、及びグレリン阻害組成物又はKv2.1チャネル阻害組成物のいずれかを含有することを特徴とする。
本発明の組成物は、前記Kv2.1チャネル阻害組成物は、Stromatoxin又はguangxitoxin−1Eであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、GLP−1関連組成物と内因性グレリン阻害組成物を併用することで、それぞれ単独で使用する場合に比べて、副作用を低減し、血糖降下作用を増強し、それぞれの組成物の濃度を低く処方できる治療用組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態の実施例1に係る正常ラット膵島におけるGLP−1関連組成物及びグレリン阻害組成物の併用によるインスリン分泌の実験結果を示すグラフである。
【図2】本発明の実施の形態の実施例2に係る2型糖尿病モデルGKラットの膵島におけるGLP−1関連組成物及びグレリン阻害組成物の併用によるインスリン分泌の実験結果を示すグラフである。
【図3】本発明の実施の形態の実施例3に係るGKラットに対する糖負荷試験の実験結果を示すグラフである。
【図4】本発明の実施の形態の実施例4に係る正常ラット膵島におけるGLP−1関連組成物によるcAMP産生に対するグレリンの抑制効果を示すグラフである。
【図5】本発明の実施の形態の実施例5に係るGKラット膵島におけるGLP−1関連組成物及びグレリン阻害組成物の併用によるcAMP産生の実験結果を示すグラフである。
【図6】本発明の実施の形態の実施例6に係る正常ラットおよび2型糖尿病GKラット血中グレリン濃度と血糖値の測定の実験結果を示すグラフである。
【図7】本発明の実施の形態の実施例7に係る正常ラットおよび2型糖尿病GKラットの膵島mRNA発現量の測定結果を示すグラフである。
【図8】本発明の実施の形態の実施例8に係る正常ラットにGLP−1を投与した際の膵島β細胞内Ca2+濃度([Ca2+]i)の蛍光顕微鏡画像解析法による測定結果を示すグラフである。
【図9】本発明の実施の形態の実施例8に係る正常ラットにGLP−1とグレリンとを投与した際の膵島β細胞内Ca2+濃度([Ca2+]i)の蛍光顕微鏡画像解析法による測定結果を示すグラフである。
【図10】本発明の実施の形態の実施例8に係るグレリン作用の濃度−反応曲線を比較した結果を示すグラフである。
【図11】本発明の実施の形態の実施例9に係る膵島におけるKv2.1チャネルのmRNA発現量をリアルタイムRT−PCR法によって測定した結果を示すグラフである。
【図12】本発明の実施の形態の実施例に係るグレリンとKv2.1チャネルとの関係を示す概念図である。
【図13】本発明の実施の形態の実施例10に係る2型糖尿病GKラットへのグレリン阻害組成物の浸透圧ポンプによる持続投与の際の血糖値測定結果を示すグラフである。
【図14】本発明の実施の形態の実施例10に係る2型糖尿病GKラットへのグレリン阻害組成物の浸透圧ポンプの埋め込み後の血糖値の平均を示すグラフである。
【図15】本発明の実施の形態の実施例11に係る2型糖尿病GKラットに対する糖負荷試験の実験結果を示すグラフである。
【図16】本発明の実施の形態の実施例11に係る2型糖尿病GKラットに対する糖負荷試験の血糖値とインスリン値を示すグラフである。
【図17】従来のGLP−1及び関連組成物の膵島β細胞でのインスリン分泌促進を示す概念図である。
【図18】従来のグレリン阻害組成物による2型糖尿病の予防または治療の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<実施の形態>
上述したように、GLP−1は、食事摂取により小腸から分泌されインスリン分泌を起こすペプチドホルモンである。GLP−1の長時間持続型アナログおよびGLP−1分解酵素(DDP)阻害剤は、2型糖尿病治療薬として米国ですでに臨床使用されている。
一方、グレリンは、インスリン分泌を抑制するホルモンである。動物実験において、内在性グレリンを阻害すると、インスリン分泌が増加し血糖値が低下するため、2型糖尿病治療に有効であることが分かった。
本発明の発明者は、従来のSU剤やインスリン製剤に代わるいくつかの治療用組成物について検討を重ねてきた。この際に、GLP−1関連組成物や、内因性グレリン阻害組成物についても、それぞれ、臨床応用について検討を行い、有効性の基礎的データを得た。
【0020】
ここで、GLP−1関連組成物は、膵島β細胞に働きかけてインスリン分泌を促進するという働きをするが、グレリン阻害組成物は、インスリン分泌の「抑制を阻害」するという働きがある。これらの二つの方法は、従来、単独で使用しても、SU剤に比して効果が低いという問題があった。また、効果を高めるためにGLP−1関連組成物を多量に処方して使用すると、吐き気や重篤な低血糖等の副作用があるということが分かった。
このため、通常、働きが弱い薬剤を同時に投与することは当業者にとって想定外であり、GLP−1関連組成物とグレリン阻害組成物を同時に投与することは全く考えられていなかった。
【0021】
ところが、本発明の発明者は、GLP−1関連組成物とグレリン阻害組成物を併用して投与することで、当業者が想定していなかった顕著な効果が得られることを発見し、本発明の実施の形態に係る糖尿病治療用組成物を発明するに至った。
【0022】
本発明の実施の形態に係る糖尿病治療用組成物は、GLP−1関連組成物とグレリン阻害組成物をそれぞれ単独で使用するよりも、大幅に血糖値を低下させる効果が得られる。このため、吐き気や重篤な低血糖のような副作用をもたらさない濃度にて、糖尿病治療用組成物として使用することができる。
また、GLP−1関連組成物とグレリン阻害組成物を併用することで、効果的な摂食抑制作用が得られ、抗肥満効果も期待できる。
【0023】
より具体的に説明すると、本発明の実施の形態に係る治療用組成物は、既に報告されているGLP−1関連組成物を用いているものの、このGLP−1関連組成物を低濃度で処方することによって副作用を低減させる効果を有する組成物を提供する。
すなわち、GLP−1関連組成物と内在性グレリン阻害組成物とを組み合わせて併用した組成物は、2型糖尿病の患者にとって、副作用を軽減させて低血糖を起こさない安全な組成物としての治療用組成物として使用できる。
【0024】
グレリン阻害によるインスリン分泌促進と組み合わせることにより、GLP−1、GLP−1アナログ、DPP4阻害剤のインスリン分泌促進・血糖降下作用を高める。
グレリン阻害によるインスリン分泌促進と組み合わせることにより、GLP−1アナログのより低い臨床使用濃度で同様のインスリン分泌促進・血糖降下作用が得られ、嘔吐、低血糖発作などの副作用が回避できる。
【0025】
また、本発明の実施の形態において用いられるGLP−1関連組成物としては、例えば、上述したGLP−1の他、GLP−1アナログ、GLP−1分解酵素(DPP4)阻害剤等を用いることができる。
このGLP−1の長時間持続型アナログとしては、例えば、Exenatide(合成exendin−4、イーライリリー社製)、Liraglutide(GLP−1脂肪酸修飾、ノボノルディスクファーマ社製)等が挙げられる。
【0026】
また、本発明の実施の形態において用いられるGLP−1関連組成物としては、上述したように、GLP−1分解酵素(DPP4)阻害剤についても用いることができる。このDPP4阻害剤としては、Sitagliptin(製品名:Januvia、万有製薬社製)、Vildagliptin(製品名:Galvus、ノバルティスファーマ社製)等を用いることができる。
【0027】
また、本発明の実施の形態において用いられるGLP−1関連組成物は、上述したように、GLP−1関連組成物を単独で用いて、インスリン分泌を促す等の作用を奏するための、成人における投与用量は、GLP−1アナログの場合、Exenatideでは1回5μgか10μgを1日2回、Liraglutideでは1日1回0.9mg投与であり、副作用として嘔吐・悪心・胃部不快感を起す頻度が約5〜9%と報告されている。また、重篤な低血糖とそれに伴う神経症状等の副作用も報告されている。
このため、本発明の実施の形態において用いられるGLP−1関連組成物は、例えば、GLP−1アナログの場合は成人における投与量の1/6〜1/3で、糖尿病治療効果はあるが吐き気や重篤な低血糖等の副作用を起こさないか頻度の極めて少ない投与量を用いることができる。
【0028】
また、本発明の実施の形態において用いられる内在性グレリン阻害組成物は、グレリン阻害剤、グレリン受容体阻害剤等を用いることができる。
例えば、グレリン阻害剤としては、内在性グレリンに結合してグレリンの作用を阻害する中和抗体等が挙げられる。
また、グレリン受容体阻害剤としては、例えば、[D−Lys3]−GHRP−6等があるものの、より特異性の高いグレリン受容体阻害分子を用いることができる。
このグレリン受容体阻害剤としては、例えば [D−Lys3]−GHRP−6の場合、マウスにおける1日投与用量として濃度0.1μmol/kg〜0.3μmol/kg体重といった、副作用を起こさない用量を用いることができる。マウスとヒトで、グレリン投与の血糖値に対する効果はほぼ同様であり、またグレリン血漿濃度の差は数倍以内であるので、マウスで明らかとなった上記濃度のグレリン受容体阻害剤[D−Lys3]−GHRP−6の効果はヒトに適用することができると考えられる。また、グレリン受容体阻害剤の種類によっては、GLP−1関連組成物と併せて処方することで、濃度0.1μmol/kgよりもさらに少ない投与量を用いることも可能である。
【0029】
本発明の実施の形態に係る治療用組成物は、任意の製剤上許容しうる担体(例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液、例えばD−ソルビトール、D−マンノース、D−マンニトール、塩化ナトリウム等が挙げられ、適当な溶解補助剤、例えばアルコール、具体的にはエタノール、ポリアルコール、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、非イオン性界面活性剤、例えばポリソルベート80(TM)、HCO−50等を挙げることができるが、それらに限定されない)と共に投与することができる。また、適切な賦形剤等を含んでもよい。
【0030】
また、本発明の実施の形態に係る治療用組成物は、製剤上許容しうる担体を調製するために、適切な薬学的に許容可能なキャリアを含み得る。
このキャリアとしては、シリコーン、コラーゲン、ゼラチン等の生体親和性材料を含んでもよい。あるいはまた、種々の乳濁液であってもよい。
さらには、例えば、希釈剤、香料、防腐剤、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、結合剤、乳化剤、可塑剤などから選択される1または2以上の製剤用添加物を含有させてもよい。
【0031】
本発明の実施の形態に係る治療用組成物は、経口投与のための投与に適した投与形態において、当該分野で周知の製剤上許容しうる担体を用いて処方され得る。
本発明の実施の形態に係る医薬組成物の投与経路は、特に限定されないが、非経口的に投与することが好ましい。
非経口投与としては、例えば、静脈内、動脈内、皮下、真皮内、筋肉内または腹腔内の投与が挙げられる。
【0032】
本発明の実施の形態の治療用組成物は、生物体、生物体の体内の一部分、または生物体より摘出または排出されたその一部分について、治療用の対象とすることができる。この生物体は特に限定されるものではないが、動物(例えば、ヒト、家畜動物種、野生動物)を含む。
【0033】
また、本発明の実施の形態に係る治療用組成物の治療対象としては、主に2型糖尿病に用いることができる。これは、上述したように、2型糖尿病においては、膵島β細胞が残存していることが多いため、膵島β細胞のインスリン分泌能力を向上させることで、糖尿病を治療可能であるためである。
しかしながら、本発明の実施の形態係る治療用組成物は、インスリン分泌の負担による膵島β細胞のアポトーシスや機能不全を抑制する。これは、予備的な実験により、GLP−1関連組成物には膵島β細胞保護・再生促進作用があり、これらの作用はグレリン阻害組成物の低濃度の併用により増強されるためと考えられる。
このため、1型糖尿病についても、GLP−1関連組成物による膵島β細胞保護・再生促進作用をグレリン阻害組成物の併用により増強することにより、病気の進行を抑制しさらには改善することが想定できる。さらに、1型糖尿病の膵島移植、膵島β細胞の幹細胞治療等においても、インスリン分泌を促進しながら膵島β細胞の負担を抑えて、短期的、長期的に治療効果を高め、効果的に用いることが考えられる。
さらに、本発明の実施の形態係る治療用組成物は、予備的な実験により、副作用がほとんどない濃度で用いた場合でも、効果的な食欲抑制作用を得ることができる。
このため、特に2型糖尿病に至る肥満(メタボリック・シンドローム)の予防、治療等に用いることもできる。
【0034】
また、本発明の実施の形態に係る治療用組成物を上述の治療に用いるために、投与間隔および投与量は、疾患の状況、さらに対象の状態などの種々の条件に応じて適宜選択および変更することが可能である。
ここで、2型糖尿病を予防または治療する場合には、血糖値を改善する投与用量を用いることができる。これらの用量は、予備的な実験においては、通常の成人における投与用量の1/6〜1/3程度でよく、GLP−1関連組成物で報告されている吐き気や重篤な低血糖等の副作用を抑えて効果的に使用可能である。
【0035】
本発明の実施の形態に係る治療用組成物の1回の投与量および投与回数は、投与の目的により、さらに患者の年齢および体重、症状および疾患の重篤度などの種々の条件に応じて適宜選択および変更することが可能である。
投与回数および期間は、1日1回約2〜4週間程度投与し、糖尿病の状態をモニターし、その状態により再度あるいは繰り返し投与を行う。
【0036】
本発明の実施の形態に係る組成物は、他の組成物等と併用することも可能である。また、他の組成物と同時に本発明の組成物を投与してもよく、また間隔を空けて投与してもよいが、その投与順序は特に問わない。
【0037】
また、本発明の実施の形態において、疾患が改善または軽減される期間は特に限定されないが、一時的な改善または軽減であってもよいし、一定期間の改善または軽減であってもよい。
【0038】
また、本発明の実施の形態に係る組成物として、Kv2.1チャネルの阻害剤を更に用いて、グレリン阻害組成物の効果を高めることができる。このKv2.1チャネルの阻害剤としては、例えば、クモ毒でありA型カリウムチャネルをブロックするStromatoxinを用いることができる。また、GLP−1関連組成物とKv2.1チャネル阻害剤の組み合わせを用いることもできる。
これにより、治療用組成物の濃度を低くしても、同様の効果を得ることができる。
【0039】
〔本発明の実施の形態に係る治療用組成物の実施例〕
以下で、本発明の実施の形態に係る治療用組成物について、具体的な実験を基にして、実施例としてさらに具体的に説明する。しかしながら、この実施例は一例にすぎず、これに限定されるものではない。
以下の実施例1〜5においては、本発明の実施の形態に係るGLP−1関連組成物としては、GLP−1を用いた。また、内在性グレリン阻害組成物としては、グレリン受容体阻害剤[D−Lys3]−GHRP−6を用いた。
【実施例1】
【0040】
(正常ラット膵島におけるインスリン分泌)
正常ラット膵島におけるインスリン分泌に対する内在性グレリン阻害組成物及び/又はGLP−1関連組成物の影響を調査した。8−12週齢の正常なウィスターラットから膵島をコラゲナーゼ消化法により分離し、分離した膵島を集め、2.8mM又は8.3mMのグルコースの存在下で、KRBH(129mMのNaCl,5.0mMのNaHCO3,4.7mMのKCl,1.2mMのKH2PO4,2.0mMのCaCl2,1.2mMのMgSO4,10mMのHEPES,pH=7.4,0.1%のBSA)中で37℃、1時間培養した。さらに、8.3mMのグルコースの存在下では、10nMのGLP−1及び1μMの[D−Lys3]−GHRP−6を各々単独、若しくは併用して使用した。それぞれの群におけるインスリン濃度は、ELISAキット(和光純薬工業(株))を用いて測定した。
【0041】
図1を参照して、正常ラット膵島のインスリン分泌測定例を示す。縦軸は、インスリン分泌量(Insulin release (ng/islet/hr))を示す。横軸は、左側から、グルコース2.8mMのみ投与した群、グルコース8.3mMのみ投与した群、グルコース8.3mMの存在下において内在性グレリン阻害組成物のみ作用した群、グルコース8.3mMの存在下においてGLP−1関連組成物のみ作用した群、グルコース8.3mMの存在下において内在性グレリン阻害組成物及びGLP−1関連組成物を併用して作用した群を示す。棒グラフの真上の数字は、実験に用いたラットの各群におけるサンプル数を示す。なお、1サンプルには、単離した膵島7−10個を含む。
【0042】
図1より、正常ラット膵島では、グルコースを投与するとインスリン分泌量が上昇した。そして、グルコース8.3mMのみ投与した群と比較して、内在性グレリン阻害組成物又はGLP−1関連組成物を各々単独で処方させた場合において、インスリン分泌は増強していた(t−検定にて、各々グルコース8.3mMのみ投与した群に対してp<0.05。以下、t−検定を用いて説明する)。
さらに、内在性グレリン阻害組成物又はGLP−1関連組成物を各々単独で処方させた群よりも、内在性グレリン阻害組成物及びGLP−1関連組成物を併用して作用させた群の方がインスリン分泌が増強していた(グルコース8.3mMの存在下においてGLP−1関連組成物のみ作用した群に対してp<0.05)。
すなわち、内在性グレリン阻害組成物及びGLP−1関連組成物を併用して作用させた場合には、有意にインスリン分泌量が上昇することから、今まで単独で用いていた処方量よりも、より少ない量で薬効を得ることができると解される。
このように、正常な対象において、本発明の実施の形態に係る治療用組成物は、2型糖尿病に対する予防または治療効果が認められる。
【実施例2】
【0043】
(2型糖尿病GKラット膵島におけるインスリン分泌)
2型糖尿病Gotoh−Kakizaki(GK)ラット膵島におけるインスリン分泌に対する内在性グレリン阻害組成物及び/又はGLP−1関連組成物の影響を調査した。実施例1に記載の正常ラット膵島におけるインスリン分泌と同様の条件を用いて実験を行った。2型糖尿病GKラットとは、インスリン非依存型糖尿病である2型糖尿病を発症するモデルラットとして確立された系統のラットである。
【0044】
図2を参照して、2型糖尿病GKラット膵島のインスリン分泌測定例を示す。縦軸は、インスリン分泌量(Insulin release (ng/islet/hr))を示す。横軸は、左側から、グルコース2.8mMのみ投与した群、グルコース8.3mMのみ投与した群、グルコース8.3mMの存在下において内在性グレリン阻害組成物のみ作用した群、グルコース8.3mMの存在下においてGLP−1関連組成物のみ作用した群、グルコース8.3mMの存在下において内在性グレリン阻害組成物及びGLP−1関連組成物を併用して作用した群を示す。棒グラフの真上の数字は、実験に用いたラットの各群におけるサンプル数を示す。
【0045】
図2より、正常ラット膵島と同様に、2型糖尿病GKラット膵島でも、グルコースを投与するとインスリン分泌量が上昇した。そして、グルコース8.3mMのみ投与した群と比較して、内在性グレリン阻害組成物又はGLP−1関連組成物各々単独で処方させた場合において、インスリン分泌は増強していた(各々グルコース8.3mMのみ投与した群に対してp<0.01及びp<0.001)。さらに、内在性グレリン阻害組成物又はGLP−1関連組成物を各々単独で処方させた群よりも、内在性グレリン阻害組成物及びGLP−1関連組成物を併用して作用させた群の方がインスリン分泌が増強していた(グルコース8.3mMの存在下において内在性グレリン阻害組成物のみ作用した群に対してp<0.01)。
このように内在性グレリン阻害組成物及びGLP−1関連組成物を併用して作用させた場合には、有意にインスリン分泌量が上昇することから、今まで単独で用いていた処方量よりもより少ない量で薬効を得ることができると共に、2型糖尿病を治療するための組成物として用いることも可能であることを示すことができた。
【実施例3】
【0046】
(2型糖尿病GKラットへの糖負荷試験)
2型糖尿病GKラットの腹腔内への糖負荷試験(IPGTT)を行い、対象に急性の糖負荷をかけた際の内在性グレリン阻害組成物及び/又はGLP−1関連組成物の影響を調査するために、血糖値及びインスリン分泌の測定を行った。
全ての実験群の2型糖尿病GKラットには、一晩絶食させた後、1gグルコース/kg体重を腹腔内に投与し、その他の物質を投与しないControl群、0.3μmol/kg体重の[D−Lys3]−GHRP−6を投与した群、0.3nmol/kg体重のGLP−1を投与した群、0.3μmol/kg体重の[D−Lys3]−GHRP−6及び0.3nmol/kg体重のGLP−1を併用して投与した群の調査を行った。尾静脈より採血を行いグルコース濃度及びインスリン濃度をそれぞれ測定した。インスリン濃度の測定は、ELISAキット(和光純薬工業(株)社製)を用い、グルコース濃度の測定は、グルコカードDIAメーター(GlucoCard DIA meter、Arkray社製)を用いた。
【0047】
図3Aを参照して、2型糖尿病GKラットの血糖値の測定例を示す。縦軸は、血糖値(Blood glucose(mg/dl))を示す。横軸は、経過時間(Time(min))を示す。図3Aより、全ての実験群において糖負荷後30〜60分で各群の血糖値はピークに達した。そして、120分経過した時には、コントロールや内在性グレリン阻害組成物又はGLP−1関連組成物を各々単独で処方させた群よりも、内在性グレリン阻害組成物及びGLP−1関連組成物を併用して作用させた群は有意に血糖値が減少していた(Control群に対してp<0.05)。これにより、内在性グレリン阻害組成物及びGLP−1関連組成物を併用して作用させた場合には、より早く血糖値を正常値に戻すことができるため、2型糖尿病を治療するための組成物として効果が高いことが示された。
また、図3Bを参照して、2型糖尿病GKラットのインスリン分泌の測定例を示す。縦軸は、インスリン分泌量(Insulin release (ng/ml))を示す。横軸は、経過時間(Time(min))を示す。図3Bより、糖負荷後15〜30分で全ての群のインスリン分泌量は増加した。その中で、コントロールや内在性グレリン阻害組成物又はGLP−1関連組成物を各々単独で処方させた群よりも、内在性グレリン阻害組成物及びGLP−1関連組成物を併用して作用させた群において有意にインスリン分泌量が増加していた(Control群に対してp<0.05)。これは、内在性グレリン阻害組成物及びGLP−1関連組成物を併用して作用させた場合には、図3Bで示したようにインスリン分泌量が有意に増加することに対応して、図3Aで示したように血糖値が有意に減少したと解される。
このように、内在性グレリン阻害組成物及びGLP−1関連組成物を併用して作用させた場合には、有意にインスリン分泌量が増加して、血糖値が元に戻る時間が短くなった。したがって、本発明の実施の形態に係る治療用組成物は、今まで単独で内在性グレリン阻害組成物又はGLP−1関連組成物を処方していた場合よりも、2型糖尿病を治療するための組成物としての高い薬効を得ることができることが示された。
【実施例4】
【0048】
(正常ラット膵島におけるcAMP産生)
正常ラット膵島におけるcAMP(Cyclic adenosine monophosphate)産生に対するGLP−1関連組成物及び/又はグレリン(Ghrelin)の影響を調査した。膵島の培養は、実施例1に記載の正常ラット膵島におけるインスリン分泌と同様に、8−12週齢の正常なウィスターラットから膵島をコラゲナーゼ消化法により分離し、分離した膵島を集め、ホスホジエステラーゼ阻害剤のIBMX(0.5mM)存在下で2.8mM又は8.3mMのグルコースを含むKRBH中で37℃、1時間インキュベートした。さらに、8.3mMのグルコースの存在下では、10nMのGLP−1のみ、並びに10nMのGLP−1及び10nMのグレリン(Ghrelin)とを併用して作用した。各群におけるcAMP産生量は、cAMP測定EIAキット(アマシャム社製)を用いて測定した。
【0049】
図4を参照して、正常ラット膵島のcAMP量の測定例を示す。縦軸は、cAMP量(cAMP fmol/islet/hr)を示す。横軸は、左側から、グルコース2.8mMのみ投与した群、グルコース8.3mMのみ投与した群、グルコース8.3mMの存在下においてGLP−1関連組成物のみ作用した群、グルコース8.3mMの存在下においてGLP−1関連組成物及びグレリンを併用して作用した群を示す。実験に用いたラットの個体数は、各群において9サンプルである(n=9)。
【0050】
図4より、GLP関連組成物を作用した群は、有意にcAMP産生が上昇していた(グルコース8.3mMのみ投与した群に対してp<0.01)。また、GLP−1関連組成物を単独で作用した群よりも、GLP−1関連組成物及びグレリンを併用して作用した群の方がcAMP産生が抑制されていた(グルコース8.3mMの存在下においてGLP−1関連組成物のみ作用した群に対してp<0.01)。
細胞内cAMP産生が増加するとインスリン分泌が促進されることが既に知られているが、そのcAMP産生を制御する上流因子として、GLP−1及びグレリンが関与していることが分かった。すなわち、GLP−1関連組成物はcAMP産生量を上昇させ、グレリンはcAMP産生量を抑制する(グレリン阻害組成物はcAMP産生量を上昇させる)という細胞内cAMP量の相反調整メカニズムも明らかとなった。
従って、GLP−1関連組成物及びグレリン阻害組成物の併用作用によるインスリン分泌増強は、細胞内cAMP産生量の増強により説明される。このように、本発明の発明者は、GLP−1関連組成物及びグレリン阻害組成物の併用作用によるインスリン分泌増強と2型糖尿病の治療有効性に関して、細胞内シグナル伝達レベルでの根拠を証明した。
【実施例5】
【0051】
(2型糖尿病GKラット膵島におけるcAMP産生)
2型糖尿病GKラット膵島におけるcAMP産生に対する内在性グレリン阻害組成物及び/又はGLP−1関連組成物の影響を調査した。実施例2に記載の2型糖尿病GKラット膵島におけるインスリン分泌を測定した場合と同様の条件の群を用いて実験を行った。各群におけるcAMP産生量は、実施例4と同様にcAMP測定EIAキット(アマシャム社製)を用いて測定した。
【0052】
図5を参照して、2型糖尿病GKラット膵島のcAMP量の測定例を示す。縦軸は、cAMP量(cAMP fmol/islet/hr)を示す。横軸は、左側から、グルコース2.8mMのみ投与した群、グルコース8.3mMのみ投与した群、グルコース8.3mMの存在下において内在性グレリン阻害組成物のみ作用した群、グルコース8.3mMの存在下においてGLP−1関連組成物のみ作用した群、グルコース8.3mMの存在下において内在性グレリン阻害組成物及びGLP−1関連組成物を併用して作用した群を示す。実験に用いたラットの個体数は、各群において10サンプルである(n=10)。
【0053】
図5より、グルコースのみを投与した群、内在性グレリン阻害組成物又はGLP−1関連組成物を各々単独で処方させた群よりも、内在性グレリン阻害組成物及びGLP−1関連組成物を併用して作用させた群の方がcAMP産生が増強していた(グルコース8.3mMの存在下において内在性グレリン阻害組成物のみ作用した群に対してp<0.05)。
このように内在性グレリン阻害組成物及びGLP−1関連組成物を併用して作用させた場合には、各々単独に比べて膵島β細胞のcAMP産生が上昇した。したがって、実施例4と同様に、内在性グレリン阻害組成物及びGLP−1関連組成物の併用作用によりβ細胞シグナル伝達が増強され、2型糖尿病の治療用組成物としての併用治療の有用性の根拠を細胞内メカニズムで示した。
【0054】
このように、実施例5の糖負荷試験においては、単独投与で効果のない濃度のグレリン捨抗薬とGLP−1を共投与することにより血中インスリン値の有意な上昇と血糖値の有意な低下を観察している。
これにより、最大効果濃度未満の濃度において、内在性グレリン阻害組成物又はGLP−1関連組成物が相乗的な作用を示し、顕著な効果があることを示している。
【0055】
つまり、GLP−1関連組成物により、cAMPを増加させてインスリンの分泌を増やすことができるものの、従来は内在性のグレリンによりこのcAMPの増幅効果は抑制されていた。これに対し、GLP−1関連組成物及びグレリン阻害剤を併用することで、GLP−1によるcAMP産出量を顕著に増やすことができる。さらに、グレリン阻害剤により、後述の実施例9に係る内因性グレリンのKv2.1チャネルの活性化作用によるインスリン分泌の抑制に対応することができる。
すなわち、GLP−1関連組成物及びグレリン阻害組成物を併用することで、cAMPの産生量の増加を介して、膵島β細胞におけるインスリン分泌を促進することができる。
【0056】
このように、グレリンがcAMPの産生を抑制していることはこれまで知られておらず、当業者がGLP−1関連組成物及びグレリン阻害組成物の併用を積極的に選択することは想定できなかった。
たとえば、GLP−1関連組成物とガストリン化合物(例えば、特表2007−519642号公報参照)の組み合わせについて、発明者らがcAMP産生量を測定する予備的な実験をしたところ、GLP−1を単独で使用した場合と同様のcAMP産生量の上昇しか見られなかった。これは、いくつかの糖尿病治療用の化合物の組み合わせについても同様であった。
これに対して、GLP−1関連組成物及びグレリン阻害組成物を併用することで、糖尿病の治療用の化合物を単に組み合わせるよりも、cAMPの産生量を増加させられる。
【0057】
以上のように、本発明によれば、GLP−1関連組成物とグレリン阻害組成物との併用により、膵島β細胞への刺激により膵島β細胞を疲弊させることなく2型糖尿病治療用の組成物としてインスリン分泌促進・血糖降下作用を高めることができ、対象の血糖値を正常の状態に保つことが可能となる。さらに、GLP−1関連組成物のより低い臨床使用濃度でのインスリン分泌促進・血糖降下作用が得られるため、嘔吐、低血糖発作などの副作用が回避できる。
【0058】
また、GLP−1関連組成物及び内在性グレリン阻害組成物を併用して作用させることによって、糖尿病肥満者への有効な治療法となる可能性がある。すなわち、脳視床下部室傍核(PVN)へのGLP−1投与は、摂食を抑制することが知られている。さらに、摂食亢進因子のグレリンの阻害は摂食を抑制することも知られている。したがって、本発明の実施の形態で示したGLP−1関連組成物及び内在性グレリン阻害組成物を併用して作用させることによって、抗過食、抗肥満といった効果も抗糖尿病作用とともに期待される。この際に、本発明の組成物は、GLP−1関連組成物とグレリン阻害組成物をそれぞれ単独で作用させるよりも低濃度で効果が得られる。このため、薬剤としての副作用を問題としないレベルで使用可能である。予防的に用いるためには、例えば食品に添加する等の投与方法の検討も有用である。
【0059】
このように、GLP−1関連組成物とグレリン阻害組成物との併用により2型糖尿病治療の有効性の基礎的データが示され、その臨床応用の基盤が確立された。さらに、GLP−1とグレリン阻害は摂食抑制作用を持つことから、これら2つの方法の併用による抗肥満効果も期待される。
【実施例6】
【0060】
(正常ラットおよび2型糖尿病GKラット血中グレリン濃度と血糖値の測定)
正常なウィスターラット及び2型糖尿病GKラットの血糖値と血中グレリン濃度の測定を行った。自由摂餌させた条件(Fed)で尾静脈より採血した後、48時間絶食後(Fast)と、その後、再度餌を与えた2時間後(Refed)に尾静脈より採血し血中グレリン濃度及び血糖値(血中グルコース濃度)の測定を行った。
グレリン濃度の測定は、ELISAキット(三菱化学ヤトロン(株)社製)を用いた。グルコース濃度の測定は、グルコカードDIAメーター(GlucoCard DIA meter、Arkray社製)を用いた。
【0061】
図6のグラフを参照して、正常のウィスターラット(正常ラット)および2型糖尿病GKラットについて、図6(a)は血中のグレリン濃度、図6(b)は血糖値の測定の結果について説明する。
図6(a)(b)とも、正常ラット、2型糖尿病GKラットについて、個体数10(n=10)の実験結果を平均してプロットした。各プロットにおいて、白丸は正常ラット(Wistar)、黒丸は2型糖尿病GKラット(GK)の結果をそれぞれ示すプロットである。
【0062】
図6(a)においては、縦軸は、グレリン濃度(Plasma ghrelin levels (fmol/ml))をELISAキットの反応レベルにより、1〜100で示す。また、横軸は、自由摂餌させた条件(Fed)、48時間後絶食後(Fast)、再度餌を与えた2時間後(Refed)のそれぞれの測定条件を示す。
図6(a)によると、正常ラットの血中グレリン濃度は空腹時(Fast)に高く、食後(Refed)低下する。一方、GKラットの血中グレリンのレベルは、食後(Refed)で低下せず高値のままであった。それぞれ血中グレリンのレベルは正常ラットに比べて、自由摂餌させた条件(Fed)ではp<0.01であり、食後(Refed)ではp<0.05であった。
【0063】
また、図6(b)は、縦軸は、血糖値(Blood glucose (mg/dl))の測定結果を示す。横軸は、自由摂餌させた条件(Fed)、48時間後断食後(Fast)、再度餌を与えた2時間後(Refed)のそれぞれの測定条件を示す。
図6(b)によると、2型糖尿病GKラットは、食後(Fed)で高血糖を示した。空腹時の血糖は変化なかった。高血糖のレベルとしては、正常ラット群と比べて、2型糖尿病GKラットは、自由摂餌させた条件(Fed)、食後(Refed)において、p<0.01であった。
【0064】
このように、2型糖尿病のモデルとなるGKラットにおいては、グレリンの血中レベルは顕著に高くなっている。このため、本実施形態に係る内在性グレリン阻害組成物を投与することで、上述の実施例4、5に示したように、インスリン分泌に重要なcAMPを抑制している内在性グレリンに対抗することができる。
このように、本発明の実施の形態に係るGLP−1関連組成物とグレリン阻害組成物との併用することで、内在性のグレリンに対抗する顕著な効果が得られる。
【実施例7】
【0065】
(正常ラットおよび2型糖尿病GKラットの膵島mRNA発現量の測定)
5週齢の正常のウィスターラット(正常ラット)および2型糖尿病GKラットから膵島をコラゲナーゼ消化法により分離し、膵島におけるメッセンジャーRNA発現量をSYBR Green(タカラバイオ社製)を用いたリアルタイムRT−PCR法により測定した。ここでは、グレリン(遺伝子ID、NM_021669.2、プライマー配列は配列番号1(Primer 1)と配列番号2(Primer 2)とを使用)、Kir6.2(遺伝子ID、NM_031358.3、プライマー配列は配列番号3(Primer 3)と配列番号4(Primer 4)とを使用)、インスリンの遺伝子であるInsulin−1(遺伝子ID、NM_019129.2、プライマー配列は配列番号5(Primer 5)と配列番号6(Primer 6)とを使用)のメッセンジャーRNA量を測定した。なお、Kir6.2は、グルコース刺激による膵島β細胞からのインスリン分泌に関連することが知られている、ATP感受性カリウム(KATP)チャネルのサブユニットである。
【0066】
図7は、正常ラット(Wistar)および2型糖尿病GKラット(GK)の膵島mRNA発現量の測定の結果を示すグラフである。縦軸は正常ウィスターラットのmRNA発現量を1とした時の相対的発現量を示す。横軸は、それぞれ、グレリン、Kir6.2、インスリン(Insulin−1)の発現量を示す。なお、実験に用いた正常ラットおよび2型糖尿病GKラットの個体数は、それぞれ7(n=7)である。
このように、2型糖尿病GKラットでは、膵島グレリンのmRNA発現が亢進していた(p<0.05)。すなわち、2型糖尿病GKラットにおいては、血中のグレリンのみならず、膵島においても、グレリンの濃度が高くなっていると考えられる。
これは、膵島による自らのグレリン分泌の増加により、cAMP産出を抑制させ、インスリン分泌を抑えていることが2型糖尿病GKラットの病原性に関わっていることを示唆している。
このため、本実施形態に係る内在性グレリン阻害組成物は、膵島のcAMP産出の抑制をなくし、GLP−1関連組成物によるcAMP産出を増加させることで、cAMPによる膵島β細胞のインスリン分泌及び再生促進作用を高めることができることが分かる。
【実施例8】
【0067】
(ラットの膵島β細胞内Ca2+濃度([Ca2+]i)の測定)
次に、膵島β細胞のインスリン分泌の中心的制御因子である膵島β細胞内Ca2+濃度([Ca2+]i)を測定した。ここでは、正常ウィスターラット(正常ラット)および2型糖尿病GKラットからコラゲナーゼ消化法により分離した膵島をさらに単一細胞にし、単離した膵島β細胞[Ca2+]iをCa2+感受性蛍光色素のfura−2(同仁社製)を用いた蛍光顕微鏡画像解析法により測定した。
灌流液中のグルコース濃度を2.8mM(2.8G)から8.3mM(8.3G)にし、その後8.3G下でGLP−1(10nM)及び/又はグレリン(10nM)を投与した。
膵島β細胞の同定指標としては、グルコース濃度8.3Gでの刺激およびインスリン分泌刺激薬のトルブタミド(Tolb;300μM)投与の両方により細胞内Ca2+濃度が上昇したものをβ細胞と判断した。
【0068】
図8〜図10を参照して、ラットの膵島β細胞内Ca2+濃度([Ca2+]i)の測定の結果について説明する。
図8は、正常ラットの膵島β細胞において8.3mMグルコース存在下でGLP−1を投与した例である。縦軸は、細胞内Ca2+濃度を反映するfura−2蛍光比(F340/F380)を示し、値が大きいほどCa2+濃度が高いことを示す。横軸は分単位の経過時間(Time(min))である。なお、図8中の「Tolb」は、コントロールのTolbを投与した際の波形を示す。
結果として、GLP−1は、膵島β細胞[Ca2+]iを増加させた。
【0069】
図9は、正常ラット膵島β細胞において、8.3mMグルコース存在下でGLP−1とグレリンとを投与した例である。縦軸、横軸とも図8と同様である。
結果として、グレリンはGLP−1により誘発される膵島β細胞[Ca2+]i増加を抑制することが分かる。つまり、グレリンにより上述のようにcAMP産生が抑制されているため、GLP−1によるcAMP依存性の[Ca2+]i増加が抑えられていると考えられる。
【0070】
図10は、正常ウィスターラット(正常ラット)及び2型糖尿病GKラットで、グレリン作用の濃度−反応曲線を比較した結果を示すグラフである。白丸は正常ラットを示し、黒丸は2型糖尿病GKラットを示す。
縦軸はグレリン濃度0(−)を100%とした際の、GLP−1投与時の膵島β細胞[Ca2+]iの増加率(% GLP−1−induced [Ca2+]i increases)を示している。横軸は、グレリンの濃度(Ghrelin(M))を示し、それぞれ0M(−)、10-10M、10-9M、10-8M、10-7Mを示す。
図10の結果として、GKラット膵島β細胞ではグレリンの反応性が亢進しており、グレリンの濃度−反応曲線が左方シフトしていることが分かる。これは、2型糖尿病GKラットで、膵島β細胞のグレリン濃度に対する感受性が亢進していることを示している。
このため、2型糖尿病GKラットは、内在性のグレリンを抑制することで、よりGLP−1によるインスリン分泌を促進できると考えられる。
【0071】
以上のように、実施例8において、GLP−1関連組成物は、膵島β細胞の細胞内のカルシウムイオン濃度[Ca2+]iの増加によりインスリン分泌を促しているものの、これをグレリンが抑制することが分かる。
すなわち、GLP−1関連組成物とグレリン阻害組成物を併用することで、GLP−1による[Ca2+]iの増加の抑制を除去し、よりインスリン分泌を促すことができる。すなわち、膵島β細胞のインスリン分泌促進・血糖降下の作用を得るために、GLP−1関連組成物とグレリン阻害組成物を、従来より低い濃度にて用いることができるという効果が得られる。
これは、上述のcAMP増強の作用と合わせて、ヒトの2型糖尿病の患者にも同様の効果があると考えられる。
【実施例9】
【0072】
(正常ラットおよび2型糖尿病GKラットの膵島mRNA発現量の測定)
5週齢の正常ウィスターラット(正常ラット)および2型糖尿病GKラットから膵島をコラゲナーゼ消化法により分離し、膵島におけるメッセンジャーRNA発現量をSYBR Green(タカラバイオ社製)を用いたリアルタイムRT−PCR法により測定した。いくつかの膵島β細胞で発現している遺伝子について発現を調べた内の、カリウムチャネルの一つであるKv2.1チャネル(遺伝子ID、NM_013186.1、gi:57785。プライマー配列は下記配列表の配列番号7(Primer 7)と配列番号8(Primer 8)とを使用)、コントロールのグレリン受容体(GHS−R)(遺伝子ID、NM_032075.3。プライマー配列は下記配列表の配列番号9(Primer 9)と配列番号10(Primer 10)とを使用)の結果について示す。
図11を参照して説明すると、縦軸は、正常ラット(Wistar)を1とした際の、膵島のメッセンジャーRNA(mRNA)の2型糖尿病GKラットでの相対的発現量(Relative mRNA expression in islet)を示す。横軸は、それぞれKv2.1チャネルと、GHS−Rの結果について示す。2型糖尿病GKラット膵島では、膵島β細胞グレリンシグナルを仲介するKv2.1チャネルのmRNA発現が亢進していた(p<0.01)。すなわち、Kv2.1チャネルが膵島β細胞のインスリン分泌連関の生理的な抑制因子として機能していることが示唆される。
【0073】
図12の概念図を参照して、上述の結果について説明する。
正常ラットにおいては、膵島β細胞内へのグルコース濃度増加による刺激で、ATP感受性カリウム(KATP)チャネルが閉鎖され、膵島β細胞の細胞内のマイナス電位が低下する脱分極が起こる。この脱分極により、電位依存性カルシウム(Ca)チャネルが開口し、細胞内にカルシウムイオン(Ca2+)が流入することで、インスリンが分泌されると考えられている。ここで、cAMP産生量が増加すると、電位依存性カルシウム(Ca)チャネルをさらに活性化し、またインスリンの放出過程を増強することがわかっている。図12では、このようなグルコース刺激によるインスリンの分泌を増強する経路を実線の矢印で示している。
これに対して、Kv2.1チャネルの活性化は、細胞膜を再分極させて静止電位に戻すことで活動電位を抑制し、電位依存性カルシウムチャネルを介したカルシウムイオン流入およびインスリン分泌を抑制すると考えられる。グルコース代謝により、この系が抑制されると考えられる。
ここで、グレリンは、グレリン受容体(GHS−R)とGTP結合タンパク質Gi2α2サブユニットを介したシグナルにより、Kv2.1チャネルを活性化する。これにより、細胞膜が再分極され、カルシウムイオン流入が抑制され、よってインスリン分泌を抑制すると考えられる。図12では、このようなグレリンによるインスリン分泌に抑制する経路を点線の矢印で示している。
すなわち、Kv2.1チャネルの活動を阻害する組成物、例えば、クモ毒のStromatoxinやguangxitoxin−1Eといった化合物は、本発明の実施の形態に係るグレリン阻害組成物と同様に用いることができる。
つまり、本発明の実施の形態に係るGLP−1関連組成物とグレリン阻害組成物と同様に、GLP−1関連組成物とKv2.1チャネル阻害組成物を用いることができ、同様の効果を得ることができる。
なお、ヒトの2型糖尿病患者においても、Kv2.1チャネルの発現量が亢進していることが予備的な実験により分かっており、同様の効果が期待できる。
【実施例10】
【0074】
(2型糖尿病GKラットへのグレリン阻害組成物の浸透圧ポンプによる持続投与)
本発明の実施の形態に係るグレリン阻害組成物であるグレリン受容体拮抗薬を2型糖尿病GKラットへ浸透圧ポンプにより持続投与した際の血糖値の変化について測定した。具体的には、グレリン受容体阻害剤[D−Lys3]−GHRP−6を充填した浸透圧ミニポンプ(alzet社製)を6週齢の2型糖尿病GKラットの背部皮下に埋め込み、その後、28日間にわたり随時血糖値をグルコカードDIAメーター(GlucoCard DIA meter、Arkray社製)を用いて測定した。
図13と図14とを参照して、このグレリン受容体拮抗薬の浸透圧ポンプによる持続投与の結果について説明する。
図13は、浸透圧ミニポンプの測定結果を示すグラフである。縦軸は血糖値(Blood glucose mg/dl)を示し、横軸は埋め込み後の日数(Day after implantation)を示す。また、グラフ中で、白丸は透圧ミニポンプが埋め込まれていないコントロール(Control)、黒丸は浸透圧ミニポンプが埋め込まれている([D−Lys3]−GHRP−6)、2型糖尿病GKラットを示す。
この結果のように、2型糖尿病GKラットへのグレリン受容体拮抗薬の浸透圧ポンプによる持続投与(3μmol/kg/day)により高血糖が是正された。
【0075】
図14は、埋め込み後の血糖値の平均を示すグラフである。縦軸は平均の血糖値(Avaraged Blood glucose mg/dl)を示す。横軸は、浸透圧ミニポンプが埋め込まれていないコントロール(Control)と浸透圧ミニポンプを埋め込んだ場合の結果([D−Lys3]−GHRP−6)について示す。このように、グレリン受容体拮抗薬の浸透圧ポンプを体内に埋め込むことで、高血糖を是正することができる。すなわち、投与28日間の平均随時血糖は、グレリン受容体拮抗薬の投与により有意に低下した。
これらの結果から、グレリン阻害組成物を、浸透圧ポンプにより持続投与することは2型糖尿病の治療に有効であることが分かる。これにより、血糖値を正常レベルに近づけた上で、さらに血糖値が高い場合に、通常の投与量よりも低いレベルのGLP−1関連組成物を併用することで、低血糖等の副作用を抑えて血糖値を下げることができると期待できる。
【実施例11】
【0076】
(2型糖尿病GKラットへの糖負荷試験)
実施例3と同様に、2型糖尿病GKラットへの糖負荷試験と、インスリン分泌との関係の測定を行った。具体的には、2型糖尿病GKラットの腹腔内への糖負荷試験(IPGTT)を行い、対象に急性の糖負荷をかけた際の内在性グレリン阻害組成物及び/又はGLP−1関連組成物の影響を調査するために、血糖値及びインスリン分泌の測定を行った。実験方法は、実施例3と同様であり、全ての実験群の2型糖尿病GKラットには、一晩絶食させた後、1gグルコース/kg体重を腹腔内に投与し、その他の物質を投与しないコントロール(Control)群、0.3μmol/kg体重のグレリン阻害組成物である[D−Lys3]−GHRP−6を投与した群、0.3nmol/kg体重のGLP−1を投与した群、0.3μmol/kg体重の[D−Lys3]−GHRP−6及び0.3nmol/kg体重のGLP−1を併用して投与した群の調査を行った。尾静脈より採血を行いグルコース濃度及びインスリン濃度をそれぞれ測定した。インスリン濃度の測定は、ELISAキット(和光純薬工業(株)社製)を用い、グルコース濃度の測定は、グルコカードDIAメーター(GlucoCard DIA meter、Arkray社製)を用いた。
【0077】
図15(a)を参照して、2型糖尿病GKラットの血糖値の測定例を示す。縦軸は、血糖値(mg/dl)について説明する。図3Aと同様に、全ての実験群において糖負荷後30〜60分で各群の血糖値はピークに達した。そして、120分経過した時には、コントロールや内在性グレリン阻害組成物又はGLP−1関連組成物を各々単独で処方させた群よりも、内在性グレリン阻害組成物及びGLP−1関連組成物を併用して作用させた群は有意に血糖値が減少していた(Control群に対してp<0.05)。すなわち、実施例3と同様に、GLP−1関連組成物とグレリン阻害組成物を併用することで、それぞれを単独で使用した際には効果がない投与量で血糖値を下げることができる。
また、図15(b)を参照して、2型糖尿病GKラットのインスリン分泌の測定例について説明する。縦軸は、インスリン分泌量(ng/ml)を示す。横軸は、経過時間(min)を示す。図3Bと同様に、糖負荷後15〜30分で全ての群のインスリン分泌量は増加した。その中で、コントロールや内在性グレリン阻害組成物又はGLP−1関連組成物を各々単独で処方させた群よりも、内在性グレリン阻害組成物及びGLP−1関連組成物を併用して作用させた群において有意にインスリン分泌量が増加していた(Control群に対してp<0.05)。実施例3と同様に、GLP−1関連組成物とグレリン阻害組成物を併用することで、それぞれを単独で使用した際には効果がない投与量でインスリン分泌を増やし、これにより血糖値を下げることができると考えられる。
【0078】
図16(a)を参照して、図15(a)に示した血糖値の血糖値0〜120分の曲線下面積について説明する。図16(a)は、図15(a)の実験群のグルコース投与0〜120分の曲線下面積(AUC)を算出したグラフである。AUC(Area Under Curve、血中濃度曲線下面積)は、薬物血中濃度−時間曲線下面積を示す数値である。すなわち、対象成分の血中濃度(Y軸)と経過時間(X軸)のグラフの面積であり、図16(a)の場合は血糖の量を示す。図15(a)のグラフによると、グレリン阻害組成物0.3μmol/kg、GLP−1を0.3nmol/kgそれぞれ単独で与えても血糖値は下がらなかった。これに対して、グレリン阻害組成物とGLP−1とを併用した群ではp<0.05で有意に血糖値が低下した。このように、グレリン受容体阻害剤及びGLP−1を併用すると、それぞれの単独使用では作用を示さない用量を与えても、有意な血糖値低下作用を示すことが確認された。
図16(b)を参照して、図15(b)に示したインスリン値0〜30分の曲線下面積について説明する。図16(b)は、図15(b)の実験群のグルコース投与0〜30分の血漿インスリンの曲線下面積を産出したグラフである。図15(b)のグラフによると、グレリン阻害組成物0.3μmol/kg、GLP−1を0.3nmol/kgをそれぞれ与えても、血漿インスリン濃度はそれほど増加しなかった。これに対して、併用した群ではp<0.05で有意に血漿インスリン濃度が増加した。このように、グレリン受容体阻害剤及びGLP−1の各々単独作用を示さない用量を併用することで、有意な血漿インスリン分泌促進作用が確認された。
【0079】
以上の実施の形態及び実施例で説明された構成、配置関係等については本発明が理解・実施できる程度に概略的にしたものにすぎない。
従って本発明は、説明された実施の形態及び実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示される技術的思想の範囲を逸脱しない限り様々な形態に変更することができる。
【0080】
上述のように、従来、GLP−1アナログおよびDPP4阻害剤は、従来の2型糖尿病治療薬(SU剤)に比べ、低血糖発作の副作用が少ない点で優れているが皆無ではなく、インスリン分泌促進・血糖降下作用は比較的弱いことが、これらの適用対象を狭めているという問題があった。
GLP−1アナログはかなりの頻度で嘔吐などの副作用を起こす。このため、使用濃度を低下できれば副作用を解消することができると期待される。
また、上述の実施例で示したように、GLP−1関連組成物とグレリン阻害組成物を併用することで、それぞれの組成物を単独で用いるよりもインスリン分泌を促進し、血糖降下を高めることができる。
また、GLP−1関連組成物とグレリン阻害組成物を併用することで、GLP−1アナログを低い臨床使用濃度でインスリン分泌促進・血糖降下作用が得られ、嘔吐、低血糖発作などの副作用を回避できる。
また、GLP−1関連組成物とグレリン阻害組成物を併用することで、低濃度でインスリン分泌を向上させることができるため、膵島β細胞の保護を行う保護用の組成物として使用することも可能である。
また、GLP−1関連組成物と内在性グレリン阻害組成物の併用により、各々単独で用いることに比べ、膵島β細胞のcAMP産生が顕著に増強される。すなわち、GLP−1関連組成物とグレリン阻害組成物の協同作用は、細胞内メカニズムとしても根拠がある。
また、cAMPには膵島β細胞再生促進作用があるので、GLP−1関連組成物と内在性グレリン阻害組成物を併用することにより、膵島β細胞の再生作用が増強され、β細胞数を低下させず二次無効をもたらさない、長期に渡り有効な2型糖尿病治療用の組成物として使用できる。
【0081】
より具体的に説明すると、GLP−1関連組成物の臨床応用は進んできているものの、副作用もまた問題になってきている。たとえば、GLP−1分解酵素(DPP4)阻害剤であるSitagliptin(シタグリプチンリン酸塩水和物錠、製品名:グラクティブ(登録商標)錠、及び、製品名:ジャヌビア(登録商標)錠、万有製薬社製)の市販直後調査の中間報告(2010年3月3日現在、小野薬品工業株式会社提供)によると、副作用が347例462件、重篤な副作用は37例52件あると報告されている。この副作用として、低血糖による意識障害、心不全、下痢等による死亡例も報告されている。
このように、GLP−1関連組成物を用いた際に、副作用の出ない濃度で用いつつ、膵島β細胞のインスリン分泌を増進させることが求められている。
これに対して、本発明の実施の形態に係るGLP−1関連組成物と内在性グレリン阻害組成物の併用、又はGLP−1関連組成物とKv2.1チャネル阻害組成物の併用により、投与量をより少なくして膵島β細胞のインスリン分泌を増進させることができる。
【0082】
また、グレリン阻害剤においても、主として肥満症の治療が検討されてきており、その結果として肥満関連疾患である2型糖尿病の治療が期待されている。
しかしながら、上述のように、GLP−1関連組成物とグレリン阻害剤を併用して使用すると、単に両方の薬剤の効果を合わせた以上の効果があることは当業者には予想できなかった。
すなわち、GLP−1関連組成物とグレリン阻害剤、又はGLP−1関連組成物とKv2.1チャネル阻害組成物の併用は、膵島β細胞を共通のターゲットとした糖尿病治療に有用である。
このGLP−1関連組成物とグレリン阻害剤、又はGLP−1関連組成物とKv2.1チャネル阻害組成物の併用は、グレリン受容体活性による細胞内cAMP産生の抑制を取り払うもので、グレリンの濃度が高く膵島β細胞内cAMPが低くグルコース刺激に応答しない状態になった2型糖尿病患者に効果が期待できる。
【0083】
なお、上記実施の形態の構成及び動作は例であって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して実行することができることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明によれば、GLP−1関連組成物とグレリン阻害組成物を併用することで、吐き気や低血糖等の副作用が少なく、それぞれの組成物を単独で用いるよりもインスリン分泌を促進する糖尿病治療/肥満治療用の組成物を提供することができる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、血糖値を正常に維持するための治療用組成物に係るものであり、特に糖尿病の治療又は予防用の組成物、膵臓ランゲルハンス島β細胞の保護/再生促進組成物、膵臓ランゲルハンス島β細胞のcAMP産生促進組成物、及び糖尿病及び/又は肥満を治療する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病には、小児期や若年期から発症する1型糖尿病と、主に成人になってから発症する2型糖尿病が知られている。
このうち、1型糖尿病は、先天的な自己免疫疾患であり、膵臓のランゲルハンス島(膵島)のβ細胞が破壊されて、血糖値を下げるペプチドホルモンであるインスリンの分泌が欠乏し、血糖値を下げることができなくなる代謝異常の疾病である。
2型糖尿病は、膵島β細胞は残存していることもあり得るが、インスリン分泌異常、インスリン抵抗性といった要因で、血糖値のコントロールがうまくいかず、長期的には動脈硬化、神経障害、網膜剥離、腎臓障害等の合併症を引き起こす疾病である。2型糖尿病は、遺伝的、潜在的な要因に加えて、偏食(過食)、ストレス、運動不足等の生活習慣(ライフスタイル)の影響により発病すると考えられている。そのうち、肥満が発症因子として重要である。
我が国の糖尿病の95%以上は2型糖尿病であり、国民的な疾病となっている。
【0003】
この2型糖尿病の治療薬として、従来より、インスリンの分泌を促進するスルフォニル尿素剤(SU剤)、インスリン製剤等が用いられてきた。
このうち、SU剤は、膵島β細胞を刺激して、インスリンを分泌させる働きにより、血糖値を下げる作用がある。また、インスリン製剤も、注射することで血中のインスリン濃度を上げて血糖値を下げることができる。
しかしながら、SU剤は、膵島β細胞を刺激して疲弊させる副作用が存在するという問題があった。
また、SU剤、インスリン製剤とも、血漿インスリン濃度が必要以上に上昇し、低血糖を引き起こすという副作用があった。
低血糖の状態は患者の死を招くこともあり、より副作用の少ない治療薬が求められていた。
【0004】
そこで、非特許文献1を参照すると、次世代の2型糖尿病の治療薬として、GLP−1のアナログが注目されている。GLP−1はグルカゴン様ペプチド(glucagon−like peptide)のことで、ヒトの消化管の粘膜から分泌されるペプチドホルモンである。
【0005】
まず、図17を参照して、このGLP−1の作用について説明する。通常、膵島β細胞は、血糖値が上がる、すなわち血中のグルコースの濃度が上がると、インスリンの分泌が促進されて血糖値を下げる。
より詳しく説明すると、まず、食事摂取により小腸から吸収されたグルコースが、膵臓の膵島β細胞を刺激してインスリン分泌を起こす。それと同時に、小腸からGLP−1が分泌され、膵島のβ細胞を刺激して、インスリン分泌を増強する。
GLP−1の分泌は食事により刺激され、さらにその作用は食後の血糖値が上昇した状態で強く、食前の血糖値の低い状態では弱い。すなわち、GLP−1は、食後のグルコース誘発インスリン分泌を促進する因子である。
【0006】
ところが、2型糖尿病患者においては、このグルコース誘発インスリン分泌が低下していることが多い。
すなわち、2型糖尿病の患者では、膵島β細胞のグルコース受容が障害されており、その結果、十分な量のインスリン分泌が起こらない。
そこで、膵島β細胞のインスリン分泌を促進するGLP−1を治療薬として用いることが考えられている。
しかしながら、生体内のGLP−1は、食物の消化に伴い消化管から分泌されるものの、通常、体内のGLP−1は、産生からわずか1〜2分で分解酵素により分解されてしまう。
【0007】
このため、GLP−1を治療薬として使用するために、化学的に修飾して、長時間作用させるGLP−1アナログが開発されている。
また、GLP−1の体内濃度を保つため、体内のGLP−1を分解する分解酵素であるジペプチジルペプチターゼ(DPP)4の働きを抑えるDPP4阻害剤についても、開発が進んでいる。
【0008】
一方、特許文献1を参照すると、従来、胃から分泌されて摂食を亢進する内分泌物質として知られてきたペプチドホルモンのグレリン(Ghrelin)が、膵島β細胞にも存在し、インスリンの分泌を抑制していることが分かってきた。
【0009】
ここで、図18を参照して、より詳しくグレリンの作用について説明する。
図18は、2型糖尿病のモデルのラットに高脂肪食を与えたときの、予防・治療の概念を示す図である。
まず、グレリン阻害組成物を与えていない場合には、高脂肪食が与えられたラットではインスリンに対する抵抗性を生じ、それを乗り越えるまでにはインスリン分泌が増加しないために、血糖値が上昇し、耐糖能障害が生じ、2型糖尿病を発症する。
それに対して、グレリン阻害組成物を与えた場合には、高脂肪食が与えられたラットではインスリンに対する抵抗性は上がるものの、グレリンが阻害されることによってインスリンの分泌量が上昇する。これにより、結果的に、血糖値も上昇しないため、正常状態を維持できる。
このように、グレリンに特異的な抗体のようなグレリン阻害組成物によって、インスリン分泌のブレーキが解除され、インスリン分泌が促進されると考えられる。
【0010】
上述のように、グレリンはインスリン分泌を抑制するホルモンであるため、内在性グレリン阻害組成物を投与すると、投与対象においてインスリン分泌が増加し血糖値を低下させることができる。
つまり、図18の概念図によれば、グレリン阻害組成物を与えてグレリンの働きを抑制すると、インスリンの分泌が促進されて、血糖値が下がると理論的に考えられる。このため、2型糖尿病治療用組成物として有効である。
よって、グレリン阻害組成物により、GLP−1アナログやDPP4阻害剤と同様のインスリン分泌促進効果を得ることが期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2008−127377号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Knudsen et al.、J Med Chem 2000、43、1664−9
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、GLP−1アナログやDPP4阻害剤のようなGLP−1関連組成物は、従来の2型糖尿病治療組成物(SU剤)に比べ、低血糖発作の副作用が少ないが皆無ではなく、かなりの頻度で嘔吐などの副作用を起こしていた。
また、GLP−1関連組成物は、比較的インスリン分泌促進及び血糖降下作用が弱いため、治療用組成物としての適用が、比較的軽度の2型糖尿病に限られていた。
一方、グレリン阻害組成物は、インスリン分泌を促進することで2型糖尿病を抑える効果が考えられるものの、その作用機構はインスリン分泌の抑制を阻害するものなので、治療用組成物として使用しても効果が比較的弱いと推察されていた。
【0014】
このため、副作用を抑えて治療効果が高い、2型糖尿病の治療に用いることができる治療用の組成物が求められていた。
【0015】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、上述の課題を解消することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の組成物は、GLP関連組成物とグレリン阻害組成物とを含有する、糖尿病及び/又は肥満を治療する組成物であることを特徴とする。
本発明の組成物は、前記糖尿病は2型糖尿病であり、前記GLP−1関連組成物及び/又はグレリン阻害組成物は、成人における投与用量より低い濃度であることを特徴とする。
本発明の組成物は、前記グレリン阻害組成物及び前記GLP−1関連組成物の併用により膵臓ランゲルハンス島β細胞のcAMP産生量を増やすことを特徴とする。
本発明の組成物は、前記GLP関連組成物がGLP−1である場合は、1日投与用量が0.1nmol/kg体重〜0.3nmol/kg体重であることを特徴とする。
本発明の組成物は、前記GLP関連組成物がGLP−1アナログのExenatideである場合は、成人における1日投与用量が1μg〜6μgであることを特徴とする。
本発明の組成物は、前記GLP関連組成物がGLP−1アナログのLiraglutideである場合は、成人における1日投与用量が0.1mg〜0.3mgであることを特徴とする。
本発明の組成物は、前記グレリン阻害組成物が[D−Lys3]−GHRP−6である場合に、1日投与用量は0.1μmol/kg体重〜0.3μmol/kg体重であることを特徴とする。
本発明の膵臓ランゲルハンス島β細胞の保護/再生促進組成物は、前記組成物を含むことを特徴とする。
本発明の膵臓ランゲルハンス島β細胞のcAMP産生促進組成物は、前記組成物を含むことを特徴とする。
本発明の組成物は、GLP関連組成物、及びグレリン阻害組成物又はKv2.1チャネル阻害組成物のいずれかを含有することを特徴とする。
本発明の組成物は、前記Kv2.1チャネル阻害組成物は、Stromatoxin又はguangxitoxin−1Eであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、GLP−1関連組成物と内因性グレリン阻害組成物を併用することで、それぞれ単独で使用する場合に比べて、副作用を低減し、血糖降下作用を増強し、それぞれの組成物の濃度を低く処方できる治療用組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態の実施例1に係る正常ラット膵島におけるGLP−1関連組成物及びグレリン阻害組成物の併用によるインスリン分泌の実験結果を示すグラフである。
【図2】本発明の実施の形態の実施例2に係る2型糖尿病モデルGKラットの膵島におけるGLP−1関連組成物及びグレリン阻害組成物の併用によるインスリン分泌の実験結果を示すグラフである。
【図3】本発明の実施の形態の実施例3に係るGKラットに対する糖負荷試験の実験結果を示すグラフである。
【図4】本発明の実施の形態の実施例4に係る正常ラット膵島におけるGLP−1関連組成物によるcAMP産生に対するグレリンの抑制効果を示すグラフである。
【図5】本発明の実施の形態の実施例5に係るGKラット膵島におけるGLP−1関連組成物及びグレリン阻害組成物の併用によるcAMP産生の実験結果を示すグラフである。
【図6】本発明の実施の形態の実施例6に係る正常ラットおよび2型糖尿病GKラット血中グレリン濃度と血糖値の測定の実験結果を示すグラフである。
【図7】本発明の実施の形態の実施例7に係る正常ラットおよび2型糖尿病GKラットの膵島mRNA発現量の測定結果を示すグラフである。
【図8】本発明の実施の形態の実施例8に係る正常ラットにGLP−1を投与した際の膵島β細胞内Ca2+濃度([Ca2+]i)の蛍光顕微鏡画像解析法による測定結果を示すグラフである。
【図9】本発明の実施の形態の実施例8に係る正常ラットにGLP−1とグレリンとを投与した際の膵島β細胞内Ca2+濃度([Ca2+]i)の蛍光顕微鏡画像解析法による測定結果を示すグラフである。
【図10】本発明の実施の形態の実施例8に係るグレリン作用の濃度−反応曲線を比較した結果を示すグラフである。
【図11】本発明の実施の形態の実施例9に係る膵島におけるKv2.1チャネルのmRNA発現量をリアルタイムRT−PCR法によって測定した結果を示すグラフである。
【図12】本発明の実施の形態の実施例に係るグレリンとKv2.1チャネルとの関係を示す概念図である。
【図13】本発明の実施の形態の実施例10に係る2型糖尿病GKラットへのグレリン阻害組成物の浸透圧ポンプによる持続投与の際の血糖値測定結果を示すグラフである。
【図14】本発明の実施の形態の実施例10に係る2型糖尿病GKラットへのグレリン阻害組成物の浸透圧ポンプの埋め込み後の血糖値の平均を示すグラフである。
【図15】本発明の実施の形態の実施例11に係る2型糖尿病GKラットに対する糖負荷試験の実験結果を示すグラフである。
【図16】本発明の実施の形態の実施例11に係る2型糖尿病GKラットに対する糖負荷試験の血糖値とインスリン値を示すグラフである。
【図17】従来のGLP−1及び関連組成物の膵島β細胞でのインスリン分泌促進を示す概念図である。
【図18】従来のグレリン阻害組成物による2型糖尿病の予防または治療の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<実施の形態>
上述したように、GLP−1は、食事摂取により小腸から分泌されインスリン分泌を起こすペプチドホルモンである。GLP−1の長時間持続型アナログおよびGLP−1分解酵素(DDP)阻害剤は、2型糖尿病治療薬として米国ですでに臨床使用されている。
一方、グレリンは、インスリン分泌を抑制するホルモンである。動物実験において、内在性グレリンを阻害すると、インスリン分泌が増加し血糖値が低下するため、2型糖尿病治療に有効であることが分かった。
本発明の発明者は、従来のSU剤やインスリン製剤に代わるいくつかの治療用組成物について検討を重ねてきた。この際に、GLP−1関連組成物や、内因性グレリン阻害組成物についても、それぞれ、臨床応用について検討を行い、有効性の基礎的データを得た。
【0020】
ここで、GLP−1関連組成物は、膵島β細胞に働きかけてインスリン分泌を促進するという働きをするが、グレリン阻害組成物は、インスリン分泌の「抑制を阻害」するという働きがある。これらの二つの方法は、従来、単独で使用しても、SU剤に比して効果が低いという問題があった。また、効果を高めるためにGLP−1関連組成物を多量に処方して使用すると、吐き気や重篤な低血糖等の副作用があるということが分かった。
このため、通常、働きが弱い薬剤を同時に投与することは当業者にとって想定外であり、GLP−1関連組成物とグレリン阻害組成物を同時に投与することは全く考えられていなかった。
【0021】
ところが、本発明の発明者は、GLP−1関連組成物とグレリン阻害組成物を併用して投与することで、当業者が想定していなかった顕著な効果が得られることを発見し、本発明の実施の形態に係る糖尿病治療用組成物を発明するに至った。
【0022】
本発明の実施の形態に係る糖尿病治療用組成物は、GLP−1関連組成物とグレリン阻害組成物をそれぞれ単独で使用するよりも、大幅に血糖値を低下させる効果が得られる。このため、吐き気や重篤な低血糖のような副作用をもたらさない濃度にて、糖尿病治療用組成物として使用することができる。
また、GLP−1関連組成物とグレリン阻害組成物を併用することで、効果的な摂食抑制作用が得られ、抗肥満効果も期待できる。
【0023】
より具体的に説明すると、本発明の実施の形態に係る治療用組成物は、既に報告されているGLP−1関連組成物を用いているものの、このGLP−1関連組成物を低濃度で処方することによって副作用を低減させる効果を有する組成物を提供する。
すなわち、GLP−1関連組成物と内在性グレリン阻害組成物とを組み合わせて併用した組成物は、2型糖尿病の患者にとって、副作用を軽減させて低血糖を起こさない安全な組成物としての治療用組成物として使用できる。
【0024】
グレリン阻害によるインスリン分泌促進と組み合わせることにより、GLP−1、GLP−1アナログ、DPP4阻害剤のインスリン分泌促進・血糖降下作用を高める。
グレリン阻害によるインスリン分泌促進と組み合わせることにより、GLP−1アナログのより低い臨床使用濃度で同様のインスリン分泌促進・血糖降下作用が得られ、嘔吐、低血糖発作などの副作用が回避できる。
【0025】
また、本発明の実施の形態において用いられるGLP−1関連組成物としては、例えば、上述したGLP−1の他、GLP−1アナログ、GLP−1分解酵素(DPP4)阻害剤等を用いることができる。
このGLP−1の長時間持続型アナログとしては、例えば、Exenatide(合成exendin−4、イーライリリー社製)、Liraglutide(GLP−1脂肪酸修飾、ノボノルディスクファーマ社製)等が挙げられる。
【0026】
また、本発明の実施の形態において用いられるGLP−1関連組成物としては、上述したように、GLP−1分解酵素(DPP4)阻害剤についても用いることができる。このDPP4阻害剤としては、Sitagliptin(製品名:Januvia、万有製薬社製)、Vildagliptin(製品名:Galvus、ノバルティスファーマ社製)等を用いることができる。
【0027】
また、本発明の実施の形態において用いられるGLP−1関連組成物は、上述したように、GLP−1関連組成物を単独で用いて、インスリン分泌を促す等の作用を奏するための、成人における投与用量は、GLP−1アナログの場合、Exenatideでは1回5μgか10μgを1日2回、Liraglutideでは1日1回0.9mg投与であり、副作用として嘔吐・悪心・胃部不快感を起す頻度が約5〜9%と報告されている。また、重篤な低血糖とそれに伴う神経症状等の副作用も報告されている。
このため、本発明の実施の形態において用いられるGLP−1関連組成物は、例えば、GLP−1アナログの場合は成人における投与量の1/6〜1/3で、糖尿病治療効果はあるが吐き気や重篤な低血糖等の副作用を起こさないか頻度の極めて少ない投与量を用いることができる。
【0028】
また、本発明の実施の形態において用いられる内在性グレリン阻害組成物は、グレリン阻害剤、グレリン受容体阻害剤等を用いることができる。
例えば、グレリン阻害剤としては、内在性グレリンに結合してグレリンの作用を阻害する中和抗体等が挙げられる。
また、グレリン受容体阻害剤としては、例えば、[D−Lys3]−GHRP−6等があるものの、より特異性の高いグレリン受容体阻害分子を用いることができる。
このグレリン受容体阻害剤としては、例えば [D−Lys3]−GHRP−6の場合、マウスにおける1日投与用量として濃度0.1μmol/kg〜0.3μmol/kg体重といった、副作用を起こさない用量を用いることができる。マウスとヒトで、グレリン投与の血糖値に対する効果はほぼ同様であり、またグレリン血漿濃度の差は数倍以内であるので、マウスで明らかとなった上記濃度のグレリン受容体阻害剤[D−Lys3]−GHRP−6の効果はヒトに適用することができると考えられる。また、グレリン受容体阻害剤の種類によっては、GLP−1関連組成物と併せて処方することで、濃度0.1μmol/kgよりもさらに少ない投与量を用いることも可能である。
【0029】
本発明の実施の形態に係る治療用組成物は、任意の製剤上許容しうる担体(例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液、例えばD−ソルビトール、D−マンノース、D−マンニトール、塩化ナトリウム等が挙げられ、適当な溶解補助剤、例えばアルコール、具体的にはエタノール、ポリアルコール、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、非イオン性界面活性剤、例えばポリソルベート80(TM)、HCO−50等を挙げることができるが、それらに限定されない)と共に投与することができる。また、適切な賦形剤等を含んでもよい。
【0030】
また、本発明の実施の形態に係る治療用組成物は、製剤上許容しうる担体を調製するために、適切な薬学的に許容可能なキャリアを含み得る。
このキャリアとしては、シリコーン、コラーゲン、ゼラチン等の生体親和性材料を含んでもよい。あるいはまた、種々の乳濁液であってもよい。
さらには、例えば、希釈剤、香料、防腐剤、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、結合剤、乳化剤、可塑剤などから選択される1または2以上の製剤用添加物を含有させてもよい。
【0031】
本発明の実施の形態に係る治療用組成物は、経口投与のための投与に適した投与形態において、当該分野で周知の製剤上許容しうる担体を用いて処方され得る。
本発明の実施の形態に係る医薬組成物の投与経路は、特に限定されないが、非経口的に投与することが好ましい。
非経口投与としては、例えば、静脈内、動脈内、皮下、真皮内、筋肉内または腹腔内の投与が挙げられる。
【0032】
本発明の実施の形態の治療用組成物は、生物体、生物体の体内の一部分、または生物体より摘出または排出されたその一部分について、治療用の対象とすることができる。この生物体は特に限定されるものではないが、動物(例えば、ヒト、家畜動物種、野生動物)を含む。
【0033】
また、本発明の実施の形態に係る治療用組成物の治療対象としては、主に2型糖尿病に用いることができる。これは、上述したように、2型糖尿病においては、膵島β細胞が残存していることが多いため、膵島β細胞のインスリン分泌能力を向上させることで、糖尿病を治療可能であるためである。
しかしながら、本発明の実施の形態係る治療用組成物は、インスリン分泌の負担による膵島β細胞のアポトーシスや機能不全を抑制する。これは、予備的な実験により、GLP−1関連組成物には膵島β細胞保護・再生促進作用があり、これらの作用はグレリン阻害組成物の低濃度の併用により増強されるためと考えられる。
このため、1型糖尿病についても、GLP−1関連組成物による膵島β細胞保護・再生促進作用をグレリン阻害組成物の併用により増強することにより、病気の進行を抑制しさらには改善することが想定できる。さらに、1型糖尿病の膵島移植、膵島β細胞の幹細胞治療等においても、インスリン分泌を促進しながら膵島β細胞の負担を抑えて、短期的、長期的に治療効果を高め、効果的に用いることが考えられる。
さらに、本発明の実施の形態係る治療用組成物は、予備的な実験により、副作用がほとんどない濃度で用いた場合でも、効果的な食欲抑制作用を得ることができる。
このため、特に2型糖尿病に至る肥満(メタボリック・シンドローム)の予防、治療等に用いることもできる。
【0034】
また、本発明の実施の形態に係る治療用組成物を上述の治療に用いるために、投与間隔および投与量は、疾患の状況、さらに対象の状態などの種々の条件に応じて適宜選択および変更することが可能である。
ここで、2型糖尿病を予防または治療する場合には、血糖値を改善する投与用量を用いることができる。これらの用量は、予備的な実験においては、通常の成人における投与用量の1/6〜1/3程度でよく、GLP−1関連組成物で報告されている吐き気や重篤な低血糖等の副作用を抑えて効果的に使用可能である。
【0035】
本発明の実施の形態に係る治療用組成物の1回の投与量および投与回数は、投与の目的により、さらに患者の年齢および体重、症状および疾患の重篤度などの種々の条件に応じて適宜選択および変更することが可能である。
投与回数および期間は、1日1回約2〜4週間程度投与し、糖尿病の状態をモニターし、その状態により再度あるいは繰り返し投与を行う。
【0036】
本発明の実施の形態に係る組成物は、他の組成物等と併用することも可能である。また、他の組成物と同時に本発明の組成物を投与してもよく、また間隔を空けて投与してもよいが、その投与順序は特に問わない。
【0037】
また、本発明の実施の形態において、疾患が改善または軽減される期間は特に限定されないが、一時的な改善または軽減であってもよいし、一定期間の改善または軽減であってもよい。
【0038】
また、本発明の実施の形態に係る組成物として、Kv2.1チャネルの阻害剤を更に用いて、グレリン阻害組成物の効果を高めることができる。このKv2.1チャネルの阻害剤としては、例えば、クモ毒でありA型カリウムチャネルをブロックするStromatoxinを用いることができる。また、GLP−1関連組成物とKv2.1チャネル阻害剤の組み合わせを用いることもできる。
これにより、治療用組成物の濃度を低くしても、同様の効果を得ることができる。
【0039】
〔本発明の実施の形態に係る治療用組成物の実施例〕
以下で、本発明の実施の形態に係る治療用組成物について、具体的な実験を基にして、実施例としてさらに具体的に説明する。しかしながら、この実施例は一例にすぎず、これに限定されるものではない。
以下の実施例1〜5においては、本発明の実施の形態に係るGLP−1関連組成物としては、GLP−1を用いた。また、内在性グレリン阻害組成物としては、グレリン受容体阻害剤[D−Lys3]−GHRP−6を用いた。
【実施例1】
【0040】
(正常ラット膵島におけるインスリン分泌)
正常ラット膵島におけるインスリン分泌に対する内在性グレリン阻害組成物及び/又はGLP−1関連組成物の影響を調査した。8−12週齢の正常なウィスターラットから膵島をコラゲナーゼ消化法により分離し、分離した膵島を集め、2.8mM又は8.3mMのグルコースの存在下で、KRBH(129mMのNaCl,5.0mMのNaHCO3,4.7mMのKCl,1.2mMのKH2PO4,2.0mMのCaCl2,1.2mMのMgSO4,10mMのHEPES,pH=7.4,0.1%のBSA)中で37℃、1時間培養した。さらに、8.3mMのグルコースの存在下では、10nMのGLP−1及び1μMの[D−Lys3]−GHRP−6を各々単独、若しくは併用して使用した。それぞれの群におけるインスリン濃度は、ELISAキット(和光純薬工業(株))を用いて測定した。
【0041】
図1を参照して、正常ラット膵島のインスリン分泌測定例を示す。縦軸は、インスリン分泌量(Insulin release (ng/islet/hr))を示す。横軸は、左側から、グルコース2.8mMのみ投与した群、グルコース8.3mMのみ投与した群、グルコース8.3mMの存在下において内在性グレリン阻害組成物のみ作用した群、グルコース8.3mMの存在下においてGLP−1関連組成物のみ作用した群、グルコース8.3mMの存在下において内在性グレリン阻害組成物及びGLP−1関連組成物を併用して作用した群を示す。棒グラフの真上の数字は、実験に用いたラットの各群におけるサンプル数を示す。なお、1サンプルには、単離した膵島7−10個を含む。
【0042】
図1より、正常ラット膵島では、グルコースを投与するとインスリン分泌量が上昇した。そして、グルコース8.3mMのみ投与した群と比較して、内在性グレリン阻害組成物又はGLP−1関連組成物を各々単独で処方させた場合において、インスリン分泌は増強していた(t−検定にて、各々グルコース8.3mMのみ投与した群に対してp<0.05。以下、t−検定を用いて説明する)。
さらに、内在性グレリン阻害組成物又はGLP−1関連組成物を各々単独で処方させた群よりも、内在性グレリン阻害組成物及びGLP−1関連組成物を併用して作用させた群の方がインスリン分泌が増強していた(グルコース8.3mMの存在下においてGLP−1関連組成物のみ作用した群に対してp<0.05)。
すなわち、内在性グレリン阻害組成物及びGLP−1関連組成物を併用して作用させた場合には、有意にインスリン分泌量が上昇することから、今まで単独で用いていた処方量よりも、より少ない量で薬効を得ることができると解される。
このように、正常な対象において、本発明の実施の形態に係る治療用組成物は、2型糖尿病に対する予防または治療効果が認められる。
【実施例2】
【0043】
(2型糖尿病GKラット膵島におけるインスリン分泌)
2型糖尿病Gotoh−Kakizaki(GK)ラット膵島におけるインスリン分泌に対する内在性グレリン阻害組成物及び/又はGLP−1関連組成物の影響を調査した。実施例1に記載の正常ラット膵島におけるインスリン分泌と同様の条件を用いて実験を行った。2型糖尿病GKラットとは、インスリン非依存型糖尿病である2型糖尿病を発症するモデルラットとして確立された系統のラットである。
【0044】
図2を参照して、2型糖尿病GKラット膵島のインスリン分泌測定例を示す。縦軸は、インスリン分泌量(Insulin release (ng/islet/hr))を示す。横軸は、左側から、グルコース2.8mMのみ投与した群、グルコース8.3mMのみ投与した群、グルコース8.3mMの存在下において内在性グレリン阻害組成物のみ作用した群、グルコース8.3mMの存在下においてGLP−1関連組成物のみ作用した群、グルコース8.3mMの存在下において内在性グレリン阻害組成物及びGLP−1関連組成物を併用して作用した群を示す。棒グラフの真上の数字は、実験に用いたラットの各群におけるサンプル数を示す。
【0045】
図2より、正常ラット膵島と同様に、2型糖尿病GKラット膵島でも、グルコースを投与するとインスリン分泌量が上昇した。そして、グルコース8.3mMのみ投与した群と比較して、内在性グレリン阻害組成物又はGLP−1関連組成物各々単独で処方させた場合において、インスリン分泌は増強していた(各々グルコース8.3mMのみ投与した群に対してp<0.01及びp<0.001)。さらに、内在性グレリン阻害組成物又はGLP−1関連組成物を各々単独で処方させた群よりも、内在性グレリン阻害組成物及びGLP−1関連組成物を併用して作用させた群の方がインスリン分泌が増強していた(グルコース8.3mMの存在下において内在性グレリン阻害組成物のみ作用した群に対してp<0.01)。
このように内在性グレリン阻害組成物及びGLP−1関連組成物を併用して作用させた場合には、有意にインスリン分泌量が上昇することから、今まで単独で用いていた処方量よりもより少ない量で薬効を得ることができると共に、2型糖尿病を治療するための組成物として用いることも可能であることを示すことができた。
【実施例3】
【0046】
(2型糖尿病GKラットへの糖負荷試験)
2型糖尿病GKラットの腹腔内への糖負荷試験(IPGTT)を行い、対象に急性の糖負荷をかけた際の内在性グレリン阻害組成物及び/又はGLP−1関連組成物の影響を調査するために、血糖値及びインスリン分泌の測定を行った。
全ての実験群の2型糖尿病GKラットには、一晩絶食させた後、1gグルコース/kg体重を腹腔内に投与し、その他の物質を投与しないControl群、0.3μmol/kg体重の[D−Lys3]−GHRP−6を投与した群、0.3nmol/kg体重のGLP−1を投与した群、0.3μmol/kg体重の[D−Lys3]−GHRP−6及び0.3nmol/kg体重のGLP−1を併用して投与した群の調査を行った。尾静脈より採血を行いグルコース濃度及びインスリン濃度をそれぞれ測定した。インスリン濃度の測定は、ELISAキット(和光純薬工業(株)社製)を用い、グルコース濃度の測定は、グルコカードDIAメーター(GlucoCard DIA meter、Arkray社製)を用いた。
【0047】
図3Aを参照して、2型糖尿病GKラットの血糖値の測定例を示す。縦軸は、血糖値(Blood glucose(mg/dl))を示す。横軸は、経過時間(Time(min))を示す。図3Aより、全ての実験群において糖負荷後30〜60分で各群の血糖値はピークに達した。そして、120分経過した時には、コントロールや内在性グレリン阻害組成物又はGLP−1関連組成物を各々単独で処方させた群よりも、内在性グレリン阻害組成物及びGLP−1関連組成物を併用して作用させた群は有意に血糖値が減少していた(Control群に対してp<0.05)。これにより、内在性グレリン阻害組成物及びGLP−1関連組成物を併用して作用させた場合には、より早く血糖値を正常値に戻すことができるため、2型糖尿病を治療するための組成物として効果が高いことが示された。
また、図3Bを参照して、2型糖尿病GKラットのインスリン分泌の測定例を示す。縦軸は、インスリン分泌量(Insulin release (ng/ml))を示す。横軸は、経過時間(Time(min))を示す。図3Bより、糖負荷後15〜30分で全ての群のインスリン分泌量は増加した。その中で、コントロールや内在性グレリン阻害組成物又はGLP−1関連組成物を各々単独で処方させた群よりも、内在性グレリン阻害組成物及びGLP−1関連組成物を併用して作用させた群において有意にインスリン分泌量が増加していた(Control群に対してp<0.05)。これは、内在性グレリン阻害組成物及びGLP−1関連組成物を併用して作用させた場合には、図3Bで示したようにインスリン分泌量が有意に増加することに対応して、図3Aで示したように血糖値が有意に減少したと解される。
このように、内在性グレリン阻害組成物及びGLP−1関連組成物を併用して作用させた場合には、有意にインスリン分泌量が増加して、血糖値が元に戻る時間が短くなった。したがって、本発明の実施の形態に係る治療用組成物は、今まで単独で内在性グレリン阻害組成物又はGLP−1関連組成物を処方していた場合よりも、2型糖尿病を治療するための組成物としての高い薬効を得ることができることが示された。
【実施例4】
【0048】
(正常ラット膵島におけるcAMP産生)
正常ラット膵島におけるcAMP(Cyclic adenosine monophosphate)産生に対するGLP−1関連組成物及び/又はグレリン(Ghrelin)の影響を調査した。膵島の培養は、実施例1に記載の正常ラット膵島におけるインスリン分泌と同様に、8−12週齢の正常なウィスターラットから膵島をコラゲナーゼ消化法により分離し、分離した膵島を集め、ホスホジエステラーゼ阻害剤のIBMX(0.5mM)存在下で2.8mM又は8.3mMのグルコースを含むKRBH中で37℃、1時間インキュベートした。さらに、8.3mMのグルコースの存在下では、10nMのGLP−1のみ、並びに10nMのGLP−1及び10nMのグレリン(Ghrelin)とを併用して作用した。各群におけるcAMP産生量は、cAMP測定EIAキット(アマシャム社製)を用いて測定した。
【0049】
図4を参照して、正常ラット膵島のcAMP量の測定例を示す。縦軸は、cAMP量(cAMP fmol/islet/hr)を示す。横軸は、左側から、グルコース2.8mMのみ投与した群、グルコース8.3mMのみ投与した群、グルコース8.3mMの存在下においてGLP−1関連組成物のみ作用した群、グルコース8.3mMの存在下においてGLP−1関連組成物及びグレリンを併用して作用した群を示す。実験に用いたラットの個体数は、各群において9サンプルである(n=9)。
【0050】
図4より、GLP関連組成物を作用した群は、有意にcAMP産生が上昇していた(グルコース8.3mMのみ投与した群に対してp<0.01)。また、GLP−1関連組成物を単独で作用した群よりも、GLP−1関連組成物及びグレリンを併用して作用した群の方がcAMP産生が抑制されていた(グルコース8.3mMの存在下においてGLP−1関連組成物のみ作用した群に対してp<0.01)。
細胞内cAMP産生が増加するとインスリン分泌が促進されることが既に知られているが、そのcAMP産生を制御する上流因子として、GLP−1及びグレリンが関与していることが分かった。すなわち、GLP−1関連組成物はcAMP産生量を上昇させ、グレリンはcAMP産生量を抑制する(グレリン阻害組成物はcAMP産生量を上昇させる)という細胞内cAMP量の相反調整メカニズムも明らかとなった。
従って、GLP−1関連組成物及びグレリン阻害組成物の併用作用によるインスリン分泌増強は、細胞内cAMP産生量の増強により説明される。このように、本発明の発明者は、GLP−1関連組成物及びグレリン阻害組成物の併用作用によるインスリン分泌増強と2型糖尿病の治療有効性に関して、細胞内シグナル伝達レベルでの根拠を証明した。
【実施例5】
【0051】
(2型糖尿病GKラット膵島におけるcAMP産生)
2型糖尿病GKラット膵島におけるcAMP産生に対する内在性グレリン阻害組成物及び/又はGLP−1関連組成物の影響を調査した。実施例2に記載の2型糖尿病GKラット膵島におけるインスリン分泌を測定した場合と同様の条件の群を用いて実験を行った。各群におけるcAMP産生量は、実施例4と同様にcAMP測定EIAキット(アマシャム社製)を用いて測定した。
【0052】
図5を参照して、2型糖尿病GKラット膵島のcAMP量の測定例を示す。縦軸は、cAMP量(cAMP fmol/islet/hr)を示す。横軸は、左側から、グルコース2.8mMのみ投与した群、グルコース8.3mMのみ投与した群、グルコース8.3mMの存在下において内在性グレリン阻害組成物のみ作用した群、グルコース8.3mMの存在下においてGLP−1関連組成物のみ作用した群、グルコース8.3mMの存在下において内在性グレリン阻害組成物及びGLP−1関連組成物を併用して作用した群を示す。実験に用いたラットの個体数は、各群において10サンプルである(n=10)。
【0053】
図5より、グルコースのみを投与した群、内在性グレリン阻害組成物又はGLP−1関連組成物を各々単独で処方させた群よりも、内在性グレリン阻害組成物及びGLP−1関連組成物を併用して作用させた群の方がcAMP産生が増強していた(グルコース8.3mMの存在下において内在性グレリン阻害組成物のみ作用した群に対してp<0.05)。
このように内在性グレリン阻害組成物及びGLP−1関連組成物を併用して作用させた場合には、各々単独に比べて膵島β細胞のcAMP産生が上昇した。したがって、実施例4と同様に、内在性グレリン阻害組成物及びGLP−1関連組成物の併用作用によりβ細胞シグナル伝達が増強され、2型糖尿病の治療用組成物としての併用治療の有用性の根拠を細胞内メカニズムで示した。
【0054】
このように、実施例5の糖負荷試験においては、単独投与で効果のない濃度のグレリン捨抗薬とGLP−1を共投与することにより血中インスリン値の有意な上昇と血糖値の有意な低下を観察している。
これにより、最大効果濃度未満の濃度において、内在性グレリン阻害組成物又はGLP−1関連組成物が相乗的な作用を示し、顕著な効果があることを示している。
【0055】
つまり、GLP−1関連組成物により、cAMPを増加させてインスリンの分泌を増やすことができるものの、従来は内在性のグレリンによりこのcAMPの増幅効果は抑制されていた。これに対し、GLP−1関連組成物及びグレリン阻害剤を併用することで、GLP−1によるcAMP産出量を顕著に増やすことができる。さらに、グレリン阻害剤により、後述の実施例9に係る内因性グレリンのKv2.1チャネルの活性化作用によるインスリン分泌の抑制に対応することができる。
すなわち、GLP−1関連組成物及びグレリン阻害組成物を併用することで、cAMPの産生量の増加を介して、膵島β細胞におけるインスリン分泌を促進することができる。
【0056】
このように、グレリンがcAMPの産生を抑制していることはこれまで知られておらず、当業者がGLP−1関連組成物及びグレリン阻害組成物の併用を積極的に選択することは想定できなかった。
たとえば、GLP−1関連組成物とガストリン化合物(例えば、特表2007−519642号公報参照)の組み合わせについて、発明者らがcAMP産生量を測定する予備的な実験をしたところ、GLP−1を単独で使用した場合と同様のcAMP産生量の上昇しか見られなかった。これは、いくつかの糖尿病治療用の化合物の組み合わせについても同様であった。
これに対して、GLP−1関連組成物及びグレリン阻害組成物を併用することで、糖尿病の治療用の化合物を単に組み合わせるよりも、cAMPの産生量を増加させられる。
【0057】
以上のように、本発明によれば、GLP−1関連組成物とグレリン阻害組成物との併用により、膵島β細胞への刺激により膵島β細胞を疲弊させることなく2型糖尿病治療用の組成物としてインスリン分泌促進・血糖降下作用を高めることができ、対象の血糖値を正常の状態に保つことが可能となる。さらに、GLP−1関連組成物のより低い臨床使用濃度でのインスリン分泌促進・血糖降下作用が得られるため、嘔吐、低血糖発作などの副作用が回避できる。
【0058】
また、GLP−1関連組成物及び内在性グレリン阻害組成物を併用して作用させることによって、糖尿病肥満者への有効な治療法となる可能性がある。すなわち、脳視床下部室傍核(PVN)へのGLP−1投与は、摂食を抑制することが知られている。さらに、摂食亢進因子のグレリンの阻害は摂食を抑制することも知られている。したがって、本発明の実施の形態で示したGLP−1関連組成物及び内在性グレリン阻害組成物を併用して作用させることによって、抗過食、抗肥満といった効果も抗糖尿病作用とともに期待される。この際に、本発明の組成物は、GLP−1関連組成物とグレリン阻害組成物をそれぞれ単独で作用させるよりも低濃度で効果が得られる。このため、薬剤としての副作用を問題としないレベルで使用可能である。予防的に用いるためには、例えば食品に添加する等の投与方法の検討も有用である。
【0059】
このように、GLP−1関連組成物とグレリン阻害組成物との併用により2型糖尿病治療の有効性の基礎的データが示され、その臨床応用の基盤が確立された。さらに、GLP−1とグレリン阻害は摂食抑制作用を持つことから、これら2つの方法の併用による抗肥満効果も期待される。
【実施例6】
【0060】
(正常ラットおよび2型糖尿病GKラット血中グレリン濃度と血糖値の測定)
正常なウィスターラット及び2型糖尿病GKラットの血糖値と血中グレリン濃度の測定を行った。自由摂餌させた条件(Fed)で尾静脈より採血した後、48時間絶食後(Fast)と、その後、再度餌を与えた2時間後(Refed)に尾静脈より採血し血中グレリン濃度及び血糖値(血中グルコース濃度)の測定を行った。
グレリン濃度の測定は、ELISAキット(三菱化学ヤトロン(株)社製)を用いた。グルコース濃度の測定は、グルコカードDIAメーター(GlucoCard DIA meter、Arkray社製)を用いた。
【0061】
図6のグラフを参照して、正常のウィスターラット(正常ラット)および2型糖尿病GKラットについて、図6(a)は血中のグレリン濃度、図6(b)は血糖値の測定の結果について説明する。
図6(a)(b)とも、正常ラット、2型糖尿病GKラットについて、個体数10(n=10)の実験結果を平均してプロットした。各プロットにおいて、白丸は正常ラット(Wistar)、黒丸は2型糖尿病GKラット(GK)の結果をそれぞれ示すプロットである。
【0062】
図6(a)においては、縦軸は、グレリン濃度(Plasma ghrelin levels (fmol/ml))をELISAキットの反応レベルにより、1〜100で示す。また、横軸は、自由摂餌させた条件(Fed)、48時間後絶食後(Fast)、再度餌を与えた2時間後(Refed)のそれぞれの測定条件を示す。
図6(a)によると、正常ラットの血中グレリン濃度は空腹時(Fast)に高く、食後(Refed)低下する。一方、GKラットの血中グレリンのレベルは、食後(Refed)で低下せず高値のままであった。それぞれ血中グレリンのレベルは正常ラットに比べて、自由摂餌させた条件(Fed)ではp<0.01であり、食後(Refed)ではp<0.05であった。
【0063】
また、図6(b)は、縦軸は、血糖値(Blood glucose (mg/dl))の測定結果を示す。横軸は、自由摂餌させた条件(Fed)、48時間後断食後(Fast)、再度餌を与えた2時間後(Refed)のそれぞれの測定条件を示す。
図6(b)によると、2型糖尿病GKラットは、食後(Fed)で高血糖を示した。空腹時の血糖は変化なかった。高血糖のレベルとしては、正常ラット群と比べて、2型糖尿病GKラットは、自由摂餌させた条件(Fed)、食後(Refed)において、p<0.01であった。
【0064】
このように、2型糖尿病のモデルとなるGKラットにおいては、グレリンの血中レベルは顕著に高くなっている。このため、本実施形態に係る内在性グレリン阻害組成物を投与することで、上述の実施例4、5に示したように、インスリン分泌に重要なcAMPを抑制している内在性グレリンに対抗することができる。
このように、本発明の実施の形態に係るGLP−1関連組成物とグレリン阻害組成物との併用することで、内在性のグレリンに対抗する顕著な効果が得られる。
【実施例7】
【0065】
(正常ラットおよび2型糖尿病GKラットの膵島mRNA発現量の測定)
5週齢の正常のウィスターラット(正常ラット)および2型糖尿病GKラットから膵島をコラゲナーゼ消化法により分離し、膵島におけるメッセンジャーRNA発現量をSYBR Green(タカラバイオ社製)を用いたリアルタイムRT−PCR法により測定した。ここでは、グレリン(遺伝子ID、NM_021669.2、プライマー配列は配列番号1(Primer 1)と配列番号2(Primer 2)とを使用)、Kir6.2(遺伝子ID、NM_031358.3、プライマー配列は配列番号3(Primer 3)と配列番号4(Primer 4)とを使用)、インスリンの遺伝子であるInsulin−1(遺伝子ID、NM_019129.2、プライマー配列は配列番号5(Primer 5)と配列番号6(Primer 6)とを使用)のメッセンジャーRNA量を測定した。なお、Kir6.2は、グルコース刺激による膵島β細胞からのインスリン分泌に関連することが知られている、ATP感受性カリウム(KATP)チャネルのサブユニットである。
【0066】
図7は、正常ラット(Wistar)および2型糖尿病GKラット(GK)の膵島mRNA発現量の測定の結果を示すグラフである。縦軸は正常ウィスターラットのmRNA発現量を1とした時の相対的発現量を示す。横軸は、それぞれ、グレリン、Kir6.2、インスリン(Insulin−1)の発現量を示す。なお、実験に用いた正常ラットおよび2型糖尿病GKラットの個体数は、それぞれ7(n=7)である。
このように、2型糖尿病GKラットでは、膵島グレリンのmRNA発現が亢進していた(p<0.05)。すなわち、2型糖尿病GKラットにおいては、血中のグレリンのみならず、膵島においても、グレリンの濃度が高くなっていると考えられる。
これは、膵島による自らのグレリン分泌の増加により、cAMP産出を抑制させ、インスリン分泌を抑えていることが2型糖尿病GKラットの病原性に関わっていることを示唆している。
このため、本実施形態に係る内在性グレリン阻害組成物は、膵島のcAMP産出の抑制をなくし、GLP−1関連組成物によるcAMP産出を増加させることで、cAMPによる膵島β細胞のインスリン分泌及び再生促進作用を高めることができることが分かる。
【実施例8】
【0067】
(ラットの膵島β細胞内Ca2+濃度([Ca2+]i)の測定)
次に、膵島β細胞のインスリン分泌の中心的制御因子である膵島β細胞内Ca2+濃度([Ca2+]i)を測定した。ここでは、正常ウィスターラット(正常ラット)および2型糖尿病GKラットからコラゲナーゼ消化法により分離した膵島をさらに単一細胞にし、単離した膵島β細胞[Ca2+]iをCa2+感受性蛍光色素のfura−2(同仁社製)を用いた蛍光顕微鏡画像解析法により測定した。
灌流液中のグルコース濃度を2.8mM(2.8G)から8.3mM(8.3G)にし、その後8.3G下でGLP−1(10nM)及び/又はグレリン(10nM)を投与した。
膵島β細胞の同定指標としては、グルコース濃度8.3Gでの刺激およびインスリン分泌刺激薬のトルブタミド(Tolb;300μM)投与の両方により細胞内Ca2+濃度が上昇したものをβ細胞と判断した。
【0068】
図8〜図10を参照して、ラットの膵島β細胞内Ca2+濃度([Ca2+]i)の測定の結果について説明する。
図8は、正常ラットの膵島β細胞において8.3mMグルコース存在下でGLP−1を投与した例である。縦軸は、細胞内Ca2+濃度を反映するfura−2蛍光比(F340/F380)を示し、値が大きいほどCa2+濃度が高いことを示す。横軸は分単位の経過時間(Time(min))である。なお、図8中の「Tolb」は、コントロールのTolbを投与した際の波形を示す。
結果として、GLP−1は、膵島β細胞[Ca2+]iを増加させた。
【0069】
図9は、正常ラット膵島β細胞において、8.3mMグルコース存在下でGLP−1とグレリンとを投与した例である。縦軸、横軸とも図8と同様である。
結果として、グレリンはGLP−1により誘発される膵島β細胞[Ca2+]i増加を抑制することが分かる。つまり、グレリンにより上述のようにcAMP産生が抑制されているため、GLP−1によるcAMP依存性の[Ca2+]i増加が抑えられていると考えられる。
【0070】
図10は、正常ウィスターラット(正常ラット)及び2型糖尿病GKラットで、グレリン作用の濃度−反応曲線を比較した結果を示すグラフである。白丸は正常ラットを示し、黒丸は2型糖尿病GKラットを示す。
縦軸はグレリン濃度0(−)を100%とした際の、GLP−1投与時の膵島β細胞[Ca2+]iの増加率(% GLP−1−induced [Ca2+]i increases)を示している。横軸は、グレリンの濃度(Ghrelin(M))を示し、それぞれ0M(−)、10-10M、10-9M、10-8M、10-7Mを示す。
図10の結果として、GKラット膵島β細胞ではグレリンの反応性が亢進しており、グレリンの濃度−反応曲線が左方シフトしていることが分かる。これは、2型糖尿病GKラットで、膵島β細胞のグレリン濃度に対する感受性が亢進していることを示している。
このため、2型糖尿病GKラットは、内在性のグレリンを抑制することで、よりGLP−1によるインスリン分泌を促進できると考えられる。
【0071】
以上のように、実施例8において、GLP−1関連組成物は、膵島β細胞の細胞内のカルシウムイオン濃度[Ca2+]iの増加によりインスリン分泌を促しているものの、これをグレリンが抑制することが分かる。
すなわち、GLP−1関連組成物とグレリン阻害組成物を併用することで、GLP−1による[Ca2+]iの増加の抑制を除去し、よりインスリン分泌を促すことができる。すなわち、膵島β細胞のインスリン分泌促進・血糖降下の作用を得るために、GLP−1関連組成物とグレリン阻害組成物を、従来より低い濃度にて用いることができるという効果が得られる。
これは、上述のcAMP増強の作用と合わせて、ヒトの2型糖尿病の患者にも同様の効果があると考えられる。
【実施例9】
【0072】
(正常ラットおよび2型糖尿病GKラットの膵島mRNA発現量の測定)
5週齢の正常ウィスターラット(正常ラット)および2型糖尿病GKラットから膵島をコラゲナーゼ消化法により分離し、膵島におけるメッセンジャーRNA発現量をSYBR Green(タカラバイオ社製)を用いたリアルタイムRT−PCR法により測定した。いくつかの膵島β細胞で発現している遺伝子について発現を調べた内の、カリウムチャネルの一つであるKv2.1チャネル(遺伝子ID、NM_013186.1、gi:57785。プライマー配列は下記配列表の配列番号7(Primer 7)と配列番号8(Primer 8)とを使用)、コントロールのグレリン受容体(GHS−R)(遺伝子ID、NM_032075.3。プライマー配列は下記配列表の配列番号9(Primer 9)と配列番号10(Primer 10)とを使用)の結果について示す。
図11を参照して説明すると、縦軸は、正常ラット(Wistar)を1とした際の、膵島のメッセンジャーRNA(mRNA)の2型糖尿病GKラットでの相対的発現量(Relative mRNA expression in islet)を示す。横軸は、それぞれKv2.1チャネルと、GHS−Rの結果について示す。2型糖尿病GKラット膵島では、膵島β細胞グレリンシグナルを仲介するKv2.1チャネルのmRNA発現が亢進していた(p<0.01)。すなわち、Kv2.1チャネルが膵島β細胞のインスリン分泌連関の生理的な抑制因子として機能していることが示唆される。
【0073】
図12の概念図を参照して、上述の結果について説明する。
正常ラットにおいては、膵島β細胞内へのグルコース濃度増加による刺激で、ATP感受性カリウム(KATP)チャネルが閉鎖され、膵島β細胞の細胞内のマイナス電位が低下する脱分極が起こる。この脱分極により、電位依存性カルシウム(Ca)チャネルが開口し、細胞内にカルシウムイオン(Ca2+)が流入することで、インスリンが分泌されると考えられている。ここで、cAMP産生量が増加すると、電位依存性カルシウム(Ca)チャネルをさらに活性化し、またインスリンの放出過程を増強することがわかっている。図12では、このようなグルコース刺激によるインスリンの分泌を増強する経路を実線の矢印で示している。
これに対して、Kv2.1チャネルの活性化は、細胞膜を再分極させて静止電位に戻すことで活動電位を抑制し、電位依存性カルシウムチャネルを介したカルシウムイオン流入およびインスリン分泌を抑制すると考えられる。グルコース代謝により、この系が抑制されると考えられる。
ここで、グレリンは、グレリン受容体(GHS−R)とGTP結合タンパク質Gi2α2サブユニットを介したシグナルにより、Kv2.1チャネルを活性化する。これにより、細胞膜が再分極され、カルシウムイオン流入が抑制され、よってインスリン分泌を抑制すると考えられる。図12では、このようなグレリンによるインスリン分泌に抑制する経路を点線の矢印で示している。
すなわち、Kv2.1チャネルの活動を阻害する組成物、例えば、クモ毒のStromatoxinやguangxitoxin−1Eといった化合物は、本発明の実施の形態に係るグレリン阻害組成物と同様に用いることができる。
つまり、本発明の実施の形態に係るGLP−1関連組成物とグレリン阻害組成物と同様に、GLP−1関連組成物とKv2.1チャネル阻害組成物を用いることができ、同様の効果を得ることができる。
なお、ヒトの2型糖尿病患者においても、Kv2.1チャネルの発現量が亢進していることが予備的な実験により分かっており、同様の効果が期待できる。
【実施例10】
【0074】
(2型糖尿病GKラットへのグレリン阻害組成物の浸透圧ポンプによる持続投与)
本発明の実施の形態に係るグレリン阻害組成物であるグレリン受容体拮抗薬を2型糖尿病GKラットへ浸透圧ポンプにより持続投与した際の血糖値の変化について測定した。具体的には、グレリン受容体阻害剤[D−Lys3]−GHRP−6を充填した浸透圧ミニポンプ(alzet社製)を6週齢の2型糖尿病GKラットの背部皮下に埋め込み、その後、28日間にわたり随時血糖値をグルコカードDIAメーター(GlucoCard DIA meter、Arkray社製)を用いて測定した。
図13と図14とを参照して、このグレリン受容体拮抗薬の浸透圧ポンプによる持続投与の結果について説明する。
図13は、浸透圧ミニポンプの測定結果を示すグラフである。縦軸は血糖値(Blood glucose mg/dl)を示し、横軸は埋め込み後の日数(Day after implantation)を示す。また、グラフ中で、白丸は透圧ミニポンプが埋め込まれていないコントロール(Control)、黒丸は浸透圧ミニポンプが埋め込まれている([D−Lys3]−GHRP−6)、2型糖尿病GKラットを示す。
この結果のように、2型糖尿病GKラットへのグレリン受容体拮抗薬の浸透圧ポンプによる持続投与(3μmol/kg/day)により高血糖が是正された。
【0075】
図14は、埋め込み後の血糖値の平均を示すグラフである。縦軸は平均の血糖値(Avaraged Blood glucose mg/dl)を示す。横軸は、浸透圧ミニポンプが埋め込まれていないコントロール(Control)と浸透圧ミニポンプを埋め込んだ場合の結果([D−Lys3]−GHRP−6)について示す。このように、グレリン受容体拮抗薬の浸透圧ポンプを体内に埋め込むことで、高血糖を是正することができる。すなわち、投与28日間の平均随時血糖は、グレリン受容体拮抗薬の投与により有意に低下した。
これらの結果から、グレリン阻害組成物を、浸透圧ポンプにより持続投与することは2型糖尿病の治療に有効であることが分かる。これにより、血糖値を正常レベルに近づけた上で、さらに血糖値が高い場合に、通常の投与量よりも低いレベルのGLP−1関連組成物を併用することで、低血糖等の副作用を抑えて血糖値を下げることができると期待できる。
【実施例11】
【0076】
(2型糖尿病GKラットへの糖負荷試験)
実施例3と同様に、2型糖尿病GKラットへの糖負荷試験と、インスリン分泌との関係の測定を行った。具体的には、2型糖尿病GKラットの腹腔内への糖負荷試験(IPGTT)を行い、対象に急性の糖負荷をかけた際の内在性グレリン阻害組成物及び/又はGLP−1関連組成物の影響を調査するために、血糖値及びインスリン分泌の測定を行った。実験方法は、実施例3と同様であり、全ての実験群の2型糖尿病GKラットには、一晩絶食させた後、1gグルコース/kg体重を腹腔内に投与し、その他の物質を投与しないコントロール(Control)群、0.3μmol/kg体重のグレリン阻害組成物である[D−Lys3]−GHRP−6を投与した群、0.3nmol/kg体重のGLP−1を投与した群、0.3μmol/kg体重の[D−Lys3]−GHRP−6及び0.3nmol/kg体重のGLP−1を併用して投与した群の調査を行った。尾静脈より採血を行いグルコース濃度及びインスリン濃度をそれぞれ測定した。インスリン濃度の測定は、ELISAキット(和光純薬工業(株)社製)を用い、グルコース濃度の測定は、グルコカードDIAメーター(GlucoCard DIA meter、Arkray社製)を用いた。
【0077】
図15(a)を参照して、2型糖尿病GKラットの血糖値の測定例を示す。縦軸は、血糖値(mg/dl)について説明する。図3Aと同様に、全ての実験群において糖負荷後30〜60分で各群の血糖値はピークに達した。そして、120分経過した時には、コントロールや内在性グレリン阻害組成物又はGLP−1関連組成物を各々単独で処方させた群よりも、内在性グレリン阻害組成物及びGLP−1関連組成物を併用して作用させた群は有意に血糖値が減少していた(Control群に対してp<0.05)。すなわち、実施例3と同様に、GLP−1関連組成物とグレリン阻害組成物を併用することで、それぞれを単独で使用した際には効果がない投与量で血糖値を下げることができる。
また、図15(b)を参照して、2型糖尿病GKラットのインスリン分泌の測定例について説明する。縦軸は、インスリン分泌量(ng/ml)を示す。横軸は、経過時間(min)を示す。図3Bと同様に、糖負荷後15〜30分で全ての群のインスリン分泌量は増加した。その中で、コントロールや内在性グレリン阻害組成物又はGLP−1関連組成物を各々単独で処方させた群よりも、内在性グレリン阻害組成物及びGLP−1関連組成物を併用して作用させた群において有意にインスリン分泌量が増加していた(Control群に対してp<0.05)。実施例3と同様に、GLP−1関連組成物とグレリン阻害組成物を併用することで、それぞれを単独で使用した際には効果がない投与量でインスリン分泌を増やし、これにより血糖値を下げることができると考えられる。
【0078】
図16(a)を参照して、図15(a)に示した血糖値の血糖値0〜120分の曲線下面積について説明する。図16(a)は、図15(a)の実験群のグルコース投与0〜120分の曲線下面積(AUC)を算出したグラフである。AUC(Area Under Curve、血中濃度曲線下面積)は、薬物血中濃度−時間曲線下面積を示す数値である。すなわち、対象成分の血中濃度(Y軸)と経過時間(X軸)のグラフの面積であり、図16(a)の場合は血糖の量を示す。図15(a)のグラフによると、グレリン阻害組成物0.3μmol/kg、GLP−1を0.3nmol/kgそれぞれ単独で与えても血糖値は下がらなかった。これに対して、グレリン阻害組成物とGLP−1とを併用した群ではp<0.05で有意に血糖値が低下した。このように、グレリン受容体阻害剤及びGLP−1を併用すると、それぞれの単独使用では作用を示さない用量を与えても、有意な血糖値低下作用を示すことが確認された。
図16(b)を参照して、図15(b)に示したインスリン値0〜30分の曲線下面積について説明する。図16(b)は、図15(b)の実験群のグルコース投与0〜30分の血漿インスリンの曲線下面積を産出したグラフである。図15(b)のグラフによると、グレリン阻害組成物0.3μmol/kg、GLP−1を0.3nmol/kgをそれぞれ与えても、血漿インスリン濃度はそれほど増加しなかった。これに対して、併用した群ではp<0.05で有意に血漿インスリン濃度が増加した。このように、グレリン受容体阻害剤及びGLP−1の各々単独作用を示さない用量を併用することで、有意な血漿インスリン分泌促進作用が確認された。
【0079】
以上の実施の形態及び実施例で説明された構成、配置関係等については本発明が理解・実施できる程度に概略的にしたものにすぎない。
従って本発明は、説明された実施の形態及び実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示される技術的思想の範囲を逸脱しない限り様々な形態に変更することができる。
【0080】
上述のように、従来、GLP−1アナログおよびDPP4阻害剤は、従来の2型糖尿病治療薬(SU剤)に比べ、低血糖発作の副作用が少ない点で優れているが皆無ではなく、インスリン分泌促進・血糖降下作用は比較的弱いことが、これらの適用対象を狭めているという問題があった。
GLP−1アナログはかなりの頻度で嘔吐などの副作用を起こす。このため、使用濃度を低下できれば副作用を解消することができると期待される。
また、上述の実施例で示したように、GLP−1関連組成物とグレリン阻害組成物を併用することで、それぞれの組成物を単独で用いるよりもインスリン分泌を促進し、血糖降下を高めることができる。
また、GLP−1関連組成物とグレリン阻害組成物を併用することで、GLP−1アナログを低い臨床使用濃度でインスリン分泌促進・血糖降下作用が得られ、嘔吐、低血糖発作などの副作用を回避できる。
また、GLP−1関連組成物とグレリン阻害組成物を併用することで、低濃度でインスリン分泌を向上させることができるため、膵島β細胞の保護を行う保護用の組成物として使用することも可能である。
また、GLP−1関連組成物と内在性グレリン阻害組成物の併用により、各々単独で用いることに比べ、膵島β細胞のcAMP産生が顕著に増強される。すなわち、GLP−1関連組成物とグレリン阻害組成物の協同作用は、細胞内メカニズムとしても根拠がある。
また、cAMPには膵島β細胞再生促進作用があるので、GLP−1関連組成物と内在性グレリン阻害組成物を併用することにより、膵島β細胞の再生作用が増強され、β細胞数を低下させず二次無効をもたらさない、長期に渡り有効な2型糖尿病治療用の組成物として使用できる。
【0081】
より具体的に説明すると、GLP−1関連組成物の臨床応用は進んできているものの、副作用もまた問題になってきている。たとえば、GLP−1分解酵素(DPP4)阻害剤であるSitagliptin(シタグリプチンリン酸塩水和物錠、製品名:グラクティブ(登録商標)錠、及び、製品名:ジャヌビア(登録商標)錠、万有製薬社製)の市販直後調査の中間報告(2010年3月3日現在、小野薬品工業株式会社提供)によると、副作用が347例462件、重篤な副作用は37例52件あると報告されている。この副作用として、低血糖による意識障害、心不全、下痢等による死亡例も報告されている。
このように、GLP−1関連組成物を用いた際に、副作用の出ない濃度で用いつつ、膵島β細胞のインスリン分泌を増進させることが求められている。
これに対して、本発明の実施の形態に係るGLP−1関連組成物と内在性グレリン阻害組成物の併用、又はGLP−1関連組成物とKv2.1チャネル阻害組成物の併用により、投与量をより少なくして膵島β細胞のインスリン分泌を増進させることができる。
【0082】
また、グレリン阻害剤においても、主として肥満症の治療が検討されてきており、その結果として肥満関連疾患である2型糖尿病の治療が期待されている。
しかしながら、上述のように、GLP−1関連組成物とグレリン阻害剤を併用して使用すると、単に両方の薬剤の効果を合わせた以上の効果があることは当業者には予想できなかった。
すなわち、GLP−1関連組成物とグレリン阻害剤、又はGLP−1関連組成物とKv2.1チャネル阻害組成物の併用は、膵島β細胞を共通のターゲットとした糖尿病治療に有用である。
このGLP−1関連組成物とグレリン阻害剤、又はGLP−1関連組成物とKv2.1チャネル阻害組成物の併用は、グレリン受容体活性による細胞内cAMP産生の抑制を取り払うもので、グレリンの濃度が高く膵島β細胞内cAMPが低くグルコース刺激に応答しない状態になった2型糖尿病患者に効果が期待できる。
【0083】
なお、上記実施の形態の構成及び動作は例であって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して実行することができることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明によれば、GLP−1関連組成物とグレリン阻害組成物を併用することで、吐き気や低血糖等の副作用が少なく、それぞれの組成物を単独で用いるよりもインスリン分泌を促進する糖尿病治療/肥満治療用の組成物を提供することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
GLP関連組成物とグレリン阻害組成物とを含有する
ことを特徴とする糖尿病及び/又は肥満を治療する組成物。
【請求項2】
前記糖尿病は2型糖尿病であり、前記GLP−1関連組成物及び/又は前記グレリン阻害組成物は、成人における投与用量より低い濃度である
ことを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記グレリン阻害組成物及び前記GLP−1関連組成物の併用により膵臓ランゲルハンス島β細胞のcAMP産生量を増やす
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記GLP関連組成物がGLP−1である場合は、1日投与用量が0.1nmol/kg体重〜0.3nmol/kg体重であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記GLP関連組成物がGLP−1アナログのExenatideである場合は、成人における1日投与用量が1μg〜6μgであることを特徴とする1乃至3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記GLP関連組成物がGLP−1アナログのLiraglutideである場合は、成人における1日投与用量が0.1mg〜0.3mgであることを特徴とする1乃至3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
前記グレリン阻害組成物が[D−Lys3]−GHRP−6である場合に、1日投与用量は0.1μmol/kg体重〜0.3μmol/kg体重であることを特徴とする1乃至3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の組成物を含む、膵臓ランゲルハンス島β細胞の保護/再生促進組成物。
【請求項9】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の組成物を含む、膵臓ランゲルハンス島β細胞のcAMP産生促進組成物。
【請求項10】
GLP関連組成物、及びグレリン阻害組成物又はKv2.1チャネル阻害組成物のいずれかを含有する
ことを特徴とする糖尿病及び/又は肥満を治療する組成物。
【請求項11】
前記Kv2.1チャネル阻害組成物は、Stromatoxin又はguangxitoxin−1Eである
ことを特徴とする請求項10に記載の糖尿病及び/又は肥満を治療する組成物。
【請求項1】
GLP関連組成物とグレリン阻害組成物とを含有する
ことを特徴とする糖尿病及び/又は肥満を治療する組成物。
【請求項2】
前記糖尿病は2型糖尿病であり、前記GLP−1関連組成物及び/又は前記グレリン阻害組成物は、成人における投与用量より低い濃度である
ことを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記グレリン阻害組成物及び前記GLP−1関連組成物の併用により膵臓ランゲルハンス島β細胞のcAMP産生量を増やす
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記GLP関連組成物がGLP−1である場合は、1日投与用量が0.1nmol/kg体重〜0.3nmol/kg体重であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記GLP関連組成物がGLP−1アナログのExenatideである場合は、成人における1日投与用量が1μg〜6μgであることを特徴とする1乃至3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記GLP関連組成物がGLP−1アナログのLiraglutideである場合は、成人における1日投与用量が0.1mg〜0.3mgであることを特徴とする1乃至3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
前記グレリン阻害組成物が[D−Lys3]−GHRP−6である場合に、1日投与用量は0.1μmol/kg体重〜0.3μmol/kg体重であることを特徴とする1乃至3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の組成物を含む、膵臓ランゲルハンス島β細胞の保護/再生促進組成物。
【請求項9】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の組成物を含む、膵臓ランゲルハンス島β細胞のcAMP産生促進組成物。
【請求項10】
GLP関連組成物、及びグレリン阻害組成物又はKv2.1チャネル阻害組成物のいずれかを含有する
ことを特徴とする糖尿病及び/又は肥満を治療する組成物。
【請求項11】
前記Kv2.1チャネル阻害組成物は、Stromatoxin又はguangxitoxin−1Eである
ことを特徴とする請求項10に記載の糖尿病及び/又は肥満を治療する組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2011−6403(P2011−6403A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−120731(P2010−120731)
【出願日】平成22年5月26日(2010.5.26)
【出願人】(505246789)学校法人自治医科大学 (49)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月26日(2010.5.26)
【出願人】(505246789)学校法人自治医科大学 (49)
【Fターム(参考)】
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