説明

組成物

本発明は、幹細胞組込みを改善するための組成物に関する。本発明はまた、幹細胞組込みを改善する方法及び幹細胞組込みを改善するためのキットに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、幹細胞組込みを改善するための組成物に関する。本発明はまた、幹細胞組込みを改善する方法及び幹細胞組込みを改善するためのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
幹細胞に基づく治療法は、数多くの疾患、例えば中枢神経系(CNS)の疾患、何らかの実質臓器(例えば心臓、肝臓、腎臓、眼)の疾患及び筋障害の治療に対する見込みをもたらす。幹細胞療法は、幹細胞が疾患細胞又は損傷細胞を置換するために使用できるという所見に基づく。疾患細胞を置換するために適切な細胞型へと分化することができる幹細胞を、疾患細胞又は損傷細胞の部位に送達する。幹細胞は組織に機能的に組み込まれ、損傷細胞又は疾患細胞に取って代わる適切な細胞型へと分化する。これを行うことにより、数多くの疾患及び障害が治療できる。
【0003】
残念なことに、幹細胞療法には多くの困難が伴う。特に、幹細胞が確実に生存し、分化して、治療される組織に機能的に組み込まれるようにすることは難しい。適切な組込みがなければ、幹細胞療法には限られた価値しかない。
【0004】
本発明は、特に、網膜機能が疾患によって不可逆的に損傷された個体における視力の回復に関する。神経幹細胞及び網膜前駆細胞(retinal progenitor)の移植は網膜疾患の様々な実験モデルにおいて広範に実施されており、いくつかの試験はこれまでに種々の程度の成功を収めている(1-7)。しかし、この手順がヒト治療に適用できるまでには、適切な細胞の生存、分化及び網膜への移植細胞の機能的な組込みを促進するために多くの問題が解決される必要がある。脳由来前駆細胞のRoyal College of Surgeons(RCS)ラットへの網膜移植を含む試験で、光受容細胞の生存を促進することが示されたが、移植細胞は、一部の場合には光受容器層へと移動するものの、それらは網膜特異的マーカーを発現しない(8-10)。特異的網膜前駆体が機能的及び形態的再生のために必要であるか、又は特定の合図、例えば網膜損傷のような合図が移植細胞の適切な移動と分化のために必要とされるのではないかと示唆された。これらの見解は、脳前駆細胞及び眼幹細胞が、損傷網膜に移植された場合、最適ではないにせよ改善された網膜ニューロンへの組込みと分化を示すという所見によって確認された(11;12)。また、新生児の網膜は幹細胞移植を受け入れやすい環境を提供すること(13)、及び移植された網膜前駆細胞の個体発生段階が、変性網膜に組み込まれるこれらの細胞の能力を決定すること(14)も示された。
【0005】
ミュラーグリア細胞は、ゼブラフィッシュ、ニワトリ及びラットの出生後網膜において神経再生能力を示し(15-17)、最近では、神経幹細胞特徴を有するミュラーグリアの集団が成人の眼で同定された(18)。これらの細胞は、網膜疾患を治療するための細胞療法において使用される潜在的可能性を有するが、網膜を再生する実験的移植のために使用される他の幹細胞と同様に、新生児及び変性網膜に移植された場合、それらは限られた移動と組込みを示す(18)。ミュラー幹細胞及び視覚障害の治療におけるそれらの使用は、国際PCT出願国際公開第2005/054447号に記載されている。網膜変性は、グリア瘢痕の形成(19)及び重篤な小グリア細胞の活性化(20-22)によって特徴づけられ、それらは移植幹細胞の移動、組込み及び分化の欠如に寄与し得る。損傷後に増殖する能力を保持する成体CNSニューロンは、阻害性タンパク質、例えばコンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPG)のアグリカン、バーシカン及びニューロカンの存在のために、損傷誘導性グリア瘢痕を越えて突起を伸長することができない(23;24)。軸索誘導を阻害するこれらのタンパク質は(25)、ヒト網膜において同定されており、正常な発生の間に出現する(26)。網膜損傷に対するそれらの応答は広く検討されてはいないが、CSPGの沈着は損傷したラット視神経の再生を阻害することが示されている(27)。コンドロイチナーゼによる酵素的消化を用いたCSPGの分解は、損傷した脳(28)及び脊髄(29-31)において神経突起伸長及び軸索再生を増強する。CNS損傷を治療するための、CSPGを分解するコンドロイチナーゼの使用は、国際特許出願国際公開第03/074080号に開示されている。発明者らは、同様の処置が、治療される組織(例えば、網膜)に移植された幹細胞の機能的組み込みを促進し得る可能性があると仮定した。前記の証拠に基づき、発明者らは、CSPGの沈着及びマクロファージ/小グリア細胞の蓄積が、治療される組織に移植された場合の幹細胞の移動と組込みの成功を妨げ得るかどうかを検討した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
幹細胞の移動と組込みが限られているという問題は数多くの幹細胞療法において起こる。従って、幹細胞療法を改善するために幹細胞の移動と組込みを改善する方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、幹細胞の組込み及び/又は移動を改善するための組成物であって、
コンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPG)阻害剤;及び
抗炎症剤
を含有する組成物を提供する。
【0008】
本発明者らは、CSPG阻害剤と抗炎症剤の組合せが、幹細胞の組織への組込み及び/又は移動を促進することを見出した。特に、両剤の併用は、各々個々の薬剤単独の使用よりも有意に有効であることが認められた。
【0009】
組成物は、幹細胞が治療される臓器又は組織に組み込まれる及び/又は移動する必要がある、実質臓器又は固形組織の幹細胞治療において、幹細胞の組込み及び/又は移動を改善するためのものである。この組成物は、CNS障害、視覚障害、心疾患、肝疾患、肺疾患、腎疾患及び筋障害の幹細胞療法の間に幹細胞の組込み及び/又は移動を改善するために使用できる。CNS障害の幹細胞療法は、CNS組織が修復される必要があるいかなる障害も包含し、CNSを侵す任意の変性疾患、例えば運動ニューロン疾患を含む。CNSの適切な障害は、国際PCT出願国際公開第03/074080号に記載されている。幹細胞療法を使用して治療可能なCNSの好ましい障害は、パーキンソン病及び脊髄損傷である。視覚障害の幹細胞療法は、視覚機能に関与する組織が修復される必要があるいかなる障害も包含する。幹細胞療法によって治療できる適切な視覚障害は、国際PCT出願第WO2005/054447号に記載されている。幹細胞療法を使用して治療可能な好ましい視覚障害としては、加齢性黄斑変性、黄斑円孔(macular hole)、増殖性糖尿病性網膜症、増殖性硝子体網膜症、未熟児網膜症、色素性網膜炎及び一般的な網膜ジストロフィー(general retinal dystrophy)が含まれる。心疾患の幹細胞療法は、心組織が修復される必要があるいかなる疾患も包含する。例えば、冠動脈性心疾患、心筋症及びうっ血性心不全である。肝疾患の幹細胞療法は、肝組織が修復される必要があるいかなる疾患も包含する。例えば、肝硬変、脂肪肝症及び肝炎である。肺疾患の幹細胞療法は、嚢胞性線維症を含む、肺組織が修復される必要があるいかなる疾患も包含する。腎疾患の幹細胞療法は、腎組織が修復される必要があるいかなる疾患も包含する。例えば腎不全である。筋障害の幹細胞療法は、筋組織が修復される必要があるいかなる疾患も包含する。例えば、筋消耗疾患(muscle wasting disease)、例えば筋ジストロフィーである。
【0010】
「組込み(integration)」という用語は、幹細胞が所望細胞型へと分化し、治療される組織の一部を形成するように、治療される組織内に機能的に統合される幹細胞の能力を指す。「移動(migration)」という用語は、幹細胞が治療される組織内へと移動し、それにより幹細胞が治療される組織全体に分布されることを確実にする幹細胞の能力を指す。好ましくは、本発明の組成物は、治療される組織内への幹細胞の組込みと移動を改善する。
【0011】
本発明の組成物は、何らかの適切な幹細胞(全能性、多能性(pluripotent)、多分化性(multipotent)及び単能性の幹細胞が挙げられる)に関する使用のためである。好ましくは、幹細胞は、多能性、多分化性又は単能性の幹細胞である。本発明の組成物と共に使用される幹細胞の特定型は、実施される幹細胞療法に依存する。例えば、組成物が視覚障害を治療するうえでの使用のためである場合、幹細胞は、好ましくはミュラー幹細胞である(国際PCT出願国際公開第2005/054447号参照)。
【0012】
「コンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPG)」という用語は、幹細胞の組込み及び/又は移動を防止する何らかのCSPG(NG2、バーシカン、ニューロカン、ブレビカン、ホスファカン(phospacan)、アグリカン及びヒアルロナンが挙げられる)を指す。
【0013】
CSPG阻害剤は、CSPGの幹細胞組込み及び/又は移動阻害特性を低減又は防止する何らかの作用物質(agent)である。CSPG阻害剤は、1若しくはそれ以上のCSPGと相互作用してそれらの阻害特性を抑制する、又は1若しくはそれ以上のCSPGを除去する(部分的に若しくは完全に)、又は1若しくはそれ以上のCSPGの産生を低減する作用物質であり得る。そのような作用物質は、国際PCT出願国際公開第03/74080号に記載されている。
【0014】
好ましくは、CSPG阻害剤は、CSPGを分解する作用物質、例えばコンドロイチナーゼ、ヒアルロニダーゼ又はマトリックスメタロプロテアーゼ、例えば活性MMP2である。CSPGを分解するCSPG阻害剤は、国際PCT出願国際公開第03/74080号に明瞭に記載されている。使用されるCSPG阻害剤に依存して、本発明の組成物は2以上のCSPG阻害剤を含有することが望ましい場合がある。CSPG阻害剤はコンドロイチナーゼABC(ChABC)であることが特に好ましい。CSPG阻害剤は、好ましくは局所的に投与される。活性物質を局所的に送達するための方法及び製剤は当業者に周知である。
【0015】
抗炎症剤は、幹細胞の組込み及び/若しくは移動を低減又は防止する炎症応答を、低減あるいは防止する何らかの作用物質であり得る。抗炎症剤が、幹細胞の組込み及び/又は移動の所望部位において、マクロファージ若しくは小グリア細胞の蓄積、活性化又は産生を防止することが特に好ましい。小グリア細胞はCNS及び視覚系内で生じるが、マクロファージは体内の他の場所で生じる。従って、幹細胞療法がCNS又は視覚系を対象とする場合、抗炎症剤は、好ましくは小グリア細胞の蓄積、活性化又は産生を防止する。幹細胞療法が体内の他のいずれかの部分を対象とする場合は、抗炎症剤は、好ましくは、マクロファージの蓄積、活性化又は産生を防止する。適切な抗炎症剤としては、1又はそれ以上の広範囲作用性の抗炎症剤が含まれる。抗炎症剤は、ステロイド性抗炎症剤、例えばコルチコステロイド(例えば、プレドニゾロン、プレドニゾン、フルオシノロン、デキサメタゾン及びトリアムシノロン);非ステロイド性抗炎症剤(例えば、アスピリン、サルサラート、ジフルニサール(diflunisal)、イブプロフェン、ケトプロフェン、ナブメトン、ピロキシカム、ナプロキセン、ジクロフェナク、インドメタシン、スリンダク、トルメチン、エトドラク、ケトロラク、オキサプロジン、セレコキシブ、マイコサイクリン及びスルホラファン);又は免疫抑制薬(例えば、シクロスポリン及びアザチオプリン)であり得る。他の適切な抗炎症剤としては、小グリア細胞又はマクロファージに対する抗体が含まれる。例えば、小グリア細胞上に存在するCD200受容体に対する抗体は、炎症応答を低減するために使用することができる。サイトカインインヒビター、例えば抗TNFα及び抗IL−6も抗炎症剤として使用し得る。あるいは、免疫調節機能を有するサイトカイン、例えばTGFβ1及びIL−10も使用することができる。
【0016】
本明細書で使用される「抗体」という用語は、何らかのアイソタイプのポリクローナル抗体若しくはモノクローナル抗体、又はその抗原結合フラグメント(例えば、Fv、Fab、F(ab’)フラグメント及び一本鎖Fvフラグメント)を指す。抗体分子は、組換え抗体分子、例えばキメラ抗体分子、CDR移植抗体分子又はその抗原結合フラグメントであり得る。そのような抗体及びそれらの作製のための方法は当技術分野において周知である。
【0017】
使用される抗炎症剤に依存して、本発明の組成物は2以上の抗炎症剤を含有することが望ましい場合がある。特に好ましい実施形態では、組成物は、プレドニゾロン、インドメタシン及びアザチオプリンを含有する。1又はそれ以上の抗炎症剤は、好ましくは全身的又は局所的に投与される。抗炎症剤を全身的又は局所的に送達するための方法及び製剤は当業者に周知である。
【0018】
本発明の組成物はまた、幹細胞療法における使用のための幹細胞も含有し得る。組成物に含めるための幹細胞のタイプは、上記で考察したように療法に依存する。好ましくは、幹細胞はミュラー幹細胞である。
【0019】
本発明の組成物はまた、幹細胞療法を助ける1又はそれ以上の付加的な作用物質を含有し得る。そのような付加的な作用物質としては、線維芽細胞増殖因子2(FGF2)及びレチン酸、並びにそれらに加えて、幹細胞療法が視覚障害又はCNSの障害を治療するためである場合は、神経走化性因子、例えばネトリンが含まれる。
【0020】
本発明の組成物の各々の作用物質は、幹細胞療法を受けている動物に同時に、連続的に又は別々に送達され得る。組成物は反復投与することができる。好ましくは、抗炎症剤は、すべての幹細胞が組み込まれるのを可能にするため、持続的な期間投与される。幹細胞及びCSPG阻害剤は、好ましくは、抗炎症剤が動物において炎症応答を低減した時点で投与される。
【0021】
組成物は、何らかの適切な動物、例えばヒト、家畜又はペットにおける幹細胞療法での使用のためのものである。好ましくは、動物は哺乳動物又は鳥類である。特に、動物は、ヒト、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ及び鳥類を含む群より選択され得る。動物はヒトであることが特に好ましい。
【0022】
本発明はまた、幹細胞療法において幹細胞の移動及び/又は組込みを改善するためのコンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPG)阻害剤及び抗炎症剤を提供する。
【0023】
本発明はまた、個体にコンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPG)阻害剤及び抗炎症剤の有効量を送達することを含む、個体の幹細胞療法において幹細胞の移動及び/又は組込みを改善するための方法を提供する。
【0024】
本発明はまた、幹細胞療法において幹細胞の移動及び/又は組込みを改善するための薬剤の製造におけるコンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPG)阻害剤及び抗炎症剤の使用を提供する。
【0025】
各々の作用物質は、幹細胞療法を受けている個体に同時に、連続的に又は別々に送達され得る。幹細胞療法において使用するための幹細胞は、作用物質と同時に、連続的に又は別々に投与することができる。
【0026】
本発明はまた、コンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPG)阻害剤及び抗炎症剤を1又はそれ以上の医薬的に許容可能な賦形剤と共に含有する、医薬的に許容可能な組成物を提供する。医薬的に許容可能な組成物は、幹細胞療法において使用するための幹細胞を付加的に含有し得る。
【0027】
適切な賦形剤は当業者に周知である。
【0028】
各々の作用物質の具体的な量は、標準的な方法を使用して及び以下の実施例の章で使用される具体的数値から推定することによって決定され得る。使用される具体的な量は、多くの因子(治療される動物の大きさ及び代謝が挙げられる)に依存する。
【0029】
本発明の医薬組成物は、何らかの適切な方法で(経口的、非経口的又は移植レザバーを介する投与が挙げられる)投与され得る。好ましくは、医薬組成物は注射によって投与される。より詳細には、抗炎症剤は全身的又は局所的に送達され、CSPG阻害剤は局所的に送達されることが好ましい。
【0030】
医薬組成物は、滅菌注射用製剤、例えば滅菌注射用の水性又は油性の懸濁液の形態であり得る。この懸濁液は、適切な分散剤又は湿潤剤(例えば、Tween 80など)及び懸濁化剤を使用して当技術分野で公知の手法に従って製剤化され得る。滅菌注射用製剤はまた、非毒性の非経口的に許容可能な希釈剤又は溶媒中の滅菌注射用溶液又は懸濁液であり、例えば1,3−ブタンジオール中の溶液としてよい。使用し得る許容可能なビヒクル及び溶媒の中でもマンニトール、水、リンガー溶液及び等張塩化ナトリウム溶液が挙げられる。加えて、無菌の固定油が溶媒又は懸濁媒質として慣例的に使用される。この目的ためには、合成モノグリセリド又はジグリセリドを含む任意の無刺激性固定油を使用することができる。脂肪酸、例えばオレイン酸及びそのグリセリド誘導体は、天然の医薬的に許容可能な油、例えばオリーブ油又はヒマシ油と同様に、特にそれらのポリオキシエチル化形態で、注射剤の調製において有用である。これらの油性溶液又は懸濁液はまた、長鎖アルコール希釈剤、分散剤又は薬局方ヘルヴェティカ(Ph.Helv.)に記載されている類似のアルコールも含み得る。
【0031】
本発明の医薬組成物は、何らかの経口的に許容可能な投与形態(カプセル、錠剤並びに水性懸濁液及び水溶液が挙げられるがこれらに限定されない)で、経口的に投与することができる。経口使用のための錠剤の場合、一般的に使用される担体としては、ラクトース及びトウモロコシデンプンが挙げられる。潤滑剤、例えばステアリン酸マグネシウムも、典型的には添加される。カプセル形態での経口投与に関して、有用な希釈剤としては、ラクトース及び乾燥トウモロコシデンプンが挙げられる。水性懸濁液を経口的に投与する場合は、有効成分を乳化剤及び懸濁化剤と組み合わせる。所望する場合は、一定の甘味料及び/又は着香剤及び/又は着色剤を添加してもよい。
【0032】
本発明はまた、療法、特に幹細胞療法において使用するための本発明の医薬組成物を提供する。
【0033】
本発明はまた、幹細胞療法の間に幹細胞の移動及び/又は組込みを改善するためのキットであって、
コンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPG)阻害剤;及び
抗炎症剤
を含むキットを提供する。
【0034】
キットは、幹細胞療法において使用するための幹細胞を付加的に含み得る。
【0035】
ここで、単なる例示として、以下の図面を参照して本発明を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】図1は、新生児LH及びジストロフィーRCSラットへの網膜下移植後のミュラー幹細胞の移動を示す。(A)2日齢のLHラットへの移植の2週間後の内顆粒細胞層及び外顆粒細胞層(INL及びONL)へのミュラー幹細胞(GFP標識)の移動。(B)ミュラー幹細胞(GFP標識)は、5週齢のRCSラットへの移植の2週間後に網膜下腔に残存した。(C)5週齢のRCSラットへの網膜下注射の5週間後の網膜下腔に沿った広範囲のミュラー幹細胞移動を示す全網膜のモンタージュ写真。
【図2】図2は、ミュラー細胞の移植前及び移植後のLH及びRCSラットの網膜における小グリア細胞の分布を示す。(A)神経節細胞層(GCL)における最小限のCD68反応性(黒い細胞)を示す新生児LHラット網膜(3日齢の動物)の切片。(B)GCL及び内網状層(IPL)における小グリア細胞の蓄積(黒い細胞)を示す、移植の2週間後のLHラット網膜の切片。(C)2日齢の動物への移植の2週間後のLHラット網膜の切片。左の図は、移植したミュラー細胞(GFP標識)のGCL内への移動を示す。中央の図は、同じ網膜切片のノマルスキー照明(Nomarski illumination)を示し、CD68を発現する細胞(黒い細胞)のGCLにおける蓄積を明らかにする。右の図は、同じ切片のノマルスキー照明を示し、移植したミュラー幹細胞(GFP標識)と小グリア細胞(黒い細胞)の結びつき(association)を示す。(D)外節デブリ帯域(outer segment debris zone)(DZ)及び外顆粒層(ONL)における小グリア細胞(黒い細胞)の重篤な浸潤を示す、5週齢の非移植RCSラット網膜のノマルスキー照明。(E)5週齢の動物における移植の2週間後のRCSラット網膜切片のノマルスキー照明。小グリア細胞(黒い細胞)がすべての網膜細胞層にわたって認められる。(F)左の図は、網膜下腔における移植細胞の蓄積を示す。中央の図は、同じ網膜切片におけるCD68陽性細胞(黒い染色)の局在を同定するノマルスキー照明を示す。右の図は、CD68を発現する小グリア細胞(黒い染色)と移植細胞(GFP標識)の共局在を同定するノマルスキー照明を示す。(G)左の図は、5週齢で移植したRCSラットの網膜切片の共焦点像を示す。移植細胞は、移植の2週間後に網膜下腔で大きなクラスターを形成していることが認められる。中央の図は、移植細胞の周囲の小グリア細胞(黒い細胞)の局在を示すための同じ切片のノマルスキー照明を示す。右の図は、移植細胞を取り巻く、肉芽腫型構造に類似した小グリア細胞(黒い染色)を示す。(H)シクロスポリン及びアザチオプリンと共に経口プレドニゾロン及び腹腔内インドメタシンで処置したRCSラットの網膜切片。共焦点像(左)は、移植細胞のデブリ帯域(DZ)への限られた移動、及び右側のノマルスキー照明下で認められる同じ領域での小グリア細胞の浸潤の低減を示す。(I)ヒストグラムは、新生児LH網膜と比較して5週齢のRCS網膜において有意に高い数の小グリア細胞が存在することを示す(p=0.0055)。(J)移植の際に、小グリア細胞蓄積の有意の増加が存在する。非移植網膜と比較した移植LH網膜:**p<0.001;非移植網膜と比較したRCS網膜:p<0.05。
【図3】図3は、非移植正常LH及びジストロフィーRCSラットの網膜におけるCSPGの発現並びに小グリア細胞とCSPGの共局在を示す。(A)非移植5週齢RCSラットからの網膜切片のデブリ帯域(DZ)におけるCSPG、ニューロカン及びバーシカンのN末端領域の蓄積を示す共焦点像。(B)外顆粒層(ONL)におけるCSPGの発現を欠くが、神経節細胞層(GCL)ではこれらの分子を染色する、5週齢の非処置LHラットの網膜切片。(C)内網状層及び発生中のGCLにおけるCSPGの発現を示す非移植新生児LHラット網膜の網膜切片。(D)左側では、CSPG、ニューロカン及びバーシカンのN末端の蓄積を示し、右側では、ノマルスキー照明下で認められる、CD68を発現する細胞(黒い染色)とこれらのタンパク質の共局在を示す、非移植5週齢RCSラットの共焦点網膜像。四角で囲んだ細胞を、CSPGと小グリア細胞の共局在の詳細を示すために各々の図の下部の挿入図に拡大している。
【図4】図4は、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンによるミュラー幹細胞移動の阻害を示す。ミュラー幹細胞の網膜下移植の2週間後の7週齢RCSラットからの網膜切片の共焦点像。左の欄の切片は、N末端CSPG、ニューロカン及びバーシカンによって取り囲まれた移植細胞(GFP標識)を示す。中央の欄は、CD68反応性細胞(黒色)の蓄積を明らかにするノマルスキー照明下での同じ切片を示す。右の欄は、CD68陽性細胞と移植細胞(GFP標識)を取り囲むCSPGの共局在を明らかにするノマルスキー照明下での組合せ画像を示す。核はDAPIで染色している。
【図5】図5は、CSPGの消化及び小グリア細胞抑制の増強が、移植されたミュラー幹細胞の移動を促進することを示す。(A)左の顕微鏡写真は、ChABCの存在下でのミュラー幹細胞移植の2週間後の7週齢RCSラットからの網膜切片の共焦点像を示す。動物に5週齢で移植し、実験期間中免疫抑制の増強によって処置した。移植細胞(GFP標識)が網膜の全幅にわたって認められる。中央の画像は、矢印で示したCD68陽性細胞(黒色)による網膜浸潤を明らかにする、ノマルスキー照明下での同じ網膜切片を示す。右の画像は、網膜内に移動した移植細胞(GFP標識)(矢印)とCD68陽性細胞の共局在を明らかにする、ノマルスキー照明下での同じ切片を示す。(B)ChABCの注射及び免疫抑制増強の2週間後の7週齢RCSラットの網膜切片からの共焦点像。CSPGを染色した切片は、CSPG、ニューロカン及びバーシカンのN末端領域の発現の顕著な低下を示した。(C)左の画像は、stubエピトープを染色した5週齢の非移植RCSラットの網膜切片を示す。CSPGの自然分解が染色によって示される。右の画像は、5週齢でChABCを網膜下腔に注射した7週齢のラットの網膜切片を示す。染色は、このマトリックス分解酵素によるCSPGの分解時のstubエピトープの暴露を示す。(D)ヒストグラムは、RCSラットの網膜下腔へのミュラー幹細胞移植が浸潤性小グリア細胞の数の顕著な増加(非移植動物と比較してp<0.05)を誘導すること並びに標準レジメンへの経口プレドニゾロン及び腹腔内インドメタシンの追加による免疫抑制増強が浸潤性網膜小グリア細胞の数の有意の減少(移植動物と比較して**p<0.001)を誘導したことを示す。(E)ChABCを移植した場合の内網膜層へのミュラー幹細胞の移動増加を示すヒストグラム。対照動物(−ChABC)ではONLを越える細胞は検出されなかったが、ChABCにより細胞のほぼ80%がINLを越えて内網膜層に移動した(**p=0.0011)。
【図6】図6は、NMDAによるRGCの除去及びRGCマーカーを発現する細胞に分化したミュラー幹細胞の注射後のリスターフーデッド(Lister hooded)ラット網膜の共焦点顕微鏡写真を示す;この画像は、RGCマーカーを発現する細胞(GFP蛍光細胞)に分化したミュラー幹細胞の細胞製剤の移植の3週間後の網膜切片を示す。これらの細胞はRGC層に移動していたことが示された。DAPI(青色)で対比染色した切片、GCL、神経節細胞層;IPL、内網状層;INL、内顆粒層;ONL、外顆粒層。
【図7】図7は、RGCマーカーを発現する細胞の富化集団の移植の2週間後のリスターフーデッドラットからのNMDA−トリアムシノロン(TA)処置眼の暗所閾値電位(Scotopic Threshold Response)(STR)を示す。対照眼(3)は、陽性応答(pSTR)とそれに続くより大きな陰性応答(nSTR)を有する特徴的なSTR曲線を示す。NMDA TA処置眼は小さなpSTRだけを示す(2)。分化したミュラー幹細胞を移植されたNMDA TA眼は、小さなpSTRを有し、またNMDA TAだけで処置された眼と比較した場合、有意に高いnSTRの部分的回復(1)を明らかにする。
【発明を実施するための形態】
【0037】
(実施例)
試験材料及び方法
動物及び免疫抑制
ジストロフィーRCSラット並びに成体及び新生児リスターフーデッド(Lister hooded)ラットを試験において使用した。すべてのラットを、実験動物の管理と使用のための英国内務省規則(Home Office regulations)及び英国動物(科学的処置)法1986(UK Animals (Scientific Procedures) Act (1986))に従って維持した。ジストロフィーRCSラットを社内で飼育し、12時間/12時間の明暗周期(明周期の平均照明:30cd/m)下に保持して、その時点までに網膜変性が十分に確立される、5〜6週(35〜40日)齢でラットに移植した(transplanted)。リスターフーデッドラットはHarlan(UK)より購入した。動物は通常、移植の2日前から実験終了まで経口シクロスポリンA(Sandimmun,Sandoz,Camberley,UK,210mg/lの飲料水)及びアザチオプリン(Sigma,UK;20mg/l)で免疫抑制された。付加的な免疫抑制を使用する場合は、シクロスポリンA及びアザチオプリンに加えて、実験期間中毎日のインドメタシン(0.1mg/100gm体重)の腹腔内注射と共に、経口プレドニゾロン(Sovereign Medical,UK,5mg/l)を動物に投与した。新生児リスターフーデッド子ラットへの移植のために、妊娠母獣を上記のように経口シクロスポリンAとアザチオプリンで免疫抑制した。
【0038】
幹細胞の特徴を有するミュラー細胞の単離と調製
研究のための同意を得たドナーヒト眼の神経網膜からのミュラー幹細胞の単離を先に記述されているように実施した(32)。簡単に述べると、鋸状縁から少なくとも2mm離れた位置で切片にした神経網膜をトリプシン−EDTA(0.5%トリプシン/0.2%EDTA;Invitrogen,Paisley,Scotland)中37℃で20分間インキュベートした。強く粉砕した後、放出された細胞を、L−L−グルタマックス1(Invitrogen,Paisley,Scotland)、10%ウシ胎仔血清(FCS,Invitrogen,Paisley,Scotland)及び40ng/mlの上皮増殖因子(EGF,Sigma,UK)を含むDMEM中で洗浄し、懸濁した。細胞をフィブロネクチン被覆組織培養皿に塗布し、接着細胞コロニーの形成まで2〜3週間培養した。コロニーを分離し、新しい培養皿に移して、EGFを含まない上記培地中で培養を続けた。コンフルエントになった後、細胞を、先に記述されているように(18)それらの幹細胞の特徴に関して検査した。幹細胞の特徴を喪失せずに51回以上の継代を受けた細胞を移植のために使用した。
【0039】
移植のための細胞の調製
1−schrgfpwとして先に記述された(33)、脾フォーカス形成ウイルス(SFFV)プロモーターから低毒性hrGFPを発現する免疫不全ウイルス1型(HIV−1)に基づくレンチウイルスベクターで、移植のために使用したミュラー幹細胞をトランスフェクトした。12穴培養皿に塗布したコンフルエント細胞を、ポリブレン(10μg/ml、Chemicon,USA)の存在下で1形質導入単位/細胞の感染多重度(multiplicity of infection)で1−schrgfpwに感染させた。この方法を使用して、ミュラー幹細胞の80%超が感染の1週間後にGFPを発現した。トランスフェクトした細胞を25cmフラスコにおいてコンフルエントまで増殖させ、BD FACScalibur,UKを使用したFACS細胞分類によって緑色蛍光細胞を選択した。レンチウイルスベクターがトランスフェクト細胞の幹細胞特徴を改変しなかったことを確認するため、これらを、先に述べられているように(18)幹細胞マーカーの発現及びスフェア形成に関して検査した。移植の3日前に、レンチウイルス−GFPトランスフェクト細胞を75cmフラスコに接種し、約70%コンフルエントに達するまで増殖させた。移植の当日、細胞をトリプシン処理し、計数して、無血清培地に2×10細胞/μlの濃度で再懸濁した。
【0040】
網膜下移植
ラットを塩酸ケタミン(Ketaset,Fort Dodge Animal Health,Southampton,UK)及び塩酸メデトミジン(Domitor,Pfizer,Sandwich,UK)の腹腔内注射で麻酔した。1%トロピカミド及び2.5%フェニレフリン(Chauvin Pharmaceuticals,UK)を使用して瞳孔を拡大させた後、ライツ手術用顕微鏡による直接可視化下に、ハミルトン注射器に取り付けた30G金属針を使用して細胞懸濁液2μlを成体ジストロフィーRCSラット(n=9)の網膜下腔に注入した。擬似注射ラットには細胞を含まないDMEM培地を投与した(n=6)。新生児リスターフーデッドラット(生後2日−PN2)を、成体用量の1/10thのケタミン及びメデトミジンの腹腔内注射によって麻酔した。手術によって眼瞼を開き、細胞懸濁液(n=11)又は培地(n=9)1μlを、2.5μlハミルトン注射器に取り付けた32G金属針を使用して網膜下腔に注入した。RCS網膜をコンドロイチナーゼABCで処置する場合は(n=8)、細胞を4×10細胞/μlの濃度で懸濁した。移植の前に、細胞懸濁液1μlをコンドロイチナーゼABC(ChABC)1μl(0.01U)(Seikagaku Corporation,Tokyo,Japan)と混合し、その混合物を前述したように網膜下腔に注入した。
【0041】
組織の処理と免疫組織化学
移植の2週間後、ラットを腹腔内ペントバルビトンナトリウムで致死的に麻酔し、リン酸緩衝食塩水(PBS)、次いで0.1Mリン酸緩衝液中の4%パラホルムアルデヒド(PFA)で経心臓的に灌流した。眼を切除し、PFAにて1時間、後固定して、30%スクロースで一晩凍結保護し、最適切削温度化合物(optimal cutting temperature compound)(OCT,VWR,Lutterworth,UK)に包埋した。14μm厚のクリオスタット切片をプレチャージしたスライドガラスに載せ、そのスライドガラスを空気乾燥させた後、−80℃で保存した。可視移植片を有する切片(細胞移植を受けた眼)(未処置RCS n=4、新生児リスターフーデッド n=6、ChABC処置RCS n=5)及び可視移植部位を有する切片(擬似処置眼)(RCS n=3、リスターフーデッド n=3)を免疫染色のために選択した。各群の2つの異なる未処置眼からの切片を対照として使用した。
【0042】
乾燥させたスライドガラスをPBS/0.3%トリトン中の5%ロバ血清でブロックし、室温(RT)で一晩同じブロッキング溶液にて希釈した一次抗体と反応させた。使用した一次抗体は、CSPG(CS56、Sigma、モノクローナル、1:200)、ニューロカン(IF6、Developmental studies hybridoma bank(DSHB)、University of Iowa,USA、モノクローナル、1:100)、バーシカン(12C5、DSHB、モノクローナル、1:100)、ED1(抗ラットCD68、Serotec、モノクローナル、1:1000)−ラットマクロファージ/小グリア細胞についてのマーカー、及びコンドロイチン4−硫酸のコンドロイチナーゼABC分解後に暴露されるエピトープを認識する抗体、2B6(Seikagaku,Japan)であった。一次抗体との室温(RT)で一晩のインキュベーション後、切片をPBSで洗浄し、PBSプラス2%ロバ血清中で1:500希釈した関連Alexa二次抗体(ロバにおいて惹起した、マウス、ウサギ又はヤギ488又は555、Invitrogen,Paisley,Scotland)と共にRTで1時間半インキュベートした。洗浄後、トリス緩衝液(0.05M、pH7.4)で洗浄した4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI,Sigma,UK)で切片を対比染色し、Vectashield(Vector Laboratories Ltd,Peterborough,UK)に封入した。また、並行して切片を二次抗体単独で処理し、陰性対照として使用した。
【0043】
マクロファージ/小グリア細胞浸潤を、CD68抗原に対するマウスモノクローナル抗体(ED1、Serotec,UK)と網膜切片の共染色によって測定した。抗体反応性を、以下のような公表されている方法(34)の修正法により1%硫酸ニッケルアンモニウム水溶液及び1%塩化コバルト水溶液で増強した3−3’ジアミノベンジジン(DAB;Sigma,UK)での視覚化によって測定した。試験において他の抗体に関して使用したのと同じブロッキング溶液(上記参照)に0.5%ウシ血清アルブミン(BSA;Sigma,UK)を添加して使用し、切片をブロックして、抗CD68抗体と共にRTで一晩インキュベートした。洗浄後、切片を、ラット吸着ビオチニル化ウマ抗マウス二次抗体(1:150、Vector Laboratories,Peterborough,UK)、次いでストレプトアビジン−ホースラディッシュペルオキシダーゼ(Vector Laboratories,Peterborough,UK)と共にインキュベートした。次にそれらをDAB溶液(過酸化水素中の1%硫酸ニッケルアンモニウム及び1%塩化コバルトを含む0.1M PBS中0.05%)中での25秒間のインキュベーションによって展開し、CD68を発現する細胞を、ノマルスキー照明下でのそれらの特徴的な黒褐色染色によって検出した。
【0044】
CD68を染色した切片において他のマーカーを同定するため、スライドガラスを洗浄し、ブロックして、他の一次抗体(上記参照)と共にインキュベートし、蛍光標識抗体で検出した。Zeiss LSM 510共焦点顕微鏡を使用して切片を写真撮影し、Zeiss LSM Image Browserソフトウエア(Carl Zeiss,Oberkochen,Germany)を用いて画像を解析した。
【0045】
結果
新生児LH及びRCSラットへの網膜下移植後のミュラー幹細胞の移動と組込み
新生児(2日齢)LHラットの網膜下腔へのミュラー幹細胞の移植の2週間後に、内網膜細胞層(inner retinal cell layer)への細胞の移動がしばしば認められた。しかし、比較的少数の細胞しか移動しておらず、またこの移動は移植部位に隣接する領域でしか起こらなかった(図1A)。これに対し、4〜5週齢のRCSラット(光受容細胞層がその通常の厚さの約半分に減少した年齢)の網膜下腔へのこれらの細胞の移植の2週間後には、細胞が外節デブリ帯域(outer segment debris zone)(DZ)と網膜色素上皮(RPE)の間の境界面に蓄積し、しばしば小さな細胞凝集物の外観を与えた(図1B)。細胞は、内網膜(inner retina)にはまれにしか移動しなかった。移植の2週間後の全RCS網膜の検査は、細胞が主としてDZを裏打ちする網膜下腔に沿って移動することを示した(図1C)。背側頭領域(dorso temporal region)の網膜下腔に移植された細胞は、しばしば網膜下腔全体に沿って認められたが、網膜自体の内部では見られなかったことは興味深い(図1C)。
【0046】
ミュラー幹細胞の網膜移植に対する小グリア細胞応答
小グリア細胞はRCSラットの変性網膜内で移動し、増殖することが公知であるので(20-22)、本発明者らは、これらの細胞が5週齢のRCSラットへの網膜下移植後にミュラー細胞移動の阻害において役割を果たすかどうかを検討した。本発明者らはまた、この応答を新生児LHラットの応答と比較した。LH新生児網膜における小グリア細胞の存在の検査は、2日齢の動物の神経節細胞層(GCL)内で偶発的なCD68陽性細胞だけを示した(図2A)。しかし、移植の3週間後、経口シクロスポリンとアザチオプリンによる免疫抑制にもかかわらず、LHラットのGCL及び内網状層(inner plexiform layer)(IPL)においてCD68陽性細胞の数の増加が認められた(図2B)。CD68とGFPを染色した移植新生児LHラットからの網膜切片の共焦点検査は、ミュラー幹細胞は網膜内に移動していたが、小グリア細胞反応がしばしば移植細胞と結びつくことを示した(図2C)。
【0047】
新生児及び移植LH網膜で認められる軽度の小グリア細胞活性化と異なり、CD68陽性細胞の顕著な蓄積が5週齢のRCSラットの網膜で認められた。数多くの小グリア細胞が外節DZ及び外顆粒層(outer nuclear layer)(ONL)において認められた(図2D)。網膜下腔へのミュラー幹細胞注入の2週間後、成体RCSラットの網膜は小グリア細胞のより重篤で広範囲の移動を示した(図2E)。これはまた、経口シクロスポリンとアザチオプリンによる免疫抑制にも関わらず起こり、小グリア細胞の活性化がリンパ球浸潤に関連しないことを示唆した。CD68とGFPを共染色した移植網膜切片の共焦点顕微鏡検査は、網膜に移動しなかったミュラー幹細胞及び外節DZの内面を覆うミュラー幹細胞が、CD68とGFPの共局在によって判断されるように、小グリア細胞によって貪食されたと思われることを示した(図2F)。さらに、移植されたミュラー幹細胞の凝集物が、小グリア細胞によって取り囲まれた移植RCSラットの網膜下腔でしばしば認められた(図2G)。これらのCD68陽性細胞は、ミュラー幹細胞の網膜への移動を停止させると思われた(図2G)。小グリア細胞の活性化を低減することによって細胞移動を促進するため、動物に、実験期間中、経口シクロスポリン及びアザチオプリンに加えて経口プレドニゾロンの投与及びインドメタシンの毎日の腹腔内注射を実施した。図2Hに認められるように、付加的なプレドニゾロン及びインドメタシン処置によって小グリア細胞の数は比較的減少すると思われたが、移植細胞は小グリア細胞とアソシエート(associate)し続け、網膜内に移動することができないDZにとどまった。移植前と移植後のLH及びRCSラットにおける浸潤性小グリア細胞の定量的比較は、変性RCSラット網膜が正常LHラット網膜よりも有意に高い数の小グリア細胞を保持すること(p<0.01)(図2I)、並びにミュラー幹細胞移植はLH(p<0.001)及びRCS(p<0.05)ラット網膜の両方で小グリア細胞の数の顕著な増加を生じさせることを示した(図2J)。
【0048】
正常及び変性ラット網膜におけるCSPGの発現並びに小グリア細胞とこれらのタンパク質の関連(association)
CSPG N末端領域(すべてのCSPGに共通)についての未処置5週齢RCSラット網膜の免疫染色は、外節DZにおけるこの分子の顕著な発現を明らかにした(図3A)。ニューロカン及びバーシカンの強い染色も、未処置動物(図3A)及び擬似処置動物(示していない)において同じ領域で認められた。これは、4週齢のLHラットで認められたこれらのタンパク質の発現と対照的であり、後者では、これらの分子の染色は網膜のOS領域において極めてわずかであるか又は存在しなかった(図3B)。CSPGのN末端を染色した成体LH網膜では、ニューロカン及びバーシカンが神経節細胞層で認められた(図3B)。これらのタンパク質の発現はまた、2日齢LHラット網膜の内網状層及び神経節細胞領域でも検出された(図3C)。
【0049】
5週齢RCSラットからの網膜切片におけるCSPGとCD68の共染色は、小グリア細胞が、CSPGの蓄積が認められる部位に主として局在することを示した(図3D)。さらに、DZの外側で認められた、ONLを浸潤する小グリア細胞は、CSPGのN末端並びにニューロカン及びバーシカンを共染色し、小グリア細胞が変性RCSラット網膜におけるCSPGの供給源を構成し得ることを示唆した(図3D)。
【0050】
CSPGによるミュラー幹細胞移動の阻害
5週齢RCSラットの網膜下腔への移植の3週間後に、ミュラー幹細胞の移動及び組込みの阻害に対するCSPGの役割を明らかにするため、本発明者らは、移植動物の網膜切片をCSPG及びCD68の発現に関して検査した。移植RCSラット網膜の共焦点顕微鏡分析は、網膜内に移動しなかったミュラー幹細胞が、しばしばCSPGのN末端、ニューロカン及びバーシカンによって取り囲まれることを示した(図4)。CSPGは、しばしば重篤な小グリア細胞活性化を伴う細胞周囲のカフィングを形成した。検討したすべてのCSPGと小グリア細胞の共局在が、検査したすべての標本において認められた(図4)。移植細胞の周囲でのECMタンパク質とCD68発現のこの空間的相関は、変性網膜において蓄積するCSPGに加えて、活性化小グリア細胞によって放出されるCSPGも、細胞の移動及び組込みの阻害に寄与する可能性が高いことを示唆する。
【0051】
移植ミュラー幹細胞の移動へのCSPG消化と小グリア細胞抑制の併用の影響
移植細胞の移動と組込みの阻害へのCSPGの寄与をさらに特徴づけるため、本発明者らは、マトリックス分解を促進し、細胞移動を促進するためにChABCと共にミュラー幹細胞を5週齢RCSラットに移植した。本発明者らはまた、実験期間中、経口シクロスポリンA、アザチオプリン及びプレドニゾロンとインドメタシンの毎日の腹腔内注射を組み合わせた、これらの動物への小グリア細胞抑制の増強を使用した。移植の2週間後、本発明者らは、ChABCで処置した眼において網膜の厚さ全体にわたる移植細胞の移動の劇的な改善を認めた(図5A)。移動細胞の多くは、興味深いことに、特徴的な神経形態を担持していた(図5A)。本発明者らは、網膜で検出された移植細胞の総数を計数し、それらを網膜下腔(SRS)又はONLを越えた内網膜層への局在化に基づいて分類することにより、移動のこの変化を数量化した。ChABCと共に移植した場合、細胞のほぼ80%が内網膜層に移動したことが認められた。これは、ほとんどすべての細胞が網膜下腔に残存した対照動物と対照的であった(t検定、n=4、p=0.0011)。
【0052】
ChABCで処置した眼におけるCSPG発現の低下は、未処置網膜と比較した場合(図3D)、外節DZにおけるCSPG N末端、ニューロカン及びバーシカンの染色の低下によって確認された(図5B)。加えて、CSPG発現の低下が実際にChABC消化の結果であることを確認するため、発明者は、未処置及びChABC処置の網膜切片を、ChABCの酵素的消化によってCSPG分子上に暴露されたCS stubエピトープを検出するコンドロイチン硫酸stub(CS stub)IB5抗体で染色した。図5C(+ChABC)に見られるように、ChABC処置網膜は、網膜の厚さ全体にわたってstub抗体の広範囲の染色を示し、CSPGがChABC消化の結果として減少したことを指示した。興味深いことに、未処置網膜も外節DZにおいてCS stubエピトープの局在化染色を示し(図5C、−ChABC)、ある程度のCSPG消化が光受容器変性の間にも起こることを示唆した。ChABCの酵素活性にもかかわらず、処置動物の網膜構造は良好に保存されているようであった(図5A)。
【0053】
移植細胞の移動の改善に加えて、ChABC処置動物における小グリア細胞抑制の増強の使用により、小グリア細胞蓄積の量が減少する(図5A)。定量的分析は、ChABC及び免疫抑制の増強で処置した動物の網膜内の小グリア細胞の数が、付加的な免疫抑制を行わずに移植した動物におけるよりも有意に低いことを示した(ボンフェローニ p<0.001)(図5D)。小グリア細胞浸潤の減少にもかかわらず、移動し、神経形態を獲得していた多くの細胞がCD68陽性細胞と共局在した(頻度はより低いが)(図5Aの矢印)。これらの所見は、CSPGと小グリア細胞が網膜移植の成功に対する大きな物理的障壁を形成することを示唆する。
【0054】
組織機能を回復するための幹細胞の移動と組込みの成功は、移植細胞と宿主環境の適切な相互作用に依存し得る。網膜を再生するために幹細胞を移植する場合、移植細胞の移動と組込みは未熟な網膜又は急性損傷を受けた網膜においてより良好であることが様々な試験で示された(11;27)。しかし、長期にわたる網膜変性及び炎症における幹細胞の移動と組込みついてはほとんど考慮されていなかった。修復を必要とする組織はしばしば、移植幹細胞の機能的組込みを制限し得る、一連の炎症性及び変性の変化を受けていることを理解することが重要である。本発明の所見は、新生児網膜が、幹細胞が移動し、組み込まれることができる許容環境を提供するというこれまでの報告を確認する。しかし、本発明者らの結果は、移植されたミュラー幹細胞は新生児LH網膜に移動したが、これらがしばしばマクロファージ/小グリア細胞のマーカーであるCD68を発現する細胞とアソシエート(association)して認められたことを示す。小グリア細胞の活性化は、注入損傷自体(injection injury itself)並びに移植細胞に対する生得的反応として起こり得る。小グリア細胞が、移植細胞が移動していた部位に局在したという本発明者らの所見は、小グリア細胞が移植幹細胞の移動と組込みを防止するうえで重要な役割を果たすことを強く示唆する。これまでの試験と一致して、移植前のジストロフィーRCSラットの変性網膜においてかなりの小グリア細胞活性化が認められた(20-22)。この活性化は、新生児及び移植成体LHラット網膜で認められたよりも大きかった。移植前のRCSラット網膜における高い基線小グリア細胞活性が細胞移植に対する迅速な応答を開始させ、それによって移植細胞の移動を防止する可能性が高い。小グリア細胞によって密に取り囲まれた、肉芽腫様構造に類似する幹細胞クラスターが網膜下腔においてしばしば認められた。これらのクラスターは新生児網膜への移植後のLHラットでは認められず、既存の小グリア細胞反応性が存在しなければ移植細胞は網膜内に移動できることを示唆した。移植片の異種移植性(xenograft nature)(ヒト細胞対ラット網膜)が小グリア細胞応答をさらに増強した可能性はあるが、RCSラット網膜におけるミュラー幹細胞の同種異系移植は、同様の小グリア細胞反応性を生じさせた(データは示していない)。移植前の網膜に存在する活性化小グリア細胞は、単に移植細胞の網膜への初期移動を防止し得るのみならず、それらを貪食し、分解し得る。
【0055】
CSPGは中枢神経系におけるグリア瘢痕形成の間に産生され(24)、阻害性軸索誘導分子としてのそれらの役割(25;35)は十分に立証されている。本発明者らは、これらのタンパク質が移植細胞の網膜への組込みにおいても阻害性であるかどうかを同定するため、ジストロフィーRCSラットの変性網膜におけるこれらのタンパク質の発現を検討した。本発明者らは、変性網膜のOSのDZにおける、ニューロカン及びバーシカンを含むCSPGの選択的蓄積を認めた。これは、変性の際のジストロフィーRCSラットの網膜におけるコンドロイチン硫酸(36)及びニューロカン(37)の大量の蓄積を示す他の試験と一致する。本発明者らの結果はさらに、インビトロで(38)及び脊髄損傷後にインビボで(39;40)CSPGを産生することが知られる小グリア細胞が、変性RCSラット網膜においてCSPGのN末端画分並びにニューロカン及びバーシカンも発現することを明らかにした。重要な点として、移植RCSラット網膜からの網膜切片のCSPG及びCD68発現に関する共染色は、移植細胞を取り囲む小グリア細胞がCSPGを染色することを示した。これらの所見は、小グリア細胞が損傷網膜への幹細胞の移動と組込みを阻害し得る機構の1つがCSPGの放出によることを強く示唆する。
【0056】
損傷又は傷害された網膜への移植部位からの幹細胞移動は網膜修復に不可欠であるので、本発明者らは、腹腔内インドメタシンと経口プレドニゾロン、シクロスポリン及びアザチオプリンの組合せを使用してRCSラットにおける小グリア細胞応答を阻害することにより細胞移動を促進することを目指した(18)。この処置の結果として移植片の付近での小グリア細胞蓄積が減少したにもかかわらず、残存小グリア細胞反応性がまだ移植細胞に関連して認められた。小グリア細胞は、RCSラットの変性網膜においてCSPG蓄積が認められる部位であるDZに残存し、小グリア細胞の抑制だけでは移植細胞の移動を促進するには十分でないことを示した。
【0057】
コンドロイチナーゼによるCSPGの分解は、移植細胞の移動を促進し、特に脊髄において、グリア瘢痕を介して軸索を再生することが示されており(29-31)、また網膜では、レンチウイルスベクターを介した光受容器の形質導入を改善するために使用されてきた(41)。これに基づき、本発明者らは、変性RCS網膜において蓄積するCSPGを分解するためにこの酵素を使用した。ミュラー幹細胞が、小グリア細胞応答を制御するために経口アザチオプリン/シクロスポリン及び腹腔内インドメタシンと組み合わせてChABCと共に移植された場合、本発明者らはこれらの細胞の移動の劇的な改善を認めた。本発明者らは、ChABCによる酵素的消化後の移植網膜におけるこれらのタンパク質の発現の顕著な低下及びstubエピトープの出現を通して、CSPGの効率的な分解を明らかにすることができた。しかし、移植細胞の組込みを促進するうえでのChABCの重要性は、細胞移動へのその作用を超えて、これらの細胞による神経突起伸長を促進することにまで及び得る。これは、この酵素の存在下で移植された場合、ミュラー幹細胞がニューロン形態も取ったという所見によって示唆される。神経可塑性におけるCSPGの役割についての広範な研究は、このECMタンパク質の沈着が新しい神経シナプス結合の形成に対しても阻害性であり、成熟哺乳動物神経系が、損傷した場合に異常な神経シナプスの形成から自らを保護する機構であることを明らかにした(42)。ChABCは、成熟ラットの視覚皮質においてCSPGに富む神経周囲網を分解することによりシナプス可塑性を回復することが示された(43;44)。最近になってこの理論は、ChABCと共に送達された場合に宿主ニューロンと移植光受容器前駆体のシナプス形成が改善するという報告により、網膜におけるさらなる裏付けを得た(45)。
【0058】
本発明の所見から、長期にわたる損傷、変性及び炎症の環境は、結合マトリックス(connectiv matrix)(例えば、CSPG)の蓄積、及び炎症応答(例えば、小グリア細胞の存在)のために、移植幹細胞の組込みに対して阻害性であり得ると結論することができる。小グリア細胞の完全な抑制は本試験では達成されなかったが、これらのスカベンジャー細胞の減少は移植されたミュラー幹細胞の移動上昇を導いた。CSPG分解と小グリア細胞抑制の組合せは、網膜への強固な移植細胞移動を導いたが、残存する小グリア細胞は移植細胞とアソシエート(associate)し続けた。CSPGによって作り出される物理的障壁の破壊は疾患網膜への移植細胞の移動を大きく増強することができるが、組込みの成功を確実にするには十分でない。幹細胞の組込みを達成するためには移動の障壁(migratory barrier)と共にマクロファージ/小グリア細胞反応性を克服しなければならない。
【0059】
注入されたミュラー幹細胞の網膜神経節細胞(RGC)への分化
さらなる結果は、トリアムシノロン及びコンドロイチナーゼABCと組み合わせた、網膜神経節細胞(RGC)へと分化するミュラー幹細胞の単回注射が、リスターフーデッドラットのRGC層へのこれらの細胞の移動と組込みを促進することを示す(図6参照)。これらの動物は、神経毒NMDAの事前の注射によりRGCが除去されていた(46)。この場合は、抗炎症剤を眼に局所的に投与した。使用したトリアムシノロン製剤は、患者において使用されるのと同じもの−トリアムシノロンアセトニド(TA)(Kenalog)40mg/mlである。しかし、担体溶液の毒性を考慮して、注射の前に、TA溶液を遠心分離し、担体含有上清を除去した。次にTA粒子を再懸濁し、注射用滅菌食塩水を2回交換して十分に洗浄した後、この注射用滅菌食塩水に再懸濁して80mg/mlの濃度の溶液を作製した。この溶液1μlは、それ故、TA 80μgを含有し、約55〜60μlという仮定上のラット硝子体(vitreal)容積を考慮すると、眼におけるTAの推定最終濃度は、通常患者において臨床で使用される1mg/mlの濃度と同様の約1.33mg/mlである(47)。他のすべての手順は前述したとおりである。
【0060】
試験結果は、RGC層への幹細胞の組込みが、網膜電位図(ERG)における低光への暗順応応答の回復によって判断されるように、これらの動物における視力の部分的回復も伴ったことを示す。これらの結果を図7に示す。
【0061】
上記で引用したすべての資料は参照により本明細書に組み込まれる。
【0062】
参考文献
【表1】

【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
幹細胞の移動及び/又は組込みを改善するための組成物であって、
コンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPG)阻害剤;及び
抗炎症剤
を含有する組成物。
【請求項2】
幹細胞をさらに含有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
幹細胞療法における使用のための、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
CNS障害の幹細胞療法における使用のための、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記CNS障害がパーキンソン病又は脊髄損傷である、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
視覚障害の幹細胞療法における使用のための、請求項3に記載の組成物。
【請求項7】
前記視覚障害が、加齢性黄斑変性、黄斑円孔、増殖性糖尿病性網膜症、増殖性硝子体網膜症、網膜剥離及び色素性網膜炎、未熟児網膜症並びに一般的な網膜ジストロフィーである、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記コンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPG)阻害剤が、コンドロイチナーゼ、ヒアルロニダーゼ又はマトリックスメタロプロテアーゼである、請求項1から7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記CSPG阻害剤がコンドロイチナーゼABCである、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記抗炎症剤が、ステロイド性抗炎症剤、非ステロイド性抗炎症剤、免疫抑制薬、抗体又はサイトカインインヒビターのうちの1又はそれ以上である、請求項1から9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
前記抗炎症剤が、プレドニゾロン、インドメタシン、アザチオプリン及びシクロスポリンを含む、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記組成物の各々の作用物質が、同時送達、連続送達又は別々の送達のためのものである、請求項1から11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
幹細胞療法における幹細胞の移動及び/又は組込みを改善するためのコンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPG)阻害剤及び抗炎症剤。
【請求項14】
個体の幹細胞療法における幹細胞の移動及び/又は組込みを改善するための方法であって、前記個体にコンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPG)阻害剤及び抗炎症剤の有効量を送達する工程を含む、前記方法。
【請求項15】
コンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPG)阻害剤及び抗炎症剤を1又はそれ以上の医薬的に許容可能な賦形剤と共に含有する、医薬的に許容可能な組成物。
【請求項16】
治療における使用のための、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
幹細胞療法の間に幹細胞の移動及び/又は組込みを改善するためのキットであって、
コンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPG)阻害剤;及び
抗炎症剤
を含む、前記キット。
【請求項18】
幹細胞療法において使用するための幹細胞を付加的に含む、請求項15に記載の医薬組成物又は請求項17に記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2011−506304(P2011−506304A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−536527(P2010−536527)
【出願日】平成20年12月5日(2008.12.5)
【国際出願番号】PCT/GB2008/004021
【国際公開番号】WO2009/071903
【国際公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(505367464)ユーシーエル ビジネス ピーエルシー (20)
【出願人】(501308812)ケンブリッジ エンタープライズ リミテッド (10)
【Fターム(参考)】