説明

組換えスギ花粉抗原融合遺伝子と可溶性産物の製造方法

【課題】スギ花粉症の減感作療法で用いられ得る物質、特に、生体内でアナフィラキシー反応を誘発し得ず、全てのスギ花粉症患者におけるエピトープをカバーし得、及び/又は高純度での大量生産が容易であり得る、スギ花粉症の減感作療法で用いられ得る物質の提供。
【解決手段】Cryj1成熟タンパク質及びCryj2成熟タンパク質の融合タンパク質;当該融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド;当該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター;当該発現ベクターが導入された形質転換体;当該形質転換体を培地中で培養し、産生された当該融合タンパク質を回収すること、必要に応じてさらに可溶化することを含む、当該融合タンパク質の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、融合タンパク質、それをコードするポリヌクレオチド、発現ベクター、形質転換体、当該融合タンパク質の製造方法などを提供する。
【背景技術】
【0002】
スギ花粉症の減感作療法では、アレルゲンとして、現在のところ、天然スギ花粉のエキスが用いられている。しかしながら、エキスは、アナフィラキシーの危険性が高いという問題がある。
【0003】
スギ花粉症の治療に用いるアレルゲンの他の候補としては、スギ花粉からの精製Cryj1、Cryj2タンパク質、一部のスギ花粉症患者に共通なT細胞エピトープを連結した組換えポリペプチドが考えられている。例えば、T細胞エピトープ連結組換えポリペプチドについては、スギ花粉症患者のT細胞が認識するCryj1とCryj2のエピトープペプチド領域をスクリーニングして、その遺伝子配列を連結後、大腸菌において不溶性画分として発現させ、次いで発現したポリペプチドを可溶化したことが報告されている(例、非特許文献1、2参照)。
しかしながら、スギ花粉からの精製アレルゲンは、生体内でアナフィラキシー反応を誘発する可能性が非常に高い、大量生産が困難である等の問題を有する。また、T細胞エピトープ連結組換えポリペプチドは、全てのスギ花粉症患者のT細胞エピトープをカバーしていないため、幅広いスギ花粉症患者において治療効果が期待できない(即ち、汎用性が低い)という問題がある。さらに、T細胞エピトープ連結組換えポリペプチドはこれまでに、不溶性画分中のみに得られているものの、可溶性ポリペプチドとして得られていないことから、高純度に精製することが困難であったという問題もある。
【非特許文献1】Hirahara et al. J. Allergy Clin. Immunol. 2001, 108: 94-100
【非特許文献2】Kozutsumi et al. 「Enzyme-linked immunosorbent assay of a linear, recombinant peptide designed for immunotherapy of Japanese cedar pollinosis.」 J. Pharmacol. Toxicol. Methods, Available online 18 Mar. 2006 in press
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、スギ花粉症の減感作療法で用いられ得る物質を提供することを目的とする。特に、本発明は、生体内でアナフィラキシー反応を誘発し得ず、全てのスギ花粉症患者におけるエピトープをカバーし得、及び/又は高純度での大量生産が容易であり得る、スギ花粉症の減感作療法で用いられ得る物質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、Cryj1成熟タンパク質及びCryj2成熟タンパク質が融合した高分子量の組換えタンパク質を可溶性タンパク質として調製することに成功した。本発明者らはまた、このような融合タンパク質におけるCryj1及びCryj2の成熟タンパク質部分の立体構造が、天然Cryj1及びCryj2の成熟タンパク質の立体構造と異なること、並びにこのような立体構造特性を有する融合タンパク質が、天然型Cryj1と同様もしくはそれ以上に、天然型Cryj1特異的T細胞の誘導能を保持するものの、天然型Cryj1と異なり、それ自体が、所望されない天然型Cryj1特異的IgE抗体の産生を誘導し得ないこと、さらには驚くべきことに、天然型Cyrj1による天然型Cryj1特異的IgE抗体の産生をも抑制し得ることを見出した。従って、本発明の融合タンパク質は、それ自体がアナフィラキシー反応を生じ得ないのみならず、スギ花粉に起因するアナフィラキシー反応の程度もまた抑制し得ることから、スギ花粉症の新規減感作療法において、並びに/あるいは治療用ワクチン等の医薬として利用価値が高いと考えられる。
【0006】
以上の知見などに基づき、本発明者らは、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、以下の発明などを提供する。
〔1〕Cryj1成熟タンパク質及びCryj2成熟タンパク質の融合タンパク質。
〔2〕融合タンパク質が可溶性タンパク質である、上記〔1〕の融合タンパク質。
〔3〕融合タンパク質において、Cryj1成熟タンパク質がCryj2成熟タンパク質よりもN末端側に存在する、上記〔1〕又は〔2〕の融合タンパク質。
〔4〕融合タンパク質におけるCryj1成熟タンパク質部分の立体構造が、天然Cryj1成熟タンパク質の立体構造と異なる、上記〔3〕の融合タンパク質。
〔5〕融合タンパク質が、配列番号1で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチドである、上記〔1〕〜〔4〕のいずれかの融合タンパク質。
〔6〕融合タンパク質が、配列番号2で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチドである、上記〔1〕〜〔5〕のいずれかの融合タンパク質。
〔7〕上記〔1〕〜〔6〕のいずれかの融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド。
〔8〕上記〔7〕のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
〔9〕上記〔8〕の発現ベクターが導入された形質転換体。
〔10〕形質転換体が大腸菌又は酵母である、上記〔9〕の形質転換体。
〔11〕上記〔9〕又は〔10〕の形質転換体を培地中で培養し、産生された上記〔1〕〜〔6〕のいずれかの融合タンパク質を回収することを含む、Cryj1成熟タンパク質及びCryj2成熟タンパク質の融合タンパク質の製造方法。
〔12〕上記〔1〕〜〔6〕のいずれかの融合タンパク質を含む医薬。
〔13〕医薬がスギ花粉症を処置するためのワクチンである、上記〔12〕の医薬。
【発明の効果】
【0007】
本発明の融合タンパク質は、可溶性タンパク質であるため取り扱いが容易である、高純度での大量生産が容易である等の利点を有する。本発明の融合タンパク質はまた、アナフィラキシー反応を生じ得ない安全なアレルゲンとなり得る、スギ花粉に起因するアナフィラキシー反応の程度を抑制し得る、スギ花粉抗原に特異的な免疫を十分に誘導し得る、全てのスギ花粉症患者におけるT細胞エピトープをカバーし得るという優れた効果を奏することから、スギ花粉症の新規減感作療法において、並びに/あるいは治療用ワクチン等の医薬として有用であり得る。本発明はまた、このような融合タンパク質の製造方法、及び当該製造方法に用いられ得るポリヌクレオチド、発現ベクター、形質転換体などを提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、Cryj1タンパク質及びCryj2タンパク質の融合タンパク質を提供する。本発明の融合タンパク質は、連結したCryj1成熟タンパク質及びCryj2成熟タンパク質を含み得る。本発明の融合タンパク質はまた組換えタンパク質であり得る。
【0009】
Cryj1成熟タンパク質は、Cryj1遺伝子より発現したポリペプチドのうち、N末端側に存在するシグナル領域が除去されたポリペプチドである。例えば、GenBankアクセッション番号:BAA07020を参照すると、Cryj1タンパク質として、374個のアミノ酸残基からなるポリペプチドが登録されているが、Cryj1成熟タンパク質は、BAA07020に登録された374個のアミノ酸残基からなるポリペプチドのうち、22〜374番目のアミノ酸残基からなるポリペプチド(例えば、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド)に対応する。BAA07020に登録された374個のアミノ酸残基からなるポリペプチドのうち、1〜21番目のアミノ酸残基からなる領域はシグナル領域である。
【0010】
Cryj1成熟タンパク質は、天然Cryj1成熟タンパク質、あるいは天然Cryj1成熟タンパク質における1個以上(例えば1〜10個、好ましくは1〜7個、より好ましくは1〜5個、最も好ましくは1、2又は3個)のアミノ酸が改変(例、置換、付加、挿入、欠失)され、又は天然Cryj1成熟タンパク質のアミノ酸配列と少なくとも約95%、好ましくは約97%、より好ましくは約98%、最も好ましくは約99%のアミノ酸配列同一性(%)を示すアミノ酸配列を有し、かつCryj1成熟タンパク質中のエピトープを保持する変異タンパク質であり得る。天然Cryj1成熟タンパク質としては、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、及び天然に存在するそのアイソタイプ(例えば、GenBankアクセッション番号D34639、D26544、D26545、AB081309、AB081310参照)が挙げられる。変異タンパク質は、Cryj1成熟タンパク質における1又は2以上、好ましくは全てのエピトープ(例、T細胞又はB細胞エピトープ)を保持するように改変されたタンパク質であり得、このような改変としては、例えば、可溶性タンパク質を効率よく産生するための改変(例、システイン残基のアラニン残基又はセリン残基への置換)、IgE結合部位の改変(例、置換、欠失)などが挙げられる。
【0011】
Cryj2成熟タンパク質は、Cryj2遺伝子より発現したポリペプチドのうち、N末端側に存在するシグナル領域、並びに成熟タンパク質のコーディング部分のN末端及びC末端側にそれぞれ存在する2つのプロ領域が除去されたポリペプチドである。例えば、GenBankアクセッション番号:P43212を参照すると、Cryj2タンパク質として、514個のアミノ酸残基からなるポリペプチドが登録されているが、Cryj2成熟タンパク質は、P43212に登録された514個のアミノ酸残基からなるポリペプチドのうち、46〜433番目のアミノ酸残基からなるポリペプチド(例えば、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド)に対応する。P43212に登録された514個のアミノ酸残基からなるポリペプチドのうち、1〜22番目のアミノ酸残基からなる領域はシグナル領域であり、23〜45番目のアミノ酸残基からなる領域及び434〜514番目のアミノ酸残基からなる領域はそれぞれプロ領域である。
【0012】
Cryj2成熟タンパク質は、天然Cryj2成熟タンパク質、あるいは天然Cryj2成熟タンパク質における1個以上(例えば1〜10個、好ましくは1〜7個、より好ましくは1〜5個、最も好ましくは1、2又は3個)のアミノ酸が改変(例、置換、付加、挿入、欠失)され、又は天然Cryj2成熟タンパク質のアミノ酸配列と少なくとも約95%、好ましくは約97%、より好ましくは約98%、最も好ましくは約99%のアミノ酸配列同一性(%)を示すアミノ酸配列を有し、かつCryj2成熟タンパク質中のエピトープを保持する変異タンパク質であり得る。天然Cryj2成熟タンパク質としては、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、及び天然に存在するそのアイソタイプ(例えば、GenBankアクセッション番号D37765、D29772、E10716、AB081403、AB081404、AB081405参照)が挙げられる。変異タンパク質は、Cryj2成熟タンパク質における1又は2以上、好ましくは全てのエピトープ(例、T細胞又はB細胞エピトープ)を保持するように改変されたタンパク質であり得、このような改変としては、例えば、可溶性タンパク質を効率よく産生するための改変(例、システイン残基のアラニン残基又はセリン残基への置換)、IgE結合部位の改変(例、置換、欠失)などが挙げられる。
【0013】
アミノ酸配列同一性(%)は、当該分野で慣用のプログラム(例えば、BLAST、FASTA等)を初期設定で用いて決定することができる。同一性(%)はまた、当該分野で公知の任意のアルゴリズム、例えば、Needlemanら(1970)(J.Mol.Biol.48:444−453)、Myers及びMiller(CABIOS,1988,4:11−17)のアルゴリズム等を使用して決定することができる。Needlemanらのアルゴリズムは、GCGソフトウェアパッケージ(www.gcg.comで入手可能)のGAPプログラムに組み込まれており、同一性(%)は、例えば、BLOSUM 62 matrix又はPAM250 matrix、並びにgap weight:16、14、12、10、8、6若しくは4、及びlength weight:1、2、3、4、5若しくは6のいずれかを使用することによって決定することができる。また、Myers及びMillerのアルゴリズムは、GCG配列アラインメントソフトウェアパッケージの一部であるALIGNプログラムに組み込まれている。アミノ酸配列を比較するためにALIGNプログラムを利用する場合、例えば、PAM120 weight residue table、gap length penalty 12、gap penalty 4を用いることができる。アミノ酸配列同一性は、上記の任意の方法で決定されたものであれば構わず、例えば計算に際して、上記の方法のなかで最も低い値を示す方法が採用され得る。
【0014】
本発明の融合タンパク質は、Cryj1成熟タンパク質がN末端側に、Cryj2成熟タンパク質がC末端側に存在するものであっても、あるいはCryj1成熟タンパク質がC末端側に、Cryj2成熟タンパク質がN末端側に存在するものであってもよい。本発明の融合タンパク質はさらに、Cryj1成熟タンパク質とCryj2成熟タンパク質との間にペプチドリンカーを含んでいなくともよく、又は含んでいてもよい。当業者は、当該技術分野における技術常識より、かかるペプチドリンカーを適宜設計できる。例えば、ペプチドリンカーは、約30以下、好ましくは約25以下、より好ましくは約20以下、さらにより好ましくは約15以下、最も好ましくは約10又は5以下のアミノ酸残基の長さであり得る。
【0015】
本発明の融合タンパク質はまた、N末端又はC末端のいずれか、あるいは双方にさらなるペプチド部分が付加されたものであってもよい。このようなペプチド部分は、本発明の融合タンパク質に付加された場合に、本発明の融合タンパク質の特性を保持し得るものである限り特に限定されない。例えば、このようなペプチド部分としては、精製用タグ(例、ヒスチジン(His)タグ、FLAGタグ、Mycタグが挙げられる。また、このようなペプチド部分は、例えば約30以下、好ましくは約25以下、より好ましくは約20以下のアミノ酸残基の長さであり得る。
【0016】
本発明の融合タンパク質は可溶性タンパク質であり得る。本発明の融合タンパク質が可溶性画分中に得られる可溶性タンパク質である場合、例えば、カラムクロマトグラフィー等の一般的な精製法により高純度に精製可能である、タンパク質の修飾が容易であるなどのメリットがある。本発明の融合タンパク質はまた、不溶性画分に得られた場合であっても、可溶化処理により可溶化タンパク質として得ることができ、従って上記メリットもまた有する。
【0017】
アナフィラキシー反応は、肥満細胞表面に結合しているIgE抗体へのアレルゲンの結合により生じるシグナルの細胞内への導入により引き起こされる。IgE抗体は、所定の立体構造を保持しているアレルゲンに結合することが多いので、アレルゲンの立体構造を崩すことによりIgE抗体に対するアレルゲンの結合が妨げられ得、ひいてはアナフィラキシー反応の危険性が低減される可能性がある(例えば、Woodfolk et al. J. Allergy Clin. Immunol. 1994: 19-26参照)。本発明の融合タンパク質は、その立体構造(例えばCryj1成熟タンパク質部分、特にCryj1成熟タンパク質のN末端部分の立体構造)が天然タンパク質と大きく異なることから、当該タンパク質についてのIgE抗体の認識能が喪失し得ると考えられる。本発明の融合タンパク質は、実際、スギ花粉抗原(例、天然型Cryj1)に特異的なIgE抗体の産生を誘導し得ないばかりか、スギ花粉抗原によるスギ花粉抗原特異的IgE抗体の産生をも抑制し得る。一方で、本発明の融合タンパク質は、Cryj1成熟タンパク質及びCryj2成熟タンパク質における1以上(好ましくは全て)のT細胞エピトープを保持し得る。従って、本発明の融合タンパク質は、天然型Cryj1またはCryj2特異的IgE抗体に結合し得ないことから、アナフィラキシー反応を生じ得ない安全なアレルゲンであり得る、スギ花粉に起因するアナフィラキシー反応の程度を抑制し得る、スギ花粉抗原に特異的な免疫(例、細胞性免疫、IgG等の液性免疫)を十分に誘導し得る、全てのスギ花粉症患者におけるT細胞エピトープをカバーし得る等の利点を有する。
【0018】
従って、本発明の融合タンパク質は、スギ花粉症の治療剤等の医薬として用いられ得る。本発明の融合タンパク質が適用され得る哺乳動物としては、例えば、霊長類(例、ヒト、サル、チンパンジー)、げっ歯類(例、マウス、ラット、モルモット)、ペット(例、イヌ、ネコ、ウサギ)、使役動物又は家畜(例、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ)が挙げられるが、臨床応用という観点からはヒト、及び/又はイヌが好ましい。
【0019】
本発明の医薬は、医薬上許容され得る担体をさらに含み得る。医薬上許容される担体としては、例えば、ショ糖、デンプン、マンニット、ソルビット、乳糖、グルコース、セルロース、タルク、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等の賦形剤、セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリプロピルピロリドン、ゼラチン、アラビアゴム、ポリエチレングリコール、ショ糖、デンプン等の結合剤、デンプン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、ナトリウム−グリコール−スターチ、炭酸水素ナトリウム、リン酸カルシウム、クエン酸カルシウム等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、エアロジル、タルク、ラウリル硫酸ナトリウム等の滑剤、クエン酸、メントール、グリシルリシン・アンモニウム塩、グリシン、オレンジ粉等の芳香剤、安息香酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メチルパラベン、プロピルパラベン等の保存剤、クエン酸、クエン酸ナトリウム、酢酸等の安定剤、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ステアリン酸アルミニウム等の懸濁剤、界面活性剤等の分散剤、水、生理食塩水、オレンジジュース等の希釈剤、カカオ脂、ポリエチレングリコール、白灯油等のベースワックス、リポソームなどが挙げられるが、それらに限定されるものではない。
【0020】
経口投与に好適な製剤は、水、生理食塩水、オレンジジュースのような希釈液に有効量の有効成分を溶解させた液剤、懸濁液剤、乳剤、並びに有効量の融合タンパク質を固体や顆粒として含んでいるカプセル剤、散剤、顆粒剤、錠剤等である。
【0021】
非経口的な投与(例えば、静脈内注射、皮下注射、筋肉注射、局所注入、腹腔内投与、経皮投与、経鼻投与)に好適な製剤としては、水性および非水性の等張な無菌の注射液剤があり、これには抗酸化剤、緩衝液、制菌剤、等張化剤等が含まれていてもよい。また、水性および非水性の無菌の懸濁液剤及び/又はリポソーム製剤が挙げられ、これには懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤、防腐剤等が含まれていてもよい。当該製剤は、アンプルやバイアルのように単位投与量あるいは複数回投与量ずつ容器に封入することができる。また、有効成分および医薬上許容される担体を凍結乾燥し、使用直前に適当な無菌のビヒクルに溶解または懸濁すればよい状態で保存することもできる。
【0022】
本発明の製剤の投与量は、有効成分の種類・活性、病気の重篤度、投与対象となる動物種、投与対象の薬物受容性、体重、年齢等によって異なるが、通常、成人1日あたり有効成分量として約0.001〜約1mg/kgであり得る。
【0023】
本発明はまた、本発明の融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを提供する。本発明のポリヌクレオチドは、DNA又はRNAであり得る。本発明のポリヌクレオチドは、本発明の融合タンパク質を発現し得るものである限り特に限定されない。
【0024】
本発明はまた、本発明のポリヌクレオチドを含む発現ベクターを提供する。
【0025】
本発明の発現ベクターは、本発明のポリヌクレオチド、及びそれに機能可能に連結されたプロモーターを含み得る。本発明の発現ベクターはまた、エピソーマルベクター又は染色体組込み型ベクターであり得る。
【0026】
本発明の発現ベクターに含まれるプロモーターは、構成発現型プロモーター、又は発現誘導型プロモーターであり得る。構成発現型プロモーターとしては、例えば、ヒトサイトメガロウイルス(hCMV)プロモーター、ヒト伸長因子(elongation factor)プロモーターが挙げられる。また、発現誘導型プロモーターとしては、例えば、インベルターゼ1(Inv1)プロモーター、メタロチオネインプロモーター、T7/T7lacプロモーターが挙げられる。
【0027】
好ましくは、本発明の発現ベクターは、pTL2M5、pTI1M5、pXL1又は上記ペプチド部分(例、精製用タグ)との融合タンパク質の発現ベクター(例、pETベクター)、あるいはその改変ベクターであり得る。pTL2M5は、構成発現型ベクターであり得、ヒトサイトメガロウイルス(hCMV)プロモーター、マルチプルクローニングサイト(MCS)、ヒトリポコルチンI(hLPI)ターミネーター、SV40プロモーター、ネオマイシン耐性遺伝子、SV40ターミネーター、アンピシリン耐性遺伝子、pBR322由来の複製起点を有する(図3参照)。pTI1M5は、誘導発現型ベクターであり得、S.pombe由来のインベルターゼ1(inv1)プロモーター、MCS、hLPIターミネーター、SV40プロモーター、ネオマイシン耐性遺伝子、SV40ターミネーター、アンピシリン耐性遺伝子、pBR322由来の複製起点を有する(図4参照)。pXL1は、S.pombe野生型leu1+(leu1+)遺伝子、SV40プロモーター、ネオマイシン耐性遺伝子、SV40ターミネーター、アンピシリン耐性遺伝子、pBR322由来の複製起点を有する(図7参照)。pXL1の改変ベクターは、例えば、hCMVプロモーター、hLPIターミネーター、S.pombe野生型leu1+(leu1+)遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、pBR322由来の複製起点を有するベクターであり得る(図8参照)。このような発現ベクターは、例えば、特開平7−163373、及び「Development of Recombinant Protein Product System Using Fission Yeast Schizosaccharomyces pombe」,旭硝子研究報告別冊Vol.50 (2000) に従って作製することができる。また、pETベクターは、ヒスチジンタグ及びそれにin frameに連結しているマルチプルクローニング部位により特徴付けられ得る。
【0028】
本発明はまた、本発明の発現ベクターが導入された形質転換体を提供する。本発明の形質転換体は、原核生物細胞(例、大腸菌、枯草菌)、真核生物細胞(例、酵母、昆虫細胞、哺乳動物細胞等の動物細胞)を含む宿主細胞が形質転換されたものであり得る。本発明の形質転換体は、発現ベクターを染色体外に保持するもの、又は染色体内に組み込んだものであり得る。例えば、形質転換体により産生される組換えタンパク質のヒトへの投与を意図して、形質転換体の作製において宿主細胞として酵母を用いる場合には、エンドトキシン陰性であるS.pombeを使用することも好ましい。本発明の発現ベクターの宿主細胞への導入は自体公知の方法により行うことができる。
【0029】
本発明はまた、本発明の融合タンパク質の製造方法を提供する。本発明の製造方法は、本発明の形質転換体を培地中で培養し、産生された融合タンパク質を形質転換体から回収することを含み得る。本発明の製造方法はまた、回収された融合タンパク質を可溶化すること(例、グアニジン塩酸、尿素及び/又はイミダゾール等による処理)を含んでいてもよい。
【0030】
培地は、形質転換体の生育に必要な炭素源、無機窒素源もしくは有機窒素源を含んでいることが好ましい。炭素源としては、例えばグルコース、デキストラン、可溶性デンプン、ショ糖などが、無機窒素源もしくは有機窒素源としては、例えばアンモニウム塩類、硝酸塩類、アミノ酸、コーンスチープ・リカー、ペプトン、カゼイン、肉エキス、大豆粕、バレイショ抽出液などが例示される。また所望により他の栄養素(例えば、無機塩(例えば塩化カルシウム、リン酸二水素ナトリウム、塩化マグネシウム)、ビタミン類、抗生物質(例えばテトラサイクリン、ネオマイシン、アンピシリン、カナマイシン等)など)を含んでいてもよい。
【0031】
本発明はまた、無細胞系による本発明の融合タンパク質の製造方法を提供する。無細胞系では、例えば、ウサギ網状赤血球ライセート、コムギ胚芽ライセート、大腸菌ライセートが用いられ得る。
【0032】
本発明の融合タンパク質は、培養された該形質転換体又は無細胞系から回収、好ましくは単離、精製することができる。単離、精製方法としては、例えば塩析、溶媒沈澱法等の溶解度を利用する方法、透析、限外濾過、ゲル濾過、ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動など分子量の差を利用する方法、イオン交換クロマトグラフィーやヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィーなどの荷電を利用する方法、アフィニティークロマトグラフィーなどの特異的親和性を利用する方法、逆相高速液体クロマトグラフィーなどの疎水性の差を利用する方法、等電点電気泳動などの等電点の差を利用する方法などが挙げられる。
【0033】
本明細書中で挙げられた特許及び特許出願明細書を含む全ての刊行物に記載された内容は、本明細書での引用により、その全てが明示されたと同程度に本明細書に組み込まれる
ものである。
【0034】
以下に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記実施例等に何ら制約されるものではない。
なお、以下の実施例においては、必要に応じて以下の略号を用いる。
Cryj1、Cryj2の順に連結したもの:Cryj(1-2)あるいはCryj1/2(又はrecCryj1/2)
Cryj2、Cryj1の順に連結したもの:Cryj(2-1)
【実施例】
【0035】
(材料)
使用した生物学的材料は、以下の通りである。
SDC-Leu液体培地(BIO101社製 (Cat No.4811-075))
Ab-Cryj1 mAb 026(林原生物化学研究所製、生化学工業株式会社より市販(Code No.290482))
rabbit, IgG fraction(林原生物化学研究所製、生化学工業株式会社より市販(Code No.290483))
Ab-Cryj2 mAb T27(林原生物化学研究所製、生化学工業株式会社より市販(Code No.290485))
rabbit, IgG fraction(林原生物化学研究所製、生化学工業株式会社より市販(Code No.290486))
Anti-mouse IgG (KPL社製 (075-1806), AP-labeled)
【0036】
実施例1.Cryj(1-2)、Cryj(2-1)遺伝子の合成
Cryj(1-2)、Cryj(2-1)遺伝子を、酵母(S.pombe)のコドンusageに合わせて化学合成後、ベクターに挿入し、Cryj(1-2)、Cryj(2-1)遺伝子挿入ベクターを得た。遺伝子挿入ベクターが保持するCryj(1-2)、Cryj(2-1)遺伝子のヌクレオチド配列の概要をそれぞれ図1、2に示す。
【0037】
実施例2.スギ花粉アレルゲンペプチド融合タンパク質発現酵母の作製(1)
2−1.発現ベクター(菌体内発現、染色体外複製型:エピソーマルベクター)の構築
2−1−1.ベクター構築の概要
ベクター構築は、上述の通り作製されたCryj(1-2)、Cryj(2-1)遺伝子を構成発現型ベクター(pTL2M5:図3)と誘導発現型ベクター(pTI1M5:図4)にサブクローニングすることにより実施した。
pTL2M5ベクターは、特開平7-163373に記載されているpTL2Mベクターを、「Development of Recombinant Protein Product System Using Fission Yeast Schizosaccharomyces pombe」,旭硝子研究報告別冊Vol.50 (2000) に従って改変することにより作製した。pTL2M5ベクターは目的遺伝子の発現のためのプロモーターとして動物細胞由来ヒトサイトメガロウイルスプロモーター(hCMVp)を持つ。また菌体内で多コピーを維持する為にSV40プロモーター支配下にネオマイシン耐性遺伝子(NmR)が組み込まれており、培地中の構成物質G418濃度に依存してベクターのコピー数が増加するようになっている。
また、pTI1M5ベクターは目的遺伝子の発現のためのプロモーターとしてS.pombeインベルターゼプロモーター(inv1p)を持ち、グルコースの存在下で抑制される。この誘導プロモーターは、培地中のグルコースが無くなることにより働き、特に宿主の成育に影響を与えるようなタンパク質の発現に有効である。
【0038】
2−1−2.pTL2Cryj(1-2)、pTI1Cryj(1-2)ベクターの構築
Cryj(1-2)遺伝子挿入ベクターをNcoIとEcoRIで処理してCryj(1-2)のORF部分を切り出した。続いてこの遺伝子をpTL2M5ベクター(図3)、pTI1M5ベクター(図4)のBspLU11IとEcoRI部位に挿入した。構築されたベクターは、それぞれpTL2Cryj(1-2) [6.8 kbp]、pTI1Cryj(1-2) [9.0 kbp]と命名した。
【0039】
2−1−3.pTL2Cryj(2-1)、pTI1Cryj(2-1)ベクターの構築
Cryj(2-1)遺伝子挿入ベクターをSphIとEcoRIで処理してCryj(2-1)のORF部分を切り出した。この遺伝子をpTL2M5ベクター(図1)、pTI1M5ベクター(図2)のBspLU11IとEcoRI部位に挿入した。構築されたベクターをそれぞれpTL2Cryj(2-1) [6.8kbp]、pTICryj(2-1) [9.0kbp]と命名した。
【0040】
2−2.組換え酵母の作製
2−2−1.S.pombe形質転換の実施
スギ花粉アレルゲンペプチド融合タンパク質発現用ベクターを、それぞれ酢酸リチウム法により宿主酵母S.pombe [leu1-32h-] に導入し、ロイシン欠失最小栄養培地プレート(MMAプレート)に塗布した。32℃で静置培養し、得られたコロニーをYELG10液体培地〔YEL(0.5%酵母抽出物、3%グルコース)液体培地に、抗生物質G418を最終濃度10μg/mlとなるように添加したもの〕に播種し、組換え酵母を取得した。さらに、スクリーニングを実施した。
【0041】
2−2−2.スクリーニングの実施
表1に、組換え酵母の種類とスクリーニングの結果を示す。
【0042】
【表1】

【0043】
以上の通り、Cryj(1-2)、Cryj(2-1)タンパク質を発現するG418耐性株が作製された。
【0044】
2−3.組換えタンパク質の発現確認
2−3−1.菌体の培養、サンプルの調製
2−2−2で取得された株を、5mlのYPDG100液体培地〔YPD(1%酵母抽出物、2%ペプトン、2%グルコース)に抗生物質G418を最終濃度100μg/mlとなるように添加したもの〕に植菌し、32℃で3日間培養した後、遠心分離により上清液と菌体を分離した(遺伝子未挿入株:ASP021株も同時に培養した)。
菌体破砕は、菌体を5mlの滅菌水で2回洗浄し、4倍容量の50 mM Tris-HCl(pH7.4)を添加して懸濁させ、0.6倍容量のガラスビーズを添加した。続いて、MINI-BEADBEATER(BIOSPEC PRODUCTS製)で4,200rpm、30秒の条件で、菌体破砕を3回繰り返した後、菌体破砕液を回収した(400μl)。
可溶性タンパク質として菌体内に発現させることが第一目標であるため、可溶性画分(菌体破砕上清液)を最初に調べることにした。菌体破砕液は、12,000rpmで5分間遠心分離を行い、上清液とペレットに分離した。ペレットはさらに、同様のバッファーで洗浄し、可溶性画分として280μlを調製した。
【0045】
2−3−2.SDS-PAGE、ウェスタンブロッティングによる発現の確認
2−3−1で調製した可溶性画分について、SDS-PAGE、ウェスタンブロッティングによる発現確認を実施した。各サンプルは20μlを使用した。Cryj(1-2)型、Cryj(2-1)型の発現確認結果をそれぞれ図5、6に示す。目的の融合タンパク質の分子量は80 kDaである。
Cryj(1-2)型、Cryj(2-1)型株の可溶性画分のサンプルを調べたところ、両融合型株ともに、ウェスタンブロッティングにより、80 kDa付近に、1本の明確なバンドを検出した。酵母菌体内において、スギ花粉アレルゲンペプチド融合タンパク質が可溶性として発現していることが確認された。
【0046】
実施例3:スギ花粉アレルゲンペプチド融合タンパク質発現酵母の作製(2)
3−1.発現ベクター(菌体内発現、染色体組込み型:インテグレーションベクター)の構築
2−1で構築された各ベクター〔pTL2Cryj(2-1)を除く〕の発現カセット(プロモーター、目的遺伝子、ターミネーター部分)をS.pombe組込み型ベクター(pXL1:図7)にサブクローニングした。
栄養要求性遺伝子としてはleu1を保有している。S.pombe染色体のleu1-32遺伝子座に相同組換えにより目的遺伝子が導入される。
pXL1ベクターをSpeI、BstI107Iで処理し、7.3 kbpのフラグメントを回収した。続いてpTL2Cryj(1-2)、pTI1Cryj(1-2)、pTI1Cryj(2-1)ベクターを同様の制限酵素で処理して得られた発現カセット(プロモーター、目的遺伝子、ターミネーター部分)のフラグメントと連結した。構築されたベクターは、それぞれpTL2Cryj(1-2)-XL、pTI1Cryj(1-2)-XL、pTI1Cryj(2-1)-XLと命名した。概要を図8に示す。
【0047】
3−2.組換え酵母の作製
3−2−1.S.pombe形質転換の実施
3種類のスギ花粉アレルゲンペプチド融合タンパク質発現ベクターを、それぞれ酢酸リチウム法により宿主酵母S.pombe [leu1-32h-] に導入し、ロイシン欠失最小栄養培地プレート(MMAプレート)に塗布した。32℃で静置培養し、得られたコロニーをSDC-Leu液体培地(274 g)27.4 g/L(Leu要求性の選択圧をかけておくために使用)〕に接種し、組換え酵母を取得した。
【0048】
3−2−2.スクリーニングの実施
表2に、組換え酵母の種類とスクリーニングの結果を示す。
【0049】
【表2】

【0050】
以上の通り、Cryj(1-2)、Cryj(2-1)タンパク質を発現するG418耐性株が作製され、各株はSDC-Leu培地で順調に生育した。
【0051】
3−3.組換えタンパク質の発現確認
3−3−1.菌体の培養、サンプルの調製
3−2−2で取得された株を、5 mlのYPD液体培地〔YPD(1%酵母抽出物、2%ペプトン、2%グルコース)液体培地〕に植菌し、32℃で3日間培養した後、遠心分離により上清液と菌体を分離した(遺伝子未挿入株:ASP000株も同時に培養した)。菌体破砕は、2−3−1と同様に行い、菌体破砕液を400μl、可溶性画分として280μlを調製した。
【0052】
3−3−2.SDS-PAGE、ウェスタンブロッティングによる発現の確認
3−3−1で調製した可溶性画分について、SDS-PAGE、ウェスタンブロッティングによる発現確認を実施した。各サンプルは20μlを使用した。図9、10に結果を示す。
Cryj(1-2)、Cryj(2-1)型株の可溶性画分のサンプルを調べたところ、エピソーマル(プラスミド)型の場合と同様に、両融合型株ともに、ウェスタンブロッティングにより、80 kDa付近に、1本の明確なバンドを検出した。酵母菌体内において、スギ花粉アレルゲンペプチド融合タンパク質が可溶性タンパク質として発現していることが確認された。
【0053】
実施例4:可溶性Cryj(1-2)タンパク質に対する各種抗体の反応性
次いで、可溶性Cryj(1-2)タンパク質に対する各種抗体の反応性をウェスタンブロッティングにより解析した。抗体としては、Cryj1、Cryj2タンパク質に対するモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体を用いた。図11、12に結果を示す。
その結果、可溶性Cryj(1-2)タンパク質は、抗Cryj2モノクローナル抗体、抗Cryj1ポリクローナル抗体、抗Cryj2ポリクローナル抗体によって認識されたが、抗Cryj1モノクローナル抗体によっては認識されなかった。実験に用いた抗Cryj1モノクローナル抗体(Ab-Cryj1 mAb 026)は、Cryj1の成熟タンパク質のN末端部分を認識する。該エピトープ部分を保持する可溶性Cryj(1-2)タンパク質が抗Cryj1モノクローナル抗体によって認識されなかったという事実は、可溶性Cryj(1-2)タンパク質中のCryj1対応領域の高次構造が変化していることを示唆する。
以上より、可溶性Cryj(1-2)タンパク質は、その高次構造が変化している可能性が示された。
【0054】
実施例5:Cryj1/2融合遺伝子の合成
Cryj1/2融合遺伝子は、Cryj1遺伝子(GenBankアクセッション番号:BAA07020)のN末端シグナル領域を含まない63位(Ser)から1122位(Cys)までのヌクレオチド(成熟Cryj1)とCryj2遺伝子(GenBankアクセッション番号:P43212)のN末端シグナル及びプロ領域を含まない138位(Arg)から1299位(Ser)までのヌクレオチド(成熟Cryj2)を以下の方法で結合することにより作製した。成熟Cryj2遺伝子領域には、XbaI切断配列が868-874位(Ser-Arg)のヌクレオチド配列(TCTAGA)が存在し、種々ベクターとの組換え操作に不都合であるため、TCTAGA→TCAAGAのコドン置換によりXbaI切断配列を喪失させることとした。まず、Cryj2遺伝子全長が挿入されたプラスミドDNA((独)森林総合研究所)をテンプレートにし、プライマー1、2又はプライマー3、4によるPCRをDNA合成の正確度が高いDNAポリメラーゼ(例、宝酒造のPrimeStar、東洋紡のKOD)存在下で20サイクル行った。その結果、成熟Cryj2のN末端領域断片とC末端領域断片をそれぞれ増幅することができた。次に、これら2つのDNA断片を混合し、プライマー1、4を用いたPCRを20サイクル行うことにより、成熟Cryj2遺伝子全長を増幅させた。このDNA断片をベクターpMAT324のXbaI-EcoRI部位にサブクローニングした後、DNAシークエンシングを行い、成熟Cryj2遺伝子のXbaI切断配列の喪失とその他全配列にPCRによる変異生じていないことを確認した(pMAT324-Cryj2ΔXbaI)。Cryj1/j2融合遺伝子を作製するため、pMAT324-Cryj2ΔXbaIをテンプレートにプライマー4、5を用いたPCRを行い、成熟Cryj2遺伝子断片を増幅した。次にCryj1遺伝子全長が挿入されたプラスミドDNA((独)森林総合研究所)をテンプレートにプライマー6、7を用いたPCRを行い、成熟Cryj1遺伝子断片を増幅した。最後に、成熟Cryj1遺伝子領域DNA断片と成熟Cryj2遺伝子領域DNA断片を混合し、プライマー4、6を用いたPCRを20サイクル行うことにより、Cryj1/2融合遺伝子DNA断片を増幅した。Cryj1/2融合遺伝子をEcoRI消化後、SmaIとEcoRIで切断されたpET47b(Novagen)ベクターとライゲーションを行い、大腸菌DH10B株に形質転換した(pET47b-Cryj1/2)。DNAシークエンシングによりCryj1/2融合遺伝子の全配列と、ヒスチジン(His)タグ配列がCryj1/2遺伝子の5’末端に付加されていることを確認した(図13、14)。
以下、必要に応じて、本実施例で作製された構築物をrecCryj1/2と省略する。
【0055】
プライマー1(センス):CCGGTCTAGAAAAGTTGAGCATTC(配列番号10)
プライマー2(アンチセンス):CCTCTGCTCTTGAGTTTTCCC(配列番号11)
プライマー3(センス):GGGAAAACTCAAGAGCAGAGG(配列番号12)
プライマー4(アンチセンス):CCGGAATTCCTATCAACTTGGACTTAAATTC(配列番号13)
プライマー5(センス):AGAAAAGTTGAGCATTC(配列番号14)
プライマー6(センス):TCTGATAATCCCATAGAC(配列番号15)
プライマー7(アンチセンス):GAATGCTCAACTTTTCTACAACGTTTAGAGAGAGAGC(配列番号16)
【0056】
実施例6:recCryj1/2タンパク質の発現確認
pET47b-Cryj1/2プラスミドDNAを、大腸菌BL21株(インビトロジェン)に形質転換した。カナマイシン(最終濃度20μg/ml)を添加したLB培地100 mlに形質転換株を植菌した。37℃で一昼夜培養した後、100 mlの菌体培養液全てを1 Lのカナマイシン含有LB培地に移し、さらに37℃で2時間培養した。次に、IPTGを最終濃度0.1 mMになるように添加した後、30℃で3時間培養した。菌体を回収し、超音波破砕した後、高速遠心機で沈殿を分離した。沈殿を水に懸濁後、遠心後の上清とともにSDSポリアクリルアミド電気泳動とHRP標識抗Cryj2モノクローナル抗体(林原研究所)を用いたウエスタンブロッティングで解析した。その結果、菌体破砕後の沈殿画分で、クマシーブリリアントブルー(CBB)タンパク染色で陽性でかつ、抗Cryj2モノクローナル抗体陽性の分子量約70 kDaのタンパク質がrecCryj1/2タンパク質であることが予想された(図15)。次に、ウエスタンブロッティングでPVDF膜にトランスファーした上記75 kDa付近のバンドをCBB染色後に切り出し、エンドプロテアーゼAsp-N(タカラバイオ)酵素消化後、質量分析を行った結果、Cryj1とCryj2内のペプチド配列を多数検出できた。
以上の結果から、菌体破砕沈殿にある約75 kDaのタンパク質はrecCryj1/2タンパク質であることが確認された。
【0057】
実施例7:recCryj/2タンパク質の可溶化と精製
pET47b-Cryj1/2発現菌体1 g(湿重量)をBugbuster(Novagen)5 mlとBenzonase(Novagen)1μlで溶解後、16000 g、 20分間遠心し不溶性画分を回収した。次にBugbuster(Novagen)5 mlを添加し、ボルテックスで十分に攪拌した後、Lysonase(Novagen)2μlを添加し、さらにボルテックスで攪拌した。室温に5分間静置後、10倍希釈したBugbuster(Novagen)溶液30 mlを添加し、16000 g、15分間遠心し不溶性画分を回収した。次に35 mlの10 mMイミダゾール/8 M尿素/リン酸緩衝液(PBS)に懸濁後、磁気スターラーにて攪拌し、不溶化タンパク質を溶解した。高速遠心機で18000 rpm、15分間遠心した後、上清を回収した。次に、0.1 M NiSO4を充填し、50 mMイミダゾール/8 M尿素/PBSで平衡化したChelating Sepharose FF(GLヘルスケアバイオサイエンス)カラムに、遠心上清を高速液体クロマトグラフィーでアプライした。50 mMイミダゾール/8 M尿素/PBSで洗浄後、500 mMイミダゾール/8 M尿素/PBSでrecCryj1/2融合タンパク質を溶出した。溶出液にアルギニンを最終濃度0.4 Mになるように添加後、透析チューブに入れ、0.4 Mアルギニン/PBS溶液内で24時間透析することによって、可溶化recCryj1/2融合タンパク質を回収した。SDSポリアクリルアミド電気泳動と抗ヒスチジンタグモノクローナル抗体(GEヘルスバイオサイエンス)、又はHRP標識抗Cryj2モノクローナル抗体(林原研究所)を用いたウエスタンブロッティングでrecCryj1/2タンパク質であることを確認した(図16)。
【0058】
実施例8:天然型Cryj1特異的抗体測定ELISAの構築
1)天然型Cryj1特異的IgE抗体検出用ELISA
抗マウスIgEモノクローナル抗体(ヤマサ)を0.1% BSA/PBS-50 mM炭酸緩衝液(pH 9.6)で2μg/mlに希釈し、96ウェルプレート(corning, 平底プレート・高結合型)に50μl/ウェルで分注し、37℃で3時間インキュベートした。洗浄バッファー(0.05% Tween20/TBS)で3回洗浄した後、希釈用バッファー1(10% FCS-0.005% Tween20/PBS)で希釈した、スタンダード溶液(抗体-cryj1 IgEモノクローナル抗体(RIKEN)を20 ng/mlから2倍ずつの段階希釈、計7系列)とサンプル(任意で希釈)をそれぞれduplicate、50μl/ウェルで添加し、4℃で一晩インキュベートした。翌日、洗浄バッファーで3回洗浄した後、希釈用バッファー1(10% FCS-0.005% Tween20/PBS)で0.5μg/mlに希釈したCryj1-biotin(生化学工業)を50μl/ウェルで添加し、室温で1時間インキュベートした。洗浄バッファーで3回洗浄した後、希釈用バッファー2(1% BSA-0.005% Tween20/PBS)で0.1ユニット/mlに希釈したStreptavidin-β-Gal conjugate(Roche)を添加し、室温で1時間インキュベートした。洗浄バッファー(0.05% Tween20/TBS)で6回洗浄した後、0.2 mM 4-Methyl Umberlliferyl β-D-Galactoside(SIGMA, 希釈用バッファー3で調製, 凍結保存)を更に希釈用バッファー3(1 mM MaCl2, 100 mM NaCl, 0.1% BSA/10 mM Phosphate buffer, pH 6.9)で2倍希釈した、0.1 mM 4-Methyl Umberlliferyl β-D-Galactosideを50μl/ウェルで添加し、37℃で2hインキュベートした。反応停止溶液(0.1 M Glycine-NaOH, pH 10.2)を50μl/ウェルで添加し、Ex: 355 nm、Em: 460 nmの蛍光強度を測定した。
【0059】
2)天然型Cryj1特異的IgG1抗体検出用ELISA
Cryj1(生化学工業)を50 mM炭酸緩衝液(pH 9.0)で2μg/mlに希釈し、96ウェルプレート(corning, 平底プレート・高結合型)に100μl/ウェルで分注し、4℃で一晩インキュベートした。翌日、ウェル内の溶液を捨て、Super Block blocking buffer in TBS(PIERCE)を200μl/ウェルで添加し、37℃で1時間インキュベートした。洗浄バッファー(0.05% Tween20/TBS)で3回洗浄した後、希釈用バッファーA(50% FCS-1% BSA/0.05% Tween20-TBS)で希釈した、スタンダード溶液(抗cryj1 IgG1モノクローナル抗体(RIKEN)を23.75 ng/mlから2倍ずつの段階希釈、計7系列)とサンプル(任意で希釈)をそれぞれduplicate、100μl/ウェルで添加し、37℃で1時間インキュベートした。洗浄バッファー(0.05% Tween20/TBS)で3回洗浄した後、希釈用バッファーB(1% BSA/0.05% Tween20-TBS)で500倍希釈した抗マウスIgG1-HRP(ZYMED)を100μl/ウェルで添加し、室温で1時間インキュベートした。洗浄バッファー(0.05% Tween20/TBS)で5回洗浄した後、TMB+(DAKO)を添加し、直後に1N H2SO4(和光純薬)を100μl/ウェルで添加し、A450-570 nmの吸収を測定した。
【0060】
3)天然型Cryj1特異的IgG2a抗体検出用ELISA
Cryj1(生化学工業)を50 mM炭酸緩衝液(pH 9.0)で2μg/mlに希釈し、96ウェルプレート(corning, 平底プレート・高結合型)に100μl/ウェルで分注し、4℃で一晩インキュベートした。翌日、ウェル内の溶液を捨て、Super Block blocking buffer in TBS(PIERCE)を200μl/ウェルで添加し、37℃で1時間インキュベートした。洗浄バッファー(0.05% Tween20/TBS)で3回洗浄した後、希釈用バッファーA(50% FCS-1% BSA/0.05% Tween20-TBS)で希釈した、スタンダード溶液(抗cryj1 IgG2aモノクローナル抗体(RIKEN)を225 ng/mlから2倍ずつの段階希釈、計7系列)とサンプル(任意で希釈)をそれぞれduplicate、100μl/ウェルで添加し、37℃で1時間インキュベートした。洗浄バッファー(0.05% Tween20/TBS)で3回洗浄した後、希釈用バッファーB(1% BSA/0.05% Tween20-TBS)で500倍希釈した抗マウスIgG2a-HRP(ZYMED)を100μl/ウェルで添加し、室温で1時間インキュベートした。洗浄バッファー(0.05% Tween20/TBS)で5回洗浄した後、TMB+(DAKO)を添加し、1-10分後に1N H2SO4(和光純薬)を100μl/ウェルで添加し、A450-570 nmの吸収を測定した。
【0061】
実施例9:recCryj1/2特異的IgE検出用ELISAの構築
抗マウスIgEモノクローナル抗体(ヤマサ)を0.1% BSA/PBS-50 mM炭酸緩衝液(pH 9.6)で2μg/mlに希釈し、96ウェルプレート(corning, 平底プレート・高結合型)に50μl/ウェルで分注し、37℃で3時間インキュベートした。洗浄バッファー(0.05% Tween20/TBS)で3回洗浄した後、希釈用バッファー1(10% FCS-0.005% Tween20/PBS)で希釈した、サンプル(x20)をそれぞれduplicate、50μl/ウェルで添加し、4℃で一晩インキュベートした。翌日、洗浄バッファーで3回洗浄した後、希釈用バッファー1(10% FCS-0.005% Tween20/PBS)で1μg/mlに希釈したrecCryj1/2タンパク質を50μl/ウェルで添加し、室温で1時間インキュベートした。洗浄バッファーで3回洗浄した後、1μg/mlに希釈したビオチン化抗ヒスチジンタグ抗体(upatate)を50μl/ウェルで添加し、室温で1時間インキュベートした。洗浄バッファーで3回洗浄した後、希釈用バッファー2(1% BSA-0.005% Tween20/PBS)で0.1unit/mlに希釈したStreptavidin-β-Gal conjugate(Roche)を添加し、室温で1時間インキュベートした。洗浄バッファーで6回洗浄した後、0.2 mM 4-Methyl Umberlliferyl β-D-Galactoside(SIGMA, 希釈用バッファー3で調製, 凍結保存)を更に希釈用バッファー3(1 mM MaCl2, 100 mM NaCl, 0.1% BSA /10 mM Phosphate buffer, pH 6.9)で2倍希釈した、0.1 mM 4-Methyl Umberlliferyl β-D-Galactosideを50μl/ウェルで添加し、37℃で2hインキュベートした。反応停止溶液(0.1 M Glycine-NaOH, pH 10.2)を50μl/ウェルで添加し、Ex: 355 nm、Em: 460 nmの蛍光強度を測定した。
【0062】
実施例10:recCryj1/2タンパク質免疫によるin vivo 抗体産生能
BALB/c x DBA2 F1(BDF1)マウス1群5匹(雌、8週齢、チャールズリバー)に、水酸化アルミニュウムゲル・アジュバント(理化学研究所)2 mgに混合したスギ花粉由来精製Cryj1(天然型Cryj1;林原研究所)10μgあるいはrecCryj1/2タンパク質5又は10μgを実験開始時(0日目)と14日目に腹腔内免疫し、41日目にそれぞれのマウスに天然型Cryj1を1μgあるいはrecCryj1/2タンパク質を5又は10μg追加免疫した。さらに、81日目には、全てのマウスに水酸化アルミニュウムゲル2 mgに混合した天然型Cryj1 1μgを追加免疫した。眼窩採血を13、28、55、76、95日目に実施し、血清中の天然型Cryj1特異的抗体価とrecCryj1/2特異的IgE抗体価を測定した。その結果、28、55、76日目の天然型Cryj1特異的IgE抗体価は、天然型Cryj1免疫マウスでは上昇したが、recCryj1/2タンパク質を免疫したマウスでは全く上昇せず、さらに81日目の水酸化アルミニュウムゲル・アジュバントと天然型Cryj1の免疫に対しても、天然型Cryj1特異的IgE抗体の上昇は95日目でほとんど認められなかった(図17)。しかしながら、76日目のrecCryj1/2特異的IgE抗体価は、recCryj1/2融合タンパク質を免疫したマウスで上昇していた(図18)。一方、28、55日目の天然型Cryj1特異的IgG1やIgG2a抗体価の上昇は、天然型Cryj1免疫マウスとrecCryj1/2免疫マウスの両方で認められた(図19)。
以上の結果から、recCryj1/2タンパク質は、天然型Cryj1特異的IgE抗体の産生を誘導しない、安全な減感作抗原になり得ることが示唆された。
【0063】
実施例11:recCryj1/2タンパク質のin vivo IgE抗体産生抑制能
BDF1マウス(雌、8週齢、チャールズリバー)に、水酸化アルミニュウムゲル・アジュバント(理化学研究所)2 mgに混合したスギ花粉由来精製Cryj1(天然型Cryj1;林原研究所)5μgを実験開始時(0日目)と14日目に腹腔内免疫した後、50日目に天然型Cryj1を1μg追加免疫した。この間、眼窩採血を14、29、57日目に実施し、血清中天然型Cryj1特異的IgE抗体を測定した。その後99日目に全マウスの天然型Cryj1特異的IgE抗体を測定し、抗体価の平均値が等しくなるようにマウスを3群(5匹1群)に分けた。106、113、120日目には各群のマウスの腹腔内に、recCryj1/2タンパク質(0.2μg)、recCryj1/2タンパク質(2μg)又は生理食塩水を3回投与し、さらに133日目に天然型Cryj1を1μg追加免疫した。眼窩採血を140、160日目に実施し、天然型Cryj1特異的IgE抗体価を測定した。その結果、recCryj1/2投与群では、投与後の天然型Cryj1特異的IgE抗体価(127日目)は生理食塩水投与群よりも上昇したが、その後の天然型Cryj1の追加免疫(133日目)後の天然型Cryj1特異的IgE抗体価(160日目)は、生理食塩水投与群で上昇したがrecCryj1/2投与群では逆に低下した(図20)。
以上の結果から、recCryj1/2タンパク質は、天然型Cryj1特異的IgE抗体価の上昇を抑制できる減感作抗原として利用できることが示唆された。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】Cryj(1-2)遺伝子のヌクレオチド配列(配列番号3)を示す図である。 配列番号3で表されるヌクレオチド配列のうち、4〜1062番目のヌクレオチド残基からなるヌクレオチド配列は、Cryj1成熟タンパク質のアミノ酸配列(GenBankアクセッション番号BAA07020として登録されているアミノ酸配列のうち、22〜374番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列:配列番号1)をコードするヌクレオチド配列であり、1063〜2226番目のヌクレオチド残基からなるヌクレオチド配列は、Cryj2成熟タンパク質のアミノ酸配列(GenBankアクセッション番号P43212として登録されているアミノ酸配列のうち、46〜433番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列:配列番号2)をコードするヌクレオチド配列である。下線を付したヌクレオチドは、酵母(S.pombe)のコドンusageに合わせるために変更されたヌクレオチドを示す。
【図2】Cryj(2-1)遺伝子のヌクレオチド配列(配列番号5)を示す図である。 配列番号5で表されるヌクレオチド配列のうち、4〜1167番目のヌクレオチド配列は、Cryj2成熟タンパク質のアミノ酸配列(配列番号2)をコードするヌクレオチド配列であり、1168〜2226番目のヌクレオチド配列は、Cryj1成熟タンパク質のアミノ酸配列(配列番号1)をコードするヌクレオチド配列である。下線を付したヌクレオチドは、酵母(S.pombe)のコドンusageに合わせるために変更されたヌクレオチドを示す。
【図3】構成発現型ベクターpTL2M5の構造を示す図である。 略語:NmR,ネオマイシン耐性コーディング遺伝子;SV40,シミアンウイルス40;AmpR,アンピシリン耐性コーディング遺伝子;hCMV,ヒトサイトメガロウイルス;MCS,マルチプルクローニングサイト;LPI,ヒトリポコルチンI;ori,複製起点
【図4】誘導発現型ベクターpTI1M5の構造を示す図である。 略語:NmR,ネオマイシン耐性コーディング遺伝子;SV40,シミアンウイルス40;AmpR,アンピシリン耐性コーディング遺伝子;inv1,S.pombe由来のインベルターゼ;MCS,マルチプルクローニングサイト;LPI,ヒトリポコルチンI;ori,複製起点
【図5】ASP2557、2558株についてのSDS-PAGE、ウェスタンブロッティングの結果(可溶性画分)を示す図である。 M:分子量マーカー、N:ASP021;mock株、1〜4:クローン番号、P:E.coli由来Cryj1-2融合タンパク質;ペレットをSDSサンプルバッファーで溶解させて100μlに調製し、2μlを使用したもの 抗体は以下を使用。一次抗体:Cryj2;Ab-Cryj2 mAb T27(500倍希釈)二次抗体:Anti-mouse IgG (AP-labeled, 500倍希釈)
【図6】ASP2581株についてのSDS-PAGE、ウェスタンブロッティングの結果(可溶性画分)を示す図である。 M:分子量マーカー、N:ASP021;mock株、1〜7:クローン番号 抗体は図5と同様のものを使用した。
【図7】染色体組込み型ベクターpXL1の構造を示す図である。 略語:neo,ネオマイシン耐性コーディング遺伝子;SV40,シミアンウイルス40;amp,アンピシリン耐性コーディング遺伝子;ori,複製起点;leu1+,S.pombe野生型leu1コーディング遺伝子;ORF,オープンリーディングフレーム
【図8】ベクター構築の概要を示す図である。Cryj(1-2)遺伝子の場合、Cryj(2-1)遺伝子の場合も同様である。 略語:NmR,ネオマイシン耐性コーディング遺伝子;SV40,シミアンウイルス40;AmpR,アンピシリン耐性コーディング遺伝子;hCMV,ヒトサイトメガロウイルス;LPI,ヒトリポコルチンI;ori,複製起点
【図9】ASP2591、2592株についてのSDS-PAGE、ウェスタンブロッティングの結果(可溶性画分)を示す図である。 M:分子量マーカー、N:ASP000;mock株、1〜5:クローン番号 抗体は以下を使用。一次抗体:Cryj2;Ab-Cryj2 mAb T27(500倍希釈)二次抗体:Anti-mouse IgG (AP-labeled, 500倍希釈)
【図10】ASP2592、2593株についてのSDS-PAGE、ウェスタンブロッティングの結果(可溶性画分)を示す図である。 M:分子量マーカー、1〜5:クローン番号 抗体は図9と同様のものを使用した。
【図11】ASP2557、2558株で発現した可溶性Cryj(1-2)タンパク質に対するモノクローナル抗体の反応性を示す図である。 M:分子量マーカー、1〜4:クローン番号(ASP2557株:構成型、ASP2558株:誘導型)、N:遺伝子未挿入株、P:E.coli由来Cryj1-2融合タンパク質;ペレットをSDSサンプルバッファーで溶解させて100μlに調製し、2μlを使用したもの サンプル:5 mlの培養液相当の菌体を破砕し、遠心分離により得られた上清液約280μlの内の20μlを各レーンにロードした。一次抗体は以下の通り: 抗Cryj1モノクローナル抗体:Ab-Cryj1 mAb 026(500倍希釈) 抗Cryj2モノクローナル抗体:Ab-Cryj2 mAb T27(500倍希釈)二次抗体:Anti-mouse IgG (AP-labeled, 500倍希釈)
【図12】ASP2557株で発現した可溶性Cryj(1-2)タンパク質に対するモノクローナル抗体又はポリクローナル抗体の反応性を示す図である。 M:分子量マーカー、N:遺伝子未挿入株、S:ASP2557-3株 サンプル:90 mlの培養液相当の菌体を破砕し、遠心分離により得られた上清液約5.4 mlの内の20μlを各レーンにロードした。一次抗体は以下の通り: 抗Cryj1モノクローナル抗体:Ab-Cryj1 mAb 026(500倍希釈) 抗Cryj1ポリクローナル抗体:rabbit, IgG fraction(400倍希釈) 抗Cryj2モノクローナル抗体:Ab-Cryj2 mAb T27(500倍希釈) 抗Cryj2ポリクローナル抗体:rabbit, IgG fraction(400倍希釈)二次抗体:Anti-mouse IgG (AP-labeled, 500倍希釈)
【図13】Cryj1/2遺伝子のヌクレオチド配列(配列番号8)を示す図である。 配列番号8で表されるヌクレオチド配列のうち、1〜57番目のヌクレオチド残基からなるヌクレオチド配列(下線を付す)は、pET47bベクター由来Hisタグ領域のヌクレオチド配列であり、58〜1119番目のヌクレオチド残基からなるヌクレオチド配列は、Cryj1成熟タンパク質のアミノ酸配列(GenBankアクセッション番号BAA07020として登録されているアミノ酸配列のうち、21〜374番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列:配列番号7)をコードするヌクレオチド配列であり、1120〜2283番目のヌクレオチド残基からなるヌクレオチド配列は、Cryj2成熟タンパク質のアミノ酸配列(GenBankアクセッション番号P43212として登録されているアミノ酸配列のうち、46〜433番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列:配列番号2)をコードするヌクレオチド配列である。
【図14】Cryj1/2タンパク質のアミノ酸配列(配列番号9)を示す図である。 配列番号9で表されるヌクレオチド配列のうち、1〜19番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列(下線を付す)は、pET47bベクター由来Hisタグ領域のアミノ酸配列であり、20〜373番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列は、Cryj1成熟タンパク質のアミノ酸配列(GenBankアクセッション番号BAA07020として登録されているアミノ酸配列のうち、21〜374番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列:配列番号7)であり、374〜761番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列は、Cryj2成熟タンパク質のアミノ酸配列(GenBankアクセッション番号P43212として登録されているアミノ酸配列のうち、46〜433番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列:配列番号2)である。
【図15】pET47b-cryj1/2発現大腸菌からのrecCryj1/2についてのSDS-PAGE、ウェスタンブロッティングの結果を示す図である。 抗Cryj2モノクローナル抗体:Ab-Cryj2 mAb T27(500倍希釈)
【図16】可溶化recCryj1/2についてのSDS-PAGE、ウェスタンブロッティングの結果を示す図である。
【図17】天然型Cryj1又はrecCryj1/2タンパク質で免疫したマウス血清中の天然型Cryj1特異的IgE抗体価を示す図である。 検出限界以下
【図18】天然型Cryj1又はrecCryj1/2タンパク質で免疫したマウス血清中のrecCryj1/2特異的IgE抗体価を示す図である。
【図19】天然型Cryj1又はrecCryj1/2タンパク質で免疫したマウス血清中の天然型Cryj1特異的IgG抗体価を示す図である。
【図20】recCryj1/2タンパク質による、天然型Cryj1免疫マウス血清中の天然型Cryj1特異的IgE抗体価の上昇の抑制を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cryj1成熟タンパク質及びCryj2成熟タンパク質の融合タンパク質。
【請求項2】
融合タンパク質が可溶性タンパク質である、請求項1記載の融合タンパク質。
【請求項3】
融合タンパク質において、Cryj1成熟タンパク質がCryj2成熟タンパク質よりもN末端側に存在する、請求項1又は2記載の融合タンパク質。
【請求項4】
融合タンパク質におけるCryj1成熟タンパク質部分の立体構造が、天然Cryj1成熟タンパク質の立体構造と異なる、請求項3記載の融合タンパク質。
【請求項5】
融合タンパク質が、配列番号1で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチドである、請求項1〜4のいずれか1項記載の融合タンパク質。
【請求項6】
融合タンパク質が、配列番号2で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチドである、請求項1〜5のいずれか1項記載の融合タンパク質。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項記載の融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【請求項8】
請求項7記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
【請求項9】
請求項8記載の発現ベクターが導入された形質転換体。
【請求項10】
形質転換体が大腸菌又は酵母である、請求項9記載の形質転換体。
【請求項11】
請求項9又は10記載の形質転換体を培地中で培養し、産生された請求項1〜6のいずれか1項記載の融合タンパク質を回収することを含む、Cryj1成熟タンパク質及びCryj2成熟タンパク質の融合タンパク質の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜6のいずれか1項記載の融合タンパク質を含む医薬。
【請求項13】
医薬がスギ花粉症を処置するためのワクチンである、請求項12記載の医薬。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【図13】
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【図14】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図5】
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【図6】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2008−73031(P2008−73031A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−321228(P2006−321228)
【出願日】平成18年11月29日(2006.11.29)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】