説明

組換えタンパク質および酵素技術のためのツールとしてのSlpA

【課題】SlpAシャペロンおよび標的ポリペプチドを含む融合タンパク質をコードする組換えDNA分子、および該融合タンパク質をコードする対応する発現ベクター、ならびに該発現ベクターで形質転換された宿主細胞の提供。
【解決手段】SlpAシャペロンおよび標的ポリペプチドを含む組換え的に製造された融合タンパク質。イムノアッセイでの結合パートナーとしての、または干渉を低減するための手段としての該組換え的に製造された融合タンパク質の使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SlpAシャペロンおよび標的ポリペプチドを含む融合タンパク質、これら融合タンパク質を組換え的に発現、精製および再フォールディングする方法、タンパク質および酵素バイオテクノロジーにおけるその使用、および特に診断におけるその応用に関する。さらに本発明は、バイオテクノロジー用途のための標的ポリペプチドまたは酵素の可溶性、活性、安定性および/またはフォールディングの可逆性を増大させることを意図した、SlpAおよび標的ポリペプチドを含んでなるあらゆる複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質フォールディングはネイティブな状態と未フォールディングの状態の間の微小なギブス自由エネルギーの差により駆動される自発的な現象である。構造がほとんど確定していないポリペプチド鎖は、フォールディングの過程において、タンパク質のネイティブなコンホメーションまたは三次構造と呼ばれる構造を選択していく。不完全にフォールディングされた分子の凝集は生成的なフォールディングと競合し、これは大きな問題となり、in vivoおよびin vitroの両方でフォールディング収率に影響を及ぼす。生きた細胞では、フォールディングはヘルパータンパク質が支援する。フォールディングヘルパーは、他のタンパク質のフォールディングを支援し、その構造的完全性を維持するポリペプチドである。該ヘルパーはその標的ポリペプチド鎖と可逆的に相互作用することにより該標的の正しいフォールディングを促進する能力を有し、そのことにより凝集のような有害な副反応を防止する。これはin vivoでもin vitroでも起こり、バイオテクノロジーの諸課題において、こうしたフォールディングヘルパーの用途の数はかつてないほど増加している。一般にフォールディングヘルパーはフォールディング触媒とシャペロンに細分化される。
【0003】
シャペロンは、変性した、部分的に変性した、または単純にそのままのポリペプチドの疎水性表面に可逆的に結合し、そのことによりタンパク質を復元する、またはタンパク質を溶解状態に保つことを支援する。シャペロンは、疎水性表面に可逆的に結合しそれをマスキングすることにより、凝集傾向のあるフォールディング中間体および凝集傾向のあるフォールディングされたタンパク質の濃度を下げる。つまり、シャペロンは、単純な結合機能を発揮している。対照的にフォールディング触媒(例えばジスルフィドオキシドレダクターゼおよびペプチジル−プロリルシス/トランスイソメラーゼ)はタンパク質フォールディングの律速工程を促進し、したがってフォールディング中間体の寿命を短縮する。フォールディング触媒は、その触媒機能により凝集傾向のあるフォールディング中間体の濃度を低下させる。フォールディング触媒の重要な一群のことをペプチジルプロリルシス/トランスイソメラーゼ(PPIアーゼ)と言う。
【0004】
配列類似性、タンパク質位相幾何および免疫抑制分子の結合に基づき、プロリルイソメラーゼは、3つの異なるファミリー、すなわちシクロフィリン、パラブリンおよびFK506結合タンパク質(すなわち頭字語FKBP)に分類される。FKBPは、FK506、ラパマイシンおよび関連するマクロライド誘導体に結合してこれらにより阻害されるが、これらは免疫抑制剤としても使用されている。
【0005】
大腸菌(E. coli)のペプチジルプロリルシス/トランスイソメラーゼのFKBPファミリーに属する推定上のフォールディングヘルパーはSlpAであり、SlpAとは「SlyD様プロテインA」の頭字語である(Hottenrottら 1997, JBC 272/25, 15697-15701)。今日までの、SlpAおよび大腸菌(E. coli)内でのその生理学的な役割に関する情報は不十分である。SlpAの微弱なプロリルイソメラーゼ活性が報告されているが、このタンパク質はこれまでどちらかといえば不可解とされてきた。これまでに、SlpAの物理化学的性質または考えられるシャペロン特性に関する情報は不足しており、大腸菌(E. coli)細胞質ゾルでのSlpAの機能は検討されたことすらない。
【0006】
多くの診断用途では組換え的に製造されたタンパク質が結合パートナーとして、例えばある特定の免疫グロブリンアナライトの検出のために設計されたイムノアッセイにおける抗原として使用される。こうした抗原は、調べているサンプルまたはアッセイ混合物中に存在する特定の基を認識し、それに結合することが意図された標的部分または抗原性ポリペプチドを構成する部分を有する融合タンパク質として製造することができる。該組換え的に製造される融合タンパク質の他方の部分は、特異性を付与する抗原性部分に融合され、該タンパク質のクローニング、発現、過剰産生、フォールディング/再フォールディングおよび精製を容易にし、該タンパク質の溶解性、安定性またはフォールディングの可逆性を増大させるためのポリペプチド部分である。組換え的に製造された融合タンパク質の合成は従来技術に詳述されている。また、シャペロンを、標的ポリペプチドの発現、フォールディング、精製、可溶化および全体としての安定性の増大のための補助分子としての役割を果たす融合タンパク質の一部として使用するのが有利であることもよく知られている。
【0007】
米国特許第6,207,420号はタンパク質の発現のための融合タンパク質システムであって、標的ポリペプチド部分と融合ペプチド部分のアミノ酸配列が異なる生物に由来するシステムを開示する。最近、FkpAおよびSlyDが組換えタンパク質の製造において融合モジュールとして好適であることが示された。両種のシャペロンは、原核生物宿主内でのその対象タンパク質の発現速度を増大させ、正しい再フォールディングを助け、レトロウイルス膜貫通タンパク質のような極めて凝集傾向の強いタンパク質でさえも、全体としてのその可溶性を増大させる(Scholzら 2005, JMB 345, 1229-1241およびWO 03/000877)。
【0008】
FkpAおよびSlyDは、一方では取扱困難なまたは凝集傾向のあるタンパク質を助けて、診断試薬中で、より一般的にはバイオテクノロジー用途において、該タンパク質のネイティブな構造を維持するのに特に有用であるが、なおも熱安定性の問題は残されている。タンパク質のネイティブなコンホメーションは、ファン・デル・ワールス接触、水素結合、塩橋および疎水性相互作用の慎重にバランスされたネットワークにより安定化されている。こうした接触は対応するタンパク質の微小環境に最適化されており、pH、イオン強度または温度の変化は実際にフォールディングした分子および未フォールディング分子の間の平衡を乱しシフトさせる。温度の上昇はタンパク質を変性させるのに特に適しており、これは多くの場合、完全または部分的に未フォールディングの分子の凝集をもたらす。熱により誘発されるタンパク質凝集は機能の喪失を伴い、これはあらゆるタンパク質製剤について大きな問題となる。高温、より一般的には、熱ストレスが、タンパク質試薬または製剤の不適切な輸送または貯蔵中に生じ得ることは容易に想像できる。
【0009】
SlyDのようなシャペロン融合モジュールについては、約42℃という温度で熱誘導性の逆フォールディング(アンフォールディング)の開始が見られる。これは、例えばタンパク質製剤の輸送、積込み、または貯蔵に使用されるコンテナの冷却機構に不具合が生じたときに、容易に超過される温度である。標的タンパク質Xが非常に疎水性であり、その融合パートナーのシャペロン活性に完全に依存する場合、完全な状態の融合ポリペプチドは、SlyDモジュールが逆フォールディングされると直ちに凝集し、それと当時にその可溶化機能も失われる。言い換えると、Xが非常に疎水性であり凝集傾向の強い対象タンパク質の場合、SlyDの安定性がSlyD−X融合ポリペプチド全体の安定性を制限する。
【0010】
FkpAを含む融合タンパク質は若干高い安定性を示し、これは二量体型FkpAキャリアーモジュールの固有の熱安定性が高いことに起因している可能性がある。大腸菌(E. coli)SlyDの融解温度は約42℃と決定されているが、これに対してFkpAは最大で約50℃まで比較的安定である。しかしながら、以下に記載する理由により、高い固有の安定性を有する別の機能性シャペロン変異体を提供する緊急の必要性がなおもある。
【0011】
二重抗原サンドイッチ(DAGS)フォーマットの異種イムノアッセイでは、例えばある抗原の2種の変異体をアッセイのそれぞれの側に使用する。一方の変異体は固相に対して親和性の高い標識を有し、他方の変異体はシグナル出力を生成するためのシグナリング部分を有する。この抗原変異体をそれぞれヘルパー配列、すなわちキャリアーまたは融合モジュールに融合させることができる。少なくとも1つのシャペロン(または機能性のポリペプチド結合ドメイン、すなわちシャペロンドメイン)が標的ポリペプチドに連結または融合され、フォールディングを促進し、安定性と溶解性を増大させ、標的ポリペプチドを適当なコンホメーションに保ち、このことにより決定すべき抗体アナライトは標的ポリペプチドを特異的に認識しそれに結合することができる。好ましくは、アッセイに固有の対称性を崩すために、免疫学的ブリッジアッセイのいずれの側にもそれぞれ異なるシャペロンを融合パートナーとして使用する。キャリアーまたは融合モジュールは異なるが、いずれの側(すなわち捕捉側および検出側)の標的ポリペプチドも同一または類似であるアッセイフォーマットのことも非対称DAGSフォーマットと呼ぶことができる。DAGSアッセイのそれぞれの側に異なる融合モジュールを使用することで、キャリアモジュールに起因する免疫学的交差反応およびそれに付随する誤った高いシグナルのリスクを大幅に低減することができる。
【0012】
明らかに、アッセイ全体の安定性は、最も低い固有安定性を有する免疫学的成分によって制限される。非対称DAGSにおいてFkpAおよびSlyDを融合パートナーとして使用すると、全体の安定性を制限する融合パートナーはSlyDである。したがって、完全に機能的にSlyDに取って代わることができ、かつ本質的に熱ストレスに対して内在的により安定な他のシャペロンを見出す必要がある。好熱性または超好熱性生物由来のSlyDホモログが多数記載されているが、単純にこうしたタンパク質を融合パートナーとして使用するには障害がある。こうしたタンパク質は60℃よりも大幅に高い温度に最適化され進化したため、熱力学的安定性が極めて高い。その結果、安定および超安定なタンパク質は室温では比較的硬直的になる傾向があり、すなわち標的分子に動的に結合するための必須条件である柔軟性は失われる。タンパク質の安定性はその柔軟性と機能の両方と引き替えにしか高めることができないことは一般に受け入れられており、このことは多くの場合、高度に安定なタンパク質を室温で用いることを妨げる。したがって本発明の目的は、中等温度生物から熱安定なフォールディングヘルパーを同定することである。本発明のさらなる目的は、高い熱安定性を有し、診断試薬およびタンパク質製剤の貯蔵期間を延長する、診断およびバイオテクノロジー用途に適したポリペプチドを提供することである。
【0013】
最近、Kwonら(BMB reports 2008, 41(2), 108-111)に報告されたとおり、いくつかの大腸菌(E. coli)タンパク質は、49℃を大幅に超える温度でも安定であり可溶性である。高温に晒されても可溶性であったタンパク質がSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動により同定された。この研究は、種々の温度でインキュベートされた後の大腸菌(E. coli)の超音波処理抽出物を用いて行われた。同定された17種の熱安定タンパク質のうち、6種のタンパク質(GroEL、GroES、DnaK、FkpA、トリガー因子、EF−Ts)が推定上のフォールディングヘルパーであった。特筆すべきこととして、この実験は大腸菌(E. coli)の無細胞溶解物を用いて行われ、それぞれのタンパク質の溶解性のみが安定性の評価基準とされた。
【0014】
しかしながら、タンパク質の溶解性と安定性の間には、大きな違いがある。タンパク質の溶解性は、安定性が最大となる条件では多くの場合に最小値に達することは当技術分野では周知の事実である。例えば、あるタンパク質の熱力学的安定性は、バッファー溶液のpHが当該タンパク質のpIと一致するときに最大となる。にもかかわらず、まさにこの条件下では、タンパク質の溶解性は最小となる。別の一般的な例としては、硫酸アンモニウムまたは他のコスモトロピック物質によるタンパク質の塩析がある。この場合にも、タンパク質の安定性が増すと共にその溶解性は減少する(硫酸アンモニウムは強力なコスモトロピック物質であり、すなわちタンパク質構造を安定化させる)。
【0015】
WO 2007/077008は、例えば大腸菌(E. coli)SlyDのような非ヒトシャペロンのポリペプチド結合部分ならびにそのN末端およびC末端的に融合されたヒトFKBP型ペプチジル−プロリル−シス/トランスイソメラーゼを含有する、組換え的に製造されたキメラ融合タンパク質を開示する。SlpAのシャペロン部分を使用する類似の融合ポリペプチドも開示された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】米国特許第6,207,420号
【特許文献2】WO 03/000877
【特許文献3】WO 2007/077008
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】Hottenrottら 1997, JBC 272/25, 15697-15701
【非特許文献2】Scholzら 2005, JMB 345, 1229-1241
【非特許文献3】Kwonら BMB reports 2008, 41(2), 108-111
【発明の概要】
【0018】
驚くべきことに、SlpA、特に大腸菌(E. coli)SlpAは、融合パートナーとして使用したときに、他の標的ポリペプチドに熱安定性を付与することができる。Hottenrottら(上掲)に報告されたように、SlpAは比較的弱いペプチジル−プロリルシス/トランスイソメラーゼ活性を有する酵素である。予期せぬことに、SlpAは顕著なシャペロン特性も示し、さらに驚くべきことに、SlpAは高い固有の安定性を有し、融合された標的ポリペプチドに熱安定性を付与するため、標的ポリペプチドは熱誘導性凝集の影響を受けにくくなる。近い関係にあるSlyDは熱による逆フォールディングの中間点が約42℃という若干の安定性を示すに過ぎないのに対して、SlpAはその天然のフォールディングを少なくとも50℃までは保ち、熱による逆フォールディングの中間点(融解温度と定義される)は約56℃である。これはSlyDおよびSlpAが近い関係にあり(SlpAはSlyD様タンパク質の略称である)、両方が増殖の最高温度が49℃である大腸菌(E. coli)のような中等温度生物由来の単量体タンパク質であることに照らすと不可解である。最も驚くべきことは、中等温度生物である大腸菌(E. coli)が、抜群の熱安定性とシャペロン特性を併せ持つSlpAのような推定上のフォールディングヘルパーを保有していることである。
【0019】
発明の概要
本発明は、SlpAシャペロンおよび標的ポリペプチドを含む融合タンパク質をコードする組換えDNA分子、および該融合タンパク質をコードする対応する発現ベクター、ならびに該発現ベクターで形質転換された宿主細胞に関する。本発明の別の態様は、該融合タンパク質の製造方法、ならびに、SlpAシャペロンおよび標的ポリペプチドを含む組換え的に製造された融合タンパク質である。本発明のさらなる態様は、イムノアッセイでの結合パートナー(例えば抗原、酵素または組換え較正物質)としての、または干渉を低減するための手段としての組換え的に製造された融合タンパク質の使用である。さらに本発明は、標的ポリペプチドに対する抗体を製造するための免疫原としての該組換え的に製造された融合タンパク質の使用、およびワクチン製造での該組換え的に製造された融合タンパク質の使用に関する。また別の態様は、組換え的に製造された融合タンパク質を用いたイムノアッセイでのアナライトの検出方法、ならびにSlpAシャペロンおよび標的ポリペプチドを含む組換え的に製造された融合タンパク質を含有する試薬キットである。さらなる態様は、イムノアッセイにおける干渉および交差反応の低減のためのSlpAの使用に関する。本発明のさらなる態様は、バイオテクノロジー用途のための、SlpAおよび標的タンパク質を含む可溶性であり機能性である複合体の使用に関し、このとき該標的タンパク質は治療または診断上価値のあるタンパク質であり得る。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】大腸菌(E. coli)由来SlpAの近紫外CDスペクトルを示す。スペクトルは温度自動調節されたセルホルダーを備えたJasco-720分光偏光計を用いて20℃で記録した。タンパク質濃度は1cmキュベット内で417μMであった。バッファーは50mMリン酸カリウムpH7.5、100mM KCl、1mM EDTAであった。バンド幅は2nmであり、解像度は0.5nmであり、スキャン速度は2秒の応答で50nm/分であった。シグナル/ノイズ比を改善するために、スペクトルを9回記録し平均した。シグナルは平均残存楕円率(deg cm dmol−1として示す)に変換した。スペクトルはネイティブ様のフォールディングされたタンパク質を示し、シグナル最大値は262nmのときに得られる。
【図2】大腸菌(E. coli)由来SlyDの近紫外CDスペクトルを示す。スペクトルは温度自動調節されたセルホルダーを備えたJasco-720分光偏光計を用いて20℃で記録した。タンパク質濃度は1cmキュベット内で200μMであった。バッファーは50mMリン酸カリウムpH7.5、100mM KCl、1mM EDTAであった。バンド幅は2nmであり、解像度は0.5nmであり、スキャン速度は1秒の応答で50nm/分であった。シグナル/ノイズ比を改善するために、スペクトルを9回記録し平均した。シグナルは平均残存楕円率(deg cm dmol−1として示す)に変換した。SlyDのスペクトルはSlpAのスペクトルと著しく異なる。該スペクトルはネイティブ様のフォールディングされたタンパク質を示し、シグナル最大値は275nmのときに得られる。
【図3】275nm(SlyD)および262nm(SlpA)における近紫外CDによりモニタリングされるSlyDおよびSlpAの熱誘導性の逆フォールディング遷移を示す。融解曲線はネイティブな分子の画分に対して標準化されている。SlyDおよびSlpAの両方の逆フォールディングは完全に可逆的であり、ネイティブな分子の近紫外CDシグナルは、サンプルを周囲温度まで冷ますと、熱遷移後に完全に回復することが可能である。融解温度(すなわち分子の50%がフォールディングされ50%が未フォールディングである温度)はSlyDについては42℃でありSlpAについては56℃である。図3はSlpAの優れた熱安定性を明確に実証している。
【図4】SlpA−gp41融合タンパク質の近紫外CDスペクトルを示す。スペクトルは温度自動調節されたセルホルダーを備えたJasco-720分光偏光計を用いて20℃にて記録した。タンパク質濃度は1cmキュベットにて18.7μMであった。バッファーは50mMリン酸カリウム(pH7.5)、100mM KCl、1mM EDTAであった。バンド幅は2.0nmであり、解像度は0.5nmであり、スキャン速度は2秒の応答にて50nm/分であった。シグナル/ノイズ比を改善するために、スペクトルを9回記録し平均した。シグナルを平均残存楕円率(deg cm dmol−1として示す)に変換した。スペクトルはネイティブ様のフォールディングされたタンパク質を示す。293nmにおけるシグナル最小値は、トリプトファン残基が豊富であり280nmを超える光を吸収するネイティブ様にフォールディングされたgp41エクトドメイン断片を示す。290nm付近の波形はSlpA−gp41融合ポリペプチド内のgp41部分のネイティブ様フォールディングを明確に示す。
【図5】SlyD−gp41融合タンパク質の近紫外CDスペクトルを示す。スペクトルは温度自動調節されたセルホルダーを備えたJasco-720分光偏光計を用いて20℃にて記録した。タンパク質濃度は1cmキュベット内で14.4μMであった。バッファーは50mMリン酸カリウム(pH7.5)、100mM KCl、1mM EDTAであった。バンド幅は2.0nmであり、解像度は0.5nmであり、スキャン速度は2秒の応答にて50nm/分であった。シグナル/ノイズ比を改善するために、スペクトルを9回記録し平均した。シグナルを平均残存楕円率(deg cm dmol−1として示す)に変換した。293nmにおけるシグナル最小値は、トリプトファン残基が豊富であり280nmを超える光を吸収するネイティブ様にフォールディングされたgp41エクトドメイン断片を示す。290nm付近の波形はSlyD−gp41融合ポリペプチド内のgp41部分のネイティブ様フォールディングを強く示す。
【図6】SlyD−gp41(図6A)およびSlpA−gp41(図6B)の熱誘導性逆フォールディングを270nmにおける円偏光二色性シグナルの減少によりモニタリングした。それぞれのシャペロン融合パートナーの逆フォールディングは可溶化能力の喪失と共に進行し、極めて疎水性であるgp41部分の自発的凝集につながる。凝集の開始温度はSlyD−gp41については約40℃であり、SlpA−gp41については約56℃である。楕円率はミリ度(mdeg)で示し、(不可逆の)凝集が生じる臨界的温度境界を点線により強調する。
【図7】280nmの近紫外CDによりモニタリングしたSlyD−gG1(26−189)の熱誘導性の逆フォールディング遷移を示す。融合タンパク質の楕円率は温度の関数としてミリ度(mdeg)で示す。SlyD−gG1(26−189)の逆フォールディングは大部分が可逆的であり、サンプルを周囲温度に冷ましたときに、ネイティブな融合ポリペプチドの近紫外CDシグナルの大部分は回復する。SlyD−gG1(26−189)の融解温度(すなわち分子の50%がフォールディングされ50%が未フォールディングである温度)は約53℃である。
【図8】220nmにて遠紫外CDによりモニタリングしたSlpA−gG1(26−189)の熱誘導性の逆フォールディング遷移を示す。融合タンパク質の楕円率は温度の関数としてミリ度(mdeg)で示す。SlpA−gG1(26−189)の逆フォールディングの大部分は可逆的であり、サンプルを室温まで冷ますとネイティブな融合ポリペプチドの遠紫外CDシグナルの大部分は回復する。SlpA−gG1(26−189)の融解温度(すなわち分子の50%がフォールディングされ50%が未フォールディングである温度)は約63℃である。これはSlyD−gG1(26−189)と比較したときに、SlpA−gG1(26−189)の熱安定性が優れていることを明確に実証する。
【図9】実施例4に記載の自動化Elecsys(登録商標)分析器での、SlpA−gG1(26−189)およびSlyD−gG1(26−189)のヒト抗HSV−1陽性および抗HSV−1陰性血清との免疫学的反応性を示す。表1は、両方の抗原変異体の、過酷な一晩の60℃での熱処理の前および後の性能を示す。実験の結果は、熱ストレスを施したSlpA−gG1(26−189)が熱ストレスを施したSlyD−gG1(26−189)よりも二重の意味で優れていることを明確に示す。第1に、抗HSV−1陽性血清でのシグナル回復(表1の上半分)は熱ストレスを施したSlpA融合ポリペプチドの方が顕著に高かった。第2に、抗HSV−1陰性血清でのバックグラウンドシグナルの増加(表1の下半分)は、熱ストレスを施したSlpA融合ポリペプチドの方が顕著に低かった。この両方の効果は、イムノアッセイのシグナル動態を改善し、SlpAの、取扱困難な標的タンパク質に安定性と溶解性を付与する融合パートナーとしての利点を際立たせる。したがってイムノアッセイの感度は、SlpAを、それと近い関係にあるSlyDの代わりに、融合パートナーとして使用することにより保証することができる。
【0021】
配列表の簡単な説明
配列番号1は、SwissProtデータベース登録番号P0AEM0から取得した大腸菌(E. coli)SlpAの完全アミノ酸配列(149アミノ酸)を示す:

【0022】
配列番号2は、実施例の章に用いた、大腸菌(E. coli)SlpAのアミノ酸配列(アミノ酸、セリン2〜グルタミン酸148)を示す。N末端メチオニンは大腸菌(E. coli)では翻訳と共に除去される。クローニングを容易にするために、C末端のアラニンも除いた。さらに、タンパク質の精製と再フォールディングを容易にするために、C末端にヘキサヒスチジンタグを付加した:

【0023】
配列番号3は、大腸菌(E. coli)SlpA−gp41のアミノ酸配列を示す。gp41部分はHIV1 gp41のアミノ酸536〜681を有し、SlpA部分はアミノ酸1〜146を有する。該配列は融合タンパク質の精製と再フォールディングを容易にするために付加したC末端のヘキサヒスチジンタグを有する:

【0024】
配列番号4は、大腸菌(E. coli)SlpA−SlpA−gp41のアミノ酸配列を示す。2つのSlpA単位が、非常に凝集傾向の強い標的ポリペプチドであるHIV gp41エクトドメインに連結されている。第1のSlpA単位はアミノ酸1〜146を含み、第2のSlpA単位はアミノ酸2〜149を含む(両方のSlpA変異体は機能と安定性に関して完全に等価である)。融合タンパク質の精製と再フォールディングを容易にするために、C末端ヘキサヒスチジンタグを付加した:

【0025】
配列番号5は、大腸菌(E. coli)SlyD−gp41のアミノ酸配列を示す。該タンパク質の精製とin vitroでの再フォールディングを容易にするためにC末端ヘキサヒスチジンタグを付加した:

【0026】
配列番号6は、大腸菌(E. coli)SlyD−SlyD−gp41のアミノ酸配列を示す。2つのSlyD単位が標的ポリペプチドgp41に融合されている。該タンパク質の精製とin vitroでの再フォールディングを容易にするためにC末端ヘキサヒスチジンタグを付加した:

【0027】
配列番号7は、融合ポリペプチドSlpA−gG1のアミノ酸配列を示す。1つのSlpA単位が標的ポリペプチドgG1(実施例4で使用したように、ヒト単純ヘルペスウイルスHSV−1抗原gG1のアミノ酸26〜189を含む)に融合されている:

【0028】
配列番号8は、融合ポリペプチドSlyD−gG1のアミノ酸配列を示す。1つのSlyD単位が標的ポリペプチドgG1(実施例4で使用したように、ヒト単純ヘルペスウイルスHSV−1抗原gG1のアミノ酸26〜189を含む)に融合されている:


【0029】
配列番号9は、Swiss Prot ID: Q9CKP2による、パスツレラ・ムルトシダ(Pasteurella multocida)SlyDのアミノ酸配列(全長)を示す:

【0030】
配列番号10は、C末端を切断したシステイン不含のパスツレラ・ムルトシダ(Pasteurella multocida)SlyD変異体のアミノ酸配列を示す。好ましくはこれを、二重抗原サンドイッチイムノアッセイに使用するための融合タンパク質中のシャペロン単位(PmS SlyD 1−156)として使用する:

【0031】
配列番号11は、Swiss Prot ID P45523による大腸菌(E. coli)FkpAのアミノ酸配列(全長)を示す:

【0032】
配列番号12は、二重抗原サンドイッチイムノアッセイに使用するための融合タンパク質中のシャペロン単位として好適に使用される大腸菌(E. coli)FkpAのアミノ酸配列部分を示す。該配列はN末端シグナル配列(アミノ酸残基1〜25)を欠き、成熟FkpA(FkpA 26−270)に実質的に対応する:

【0033】
配列番号13はエプスタイン・バーウイルス核抗原1(EBV核抗原1、すなわちEBNA−1)の401〜641位、(EBV=HHV−4=ヒトヘルペスウイルス4);株B95−8のアミノ酸配列を示す。EBNA−1の完全アミノ酸配列は641残基からなり、Swiss Prot ID P03211として取得可能である。天然に存在するシステイン残基はEBNA−1の抗原性には不要であり、精製工程を簡便にするため、およびネイティブ様のフォールディングされた可溶性タンパク質の収率を高めるために、アラニンに変更した(下線で示す):

【0034】
配列番号14は、Swiss Prot ID P14348による、エプスタイン・バーウイルスタンパク質p18のアミノ酸1〜176(オープンリーディングフレームBFRF3、HHV−4/B95−8)のアミノ酸配列を示す。アミノ酸56位における天然に存在するシステイン残基はEBV p18の抗原性には不要であり、精製工程を簡便にするため、およびネイティブ様のフォールディングされた可溶性タンパク質の収率を高めるために、アラニンに変更した(下線で示す):

【0035】
配列番号15は、Swiss Prot ID P14348による、エプスタイン・バーウイルスタンパク質p18のC末端部分、アミノ酸105〜176(オープンリーディングフレームBFRF3、HHV−4/B95−8)のアミノ酸配列を示す:

【0036】
配列番号16は、Swiss Prot ID P03197による、エプスタイン・バーウイルスタンパク質p23のアミノ酸1〜162(オープンリーディングフレームBLRF2、HHV−4/B95−8)のアミノ酸配列を示す。アミノ酸46位における天然に存在するシステイン残基はEBV p23の抗原性には不要であり、精製工程を簡便にするため、およびネイティブ様のフォールディングされた可溶性タンパク質の収率を高めるために、アラニンに変更した(下線で示す):

【0037】
配列番号17は、SlpAおよび標的ポリペプチドを含む発現カセットのクローニングのために実施例1に使用し示した、グリシンリッチなリンカーペプチド配列L=(GGGS)GGGを示す:

【発明を実施するための形態】
【0038】
発明の詳細な説明
本発明の一態様は、融合タンパク質をコードする組換えDNA分子であって、機能的に連結された、標的ポリペプチドをコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列と、その上流または下流にある、SlpAシャペロン単位をコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列とを含む、組換えDNA分子である。
【0039】
「組換えDNA分子」という用語は、2つの、別の状況では分離されている配列セグメントの連結により作製されるDNA分子を言い、該連結は遺伝子工学技術または化学合成によりポリヌクレオチドの単離された部分同士を人工的に操作することにより行われる。その際、所望の機能のポリヌクレオチドセグメントを一緒に連結させて、所望の機能の組み合わせを生み出すことができる。
【0040】
ポリヌクレオチド配列は、それらが互いに機能的な関係に配置されるときに、機能的に連結されている。例えば、あるプロモーターがコード配列の転写または発現を制御するならば、このプロモーターは該コード配列に機能的に連結されている。一般に「機能的に連結された」とは、連結された配列が連続していることを意味し、必要であれば2つのタンパク質コード領域を連続かつリーディングフレームが揃うように一緒にすることを意味する。しかしながら、エンハンサーのような特定の遺伝的エレメントは離れていても、すなわち連続していなくても機能的に連結しうることが周知である。
【0041】
「上流」および「下流」という用語は機能により定義され、コードヌクレオチド配列鎖の方向または極性について言う。「上流」方向とは、当該ヌクレオチドが所定のポリヌクレオチド配列の5’方向に位置する、すなわち開始ヌクレオチド方向に位置することを意味する。アミノ酸配列に関する「上流」という用語は、N末端方向、すなわちポリペプチド鎖の開始位置に向かう方向に位置するアミノ酸を意味する。好ましくは、SlpAシャペロン単位をコードするヌクレオチド配列は、標的ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列の上流に位置する。
【0042】
「下流」方向とは、当該ヌクレオチドがポリヌクレオチドの3’方向に位置する、すなわちヌクレオチド配列の末尾方向に位置することを意味する。アミノ酸配列に関する「下流」という用語は、C末端方向、すなわちポリペプチド鎖の末尾方向に位置するアミノ酸を意味する。
【0043】
ポリヌクレオチドは、そのネイティブな状態でまたは当技術分野で公知の手法により操作されたときに、該ポリヌクレオチドがヌクレオチド鋳型に転写され得るおよび/またはポリペプチドまたはその断片を生じるよう翻訳され得るときに、当該ポリペプチドを「コードする」または「コードしている」と言う。
【0044】
本発明の別の態様は、機能的に連結された、標的ポリペプチドをコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列および、その上流または下流にある、SlpAシャペロンをコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列を含む組換えDNA分子を含む発現ベクターである。
【0045】
宿主に導入するために調製されたDNA構築物は、典型的にはその宿主により認識される複製システムを含み、これは所望の標的融合ペプチドをコードする意図されるDNA断片を含み、また、好ましくはポリペプチドコード部分に機能的に連結された転写および翻訳開始調節配列も含む。発現系(発現ベクター)には、例えば、複製起点または自己複製配列(ARS)および発現制御配列、プロモーター、エンハンサーおよび必要なプロセシング情報部位、例えばリボソーム結合部位、RNAスプライシング部位、ポリアデニル化部位、転写終結配列、およびmRNA安定化配列が含まれ得る。
【0046】
適当なプロモーターおよび他の必要なベクター配列は、宿主内で機能するよう選択する。細菌、酵母、哺乳動物、昆虫、植物または他の細胞での発現に有用な多数のベクターが当技術分野で公知であり市販されている。さらに、遺伝子の複数コピーが得られるように、構築物を増幅可能な遺伝子に連結させることもできる。
【0047】
発現およびクローニングベクターは多くの場合、選択マーカー、すなわち該ベクターで形質転換された宿主細胞の生存または増殖に必要なタンパク質をコードする遺伝子を含むが、かかるマーカー遺伝子は宿主細胞に共に導入される別のポリヌクレオチド配列が保有してもよい。該マーカー遺伝子を発現する宿主細胞のみが選択的条件下で生存および/または増殖する。典型的な選択遺伝子としては、限定するものではないが、(a)抗生物質もしくは他の有毒物質(例えばアンピシリン、テトラサイクリン、など)に対する耐性を付与するタンパク質、(b)栄養要求性の欠乏症を補完するタンパク質、または(c)複合培地からは得られない重要な栄養素を供給するタンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。適当な選択遺伝子は宿主細胞に応じて選ばれ、種々の宿主について適当なマーカーが当技術分野で公知である。
【0048】
対象のポリヌクレオチドを含むベクターは、当技術分野で既知のどのような方法により宿主細胞に導入してもよい。こうした方法は当該宿主系の種類に応じて異なり、塩化カルシウム、塩化ルビジウム、リン酸カルシウム、DEAE−デキストラン、および他の物質を用いたトランスフェクション、ならびにウイルスによる感染が挙げられるがこれに限らない。多量の本発明のポリヌクレオチドおよびポリペプチドは、適合可能な宿主細胞内でベクターまたは他の発現ビヒクル中の本発明のポリヌクレオチドを発現させることで調製することができる。最も一般的に用いられる原核生物宿主は大腸菌(Escherichia coli)の株であるが、枯草菌(Bacillus subtilis)のような他の原核生物を使用することもできる。
【0049】
大腸菌(Escherichia coli)での発現は、本発明を実施する好ましい様式の一つである。少なくとも1つのSlpA単位および少なくとも1つの標的ポリペプチドX単位を含む融合タンパク質の発現、または可溶性SlpA−X複合体を得るためのSlpAとXの共発現は、SlpAとXが共有結合により連結されているか否かを問わず、原核生物でも真核生物宿主細胞でも実施可能である。
【0050】
本発明におけるベクターの構築には慣用のライゲーション技術を用いる。単離されたプラスミドまたはDNA断片を切断し、調整し、所望の形態に再度ラーゲーションして、必要なプラスミドを作製する。所望であれば、構築されたプラスミド中に正しい配列があることを確認するための分析を公知の様式で行う。発現ベクターの構築、in vitro転写産物の調製、DNAの宿主細胞への導入、および発現と機能の評価の分析を実施するための好適な方法は当業者に知られている。遺伝子の存在、増幅および/または発現は、サンプルから直接測定することができる。これには例えば、適切に標識されたプローブ(本明細書に提供する配列に基づくものであり得る)を用いる、慣用のサザンブロッティング、mRNAの転写を定量するためのノーザンブロッティング、ドットブロット(DNAまたはRNA分析)、またはin situハイブリダイゼーションによる。当業者は所望であればこうした方法をどのように改変できるか、容易に想定することができる。
【0051】
本発明のさらなる実施形態は、機能的に連結された、標的ポリペプチドをコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列、およびその上流または下流のSlpAシャペロンをコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列を含む組換えDNA分子を含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞である。
【0052】
本発明の別の実施形態は、原核生物または真核生物宿主でのSlpAおよび標的ポリペプチドの共発現方法に関する。これにより過剰産生されるSlpAは標的ポリペプチドと相互作用して可溶性で非共有結合性の複合体を形成し、これがネイティブ様にフォールディングされ、かつ活性な標的ポリペプチドの調製を促進する。このことは、SlpAおよび標的ポリペプチドをコードするDNA配列が同じベクター中に配置され、同一または異なるプロモーターにより制御され得ることを意味する。あるいは、SlpAおよび標的ポリペプチドをコードするDNA分子は、異なる適合性のベクター上に配置されていてもよい。SlpAと標的ポリペプチドの同時発現のためには、宿主細胞を両方のベクターで形質転換する。好ましくは、標的タンパク質およびSlpAをコードする遺伝子は、異なる誘導物質に応答する異なるプロモーターにより制御される。したがって、SlpAと標的タンパク質の誘導は、制御され規定された様式で同時にまたは連続して行うことができる。例えば、機能性のシャペロンの基底レベルをつくり出すためにまずSlpA発現を誘導し、次いでその後、標的遺伝子の誘導を行うことができる。この連続的な手法とは別に、フォールディングヘルパーおよび標的ポリペプチドの同時誘導も可能であり、同様に可溶性で機能的な標的タンパク質を生じ得る。SlpAおよび標的タンパク質をコードする遺伝子はそれぞれ、同一または異なるベクター上に配置され得る。
【0053】
「融合タンパク質」という用語は、別の状況では分離されている2つのポリペプチドが単一のポリペプチド鎖に機能的に結合されていることを意味する。該融合タンパク質のそれぞれの要素、すなわちSlpAシャペロン部分および標的ポリペプチド部分(標的ポリペプチドXとも言う)は、互いに直接隣接していてもよい。あるいは、それぞれの要素は1〜100アミノ酸残基、好ましくは5〜30アミノ酸残基、最も好ましくは約20アミノ酸残基のリンカーにより隔てられている。当業者が理解するように、かかるリンカーポリペプチドは、意図する用途に最適となるように、特に長さ、柔軟性、電荷および親水性を考慮して、設計される。リンカーポリペプチド配列はまた、タンパク質分解的な切断部位を有しうる。場合により、融合タンパク質は、フォールディングが行われるべき所望の区画へとタンパク質を標的化するためのシグナルペプチド配列をも含み得る。
【0054】
本発明によると、2以上の標的ポリペプチドX、例えば2つ、3つまたは4つの標的ポリペプチドのコピーが融合タンパク質の一部を構成してもよい。一例として、SlpA−X2とは、1つのSlpA単位が2つのX型の標的ポリペプチド単位に融合していることを意味する。単一の標的ポリペプチド単位は、リンカーポリペプチド部分により離れていてもいなくてもよい。該融合タンパク質は少なくとも1つのSlpAシャペロン単位を含有する。同様に、タンデム、3重またはさらに高次の組み合わせ(例えばSlpA−SlpA−XまたはSlpA−SlpA−SlpA−X)により、融合タンパク質が構成されていてもよい。同様に、標的ポリペプチドが少なくとも2つのシャペロン単位により挟まれている融合タンパク質(例えばSlpA−X−SlpAまたはSlpA−SlpA−X−SlpA−SlpA)も本発明の一部である。
【0055】
SlpAはFKBPファミリーの推定上のペプチジルプロリルシス/トランスイソメラーゼである。SwissProt 登録番号P0AEM0として公開されている大腸菌(E. coli)SlpAアミノ酸配列を配列番号1に示す。
【0056】
本発明において、「SlpAシャペロンをコードするヌクレオチド配列」という用語は、SlpAのポリペプチド結合部分を含むポリペプチド断片をコードするヌクレオチド配列を言う。シャペロンの「ポリペプチド結合部分」という用語は、シャペロンの結合能のある部分、すなわち対象または基質ポリペプチド鎖に結合しそれを保持し、したがって該ポリペプチド鎖を隔離して凝集傾向のあるフォールディング中間体の濃度を低減し、その後のフォールディングを促進する部分を言う。SlpAの「ポリペプチド結合部分」のことをIFドメイン(nsert in lap domain)とも呼ぶ。自律的なフォールディング単位と定義されるタンパク質ドメインは、適切な再フォールディング条件下で水溶液中でネイティブ様の安定なフォールディングをとることができる。「ポリペプチド結合部分」、「IFループ」、IFドメインまたはシャペロンドメインという用語は、同意語として使用することができる。
【0057】
本発明の「SlpA」または「SlpAシャペロン」または「SlpA単位」は、SlpAのポリペプチド結合部分またはIFドメインを含む。好ましくは、大腸菌(E. coli)SlpA分子全体を融合パートナーとして使用する。あるいは、SlpA IFドメインを融合パートナーとして用いる。これはN末端が配列番号2のアミノ酸番号59〜78に位置する任意のアミノ酸から開始され、C末端が配列番号2のアミノ酸番号125〜139に位置する任意のアミノ酸で終わる断片を少なくとも含む。最も好ましいのは、N末端が配列番号2のアミノ酸番号72(バリン72)で開始され、C末端が配列番号2のアミノ酸番号132(トレオニン132)で終了するポリペプチドをコードする配列である。本発明によれば、SlpAはこのシャペロンの成熟した非ヒト化形態を言う。これは、SlpAシャペロンが、FKBP12またはどのような他のヒトFKBPのN末端もしくはC末端隣接配列をも有しないことを意味する。
【0058】
本発明によれば、プロリルイソメラーゼとシャペロン活性の組み合わさった、他の生物由来のSlpAシャペロンホモログをフォールディングヘルパーとして使用することができる。かかるSlpAホモログは以下の生物に由来し得る(Swiss ProtデータベースID番号を括弧内に示す):シゲラ・フレキシネリ(Shigella flexneri)(Prot. ID. P0AEM3)、シゲラ・ソネイ(Shigella sonnei)(Prot. ID Q3Z5Y2)、志賀赤痢菌(Shigella dysenteriae)(Prot. ID Q32K69)、シトロバクター・コセリ(Citrobacter Koseri)(Prot. ID A8ALT4)、チフス菌(Salmonella typhi)(Prot. IDQ8XG79)、ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)(Prot. ID Q7CR92)、パラチフス菌(Salmonella paratyphi)AおよびB(Prot. ID Q5PKI5およびA9MYG7)、サルモネラ・コレラスイス(Salmonella choleraesuis)(Prot. ID Q57TL3)、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)(Q9RF46)、サルモネラ・アリゾナエ(Salmonella arizonae)(Prot. ID A9MR44)、エンテロバクター属種(Enterobacter sp.)(Prot. ID A4W6E3)、エンテロバクター・サカザキ(Enterobacter sakazakii)(A7MIM1)、セラチア・プロテアマキュランス(Serratia proteamaculans)(Prot. ID A8G9L6)、ペスト菌(Yersinia pestis)(Prot. ID Q8CZP4またはQ0WJI9)、仮性結核菌(Yersinia pseudotuberculosis)(Prot. ID A7FMD5)、エルシニア・エンテロコリチカ(Yersinia enterolitica)(A1JJE3)、エルウィニア・カロトボーラ(Erwinia carotovora)(Prot. ID Q6D0C5)、フォトラブダス・ルミネッセンス(Photorabdus luminescens)(Prot. ID Q7N8X0)、ソダリス・グロッシニジウス(Sodalis glossinidius)(Prot. ID Q2NVY4)、イディオマリナ・バルチカ(Idiomarina baltica)(Prot. ID A3WMS1)、ビブリオ・ハーベイ(Vibrio harveyi)(Prot. ID A6ATG3またはA7MTD8)、ビブリオ・バルニフィカス(Vibrio vulnificus)(Prot. ID Q7MNM6またはQ8DES9)、ビブリオ・カンプベリー(Vibrio campbellii)(Prot. ID A8T7R0)、ビブリオ・シロニイ(Vibrio shilonii)(Prot. ID A6D8Q3)、ビブリオ・スプレンディダス(Vibrio splendidus)(Prot. ID A3UXQ8)、イディオマリナ・ロイヒエンシス(Idiomarina loihiensis)(Prot. ID Q5QZR6)、ビブリオ・アルギノリティカス(Vibrio alginolyticus)(Prot. ID Q1V5T9)、アエロモナス・サルモニシダ(Aeromonas salmonicida)(Prot. ID A4SIX7)、フォトバクテリウム属種(Photobacterium sp.)(Q2C7V1)、ビブリオ・パラヘモリティカス(Vibrio parahaemolyticus)(Prot. ID Q87S88またはA6B565)、シュードアルテロモナス・アトランティカ(Pseudoalteromonas atlantica)(Prot. ID Q15R06)、コレラ菌(Vibrio cholerae)(Prot. ID A5F8X4、もしくはQ9KU45、もしくはA6Y5H7、もしくはA6XZU4、もしくはA6ADB4、もしくはA6A5W5、もしくはA3H4C9、もしくはA3GPA9、もしくはA3EG01、もしくはA2PSS5、もしくはA2P8T9、もしくはA1F6Q8)、アエロモナス・ヒドロフィラ(Aeromonas hydrophila)(Prot. ID A0KG41)、ビブリオ・アングスタム(Vibrio angustum)(Prot. ID Q1ZMQ4)、モリテーラ属種(Moritella sp.)(Prot. ID A6FG75)、シュードアルテロモナス・ハロプランクティス(Pseudoalteromonas haloplanktis)(Prot. ID Q3IEA0)、アルテロモナデールス・バクテリウム(Alteromonadales bacterium)(Prot. ID A0Y1B2)、サイクロモナス・イングラハミー(Psychromonas ingrahamii)(Prot. ID A1SZP1)、ビブリオ・フィシェリィー(Vibrio fischeri)(Prot. ID Q5E7N2 またはA9IPH0)、フォトバクテリウム・プロファンダム(Photobacterium profundum)(Prot. ID Q1Z378またはQ6LUK9)、シュードアルテロモナス・チュニカータ(Pseudoalteromonas tunicata)(Prot. ID A4C627)、サイクロモナス属種(Psychromonas sp.)(Prot. ID Q1ZHS3)、レイネカ属種(Reineka sp.)(Prot. ID A4BJL0)、ビブリオ・サイクロエリサス(Vibrio psychroerythus)(Prot. ID Q486T8)、シュワネラ・アマゾネンシス(Shewanella amazonensis)(Prot. ID A1S427)、シュワネラ属種(Shewanella sp.)(Prot. ID Q0HFZ1、もしくはQ0HS84、もしくはA0KZY9)、シュワネラ・ペアレアナ(Shewanella pealeana)(Prot. ID A8H1H5)、シュワネラ・フリジディマリナ(Shewanella frigidimarina)(Prot. ID Q07Z37)、シュワネラ・デニトリフィカンス(Shewanella denitrificans)(Prot. ID Q12KM6)、シュワネラ・ロイヒカ(Shewanella loihica)(Prot. ID A3QBX4)、およびシュワネラ・プトレフェーシェンス(Shewanella putrefaciens)(Prot. ID A4Y4A6)。
【0059】
本発明によれば、SlpAシャペロン配列は、SlpAシャペロンの全体的な構造、機能および安定性が維持されるならば、アミノ酸置換、好ましくは相同性の置換、欠失および挿入により改変されていてもよい。かかるSlpA変異体の機能の保持は、調べている標的ポリペプチドおよびSlpAシャペロン配列を含む融合タンパク質の融解温度を決定することにより容易に試験することができる。融解温度は、50%の分子がフォールディングされ、50%の分子が未フォールディングである温度と定義される。すなわち融解温度は、所定のバッファー系と所定のタンパク質濃度での熱誘導性の逆フォールディング遷移の中間点を表す。芳香族残基の含有量に応じて、タンパク質の融解温度を、UV吸収、蛍光または円偏光二色性のような単純な分光学的調査によりモニタリングすることができる。特に円偏光二色性は、タンパク質の二次構造(アミドCDまたは遠紫外CD)におけるかまたは三次構造(芳香族CDまたは近紫外CD)におけるコンホメーション変化をモニタリングするのに適している。
【0060】
近紫外CDにより評価されるSlpAの熱誘導性の逆フォールディングからは、逆フォールディング過程が完全に可逆的であること、すなわちサンプルが95℃から周囲温度、つまり15〜25℃まで冷却されるとSlpAが自発的にそのネイティブなコンホメーションに再び戻ることが明らかにされている。このフォールディングと逆フォールディングの可逆性は、バイオテクノロジー用途における理想的なフォールディングヘルパーにとって極めて重要な前提条件である。多くの場合、組換え融合タンパク質は、強く過剰産生されると大腸菌(E. coli)細胞質内で封入体として蓄積する。この場合、7.0M塩化グアニジンもしくは尿素のような他のカオトロピック物質に溶解された細菌細胞または封入体から出発して、強力で効果的な再生プロトコルを構築する必要がある。所望の対象タンパク質のin vitroでの再フォールディングを助けるには、どのようなシャペロン融合パートナーの再フォールディングも、十分に強固、効果的、そして可逆的でなければならないことは自明であろう。従来技術で公知の多数の融合パートナー、例えばNusA、MBP(マルトース結合タンパク質)およびGST(グルタチオン−S−トランスフェラーゼ)は、宿主細胞内で翻訳されるとき非常に強力なde novoフォールディングを示すが、熱または化学的に誘導される逆フォールディング後は容易に再フォールディングすることができない。したがってこうした融合パートナーは、宿主系内での標的タンパク質の可溶性の発現を目的として使用される。該融合パートナーが、宿主細胞内での翻訳に際して、de novoフォールディング中に対象タンパク質に溶解性を付与することができないと、凝集した融合タンパク質をin vitro再生手段により回収することは困難になる。本発明によれば、SlpAのような完全に可逆性の融合パートナーは、宿主細胞でのde novoフォールディングに際して可溶性タンパク質の産生をもたらすことから、明確な利点を有する。さらにSlpAは、そのフォールディング可逆性ゆえに、宿主細胞での大量過剰産生により不溶性の封入体として蓄積した融合ポリペプチドのin vitro再フォールディングを助けるために使用することができる。本発明によれば、逆フォールディングの完全な可逆性と高い固有安定性および実質的なシャペロン特性との組み合わせは、融合パートナーの重要な前提条件である。SlpAはこうした基準を完全に満たす。
【0061】
本発明によれば、SlpAシャペロンをコードする1以上、好ましくは2つのヌクレオチド配列が標的ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列の上流に配置され、その結果、2つの隣接するSlpA単位を含むタンデムSlpAシャペロンが生じる。SlpAシャペロンをコードするこの1以上のヌクレオチド配列は、1〜100アミノ酸のペプチドリンカーを(インフレームで)コードするヌクレオチド配列により隔てられていてもよい。この2つのSlpAシャペロン単位をコードするに当たり、異なるヌクレオチド配列を用いることができる。同様に、融合ポリペプチド内の他の全ての高度に反復的なエレメント、例えばリンカーまたはスペーサー部分をコードするに当たり異なるヌクレオチド配列を用いるべきである。こうしたヌクレオチド配列は、大腸菌(E. coli)宿主での意図しない組換えイベントに起因するSlpAコード配列の喪失を避けるために、縮重しているべきである。同一または繰り返しのアミノ酸配列について異なるコドンを慎重に選択することにより、発現カセットの安定性を保証することができる。
【0062】
本発明の「標的ポリペプチド」は、溶解性または安定性が制限されており、好適ではない条件下で凝集する傾向があり、フォールディングヘルパーによる補助または支援を必要とするどのようなポリペプチドであってもよく(すなわちどのようなアミノ酸配列を有してもよい)、ただしFK506結合タンパク質(FKBP)、特にヒトFK506結合タンパク質は標的ポリペプチドから除外される。これはヒトFKBP12のようなFK506結合タンパク質が標的ポリペプチドから除外されることを意味する。好ましい実施形態では、凝集傾向を示しかつ/または熱ストレスに感受性であるポリペプチドを標的ポリペプチドとして用いることができる。さらに、酵素活性のあるポリペプチドは本発明における好ましい標的ポリペプチドである。特に、疎水性基質を受容しターンオーバーさせる酵素(したがって該酵素自身が疎水性表面パターンを有する)は本発明における好ましい標的ポリペプチドである。さらなる好ましい実施形態では、細菌性またはウイルス性タンパク質またはプリオンタンパク質または関節リウマチに関連するタンパク質を標的ポリペプチドとして使用する。
【0063】
哺乳動物病原体のどのような構造的、膜会合型、膜結合型、または分泌型の遺伝子産物を標的ポリペプチドとして用いてもよい。哺乳動物病原体としては、哺乳動物宿主に感染するかまたは寄生することのできるウイルス、細菌、単細胞または多細胞寄生生物が挙げられる。例えば、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、ワクシニアウイルス、ポリオウイルス、アデノウイルス、インフルエンザウイルス、A型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルス、デングウイルス、日本脳炎ウイルス、水痘帯状疱疹ウイルス、サイトメガロウイルス、エプスタイン・バーウイルス、ロタウイルス、ならびに麻疹、黄熱病、流行性耳下腺炎、狂犬病、ヘルペス、インフルエンザ、パラインフルエンザなどを引き起こすウイルスなどのウイルスに由来するポリペプチドを、本発明の融合タンパク質での標的ポリペプチドとして使用することができる。例えばコレラ菌(Vibrio cholerae)、チフス菌(Salmonella typhi)、梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)、ヘリコバクター・ピロリ菌(Helicobacter pylori)、百日咳菌(Bordetella pertussis)、肺炎連鎖球菌(Streptococcus pneumoniae)、ヘモフィルス・インフルエンザエ菌(Haemophilus influenzae)、破傷風菌(Clostridium tetani)、ジフテリア菌(Corynebacterium diphtheriae)、ハンセン菌(Mycobacterium leprae)、リケッチア・リケッチイ(R. rickettsii)、赤痢菌(Shigella)、淋菌(Neisseria gonorrhoeae)、髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)、コクシジオイデス・イミティス(Coccidioides immitis)、ボレリア・ブルグドルフェリ(Borrelia burgdorferi)などに由来する細菌性タンパク質を標的ポリペプチドとして使用することができる。
【0064】
本発明の方法により好ましく製造される標的ポリペプチドのさらなる例としては、酵素、サイトカイン、増殖因子、ホルモン、ワクチン、抗体などの哺乳動物遺伝子産物が挙げられる。より詳細には、本発明の好ましい過剰発現遺伝子産物としては、エリスロポエチン、インスリン、ソマトトロピン、成長ホルモン放出因子、血小板由来増殖因子、上皮成長因子、トランスフォーミング増殖因子α、トランスフォーミング増殖因子、上皮増殖因子、線維芽細胞増殖因子、神経成長因子、インスリン様増殖因子I、インスリン様増殖因子II、凝固因子VIII、スーパーオキシドジスムターゼ、インターフェロン、γ−インターフェロン、インターロイキン−1、インターロイキン−2、インターロイキン−3、インターロイキン−4、インターロイキン−5、インターロイキン−6、顆粒球コロニー刺激因子、多分化コロニー刺激因子、顆粒球マクロファージ刺激因子、マクロファージコロニー刺激因子、T細胞増殖因子、リンホトキシンなどの遺伝子産物が挙げられる。好ましい過剰発現遺伝子産物はヒト遺伝子産物である。
【0065】
診断用途において、例えば測定対象のアナライトが抗体であるときには、標的ポリペプチドは測定対象の抗体により認識される少なくとも1つのエピトープを有する。このようなエピトープは、診断に関連するエピトープとも呼ばれる。本発明の標的ポリペプチドはまた、単一の組換えポリペプチドとして発現されるように構築された複数の異なるタンパク質由来の診断に関連するエピトープのような配列を含みうる。好ましくは、標的ポリペプチドは長さが10〜500アミノ酸である。
【0066】
最も好ましくは、標的ポリペプチドは、HIV−1由来のgp41およびp17、HIV−2由来のgp36およびp16、HTLV−I/II由来のgp21のようなレトロウイルスタンパク質からなる群、ルベラウイルス由来のE1およびE2のようなウイルスエンベロープタンパク質からなる群、またはβ−AP42(アルツハイマーペプチド)もしくはプリオンタンパク質のようなアミロイド生成性タンパク質からなる群のメンバーである。
【0067】
また、単純ヘルペスウイルス1由来の糖タンパク質G1および単純ヘルペスウイルス2由来の糖タンパク質G2も、標的ポリペプチドとして好ましい。より正確には、これらに対応する、シグナル配列および膜貫通領域を欠いた糖タンパク質断片(gG1 26−189、gG2 343−594)は好適な標的ポリペプチドである。
【0068】
標的ポリペプチドとしてさらに好ましいのは、ヒトサイトメガロウイルス由来の以下のタンパク質およびタンパク質断片である:pp28(15−179)、pp150(821−1048)、pp150(547−725)、pp150(495−854)、p38(105−308)、p38(105−373)、p38(209−308)、p52(254−293)、p52(295−330)、p52(298−433)、gB(67−84)、pp65(372−549)、およびpp65(372−458)。
【0069】
また、トレポネーマ・パリダム(Treponema pallidum)由来の以下のタンパク質およびタンパク質断片も好ましい:TpN17(23−156)、TpN47(21−434)、TpN15(23−142)、TmpA(23−345)、およびTpO453(27−287)。大腸菌(E. coli)宿主での発現時の細胞質への局在化を確実にするために、これらのトレポネーマ抗原全種のシグナル配列は除去されている。
【0070】
さらなる好ましい標的ポリペプチドは、ボレリア由来の以下のタンパク質およびタンパク質断片である:内在的フラジェリン断片p41i(137−262)、VlsE(IR6/C6)、DbpA(26−175)、OspB(17−296)、およびOspC(19−214)。
【0071】
さらなる好ましい標的ポリペプチドはエプスタイン・バーウイルス(EBV)由来のタンパク質であり、例えば配列番号13に示すEBV核抗原1(EBNA−1)、配列番号14および15にそれぞれ示すp18のポリペプチドおよび断片、ならびに配列番号16に示すp23に由来するポリペプチドである。
【0072】
こうした標的ポリペプチドはいずれも、SlpAシャペロンに融合されたときに、アナライト(例えば標的ポリペプチドに対する抗体)の検出のための結合パートナーとしてイムノアッセイにおいて使用することができ、または以下に詳述するイムノアッセイにおける標準または較正用物質として使用することができる。
【0073】
本発明のさらなる実施形態は、融合タンパク質の製造方法であって、以下のステップ:
(a)標的ポリペプチドをコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列、およびその上流または下流にあるSlpAシャペロンをコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列を含む宿主細胞を培養するステップ、
(b)該融合タンパク質を発現させるステップ、
(c)該融合タンパク質を精製するステップ、および
(d)該融合タンパク質を可溶性かつネイティブ様のまたは免疫反応性(すなわち抗原性)のコンホメーションに再フォールディングさせるステップ
を含む方法である。この方法により製造される融合タンパク質も本発明の一態様である。
【0074】
本発明の融合タンパク質は高い溶解性を示す。これらは細胞質ゾルにて低速で過剰発現されると主に可溶性画分に蓄積される。細胞増殖および誘導の条件に応じて、特に強力に過剰発現されると、SlpA−X遺伝子産物は封入体内に蓄積することもある。通常、当業者は可溶性の標的ポリペプチドを大腸菌(E. coli)細胞質ゾルにて過剰発現させようとする。次いで細胞を超音波処理またはリゾチーム/EDTAを併用した処理により破壊し、推定上のネイティブ様フォールディングされた標的タンパク質を可溶性画分から分離する。これはSlpA−X融合タンパク質について実行可能であり、標的ポリペプチドXが十分に高い固有溶解性を有する場合には可溶性物質がもたらされる。標的ポリペプチドXが非常に疎水性であり凝集傾向が強い場合には、マトリックス支援再生アプローチにてSlpAの効果的で強力な再フォールディング特性を利用する別の方法を用いることができる。細胞は適切なバッファー条件下、例えばカオトロピック物質(これらには強力な変性作用があり、疎水性の細胞成分や封入体でさえも可溶化させるが、ただし構造的完全性は犠牲にされる)中で溶解される。融合タンパク質がヘキサヒスチジン部分でN末端またはC末端にタグ付けされている場合、それらは未フォールディング状態でも金属含有カラム(Ni−NTAまたはZn2+またはCu2+担体)に特異的に結合することができる。固相に固定化されると、該分子は適切なバッファー条件下で容易にそして効率的に再フォールディングする。このいわゆるマトリックス支援再生(多種の取扱困難なタンパク質の再フォールディング収率を増大されることが示されている)は共有結合したSlpAにより強力に支援されるが、該SlpAはそのシャペロン特性ゆえにフォールディング中間体中の疎水性パッチを認識しそれを可逆的にマスキングすると考えられる。実施例にて詳述する適切な精製および再フォールディングプロトコルは当業者に周知である。
【0075】
本発明のさらなる態様はSlpAおよび標的ポリペプチド配列を含む任意の複合体に関し、これにはSlpAを任意のタンパク質製剤に添加することも含まれる。本発明のさらなる態様は、SlpAに対応する少なくとも1つのポリペプチド配列および標的ポリペプチドに対応する少なくとも1つのポリペプチド配列を含む組換え的に製造された融合タンパク質に関する。本発明のさらなる態様は、単独での、または組換えもしくは合成起源の標的ポリペプチドとの組み合わせでの、合成的に製造されたSlpAに関する。
【0076】
本発明によれば、SlpAシャペロンは融合パートナーとして使用されたときに取扱困難な標的ポリペプチドの熱安定性を向上させることができる。SlpAは、融合された標的ポリペプチドに熱安定性を付与し、このことにより実施例に示すように標的ポリペプチドは熱誘導性凝集の影響を受けにくくなる。大腸菌(E. coli)SlyDに融合された非常に凝集傾向の強い標的タンパク質を熱ストレスに曝すと、得られる融合タンパク質は約42℃で熱誘導性の凝集を開始するが、この温度はSlyDの固有安定性と概ね一致する。同じ標的タンパク質をSlpA、好ましくは大腸菌(E. coli)SlpAに融合させると、これは約56℃まで安定であり可溶性である。例えば、SlyDおよびHIVタンパク質gp41(配列番号5)由来の断片536−681を有する融合タンパク質は温度42℃にて凝集し始めるのに対して、本発明にしたがい大腸菌(E. coli)SlpA(配列番号3)に融合された同じ標的タンパク質は50℃を超える温度でも熱安定である。融合タンパク質の一部としてのSlpAは取扱困難なまたは凝集傾向の強いタンパク質を熱誘導性変性に続く凝集から保護することが見て取れる。
【0077】
SlpAの融合体が、さほど凝集傾向の強くないタンパク質またはタンパク質断片に対しても有益な効果を発揮することも見て取れる。HSV−1由来の糖タンパク質G1の断片であるgG1(26−189)をSlyDに融合させると、得られる融合タンパク質は大部分が可逆的な様式で熱により逆フォールディング可能であり、このとき融解温度は約53℃である(図7)。しかしながら、同じ断片をSlpAに融合させると、得られる融合タンパク質は約63℃という熱誘導逆フォールディングの中間点温度を示す(図8)。明らかにgG1融合ポリペプチドの安定性は、融合パートナーとしてSlyDをSlpAに置き換えると、10℃ほどシフトする。この知見は、SlpA−X融合ポリペプチドがそのSlyD−X対応物と比較して優れた安定性特性を有することを明確に実証している。
【0078】
SlpA融合ポリペプチドのこのような優れた安定性特性がイムノアッセイにも反映されるか否かを明らかにするために、SlyD−gG1およびSlpA−gG1の熱チャレンジされたサンプルを、抗HSV陽性および陰性ヒト血清(実施例4)と共に用いて、熱ストレス後に回復するその免疫応答性に関して評価した。ストレスを加えていないサンプルと比較すると、明確な結果が観察された(実施例4および図9を参照されたい):熱処理されたSlyD−gG1およびSlpA−gG1と抗HSV陽性血清とにより生じるシグナルは全ての事例において減少したが、シグナル喪失はSlyD融合変異体について大幅に顕著であった。逆に、熱処理されたSlyD−gG1およびSlpA−gG1と抗HSV陰性血清とにより生じるバックグラウンドシグナルは全ての事例において増加した(ルテニウムコンジュゲート化抗原の凝集が進行していることを示す)が、やはりシグナル高の増加はSlyD融合変異体の方が大幅に顕著であった。したがって該陽性および陰性血清の両方におけるシグナル出力から(すなわちシグナル動態に鑑みて)、SlpAはgG1(26−189)のための融合パートナーとしてSlyDに明らかに勝る。明らかに、SlyDの代わりにSlpAを融合パートナーとして用いることは、陰性血清における低いシグナルレベルおよび陽性血清における高いシグナル回復の両方を保証する。手短に述べると、SlpAを融合パートナーとして用いることは、免疫グロブリンアナライトの検出用のポリペプチド抗原を含有するイムノアッセイキットを過酷な処理に供した後でさえも、その抜群のシグナル動態を保証する。十分に長くかつ柔軟な架橋物質(標準的な化学的手法による)を介して標的分子と共有結合しているSlpAまたは関連するシャペロンモジュールが、類似の可溶化効果を示すことは容易に想定できる。融合ポリペプチドが実現可能でない場合には、シャペロンと標的分子を別々に製造して再フォールディングさせ、その後共有結合により連結させる。
【0079】
本発明のさらなる態様は、SlpAシャペロンおよび標的ポリペプチドを含む、組換え的にまたは合成的に製造された融合タンパク質の、イムノアッセイにおける結合パートナーとしての使用に関する。イムノアッセイならびに種々の同種および異種成分試験フォーマットは当業者に周知である。これらは当業者に知られている任意の生物学的液体について実施することができる。好ましいサンプルは全血、血清、血漿、尿または唾液などの体液である。
【0080】
SlpAおよび少なくとも1つの標的ポリペプチドを含む本発明の融合ポリペプチドは、標準または較正用物質としても使用することができる。SlpAは、イムノアッセイにおいて較正用物質として必要な扱いにくいタンパク質についても好適な融合パートナーである。例えば、本発明者らはSlpAと融合したトロポニンI変異体(残基1〜209を含む)をクローニングし、発現させ、精製した。得られた融合ポリペプチドSlpA−トロポニンIは可溶性であり免疫反応性であることが明らかになり、トロポニンIイムノアッセイにおける標準較正物質として非常に適切であった。SlpA融合パートナーのために、トロポニンI部分の安定性は、単離されたトロポニンI(わずかにしか安定ではなく、好適なバッファー条件下でさえも自発的に凝集する)と比較して大幅に向上している。可溶性で安定な較正物質または標準物質を製造するための、取扱困難なタンパク質と組み合わせたSlpAの使用は、本発明のさらなる実施形態である。さらなる態様は、標的タンパク質の凝集を防ぎその溶解性を改善するための、SlpAの添加物としての使用である。
【0081】
本発明のさらなる実施形態は、単離されたサンプル中のアナライトに特異的な抗体の検出方法であって、以下のステップ:
(a)体液サンプルを、SlpAシャペロンに対応する少なくとも1つのポリペプチドおよび標的ポリペプチドに対応する少なくとも1つのポリペプチドを含む融合タンパク質と混合することにより免疫反応性混合物を形成させるステップ、
(b)該体液サンプル中に存在するアナライトに対する抗体が該融合タンパク質と免疫反応するのに十分な時間、該免疫反応性混合物を維持して、免疫反応生成物を形成させるステップ、ならびに
(c)該免疫反応生成物のいずれかの存在を検出するステップ
を含む方法である。
【0082】
好ましい実施形態において、特定の抗体の検出は、いわゆる二重抗原サンドイッチ試験(DAGS;ブリッジ試験とも言う)により行うことができる。この試験は、測定対象の当該特定の抗体アナライトが2つの同一または類似の抗原の間にブリッジを形成する異成分系フォーマットである。このフォーマットはハイスループット自動化分析器に容易に応用することができる。より詳細には、測定対象の抗体は、固相への固定化を仲介する第1抗原と、そして標識(すなわちシグナリング部分、例えば発色性、蛍光性、化学発光性、電気化学発光の標識または当業者に公知の他の標識)を有する第2抗原と、免疫複合体または免疫反応生成物を形成し、このことにより液体と固相の分離後に特異的に結合した抗体を定量的または定性的に検出することができる。したがって、調べている抗体がサンプル中に存在する場合にのみブリッジが形成され、シグナルが検出される。このようなアッセイフォーマットでは本発明の融合タンパク質を結合パートナーとして使用することができ、このとき固相に結合した抗原もしくは標識化抗原、またはその両方が大腸菌(E. coli)SlpAシャペロンおよび標的ポリペプチドを含む融合タンパク質である。標的ポリペプチドは融合タンパク質の抗原性部分を構成する。
【0083】
本発明の好ましい実施形態は、特定の抗体の検出のためのいわゆる非対称二重抗原サンドイッチ試験であり、ここではそれぞれがシャペロンと標的ポリペプチドを含む第1融合タンパク質および第2融合タンパク質を使用する。このフォーマットのことを非対称と呼ぶのは、両方の融合タンパク質のシャペロン単位が互いに異なるからである。例えば、第1融合タンパク質は、少なくとも1つのSlpAシャペロン単位および少なくとも1つの標的ポリペプチド単位を含むことができ、固相への特異的結合を仲介する部分、例えばストレプトアビジンコーティングされた固相に結合するビオチンを含むこともできる。第2融合タンパク質は、SlpAとは異なる少なくとも1つのシャペロン単位および第1融合タンパク質の標的ポリペプチドと同一または類似の少なくとも1つの標的ポリペプチド単位を含み得る。さらに、後者の融合タンパク質はシグナル出力のためのシグナリング部分またはレポーター基を有し得る。
【0084】
好ましくは、第2融合タンパク質のシャペロン単位も周囲温度で十分な固有柔軟性を有する(すなわち動的結合活性が高い)熱安定性のシャペロンである。第2融合タンパク質のシャペロン単位として好適な候補は、例えばFkpA(融解温度約50℃)およびパスツレラ・ムルトシダ(Pasteurella multocida)由来のSlyDオルソログのC末端切断型(システイン不含)変異体(融解温度約49℃)である。この両種のシャペロンのアミノ酸配列(融合タンパク質中で好ましくはシャペロン単位として使用される完全配列および部分配列)を配列番号9〜12に示す。第1および第2融合タンパク質のシャペロン単位は交換可能であり、すなわちSlpAが第2融合タンパク質の一部であってもよく、この場合、他方の熱安定性シャペロン(例えばFkpAまたはパスツレラ・ムルトシダ(Pasteurella multocida)のSlyDオルソログ)が第1融合タンパク質の一部であり得る。第1および第2融合タンパク質は、特定の抗体アナライトについて検査中のサンプルに同時にまたは連続的に加える。サンプル中に存在する場合に抗体は第1および第2融合タンパク質の標的ポリペプチド単位に結合し、そのことにより該第1および第2融合タンパク質の標的ポリペプチド部分を架橋し、免疫反応生成物または免疫複合体が生じる。
【0085】
免疫複合体の形成の前、後、またはそれと同時に、マイクロビーズまたはELISAプレートのような固相を作用させ、それにより第1融合タンパク質が固相に結合する。その結果、前記第1融合タンパク質、検出対象の抗体および前記第2融合タンパク質を含む免疫反応生成物(すなわち免疫複合体)全体が固相に結合する。固相の液相からの分離後に、免疫反応生成物の存在を検出することができる。別の方法として、第1融合タンパク質中に存在するシャペロン単位が第2融合タンパク質のためのシャペロン単位として利用可能であり、その逆もまた可能である。しかしながら、シャペロン単位は好ましくは両種の融合タンパク質において異なっているべきである。なぜなら、サンプル中のこれらのシャペロンに対する抗体の存在に起因する融合タンパク質の非アナライト特異的架橋の(予期しない)可能性があるからである。別の方法として、アッセイのいずれの側にも同一のシャペロン融合パートナーを用いる特異性の高いDAGSイムノアッセイも実施可能である。この場合、アッセイの開発者は、使用する融合パートナーに対する抗体がヒト血清のかなりの部分に存在する可能性が高いことを考慮しなければならない。こうした抗体はシグナリングポリペプチドを固相に架橋し、シグナルを増大させ、したがって偽陽性結果を生じる可能性がある。そのような干渉を回避するためには、融合パートナー(すなわちシャペロン単位)を、高度に多量体化されかつ未標識の形態でサンプルに抗干渉物質として加える。抗干渉物質は、融合パートナー、リンカー部分、スペーサーおよびタグ配列ならびに純正の抗原の一部ではないあらゆる他の部分に対する免疫グロブリンを効率的に捕捉するように設計する。化学的に多量体化された(すなわち架橋された)抗干渉物質は、その高いエピトープ密度ゆえに、抗シャペロン抗体の結合に関して標識化された融合ポリペプチドと効率的に競合することができる。このようにして望ましくない特異性の免疫グロブリンに起因する干渉を好適に信頼できる様式で排除することができる。体液などのあらゆる生物学的液体をサンプルとして使用することができる。好ましくは、血液、血清、血漿、尿または唾液を使用する。
【0086】
標識基またはシグナリング基は、あらゆる公知の検出可能マーカーの群、例えば色素、発光標識化基、例えば化学発光基、例えば、アクリジニウムエステルもしくはジオキセタン、または蛍光色素、例えば、フルオレセイン、クマリン、ローダミン、オキサジン、レゾルフィン、シアニンおよびその誘導体から選択することができる。標識基の他の例は、発光金属錯体、例えばルテニウムもしくはユーロピウム錯体、例えばELISAに用いる酵素、または放射性同位体である。
【0087】
免疫複合体または免疫反応生成物の固相への結合は、例えばビオチンとストレプトアビジンのような生物学的に関連のある結合ペアの片方のパートナーを用いて行うことができる。好ましくは、ビオチンが本発明の融合タンパク質にカップリングされている。このビオチン・融合タンパク質コンジュゲートは、ストレプトアビジンコーティングされた固相に高い親和性で結合する。
【0088】
アナライトの例はいずれも「標的ポリペプチド」の章において記載した病原因子およびこうした病原因子に対する抗体である。例えば本発明によれば、好ましくは、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)、HTLV−1/HTLV−II(ヒトT細胞リンパ球向性ウイルスIおよびII)、HCV(C型肝炎ウイルス)、HBV(B型肝炎ウイルス)、HAV(A型肝炎ウイルス)、HCMV(ヒトサイトメガロウイルス)、HSV−1/−2(単純ヘルペスウイルス1型および2型)、EBV(エプスタイン・バーウイルス)、水痘帯状疱疹ウイルス、ヒトヘルペスウイルス6、ヒトヘルペスウイルス7、ヒトヘルペスウイルス8、ルベラウイルス、トレポネーマ・パリダム(Treponema pallidum)、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)、ボレリア(ボレリア・ブルグドフェリ(B. burgdorferi)、ボレリア・アフゼリー(B. afzelii)、ボレリア・ガリーニー(B. garinii))、トリパノソーマ・クルージィ(Trypanosoma cruzi)、およびトキソプラズマ原虫(Toxoplasma gondii)に対する抗体が特異的に検出可能である。
【0089】
本発明のさらなる実施形態は、アナライトに対する抗体の検出用の試薬キットであり、該キットは標的ペプチドに対応する少なくとも1つのポリペプチド配列およびSlpAに対応する少なくとも1つのポリペプチド配列を有する融合タンパク質を含有する。かかる試薬キットのさらなる構成要素は当業者に知られており、バッファー、保存剤、標識物質および使用説明書などが挙げられる。
【0090】
本発明のさらなる実施形態としては、組換え的にまたは合成的に製造された本発明の融合タンパク質の、イムノアッセイにおける干渉の低減のための使用、ならびに実験動物の免疫およびワクチンの製造のためのその使用が挙げられる。
【0091】
本発明の別の実施形態は、SlpAに対応する少なくとも1つのポリペプチド配列および標的ペプチドに対応する少なくとも1つのポリペプチド配列を含む、組換え的にまたは合成的に製造された融合タンパク質ならびに製薬上許容される賦形剤を含んでなる組成物に関する。
【0092】
本発明によれば、SlpAは、それを精製された形態で標的ポリペプチドに加えることにより、標的ポリペプチドのフォールディングヘルパーとして使用可能であり、これはSlpAを安定化または可溶化物質として任意のタンパク質製剤に加えることも包含する。例えば、SlpAおよびペプチジルプロリルシス/トランスイソメラーゼのFKBPファミリー由来の関連フォールディングヘルパーを標的ポリペプチドのバイオテクノロジー的製造工程中にまたはその後に添加することができ、このことにより標的ポリペプチドに可溶性または熱安定性が付与される。かかるバイオテクノロジー用途としては、例えば酵素、インスリンのようなペプチドホルモン、またはより一般的には商用価値のあるタンパク質の工業的大規模生産が挙げられる。
【0093】
本発明のさらなる実施形態において、SlpAは、偽陽性結果を生じる免疫学的交差反応または干渉を低減または抑制するために、イムノアッセイ、特に二重抗原サンドイッチイムノアッセイフォーマットにおいて添加物として使用可能である。
【0094】
より詳細には、イムノアッセイにおいて、SlpA−XまたはSlpA−SlpA−X融合タンパク質を免疫グロブリンアナライトの検出のための抗原として用いることができ、このときXはアナライト特異的抗体が結合する標的ポリペプチドである。干渉を低減するためにSlpAまたはSlpA−SlpAを抗干渉物質として添加し、シャペロン単位を介した免疫学的交差反応を回避する。好ましくは、エピトープ密度を高め、IgGおよびIgM分子のSlpA、リンカー部分またはヘキサヒスチジンタグに対する結合を助けるために、SlpAまたはSlpA−SlpAは、化学的に多量体化された形態で添加する。
【0095】
SlpAは標的分子に可溶性と安定性を付与するが、それは、当該特定の標的分子以外の他の部分または基と同様に、対応するイムノアッセイの特異性を低下させる免疫学的交差反応を引き起こし得る。この特異性の問題を克服するために、未標識のSlpAまたはSlpA−SlpAを、多量体化された形態でイムノアッセイ試薬中に提供する。このSlpAまたはSlpA−SlpAポリペプチドは、SlpA単位自身、任意のリンカーまたはスペーサーセグメント、ヘキサヒスチジンまたは他のタグモチーフおよびさらには標識部分など、不活性化形態でも交差反応を引き起こす可能性のあるすべてのエレメントを含む。こうした潜在的に干渉傾向のあるモチーフは、化学的架橋ゆえに、高いエピトープ密度で交差反応性抗体に供され、こうした潜在的に干渉性の抗体に結合しそれを中和するのに適している。この抗干渉効果以外にも、SlpAまたはSlpA−SlpA多量体はさらなる有利な効果を有し得る。すなわち、高度に多量体性のシャペロンであることから、これらはどのような固相表面の疎水性表面(例えばビーズ、マイクロタイタープレートおよびチューブまたは容器壁面)にも吸着可能であると考えられ、したがって必須の免疫学的成分の非特異的吸着を低減させる。さらに、これらは、そのシャペロン特性ゆえに他の免疫学的成分の溶解性にも寄与する可能性があり、これは多量体化された形態でさらに顕著であり得る。
【実施例】
【0096】
本願発明を実施例によりさらに説明する。
【0097】
実施例1
SlpAおよびSlyD融合ポリペプチドのクローニングと精製
発現カセットのクローニング
Novagen社(Madison, WI, USA)のpET24a発現プラスミドをもとに、SlyDまたはSlpA融合ポリペプチドをコードする発現カセットを得た。gp41エクトドメインの配列はSwissProtデータベースから取得した。gp41(aa536−681)をそのN末端にインフレームで融合されたグリシンリッチなリンカー領域と共にコードする合成遺伝子を、Medigenomix社(Martinsried, Germany)から購入した。コード領域の5’末端および3’末端にはそれぞれBamHIおよびXhoI制限部位がある。グリシンリッチなリンカー領域により連結され、そのC末端にさらなるリンカー領域の一部分を有する2つのSlpA単位(配列番号1、SwissProt登録番号P0AEM0の残基1−146および2−149)をコードするさらなる合成遺伝子も同様にMedigenomix社から購入した。このカセットの5’末端および3’末端にはそれぞれNdeIおよびBamHI制限部位がある。これらの遺伝子および制限部位は、単純なライゲーションによりSlpA−SlpAとgp41エクトドメイン断片をインフレームで融合できるように設計してあった。意図しない組換え反応を回避するため、および大腸菌(E. coli)宿主内での発現カセットの遺伝的安定性を向上させるために、SlpA単位をコードするヌクレオチド配列ならびに伸長されたリンカー領域をコードするヌクレオチド配列を縮重させた。すなわち、同一のアミノ酸配列をコードするに当たって、異なるコドンの組み合わせを使用した。
【0098】
pET24aベクターをNdeIおよびXhoIで消化し、HIV−1 gp41エクトドメイン断片536−681にインフレームで融合されたタンデムSlpAを含むカセットを挿入した。SlpAまたはタンデムSlpAの代わりにSlyDまたはタンデムSlyDを含む発現カセット、ならびにgp41と異なる標的ポリペプチドを含む発現カセットも、同様に構築した。全ての組換え融合ポリペプチド変異体は、Ni−NTA支援精製および再フォールディングを容易にするためのC末端ヘキサヒスチジンタグを有していた。それぞれの発現カセットに点突然変異、欠失および伸長変異体または制限部位を生成するためにQuikChange(Stratagene社、La Jolla、CA、USA)および標準PCR技術を用いた。
【0099】
下の模式図は、得られるHIV−1 gp41エクトドメイン断片536−681とそのN末端にインフレームで融合された2つのタンデムSlpAシャペロンを示す。
【0100】

得られたプラスミドのインサートを配列決定し、所望の融合タンパク質をコードすることを確認した。完全アミノ酸配列を配列番号4に示す。リンカーLのアミノ酸配列は配列番号17に示す。
【0101】
SlpA、SlyDならびにSlpA、SlyD、およびFkpAを含む融合タンパク質の精製
SlyD、SlpA、および全ての融合タンパク質変異体は、実質的に同じプロトコルを用いて精製した。特定のpET24a発現プラスミドを担持する大腸菌(E. coli)BL21(DE3)細胞を37℃にてカナマイシン(30μg/mL)を添加したLB培地でOD6001.5まで増殖させ、1mMのイソプロピル−β−D−チオガラクトシドを添加することにより細胞質過剰発現を誘導した。誘導から3時間後に、細胞を遠心分離(5000gにて20分)により回収し、凍結し、−20℃にて保存した。細胞を溶解させるために、凍結したペレットを氷冷50mMリン酸カリウムpH8.0、7.0M GdmCl、5mMイミダゾールに再懸濁し、この懸濁物を2時間、氷上で攪拌し、細胞を完全に溶解させた。遠心分離と濾過(硝酸セルロースメンブレン、0.45μm/0.2μm)の後に、溶解物を、5.0mM TCEPを含む溶解バッファーで平衡化したNi−NTAカラムに加えた。その後の洗浄ステップは、それぞれの標的タンパク質に合わせ、50mMリン酸カリウムpH8.0、7.0M GdmCl、5.0mM TCEP中の5〜15mMイミダゾールとした。少なくとも10〜15容の洗浄バッファーを加えた。次いで、GdmCl溶液を50mMリン酸カリウムpH7.8、100mM KCl、10mMイミダゾール、5.0mM TCEPで置換し、マトリックス結合タンパク質の立体構造的再フォールディングを誘導した。共に精製されるプロテアーゼの再活性化を避けるために、プロテアーゼ阻害剤カクテル(Complete(登録商標)EDTAフリー、Roche社)を再フォールディングバッファーに追加した。合計15〜20カラム容量の再フォールディングバッファーを一晩かけて添加した。次いでTCEPおよびComplete(登録商標)EDTAフリー阻害剤カクテルの両方を、3〜5カラム容量の50mMリン酸カリウムpH7.8、100mM KCl、10mMイミダゾールを用いた洗浄により除去した。次いでネイティブなタンパク質を同じバッファー中の250mMイミダゾールにより溶出させた。タンパク質含有画分はトリシン−SDS−PAGEを用いて純度を評価し、プールした。最後に前記タンパク質をサイズ排除クロマトグラフィー(Superdex HiLoad、Amersham Pharmacia社)に供し、タンパク質含有画分をプールしAmicon cell(YM10)で濃縮した。
【0102】
組み合わせた精製および再フォールディングプロトコルにより、1gの大腸菌(E. coli)湿細胞から、それぞれの標的タンパク質に応じて、約5〜20mgのタンパク質が得られた。
【0103】
実施例2
分光学的測定
タンパク質の二次および三次構造の両方を評価するためにここで選択した方法は、円偏光二色性分光法(CD)である。芳香族領域(260〜320nm)における楕円率はタンパク質内の三次的接触(すなわち規則的にフォールディングされたタンパク質の球状構造)を反映するのに対して、アミド領域(190〜250nm)における楕円率は、タンパク質骨格における規則的な繰り返しエレメント、すなわち二次構造を反映する。
【0104】
タンパク質濃度測定は、Uvikon XL二重光線分光光度計を用いて行った。モル吸光係数 (ε280)は、Pace(1995), Protein Sci. 4, 2411-2423に記載の方法を用いて決定した。
【0105】
近紫外CDスペクトルは、温度自動調節されたセルホルダーを備えたJasco-720分光偏光計で記録し、平均残存楕円率に変換した。バッファーは50〜150mMリン酸カリウムpH7.5、100mM KCl、1mM EDTAとした。光路は0.5cmまたは1.0cmとし、タンパク質濃度は20〜500μMとした。バンド幅は2nmとし、スキャン速度は50nm/分とし、解像度は0.5nmとし、応答は1または2秒とした。シグナル/ノイズ比を改善するために、スペクトルを9回測定し平均した。
【0106】
遠紫外CDスペクトルは、温度自動調節されたセルホルダーを備えたJasco-720分光偏光計で測定し、平均残存楕円率に変換した。バッファーは10mMリン酸カリウムpH7.5、25mM KCl、0.5mM EDTAとした。光路は0.2cmとし、タンパク質濃度は2.5〜20μMとした。バンド幅は2nmとし、スキャン速度は50nm/分とし、解像度は0.5nmとし、応答は1または2秒とした。シグナル/ノイズ比を改善するために、スペクトルを9回測定し平均した。
【0107】
実施例3
ビオチンおよびルテニウム部分の融合タンパク質へのカップリング
融合ポリペプチドのリシンε−アミノ基を、10〜20mg/mLのタンパク質濃度にて、N−ヒドロキシ−スクシンイミド活性化ビオチンおよびルテニウム標識でそれぞれ修飾した。標識/タンパク質比は、それぞれの融合タンパク質に応じて、2:1〜5:1(モル:モル)とした。反応バッファーは150mMリン酸カリウムpH8.0、100mM KCl、1mM EDTAとした。反応は室温で15分間行い、緩衝化L−リシンを最終濃度10mMまで添加することにより停止させた。標識の加水分解による不活性化を回避するために、それぞれのストック溶液は乾燥DMSO(seccosolv(登録商標)等級、Merck社、Germany)中で調製した。調べた全ての融合タンパク質は、反応バッファー中の最大15%までのDMSO濃度を許容した。カップリング反応後に、未反応の遊離標識は、粗製のタンパク質コンジュゲートをゲル濾過カラム(Superdex 200 HiLoad)に通すことにより除去した。
【0108】
実施例4
ポリペプチド融合タンパク質の免疫学的反応性
種々の融合タンパク質の免疫学的反応性(すなわち抗原性)を、自動化されたElecsys(登録商標)2010分析器(Roche Diagnostics GmbH社)で評価した。Elecsys(登録商標)はRocheグループの登録商標である。測定は二重抗原サンドイッチフォーマットで行った。
【0109】
Elecsys(登録商標)2010でのシグナル検出は電気化学発光に基づく。ビオチンコンジュゲート(すなわち捕捉抗原)はストレプトアビジンコーティングされた磁気ビーズの表面に固定化し、検出抗原は複合体化されたルテニウムカチオン(レドックス状態2+および3+の間を遷移する)をシグナリング部分として有する。特定の免疫グロブリンアナライトの存在下で、発色性のルテニウム複合体を固相と架橋し、白金電極による励起後に620nmにて発光させる。シグナル出力は任意の光単位で示す。
【0110】
捕捉抗原および検出抗原のいずれについても、HSV−1特異的抗原性配列としてHSV−1抗原gG1(アミノ酸26−189、配列番号7および8を参照されたい)を有する融合ポリペプチドをアッセイに使用した。gG1抗原はSlpAまたはSlyDのいずれかに融合させた。二重抗原サンドイッチイムノアッセイにおいてSlpA−gG1(26−189)−ビオチンコンジュゲートをSlpA−gG1(26−189)−ルテニウム複合体コンジュゲート(本発明)と共に、それぞれ100ng/mLの濃度で加えた。同様に、SlyD−gG1(26−189)−ビオチンコンジュゲートをSlyD−gG1(26−189)−ルテニウム複合体コンジュゲート(比較例)と共に、それぞれ100ng/mLの濃度で加えた。
【0111】
gG1(26−189)の融合ポリペプチド変異体のビオチンコンジュゲートおよびルテニウムコンジュゲートを、それぞれ100ng/mLの濃度にて、抗HSV−1陽性血清に対するその反応性について評価した。シャペロン融合単位を介する免疫学的交差反応を回避するために、全ての測定において、未標識の化学的に多量体化されたSlyD−SlyDを抗干渉物質として反応バッファーに加えた。11の抗HSV−1陰性ヒト血清を対照として用いた。
【0112】
融合タンパク質の耐熱性を調べるために、SlyD−gG1およびSlpA−gG1を以下の過酷な温度条件に供した:SlyD−gG1およびSlpA−gG1(タンパク質は50mMリン酸カリウムpH7.5、100mM KCl、1mM EDTA中に存在)を60℃で一晩インキュベートした。gG1−ビオチンコンジュゲートの濃度はそれぞれ約1.3mg/mLであり、gG1−ルテニウムコンジュゲートの濃度はそれぞれ約0.6mg/mLであった。その後、熱ストレスを加えたサンプルを、上記実験条件下でElecsys(登録商標)2010自動分析器を用いてその残存免疫学的反応性について評価した。SlyD−gG1およびSlpA−gG1の未チャレンジサンプル(2〜8℃にて保存)を参照として使用した。
【0113】
実験の結果を表1(図9)に示す。
【0114】
表1は、実施例4に記載した自動化Elecsys(登録商標)分析器での、SlpA−gG1(26−189)またはSlyD−gG1(26−189)とヒト抗HSV−1陽性または抗HSV−1陰性血清との免疫学的反応性を示す。過酷な60℃での一晩の熱処理の前および後の両種の抗原変異体の性能を示す。実験の結果は、熱ストレスを加えたSlpA−gG1(26−189)が熱ストレスを加えたSlyD−gG1(26−189)よりも二重の意味で優れていることを明確に実証している。第1に、抗HSV−1陽性血清での特異的シグナル回復(表1の上段)は、熱チャレンジしたSlpA融合ポリペプチドの方が顕著に高い。第2に、抗HSV−1陰性血清での非特異的バックグラウンドシグナルの増加(表1の下段)は熱チャレンジされたSlpA融合ポリペプチドの方が顕著に低い。SlyD融合ポリペプチドの熱処理後のバックグラウンドシグナルには著明な増加が観察された(表1の右欄、バックグラウンドシグナルの約100〜900%の増大)。
【0115】
しかし、本発明のSlpA融合ポリペプチドを使用した場合、熱ストレスの後のバックグラウンドシグナルの増加は無視できるほど低く、すなわち1つの事例を除き、バックグラウンドシグナルの増加は20%未満である。その1つの事例(血清サンプルTrina 07/06-533)では、48%というバックグラウンドシグナルの増大が見られた。代わりにSlyD融合ポリペプチドを使用した場合には、当該サンプル(Trina 07/06-533)は800%を超えるバックグラウンドシグナルの増加を示した。このことは、SlpA融合ポリペプチドが、元から若干高いバックグラウンドシグナルを生じる取扱困難なサンプルについても、バックグラウンドシグナルを実質的に低減できることを示す。イムノアッセイの開発では低いバックグラウンドシグナルが非常に望ましい。なぜなら、それにより製造者は低いカットオフ値を設定することができるからである。一般に、感度について言うと、アッセイ性能を向上させるためには、バックグラウンドシグナルを低減させることが必要である。なぜなら、カットオフ値よりも高いシグナルを生じるサンプルは陽性と判断され(すなわち当該サンプルは対象のアナライトを含むと推定される)、カットオフ値を下回るシグナルを生じるサンプルは陰性と判断されるからである。このことから、そもそもなぜ低いカットオフが必要なのかが容易に理解されよう。すなわち、カットオフが低いほど、アナライトを低濃度で含む(それに付随して生じるシグナルも低い)サンプルでも、正しく低い陽性と判断される可能性は高くなる。したがってイムノアッセイの感度は、免疫学的成分から内在的に生じるバックグラウンドシグナルの低減により向上させることができる。したがって、SlpAをフォールディングヘルパーとして使用することは、イムノアッセイの長期的感度を改善し保証することに明確に寄与する。
【0116】
まとめると、SlpAを含む融合ポリペプチドは、融合された標的ポリペプチドの安定性と溶解性の両方を増大させ、特に、通常はネイティブなフォールディングを崩し凝集反応をもたらすような極限的条件(熱ストレスなど)下でそれらを増大させる。簡潔に述べると、SlpAは優秀なフォールディングヘルパーであり、望ましくない条件下でさえもその対象タンパク質の完全性を保護し、該対象タンパク質の活性なコンホメーションへの再フォールディングを促進し、それらを溶解状態に保つ。したがってSlpAとの融合、またはより単純にはSlpAの添加は、診断および他のバイオテクノロジー用途を意図するタンパク質製剤中で標的分子を安定化するための優秀な手段である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
融合タンパク質をコードする組換えDNA分子であって、標的ポリペプチドをコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列と、その上流または下流に、SlpAシャペロンをコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列とを含み、ここで、ヒトFK506結合タンパク質(FKBP)は標的ポリペプチドから除かれる、上記組換えDNA分子。
【請求項2】
機能的に連結された、請求項1に記載の組換えDNA分子を含む発現ベクター。
【請求項3】
請求項2に記載の発現ベクターで形質転換された宿主細胞。
【請求項4】
以下のステップ:
(a)請求項3に記載の宿主細胞を培養するステップ、
(b)前記融合タンパク質を発現させるステップ、
(c)該融合タンパク質を精製するステップ、および
(d)該融合タンパク質を可溶性かつ免疫反応性のコンホメーションに再フォールディングさせるステップ
を含む、融合タンパク質の製造方法。
【請求項5】
SlpAシャペロンに対応する少なくとも1つのポリペプチドと、標的ポリペプチドに対応する少なくとも1つのポリペプチドとを含む、組換え的に製造された融合タンパク質であって、ここで、ヒトFK506結合タンパク質(FKBP)は標的ポリペプチドから除かれる、上記融合タンパク質。
【請求項6】
イムノアッセイでの結合パートナーとしての、請求項5に記載の組換え的に製造された融合タンパク質の使用。
【請求項7】
イムノアッセイでの干渉の低減のための手段としての、請求項5に記載の組換え的に製造された融合タンパク質の使用。
【請求項8】
前記標的ポリペプチドに対する抗体の製造のための免疫原としての、請求項5に記載の組換え的に製造された融合タンパク質の使用。
【請求項9】
ワクチン製造での、請求項5に記載の組換え的に製造された融合タンパク質の使用。
【請求項10】
請求項5に記載の組換え的に製造された融合タンパク質および製薬上許容される賦形剤を含む組成物。
【請求項11】
単離されたサンプル中のアナライトに特異的な抗体の検出方法であって、以下のステップ:
(a)体液サンプルを請求項5に記載の融合タンパク質と混合することにより免疫反応性混合物を形成させるステップ、
(b)該体液サンプル中に存在する該アナライトに対する抗体が該融合タンパク質と免疫反応するのに十分な時間、該免疫反応性混合物を維持して、免疫反応生成物を形成させるステップ、および
(c)該免疫反応生成物のいずれかの存在を検出するステップ
を含む、上記方法。
【請求項12】
単離されたサンプル中のアナライトに対する抗体の検出方法での、請求項5に記載の融合タンパク質の使用。
【請求項13】
請求項5に記載の融合タンパク質を含有する、アナライトに対する抗体の検出のための試薬キット。
【請求項14】
干渉および免疫学的交差反応の低減のための、イムノアッセイでの添加剤としてのSlpAの使用。
【請求項15】
標的タンパク質の溶解性を改善し、凝集を防止するための添加剤としてのSlpAの使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−284902(P2009−284902A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−124803(P2009−124803)
【出願日】平成21年5月25日(2009.5.25)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】