説明

組織代用材料

親水性で、比較的弾性の繊維構造、および重合したヒドロゲルマトリックスから成る、軟骨様組織を代用する繊維強化材料。繊維/マトリックス結合は、ヒドロゲルの重合前に、モノマー溶液中に繊維を浸すことにより強められる。繊維は、好ましくは、ポリウレタンに基づく材料から成る。より特には、この材料は、10〜70%(m/m)の繊維(乾燥物に基づく)を含み、およびイオン化された基を含む1〜5%(m/m)(乾燥物に基づく)の物質を、上記ヒドロゲルに加えた。

【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
本発明は、繊維強化された重合ヒドロゲルを含む組織代用材料に関する。このタイプの組織代用材料は、バイオマテリアルズ(Biomaterials)19(1998)、ページ1745〜1752の「高強度、超薄型の繊維強化されたpHE−MA人工皮膚(High-strength, ultra-thin and fiber-reinforced pHE-MA artificial skin)」、に開示されている。この出版物は、スパンデックス繊維等の繊維により強化されたヒドロゲルから成る皮膚代用材料を開示する。
【0002】
例えば、椎間円板または関節軟骨等の軟骨様組織の置き換えについて、上記した組織代用材料の膨潤挙動は、比較的弱く、および強度と靭性は不十分である。体内に入れた際に、その体に固有なこれら組織の性質は、十分に模擬されない。これは、特に、組織周囲の流体(水/塩)の組成が変化した際に、膨潤できる軟骨様組織の特性に関して当てはまる。従って、環境への最適順応は、提供され得ない。
【0003】
本発明の目的は、これらの性質を有する、すなわち、膨潤する能力を有する組織代用材料を提供することであり、さらに、該材料が、十分な強度を有し、比較的追従性があることが重要である。
【0004】
上記の目的は、上述の組織代用材料について、組織代用材料が、軟骨様の組織を模擬し、10〜70%(m/m)の繊維(乾燥物に基づく)を含み、およびイオン化された基を含む物質1〜5%(m/m)(乾燥物に基づく)を上記ヒドロゲルに加えたことにより達成される。
【0005】
イオン化された基は、ヒドロゲル中に、繊維に予め張力を加えるドナン浸透圧を提供する。この現象は、組織中のコラーゲン繊維に予め張力を与える、関節様組織中のイオン化されたグリコサミノグリカンのドナン浸透圧と類似している。比較的弱い繊維の選択は、ヒドロゲル−繊維界面に沿った力が十分に低いことを確実にする。より強い機械的性質を、従来技術と比較してより多くの繊維を加えることにより得ることができる。しかしながら、ここでは、膨潤性が維持されることが重要であり、これはイオン化された基を含む物質を加えることにより達成される。このような物質の一例は、メタクリル酸ナトリウムである。その直径と形態は、所望される性質に依存して選択される。形態は、例えば、編まれたもの、巻かれたもの、チョップトファイバーまたは不織であり得る。20μmの直径を、例として与える。繊維の長さは、ミリメートル〜キロメートルに渡り得る。
【0006】
このような繊維の例は、ポリウレタンに基づく繊維である。ライクラ(デュポン・ド・ヌムール(Dupont de Nemours))およびスパンデックスが、このような繊維の例である。このような材料は、純粋な水に親水性でないことが見出された。しかしながら、重合によりヒドロゲルマトリックスを形成する1以上のモノマーとの組み合わせにおいて、親水性が得られ、および、特にその弾性挙動との組み合わせにおいて、マトリックスへの特に強い結合が得られる。
【0007】
繊維中へのモノマー溶液の浸透の結果として、繊維の体積が増加する(最大50%まで)。このような繊維の使用の結果として、機械的性質、より特に弾性が、軟骨の性質により密接に近づく程度にまで改善され得る。
【0008】
重合によりヒドロゲルが得られ得るモノマーは、HEMA(メタクリル酸ヒドロキシエチル)および/またはメタクリル酸ナトリウムを含み得る。任意に、互いに組み合わせた、および上記の物質の1つと組み合わせた他のモノマーも、また、可能である。これらモノマーの親水特性は、吸着に基づくか、固定された電荷による親水性カチオンの静電引力に基づくもののいずれかであり得る。
【0009】
このようにして得られる組織代用材料は、軟骨の性質に近づくか、またはこれらよりもより良い性質を有することが見出された。かなりのパーセンテージの予備伸張が可能である一方で、(10MPaの桁の)高い圧縮強度が達成できる。このようにして得られる組織代用材料は、長期の負荷下では圧縮性である。本材料は、短期のピーク負荷下では圧縮性ではない。
【0010】
重合は、化学開始剤、熱的開始、および/または光(UV)の助力による開始の助けにより成され得る。
【0011】
こうして得られる組織代用材料は、その周囲の流体の状態に依存して、より大きい程度に、またはより少ない程度に膨潤することが見出された。例えば、比較的高い塩濃度の溶液中に材料を浸漬することができ、その結果として、この材料は比較的小さい体積を呈する。例えば生体に入れた後、塩濃度は低下し、およびさらなる水が吸収され、その結果として、組織代用材料の体積は増加し、組織代用材料が用いられている部位間に留め(clasping)が提供される。
【0012】
重合したヒドロゲルに比較した繊維の量は、所望する強度に依存して選択される。繊維材料の乾燥重量の約60%の値を、例として述べる。
【0013】
上記した組織代用材料は、1以上の上記のモノマーの水溶液中に、ポリウレタンに基づく繊維を浸漬することにより製造することができる。モノマー溶液は、浸漬中に吸い上げられる。材料の強度および剛性は、繊維を配向させることにより促進され得る。その後、上記した重合を行う。様々な方向において組織代用材料の性質に影響を及ぼすことができるように、浸漬、またはそれぞれ、巻きまたは編み中に、繊維に配向を持たせることができる。
【0014】
予備的な研究により、上記した様式で製造される組織代用材料は、生体適合性であると予測される。
【0015】
図1において、繊維強化されていないヒドロゲル球の圧縮に対する機械的性質、および外側のミリメートルが、60%(m/m)(乾燥物に基づく)の繊維を用いて、本発明に従って強化されたヒドロゲル球の圧縮に対する機械的性質とが比較されている。強化されていないヒドロゲルを図1aに示し、繊維強化されたヒドロゲルを図1bに示す。
【0016】
本発明を、詳細な態様に基づいて上に述べたが、添付した特許請求の範囲の範囲内に収まる明らかな変形が、上記を読了した当業者にとっては明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1a】繊維強化されていないヒドロゲル球の圧縮に対する機械的性質を表すグラフ。
【図1b】60%(m/m)(乾燥物に基づく)の繊維を用いて、本発明に従って強化されたヒドロゲル球の圧縮に対する機械的性質を表すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維強化された、モノマーから重合されたヒドロゲルを含む軟骨様材料代用のための材料であって、これは10〜70%(m/m)の膨潤性の繊維(乾燥物に基づく)を含み、およびイオン化された基を含む物質1〜5%(m/m)(乾燥物に基づく)を上記ヒドロゲルに加えた材料。
【請求項2】
前記ヒドロゲルが、メタクリル酸ヒドロキシエチル(HEMA)に基づくポリマーを含む請求項1に記載の軟骨様材料代用のための材料。
【請求項3】
前記イオン化された基を含む物質が、メタクリル酸を含む請求項1または2に記載の軟骨様材料代用のための材料。
【請求項4】
1〜5%(m/m)のメタクリレートを含む請求項3に記載の軟骨様材料代用のための材料。
【請求項5】
前記繊維が、液体中に浸された繊維を含む請求項1〜4のいずれか一項に記載の軟骨様材料代用のための材料。
【請求項6】
前記繊維が、ポリウレタン材料に基づく繊維を含む請求項1〜5のいずれか一項に記載の軟骨様材料代用のための材料。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の軟骨様材料代用のための材料から成る人工器官。

【図1a】
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【図1b】
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【公表番号】特表2007−530091(P2007−530091A)
【公表日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−520132(P2006−520132)
【出願日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【国際出願番号】PCT/NL2004/000511
【国際公開番号】WO2005/004943
【国際公開日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【出願人】(506016967)
【Fターム(参考)】