組織再生用スキャッフォールド及びその製造方法
【課題】スキャッフォールド上の細胞に、場所特異的かつ高効率に遺伝子を導入することにより、目的とする組織や臓器への細胞分化を効果的に促すことのできる組織再生用スキャッフォールドを提供する。
【解決手段】リン酸カルシウム捕捉層を有する基材の表面に、遺伝子及び界面活性物質を含有するリン酸カルシウム層を備えた組織再生用スキャッフォールドを用いることによって、同スキャッフォールド表面に接着した細胞に対する遺伝子導入の場所特異性、及び導入効率を制御可能とする。
【解決手段】リン酸カルシウム捕捉層を有する基材の表面に、遺伝子及び界面活性物質を含有するリン酸カルシウム層を備えた組織再生用スキャッフォールドを用いることによって、同スキャッフォールド表面に接着した細胞に対する遺伝子導入の場所特異性、及び導入効率を制御可能とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子及び界面活性物質を含有する組織再生用スキャッフォールド、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、細胞を用いて失われた臓器や組織の機能を回復させたり、臓器や組織そのものを再生しようとするティッシュエンジニアリングが注目されている。このティッシュエンジニアリングにおける一般的なストラテジーは、細胞の進入に適した細孔径を有するスキャッフォールドの上に播種した幹細胞や未分化な細胞を、生体内または生体外の適当な環境下で培養することによって目的とする細胞への分化を促し、組織の治療や再生を行うことである。
【0003】
細胞の分化を制御するための効果的な手法の一つに、遺伝子導入が挙げられる。遺伝子を内包して細胞内に届けるキャリアー(遺伝子導入剤)としては、ウィルスや、リン酸カルシウム、脂質、カチオニックな高分子等が用いられてきた。しかし、従来の遺伝子導入剤はいずれも粒子状であり(特許文献1)、細胞の上から振り掛けて使用される。従って、三次元多孔体のように複雑な形状を有するスキャッフォールドの全表面において均等に遺伝子導入を行うことや、スキャッフォールド上の目的とする領域に接着した細胞にのみ場所特異的な遺伝子導入を行うことは困難であった。
【0004】
2000年頃から、粒子状の遺伝子導入剤を用いずに、人工材料の表面に遺伝子を担持させ、同材料表面の細胞に遺伝子を導入しようとする研究が行なわれている。例えばShenらは、人工材料の表面に、生体適合性と安全性に優れるアパタイトと遺伝子の複合層を形成させ、同表面において安全に遺伝子導入を行えることを示した(非特許文献1)。
【0005】
上記のように、人工材料の表面に遺伝子を担持させる手法によれば、粒子状の導入剤を用いる手法とは異なり、三次元多孔体のように複雑な形状を有するスキャッフォールドであっても、その表面全体で均等に遺伝子導入を行うことが可能である。また、遺伝子を担持させた材料表面に接着した細胞に選択的に遺伝子が導入されるので、場所特異的な遺伝子導入を行うことも可能である。しかし、従来のShenらの手法では、細胞への遺伝子導入効率はあまり高くなかった。
【0006】
近年Onoらは、脂質と遺伝子の複合体をアパタイト多孔体の表面に吸着担持させ、同表面において遺伝子導入を行えることを示した(非特許文献2)。またShenらは、人工材料の表面にアパタイトと遺伝子と脂質の複合層を形成させ、同表面において、従来法(非特許文献1)よりも高効率に遺伝子導入を行えることを示した(非特許文献3)。しかしこれらの手法でも、細胞への遺伝子導入効率は、ティッシュエンジニアリングを行うのに十分高いとは言えない。また、Shenらの手法では、上記の複合層を人工材料基材の表面全面に均等に形成させることや、基材上に強固に固定させることが困難であるので、組織再生用スキャッフォールドとしての応用には問題がある。
【0007】
一方、特許文献2では、細長い骨粒子を、アパタイトなどの結合剤/充填剤、遺伝子などの生体活性物質、及び/または界面活性剤と混合することにより骨インプラントを作製する技術について報告されている。しかし、このようにただ混合するだけの複合化手法では、形成される複合材料の強度や形状が限定されてしまう。また、界面活性剤を、遺伝子の導入効率向上機能を発揮できるようなベシクル状態で複合化することは困難である。
【0008】
他方、本発明者らは、人工材料の表面にアパタイトと遺伝子と細胞接着因子の複合層を形成させ、同表面において、従来法(非特許文献1)よりも高効率に遺伝子導入を行えることを示した(特許文献3)。しかも、本発明者らの手法では、表面にリン酸カルシウム捕捉層を設けた人工材料を基材として用いることにより、複合層の形成能や均一性、基材との密着性・固定性を高めている。さらに、本発明者らは、上記の複合層に溶解性制御因子を担持させることにより、同表面における遺伝子導入の効率と時期をコントロールできることも提案している(特許文献4)。しかしこれらの手法でも、細胞への遺伝子導入効率は、ティッシュエンジニアリングを行うのに十分高いとは言えない。
【0009】
従って、目的の場所の細胞に対し、高効率に遺伝子導入を行うことのできる組織再生用スキャッフォールド等の医療用材料及び歯科用材料、及びその製造方法の開発が強く望まれているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002−348234号公報
【特許文献2】特表2007−503292号公報
【特許文献3】特表2008−049146号公報
【特許文献4】特願2009−001424号
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Surface-mediated gene transfer from nanocomposites of controlled texture. by Shen H, Tan J, Saltzman WM, Nature Mater. 3:569, 2004.
【非特許文献2】Combination of porous hydroxyapatite and cationic liposomes as a vector for BMP-2 gene therapy. by Ono I, Yamashita T, Jin HY, Ito Y, Hamada H, Akasaka Y, Nakasu M, Ogawa T, Jimbow K, Biomaterials 25:4709, 2004.
【非特許文献3】Enabling customizationEnabling customization of non-viral gene delivery systems for individual cell types by surface-induced mineralization. by Sun BB, Tran KK, Shen H, Biomaterials 30:6386, 2009.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、前述の従来技術における問題点を鑑みてなされたものであって、その第1の目的は、スキャッフォールド上の細胞に、場所特異的かつ高効率に遺伝子を導入することによって、目的とする組織や臓器への細胞分化を安全かつ効果的に促すことのできる組織再生用スキャッフォールド等を提供することにある。また、本発明の第2の目的は、該組織再生用スキャッフォールドを効率的に製造し得る方法を提供することにある。さらに本発明の第3の目的は、上記複合体を素材とする、組織再生用スキャッフォールド等の医療用材料及び歯科用材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、リン酸カルシウム捕捉層を有する基材の表面に、遺伝子と界面活性物質を含むアパタイト層を形成させた組織再生用スキャッフォールドを用いることによって、スキャッフォールド上の目的とする領域に接着した細胞に(場所特異的に)、従来法よりも効率的に遺伝子を導入できるという知見を得た。
【0014】
本発明はこれらの知見に基づいて完成に至ったものであり、本発明によれば、以下の発明が提供される。
[1]リン酸カルシウム捕捉層を有する基材の表面に、遺伝子と界面活性物質を含むリン酸カルシウム層を備え、該基材が遺伝子と界面活性物質を含まないことを特徴とする組織再生用スキャッフォールド。
[2]前記界面活性物質が、ベシクル安定型界面活性物質であることを特徴とする上記[1]の組織再生用スキャッフォールド。
[3]前記界面活性物質が、ポリアミドアミンデンドロンまたはデンドリマーを含む界面活性物質であることを特徴とする上記[1]又は[2]の組織再生用スキャッフォールド。
[4]前記界面活性物質が、(CH3(CH2)17)2NCH2CH2CONHCH2CH2N(CH2CH2CONHCH2CH2NH2)2、または(CH3(CH2)7CH=CH(CH2)8)2NCH2CH2CONHCH2CH2N(CH2CH2CONHCH2CH2NH2)2であることを特徴とする上記[1]〜[3]のいずれかの組織再生用スキャッフォールド。
[5]前記リン酸カルシウムがアパタイトを含むことを特徴とする上記[1]〜[4]のいずれかの組織再生用スキャッフォールド。
[6]前記遺伝子がプラスミド単体に保持された遺伝子であることを特徴とする上記[1]〜[5]のいずれかの組織再生用スキャッフォールド。
[7]上記[1]〜[6]のいずれかの組織再生用スキャッフォールドの表面に、培養された細胞を備えることを特徴とする組織再生体。
[8]表面にリン酸カルシウム捕捉層を有する基材を、遺伝子と界面活性物質を添加したリン酸カルシウム過飽和溶液に浸漬して遺伝子と界面活性物質を含むリン酸カルシウム層を基材表面に形成させる工程を備えることを特徴とする組織再生用スキャッフォールドの製造方法。
【発明の効果】
【0015】
ある種の界面活性物質は、水溶液中でベシクルを形成して遺伝子と結合し、遺伝子の細胞膜の通過、及び/または、エンドソームからの脱出を促すことにより、細胞への遺伝子導入効率を向上させる機能を有している。本発明の組織再生用スキャッフォールド表面においては、遺伝子及び界面活性物質を含むリン酸カルシウム層が、リン酸カルシウム捕捉層を介してスキャッフォールド基材の表面全面に均一に形成され、しかも同層が基材上に強固に固定されている。この遺伝子及び界面活性物質を含むリン酸カルシウム層は、生体内及び培養液中で部分的に溶解し、遺伝子及び界面活性物質を徐放する。徐放された遺伝子は、界面活性物質の働きによって、スキャッフォールド表面に接着した細胞内に高効率に導入される。また、リン酸カルシウム層中に担持させる界面活性物質の種類、量、濃度、遺伝子との比率等を変化させることによって、細胞への遺伝子導入効率や、遺伝子導入の場所特異性を調節することができる。
【0016】
界面活性物質よりなるベシクルは一般に、溶媒中の共存イオンやタンパク質、pH等の影響を受けやすく、形態安定性が低い。このため、タンパク質を含む血清入り培養液や体液中においては遺伝子導入効率向上機能が損なわれ易い。本発明に係る遺伝子及び界面活性物質を含むリン酸カルシウム層では、界面活性物質としてベシクル安定型界面活性物質を用いることにより、スキャッフォールドの製造過程(遺伝子及び界面活性物質を含むリン酸カルシウム層の形成過程)を経ても、界面活性物質の遺伝子導入効率向上機能が保持され、さらには、血清存在下での細胞への遺伝子導入過程においても、上記の遺伝子導入効率向上機能が十分に発揮される。従って、本発明に係る組織再生用スキャッフォールドは、細胞の分化を効果的に誘導することのできる遺伝子治療用材料、細胞培養用基材等の医療用材料及び歯科用材料として好適に使用することができる。また、本発明の製造法では、上記組織再生用スキャッフォールドを効率よく容易に得ることができる。
【0017】
本発明の組織再生用スキャッフォールドに用いられているアパタイト等のリン酸カルシウムはヒトの硬組織の主要無機成分であり、生体適合性と安全性に優れている。また、遺伝子及び界面活性物質を含むリン酸カルシウム層が遺伝子及び界面活性物質を徐放する際に部分的に溶解して生じるカルシウム及びリン酸イオンは、ヒトの体液にもともと含まれている成分である。一方、遺伝子導入効率を高めるために用いられている界面活性物質は、ウィルス系の遺伝子導入剤に比べて低毒性である。しかも、本発明の組織再生用スキャッフォールド表面においては、リン酸カルシウム層中に担持・固定化された界面活性物質が徐放することによって、スキャッフォールド表面に接着した細胞に場所特異的に作用する。従って、スキャッフォールド周辺の細胞が被爆する界面活性物質の量は極低レベルにとどまり、毒性の懸念は低い。
【0018】
本発明の組織再生用スキャッフォールド表面に形成させる、遺伝子及び界面活性物質を含むリン酸カルシウム層には、さらに細胞接着因子や溶解性制御因子を複合担持させることもできる。担持させる細胞接着因子の種類、量、及び濃度を変化させることによって、スキャッフォールド表面に接着する細胞の種類や数を変えたり、細胞とスキャッフォールドの親和性の特異性や強さを調節することができる。さらには、細胞への遺伝子導入効率を調節することや、遺伝子導入の場所特異性を調節することもできる。一方、担持させる溶解性制御因子の種類、量、及び濃度を変化させることによって、細胞への遺伝子導入の時期及び効率を調節することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例1で得られたLp溶液中のDNA−LpコンプレックスのSEM写真(a)、及び粒径分布(b)を示す図。
【図2】実施例1で得られた試料DLp1表面のSEM写真であり、(a)は、低倍率のものであり、(b)は、高倍率のものである。
【図3】実施例1で得られた試料DLp1表面のXPSスペクトルを示す図。
【図4】実施例1で得られた試料DLp1表面のTF−XRDパターンを示す図。
【図5】実施例1で得られた試料表面に担持されたDNA−Lpコンプレックスの量を示す図。
【図6】実施例1で得られた試料、及び同一ウェル内のPSPの表面で培養されたCHO−K1細胞のルシフェラーゼ活性を示す図。
【図7】比較例1で得られた試料D、及び実施例1で得られた試料DLp1の表面で培養されたCHO−K1細胞のルシフェラーゼ活性を示す図。
【図8】比較例2で得られた試料DF、及び実施例1で得られた試料DLp1の表面で培養されたCHO−K1細胞のルシフェラーゼ活性を示す図。
【図9】比較例3で得られた試料DLp1−ad、及び実施例1で得られた試料DLp1の表面に担持されたDNA−Lpの量を示す図。
【図10】比較例3で得られた試料DLp1−ad、及び実施例1で得られた試料DLp1からのDNA−Lpコンプレックスの溶出挙動を示す図であり、(a)は溶出量、(b)は試料表面の担持量に対する溶出率を示す。
【図11】比較例3で得られた試料DLp1−ad、及び実施例1で得られた試料DLp1からのカルシウムの溶出挙動(試料表面の担持量に対する溶出率)を示す図。
【図12】比較例3で得られた試料DLp1−ad、及び実施例1で得られた試料DLp1の、溶出試験後(72時間浸漬後)の表面のC1sXPSスペクトルを示す図。
【図13】比較例3及び実施例1で得られた試料の表面で培養されたCHO−K1細胞のルシフェラーゼ活性を示す図。
【図14】実施例2で得られた試料、及び同一ウェル内のPSPの表面で培養されたCHO−K1細胞のルシフェラーゼ活性を示す図。
【図15】実施例3で得られた試料(DLp0.1−L、DLp0.5−L、DLp1−L、DLp2−L)の表面に担持されたDNA−Lpコンプレックスの量を示す図。
【図16】実施例3で得られた試料(DLp1−H、DLp5−H、DLp10−H、DLp20−H)の表面に担持されたDNA−Lpコンプレックスの量を示す図。
【図17】実施例3で得られた試料(DLp0.1−L、DLp0.5−L、DLp1−L、DLp2−L)表面で培養されたCHO−K1細胞、及び同一ウェル内のPSPの表面で培養されたCHO−K1細胞のルシフェラーゼ活性を示す図。
【図18】実施例3で得られた試料(DLp1−H、DLp5−H、DLp10−H、DLp20−H)表面で培養されたCHO−K1細胞、及び同一ウェル内のPSPの表面で培養されたCHO−K1細胞のルシフェラーゼ活性を示す図。
【図19】実施例4で得られたDNA−界面活性物質コンプレックスのSEM写真であり、それぞれ、(a)は、lipofectamine(調製直後)、(b)は、lipofectamine(4℃、7日後)、(c)は、Lp(調製直後)、(d)は、Lp(4℃、7日後)、(e)は、Lp(25℃、7日後)、(f)は、Lp(37℃、7日後)、のSEM写真である。
【図20】実施例4で得られたDNA−界面活性物質コンプレックス溶液を種々の期間静置後、CHO−K1細胞へ遺伝子導入を行った際のルシフェラーゼ活性を示す図。
【図21】実施例4で得られた試料(DLf0.1、DLf0.5、DLf1)の表面で培養されたCHO−K1細胞、及び同一ウェル内のPSPの表面で培養されたCHO−K1細胞のルシフェラーゼ活性を示す図。
【図22】実施例4で得られた試料(DDp0.1、DDp0.5、DDp1)の表面で培養されたCHO−K1細胞、及び同一ウェル内のPSPの表面で培養されたCHO−K1細胞のルシフェラーゼ活性を示す図。
【図23】実施例5で得られた試料表面に担持されたラミニンの量を示す図。
【図24】実施例5で得られた試料表面で培養されたCHO−K1細胞、及び同一ウェル内のPSPの表面で培養されたCHO−K1細胞のルシフェラーゼ活性を示す図。
【図25】実施例5で得られた試料表面で培養されたCHO−K1細胞と、同一ウェル内のPSPの表面で培養されたCHO−K1細胞のルシフェラーゼ活性の比を示す図。
【図26】未処理ポリスチレン基板、及び実施例6で得られた試料表面のSEM写真であり、それぞれ、(a)は、未処理ポリスチレン基板、(b)は、DLp1−CP25、(c)は、DLp1−CP37、(d)は、DLp1−RKB25(低倍率)、(e)は、DLp1−RKB25(高倍率)、のSEM写真である。
【図27】比較例4で得られた試料表面のSEM写真であり、それぞれ、(a)は、DLp1−CP25(ACP−)、(b)は、DLp1−CP37(ACP−)(低倍率)、(c)は、DLp1−CP37(ACP−)(高倍率)、(d)は、DLp1−RKB25(ACP−)(低倍率)、(e)は、DLp1−RKB25(ACP−)(高倍率)、のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の組織再生用スキャッフォールドは、リン酸カルシウム捕捉層を有する基材の表面に、遺伝子と界面活性物質を含むリン酸カルシウム層を備え、該基材が遺伝子と界面活性物質を含まないことを特徴としている。これによって、スキャッフォールド表面に接着した細胞に、場所特異的かつ高効率に遺伝子を導入することができる。また、本発明の上記組織再生用スキャッフォールドの製造方法は、表面にリン酸カルシウム捕捉層を有する基材と、遺伝子及び界面活性物質を含むリン酸カルシウム過飽和溶液とを接触させる工程を含むことを特徴としている。
【0021】
本発明では、少なくともその表面が親水性である基材を用いる必要がある。基材表面が親水性でないと、基材表面と処理溶液との接触が不十分となり、基材の表面全面にリン酸カルシウム捕捉層が導入されず、遺伝子及び界面活性物質を含むリン酸カルシウム層を均一に形成させることが困難となるからである。また、親水性でない基材表面に、遺伝子及び界面活性物質を含むリン酸カルシウム層を形成させたとしても、基材との接着強度が不十分となるからである。なお、基材には遺伝子と界面活性物質のいずれも含まれていない。
ここで、少なくともその表面が親水性を有する基材とは、基材自体が親水性を有するものはもちろんのこと、基材自体は親水性を有するものではないが、親水化処理(粗面化処理を含む)によって、表面が親水性となるもの、水溶液中で徐々に親水性に変化するものも包含される。
親水化処理としては、それ自体公知のものがいずれも適用でき、プラズマ処理、レーザー処理、グロー放電処理、コロナ放電処理、アルカリ溶液処理、酸溶液処理、酸化剤処理、親水性官能基のグラフト処理、シランカップリング処理、陽極酸化処理、粗面化処理、等を採ればよい。
【0022】
上記条件を満たすものであれば、基材は特に限定されず、無機、有機いずれの材料も使用できるし、それらの複合体であっても良い。無機基材としては、金属、セラミックス、無機高分子等が、有機基材としては、有機高分子、低分子有機化合物、超分子等が使用される。
【0023】
具体的には、金属としては、例えば、チタン、タンタル、ニオブ、コバルト、クロム、モリブデン、プラチナ、アルミニウム、またはこれらの2種以上の金属の合金、ステンレス、真ちゅう等が、セラミックスとしては、例えば、焼結リン酸三カルシウム、リン酸カルシウム硬化体、焼結アパタイト、シリカ、チタニア、アルミナ、ジルコニア、部分安定化ジルコニア、コージェライト、ゼオライト、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化ホウ素、炭化チタン、ダイアモンド、シリカガラス、ソーダ石灰ガラス、ケイ酸塩ガラス、鉛ガラス、ホウケイ酸塩ガラス、アルミノケイ酸塩ガラス、リン酸塩ガラス、カルコゲンガラス、ハンダガラス、コパール用ガラス、Pyrexガラス、これらの結晶化ガラス等が、無機高分子としてはシリコーンポリマー等のケイ素含有ポリマー等が、有機高分子としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリアルキレングリコール、ポリエーテル、ポリエーテルエーテルケトン等の酸素含有高分子、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリスルフォン、ポリアミン、ポリウレア、ポリイミド、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル等の合成高分子、こられの共重合体、セルロース、アミロース、アミロペクチン、キチン、キトサン等の多糖類、コラーゲン等のポリペプチド、ヒアルロン酸、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸等のムコ多糖類等の天然高分子が好ましく挙げられる。
【0024】
また、本発明で用いる上記基材の形状は限定されない。例えば、ブロック状、平板状、フィルム状、膜状、棒状、筒状、メッシュ状、繊維状、多孔体状、粒子状、スポンジ状、織物状、編み物状等が好ましく挙げられる。
【0025】
リン酸カルシウム捕捉層とは、リン酸カルシウム過飽和水溶液中においてリン酸カルシウムの形成を促し、該リン酸カルシウムを基材表面に堅固に固定化できる層を意味する。リン酸カルシウム捕捉層には遺伝子も界面活性物質も含まれない。表面にリン酸カルシウム補足層の設けられていない基材を用いると、リン酸カルシウム過飽和水溶液中においてリン酸カルシウムの形成に長期間を要し、基材の表面にリン酸カルシウムが全く形成されない、あるいは、基材の表面の一部にしかリン酸カルシウムが形成されない。また、表面にリン酸カルシウム補足層の設けられていない基材表面に、遺伝子及び界面活性物質を含むリン酸カルシウム層を形成させたとしても、基材との接着強度が不十分となる。
リン酸カルシウム捕捉層を構成する物質としては、Si−OH基、Ti−OH基、カルボキシル基、リン酸基、硫酸基、水酸基等の官能基(これらの官能基やその前駆体を含有するシランカップリング剤やグラフト鎖、金属酸化物ゲル等も包含される)や、それらの官能基にアルカリ金属またはアルカリ土類金属イオンを結合させたものや、炭酸カルシウム、アパタイト、アパタイトの前躯体であるリン酸カルシウム等、少なくともリン、及び/又は、カルシウムを含む化合物が有効である。
この中でも、リン酸カルシウムの形成を誘起する速度の観点から、アパタイト、及び、アモルファスリン酸カルシウム等のアパタイトの前躯体が好ましく使用される。
【0026】
リン酸カルシウム捕捉層は、基材の少なくとも表面に設けられていればよい。必ずしも第1層、第2層、という多重層構造をとる必要はなく、基材の表面及び内部の全体に渡ってリン酸カルシウム捕捉層が存在していてもよい。リン酸カルシウム捕捉層は、化学処理等によって種々の基材の表面に設けても良いし、焼結リン酸三カルシウム、焼結ハイドロキシアパタイト、リン酸カルシウム硬化体等のリン酸カルシウムを含有する基材のように、初めからリン酸カルシウム捕捉層を少なくとも表面に有する基材を用いても良い。
【0027】
本発明に係る遺伝子及び界面活性物質を含有するリン酸カルシウム層とは、リン酸カルシウムマトリックス層の内部及び表面に遺伝子及び界面活性物質が存在する層と定義される。この遺伝子及び界面活性物質を含有するリン酸カルシウム層においては、リン酸カルシウム層の外表面のみに遺伝子及び界面活性物質を吸着させた場合とは異なり、リン酸カルシウムマトリックス層の内部にまで遺伝子及び界面活性物質が担持されている。これによって、多量の遺伝子及び界面活性物質がリン酸カルシウムマトリックス層中に安定に担持、固定化される。このため、遺伝子及び界面活性物質を含有するリン酸カルシウム層が培養液や生理食塩水等の水溶液中に浸漬されると、同層の表面から、遺伝子及び界面活性物質が長期間に渡って徐放される。以上のような効果により、遺伝子及び界面活性物質を含有するリン酸カルシウム層に接着した細胞に高効率に遺伝子が導入される。
【0028】
本発明で用いるリン酸カルシウムとしては、ハイドロキシアパタイト、オキシアパタイト、ピロリン酸アパタイト、ハイドロキシアパタイトの構成イオンの一部が炭酸イオン、塩化物イオン、フッ化物イオン、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン等で置換された化合物、アモルファスリン酸カルシウム、リン酸三カルシウム、リン酸四カルシウム、リン酸八カルシウム、二リン酸カルシウム、メタリン酸カルシウム、二リン酸二水素カルシウム、ホスフィン酸カルシウム、リン酸水素カルシウム二水和物、リン酸二水素カルシウム一水和物、ホスホン酸カルシウム一水和物、ビス(リン酸二水素)カルシウム一水和物、これらの無水物、これらの混合物や、これらの中間物質等からなるリン酸カルシウム系化合物を挙げることができる。また、リン酸三カルシウムは、マグネシウム、亜鉛等6配位イオン半径が0.5オングストローム以上0.8オングストローム以下の2価金属イオンを含有して水溶液から沈殿するリン酸三カルシウムを含む。特に、生体組織との親和性、体内環境における安定性から、ハイドロキシアパタイト、及び、その構成イオンの一部が炭酸イオン、塩化物イオン、フッ化物イオン、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン等で置換された化合物を好ましく挙げることができる。
【0029】
界面活性物質とは、分子内に親水基と疎水基(親油基)の両者を有する物質を指す。本発明で用いる界面活性物質は、水溶液中でベシクルを形成して遺伝子と結合し、遺伝子の細胞膜の通過、及び/または、エンドソームからの脱出を促すことにより、細胞内に遺伝子が導入される効率(遺伝子導入効率)を向上させる機能を有している。
【0030】
ベシクルとは、水溶液中において、界面活性物質の分子集合体を外殻とし、内部に水相を封じた球状膜構造体を指す。本発明で用いる界面活性物質が水溶液中で形成するベシクルの大きさは限定されない。直径数十nmの小さなベシクルでも、直径数百nmの大きなベシクルでも、直径数μm以上の巨大ベシクルでも良い。また、上記のベシクルの構造は限定されない。外殻が1枚膜からなるベシクルでも、大きな1枚膜からなるベシクルでも、二重あるいは多重の膜からなるベシクルでも良いし、入れ子構造をとるベシクルでも良い。また、ベシクルの外殻を形成する膜は、界面活性物質の二分子膜でも単分子膜でも良い。
【0031】
本発明の組織再生用スキャッフォールドでは、遺伝子及び界面活性物質を含むリン酸カルシウム層が基材の表面に形成されている。この遺伝子及び界面活性物質を含むリン酸カルシウム層は、生体内及び培養液中で部分的に溶解し、遺伝子及び界面活性物質を徐放する。徐放された遺伝子は、界面活性物質の働きによって、スキャッフォールド表面に接着した細胞内に高効率に導入される。
【0032】
本発明に係る遺伝子及び界面活性物質を含有するリン酸カルシウム層中に担持させる界面活性物質の種類、量、濃度、遺伝子との比率を変化させることによって、同層に接着した細胞への遺伝子導入効率や、遺伝子導入の場所特異性を調節することができる。
【0033】
本発明で用いる界面活性物質は、遺伝子導入効率向上機能を有するものであれば、その種類は限定されない。例えば、硫酸エステル(塩)、スルホン酸(塩)、アルキルベンゼンスルホン酸(塩)、リン酸(塩)、カルボン酸(塩)等の陰イオン界面活性物質や、アンモニウム塩等の陽イオン界面活性物質や、ポリオキシエチレンエーテル、グルコシド、アミンオキシド等の非イオン界面活性物質や、N−ベタイン、C−ベタイン等の両イオン界面活性物質を挙げることができる。
【0034】
本発明で用いる界面活性物質は、1本の分子鎖からなっていても2本以上の分子鎖からなっていても良いが、ベシクルの形成性、安定性の点から、炭素数12〜22の2本のアルキル鎖(ペルフルオロアルキル鎖を含む)を疎水基として含む、ジアルキル型界面活性物質であることが好ましい。ジアルキル型界面活性物質を用いると、アルキル鎖間の強い分子間力のために、二分子膜を外殻とする安定なベシクルを容易に形成させることができる。
【0035】
上記のジアルキル型界面活性物質としては、合成のジアルキル型界面活性物質はもちろんのこと、リン脂質、糖脂質、グリセド脂質、セラミド脂質等の両親媒性脂質やこれらを含む化合物を用いても良い。
【0036】
一般に、界面活性物質の集合により形成されるベシクルは溶媒中の共存イオンやタンパク質、pH等の影響を受けやすく、特にタンパク質を含む血清入り培養液や体液中においては形態安定性が低いことが知られている。このため、ベシクル安定型でない一般の界面活性物質を血清入り培養液中で遺伝子導入剤として使用(リン酸カルシウム層に担持させずに粒子状導入剤を細胞に振りかけて使用)すると、血清無し培養液中で使用する場合に比べて細胞への遺伝子導入効率は低くなる。一方ベシクル安定型界面活性物質は、血清入り培養液中においても血清無し培養液中とほぼ同等の遺伝子導入効率を発揮することができる。しかもその遺伝子導入効率は、界面活性物質を水溶液中で長期間保存した後においても低下しない。
【0037】
従って、本発明で用いる界面活性物質としては、遺伝子導入効率向上機能の点から、界面活性物質の中でもベシクル安定型界面活性物質が特に好適に用いられる。ベシクル安定型界面活性物質とは、水溶液中においてベシクルを形成し、37℃以下で24時間以上その構造を安定に保持することのできる界面活性物質を指す。界面活性物質としてベシクル安定型界面活性物質を用いると、スキャッフォールドの製造工程(遺伝子及び界面活性物質を含有するリン酸カルシウム層の形成工程)を経ても、界面活性物質の遺伝子導入効率向上機能が十分に保持される。さらには、血清入り培養液や体液中においても、スキャッフォールド上に接着した細胞への遺伝子導入効率向上機能が十分に発揮される。
【0038】
ベシクル安定型界面活性物質としては、ベシクルの安定性ならびに遺伝子導入効率向上機能の点から、ポリアミドアミンデンドロン又はデンドリマーを含む界面活性物質が特に好適に用いられる。
【0039】
上記のポリアミドアミンデンドロン又はデンドリマーを含む界面活性物質は限定されないが、例えば、下記式のいずれかで表される化合物や、下記式の1つ以上の末端のアミノ基が、低級アシル基、リン脂質極性基、ガラクトース、ポリエチレングリコール等で置換または修飾された化合物を好ましく挙げることができる。
R1R2NX(XH2)2
R1R2NX(X(XH2)2)2
R1R2NX(X(X(XH2)2)2)2
R1R2NX(X(X(X(XH2)2)2)2)2
R1R2NX(X(X(X(X(XH2)2)2)2)2)2
R1R2NX(X(X(X(X(X(XH2)2)2)2)2)2)2
R1R2NX(X(X(X(X(X(X(XH2)2)2)2)2)2)2)2
R1R2NX(X(X(X(X(X(X(X(XH2)2)2)2)2)2)2)2)2
(R1、R2:同一または異なるアルキル基、アルコキシ基、アリール基またはアラルキル基。X : CH2CH2CONHCH2CH2N)
【0040】
上記のポリアミドアミンデンドロン又はデンドリマーを含む界面活性物質の中でも、第一世代ポリアミドアミンデンドロン又はデンドリマーを含む界面活性物質[R1R2NCH2CH2CONHCH2CH2N(CH2CH2CONHCH2CH2NH2)2]、さらに好ましくは[CH3(CH2)17]2NCH2CH2CONHCH2CH2N(CH2CH2CONHCH2CH2NH2)2あるいは[CH3(CH2)7CH=CH(CH2)8]2NCH2CH2CONHCH2CH2N(CH2CH2CONHCH2CH2NH2)2は、高いベシクル安定性、及び遺伝子導入効率向上機能を示すことから、本発明で用いる界面活性物質として、特に好適に用いられる。
【0041】
ポリアミドアミンデンドロン又はデンドリマーを含む界面活性物質の遺伝子導入効率向上機能は以下の様に説明される。ポリアミドアミンデンドロン又はデンドリマーを含む界面活性物質は細胞膜あるいはエンドソームの膜との膜融合機能を有しており、細胞内への遺伝子の取り込みを促進する。エンドサイトーシスによって細胞内に取り込まれた遺伝子を発現させるためには、エンドソームから遺伝子を脱出させる必要がある。エンドソーム内部のpHは、エンドソーム表面に存在するプロトンポンプの働きでエンドソーム内にプロトンが流入することによって低下する。しかし、ポリアミドアミンデンドロン又はデンドリマー中の3級アミンがプロトンを吸収する(プロトンスポンジ効果)ため、pHの低下が緩やかになる。このため、更に多くのプロトンがエンドソーム内に流入する。この時、電荷のバランスを取るためにプロトンだけでなくアニオンもエンドソーム内に流入する。こうして生じるエンドソーム内外の浸透圧の差を解消するために水がエンドソーム内に流入し、その結果エンドソームが破裂する。以上のような機構で、ポリアミドアミンデンドロン又はデンドリマーを含む界面活性物質はエンドソームからの遺伝子の脱出を促進する。すなわち、ポリアミドアミンデンドロン又はデンドリマーを含む界面活性物質は、遺伝子の細胞内への取り込みとエンドソームからの脱出を促進することによって、細胞への遺伝子導入高率を向上させる。
【0042】
本発明に係る遺伝子及び界面活性物質を含有するリン酸カルシウム層中に担持させる界面活性物質及び遺伝子の量は限定されないが、遺伝子導入効率向上機能の点から、厚さ数μm、面積1cm 2のリン酸カルシウム層に対し、界面活性物質の量で0.59〜 18.9μg、好ましくは1.29〜18.9μg、さらに好ましくは3.31〜7.33μg、遺伝子の量で0.21〜6.78μg、好ましくは0.46〜6.78μg、さらに好ましくは1.19〜2.63μg、界面活性物質及び遺伝子の総量で0.80〜25.7μg、好ましくは1.75〜25.7μg、さらに好ましくは4.50〜9.96μgとすれば良い。
【0043】
本発明に係る遺伝子及び界面活性物質を含有するリン酸カルシウム層中に担持させる遺伝子及び界面活性物質の比率は限定されないが、遺伝子導入効率向上機能の点から、遺伝子:界面活性物質の質量比で、1:0.7〜1:45、好ましくは1:1.4〜1:33.8、さらに好ましくは1:2.8〜1:22.5とすれば良い。
【0044】
本発明に係る遺伝子及び界面活性物質を含むリン酸カルシウム層には、さらに細胞接着因子が含まれていても良い。担持させる細胞接着因子の種類、量、及び濃度を変化させることによって、スキャッフォールド表面に接着する細胞の種類や数を変えたり、細胞とスキャッフォールドの親和性の特異性や強さを調節することができる。さらには、細胞への遺伝子導入効率を調節することや、遺伝子導入の場所特異性を調節することもできる。細胞接着因子としては、ある細胞に対して接着性を有するタンパク質、ペプチド鎖、糖鎖、細胞表面分子への抗体、酵素、合成分子、及びそれらを含む物質を挙げることができる。細胞接着性を有するタンパク質の例としては、インテグリンスーパーファミリー、コラーゲンファミリー、ラミニンファミリー、エピリグリン、VCAM (vascular cell adhesion)、フィブロネクチン、MAdCAM (mucosal addression cell adhesion molecule)、テナイシンファミリー、ビトロネクチン、ICAM (intercellular adhesion molecule)、NCAM (neural cell adhesion molecule)、フィブリノーゲン、第X因子、フォンビルブランド因子、カドヘリンスーパーファミリー、カテニン、トロンボスポンジン、セレクチンファミリー、プロテオグリカンファミリー(シンデカン、アグリカン、デコリン、ビグリカン、ニューロカン、オスファカン等)、アネキシン、ロイシンリッチリピートスーパーファミリー、免疫グロブリンスーパーファミリー(免疫グロブリン、主要組織適合抗原複合体、T細胞受容体複合体、細胞増殖因子受容体、マクロファージコロニー刺激因子受容体、CD2、CD4、CD8、ICAM、VCAM、Thy1、OX2、L1、MAG(myelin associated glycoprotein)、コンタクチン等)、オステオポンチン、VAP−1、バーシカン、APCタンパク質、レクチン等を挙げることができるが、これらに限定されない。細胞接着性を有するペプチド鎖の例としては、YIGSR、IKVAV、RGD、RGDS、GRGDS、RGDSPA、RVDSPA、GRGDSP、LDV、REDV、DEGA、EILDV、GPRP、KQAGDV、RNIAEIIKDI、KHIFSDDSSE、VPGIG、FHRRIKA、KRSR、NSPVNSKIPKACCVPTELSAI、APGL、VRN、AAAAAAAAA、NRWHSIYITRFG、TWYKIAFQRNRK、RKRLQVQLSIRT等の配列を含有するペプチド鎖を挙げることができるが、これらに限定されない。細胞接着性を有する糖鎖の例としては、マンノース含有糖鎖、α−グルコシル化N型糖鎖、シアル酸含有糖鎖、HNK−1抗体、シアリルLewisx、N型糖鎖、三及び四本鎖複合型糖鎖、ヘパリン、ヘパラン硫酸、アシアロ二本鎖糖鎖、GPIアンカー糖鎖、糖脂質GM4、シアリルTn抗原等を挙げることができるが、これらに限定されない。細胞接着性を有する酵素の例としてはリゾチーム等を挙げることができるが、これに限定されない。細胞接着性を有する合成分子の例としては、ポリ−L−リジン、ポリカチオニックフェリチン、ポリビニルラクトンアミド等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0045】
本発明に係る遺伝子及び界面活性物質を含むリン酸カルシウム層には、さらに溶解性制御因子が含まれていても良い。溶解性制御因子は、リン酸カルシウム層と複合化して、その溶解性を変化させることのできる物質を指す。これによって、リン酸カルシウム層から放出された遺伝子が細胞内に導入される時期、及び遺伝子導入効率を調節することができる。溶解性制御因子としては、それ自体公知のものが何れも適用でき、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、亜鉛、マグネシウム、鉄、ナトリウム、炭酸、ケイ素、チタン、ジルコニウム、ビスフォスフォネート等、及びその化合物等を挙げることができる。これらの溶解性制御因子は、層中のリン酸カルシウム相に応じて、溶解性増大、または低下効果を発揮することができる。例として、マグネシウムや亜鉛はリン酸三カルシウムやアモルファスリン酸カルシウムに対しては溶解性低下効果があり、ハイドロキシアパタイトに対しては溶解性増大効果がある。さらに、炭酸はアモルファスリン酸カルシウムに対しては溶解性低下効果があり、ハイドロキシアパタイトに対しては溶解性増大効果がある。但し、リン酸カルシウム相に溶解性増大あるいは低下効果をもたらす溶解性制御因子の組合せはこれらの例に限定されるものではない。
【0046】
本発明で用いる遺伝子としては、例えばプラスミド単体や、高分子やウイルス等のベクターに保持された遺伝子が挙げられる。それぞれの遺伝子が持つ遺伝情報は異なっても、遺伝子は物質的に同一であるので、遺伝子の種類は限定されない。
【0047】
本発明のスキャッフォールドを作製するには、たとえば、基材表面にリン酸カルシウム捕捉層を形成させた後(第1工程)、同基材を、遺伝子及び界面活性物質を含有させたリン酸カルシウム過飽和水溶液に浸漬して、基材表面に、遺伝子及び界面活性物質を含むリン酸カルシウム層を形成させる(第2工程)ことにより行われる。
【0048】
第1工程は、具体的には、例えば次のように行えばよい。基材を、200mMの塩化カルシウム水溶液に10秒間、次いで超純水に1秒間浸漬した後、風乾する。続いて、基材を200mMのリン酸水素二カリウム・三水和物水溶液に10秒間、次いで超純水に1秒間浸漬した後、風乾する。以上の操作を交互に3回繰り返す。同処理によって、基材表面にリン酸カルシウム捕捉層が形成される。リン酸カルシウム捕捉層の厚みに特別な制限はないが、好ましくは0.001nm〜1μm、さらに好ましくは0.01〜300nmである。
【0049】
第2工程は、表面にリン酸カルシウム捕捉層を有する基材を、遺伝子及び界面活性物質を添加したリン酸カルシウム過飽和溶液に浸漬することにより、基材表面に、遺伝子及び界面活性物質を含むリン酸カルシウム層を形成させる方法が好ましく採用される。遺伝子及び界面活性物質を含むリン酸カルシウム層の厚みに特別な制限はないが、好ましくは100nm〜10μm、さらに好ましくは500nm〜3μmである。焼結リン酸三カルシウム、焼結ハイドロキシアパタイト、リン酸カルシウム硬化体等のリン酸カルシウムを含有する基材のように、初めからリン酸カルシウム捕捉層を少なくとも表面に有する基材であれば、第1工程を省略し、第2工程だけで基材表面に、遺伝子及び界面活性物質を含むリン酸カルシウム層を形成させても良い。
【0050】
ここで、リン酸カルシウム過飽和溶液とは、リン酸カルシウムの溶解度以上のカルシウムイオン及びリン酸イオンを含む溶液のことを意味する。リン酸カルシウム過飽和溶液のリン酸カルシウムに対する過飽和度、すなわち溶液の安定性は、溶液の成分濃度及びpHによって決まる。リン酸カルシウム過飽和溶液は、溶液調製完了後24時間以内に自発核形成によるリン酸カルシウムの析出を誘起するような不安定な溶液であってもいいし、24時間以上リン酸カルシウムの析出を誘起しない準安定な溶液であっても良い。溶液調製直後は準安定な溶液であって、その後、温度やpH変化等によって不安定溶液に変化する溶液であっても良い。また、溶液調製直後は不飽和で、その後、温度やpH変化等によって過飽和に変化する溶液であっても良い。
【0051】
リン酸カルシウム過飽和溶液は、種々の公知の方法で調製することができる。リン酸カルシウム過飽和溶液としては、例えば、Hank’s溶液、ヒトの体液とほぼ等しい無機イオン濃度を有する水溶液(擬似体液)、擬似体液と同等の塩化ナトリウム濃度、及び、擬似体液の1.5倍のリン酸及びカルシウムイオン濃度を有する水溶液、擬似体液の5倍のイオン濃度を含む水溶液、医療用輸液の混合液等を挙げることができる。
【0052】
遺伝子及び界面活性物質は、リン酸カルシウム過飽和溶液の調製前、調製中、調製後のいずれのタイミングで溶液に添加しても構わない。また、遺伝子及び界面活性物質は、同時にリン酸カルシウム過飽和溶液に添加しても良いし、それぞれ別のタイミングで添加してもいい。添加する遺伝子及び界面活性物質は凍結乾燥粉体のような固体状でも良いし、培養液や生理食塩水のような溶液に溶解された液状でも良い。
【0053】
リン酸カルシウム過飽和溶液に添加する遺伝子及び界面活性物質は、それぞれ1種でも良いし、2種以上の遺伝子及び界面活性物質を添加しても良い。
【0054】
リン酸カルシウム過飽和溶液に添加する遺伝子及び界面活性物質は水溶性であることが望ましいが、非水溶性であっても、それをアルブミン等の水溶性担体タンパク質またはポリエチレングリコール、エチレングリコールとプロピレングリコールの共重合体、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリピニルピロリドン、ポリ−1,3−ジオキソラン、ポリ1,3,6−トリオキサン、エチレンと無水マレイン酸の共重合体、ポリアミノ酸類等の水溶性高分子と複合化させることにより水溶性化してもよい。上記複合化には、両者の官能基や表面電荷等を利用すればよく、種々の公知の方法で複合化させることができる。
【0055】
リン酸カルシウム過飽和溶液に添加する遺伝子及び界面活性物質は、基材表面に形成されるリン酸カルシウム層への担持効率の観点から、リン酸カルシウムと親和性を有することが望ましいが、親和性の低い場合であっても、それをポリアクリル酸、ポリエチレングリコール、テトラサイクリン、アルブミン等、リン酸カルシウムと高い親和性を有する物質と複合化させて用いても良い。上記複合化には、両者の官能基や表面電荷等を利用すればよく、種々の公知の方法で複合化させることができる。
【0056】
基材表面のリン酸カルシウム層の成長を完全には阻害しない限り、リン酸カルシウム過飽和溶液中に添加される遺伝子及び界面活性物質の濃度、及びそれらの比は限定されないが、遺伝子導入効率向上の点から、遺伝子の添加濃度で、0.1〜20μg/mL、好ましくは0.5〜10μg/mLとすれば良く、遺伝子:界面活性物質の質量比で、1:0.7〜1:45、好ましくは1:1.4〜1:33.8、さらに好ましくは1:2.8〜1:22.5とすれば良い。
【0057】
第2工程において、表面にリン酸カルシウム捕捉層を有する基材をリン酸カルシウム過飽和溶液中に浸漬する期間は限定されないが、浸漬期間が短すぎると、遺伝子及び界面活性物質を含むリン酸カルシウム層が十分量形成されない。浸漬期間が長くなると、リン酸カルシウム過飽和溶液が過飽和である限り、基材表面における遺伝子及び界面活性物質を含むリン酸カルシウム層の厚みが増していく。層の厚みが増すと、基材表面に担持される遺伝子及び界面活性物質の量は増加する一方、層と基材との接着強度は低下する。従って浸漬期間としては、好ましくは3〜72時間、さらに好ましくは12〜48時間とすれば良い。
【0058】
以上に示した方法を用い、遺伝子及び界面活性物質を添加したリン酸カルシウム過飽和溶液とリン酸カルシウム捕捉層を有する基材とを接触させることにより、リン酸カルシウム捕捉層上に、遺伝子及び界面活性物質を含むリン酸カルシウム層が形成される。その結果、遺伝子及び界面活性物質を含有するリン酸カルシウム層を表面に有する人工材料が得られる。
【実施例】
【0059】
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。本発明はこの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
〔実験方法〕
DNA−界面活性物質コンプレックス溶液の調製
超純水にトリスヒドロキシメチルアミノメタン(Tris)(20 mM)を溶解した後、1M HClを用いて25℃でpHを7.40に調整することにより、Tris−HCl緩衝液を調製した。上記のTris−HCl緩衝液にDNAを26.7 μg/mLの濃度で添加した溶液1860 μLに、第一世代ポリアミドアミンデンドロンを含む界面活性物質[Lp、片山化学提供;(CH3(CH2)17)2NCH2CH2CONHCH2CH2N(CH2CH2CONHCH2CH2NH2)2]1115 μgを添加することにより、DNA−Lpコンプレックス[DNA:Lp =1:22.5(質量比)]を含む溶液(DLp溶液)を調製した。Lpは水溶液中でベシクルを形成し、DNAと結合してコンプレックスを形成することにより、細胞への遺伝子導入を促進することが知られている。DNAとしては、ルシフェラーゼの相補的遺伝子を含むプラスミド(pGL3−contlol vector、Promega)を用いた。
【0060】
DNA−Lpコンプレックスの評価
DLp溶液中のDNA−Lpコンプレックスの粒子径を、動的光散乱法(Zetasizer Nano ZS、Malvern)により評価した。また、DLp溶液を50 nmの細孔径を有するメンブレンフィルター(MF-Millipore、日本ミリポア)に通すことによって、DNA−Lpコンプレックスをフィルターの表面に捕捉し、超純水で洗浄、凍結乾燥させた。フィルター表面のDNA−Lpコンプレックスの構造を、走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した。
【0061】
コーティング溶液の調製
超純水にNaCl(142 mM)、K2HPO4・3H2O(1.50 mM)、1M HCl(40 mM)、及びCaCl2、(3.75 mM)を溶解した後、Tris(50 mM)と必要量の1M HClを用いて25℃でpHを7.40に調整することにより、アパタイトに対して過飽和な水溶液(CP液)を調製した。このCP液に、DNA濃度が0.1、0.5、1.0、2.0 μg/mLとなるように上記のDLp溶液を添加した溶液をコーティング溶液とした。なお、上記のCP液及びコーティング溶液は、調製後24時間以上リン酸カルシウムの析出を誘起しない準安定な過飽和溶液である。
【0062】
試料の作製(第1工程)
溶融、プレス成型して得られたエチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)基板(厚み1 mm、縦10 mm、横10 mm)の片面を#2000の研磨紙で研磨することにより、基板の表面を親水化させた(研磨面を表面、非研磨面を裏面とする。)。同基板をアセトン及びエタノールで超音波洗浄した後、100℃で24時間真空乾燥させた。上記基板を、200 mM CaCl2水溶液 20 mLに10秒間、同量の超純水に1秒間浸した後乾燥させ、次いで、200 mM K2HPO4・3H2O水溶液 20 mLに10秒間、同量の超純水に1秒間浸浸した後乾燥させた。以上のカルシウム及びリン酸イオン水溶液への交互浸漬処理を3回繰り返した。本工程により、EVOH基板の表面にはアパタイトの前駆体であるアモルファスリン酸カルシウムが導入される。
【0063】
試料の作製(第2工程)
第1工程によりアモルファスリン酸カルシウムを表面に導入した基板をエチレンオキサイドガスで滅菌した後、上記のコーティング溶液3 mL中に、容器の蓋を密閉した状態で、25℃で24時間浸漬した。得られた試料を、コーティング溶液中に添加されたDNAの濃度 x μg/mLを用いて、DLp x(DLp0.1、DLp0.5、DLp1、DLp2)と略称する。
【0064】
試料の表面構造評価
第2工程により得られた試料の表面構造を、SEM観察、X線光電子分光分析(XPS)、及び薄膜X線回折(TF−XRD)により調べた。XPS測定においてはAlKα線を、TF−XRD測定においてはCuKα線を、それぞれ照射X線とした。また、紫外−可視光(UV−Vis)分光分析により、基板の浸漬によるコーティング溶液中のDNA−Lpコンプレックスの濃度変化を調べ、試料表面に担持されたDNA−Lpコンプレックスの量を算出した。
【0065】
遺伝子導入効率評価
細胞培養用ポリスチレン製24ウェルプレート(PSP)内の各ウェルに試料を1枚ずつ設置し、CHO−K1細胞を播種した(5.0×104 cells/0.5 mL培養液/ウェル)。培養液としては、10 vol%のウシ胎児血清(FBS、GIBCO)を添加したRPMI1640培養液(Gibco)を用いた。3日間培養(5 %炭酸雰囲気中、37℃)した後、試料表面及び同一ウェル内の試料周辺のPSP表面に接着した細胞のルシフェラーゼ活性をLuciferase Assay Kit(Promega)及びルミノメーターを用いて評価することにより、それぞれの表面における細胞へのルシフェラーゼ遺伝子の導入効率を調べた。
【0066】
〔結果と考察〕
DNA−Lpコンプレックスの構造評価
SEM観察の結果、DLp溶液中には直径数百nmの球状粒子が存在することが確認された[図1(a)]。動的光散乱測定の結果、同粒子の直径は約150 nm であった[図1(b)]。以上の結果から、DLp溶液中においてLpが球状のベシクルを形成することが確認された。同ベシクルの内部、及び/または、表面にDNAが結合することにより、DNA−Lpコンプレックスが形成されていると考えられる。
【0067】
試料の表面構造評価
代表的な試料として、DLp1の表面構造評価の結果を図2〜4に示す。図2のSEM写真に示すように、試料の表面全面にマイクロスケールの微細構造を有する均一な層が観察された。図3に示すXPS測定の結果から、同層はリン、及びカルシウムを含むリン酸カルシウム層であることが確認された。また、図4のTF−XRDパターンにおいて、アパタイトに帰属されるブロードな回折ピークが検出されたことから、同層は低結晶性のアパタイトからなることが確認された。DLp1以外の試料についても、上記と同様の結果が得られた。
図5に、UV−Vis分光分析の結果から算出された、試料表面のDNA−Lpコンプレックスの担持量を示す。この結果から、いずれの試料表面にもDNA−Lpコンプレックスが担持されていることが確認された。DNA−Lpコンプレックス担持量は、コーティング溶液中のDNA濃度が0.1から1.0 μg/mLに増加するのに伴い9.3 ± 2.6 μg/cm2まで増大したが、DNA濃度2.0 μg/mLの条件では減少に転じた。すなわち、コーティング溶液中のDNA濃度を変化させることによって、試料表面のDNA−Lpコンプレックス担持量を調節できることが分かった。
以上の結果から、上記の工程(第1工程及び第2工程)により得られた試料の表面にはいずれも、DNA及びLpを含むアパタイト層(DLp層)が基板の全面に、均一に形成されたことが確認された。なお、上記の工程のうち第1工程を除くと、DLp層は形成されなくなった。第1工程により、EVOH基板表面にはアパタイトの前駆体であるアモルファスリン酸カルシウムが導入される。第2工程では、このアモルファスリン酸カルシウムがコーティング溶液中でアパタイトの核形成を誘起することにより、DLp層の形成を促したと考えられる。また、第1工程及び第2工程を経ても、基板の裏面(非研磨面)には、DLp層は形成されなかった。これは、第1工程において、研磨処理によって親水化された基板の表面にしかアモルファスリン酸カルシウムが導入されないためである。
【0068】
遺伝子導入効率評価
試料表面、及び同一ウェル内の試料周辺のPSP表面で培養されたCHO−K1細胞のルシフェラーゼ活性(遺伝子導入効率)を図6に示す。測定に用いたルミノメーターのバックグランドは5〜20 countであるので、いずれの表面に接着した細胞にも、ルシフェラーゼの遺伝子が導入されたことが分かる。試料表面における遺伝子導入効率は、同一ウェル内のPSP表面のそれに対して、DLp2では1桁、DLp2以外では2桁以上高値であった。この結果から、DLp層から溶出したDNAはウェル内の全細胞に均等に導入されるのではなく、同層表面に接着した細胞内に選択的に導入されることが明らかになった。また、このような遺伝子導入の場所特異性は、コーティング溶液中のDNA濃度を変化させることによって調節できることも分かった。
試料表面における遺伝子導入効率は、コーティング溶液中のDNA濃度が0.1から1.0 μg/mLに増加するのに伴い増大したが、DNA濃度2.0 μg/mLの条件では減少に転じた。これは、コーティング溶液中のDNA濃度を変化させることによって、DLp層のDNA−Lpコンプレックスの担持量、膜厚、溶解性、等が変化したことに起因すると考えられる。なお、試料表面における遺伝子導入効率が最も高かったのは、DLp1であった。
【0069】
(比較例1)
〔実験方法〕
試料の作製
DNAのみを1.0 μg/mLの濃度で添加したCP液をコーティング溶液として用いた以外は実施例1と同様にして、試料(Dと略称する)を作製した。
【0070】
試料の表面構造、及び遺伝子導入効率評価
得られた試料D及びDLp1(実施例1で作製)の表面構造、及び遺伝子導入効率を、実施例1と同様にして評価した。
【0071】
〔結果と考察〕
試料の表面構造評価
SEM観察、XPS測定、TF−XRD測定、及びUV−Vis分光分析の結果から、D表面にはDNAを含むアパタイト層が形成されたことが確認された。D及びDLp1の表面に担持されたDNAの量はそれぞれ、2.1 ± 0.2 及び0.40 ± 0.1 μg/cm2であった(DLp1のDNA担持量は、図5のDNA−Lpコンプレックス担持量から換算)。
【0072】
遺伝子導入効率評価
D、及びDLp1表面で培養されたCHO−K1細胞のルシフェラーゼ活性(遺伝子導入効率)を図7に示す。DLp1表面における遺伝子導入効率はD表面におけるそれに対して約724倍高かった。この結果から、DNAを単独でアパタイト層中に担持させた層表面よりも、DNA及びLpを複合担持させたDLp層表面を用いる方が、高効率に遺伝子導入を行えることが明らかになった。これは、DLp層中に担持させたLpまたはDNA−Lpコンプレックスが培養液中で溶出し、DNAの細胞膜の通過、及び/または、細胞内におけるエンドソームからのDNAの脱出を促進するためと考えられる。
【0073】
(比較例2)
試料の作製
DNA及びフィブロネクチン(ウシ胎児血漿由来の細胞接着因子、Sigma−Aldlich)をそれぞれ40及び10 μg/mLの濃度で添加したCP液をコーティング溶液として用いた以外は実施例1と同様にして、試料(DFと略称する)を作製した。
【0074】
試料の表面構造、及び遺伝子導入効率評価
得られた試料DFの表面構造を、実施例1と同様にして評価した。また、DF及びDLp1実施例1で作製)の表面における遺伝子導入効率を、実施例1と同様にして評価した。
【0075】
〔結果と考察〕
試料の表面構造評価
SEM観察、XPS測定、TF−XRD測定、及びUV−Vis分光分析の結果から、DF表面にはDNA及びフィブロネクチンを含むアパタイト層が形成されたことが確認された。また、DFの表面に担持されたDNA及びフィブロネクチンの量はそれぞれ、13.7 ± 3.3 及び20.5 ± 4.3 μg/cm2であった。
【0076】
遺伝子導入効率評価
DF及びDLp1の表面で培養されたCHO−K1細胞のルシフェラーゼ活性(遺伝子導入効率)を図8に示す。DLp1表面における遺伝子導入効率は、DF表面におけるそれよりも高かった。この結果から、DNA及びフィブロネクチンをアパタイト層中に複合担持させた層表面よりも、DNA及びLpを複合担持させたDLp層表面において、より高効率に遺伝子導入を行えることが明らかになった。また、DFを作製するためには、表面積10 mm×10 mmの基板1枚あたり120 μgのDNAを使用するのに対し、DLp1を作製するためには3 μgのDNAしか使用しない。すなわち、DNAを含むアパタイト層中に、フィブロネクチンに代わってLpを複合担持させることにより、少量のDNAをより効率よく細胞内に導入できることが明らかになった。
【0077】
(比較例3)
〔実験方法〕
試料の作製
CP液をコーティング溶液として用い、実施例1と同様にしてEVOH基板上にアパタイト層を形成させた。同基板を、DNA濃度が0.1、0.5、1.0、2.0 μg/mLとなるようにDLp溶液を添加した吸着用NaCl溶液3 mLに25℃で30分間浸漬することにより、アパタイト層表面にDNA−Lpコンプレックスを吸着させた。吸着用NaCl溶液は、超純水にNaCl(142 mM)を溶解した後、Tris(50 mM)と1M HClを用いて25℃でpHを7.40に調整することにより調製した。得られた試料を、吸着用NaCl溶液中のDNA濃度 x μg/mLを用いて、DLp x−ad (DLp0.1−ad、DLp0.5−ad、DLp1−ad、DLp2−ad)と略称する。
【0078】
試料の表面構造評価
得られた試料のうちDLp1−ad、及びDLp1(実施例1で作製)の表面構造を、実施例1と同様にして評価した。また、高周波誘導結合プラズマ発光分析(ICP)により、基板の浸漬によるコーティング溶液中のカルシウム及びリンの濃度変化を調べ、試料表面に担持されたカルシウム及びリンの量を算出した。
【0079】
溶出試験
得られた試料のうちDLp 1−ad、及びDLp 1(実施例1において最も遺伝子導入効率の高かった試料)を、溶出液2 mL中に37℃で72時間までの種々の期間浸漬した。溶出液は、超純水にNaCl(142 mM)を溶解した後、Tris(50 mM)と1M HClを用いて37.0℃でpHを7.40に調整することにより調製した。種々の期間経過後、溶出液中のカルシウム及びDNA−Lpコンプレックスの濃度を、それぞれICP及びUV−Vis分光分析により測定した。また、溶出試験後(72時間浸漬後)の試料の表面構造を、XPSにより調べた。XPS測定の際には、試料表面をアルゴンイオンでスパッタ(加速電圧1 kV、10分間)することにより装置由来の吸着カーボンを除去してから、C1s領域について精密測定を行った。
【0080】
遺伝子導入効率評価
得られた試料DLp x−ad、及びDLp x(実施例1で作製)の表面における遺伝子導入効率を、実施例1と同様にして評価した。
【0081】
〔結果と考察〕
試料の表面構造評価
試料表面へのカルシウム及びリンの担持量については、DLp1−ad、及びDLp1の間に有意差は認められなかった。一方、試料表面へのDNA−Lpコンプレックスの担持量については有意差が認められ、DLp1表面には、DLp1−adの約4.9倍のDNA−Lpコンプレックスが担持されていた(図9)。すなわち、予め基板上に形成させておいたアパタイト層の表面にDNA−Lpコンプレックスを吸着させるよりも、実施例1のような工程によりDLp層を形成させる方が、より多量のDNA−Lpコンプレックスを基板の表面に担持できることが分かった。
【0082】
溶出試験
DLp1−ad、及びDLp1からのDNA−Lpコンプレックスの溶出量を図10(a)に示す。この結果から、溶出液に浸漬後6時間までの期間は、DLp1及びDLp1−adからのDNA−Lpコンプレックスの溶出量はほぼ等しいことがわかる。しかし24時間後には、DLp1からのDNA−Lpコンプレックスの溶出量がDLp1−adからのそれよりも大きくなった。DLp1からのDNA−Lpコンプレックス溶出量は、浸漬期間を48、及び72時間にまで延ばすと、それぞれ3.6 ± 0.4、及び4.6 ± 0.0 μgに増加した。また、DLp1−ad、及びDLp1表面に担持されたDNA−Lpコンプレックスの量に対する溶出量の割合を図10(b)に示す。この結果から、DLp1−ad表面に吸着担持されたDNA−Lpコンプレックスは、24時間以内にほぼ全量が溶出したことが分かる。一方、DLp1表面に担持されたDNA−Lpコンプレックスは、24時間後においても33%しか溶出しなかった。浸漬期間を48、及び72時間にまで延ばすと、DLp1からのDNA−Lpコンプレックス溶出率はそれぞれ39.0 ± 3.9 %、及び49.0 ± 0.4 %に増加した。
以上の、DLp1−ad、及びDLp1からのDNA−Lpコンプレックスの溶出は、試料表面に形成させたアパタイト層、あるいはDLp層の部分的な溶解によるものと考えられる。このことは、図11に示すDLp1−ad、及びDLp1からのカルシウムの溶出挙動から裏付けられる。DLp1−ad、及びDLp1表面に担持されたカルシウムの量に対する溶出量の割合は、溶出液への浸漬期間の増加に伴い増大し、72時間後にはいずれの試料についても40〜50%に達した。つまり、浸漬72時間後には、試料表面に形成させたアパタイト層、あるいはDLp層の上層約半分程度が溶解したと考えられる。なお、浸漬72時間後のDLp1からのカルシウム溶出率は、同時間後のDNA−Lpコンプレックス溶出率と同程度である。
上記溶出試験後(72時間浸漬後)のDLp1−ad、及びDLp1表面のC1s領域のXPSスペクトルを図12に示す。炭素はLp及びDNAの主成分であり、アパタイトの成分ではない。DLp1表面にはC1sのピークが検出されたのに対し、DLp1−ad表面には検出されなかった。このことから、DLp1表面に形成させたDLp層には、DLp1−adの表面層とは異なり、層の表面だけでなく層の内部にまでDNA−Lpコンプレックスが担持されていることが確認された。
以上の結果から、DLp1−ad、及びDLp1の表面構造の違いは次のように説明される。DLp1−ad表面では、予め基板上に形成させておいたアパタイト層の表面にDNA−Lpコンプレックスを吸着担持させているので、アパタイト層の外表面にしかDNA−Lpコンプレックスが担持されない。このため、DNA−Lpコンプレックスが少量しかDLp1−ad表面に担持されない。しかも、DLp1−adが溶出液に浸漬されると、アパタイト層の部分溶解によってDNA−Lpコンプレックスは容易にDLp1−ad表面から離脱してしまう(24時間以内にほぼ全量が溶出)。これに対し、実施例1のような工程により作製されたDLp1表面では、DLp層の外表面だけでなく内部にまでDNA−Lpコンプレックスが担持されている。このため、より多量のDNA−LpコンプレックスがDLp1表面に担持される。しかも、DLp1が溶出液に浸漬されても、DLp層の部分溶解によるDNA−Lpコンプレックスの溶出は長期間継続する。
【0083】
遺伝子導入効率評価
DLp x−ad、及びDLp x表面で培養されたCHO−K1細胞のルシフェラーゼ活性(遺伝子導入効率)を図13に示す。DNA濃度の等しいコーティング溶液、または吸着用NaCl溶液を用いて作製された試料同士で比較すると、DLp2−ad及びDLp2を除くいずれの試料においても、DLp x表面における遺伝子導入効率の方がDLp x−ad表面におけるそれよりも高値であった。これは、前項に記載のDLp x−ad、及びDLp xの表面構造の違いに起因すると考えられる。DLp x−adの中ではDLp2−ad の表面における遺伝子導入効率が最も高値であったが、同試料の半分または4分の1量のDNAを用いて作製されるDLp0.5及びDLp1のそれに及ばなかった。以上の結果から、予め基板上に形成させておいたアパタイト層の表面にDNA−Lpコンプレックスを吸着させるよりも、実施例1のような工程によって層内部にまでDNA−Lpコンプレックスを含むDLp層を形成させる方が、より少量のDNAを用いて、より高効率に基板上の細胞内に遺伝子を導入できることが分かった。
【0084】
(実施例2)
〔実験方法〕
コーティング溶液の調製
以下のように医療用輸液を混合することにより、CP液とは異なるリン酸カルシウム過飽和溶液を調整した。まず、Ringer液(大塚製薬)にConclyte−Ca(大塚製薬)を添加することにより4.5 mMのカルシウムイオン溶液を、Klinisalz B(アイロム製薬)にConclyte−P(大塚製薬)を添加することにより20 mMのリン酸イオン溶液を調製した。これらのカルシウムイオン溶液、リン酸イオン溶液、及びBifil(味の素ファルマ)を8.172 : 0.917 : 0.911の容量比で混合することにより、アパタイトに対して過飽和な水溶液(RKB液)を調製した。このRKB液に、実施例1と同様にして調製されたDLp溶液を、DNA濃度が1.0または2.0 μg/mLとなるように添加した溶液をコーティング溶液とした。なお、上記のRKB液及びコーティング溶液は、実施例1で用いたCP液やコーティング溶液とは異なり、調製後24時間以内にリン酸カルシウムの析出を誘起する不安定な過飽和溶液である。また、CP液は化学試薬を原料としているのに対し、RKB液は厚生労働省により認可された医療用輸液のみを原料としているので、生体内使用における安全性が担保されている。
【0085】
試料の作製
上記のコーティング溶液を用い、実施例1と同様にして試料を作製した。ただし、容器の蓋は密閉せずに第2工程のコーティング溶液への基板の浸漬を行った。DNAの濃度1.0及び2.0 μg/mLのコーティング溶液を用いて作製された試料をそれぞれ、DLp1−RKB及びDLp2−RKBと略称する。
【0086】
遺伝子導入効率評価
得られた試料の表面における遺伝子導入効率を、実施例1と同様にして評価した。
【0087】
〔結果と考察〕
遺伝子導入効率評価
試料表面、及び同一ウェル内の試料周辺のPSP表面で培養されたCHO−K1細胞のルシフェラーゼ活性(遺伝子導入効率)を図14に示す。DLp1−RKB表面における遺伝子導入効率は、同一ウェル内のPSP表面のそれと同等であった。一方、DLp2−RKB表面における遺伝子導入効率は、同一ウェル内のPSP表面のそれよりも有意に高値であった。この結果から、コーティング溶液として準安定なリン酸カルシウム過飽和溶液を用いた場合(実施例1)と同様、不安定なリン酸カルシウム過飽和溶液を用いた場合にも、コーティング溶液中のDNA濃度を変化させることによって遺伝子導入の場所特異性を調節することができ、試料表面に接着した細胞内に選択的に遺伝子を導入できることが明らかになった。
【0088】
(実施例3)
コーティング溶液の調製
実施例1と同様にしてTris−HCl緩衝液、及びCP液を調製した。DNAを26.7 μg/mLの濃度で添加したTris−HCl緩衝液1800 μLにLp 133.8 μgを添加することにより、DNA−Lpコンプレックス[DNA:Lp=1:2.8(質量比)]を含む溶液(L−DLp溶液)を調製した。また、DNAを222 μg/mLの濃度で添加したTris−HCl緩衝液1800 μLにLp 1115 μgを添加することにより、DNA−Lpコンプレックス[DNA : Lp = 1 : 2.8(質量比)]を含む溶液(H−DLp溶液)を調製した。DNAとしては、ルシフェラーゼの相補的遺伝子を含むプラスミド(pGL3−contlol vector、Promega)を用いた。
CP液に、DNA濃度が0.1、0.5、1.0、2.0 μg/mLとなるようにL−DLp溶液を添加した溶液、及びDNA濃度が1.0、5.0、10、20 μg/mLとなるようにH−DLp溶液を添加した溶液をコーティング溶液とした。
【0089】
試料の作製
上記のコーティング溶液を用い、実施例1と同様にして試料を作製した。L−DLp溶液を添加したコーティング溶液を用いて作製された試料を、コーティング溶液中のDNA濃度 x μg/mLを用いて、DLp x−L(DLp0.1−L、DLp0.5−L、DLp1−L、DLp2−L)と略称する。また、H−DLp溶液を添加したコーティング溶液を用いて作製された試料を、コーティング溶液中のDNA濃度 x μg/mLを用いて、DLp x−H(DLp1−H、DLp5−H、DLp10−H、DLp20−H)と略称する。
【0090】
試料の表面構造、及び遺伝子導入効率評価
得られた試料の表面構造、及び遺伝子導入効率を、実施例1と同様にして評価した。
【0091】
〔結果と考察〕
SEM観察、TF−XRD測定、及びUV−Vis分光分析の結果から、いずれの試料表面にもDLp層が形成されたことが確認された。図15及び図16に示すように、試料表面のDNA−Lpコンプレックスの担持量は、コーティング溶液中のDNA濃度の増加に伴い増大する傾向が認められた。図5と図15を比較すると、コーティング溶液中のDNA濃度が同じであっても、DNAとLpの比が異なると、試料表面に担持されるDNA−Lpコンプレックスの量が異なることが分かる。また、図15のDLp1−Lと図16のDLp1−Hを比較すると、コーティング溶液中のDNA濃度、及びDNAとLpの比が同じであっても、コーティング溶液の調製に用いるDNA−Lpコンプレックス溶液の濃度が異なると、試料表面に担持されるDNA−Lpコンプレックスの量が異なることが分かる。以上より、コーティング溶液の調製に用いるDNA−Lpコンプレックス溶液の濃度やDNAとLpの比、及びコーティング溶液中のDNA濃度を変化させることによって、試料表面のDNA−Lpコンプレックスの担持量を調節できることが分かった。
【0092】
遺伝子導入効率評価
DLp x−L、及び同一ウェル内の試料周辺のPSP表面で培養されたCHO−K1細胞のルシフェラーゼ活性(遺伝子導入効率)を図17に、DLp x−H、及び同一ウェル内の試料周辺のPSP表面で培養されたCHO−K1細胞のルシフェラーゼ活性(遺伝子導入効率)を図18に示す。DLp2−L及びDLp20−Hを除くいずれの試料についても、試料表面における遺伝子導入効率は、同一ウェル内のPSP表面のそれに対して1桁から2桁高値であった。この結果は、これらの試料の表面に接着した細胞に選択的に遺伝子が導入されたことを示している。ただし、試料表面における遺伝子導入効率とPSP表面のそれとの差は、コーティング溶液中のDNA濃度の増加に伴い減少し、DLp2−L及びDLp20−Hでは試料表面における選択的遺伝子導入は認められなかった。一方、DLp x−L及びDLp x−H表面の遺伝子導入効率はいずれも、コーティング溶液中のDNA濃度の増加に伴い増大したが、DNA濃度が一定値(DLp x−Lでは1.0 μg/mL、DLp x−Hでは20 μg/mL)を超えると減少に転じた。
以上の傾向は、実施例1で得られた結果(図6)においても認められる。また、図6と図17、あるいは図14と図17を比較すると、コーティング溶液中のDNA濃度が同じであっても、DNAとLpの比、あるいはコーティング溶液の調製に用いるリン酸カルシウム過飽和溶液の種類が異なると、試料表面における遺伝子導入の場所特異性、及び導入効率が異なることが分かる。実施例1〜3で得られた全試料の中で、試料表面における遺伝子導入の場所特異性、導入効率、及び試料を作製するのに必要とされるDNA量の点から、最も優れた試料はDLp0.5−Lであると考えられる。
以上の結果から、コーティング溶液の調製に用いるリン酸カルシウム過飽和溶液の種類、DNA−Lpコンプレックス溶液の濃度やDNAとLpの比、及びコーティング溶液中のDNA濃度を変化させることによって、試料表面における遺伝子導入の場所特異性及び導入効率を調節できることが分かった。これは、これらのコーティング条件を変化させることによって、試料表面に形成されるDLp層のDNA−Lpコンプレックスの担持量、膜厚、溶解性等が変化するためと考えられる。
【0093】
(実施例4)
本実施例では、以上で用いてきたLp以外の界面活性物質を用いて、EVOH基板の表面に遺伝子及び界面活性物質を含むリン酸カルシウム層を形成させ、遺伝子導入効率の評価を行った。本実施例に先立ち、まず、Lp、及びLp以外の界面活性物質の性質(ベシクル安定性、及び粒子状遺伝子導入剤としての性能)について調べた。
〔実験方法〕
界面活性物質の保温試験
Lp、及び市販の脂質系遺伝子導入試薬であるリポフェクトアミン(Lf、Invitrogen)の安定性を調べるため、DLp溶液、及びDNA−Lfコンプレックスを含む水溶液(DLf溶液)を調製後、種々の温度(4、25、37℃)で、14日間までの種々の期間静置した。
DLp溶液は、Opti−MEMを25 vol.%の濃度で追加添加した以外は、実施例1と同様にして調製した。DLf溶液は、メーカーのプロトコールを参考に、無血清の細胞培養液(Opti−MEM、Gibco)にDNAを12 μg/mLの濃度で添加した後、200 μg/mLのLfを添加したOpti−MEMを等量比で加え、室温で45分間静置することにより調製した。、DNAとしては、ルシフェラーゼの相補的遺伝子を含むプラスミド(pGL3−contlol vector、Promega)を用いた。
なお、Lfは、界面活性物質である2,3−dioleyloxy−N−[2(sperminecarboxamido)ethyl] −n,n−dimethyl−1−propanaminium trifluoroacetate (DOSPA)及びdioleoyl−phosphatidylethanolamine(DOPE)を3 : 1の質量比で含む遺伝子導入剤である。Lf(DOSPA及びDOPE)はLpと同様に、水溶液中でベシクルを形成し、DNAと結合してコンプレックスを形成することにより、細胞への遺伝子導入を促進する。
【0094】
保温試験後のDNA−Lp及びDNA−Lfコンプレックスの構造評価
調製直後、及び種々の温度(4、25、37℃)で7日間保温されたDLp溶液、及びDLf溶液を、50 nmの細孔径を有するメンブレンフィルター(MF−Millipore、日本ミリポア)に通すことによって、DNA−Lp、あるいはDNA−Lfコンプレックスをフィルターの表面に捕捉し、超純水で洗浄、凍結乾燥させた。フィルター表面のDNA−Lp、あるいはDNA−Lfコンプレックスの構造を、SEMにより観察した。
【0095】
保温試験後の遺伝子導入効率評価(粒子状遺伝子導入剤としての性能評価)
調製直後、及び保温試験(4℃)後のDLp溶液、及びDLf溶液を用いて、CHO−K1細胞への遺伝子導入を行った。遺伝子導入は、Lfのメーカー(Invitrogen)プロトコールに従い、次のように行った。まず、PSP内の各ウェルにCHO−K1細胞を播種した(5.0×104 cells/0.5 mL 培養液/ウェル)。培養液としては、10 vol%のFBS(GIBCO)を添加したRPMI1640培養液(Gibco)を用いた。24時間培養[5 %炭酸雰囲気中、37℃(以下同様)]した後、各ウェル内の培養液を、無血清のOpti−MEM 400 μLと入れ替えた。次に、調製直後、及び保温試験(4℃)後のDLpまたはDLf溶液を50 μL添加し、PSPを静かにゆすってウェル内の溶液を混合した。5時間培養した後、各ウェル内の培養液を、10 vol%のFBSを添加したRPMI1640培養液と入れ替えた。さらに43時間培養した後、各ウェル内のPSP表面に接着した細胞のルシフェラーゼ活性をLuciferase Assay Kit(Promega)及びルミノメーターを用いて評価することにより、同細胞へのルシフェラーゼ遺伝子の導入効率を調べた。
【0096】
コーティング溶液の調製
Lpに代わって、市販の脂質系遺伝子導入試薬であるLfあるいはDOTAP(Dp、Loche;N−[1−(2,3−dioloyloxy)propyl]−N,N,N−trimethylammonium methylsulfate)を界面活性物質として用いて、コーティング溶液を調製した。コーティング溶液は、実施例1と同様にして調製されたCP液に、DNA濃度が0.1、0.5、1.0 μg/mLとなるように上記のDLf溶液、または、DNA−Dpコンプレックスを含む水溶液(DDp溶液)を添加することにより調製した。DDp溶液は、メーカーのプロトコールを参考に、DNAを100 μg/mLの濃度で添加したHEPES緩衝液と、Dpを300 μg/mLの濃度で添加したHEPES緩衝液を容量比1:2の割合で混合し、室温で15分間静置することにより調製した。HEPES緩衝液は、超純水にNaCl(150 mM)及び2−[4−(2-ヒドロキシエチル) −1−ピペラジニル]エタンスルホン酸水酸化ナトリウム(HEPES)(20 mM)を溶解した後、1M NaOHを用いて25℃でpHを7.40に調整することにより調製した。DNAとしては、ルシフェラーゼの相補的遺伝子を含むプラスミド(pGL3−contlol vector、Promega)を用いた。
【0097】
試料の作製
上記のコーティング溶液を用い、実施例1と同様にして試料を作製した。Lfを含むコーティング溶液を用いて作製された試料を、コーティング溶液中のDNA濃度 x μg/mLを用いて、DLf x(DLf0.1、DLf0.5、DLf1)と略称する。また、Dpを含むコーティング溶液を用いて作製された試料を、コーティング溶液中のDNA濃度 x μg/mLを用いて、DDp x(DDp0.1、DDp0.5、DDp1)と略称する。
【0098】
遺伝子導入効率評価
得られた試料表面における遺伝子導入効率を、実施例1と同様にして評価した。
【0099】
〔結果と考察〕
保温試験後のDNA−Lp及びDNA−Lfコンプレックスの構造評価
SEM観察の結果、DLp溶液、及びDLf溶液のいずれの溶液についても、調製直後には、直径数百nmの球状粒子が確認された[図19(a、c)]。これらの粒子は、DNA−Lpコンプレックス、またはDNA−Lfコンプレックスからなるベシクル粒子であると考えられる。DLp溶液については、いずれの温度で7日間保温された後にも、同様のベシクル粒子が確認された[図19(d、e、f)]。しかし、DLf溶液を4℃で7日間保温すると、大きさ数百nmの非球状の物体しか観察されなくなった[図19(b)]。また、DLf溶液を25℃または37℃で7日間保温すると、ベシクル粒子は全く確認されなくなった。これらの結果から、LpはLfに比較してベシクルの安定性に優れていることが明らかになった。
【0100】
保温試験後の遺伝子導入効率評価
調製直後、及び4℃で種々の期間保温された後のDLp溶液、及びDLf溶液を用いて、CHO−K1細胞への遺伝子導入を行った結果を図20に示す。図20の縦軸は、調製直後のDLp溶液、及びDLf溶液を用いた際のルシフェラーゼ活性値(100とする)に対する相対値である。Lfでは、保温期間が長くなるに従って遺伝子導入効率が低下した。これは、図19で示したように、DNA−Lfコンプレックスからなるベシクルが不安定であるために、溶液中でベシクルの分解が進み、Lfの遺伝子導入効率向上機能が低下したためと考えられる。一方Lpでは、保温時間が長くなっても、遺伝子導入効率は低下しなかった。これは、DNA−Lpコンプレックスからなるベシクルの安定性が高いために、Lpの遺伝子導入効率向上機能が長期間保持されたためと考えられる。
【0101】
遺伝子導入効率評価
DLf x、及び同一ウェル内のPSPの表面で培養されたCHO−K1細胞のルシフェラーゼ活性(遺伝子導入効率)を図21に示す。また、DDp x、及び同一ウェル内のPSPの表面で培養されたCHO−K1細胞のルシフェラーゼ活性(遺伝子導入効率)を図22に示す。DLf0.5及びDDp0.1を除くいずれの試料についても、試料表面における遺伝子導入効率は、同一ウェル内のPSP表面のそれに対して1桁から2桁高値であった。この結果は、これらの試料の表面に接着した細胞に選択的に遺伝子が導入されたことを示している。以上より、本手法によれば、Lp以外の界面活性物質を用いた場合にも、基材の表面にDNAと界面活性物質を含むアパタイト層を形成させることができ、同表面において場所特異的な遺伝子導入を行えることが明らかになった。
しかしながら、DLf x、及びDDp xの表面における遺伝子導入効率は、Lpを用いて作製されたDLp x(図6)やDLp x−L(図17)、DLp x−H(図18)の表面におけるそれに対して2桁から4桁低かった。これは、Lpに比べ、LfやDpでは、ベシクルの安定性が低いために、試料の作製工程、及び/または、血清入り培養液中での遺伝子導入工程においてベシクルの分解が進み、その遺伝子導入効率向上機能が低下したためと考えられる。以上の結果から、遺伝子と界面活性物質を含むアパタイト層の表面において高効率に遺伝子導入を行うためには、Lpのようなベシクル安定型界面活性物質を用いることが有効であることが明らかになった。
【0102】
(実施例5)
〔実験方法〕
コーティング溶液の調製
実施例11と同様にしてCP液を、実施例3と同様にしてL−DLp溶液を調製した。CP液に、DNA濃度が0.5 μg/mLとなるようにL−DLp溶液を、ラミニン濃度が10、20、40 μg/mLとなるよう1.1 mg/mLラミニン溶液(Sigma−Aldlich)を添加した溶液をコーティング溶液とした。
【0103】
試料の作製
上記のコーティング溶液を用い、実施例1と同様にして試料を作製した。得られた試料を、コーティング溶液中のラミニン濃度 x μg/mLを用いて、DLp−Lx(DLp−L10、DLp−L20、DLp−L40)と略称する。
【0104】
ラミニン担持量評価
Protein Assay Kit(Bio-Rad)を用いたUV−Vis分光分析により、基板の浸漬によるコーティング溶液中のラミニンの濃度変化を調べ、試料表面に担持されたラミニンの量を算出した。
【0105】
遺伝子導入効率評価
得られた試料表面における遺伝子導入効率を、実施例1と同様にして評価した。
【0106】
〔結果と考察〕
ラミニン担持量評価
UV−Vis分光分析の結果、いずれの試料表面にも、ラミニンが担持されていることが確認された(図23)。この結果は、ラミニンをコーティング溶液に添加することによって、試料表面に形成されるDLp層にさらにラミニンを担持できることを示している。また、図23に示すように、試料表面のラミニン担持量は、コーティング溶液中のラミニン濃度の増加に伴い増大した。この結果から、コーティング溶液中のラミニン濃度を変化させることによって、DLp層中のラミニン担持量を調節できることが分かった。
【0107】
遺伝子導入効率評価
試料表面、及び同一ウェル内の試料周辺のPSP表面で培養されたCHO−K1細胞のルシフェラーゼ活性(遺伝子導入効率)を図24に示す。比較対照として、実施例3で得られたDLp0.5−L(ラミニンを含まないコーティング溶液を用いて作製)のデータも同図内に示す。いずれの試料についても、試料表面における遺伝子導入効率は、同一ウェル内のPSP表面のそれに対して1桁以上高値であった。また、試料表面における遺伝子導入効率とPSP表面のそれとの差は、コーティング溶液中のラミニン濃度が20 μg/mL以上に増加するのに伴い増大した(図25)。これは、試料表面のDLp層に担持されたラミニンが、層表面への細胞の接着を促すことにより、試料表面における遺伝子導入の場所特異性を高めたためと考えられる。以上の結果から、細胞接着因子であるラミニンをコーティング溶液に添加することによって、試料表面に接着した細胞により高選択的に遺伝子を導入できることが明らかになった。また、このような遺伝子導入の場所特異性は、コーティング溶液中のラミニン濃度を変化させることによって調節できることも分かった。
【0108】
(実施例6)
〔実験方法〕
コーティング溶液の調製
実施例1と同様にしてDLp溶液、及びCP液を調製した。また、実施例2と同様にしてRKB液を調整した。CP液あるいはRKB液に、DNA濃度が1.0 μg/mLとなるようにDLp溶液を添加した溶液をコーティング溶液とした。
試料の作製(第1工程)
溶融、プレス成型して得られたポリスチレン基板(厚み1 mm、縦10 mm、横10 mm)を、エタノールで超音波洗浄した後、100℃で24時間真空乾燥させた。同基板の片面に酸素プラズマ処理(0.5 W/cm2、30秒間)を施すことにより、基板表面を親水性に変化させた(酸素プラズマ処理面を表面、非処理面を裏面とする。)。上記基板を、200 mM CaCl2水溶液 20 mLに10秒間、同量の超純水に1秒間浸した後乾燥させ、次いで、200 mM K2HPO4・3H2O水溶液 20 mLに10秒間、同量の超純水に1秒間浸浸した後乾燥させた。以上のカルシウム及びリン酸イオン水溶液への交互浸漬処理を3回繰り返した。本工程により、PS基板の表面にはアパタイトの前駆体であるアモルファスリン酸カルシウムが導入される。
【0109】
試料の作製(第2工程)
第1工程によりアモルファスリン酸カルシウムを表面に導入した基板を、上記のコーティング溶液3 mL中に、容器の蓋を密閉せずに25または37℃で24時間浸漬した。得られた試料を、過飽和溶液の種類及び浸漬温度を用いて、DLp1−CP25、DLp1−CP37、DLp1−RKB25と略称する。なお、CP液から調製されるコーティング溶液は、25℃では調製後24時間以上リン酸カルシウムの析出を誘起しない準安定な過飽和溶液であるが、37℃で保持されると、調製後24時間以内にリン酸カルシウムの析出を誘起する不安定な過飽和溶液となる。RKB液から調製されるコーティング溶液は、25℃でも調製後24時間以内にリン酸カルシウムの析出を誘起する不安定な過飽和溶液である。
【0110】
試料の表面構造評価
コントロールとして未処理のポリスチレン基板、及び第2工程により得られた試料の表面構造を実施例1と同様にして評価した。
【0111】
上記の工程(第1工程及び第2工程)により得られたいずれの試料についても、表面全面にDLp層の形成が確認された(図26)。第1工程により、ポリスチレン基板表面にはアパタイトの前駆体であるアモルファスリン酸カルシウムが導入される。第2工程では、このアモルファスリン酸カルシウムがコーティング溶液中でアパタイトの核形成を誘起することにより、DLp層の形成を促したと考えられる。また、第1工程及び第2工程を経ても、基板の裏面(非プラズマ処理面)には、DLp層は形成されなかった。これは、第1工程において、プラズマ処理によって親水化された基板の表面にしかアモルファスリン酸カルシウムが導入されないためである。
以上の結果から、EVOH基板だけでなくポリスチレン基板の表面にも、実施例1や実施例2と同様の工程によってDLp層を形成できることが確認された。
【0112】
(比較例4)
〔実験方法〕
試料の作製と評価
第1工程(ポリスチレン基板表面へのアモルファスリン酸カルシウムの導入工程)を除いた以外は実施例6と同様にして試料を作製した。得られた試料を、過飽和溶液の種類及び浸漬温度を用いて、DLp1−CP25(ACP−)、DLp1−CP37(ACP−)、DLp1−RKB25(ACP−)と略称する。得られた試料の表面構造をSEM観察により調べ、DLp層の形成の有無・程度を確認した。
【0113】
基板とDLp層との接着性評価
得られた試料のうちDLp層の形成が確認された試料、及び実施例6で作製された試料に対し、テープ剥がし試験を行った。テープ剥がし試験は、基板表面の一部分にテープ(ハイクラフトテープ(No.320)、ニチバン)を貼付し、ピンセットで密着させた後、引き剥がすことにより行った。試験後の試料の表面構造をSEM観察により調べ、基板からのDLp層の剥離の有無・程度を確認した。
【0114】
〔結果と考察〕
試料の表面構造評価
図27に、試料表面のSEM写真を示す。DLp1−CP25(ACP−)については、基板の表面にDLp層は全く形成されていなかった。すなわち、試料の作製工程のうち第1工程を除くと、基板の表面にDLp層は形成されなくなった(実施例6、図26参照)。この結果は、実施例1においてEVOH基板に対して得られた結果と同様である。一方、DLp1−CP37(ACP−)、及びDLp1−RKB25(ACP−) については、基板表面の一部にのみDLp層が形成されていた。すなわち、試料の作製工程のうち第1工程を除くと、基板表面において部分的にしかDLp層が形成されなくなった(実施例6、図26参照)。リン酸カルシウム過飽和溶中で基板の全表面に均一なDLp層を形成させるためには、アモルファスリン酸カルシウム等のリン酸カルシウム捕捉層を基板表面に導入する前工程(第1工程)が重要であることが分かった。
【0115】
基板とDLp層との接着性評価
DLp1−CP37 (ACP−)及びDLp1−RKB25 (ACP−)については、テープ剥がし試験によって、DLp層の一部の剥離が認められた。一方、実施例6で作製された試料についてはいずれも、DLp層の剥離は全く認められなかった。すなわち、試料の作製工程のうち第1工程を除くと、基板とDLp層との接着性が低下した。
以上の結果から、リン酸カルシウム過飽和溶中で基板の全表面にDLp層を形成させ、しかも同層を基板上に強固に密着させるためには、アモルファスリン酸カルシウム等のリン酸カルシウム捕捉層を基板表面に導入する前工程(第1工程)が重要であることが分かった。
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子及び界面活性物質を含有する組織再生用スキャッフォールド、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、細胞を用いて失われた臓器や組織の機能を回復させたり、臓器や組織そのものを再生しようとするティッシュエンジニアリングが注目されている。このティッシュエンジニアリングにおける一般的なストラテジーは、細胞の進入に適した細孔径を有するスキャッフォールドの上に播種した幹細胞や未分化な細胞を、生体内または生体外の適当な環境下で培養することによって目的とする細胞への分化を促し、組織の治療や再生を行うことである。
【0003】
細胞の分化を制御するための効果的な手法の一つに、遺伝子導入が挙げられる。遺伝子を内包して細胞内に届けるキャリアー(遺伝子導入剤)としては、ウィルスや、リン酸カルシウム、脂質、カチオニックな高分子等が用いられてきた。しかし、従来の遺伝子導入剤はいずれも粒子状であり(特許文献1)、細胞の上から振り掛けて使用される。従って、三次元多孔体のように複雑な形状を有するスキャッフォールドの全表面において均等に遺伝子導入を行うことや、スキャッフォールド上の目的とする領域に接着した細胞にのみ場所特異的な遺伝子導入を行うことは困難であった。
【0004】
2000年頃から、粒子状の遺伝子導入剤を用いずに、人工材料の表面に遺伝子を担持させ、同材料表面の細胞に遺伝子を導入しようとする研究が行なわれている。例えばShenらは、人工材料の表面に、生体適合性と安全性に優れるアパタイトと遺伝子の複合層を形成させ、同表面において安全に遺伝子導入を行えることを示した(非特許文献1)。
【0005】
上記のように、人工材料の表面に遺伝子を担持させる手法によれば、粒子状の導入剤を用いる手法とは異なり、三次元多孔体のように複雑な形状を有するスキャッフォールドであっても、その表面全体で均等に遺伝子導入を行うことが可能である。また、遺伝子を担持させた材料表面に接着した細胞に選択的に遺伝子が導入されるので、場所特異的な遺伝子導入を行うことも可能である。しかし、従来のShenらの手法では、細胞への遺伝子導入効率はあまり高くなかった。
【0006】
近年Onoらは、脂質と遺伝子の複合体をアパタイト多孔体の表面に吸着担持させ、同表面において遺伝子導入を行えることを示した(非特許文献2)。またShenらは、人工材料の表面にアパタイトと遺伝子と脂質の複合層を形成させ、同表面において、従来法(非特許文献1)よりも高効率に遺伝子導入を行えることを示した(非特許文献3)。しかしこれらの手法でも、細胞への遺伝子導入効率は、ティッシュエンジニアリングを行うのに十分高いとは言えない。また、Shenらの手法では、上記の複合層を人工材料基材の表面全面に均等に形成させることや、基材上に強固に固定させることが困難であるので、組織再生用スキャッフォールドとしての応用には問題がある。
【0007】
一方、特許文献2では、細長い骨粒子を、アパタイトなどの結合剤/充填剤、遺伝子などの生体活性物質、及び/または界面活性剤と混合することにより骨インプラントを作製する技術について報告されている。しかし、このようにただ混合するだけの複合化手法では、形成される複合材料の強度や形状が限定されてしまう。また、界面活性剤を、遺伝子の導入効率向上機能を発揮できるようなベシクル状態で複合化することは困難である。
【0008】
他方、本発明者らは、人工材料の表面にアパタイトと遺伝子と細胞接着因子の複合層を形成させ、同表面において、従来法(非特許文献1)よりも高効率に遺伝子導入を行えることを示した(特許文献3)。しかも、本発明者らの手法では、表面にリン酸カルシウム捕捉層を設けた人工材料を基材として用いることにより、複合層の形成能や均一性、基材との密着性・固定性を高めている。さらに、本発明者らは、上記の複合層に溶解性制御因子を担持させることにより、同表面における遺伝子導入の効率と時期をコントロールできることも提案している(特許文献4)。しかしこれらの手法でも、細胞への遺伝子導入効率は、ティッシュエンジニアリングを行うのに十分高いとは言えない。
【0009】
従って、目的の場所の細胞に対し、高効率に遺伝子導入を行うことのできる組織再生用スキャッフォールド等の医療用材料及び歯科用材料、及びその製造方法の開発が強く望まれているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002−348234号公報
【特許文献2】特表2007−503292号公報
【特許文献3】特表2008−049146号公報
【特許文献4】特願2009−001424号
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Surface-mediated gene transfer from nanocomposites of controlled texture. by Shen H, Tan J, Saltzman WM, Nature Mater. 3:569, 2004.
【非特許文献2】Combination of porous hydroxyapatite and cationic liposomes as a vector for BMP-2 gene therapy. by Ono I, Yamashita T, Jin HY, Ito Y, Hamada H, Akasaka Y, Nakasu M, Ogawa T, Jimbow K, Biomaterials 25:4709, 2004.
【非特許文献3】Enabling customizationEnabling customization of non-viral gene delivery systems for individual cell types by surface-induced mineralization. by Sun BB, Tran KK, Shen H, Biomaterials 30:6386, 2009.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、前述の従来技術における問題点を鑑みてなされたものであって、その第1の目的は、スキャッフォールド上の細胞に、場所特異的かつ高効率に遺伝子を導入することによって、目的とする組織や臓器への細胞分化を安全かつ効果的に促すことのできる組織再生用スキャッフォールド等を提供することにある。また、本発明の第2の目的は、該組織再生用スキャッフォールドを効率的に製造し得る方法を提供することにある。さらに本発明の第3の目的は、上記複合体を素材とする、組織再生用スキャッフォールド等の医療用材料及び歯科用材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、リン酸カルシウム捕捉層を有する基材の表面に、遺伝子と界面活性物質を含むアパタイト層を形成させた組織再生用スキャッフォールドを用いることによって、スキャッフォールド上の目的とする領域に接着した細胞に(場所特異的に)、従来法よりも効率的に遺伝子を導入できるという知見を得た。
【0014】
本発明はこれらの知見に基づいて完成に至ったものであり、本発明によれば、以下の発明が提供される。
[1]リン酸カルシウム捕捉層を有する基材の表面に、遺伝子と界面活性物質を含むリン酸カルシウム層を備え、該基材が遺伝子と界面活性物質を含まないことを特徴とする組織再生用スキャッフォールド。
[2]前記界面活性物質が、ベシクル安定型界面活性物質であることを特徴とする上記[1]の組織再生用スキャッフォールド。
[3]前記界面活性物質が、ポリアミドアミンデンドロンまたはデンドリマーを含む界面活性物質であることを特徴とする上記[1]又は[2]の組織再生用スキャッフォールド。
[4]前記界面活性物質が、(CH3(CH2)17)2NCH2CH2CONHCH2CH2N(CH2CH2CONHCH2CH2NH2)2、または(CH3(CH2)7CH=CH(CH2)8)2NCH2CH2CONHCH2CH2N(CH2CH2CONHCH2CH2NH2)2であることを特徴とする上記[1]〜[3]のいずれかの組織再生用スキャッフォールド。
[5]前記リン酸カルシウムがアパタイトを含むことを特徴とする上記[1]〜[4]のいずれかの組織再生用スキャッフォールド。
[6]前記遺伝子がプラスミド単体に保持された遺伝子であることを特徴とする上記[1]〜[5]のいずれかの組織再生用スキャッフォールド。
[7]上記[1]〜[6]のいずれかの組織再生用スキャッフォールドの表面に、培養された細胞を備えることを特徴とする組織再生体。
[8]表面にリン酸カルシウム捕捉層を有する基材を、遺伝子と界面活性物質を添加したリン酸カルシウム過飽和溶液に浸漬して遺伝子と界面活性物質を含むリン酸カルシウム層を基材表面に形成させる工程を備えることを特徴とする組織再生用スキャッフォールドの製造方法。
【発明の効果】
【0015】
ある種の界面活性物質は、水溶液中でベシクルを形成して遺伝子と結合し、遺伝子の細胞膜の通過、及び/または、エンドソームからの脱出を促すことにより、細胞への遺伝子導入効率を向上させる機能を有している。本発明の組織再生用スキャッフォールド表面においては、遺伝子及び界面活性物質を含むリン酸カルシウム層が、リン酸カルシウム捕捉層を介してスキャッフォールド基材の表面全面に均一に形成され、しかも同層が基材上に強固に固定されている。この遺伝子及び界面活性物質を含むリン酸カルシウム層は、生体内及び培養液中で部分的に溶解し、遺伝子及び界面活性物質を徐放する。徐放された遺伝子は、界面活性物質の働きによって、スキャッフォールド表面に接着した細胞内に高効率に導入される。また、リン酸カルシウム層中に担持させる界面活性物質の種類、量、濃度、遺伝子との比率等を変化させることによって、細胞への遺伝子導入効率や、遺伝子導入の場所特異性を調節することができる。
【0016】
界面活性物質よりなるベシクルは一般に、溶媒中の共存イオンやタンパク質、pH等の影響を受けやすく、形態安定性が低い。このため、タンパク質を含む血清入り培養液や体液中においては遺伝子導入効率向上機能が損なわれ易い。本発明に係る遺伝子及び界面活性物質を含むリン酸カルシウム層では、界面活性物質としてベシクル安定型界面活性物質を用いることにより、スキャッフォールドの製造過程(遺伝子及び界面活性物質を含むリン酸カルシウム層の形成過程)を経ても、界面活性物質の遺伝子導入効率向上機能が保持され、さらには、血清存在下での細胞への遺伝子導入過程においても、上記の遺伝子導入効率向上機能が十分に発揮される。従って、本発明に係る組織再生用スキャッフォールドは、細胞の分化を効果的に誘導することのできる遺伝子治療用材料、細胞培養用基材等の医療用材料及び歯科用材料として好適に使用することができる。また、本発明の製造法では、上記組織再生用スキャッフォールドを効率よく容易に得ることができる。
【0017】
本発明の組織再生用スキャッフォールドに用いられているアパタイト等のリン酸カルシウムはヒトの硬組織の主要無機成分であり、生体適合性と安全性に優れている。また、遺伝子及び界面活性物質を含むリン酸カルシウム層が遺伝子及び界面活性物質を徐放する際に部分的に溶解して生じるカルシウム及びリン酸イオンは、ヒトの体液にもともと含まれている成分である。一方、遺伝子導入効率を高めるために用いられている界面活性物質は、ウィルス系の遺伝子導入剤に比べて低毒性である。しかも、本発明の組織再生用スキャッフォールド表面においては、リン酸カルシウム層中に担持・固定化された界面活性物質が徐放することによって、スキャッフォールド表面に接着した細胞に場所特異的に作用する。従って、スキャッフォールド周辺の細胞が被爆する界面活性物質の量は極低レベルにとどまり、毒性の懸念は低い。
【0018】
本発明の組織再生用スキャッフォールド表面に形成させる、遺伝子及び界面活性物質を含むリン酸カルシウム層には、さらに細胞接着因子や溶解性制御因子を複合担持させることもできる。担持させる細胞接着因子の種類、量、及び濃度を変化させることによって、スキャッフォールド表面に接着する細胞の種類や数を変えたり、細胞とスキャッフォールドの親和性の特異性や強さを調節することができる。さらには、細胞への遺伝子導入効率を調節することや、遺伝子導入の場所特異性を調節することもできる。一方、担持させる溶解性制御因子の種類、量、及び濃度を変化させることによって、細胞への遺伝子導入の時期及び効率を調節することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例1で得られたLp溶液中のDNA−LpコンプレックスのSEM写真(a)、及び粒径分布(b)を示す図。
【図2】実施例1で得られた試料DLp1表面のSEM写真であり、(a)は、低倍率のものであり、(b)は、高倍率のものである。
【図3】実施例1で得られた試料DLp1表面のXPSスペクトルを示す図。
【図4】実施例1で得られた試料DLp1表面のTF−XRDパターンを示す図。
【図5】実施例1で得られた試料表面に担持されたDNA−Lpコンプレックスの量を示す図。
【図6】実施例1で得られた試料、及び同一ウェル内のPSPの表面で培養されたCHO−K1細胞のルシフェラーゼ活性を示す図。
【図7】比較例1で得られた試料D、及び実施例1で得られた試料DLp1の表面で培養されたCHO−K1細胞のルシフェラーゼ活性を示す図。
【図8】比較例2で得られた試料DF、及び実施例1で得られた試料DLp1の表面で培養されたCHO−K1細胞のルシフェラーゼ活性を示す図。
【図9】比較例3で得られた試料DLp1−ad、及び実施例1で得られた試料DLp1の表面に担持されたDNA−Lpの量を示す図。
【図10】比較例3で得られた試料DLp1−ad、及び実施例1で得られた試料DLp1からのDNA−Lpコンプレックスの溶出挙動を示す図であり、(a)は溶出量、(b)は試料表面の担持量に対する溶出率を示す。
【図11】比較例3で得られた試料DLp1−ad、及び実施例1で得られた試料DLp1からのカルシウムの溶出挙動(試料表面の担持量に対する溶出率)を示す図。
【図12】比較例3で得られた試料DLp1−ad、及び実施例1で得られた試料DLp1の、溶出試験後(72時間浸漬後)の表面のC1sXPSスペクトルを示す図。
【図13】比較例3及び実施例1で得られた試料の表面で培養されたCHO−K1細胞のルシフェラーゼ活性を示す図。
【図14】実施例2で得られた試料、及び同一ウェル内のPSPの表面で培養されたCHO−K1細胞のルシフェラーゼ活性を示す図。
【図15】実施例3で得られた試料(DLp0.1−L、DLp0.5−L、DLp1−L、DLp2−L)の表面に担持されたDNA−Lpコンプレックスの量を示す図。
【図16】実施例3で得られた試料(DLp1−H、DLp5−H、DLp10−H、DLp20−H)の表面に担持されたDNA−Lpコンプレックスの量を示す図。
【図17】実施例3で得られた試料(DLp0.1−L、DLp0.5−L、DLp1−L、DLp2−L)表面で培養されたCHO−K1細胞、及び同一ウェル内のPSPの表面で培養されたCHO−K1細胞のルシフェラーゼ活性を示す図。
【図18】実施例3で得られた試料(DLp1−H、DLp5−H、DLp10−H、DLp20−H)表面で培養されたCHO−K1細胞、及び同一ウェル内のPSPの表面で培養されたCHO−K1細胞のルシフェラーゼ活性を示す図。
【図19】実施例4で得られたDNA−界面活性物質コンプレックスのSEM写真であり、それぞれ、(a)は、lipofectamine(調製直後)、(b)は、lipofectamine(4℃、7日後)、(c)は、Lp(調製直後)、(d)は、Lp(4℃、7日後)、(e)は、Lp(25℃、7日後)、(f)は、Lp(37℃、7日後)、のSEM写真である。
【図20】実施例4で得られたDNA−界面活性物質コンプレックス溶液を種々の期間静置後、CHO−K1細胞へ遺伝子導入を行った際のルシフェラーゼ活性を示す図。
【図21】実施例4で得られた試料(DLf0.1、DLf0.5、DLf1)の表面で培養されたCHO−K1細胞、及び同一ウェル内のPSPの表面で培養されたCHO−K1細胞のルシフェラーゼ活性を示す図。
【図22】実施例4で得られた試料(DDp0.1、DDp0.5、DDp1)の表面で培養されたCHO−K1細胞、及び同一ウェル内のPSPの表面で培養されたCHO−K1細胞のルシフェラーゼ活性を示す図。
【図23】実施例5で得られた試料表面に担持されたラミニンの量を示す図。
【図24】実施例5で得られた試料表面で培養されたCHO−K1細胞、及び同一ウェル内のPSPの表面で培養されたCHO−K1細胞のルシフェラーゼ活性を示す図。
【図25】実施例5で得られた試料表面で培養されたCHO−K1細胞と、同一ウェル内のPSPの表面で培養されたCHO−K1細胞のルシフェラーゼ活性の比を示す図。
【図26】未処理ポリスチレン基板、及び実施例6で得られた試料表面のSEM写真であり、それぞれ、(a)は、未処理ポリスチレン基板、(b)は、DLp1−CP25、(c)は、DLp1−CP37、(d)は、DLp1−RKB25(低倍率)、(e)は、DLp1−RKB25(高倍率)、のSEM写真である。
【図27】比較例4で得られた試料表面のSEM写真であり、それぞれ、(a)は、DLp1−CP25(ACP−)、(b)は、DLp1−CP37(ACP−)(低倍率)、(c)は、DLp1−CP37(ACP−)(高倍率)、(d)は、DLp1−RKB25(ACP−)(低倍率)、(e)は、DLp1−RKB25(ACP−)(高倍率)、のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の組織再生用スキャッフォールドは、リン酸カルシウム捕捉層を有する基材の表面に、遺伝子と界面活性物質を含むリン酸カルシウム層を備え、該基材が遺伝子と界面活性物質を含まないことを特徴としている。これによって、スキャッフォールド表面に接着した細胞に、場所特異的かつ高効率に遺伝子を導入することができる。また、本発明の上記組織再生用スキャッフォールドの製造方法は、表面にリン酸カルシウム捕捉層を有する基材と、遺伝子及び界面活性物質を含むリン酸カルシウム過飽和溶液とを接触させる工程を含むことを特徴としている。
【0021】
本発明では、少なくともその表面が親水性である基材を用いる必要がある。基材表面が親水性でないと、基材表面と処理溶液との接触が不十分となり、基材の表面全面にリン酸カルシウム捕捉層が導入されず、遺伝子及び界面活性物質を含むリン酸カルシウム層を均一に形成させることが困難となるからである。また、親水性でない基材表面に、遺伝子及び界面活性物質を含むリン酸カルシウム層を形成させたとしても、基材との接着強度が不十分となるからである。なお、基材には遺伝子と界面活性物質のいずれも含まれていない。
ここで、少なくともその表面が親水性を有する基材とは、基材自体が親水性を有するものはもちろんのこと、基材自体は親水性を有するものではないが、親水化処理(粗面化処理を含む)によって、表面が親水性となるもの、水溶液中で徐々に親水性に変化するものも包含される。
親水化処理としては、それ自体公知のものがいずれも適用でき、プラズマ処理、レーザー処理、グロー放電処理、コロナ放電処理、アルカリ溶液処理、酸溶液処理、酸化剤処理、親水性官能基のグラフト処理、シランカップリング処理、陽極酸化処理、粗面化処理、等を採ればよい。
【0022】
上記条件を満たすものであれば、基材は特に限定されず、無機、有機いずれの材料も使用できるし、それらの複合体であっても良い。無機基材としては、金属、セラミックス、無機高分子等が、有機基材としては、有機高分子、低分子有機化合物、超分子等が使用される。
【0023】
具体的には、金属としては、例えば、チタン、タンタル、ニオブ、コバルト、クロム、モリブデン、プラチナ、アルミニウム、またはこれらの2種以上の金属の合金、ステンレス、真ちゅう等が、セラミックスとしては、例えば、焼結リン酸三カルシウム、リン酸カルシウム硬化体、焼結アパタイト、シリカ、チタニア、アルミナ、ジルコニア、部分安定化ジルコニア、コージェライト、ゼオライト、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化ホウ素、炭化チタン、ダイアモンド、シリカガラス、ソーダ石灰ガラス、ケイ酸塩ガラス、鉛ガラス、ホウケイ酸塩ガラス、アルミノケイ酸塩ガラス、リン酸塩ガラス、カルコゲンガラス、ハンダガラス、コパール用ガラス、Pyrexガラス、これらの結晶化ガラス等が、無機高分子としてはシリコーンポリマー等のケイ素含有ポリマー等が、有機高分子としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリアルキレングリコール、ポリエーテル、ポリエーテルエーテルケトン等の酸素含有高分子、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリスルフォン、ポリアミン、ポリウレア、ポリイミド、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル等の合成高分子、こられの共重合体、セルロース、アミロース、アミロペクチン、キチン、キトサン等の多糖類、コラーゲン等のポリペプチド、ヒアルロン酸、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸等のムコ多糖類等の天然高分子が好ましく挙げられる。
【0024】
また、本発明で用いる上記基材の形状は限定されない。例えば、ブロック状、平板状、フィルム状、膜状、棒状、筒状、メッシュ状、繊維状、多孔体状、粒子状、スポンジ状、織物状、編み物状等が好ましく挙げられる。
【0025】
リン酸カルシウム捕捉層とは、リン酸カルシウム過飽和水溶液中においてリン酸カルシウムの形成を促し、該リン酸カルシウムを基材表面に堅固に固定化できる層を意味する。リン酸カルシウム捕捉層には遺伝子も界面活性物質も含まれない。表面にリン酸カルシウム補足層の設けられていない基材を用いると、リン酸カルシウム過飽和水溶液中においてリン酸カルシウムの形成に長期間を要し、基材の表面にリン酸カルシウムが全く形成されない、あるいは、基材の表面の一部にしかリン酸カルシウムが形成されない。また、表面にリン酸カルシウム補足層の設けられていない基材表面に、遺伝子及び界面活性物質を含むリン酸カルシウム層を形成させたとしても、基材との接着強度が不十分となる。
リン酸カルシウム捕捉層を構成する物質としては、Si−OH基、Ti−OH基、カルボキシル基、リン酸基、硫酸基、水酸基等の官能基(これらの官能基やその前駆体を含有するシランカップリング剤やグラフト鎖、金属酸化物ゲル等も包含される)や、それらの官能基にアルカリ金属またはアルカリ土類金属イオンを結合させたものや、炭酸カルシウム、アパタイト、アパタイトの前躯体であるリン酸カルシウム等、少なくともリン、及び/又は、カルシウムを含む化合物が有効である。
この中でも、リン酸カルシウムの形成を誘起する速度の観点から、アパタイト、及び、アモルファスリン酸カルシウム等のアパタイトの前躯体が好ましく使用される。
【0026】
リン酸カルシウム捕捉層は、基材の少なくとも表面に設けられていればよい。必ずしも第1層、第2層、という多重層構造をとる必要はなく、基材の表面及び内部の全体に渡ってリン酸カルシウム捕捉層が存在していてもよい。リン酸カルシウム捕捉層は、化学処理等によって種々の基材の表面に設けても良いし、焼結リン酸三カルシウム、焼結ハイドロキシアパタイト、リン酸カルシウム硬化体等のリン酸カルシウムを含有する基材のように、初めからリン酸カルシウム捕捉層を少なくとも表面に有する基材を用いても良い。
【0027】
本発明に係る遺伝子及び界面活性物質を含有するリン酸カルシウム層とは、リン酸カルシウムマトリックス層の内部及び表面に遺伝子及び界面活性物質が存在する層と定義される。この遺伝子及び界面活性物質を含有するリン酸カルシウム層においては、リン酸カルシウム層の外表面のみに遺伝子及び界面活性物質を吸着させた場合とは異なり、リン酸カルシウムマトリックス層の内部にまで遺伝子及び界面活性物質が担持されている。これによって、多量の遺伝子及び界面活性物質がリン酸カルシウムマトリックス層中に安定に担持、固定化される。このため、遺伝子及び界面活性物質を含有するリン酸カルシウム層が培養液や生理食塩水等の水溶液中に浸漬されると、同層の表面から、遺伝子及び界面活性物質が長期間に渡って徐放される。以上のような効果により、遺伝子及び界面活性物質を含有するリン酸カルシウム層に接着した細胞に高効率に遺伝子が導入される。
【0028】
本発明で用いるリン酸カルシウムとしては、ハイドロキシアパタイト、オキシアパタイト、ピロリン酸アパタイト、ハイドロキシアパタイトの構成イオンの一部が炭酸イオン、塩化物イオン、フッ化物イオン、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン等で置換された化合物、アモルファスリン酸カルシウム、リン酸三カルシウム、リン酸四カルシウム、リン酸八カルシウム、二リン酸カルシウム、メタリン酸カルシウム、二リン酸二水素カルシウム、ホスフィン酸カルシウム、リン酸水素カルシウム二水和物、リン酸二水素カルシウム一水和物、ホスホン酸カルシウム一水和物、ビス(リン酸二水素)カルシウム一水和物、これらの無水物、これらの混合物や、これらの中間物質等からなるリン酸カルシウム系化合物を挙げることができる。また、リン酸三カルシウムは、マグネシウム、亜鉛等6配位イオン半径が0.5オングストローム以上0.8オングストローム以下の2価金属イオンを含有して水溶液から沈殿するリン酸三カルシウムを含む。特に、生体組織との親和性、体内環境における安定性から、ハイドロキシアパタイト、及び、その構成イオンの一部が炭酸イオン、塩化物イオン、フッ化物イオン、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン等で置換された化合物を好ましく挙げることができる。
【0029】
界面活性物質とは、分子内に親水基と疎水基(親油基)の両者を有する物質を指す。本発明で用いる界面活性物質は、水溶液中でベシクルを形成して遺伝子と結合し、遺伝子の細胞膜の通過、及び/または、エンドソームからの脱出を促すことにより、細胞内に遺伝子が導入される効率(遺伝子導入効率)を向上させる機能を有している。
【0030】
ベシクルとは、水溶液中において、界面活性物質の分子集合体を外殻とし、内部に水相を封じた球状膜構造体を指す。本発明で用いる界面活性物質が水溶液中で形成するベシクルの大きさは限定されない。直径数十nmの小さなベシクルでも、直径数百nmの大きなベシクルでも、直径数μm以上の巨大ベシクルでも良い。また、上記のベシクルの構造は限定されない。外殻が1枚膜からなるベシクルでも、大きな1枚膜からなるベシクルでも、二重あるいは多重の膜からなるベシクルでも良いし、入れ子構造をとるベシクルでも良い。また、ベシクルの外殻を形成する膜は、界面活性物質の二分子膜でも単分子膜でも良い。
【0031】
本発明の組織再生用スキャッフォールドでは、遺伝子及び界面活性物質を含むリン酸カルシウム層が基材の表面に形成されている。この遺伝子及び界面活性物質を含むリン酸カルシウム層は、生体内及び培養液中で部分的に溶解し、遺伝子及び界面活性物質を徐放する。徐放された遺伝子は、界面活性物質の働きによって、スキャッフォールド表面に接着した細胞内に高効率に導入される。
【0032】
本発明に係る遺伝子及び界面活性物質を含有するリン酸カルシウム層中に担持させる界面活性物質の種類、量、濃度、遺伝子との比率を変化させることによって、同層に接着した細胞への遺伝子導入効率や、遺伝子導入の場所特異性を調節することができる。
【0033】
本発明で用いる界面活性物質は、遺伝子導入効率向上機能を有するものであれば、その種類は限定されない。例えば、硫酸エステル(塩)、スルホン酸(塩)、アルキルベンゼンスルホン酸(塩)、リン酸(塩)、カルボン酸(塩)等の陰イオン界面活性物質や、アンモニウム塩等の陽イオン界面活性物質や、ポリオキシエチレンエーテル、グルコシド、アミンオキシド等の非イオン界面活性物質や、N−ベタイン、C−ベタイン等の両イオン界面活性物質を挙げることができる。
【0034】
本発明で用いる界面活性物質は、1本の分子鎖からなっていても2本以上の分子鎖からなっていても良いが、ベシクルの形成性、安定性の点から、炭素数12〜22の2本のアルキル鎖(ペルフルオロアルキル鎖を含む)を疎水基として含む、ジアルキル型界面活性物質であることが好ましい。ジアルキル型界面活性物質を用いると、アルキル鎖間の強い分子間力のために、二分子膜を外殻とする安定なベシクルを容易に形成させることができる。
【0035】
上記のジアルキル型界面活性物質としては、合成のジアルキル型界面活性物質はもちろんのこと、リン脂質、糖脂質、グリセド脂質、セラミド脂質等の両親媒性脂質やこれらを含む化合物を用いても良い。
【0036】
一般に、界面活性物質の集合により形成されるベシクルは溶媒中の共存イオンやタンパク質、pH等の影響を受けやすく、特にタンパク質を含む血清入り培養液や体液中においては形態安定性が低いことが知られている。このため、ベシクル安定型でない一般の界面活性物質を血清入り培養液中で遺伝子導入剤として使用(リン酸カルシウム層に担持させずに粒子状導入剤を細胞に振りかけて使用)すると、血清無し培養液中で使用する場合に比べて細胞への遺伝子導入効率は低くなる。一方ベシクル安定型界面活性物質は、血清入り培養液中においても血清無し培養液中とほぼ同等の遺伝子導入効率を発揮することができる。しかもその遺伝子導入効率は、界面活性物質を水溶液中で長期間保存した後においても低下しない。
【0037】
従って、本発明で用いる界面活性物質としては、遺伝子導入効率向上機能の点から、界面活性物質の中でもベシクル安定型界面活性物質が特に好適に用いられる。ベシクル安定型界面活性物質とは、水溶液中においてベシクルを形成し、37℃以下で24時間以上その構造を安定に保持することのできる界面活性物質を指す。界面活性物質としてベシクル安定型界面活性物質を用いると、スキャッフォールドの製造工程(遺伝子及び界面活性物質を含有するリン酸カルシウム層の形成工程)を経ても、界面活性物質の遺伝子導入効率向上機能が十分に保持される。さらには、血清入り培養液や体液中においても、スキャッフォールド上に接着した細胞への遺伝子導入効率向上機能が十分に発揮される。
【0038】
ベシクル安定型界面活性物質としては、ベシクルの安定性ならびに遺伝子導入効率向上機能の点から、ポリアミドアミンデンドロン又はデンドリマーを含む界面活性物質が特に好適に用いられる。
【0039】
上記のポリアミドアミンデンドロン又はデンドリマーを含む界面活性物質は限定されないが、例えば、下記式のいずれかで表される化合物や、下記式の1つ以上の末端のアミノ基が、低級アシル基、リン脂質極性基、ガラクトース、ポリエチレングリコール等で置換または修飾された化合物を好ましく挙げることができる。
R1R2NX(XH2)2
R1R2NX(X(XH2)2)2
R1R2NX(X(X(XH2)2)2)2
R1R2NX(X(X(X(XH2)2)2)2)2
R1R2NX(X(X(X(X(XH2)2)2)2)2)2
R1R2NX(X(X(X(X(X(XH2)2)2)2)2)2)2
R1R2NX(X(X(X(X(X(X(XH2)2)2)2)2)2)2)2
R1R2NX(X(X(X(X(X(X(X(XH2)2)2)2)2)2)2)2)2
(R1、R2:同一または異なるアルキル基、アルコキシ基、アリール基またはアラルキル基。X : CH2CH2CONHCH2CH2N)
【0040】
上記のポリアミドアミンデンドロン又はデンドリマーを含む界面活性物質の中でも、第一世代ポリアミドアミンデンドロン又はデンドリマーを含む界面活性物質[R1R2NCH2CH2CONHCH2CH2N(CH2CH2CONHCH2CH2NH2)2]、さらに好ましくは[CH3(CH2)17]2NCH2CH2CONHCH2CH2N(CH2CH2CONHCH2CH2NH2)2あるいは[CH3(CH2)7CH=CH(CH2)8]2NCH2CH2CONHCH2CH2N(CH2CH2CONHCH2CH2NH2)2は、高いベシクル安定性、及び遺伝子導入効率向上機能を示すことから、本発明で用いる界面活性物質として、特に好適に用いられる。
【0041】
ポリアミドアミンデンドロン又はデンドリマーを含む界面活性物質の遺伝子導入効率向上機能は以下の様に説明される。ポリアミドアミンデンドロン又はデンドリマーを含む界面活性物質は細胞膜あるいはエンドソームの膜との膜融合機能を有しており、細胞内への遺伝子の取り込みを促進する。エンドサイトーシスによって細胞内に取り込まれた遺伝子を発現させるためには、エンドソームから遺伝子を脱出させる必要がある。エンドソーム内部のpHは、エンドソーム表面に存在するプロトンポンプの働きでエンドソーム内にプロトンが流入することによって低下する。しかし、ポリアミドアミンデンドロン又はデンドリマー中の3級アミンがプロトンを吸収する(プロトンスポンジ効果)ため、pHの低下が緩やかになる。このため、更に多くのプロトンがエンドソーム内に流入する。この時、電荷のバランスを取るためにプロトンだけでなくアニオンもエンドソーム内に流入する。こうして生じるエンドソーム内外の浸透圧の差を解消するために水がエンドソーム内に流入し、その結果エンドソームが破裂する。以上のような機構で、ポリアミドアミンデンドロン又はデンドリマーを含む界面活性物質はエンドソームからの遺伝子の脱出を促進する。すなわち、ポリアミドアミンデンドロン又はデンドリマーを含む界面活性物質は、遺伝子の細胞内への取り込みとエンドソームからの脱出を促進することによって、細胞への遺伝子導入高率を向上させる。
【0042】
本発明に係る遺伝子及び界面活性物質を含有するリン酸カルシウム層中に担持させる界面活性物質及び遺伝子の量は限定されないが、遺伝子導入効率向上機能の点から、厚さ数μm、面積1cm 2のリン酸カルシウム層に対し、界面活性物質の量で0.59〜 18.9μg、好ましくは1.29〜18.9μg、さらに好ましくは3.31〜7.33μg、遺伝子の量で0.21〜6.78μg、好ましくは0.46〜6.78μg、さらに好ましくは1.19〜2.63μg、界面活性物質及び遺伝子の総量で0.80〜25.7μg、好ましくは1.75〜25.7μg、さらに好ましくは4.50〜9.96μgとすれば良い。
【0043】
本発明に係る遺伝子及び界面活性物質を含有するリン酸カルシウム層中に担持させる遺伝子及び界面活性物質の比率は限定されないが、遺伝子導入効率向上機能の点から、遺伝子:界面活性物質の質量比で、1:0.7〜1:45、好ましくは1:1.4〜1:33.8、さらに好ましくは1:2.8〜1:22.5とすれば良い。
【0044】
本発明に係る遺伝子及び界面活性物質を含むリン酸カルシウム層には、さらに細胞接着因子が含まれていても良い。担持させる細胞接着因子の種類、量、及び濃度を変化させることによって、スキャッフォールド表面に接着する細胞の種類や数を変えたり、細胞とスキャッフォールドの親和性の特異性や強さを調節することができる。さらには、細胞への遺伝子導入効率を調節することや、遺伝子導入の場所特異性を調節することもできる。細胞接着因子としては、ある細胞に対して接着性を有するタンパク質、ペプチド鎖、糖鎖、細胞表面分子への抗体、酵素、合成分子、及びそれらを含む物質を挙げることができる。細胞接着性を有するタンパク質の例としては、インテグリンスーパーファミリー、コラーゲンファミリー、ラミニンファミリー、エピリグリン、VCAM (vascular cell adhesion)、フィブロネクチン、MAdCAM (mucosal addression cell adhesion molecule)、テナイシンファミリー、ビトロネクチン、ICAM (intercellular adhesion molecule)、NCAM (neural cell adhesion molecule)、フィブリノーゲン、第X因子、フォンビルブランド因子、カドヘリンスーパーファミリー、カテニン、トロンボスポンジン、セレクチンファミリー、プロテオグリカンファミリー(シンデカン、アグリカン、デコリン、ビグリカン、ニューロカン、オスファカン等)、アネキシン、ロイシンリッチリピートスーパーファミリー、免疫グロブリンスーパーファミリー(免疫グロブリン、主要組織適合抗原複合体、T細胞受容体複合体、細胞増殖因子受容体、マクロファージコロニー刺激因子受容体、CD2、CD4、CD8、ICAM、VCAM、Thy1、OX2、L1、MAG(myelin associated glycoprotein)、コンタクチン等)、オステオポンチン、VAP−1、バーシカン、APCタンパク質、レクチン等を挙げることができるが、これらに限定されない。細胞接着性を有するペプチド鎖の例としては、YIGSR、IKVAV、RGD、RGDS、GRGDS、RGDSPA、RVDSPA、GRGDSP、LDV、REDV、DEGA、EILDV、GPRP、KQAGDV、RNIAEIIKDI、KHIFSDDSSE、VPGIG、FHRRIKA、KRSR、NSPVNSKIPKACCVPTELSAI、APGL、VRN、AAAAAAAAA、NRWHSIYITRFG、TWYKIAFQRNRK、RKRLQVQLSIRT等の配列を含有するペプチド鎖を挙げることができるが、これらに限定されない。細胞接着性を有する糖鎖の例としては、マンノース含有糖鎖、α−グルコシル化N型糖鎖、シアル酸含有糖鎖、HNK−1抗体、シアリルLewisx、N型糖鎖、三及び四本鎖複合型糖鎖、ヘパリン、ヘパラン硫酸、アシアロ二本鎖糖鎖、GPIアンカー糖鎖、糖脂質GM4、シアリルTn抗原等を挙げることができるが、これらに限定されない。細胞接着性を有する酵素の例としてはリゾチーム等を挙げることができるが、これに限定されない。細胞接着性を有する合成分子の例としては、ポリ−L−リジン、ポリカチオニックフェリチン、ポリビニルラクトンアミド等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0045】
本発明に係る遺伝子及び界面活性物質を含むリン酸カルシウム層には、さらに溶解性制御因子が含まれていても良い。溶解性制御因子は、リン酸カルシウム層と複合化して、その溶解性を変化させることのできる物質を指す。これによって、リン酸カルシウム層から放出された遺伝子が細胞内に導入される時期、及び遺伝子導入効率を調節することができる。溶解性制御因子としては、それ自体公知のものが何れも適用でき、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、亜鉛、マグネシウム、鉄、ナトリウム、炭酸、ケイ素、チタン、ジルコニウム、ビスフォスフォネート等、及びその化合物等を挙げることができる。これらの溶解性制御因子は、層中のリン酸カルシウム相に応じて、溶解性増大、または低下効果を発揮することができる。例として、マグネシウムや亜鉛はリン酸三カルシウムやアモルファスリン酸カルシウムに対しては溶解性低下効果があり、ハイドロキシアパタイトに対しては溶解性増大効果がある。さらに、炭酸はアモルファスリン酸カルシウムに対しては溶解性低下効果があり、ハイドロキシアパタイトに対しては溶解性増大効果がある。但し、リン酸カルシウム相に溶解性増大あるいは低下効果をもたらす溶解性制御因子の組合せはこれらの例に限定されるものではない。
【0046】
本発明で用いる遺伝子としては、例えばプラスミド単体や、高分子やウイルス等のベクターに保持された遺伝子が挙げられる。それぞれの遺伝子が持つ遺伝情報は異なっても、遺伝子は物質的に同一であるので、遺伝子の種類は限定されない。
【0047】
本発明のスキャッフォールドを作製するには、たとえば、基材表面にリン酸カルシウム捕捉層を形成させた後(第1工程)、同基材を、遺伝子及び界面活性物質を含有させたリン酸カルシウム過飽和水溶液に浸漬して、基材表面に、遺伝子及び界面活性物質を含むリン酸カルシウム層を形成させる(第2工程)ことにより行われる。
【0048】
第1工程は、具体的には、例えば次のように行えばよい。基材を、200mMの塩化カルシウム水溶液に10秒間、次いで超純水に1秒間浸漬した後、風乾する。続いて、基材を200mMのリン酸水素二カリウム・三水和物水溶液に10秒間、次いで超純水に1秒間浸漬した後、風乾する。以上の操作を交互に3回繰り返す。同処理によって、基材表面にリン酸カルシウム捕捉層が形成される。リン酸カルシウム捕捉層の厚みに特別な制限はないが、好ましくは0.001nm〜1μm、さらに好ましくは0.01〜300nmである。
【0049】
第2工程は、表面にリン酸カルシウム捕捉層を有する基材を、遺伝子及び界面活性物質を添加したリン酸カルシウム過飽和溶液に浸漬することにより、基材表面に、遺伝子及び界面活性物質を含むリン酸カルシウム層を形成させる方法が好ましく採用される。遺伝子及び界面活性物質を含むリン酸カルシウム層の厚みに特別な制限はないが、好ましくは100nm〜10μm、さらに好ましくは500nm〜3μmである。焼結リン酸三カルシウム、焼結ハイドロキシアパタイト、リン酸カルシウム硬化体等のリン酸カルシウムを含有する基材のように、初めからリン酸カルシウム捕捉層を少なくとも表面に有する基材であれば、第1工程を省略し、第2工程だけで基材表面に、遺伝子及び界面活性物質を含むリン酸カルシウム層を形成させても良い。
【0050】
ここで、リン酸カルシウム過飽和溶液とは、リン酸カルシウムの溶解度以上のカルシウムイオン及びリン酸イオンを含む溶液のことを意味する。リン酸カルシウム過飽和溶液のリン酸カルシウムに対する過飽和度、すなわち溶液の安定性は、溶液の成分濃度及びpHによって決まる。リン酸カルシウム過飽和溶液は、溶液調製完了後24時間以内に自発核形成によるリン酸カルシウムの析出を誘起するような不安定な溶液であってもいいし、24時間以上リン酸カルシウムの析出を誘起しない準安定な溶液であっても良い。溶液調製直後は準安定な溶液であって、その後、温度やpH変化等によって不安定溶液に変化する溶液であっても良い。また、溶液調製直後は不飽和で、その後、温度やpH変化等によって過飽和に変化する溶液であっても良い。
【0051】
リン酸カルシウム過飽和溶液は、種々の公知の方法で調製することができる。リン酸カルシウム過飽和溶液としては、例えば、Hank’s溶液、ヒトの体液とほぼ等しい無機イオン濃度を有する水溶液(擬似体液)、擬似体液と同等の塩化ナトリウム濃度、及び、擬似体液の1.5倍のリン酸及びカルシウムイオン濃度を有する水溶液、擬似体液の5倍のイオン濃度を含む水溶液、医療用輸液の混合液等を挙げることができる。
【0052】
遺伝子及び界面活性物質は、リン酸カルシウム過飽和溶液の調製前、調製中、調製後のいずれのタイミングで溶液に添加しても構わない。また、遺伝子及び界面活性物質は、同時にリン酸カルシウム過飽和溶液に添加しても良いし、それぞれ別のタイミングで添加してもいい。添加する遺伝子及び界面活性物質は凍結乾燥粉体のような固体状でも良いし、培養液や生理食塩水のような溶液に溶解された液状でも良い。
【0053】
リン酸カルシウム過飽和溶液に添加する遺伝子及び界面活性物質は、それぞれ1種でも良いし、2種以上の遺伝子及び界面活性物質を添加しても良い。
【0054】
リン酸カルシウム過飽和溶液に添加する遺伝子及び界面活性物質は水溶性であることが望ましいが、非水溶性であっても、それをアルブミン等の水溶性担体タンパク質またはポリエチレングリコール、エチレングリコールとプロピレングリコールの共重合体、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリピニルピロリドン、ポリ−1,3−ジオキソラン、ポリ1,3,6−トリオキサン、エチレンと無水マレイン酸の共重合体、ポリアミノ酸類等の水溶性高分子と複合化させることにより水溶性化してもよい。上記複合化には、両者の官能基や表面電荷等を利用すればよく、種々の公知の方法で複合化させることができる。
【0055】
リン酸カルシウム過飽和溶液に添加する遺伝子及び界面活性物質は、基材表面に形成されるリン酸カルシウム層への担持効率の観点から、リン酸カルシウムと親和性を有することが望ましいが、親和性の低い場合であっても、それをポリアクリル酸、ポリエチレングリコール、テトラサイクリン、アルブミン等、リン酸カルシウムと高い親和性を有する物質と複合化させて用いても良い。上記複合化には、両者の官能基や表面電荷等を利用すればよく、種々の公知の方法で複合化させることができる。
【0056】
基材表面のリン酸カルシウム層の成長を完全には阻害しない限り、リン酸カルシウム過飽和溶液中に添加される遺伝子及び界面活性物質の濃度、及びそれらの比は限定されないが、遺伝子導入効率向上の点から、遺伝子の添加濃度で、0.1〜20μg/mL、好ましくは0.5〜10μg/mLとすれば良く、遺伝子:界面活性物質の質量比で、1:0.7〜1:45、好ましくは1:1.4〜1:33.8、さらに好ましくは1:2.8〜1:22.5とすれば良い。
【0057】
第2工程において、表面にリン酸カルシウム捕捉層を有する基材をリン酸カルシウム過飽和溶液中に浸漬する期間は限定されないが、浸漬期間が短すぎると、遺伝子及び界面活性物質を含むリン酸カルシウム層が十分量形成されない。浸漬期間が長くなると、リン酸カルシウム過飽和溶液が過飽和である限り、基材表面における遺伝子及び界面活性物質を含むリン酸カルシウム層の厚みが増していく。層の厚みが増すと、基材表面に担持される遺伝子及び界面活性物質の量は増加する一方、層と基材との接着強度は低下する。従って浸漬期間としては、好ましくは3〜72時間、さらに好ましくは12〜48時間とすれば良い。
【0058】
以上に示した方法を用い、遺伝子及び界面活性物質を添加したリン酸カルシウム過飽和溶液とリン酸カルシウム捕捉層を有する基材とを接触させることにより、リン酸カルシウム捕捉層上に、遺伝子及び界面活性物質を含むリン酸カルシウム層が形成される。その結果、遺伝子及び界面活性物質を含有するリン酸カルシウム層を表面に有する人工材料が得られる。
【実施例】
【0059】
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。本発明はこの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
〔実験方法〕
DNA−界面活性物質コンプレックス溶液の調製
超純水にトリスヒドロキシメチルアミノメタン(Tris)(20 mM)を溶解した後、1M HClを用いて25℃でpHを7.40に調整することにより、Tris−HCl緩衝液を調製した。上記のTris−HCl緩衝液にDNAを26.7 μg/mLの濃度で添加した溶液1860 μLに、第一世代ポリアミドアミンデンドロンを含む界面活性物質[Lp、片山化学提供;(CH3(CH2)17)2NCH2CH2CONHCH2CH2N(CH2CH2CONHCH2CH2NH2)2]1115 μgを添加することにより、DNA−Lpコンプレックス[DNA:Lp =1:22.5(質量比)]を含む溶液(DLp溶液)を調製した。Lpは水溶液中でベシクルを形成し、DNAと結合してコンプレックスを形成することにより、細胞への遺伝子導入を促進することが知られている。DNAとしては、ルシフェラーゼの相補的遺伝子を含むプラスミド(pGL3−contlol vector、Promega)を用いた。
【0060】
DNA−Lpコンプレックスの評価
DLp溶液中のDNA−Lpコンプレックスの粒子径を、動的光散乱法(Zetasizer Nano ZS、Malvern)により評価した。また、DLp溶液を50 nmの細孔径を有するメンブレンフィルター(MF-Millipore、日本ミリポア)に通すことによって、DNA−Lpコンプレックスをフィルターの表面に捕捉し、超純水で洗浄、凍結乾燥させた。フィルター表面のDNA−Lpコンプレックスの構造を、走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した。
【0061】
コーティング溶液の調製
超純水にNaCl(142 mM)、K2HPO4・3H2O(1.50 mM)、1M HCl(40 mM)、及びCaCl2、(3.75 mM)を溶解した後、Tris(50 mM)と必要量の1M HClを用いて25℃でpHを7.40に調整することにより、アパタイトに対して過飽和な水溶液(CP液)を調製した。このCP液に、DNA濃度が0.1、0.5、1.0、2.0 μg/mLとなるように上記のDLp溶液を添加した溶液をコーティング溶液とした。なお、上記のCP液及びコーティング溶液は、調製後24時間以上リン酸カルシウムの析出を誘起しない準安定な過飽和溶液である。
【0062】
試料の作製(第1工程)
溶融、プレス成型して得られたエチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)基板(厚み1 mm、縦10 mm、横10 mm)の片面を#2000の研磨紙で研磨することにより、基板の表面を親水化させた(研磨面を表面、非研磨面を裏面とする。)。同基板をアセトン及びエタノールで超音波洗浄した後、100℃で24時間真空乾燥させた。上記基板を、200 mM CaCl2水溶液 20 mLに10秒間、同量の超純水に1秒間浸した後乾燥させ、次いで、200 mM K2HPO4・3H2O水溶液 20 mLに10秒間、同量の超純水に1秒間浸浸した後乾燥させた。以上のカルシウム及びリン酸イオン水溶液への交互浸漬処理を3回繰り返した。本工程により、EVOH基板の表面にはアパタイトの前駆体であるアモルファスリン酸カルシウムが導入される。
【0063】
試料の作製(第2工程)
第1工程によりアモルファスリン酸カルシウムを表面に導入した基板をエチレンオキサイドガスで滅菌した後、上記のコーティング溶液3 mL中に、容器の蓋を密閉した状態で、25℃で24時間浸漬した。得られた試料を、コーティング溶液中に添加されたDNAの濃度 x μg/mLを用いて、DLp x(DLp0.1、DLp0.5、DLp1、DLp2)と略称する。
【0064】
試料の表面構造評価
第2工程により得られた試料の表面構造を、SEM観察、X線光電子分光分析(XPS)、及び薄膜X線回折(TF−XRD)により調べた。XPS測定においてはAlKα線を、TF−XRD測定においてはCuKα線を、それぞれ照射X線とした。また、紫外−可視光(UV−Vis)分光分析により、基板の浸漬によるコーティング溶液中のDNA−Lpコンプレックスの濃度変化を調べ、試料表面に担持されたDNA−Lpコンプレックスの量を算出した。
【0065】
遺伝子導入効率評価
細胞培養用ポリスチレン製24ウェルプレート(PSP)内の各ウェルに試料を1枚ずつ設置し、CHO−K1細胞を播種した(5.0×104 cells/0.5 mL培養液/ウェル)。培養液としては、10 vol%のウシ胎児血清(FBS、GIBCO)を添加したRPMI1640培養液(Gibco)を用いた。3日間培養(5 %炭酸雰囲気中、37℃)した後、試料表面及び同一ウェル内の試料周辺のPSP表面に接着した細胞のルシフェラーゼ活性をLuciferase Assay Kit(Promega)及びルミノメーターを用いて評価することにより、それぞれの表面における細胞へのルシフェラーゼ遺伝子の導入効率を調べた。
【0066】
〔結果と考察〕
DNA−Lpコンプレックスの構造評価
SEM観察の結果、DLp溶液中には直径数百nmの球状粒子が存在することが確認された[図1(a)]。動的光散乱測定の結果、同粒子の直径は約150 nm であった[図1(b)]。以上の結果から、DLp溶液中においてLpが球状のベシクルを形成することが確認された。同ベシクルの内部、及び/または、表面にDNAが結合することにより、DNA−Lpコンプレックスが形成されていると考えられる。
【0067】
試料の表面構造評価
代表的な試料として、DLp1の表面構造評価の結果を図2〜4に示す。図2のSEM写真に示すように、試料の表面全面にマイクロスケールの微細構造を有する均一な層が観察された。図3に示すXPS測定の結果から、同層はリン、及びカルシウムを含むリン酸カルシウム層であることが確認された。また、図4のTF−XRDパターンにおいて、アパタイトに帰属されるブロードな回折ピークが検出されたことから、同層は低結晶性のアパタイトからなることが確認された。DLp1以外の試料についても、上記と同様の結果が得られた。
図5に、UV−Vis分光分析の結果から算出された、試料表面のDNA−Lpコンプレックスの担持量を示す。この結果から、いずれの試料表面にもDNA−Lpコンプレックスが担持されていることが確認された。DNA−Lpコンプレックス担持量は、コーティング溶液中のDNA濃度が0.1から1.0 μg/mLに増加するのに伴い9.3 ± 2.6 μg/cm2まで増大したが、DNA濃度2.0 μg/mLの条件では減少に転じた。すなわち、コーティング溶液中のDNA濃度を変化させることによって、試料表面のDNA−Lpコンプレックス担持量を調節できることが分かった。
以上の結果から、上記の工程(第1工程及び第2工程)により得られた試料の表面にはいずれも、DNA及びLpを含むアパタイト層(DLp層)が基板の全面に、均一に形成されたことが確認された。なお、上記の工程のうち第1工程を除くと、DLp層は形成されなくなった。第1工程により、EVOH基板表面にはアパタイトの前駆体であるアモルファスリン酸カルシウムが導入される。第2工程では、このアモルファスリン酸カルシウムがコーティング溶液中でアパタイトの核形成を誘起することにより、DLp層の形成を促したと考えられる。また、第1工程及び第2工程を経ても、基板の裏面(非研磨面)には、DLp層は形成されなかった。これは、第1工程において、研磨処理によって親水化された基板の表面にしかアモルファスリン酸カルシウムが導入されないためである。
【0068】
遺伝子導入効率評価
試料表面、及び同一ウェル内の試料周辺のPSP表面で培養されたCHO−K1細胞のルシフェラーゼ活性(遺伝子導入効率)を図6に示す。測定に用いたルミノメーターのバックグランドは5〜20 countであるので、いずれの表面に接着した細胞にも、ルシフェラーゼの遺伝子が導入されたことが分かる。試料表面における遺伝子導入効率は、同一ウェル内のPSP表面のそれに対して、DLp2では1桁、DLp2以外では2桁以上高値であった。この結果から、DLp層から溶出したDNAはウェル内の全細胞に均等に導入されるのではなく、同層表面に接着した細胞内に選択的に導入されることが明らかになった。また、このような遺伝子導入の場所特異性は、コーティング溶液中のDNA濃度を変化させることによって調節できることも分かった。
試料表面における遺伝子導入効率は、コーティング溶液中のDNA濃度が0.1から1.0 μg/mLに増加するのに伴い増大したが、DNA濃度2.0 μg/mLの条件では減少に転じた。これは、コーティング溶液中のDNA濃度を変化させることによって、DLp層のDNA−Lpコンプレックスの担持量、膜厚、溶解性、等が変化したことに起因すると考えられる。なお、試料表面における遺伝子導入効率が最も高かったのは、DLp1であった。
【0069】
(比較例1)
〔実験方法〕
試料の作製
DNAのみを1.0 μg/mLの濃度で添加したCP液をコーティング溶液として用いた以外は実施例1と同様にして、試料(Dと略称する)を作製した。
【0070】
試料の表面構造、及び遺伝子導入効率評価
得られた試料D及びDLp1(実施例1で作製)の表面構造、及び遺伝子導入効率を、実施例1と同様にして評価した。
【0071】
〔結果と考察〕
試料の表面構造評価
SEM観察、XPS測定、TF−XRD測定、及びUV−Vis分光分析の結果から、D表面にはDNAを含むアパタイト層が形成されたことが確認された。D及びDLp1の表面に担持されたDNAの量はそれぞれ、2.1 ± 0.2 及び0.40 ± 0.1 μg/cm2であった(DLp1のDNA担持量は、図5のDNA−Lpコンプレックス担持量から換算)。
【0072】
遺伝子導入効率評価
D、及びDLp1表面で培養されたCHO−K1細胞のルシフェラーゼ活性(遺伝子導入効率)を図7に示す。DLp1表面における遺伝子導入効率はD表面におけるそれに対して約724倍高かった。この結果から、DNAを単独でアパタイト層中に担持させた層表面よりも、DNA及びLpを複合担持させたDLp層表面を用いる方が、高効率に遺伝子導入を行えることが明らかになった。これは、DLp層中に担持させたLpまたはDNA−Lpコンプレックスが培養液中で溶出し、DNAの細胞膜の通過、及び/または、細胞内におけるエンドソームからのDNAの脱出を促進するためと考えられる。
【0073】
(比較例2)
試料の作製
DNA及びフィブロネクチン(ウシ胎児血漿由来の細胞接着因子、Sigma−Aldlich)をそれぞれ40及び10 μg/mLの濃度で添加したCP液をコーティング溶液として用いた以外は実施例1と同様にして、試料(DFと略称する)を作製した。
【0074】
試料の表面構造、及び遺伝子導入効率評価
得られた試料DFの表面構造を、実施例1と同様にして評価した。また、DF及びDLp1実施例1で作製)の表面における遺伝子導入効率を、実施例1と同様にして評価した。
【0075】
〔結果と考察〕
試料の表面構造評価
SEM観察、XPS測定、TF−XRD測定、及びUV−Vis分光分析の結果から、DF表面にはDNA及びフィブロネクチンを含むアパタイト層が形成されたことが確認された。また、DFの表面に担持されたDNA及びフィブロネクチンの量はそれぞれ、13.7 ± 3.3 及び20.5 ± 4.3 μg/cm2であった。
【0076】
遺伝子導入効率評価
DF及びDLp1の表面で培養されたCHO−K1細胞のルシフェラーゼ活性(遺伝子導入効率)を図8に示す。DLp1表面における遺伝子導入効率は、DF表面におけるそれよりも高かった。この結果から、DNA及びフィブロネクチンをアパタイト層中に複合担持させた層表面よりも、DNA及びLpを複合担持させたDLp層表面において、より高効率に遺伝子導入を行えることが明らかになった。また、DFを作製するためには、表面積10 mm×10 mmの基板1枚あたり120 μgのDNAを使用するのに対し、DLp1を作製するためには3 μgのDNAしか使用しない。すなわち、DNAを含むアパタイト層中に、フィブロネクチンに代わってLpを複合担持させることにより、少量のDNAをより効率よく細胞内に導入できることが明らかになった。
【0077】
(比較例3)
〔実験方法〕
試料の作製
CP液をコーティング溶液として用い、実施例1と同様にしてEVOH基板上にアパタイト層を形成させた。同基板を、DNA濃度が0.1、0.5、1.0、2.0 μg/mLとなるようにDLp溶液を添加した吸着用NaCl溶液3 mLに25℃で30分間浸漬することにより、アパタイト層表面にDNA−Lpコンプレックスを吸着させた。吸着用NaCl溶液は、超純水にNaCl(142 mM)を溶解した後、Tris(50 mM)と1M HClを用いて25℃でpHを7.40に調整することにより調製した。得られた試料を、吸着用NaCl溶液中のDNA濃度 x μg/mLを用いて、DLp x−ad (DLp0.1−ad、DLp0.5−ad、DLp1−ad、DLp2−ad)と略称する。
【0078】
試料の表面構造評価
得られた試料のうちDLp1−ad、及びDLp1(実施例1で作製)の表面構造を、実施例1と同様にして評価した。また、高周波誘導結合プラズマ発光分析(ICP)により、基板の浸漬によるコーティング溶液中のカルシウム及びリンの濃度変化を調べ、試料表面に担持されたカルシウム及びリンの量を算出した。
【0079】
溶出試験
得られた試料のうちDLp 1−ad、及びDLp 1(実施例1において最も遺伝子導入効率の高かった試料)を、溶出液2 mL中に37℃で72時間までの種々の期間浸漬した。溶出液は、超純水にNaCl(142 mM)を溶解した後、Tris(50 mM)と1M HClを用いて37.0℃でpHを7.40に調整することにより調製した。種々の期間経過後、溶出液中のカルシウム及びDNA−Lpコンプレックスの濃度を、それぞれICP及びUV−Vis分光分析により測定した。また、溶出試験後(72時間浸漬後)の試料の表面構造を、XPSにより調べた。XPS測定の際には、試料表面をアルゴンイオンでスパッタ(加速電圧1 kV、10分間)することにより装置由来の吸着カーボンを除去してから、C1s領域について精密測定を行った。
【0080】
遺伝子導入効率評価
得られた試料DLp x−ad、及びDLp x(実施例1で作製)の表面における遺伝子導入効率を、実施例1と同様にして評価した。
【0081】
〔結果と考察〕
試料の表面構造評価
試料表面へのカルシウム及びリンの担持量については、DLp1−ad、及びDLp1の間に有意差は認められなかった。一方、試料表面へのDNA−Lpコンプレックスの担持量については有意差が認められ、DLp1表面には、DLp1−adの約4.9倍のDNA−Lpコンプレックスが担持されていた(図9)。すなわち、予め基板上に形成させておいたアパタイト層の表面にDNA−Lpコンプレックスを吸着させるよりも、実施例1のような工程によりDLp層を形成させる方が、より多量のDNA−Lpコンプレックスを基板の表面に担持できることが分かった。
【0082】
溶出試験
DLp1−ad、及びDLp1からのDNA−Lpコンプレックスの溶出量を図10(a)に示す。この結果から、溶出液に浸漬後6時間までの期間は、DLp1及びDLp1−adからのDNA−Lpコンプレックスの溶出量はほぼ等しいことがわかる。しかし24時間後には、DLp1からのDNA−Lpコンプレックスの溶出量がDLp1−adからのそれよりも大きくなった。DLp1からのDNA−Lpコンプレックス溶出量は、浸漬期間を48、及び72時間にまで延ばすと、それぞれ3.6 ± 0.4、及び4.6 ± 0.0 μgに増加した。また、DLp1−ad、及びDLp1表面に担持されたDNA−Lpコンプレックスの量に対する溶出量の割合を図10(b)に示す。この結果から、DLp1−ad表面に吸着担持されたDNA−Lpコンプレックスは、24時間以内にほぼ全量が溶出したことが分かる。一方、DLp1表面に担持されたDNA−Lpコンプレックスは、24時間後においても33%しか溶出しなかった。浸漬期間を48、及び72時間にまで延ばすと、DLp1からのDNA−Lpコンプレックス溶出率はそれぞれ39.0 ± 3.9 %、及び49.0 ± 0.4 %に増加した。
以上の、DLp1−ad、及びDLp1からのDNA−Lpコンプレックスの溶出は、試料表面に形成させたアパタイト層、あるいはDLp層の部分的な溶解によるものと考えられる。このことは、図11に示すDLp1−ad、及びDLp1からのカルシウムの溶出挙動から裏付けられる。DLp1−ad、及びDLp1表面に担持されたカルシウムの量に対する溶出量の割合は、溶出液への浸漬期間の増加に伴い増大し、72時間後にはいずれの試料についても40〜50%に達した。つまり、浸漬72時間後には、試料表面に形成させたアパタイト層、あるいはDLp層の上層約半分程度が溶解したと考えられる。なお、浸漬72時間後のDLp1からのカルシウム溶出率は、同時間後のDNA−Lpコンプレックス溶出率と同程度である。
上記溶出試験後(72時間浸漬後)のDLp1−ad、及びDLp1表面のC1s領域のXPSスペクトルを図12に示す。炭素はLp及びDNAの主成分であり、アパタイトの成分ではない。DLp1表面にはC1sのピークが検出されたのに対し、DLp1−ad表面には検出されなかった。このことから、DLp1表面に形成させたDLp層には、DLp1−adの表面層とは異なり、層の表面だけでなく層の内部にまでDNA−Lpコンプレックスが担持されていることが確認された。
以上の結果から、DLp1−ad、及びDLp1の表面構造の違いは次のように説明される。DLp1−ad表面では、予め基板上に形成させておいたアパタイト層の表面にDNA−Lpコンプレックスを吸着担持させているので、アパタイト層の外表面にしかDNA−Lpコンプレックスが担持されない。このため、DNA−Lpコンプレックスが少量しかDLp1−ad表面に担持されない。しかも、DLp1−adが溶出液に浸漬されると、アパタイト層の部分溶解によってDNA−Lpコンプレックスは容易にDLp1−ad表面から離脱してしまう(24時間以内にほぼ全量が溶出)。これに対し、実施例1のような工程により作製されたDLp1表面では、DLp層の外表面だけでなく内部にまでDNA−Lpコンプレックスが担持されている。このため、より多量のDNA−LpコンプレックスがDLp1表面に担持される。しかも、DLp1が溶出液に浸漬されても、DLp層の部分溶解によるDNA−Lpコンプレックスの溶出は長期間継続する。
【0083】
遺伝子導入効率評価
DLp x−ad、及びDLp x表面で培養されたCHO−K1細胞のルシフェラーゼ活性(遺伝子導入効率)を図13に示す。DNA濃度の等しいコーティング溶液、または吸着用NaCl溶液を用いて作製された試料同士で比較すると、DLp2−ad及びDLp2を除くいずれの試料においても、DLp x表面における遺伝子導入効率の方がDLp x−ad表面におけるそれよりも高値であった。これは、前項に記載のDLp x−ad、及びDLp xの表面構造の違いに起因すると考えられる。DLp x−adの中ではDLp2−ad の表面における遺伝子導入効率が最も高値であったが、同試料の半分または4分の1量のDNAを用いて作製されるDLp0.5及びDLp1のそれに及ばなかった。以上の結果から、予め基板上に形成させておいたアパタイト層の表面にDNA−Lpコンプレックスを吸着させるよりも、実施例1のような工程によって層内部にまでDNA−Lpコンプレックスを含むDLp層を形成させる方が、より少量のDNAを用いて、より高効率に基板上の細胞内に遺伝子を導入できることが分かった。
【0084】
(実施例2)
〔実験方法〕
コーティング溶液の調製
以下のように医療用輸液を混合することにより、CP液とは異なるリン酸カルシウム過飽和溶液を調整した。まず、Ringer液(大塚製薬)にConclyte−Ca(大塚製薬)を添加することにより4.5 mMのカルシウムイオン溶液を、Klinisalz B(アイロム製薬)にConclyte−P(大塚製薬)を添加することにより20 mMのリン酸イオン溶液を調製した。これらのカルシウムイオン溶液、リン酸イオン溶液、及びBifil(味の素ファルマ)を8.172 : 0.917 : 0.911の容量比で混合することにより、アパタイトに対して過飽和な水溶液(RKB液)を調製した。このRKB液に、実施例1と同様にして調製されたDLp溶液を、DNA濃度が1.0または2.0 μg/mLとなるように添加した溶液をコーティング溶液とした。なお、上記のRKB液及びコーティング溶液は、実施例1で用いたCP液やコーティング溶液とは異なり、調製後24時間以内にリン酸カルシウムの析出を誘起する不安定な過飽和溶液である。また、CP液は化学試薬を原料としているのに対し、RKB液は厚生労働省により認可された医療用輸液のみを原料としているので、生体内使用における安全性が担保されている。
【0085】
試料の作製
上記のコーティング溶液を用い、実施例1と同様にして試料を作製した。ただし、容器の蓋は密閉せずに第2工程のコーティング溶液への基板の浸漬を行った。DNAの濃度1.0及び2.0 μg/mLのコーティング溶液を用いて作製された試料をそれぞれ、DLp1−RKB及びDLp2−RKBと略称する。
【0086】
遺伝子導入効率評価
得られた試料の表面における遺伝子導入効率を、実施例1と同様にして評価した。
【0087】
〔結果と考察〕
遺伝子導入効率評価
試料表面、及び同一ウェル内の試料周辺のPSP表面で培養されたCHO−K1細胞のルシフェラーゼ活性(遺伝子導入効率)を図14に示す。DLp1−RKB表面における遺伝子導入効率は、同一ウェル内のPSP表面のそれと同等であった。一方、DLp2−RKB表面における遺伝子導入効率は、同一ウェル内のPSP表面のそれよりも有意に高値であった。この結果から、コーティング溶液として準安定なリン酸カルシウム過飽和溶液を用いた場合(実施例1)と同様、不安定なリン酸カルシウム過飽和溶液を用いた場合にも、コーティング溶液中のDNA濃度を変化させることによって遺伝子導入の場所特異性を調節することができ、試料表面に接着した細胞内に選択的に遺伝子を導入できることが明らかになった。
【0088】
(実施例3)
コーティング溶液の調製
実施例1と同様にしてTris−HCl緩衝液、及びCP液を調製した。DNAを26.7 μg/mLの濃度で添加したTris−HCl緩衝液1800 μLにLp 133.8 μgを添加することにより、DNA−Lpコンプレックス[DNA:Lp=1:2.8(質量比)]を含む溶液(L−DLp溶液)を調製した。また、DNAを222 μg/mLの濃度で添加したTris−HCl緩衝液1800 μLにLp 1115 μgを添加することにより、DNA−Lpコンプレックス[DNA : Lp = 1 : 2.8(質量比)]を含む溶液(H−DLp溶液)を調製した。DNAとしては、ルシフェラーゼの相補的遺伝子を含むプラスミド(pGL3−contlol vector、Promega)を用いた。
CP液に、DNA濃度が0.1、0.5、1.0、2.0 μg/mLとなるようにL−DLp溶液を添加した溶液、及びDNA濃度が1.0、5.0、10、20 μg/mLとなるようにH−DLp溶液を添加した溶液をコーティング溶液とした。
【0089】
試料の作製
上記のコーティング溶液を用い、実施例1と同様にして試料を作製した。L−DLp溶液を添加したコーティング溶液を用いて作製された試料を、コーティング溶液中のDNA濃度 x μg/mLを用いて、DLp x−L(DLp0.1−L、DLp0.5−L、DLp1−L、DLp2−L)と略称する。また、H−DLp溶液を添加したコーティング溶液を用いて作製された試料を、コーティング溶液中のDNA濃度 x μg/mLを用いて、DLp x−H(DLp1−H、DLp5−H、DLp10−H、DLp20−H)と略称する。
【0090】
試料の表面構造、及び遺伝子導入効率評価
得られた試料の表面構造、及び遺伝子導入効率を、実施例1と同様にして評価した。
【0091】
〔結果と考察〕
SEM観察、TF−XRD測定、及びUV−Vis分光分析の結果から、いずれの試料表面にもDLp層が形成されたことが確認された。図15及び図16に示すように、試料表面のDNA−Lpコンプレックスの担持量は、コーティング溶液中のDNA濃度の増加に伴い増大する傾向が認められた。図5と図15を比較すると、コーティング溶液中のDNA濃度が同じであっても、DNAとLpの比が異なると、試料表面に担持されるDNA−Lpコンプレックスの量が異なることが分かる。また、図15のDLp1−Lと図16のDLp1−Hを比較すると、コーティング溶液中のDNA濃度、及びDNAとLpの比が同じであっても、コーティング溶液の調製に用いるDNA−Lpコンプレックス溶液の濃度が異なると、試料表面に担持されるDNA−Lpコンプレックスの量が異なることが分かる。以上より、コーティング溶液の調製に用いるDNA−Lpコンプレックス溶液の濃度やDNAとLpの比、及びコーティング溶液中のDNA濃度を変化させることによって、試料表面のDNA−Lpコンプレックスの担持量を調節できることが分かった。
【0092】
遺伝子導入効率評価
DLp x−L、及び同一ウェル内の試料周辺のPSP表面で培養されたCHO−K1細胞のルシフェラーゼ活性(遺伝子導入効率)を図17に、DLp x−H、及び同一ウェル内の試料周辺のPSP表面で培養されたCHO−K1細胞のルシフェラーゼ活性(遺伝子導入効率)を図18に示す。DLp2−L及びDLp20−Hを除くいずれの試料についても、試料表面における遺伝子導入効率は、同一ウェル内のPSP表面のそれに対して1桁から2桁高値であった。この結果は、これらの試料の表面に接着した細胞に選択的に遺伝子が導入されたことを示している。ただし、試料表面における遺伝子導入効率とPSP表面のそれとの差は、コーティング溶液中のDNA濃度の増加に伴い減少し、DLp2−L及びDLp20−Hでは試料表面における選択的遺伝子導入は認められなかった。一方、DLp x−L及びDLp x−H表面の遺伝子導入効率はいずれも、コーティング溶液中のDNA濃度の増加に伴い増大したが、DNA濃度が一定値(DLp x−Lでは1.0 μg/mL、DLp x−Hでは20 μg/mL)を超えると減少に転じた。
以上の傾向は、実施例1で得られた結果(図6)においても認められる。また、図6と図17、あるいは図14と図17を比較すると、コーティング溶液中のDNA濃度が同じであっても、DNAとLpの比、あるいはコーティング溶液の調製に用いるリン酸カルシウム過飽和溶液の種類が異なると、試料表面における遺伝子導入の場所特異性、及び導入効率が異なることが分かる。実施例1〜3で得られた全試料の中で、試料表面における遺伝子導入の場所特異性、導入効率、及び試料を作製するのに必要とされるDNA量の点から、最も優れた試料はDLp0.5−Lであると考えられる。
以上の結果から、コーティング溶液の調製に用いるリン酸カルシウム過飽和溶液の種類、DNA−Lpコンプレックス溶液の濃度やDNAとLpの比、及びコーティング溶液中のDNA濃度を変化させることによって、試料表面における遺伝子導入の場所特異性及び導入効率を調節できることが分かった。これは、これらのコーティング条件を変化させることによって、試料表面に形成されるDLp層のDNA−Lpコンプレックスの担持量、膜厚、溶解性等が変化するためと考えられる。
【0093】
(実施例4)
本実施例では、以上で用いてきたLp以外の界面活性物質を用いて、EVOH基板の表面に遺伝子及び界面活性物質を含むリン酸カルシウム層を形成させ、遺伝子導入効率の評価を行った。本実施例に先立ち、まず、Lp、及びLp以外の界面活性物質の性質(ベシクル安定性、及び粒子状遺伝子導入剤としての性能)について調べた。
〔実験方法〕
界面活性物質の保温試験
Lp、及び市販の脂質系遺伝子導入試薬であるリポフェクトアミン(Lf、Invitrogen)の安定性を調べるため、DLp溶液、及びDNA−Lfコンプレックスを含む水溶液(DLf溶液)を調製後、種々の温度(4、25、37℃)で、14日間までの種々の期間静置した。
DLp溶液は、Opti−MEMを25 vol.%の濃度で追加添加した以外は、実施例1と同様にして調製した。DLf溶液は、メーカーのプロトコールを参考に、無血清の細胞培養液(Opti−MEM、Gibco)にDNAを12 μg/mLの濃度で添加した後、200 μg/mLのLfを添加したOpti−MEMを等量比で加え、室温で45分間静置することにより調製した。、DNAとしては、ルシフェラーゼの相補的遺伝子を含むプラスミド(pGL3−contlol vector、Promega)を用いた。
なお、Lfは、界面活性物質である2,3−dioleyloxy−N−[2(sperminecarboxamido)ethyl] −n,n−dimethyl−1−propanaminium trifluoroacetate (DOSPA)及びdioleoyl−phosphatidylethanolamine(DOPE)を3 : 1の質量比で含む遺伝子導入剤である。Lf(DOSPA及びDOPE)はLpと同様に、水溶液中でベシクルを形成し、DNAと結合してコンプレックスを形成することにより、細胞への遺伝子導入を促進する。
【0094】
保温試験後のDNA−Lp及びDNA−Lfコンプレックスの構造評価
調製直後、及び種々の温度(4、25、37℃)で7日間保温されたDLp溶液、及びDLf溶液を、50 nmの細孔径を有するメンブレンフィルター(MF−Millipore、日本ミリポア)に通すことによって、DNA−Lp、あるいはDNA−Lfコンプレックスをフィルターの表面に捕捉し、超純水で洗浄、凍結乾燥させた。フィルター表面のDNA−Lp、あるいはDNA−Lfコンプレックスの構造を、SEMにより観察した。
【0095】
保温試験後の遺伝子導入効率評価(粒子状遺伝子導入剤としての性能評価)
調製直後、及び保温試験(4℃)後のDLp溶液、及びDLf溶液を用いて、CHO−K1細胞への遺伝子導入を行った。遺伝子導入は、Lfのメーカー(Invitrogen)プロトコールに従い、次のように行った。まず、PSP内の各ウェルにCHO−K1細胞を播種した(5.0×104 cells/0.5 mL 培養液/ウェル)。培養液としては、10 vol%のFBS(GIBCO)を添加したRPMI1640培養液(Gibco)を用いた。24時間培養[5 %炭酸雰囲気中、37℃(以下同様)]した後、各ウェル内の培養液を、無血清のOpti−MEM 400 μLと入れ替えた。次に、調製直後、及び保温試験(4℃)後のDLpまたはDLf溶液を50 μL添加し、PSPを静かにゆすってウェル内の溶液を混合した。5時間培養した後、各ウェル内の培養液を、10 vol%のFBSを添加したRPMI1640培養液と入れ替えた。さらに43時間培養した後、各ウェル内のPSP表面に接着した細胞のルシフェラーゼ活性をLuciferase Assay Kit(Promega)及びルミノメーターを用いて評価することにより、同細胞へのルシフェラーゼ遺伝子の導入効率を調べた。
【0096】
コーティング溶液の調製
Lpに代わって、市販の脂質系遺伝子導入試薬であるLfあるいはDOTAP(Dp、Loche;N−[1−(2,3−dioloyloxy)propyl]−N,N,N−trimethylammonium methylsulfate)を界面活性物質として用いて、コーティング溶液を調製した。コーティング溶液は、実施例1と同様にして調製されたCP液に、DNA濃度が0.1、0.5、1.0 μg/mLとなるように上記のDLf溶液、または、DNA−Dpコンプレックスを含む水溶液(DDp溶液)を添加することにより調製した。DDp溶液は、メーカーのプロトコールを参考に、DNAを100 μg/mLの濃度で添加したHEPES緩衝液と、Dpを300 μg/mLの濃度で添加したHEPES緩衝液を容量比1:2の割合で混合し、室温で15分間静置することにより調製した。HEPES緩衝液は、超純水にNaCl(150 mM)及び2−[4−(2-ヒドロキシエチル) −1−ピペラジニル]エタンスルホン酸水酸化ナトリウム(HEPES)(20 mM)を溶解した後、1M NaOHを用いて25℃でpHを7.40に調整することにより調製した。DNAとしては、ルシフェラーゼの相補的遺伝子を含むプラスミド(pGL3−contlol vector、Promega)を用いた。
【0097】
試料の作製
上記のコーティング溶液を用い、実施例1と同様にして試料を作製した。Lfを含むコーティング溶液を用いて作製された試料を、コーティング溶液中のDNA濃度 x μg/mLを用いて、DLf x(DLf0.1、DLf0.5、DLf1)と略称する。また、Dpを含むコーティング溶液を用いて作製された試料を、コーティング溶液中のDNA濃度 x μg/mLを用いて、DDp x(DDp0.1、DDp0.5、DDp1)と略称する。
【0098】
遺伝子導入効率評価
得られた試料表面における遺伝子導入効率を、実施例1と同様にして評価した。
【0099】
〔結果と考察〕
保温試験後のDNA−Lp及びDNA−Lfコンプレックスの構造評価
SEM観察の結果、DLp溶液、及びDLf溶液のいずれの溶液についても、調製直後には、直径数百nmの球状粒子が確認された[図19(a、c)]。これらの粒子は、DNA−Lpコンプレックス、またはDNA−Lfコンプレックスからなるベシクル粒子であると考えられる。DLp溶液については、いずれの温度で7日間保温された後にも、同様のベシクル粒子が確認された[図19(d、e、f)]。しかし、DLf溶液を4℃で7日間保温すると、大きさ数百nmの非球状の物体しか観察されなくなった[図19(b)]。また、DLf溶液を25℃または37℃で7日間保温すると、ベシクル粒子は全く確認されなくなった。これらの結果から、LpはLfに比較してベシクルの安定性に優れていることが明らかになった。
【0100】
保温試験後の遺伝子導入効率評価
調製直後、及び4℃で種々の期間保温された後のDLp溶液、及びDLf溶液を用いて、CHO−K1細胞への遺伝子導入を行った結果を図20に示す。図20の縦軸は、調製直後のDLp溶液、及びDLf溶液を用いた際のルシフェラーゼ活性値(100とする)に対する相対値である。Lfでは、保温期間が長くなるに従って遺伝子導入効率が低下した。これは、図19で示したように、DNA−Lfコンプレックスからなるベシクルが不安定であるために、溶液中でベシクルの分解が進み、Lfの遺伝子導入効率向上機能が低下したためと考えられる。一方Lpでは、保温時間が長くなっても、遺伝子導入効率は低下しなかった。これは、DNA−Lpコンプレックスからなるベシクルの安定性が高いために、Lpの遺伝子導入効率向上機能が長期間保持されたためと考えられる。
【0101】
遺伝子導入効率評価
DLf x、及び同一ウェル内のPSPの表面で培養されたCHO−K1細胞のルシフェラーゼ活性(遺伝子導入効率)を図21に示す。また、DDp x、及び同一ウェル内のPSPの表面で培養されたCHO−K1細胞のルシフェラーゼ活性(遺伝子導入効率)を図22に示す。DLf0.5及びDDp0.1を除くいずれの試料についても、試料表面における遺伝子導入効率は、同一ウェル内のPSP表面のそれに対して1桁から2桁高値であった。この結果は、これらの試料の表面に接着した細胞に選択的に遺伝子が導入されたことを示している。以上より、本手法によれば、Lp以外の界面活性物質を用いた場合にも、基材の表面にDNAと界面活性物質を含むアパタイト層を形成させることができ、同表面において場所特異的な遺伝子導入を行えることが明らかになった。
しかしながら、DLf x、及びDDp xの表面における遺伝子導入効率は、Lpを用いて作製されたDLp x(図6)やDLp x−L(図17)、DLp x−H(図18)の表面におけるそれに対して2桁から4桁低かった。これは、Lpに比べ、LfやDpでは、ベシクルの安定性が低いために、試料の作製工程、及び/または、血清入り培養液中での遺伝子導入工程においてベシクルの分解が進み、その遺伝子導入効率向上機能が低下したためと考えられる。以上の結果から、遺伝子と界面活性物質を含むアパタイト層の表面において高効率に遺伝子導入を行うためには、Lpのようなベシクル安定型界面活性物質を用いることが有効であることが明らかになった。
【0102】
(実施例5)
〔実験方法〕
コーティング溶液の調製
実施例11と同様にしてCP液を、実施例3と同様にしてL−DLp溶液を調製した。CP液に、DNA濃度が0.5 μg/mLとなるようにL−DLp溶液を、ラミニン濃度が10、20、40 μg/mLとなるよう1.1 mg/mLラミニン溶液(Sigma−Aldlich)を添加した溶液をコーティング溶液とした。
【0103】
試料の作製
上記のコーティング溶液を用い、実施例1と同様にして試料を作製した。得られた試料を、コーティング溶液中のラミニン濃度 x μg/mLを用いて、DLp−Lx(DLp−L10、DLp−L20、DLp−L40)と略称する。
【0104】
ラミニン担持量評価
Protein Assay Kit(Bio-Rad)を用いたUV−Vis分光分析により、基板の浸漬によるコーティング溶液中のラミニンの濃度変化を調べ、試料表面に担持されたラミニンの量を算出した。
【0105】
遺伝子導入効率評価
得られた試料表面における遺伝子導入効率を、実施例1と同様にして評価した。
【0106】
〔結果と考察〕
ラミニン担持量評価
UV−Vis分光分析の結果、いずれの試料表面にも、ラミニンが担持されていることが確認された(図23)。この結果は、ラミニンをコーティング溶液に添加することによって、試料表面に形成されるDLp層にさらにラミニンを担持できることを示している。また、図23に示すように、試料表面のラミニン担持量は、コーティング溶液中のラミニン濃度の増加に伴い増大した。この結果から、コーティング溶液中のラミニン濃度を変化させることによって、DLp層中のラミニン担持量を調節できることが分かった。
【0107】
遺伝子導入効率評価
試料表面、及び同一ウェル内の試料周辺のPSP表面で培養されたCHO−K1細胞のルシフェラーゼ活性(遺伝子導入効率)を図24に示す。比較対照として、実施例3で得られたDLp0.5−L(ラミニンを含まないコーティング溶液を用いて作製)のデータも同図内に示す。いずれの試料についても、試料表面における遺伝子導入効率は、同一ウェル内のPSP表面のそれに対して1桁以上高値であった。また、試料表面における遺伝子導入効率とPSP表面のそれとの差は、コーティング溶液中のラミニン濃度が20 μg/mL以上に増加するのに伴い増大した(図25)。これは、試料表面のDLp層に担持されたラミニンが、層表面への細胞の接着を促すことにより、試料表面における遺伝子導入の場所特異性を高めたためと考えられる。以上の結果から、細胞接着因子であるラミニンをコーティング溶液に添加することによって、試料表面に接着した細胞により高選択的に遺伝子を導入できることが明らかになった。また、このような遺伝子導入の場所特異性は、コーティング溶液中のラミニン濃度を変化させることによって調節できることも分かった。
【0108】
(実施例6)
〔実験方法〕
コーティング溶液の調製
実施例1と同様にしてDLp溶液、及びCP液を調製した。また、実施例2と同様にしてRKB液を調整した。CP液あるいはRKB液に、DNA濃度が1.0 μg/mLとなるようにDLp溶液を添加した溶液をコーティング溶液とした。
試料の作製(第1工程)
溶融、プレス成型して得られたポリスチレン基板(厚み1 mm、縦10 mm、横10 mm)を、エタノールで超音波洗浄した後、100℃で24時間真空乾燥させた。同基板の片面に酸素プラズマ処理(0.5 W/cm2、30秒間)を施すことにより、基板表面を親水性に変化させた(酸素プラズマ処理面を表面、非処理面を裏面とする。)。上記基板を、200 mM CaCl2水溶液 20 mLに10秒間、同量の超純水に1秒間浸した後乾燥させ、次いで、200 mM K2HPO4・3H2O水溶液 20 mLに10秒間、同量の超純水に1秒間浸浸した後乾燥させた。以上のカルシウム及びリン酸イオン水溶液への交互浸漬処理を3回繰り返した。本工程により、PS基板の表面にはアパタイトの前駆体であるアモルファスリン酸カルシウムが導入される。
【0109】
試料の作製(第2工程)
第1工程によりアモルファスリン酸カルシウムを表面に導入した基板を、上記のコーティング溶液3 mL中に、容器の蓋を密閉せずに25または37℃で24時間浸漬した。得られた試料を、過飽和溶液の種類及び浸漬温度を用いて、DLp1−CP25、DLp1−CP37、DLp1−RKB25と略称する。なお、CP液から調製されるコーティング溶液は、25℃では調製後24時間以上リン酸カルシウムの析出を誘起しない準安定な過飽和溶液であるが、37℃で保持されると、調製後24時間以内にリン酸カルシウムの析出を誘起する不安定な過飽和溶液となる。RKB液から調製されるコーティング溶液は、25℃でも調製後24時間以内にリン酸カルシウムの析出を誘起する不安定な過飽和溶液である。
【0110】
試料の表面構造評価
コントロールとして未処理のポリスチレン基板、及び第2工程により得られた試料の表面構造を実施例1と同様にして評価した。
【0111】
上記の工程(第1工程及び第2工程)により得られたいずれの試料についても、表面全面にDLp層の形成が確認された(図26)。第1工程により、ポリスチレン基板表面にはアパタイトの前駆体であるアモルファスリン酸カルシウムが導入される。第2工程では、このアモルファスリン酸カルシウムがコーティング溶液中でアパタイトの核形成を誘起することにより、DLp層の形成を促したと考えられる。また、第1工程及び第2工程を経ても、基板の裏面(非プラズマ処理面)には、DLp層は形成されなかった。これは、第1工程において、プラズマ処理によって親水化された基板の表面にしかアモルファスリン酸カルシウムが導入されないためである。
以上の結果から、EVOH基板だけでなくポリスチレン基板の表面にも、実施例1や実施例2と同様の工程によってDLp層を形成できることが確認された。
【0112】
(比較例4)
〔実験方法〕
試料の作製と評価
第1工程(ポリスチレン基板表面へのアモルファスリン酸カルシウムの導入工程)を除いた以外は実施例6と同様にして試料を作製した。得られた試料を、過飽和溶液の種類及び浸漬温度を用いて、DLp1−CP25(ACP−)、DLp1−CP37(ACP−)、DLp1−RKB25(ACP−)と略称する。得られた試料の表面構造をSEM観察により調べ、DLp層の形成の有無・程度を確認した。
【0113】
基板とDLp層との接着性評価
得られた試料のうちDLp層の形成が確認された試料、及び実施例6で作製された試料に対し、テープ剥がし試験を行った。テープ剥がし試験は、基板表面の一部分にテープ(ハイクラフトテープ(No.320)、ニチバン)を貼付し、ピンセットで密着させた後、引き剥がすことにより行った。試験後の試料の表面構造をSEM観察により調べ、基板からのDLp層の剥離の有無・程度を確認した。
【0114】
〔結果と考察〕
試料の表面構造評価
図27に、試料表面のSEM写真を示す。DLp1−CP25(ACP−)については、基板の表面にDLp層は全く形成されていなかった。すなわち、試料の作製工程のうち第1工程を除くと、基板の表面にDLp層は形成されなくなった(実施例6、図26参照)。この結果は、実施例1においてEVOH基板に対して得られた結果と同様である。一方、DLp1−CP37(ACP−)、及びDLp1−RKB25(ACP−) については、基板表面の一部にのみDLp層が形成されていた。すなわち、試料の作製工程のうち第1工程を除くと、基板表面において部分的にしかDLp層が形成されなくなった(実施例6、図26参照)。リン酸カルシウム過飽和溶中で基板の全表面に均一なDLp層を形成させるためには、アモルファスリン酸カルシウム等のリン酸カルシウム捕捉層を基板表面に導入する前工程(第1工程)が重要であることが分かった。
【0115】
基板とDLp層との接着性評価
DLp1−CP37 (ACP−)及びDLp1−RKB25 (ACP−)については、テープ剥がし試験によって、DLp層の一部の剥離が認められた。一方、実施例6で作製された試料についてはいずれも、DLp層の剥離は全く認められなかった。すなわち、試料の作製工程のうち第1工程を除くと、基板とDLp層との接着性が低下した。
以上の結果から、リン酸カルシウム過飽和溶中で基板の全表面にDLp層を形成させ、しかも同層を基板上に強固に密着させるためには、アモルファスリン酸カルシウム等のリン酸カルシウム捕捉層を基板表面に導入する前工程(第1工程)が重要であることが分かった。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸カルシウム捕捉層を有する基材の表面に、遺伝子と界面活性物質を含むリン酸カルシウム層を備え、該基材が遺伝子と界面活性物質を含まないことを特徴とする組織再生用スキャッフォールド。
【請求項2】
前記界面活性物質が、ベシクル安定型界面活性物質であることを特徴とする請求項1に記載の組織再生用スキャッフォールド。
【請求項3】
前記界面活性物質が、ポリアミドアミンデンドロンまたはデンドリマーを含む界面活性物質であることを特徴とする請求項1又は2に記載の組織再生用スキャッフォールド。
【請求項4】
前記界面活性物質が、(CH3(CH2)17)2NCH2CH2CONHCH2CH2N(CH2CH2CONHCH2CH2NH2)2、または(CH3(CH2)7CH=CH(CH2)8)2NCH2CH2CONHCH2CH2N(CH2CH2CONHCH2CH2NH2)2であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の組織再生用スキャッフォールド。
【請求項5】
前記リン酸カルシウムがアパタイトを含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の組織再生用スキャッフォールド。
【請求項6】
前記遺伝子がプラスミド単体に保持された遺伝子であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の組織再生用スキャッフォールド。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の組織再生用スキャッフォールドの表面に、培養された細胞を備えることを特徴とする組織再生体。
【請求項8】
表面にリン酸カルシウム捕捉層を有する基材を、遺伝子と界面活性物質を添加したリン酸カルシウム過飽和溶液に浸漬して遺伝子と界面活性物質を含むリン酸カルシウム層を基材表面に形成させる工程を備えることを特徴とする組織再生用スキャッフォールドの製造方法。
【請求項1】
リン酸カルシウム捕捉層を有する基材の表面に、遺伝子と界面活性物質を含むリン酸カルシウム層を備え、該基材が遺伝子と界面活性物質を含まないことを特徴とする組織再生用スキャッフォールド。
【請求項2】
前記界面活性物質が、ベシクル安定型界面活性物質であることを特徴とする請求項1に記載の組織再生用スキャッフォールド。
【請求項3】
前記界面活性物質が、ポリアミドアミンデンドロンまたはデンドリマーを含む界面活性物質であることを特徴とする請求項1又は2に記載の組織再生用スキャッフォールド。
【請求項4】
前記界面活性物質が、(CH3(CH2)17)2NCH2CH2CONHCH2CH2N(CH2CH2CONHCH2CH2NH2)2、または(CH3(CH2)7CH=CH(CH2)8)2NCH2CH2CONHCH2CH2N(CH2CH2CONHCH2CH2NH2)2であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の組織再生用スキャッフォールド。
【請求項5】
前記リン酸カルシウムがアパタイトを含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の組織再生用スキャッフォールド。
【請求項6】
前記遺伝子がプラスミド単体に保持された遺伝子であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の組織再生用スキャッフォールド。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の組織再生用スキャッフォールドの表面に、培養された細胞を備えることを特徴とする組織再生体。
【請求項8】
表面にリン酸カルシウム捕捉層を有する基材を、遺伝子と界面活性物質を添加したリン酸カルシウム過飽和溶液に浸漬して遺伝子と界面活性物質を含むリン酸カルシウム層を基材表面に形成させる工程を備えることを特徴とする組織再生用スキャッフォールドの製造方法。
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図1】
【図2】
【図19】
【図26】
【図27】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図1】
【図2】
【図19】
【図26】
【図27】
【公開番号】特開2011−139839(P2011−139839A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−3079(P2010−3079)
【出願日】平成22年1月8日(2010.1.8)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年1月8日(2010.1.8)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
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