説明

組織病理学的に加工処理された生物サンプル、組織および細胞からの液体組織調製物

本発明は、組織病理学的に加工処理された生物サンプル、組織、および細胞を多用途生体分子溶解物に直接変換する方法を提供する。この方法は組織病理学的に加工処理された生物サンプル内に含まれる総ての生体分子の同時抽出、単離、可溶化、安定化、および保存を可能とし、それにより該サンプルの代表的ライブラリーを形成する。この多用途生体分子溶解物は希釈可能であり、可溶であり、分画可能であり、かつ、その後のあらゆる実験に使用できる。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
本願は、2003年3月10日出願の仮出願第60/452,956号の優先権を主張するものであり、その全開示内容は引用することにより本明細書の一部とされる。
【0002】
発明の分野
本発明は、組織病理学的に加工処理された生物サンプル、組織、および細胞を多くの用途に適した生体分子溶解物へと加工処理する方法を提供する。この方法は、タンパク質、糖タンパク質、核酸、脂質、糖脂質、および細胞オルガネラ由来分子を含む溶解物からの生体分子の抽出、単離、可溶化、および保存を可能とする。この多用途生体分子溶解物は可溶性であり、希釈可能であり、分画可能であり、かつ、その後のあらゆる生化学アッセイに使用できる。
【0003】
背景技術
100年以上にわたって、公的および学術的な医科大学および医学研究所、診療所、民間の生物医学研究所、組織アーカイブ、病院、および博物館は、ホルマリン、ならびにホルムアルデヒドおよびエチルアルコールなどのその他の化学固定剤を用いて生物標本を保存してきた。最も一般的な化学固定剤はホルマリンである。ホルマリンは、組織構造および細胞形態の双方を保存するその優れた能力ゆえに固定剤として用いられている。これにより、従来の顕微鏡分析用の組織切片をうまく保存するのにホルマリンが広く使用されることになった。ホルマリン固定は組織構造および細胞形態の保存には極めて有効であるので、ホルマリンアーカイブは何百というサンプルを含む、まさに埋蔵庫である。このアーカイブには健常組織の生物サンプル、実質的に全ての既知疾患からの組織サンプル、および多数の生命体保存物がある。
【0004】
サンプル固定の最も一般的な形態は、生物標本内のタンパク質の、ホルマリンにより誘導される架橋によって起こる。また、これらのタンパク質架橋は、優れた細胞形態保存を提供するとともに、固定されたサンプルを比較的不溶性とする。これらのタンパク質架橋のため、ホルマリン固定サンプルに対して行うことができるアッセイの種類は数が限られ、定量結果を得ることはできず、感度も低い。実際、ホルマリン固定生物サンプルは、定量性および感度ともに高い現在の多くのアッセイ技術では実質的に使用できない。
【0005】
よって、ホルマリン固定、または他の化学的固定生物サンプルを可溶化する新しい方法が大いに望まれるのは明らかである。
【発明の概要】
【0006】
本発明の1つの目的は、ホルマリン固定生物サンプルを可溶化する方法を提供する。より具体的には、本発明は、組織病理学的に加工処理された生物サンプルから多用途生体分子溶解物を得る方法を提供する。
【0007】
本発明の一態様によれば、多用途生体分子溶解物を製造する方法であって、(a)組織病理学的に加工処理された生物サンプルと反応バッファーを含んでなる組成物を、前記生物サンプルにおいてタンパク質架橋に負の影響を及ぼすのに十分な温度および時間で加熱する工程、ならびに(b)得られた組成物を、有効量のタンパク質分解酵素で、前記生物サンプルの組織および細胞構造を破砕するのに十分な時間処理する工程を含んでなる方法が提供される。
【0008】
組織病理学的に加工処理された生物サンプルは、組織または細胞の実質的に均質な集団を含み得る。このサンプルは、例えば、ホルマリン固定組織/細胞、ホルマリン固定/パラフィン包埋(FFPE)組織/細胞、FFPE組織ブロックおよびこれらのブロックからの細胞、ならびに/またはホルマリン固定および/またはパラフィン包埋した組織培養細胞であり得る。
【0009】
サンプルがパラフィンまたは何らかの類似の材料に包埋されている場合、このパラフィンは、例えば、有機溶媒の添加;加熱;加熱およびTrisを含んでなるバッファーの添加;ならびに加熱および有機溶媒の添加によって除去することができる。有利には、このステップは主要な加熱工程の前に行う。パラフィンを除去するための工程の一部としてサンプルを加熱する場合、加熱は短時間、例えば数分必要なだけである。最大限のパラフィンの除去を確保するためには、このような短時間の加熱を2回以上繰り返すのが有利である。
【0010】
どの工程でもよいが、サンプルを、例えば、手によるホモジナイゼーション;ボルテックス混合;および/または物理的混合により機械的に破砕すればよい。これらの方法によって製造された溶解物は、多様な生化学アッセイに供することができる。また、この溶解物は、アッセイの前に、例えば核酸およびタンパク質画分に分画してもよい。各生体分子画分は、一般に、生化学アッセイに用いるのに好適な異なる個別の生体分子を含む。
【0011】
加熱工程は、例えば、約80℃〜約100℃の間の温度で約10分〜約4時間の間行えばよい。タンパク質分解酵素処理は、例えば約30分〜約24時間の間続けられる。このタンパク質分解酵素処理は、例えば約37℃〜約65℃の間の温度で行えばよい。各工程において、反応バッファーは界面活性剤を含んでもよく、かつ/または界面活性剤はプロテアーゼ処理の後に加えてもよい。界面活性剤は、例えば、NonidetP40、SDS、Tween−20、Triton X、および/またはデオキシコール酸ナトリウムであってよいが、当業者ならば他の界面活性剤も使用可能であることが分かるであろう。タンパク質分解酵素は、例えば、プロテイナーゼK、キモトリプシン、パパイン、ペプシン、トリプシン、プロナーゼ、および/またはエンドプロテイナーゼLys−Cであってよいが、当業者ならば他の酵素も使用可能であることが分かるであろう。反応バッファーはTrisを含んでよく、約6.0〜約9.0のpHを有するものであってよい。
【0012】
本発明のさらなる目的は、多用途生体分子溶解物を製造するためのキットを提供することであり、このキットは(a)組織病理学的に加工処理された生物サンプル、(b)タンパク質分解酵素、および(c)界面活性剤を含む。
【0013】
本発明のさらにもう1つの目的は、1以上の分析物を含有する疑いのある多用途生体分子溶解物において、その1以上の分析物を検出する方法であって、(a)上記の多用途生体分子溶解物をアレイと接触させる工程(このアレイは、位置識別可能な形で支持体表面に固定化されている、既知の結合特異性を有する1以上の捕捉剤を含んでなる)、および(b)その溶解物中の1以上の分析物の、前記固定化捕捉試薬に対する結合または結合の不在を検出する工程を含んでなる方法を提供することである。この1以上の分析物は、例えばタンパク質であってよい。捕捉試薬は、例えば、抗体および抗体フラグメント、単一ドメイン抗体、人工スキャフォールド、ペプチド、核酸アプタマー、受容体部分、親和性試薬、例えば薬物などの小分子、およびタンパク質リガンドであってよいが、他の捕捉試薬も使用できる。支持体表面は、限定されるものではないが、例えば、ガラス、ガラス誘導体、シリコン、シリコン誘導体、多孔質シリコン、プラスチック、ニトロセルロース膜、ナイロン膜、およびPVDF膜からなる群から選択される材料であってよい。1以上の分析物は、RNAまたはDNAなどの核酸または核酸であってよい。多用途生体分子溶解物は、溶解物をアレイと接触させる前に、分画工程を行ってもよい。
【0014】
本発明のさらにもう1つの目的は、組織病理学的に加工処理された2以上の生物サンプルから得られた2以上の多用途生体分子溶解物を分析する方法であって、(a)組織病理学的に加工処理されたサンプルから得られた2以上の多用途生体分子溶解物を支持体表面に固定化する工程(ここで、各溶解物はその表面上の異なる位置に固定化される);(b)その支持体表面を、結合親和性が既知の試薬と接触させる工程;ならびに(c)その支持体表面上の異なる位置における、結合親和性が既知の試薬の結合の存在または不在を検出する工程を含んでなる方法を提供することである。特定の実施態様では、検出工程(b)は、サンプル中に存在することが疑われる1以上の分析物に特異的に結合する検出試薬を用いて行うことができる。この溶解物は、表面に固定化する前に分画してもよい。例えば、溶解物のRNA、DNA、および/またはタンパク質画分を表面に固定化することができる。
【0015】
溶解物は、支持体表面に、例えば、手によるスポット、インクジェット、ロボット接触型プリント、ロボット非接触型プリントおよび/または圧電スポットによりスポットすることができる。結合親和性が既知の試薬としては、例えば、抗体および抗体フラグメント、単一ドメイン抗体、人工スキャフォールド、ペプチド、核酸アプタマー、受容体部分、親和性試薬、小分子、および/またはタンパク質リガンドであってよい。支持体表面としては、限定されるものではないが、例えば、ガラス、ガラス誘導体、シリコン、シリコン誘導体、多孔質シリコン、プラスチック、ニトロセルロース膜、ナイロン膜、およびPVDF膜からなる群から選択されるものであってよい。
【0016】
本発明は添付の図面を参照すればよりよく理解される。
【0017】
本発明の他の目的、特徴および利点は以下の詳細な説明から明らかになる。しかしながら、詳細な説明および具体例は本発明の好ましい実施態様を示すものであるが、当業者ならばこの詳細な説明から本発明の精神および範囲内の種々の変更および改変が明らかとなることから、単に例として示すものである。
【発明の具体的説明】
【0018】
本発明は、サンプルを多様な生化学アッセイに使用可能とする様式で、組織病理学的に加工処理された生物サンプルを処理する方法を提供する。例えば、本発明の方法は、さらなるアッセイに有用な形態の、組織病理学的に加工処理された生物サンプルからタンパク質および核酸の回収をはじめて可能とするものである。
【0019】
具体的には、本発明者らは、驚くべきことに、組織病理学的に加工処理された生物サンプルを反応バッファー中で加熱した後にプロテアーゼ処理して、元の生物サンプルに関する分子情報に富んだ溶解物を得ることができることを見出した。正常および罹患組織の膨大なアレイから極めて多数の組織病理学的に加工処理された生物サンプルを世界中の研究所および病院で利用でき、本発明の方法は、以下に詳細に記載するように、これらのサンプルから得ることができる情報を著しく拡大する。
【0020】
本発明は記載されている特定の方法論、プロトコール、構成、組成、試薬に限定されるものではなく、これらは変更可能であると理解すべきである。また、明細書で用いられている用語は単に特定の実施態様を記載するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではないと理解すべきである。
【0021】
本明細書および特許請求の範囲において単数形の用語は、そうでないことが明示されない限り、複数のものを含む。従って、例えば、「細胞」は1以上の細胞をさし、当業者に公知のその等価物も含む。
【0022】
特に断りのない限り、本明細書で用いる総ての技術用語および科学用語は、本発明が属する分野の当業者に共通に理解されているものと同じ意味を有する。本明細書に記載のものと類似および同等の方法、装置、および材料はいずれも本発明の実施または試験に使用できるが、以下、好ましい方法、装置および材料を記載する。
【0023】
本明細書に挙げられている刊行物および特許は総て、例えば、ここに記載する発明と関連して用い得る刊行物に記載されている組成物および方法論を記載および開示する目的で、引用することにより本明細書の一部とする。上述および本明細書の随所で挙げられている刊行物は単に本願の出願日に先行する開示を示すものである。本発明者らが先行発明の効力によるこのような開示に先行する権利が与えられないことを認めるものではない。
【0024】
生物サンプル
本発明は、組織病理学的に加工処理された生物サンプルから多用途生体分子溶解物を得る方法を提供する。組織病理学的に加工処理された生物サンプルとしては、生物体そのもの、診断外科病理から得られたサンプル、組織サンプル、体液、細胞もしくはウイルス材料、または組織病理学的に加工処理された他のいずれかの生物サンプルが挙げられる。多機能溶解物の用途には診断および推定疾病モデリングが含まれるが、この溶解物はまた、具体的な状況に応じて行われる有用な任意の実験技術と併用することもできる。
【0025】
本発明の1つの実施態様では、組織病理学的に加工処理された生物サンプルから多用途生体分子溶解物を得る方法が提供される。生物サンプルの組織病理学的加工処理の例としては、限定されるものではないが、生物体そのもののホルマリン固定;組織または細胞のホルマリン固定;組織または細胞のホルマリン固定/パラフィン包理;および組織培養細胞のホルマリン固定および/またはパラフィン包理が挙げられる。
【0026】
組織病理学的加工処理は一般にホルマリン固定液の使用により行う。ホルマリンは、比較的低コストで、取り扱いが容易で、ホルマリン固定サンプルをひと度パラフィンに包埋すればサンプルが容易に保存できることから、広く用いられている。さらに、ホルマリンは、組織構造と細胞形態の双方を保存できることから、しばしば固定剤として選択される。厳密な機構は十分理解されていないが、生物標本内のタンパク質のホルマリンにより誘導される架橋によって固定が起こる。これらのタンパク質架橋により、ホルマリン固定は従来からの組織切片の顕微鏡分析において広く成功を見ている。しかしながら、生物サンプルが組織病理学的に加工処理されてしまえば、もはや可溶でなくなる。その結果、組織病理学的に加工処理された生物サンプルにはいくつかの実験技術しか利用できない。ホルマリン固定サンプルに対して行える現行のアッセイは少ないし、良くても半定量的である。ホルマリン固定組織に対して行えるアッセイの例としては、免疫組織化学(IHC)、in situハイブリダイゼーション(ISH)、および蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)がある。ISHおよびFISHはmRNAまたはDNAの細胞局在を提供する。これらのアッセイは総て、定量性がないこと、感受性が低いこと、およびハイスループットアッセイの実施が困難なことに関する同じ短所を有している。従って、ホルマリン固定は、近年発達してきた有力な分析方法の多くのものに対して価値の低いホルマリン固定アーカイブとなる。
【0027】
ホルマリン固定標本の膨大な量は決して誇張ではない。ここ100年近く、生物標本は一般にホルマリンまたはホルマリン固定/パラフィンワックス固定(FFPE)ブロックに固定されてきた。大学および博物館はホルマリン固定されている植物および動物の膨大なアーカイブを所有している。病院は、診断外科病理の過程で正常な健康組織に加えて、ほとんど総ての既知の疾病由来の組織を含む大きなホルマリン固定コレクションを所有している。さらなる試験が必要となる場合にこれらの臨床サンプルを保有する必要があるため、世界中のこれらのアーカイブは、現在、何百万というFFPEサンプルを含んでいる。
【0028】
本明細書に記載の発明の一つの実施態様では、組織病理学的に加工処理された生物サンプルから可溶性の多用途生体分子溶解物を作出する方法が提供される。この方法は、組織病理学的に保存されている生物サンプル、例えば組織または細胞から、直接的に多用途生体分子溶解物を作製することを含み、そのサンプル内に含まれる種々のタイプの、実質的に総ての生体分子を取得し、抽出し、単離し、可溶化し、分画し、そして保存することを可能とする。この可溶性の多用途生体分子溶解物は、その組織病理学的に加工処理された生物サンプル内に総ての生体分子が存在することから、それらの代表的ライブラリーとなる。このような生体分子には、限定されるものではないが、タンパク質、糖タンパク質、核酸(例えば、DNA、RNA)、脂質、糖脂質、および細胞オルガネラ由来分子が含まれる。
【0029】
さらに、この多用途生体分子溶解物は取り扱いやすい。例えば、この多用途生体分子溶解物は当技術分野で公知の方法により、核酸画分および残りの生体分子を含む画分に分画することができる。また、この多用途生体分子溶解物は、連続希釈が可能である。本発明の他の実施態様によれば、組織病理学的に加工処理された生物サンプルからの多用途生体分子溶解物はいくつかの実験技術で用いることができる。
【0030】
溶解物の用途
本明細書に記載の方法は、多くの実験および診断技術と併用できる組織病理学的に加工処理された生物サンプルからの多用途生体分子溶解物を得るために使用でき、それにより組織病理学的に加工処理されたアーカイブの新たな用途を提供できるので、特に有用である。多用途生体分子溶解物と併用可能な技術の例としては、限定されるものではないが、クロマトグラフィー、タンパク質アレイ、ウエスタンブロット法、免疫沈降、アフィニティーカラム、選択的スプライシングアッセイ、突然変異解析、核酸増幅、マイクロアレイ分析用の標識プローブ、RFLP分析、サザンブロット法、ならびに、限定されるものではないが、一次元および二次元ポリアクリルアミドゲル電気泳動(2D−PAGE)、遺伝子発現の連続分析(SAGE)、HPLC、FPLC、MALDI−TOF質量分析法、SELDI質量分析法、液体クロマトグラフィー、質量分析法、ELISAアッセイ、定量的RT−PCR、一塩基多型検出、ジェノタイピングおよびシーケンシングなどのハイスループットアッセイが挙げられる。当業者ならば、本発明の方法によって作製された溶解物は、多様な他のアッセイでも使用できることが分かるであろう。
【0031】
ゲノミクスおよびプロテオミクスの分野における劇的な躍進に加え、最近のヒトゲノムプロジェクトの完了は、ハイスループットアッセイの膨大な可能性を示している。プロテオミクスはタンパク質を同定および定量しようという初期の試みを超えて進み、今や生物体、器官またはオルガネラにおける全タンパク質の機能、およびこれらのタンパク質が経時的に、また生理状態でどのように異なるかの決定が試みられている。
【0032】
「機能ゲノミクス」では、各遺伝子の生理的役割の決定を試みている。各遺伝子の機能を発見する際の重要な工程は、組織標本におけるmRNA転写物およびタンパク質の発現パターンを慎重に測定することである。遺伝子ならびにmRNAおよびタンパク質などの遺伝子産物の特定の発現パターンを測定することで、正常な健康細胞種においてどの遺伝子がどういうレベルで発現するのかを決定することができる。しかしながら、おそらくもっと重要なのは、罹患細胞種での発現パターンを測定することであり、その疾病の病理進行に対する新たな洞察を探り出すということである。さらに、新たなマーカーを発見し、それにより新たな診断および治療戦略を得ることもできる。
【0033】
ホルマリン固定アーカイブを利用可能にするということが、これらの試みにおける大きな目的となる。各病理標本に対する罹患結果は既知である場合が多い。従って、マーカーと患者の進行の間の関係は容易に確立することができる。さらに、多用途生体分子溶解物は組織病理学的に加工処理された生物サンプルの代表的ライブラリーであるので、核画分と非核画分の双方が存在する。従って、核酸発現と非核酸分子の存在の間の直接的関係を決定することができる。これは核酸画分または非核酸画分のみを単離し、間接的な関係だけしか抽出することができない現行技術に優る利点である。あるいは、ハイスループットアッセイは、種間の差を作り出し、定量するこれらのアッセイの能力のため、比較進化生物学者および動物学者にとって有用となる。これらの範囲の試みはハイスループットアッセイの使用によってはじめて可能となる。
【0034】
アレイアッセイ
ハイスループットアッセイの具体例として、タンパク質アレイがある。タンパク質アレイは並行性(多重性)が高く、ミニチュア(マイクロアレイ)で行うことができる。タンパク質アレイは迅速(通常は自動)、高感度で、かつ、1回の実験で大量のデータを作成できる。タンパク質アレイは、実質的には、よく知られているELISAまたはドットブロット免疫アッセイのミニチュア版である。ELISAおよびドットブロットと同様に、タンパク質アレイの結果は、通常、光学的検出法、例えば蛍光検出を用いて得られる。1回のタンパク質アレイ実験によって作成されたデータは多くの場合大変な量となるので、作成されたデータを読みとり、解析するためには特殊なコンピューターソフトが必要となる場合がある。
【0035】
タンパク質アレイ解析などのハイスループットアッセイでは、膨大な量の生物サンプルを一度にスクリーニングすることができる。候補マーカーといずれかの疾患とを有意に結びつけるためには、多数の事例をスクリーニングして確かな相関を作り出さなければならない。しかしながら、疾病結果が既知である十分な生物サンプルを、化学的に固定されていない凍結または安定した保存可能な状態で得ることが制限因子となる。この限界に対する可能性のある対策がホルマリン固定組織および細胞のアーカイブの使用である。本発明の方法は、多用途生体分子溶解物がホルマリン固定組織アーカイブをハイスループットタンパク質アレイ分析において使用可能とすることから、特に有用である。
【0036】
1つのタイプのタンパク質アレイ分析では、抗体のような、結合親和性が既知の特異的な捕捉試薬を、位置が分かるように支持体表面に固定化またはスポットしてタンパク質アレイを形成する。次に、血漿、その他の組織抽出物、この場合には多用途生体分子溶解物をタンパク質アレイに加える。支持体表面に固定化されたこの結合タンパク質は個々のタンパク質またはマーカーに対して特異的親和性を有するので、タンパク質アレイは標本中の標的分子またはマーカータンパク質を検出することができる。支持体表面の既知の位置に特異的な捕捉試薬を固定化することで、タンパク質の同定およびマーカータンパク質の存在がx軸とy軸の位置情報により決定できる、さらに、複雑なサンプル内のタンパク質レベルにおける差異が容易に測定できることから、厳密な量的示差分析も行うことができる。検出は当業者に公知のいくつかの方法により行うことができる。例としては、限定されるものではないが、サンドイッチアッセイにおける二次抗体、分析物の直接標識、二色標識、質量分析、表面プラズモン共鳴、および原子力顕微鏡が挙げられる。
【0037】
もう1つのタイプのタンパク質アレイ分析では、組織/細胞溶解物を、例えば固相支持体上に、アレイ形式に配置する。種々のサンプル由来の複数の溶解物を、位置特定可能な様式で1つの表面に並べればよい。次に、抗体など、標的生体分子またはマーカーと結合する既知の結合特異性を有する試薬を加える。本明細書に記載の、この主たる2種のアレイ分析間の主要な違いは、最初のタイプのタンパク質アレイでは、単一のタンパク質源(例えば、単一の癌組織)の多くの異なるタンパク質発現が判定できる。これに対し、他方のタイプのタンパク質アレイ分析によれば、場合により、多くの異なるタンパク質源(例えば、多くの異なる症例の癌組織)のあるタンパク質の発現に関してアッセイできる。溶解物はアレイに固定化する前に分画してもよく、溶解物のタンパク質含有画分をアレイの作製に用いてもよい。当業者ならば、溶解物の他の画分をアレイの作製に用いてもよいことが分かるであろう。例えば、DNAおよび/またはRNA含有画分を好適な表面に固定化して核酸アレイを作製してもよい。
【0038】
タンパク質アレイにおける結合親和性が既知の特異的試薬は抗体または抗体フラグメントであるのが有利であるが、単一ドメイン抗体、人工スキャフォールド、ペプチド、核酸アプタマー、薬物などの小分子、例えば、タンパク質リガンド、または関連技術分野で公知の特異的結合タンパク質であってもよい。抗体はポリクローナルであってもモノクローナルであってもよく、または抗原部位と結合し得る抗体の一部もしくはフラグメントであってよく、Sigma-Aldrich Co. (St. Louis, MO)などの通常の商業ソースから入手できる。
【0039】
タンパク質アレイ支持体表面としては、限定されるものではないが、ガラス(スライドグラスなど)、シリコン、多孔質シリコン、ナイロン、PVDFまたはニトロセルロース膜など、またはビーズが挙げられ、様々な商業ソースから入手できる。あるいは、タンパク質アレイ専用のチップも開発されており、例えばBiotrove (Woburn, MA), Zyomyx (Hayward, CA)およびPontilliste (Mountain View, CA)から商業的に入手できる。
【0040】
特異的捕捉試薬または組織/細胞溶解物は、当業者に公知のいくつかの技術により支持体表面にスポットまたは固定化することができる。例としては、限定されるものではないが、ロボット接触型プリント、ロボット非接触型プリント、インクジェット、および圧電スポットが挙げられる。捕捉試薬が、固相支持体上で合成可能な、核酸などの高分子である場合には、例えば、写真平板法により支持体上で直接製造してもよい。いくつかの市販の自動スポット装置が、例えばPackard Bioscience (Meriden, CT)から入手できるし、手動のスポット器も、例えばV & P Scientific (San Diego, CA)から商業的に入手できる。
【0041】
本明細書において「分析物」とは、特異的結合親和性の試薬と結合することによって検出可能な生物サンプルに含まれる生体分子をさす。
【0042】
本明細書において「バッファー」とは、1.0〜9.0の範囲の特定pHを有するバッファーをさす。特定のpHおよびバッファーの種類は双方とも、用いるタンパク質分解酵素に基づいて選択する。バッファーの種類および特定のpH要求は当業者に公知である。
【0043】
本明細書において「有機溶媒」とは、パラフィンを除去するための溶媒をさし、限定されるものではないが、キシレン、トルエン、またはクロロホルムを含む。
【0044】
本明細書において「インキュベートする」とは、特異的結合親和性が既知の試薬と生物サンプル中に含まれている分析物との間の結合を促進するために、結合親和性が既知の試薬を生物サンプルと接触させることをさす。インキュベーション時間および試薬濃度は所望の結果を得るのに十分なものであればよいが、当業者ならば、インキュベーション時間および試薬濃度はいずれも、好適な試薬が特定されてしまえば、当技術分野で公知の方法を用いて至適化できることが分かるであろう。
【0045】
本明細書において「十分な均質性」とは、選択基準を基に、類似の特性または形質を有する組織または細胞の集団をさす。選択基準の例としては、限定されるものではないが、関連技術分野で周知の組織病理学的選択基準である。実際に生物サンプルを「得る」方法の例としては、限定されるものではないが、コアパンチ、組織パンチ、レーザー顕微解剖および当技術分野で公知のその他の技術の使用が挙げられる。選択したアッセイを行うのに十分な量である限り、得られた生物サンプルの実際の大きさは重要ではない。
【0046】
溶解物の作製方法
本発明の方法は、ホルマリンにより誘導されたタンパク質の架橋に負の影響を及ぼすに十分な時間および温度で、組織病理学的に加工処理された生物サンプルを加熱することを含む。当業者ならば、加熱の時間および温度は決定的なものではなく、可変であることを理解するであろうが、通常の加熱時間は約30分〜約24時間である。温度がホルマリンにより誘導されたタンパク質の架橋に負の影響を及ぼす機構としては、限定されるものではないが、タンパク質架橋の逆反応が含まれる。厳密な機構は分かっておらず、何らかの理論に縛られるものではないが、本発明者らは、タンパク質架橋に対する温度の負の影響は、何らかの形の架橋の遊離、逆反応または部分的修飾を伴うものと考えている。
【0047】
本発明の方法はさらに、組織病理学的に加工処理された生物サンプルに少なくとも1つのタンパク質分解酵素を加えることを含む。タンパク質分解酵素が、ホルマリンにより誘導されたタンパク質架橋に対する加熱の負の作用を増強するものと考えられる。時間、温度およびタンパク質分解酵素の量は、総て、ホルマリンにより誘導されたタンパク質の架橋に負の影響を及ぼすのに十分である限り、決定的なものではない。本発明での使用に好適なタンパク質分解酵素の例としては、限定されるものではないが、トリプシン、プロテイナーゼK、キモトリプシン、パパイン、ペプシン、プロナーゼ、およびエンドプロテイナーゼLys−Cが挙げられる。トリプシンはSigma-Aldrich (St. Louis, MO)から購入できる。このプロテアーゼ処理は上記の加熱工程の後に行うのが有利である。また、このプロテアーゼ処理はそのプロテアーゼの最大活性に最適な温度で行うのが有利であるが、これは変更可能である。
【0048】
本発明の一つの実施態様では、多用途生体分子溶解物は、個別に回収できる、異なる個別の生体分子に分画することができる。回収可能な生体分子画分の例としては、限定されるものではないが、タンパク質、糖タンパク質、核酸(例えば、DNA、RNA)、糖脂質、および脂質が挙げられる。分画技術は当技術分野で周知のものであり、限定されるものではないが、スピンカラム分画、免疫沈降、勾配遠心分離、HPLCおよびドリップカラム分画が挙げられる。他の分画法も当技術分野で周知である。
【0049】
分画後、多用途生体分子溶解物の所望の画分をその後のアッセイに用いればよい。多用途生体分子溶解物の生体分子画分と併用できるアッセイの例としては、限定されるものではないが、カラムクロマトグラフィー、タンパク質アレイ、ウエスタンブロット法、免疫沈降、アフィニティーカラム、選択的スプライシングアッセイ、突然変異解析、核酸増幅(例えば、PCR、LCR、およびT7に基づくRNA増幅)、マイクロアレイ分析用標識プローブ、RFLP分析、サザンブロット法、ならびに、限定されるものではないが、一次元および二次元ポリアクリルアミドゲル電気泳動(2D−PAGE)、遺伝子発現の連続分析(SAGE)、HPLC、FPLC、MALDI−TOF質量分析、SELDI質量分析、液体クロマトグラフィー、質量分析、ELISAアッセイ、定量的RT−PCR、一塩基多型検出、ジェノタイピングおよびシーケンシングなどのハイスループットアッセイが挙げられる。
【0050】
本発明は「キット」などの製品を包含する。このようなキットは、典型的には、本明細書に教示されている方法および組成に従って多用途溶解物の調製を行う際に有用な成分を保持する各容器を密閉区画に含むように特別に適合されたものである。特定の実施態様では、本発明は、組織病理学的に加工処理された生物サンプル、反応バッファー、および界面活性剤を含む組成物を提供する。このキットはさらにプロテアーゼ、ならびにバッファーおよび/または有機溶媒など、サンプルからパラフィンを除去するための試薬も含み得る。
【0051】
図1は、多用途生体分子溶解物を調製した後、該溶解物をいくつかの異なるアッセイで使用する方法を含む、本発明の実施態様のフローチャートを示したものである。これらの「工程」はいずれかの特定の順序で行う必要はなく、以下のように非限定的に記述することができる:
(a)組織学に基づく特定の選択基準を適用し、特定の均質な生物組織/細胞集団の富化を行う。この富化は、生体分子を液体組織調製物の形で取得する前に、例えば組織微細解剖法により行うことができる。
(b)ペプチド、ペプチド断片、タンパク質、酵素、DNA、DNA断片、RNA、RNA断片、ならびにその他の生体分子および生体分子断片を安定化させるために、特定のpH(pH6.0〜pH9.0の範囲)に調整したTrisに基づくバッファーを前記の取得した生物サンプルに加える。
(c)限定されるものではないが、手によるホモジナイゼーション、ボルテックス混合、および/または物理的混合を含む方法により、生物サンプルにある程度の物理的破壊を与える。
(d)この生物サンプルを約80℃〜約100℃の範囲の高温で約10分〜約4時間加熱する。温度範囲および時間は、当業者ならば、例えばサンプルサイズに基づき、決定することができる。
(e)この生物サンプルに、例えばプロテイナーゼK、キモトリプシン、パパイン、ペプシン、トリプシン、プロナーゼ、およびエンドプロテイナーゼLys−Cなどの1以上のタンパク質分解酵素を、約30分〜約24時間の間、約37℃〜約80℃の高温、有利には約37℃〜約65℃の温度で加える。この温度範囲および時間は、当業者ならば、例えば生物サンプルのサイズおよび/または選択したタンパク質分解酵素を考慮して、決定することができる。
(f)この生物サンプルに、例えばNonidet−P−40、SDS、Tween−20、Triton−X、およびデオキシコール酸ナトリウムをはじめとする1以上の界面活性剤を加える。この界面活性剤は、プロテアーゼ処理工程の前(加熱の前または後)に加えてもよく、この場合には、界面活性剤の性質およびその濃度をプロテアーゼの活性が実質的に阻害されないように選択し、あるいはプロテアーゼ工程後に加えてもよい。
(g)得られた生物サンプルを、例えばスピンカラム分画、免疫沈降、勾配遠心分離、HPLC、およびドリップカラム分画のようないくつかの方法により分子的に分画し、異なる、回収可能な画分として種々の生体分子の取得物を得る。
(h)その後の生化学アッセイのための種々の生体分子を取得するために、特定の細胞亜画分および分子画分を取得および精製する。
【0052】
本発明では、各生体分子溶解物は、組織病理学的に加工処理された生物サンプル中にもともと生体分子が存在しているので、それらの生体分子の状態を直接反映する特定の生体分子の代表的ライブラリーとなる。組織病理学的に加工処理された生物サンプルに由来するこのような代表的生体分子溶解物ライブラリーの例としては、ホルマリン固定パラフィン包埋組織/細胞からの直接的タンパク質溶解物の調製物があろう。
【0053】
得られた生体分子調製物は、複数の異なる組織病理学的に加工処理された生物サンプルから得られた複数の液体組織調製物(多用途生体分子溶解物)の同時生化学分析のために、アレイ形式で配置することができる。このようなハイスループットアレイアッセイ形式の例としては、組織病理学的に加工処理されたサンプルに由来し、前述のように取得した組織タンパク質溶解物が固相支持体基板上のタンパク質の小スポットとして順序付けられ、定義されたパターンで並んでいるような液体組織タンパク質アレイの開発であり、ここでは各スポットが、組織病理学的に加工処理された生物サンプルに存在し、免疫に基づくタンパク質同定結合アッセイなどのいくつかの異なる生化学タンパク質分析形式によってアッセイした場合に、それらのタンパク質が、それからタンパク質が取得された組織病理学的に加工処理された生物サンプルの病理学および組織学に関連するので、タンパク質の発現パターンおよび特徴を直接反映するタンパク質の代表的ライブラリーとなり、それらの発現タンパク質の特徴となる。
【0054】
目的の生体分子がタンパク質である場合、タンパク質抽出物は可溶性の液体状であり、最初の組織病理学的に加工処理された生物サンプルから取得された細胞の総タンパク質内容物を代表するものとなる。このタンパク質抽出物は、限定されるものではないが、組織病理学的に加工処理された生物サンプルの病理学的および組織学的に定義された集団に由来するタンパク質の代表的なライブラリーを含む液体組織タンパク質マイクロアレイをはじめとする、あらゆるタンパク質同定、分析および発現アッセイに供することができ、これらの分析は組織病理学的に加工処理された生物サンプルの組織学、病状および病理学に関するものとなる。
【0055】
生体分子がDNAである場合、DNA抽出物は可溶性の液体状であり、最初の組織病理学的に加工処理された生物サンプルから取得された細胞の総DNA内容物を代表するものとなる。このDNA抽出物は、限定されるものではないが、遺伝子構造の分析、遺伝子の変動、一塩基多型および突然変異分析をはじめとするDNAにおけるバリエーションを判定するようにデザインされたあらゆるDNAおよび/またはRNA遺伝子同定分析およびモニタリングアッセイに供することができ、これらの分析は組織病理学的に加工処理された生物サンプルの組織学、病状および病理学に関するものとなる。
【0056】
生体分子がRNAである場合、RNA抽出物は可溶性の液体状であり、最初の組織病理学的に加工処理された生物サンプルから取得された細胞の総RNA内容物を代表するものとなる。このRNA抽出物はあらゆるRNAおよび/または遺伝子同定分析ならびに遺伝子発現分析ならびに定量的定量的RT−PCR分析に供することができ、これらの分析は組織病理学的に加工処理された生物サンプルの組織学、病状および病理学に関するものとなる。
【0057】
生体分子がタンパク質、DNAおよびRNA以外の生体分子である場合、生体分子は、それが最初の組織病理学的に加工処理された生物サンプルの組織学、病状および病理学に関するものとしてアッセイされる。
【0058】
このように一般的に説明してきた本発明は、以下の実施例を参照すればより容易に理解できる。なお、これらの実施例は例として示すものであって、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0059】
実施例1 ホルマリン固定サンプルからの多用途溶解物の調製
1.組織パンチからの直径2mm、厚さ25μmの切片を、シラン処理した、または低タンパク質結合の1.5mlマイクロ遠沈管に入れる。
2.20mMTris−HCl H7.8 500μlを加える。
3.95℃で1分間加熱する。
4.ボルテックスミキサーで穏やかに混合する。
5.ピペッターを用い、組織切片を損なうことなく注意深くバッファーを除去する。
6.20mMTris−HCl H7.8 750μlを加える。
7.95℃で1分間加熱する。
8.ピペッターを用い、組織切片を損なうことなく注意深くバッファーを除去する。
9.10,000rpmで1分間マイクロ遠心分離を行う。
10.ピペッターを用い、マイクロ遠沈管から残りのバッファー除去する。
11.この遠沈管に反応バッファー(10mM Tris−HCl pH7.8、1.5mM EDTA、0.1%Triton X−100、10%グリセロール)10μlを加える。組織が遠沈管の底にあり、反応バッファーに浸かっているようにする。
12.95℃で1.5時間加熱する。20分ごとに遠沈管を確認し、キャップ内に凝集物が形成している場合にはバッファーが遠沈管の底までいくよう振り混ぜて組織切片がバッファーに浸かっているようにした後、遠沈管を加熱ブロックに戻す。
13.10,000rpmで1分間マイクロ遠心分離を行う。
14.遠沈管を冷たくなるまで氷上に置く。
15.0.5μlの1%トリプシンを加え、穏やかに混合する。
16.37℃で1時間インキュベートする。20分ごとに遠沈管を確認し、キャップ内に凝集物が形成している場合にはバッファーが遠沈管の底までいくよう振り混ぜる。ボルテックスで10〜15秒間激しく混合する。バッファーが遠沈管の底までいくよう振り混ぜて組織切片がバッファーに浸かっているようにした後、遠沈管を水浴に入れる。
17.10,000rpmで1分間マイクロ遠心分離を行う。
18.95℃で5分間加熱する。
19.10,000rpmで1分間マイクロ遠心分離を行う。
【0060】
得られた多用途生体分子溶解物を次にアッセイで用いることもできるし、使用まで−20℃で保存することもできる。
【0061】
これまでのところ本発明の好ましい実施態様であると考えられるものを記載してきたが、本発明の精神から逸脱することなくその他の、またさらなる改変および変更が行える。特許請求の範囲に示された本発明の範囲内にあるさらなる、またその他の改変および変更は総て含まれるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の多用途生体分子溶解物の調製方法を示したフローチャートである。
【図2】典型的なタンパク質発現分析を示するものであり、多用途生体分子溶解調製物が希釈可能であり、かつ、ホルマリン固定組織サンプルから得られた細胞の定量的タンパク質発現プロフィールに使用可能であることを示す。
【図3】分画された標準的な多用途生体分子溶解調製物を示す。両画分を回収し、核酸同定のためのゲル電気泳動分析に用いた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多用途生体分子溶解物を製造する方法であって、
(a)組織病理学的に加工処理された生物サンプルと反応バッファーを含んでなる組成物を、前記生物サンプルにおいてタンパク質架橋に負の影響を及ぼすのに十分な温度および時間で加熱する工程、ならびに
(b)得られた組成物を、有効量のタンパク質分解酵素で、前記生物サンプルの組織および細胞構造を破砕するのに十分な時間処理する工程
を含んでなる、方法。
【請求項2】
前記組織病理学的に加工処理された生物サンプルが、組織または細胞の実質的に均質な集団を含んでなるものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(a)の前に、有機溶媒の添加、加熱、加熱およびTrisを含んでなるバッファーの添加、ならびに加熱および有機溶媒の添加からなる群から選択される1以上の方法により、前記組織病理学的に加工処理された生物サンプル中に存在するパラフィンを除去する工程をさらに含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
手によるホモジナイゼーション、ボルテックス混合、および物理的混合からなる群から選択される少なくとも1つの技法により、前記生物サンプルを機械的に破砕する工程をさらに含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記生物サンプルが約80℃〜約100℃の温度まで加熱される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記生物サンプルが約10分間〜約4時間加熱される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記タンパク質分解酵素処理が約30分間〜約24時間続けられる、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記タンパク質分解酵素処理が約37℃〜約65℃の温度で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記反応バッファーが界面活性剤を含んでなるものである、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
工程(b)が界面活性剤の存在下で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記界面活性剤がNonidet P40、SDS、Tween−20、Triton X、およびデオキシコール酸ナトリウムからなる群から選択されるものである、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記界面活性剤がNonidet P40、SDS、Tween−20、Triton X、およびデオキシコール酸ナトリウムからなる群から選択されるものである、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記タンパク質分解酵素がプロテイナーゼK、キモトリプシン、パパイン、ペプシン、トリプシン、プロナーゼ、およびエンドプロテイナーゼLys−Cからなる群から選択されるものである、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記反応バッファーが、Trisを含んでなり、約6.0〜約9.0のpHを有するものである、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記多用途生体分子溶解物を異なる個別の生体分子画分に分画する工程をさらに含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
各生体分子画分が生化学アッセイにおける使用に好適な異なる個別の生体分子を含有する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記組織病理学的に加工処理された生物サンプルが、ホルマリン固定組織/細胞、ホルマリン固定/パラフィン包埋(FFPE)組織/細胞、FFPE組織ブロックおよびこれらのブロックからの細胞、ならびにホルマリン固定および/またはパラフィン包埋した組織培養細胞からなる群から選択されるものである、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
多用途生体分子溶解物を製造するためのキットであって、
(a)組織病理学的に加工処理された生物サンプル、
(b)タンパク質分解酵素、および
(c)界面活性剤
を少なくとも含んでなる、キット。
【請求項19】
1以上の分析物を含有する疑いのある多用途生体分子溶解物において、その1以上の分析物を検出する方法であって、
(a)請求項1に記載の多用途生体分子溶解物をアレイと接触させる工程であって、該アレイが、位置識別可能な形で支持体表面に固定化されている、既知の結合特異性を有する1以上の捕捉剤を含んでなるものである、工程、および
(b)前記溶解物中の1以上の分析物の、前記固定化捕捉試薬に対する結合または結合の不在を検出する工程
を含んでなる、方法。
【請求項20】
前記分析物の少なくとも1つがタンパク質である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記捕捉試薬が、抗体および抗体フラグメント、単一ドメイン抗体、人工スキャフォールド、ペプチド、核酸アプタマー、受容体部分、親和性試薬、小分子、およびタンパク質リガンドからなる群から選択されるものである、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記支持体表面が、ガラス、ガラス誘導体、シリコン、シリコン誘導体、多孔質シリコン、プラスチック、ニトロセルロース膜、ナイロン膜、およびPVDF膜からなる群から選択される材料を含んでなるものである、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
組織病理学的に加工処理された複数の生物サンプルから得られた複数の多用途生体分子溶解物を分析する方法であって、
(a)組織病理学的に加工処理されたサンプルから得られた複数の多用途生体分子溶解物を支持体表面に固定化する工程であって、各溶解物が前記表面上の異なる位置に固定化される、工程、
(b)前記支持体表面を、既知の結合親和性を有する試薬と接触させる工程、ならびに
(c)前記支持体表面上の前記異なる位置における、既知の結合親和性を有する前記試薬の結合の存在または不在を検出する工程
を含んでなる、方法。
【請求項24】
多用途生体分子溶解物が、手によるスポット、インクジェット、ロボット接触型プリント、ロボット非接触型プリントおよび圧電スポットからなる群から選択される方法により支持体表面にスポットされる、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
既知の結合親和性を有する前記試薬が、抗体および抗体フラグメント、単一ドメイン抗体、人工スキャフォールド、ペプチド、核酸アプタマー、受容体部分、親和性試薬、小分子、およびタンパク質リガンドからなる群から選択されるものである、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記支持体表面が、ガラス、ガラス誘導体、シリコン、シリコン誘導体、多孔質シリコン、プラスチック、ニトロセルロース膜、ナイロン膜、およびPVDF膜からなる群から選択される材料を含んでなるものである、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
前記分析物の少なくとも1つが核酸である、請求項19に記載の方法。
【請求項28】
前記多用途生体分子溶解物に対し、該溶解物と前記アレイの接触前に、分画工程が行われる、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記核酸がRNAを含んでなる、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
前記核酸がDNAを含んでなる、請求項27に記載の方法。
【請求項31】
各溶解物のRNA含有画分が前記支持体表面に固定化される、請求項23に記載の方法。
【請求項32】
検出工程(b)が、前記サンプル中に存在する疑いのある1以上の分析物に特異的に結合する検出試薬を用いて行われる、請求項19に記載の方法。
【請求項33】
前記検出試薬がタンパク質である、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記多用途生体分子溶解物の1以上に対して、得られた1以上の画分を前記表面に固定化する前に、分画工程が行われる、請求項23に記載の方法。
【請求項35】
1以上の溶解物の核酸画分が前記表面に固定化される、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記核酸画分がRNA含有画分である、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記核酸画分がDNA含有画分である、請求項35に記載の方法。
【請求項38】
前記画分がタンパク質含有画分である、請求項34に記載の方法。
【請求項39】
工程(b)の産物に対して少なくとも1つの生化学アッセイを行う工程をさらに含んでなる、請求項1に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2006−519996(P2006−519996A)
【公表日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−506983(P2006−506983)
【出願日】平成16年3月10日(2004.3.10)
【国際出願番号】PCT/US2004/007142
【国際公開番号】WO2004/080579
【国際公開日】平成16年9月23日(2004.9.23)
【出願人】(505343745)エクスプレッション、パソロジー、インコーポレイテッド (7)
【氏名又は名称原語表記】EXPRESSION PATHOLOGY, INC.
【Fターム(参考)】