説明

経口用医薬組成物

【課題】イブプロフェン由来の不快な味がマスキングされ、服用性が良好な経口用医薬組成物を提供する。さらに、イブプロフェン由来の咽喉刺激が低減された、服用性が良好な経口用医薬組成物を提供する。
【解決手段】イブプロフェン、スクラロース、及びグレープフルーツ香料を含有することよりなる。更に、糖アルコールを含有することが好ましく、粒状剤、口腔内崩壊錠またはトローチ剤であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イブプロフェンの不快な味(苦味)が抑制され、さらに咽喉刺激がない、服用性が良好な経口用医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
薬物の中には不快な味を有するものが多く、これらを含有する経口製剤とする場合、薬物由来の不快な味をマスキングする検討がなされてきた。特に、水を用いずに服用する錠剤(口腔内崩壊錠、トローチ等)や、粒状剤、液剤、ゼリー剤などは、患者が薬物の不快な味を感じやすい製剤であるため、マスキングは重要な課題となる。
前記課題を解決するために、従来、甘味剤や香料を添加するマスキング技術等が報告されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
しかし、甘味剤や香料によっては充分に不快な味をマスキングすることができなかったり、香料由来の苦味を生じたり、甘味剤の甘味の後引きによる服用性の低下を生じるなど、必ずしも満足できるものではなかった。
薬物の中でも、イブプロフェンは、苦味の他に、飲み込む際に刺すような咽喉刺激があり、服用感が悪い。特に液剤等よりも有効成分を高濃度で含有する固形製剤(錠剤、粒状剤)、ゼリー剤は、咽喉刺激を強く感じるため、解決が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−106639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、イブプロフェン由来の不快な味がマスキングされ、服用性が良好な経口用医薬組成物を提供することを課題とする。
さらに、本発明は、イブプロフェン由来の咽喉刺激が低減された、服用性が良好な経口用医薬組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは前記課題を検討し、イブプロフェンに、甘味剤としてスクラロースを選択し、香料としてグレープフルーツ香料を選択し組み合わせることによって、イブプロフェンを含有した場合でも、苦味マスキング効果に優れるだけでなく、咽喉刺激が低減され、しかも甘味剤の甘味の後引きがなく、服用性に優れた経口製剤が得られることを知見し、本発明を完成した。
即ち本発明は、
<1>イブプロフェン、スクラロース、及びグレープフルーツ香料を含有することを特徴とする、経口用医薬組成物である。
<2>スクラロースとグレープフルーツ香料の質量比(スクラロース/グレープフルーツ香料)が、1/0.01〜1/1であることを特徴とする、<1>に記載の経口用医薬組成物である。
<3>イブプロフェンとスクラロースの質量比(イブプロフェン/スクラロース)が、1/0.01〜1/0.5であることを特徴とする<1>または<2>に記載の経口用医薬組成物である。
<4>イブプロフェンと、スクラロースと、グレープフルーツ香料との質量比(イブプロフェン/スクラロース/グレープフルーツ香料)が、1/0.1/0.01〜1/0.5/0.05であることを特徴とする<1>〜<3>のいずれかに記載の経口用医薬組成物である。
<5>イブプロフェンの含有量が製剤中5〜80質量%、スクラロースの含有量が製剤中0.01〜10質量%、グレープフルーツ香料の含有量が製剤中0.01〜2質量%である、<1>〜<4>のいずれかに記載の経口用医薬組成物である。
<6>更に、糖アルコールを含有することを特徴とする、<1>〜<5>のいずれかに記載の経口用医薬組成物である。
<7>粒状剤、口腔内崩壊錠またはトローチ剤であることを特徴とする、<1>〜<6>のいずれかに記載の経口用医薬組成物である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の構成とすることによって、イブプロフェンの不快な味や咽喉刺激が十分抑制された経口用医薬組成物が得られ、特に、咀嚼錠、口腔内崩壊錠もしくはトローチ剤等の水なしで服用する錠剤、又は粒状剤の成分として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(1)イブプロフェン
イブプロフェンは公知の非ステロイド系抗炎症剤であり、解熱鎮痛薬や感冒薬の有効成分として配合されている薬物である。本発明で使用されるイブプロフェンは、経口用に使用できる形態であれば特に制限なく使用することができ、粉末、造粒物の何れの形態でもよい。
イブプロフェンの配合量は、マスキングの点からすれば、経口用医薬組成物中80質量%以下とすることが好ましく、より好ましくは60質量%以下、さらに好ましくは50質量%以下、特に好ましくは40質量%以下である。薬効の観点から、5質量%以上、特に10質量%以上の配合量が好ましいが、本発明の構成を有しないイブプロフェンの使用においては、イブプロフェンの配合量が多いほど咽喉刺激の課題が顕著である。
【0009】
(2)スクラロース
本発明の経口用医薬組成物に使用される甘味剤は、スクラロースを必須とする。スクラロースは、アセスルファムカリウムやアスパルテーム、ステビア、サッカリンなどと同様に、経口医薬品にも配合可能な公知の甘味剤であり、市販のものを使用することが出来る。
本発明で使用されるスクラロースの含有量は、経口組成物中、0.01〜10質量%とすることが好ましく、より好ましくは0.05〜10質量%、特に好ましくは0.1〜6質量%である。0.01質量%以下では苦味マスキングが十分でない場合があり、10質量%より多くなると甘味の後引き感が強く服用性が悪くなる場合がある。
また、イブプロフェン/スクラロース(質量比)=1/0.01〜1/0.5が好ましく、より好ましくは1/0.05〜1/0.5である。前記範囲で、イブプロフェンの咽喉刺激抑制効果に特に優れている。
【0010】
(3)グレープフルーツ香料
本発明の経口用医薬組成物は、香料としてグレープフルーツ香料を含有する。グレープフルーツ香料を使用することによって、薬物の苦味をマスキングする効果が高く、しかもスクラロースの甘味の後引きが抑制された、服用感に優れた経口用医薬組成物とすることができる。グレープフルーツ香料はd−リモネンを主成分(60〜99.9質量%)とするグレープフルーツ様の香気を有する柑橘系香料として知られており、グレープフルーツ特有の苦味成分としてヌートカトンを含む。本発明は、リモネンを多く含むグレープフルーツ香料とスクラロースとの併用によって、薬物の不快な味を効果的にマスキングすると共に、前記苦味成分が、スクラロースの甘味の後引きを抑制するため、本発明の顕著な効果が得られるものである。
【0011】
d−リモネンの含有量は、グレープフルーツ香料中、20〜99質量%であることが好ましく、40〜97質量%であることがより好ましい。
ヌートカトンの含有量は、グレープフルーツ香料中、0.0001〜5.0質量%であることが好ましく、0.001 〜 2.0質量%であることがより好ましい。
本発明に係るグレープフルーツ香料は、前記d−リモネンおよびヌートカトンを同時に含有し、それぞれ、前記の好適な含有量であることが好ましい。
【0012】
本発明で使用する前記グレープフルーツ香料は、天然香料素材、合成香料素材を適宜調整し、処方することができる。天然香料素材としては、ホワイトグレープフルーツ、レッドグレープフルーツ、ピンクグレープフルーツ等が挙げられ、当該技術分野において慣用の水蒸気蒸留、または圧搾法などの方法で得られる精油、果皮油などが好ましく使用できる。合成香料素材としては、前記リモネン、ヌートカトンの他、ナリンギン、アルコール類、アルデヒド類、エステル類、エーテル類、ケトン類など、グレープフルーツに含まれる各種揮発性香料成分を適宜使用することができる。
また、香料は液状の香料をそのまま、あるいは担持粒子に担持させた香料粒子として配合してもよいが、好ましくは香料粒子を使用する。
担持粒子としては、例えばデキストリン、アラビアガム、デンプン、還元パラチノース等が挙げられ、アラビアガム等が好ましい。また、前記担持粒子には、少なくとも、d−リモネンをアラビアガムに対して1〜50質量%、より好ましくは2〜40質量%、ヌートカトンをアラビアガムに対して0.000005〜0.25質量%、より好ましくは0.00005〜0.1質量%となるように、それぞれ担持させて香料粒子とすることが好ましい。
【0013】
本発明で使用されるグレープフルーツ香料の含有量は、経口用医薬組成物中、0.01〜2質量%とすることが好ましく、より好ましくは0.01〜1質量%である。0.01質量%以下では苦味マスキングやスクラロースの甘味の後引き抑制が十分でない場合があり、2質量%以上では、グレープフルーツ由来の苦味が強くなるため、服用性が悪くなる可能性がある。
また、スクラロース/グレープフルーツ香料(質量比)=1/0.001〜1/10が好ましく、より好ましくは1/0.01〜1/1(=100〜1)、特に好ましくは1/0.1〜1/0.5(=10〜2)である。前記範囲で、イブプロフェンの咽喉刺激抑制効果に特に優れている。
【0014】
本発明で使用される、イブプロフェンと、スクラロースと、グレープフルーツ香料との質量比(イブプロフェン/スクラロース/グレープフルーツ香料)は、1/0.01/0.00001〜1/0.5/5が好ましく、より好ましくは1/0.05/0.0005〜1/0.5/0.5であり、特に好ましくは、1/0.05/0.005〜1/0.5/0.25であり、最も好ましくは1/0.1/0.01〜1/0.5/0.05である。
【0015】
(4)他の成分
本発明の経口用医薬組成物には、前記成分の他に、経口用医薬組成物に使用可能な各種薬物、添加剤を、本発明の効果を損なわない範囲で含有することができる。
【0016】
前記薬物としては、上記以外の解熱鎮痛剤、抗ヒスタミン剤、鎮咳去痰剤、制酸剤、ビタミン類、ミネラル類等が挙げられる。
具体的には、例えば、アスピリン、アセトアミノフェン、イブプロフェン、エテンザミド、ナプロキセン、ジクロフェナックナトリウム、ピロキシカム、アズレン、インドメタシン、サリチル酸、ケトプロフェン、硝酸イソソルバイド、リン酸ジヒドロコデイン、エフェドリン及びその塩、塩酸フェニルプロパノールアミン、マレイン酸クロルフェニラミン、テオフィリン、(無水)カフェイン、セファレキシン、スルフィソキサゾール、ミネラル、チアミン、アスコルビン酸(塩)等が挙げられる。
【0017】
添加剤としては、医薬の分野で通常使用される、賦型剤、崩壊剤、結合剤、スクラロース以外の甘味剤、顔料、グレープフルーツ香料以外の香料、滑沢剤等が挙げられる。
賦型剤としては、乳糖等の糖、ソルビトール、マンニトール、マルチトール、エリスリトール、キシリトール等の糖アルコール、コーンスターチ等のデンプン、二酸化ケイ素等が挙げられる。これらの中でも、糖アルコールを使用すると本発明の効果がさらに良好となるため好ましい。特に好ましい糖アルコールは、エリスリトールである。
崩壊剤としては、クロスカルメロース、クロスポビドン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、結晶セルロース等が挙げられる。
結合剤としては、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、α化デンプン等が挙げられる。
【0018】
スクラロース以外の甘味剤としては、例えばアセスルファムカリウム、ソーマチン、アスパルテーム、ステビアなどを、本願の効果を損なわない範囲で使用することができる。
顔料としては、酸化亜鉛、二酸化チタンなど、経口用医薬組成物に配合可能な各種有色顔料等が挙げられる。
グレープフルーツ香料以外の任意の香料は、グレープフルーツ香味との相性がよい香料を、本願の効果を損なわない範囲で使用することができる。前記香料としては、ペパーミント、スペアミント、ハッカなどのミント系香料、メントール、カルボン等が挙げられる。
滑沢剤としては、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等が挙げられる。
【0019】
(5)剤形、製造方法
本発明の経口用医薬組成物は、錠剤、粒状剤等の固形製剤、液剤、ゼリー剤などとすることができるが、固形製剤が好ましい。錠剤としては、チュアブル錠、口腔内崩壊錠、口腔内溶解錠、トローチ剤など、水なしで服用する製剤とすることが好ましい。
粒状剤としては、医薬の分野でよく知られた、散剤、細粒剤、顆粒剤等が挙げられる。
各製剤の製造方法は、特に限定されず、公知の方法で製造することができる。例えば、粒状剤は、各成分を混合して得ることができ、必要に応じて造粒粒子を使用してもよい。錠剤の場合は、各成分(必要に応じて慣用の造粒粒子を用いてもよい)を混合し、打錠機にて打錠するなど、公知の方法を適用して得ることができる。
【実施例】
【0020】
以下に、本発明の経口用医薬組成物を、実施例を用いて説明する。
<試験例1>
表1に記載の処方で各成分を秤量し、各成分を均一分散するように攪拌混合し、全量1000mgの経口用医薬組成物(粒状剤)を調製した。
【0021】
各例で得られた経口用医薬組成物の咽頭刺激と不快な味の有無と甘味剤の甘味の後引きの有無を、訓練されたフレーバー技術者により、以下の基準で評価した。
(評価基準)
≪咽頭刺激≫
◎:咽喉刺激を感じない。
○:咽喉刺激を僅かに感じる。
△:咽喉刺激を強く感じる。
×:咽喉刺激を非常に強く感じる。
【0022】
≪不快な味の有無≫
◎:不快な味を感じない。
〇:不快な味を僅かに感じる。
△:不快な味をやや強く感じる。
×:不快な味を強く感じる。
【0023】
≪甘味の後引きの有無≫
◎:甘味の後引きを感じない。
〇:甘味の後引きを僅かに感じる。
△:甘味の後引きをやや強く感じる。
×:甘味の後引きを強く感じる。
【0024】
【表1】

【0025】
<試験例2>
表2に記載した処方の錠剤を製造し、咽頭刺激と不快な味の有無と甘味剤の甘味の後引きの有無を試験例1と同様に評価した。
【0026】
【表2】

【0027】
<試験例3〜4、比較例1〜6>
表3〜5に記載した処方の粒状剤を製造し、咽頭刺激と不快な味の有無と甘味の後引きの有無を、試験例1と同様に評価した。
【0028】
【表3】

【0029】
【表4】

【0030】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
イブプロフェン、スクラロース、及びグレープフルーツ香料を含有することを特徴とする、経口用医薬組成物。
【請求項2】
スクラロースとグレープフルーツ香料の質量比(スクラロース/グレープフルーツ香料)が、1/0.01〜1/1であることを特徴とする、請求項1に記載の経口用医薬組成物。
【請求項3】
イブプロフェンとスクラロースの質量比(イブプロフェン/スクラロース)が、1/0.01〜1/0.5であることを特徴とする、請求項1または2に記載の経口用医薬組成物。
【請求項4】
イブプロフェンと、スクラロースと、グレープフルーツ香料との質量比(イブプロフェン/スクラロース/グレープフルーツ香料)が、1/0.1/0.01〜1/0.5/0.05であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の経口用医薬組成物。
【請求項5】
イブプロフェンの含有量が組成物中5〜80質量%、スクラロースの含有量が組成物中0.01〜10質量%、グレープフルーツ香料の含有量が組成物中0.01〜2質量%である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の経口用医薬組成物。
【請求項6】
更に、糖アルコールを含有することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の経口用医薬組成物。
【請求項7】
粒状剤、口腔内崩壊錠またはトローチ剤であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の経口用医薬組成物。

【公開番号】特開2011−26310(P2011−26310A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−146357(P2010−146357)
【出願日】平成22年6月28日(2010.6.28)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】