説明

経皮吸収製剤、経皮吸収製剤保持シート、及び経皮吸収製剤保持用具

【課題】難経皮吸収性の薬物等を効率よく投与できる針状又は糸状の形状を有する自己溶解型の経皮吸収製剤等を提供することを課題とする。
【解決手段】タンパク質、多糖類、ポリビニルアルコール、カルボキシビニルポリマー、及びポリアクリル酸ナトリウムからなる群より選ばれた少なくとも1つの物質からなる基剤を用い、針状又は糸状の形状を有する経皮吸収製剤を作製する。表面に水不溶性の層を設けること、多孔性物質に目的物質を保持させること、又は長時間持続性の目的物質を使用することで、目的物質を徐放させることができる。支持体の少なくとも一方の面に本発明の経皮吸収製剤を保持する経皮吸収製剤保持シート、本発明の経皮吸収製剤を効率的に投与できる経皮吸収製剤保持用具も提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経皮吸収製剤、経皮吸収製剤保持シート、及び経皮吸収製剤保持用具に関し、さらに詳細には、針状又は糸状の形状を有し、タンパク質、多糖類等からなる基剤と目的物質とを有し、皮膚に挿入して使用される針状又は糸状の形状を有する自己溶解型の経皮吸収製剤、シート状の支持体の少なくとも一方の面に該経皮吸収製剤が保持された経皮吸収製剤保持シート、及び、本体が有する貫通孔の中に針状又は糸状の形状を有する経皮吸収製剤が保持された経皮吸収製剤保持用具に関する。
【背景技術】
【0002】
薬物を非侵襲的に投与する手段の一つとして、経皮吸収製剤による経皮的な薬物投与が行なわれている。例えば、軟膏剤、クリーム、ローション剤、パップ剤、貼付剤等の剤型からなる経皮吸収製剤が従来から用いられている。これらの経皮吸収製剤は、通常、皮膚の疾患部位に対して局所的に投与する目的で使用される。これは、皮膚には極めて高度なバリアー機能が発達しているため、投与部位である皮膚から薬物を吸収させて、全身的な薬効を発現させることは一般に困難だからである。なお、経皮吸収システム(Transdermal Therapeutic System, TTS)による貼付剤が一部で実用化されているが、それは、エストロゲン、硝酸誘導体、ツロブテロール、ニコチン等の極めて皮膚透過性が高く、かつ有効血中薬物濃度が約20ng/mL以下の極めて低濃度で薬効を発揮できる薬物についてのみである。つまり、インスリンのような高分子薬物の場合は、皮膚透過性が低く経皮的に吸収させることが困難であり、経皮吸収製剤への応用が困難である。よって、これらの高分子薬物については、依然として注射剤による投与が主流である。
【0003】
このような背景の下、侵襲性が低い注射の技術開発が進められており、その一つとしてマイクロニードルが開発されている。マイクロニードルは、皮膚に刺しても痛みを感じないほどに微細化された針である。マイクロニードルの材質としては、従来の注射針と同じ金属製の他、シリコン等の材質からなるマイクロニードルが開発されている(非特許文献1、非特許文献2)。これらのマイクロニードルは、注射針と同様の中空構造を有するもので、薬液を注入するタイプである。さらに、生体内溶解性を有する物質からなる基剤を有する自己溶解型のマイクロニードルも開発されている。すなわち、基剤に目的物質を保持させておき、皮膚に挿入された際に基剤が自己溶解することにより、目的物質を皮内に投与することができる。例えば、麦芽糖からなる基剤を有する自己溶解型のマイクロニードルがすでに開示されている(特許文献1)。さらに、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、又はポリカプロラクトンからなる基剤を有する自己溶解型のマイクロニードルも公知である。
【0004】
さらに、インスリン等のクリアランスが速い薬物が目的物質の場合は、長時間に渡ってその薬効が持続することが好ましい場合も考えられる。そのためには、目的物質が徐放される自己溶解型のマイクロニードルが求められる。例えば、ポリ乳酸からなる基剤を有する自己溶解型のマイクロニードルは、目的物質を徐放させる作用を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−238347号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】D. K. アルミニ(Armini)とC. リュー(Lui),「マイクロファブリケーション・テクノロジー・フォー・ポリカプロラクトン,ア・バイオデグレイダブル・ポリマー(Microfabrication technology for polycaprolactone, a biodegradable polymer)」,ジャーナル・オブ・マイクロメカニクス・アンド・マイクロエンジニアリング(Journal of Micromechanics and Microengineering),2000年,第10巻,p.80−84
【非特許文献2】M. R. プラウスニッツ(Prausnitz),「マイクロニードルズ・フォー・トランスダーマル・ドラッグ・デリバリー(Microneedles for transdermal drug delivery)」,アドバンスト・ドラッグ・デリバリー・レビューズ(Advanced Drug Delivery Reviews),2004年,第56巻,p.581−587
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
麦芽糖からなる基剤を有する自己溶解型のマイクロニードルを製造する場合には、融点以上の熱をかけて融解した麦芽糖に目的物質を含有させ、その後、成形する。ここで、麦芽糖の融点は約102〜103℃と高温であり、麦芽糖からなる基剤を有するマイクロニードルでは、製造過程で目的物質が高温に曝される。しかし、高温で分解、変性、又は失活する薬物等の目的物質は多く、麦芽糖からなる基剤を有する自己溶解型のマイクロニードルにこのような目的物質を適用することは困難である。特に、目的物質がペプチドやタンパク質の場合は、熱による変性と失活が避けられず、麦芽糖からなる基剤を用いることが極めて困難である。なお、目的物質がインスリンである場合には、インスリン粉末を用いることで熱による変性と失活をある程度防ぐことは可能である。しかし、粉末を麦芽糖の中に分散させて硬化させると脆くなり、マイクロニードルの物理的強度を保つことが困難となる。さらに、麦芽糖は強い吸湿性を有するので、麦芽糖からなる基剤を有する自己溶解型のマイクロニードルは時間の経過とともに吸湿して先端部が軟化し、皮膚に刺さらなくなるという欠点を有する。そのため、麦芽糖からなる基剤を有する自己溶解型のマイクロニードルでは、目的物質を定量的に投与することが難しい場合がある。
【0008】
またさらに、目的物質を徐放させる目的で、ポリ乳酸からなる基剤が用いられる場合、ポリ乳酸は水不溶性であり塩化メチレン等の有機溶媒を用いて溶解させる必要がある。しかし、目的物質の種類によっては、有機溶媒に接触することで変性又は失活する目的物質がある。例えば、インスリン等のペプチドやタンパク質が目的物質である場合には、有機溶媒に接触することで変性又は失活することが多い。したがって、水溶性の物質からなる基剤を有し、目的物質を徐放する自己溶解型のマイクロニードルが求められる。
【0009】
本発明の目的は、高温に曝されることなく製造することができ、適当な物理的強度を有し、有機溶媒を用いることなく製造することができ、その結果、難経皮吸収性の薬物等の経皮的吸収を可能にする、針状又は糸状の形状を有する自己溶解型の経皮吸収製剤等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ね、基剤を構成するための物質を多数検索し、室温又は低温条件下で製造可能な針状又は糸状の形状を有する自己溶解型の経皮吸収製剤を作製することに成功した。さらに、ポリ乳酸を用いることなく目的物質を徐放させる、針状又は糸状の形状を有する自己溶解型の経皮吸収製剤を作製することに成功した。さらに、該経皮吸収製剤を効率的に投与できる経皮吸収製剤保持シートを作製した。さらに、針状又は糸状の形状を有する経皮吸収製剤を容易に皮膚に挿入することができる経皮吸収製剤保持用具を作製し、本発明を完成した。すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
【0011】
本発明の経皮吸収製剤における第1の様相は、水溶性かつ生体内溶解性の高分子物質からなる基剤と、該基剤に保持された目的物質とを有し、皮膚に挿入されることにより目的物質を皮膚から吸収させる経皮吸収製剤であって、前記高分子物質はタンパク質、多糖類、ポリビニルアルコール、カルボキシビニルポリマー、及びポリアクリル酸ナトリウムからなる群より選ばれた少なくとも1つの物質であり、針状又は糸状の形状を有する経皮吸収製剤である。
【0012】
本様相の経皮吸収製剤は、水溶性かつ生体内溶解性の高分子物質からなる基剤と、該基剤に保持された目的物質とを有し、皮膚に挿入されることにより目的物質を皮膚から吸収させる自己溶解型の経皮吸収製剤にかかるものである。本様相の経皮吸収製剤においては、基剤がタンパク質、多糖類、ポリビニルアルコール、カルボキシビニルポリマー、及びポリアクリル酸ナトリウムからなる群より選ばれた少なくとも1つの物質からなり、針状又は糸状の形状を有する。本様相の経皮吸収製剤においては、基剤がタンパク質等からなるので室温又は低温条件下で製造することができる。したがって、基剤に保持されている目的物質が製造過程で高温に曝されることがない。すなわち、熱に対して不安定な目的物質であっても、製造過程でその活性が損なわれることがない。その結果、本様相の経皮吸収製剤によれば、目的物質を高い効率で皮膚から吸収させることができる。
【0013】
なお、本様相の経皮吸収製剤の基剤として用いられる、タンパク質、多糖類、ポリビニルアルコール、カルボキシビニルポリマー、及びポリアクリル酸ナトリウムは、いずれも、少量の水に溶解されると糊状になる「曳糸性を有する物質」である。
【0014】
本発明の経皮吸収製剤に第2の様相は、水溶性かつ生体内溶解性の高分子物質からなる基剤と、該基剤に保持された目的物質とを有し、皮膚に挿入されることにより目的物質を皮膚から吸収させる経皮吸収製剤であって、表面に水不溶性の層が設けられ、前記目的物質が徐放される、針状又は糸状の形状を有する経皮吸収製剤である。
【0015】
本様相の経皮吸収製剤は、目的物質の徐放性が付与された、針状又は糸状の形状を有する自己溶解型の経皮吸収製剤にかかるものである。すなわち、本様相の経皮吸収製剤は、水溶性かつ生体内溶解性の高分子物質からなる基剤と、該基剤に保持された目的物質とを有し、皮膚に挿入されることにより目的物質を皮膚から吸収させる経皮吸収製剤であって、表面に水不溶性の層を有している。本様相の経皮吸収製剤においては、基剤が水溶性の物質からなるので、基剤を調製する際に有機溶媒を使用しない。すなわち、基剤に保持されている目的物質が有機溶媒に曝されないので、製造過程でその活性が損なわれることがない。その結果、本様相の経皮吸収製剤によれば、目的物質を高い効率で皮膚から目的物質を吸収させることができる。また、本様相の経皮吸収製剤においては、表面に水不溶性の層を設けるだけで目的物質を徐放させることができるので、製造が容易である。
【0016】
好ましくは、前記水不溶性の層は、架橋反応によって形成されたものである。
【0017】
この好ましい様相の経皮吸収製剤では、水不溶性の層が架橋反応によって形成されたものであり、製造が容易である。
【0018】
本発明の経皮吸収製剤における第3の様相は、水溶性かつ生体内溶解性の高分子物質からなる基剤と、該基剤に保持された目的物質とを有し、皮膚に挿入されることにより目的物質を皮膚から吸収させる経皮吸収製剤であって、前記基剤は多孔性物質を含有し、前記目的物質は前記多孔性物質に保持され、前記目的物質が徐放される、針状又は糸状の形状を有する経皮吸収製剤である。
【0019】
好ましくは、前記多孔性物質は、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、無水ケイ酸、多孔性炭酸カルシウム、多孔性リン酸カルシウム、及び多孔質シリコンからなる群より選ばれた少なくとも1つの物質である。
【0020】
本様相の経皮吸収製剤も、目的物質の徐放性が付与された、針状又は糸状の形状を有する自己溶解型の経皮吸収製剤にかかるものである。すなわち、本様相の経皮吸収製剤は、水溶性かつ生体内溶解性の高分子物質からなる基剤と、該基剤に保持された目的物質とを有し、皮膚に挿入されることにより目的物質を皮膚から吸収させる経皮吸収製剤であって、基剤に含有されている多孔性物質に目的物質が保持されている。本様相の経皮吸収製剤においても、基剤が水溶性の物質からなるので、基剤を調製する際に有機溶媒を使用しない。すなわち、基剤に保持されている目的物質が有機溶媒に曝されないので、製造過程でその活性が損なわれることがない。その結果、本様相の経皮吸収製剤によれば、目的物質を高い効率で皮膚から吸収させることができる。さらに、本様相の経皮吸収製剤では、基剤に含有されている多孔性物質に目的物質が保持されているので、目的物質を徐放させるための特別の処理を必要としない。
【0021】
本発明の経皮吸収製剤における第4の様相は、水溶性かつ生体内溶解性の高分子物質からなる基剤と、該基剤に保持された目的物質とを有し、皮膚に挿入されることにより目的物質を皮膚から吸収させる経皮吸収製剤であって、前記目的物質が長時間作用型の物質であり、前記目的物質が徐放される、針状又は糸状の形状を有する経皮吸収製剤である。
【0022】
好ましくは、長時間作用型インスリン又はポリエチレングリコール架橋が施されたタンパク質である。
【0023】
本様相の経皮吸収製剤も、目的物質の徐放性が付与された、針状又は糸状の形状を有する自己溶解型の経皮吸収製剤にかかるものである。すなわち、本様相の経皮吸収製剤は、水溶性かつ生体内溶解性の高分子物質からなる基剤と、該基剤に保持された目的物質とを有し、皮膚に挿入されることにより目的物質を皮膚から吸収させる経皮吸収製剤であって、目的物質が長時間作用型の物質である。本様相の経皮吸収製剤においても、基剤が水溶性の物質からなるので、基剤を調製する際に有機溶媒を使用しない。すなわち、基剤に保持されている目的物質が有機溶媒に曝されないので、製造過程でその活性が損なわれることがない。その結果、本様相の経皮吸収製剤によれば、目的物質を高い効率で皮膚から吸収させることができる。さらに、本様相の経皮吸収製剤では、目的物質として長時間作用型の物質を使用するので、目的物質を徐放させるための特別の処理を必要としない。長時間作用型の物質の例としては、長時間作用型インスリンやポリエチレングリコール(PEG)架橋が施されたタンパク質が挙げられる。
【0024】
好ましくは、前記高分子物質は、タンパク質、多糖類、ポリビニルアルコール、カルボキシビニルポリマー、及びポリアクリル酸ナトリウムからなる群より選ばれた少なくとも1つの物質である。
【0025】
この好ましい様相の経皮吸収製剤においては、基剤がタンパク質等からなるので室温又は低温条件下で製造されることができる。したがって、基剤に保持されている目的物質が製造過程で高温に曝されることがない。すなわち、熱に対して不安定な目的物質であっても、製造過程でその活性が損なわれることがない。その結果、本様相の経皮吸収製剤によれば、目的物質を高い効率で皮膚から吸収させることができる。
【0026】
好ましくは、前記タンパク質は、血清アルブミン、血清α酸性糖タンパク質、及びゼラチンからなる群より選ばれた少なくとも1つの物質である。
【0027】
好ましくは、前記多糖類は、グリコーゲン、デキストリン、デキストラン、デキストラン硫酸、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、アルギン酸、アガロース、キチン、キトサン、プルラン、及びヒアルロン酸より選ばれた少なくとも1つの物質である。
【0028】
これらの好ましい様相の経皮吸収製剤では、基剤が医薬品分野において種々の製剤で使用実績がある物質からなるので、人体に対する安全性が高い。
【0029】
好ましくは、前記基剤は、さらに目的物質の吸収速度調節剤を含有する。
【0030】
好ましくは、前記吸収速度調節剤は、吸収促進剤である。
【0031】
好ましくは、前記吸収促進剤は、界面活性剤である。
【0032】
これらの好ましい様相の経皮吸収製剤においては、基剤がさらに目的物質の吸収促進剤等の収速度調節剤を含有する。特に、吸収促進剤が界面活性剤である好ましい様相では、目的物質が皮膚の表皮又は真皮での溶解性や透過性が低いものである場合でも、界面活性剤の作用によって目的物質の溶解や透過が促進される。その結果、目的物質をより高い効率で皮膚から吸収させることができる。
【0033】
好ましくは、前記基剤は、さらに曳糸性抑制剤を含有する。
【0034】
好ましくは、前記曳糸性抑制剤は、ポリエチレングリコール又はL−グルタミン酸L−リジンである。
【0035】
これらの好ましい様相の経皮吸収製剤では、基剤が有する曳糸性が抑制される。その結果、基剤の曳糸性を適度なレベルに調節することができ、製造が容易である。
【0036】
好ましくは、前記目的物質は、薬物である。
【0037】
この好ましい様相の経皮吸収製剤によれば、疾病の治療、予防、診断等を目的として目的物質を皮膚から吸収させることができる。
【0038】
好ましくは、前記薬物は、ペプチド、タンパク質、核酸、多糖類、又はワクチンに属するものである。
【0039】
この好ましい様相の経皮吸収製剤によれば、ペプチド、タンパク質、核酸、多糖類、又はワクチンに属する難経皮吸収性の薬物を、皮膚から吸収させることができる。
【0040】
好ましくは、前記基剤は、さらに目的物質の安定化剤を含有する。
【0041】
この好ましい様相の経皮吸収製剤では、基剤に保持されている目的物質が安定化剤の作用により安定化される。その結果、目的物質の失活等が少ない。なお、目的物質がペプチド又はタンパク質である場合には、タンパク質分解酵素阻害剤(プロテアーゼインヒビター)が、目的物質が核酸の場合には、核酸分解酵素阻害剤(ヌクレアーゼインヒビター)が好ましく用いられる。
【0042】
好ましくは、表面に防湿用の層が設けられている。
【0043】
この好ましい様相の経皮吸収製剤では、表面に防湿用の層が設けられているので、吸湿が抑えられる。その結果、先端部が軟化して皮膚に刺さらなくなるようなことはなく、より定量的に目的物質を投与することができる。
【0044】
好ましくは、表面の一部にくびれ又は割線を有する。
【0045】
この好ましい様相の経皮吸収製剤においては、表面の一部にくびれ又は割線を有し、皮膚に挿入した後にくびれ又は割線に沿って切断することができる。その結果、くびれ又は割線より下の部分のみが皮膚に投与されるので、目的物質の投与量が正確である。
【0046】
本発明の経皮吸収製剤における第5の様相は、上記したいずれかの様相の経皮吸収製剤が2個以上直列に連結された経皮吸収製剤である。
【0047】
本様相の経皮吸収製剤は、上記したいずれかの様相の経皮吸収製剤が2個以上直列に連結されたものである。本様相の経皮吸収製剤によれば、上記したいずれかの様相の経皮吸収製剤を連続的に皮膚に挿入することができる。
【0048】
本発明の経皮吸収製剤保持シートにおける1つの様相は、シート状の支持体の少なくとも一方の面に第5の様相以外の上記したいずれかの様相の経皮吸収製剤が保持され、皮膚に押し当てられることにより前記皮膚吸収製剤が皮膚に挿入される経皮吸収製剤保持シートである。
【0049】
本様相は経皮吸収製剤保持シートにかかり、シート状の支持体の少なくとも一方の面に第5の様相以外の上記したいずれかの経皮吸収製剤が1又は2個以上保持され、皮膚に押し当てられることにより前記皮膚吸収製剤が皮膚に挿入される。その結果、シート状の支持体に保持された経皮吸収製剤が皮膚に挿入される。本様相の経皮吸収製剤保持シートによれば、本発明の経皮吸収製剤を簡便かつ効率的に投与することができる。
【0050】
本発明の経皮吸収製剤保持用具における1つの様相は、貫通孔を有する本体と、該貫通孔の中に保持された針状又は糸状の形状を有する経皮吸収製剤とを有し、前記経皮吸収製剤は水溶性かつ生体内溶解性の物質からなる基剤と該基剤に保持された目的物質とを有し皮膚に挿入されることにより目的物質を皮膚から吸収させるものであり、前記経皮吸収製剤は前記貫通孔に沿って移動可能である経皮吸収製剤保持用具である。
【0051】
また、本発明の経皮吸収製剤保持用具における他の様相は、貫通孔を有する本体と、該貫通孔の中に保持された針状又は糸状の形状を有する経皮吸収製剤とを有し、前記経皮吸収製剤は上記したいずれかの様相の経皮吸収製剤であり、前記経皮吸収製剤は前記貫通孔に沿って移動可能である経皮吸収製剤保持用具である。
【0052】
これらの様相の経皮吸収製剤保持用具においては、保持された経皮吸収製剤が貫通孔に沿って移動可能である。そして、貫通孔の一端から経皮吸収製剤を押圧して貫通孔の他端へ押し、皮膚に挿入することができる。その結果、針状又は糸状の形状を有する経皮吸収製剤をきわめて簡便かつ確実に皮膚に挿入することができる。
【0053】
好ましくは、さらに前記貫通孔の中に前記経皮吸収製剤に接触可能なスペーサーを有し、該スペーサーは前記貫通孔に沿って移動可能である。
【0054】
保持された経皮吸収製剤を押圧する際は、例えば、貫通孔の一端から押し出し用の部材を差し込んで押圧する。このとき、経皮吸収製剤が皮膚に完全に挿入された時点において、押し出し用の部材が皮膚に接触する。しかし、経皮吸収製剤が挿入された部位の皮膚には微量の体液の漏出があり得、その体液が押し出し用の部材に付着するおそれがある。すなわち、複数の経皮吸収製剤保持用具をカートリッジのように取り替えながら使用する際に、患者間での体液を介した感染のおそれが生じる。この好ましい様相の経皮吸収製剤保持用具は、さらに貫通孔の中に前記経皮吸収製剤に接触可能なスペーサーを有している。そして、スペーサーが貫通孔に沿って移動可能である。この好ましい様相の経皮吸収製剤保持用具によれば、押し出し用の部材を用いて経皮吸収製剤を押圧する際に、スペーサーを介して押圧することができる。その結果、経皮吸収製剤が皮膚に完全に挿入された時点においても、押し出し用の部材が皮膚に接触することはない。したがって、この好ましい様相の経皮吸収製剤保持用具によれば、複数の経皮吸収製剤保持用具をカートリッジのように取り替えながら使用しても、患者間での体液を介した感染のおそれはない。
【0055】
好ましくは、前記本体は凹部を有し、前記貫通孔の一端は該凹部に開口している。
【0056】
この好ましい様相の経皮吸収製剤は凹部を有するので、経皮吸収製剤の押し出しが容易である。さらに、凹部を利用して押し出し具に容易に装着することができる。
【0057】
好ましくは、前記凹部に雌ネジが形成されている。
【0058】
この好ましい様相の経皮吸収製剤においては、凹部に雌ネジが形成されているので、雄ネジを有する押し出し具に確実に装着することができる。
【0059】
好ましくは、前記本体は、プラスチック製である。
【0060】
この好ましい様相の経皮吸収製剤保持用具においては、本体がプラスチック製であるので、軽くて使い勝手がよい。さらに、金属性ではないので、金属アレルギーの心配もない。
【発明の効果】
【0061】
本発明の経皮吸収製剤によれば、難経皮吸収性の薬物等であっても高い効率で皮膚から目的物質を吸収させることができる。
【0062】
本発明の経皮吸収製剤保持シートによれば、本発明の経皮吸収製剤を簡便かつ効率的に投与することができる。
【0063】
本発明の経皮吸収製剤保持用具によれば、針状又は糸状の形状を有する経皮吸収製剤をきわめて簡便かつ確実に投与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】(a)は針状の形状を有する経皮吸収製剤の一実施形態を表す斜視図、(b)は針状の形状を有する経皮吸収製剤の他の実施形態を表す斜視図である。
【図2】(a)は図1(a)の経皮吸収製剤の変形例を表す斜視図、(b)は図1(a)の経皮吸収製剤の他の変形例を表す斜視図、(c)は図1(b)の経皮吸収製剤の変形例を表す斜視図である。
【図3】糸状の形状を有する経皮吸収製剤の一実施形態を表す斜視図である。
【図4】(a)は全周に割線を有する経皮吸収製剤の一実施形態を表す斜視図、(b)は(a)の割線を含む部分の拡大断面図、(c)は周に一部に割線を有する経皮吸収製剤の一実施形態を表す斜視図である。
【図5】くびれを含む部分の拡大断面図である。
【図6】第5の様相における経皮吸収製剤の一実施形態を表す斜視図である。
【図7】(a)は製造の初期段階を模式的に表す側面図、(b)は製造の中間段階を模式的に表す側面図、(c)は製造の最終段階を模式的に表す側面図である。
【図8】(a)は製造の初期段階を模式的に表す側面図、(b)は製造の最終段階を模式的に表す側面図である。
【図9】本発明の経皮吸収製剤を製造する方法の他の例を表す分解斜視図である。
【図10】本発明の経皮吸収製剤保持シートの一実施形態を表す斜視図である。
【図11】(a)は本発明の経皮吸収製剤保持用具の第一実施形態を表す分解斜視図、(b)は本発明の経皮吸収製剤保持用具の第一実施形態を表す断面斜視図である。
【図12】(a)は図11の経皮吸収製剤保持用具の使用前の状態を模式的に表す断面図、(b)は図11の経皮吸収製剤保持用具の使用後の状態を模式的に表す断面図である。
【図13】(a)は発明の経皮吸収製剤保持用具の第二実施形態を表す断面図、(b)は発明の経皮吸収製剤保持用具の第三実施形態を表す断面図である。
【図14】本発明の経皮吸収製剤保持用具の第四実施形態を表す断面図である。
【図15】押し出し具と第四実施形態の経皮吸収製剤保持用具の関係を表す分解斜視図である。
【図16】(a)は実施例20−1,20−2,又は20−3の経皮吸収製剤を皮膚に挿入した場合における血糖値の経時変化を表すグラフ、(b)は実施例20−4,20−5,又は21の経皮吸収製剤を皮膚に挿入した場合における血糖値の経時変化を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0065】
以下、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
【0066】
本発明の経皮吸収製剤は、全て、針状又は糸状の形状を有する。ここで、本発明の経皮吸収製剤における「針状」及び「糸状」の形状の例について、図面を参照しながら説明する。図1は針状の形状を有する経皮吸収製剤の例を表し、図1(a)は針状の形状を有する経皮吸収製剤の一実施形態を表す斜視図であり、図1(b)は針状の形状を有する経皮吸収製剤の他の実施形態を表す斜視図である。図2は、図1の針状の形状を有する経皮吸収製剤の変形例を表し、図2(a)は図1(a)の経皮吸収製剤の変形例を表す斜視図であり、図2(b)は図1(a)の経皮吸収製剤の他の変形例を表す斜視図であり、図2(c)は図1(b)の経皮吸収製剤の変形例を表す斜視図である。図3は、糸状の形状を有する経皮吸収製剤の一実施形態を表す斜視図である。
【0067】
図1(a)に表される経皮吸収製剤1は、略円錐の形状を有しており、略円形の押圧部2と、曲面からなる表面3と、尖った先端部5を有する。そして、経皮吸収製剤1は、先端部5が皮膚に接触した状態で押圧部2が押圧されることにより、皮膚に挿入される。押圧部2の直径Dは0.1〜500ミクロン程度の範囲であり、経皮吸収製剤1の長さHは0.5〜1500ミクロン程度の範囲である。なお、直径Dの上限である500ミクロンや、長さHの上限である1500ミクロンといった数値は、一般的なマイクロニードルの直径や長さと比較して大きい。すなわち、経皮吸収製剤1は、一般的なマイクロニードルのサイズに加えて、それよりも大きいサイズも包含している。一方、図1(b)に表される経皮吸収製剤11は、略正四角錐の形状を有しており、略正方形の押圧部12と、4つの平面からなる表面13と、尖った先端部15を有する。そして、先端部15が皮膚に接触した状態で押圧部12が押圧されることにより、皮膚に挿入される。経皮吸収製剤11は、図1(a)に表される経皮吸収製剤1と同様の大きさを有している。なお、図1(b)に表される経皮吸収製剤11では押圧部12が略正方形であるが、他の多角形であってもよい。
【0068】
図2(a)に表される経皮吸収製剤21は、図1(a)に表される経皮吸収製剤1の変形例であり、円柱の先を細めた釘のような形状を有している。経皮吸収製剤1と同様に、経皮吸収製剤21においては、先端部25が皮膚に接触した状態で押圧部22が押圧されることにより、皮膚に挿入される。図2(b)に表される経皮吸収製剤31は、図1(a)に表される経皮吸収製剤1の他の変形例であり、図2(a)に表される経皮吸収製剤21の押圧部2に円錐台が乗っているような形状である。経皮吸収製剤31においても、先端部35が皮膚に接触した状態で押圧部32が押圧されることにより、皮膚に挿入される。図2(c)に表される経皮吸収製剤41は、図1(b)に表される経皮吸収製剤21の押圧部2に正四角錐台が乗っているような形状である。経皮吸収製剤41においても、先端部45が皮膚に接触した状態で押圧部42が押圧されることにより、皮膚に挿入される。以上のように、図1及び図2に表された経皮吸収製剤は、全て、針状の形状を有するものである。
【0069】
一方、図3に表される経皮吸収製剤51は、円柱を斜めに切断したような形状からなる糸状の固形製剤である。経皮吸収製剤51は、略円形の押圧部52と、曲面からなる表面53と、尖った先端部55を有する。そして、経皮吸収製剤51は、先端部55が皮膚に接触した状態で押圧部52が押圧されることにより、皮膚に挿入される。経皮吸収製剤51は、図1(a)に示された経皮吸収製剤1又は図1(b)に示された経皮吸収製剤11と同様の大きさを有している。なお、「糸状」という表現は「棒状」という表現に置き換えることもできる。
【0070】
本発明の経皮吸収製剤はいずれも自己溶解型の経皮吸収製剤であり、水溶性かつ生体内溶解性の高分子物質からなる基剤と、該基剤に保持された目的物質とを有し、皮膚に挿入されることにより目的物質を皮膚から吸収させる経皮吸収製剤であって、針状又は糸状の形状を有するものである。そして、本発明の経皮吸収製剤は5つの主な様相からなる。このうち、第1の様相は通常の製剤に関するものである。第2、第3、及び第4の様相は、徐放性製剤に関するものである。第5の様相は、2個以上の経皮吸収製剤が直列に連結された経皮吸収製剤に関するものである。
【0071】
本発明の経皮吸収製剤の第1の様相では、基剤がタンパク質、多糖類、ポリビニルアルコール、カルボキシビニルポリマー、及びポリアクリル酸ナトリウムからなる群より選ばれた少なくとも1つの物質からなる。これらの高分子物質については、1つだけを用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。基剤に目的物質を保持させる方法としては特に限定はなく、種々の方法が適用可能である。例えば、目的物質を基剤中に超分子化して含有させることにより、目的物質を基剤に保持させることができる。その他の例をしては、溶解した基剤の中に目的物質を加えて懸濁状態とし、その後に硬化させることによっても目的物質を基剤に保持させることができる。
【0072】
本発明の経皮吸収製剤の第2の様相では、表面に水不溶性の層が設けられ、前記目的物質が徐放される。本様相における好ましい実施形態では、水不溶性の層が架橋反応によって設けられている。表面に架橋反応を施す方法としては、例えば、表面をグルタルアルデヒド等で処理して架橋反応を行なう方法が挙げられる。具体的には、経皮吸収製剤をグルタルアルデヒド溶液に浸漬すればよい。一方、架橋反応以外の方法で表面に水不溶性の層を設ける方法としては、例えば、半導体分野で用いられている気相反応によるSiO薄膜形成反応を応用することもできる。その他の例としては、カプセルの分野で用いられている方法で、基剤がゼラチン等の場合に高温多湿の条件下に静置して表面を不溶化させる方法が適用可能である。その他の例としては、経皮吸収製剤を飽和塩化カルシウム溶液に浸漬する方法も挙げられる。一方、基剤に目的物質を保持させる方法としては、例えば、上記した第1の様相の経皮吸収製剤で適用される方法と同様の方法が適用可能である。
【0073】
本発明の経皮吸収製剤の第3の様相では、基剤が多孔性物質を含有し、目的物質が多孔性物質に保持され、目的物質が徐放される。本様相の好ましい実施形態では、多孔性物質が、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、無水ケイ酸、多孔性炭酸カルシウム、多孔性リン酸カルシウム、及び多孔質シリコンからなる群より選ばれた少なくとも1つの物質である。これらの多孔性物質については、1つだけを用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。これらの多孔性物質は市販のものをそのまま用いることができる。例えば、ケイ酸カルシウムの例としてはエーザイ社のフローライト(Fluorite、商品名)、ケイ酸アルミニウム及びケイ酸マグネシウムの例としては富士化学工業社のノイシリン(登録商標)、無水ケイ酸の例としては富士シリシア化学社のサイリシア(Sylysia、商品名)、多孔質シリコンの例としてはpSivida社のBioSilicon(商品名)が挙げられる。さらに、多孔性炭酸カルシウム及び多孔性リン酸カルシウムは、例えば、独立行政法人 化学物質・材料研究機構から入手することができる。
【0074】
本発明の経皮吸収製剤の第4の様相では、目的物質が長時間作用型の物質であり、目的物質が徐放される。本様相の好ましい実施形態では、長時間作用型の物質が、長時間作用型インスリン又はポリエチレングリコール架橋が施されたタンパク質である。長時間作用型インスリンの具体例としては、中間型、持続型、及び超持続型の各インスリンが挙げられる。ポリエチレングリコール(PEG)架橋が施されたタンパク質の具体例としては、PEG−インターフェロンやPEG−エリスロポエチン等のPEG修飾タンパク質が挙げられる。
【0075】
上記した第2、第3、及び第4の様相の経皮吸収製剤に共通の好ましい実施形態では、第1の様相の経皮吸収製剤と同様に、基剤がタンパク質、多糖類、ポリビニルアルコール、カルボキシビニルポリマー、及びポリアクリル酸ナトリウムからなる群より選ばれた少なくとも1つの物質からなる。これらの高分子物質についても、1つだけを用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0076】
以下に、上記した4つの様相の経皮吸収製剤に共通の好ましい実施形態を挙げる。好ましい実施形態では、上記タンパク質は、血清アルブミン、血清α酸性糖タンパク質、及びゼラチンからなる群より選ばれた少なくとも1つの物質である。これらのタンパク質については、1つだけを用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。さらに、好ましい実施形態では、上記多糖類は、グリコーゲン、デキストリン、デキストラン、デキストラン硫酸、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、アルギン酸、アガロース、キチン、キトサン、プルラン、及びヒアルロン酸より選ばれた少なくとも1つの物質である。これらの多糖類については、1つだけを用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。多糖類の分子量としては、例えば、ヒアルロン酸の場合は分子量120万程度のものまで使用可能であるが、分子量9万程度の比較的低分子のヒアルロン酸が特に好ましい。デキストランの場合は、例えば分子量5万以上のものが使用可能である。デキストラン硫酸の場合は、例えば分子量50万程度のものが使用可能である。ヒドロキシプロピルセルロースとしては、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースが好ましく用いられる。
【0077】
好ましい実施形態では、上記基剤が、さらに目的物質の吸収速度調節剤を含有する。またさらに好ましい実施形態では、上記吸収速度調節剤が吸収促進剤である。またさらに好ましい実施形態では、上記吸収促進剤が界面活性剤である。吸収促進剤の例としては、カプリル酸、カプリン酸及びその誘導体、N-[8-(2-hydroxybenzoyl)amino]caprylic acid (SNAC)、並びに、Sodium N-[8-(2-hydroxybenzoyl)amino]decanate (SNAD)等の脂肪酸;グリチルリチン;グリチルレチン酸;フェニルグリシンのアセト酢酸エチルエナミン誘導体等のアミノ酸エナミン誘導体;サリチル酸ナトリウム及びその誘導体;モノオレインとグリココール酸ナトリウムとの混合ミセル、モノオレインとタウロコール酸ナトリウムとの混合ミセル等の混合ミセル;N−アシルコラーゲンペプチド;N−アシルアミノ酸ナトリウム;延命皮サポニン;胆汁酸類;EDTA等のキレート化合物;クエン酸、酒石酸等の有機酸、等が挙げられる。しかし、本実施形態で用いられる吸収促進剤はこれらの物質に限定されるものではない。
【0078】
吸収促進剤としての界面活性剤は、皮膚の表面や真皮での溶解性が低い目的物質の溶解を促進するとともに、皮膚からの吸収率が低い目的物質の吸収を促進して、バイオアベイラビリティや効果を高めるために用いられる。該界面活性剤の例としては、三菱化学フーズ社から「リョートー(登録商標)ポリグリエステル」なる商品名で販売されている以下のグリセリン脂肪酸エステル、すなわち、デカグリセリンラウリン酸エステルL−7D、同L−10D、デカグリセリンミリスチン酸エステルM−10D、デカグリセリンステアリン酸エステルSWA−10D、同SWA−15D、同SWA−20D、同S−24D、同S−28D、デカグリセリンオレイン酸エステルO−15D、同O−50D、デカグリセリンベヘニン酸エステルB−70D、同B−100D、デカグリセリンエルカ酸エステルER−30D、同ER−60D、デカグリセリン混合脂肪酸エステルLOP−120DP、ポリグリセリンステアリン酸エステルDS13W、同DS3、同HS11、同HS9、同 TS4、同TS2、ポリグリセリンラウリン酸エステルDL15、及び、ポリグリセリンオレイン酸エステルDO13、が挙げられる。
【0079】
界面活性剤の例としては、さらに、ステアロイル乳酸カルシウム、ソルビタン脂肪酸エステル、及び、プロピレングリコール脂肪酸エステルが挙げられる。さらに、三菱化学フーズ社から「リョートー(登録商標)シュガーエステル」なる商品名で販売されている以下のショ糖脂肪酸エステル、すなわち、S−1670、S−1570、S−1170、P−1570、P−1670、M−1695、O−1570、OWAー1570、及び、L−1695が挙げられる。さらに、DKエステルF−160、同F−140、及び同F−110等(以上、第一工業製薬社)が挙げられる。さらに、ポリソルベート80、モノオレイン酸、モノオレイン酸ポリエチレングリコール、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、及び、中鎖脂肪酸トリグリセライドが挙げられる。さらに、炭素数6−12の飽和脂肪酸、すなわち、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸およびラウリル酸、及びレシチン等が挙げられる。
【0080】
また、本実施形態では、上記した界面活性剤以外の液状、半固形又は固形の界面活性剤も採用可能である。そのような界面活性剤を、非イオン性界面活性剤、親水性界面活性剤、イオン性界面活性剤に分けて列挙する。
【0081】
(a)非イオン界面活性剤
アルキルグルコシド、アルキルマルトシド、アルキルチオグルコシド、ラウリルマクロゴールグリセリド、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェノール、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリエチレングリコールグリセロール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリグリセロール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリド、ポリオキシエチレンステロール、ポリオキシエチレン植物油、ポリオキシエチレン水素化植物油、又は多価アルコールと、脂肪酸、グリセリド、植物油、水素化植物油、及びステロールよりなる群から選ばれた少なくとも1つの物質との反応混合物;ショ糖エステル、ショ糖エーテル、スクログリセリド、及びそれらの混合物。
【0082】
(b)親水性界面活性剤
PSG−10ラウリン酸エステル、PEG−12ラウリン酸エステル、PEG−20ラウリン酸エステル、PEG−32ラウリン酸エステル、PEG−32ジラウリン酸エステル、PEG−12オレイン酸エステル、PEG−15オレイン酸エステル、PEG−20オレイン酸エステル、PEG−20ジオレイン酸エステル、PEG−32オレイン酸エステル、PEG−200オレイン酸エステル、PEG−400オレイン酸エステル、PEG−15ステアリン酸エステル、PEG−32ジステアリン酸エステル、PEG−40ステアリン酸エステル、PEG−100ステアリン酸エステル、PEG−20ジラウリン酸エステル、PEG−25グリセリルトリオレイン酸エステル、PEG−32ジオレイン酸エステル、PEG−20グリセリルラウリン酸エステル、PEG−30グリセリルラウリン酸エステル、PEG−20グリセリルステアリン酸エステル、PEG−20グリセリルオレイン酸エステル、PEG−30グリセリルオレイン酸エステル、PEG−30グリセリルラウリン酸エステル、PEG−40グリセリルラウリン酸エステル、PEG−40パーム核油、PEG−50水素化ヒマシ油、PEG−40ヒマシ油、PEG−35ヒマシ油、PEG−60ヒマシ油、PEG−40水素化ヒマシ油、PEG−60水素化ヒマシ油、PEG−60コーン油、PEG−6カプレート/カプリレートグリセリド、PEG−8カプレート/カプリレートグリセリド、ポリグリセリル−10ラウリン酸エステル、PEG−30コレステロール、PEG−25フィトステロール、PEG−30大豆ステロール、PEG−20トリオレイン酸エステル、PEG−40ソルビタンオレイン酸エステル、PEG−80ソルビタンラウリン酸エステル、ポリソルベート20、ポリソルベート80、POE-9ラウリルエーテル、POE−23ラウリルエーテル、POE−10オレイルエーテル、POE−20オレイルエーテル、POE−20ステアリルエーテル、トコフェリルPEG−100コハク酸エステル、PEG−24コレステロール、ポリグリセリル−10オレイン酸エステル、Tween40、Tween60、スクロースモノステアリン酸エステル、スクロースモノラウリン酸エステル、スクロースモノパルミチン酸エステル、PEG10−100ノニルフェノール類、PEG15−100オクチルフェノール類、及びポロキサマー、並びに、これらの混合物。
【0083】
(c)イオン性界面活性剤
アルキルアンモニウム塩、胆汁塩、フシジン酸、アミノ酸、オリゴペプチド又はポリペプチドの脂肪酸結合物、アミノ酸、オリゴペプチドのグリセリドエステル、ポリペプチドのグリセリドエステル、アシルラクチレート、モノグリセリドのモノアセチル化酒石酸エステル、モノグリセリドのジアセチル化酒石酸エステル、ジグリセリドのモノアセチル化酒石酸エステル、ジグリセリドのジアセチル化酒石酸エステル、スクシニル化モノグリセリド、モノグリセリドのクエン酸エステル、ジグリセリドのクエン酸エステル、アルギン酸塩、プロピレングリコールアルギン酸エステル、レシチン、水素化レシチン、リゾレシチン、水素化リゾレシチン、リゾリン脂質、リン脂質、アルキルサルフェートの塩、及び脂肪酸の塩。
【0084】
イオン性界面活性剤の具体例としては、以下のものが挙げられる。すなわち、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸、ホスファチジルセリン、リゾホスファチジルコリン、リゾホスファチジルエタノールアミン、リゾホスファチジルグリセロール、リゾホスファチジン酸、リゾホスファチジルセリン、PEGホスファチジルエタノールアミン、PVPホスファチジルエタノールアミン、脂肪酸のラクチル酸エステル、ステアロイル−2−ラクチレート、スクシニル化モノグリセリド、モノグリセリドのモノアセチル化酒石酸エステル、モノグリセリドのジアセチル化酒石酸エステル、ジグリセリドのモノアセチル化酒石酸エステル、ジグリセリドのジアセチル化酒石酸エステル、モノグリセリドのクエン酸エステル、ジグリセリドのクエン酸エステル、コール酸エステル、タウロコール酸エステル、グリココール酸エステル、デオキシコール酸エステル、タウロデオキシコール酸エステル、ケノデオキシコール酸エステル、グリコデオキシコール酸エステル、グリコケノデオキシコール酸エステル、タウロケノデオキシコール酸エステル、ウルソデオキシコール酸エステル、リトコール酸エステル、タウロウルソデオキシコール酸エステル、グリコウルソデオキシコール酸エステル、コリサルコシン、N−メチルタウロコール酸エステル、カプロエート、カプリレート、カプレート、ラウレート、ミリステート、パルミテート、オレエート、リシノレート、リノレート、リノレエート、ステアレート、ラウリルサルフェート、テトラアセチルサルフェート、ドキュセート、ラウロイルカルニチン、パルミトイルカルニチン、ミリストイルカルニチン、及びこれらの塩、並びに、これら(塩を含む)の混合物。
【0085】
なお、これらの界面活性剤は可塑剤としても機能することができる。例えば、血清アルブミンからなる基剤にポリソルベート80を含有させることで、目的物質の吸収を促進する効果と、経皮吸収製剤自体の物理的強度を維持する効果の両方が得られる。
【0086】
好ましい実施形態では、基剤がさらに曳糸性抑制剤を含有する。本実施形態では、基剤の曳糸性が程度に保たれるので、製造の際に有利である。曳糸性抑制剤の例としては、ポリエチレングリコール及びL−グルタミン酸L−リジンが挙げられる。
【0087】
本発明の経皮吸収製剤における目的物質としては、特に限定はなく、例えば薬物、生理活性物質、化粧品、及び栄養素が挙げられる。目的物質が薬物である場合には、特に、難経皮吸収性の薬物に対して有用である。そのような難経皮吸収性の薬物のカテゴリーとしては、ペプチド、タンパク質、核酸、多糖類、その他分子量1000以上の物質、及びワクチン等が挙げられる。ペプチド及びタンパク質の例としては、インスリン、カルシトニン、エリスロポエチン(EPO)、インターフェロン、各種のインターロイキン、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、バソプレッシン、デスモプレッシン、ウロキナーゼ、成長ホルモン、副甲状腺ホルモン、及びグレリン等の生理活性ペプチド・タンパク質が挙げられる。核酸の例としては、遺伝子治療用のベクター、アンチセンスDNA、アンチセンスRNA、及びsiRNA等が挙げられる。また、ワクチンとしては、弱毒化ワクチンや不活化ワクチンのような微生物を含むワクチン、ペプチドワクチン、及びDNAワクチン等の核酸のワクチン等が挙げられる。多糖類の例としては、ヘパリン、及び低分子ヘパリン等が挙げられる。
【0088】
本発明の経皮吸収製剤における目的物質の含量は、特に限定はないが、一般的には0.01〜50重量%程度である。
【0089】
好ましい実施形態では、基剤が目的物質の安定化剤を含有する。特に、目的物質がペプチドやタンパク質の場合には、安定化剤としてタンパク質分解酵素阻害剤を含有することが好ましい。タンパク質分解酵素阻害剤の例としては、アプロチニン、及びトリプシンインヒビターが挙げられる。また、目的物質が核酸の場合には、安定化剤として核酸分解酵素阻害剤を含有することが好ましい。
【0090】
さらに好ましい実施形態では、表面に防湿用の層が設けられている。防湿用の層は、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルピロリドン、ポリ乳酸等からなるポリマー液を表面に塗布し、コーティングすることにより設けられる。
【0091】
上記したいずれの様相の経皮吸収製剤においても、表面にくびれ又は割線を設けることができる。すなわち、経皮吸収製剤を皮膚に挿入後、くびれ又は割線に沿って切断することにより、目的物質の投与量を正確にすることができる。くびれ又は割線は、経皮吸収製剤の全周に設けられていてもよく、表面の一部に設けられていてもよい。図4は、割線を有する経皮吸収製剤の例を表し、図4(a)は全周に割線を有する経皮吸収製剤の一実施形態を表す斜視図であり、図4(b)は、図4(a)の割線を含む部分の拡大断面図であり、図4(c)は周の一部に割線を有する経皮吸収製剤の一実施形態を表す斜視図である。図4(a)に表される経皮吸収製剤61は、図1(a)に表される経皮吸収製剤1に割線が設けられたものであり、表面63の上に全周にわたる割線66を有している。図4(b)に表されるように、割線66は表面63が四角状に削られたような形状を有している。一方、図4(c)に表される経皮吸収製剤71も、図1(a)に表される経皮吸収製剤1に割線が設けられたものであるが、その表面73の対向する2箇所にそれぞれ割線76a、76bを有している。割線76a,76bの形状は図4(b)に表される割線61の形状と同じである。なお、図4(a)、図4(b)、図4(c)のいずれにおいても、割線76a,76bはそのサイズが誇張して描かれており、実際のサイズとは異なることがある。
【0092】
図4(a)の経皮吸収製剤61において、割線66の代わりにくびれを設けた例を図5に示す。図5は、くびれを含む部分の拡大断面図である。図5に表されるように、くびれ67は表面63が三角状に削られたような形状を有している。もちろん、図4(c)の経皮吸収製剤61と同様に、図5のくびれ67も表面63の全周ではなく周の一部に設けられてもよい。なお、図5においても、くびれ67はそのサイズが誇張して描かれており、実際のサイズとは異なることがある。
【0093】
本発明の経皮吸収製剤の第5の様相は、第1〜第4の様相の経皮吸収製剤が2個以上直列に連結されたものである。図6は第5の様相における経皮吸収製剤の一実施形態を表す斜視図である。図6に表される経皮吸収製剤81では、図2(c)に表される経皮吸収製剤41が複数個連結されている。すなわち、図6に表される経皮吸収製剤81は、4個の経皮吸収製剤41a〜41dが直列に連結されたものであり、連結部48a〜48cを有する。経皮吸収製剤81を使用する際は、まず、経皮吸収製剤41aの部分まで皮膚に挿入し、連結部48aで切断する。次に、皮膚上の別の箇所に経皮吸収製剤41bの部分まで挿入し、連結部48bで切断する。同様に「皮膚への挿入」と「連結部での切断」とを繰り返す。本実施形態の経皮吸収製剤81によれば、4個の経皮吸収製剤41a〜41dを連続的に投与することができる。
【0094】
本発明の経皮吸収製剤を製造する方法について説明する。本発明の経皮吸収製剤を製造する方法は、特に限定されず、種々の方法が適用可能である。1つの例では、平板と棒を用いる。図7は、本発明の経皮吸収製剤を製造する手順を模式的に表し、図7(a)は製造の初期段階を模式的に表す側面図であり、図7(b)は製造の中間段階を模式的に表す側面図であり、図7(c)は製造の最終段階を模式的に表す側面図である。図7(a)〜(c)に表されるように、本製造方法では、まず、フッ素樹脂等からなる平板92の上に、目的物質を含有する基剤91を載せる。このとき、基剤として、水に溶解させると曳糸性を示す物質からなるものを用い、糊状とすることが好ましい。次に、目的物質を含有する基剤91にガラス棒93の先端を接触させる(図7(a))。直ちにガラス棒93を持ち上げて、ガラス棒93の先端に付着した目的物質を含有する基剤91を引き伸ばし(図7(b))、さらにガラス棒93を持ち上げて、目的物質を含有する基剤91を針状又は糸状に成形する(図7(c))。その後、針状又は糸状に成形した目的物質を含有する基剤91を乾燥又は硬化させることにより、略円錐の形状を有する経皮吸収製剤1を製造する。このとき、ガラス棒としては、例えば直径5mm以下のものを用いることができる。また、ガラス棒に限らず、ポリプロピレン等の水不溶性の材質の棒であれば使用可能である。
【0095】
図7(a)〜(c)では1個の経皮吸収製剤を製造する方法の例を示したが、同様の原理で複数の経皮吸収製剤を製造することも可能である。そのような製造方法の例を図8に示す。図8は本発明の経皮吸収製剤を製造する別の方法を模式的に表し、図8(a)は製造の初期段階を模式的に表す側面図であり、図8(b)は製造の最終段階を模式的に表す側面図である。すなわち、図8(a)に表されるように、この例では棒ではなく複数の突起を有する櫛状部材95を用いる。そして、図8(b)に表されるように、図7(a)〜図7(c)と同様の操作を行うことによって、5個の経皮吸収製剤1a〜1eが製造される。もちろん、櫛状部剤95の櫛の数を増やすことにより、さらに多数の経皮吸収製剤を製造することも可能である。
【0096】
本発明の経皮吸収製剤を製造する方法の他の例としては、鋳型を用いる方法が挙げられる。図9に、鋳型を用いる経皮吸収製剤の製造方法の例を示す。図9は本発明の経皮吸収製剤を製造する方法の他の例を表す分解斜視図である。図9に表されるように、鋳型97は、フッ素樹脂等からなる平板92の正面に円錐状の孔98a,98b,98cを設けることにより作成されている。これらの孔98a,98b,98cに目的物質を含有する基剤を充填し、乾燥又は硬化後、取り出す。これにより、針状又は糸状の経皮吸収製剤1f,1g,1hを製造することができる。なお、目的物質を含有する基剤が糊状であれば、孔から取り出した後に乾燥又は硬化させることもできる。なお、平板92はフッ素樹脂製以外でもよく、例えばシリコン樹脂製やABS樹脂製のものでもよい。
【0097】
本発明の経皮吸収製剤にくびれ又は割線を施す方法は、特に限定されず、種々の方法が適用可能である。鋳型を用いる場合には、くびれ又は割線が施されるような形状の鋳型を用いればよい。一方、平板と棒を用いる場合は、例えば、乾燥又は硬化前の段階で所望の箇所を押圧することにより、くびれ又は割線を施すことができる。また、乾燥又は硬化後に所望の箇所を削ることによっても、くびれ又は割線を施すことができる。
【0098】
本発明の経皮吸収製剤保持シートにおける1つの様相は、シート状の支持体の少なくとも一方の面に第5の様相以外の上記したいずれかの様相の経皮吸収製剤が1又は2個以上保持され、皮膚に押し当てられることにより前記皮膚吸収製剤が皮膚に挿入される経皮吸収製剤保持シートである。本様相の経皮吸収製剤保持シートの一実施形態を、図10に示す。図10は、本発明の経皮吸収製剤保持シートの一実施形態を表す斜視図である。すなわち、本実施形態の経皮吸収製剤保持シート100は、シート状の支持体102と9個の経皮吸収製剤1i〜1qとからなり、支持体102の片面に9個の経皮吸収製剤1i〜1qが保持されている。そして、経皮吸収製剤保持シート100が皮膚に押し当てられることにより、9個の経皮吸収製剤1i〜1qが皮膚に挿入される。なお、経皮吸収製剤保持シート100が皮膚に押し当てられた後は、支持体102はそのまま皮膚に貼付されたままでもよいし、支持体102のみが剥がされて取り除かれてもよい。なお、図10には9個の経皮吸収製剤1i〜1qを有する経皮吸収製剤保持シート100が示されたが、本発明の経皮吸収製剤保持シートが有する経皮吸収製剤の数に制限はなく、1個でもよいし、10個以上でもよい。支持体102としては、貼付剤に一般的に使用されているものをそのまま使用することができる。
【0099】
本発明の経皮吸収製剤保持用具における1つの様相は、貫通孔を有する本体と、該貫通孔の中に保持された針状又は糸状の形状を有する経皮吸収製剤とを有し、前記経皮吸収製剤は水溶性かつ生体内溶解性の物質からなる基剤と該基剤に保持された目的物質とを有し皮膚に挿入されることにより目的物質を皮膚から吸収させるものであり、前記経皮吸収製剤は前記貫通孔に沿って移動可能である経皮吸収製剤保持用具である。本様相の経皮吸収製剤保持用具の一実施形態について図11〜図13を参照しながら説明する。図11は、本発明の経皮吸収製剤保持用具の第一実施形態を表し、図11(a)は本発明の経皮吸収製剤保持用具の第一実施形態を表す分解斜視図であり、図11(b)は本発明の経皮吸収製剤保持用具の第一実施形態を表す断面斜視図である。図12は図11の経皮吸収製剤保持用具の使用前と使用後の状態を模式的に表し、図12(a)は図11の経皮吸収製剤保持用具の使用前の状態を模式的に表す断面図、図12(b)は図11の経皮吸収製剤保持用具の使用後の状態を模式的に表す断面図である。図13は本発明の経皮吸収製剤保持用具の他の実施形態を表し、図13(a)は本発明の経皮吸収製剤保持用具の第二実施形態を表す断面図、図13(b)は本発明の経皮吸収製剤保持用具の第三実施形態を表す断面図である。図14は本発明の経皮吸収製剤保持用具の第四実施形態を表す断面図である。図15は押し出し具と第四実施形態の経皮吸収製剤保持用具の関係を表す分解斜視図である。
【0100】
図11(a)に表されるように、本実施形態の経皮吸収製剤保持用具110は、プラスチック製の本体112とビーズ115(スペーサー)と経皮吸収製剤111とからなる。本体112には上下に連通する貫通孔113が設けられており、ビーズ115と経皮吸収製剤111は、貫通孔113の中に保持されている。ビーズ115と経皮吸収製剤111は貫通孔113に沿って移動可能である。さらに、ビーズ115は経皮吸収製剤111に接触可能である。本体112はその外形が円錐台のような形状であり、大径が約20mm、小径が約10mm、高さが約20mmである。経皮吸収製剤111は、上記した第1〜第4のいずれかの様相の経皮吸収製剤である。経皮吸収製剤111は図2(a)の経皮吸収製剤21と略同様の形状を有しており、直径が約0.2mm、長さが約1.0mmである。ビーズ115は球状の部材であり、その直径は経皮吸収製剤111の直径と略同じである。ビーズ115はシリコン製であるが、ガラス、樹脂、金属製等でもよい。さらに、経皮吸収製剤保持用具110は小径側に皮膚接触面116を有している。皮膚接触面116は、経皮吸収製剤111が使用される際に皮膚に接触する面である。また、図11(b)に表されるように、本体112は凹部117を有している。そして、凹部117に貫通孔113の一端が開口している。凹部117は、経皮吸収製剤111をビーズ115を介して押し出すための押し出し具に容易に装着されるために設けられている。なお、図11(a)、図11(b)では、理解を容易にするために、経皮吸収製剤111と貫通孔113の大きさは誇張して描かれている。
【0101】
図12(a)に表されるように、使用前の経皮吸収製剤保持用具110では、貫通孔113の中にビーズ115と経皮吸収製剤111が収納されている。使用時には、経皮吸収製剤保持用具110の凹部117側からビーズ115の一端を押圧する。すると、ビーズ115が経皮吸収製剤11に接触し、ビーズ115を介して経皮吸収製剤111が押圧される。本実施形態では、ワイヤー118によってビーズ115の一端を押圧している。ワイヤー118はステンレス製であり、ビーズ115と略同径のものである。そして、図12(b)に表されるように、ワイヤー118によってビーズ115を介して経皮吸収製剤111が完全に押し出され、皮膚119に挿入される。このとき、ビーズ115を介しているためにワイヤー118は皮膚119に接触しない。すなわち、ワイヤー118は皮膚119からの体液によって汚染されることはない。なお、図12(a)、図12(b)においても、理解を容易にするために、経皮吸収製剤111、貫通孔113、ビーズ115、及びワイヤー118の大きさは誇張して描かれている。
【0102】
経皮吸収製剤保持用具110においては、保持される経皮吸収製剤が別の形状のものでもよい。図13(a)に表される経皮吸収製剤保持用具120は、糸状の経皮吸収製剤121を保持している。経皮吸収製剤121は図3の経皮吸収製剤51と略同様の形状を有しており、そのサイズは経皮吸収製剤111と略同じである。一方、図13(b)に表される経皮吸収製剤保持用具130は、図2(c)で表される経皮吸収製剤41が2個直列に連結された経皮吸収製剤131を保持している。経皮吸収製剤保持用具130によれば、経皮吸収製剤131を半分ずつ2回に分けて連続的に投与することができる。
【0103】
図14に表される経皮吸収製剤保持用具140では、凹部147に雌ネジが形成されている。本実施形態の経皮吸収製剤保持用具140は、図15に表されるような押し出し具141に装着して使用することができる。押し出し具141はワイヤー118を具備しており、ノック部143を押すことでワイヤー118が一定距離だけ押し出される。また、押し出し具141は、経皮吸収製剤保持用具140の凹部147と嵌合する凸部142を有している。凸部142には凹部147に形成されている雌ネジに係合する雄ネジが形成されている。押し出し具141は、例えば、筆記具のメカニカルペンがそのまま流用される。すなわち、カーボン芯の代わりに同径のワイヤー118を用いることで、メカニカルペンが押し出し具141として使用可能となる。また、ノック式のボールペンの機構を利用して押し出し具141を作製することもできる。なお、図13(a)、図13(b)、図14、及び図15においても、理解を容易にするために、経皮吸収製剤111,121,131、ビーズ115、及びワイヤー118の大きさは誇張して描かれている。
【0104】
以上のように、経皮吸収製剤保持用具110,120,130,140は経皮吸収製剤保持カートリッジとして主に使用される。そして、経皮吸収製剤保持用具110,120,130,140は、1個ずつ包装されると必要な分だけ包装を破って取り出すことができ、衛生的である。
【0105】
以下に、実施例をもって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0106】
本実施例では、ヒト血清アルブミンからなる基剤にインターフェロン(目的物質)が保持された、針状又は糸状の形状を有する経皮吸収製剤を作製した。
【0107】
150mgのヒト血清アルブミン(シグマ社)に約0.2mLの精製水を加えてよく溶解及び混和し、ヒト血清アルブミンからなる糊状の基剤を調製した。この基剤に10μLのインターフェロンアルファ注射液(登録商標スミフェロン、600万単位/mL、住友製薬社)(6万IUに相当)を加え、よく混和し、インターフェロンを保持させた。このインターフェロンが保持された糊状の基剤に、直径約3mmのガラス棒の先端を押し当てた後、徐々に引き離して針状又は糸状とした。そのまま低温で乾燥することにより硬化させ、針状又は糸状の形状を有する経皮吸収製剤を作製した。
【0108】
体重約30gのマウスをペントバルビタール麻酔下で、腹部の除毛を施した後、手術台に固定した。この時点でまず頸静脈より約0.25mL採血した。次に、本実施例で調製した経皮吸収製剤を、除毛したマウスの腹部に挿入し、インターフェロンを皮膚から投与した。投与量は10,000IU/kgとした。投与後4時間にわたり頸静脈より採血を行い、循環血液を採取した。得られた各血液から血清サンプルを調製し、各血清サンプル中のインターフェロン濃度を、ELISAにて測定した。全てのデータは1群当たり3〜4匹のマウスの平均値±標準偏差(SD)として算出した。結果を第1表に示す。NDは検出限界以下を表す(以下の表においても同じ)。その結果、投与1時間目からインターフェロン濃度が上昇し始め、投与3時間目に最高濃度(22.9±7.9IU/mL)を示した。以上より、本実施例の経皮吸収製剤によってインターフェロンを皮膚から投与できることが示された。
【表1】

【実施例2】
【0109】
本実施例では、ウシ血清α-酸性糖タンパク質(AAG)からなる基剤にインターフェロン(目的物質)が保持された、針状又は糸状の形状を有する経皮吸収製剤を作製した。
【0110】
50mgのウシAAG(シグマ社)に約50μLの精製水を加えてよく溶解及び混和し、水分を蒸発させ、ウシAAGからなる糊状の基剤を調製した。この基剤に10μLのインターフェロンアルファ注射液(登録商標スミフェロン、600万単位/mL、住友製薬社)(6万IUに相当)を加え、よく混和し、インターフェロンを保持させた。実施例1と同様にして、ガラス棒を用いて、針状又は糸状の形状を有する経皮吸収製剤を作製した。
【実施例3】
【0111】
本実施例では、ヒト血清アルブミンからなる基剤にFITCラベル化アルブミン(目的物質)が保持された、針状又は糸状の形状を有する経皮吸収製剤を作製した。FITCラベル化アルブミンはモデルワクチンとして用いた。
【0112】
ヒト血清アルブミンをフルオレセインイソチオシアネート(FITC)で蛍光ラベルし、FITCラベル化アルブミンを調製した。一方、130mgのヒト血清アルブミン(シグマ社)に約0.2mLの精製水を加えてよく溶解及び混和し、ヒト血清アルブミンからなる糊状の基剤を調製した。この基剤に20mgのFITCラベル化アルブミンを加え、よく混和し、FITCラベル化アルブミンを保持させた。このFITCラベル化アルブミンが保持された糊状の基剤に、直径約2mmのポリプロピレン製棒の先端を押し当てた後、徐々に引き離して針状又は糸状とした。そのまま低温で乾燥することにより硬化させ、針状又は糸状の形状を有する経皮吸収製剤を作製した。
【0113】
体重約30gのマウスをエーテル麻酔下で、腹部の除毛を施した後、手術台に固定した。この時点でまず頸静脈より約0.25mL採血した。次に、本実施例で作製した経皮吸収製剤5本を、除毛したマウスの腹部に挿入し、FITCラベル化アルブミンを皮膚から投与した。翌日、全血を採取した。得られた各血液から血清サンプルを調製した。各血清サンプルを精製水で20倍希釈し、蛍光分光光度計にて励起波長490nm、蛍光波長510nmの条件で蛍光強度を測定した。その結果、投与後の血清サンプルは、投与前の血清サンプルに比べて20倍の蛍光強度を示した。以上より、本実施例の経皮吸収製剤によって、モデルワクチンとしてのFITCラベル化アルブミンを皮膚から投与できることが示された。
【実施例4】
【0114】
本実施例では、コンドロイチン硫酸Cナトリウムからなる基剤にインスリン(目的物質)が保持された、針状又は糸状の形状を有する経皮吸収製剤を作製した。
【0115】
200mgのコンドロイチン硫酸Cナトリウム(ナカライテスク社)に約0.1mLの精製水を加え、加温しながらよく溶解及び混和し、コンドロイチン硫酸Cナトリウムからなる糊状の基剤を調製した。この基剤を室温に戻した後、10μLのインスリンナトリウム水溶液(100mg/mL、自家調製品)を加え、よく混和し、インスリンを保持させた。このインスリンが保持された糊状の基剤に、直径約3mmのポリプロピレン製棒の先端を押し当てた後、徐々に引き離して針状又は糸状とした。さらに、直径20μmのワイヤーにて表面に割線を入れた。そのまま低温で乾燥することにより硬化させ、針状又は糸状の形状を有する経皮吸収製剤を作製した。
【0116】
マウスにおける血糖降下作用を指標として、本実施例で作製した経皮吸収製剤を評価した。体重約30gのマウスをペントバルビタール麻酔下で、腹部の除毛を施した後、手術台に固定した。この時点でまず頸静脈より約0.25mL採血した。次に、本実施例で作製した経皮吸収製剤5本(1.0 IU/kgに相当)を、除毛したマウスの腹部に挿入し、インスリンを皮膚から投与した。投与後3時間にわたり頸静脈より採血を行い、循環血液を採取した。得られた各血液から血清サンプルを調製し、各血清サンプル中のグルコース濃度(血糖値)を、グルコースアッセイキット(グルコースC−IIテストワコー、和光純薬社)を用いて測定した。各血糖値は、投与前における血糖値を100%としたときの相対値で表した。全てのデータは1群当たり3〜4匹のマウスの平均値±SDとして算出した。結果を第2表に示す。その結果、わずか投与1時間目で血糖値が最低値を示しており、インスリンの効果が認められた。以上より、本実施例の経皮吸収製剤によってインスリンを皮膚から投与できることが示された。
【表2】

【実施例5】
【0117】
本実施例では、デキストリンからなる基剤にインスリン(目的物質)が保持された、針状又は糸状の形状を有する経皮吸収製剤を作製した。
【0118】
2gのデキストリン(和光純薬社)に約1mLの精製水を加え、乳鉢内にて乳棒によりよく溶解及び混和し、デキストリンからなる糊状の基剤を調製した。この基剤100mgに10μLのインスリンナトリウム水溶液(100mg/mL、自家調製品)を加え、よく混和し、インスリンを保持させた。このインスリンが保持された糊状の基剤に、直径約3mmのガラス棒の先端を押し当てた後、徐々に引き離して針状又は糸状とした。さらに、直径20μmのワイヤーにて表面に割線を入れた。そのまま低温で乾燥することにより硬化させ、針状又は糸状の形状を有する経皮吸収製剤を作製した。
【0119】
実施例4と同様にして、マウスを使った動物実験を行った。結果を第3表に示す。その結果、わずか投与1時間目で血糖値が最低値を示しており、インスリンの効果が認められた。以上より、本実施例の経皮吸収製剤によってインスリンを皮膚から投与できることが示された。
【表3】

【実施例6】
【0120】
本実施例では、ヒドロキシプロピルセルロースからなる基剤にエリスロポエチン(目的物質)が保持された、針状又は糸状の形状を有する経皮吸収製剤を作製した。
【0121】
2gのヒドロキシプロピルセルロース(L−HPC、日本曹達社)に約1mLの精製水を加え、乳鉢内にて乳棒によりよく溶解及び混和し、ヒドロキシプロピルセルロースからなる糊状の基剤を調製した。この基剤100mgに10μLのエリスロポエチンEPO注射液(商品名エスポー、24,000IU/mL、キリンビール社)を加え、よく混和し、エリスロポエチンを保持させた。このエリスロポエチンが保持された糊状の基剤に、直径約3mmのガラス棒の先端を押し当てた後、徐々に引き離して針状又は糸状とした。そのまま低温で乾燥することにより硬化させ、針状又は糸状の形状を有する経皮吸収製剤を作製した。
【0122】
体重約30gのマウスをペントバルビタール麻酔下で、腹部の除毛を施した後、手術台に固定した。本実施例で作製した経皮吸収製剤を、除毛したマウスの腹部に挿入し、エリスロポエチンを皮膚から投与した。投与量は100 IU/kgとした。投与前および投与後5時間にわたり頸静脈より採血を行い、循環血液を採取した。得られた各血液から血清サンプルを調製し、各血清サンプル中のエリスロポエチン濃度をELISAにて測定した。結果を第4表に示す。すなわち、投与1時間目からエリスロポエチン濃度が上昇し始め、投与5時間目まで上昇し続けていた。以上より、本実施例の経皮吸収製剤によってエリスロポエチンを皮膚から投与できることが示された。
【表4】

【実施例7】
【0123】
本実施例では、ヒト血清アルブミン及びヒドロキシプロピルセルロースからなる基剤にインスリン(目的物質)が保持された、針状又は糸状の形状を有する経皮吸収製剤を作製した。
【0124】
150mgのヒト血清アルブミンと25mgのヒドロキシプロピルセルロース(L−HPC、日本曹達社)に約0.2mLの精製水を加えよく溶解及び混和し、ヒト血清アルブミン及びヒドロキシプロピルセルロースからなる糊状の基剤を調製した。この基剤100mgに10μLのインスリンナトリウム水溶液(100mg/mL、自家調製品)を加え、よく混和し、インスリンを保持させた。このインスリンが保持された糊状の基剤に、直径約2mmのポリプロピレン製棒の先端を押し当てた後、徐々に引き離して針状又は糸状とした。さらに、直径20μmのワイヤーを基剤と棒との境界近くに押し当てて回転させ、切断用のくびれを入れた。そのまま低温で乾燥することにより硬化させ、針状又は糸状の形状を有する経皮吸収製剤を作製した。
【実施例8】
【0125】
本実施例では、デキストリンからなる基剤にインスリン(目的物質)が保持され、さらにポリエチレングリコールからなる防湿用の層が設けられた、針状又は糸状の形状を有する経皮吸収製剤を作製した。
【0126】
2gのデキストリン(和光純薬社)に約1mLの精製水を加え、乳鉢内にて乳棒によりよく溶解及び混和し、デキストリンからなる糊状の基剤を調製した。この基剤100mgに10μLのインスリンナトリウム水溶液(100mg/mL、自家調製品)を加え、よく混和し、インスリンを保持させた。このインスリンが保持された糊状の基剤に、直径約3mmのガラス棒の先端を押し当てた後、徐々に引き離して針状又は糸状とした。さらに、直径20μmのワイヤーを基剤と棒との境界近くに押し当てて回転させ、切断用のくびれを入れた。そのまま低温で乾燥することにより硬化させ、針状又は糸状の形状を有する固形物を得た。一方、5%ポリエチレングリコール20000(PEG20000、ナカライテスク社)の塩化メチレン溶液を調製した。この溶液に、得られた針状又は棒状の固形物をくびれ部分まで浸漬した後に風乾し、固形物の表面をPEG20000でコーティングした。このようにして、表面に防湿用の層が設けられた針状又は棒状の形状を有する経皮吸収製剤を作製した。
【実施例9】
【0127】
本実施例では、ゼラチン及びデキストリンからなる基剤にインスリン(目的物質)が保持され、さらにポリエチレングリコールからなる防湿用の層が設けられた、針状又は糸状の形状を有する経皮吸収製剤を作製した。
【0128】
3gのゼラチン(和光純薬社)及び0.8gのデキストリン(和光純薬社)に約3mLの精製水を加え、約50℃に加温しながら乳鉢内にて乳棒によりよく溶解及び混和し、ゼラチン及びデキストリンからなる糊状の基剤を調製した。この基剤100mgに10μLのインスリンナトリウム水溶液(100mg/mL、自家調製品)を加え、よく混和し、インスリンを保持させた。その後、実施例8と同様にして、くびれを有する針状又は糸状の固形物を得た。さらに、実施例8と同様にして固形物の表面をPEG20000でコーティングした。このようにして、表面に防湿用の層が設けられた針状又は棒状の形状を有する経皮吸収製剤を作製した。
【実施例10】
【0129】
本実施例では、ゼラチン及びデキストリンからなる基剤にインスリン(目的物質)が保持され、さらに大豆トリプシンインヒビター(安定化剤)を含有する針状又は糸状の形状を有する経皮吸収製剤を作製した。
【0130】
3gのゼラチン(和光純薬社)、0.8gのデキストリン(和光純薬社)、及び1mgの大豆トリプシンインヒビター(シグマ社)に約3mLの精製水を加え、約40℃に加温しながら乳鉢内にて乳棒によりよく溶解及び混和し、大豆トリプシンインヒビターを含有するゼラチン及びデキストリンからなる糊状の基剤を調製した。この基剤100mgに10μLのインスリンナトリウム水溶液(100mg/mL)を加え、よく混和し、インスリンを保持させた。一方、ハンマーにてパーフルオロアルコキシPFA樹脂板に木綿針を打ちつけ、針状又は糸状の鋳型を形成した。この鋳型に、インスリンを保持させた基剤を約40℃に加温しながら流し込んだ。そのまま室温に放置して冷却し、インスリンを保持させた基剤を硬化させた。鋳型から硬化した固形物を取り出し、針状又は糸状の形状を有する経皮吸収製剤を得た。
【実施例11】
【0131】
本実施例では、コンドロイチン硫酸Cナトリウムからなる基剤に低分子へパリン(目的物質)が保持され、さらにPEG20000(曳糸性抑制剤)及びカプリル酸(吸収促進剤)を含有する針状又は糸状の形状を有する経皮吸収製剤を作製した。
【0132】
100mgのコンドロイチン硫酸Cナトリウム(ナカライテスク社)に50μLの5%PEG20000水溶液(ナカライテスク社)を加えてよく溶解及び混和し、PEG20000を含有するコンドロイチン硫酸Cナトリウムからなる糊状の基剤を調製した。この基剤に5mgの低分子ヘパリン(Parnaparin)及び5mgのカプリル酸(和光純薬社)を加え、よく混練し、低分子ヘパリンとカプリル酸を保持させた。この低分子ヘパリンとカプリル酸が保持された糊状の基剤に、直径約2mmのガラス棒の先端を押し当てた後、徐々に引き離して針状又は糸状とした。さらに、直径20μmのワイヤーにて表面に割線を入れた。そのまま低温で乾燥することにより硬化させ、針状又は糸状の形状を有する経皮吸収製剤を作製した。マウスを使った動物実験による評価は、後述の実施例12で同時に行った。
【実施例12】
【0133】
本実施例では、実施例11と同様の経皮吸収製剤であって、割線のない経皮吸収製剤を作製した。
【0134】
実施例11と同様にして、PEG20000を含有するコンドロイチン硫酸Cナトリウムからなる糊状の基剤を調製し、さらに低分子ヘパリンとカプリル酸を保持させた。この低分子ヘパリンとカプリル酸が保持された糊状の基剤に、直径約3mmのガラス棒の先端を押し当てた後、徐々に引き離して針状又は糸状とした。そのまま低温で乾燥することにより硬化させ、針状又は糸状の形状を有する経皮吸収製剤を作製した。
【0135】
実施例11及び実施例12の比較例として、カプリル酸を含有しない以外は実施例11と同様の針状又は糸状の形状を有する経皮吸収製剤を作製した。
【0136】
体重約30gのマウスをペントバルビタール麻酔下で、腹部の除毛を施した後、手術台に固定した。実施例11、実施例12、及び比較例で作製した各経皮吸収製剤を、除毛したマウスの腹部に挿入し、低分子ヘパリンを皮膚から投与した。投与量は100 IU/kgとした。投与前および投与後4時間にわたり頸静脈より採血を行い、循環血液を採取した。得られた各血液から血清サンプルを調製し、各血清サンプル中のヘパリン活性(抗Xa活性)をヒーモスアイエル・ヘパリン・アッセイキット(米国インスツルメンテーションラボラトリーズ社、輸入販売元(株)三菱化学ヤトロン)を用いて測定した。結果を第5表に示す。実施例11及び実施例12の経皮吸収製剤では、投与1時間目あるいは2時間目から抗Xa活性が上昇し始め、投与3時間目に最高活性を示した。一方、比較例の経皮吸収製剤では、投与後4時間目でも抗Xa活性が検出されなかった。以上より、低分子ヘパリンが目的物質の場合は、カプリル酸のような吸収促進剤が必要であることがわかった。
【表5】

【実施例13】
【0137】
本実施例では、グリコーゲンからなる基剤にインターフェロン(目的物質)が保持された、針状又は糸状の形状を有する経皮吸収製剤を作製した。
【0138】
1gのグリコーゲン(ナカライテスク社)に約1mLの精製水を加え、加温しながらよく溶解及び混和し、グリコーゲンからなる糊状の基剤を調製した。この基剤に10μLのインターフェロンアルファ注射液(登録商標スミフェロン、600万単位/mL、住友製薬社)(6万IUに相当)を加え、よく混和し、インターフェロンを保持させた。このインターフェロンが保持された糊状の基剤に、直径約3mmのガラス棒の先端を押し当てた後、徐々に引き離して針状又は糸状とした。そのまま低温で乾燥することにより硬化させ、針状又は糸状の形状を有する経皮吸収製剤を作製した。
【実施例14】
【0139】
本実施例では、カルボキシビニルポリマーからなる基剤にインスリン(目的物質)が保持され、さらにPEG20000(曳糸性抑制剤)を含有する針状又は糸状の形状を有する経皮吸収製剤を作製した。
【0140】
3gのカルボキシビニルポリマー(商品名ハイビスワコー103、和光純薬社)に2mLの1%PEG20000水溶液(ナカライテスク社)を加えてよく溶解及び混和し、PEG20000を含有するカルボキシビニルポリマーからなる糊状の基剤を調製した。この基剤100mgに10μLのインスリンナトリウム水溶液(100mg/mL、自家調製品)を加え、よく混和し、インスリンを保持させた。直径約3mmのポリプロピレン製棒の先端を押し当てた後、徐々に引き離して針状又は糸状とした。実施例8と同様にして切断用のくびれを入れ、そのまま低温で乾燥することにより硬化させ、針状又は糸状の形状を有する経皮吸収製剤を得た。
【実施例15】
【0141】
本実施例では、デキストラン及びヒアルロン酸からなる基剤にビタミンC(目的物質)が保持された、針状又は糸状の形状を有する経皮吸収製剤を作製した。
【0142】
80mgのデキストラン(分子量17万〜20万、ナカライテスク社)、2mgのヒアルロン酸(平均分子量9万、商品コードFCH−SU、紀文フードケミファ社)、及び5mgのビタミンC(L−アスコルビン酸、和光純薬社)に約50μLの精製水を加えて溶解及び混和した。これにより、ビタミンCを保持し、デキストラン及びヒアルロン酸からなる糊状の基剤を調製した。このビタミンCが保持された糊状の基剤に、直径約3mmのガラス棒の先端を押し当てた後、徐々に引き離して針状又は糸状とした。そのまま低温で乾燥することにより硬化させ、針状又は糸状の形状を有する経皮吸収製剤を作製した。
【実施例16】
【0143】
本実施例では、プルラン及びヒアルロン酸からなる基剤にビタミンC(目的物質)が保持された、針状又は糸状の形状を有する経皮吸収製剤を作製した。
【0144】
50mgのプルラン(商品コードPI−20、林原社)、1mgのヒアルロン酸(平均分子量9万、商品コードFCH−SU、紀文フードケミファ社)、及び2mgのビタミンC(L−アスコルビン酸、和光純薬社)に約50μLの精製水を加えて溶解及び混和した。これにより、ビタミンCを保持し、プルラン及びヒアルロン酸からなる糊状の基剤を調製した。このビタミンCが保持された糊状の基剤に、直径約3mmのガラス棒の先端を押し当てた後、徐々に引き離して針状又は糸状とした。そのまま低温で乾燥することにより硬化させ、針状又は糸状の形状を有する経皮吸収製剤を作製した。
【実施例17】
【0145】
本実施例では、ヒト血清アルブミンからなる基剤に低分子ヘパリン(目的物質)が保持された、針状又は糸状の形状を有する経皮吸収製剤を作製した。
【0146】
150mgのヒト血清アルブミンに約0.2mLの精製水を加えてよく溶解及び混和し、血清アルブミンからなる糊状の基剤を調製した。この基剤に5mgの低分子ヘパリン(Parnaparin)を加えてよく混練し、低分子ヘパリンを保持させた。この低分子ヘパリンが保持された糊状の基剤に、直径約2mmのガラス棒の先端を押し当てた後、徐々に引き離して針状又は糸状とした。そのまま風乾させることにより硬化させ、針状又は糸状の形状を有する経皮吸収製剤を作製した。
【0147】
体重約30gのマウスをペントバルビタール麻酔下で、腹部の除毛を施した後、手術台に固定した。本実施例で作製した経皮吸収製剤を、除毛したマウスの腹部に挿入し、低分子へパリンを皮膚から投与した。投与量は100 IU/kgとした。投与前および投与後6時間にわたり頸静脈より採血を行い、循環血液を採取した。得られた各血液から血清サンプルを調製し、各血清サンプル中のへパリン活性(抗Xa活性)を、ヒーモスアイエル・ヘパリン・アッセイキット(米国インスツルメンテーションラボラトリーズ社、輸入販売元(株)三菱化学ヤトロン)を用いて測定した。結果を第6表に示す。すなわち、投与前と投与後1時間目においては、血清中の抗Xa活性は検出限界(0.1 U/mL)以下であり、その後、4時間目まで徐々に抗Xa活性が上昇していた。以上より、本実施例の経皮吸収製剤によって低分子ヘパリンを皮膚から投与できることが示された。
【表6】

【実施例18】
【0148】
本実施例では、ヒト血清アルブミンからなる基剤に低分子ヘパリン(目的物質)が保持され、低分子ヘパリンが徐放される、針状又は糸状の形状を有する経皮吸収製剤を作製した。
【0149】
実施例17と同様の手順で、針状又は糸状の形状を有する固形物を得た。一方、10mLのエタノールに2mLの25%グルタルアルデヒド水溶液(ナカライテスク社)を加えてよく混和した。この混和液に、得られた針状又は棒状の固形物を5分間浸漬し、固形物の表面に架橋処理を施した。処理後の固形物をエタノールと蒸留水にそれぞれ30秒ずつ浸漬し、表面を洗浄した。洗浄後、該固形物を風乾させることにより、針状又は棒状の形状を有する経皮吸収製剤を作製した。
【0150】
本実施例で作製した経皮吸収製剤について、37℃で5時間の条件で溶出試験を行なった。溶出液としてラット皮膚組織のホモジネートを等張リン酸バッファー(pH7.4)にて10倍に希釈した液10mLを用いた。溶出液の抗Xa活性を上記のヒーモスアイエル・ヘパリン・アッセイキットを用いて測定した。比較例として実施例17で作製した経皮吸収製剤を用いて同様の試験を行なった。結果を第7表に示す。すなわち、本実施例で作製した経皮吸収製剤では、試験開始から試験開始後10分経過時までは抗Xa活性が検出されず、試験開始後30分経過時にようやく抗Xa活性が検出された。また、抗Xa活性は試験開始後3時間経過時においても高い値を示していた。一方、実施例17で作製した経皮吸収製剤においては、試験開始後2分経過時から抗Xa活性が検出された。以上より、本実施例の経皮吸収製剤においては、低分子ヘパリンが徐々に溶出されていることが示された。
【表7】

【実施例19】
【0151】
本実施例では、ヒト血清アルブミンからなる基剤にインスリン(目的物質)が保持され、インスリンが徐放される、針状又は糸状の形状を有する経皮吸収製剤を作製した。
【0152】
150mgのヒト血清アルブミンに約0.2mLの精製水を加えてよく溶解及び混和し、ヒト血清アルブミンからなる糊状の基剤を調製した。この基剤100mgに10μLのインスリンナトリウム水溶液(100mg/mL、自家調製品)を加え、よく混和し、インスリンを保持させた。このインスリンが保持された糊状の基剤に、直径約2mmのポリプロピレン製棒の先端を押し当てた後、徐々に引き離して針状又は糸状とした。その後、実施例18と同様にしてグルタルアルデヒド処理を施すことにより、針状又は糸状の経皮吸収製剤を作製した。
【実施例20】
【0153】
本実施例では、多孔性無水ケイ酸又は多孔性ケイ酸カルシウム(多孔性物質)にインスリンが保持され、インスリンが徐放される、針状又は糸状の形状を有する経皮吸収製剤を作製した。
【0154】
多孔性物質として、4種の多孔性無水ケイ酸(商品名Sylysia350, Sylysia440, Sylysia550, 及びSylysia730、富士シリシア化学社)と1種の多孔性ケイ酸カルシウム(商品名Fluorite、エーザイ社)を検討した。以下、Sylysia350を用いた実施例を実施例20−1、Sylysia440を用いた実施例を実施例20−2、Sylysia550を用いた実施例を実施例20−3、Sylysia730を用いた実施例を実施例20−4、Fluoriteを用いた実施例を実施例20−5とする。一方、ウシ膵臓インスリン(和光純薬社)を精製水に溶解し、濃度9.6mg/mLのインスリン溶液を調製した。15.9mgの多孔性物質に0.1mLのインスリン溶液を加え、よく混和した後、乾燥させて、インスリン吸着粉末を調製した。一方、317.5mgのコンドロイチン硫酸Cナトリウム(ナカライテスク社)に約0.15mLの精製水を加えてよく溶解及び混和し、コンドロイチン硫酸Cナトリウムからなる糊状の基剤を調製した。この基剤に16.86mgのインスリン吸着粉末を加えてよく混和した。このインスリンを保持した多孔性物質を含有する基剤に、直径約3mmのガラス棒の先端を押し当てた後、徐々に引き離して針状又は糸状とした。そのまま低温で乾燥することにより硬化させ、針状又は糸状の形状を有する経皮吸収製剤を5種作製した。マウスを使った動物実験による評価は、後述の実施例21で同時に行った。
【実施例21】
【0155】
本実施例では、中間型インスリン(長時間作用型の物質)が保持され、さらにL−グルタミン酸L−リジン(曳糸性抑制剤)を含有し、インスリンが徐放される、針状又は糸状の形状を有する経皮吸収製剤を作製した。
【0156】
312.8mgのコンドロイチン硫酸Cナトリウム(ナカライテスク社)及び153.8mgのL−グルタミン酸L−リジン(味の素社)に約0.45mLの精製水を加えてよく溶解及び混和し、コンドロイチン硫酸Cナトリウムからなる糊状の基剤を調製した。この基剤に0.167IUの中間型インスリン(ペンフィルN、ノボ社)を加えてよく混和した。この中間型インスリンを保持した基剤に、直径約3mmのガラス棒の先端を押し当てた後、徐々に引き離して針状又は糸状とした。そのまま低温で乾燥することにより硬化させ、針状又は糸状の形状を有する経皮吸収製剤を作製した。
【0157】
マウスにおける血糖降下作用を指標として、実施例20及び実施例21で作製した経皮吸収製剤を評価した。すなわち、体重約30gのマウスをペントバルビタール麻酔下で、腹部の除毛を施した後、手術台に固定した。実施例20又は実施例21で作製した各経皮吸収製剤を、除毛したマウスの腹部に挿入し、インスリンを皮膚から投与した。投与量は2.5 IU/kgとした。投与前および投与後24時間にわたり頸静脈より採血を行い、循環血液を採取した。得られた各血液から血清サンプルを調製し、各血清サンプル中のグルコース濃度(血糖値)をグルコースアッセイキット(グルコースC−IIテストワコー、和光純薬)を用いて測定した。各血糖値は、投与前における血糖値を100%としたときの相対値で表した。全てのデータは1群当たり3〜4匹のマウスの平均値±SDとして算出した。結果を図16に示す。図16は、実施例20と実施例21の経皮吸収製剤を皮膚に挿入した場合における血糖値の経時変化を表すグラフであり、図16(a)は実施例20−1,20−2,又は20−3の経皮吸収製剤を皮膚に挿入した場合における血糖値の経時変化を表すグラフであり、図16(b)は実施例20−4,20−5,又は21の経皮吸収製剤を皮膚に挿入した場合における血糖値の経時変化を表すグラフである。図16(a)(b)のグラフの縦軸は血糖値、横軸は時間である。コントロールは、基剤のみからなる経皮吸収製剤を用いた場合である。その結果、実施例20で作製した5種の経皮吸収製剤では、投与後12時間に渡って血糖値が低下していた。また、実施例21で作製した経皮吸収製剤では、投与後9時間に渡って血糖値が低下していた。以上より、実施例20又は21の経皮吸収製剤によってインスリンを皮膚から徐放的に投与できることが示された。
【実施例22】
【0158】
本実施例では、ヒアルロン酸及びデキストランからなる基剤にインスリン(目的物質)が保持された、針状又は糸状の形状を有する経皮吸収製剤を作製した。
【0159】
厚さ約2.0mmのアクリル板に直径約1mmの穴を30個開けた。これらの穴に木綿針を貫通させ、針先がアクリル板の表面から200μm程度出る状態とした。さらに、接着剤を針の挿入側から注入し、針をアクリル板に固定した。一方、シャーレにシリコン樹脂を入れた。このシャーレ内のシリコン樹脂の上面に上記の針付きアクリル板を乗せ、そのまま一晩放置した。シリコン樹脂が硬化したことを確認した後、針付きアクリル板を取り除き、シリコン樹脂製の鋳型を作製した。
【0160】
2.4mgのヒアルロン酸(平均分子量9万、商品コードFCH−SU、紀文フードケミファ社)及び2.4mgのデキストラン(分子量5万〜7万、ナカライテスク社)に2.5μLの精製水を加えてよく溶解及び混和し、ヒアルロン酸及びデキストランからなる糊状の基剤を調製した。この基剤に0.2mgのインスリンナトリウム(自家調製品)を加え、よく混和し、インスリンを保持させた。このインスリンが保持された糊状の基剤を、上記のシリコン製の鋳型に押し付けて充填した。基剤をそのまま低温で乾燥することにより硬化させた。硬化させた基剤を鋳型から剥がすことにより、針状又は糸状の形状を有する経皮吸収製剤を作製した。
【実施例23】
【0161】
本実施例では、キトサンからなる基剤にビタミンC(目的物質)が保持された、針状又は糸状の形状を有する経皮吸収製剤を作製した。
【0162】
0.3gのキトサン(ダイキトサンVL、大日精化社)に100μLの酢酸及び約1mLの精製水を加え、ホットスターラー上にて攪拌して溶解させた。さらに、1N NaOHを加えていき、pHを約6.5に調整した。この溶液を温風下で攪拌して水分を蒸発させ、キトサンからなる糊状の基剤を調製した。この基剤に5mgのビタミンC(L−アスコルビン酸、和光純薬社)を加え、よく混和し、ビタミンCを保持させた。このビタミンCが保持された糊状の基剤を、実施例22と同様にして鋳型に押し付けて充填した。基剤をそのまま低温で乾燥して硬化させた。硬化させた基剤を鋳型から剥がすことにより、針状又は糸状の形状を有する経皮吸収製剤を作製した。
【実施例24】
【0163】
本実施例では、コンドロイチン硫酸Cナトリウムからなる基剤にインスリン(目的物質)が保持され、インスリンが徐放される、針状又は糸状の形状を有する経皮吸収製剤を作製した。
【0164】
4.8mgのコンドロイチン硫酸Cナトリウム(ナカライテスク社)に2.5μLの精製水を加えてよく溶解及び混和し、コンドロイチン硫酸Cナトリウムからなる糊状の基剤を調製した。この基剤に0.2mgのインスリンナトリウム(自家調製品)を加え、よく混和し、インスリンを保持させた。このコンドロイチン硫酸Cナトリウムが保持された糊状の基剤に、ポリプロピレン製の棒の先端を押し当てた後、徐々に引き離して針状又は糸状とした。この針状又は糸状の基剤を飽和塩化カルシウム水溶液中に浸漬し、4℃にて1時間放置して硬化させた。これにより、表面に水不溶性の層が形成された。該固形物を風乾させることにより、針状又は棒状の形状を有する経皮吸収製剤を作製した。
【符号の説明】
【0165】
1,1a〜1q 経皮吸収製剤
21 経皮吸収製剤
31 経皮吸収製剤
41,41a〜41d 経皮吸収製剤
51 経皮吸収製剤
61 経皮吸収製剤
66 割線
67 くびれ
71 経皮吸収製剤
76a,76b 割線
81 経皮吸収製剤
91 基剤
100 経皮吸収製剤保持シート
102 支持体
110 経皮吸収製剤保持用具
111 経皮吸収製剤
112 本体
113 貫通孔
115 ビーズ(スペーサー)
117 凹部
120 経皮吸収製剤保持用具
121 経皮吸収製剤
130 経皮吸収製剤保持用具
131 経皮吸収製剤
140 経皮吸収製剤保持用具
147 凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性かつ生体内溶解性の高分子物質からなる基剤と、該基剤に保持された目的物質とを有し、皮膚に挿入されることにより目的物質を皮膚から吸収させる経皮吸収製剤であって、前記高分子物質はタンパク質、多糖類、ポリビニルアルコール、カルボキシビニルポリマー、及びポリアクリル酸ナトリウムからなる群より選ばれた少なくとも1つの物質であり、針状又は糸状の形状を有する経皮吸収製剤。
【請求項2】
水溶性かつ生体内溶解性の高分子物質からなる基剤と、該基剤に保持された目的物質とを有し、皮膚に挿入されることにより目的物質を皮膚から吸収させる経皮吸収製剤であって、表面に水不溶性の層が設けられ、前記目的物質が徐放される、針状又は糸状の形状を有する経皮吸収製剤。
【請求項3】
前記水不溶性の層は、架橋反応によって形成されたものである請求項2に記載の経皮吸収製剤。
【請求項4】
水溶性かつ生体内溶解性の高分子物質からなる基剤と、該基剤に保持された目的物質とを有し、皮膚に挿入されることにより目的物質を皮膚から吸収させる経皮吸収製剤であって、前記基剤は多孔性物質を含有し、前記目的物質は前記多孔性物質に保持され、前記目的物質が徐放される、針状又は糸状の形状を有する経皮吸収製剤。
【請求項5】
前記多孔性物質は、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、無水ケイ酸、多孔性炭酸カルシウム、多孔性リン酸カルシウム、及び多孔質シリコンからなる群より選ばれた少なくとも1つの物質である請求項4に記載の経皮吸収製剤。
【請求項6】
水溶性かつ生体内溶解性の高分子物質からなる基剤と、該基剤に保持された目的物質とを有し、皮膚に挿入されることにより目的物質を皮膚から吸収させる経皮吸収製剤であって、前記目的物質が長時間作用型の物質であり、前記目的物質が徐放される、針状又は糸状の形状を有する経皮吸収製剤。
【請求項7】
前記長時間作用型の物質は、長時間作用型インスリン又はポリエチレングリコール架橋が施されたタンパク質である請求項6に記載の経皮吸収製剤。
【請求項8】
前記高分子物質は、タンパク質、多糖類、ポリビニルアルコール、カルボキシビニルポリマー、及びポリアクリル酸ナトリウムからなる群より選ばれた少なくとも1つの物質である請求項2〜7のいずれかに記載の経皮吸収製剤。
【請求項9】
前記タンパク質は、血清アルブミン、血清α酸性糖タンパク質、及びゼラチンからなる群より選ばれた少なくとも1つの物質である請求項1又は8に記載の経皮吸収製剤。
【請求項10】
前記多糖類は、グリコーゲン、デキストリン、デキストラン、デキストラン硫酸、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、アルギン酸、アガロース、キチン、キトサン、プルラン、及びヒアルロン酸より選ばれた少なくとも1つの物質である請求項1、8又は9に記載の経皮吸収製剤。
【請求項11】
前記基剤は、さらに目的物質の吸収速度調節剤を含有する請求項1〜10のいずれかに記載の経皮吸収製剤。
【請求項12】
前記吸収速度調節剤は、吸収促進剤である請求項11に記載の経皮吸収製剤。
【請求項13】
前記吸収促進剤は、界面活性剤である請求項12に記載の経皮吸収製剤。
【請求項14】
前記基剤は、さらに曳糸性抑制剤を含有する請求項1〜13のいずれかに記載の経皮吸収製剤。
【請求項15】
前記曳糸性抑制剤は、ポリエチレングリコール又はL−グルタミン酸L−リジンである請求項14に記載の経皮吸収製剤。
【請求項16】
前記目的物質は、薬物である請求項1〜15のいずれかに記載の経皮吸収製剤。
【請求項17】
前記薬物は、ペプチド、タンパク質、核酸、多糖類、又はワクチンに属するものである請求項16に記載の経皮吸収製剤。
【請求項18】
前記基剤は、さらに目的物質の安定化剤を含有する請求項1〜17のいずれかに記載の経皮吸収製剤。
【請求項19】
表面に防湿用の層が設けられた請求項1〜18のいずれかに記載の経皮吸収製剤。
【請求項20】
表面の一部にくびれ又は割線を有する請求項1〜19のいずれかに記載の経皮吸収製剤。
【請求項21】
請求項1〜20のいずれかに記載の経皮吸収製剤が2個以上直列に連結された経皮吸収製剤。
【請求項22】
シート状の支持体の少なくとも一方の面に請求項1〜20のいずれかに記載の経皮吸収製剤が1又は2個以上保持され、皮膚に押し当てられることにより前記皮膚吸収製剤が皮膚に挿入される経皮吸収製剤保持シート。
【請求項23】
貫通孔を有する本体と、該貫通孔の中に保持された針状又は糸状の形状を有する経皮吸収製剤とを有し、前記経皮吸収製剤は水溶性かつ生体内溶解性の物質からなる基剤と該基剤に保持された目的物質とを有し皮膚に挿入されることにより目的物質を皮膚から吸収させるものであり、前記経皮吸収製剤は前記貫通孔に沿って移動可能である経皮吸収製剤保持用具。
【請求項24】
貫通孔を有する本体と、該貫通孔の中に保持された針状又は糸状の形状を有する経皮吸収製剤とを有し、前記経皮吸収製剤は請求項1〜21のいずれかに記載の経皮吸収製剤であり、前記経皮吸収製剤は前記貫通孔に沿って移動可能である経皮吸収製剤保持用具。
【請求項25】
さらに前記貫通孔の中に前記経皮吸収製剤に接触可能なスペーサーを有し、該スペーサーは前記貫通孔に沿って移動可能である請求項23又は24に記載の経皮吸収製剤保持用具。
【請求項26】
前記本体は凹部を有し、前記貫通孔の一端は該凹部に開口している請求項23〜25のいずれかに記載の経皮吸収製剤保持用具。
【請求項27】
前記凹部に雌ネジが形成されている請求項26に記載の経皮吸収製剤保持用具。
【請求項28】
前記本体は、プラスチック製である請求項23〜27のいずれかに記載の経皮吸収製剤保持用具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2009−138010(P2009−138010A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−27351(P2009−27351)
【出願日】平成21年2月9日(2009.2.9)
【分割の表示】特願2007−500638(P2007−500638)の分割
【原出願日】平成18年1月30日(2006.1.30)
【出願人】(502414389)株式会社バイオセレンタック (24)
【Fターム(参考)】