説明

経皮送達のための組成物及び装置

複数の角質層貫通マイクロプロジェクションを有する経皮送達装置をコートするための、生物学的活性物質及び少なくとも1種の粘度向上対イオンを包含する調製物。調製物は好ましくは、約20〜200cpの範囲内の粘度を有する。

【発明の詳細な説明】
【関連出願に対するクロスレファランス】
【0001】
本出願は2003年11月13日出願の米国特許仮出願第60/520,196号の優先権を主張する。
【技術分野】
【0002】
本発明は概括的に生物学的活性物質の経皮送達に関する。より特定には、本発明は経皮物質送達装置及びそれに適用される物質含有調製物に関する。
【背景技術】
【0003】
生物学的活性物質又は薬剤の経皮送達は皮下注射及び経口送達のような、より伝統的な送達方法に対して改良点を提供する。経皮薬剤送達は経口薬剤送達に伴って遭遇される肝臓の第一通過効果及び胃腸管中の分解を回避する。経皮薬剤送達はまた皮下注射に伴う患者の不快感、感染の危険及び侵襲性を回避する。本明細書で使用される用語「経皮」は広義には動物の皮膚、粘膜又は爪のような体表を通る物質又は薬剤の送達を包含する。
【0004】
当該技術分野で周知のように、皮膚は身体中への物質の経皮透過に対する主要なバリヤーとして働く。一番外側の皮膚層の角質層は、脂質の2層により囲まれたケラチン繊維(ケラチン生成細胞)で充填された平坦な死滅細胞からなる。脂質の2層の著しく整列された構造が角質層に相対的に不透過性の特徴を与える。
【0005】
しかし、治療的物質の経皮送達は重要な医薬の投与経路である。経皮薬剤送達は胃腸内の分解及び肝臓の代謝を迂回する。大部分の市販の経皮薬剤送達システムは受動的拡散により薬剤を送達する。薬剤は、存在する濃度勾配によりパッチ中のレザボアから患者の皮膚中に拡散する、すなわち薬剤はパッチのレザボア中の高濃度から患者の身体中の低濃度に拡散する。患者の皮膚を通る薬剤の流れは、薬剤の分配係数、溶解度の特徴及び皮膚の透過性を包含する多数のファクターにより決定される。従って、受動的拡散送達システムは患者の血流への緩徐なしかし制御された薬剤の送達を提供する。
【0006】
不幸なことには、多数の薬剤は治療的に有効であるためには低すぎる経皮拡散流量を示す。これは特にポリペプチド及びタンパク質のような高分子の薬剤について言える。経皮薬剤流量を促進するために、経皮送達される物質の量を高めるために、一番外側の皮膚層の機械的透過又は破壊を使用して、皮膚中への経路を形成してきた。スカリファイアーとして知られる初期のワクチン接種装置は概括的に適用の部分に引っ掻く又は小切開を形成するために皮膚に適用される複数の歯又は針を有した。ワクチンはRabenauに対して発行された特許文献1のように皮膚上に局所的にあるいはGalyに対して発行された特許文献2、又はChacornacに対して発行された特許文献3又はKravitzに対して発行された特許文献4のようなスカリファイアーの歯に適用される湿った液体としてのいずれかで適用された(特許文献1、2、3及び4参照)。一部は、患者に接種する際に有効であるために非常に少量のみのワクチンが皮膚中に送達される必要があるために、スカリファイアーが皮膚内ワクチン送達のために示唆されてきた。更に、過剰量が最少量と同様に、満足な免疫を達成するので、送達されるワクチンの量は特に重要ではない。
【0007】
経皮薬剤送達を高めるために小型の皮膚貫通要素を利用する他の装置は特許文献5、Godshall等に発行された特許文献6、Ganderton等に発行された特許文献7、Gross等に発行された特許文献8、Lee等に発行された特許文献9、Gerstel等に発行された特許文献10、Kravitz等に発行された特許文献11及び特
許文献12〜24及び25に開示されており、それらすべてが全体を引用により本明細書に取り込まれている(特許文献5〜25参照)。これらの装置は角質層を貫通するための種々の形状及びサイズの貫通要素を使用する。これらの参考文献中に開示された貫通要素は概括的にパッド又はシートのような薄い平坦な部材から垂直に延伸する。貫通要素は、約25〜400ミクロンのみの長さ及び幅並びに約5〜50ミクロンのみの厚さを有するマイクロプロジェクションのように極めて小さくすることができる。これらのマイクロプロジェクションはそれに対応して、そこを通過する促進された経皮物質送達のために角質層中に小さい微小スリットを形成する。
【0008】
更にマイクロプロジェクションに生物学的活性物質のコーティングを適用することは皮膚中への物質の送達を許すことが見いだされた。コートされたマイクロプロジェクションからの生物学的活性物質の送達の効率は少なくとも一部は皮膚中に延伸するマイクロプロジェクションの領域(area)に左右される。プロジェクションが十分に長い場合は、生物学的活性物質はその下に横たわる毛細血管床中に挿入され、それにより生物学的活性物質に対する全身的暴露(systemic exposure)をもたらすことができる。これは薬剤を投与する際の望ましい特徴である。
【0009】
コートされたマイクロプロジェクションを使用する成功した経皮薬剤送達は多数の特徴を有する薬剤調製物を必要とする。例えば、調製物は、角質層を通って移動される治療的に有効量の薬剤がマイクロプロジェクション上にコートされるように十分に濃厚でなければならない。更に調製物はマイクロプロジェクション上に対する均一で正確なコーティングの適用を容易にしなければならない。これらの条件を満たすために、有効なコーティング調製物は適当な粘度をもたなければならない。生物学的活性物質の濃度を増加することはまた粘度を増加する。しかし、物質の濃度は通常、物質の特定の治療量を提供する必要により指令される。従って、適当な粘度を達成するためには、しばしば粘度変更物質を使用しなければならない。
【0010】
通常の粘度変更物質はヒドロキシエチルセルロース(HEC)、カルボキシメチルセルロース、Povidone(R)、Dextran(R)及び他のポリマー物質を包含する。これらの先行技術の物質はタンパク質又はペプチドの調製物の粘度を高めるために使用される時に重大な欠点を示す。調製物は角質層貫通マイクロプロジェクション上の経皮送達のために使用されるので、HEC、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)等は、それらが非経口適用に対して承認された賦形剤ではないために、使用することができない。Dextran(R)及びPovidone(R)のような非経口送達に対して承認されている他の通常の粘度向上物質は必要な粘度を提供するためには調製物中に実質的な量を必要とすると考えられる。
【0011】
間質液の限定された量のために、物質の化学的安定性を高めない物質(すなわち工程を促進する賦形剤)は薬剤の妥協する分解を回避するために最少にする必要がある。従って、有意な量の粘度変更物質の添加は物質の送達を妨げる。例えば、適当な粘度を達成するための調製物中には概括的に、送達を許容できないほど妨げると考えられる量の、5〜10%のDextran(R)又はPovidone(R)の添加を必要とすると考えられる。
【0012】
従って、マイクロプロジェクション上の所望のコートを容易にするために十分な粘度を有する生物学的活性物質の調製物を提供することが本発明の目的である。
【0013】
物質の十分な安定性を維持しながら、生物学的活性物質の調製物の粘度を増加する方法を提供することが本発明の更なる目的である。
【0014】
治療的に有効であるために十分な物質濃度を維持しながら、マイクロプロジェクションを有効にコートするために十分な粘度を有する生物学的活性物質の調製物を提供することが本発明の更にもう1つの目的である。
【0015】
揮発性の低い対イオンを添加することによりマイクロプロジェクションをコートするための生物学的活性物質の調製物の粘度を高めることが本発明の更なる目的である。
【0016】
物質の調製物の粘度を高めることによりマイクロプロジェクション上にコートされた生物学的活性物質の送達を最適にすることが更にもう1つの目的である。
【特許文献1】米国特許第5,487,726号明細書
【特許文献2】米国特許第4,453,926号明細書
【特許文献3】米国特許第4,109,655号明細書
【特許文献4】米国特許第3,136,314号明細書
【特許文献5】欧州特許第0407063号明細書
【特許文献6】米国特許第5,879,326号明細書
【特許文献7】米国特許第3,814,097号明細書
【特許文献8】米国特許第5,279,544号明細書
【特許文献9】米国特許第5,250,023号明細書
【特許文献10】米国特許第3,964,482号明細書
【特許文献11】再発行(Reissue)第25,637号
【特許文献12】国際公開第96/37155号パンフレット
【特許文献13】国際公開第96/37256号パンフレット
【特許文献14】国際公開第96/17648号パンフレット
【特許文献15】国際公開第97/03718号パンフレット
【特許文献16】国際公開第98/11937号パンフレット
【特許文献17】国際公開第98/00193号パンフレット
【特許文献18】国際公開第97/48440号パンフレット
【特許文献19】国際公開第97/48441号パンフレット
【特許文献20】国際公開第97/48442号パンフレット
【特許文献21】国際公開第98/00193号パンフレット
【特許文献22】国際公開第99/64580号パンフレット
【特許文献23】国際公開第98/28037号パンフレット
【特許文献24】国際公開第98/29298号パンフレット
【特許文献25】国際公開第98/29365号パンフレット
【発明の開示】
【0017】
以上の目的及び以下に記述され、明白になるであろう事項に従うと、本発明は複数の角質層貫通マイクロプロジェクションを有する経皮送達装置をコートするための物質含有コート用調製物に関し、そこでコート用調製物が生物学的活性物質及び粘度向上対イオンを包含し、そこで調製物が治療的有効濃度の生物学的活性物質を有する。調製物は好ましくは約20cp〜約200cpの範囲内の粘度を有する。
【0018】
好ましい態様において、活性物質は調製物のpHにおいて正の電荷を有し、そして粘度向上対イオンは少なくとも2種の酸性のpKaを有する酸を含んでなる。適当な酸にはマレイン酸、リンゴ酸、マロン酸、酒石酸、アジピン酸、シトラコン酸、フマル酸、グルタル酸、イタコン酸、メグルトール、メサコン酸、コハク酸、シトラマル酸、タルトロン酸、クエン酸、トリカルバリル酸、エチレンジアミン四酢酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、炭酸、硫酸及びリン酸が包含される。
【0019】
他の好ましい態様において、活性物質は調製物のpHにおいて負の電荷を有し、そして
粘度向上対イオンは少なくとも2種の塩基性のpKaを有する塩基を含んでなる。適当な塩基にはリシン、ヒスチジン、アルギニン、水酸化カルシウム及び水酸化マグネシウムが包含される。
【0020】
もう1つの好ましい態様は、活性物質が調製物のpHにおいて正の電荷を有し、そして少なくとも1種の対イオンが少なくとも2種の酸性のpKaを有する酸である、対イオンの粘度向上性混合物に関する。他方の対イオンは1種又は複数のpkaをもつ酸である。適当な酸の例には塩酸、臭化水素酸、硝酸、硫酸、マレイン酸、リン酸、ベンゼンスルホン酸、メタンスルホン酸、クエン酸、コハク酸、グリコール酸、グルコン酸、グルクロン酸、乳酸、リンゴ酸、ピルビン酸、酒石酸、タルトロン酸、フマル酸、酢酸、プロピオン酸、ペンタン酸、炭酸、マロン酸、アジピン酸、シトラコン酸、レブリン酸、グルタル酸、イタコン酸、メグルトール、メサコン酸、シトラマル酸、クエン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、トリカルバリル酸及びエチレンジアミン四酢酸が包含される。
【0021】
もう1つの好ましい態様は、活性物質が調製物のpHにおいて負の電荷を有し、そして少なくとも1種の対イオンが少なくとも2種の塩基性のpKaを有する塩基である、対イオンの粘度向上性混合物に関する。他方の対イオンは1種又は複数のpkaをもつ塩基である。適当な塩基の例には水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トロメタミン、リシン、ヒスチジン、アルギニン、メチルグルカミン、グルコサミン、アンモニア及びモルホリンが包含される。
【0022】
概括的に本発明の前記の態様において、対イオンの量は生物学的活性物質の電荷を中和しなければならない。
【0023】
対イオン又は対イオンの混合物は調製物のpHにおいて物質上に存在する電荷を中和するのに必要な量だけ存在する。pHを調整し、適当な緩衝能を提供するためには過剰な対イオン(遊離酸として又は塩としての)をペプチドに添加することができる。
【0024】
本発明の1つの態様において、生物学的活性物質はACTH(1〜24)、カルシトニン、デスモプレッシン、LHRH、ゴセレリン、ロイプロリド、ブセレリン、トリプトレリン、他のLHRH類似体、PTH、PTH(1〜34)、バソプレッシン、デアミノ[val4,D−Arg8]アルギニンバソプレッシン、インターフェロンアルファ、インターフェロンベータ、インターフェロンガンマ、FSH、EPO、GM−CSF、G−CSF、IL−10、グルカゴン、GRF、それらの類似体及び製薬学的に許容できるそれらの塩からなる群から選択される。
【0025】
1つの好ましい態様において、物質はPTH(1〜34)を含んでなり、そして対イオンはクエン酸、酒石酸、リンゴ酸、塩酸、グリコール酸及び酢酸の群から選択される対イオンの粘度向上混合物である。
【0026】
本発明は更に、角質層を通って皮膚の、下に横たわる表皮及び真皮層中に貫通するようになっている複数のマイクロプロジェクションを包含するマイクロプロジェクション部材を有する経皮送達装置に関し、そこでマイクロプロジェクション部材が更に生物学的活性物質を包含し、コーティングが少なくとも1種の粘度向上対イオンを有する調製物から形成される。
【0027】
更なる特徴物及び利点は、付記の図面に具体的に示され、そしてそこで類似の参考文字が概括的に図面全体を通して同様な部品又は要素を表わす、本発明の好ましい態様の以下の及び更に特定の説明から明白になるであろう。
【0028】
発明の詳細な説明
本発明を詳細に説明する前に、物質、方法又は構造物はもちろん変動する可能性があるので、本発明は特に例示された物質、方法又は構造物に限定されないことを理解しなければならない。従って、本明細書に記載されたものと類似した又は等しい多数の物質及び方法を本発明の実施に使用することができるが、本明細書には好ましい物質及び方法が記載される。
【0029】
更に、本明細書で使用される用語は本発明の特定の態様を説明する目的のためだけのものであり、限定する意図はもたれないことを理解しなければならない。
【0030】
別に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術的及び科学的用語は本発明が関与する当業者により一般に理解されるものと同一の意味を有する。
【0031】
更に、本明細書に引用されるすべての刊行物、特許及び特許出願物は上記又は下記に拘わらず、それら全体を引用により本明細書中に取り入れられている。
【0032】
最後に、本明細書及び付記の請求の範囲中に使用される単数形「a」、「an」及び「the」には文脈が明白に他の場合を指定しない限り、複数の指定物が含まれる。従って例えば、「an active agent」に対する意味は2種以上のこのような物質を包含し;「a microprojection」は2種以上のこのようなマイクロプロジェクションを包含する、等である。
【0033】
定義
本明細書で使用される用語「経皮的」は局所又は全身治療のための皮膚中へのそして/又は皮膚を通る物質の送達を意味する。
【0034】
本明細書で使用される用語「経皮流量」は経皮送達の速度を意味する。
【0035】
本明細書で使用される用語「生物学的活性物質」は治療的に有効量を投与される時に薬理学的に有効な薬剤を含有する物質の組成物又は混合物を表わす。本発明の現在好ましい物質はペプチド及びタンパク質を含んでなる。このような活性物質の例には、限定されずに、黄体ホルモン放出ホルモン(LHRH)、LHRH類似体(ゴセレリン、ロイプロリド、ブセレリン、トリプトレリン、ゴナドレリン、及びナプファレリン、メノトロピン(ウロフォリトロピン(FSH)及びLH)のような)、バソプレッシン、デスモプレッシン、コスチコトロピン(ACTH)、ACTH(1〜24)のようなACTH類似体、カルシトニン、副甲状腺ホルモン(PTH)、バソプレッシン、デアミノ[Val4,D−Arg8]アルギニンバソプレッシン、インターフェロンアルファ、インターフェロンベータ、インターフェロンガンマ、エリスロポエチン(EPO)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、インターロイキン−10(IL−10)及びグルカゴンが包含される。本発明の方法における物質の調製物中には1種を超える物質を取り入れることができ、そして用語「活性物質」の使用は3種以上のこのような物質又は薬剤の使用を全く排除しないことを理解しなければならない。
【0036】
本明細書で使用される用語「生物学的活性物質」は更に、ワクチン又は他の免疫学的活性物質又は、免疫学的活性物質の産生の引き金を引くことができ、そして免疫学的に有効量を投与される時に直接又は間接的に免疫学的に有効である物質を含有する物質の組成物又は混合物を表わす。
【0037】
本明細書で使用される用語「ワクチン」はそれらに限定はされないが、インフルエンザワクチン、ライム病ワクチン、狂犬病ワクチン、ハシカワクチン、オタフクカゼワクチン、水痘ワクチン、天然痘ワクチン、肝炎ワクチン、百日咳ワクチン及びジフテリアワクチン、組み換えタンパク質ワクチン、DNAワクチン及び治療的癌ワクチンを包含する通常の及び/又は市販のワクチンを表わす。従って用語「ワクチン」は限定されずに、タンパク質、リポタンパク質、シトメガロウイルス、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、ヒト乳頭腫ウイルス、風疹ウイルス及び水痘ウイルスのような弱毒化又は死滅ウイルス、百日咳菌、破傷風菌、ジフテリア菌、A群連鎖球菌、レジオネラ・ニューモフィラ、ナイセリア髄膜炎菌、緑膿菌、肺炎連鎖球菌、梅毒トレポネーマ及びコレラ菌のような弱毒化又は死滅バクテリア、の形態の抗原並びにそれらの混合物を包含する。
【0038】
用語「生物学的有効量」又は「生物学的有効速度」は生物学的活性物質が製薬学的に活性な物質であり、そして所望される治療的な、しばしば有益な結果をもたらすために必要な薬理学的に活性な物質の量又は速度を表わす時に使用されることとする。コーティング中に使用される物質の量は所望の治療的結果を達成するための治療的有効量の物質を送達するために要する量であろう。
【0039】
実際に、これは、送達される特定の生物学的活性物質、送達部位、処置されている状態の重篤度、所望される治療効果並びにコーティングから皮膚組織中への物質の送達に対する溶解及び放出動態に応じて様々に異なるであろう。本明細書に記載された方法に従ってマイクロプロジェクション中に取り入れられ、経皮送達される生物学的活性物質の治療的に有効量の正確な範囲を規定することは実際的ではない。
【0040】
本明細書で使用される用語「マイクロプロジェクション」は生存動物、特に哺乳動物そして更に特にはヒトの皮膚の角質層を通ってその下の表皮層又は表皮と真皮層中に穿孔又は切開するようになっている貫通要素を表わす。
【0041】
本発明の1つの態様において、貫通要素は1000ミクロン未満のプロジェクションの長さを有する。更なる態様において、貫通要素は500ミクロン未満の、より好ましくは250ミクロン未満のプロジェクションの長さを有する。マイクロプロジェクションは典型的には約5〜50ミクロンの幅及び厚さを有する。マイクロプロジェクションは針、中空の針、刃、ピン、パンチ及びそれらの組み合わせ物のような異なる形状に形成することができる。
【0042】
本明細書で使用される用語「マイクロプロジェクションアレー」は角質層を貫通するためにアレーに配列された複数のマイクロプロジェクションを表わす。マイクロプロジェクションアレーは薄いシートから複数のマイクロプロジェクションをエッチング又はパンチし、そしてシートの平面からマイクロプロジェクションを折るか又は曲げて、図1に示すような形態を形成することにより形成することができる。マイクロプロジェクションアレーはまた、Zuck、米国特許第6,050,988号明細書に開示されたような1又は複数の各ストリップの縁に沿ってマイクロプロジェクションを有する1又は複数のストリップを形成することによるような他の知られた方法で形成することができる。マイクロプロジェクションアレーは乾燥した薬理学的活性物質を保持する中空の針を包含することができる。
【0043】
シート又は部材の領域に対する言及及びシート又は部材の領域に関する何かの特性に対する言及はシートの外周又は境界により囲まれた領域に関する。
【0044】
用語「溶液」又は「調製物」は完全に溶解された成分の組成物のみならずまた、それらに限定はされないが、タンパク質のウイルスの粒子、不活性ウイルス及び分割ビリオンを
包含する成分の懸濁物をも包含することとする。
【0045】
本明細書で使用される用語[パターンコートする」はマイクロプロジェクションの選択された領域上に物質をコートすることを意味する。2種以上の物質を単一のマイクロプロジェクションアレー上にパターンコートすることができる。パターンコーティングはミクロピペット処理及びインクジェットコートのような知られたミクロ−流体分配法を使用してマイクロプロジェクションに適用することができる。
【0046】
前記のように、本発明は、調製物が、複数の角質層貫通マイクロプロジェクション上のコートを容易にするために高められた粘度を有する、治療を要する患者に対する生物学的活性物質の調製物を提供する。
【0047】
本発明に従うと、生物学的活性物質の調製物の粘度は対イオンの添加により高められる。物質は好ましくは、ペプチド又はタンパク質を含んでなる。対イオンとのペプチド又はタンパク質の相互作用が二次結合又は水素結合の形成により粘度の増加をもたらす。使用される対イオンは調製物の粘度に対して著しい増加を有するためにごく少量を必要とする。前記の浸漬コート法を使用するコート性のためには、調製物は特定の粘度範囲内になければならない。本発明で好ましい粘度は約20〜200センチポアズ(cp)の範囲内にある。例えば、約20cp未満又は約200cpを超える、許容できない粘度を有する調製物を使用するとコーティングの高いばらつきをもたらす。
【0048】
好ましい態様において、物質は調製物のpHにおいて正の電荷を有し、そして粘度向上対イオンは少なくとも2種の酸性のpKaを有する酸を含んでなる。適する酸にはそれらに限定はされないが、マレイン酸、リンゴ酸、マロン酸、酒石酸、アジピン酸、シトラコン酸、フマル酸、グルタル酸、イタコン酸、メグルトール、メサコン酸、コハク酸、シトラマル酸、タルトロン酸、クエン酸、トリカルバリル酸、エチレンジアミン四酢酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、炭酸、硫酸及びリン酸が包含される。
【0049】
他の好ましい態様において、物質は調製物のpHにおいて負の電荷を有し、そして粘度向上対イオンは少なくとも2種の塩基性のpKaを有する塩基を含んでなる。適する塩基にはそれらに限定はされないが、リシン、ヒスチジン、アルギニン、水酸化カルシウム及び水酸化マグネシウムが包含される。
【0050】
もう1つの好ましい態様は、物質が調製物のpHにおいて正の電荷を有し、そして少なくとも第1の対イオンが少なくとも2種の酸性のpKaを有する酸である、対イオンの粘度向上混合物に関する。第2の対イオンは1種又は複数のpkaをもつ酸である。適する酸の例にはそれらに限定はされないが、塩酸、臭化水素酸、硝酸、硫酸、マレイン酸、リン酸、ベンゼンスルホン酸、メタンスルホン酸、クエン酸、コハク酸、グリコール酸、グルコン酸、グルクロン酸、乳酸、リンゴ酸、ピルビン酸、酒石酸、タルトロン酸、フマル酸、酢酸、プロピオン酸、ペンタン酸、炭酸、マロン酸、アジピン酸、シトラコン酸、レブリン酸、グルタル酸、イタコン酸、メグルトール、メサコン酸、シトラマル酸、クエン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、トリカルバリル酸及びエチレンジアミン四酢酸が包含される。
【0051】
もう1つの好ましい態様は、物質が調製物のpHにおいて負の電荷を有し、そして第1の対イオンが少なくとも2種の塩基性のpKaを有する塩基である、対イオンの粘度向上混合物に関する。第2の対イオンは1種又は複数のpkaをもつ塩基である。適する塩基の例にはそれらに限定はされないが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トロメタミン、リシン、ヒスチジン、アルギニン、メチルグルカミン、グルコ
サミン、アンモニア及びモルホリンが包含される。
【0052】
概括的に、本発明の前記の態様において、対イオン(又は対イオンの混合物)の量は生物学的活性物質のネットの電荷を中和しなければならない。
【0053】
対イオン又は対イオンの混合物は調製物のpHにおいて物質上に存在するネットの電荷を中和するのに必要な量で存在する。pHを調整し、適当な緩衝能を提供するためには、過剰な対イオン(遊離酸として又は塩としての)をペプチドに添加することができる。
【0054】
生物学的活性物質に対する対イオン又は対イオンの混合物間のネット電荷の比率は好ましくは、1〜20である(例えば、生物学的活性物質上に存在する各ネット電荷に対し、少なくとも1〜20ネット電荷までの対イオン又は対イオンの混合物が存在する)。より好ましくは、生物学的活性物質に対する対イオン(又は対イオンの混合物)間のネット電荷の比率は1〜10である。更により好ましくは、生物学的活性物質に対する対イオン(又は対イオンの混合物間)のネット電荷の比率は1〜5である。
【0055】
本発明の1つの態様において、生物学的活性物質はACTH(1〜24)、カルシトニン、デスモプレッシン、LHRH、ゴセレリン、ロイプロリド、ブセレリン、トリプトレリン、他のLHRH類似体、PTH、PTH(1〜34)、バソプレッシン、デアミノ[val4,D−Arg8]アルギニンバソプレッシン、インターフェロンアルファ、インターフェロンベータ、インターフェロンガンマ、FSH、EPO、GM−CSF、G−CSF、IL−10、グルカゴン、GRF、それらの類似体及び製薬学的に許容できるそれらの塩からなる群から選択される。
【0056】
好ましい態様において、物質はPTH(1〜34)を含んでなり、そして対イオンはクエン酸、酒石酸、リンゴ酸、塩酸、グリコール酸及び酢酸を含んでなる群から選択される対イオンの粘度向上混合物である。
【0057】
本発明はまた、生物学的活性物質の調製物を提供する工程、生物学的活性物質の治療的有効濃度を維持しながら対イオンを添加することにより調製物の粘度を高める工程及びマイクロプロジェクションに調製物を適用する工程を含んでなる、複数の角質層貫通マイクロプロジェクションを有する経皮送達装置に生物学的活性物質のコーティングを適用する方法を含んでなる。対イオンは好ましくは、約20〜200cpの範囲内の粘度を達成するように調製物に添加される。
【0058】
本発明の方法は好ましくは、約10ミクロン未満のコーティングの厚さをもたらす。
【0059】
本発明に従うと、物質の調製物はマイクロプロジェクション経皮送達装置に好ましくは均一なコーティングを適用するために使用される。マイクロプロジェクションは角質層を通り、下に横たわる表皮層又は表皮及び真皮層中へ貫通するようになっている。適用される調製物はマイクロプロジェクション上で乾燥されて、その上に生物学的活性物質を含有する乾燥したコーティングを形成する。皮膚の角質層を貫通する時に、物質含有コーティングが体液(細胞内液及び、間質液のような細胞外液)により溶解され、局所的又は全身治療のために皮膚中に放出される。
【0060】
物質含有コーティングの溶解及び放出の動態は、生物学的活性物質の性状、コート法、コーティングの厚さ及びコーティングの組成物(例えば、コーティング調製物の添加剤の存在)を包含する多数のファクターに左右されるであろう。放出動態のプロファイルに応じて、長期間にわたり(例えば、約8時間までも)コートされたマイクロプロジェクションを皮膚と貫通関係に維持することが必要かも知れない。これは接着剤を使用して皮膚に
マイクロプロジェクション部材を固定するか又はその全体を引用により取り込まれている国際公開第97/48440号パンフレットに記載されたような固定されたマイクロプロジェクションを使用することにより実施することができる。
【0061】
図1は本発明とともに使用のための角質層貫通マイクロプロジェクション部材の1態様を表わす。図1は複数のマイクロプロジェクション10を有する部材の一部を示す。マイクロプロジェクション10は開口部14を有するシート12から実質的に90°の角度で延伸する。シート12はシート12の裏打ちを包含する送達パッチに取り入れることができ、そして更に皮膚にパッチを接着するための接着剤を包含することができる。本態様において、マイクロプロジェクションは薄い金属シート12から複数のマイクロプロジェクション10をエッチング又はパンチし、そしてシートの平面からマイクロプロジェクション10を折り出すことにより形成される。
【0062】
図示されたパンチを構成するために好ましい材料はステンレス鋼及びチタンのような金属である。金属のマイクロプロジェクション部材は、Trautman等の米国特許第6,083,196号明細書、Zuckの米国特許第6,050,988号明細書及びDaddona等の米国特許第6,091,975号明細書に開示されており、それらの開示は引用により本明細書に取り入れられている。
【0063】
本発明とともに使用することができる他のマイクロプロジェクション部材はシリコンチップエッチング法を使用してシリコンをエッチングすることにより、又はエッチングされた微小金型を使用してプラスチックを成型することにより形成される。シリコン及びプラスチックのマイクロプロジェクション部材はGodshall等の米国特許第5,879,326号明細書に開示されており、その開示は引用により本明細書に取り入れられている。
【0064】
図2は、好ましくは、少なくとも1種の生物学的活性物質及び場合により血管収縮剤を含有するコーティング16を伴うマイクロプロジェクション10を有するマイクロプロジェクション部材を表わす。コーティング16はマイクロプロジェクション10を一部又は全体を覆うことができる。例えば、コーティングはマイクロプロジェクション上の乾燥パターンコーティング18であることができる。コーティングはマイクロプロジェクションが形成される前又は後に適用することができる。
【0065】
本発明に従うと、本発明の発明的調製物は種々の知られた方法によりマイクロプロジェクション10上にコートすることができる。1つのこのような方法は浸漬コート法である。浸漬コート法はマイクロプロジェクションをコート溶液中に一部又は全体を浸漬することによりマイクロプロジェクションをコートする手段として説明することができる。あるいはまた、装置全体をコート溶液中に浸漬することができる。好ましくは、皮膚を貫通するマイクロプロジェクション部材の部分のみがコートされる。
【0066】
前記の部分的浸漬法の使用により、コーティングをマイクロプロジェクションの先端のみに限定することができる。更にマイクロプロジェクションの先端にコーティングを限定するローラーコート機構が存在する。この方法は2001年3月16日出願の米国特許仮出願第60/276,762号明細書に記載されており、その全体が引用により本明細書に取り入れられている。
【0067】
他のコート法にはマイクロプロジェクション上にコート溶液を噴霧する工程が包含される。噴霧はコート用組成物のエアゾール懸濁液の形成を包含することができる。好ましい態様において、約10〜200ピコリッターの液滴度を有するエアゾール懸濁液がマイクロプロジェクション上に噴霧され、次に乾燥される。
【0068】
もう1つの態様において、パターンコーティング18として図2に示すように、非常に少量のコート用溶液をマイクロプロジェクション10上にメッキすることができる。パターンコーティング18はマイクロプロジェクションの表面上にメッキ液を配置するために浸漬システムを使用して適用することができる。メッキ液の量は好ましくは、0.5〜20ナノリッター/マイクロプロジェクションの範囲内にある。適した、正確に計量される液体分配装置の例は米国特許第5,916,524号、第5,743,960号、第5,741,554号及び第5,738,728号明細書に開示されており、それらの開示は引用により本明細書に全体を取り入れられている。
【0069】
マイクロプロジェクションのコート用溶液はまた、知られたソレノイド弁分配装置、場合による流体動力手段(fluid motive means)及び概括的に電界の使用により制御される配置手段を使用するインクジェット法を使用して適用することができる。印刷工業からの他の液体分配法又は当該技術分野で知られた同様な液体分配法を本発明のパターンコーティングを適用するために使用することができる。
【0070】
所望のコーティングの厚さはシートの単位面積当たりのマイクロプロジェクションの密度並びにコート用組成物の粘度及び濃度並びに選択されるコート法に左右される。より厚いコーティングは角質層の貫通時にマイクロプロジェクションを捨て去る傾向をもつので、コーティングの厚さは好ましくは、50ミクロン未満、より好ましくは、25ミクロン未満でなければならない。概括的にコーティングの厚さはコートされたマイクロプロジェクション上で測定される平均のコーティングの厚さとして言及される。
【0071】
前記のように、1つの態様において、コーティングの厚さは好ましくは、マイクロプロジェクションの表面から測定されて10ミクロン未満である。より好ましくは、コーティングの厚さは約1〜10ミクロンの範囲内にある。
【0072】
本発明に使用される活性物質はマイクロプロジェクションアレーのすべてのマイクロプロジェクション上にコートされた物質の総量が1ミクログラム〜1ミリグラムの範囲内にあることを必要とする。
【0073】
この範囲内の量を10cmまでの面積及び1000個までのマイクロプロジェクション/cmのマイクロプロジェクション密度をもつシート12を有する、図1に示したタイプのマイクロプロジェクションアレー上にコートすることができる。
【0074】
前記のように、本発明のコーティングは少なくとも1種の生物学的活性物質及び少なくとも1種の粘度向上対イオンを含んでなる。対イオンの添加は物質の調製物の粘度を増加して、マイクロプロジェクションの経皮送達装置上のコーティングのコンシステンシーを改善することが見いだされた。
【0075】
更に、好ましくは、マイクロプロジェクションアレー10はアプリケーター、例えば片寄った(例えば、バネに駆動される)衝撃アプリケーターの使用により患者に再現可能にそして均一に適用される。このような装置はTrautman等の2001年10月12日出願の米国特許出願第09/976,673号明細書に記載されており、その開示は引用により本明細書に取り入れられている。もっとも好ましくは、コートされたマイクロプロジェクションアレーは10msec以内にマイクロプロジェクションアレー1cm当たり少なくとも0.05ジュールの衝撃で適用される。
【実施例】
【0076】
以下の実施例は当業者に本発明をより明白に理解し、実施させるために提供される。そ
れらは本発明の範囲を限定するものと考えるべきではなく、単にそれらの代表として説明されるものと考えるべきである。
【0077】
実施例は粘度を高めるためのペプチド又はタンパク質の物質を含む弱酸の使用を示す。弱酸のアニオンと正に荷電したペプチド又はタンパク質との相互反応は明らかに、二次結合、例えば、水素結合の形成をもたらし、それが溶液の粘度の増加をもたらす。酸性基の数が多いほど、アニオンとペプチド又はタンパク質の間に形成される二次結合の数が多く、従って粘度の増加が大きい。従って、一酸、二酸、三酸及び四酸を比較すると、理論的粘度向上能が増加する。
【0078】
副甲状腺ホルモン(PTH)は石灰化した骨マトリックスの再吸収を高めることにより腎臓中のカルシウム再吸収の刺激により血清中のカルシウムのホメオスタシスを制御する84個のアミノ酸のポリペプチドである。更にそれはまた、骨形成過程を刺激する。ホルモン活性に寄与するのは最初の(N−末端の)34個のアミノ酸である。その結果、最初の34個のアミノ酸の、PTH(1〜34)の合成的調製が評価された。
【0079】
これらの実験で種々の弱酸バッファーを幾つかのPTH(1〜34)調製物中に取り入れた。蔗糖とともにPTH(1〜34)アセテートを包含する対照調製物も調製した。実験は一酸、二酸及び三酸の種々の混合物によりPTH(1〜34)に与えられた物理化学的特性並びに2〜8℃で48時間の期間にわたる溶液調製物の安定度を研究する。PTH(1〜34)調製物はpH5.2に緩衝された。
【0080】
表1は使用された原料のロット番号及び製造会社を与える。表2は溶液の安定度の研究のために製造された8種の調製物を提供する。調製物は1.5mlのポリプロピレンのエッペンドルフ遠心分離管中にPTH(1〜34)20mgを分配することにより調製した。もう1つの1.5mlのポリプロピレンのエッペンドルフ遠心分離管に適当量の滅菌水、バッファー(調製に必要な場合)、蔗糖(調製に必要な場合)及びポリソルベート20の溶液を充填した。賦形剤を含有する遠心分離バイアルを放置溶解させ、Fischer Scientificのミニ遠心分離装置、モデルMicroVを利用して7000rpmで1分間遠心分離した。賦形剤溶液をPTH(1〜34)を含有する遠心分離バイアル中に分配し、それを次に回転装置、Glas−Col、モデルNo.099A RD4512中に入れた。賦形剤溶液によるPTH(1〜34)の溶解は2〜8℃で実施した。
【0081】
PTH(1〜34)溶液の調製物をFischer Scientificのミニ遠心分離装置、モデルMicroVを利用して7000rpmで2分間遠心分離した。溶液の調製物の粘度測定をBrookfield粘度計、モデルCAP2000を使用して実施した。すべての粘度測定を0.45°の円錐角及び半径1.511cmをもつ円錐及びプレート幾何学法を使用して実施した。粘度測定中、ずり速度を2667s−1に設定し、温度を10℃に維持した。粘度をCAPCALCTMソフトウエアにより計算した。粘度測定はPTH(1〜34)溶液の調製物70μlを利用した。
【0082】
すべての調製物中の酸化によるPTHの分解を、安定度を示す逆相高速液体クロマトグラフィー(RP−HPLC)により測定した(215nmにおけるUV検出)。酸化PTHを55℃で維持されたZorbax 300 SB−C8逆相カラム(4.6mmID×150mm、3.5μm)(Agilent Technologies,Inc.CA,米国)を使用して天然の(native)PTHから分離した。最終クロマトグラフィー条件は溶媒A:水中0.1%トリフルオロ酢酸及び溶媒B:アセトニトリル中0.09%のトリフルオロ酢酸を使用する勾配溶離を伴った。ポンプの流速は1mL/分であった。可溶性凝集物(共有結合の二量体及びそれより高次の)を0.2MのNaCl及びアセトニトリル(70/30容量比)中0.1%トリフルオロ酢酸からなる定組成移動相によるTCK−ゲル G2000 SWXLカラム(7.9mmID×300mm、5μm)(Toso Haas,日本)を使用して0.5mL/分の流速でサイズ排除(exclusion)高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により測定した(214nmでUV検出)。双方のアッセイのためのクロマトグラフィーを二重ポンプ、定温自動採取装置、定温カラムコンパートメント及び複数波長DAD/UV検出装置を備えたAgilent 1100シリーズHPLCシステム(Agilent Technologies,Inc.,CA、米国)で実施した。データを収集し、Turbochrom Client Server Software,バージョン6.2(Perkin Elmer,Inc)を使用して分析した。
【0083】
【表1】

【0084】
【表2】

【0085】
調製物の粘度の結果は表3に示す。クエン酸及びリンゴ酸に緩衝された調製物は対照の調製物(ロット番号7528069A)に比較して最大の粘度向上を示した。三酸のクエン酸が最大の粘度をもつ調製物をもたらしたことを注目することは興味深い。表3に与えた結果に基づいて、弱酸バッファーの添加後の粘度向上の傾向は三酸から二酸から一酸である。
【0086】
【表3】

【0087】
恐らく、弱酸のバッファーの粘度の増加は弱酸のアニオンの、正に荷電したPTHとの相互反応により達成される。これは二次結合、例えば、H−結合の形成をもたらし、それが溶液の粘度の増加をもたらす。酸性基の数が多いほど、アニオンとPTH間に形成される二次結合の数が多く、従って粘度向上が大きい。
【0088】
PTH調製物の全体の安定性を測定し、結果を図3〜5に示す。酸化PTH(1〜34)の総量及び調製物の純度はRPHPLCにより測定され、結果をそれぞれ図3及び4に示す。
【0089】
図3から結果のばらつきの範囲内で、48時間にわたり酸化生成物の総量は著しくは増加せず、同様にPTH(1〜34)溶液の調製物の図4に示した純度は研究の経過期間中一定に留まったことが明白である。凝集及び共有結合の高分子塊生成物の形成に対するPTH(1〜34)溶液の調製物の傾向を測定するためにSECが使用された。結果は図5に要約され、それはPTH(1〜34)の調製物が、2〜8℃に貯蔵されると、48時間にわたり目立つほどには凝集しなかったことを示す。
【0090】
上記のデータは、クエン酸/酢酸、リンゴ酸/酢酸、酒石酸/酢酸及び塩酸/酢酸の対イオン混合物が対照調製物に対してhPTH(1〜34)の粘度を増加することを示す。酸化PTH(1〜34)生成物の総量、純度及び凝集は研究の全工程を通して全調製物に対して均一に留まった。
【0091】
本発明の精神及び範囲から逸脱せずに、当業者は本発明を種々の用途及び条件に適合させるために本発明に種々の変更及び修正を実施することができる。従ってこれらの変更及び修正は適切に、同様に、以下の請求の範囲の同等物の完全な範囲内に入ることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明の実施に適するマイクロプロジェクションアレーの1つの態様の一部の透視図である。
【図2】マイクロプロジェクション上にメッキされたコーティングを伴う図1に示したマイクロプロジェクションアレーの透視図である。
【図3】時間の関数としての本発明の種々の組成物の酸化を示すグラフである。
【図4】時間の関数としての本発明の種々の組成物の純度を示すグラフである。
【図5】時間の関数としての本発明の種々の組成物の凝集を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物学的活性物質及び粘度向上対イオンの調製物を含んでなり、かつ、該調製物が治療的有効濃度の該生物学的活性物質を有する、角質層貫通マイクロプロジェクションを有する経皮送達装置をコートするための組成物。
【請求項2】
調製物が約20cp〜約200cpの範囲内の粘度を有する請求項1の組成物。
【請求項3】
調製物が第1のpH値を有し、生物学的活性物質が該調製物のpHにおいて正の電荷を有し、そして粘度向上対イオンが第1の酸を含んでなる請求項1の組成物。
【請求項4】
第1の酸が少なくとも2種の酸性のpKa値を有する請求項3の組成物。
【請求項5】
第1の酸がマレイン酸、リンゴ酸、マロン酸、酒石酸、アジピン酸、シトラコン酸、フマル酸、グルタル酸、イタコン酸、メグルトール、メサコン酸、コハク酸、シトラマル酸、タルトロン酸、クエン酸、トリカルバリル酸、エチレンジアミン四酢酸、炭酸、硫酸及びリン酸からなる群から選択される請求項4の組成物。
【請求項6】
粘度向上対イオンが更に第2の酸を包含する請求項3の組成物。
【請求項7】
第2の酸が少なくとも1種の酸性のpKa値を有する請求項6の組成物。
【請求項8】
第2の酸が塩酸、臭化水素酸、硝酸、スルホン酸、硫酸、マレイン酸、リン酸、ベンゼンスルホン酸、メタンスルホン酸、クエン酸、コハク酸、グリコール酸、グルコン酸、グルクロン酸、乳酸、リンゴ酸、ピルビン酸、酒石酸、タルトロン酸、フマル酸、酢酸、プロピオン酸、ペンタン酸、炭酸、マロン酸、アジピン酸、シトラコン酸、レブリン酸、グルタル酸、イタコン酸、メグルトール、メサコン酸、シトラマル酸、クエン酸、トリカルバリル酸及びエチレンジアミン四酢酸からなる群から選択される請求項7の組成物。
【請求項9】
調製物が第2のpH値を有し、生物学的活性物質が該調製物の第2のpH値において負の電荷を有し、そして粘度向上対イオンが第1の塩基を含んでなる請求項1の組成物。
【請求項10】
第1の塩基が少なくとも2種の塩基性のpKa値を有する請求項9の組成物。
【請求項11】
第1の塩基がリシン、ヒスチジン、アルギニン、水酸化カルシウム及び水酸化マグネシウムからなる群から選択される請求項10の組成物。
【請求項12】
粘度向上対イオンが更に第2の塩基を包含する請求項9の組成物。
【請求項13】
第2の塩基が少なくとも1種の塩基性のpKa値を有する請求項12の組成物。
【請求項14】
第2の塩基が水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トロメタミン、リシン、ヒスチジン、アルギニン、メチルグルカミン、グルコサミン、アンモニア及びモルホリンからなる群から選択される請求項13の組成物。
【請求項15】
生物学的活性物質の電荷を中和するのに十分な量の粘度向上対イオンを含んでなる請求項1の組成物。
【請求項16】
生物学的活性物質がACTH(1〜24)、カルシトニン、デスモプレッシン、LHR
H、ゴセレリン、ロイプロリド、ブセレリン、トリプトレリン、他のLHRH類似体、PTH、PTH(1〜34)、バソプレッシン、デアミノ[val4,D−Arg8]アルギニンバソプレッシン、インターフェロンアルファ、インターフェロンベータ、インターフェロンガンマ、FSH、EPO、GM−CSF、G−CSF、IL−10、グルカゴン、GRF、それらの類似体及び製薬学的に許容できるそれらの塩からなる群から選択される請求項の組成物。
【請求項17】
粘度向上対イオンがクエン酸、酒石酸、リンゴ酸、塩酸、グリコール酸及び酢酸からなる群から選択される1種又は複数の酸を含んでなる請求項16の組成物。
【請求項18】
生物学的活性物質がPTH(1〜34)を含んでなる請求項17の組成物。
【請求項19】
被験体の角質層を貫通するようになっている複数のマイクロプロジェクションを有するマイクロプロジェクション部材を含んでなり、かつ、該マイクロプロジェクション部材が少なくとも1種の生物学的活性物質を有する生物学的適合性のコーティングを包含し、該コーティングが少なくとも1種の粘度向上対イオンを有する調製物から形成される、被験体に生物学的活性物質を経皮送達するための装置。
【請求項20】
調製物が約20〜200cpの範囲内の粘度を有する請求項19の装置。
【請求項21】
生物学的適合性コーティングが約10ミクロン未満のコーティングの厚さを有する請求項19の装置。
【請求項22】
調製物が第1のpH値を有し、そして生物学的活性物質が該調製物の第1の値において正の電荷を有する請求項19の装置。
【請求項23】
調製物が少なくとも2種の酸性のpKa値を有する第1の粘度向上対イオンを包含する請求項22の装置。
【請求項24】
調製物が第2の粘度向上対イオンを包含し、かつ、該第2の粘度向上対イオンが少なくとも1種の酸性のpKa値を有する請求項23の装置。
【請求項25】
調製物が第2のpH値を有し、そして生物学的活性物質が該調製物の第2のpH値において負の電荷を有する請求項19の装置。
【請求項26】
調製物が少なくとも2種の塩基性のpKa値を有する第1の粘度向上対イオンを包含する請求項25の装置。
【請求項27】
調製物が第2の粘度向上対イオンを包含し、かつ、該第2の粘度向上対イオンが少なくとも1種の塩基性のpKa値を有する請求項26の装置。
【請求項28】
第1の粘度向上対イオンが生物学的活性物質の電荷を中和するのに十分な活性を有する請求項23の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2007−511508(P2007−511508A)
【公表日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−539538(P2006−539538)
【出願日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【国際出願番号】PCT/US2004/035053
【国際公開番号】WO2005/051456
【国際公開日】平成17年6月9日(2005.6.9)
【出願人】(503073787)アルザ・コーポレーシヨン (113)
【Fターム(参考)】