説明

経編シート巻物、経編シート巻物の梱包体および経編シート巻物の製造方法

【課題】補修補強用繊維シートとして、形態安定性、取扱性、柔軟性、賦形性(特にシートの幅方向の賦形性)、マトリックス樹脂含浸性および補強効果に優れるだけでなく、繊維シート巻物としての形態安定性、取扱性にも優れる経編シート巻物、経編シート巻物の梱包体および経編シート巻物の製造方法を提供する。
【解決手段】地編糸が3〜10コースの鎖編み組織を形成し、たて方向に炭素繊維糸条が挿入され、よこ挿入糸が隣り合う鎖編組織の間を行き来する頻度が2〜10コースの間に1回であり、経編シートがよこ方向に無外力で静置した静置シート幅W1と、よこ方向に外力を与えた時の最大シート幅W0との比W1/W0=0.60〜0.95であり、かつ、巻物における巻回シート幅W2と、最大シート幅W0との比W2/W0=0.85〜1.00である、経編シート巻物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物や地盤等の被補修補強体の補修補強材として用いられる強化繊維糸条である炭素繊維糸条と地編糸とから構成される経編シートを巻回した巻物およびその梱包体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
橋脚、トンネル、煙突や建物などのコンクリート構造物は、長年の使用による劣化や、耐震基準の見直しなどによって、補修補強や剥落防止の措置が必要となってきている。
【0003】
このようなコンクリート構造物を補修補強する代表的な工法として、繊維シート工法が用いられている。この繊維シート工法とは、現場で繊維シートに樹脂を含浸・固化させ、いわゆる繊維強化プラスチック(FRP)とした複合材料で補修補強したり、剥落防止したりする工法である。繊維シートでコンクリート構造物を補修補強や剥落防止するに当たっては、FRPのマトリックス樹脂となる樹脂(例えば、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂およびアクリル系樹脂など)などを繊維シートに塗布・含浸し、被補修補強体上に積層し、ローラなどで樹脂の分布が均一になるように樹脂を繊維シートに含浸させ複合材料とする。また、モルタル、コンクリートおよびアスファルトなどのマトリックスを繊維シートに含浸し固化させた複合材料が用いられる場合もある。
【0004】
かかる繊維シート工法に用いられる繊維シートとしては、例えば、織物、編物およびメッシュ状布帛などが挙げられる(例えば、特許文献1〜9)。中でも、集束して棒状または長手方向に幅変動を持たせた形状にて用いられる場合には(例えば、特許文献10、11)、編物が好適に使用される。
【0005】
例えば、特許文献12〜15には、たて方向に編成された経編地に、所定間隔にて複数本の強化繊維糸条を経挿入した経編シートの提案がある。何れも、施工における形態安定性、賦形性、マトリックス樹脂含浸性、補強効果のそれぞれを鑑みて、種々の態様が提案されている。
【0006】
一方、施工現場においては、補修補強を要する構造体によって、その使用長、使用形態も様々であり、施工者は状況に応じた繊維シート(長さ、幅、形状、など)を、その場で、その都度、作製しなければない。そのため、繊維シートの大本である長尺繊維シート体の取扱性が、作業性(時間、工数)や、施工性に大きく影響する。また、前記長尺繊維シート体としては、巻物の形態にて扱われることが殆どであるので、繊維シート巻物としての取扱性が重要となってくる。
【0007】
しかしながら、上述した特許文献12〜15をはじめとした従来の技術では、繊維シートその物の性能は向上されても、繊維シート巻物としての性能については考慮されてこなかった。すなわち、被補修補強体の補修補強材に用いられる繊維シートとしての性能を満足し、かつ、施工作業における繊維シート巻物として取扱性が良く、作業性(時間、工数)や、施工性を満足できる技術が渇望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実開昭63−042195号公報
【特許文献2】実開平02−106477号公報
【特許文献3】特開平03−028155号公報
【特許文献4】特開昭64−040632号公報
【特許文献5】特開平10−102792号公報
【特許文献6】特開2001−226849号公報
【特許文献7】特開2001−329466号公報
【特許文献8】特開2002−020953号公報
【特許文献9】特開2006−225812号公報
【特許文献10】特開平09−158492号公報
【特許文献11】特開2004−027728号公報
【特許文献12】特開平06−101143号公報
【特許文献13】特開平10−037051号公報
【特許文献14】特開2004−360106号公報
【特許文献15】特開2006−124945号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、上述した問題点を解決し、補修補強用繊維シートとして、形態安定性、取扱性、柔軟性、賦形性(特にシートの幅方向の賦形性)、マトリックス樹脂含浸性および補強効果に優れるだけでなく、繊維シート巻物としての形態安定性、取扱性にも優れる経編シート巻物、経編シート巻物の梱包体および経編シート巻物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を達成するため、本発明は以下の構成を採用する。すなわち、
(1)地編糸が3〜10コース/cmの鎖編組織を形成し、前記鎖編組織にたて方向に挿入されるたて挿入糸として炭素繊維糸条が挿入され、隣り合う前記鎖編組織の間を行き来するよこ方向に挿入されるよこ挿入糸により前記鎖編組織を一体化した経編シートを巻回した経編シート巻物であって、前記隣り合う鎖編組織の間を行き来する頻度が2〜10コースの間に1回であり、前記経編シートがよこ方向に無外力で静置した静置シート幅W1と、よこ方向に外力を与えた時の最大シート幅W0との比W1/W0=0.60〜0.95であり、かつ、巻物における巻回シート幅W2と、最大シート幅W0との比W2/W0=0.85〜1.00である、経編シート巻物。
【0011】
(2)前記よこ挿入糸が合成繊維の捲縮加工糸からなる、(1)に記載の経編シート巻物。
【0012】
(3)前記経編シートを巻回して形成される経編シート巻物の嵩密度Dが0.15〜0.70g/cmである前記(1)または(2)に記載の経編シート巻物。
【0013】
(4)前記経編シート巻物が、前記巻回シート幅W2よりも長い管状体上に巻かれている、前記(1)〜(3)のいずれかに記載の経編シート巻物。
【0014】
(5)前記経編シートがよこ方向に無外力で静置した静置シート幅W1と、前記巻回シート幅W2が、W1<W2の関係を満足する、(1)〜(4)のいずれかに記載の経編シート巻物。
【0015】
(6)前記(1)〜(5)のいずれかに記載の経編シート巻物が、経編シートが存在しない管状体の部分に支持体が配置され、前記支持体が経編シート巻物を浮かすように支持して梱包されている、経編シート巻物の梱包体。
【0016】
(7)下記の(A)、(B)、(C)および(D)の工程を有する経編シート巻物の製造方法であって、(C)および(D)の工程では、巻回シート幅W2と、搬送シート幅W3との比W2/W3=0.85〜1.00とすることを特徴とする、前記(1)〜(5)のいずれかに記載の経編シート巻物の製造方法。
(A)たて挿入糸をボビン群から実質的に一定速度にて解舒するたて挿入糸の解舒工程
(B)地編糸とよこ挿入糸とが整経ビームないしボビン群から実質的に一定速度にて供給されて、地編糸が鎖編組織を3〜10コース/cmにて編成し、前記鎖編組織に前記たて挿入糸が挿入され、かつ、
隣り合う鎖編組織の間を行き来するよこ方向に2〜10コースの間に1回の頻度にてよこ挿入糸が挿入され前記鎖編組織を一体化する工程
(C)前記経編シートを搬送シート幅W3にて巻取装置まで搬送する搬送工程
(D)前記経編シートを巻回シート幅W2にて巻取装置で巻き取る巻取工程。
【0017】
(8)前記(B)の工程において、たて挿入糸が鎖編組織をよこ方向に行き来して挿入される前記(7)に記載の経編シート巻物の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明の経編シート巻物は、炭素繊維糸条からなるたて挿入糸が、鎖編組織およびよこ挿入糸にて編成一体化されていることにより、形態安定性、柔軟性、取扱性および賦形性(特にシートの幅方向の賦形性)にも優れ、例えばコンクリート構造体等の被補修補強体の形状に容易に追従させることができる。
【0019】
また、上記特性を活かし、経編シートが幅方向に伸長した状態にて巻回されていることにより、嵩薄で型崩れし難いうえ、施工時における優れた取扱性をも発現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の経編シート巻物の一実施態様を示す概略斜視図である。
【図2】本発明の経編シート巻物を解舒した状態を示す概略斜視図である。
【図3】本発明の経編シート巻物を構成する経編シートのよこ方向に外力を付与した状態を示す平面図である。
【図4】本発明の経編シート巻物の断面の模式図である。
【図5】本発明の経編シート巻物の梱包体における一実施態様を示す概略斜視図である。
【図6】本発明の実施例にて用いた製造装置の概略斜視図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の経編シート巻物は、地編糸が3〜10コース/cmの鎖編組織を形成し、前記鎖編組織にたて方向に挿入されるたて挿入糸として炭素繊維糸条が挿入され、隣り合う前記鎖編組織の間を行き来するよこ方向に挿入されるよこ挿入糸により前記鎖編組織を一体化した経編シートを巻回した経編シート巻物であって、前記隣り合う鎖編組織の間を行き来する頻度が2〜10コースの間に1回であり、前記経編シートがよこ方向に無外力で静置した静置シート幅W1と、よこ方向に外力(1.0Nの引張荷重)を与えた時の最大シート幅W0との比W1/W0=0.60〜0.95であり、かつ、巻物における巻回シート幅W2と、最大シート幅W0との比W2/W0=0.85〜1.00である。
【0022】
以下、本発明の望ましい実施形態について、図面を用いて説明する。
【0023】
図1は、本発明の経編シート巻物の一実施態様を示す概略斜視図である。
【0024】
図1において、本発明の経編シート巻物1は、経編シート2のたて方向に配置された炭素繊維糸条からなるたて挿入糸3と、該たて挿入糸と同一の方向に該たて挿入糸を包み縛るように鎖編組織された地編糸4と、隣り合う該鎖編組織の間を行き来する、よこ方向に挿入されるよこ挿入糸5により前記鎖編組織を一体化することにより構成されている。かかる構成において、前記炭素繊維糸条は、たて挿入糸と同一方向に編成された鎖編組織によって包み縛られているが、鎖編組織側から見ると該鎖編組織に挿入されているので、たて挿入糸と呼ばれる。このように、炭素繊維糸条が鎖編組織で包み縛られ集束されることで最終的に簾状の経編シートが得られる。前記たて挿入糸と鎖編組織とは互いに対であって、たて挿入糸と同一本数の鎖編組織が、経編シートのたて方向(長手方向とも称す)に並列されている。前記たて挿入糸と鎖編組織とは、経編シートのたて方向に連続性を有するが、経編シートのよこ方向(幅方向とも称す)への連続性を持たないため、経編シートとするためには、前記たて方向に交差するよこ方向に連続性を付与する必要がある。かかる機能を担うのがよこ挿入糸である。前記よこ挿入糸は、前記たて挿入糸と鎖編組織とをよこ方向に連結し、経編シートを形成する役割を持つ。隣接する鎖編組織を行き来するよこ方向に挿入され、鎖編組織に挟み込まれることで経編シートの組織を形成している。すなわち、前記よこ挿入糸の存在によって、隣り合うたて挿入糸および鎖編組織が一体化され、簾状の経編シートが形成される。
【0025】
具体的に、図1に示した編組織としては、前記鎖編組織が3〜10コース/cmで形成される。
【0026】
鎖編組織の編密度は、単位長さ(cm)当たりのループ量(コース)で表され、値が大きくなる程より細かな組織となり、値が小さい程より粗い組織が形成される。前記鎖編組織はたて挿入糸を包み縛る態様にて形成されており、前記編密度がたて挿入糸の集束性、真直性に直接影響する。これら特性は経編シートないしFRPにおける、剛軟性、力学特性、マトリックス樹脂の含浸性に反映されることから、適切な密度設計が要求される。すなわち、編密度がより大きいほどたて挿入糸の集束性、真直性は高くなり、取扱性、剛直性、FRPの力学特性は向上する傾向にあるものの、柔軟性、賦形性およびマトリックス樹脂含浸性は低下する傾向にあるといった具合である。
【0027】
例えば、構造物の補修補強工事において、壁面や天井といった重力に逆らっての施工を要する場合、施工性、取扱性の観点からは、鎖編組織の編密度を大きくして適度な剛直性を持たせることが好ましいが、一方で、鎖編組織の編密度を大きくし過ぎると柔軟性、賦形性が低下するため、柱や梁といった形状を有する対象に追従させることが困難となる。また、経編シートにマトリックス樹脂を含浸させる場合、鎖編組織の編密度を大きくし過ぎると炭素繊維糸条内にマトリックス樹脂が十分に含浸せずボイドや未含浸部を形成したり、また、地編糸である鎖編組織の表面被覆率が高くなりマトリックス樹脂との接着性を阻害したりと、補強効果を損なうことに繋がる。一方で編密度が小さ過ぎると、炭素繊維糸条のクリンプや屈曲を誘発するため、FRPにおける応力集中によって、炭素繊維糸条の本来のポテンシャルを発現できず、この場合も補強効果を損なうことに繋がる。生産性の観点からは、編密度が大きくなるほど生産性に劣る。
【0028】
以上に記した通り、これらトレードオフの関係にある各特性を総合的に鑑みた結果、前記鎖編組織が3〜10コース/cmの範囲内であることが好ましく、さらに好ましくは5〜7コース/cmの範囲内である。
【0029】
また、図1に示すよこ挿入糸は、隣り合う前記鎖編組織の間を行き来するよこ方向に挿入されるよこ挿入糸が、隣り合う鎖編組織の間を行き来する頻度が2〜10コースの間に1回である。以下、よこ挿入糸が隣り合う鎖編組織の間を行き来する頻度の逆数をよこ挿入糸間隔と呼ぶこととする。すなわち、よこ挿入糸が、隣り合う鎖編組織の間を行き来する頻度が3コースの間に1回である場合、よこ糸挿入糸間隔は、3(コース/回)である。
【0030】
上述した通り、よこ挿入糸はたて挿入糸および鎖編組織を経編シートのよこ方向に連結する機能を担い、経編シートの形態を維持する上で重要な役割を果たしている。よって、よこ糸挿入糸間隔が小さいほど、隣り合う鎖編組織の間を連結するよこ挿入糸の量が増加するから、経編シートの形態保持機能も向上する傾向にあることから、経編シートの取扱性の観点から好ましい。加えて、隣り合うたて挿入糸同士の真直性、平行性も向上することから、補強効果の観点からも好ましいといえる。
【0031】
一方で、前記よこ糸挿入糸間隔は、経編シートのよこ方向における伸縮性にも影響する。これは、経編シートの製造と関連しており詳しくは後述するが、経編シートの伸縮性に関連する点に絞って説明する。
【0032】
経編シートの製造において編糸(地編糸およびよこ挿入糸)は、整経ビームないしボビン群から供給され、ガイドを通りニードルに案内され、ニードルの編成運動にて組織を形成する。ここで、編糸は一定量を連続的に供給するが、ガイドは前後左右に運動し、ニードルも上下前後に運動するため、該運動に伴って張力が追加付与される。鎖編組織を形成する地編糸は経編シートの長手方向に連続した組織であるため左右の運動を殆ど伴わないが、よこ挿入糸は隣接する鎖編組織の間、すなわち、二針間を運動することから地編糸に比べて運動量が大きく、付与される張力も大きい。そのため、編成後の経編シートでは、経編シートのよこ方向に大きな収縮力が働き、経編シートのよこ方向における伸縮性を発現する。前記経編シートはかかる理由から、経編シートのよこ方向の伸縮性に優れた特性を示し、よこ糸挿入糸間隔が小さいほどより伸縮性(特に収縮性)に優れる。
【0033】
繊維シート工法に用いる繊維シートは、施工対象となる構造物によって様々な形態(長さ、幅、形状)にて用いられる。例えば、角を有する構造物には部分的に折り曲げる必要があり、隙間や狭部を有する構造物には部分的に縊れさせたり、棒状に丸めたりする必要があるため、補修補強用繊維シートは柔軟で自由度に優れた材料であることが好ましい。
【0034】
前記経編シートの伸縮性は、上述したような繊維シートに求められる柔軟性、賦形性に繋がる特性であって、繊維シート工法に好適な材料である。すなわち、経編シートのよこ糸頻度は小さいほどよく、よこ挿入糸が隣り合う鎖編組織の間を行き来する頻度が2〜10コースの間に1回である。よこ糸挿入糸間隔が10越えると、長尺の経編シートを切り出して使用する場合、単位長さ当たりに配置されるよこ挿入糸の量が少なく形態安定性、取扱性に劣り、隣り合うたて挿入糸同士の平行度を保てないうえ、補強方向に対して所望の補強効果を確保できない場合が出る。一方、よこ糸往復単位が2未満の場合は、編機の機構上、よこ挿入糸が隣り合うたて挿入糸の間を行き来するには最低でも2コースを要するため、1コースは現実に不可能である。可能であったとしても、特殊な設備、機構が必要であり、よって下限値は2コースである。
【0035】
また、本発明において、よこ挿入糸は、合成繊維の捲縮加工糸を用いることが好ましい。かかる捲縮加工糸とは、合成繊維からなる糸条に撚りを掛けることにより、嵩高(バルキー)となるように加工されたものをいい、嵩高ゆえに繊維長手方向に引っ張ることで優れた伸縮性を示す。かかる合成繊維の捲縮加工糸は、伸縮性の程度として捲縮加工糸のバルキー性を表す指標である伸縮復元率(CR)が、10〜60%の範囲内であることが好ましく、該範囲の捲縮加工糸を前記よこ挿入糸に適用することによって、経編シートのよこ方向の伸縮性をより優れたものとでき、経編シートの柔軟性、賦形性を向上させることができる。伸縮復元率(CR)とは、次の(i)〜(iv)に示す方法で測定される特性である。(i)捲縮加工糸をカセ取りし、無荷重の状態で沸騰水中で15分間処理した後、25℃、相対湿度65%の雰囲気下にて24時間乾燥する。(ii)このサンプルに0.088cN/dtex(0.1gf/d)相当の荷重をかけ水中に浸漬し、2分後のかせ長L0を測定する。(iii)次に、水中で0.088cN/dtex相当のカセを除き、0.0018cN/dtex(2mgf/d)相当の微荷重に交換し、2分後のかせ長L1を測定する。(iv)そして次式、CR(%)={(L0−L1)/L0}×100 により計算する。
【0036】
捲縮加工糸として用いる合成繊維としては、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリエチレン繊維、PBO繊維およびポリウレタン繊維などが好ましく、かかる合成繊維を用いることにより、ニッティングにおける工程通過性が良好となり、ガイドやニードルの編成運動による毛羽の発生や、糸切れの発生を抑制する効果が見込まれるため好ましい。中でも特に安価で寸法安定性にも優れるポリエステル繊維が好ましい。本発明のよこ挿入糸に好ましく用いられる合成繊維の捲縮加工糸の繊度としては、製編時の糸切れといった停機原因を最小限に抑制するため、1.5〜150texであることが好ましく、より好ましくは10〜100tex、更に好ましくは30〜60texである。
【0037】
本発明の経編シート巻物は、上述した経編シートを巻回した経編シート巻物であって、前記経編シートがよこ方向に無外力で静置した静置シート幅W1と、よこ方向に外力を与えた時の最大シート幅W0との比W1/W0=0.60〜0.95であり、かつ、巻物における巻回シート幅W2と、最大シート幅W0との比W2/W0=0.85〜1.00であるものである。
【0038】
本発明の経編シート巻物について、図2、3を用いて説明する。
【0039】
図2は、本発明の経編シート巻物を解舒した状態を示す概略斜視図である。
【0040】
図3は、本発明の経編シート巻物を構成する経編シートのよこ方向に外力を付与した状態を示す平面図である。
【0041】
図2において、本発明の経編シート巻物6は経編シート7が管状体8に巻回されており、巻回された経編シート巻物6が平面台9と接触しないよう、支持体10にて管状体8を支えている。また、解舒された経編シート7の一部が平面台9上から垂れ下がるように配置されている。この状態にある経編シート巻物において、平面台上にて解舒されている経編シートの長さL2を300mm、平面台上から垂れ下がって解舒されている部分の経編シートの長さL1を600mmとして、L1の中間にあたるL1/2地点の経編シートの幅を1mm単位にて計測した長さを経編シート巻物の静置シート幅W1とする。
【0042】
また、前記状態にある経編シート巻物において、経編シート巻物の頂点部分11の最表層にある経編シートの幅を1mm単位にて計測した長さを、経編シート巻物の巻回シート幅W2とする。
【0043】
図3において、本発明の経編シート巻物を構成する経編シート12は、経編シートのよこ方向13に外力が付与された状態である。かかる状態を満足する手段としては、経編シートのたて方向14に100mmにて帯状に切り出したサンプルを用意する。このサンプルを、両端の炭素繊維糸条の一本ずつが把持されるようにして万能試験機にかけて、経編シートのよこ方向13に1.0Nの引張荷重を付与することで再現される。この状態における経編シートの幅を1mm単位にて計測した長さを、経編シートの最大シート幅W0とする。
【0044】
本発明の経編シート巻物において、前記W1と、前記W0との比W1/W0は0.60〜0.95の範囲である。ここでW1/W0は、経編シートのよこ方向における幅変動率を表した値であって、W1/W0が大きいほど幅の変動が小さく、W1/W0が小さいほど幅の変動が大きいこと意味する。一方で、W1/W0が大きいほど経編シートを狭幅させる方向には変動域を有し、W1/W0が小さいほど経編シートを拡幅させる方向には変動域を有するともいえる。従って、W1/W0=1であっても、経編シートを狭幅させる方向に負荷すれば幅変動させることは可能であるし、W1の状態にて一様に使用されるのであれば、それもまた適当といえる。すなわち、W1/W0の範囲も適材適所である。かかる観点から、施工対象となる構造物によって様々な形態にて用いられる繊維シート工法用の繊維シートである本発明の経編シート巻物は、W1/W0を上記範囲内とすることで、経編シートのよこ方向に拡幅する場合と狭幅する場合とのいずれでも広い幅変動域を取ることでき、幅変動を伴う用途においてとりわけ好適な材料とできる。なお、経編シート幅が拡幅と狭幅の何れの変動も伴う施工においては、広い幅変動域を取ることができるという観点から、前記W1と前記W0との比W1/W0は、0.60〜0.80であることが好ましいが、幅変動をさほど伴わない施工、とりわけ拡幅を伴わない施工であれば、0.80を超え0.95以下であっても良い。
【0045】
また、本発明の経編シート巻物は、巻物における巻回シート幅W2と、最大シート幅W0との比W2/W0=0.85〜1.00である。かかる範囲内の経編シート巻物とすることで、巻物としての形態安定性、取扱性に優れた経編シート巻物とできる。
【0046】
繊維シート工法に用いられる補修補強用繊維シートは、補修補強を要する構造体によって、使用長、使用形態も様々であり、施工者は状況に応じた繊維シート(長さ、幅、形状、など)を、その場でその都度、作製しなければない。そのため、繊維シートの作製にあたり、繊維シートを巻回した巻物の取扱性、形態安定性が作業性(時間、工数)に大きく影響することとなる。特に、補修補強用に使用される繊維シートは、比較的幅の狭い(100〜500mm程度)繊維シートが主流であり、このような狭幅のシートを巻回した場合、巻回量が増すにつれて円盤状になり、巻崩れが発生し易くなる。中でも、本発明のような伸縮性に優れた繊維シートの場合、幅が狭幅する性質を有することから、その影響は尚更である。従って、巻物を形成するにおいて、巻回幅を広くとれる方が、すなわち、巻回部の接触幅を大きくできる方が、巻崩れを抑制できることとなる。同一の目付(単位面積当たりの重量:g/m)の繊維シートを如何に拡幅して巻回するかによって、巻物の形態安定性が左右される。かかる観点から、本発明の経編シート巻物はW2/W0=0.85〜1.00の範囲内である。かかる範囲内にて経編シート巻物を形成することで、経編シートを可能な限り拡幅した状態にて巻物として形成できるため、巻物の優れた形態安定性を満足することができる。よって、W2/W0は可能な限り大きいほうが好ましく、上限値1.00に近づくほどよい。W2/W0が0.85より小さい場合、伸縮性の小さい(W1/W0が大きい)経編シートとなり、拡幅による幅変動が小さいため、巻物を形成したときの形態安定性の効果も軽減され、期待した効果が十分に発現されない。
【0047】
また別の観点から、本発明の経編シート巻物が、W2/W0=0.85〜1.00であると、経編シート巻物の巻嵩を低減できるため、運搬や保管に好適な経編シート巻物とできる。経編シート巻物の巻嵩が低減するとは、同一の目付で同一の巻長の経編シートを同一の管状体に巻回した場合、W2/W0が大きい方が、経編シートの厚みを相対的に小さくできることに由来するものである。特に、本発明の経編シートのような簾状であると、隣り合うたて挿入糸との間を広くできるため、次ぎに上重ねて巻回される経編シートのたて挿入糸が、たて挿入糸との間に落ち込んでより巻嵩を小さくすることができる。上述した相乗効果から巻嵩を小さくでき、運搬、保管に際してのコンパクト化、省スペース化に貢献できる。よって、W2/W0=0.85〜1.00であるとよく、これにより、本発明の経編シート巻物は取扱性に優れたものとなる。
【0048】
さらに、前記経編シートがよこ方向に無外力で静置した静置シート幅W1と、前記巻回シート幅W2が、W1<W2の関係を満足することが好ましい。本発明の経編シート巻物が、かかる関係を満足することにより、経編シートは巻物の態様において幾らか拡幅された状態となるため、上述した通りW2/W0がより1.00に近づく方向となる。よって、これにより付与される形態安定性の効果もより高い水準となり、取扱性に優れた経編シート巻物を得ることができる。
【0049】
以下、本発明の経編シート巻物の各構成要素について詳述する。
【0050】
本発明のたて挿入糸として用いられる炭素繊維糸条としては、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、セルロース系炭素繊維、およびこれらを2種類以上ブレンドして構成された糸条等を好ましく用いることができる。複合材料の強度や弾性率を更に重要視する場合は、これらの中でもPAN系炭素繊維を用いることが好ましい。
【0051】
また、本発明の効果は、特に太い総繊度の炭素繊維糸条を用いた場合に顕著になるため、炭素繊維糸条のフィラメント数は12,000〜100,000本であることが好ましく、より好ましくは24,000〜50,000本である。また、本発明に用いる炭素繊維糸条は、総繊度は700〜8,000texであることが好ましく、より好ましくは1,500〜4,000texである。また、かかる太繊度の炭素繊維糸条は、生産性よく経編シート巻物を製造できるだけでなく、安価に入手することができる。なお、本発明でいう炭素繊維には、一般に黒鉛繊維と称される高弾性率のものも含むものとする。
【0052】
本発明の鎖編組織に用いられる地編糸は、上述したよこ挿入糸と同様に、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリエチレン繊維、PBO繊維およびポリウレタン繊維などからなる糸条が好ましく用いられる。中でも特に安価で寸法安定性にも優れるポリエステル繊維が好ましい。形態についても特に制限されるものでなく、フィラメントや紡績糸などいずれであってよいが、基材表面の平滑性が得られるため、マルチフィラメント糸が好ましい。また、よこ挿入糸と同様に、捲縮加工糸であってもよい。捲縮加工糸であるとたて挿入糸を集束させる場合に、伸縮性が大きいことからたて挿入糸の集束性に優れて簾状とし易く、生糸などに比べソフトに集束させることができるため、たて挿入糸である炭素繊維糸条内へのマトリックス樹脂の含浸性が優れるといった利点がある。繊度としては、製編時の糸切れといった停機原因を最小限に抑制するため、概ね1.5〜150tex程度の合成繊維の中から適宜選択することが好ましく、より好ましくは3〜100tex、さらに好ましくは3〜50texである。
【0053】
本発明の経編シートは、たて挿入糸と鎖編組織およびよこ挿入糸を固着するための目止め糸を含んでもよい。かかる目止め糸を用いることで、施工において経編シートにマトリックス樹脂を含浸させる際に、鎖編組織およびよこ挿入糸の組織の崩れや解れ、炭素繊維糸条からの脱落を一層抑制することができる。目止め糸の適用においては、目止め糸を炭素繊維糸条に引き揃えてもよいし、SまたはZ方向のシングルカバリングやSおよびZ方向のダブルカバリングのようにカバリング加工して、目止め糸を予め炭素繊維糸条に螺旋状に巻き付けておいてから、地編糸とよこ挿入糸とで編成させることもできる。
【0054】
本発明で用いられる目止め糸は、地編糸およびよこ挿入糸が溶融しない温度で溶融するものであることが好ましい。例えば、地編糸およびよこ挿入糸にポリエステル繊維からなる糸条を用いた場合は、ポリエステル繊維の融点255℃よりも低い融点を有する繊維が好ましく、具体的には、融点が80〜200℃の低融点の共重合ポリエステル繊維、共重合ポリアミド繊維、およびポリオレフィン繊維などが好ましく用いられる。
【0055】
本発明の経編シート巻物は、前記経編シートを巻回して形成される経編シート巻物の嵩密度Dが0.15〜0.70g/cmであることが好ましい。
【0056】
かかる範囲内の嵩密度Dにて経編シート巻物を形成することで、単位巻回長あたりの巻嵩を薄くすることができる。すなわち、同一の巻回長であってもコンパクトに巻物を得ることができ、持ち運び易さや、省スペース化に貢献できる。また、別の観点からは、巻回長の増加に対する巻嵩の増加が小さいため、より長くの経編シートを巻回可能であって、長尺の経編シート巻物を嵩薄く得ることもできる。上述した通り本発明の経編シート巻物は、簾状であって収縮性も強いことから、とりわけ嵩高くなり易い性質があり、前記態様とすることで、巻物としての取扱性をとりわけ向上させることができる。
【0057】
本発明における経編シート巻物の嵩密度Dとは、以下の通り定義されるものである。
【0058】
図4は、本発明の経編シート巻物の断面の模式図である。
【0059】
図4において、経編シート巻物15は管状体16に目付W(g/m)の経編シートが所定巻回長にて巻回された状態であって、管状体16のうち経編シートが存在しない部分に配置された支持体17にて、地切りされて浮かされて静置されている。この状態における経編シート巻物15から、それぞれ以下を求める。まず、巻回厚みTを測長し、経編シート巻物15においてその巻回厚みの半分にあたるT/2となる位置を求める。ここで、管状体の中心点Oを起点として前記T/2となる位置を通る真円を仮定し、管状体の中心点OからT/2地点までの距離をRとする。すなわち、前記T/2となる位置を通る真円の半径をRとする。前記T/2となる位置を通る真円の周長2Rπを経編シート巻物の平均周長とし、得られた平均周長にて経編シートの全長を除することで、経編シート巻物の巻回層数Nを求める。以上得られた値から式1により、経編シート巻物の嵩密度Dを計算にて求める。
(式1) D=W・N/T。
【0060】
こうして得られた経編シート巻物の嵩密度Dは、0.10〜0.70g/cmであることが好ましい。なお、一般的な巻回長(10〜50m)の巻物であれば、嵩、重量および持ち運び易さのバランスの観点から、経編シート巻物の嵩密度Dは、0.10〜0.40g/cmであることが好ましいが、大量の経編シートを必要とする現場で用いる場合や、低コスト化を狙って経編シート巻物の単位巻回長を長尺化する場合には、重量アップによる運搬性の低下を考慮し、0.40g/cmを超え0.70g/cm以下であっても良い。
【0061】
本発明の経編シート巻物は、前記巻回シート幅W2よりも長い管状体上に巻かれていることが好ましい。
【0062】
かかる態様とすることで、本発明の経編シート巻物を安定して製造可能であって、巻物としての取扱性、形態安定性においても満足するものとできる。前記管状体は、経編シート巻物の巻回部を形成するうえでの芯材としての機能を担うものである。よって、巻物を安定して製造でき、かつ、形態を保持できるだけの形状を有さなければならず、巻回シート幅W2よりも長いことが好ましい。巻回シート幅W2よりも前記管状体の長さが小さい場合、管状体の長さより余った部分の経編シートのよこ方向では、管状体の支持を受けられず、屈曲や蛇行を伴うほか、巻物としては端面が不揃いとなり、製品管理、品質において相応しくない。さらに、上述したW2/W0についても、経編シートのよこ方向において経編シートの端部と管状体とが接触してしない領域が発生し、経編繊維シートの本来の性能を十分に発揮することができず、W2/W0を満足するための条件が必然的に厳しいものとなる。詳しくは後述するが、本発明の梱包体において、経編シートが存在しない管状体の部分に支持体を配置する場合にも管状体は巻回シート幅W2よりも長いことが好ましく、W2の1.1〜1.5倍程度が好適である。
【0063】
ここで、管状体としては、金属、プラスチック、紙、FRP、等、特に制限されることはないが、重量、必要強度を鑑みて、紙材質の紙管であることが好ましい。かかる紙管としては、経編シート巻物としての形態を維持できれば特に制限はないが、好ましくは厚みが1mm〜20mm、内径が75mm〜300mmである。
【0064】
また、本発明の経編シート巻物は、経編シートが存在しない管状体の部分に支持体が配置され、前記支持体が経編シート巻物を浮かすように支持して梱包されている、経編シート梱包体とすることで、運搬や保管に好適である。
【0065】
かかる態様を、図5を用いて説明する。
【0066】
図5は、本発明の経編シート巻物の梱包体における一実施態様を示す概略斜視図である。
【0067】
図5において、経編シート巻物18は、経編シートが存在しない管状体19の部分に支持体20が配置されている。支持体20は経編シート巻物18の巻径よりも一辺が大きく設計されており、該支持体20によって経編シート巻物が浮いた状態にて支持されている。かかる態様とすることで、経編シート巻物の自重による型崩れや、外部との干渉による巻ずれ、擦過による品質低下を抑制することができる。支持体20としては、経編シートが存在しない管状体の部分に配置されるが、経編シートが存在する部分に近いほどよく、好ましくは密着した状態である。これにより、運搬中の揺れに伴う巻ずれの発生を抑制することができる。支持体20の形態としては、円形、多角形、等、特に制限はないが、好ましくは正方形であって、最終的に収納される箱形21の高さ、幅の内寸に一致ないし僅かに小さいサイズであることが好ましく、荷崩れの抑制に繋がる。また、経編シート巻物18の経編シート部分は紙シートやフィルムなどの包装材(図示しない)で包装されていることが好ましい。
【0068】
本発明の経編シート巻物の製造方法は、
下記の(A)、(B)、(C)および(D)の工程を有する経編シート巻物の製造方法であって、(C)および(D)の工程では、巻回シート幅W2と、搬送シート幅W3との比W2/W3=0.85〜1.00とするものである。
(A)たて挿入糸をボビン群から実質的に一定速度にて解舒するたて挿入糸の解舒工程、
(B)地編糸とよこ挿入糸とが整経ビームないしボビン群から実質的に一定速度にて供給されて、地編糸が鎖編組織を3〜10コース/cmにて編成し、前記鎖編組織に前記たて挿入糸が挿入され、かつ、
隣り合う鎖編組織の間を行き来するよこ方向に2〜10コースの間に1回の頻度にてよこ挿入糸が挿入され前記鎖編組織を一体化する工程、
(C)前記経編シートを搬送シート幅W3にて巻取装置まで搬送する搬送工程、
(D)前記経編シートを巻回シート幅W2にて巻取装置で巻き取る巻取工程。
【0069】
以下、(A)、(B)、(C)および(D)の工程について、順に説明する。
【0070】
前記(A)工程は、たて挿入糸をボビン群から実質的に一定速度にて解舒するたて挿入糸の解舒工程である。
【0071】
たて挿入糸である炭素繊維糸条の製品形態は、通常ボビンに巻回された状態であって、多くの場合はこの状態にて使用する。少量試作あるいは必要ボビン数が確保できない場合においては、整経ビームに整経されたものを用いる場合がある。かかるボビンは必要ボビン数を確保できるだけのボビンホルダーを備えたクリールに設置され、所定のガイドにて後述する(B)工程まで案内される。ここで、クリールにセットする炭素繊維糸条(ボビン)の巻量は同一であると、ロスが低減でき生産性の観点から好ましい。また、たて挿入糸は実質的に一定速度にて解舒されることが好ましい。実質的に一定速度とは、この場合、経編シートを巻回する(D)工程における巻取速度が一定であることを指し、ボビンの回転速度が一定であるという意ではない。よって、好ましくは、ボビンの回転速度が一定であって、もしくは間欠的に回転していないことがよく、かかる態様とすることで解舒撚りの混入が抑制できるという利点がある。
【0072】
この(A)工程においては、たて挿入糸の他に、上述した目止め糸を解舒する工程を含むこともある。目止め糸を解舒する工程を含む場合には、目止め糸をたて挿入糸を仕掛けたクリールにたて挿入糸と同一本数をセットし、たて挿入糸と同様の糸道にて工程(B)まで案内する。目止め糸の解舒としては、たて挿入糸と引き揃えて引き出してもよいし、目止め糸でたて挿入糸をカバリングしながら引き出してもよく、何れの場合も後述する(C)工程にてヒートセットして目止めする。
【0073】
前記(B)工程は、地編糸とよこ挿入糸とが整経ビームないしボビン群から実質的に一定速度にて供給されて、地編糸が鎖編組織を3〜10コース/cmにて編成し、前記鎖編組織に前記たて挿入糸が挿入され、かつ、隣り合う鎖編組織の間を行き来するよこ方向に2〜10コースの間に1回の頻度にてよこ挿入糸が挿入され前記鎖編組織を一体化する工程である。
【0074】
かかる工程において、地編糸とよこ挿入糸とは、整経ビームないしボビン群から実質的に一定速度にて供給されるとあるが、地編糸とよこ挿入糸とは組織編成に要する糸量が異なるため、地編糸とよこ挿入糸とのそれぞれが実質的に一定速度ではなく、地編糸とよこ挿入糸のそれぞれで実質的に一定速度である。よって、使用する整経ビームも地編糸とよこ挿入糸とでそれぞれ別々であって、整経ビームを用いる場合は、少なくとも2系列を要する。ボビン群から供給する場合もあるが、供給量を一定に制御できるという面からは、整経ビームであることが好ましい。ここで、実質的に一定速度にて供給するとは、整経ビームないしボビン群からの供給速度であって、編組織の編成に必要な糸量(ラック:480コース当たりに必要な糸量)で表され、整経ビームの回転量にて連続的に一定に制御することができる。本発明においては地編糸が鎖編組織を3〜10コース/cmにて編成し、よこ挿入糸が隣り合う鎖編組織の間を行き来するよこ方向に2〜10コースの間に1回の頻度にて挿入するのに必要なそれぞれの量である。かかるラックを調整することで、地編糸およびよこ挿入糸の張力をコントロールでき、所望の伸縮性を発現するように適宜調整すればよい。供給された地編糸およびよこ挿入糸は、ガイドバーとニードルの編成運動にて組織が形成され、たて挿入糸を含め一体化されることで、経編シートが形成される。
【0075】
ここで、経編シートにおけるW1/W0を0.6〜0.95の範囲のいずれかの値とする手段として、上述した通り、編組織は経編シートの伸縮性に大きく影響していることから、本工程において鎖編組織を3〜10コース/cmの範囲のいずれかにて編成し、よこ挿入糸が隣り合う鎖編組織の間を行き来するよこ方向に2〜10コースの間に1回の頻度にて編成することが挙げられる。また、上述したラックを可能な限り小さくすることで、編糸(本発明の地編糸およびよこ挿入糸)の張力を増大させ、経編シート幅方向への収縮性を強制的に付与することもできる。後者については、編糸への負荷が増すため、編成時の糸切れ発生の原因となる場合や、装置への負荷も増すことから、ニードル、ガイドバー、などの編成周辺部品が破損する場合があり、生産性の観点から考えると、好ましくは前者である。
【0076】
前記(C)工程は、前記経編シートを搬送シート幅W3にて巻取装置まで搬送する搬送工程である。
【0077】
かかる工程は、前記(B)工程にて編成一体化された経編シートを後述(D)工程まで搬送する工程であって、この時の搬送シート幅W3と巻回シート幅W2との比が、W2/W3=0.85〜1.00である。ここで、上記のとおりW2は、W2=0.85×W0〜1.00×W0であり、かつ、W2=0.85×W3〜1.00×W3である。従って、W3=W0となる。すなわち、W3は最大シート幅W0に相当する状態である必要があり、かかる手段としては、例えば、積極駆動のニップローラーを介してW3をW2〜W2/0.85の状態にてニップして幅を保持し引っ張る方法や、経編シートのよこ方向の両端に捨編を形成し、該捨編をピン等でフッキングさせて経編シートのよこ方向に引張負荷してW3をW2〜W2/0.85にした状態にて搬送する方法が挙げられるが、好ましくは前者であって、製品として余分な捨編を形成しないでよいほか、W3のコントロールも容易であるため、安定した生産を実現することが可能である。なお、前記(A)工程において目止め糸を供給した場合、(C)工程にてヒートセットする必要があるが、その場合、地編糸およびよこ挿入糸をもヒートセットされてしまうため、伸縮性を重視する場合はニップにて伸長させる以前にて行う方がよく、この場合はニップローラーを多段に設置することで対応できる。ヒートセットの手段としては、ヒートローラー、遠赤ヒーター、等が挙げられるが、設備的に簡便である遠赤ヒーターが好ましい。
【0078】
前記(D)は、前記経編シートを巻回シート幅W2にて巻取装置で巻き取る巻取工程である。
【0079】
かかる工程は、前記(C)工程において得られた搬送シート幅W3の経編シートをW2/W3=0.85〜1.00となる巻回シート幅W2にて巻取装置にて巻き取る工程である。すなわち、W2≦W3であって、これを満足する手段としては、少なくとも、前記(C)工程からW3を保持して一定張力を付与した状態にて巻き取ることが必要であって、好ましくは巻取装置の直上にニップローラーを配置してニップしながら巻き取る方法が好ましい。ここで、経編シートの張力が解けると、よこ挿入糸が経編シートのよこ方向に収縮することから、常に一定の張力を付与しておくことが好ましい。巻取方式については、センタードライブ方式、サーフェイスドライブ方式のいずれであってもよい。
【0080】
なお、本発明の経編シートの製造方法において、前記(A)、(B)、(C)および(D)の工程を実現しうる機構を備えておれば、その装置は特に制限されるものでなく、ラッシェル機、トリコット機、ステッチボンディング機、等のいずれであってもよい。
【0081】
また、本発明の経編シートの製造方法は、前記(B)の工程において、たて挿入糸が鎖編組織をよこ方向に行き来して挿入されることが好ましい。
【0082】
本発明の経編シートはたて挿入糸が炭素繊維糸条からなるものであって、汎用の編物に用いられるたて挿入糸と比べて繊度が格段に太い。そのため、汎用の装置のたて糸挿入システムを適用することは難しく、新規にたて糸挿入システムを作製、改造する必要がある。一方、前記(B)の工程において、たて挿入糸が鎖編組織をよこ方向に行き来して挿入する方法であれば、編成機構は従来通りでよくたて挿入糸の供給機構のみの変更でよいため、簡便かつ安価に炭素繊維糸条を挿入糸として適用することが可能となる。この方法では、たて挿入糸を左右に運動させて供給するため、たて挿入糸が左右に蛇行する懸念があるが、たて挿入糸が剛直な炭素繊維糸条であることから、経編シートとしてはたて挿入糸が真直した状態に復帰する。よって、たて挿入糸が炭素繊維糸条であるからこそ実現可能な製造方法といえる。
【実施例】
【0083】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。本発明の実施例では、次の材料を用いた。
・たて挿入糸:炭素繊維糸条(東レ株式会社製“トレカ(登録商標)”、引張強度4,900MPa、引張弾性率230GPa、フィラメント数24,000本、トータル繊度1,650tex)
・地編糸:ポリエステル繊維の捲縮加工糸(東レ株式会社製“テトロン(登録商標)”、フィラメント数24本、繊度56dtex、融点255℃)
・よこ挿入糸A:ポリエステル繊維の捲縮加工糸(東レ株式会社製“テトロン(登録商標)”、フィラメント数24本、繊度56dtex、融点255℃)
・よこ挿入糸B:ポリエステル繊維の生糸(東レ株式会社製“テトロン(登録商標)”、フィラメント数24本、繊度56dtex、融点255℃)
・目止め糸:共重合ポリアミド繊維(東レ株式会社製“エルダー(登録商標)”、繊度3.3tex、融点110℃)。
【0084】
(経編シート巻物の作成)
本実施例では、通常一般に用いられているステッチボンディング機にたて挿入糸および目止め糸の仕掛けるためのクリールを併設した装置にて経編シート巻物の製造を行った。前記ステッチボンディング機の仕様は、コンパウンドニードル使用のシングルトリコットであって、詳しくは図6および工程1〜4にて説明する。
【0085】
図6は、本発明の実施例にて用いた製造装置の概略斜視図を示す。
【0086】
図6の製造装置を用い、以下の工程1〜4にて経編シート巻物を製造した。
【0087】
工程1:
たて挿入糸(ボビン)22をクリールから一定速度にて横取り解舒して引き出し、糸道規制用のコーム(図示しない)、編成用のガイド30を経て、ニッティングエリア23に案内した。
【0088】
工程2:
地編糸24およびよこ挿入糸25のそれぞれを整経ビーム26および整経ビーム27のそれぞれから一定速度にて供給し、ロール(図示しない)、コーム(図示しない)、編成用のガイド28、29を経て、ニッティングエリア23に案内した。地編糸は鎖編組織を編成し、隣り合う該鎖編組織の間を連結するようによこ挿入糸を挿入した。この時、たて挿入糸はガイド30にて前記鎖編組織を中心とするよこ方向に行き来するように左右に運動させながら挿入した。このようにして、地編糸、よこ挿入糸およびたて挿入糸を編成一体化し経編シート31を得た。
【0089】
工程3:
得られた経編シート31は、積極駆動するニップローラー32にて引き出されるようにしてコンベアベルト上を搬送され、工程4に送り出される。この時、ニップローラー32を出た直後の経編シート幅をメジャーにて1mm単位にて測定し、これを搬送シート幅W3とした。また、本工程では目止め糸を溶融させるための遠赤ヒーター33を備え、目止め糸を用いる場合は、該ヒーター33にて加熱溶融処理を施す。
【0090】
工程4:
工程3のニップローラー32を通過した経編シート31は、巻取装置34にて巻き取られる。巻取装置34には、最終製品である経編シート巻物35に含まれる管状体がシャフト36に通された状態にて設置されており、管状体の直上にはニップローラー37が設置されていて、経編シート巻物33に接触させた状態で経編シート31を巻き取り、経編シート巻物を製造した。なお、巻取装置はサーフェイスドライブ方式とした。 以上、工程1〜4を経て、経編シートを巻回した経編シート巻物を得た。
【0091】
(W0、W1、W2の測長、及び、嵩密度Dの算出)
W0、W1、W2の測長は図2に示す方法に従って実施した。すなわち、得られた経編シート巻物を巻取装置からおろして、経編シートが存在しない管状体の部分に支持体を配置し、経編シート巻物が浮いた状態 にて台上に静置した。そして、経編シート巻物を台上にて解舒し、平面台上にて解舒されている経編シートの長さL2が300mm、平面台上から垂れ下がって解舒されている部分の経編シートの長さL1が600mmとなるようにした。この時、L1の中間にあたるL1/2地点の経編シートの幅を1mm単位にて計測して経編シート巻物の静置シート幅W1を得た。
【0092】
また、前記状態にある経編シート巻物において、経編シート巻物の頂点部分の最表層にある経編シートの幅を1mm単位にて計測して経編シート巻物の巻回シート幅W2を得た。
【0093】
さらに、前記経編シート巻物から、経編シートのたて方向に100mmにて帯状にサンプルを切り出し、該サンプルの両端の炭素繊維糸条の一本ずつを把持されるようにして万能試験機(インストロン社製)にかけた。そして、経編シートのよこ方向に1.0Nの引張荷重を付与し、この状態の経編シートの幅を1mm単位にて計測して経編シートの最大シート幅W0を得た。
【0094】
経編シート巻物の嵩密度Dの測定は図3に示す方法に従って実施した。
【0095】
得られた経編シート巻物の全長を確認した。目付Wは前記最大シート幅W0の測定にて用いたサンプル重量と基準サイズ100mm×345mmの値から算出した。そして、巻回厚みTを1mm単位にて測長し、その巻回厚みの半分にあたるT/2の位置を求めた。ここで、管状体の中心点Oを起点としてT/2地点を通る真円の半径にあたる距離Rから、円の周長2Rπを経編シート巻物の平均周長として算出し、得られた平均周長にて所定巻回長を除して経編シート巻物の巻回層数Nを求めた。得られたW、N、Tを前記式1に導入し嵩密度Dを算出した。
【0096】
(実施例1)
経編シート巻物の作成において、たて挿入糸を5ゲージ(5本/inch)にて74本を挿入し、鎖編組織を5ゲージ、編密度が7コース、よこ挿入糸Aを5ゲージ、よこ糸頻度が5コースに1回として経編シート10mを製編し、それを巻回して経編シート巻物Aを得た。得られた経編シート巻物Aについて測長した結果、W0=349mm、W1=235mm、W2=314mm、W3=330mmであり、よって、W2/W3=0.95、W1/W0=0.67、W2/W0=0.90であった。得られた経編シート巻物Aは、W1/W0が小さいため柔軟性に富み、鎖編組織がたて挿入糸をしっかりと包み縛っていたためたて挿入糸の真直性にも優れるうえ、よこ挿入糸により隣り合う炭素繊維糸条の間の平行性も良好であり、シートとしての取扱性も十分であった。
【0097】
この経編シート巻物Aについて、嵩密度Dを測定した結果、D=0.24g/cmであった。また、実際の施工現場の再現として、持ち運び・解舒・シートの切り出しまでを行って経編シート巻物としての取扱性、型崩れの有無について検証を実施した。経編シート巻物Aは、D=0.24g/cm、W2/W0=0.90にて巻回されていたため形態が安定しており、使用に際して型崩れが発生することはなく、取扱性は良好であった。
【0098】
(実施例2)
鎖編組織の編密度を10コース、よこ挿入糸Aのよこ挿入糸間隔を2コースに1回とした以外は、実施例1と同様とし経編シート巻物Bを得た。得られた経編シート巻物Bについて測長した結果、W0=349mm、W1=221mm、W2=292mm、W3=335mmであり、よって、W2/W3=0.93、W1/W0=0.64、W2/W0=0.85であった。得られた経編シート巻物Bは、W1/W0が小さいため柔軟性に富み、鎖編組織の編密度が小さいためたて挿入糸の真直性にとりわけ優れるうえ、よこ挿入糸間隔も小さいため隣り合う炭素繊維糸条の間の平行性もとりわけ良好であった。また、編組織が密に形成されていたためシートとしての取扱性も申し分なかった。
【0099】
この経編シート巻物Bについて、嵩密度Dを測定した結果、D=0.18g/cmであった。また、実際の施工現場の再現として、持ち運び・解舒・シートの切り出しまでを行って経編シート巻物としての取扱性、型崩れの有無について検証を実施した。経編シート巻物Bは、D=0.18g/cm、W2/W0=0.85にて巻回されていたため、巻が若干不安定であったものの、巻物として取り扱えるレベルであった。また、使用の最中に端部での型崩れが確認された。
【0100】
(実施例3)
鎖編組織の編密度を3コース、よこ挿入糸Aのよこ挿入糸間隔を10コースに1回とした以外は、実施例1と同様とし経編シート巻物Cを得た。得られた経編シート巻物Cについて測長した結果、W0=350mm、W1=264mm、W2=329mm、W3=335mmであり、よって、W2/W3=0.98、W1/W0=0.75、W2/W0=0.94であった。得られた経編シートCは、鎖編組織の編密度が小さかったためたて挿入糸に若干の屈曲を有しており、よこ挿入糸間隔の大きく隣り合う炭素繊維糸条の間の平行性も均一ではなかった。
【0101】
この経編シート巻物Cについて、嵩密度Dを測定した結果、D=0.36g/cmであった。また、実際の施工現場の再現として、持ち運び・解舒・シートの切り出しまでを行って経編シート巻物としての取扱性、型崩れの有無について検証を実施した。その結果、経編シート巻物Cは、D=0.36g/cm、W2/W0=0.94にて巻回されていたため、非常に安定しており、型崩れの発生もなく、とりわけ取扱性に優れた。
【0102】
(実施例4)
(経編シート巻物の作成)の工程1、2において、たて挿入糸と引き揃えて目止め糸を挿入した以外は、実施例1と同様とし経編シート巻物Dを得た。得られた経編シート巻物Dについて測長した結果、W0=340mm、W1=270mm、W2=295mm、W3=297mmであり、よって、W2/W3=0.99、W1/W0=0.79、W2/W0=0.87であった。得られた経編シート巻物Dは、目止め糸にてたて挿入糸と鎖編組織およびよこ挿入糸がしっかりと固着されていたため、非常に優れた取扱性を示した。しかしながら、ヒートセットによる影響で柔軟性が若干低下した。
【0103】
この経編シート巻物Dについて、嵩密度Dを測定した結果、D=0.21g/cmであった。また、実際の施工現場の再現として、持ち運び・解舒・シートの切り出しまでを行って経編シート巻物としての取扱性、型崩れの有無について検証を実施した。その結果、経編シート巻物Aは、D=0.21g/cm、W2/W0=0.87にて巻回されていたため形態が安定しており、使用に際して型崩れが発生することはなく、取扱性は良好であった。
【0104】
(比較例1)
鎖編組織の編密度を15コース、よこ挿入糸Aのよこ挿入糸間隔を2コースに1回とした以外は、実施例3と同様とし経編シート巻物Eを得た。得られた経編シート巻物Eについて測長した結果、W0=338、W1=197、W2=267、W3=249であり、よって、W2/W3=1.07、W1/W0=0.58、W2/W0=0.79であった。得られた経編シート巻物Eは、鎖編組織およびよこ挿入糸が非常に密に組織されていたため、炭素繊維糸条の真直性、平行性は申し分なかった。しかしながら、シートとしても硬くなり過ぎたため取扱が困難であるうえ、収縮性が強いためシートが集束してたて挿入糸が重なる箇所があった。
【0105】
この経編シート巻物Eについて、嵩密度Dを測定した結果、D=0.12g/cmであった。また、実際の施工現場の再現として、持ち運び・解舒・シートの切り出しまでを行って経編シート巻物としての取扱性、型崩れの有無について検証を実施した。その結果、経編シート巻物Eは、D=0.12g/cm、W2/W0=0.79であって、かつ、W2が小さいため、巻が不安定であって、取扱の最中に型崩れが発生した。
【0106】
(比較例2)
鎖編組織の編密度を2コース、よこ挿入糸Aのよこ挿入糸間隔を15コースに1回とした以外は、実施例3と同様とし経編シート巻物Fを得た。得られた経編シート巻物Fについて測長した結果、W0=352mm、W1=267mm、W2=334mm、W3=334mmであり、よって、W2/W3=1.00、W1/W0=0.76、W2/W0=0.95であった。得られた経編シート巻物Fは、鎖編組織およびよこ挿入糸の両方がそれぞれ疎に組織されていたため、炭素繊維糸条の真直性、平行性が維持されず、補修補強用繊維シートとして満足いくものでない。また、同理由からシートとしての形態安定性も低く、取扱が非常に困難であった。
【0107】
この経編シート巻物Fについて、嵩密度Dを測定した結果、D=0.38g/cmであった。また、実際の施工現場の再現として、持ち運び・解舒・シートの切り出しまでを行って経編シート巻物としての取扱性、型崩れの有無について検証を実施した。その結果、経編シート巻物Fは、D=0.38g/cm、W2/W0=0.95にて巻回されていたため形態が安定しており、使用に際して型崩れが発生することはなく、取扱性は良好であった。
【0108】
(実施例5)
よこ挿入糸Aをよこ挿入糸Bにした以外は、実施例1と同様とし経編シート巻物Gを得た。得られた経編シート巻物Gについて測長した結果、W0=356mm、W1=338mm、W2=329mm、W3=340mmであり、よって、W2/W3=0.96、W1/W0=0.95、W2/W0=0.92であった。得られた経編シート巻物Gは、よこ挿入糸に生糸を使用していたため、経編シートの柔軟性が若干劣ったものの、それ以外の特性(取扱性、真直性、平行性)については良好であった。
【0109】
この経編シート巻物Gについて、嵩密度Dを測定した結果、D=0.21g/cmであった。また、実際の施工現場の再現として、持ち運び・解舒・シートの切り出しまでを行って経編シート巻物としての取扱性、型崩れの有無について検証を実施した。その結果、経編シート巻物Gは、D=0.21g/cm、W2/W0=0.92にて巻回されていたため形態が安定しており、使用に際して型崩れが発生することはなく、取扱性は良好であった。
【0110】
(比較例3)
(経編シート巻物の作成)の工程3にて、ニップローラーを使用しなかった以外は、実施例3と同様とし経編シート巻物Hを得た。得られた経編シート巻物Hについて測長した結果、W0=349mm、W1=235mm、W2=242mm、W3=237mmであり、よって、W2/W3=1.02、W1/W0=0.67、W2/W0=0.69であった。得られた経編シート巻物Hは、実施例3と同様の経編シートの特性を示した。
【0111】
この経編シート巻物Hについて、嵩密度Dを測定した結果、D=0.06g/cmであった。また、実際の施工現場の再現として、持ち運び・解舒・シートの切り出しまでを行って経編シート巻物としての取扱性、型崩れの有無について検証を実施した。その結果、経編シート巻物Hは、D=0.06g/cm、W2/W0=0.69にて巻回されており、かつ、W2も小さいため、巻物としての取扱性は非常に悪く、使用の最中に型崩れが発生した。これは、(経編シート巻物の作成)にてニップを解除したため、W2/W3の値が外れたことの影響が大きい。
【0112】
(実施例6)
経編シート巻物の作成において、たて挿入糸および目止め糸Aを5ゲージ(5本/inch)にて72本を挿入し、鎖編組織を5ゲージ、編密度が7コース、よこ挿入糸Aを5ゲージ、よこ糸頻度が4コースに1回として経編シート25mを製編した以外は、実施例4と同様として経編シート巻物Iを得た。得られた経編シート巻物Iについて測長した結果、W0=298mm、W1=276mm、W2=288mm、W3=297mmであり、よって、W2/W3=0.97、W1/W0=0.93、W2/W0=0.97であった。得られた経編シート巻物Iは、柔軟性に若干劣るものの、鎖編組織がたて挿入糸をしっかりと包み縛っていたためたて挿入糸の真直性にも優れるうえ、よこ挿入糸により隣り合う炭素繊維糸条の間の平行性も良好であり、シートとしての取扱性も十分であった。
【0113】
この経編シート巻物Iについて、嵩密度Dを測定した結果、D=0.65g/cmであった。また、実際の施工現場の再現として、持ち運び・解舒・シートの切り出しまでを行って経編シート巻物としての取扱性、型崩れの有無について検証を実施した。結果、経編シート巻物Dは、形態安定性が良好で、使用に際して型崩れが発生することはなく、取扱性にとりわけ優れた。
【0114】
以上、実施例1〜6、比較例1〜3の結果を表1にまとめた。
【0115】
【表1】

【0116】
表中の評価項目において、◎○:左記非常に良好に比してさらに良好、◎:非常に良好、○:良好、△:使用には問題ないレベル、×:使用に支障あり、を表す。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明の経編シート巻物によると、補修補強用繊維シートとして、形態安定性、取扱性、柔軟性、賦形性(特にシートの幅方向の賦形性)、マトリックス樹脂含浸性および補強効果に優れるだけでなく、巻物としての形態安定性、取扱性にも優れた経編シート巻物を得ることができる。よって、コンクリート構造物や建築物や地盤や盛土の補修補強など、表面に貼り付ける補修補強材をはじめ、モルタル、コンクリート、アスファルトまたは樹脂などに埋没させる補修補強材として特に好適であり、土木建築分野、特に建築分野の補修補強材として有用である。
【符号の説明】
【0118】
1、6、15、18、35:経編シート巻物
2、7、12、31:経編シート
3、22:たて挿入糸
4、24:地編糸
5、25:よこ挿入糸
8、16、19:管状体
9:平面台
10、17、20:支持体
11:経編シート巻物の頂点部分
13:経編シートのよこ方向
14:経編シートのたて方向
21:箱形
23:ニッティングエリア
26、27:整経ビーム
28、29、30:ガイド
32、37:ニップローラー
33:遠赤ヒーター
34:巻取装置
36:シャフト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地編糸が3〜10コース/cmの鎖編組織を形成し、前記鎖編組織にたて方向に挿入されるたて挿入糸として炭素繊維糸条が挿入され、隣り合う前記鎖編組織の間を行き来するよこ方向に挿入されるよこ挿入糸により前記鎖編組織を一体化した経編シートを巻回した経編シート巻物であって、前記隣り合う鎖編組織の間を行き来する頻度が2〜10コースの間に1回であり、前記経編シートがよこ方向に無外力で静置した静置シート幅W1と、よこ方向に外力を与えた時の最大シート幅W0との比W1/W0=0.60〜0.95であり、かつ、巻物における巻回シート幅W2と、最大シート幅W0との比W2/W0=0.85〜1.00である、経編シート巻物。
【請求項2】
前記よこ挿入糸が合成繊維の捲縮加工糸からなる、請求項1に記載の経編シート巻物。
【請求項3】
前記経編シートを巻回して形成される経編シート巻物の嵩密度Dが0.15〜0.70g/cmであることを特徴とする請求項1または2に記載の経編シート巻物。
【請求項4】
前記経編シート巻物が、前記巻回シート幅W2よりも長い管状体上に巻かれている、請求項1〜3のいずれかに記載の経編シート巻物。
【請求項5】
前記経編シートがよこ方向に無外力で静置した静置シート幅W1と、前記巻回シート幅W2が、W1<W2の関係を満足する、請求項1〜4のいずれかに記載の経編シート巻物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の経編シート巻物が、経編シートが存在しない管状体の部分に支持体が配置され、前記支持体が経編シート巻物を浮かすように支持して梱包されている、経編シート巻物の梱包体。
【請求項7】
下記の(A)、(B)、(C)および(D)の工程を有する経編シート巻物の製造方法であって、(C)および(D)の工程では、巻回シート幅W2と、搬送シート幅W3との比W2/W3=0.85〜1.00とすることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の経編シート巻物の製造方法。
(A)たて挿入糸をボビン群から実質的に一定速度にて解舒するたて挿入糸の解舒工程
(B)地編糸とよこ挿入糸とが整経ビームないしボビン群から実質的に一定速度にて供給されて、地編糸が鎖編組織を3〜10コース/cmにて編成し、前記鎖編組織に前記たて挿入糸が挿入され、かつ、隣り合う鎖編組織の間を行き来するよこ方向に2〜10コースの間に1回の頻度にてよこ挿入糸が挿入され前記鎖編組織を一体化する工程
(C)前記経編シートを搬送シート幅W3にて巻取装置まで搬送する搬送工程
(D)前記経編シートを巻回シート幅W2にて巻取装置で巻き取る巻取工程
【請求項8】
前記(B)の工程において、たて挿入糸が鎖編組織をよこ方向に行き来して挿入される請求項7に記載の経編シート巻物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−43400(P2010−43400A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−164453(P2009−164453)
【出願日】平成21年7月13日(2009.7.13)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】