説明

経路探索装置

【課題】最適な飛行経路を算出する際の計算時間の短縮化が図られた経路探索装置を提供すること。
【解決手段】旋回飛行における単位旋回角度あたりの高度低下量である高度低下率を算出し、算出された高度低下率が最小となるような姿勢角を算出する。また、姿勢角に基づいて旋回飛行における旋回半径を算出し、算出された旋回半径に応じた飛行経路を探索する。これにより、飛行経路の探索を行う際の試行条件を制限して、最適な飛行経路を演算するための計算時間の短縮化を図る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飛行経路を探索する経路探索装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
このような分野の技術として、航空機の着陸点までの安全性の高い飛行経路を自動生成し、生成された飛行経路に関する情報をパイロットまたはオートパイロット装置に与えることにより航空機の着陸を支援する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1に記載の飛行経路演算装置では、ファジイ推論を用いて障害物を回避するための回避距離、その他の飛行距離、最終進入経路などを最適にした最適障害物回避飛行経路を探索している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−63700号公報
【特許文献2】特開平9−251600号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術では、飛行経路を演算するための計算時間と、試行できる条件(範囲、密度)の量とが相反するため、最適経路を算出するには計算時間が長くなる虞がある。
【0005】
本発明は、このような課題を解決するために成されたものであり、最適な飛行経路を算出する際の計算時間の短縮化が図られた経路探索装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による経路探索装置は、飛行機の自位置と目標点との間の飛行経路を探索する経路探索装置であって、飛行機の旋回飛行における単位旋回角度あたりの高度低下量である高度低下率を算出する高度低下率算出手段と、高度低下率算出手段によって算出された高度低下率が最小となるような姿勢角を算出する姿勢角算出手段とを有し、姿勢角算出手段によって算出された姿勢角に基づいて、旋回半径における旋回半径を算出することを特徴としている。
【0007】
このような経路探索装置によれば、旋回飛行における単位旋回角度あたりの高度低下量である高度低下率を算出し、算出された高度低下率が最小となるような姿勢角を算出することが可能であるため、姿勢角に基づいて旋回飛行における旋回半径を算出することができる。これにより、算出された旋回半径に応じた飛行経路を探索することができるため、飛行経路の探索を行う際の試行条件を制限して、最適な飛行経路を演算するための計算時間の短縮化を図ることができる。
【0008】
また、本発明による経路探索装置は、飛行機の自位置と目標点との間の飛行経路を探索する経路探索装置であって、飛行機の旋回飛行における単位旋回角度あたりの高度低下量である高度低下率を算出する高度低下率算出手段と、高度低下率算出手段によって算出された高度低下率が最小となるような姿勢角を算出する姿勢角算出手段と、姿勢角算出手段によって算出された姿勢角に基づいて、旋回飛行における旋回半径を算出する旋回半径算出手段と、旋回半径算出手段によって算出された旋回半径に基づいて、旋回飛行における飛行距離を算出し、算出された当該飛行距離に応じた飛行経路を探索する飛行経路探索手段と、を備えることを特徴としている。
【0009】
このような経路探索装置によれば、旋回飛行における単位旋回角度あたりの高度低下量である高度低下率を算出し、算出された高度低下率が最小となるような姿勢角を算出することが可能であるため、姿勢角に基づいて旋回飛行における旋回半径を算出し、算出された旋回半径に応じた飛行経路を探索することができる。これにより、飛行経路の探索を行う際の試行条件を制限して、最適な飛行経路を演算するための計算時間の短縮化を図ることができる。
【0010】
ここで、探索された飛行経路に沿って飛行して目標点へ着陸するために必要な旋回飛行および直線飛行を設定し、設定された当該旋回飛行および直線飛行の水平面方向の移動距離を算出する水平面移動距離算出手段と、水平面方向の移動距離に基づいて、目標点へ着陸するために必要な高度である必要高度を算出する必要高度算出手段と、を備え、飛行経路探索手段は、必要高度および飛行機の実際の高度である実高度を用いて、飛行経路を探索する構成であることが好ましい。これにより、直線と1種類の円弧の組み合わせを用いて飛行経路を探索することが可能であるため、計算負荷を少なくして適切な飛行経路を算出することが可能となる。
【0011】
また、飛行経路探索手段は、必要高度と実高度との差がゼロとなる飛行経路を探索することが好適である。これにより、旋回飛行を続けたり、直線飛行を長くしたりするなどして、低下高度が調節された飛行経路を容易に算出することができる。
【0012】
また、地形の高低を示すデータを含む地形データが記憶された地形データ記憶手段を備え、飛行経路探索手段は、地形データに基づいて、自位置を中心として水平面方向における360度の範囲で到達可能な目標点の範囲を算出し、算出された当該範囲内に存在する目標点までの飛行経路を探索することができる。これにより、飛行機のエンジンが停止した場合などの緊急着陸時において、到達可能な着陸点の領域を少ない計算負荷で求めることができる。そのため、小さい計算負荷で、エンジンが停止した場合等に安全を確保する領域を経路選択できる。
【0013】
上記の経路探索装置では、高度低下率算出手段によって算出された高度低下率が最小となるような姿勢角を算出することで、旋回飛行時の飛行距離の増大を図ることが可能な飛行経路を探索することができる。また、直線飛行時においては、飛行機に作用する揚力Lと抗力Dとの比である揚抗比L/Dが最大となるような姿勢角及び速度で飛行することで、飛行距離の増大を図ることができる。すなわち、これらの飛行状態が成立するように飛行することで、滑空飛行状態における飛行距離を最長とすることができる。以下、このような最長の滑空飛行距離を獲得することが可能な飛行状態を「最長滑空飛行状態」と記す。
【0014】
なお、「最長滑空飛行状態」とは、最長の滑空飛行距離を実現する可能性がある飛行状態であり、直線飛行においては、揚抗比L/Dが最大となるような姿勢角及び速度が成立する状態であり、旋回飛行においては、高度低下率算出手段によって算出された高度低下率が最小となるような姿勢角が成立する状態である。上記の最長滑空飛行状態の状態量を維持して飛行した場合には、最長の滑空飛行距離を得ることが可能であるが、その状態量で常に飛行しているとは限らないため、最長滑空飛行状態における状態量と、現実の飛行状態における状態量との差を埋めることが必要となる。
【0015】
ここで、本発明の経路探索装置は、自位置での飛行状態を示す飛行状態量に基づいて、自位置から最長滑空飛行状態への移行に要する高度上昇分の最大値を算出する高度上昇分算出手段を更に備え、直線飛行における最長滑空飛行状態は、飛行機に作用する揚力Lと抗力Dとの比である揚抗比L/Dが最大となるような姿勢角及び速度が成立する状態であり、旋回飛行における最長滑空飛行状態は、高度低下率が最小となるような姿勢角が成立する状態であり、飛行経路探索手段は、最長滑空状態における必要高度、自位置における実高度、および高度上昇分の最大値に基づいて、飛行経路の探索を行うことが好適である。これにより、目的地到達に必要な最低高度を算出し、自位置における現状の飛行状態からの高度上昇(あるいは高度低下)分を計算することによって、目的地まで到達可能であるか否かの判定(到達判定)を行うことができる。
【0016】
また、予め設定された最適迎角値を記憶する迎角値記憶手段と、最長滑空状態への移行完了前に、最適迎角値及び自位置での飛行状態量に基づいて、目標迎角値を設定する目標迎角値設定手段と、を備えることが好ましい。このように、迎角を一定として、高度上昇分(回復量)を最大とする最適迎角値(最適迎角マップ)を記憶しておくことで、そのときの飛行状態量(速度、経路角など)に応じた迎角値を設定して飛行することができる。
【0017】
また、目標迎角値設定手段は、目的地に向かうために必要な旋回角度に基づいて目標迎角値を設定することが好適である。これにより、直進時の制御パラメータ(速度、経路角)に加えて、目標方位に達するまでの残りの旋回角をパラメータとした最適仰角値(最適仰角マップ)を算出することで、そのときの飛行状態に応じた迎角で飛行することができる。
【0018】
また、経路探索装置では、上記の飛行経路探索手段を備え、飛行経路探索手段によって探索された飛行経路による到達可能点を算出することができるため、到達可能点と目標点とを比較し、目標点まで到達可能であるか否かの判定を行うことができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、最適な飛行経路を算出する際の計算時間の短縮化が図られた経路探索装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態に係る経路探索装置を示すブロック図である。
【図2】本実施形態の飛行機の直線飛行時における迎角αとL/Dとの関係を示すグラフである。
【図3】本実施形態の飛行機の旋回飛行時における姿勢角を示す概略側面図である。
【図4】本実施形態の飛行機の旋回飛行時における姿勢角を示す概略正面図である。
【図5】着陸目標点までの飛行経路の一例を示す概略図である。
【図6】水平飛行距離および高度との関係を示すグラフである。
【図7】障害物を回避して着陸目標点へ到達するまでの飛行経路の一例を示す概略図である。
【図8】着陸目標点に着陸するために直線飛行を延長する場合の飛行経路の一例を示す概略図である。
【図9】旋回飛行時の飛行経路、および旋回飛行後の直線飛行時の飛行経路の組み合わせの一例を示す概略図である。
【図10】旋回半径Ropt、旋回角ψで旋回飛行後に直線飛行した場合の飛行経路の一例を示す概略図である。
【図11】地形データ、高度、および水平飛行距離の関係を示すグラフである。
【図12】滑空可能範囲、および到達不可範囲の分布の一例を示す概略図である。
【図13】旋回半径Ropt2つ分の直線飛行と、旋回角度180度分の旋回飛行を必要なマージンとして考慮した場合の飛行経路の一例を示す概略図である。
【図14】本発明の第2実施形態に係る経路探索装置を示すブロック図である。
【図15】定常滑空飛行状態における飛行経路L、及び必要高度Hreqを示すチャートである。
【図16】最長滑空飛行状態(直進時)への移行に要する高度上昇分、及び高度変化を示すチャートである。
【図17】本発明の実施形態に係るECUで実行される処理を示すフローチャートである。
【図18】選択された最適迎角値による飛行軌跡を示すチャートである。
【図19】本発明の第3実施形態に係る経路探索装置を示すブロック図である。
【図20】旋回飛行を含む最長滑空飛行状態における飛行経路、及び高度上昇分を示すチャートである。
【図21】本発明の実施形態に係るECUで実行される処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、図面の説明において同一または相当要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0022】
(第1実施形態)
図1に示す経路探索装置1は、例えば飛行機10(図3、図4参照)に搭載され、飛行機10の自位置と目標点との間の飛行経路を探索するものである。経路探索装置1は、経路探索を行うための演算処理を実行する電子制御ユニット(ECU)3を備え、このECU3に、各種センサ2、及び出力部3が電気的に接続されている。
【0023】
各種センサ2としては、飛行機10の現在位置(緯度、経度)を検出するための航法センサ、飛行機10の実高度を検出するための高度計、飛行機10の飛行姿勢(姿勢角)を検出するためのセンサ、飛行機10のエンジンの状態を検出するセンサ、飛行機10の故障を検出するセンサ、機体質量を把握するための燃料消費量センサなどが挙げられる。各種センサ2は、検出した各種情報をECU3に出力する。
【0024】
出力部4は、ECU3による演算結果が出力される部分であり、演算結果である飛行経路を表示する表示部である。また、出力部4としては、飛行経路に沿った飛行を実行するための自動操縦装置などが挙げられる。
【0025】
ECU3は、演算処理を行うCPU、記憶部39となるROM及びRAM、入力信号回路、出力信号回路、電源回路などにより構成されている。ECU3では、記憶部に格納されているアプリケーションプログラムをCPUで実行することによって、高度低下率算出部31、姿勢角算出部32、旋回半径算出部33、経路探索部34が構成される。
【0026】
高度低下率算出部31は、飛行機10の高度低下率を算出するものであり、飛行機10の旋回飛行における単位旋回角度あたりの高度低下量である高度低下率ΔHを算出する本発明の高度低下率算出手段として機能する。
【0027】
姿勢角算出部32は、飛行機10の姿勢角を算出するものであり、高度低下率ΔHが最小となる姿勢角を算出する本発明の姿勢角算出手段として機能する。
【0028】
旋回半径算出部33は、飛行機10の旋回半径を算出するものであり、姿勢角に基づいて、高度低下率ΔHが最小となる場合の旋回半径を算出する本発明の旋回半径算出手段として機能する。
【0029】
経路探索部34は、飛行機10の飛行経路を探索するものであり、旋回半径算出部33によって算出された旋回半径に基づいて、旋回飛行における飛行距離を算出し、算出された飛行距離に応じた飛行経路を探索する本発明の飛行経路探索手段として機能する。
【0030】
また、記憶部39には、飛行機10の空力特性データ(抗力係数、揚力係数など)が記憶されている。さらに、記憶部39には、地形データベースが構築されている。この地形データベースには、着陸可能地点の情報、飛行の障害となる障害物(例えば山、高層建築物など)の情報(位置、高さなど)が格納されている。
【0031】
また、記憶部39に記憶されている空力特性データとしては、図2に示すデータがある。図2は、飛行機10の直線飛行時における迎え角αと揚抗比L/D(=揚力L/抗力D)との関係の一例を示すグラフである。図2では、横軸に仰角αを示し、縦軸に揚抗比L/Dを示している。図2に示すように、仰角αがαoptであるときに、揚抗比L/Dが最大揚抗比(L/D)MAXとなる。
【0032】
ECU3は、検出された姿勢角(仰角αopt)に基づいて、直進飛行時の最長到達距離LMAXを算出する。ECU3は、記憶部39に格納されている空力特性データを参照し、最大揚抗比(L/D)MAXに基づいて、最長到達距離LMAXを算出する。この最長到達距離LMAXは、下記式(1)によって算出することができる。
【数1】


ただし、ΔH:飛行機10の直線飛行時の高度低下、L:揚力、D:抗力である。
【0033】
ECU3の高度低下率算出部31は、飛行機10の高度低下率を算出するものであり、飛行機10の旋回飛行における単位旋回角度あたりの高度低下量である高度低下率ΔHを算出する本発明の高度低下率算出手段として機能する。旋回高度低下率ΔHは、下記式(2)によって算出することが可能である。
【数2】


ただし、Ropt:旋回半径、γ:経路角、V:機体速度、ω:角加速度である。経路角γは、水平面と飛行機10の進行方向との角度である。
【0034】
図3及び図4は、旋回飛行時における飛行機10の姿勢を示す側面図および正面図である。また、旋回飛行時において飛行機10に作用する力の釣り合いは、下記式(3)〜(5)によって表現される。
【数3】


ただし、m:機体質量、V:機体速度、経路角γ、L:揚力、φ:バンク角、g:重力加速度、D:抗力である。バンク角φは、飛行機10の上下方向に延在する垂直軸(垂直尾翼15の延在する方向)と水平面との角度である。
【0035】
ここで、揚力Lおよび抗力Dは、下記式(6),(7)によって算出することができる。
【数4】


ただし、ρ:空気密度、S:翼面積(空力係数を計算する際の基準面積)、C:揚力係数、C:抗力係数である。
【0036】
そして、式(2)は、式(3)〜(7)を用いてまとめられ、下記式(8)によって表現することができる。
【数5】


ここで、
【数6】


式(8)のうち揚力係数Cは、仰角αで決まるため、式(8)は、仰角αおよびバンク角φによって決定される。そこで、パラメータとして、仰角α、バンク角φを式(8)に代入し、旋回高度低下率ΔHの最小値であるΔHoptとなる仰角(αoptB)、バンク角(φopt)を求める。求められた仰角αoptB、バンク角φoptが最小旋回高度低下率ΔHoptを成立させるための条件となる。この条件が成立する場合には、機体速度Vopt、経路角γoptといった、力のバランスが取れた飛行(トリム)となる。
【0037】
また、このときの旋回半径(Ropt)は、下記式(10)によって求めることができる。
【数7】

【0038】
また、ECU3は、飛行機の自位置と着陸位置との相対方位角および着陸方向を求め、相対方位角および着陸方向に基づいて水平面内における旋回飛行と直線飛行との適切な組み合わせを算出する。ECU3は、上述の旋回半径Roptを用い、旋回角の合計角度が最小となる旋回飛行と直線飛行との組み合わせを算出し、自位置から着陸位置である目標点(以下、「着陸目標点」という。)までの飛行経路を設定する。
【0039】
また、ECU3は、水平面方向の移動距離に基づいて、着陸目標点へ着陸するために必要な高度を算出する本発明の必要高度算出手段として機能する。ECU3は、上記の飛行経路に沿って飛行するのに必要な最低限の高度を計算する。
【0040】
また、ECU3の経路探索部34は、自位置と着陸目標点との相対高度を比較することにより、着陸目標点で着陸可能であるか否かを判定し、飛行経路を探索する。
【0041】
次に、図5及び図6を参照して水平面内における経路作成の一例について説明する。図5は、着陸目標点までの飛行経路の一例を示す概略図である。ここでは、進行方向Dで飛行する飛行機10が、自位置Pから着陸目標点Pまで飛行して、着陸方向Dで着陸する場合の経路探索について説明する。ECU3は、水平面内において、自位置Pに対する着陸目標点Pの相対位置、および着陸方向に基づいて、上述の旋回半径Roptでの旋回飛行と、直線飛行との組み合わせを選定して、最適な飛行経路を算出する。ECU3は、旋回半径Roptで旋回飛行を行い飛行距離が最短となる最適な飛行経路を算出する。具体的には、着陸目標点Pに向かうための旋回角度Ψと着陸するための旋回角度Ψとの合計(ΣΨ)、および直線飛行における飛行距離Lの合計(ΣL)が最小となるよう、旋回飛行と直線飛行との組み合わせを選択する。
【0042】
ECU3は、下記式(11)によって求められる必要高度Hreqと実高度とを比較することによって、着陸目標点Pに着陸可能であるか否かを判定する。
【数8】


ECU3は、飛行機10の実高度が必要高度Hreqよりも大きい場合に、着陸目標点Pに着陸可能であると判定する。そして、ECU3は、実高度と必要高度との差がゼロとなる飛行経路を探索する。
【0043】
図6は、水平飛行距離および高度との関係を示すグラフである。図6では、横軸に水平飛行距離を示し、縦軸に(必要)高度を示している。自位置Pから旋回半径Roptで旋回角度Ψの旋回飛行を行った場合の高度低下ΔHT1は、式(8)によって算出することができる。同様に、位置Pから旋回半径Roptで旋回角度Ψの旋回飛行を行った場合の高度低下ΔHT2は、式(8)によって算出することができる。
【0044】
また、着陸点に向かうための旋回飛行(角度Ψ)の終了点Pから、着陸するための旋回飛行(角度Ψ)の開始点Pまで、直線飛行を行った場合の高度低下ΔHは、式(1)によって算出することができる。
【0045】
このように直線飛行時および旋回飛行時において、高度低下を最小とする条件は、機体質量に対して燃料質量が小さい場合には、機体固有の特性に基づいて決定されるため、オフラインで事前に計算することが可能である。従って、オンラインでの計算が必要となるのは、水平面上での飛行経路(飛行軌跡)だけであり、また機体質量の変化が大きい場合でも質量分を補正するという負荷の小さい計算で条件を求めることが可能である。経路探索装置1では、直線飛行と、1種類の旋回半径Roptの円弧に沿った旋回飛行との組み合わせによって、この水平面上の飛行経路を求めることが可能であるため、計算負荷(コスト)を抑えて、安全な着陸地点を求めることができる。
【0046】
このような本実施形態の経路探索装置1では、旋回飛行における単位旋回角度あたりの高度低下量である高度低下率を算出し、算出された高度低下率が最小となるような姿勢角を算出することが可能であるため、姿勢角に基づいた旋回飛行における旋回半径を算出し、算出された旋回半径に応じた飛行経路を探索することができる。これにより、飛行経路の探索を行う際の試行条件を制限して、最適な飛行経路を演算するための計算時間の短縮化を図ることができる。
【0047】
ここで、経路探索装置1は、探索された飛行経路に沿って飛行して目標点へ着陸するために必要な旋回飛行および直線飛行を設定し、設定された当該旋回飛行および直線飛行の水平面方向の移動距離を算出する水平面移動距離算出部と、水平面方向の移動距離に基づいて、目標点へ着陸するために必要な高度である必要高度を算出する必要高度算出部と、を備えている。そして、飛行経路探索部が、必要高度および飛行機の実際の高度である実高度を用いて、飛行経路を探索する構成であるため、直線と1種類の円弧の組み合わせを用いて飛行経路を探索することができ、計算負荷を少なくして適切な飛行経路を算出することが可能となる。
【0048】
また、本実施形態の経路探索装置1による計算結果を初期値とすることにより、飛行機10の運動特性(操舵遅れ等)や、外乱影響なども考慮した厳密な飛行経路を求める場合の計算範囲を大幅に縮小可能であるため、計算負荷を抑えることができる。
【0049】
図7は、障害物Bを回避して着陸目標点P15へ到達するまでの飛行経路の一例を示す概略図である。経路探索装置1では、自位置Pの進行方向Dの直前に障害物Bが存在する場合に、水平面上で障害物Bを回避する飛行経路を求めることによって、目標点P15に着陸可能であるか否かを判定する到達判定を実行する。
【0050】
そして、ECU3は、旋回半径Roptで旋回飛行を行い飛行距離が最短となる最適な飛行経路を算出する。具体的には、「障害物Bを回避するための旋回角度Ψ11」と、「障害物Bの回避後の着陸目標点P15に向かうための旋回角度Ψ12」と、「着陸するための旋回角度Ψ13」との合計(ΣΨ)、および直線飛行における飛行距離LS11,LS12の合計(ΣL)が最小となるよう、旋回飛行と直線飛行との組み合わせを選択する。ECU3は上記の式(11)によって求められる必要高度Hreqと実高度とを比較することによって、着陸目標点Pに着陸可能であるか否かを判定する。
【0051】
次に、目標点に着陸するために低下高度を調節する場合について説明する。図8は、目標点に着陸するために直線飛行を延長する場合の飛行経路の一例を示す概略図である。着陸目標点に着陸するためには、その水平面内位置に到達したときに、飛行機10の実高度がゼロになる必要がある。ECU3の経路探索部34は、目標点へ着陸するための必要高度と飛行機10の実高度との差がゼロとなる飛行経路を探索する。そこで、経路探索部34は、旋回飛行の延長、および直線飛行の延長を考慮して低下高度を調節し、適切な飛行経路を選択する。例えば、図8に示す状況では、直線飛行LS22,LS23を追加することで、必要高度を増加させ、必要高度と実高度との差がゼロとなる飛行経路を探索する。飛行機10は、自位置Pから着陸目標点P25までの最短経路を飛行せず、追加された直線飛行経路(LS22,LS23)を飛行して、目標点P25への着陸することになる。
【0052】
次に、自位置Pとその周囲の地形データに基づいて、周囲360度の範囲内で到達可能な領域を探索する場合について説明する。ECU3は、飛行機10の空力特性データに基づいて最大揚抗比(L/D)MAXを取得し、上記式(1)を用いて最良滑空性能データを取得することが可能である。また、ECU3は、上記式(8)を用いて旋回飛行時の最良滑空性能データを取得することができる。これらの直線飛行時および旋回飛行時の最良滑空性能データは、オフラインで事前に取得することができる。
【0053】
ECU3は、オンラインで必要なデータとして、周辺の地形データを取得する。ECU3は、地形データベースから自位置周辺の地形データを取得する。ECU3は、例えば、図10に示すように、水平方向の位置に関するデータや、標高に関するデータを含む地形データを取得する。
【0054】
ECU3は、式(8)の高度低下率ΔHを最小にする旋回飛行と、式(1)を満たす直線飛行との組み合わせからなる飛行経路のうち、高度低下を最小とする飛行経路を、全周囲について(水平面内の360度の範囲で)探索することが可能である。ECU3は、図9に示すように、自位置Pでの旋回飛行T,Tと、この旋回飛行T,Tに連続する直線飛行D31,との組み合わせからなる飛行経路を探索する。
【0055】
また、着陸目標点候補となる任意の点の水平面内の位置(x0,y0)は、図10に示すように、旋回角度Ψの旋回飛行、および飛行距離LSの直線飛行の組み合わせを用い、下記式(12),(13)によって表現される。
【数9】

【0056】
ECU3は、上記(12),(13)を用いて、着陸目標点の位置(x0,y0)へ向かうための旋回飛行及び直線飛行の組み合わせを探索し、その位置(x0,y0)に到達するまでの高度低下分(最低必要高度Hreq)を、式(11)を用いて算出する。
【0057】
このような経路探索装置1では、全方位に対して着陸目標点候補を探索し、着陸可能な目標点までの飛行経路を探索することが可能であるため、図11及び図12に示すような到達可能範囲A、およびグレーゾーン(障害物Aの背後)Aを把握することが可能である。図11では、進行方向D53に沿う飛行経路の高度低下F53と地形データE53との関係を示している。
【0058】
ここでいう「グレーゾーン」とは、障害物が存在するために、自位置Pから直線的に到達することは不可能ではあるが、障害物を回避して背後へ回り込めば到達可能である範囲を示す。このグレーゾーンAの範囲内に着陸可能な平地などが存在する場合には、障害物を回避するための旋回飛行を考慮して飛行経路の探索を行い、必要高度と実高度とを比較して着陸目標点への着陸が可能であるか否かを判定する。
【0059】
全周囲に対する飛行経路に関するデータと、当該飛行経路における高度低下率に関するデータとは、事前(オフライン)に計算可能である。そのため、実際の飛行時には、オフラインで取得した滑空性能データと、オンラインで取得する地形データとの照合を実行するのみで、経路探索を実行することができる。その結果、例えば、飛行機10のエンジンが停止した場合などにおいて、緊急着陸可能な領域を小さい計算負荷で探索することができる。
【0060】
このように経路探索装置1では、地形の高低を示すデータを含む地形データが記憶された記憶部39を備え、飛行経路探索部34は、地形データに基づいて、自位置を中心として水平面方向における360度の範囲で到達可能な目標点の範囲を算出し、算出された当該範囲内に存在する目標点までの飛行経路を探索することができる。これにより、飛行機のエンジンが停止した場合などの緊急着陸時において、到達可能な着陸点の領域を少ない計算負荷で求めることができる。そのため、小さい計算負荷で、エンジンが停止した場合等に安全を確保する領域を経路選択できる。
【0061】
次に、図13を参照して、あらゆる着陸方向に対しても着陸可能な領域を算出する場合について説明する。ECU3は、あらゆる着陸方向に対応可能とするために必要な余裕代であるマージンを考慮する。あらゆる着陸方向から着陸可能とするには、自位置Pにおける進行方向Dに対して正反対方向に着陸する場合が、旋回角度大きくなり最もクリティカルな場合である。このような場合には、経路探索装置1は、旋回半径の2倍(2Ropt)の直線飛行LS60と、旋回角度180度分の旋回飛行LT62をマージンとして確保することにより、全着陸方向に対応することが可能な飛行経路を探索することができる。
【0062】
また、飛行経路の探索結果を出力部4である表示部に表示する場合には、探索結果である飛行経路を表示すると共に着陸可能な平地(空港含む)を表示することによって、操縦者が着陸場所を決定する際に有効な情報を提供することができる。
【0063】
経路探索装置1では、着陸可能な候補地の場所を決めた後に、式(8)の高度低下率ΔHを最小にする旋回飛行と、式(1)を満たす直線飛行との組み合わせによる大まかな飛行経路を決定した後に、さらに詳細な経路探索計算を実行することにより、余分な計算を大幅に削減することができる。そのため、計算時間を短縮して飛行経路を探索することが可能となる。
【0064】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係る経路探索装置について説明する。図14は、第2実施形態に係る経路探索装置を示すブロック図である。図14に示す第2実施形態に係る経路探索装置1が、第1実施形態に係る経路探索装置1と違う点は、高度上昇分算出部51、到達判定部52、移行判定部53、目標迎角値設定部54、制御部55、及び、最適迎角値マップ59を備えている点である。なお、第1実施形態の経路探索装置1と同様の説明については省略する。
【0065】
第2実施形態のECU3では、記憶部39に格納されているアプリケーションプログラムをCPUで実行することによって、高度低下率算出部31、姿勢角算出部32、旋回半径算出部33、経路探索部34、高度上昇分算出部51、到達判定部52、移行判定部53、目標迎角値設定部54、及び制御部55が構成される。
【0066】
経路探索装置1では、高度低下率算出部31によって算出された高度低下率が最小となるような姿勢角を算出することで、旋回飛行の飛行距離の増大を図ることが可能な飛行経路を探索する。また、経路探索装置1では、直線飛行において、飛行機10に作用する揚力Lと抗力Dとの比である揚抗比L/Dが最大となるような姿勢角及び速度で飛行することで、飛行距離の増大を図ることが可能な飛行経路を探索する。すなわち、このような飛行状態が成立するように飛行することで、滑空飛行状態における飛行距離を最長とする。そして、このような最長の滑空飛行距離を獲得することができる飛行状態を「最長滑空飛行状態」と記す。
【0067】
なお、「最長滑空飛行状態」とは、最長の滑空飛行距離を実現する可能性がある飛行状態であり、例えば、直線飛行においては、揚抗比L/Dが最大となるような姿勢角及び速度が成立する状態であり、旋回飛行においては、高度低下率算出手段によって算出された高度低下率が最小となるような姿勢角が成立する状態である。上記の最長滑空飛行状態の状態量を維持して飛行した場合には、最長の滑空飛行距離を得ることが可能であるが、その状態量で常に飛行しているとは限らないため、最長滑空飛行状態における状態量と、現実の飛行状態における状態量との差を埋めることが必要となる。本実施形態の経路探索装置1は、最長滑空飛行状態における状態量と、現実の飛行状態における状態量との差を埋めるためのものである。
【0068】
経路探索部34は、最長滑空飛行状態における飛行軌跡に基づいて、必要な高度(必要高度Hreq)を演算する。図15は、定常滑空飛行状態における飛行軌跡L、及び必要高度Hreqを示すチャートである。経路探索部34は、必要最小限の旋回飛行条件(高度低下を最小にする旋回飛行条件)と直進時の最適な滑空条件(高度低下を最小にする直進飛行条件)との組み合わせによって算出される最長滑空飛行状態における飛行軌跡に基づいて、必要な高度(必要高度Hreq)を演算する。
【0069】
高度上昇分算出部51は、現在の飛行機10の飛行状態(速度、経路角など)から最長滑空飛行状態への移行に要する高度上昇分の最大値(ΔHAmax)を演算する(詳しくは後述する)。
【0070】
到達判定部52は、飛行機10が自位置から目的着陸点へ到達可能であるか否かの判定を行う。到達判定部52は、自位置おける実高度H、最長滑空飛行状態における必要高度H、高度上昇分ΔHの最大値ΔHAmaxに基づいて、目的地まで到達可能であるか否かの判定を行う。到達判定部52は、下記式(14)が成立する場合に、飛行機10が目的着陸点へ到達可能であると判定する。
【数10】


ここで、H:飛行機10の高度である。
【0071】
移行判定部53は、最長滑空飛行状態(目標滑空経路)における状態量を満たしているか否かの判定を行う。移行判定部53は、例えば、機体速度が最長滑空飛行状態における速度Vと一致した場合に、最長滑空飛行状態で飛行している(最長滑空飛行状態への移行が完了している)と判定する。なお、最長滑空飛行状態は、上述したように飛行機10の飛距離を最長とするために最適な滑空状態(候補を含む)である。
【0072】
目標迎角値設定部54は、飛行機10の迎角値を設定する。目標迎角値設定部54は、目的着陸点への着陸を可能とすべく、迎角値を設定する。例えば、最長滑空飛行状態で飛行している場合には、その飛行状態を維持するように、迎角値を設定する。一方、最長滑空飛行状態で飛行する前の状態においては、最適迎角値マップ59を参照して、迎角値を設定する。
【0073】
制御部55は、目標迎角値設定部54で設定された迎角値となるように、アクチュエータ(出力部)を制御する。アクチュエータは、飛行機10の迎角を変更するためのアクチュエータであり、例えば、翼に設けられたフラップを傾斜させるための駆動手段である。
【0074】
最適迎角値マップ59には、高度上昇分ΔHAmaxを最大とするための最適仰角値のマップが記憶されている。例えば、迎角値を一定として、後述する評価関数を最大とする最適迎角値のマップを予め作成しておく。最適迎角値は、飛行機固有の性能であり、事前に算出することが可能である。飛行機10の機体速度毎に、算出された迎角値のマップが、最適迎角値マップ59に保存されている。最適迎角値マップ59は、予め設定された最適迎角値を記録する迎角値記憶手段として機能する。
【0075】
(直進時の飛距離を最長にするための評価関数)
次に、直進時の飛距離を最長にするための評価関するについて説明する。図16は、最長滑空飛行状態(直進時)への移行に要する高度上昇分ΔHを示すチャートである。図16では、横軸に飛行機10の移動距離を示し、縦軸に高度を示している。最長滑空飛行状態における飛行軌跡Lは、着陸候補地点(目標点)まで到達可能なものである。この最長滑空飛行状態における飛行条件(最長滑空の条件)は、迎角α、経路角γ、速度Vである。
【0076】
経路探索装置1では、自位置PA1での現在の機体速度VA1が、最長滑空飛行状態Lにおける速度V以上であるか否かを判定する。自位置PA1での現在の速度VA1が、速度V以上である場合には、高度上昇分ΔHが最大となるように、定常滑空飛行状態Lに移行するまでの飛行経路を探索する。
【0077】
高度上昇分ΔHは、下記式(15)を用いて算出可能である。
【数11】


ここで、HM1は、飛行経路LA1による実高度上昇分、HM2は、前進による高度余裕分である。飛行経路LA1による高度上昇分HM1は、自位置PA1(高度HA1)から最長滑空飛行状態における飛行軌跡L(点PG2,高度HG1)に移行するまでの飛行機10の実高度の変化量であり、高度HG2と高度HA1との差である。
【0078】
飛行機10が自位置PA1から点PG2に移動するまでの前進による高度余裕分HM2は、最長滑空飛行状態の飛行軌跡Lにおける点PG1から点PG2までの高度変化量に相当する。この前進による高度余裕分HM2は、式(16)を用いて算出することができる。
【数12】


ここで、Xは、飛行機10の前進距離あり、2点間(点PA1,PG2)の水平距離であり、γは、最長滑空飛行状態における経路角αである。
【0079】
(滑空時の最適飛行方法:直進時)
次に、図17を参照して、第2実施形態の経路探索装置1における処理手順について説明する。図17は、本発明の実施形態に係るECUで実行される処理を示すフローチャートである。まず、ECU3は、飛行機10の飛行状態量を検出する(S1)。具体的には、センサ2から出力された信号に基づいて、飛行機10の速度、経路角、姿勢角を算出する。
【0080】
次に、ECU3は、飛行機10が最長滑空飛行状態Lで飛行しているか否かを判定する(S2)。具体的には、ECU3の移行判定部53は、機体速度Vと最長滑空飛行状態における速度Vとを比較し、両者が一致した場合に、最長滑空飛行状態Lで飛行している(飛行機10は最長滑空飛行状態である)と判定する。最長滑空飛行状態Lで飛行している場合には、目標迎角値=αを設定する(S3)。最長滑空飛行状態Lにおける仰角値αは、予め計算され、最適迎角値マップ59に記憶されている。
【0081】
一方、ステップS2で、最長滑空飛行状態で飛行していないと判定された場合には、最適迎角値マップ59を参照し、目標迎角値を設定する(S4)。ECU3の目標迎角値設定部54は、最適迎角値マップ59を参照し、飛行機10の飛行状態量に基づいて、ΔHが最大となる最適仰角値を選択し、目標迎角値を設定する。本実施形態に係る経路探索装置1では、一度、最長滑空飛行状態となった後は、目標迎角値=αを常に設定するわけではなく、時々刻々の飛行状態を判定する。なお、飛行機10が最長滑空飛行状態で飛行しているか否かを判定する際には、機体特性や要求される経路の精度に応じて、許容誤差を考慮する。
【0082】
ステップS3又はステップ4の処理が完了した後、ECU3は、ステップS5に進み、フィードバック制御コントローラ(制御部55)でゲインを計算し、アクチュエータ制御を行い、仰角を制御する。これにより、最長滑空飛行状態での飛行を実現する。
【0083】
図18は、選択された最適迎角値による飛行軌跡を示すチャートである。ECU3は、最長滑空状態で飛行していないと判定した場合には、高度上昇分(評価関数)ΔHを最大とする迎角となるように制御する。飛行機10では、自位置での現在の飛行状態量に合わせて、選択した迎角値を目標値として自動制御を行うことで、最長滑空飛行状態を実現する。または、操縦者がマニュアル操縦することで、飛行機10を最長滑空飛行状態にしてもよい。ECU3は、選択した迎角値を表示部に出力することで、操縦者への報知を行う。また、飛行機10の自位置での現実の飛行状態量と、設定されている最長滑空飛行状態(定常滑空飛行)における状態量とに差が生じた場合には、高度上昇分ΔHが最大となる飛行状態で、最長定常滑空飛行に遷移することで、その飛距離を増大させることができる。
【0084】
このような本実施形態に係る経路探索装置1では、速度V以上、かつ、評価関数ΔHを最大にする飛行経路を探索することができる。このような経路探索装置1によれば、最長滑空飛行状態となるように最適な経路を探索し、案内することができる。経路探索装置1では、予め計算された最適迎角値のマップが記憶部に記憶されているため、現在の飛行状態に応じて適切な迎角値を容易に取得することができる。これにより、計算負荷を高くすることなく、最適制御飛行を実現し、飛行機10を最長滑空飛行状態にすることができる。
【0085】
また、あらゆる飛行状態に対して、目的地までの到達判定をオンラインで実行することができる。また、現在の飛行機10の実高度及び高度上昇分の最大値ΔHAmaxに基づいて、滑空飛行による最長飛距離を予測してもよい。エンジン停止時には迎角が決まれば、迎角に基づいて速度及び経路角が決まるため、上記の迎角マップに替えて、速度や経路角のマップを使用することも可能である。
【0086】
なお、これらのマップ化されたデータは、最適迎角値マップ59に記憶されていないものでもよい。その他の記憶手段に記憶されたデータを用いて、最適仰角値を算出する構成でもよい。また、例えば、地上のワークステーションから送信されたデータを飛行機10側で受信し、この受信したデータを用いる構成でもよい。
【0087】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態に係る経路探索装置について説明する。図19は、第3実施形態に係る経路探索装置を示すブロック図である。図19に示す第3実施形態に係る経路探索装置1が、第2実施形態に係る経路探索装置1と違う点は、バンク角算出部35を更に備えている点である。なお、第1,第2実施形態の経路探索装置1と同様の説明については省略する。
【0088】
第3実施形態のECU3では、記憶部39に格納されているアプリケーションプログラムをCPUで実行することによって、高度低下率算出部31、姿勢角算出部32、旋回半径算出部33、経路探索部34、バンク角算出部35、高度上昇分算出部51、到達判定部52、移行判定部53、目標迎角値設定部54、及び制御部55が構成される。
【0089】
バンク角算出部35は、上記の旋回半径算出部33によって算出された高度低下を最小にする旋回と同一の旋回半径にするために、下記式(17)を用いてバンクΦを算出する。
【数13】


ここで、γ:経路角、γ:高度低下を最小にする旋回飛行時の経路角、C:揚力係数、CLG:高度低下を最小にする旋回飛行時の揚力係数、Φ:高度低下を最小にする旋回飛行時のバンク角である。
【0090】
上記式(17)の導出について説明する。旋回飛行時の力の釣合は、下記式(18)によって表現することができる。
【数14】


ここで、ρ:空気密度、V:飛行速度、s:翼面積、R:旋回半径、m:機体質量である。
【0091】
次に、上記式(18)から下記式(19)が導出される。
【数15】

【0092】
そして、上記式(19)から式(17)が導出される。
【数16】

【0093】
式(17)中のγ,Φ,CLGは、飛行機の固有特性によって最適条件が決まるため一定の値となる。したがって、そのときの経路角γと揚力係数Cによってバンク角Φを算出することができる。
【0094】
旋回半径算出部33によって算出された高度低下を最小にする旋回と同一の旋回半径で飛行しない場合には、経路探索部34によって算出された最長滑空飛行状態における飛行軌跡を基準として採用することができため、高負荷な演算処理を実施する必要が生じることになる。
【0095】
(旋回時の高度上昇分を最大にする迎角値を取得するための評価関数)
次に、旋回時の高度上昇分を最大にする迎角値を取得するための評価関数について説明する。図20は、最長滑空飛行状態における飛行軌跡、及び旋回時の高度上昇分を示すフローチャートである。図20では、横軸に飛行機10の水平移動距離を示し、縦軸に高度を示している。
【0096】
経路探索装置1では、以下の評価関数のうちのいずれかを最大にする飛行経路を探索する。飛行機10における飛行が必要な旋回角度に到達していない場合には、評価関数ΔHとして、下記式(20)を採用する。
【数17】


(ここで、Ψ:必要な旋回角度、dHturn:単位旋回角度当りの高度低下量)
【0097】
経路探索装置1では、必要な旋回角度に到達していない場合には、速度V以上、かつ、上記式(20)による評価関数ΔHを最大にする飛行経路LB1を探索する。
【0098】
一方、飛行機10における飛行が必要な旋回角度に到達した場合には、評価関数ΔHとして、下記式(21)を採用する。
【数18】


(ここで、ΔHmax1:旋回後に続く直進滑空時の最大高度上昇分)
【0099】
経路探索装置1では、必要な旋回角度に到達した場合には、上記式(21)による評価関数ΔHを最大にする飛行経路LB2を探索する。
【0100】
例えば、必要な旋回角度以前に最長滑空飛行状態の飛行軌跡Lに到達する場合には、それが最も効率の良い飛行軌跡となるが、旋回角度が小さい場合には、無理に最長滑空飛行状態の飛行軌跡に到達させると効率が低下するおそれがある。本実施形態の経路探索装置1では、旋回飛行の後に続く直進飛行区間での高度上昇分ΔHAmaxを考慮して評価関数ΔHを設定することができ、旋回角度に応じた最適迎角値を求めることができる。なお、ΔHAmaxは、上記の第2実施形態で説明した直線時の飛距離を最長にするための評価関数を用いて、事前計算可能なものであり、旋回角度到達時(点PA1)の飛行状態量に基づいて、直線飛行区間の高度上昇分を算出する。
【0101】
(滑空時の最適飛行方法:旋回時)
次に、図21を参照して、第3実施形態の経路探索装置1における処理手順について説明する。図21は、本発明の実施形態に係るECUで実行される処理を示すフローチャートである。まず、ECU3は、飛行機10の飛行状態量を検出する(S11)。具体的には、センサ2から出力された信号に基づいて、飛行機10の速度、自位置、進行方向、姿勢角を算出する。
【0102】
次に、ECU3は、目的地に向かうために必要な旋回角度を算出する(S12)。具体的には、ECU3の経路探索部34は、旋回半径算出部33によって旋回半径に基づいて、必要旋回角度を算出する。
【0103】
次に、ECU3は、ステップS2に進み、飛行機10が最長滑空飛行状態Lで飛行しているか否かを判定する。最長滑空飛行状態Lで飛行している場合には、ステップS13に進み、目標迎角値=αを設定する共に、目標バンク角=Φを設定する。なお、必要旋回角度が0以下の場合は目標バンク角=0と設定する。ステップS13の処理後、ステップS5に進む。
【0104】
一方、ステップS2で、最長滑空飛行状態で飛行していないと判定された場合には、ステップS4に進み、最適迎角値マップ59を参照し、目標迎角値を設定する。ステップS4の処理後、ステップS14に進み、旋回半径(Ropt)を維持するための目標バンク角を計算する。本実施形態に係る経路探索装置1では、一度、最長滑空飛行状態となった後は、目標迎角値=αや目標バンク角=Φを常に設定するわけではなく、時々刻々の飛行状態を判定する。なお、飛行機10が最長滑空飛行状態で飛行しているか否かを判定する際には、機体特性や要求される経路の精度に応じて、許容誤差を考慮する。
【0105】
ステップS13又はステップ14の処理が完了した後、ECU3は、ステップS5に進み、フィードバック制御コントローラ(制御部55)でゲインを計算し、アクチュエータ制御を行う。これにより、最長滑空飛行状態での飛行を実現する。
【0106】
このような本実施形態に係る経路探索装置1では、旋回飛行中に最長滑空飛行状態Lに移行するよりも、旋回飛行後の直線飛行区間中に最長滑空飛行状態Lに移行した方がよい場合に、旋回飛行後の直線飛行で最長滑空飛行状態Lに移行する飛行経路を探索することができ、飛行機10の飛行距離を延長することができる。また、予め設定された最適迎角値を記憶する最適迎角値マップ59を備える構成であるため、計算負荷を軽減して最適な飛行経路を探索することができる。
【0107】
以上、本発明をその実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態の経路探索装置1では、水平面移動距離算出手段、および必要高度算出手段を備える構成とされているが、これら水平面移動距離算出手段および必要高度算出手段を備えていない経路探索装置1でもよい。
【0108】
また、上記実施形態の経路探索装置1は、必要高度と実高度との差がゼロとなる飛行経路を探索しているが、必要高度と実高度との差がゼロではない飛行経路を探索する構成でもよい。
【0109】
また、上記実施形態の経路探索装置1は、地形データを記憶する地形データ記憶手段を備える構成としているが、地形データ記憶手段を備えていない経路探索装置1でもよい。
【符号の説明】
【0110】
1…経路探索装置、2…センサ、3…ECU(電子制御ユニット)、31…高度低下率算出部、32…姿勢角算出部、33…旋回半径算出部、34…経路探索部、35…バンク角算出部、39…記憶部、4…出力部、10…飛行機、13…主翼、15…垂直尾翼、51…高度上昇分算出部、52…到達判定部、53…移行判定部、54…目標迎角値設定部、55…制御部、59…最適迎角値マップ(迎角値記憶手段)、L…揚力、D…抗力、G…重力、L,L…旋回飛行区間における水平飛行距離、Ls…直線距離、V…速度、α…迎角、γ…経路角、Ψ…着陸点に向かうための旋回角度、Ψ…着陸のための旋回角度、B…障害物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
飛行機の自位置と目標点との間の飛行経路を探索する経路探索装置であって、
前記飛行機の旋回飛行における単位旋回角度あたりの高度低下量である高度低下率を算出する高度低下率算出手段と、
前記高度低下率算出手段によって算出された前記高度低下率が最小となるような姿勢角を算出する姿勢角算出手段とを有し、
前記姿勢角算出手段によって算出された前記姿勢角に基づいて、前記旋回飛行における旋回半径を算出することを特徴とする経路探索装置。
【請求項2】
飛行機の自位置と目標点との間の飛行経路を探索する経路探索装置であって、
前記飛行機の旋回飛行における単位旋回角度あたりの高度低下量である高度低下率を算出する高度低下率算出手段と、
前記高度低下率算出手段によって算出された前記高度低下率が最小となるような姿勢角を算出する姿勢角算出手段と、
前記姿勢角算出手段によって算出された前記姿勢角に基づいて、前記旋回飛行における旋回半径を算出する旋回半径算出手段と、
前記旋回半径算出手段によって算出された前記旋回半径に基づいて、前記旋回飛行における飛行距離を算出し、算出された当該飛行距離に応じた前記飛行経路を探索する飛行経路探索手段と、を備えることを特徴とする経路探索装置。
【請求項3】
探索された前記飛行経路に沿って飛行して前記目標点へ着陸するために必要な旋回飛行および直線飛行を設定し、設定された当該旋回飛行および直線飛行の水平面方向の移動距離を算出する水平面移動距離算出手段と、
前記水平面方向の移動距離に基づいて、前記目標点へ着陸するために必要な高度である必要高度を算出する必要高度算出手段と、を備え、
前記飛行経路探索手段は、前記必要高度および前記飛行機の実際の高度である実高度を用いて、前記飛行経路を探索することを特徴とする請求項2記載の経路探索装置。
【請求項4】
前記飛行経路探索手段は、前記必要高度と前記実高度との差がゼロとなる前記飛行経路を探索することを特徴とする請求項3記載の経路探索装置。
【請求項5】
地形の高低を示すデータを含む地形データが記憶された地形データ記憶手段を備え、
前記飛行経路探索手段は、前記地形データに基づいて、前記自位置を中心として水平面方向における360度の範囲で到達可能な前記目標点の範囲を算出し、算出された当該範囲内に存在する前記目標点までの飛行経路を探索することを特徴とする請求項2〜4の何れか一項に記載の経路探索装置。
【請求項6】
自位置での飛行状態を示す飛行状態量に基づいて、自位置から最長滑空飛行状態への移行に要する高度上昇分の最大値を算出する高度上昇分算出手段を更に備え、
直線飛行における前記最長滑空飛行状態は、前記飛行機に作用する揚力Lと抗力Dとの比である揚抗比L/Dが最大となるような姿勢角及び速度が成立する状態であり、
前記旋回飛行における前記最長滑空飛行状態は、前記高度低下率が最小となるような姿勢角が成立する状態であり、
前記飛行経路探索手段は、前記最長滑空飛行状態における必要高度、自位置における実高度、および前記高度上昇分の最大値に基づいて、前記飛行経路の探索を行うことを特徴とする請求項2〜5の何れか一項に記載の経路探索装置。
【請求項7】
予め設定された最適迎角値を記憶する迎角値記憶手段と、
前記最長滑空状態への移行完了前に、前記最適迎角値及び前記自位置での飛行状態量に基づいて、目標迎角値を設定する目標迎角値設定手段と、を備えることを特徴とする請求項6に記載の経路探索装置。
【請求項8】
前記目標迎角値設定手段は、前記目的地に向かうために必要な旋回角度に基づいて前記目標迎角値を設定することを特徴とする請求項7に記載の経路探索装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate


【公開番号】特開2011−247871(P2011−247871A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−235(P2011−235)
【出願日】平成23年1月4日(2011.1.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】