説明

結合エネルギーを測定する方法及び装置

二つの層、特にマイクロエレクトロニクス装置の薄い二つの層の間の接着性は重要なデータである。界面の密閉率を用いて、非破壊的な方法で結合エネルギーの測定できることがわかった。
強度特性、特に小さな入射角で入射するX線の反射と界面における電子密度を用いた方法と装置が開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二つの表面間の接着性に係り、特に界面における結合エネルギーの測定を可能にする方法及び装置、また分子結合によって組み立てられる層への応用に関する。
【背景技術】
【0002】
基板上の薄膜層の接着性を測定することは、数多くの工程において問題となり、特にマイクロエレクトロニクスにおいて問題となる。一般的に、この接着性を見積もることは、サンプルの破壊を伴う。つまり、結合エネルギーを測定するために用いられる方法は一般的に、亀裂を生じさせる機械抵抗による試験に基づいている。
【0003】
特に、接着は、外的な接着剤に頼らずに異なる物質を組み合わせるのに用いられる一般的な方法である分子結合における重要な基準である。この方法は多数の応用を有しており、例えば、シリコン・オン・インシュレータ(Silicon−On−Insulator,SOI)基板の製造が挙げられる。SOIにおいては、二つのシリコンウェーハが組み合わせられており、シリコンウェーハの少なくとも一つは表面が酸化されている。つまり、絶縁性の酸化層によって覆われている。その後、ウェーハの一つが、例えば、注入後に割れ目を形成することや、機械化学的な作用等によって薄くされてもよい。従って、得られるSOIウェーハは、機械的な支持体の上に結合させた層から成る。
【0004】
一般的にSOIウェーハは、例えば、アニーリング、堆積、機械的圧力等の連続した異なる処理を受ける。層を支持体から脱着させ異なる基板上に移して、より複雑な積層構造にする場合もある。従って、こうした製品の製造及び使用においては、工程の様々な段階における結合エネルギーを制御及び定量化することが重要である。
【0005】
現在、分子結合の場合に接着エネルギーを測定するために用いられる主な方法は、“ブレード法”と呼ばれる方法である。この方法においては、基準となるスペーサ装置が、結合している二つのウェーハの間に挿入されて、その結果生じた剥離が測定される。結合エネルギーが弱いほど、この剥離は大きなものとなる(非特許文献1を参照)。しかしながら、この方法はリジッドなウェーハにしか適用することができず、基板上の薄くされた層のエネルギーを測定することには適していない。更に、スペーサ装置を挿入することは、破壊的なものであると考えられる。何故ならば、主な機械的作用が組み合わせられたSOIの表面に加えられ、その一部が分離せざるを得ないからである。
【0006】
【非特許文献1】W.P.Maszara外、「Bonding of silicon wafers for silicon−on−insulators」、J.Appl.Phys.、1988年、第64巻、p.4943‐4950
【非特許文献2】M.Born、E.Wolf著、「Principle of Optics」、第6版、Pergamon Press、1980年
【非特許文献3】B.Bataillou、H.Moriceau、F.Rieutord、「Direct inversion of interfacial reflectivity data using the Patterson function」、J.Appl.Cryst.、2003年、第36巻、p.1352‐1355
【非特許文献4】K.L.Johnson著、「Contact Mechanics」、Cambridge University Press、1985年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述の欠点を克服して、非破壊的な方法で結合エネルギーを測定することを課題とする。
【0008】
特に、本発明は、界面の密閉率またはその強度特性(例えば、界面での電子密度の差)を用いた結合エネルギーの測定に関する。ここで、密閉率は、原子結合のスケールつまりナノメートルレベルで測定される。従って、密閉率の決定には、例えば界面の“気泡”等のマクロな欠陥を数えることは関係しない。本発明は、特にマイクロエレクトロニクスにおける基板に分子結合によって生じた接着を測定するために適用される。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一側面によると、本発明は、界面における電子密度の差を決定する段階を備えた二表面間の結合エネルギーを測定するための方法に関する。有利な点として、電子密度の差の決定は、界面に小さな入射角で入射するX線の反射を用いて実行される。他の側面によると、中性子の拡散長密度の差が用いられる。
【0010】
基準となるものを用いて、電子密度の差、または拡散長の差、密閉率から結合エネルギーが導出されることが好ましい。
【0011】
また、本発明は、本発明の方法を実施するために用いられる装置に関する。特に、本発明の装置は、(ナノメートルスケールでの)密閉率またはその特徴的な強度(例えば、電子密度の差や拡散長の差等)を測定するための手段を備える。有利な点として、測定手段は、小さいことが好ましい入射角に対する界面でのX線反射率を表すグラフから、密閉率の情報を導出する手段を含む。本装置は、X線を検出する手段と、入射角の変化に応じた検出される反射率を記憶する手段とを備えてもよい。X線の代わりに中性子を用いてもよい。
【0012】
好ましい実施例においては、本発明の装置は、密閉率、または電子密度の差、拡散長の差に応じた結合エネルギーを基準化するための基準プロファイルと、密閉率または決定された密度の差とこのプロファイルとを比較するための手段とを備える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の特徴と利点は、添付した図面を参照して下記の説明を読むことによってより良く理解されるものである。しかしながら、図面と説明は例示を目的とするものであり、本発明を限定するものではない。
【0014】
結合のメカニズムについて研究することにより、本発明者は、結合エネルギーが界面の構造つまり物体の分布に関連していることがわかった。特に、界面の密閉率は、支持体と化合物との間の結合エネルギーに関連付けることが可能であり、このことは、この中間部分の測定が可能であるということを意味している。ここで、界面の密閉率は、化合物が基板とナノメートルスケールで実際に接触している表面積対この接触部分の全表面積の比として定義される。本発明はこの知見によるものである。
【0015】
一般的に、接着界面は、結合領域と非結合領域が交互に繰り返されて形成される。特に、分子結合によって組み合わせられた薄膜においては、界面の非結合領域における層間距離が極端に短く、典型的には1ナノメートルオーダーである。従って、表面が接触していないことを証明するには、非常に繊細な方法が要求される。
【0016】
非破壊的な方法を用いて密閉率や強度特性を測定するためには、X線が特に適切であることがわかった。これはX線の波長が典型的には0.1nmのオーダーの短波長であるためである。
【0017】
しかしながら、多層光学系のマトリックス法や逆フーリエ変換(非特許文献2を参照)という適切な処理を用いて、入射角に従う界面上のX線反射率を測定することによって、界面を介した電子密度のプロファイル、つまり界面で測定される単位体積当たりの電子数を決定することが可能であるということは既に示されている(非特許文献3を参照)。
【0018】
しかしながら、密閉率が100%、つまり非接触領域がないのであれば、電子密度ρは結合した物質の電子密度と同じであり、特にシリコン・オン・シリコン型のSOIウェーハにおけるシリコンの電子密度ρSiと同じである。一方、一部しか結合していないのであれば、界面の電子密度ρは固体シリコンの電子密度ρSiの一部でしかない。実際、一般的に得られる電子密度のプロファイルは、結合界面における電子密度の差Δρの形式であり、この差が小さいほど、接着は強力なものとなる(図2Bを参照)。
【0019】
従って、いくつかの点で基準化することが可能な関数に従って電子密度の差Δρから、密閉率を推定することができる。所望の相関関係を得るために、粗い表面間の接着モデルを用いることも可能である。こうしたモデルについては、例えば非特許文献4に説明されている。
【0020】
電子密度の差と結合エネルギーの対応関係も、標準曲線やサンプリングプロファイルから推定可能である。
【0021】
また、本発明の測定方法を実現するために用いられる装置は、図1に示すようなX線源1と、角度計2と、検出器3とを備えるという利点を有する。例えば、検出された情報を記憶するためのマイクロコンピュータ等の装置4は検出器3に接続されている。有利な点として、装置4は、本発明による計算や比較を行い結合エネルギーEの結果を得るようにプログラムされている手段に結合されている。
【0022】
例えばSi層12及び薄いSi層14を含むSOIウェーハ等の構造物10は、角度計2の上に配置されている。本発明による方法の利点の一つは非破壊的であるという点であり、構造物10に何か特別な準備をする必要がない。
【0023】
基板12と表面層14との間の界面は、X線源1から放出されたX線放射に晒される。界面16により反射された強度は、検出器3によって測定され、実験の際に測定されている直接入射ビームの強度に従って装置4で規格化され、界面16でのX線反射率Rが得られる。角度計によって入射角θを変化させることが可能であり、X線源1によって放出されたX線の入射角θに応じて反射率が測定される。一般的に、一度以下から数度までの非常に小さな角度が走査される。
【0024】
大抵の場合、反射率Rは、入射角θと共に減少し、伝えられる波数ベクトルの垂直成分(q=4π/λ sinθ、ここでλは用いられる放射の波長)と関係付けて表されることが多い(図2Aを参照)。
【0025】
qに応じた反射率の曲線Rから、上述のように、界面付近の電子密度ρ(z)のプロファイル及び界面16での電子密度Δρを決定することができる(図2Bを参照)。
【0026】
電子密度ρは界面の結合部分に対応しているので、単純な関数を用いて、密度ρSiの二つの層12、14の間の界面16での電子密度Δρから結合エネルギーが計算される。この関数は、粗い表面間の接着モデルから計算されたものであってもよいし、いわゆる“ブレード”法を用いてエネルギーを測定した複数の点から単純に基準化されたものであってもよい。図2Cの曲線上の点は、上述の非特許文献1のMaszara法(厚いウェーハの結合)を用いて、シリコンとシリコンの界面、またはシリコンと酸化物の界面の結合エネルギーを測定した一連の測定結果である。
【0027】
様々な段階を同じマイクロコンピュータ4を用いて実行することもできるし、検出装置が、それぞれの段階の中間結果を獲得して記憶する別々の手段を備えていてもよい。
【0028】
本発明の方法は、様々なアニーリング温度でのまた、結合エネルギーを変更するための様々な表面処理を施された疎水結合及び親水結合に対して確認された。その結果、本発明の方法によって信頼できる結果が得られることが示された。
【0029】
層による放射吸収の拡がりを考慮すると、構成物10の上部層14の厚さは1マイクロメートル以下であり、従来の線源(例えばX線チューブの銅陽極)を用いて、シリコン等の物質であることが好ましい。この制限は、例えばハードX線や中性子等の吸収されにくい放射や、吸収しにくい物質を用いることによって、改善される。特に中性子放射においては、拡散長の密度の差、つまり中性子と核の相互作用の特徴である強度を評価することによって、密閉率が有利に決定される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の好ましい実施例による測定方法を実施するための装置を示す。
【図2A】本発明の一実施例による測定方法の段階を概略的に示す。
【図2B】本発明の一実施例による測定方法の段階を概略的に示す。
【図2C】本発明の一実施例による測定方法の段階を概略的に示す。
【符号の説明】
【0031】
1 X線源
2 角度計
3 検出器
4 マイクロコンピュータ
10 構成物
12 基板
14 表面層
16 界面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉率の強度特性を決定する手段(4)を備えた二つの層(12、14)の間の結合エネルギー(E)を測定するための装置。
【請求項2】
前記密閉率の強度特性は界面(16)における電子密度の差(Δρ)である請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記電子密度の差(Δρ)を決定する手段(4)は、前記界面(16)上の入射角(θ)のX線の反射プロファイル(R)から、前記境界における電子密度(ρ(z))を導出するための手段を備える請求項2に記載の装置。
【請求項4】
X線を検出し、検出された前記X線の反射率(R)を記憶する手段(3,4)を備えた請求項2または請求項3のいずれかに記載の装置。
【請求項5】
前記密閉率の強度特性は界面(16)における拡散長密度の差である請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記電子密度の差(Δρ)から前記密閉率を決定する手段(4)を備えた請求項2から請求項4のいずれか一項に記載の装置。
【請求項7】
前記拡散長の差から前記密閉率を決定する手段(4)を備えた請求項5に記載の装置。
【請求項8】
前記密閉率に対応した結合エネルギーの基準プロファイルと、決定された前記密閉率と前記基準プロファイルとを比較するための手段とを備えた請求項6または請求項7のいずれかに記載の装置。
【請求項9】
前記密閉率の強度特性に対応した結合エネルギーの基準プロファイルと、検出された前記強度と前記基準プロファイルとを比較するための手段とを備えた請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の装置。
【請求項10】
界面における電子密度の差を決定する段階を備えた結合エネルギーを測定するための方法。
【請求項11】
前記界面で小さな入射角のX線を反射させる段階を備えた請求項10に記載の方法。
【請求項12】
界面における波長密度の差を決定する段階を備えた結合エネルギーを測定するための方法。
【請求項13】
前記界面で小さな入射角の中性子を反射させる段階を備えた請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記界面における決定された前記密度の差と基準プロファイルとを比較する段階を備えた請求項10から請求項13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
分子結合によって組み合わせられた層の間の結合エネルギーを測定するための請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の装置または請求項10から請求項14のいずれか一項に記載の方法の使用。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【公表番号】特表2008−518200(P2008−518200A)
【公表日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−537358(P2007−537358)
【出願日】平成17年10月24日(2005.10.24)
【国際出願番号】PCT/FR2005/050891
【国際公開番号】WO2006/045979
【国際公開日】平成18年5月4日(2006.5.4)
【出願人】(590000514)コミツサリア タ レネルジー アトミーク (429)
【Fターム(参考)】