結合組織増殖因子に対する抗体又はそれを含む組成物
【課題】結合組織増殖因子(CTGF)を特異的に認識しかつその生物活性を阻害する能力の高い抗体を提供する。
【解決手段】CTGFを特異的に認識することができる抗体、特にCTGFの天然高次構造を特異的に認識することができる抗体で、CTGFをコードするDNA又はその機能性断片を発現可能に含む発現ベクターを非ヒト動物に免疫することを含む、DNA免疫によって作製された抗体。この抗体を含む線維症又は細胞増殖性疾患の治療、予防に、又は診断用組成物として利用することができる。
【解決手段】CTGFを特異的に認識することができる抗体、特にCTGFの天然高次構造を特異的に認識することができる抗体で、CTGFをコードするDNA又はその機能性断片を発現可能に含む発現ベクターを非ヒト動物に免疫することを含む、DNA免疫によって作製された抗体。この抗体を含む線維症又は細胞増殖性疾患の治療、予防に、又は診断用組成物として利用することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結合組織増殖因子(Connective Tissue Growth Factor; CTGF)を特異的に認識することができる抗体に関する。
【0002】
本発明はまた、上記抗体の作製方法、並びに、上記抗体を含む医薬組成物又は診断用組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
ヒトCTGFは、322アミノ酸(但し、シグナルペプチドを含むとき349アミノ酸)からなる、39個のシステイン残基を有する結合組織増殖因子であり、そのアミノ酸及び塩基配列は1991年以来知られている(非特許文献1〜2)。このタンパク質は創傷治癒作用があることが知られる一方、細胞増殖性疾患、線維性疾患、アテローム性硬化症、緑内障などの疾患や障害に関係することが知られている(特許文献1〜7、非特許文献2〜4)。このような疾患や障害の治療又は診断のために、ヒトCTGFに対する抗体の使用が提案されている(特許文献1〜7、非特許文献4)。
【0004】
一般に、抗体の作製のために、タンパク質またはペプチドを抗原として動物に免疫し抗体を作製する方法が使用される。In vivoでの抗体産生は、免疫される動物が、その抗原を異物として認識することによって、抗原提示細胞に抗原を提示し、T細胞にシグナル伝達されこれを活性化し、活性化されたT細胞はさらにB細胞を刺激し、抗体産生細胞へと導くことによって行われる。
【0005】
しかし、ヒトCTGFを抗原として動物に直接免疫する従来の抗体産生法で抗体を作製する試みは、本発明者らの経験では、多くの場合、失敗するか、或いは非常に抗体価の低いものであった。これは、例えばヒトCTGFを哺乳動物でけでなくニワトリに免疫した場合にも同様に認められた。その原因は明らかではないが、CTGFは本来粘着性の強い蛋白であるため、種々の表面に付着し、その結果十分な免疫化が行われなかったことが原因の1つとして推定される。
【0006】
ヒトCTGFはまた、この蛋白が固有にもつ特殊な構造、すなわち39個のシステイン残基を有し、少なくとも5個のジスルフィド結合が存在する構造のために、分子内ジスルフィド結合の組み換えを起こしやすい特性を抱えている。そのため、この蛋白が非天然環境(例えば精製環境)に晒されたときには、そのような組み換えを起こし、それによって蛋白本来の高次構造が変化し、その結果、蛋白の変性が生じることが推定される。このような特殊な構造特性のために、ヒトCTGFの天然型高次構造を特異的に認識する抗体を得ることを可能にすることも、今後の課題の1つである。
【0007】
ヒトCTGFに対する抗体に関する上記のような特許文献や刊行物は存在するが、大量に該抗体を作製するための方法は皆無であるし、また、その天然型高次構造を特異的に認識する抗体を実際に得ることが難しいため、それが望まれているにも拘らず実用的な抗体は未だ出現していないのが現状である。
【0008】
本願ではDNA免疫法(又は遺伝子免疫法)を利用して抗体を作製する方法を提供するが、DNA免疫法については、例えば特許文献8、非特許文献5〜8などに記載されている。DNA免疫法は、in vivoで、ある種の抗原に対する抗体が産生するように、該抗原をコードするDNAをベクターに発現可能に挿入し、このベクターをヒトなどの動物に接種する、いわゆる遺伝子ワクチン接種を指す。そのような抗原には、例えばウイルス抗原、腫瘍関連抗原、原虫抗原、微生物抗原が含まれる。接種後、DNAが発現され、抗原が生成し、生体内の免疫系に取り込まれて抗体が生じる。
【0009】
DNA免疫の応用として、非特許文献9は、DNA免疫法を利用したポリクローナル抗体の作製を記載している。この方法は、抗原蛋白のN末端側に分泌リーダーと抗原性タグを連結したような融合蛋白をコードするDNAを発現可能にベクターに組込み、そのベクターにて動物を免疫することを含む。抗原性タグはアジュバントのような役割をもち、in vivoではタグに対する抗体も生成する。
【特許文献1】特表平11-507332号公報
【特許文献2】特開平11-180895号公報
【特許文献3】特開2004-132974号公報
【特許文献4】特表2002-529066号公報
【特許文献5】特表2002-504332号公報
【特許文献6】特表2005-505757号公報
【特許文献7】特表2002-524422号公報
【特許文献8】特表2000-582427号公報
【非特許文献1】D.M. Bradhamら, J. Cell Biol. 114:1285-1294 (1991)
【非特許文献2】A. Igarashiら, Mol. Biol. Cell 4:637-645 (1993)
【非特許文献3】M. Minatoら, J. Biochem. 135:347-354 (2004)
【非特許文献4】T. Moriら, J. Cellular Physiology 181:153-159 (1999)
【非特許文献5】J.S. Boyleら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94:14626-14631 (1997)
【非特許文献6】S. Gurunathanら, Annu. Rev. Immunol.18:927-974 (2000)
【非特許文献7】D.C. Tangら, Nature 356:152-154 (1992)
【非特許文献8】H. Tigheら, Immunol. Today 19:89-97(1998)
【非特許文献9】R.S. Chambers及びS.A. Johnston, Nature Biotechnology 21(9):1088-1092 (2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ヒトCTGFは、CCNファミリーに属し、4つのモジュールにより形成されている増殖因子の一つとして多彩な生体機能をもつことが知られている。特に、CTGFは皮膚線維症などの線維症における前硬化性分子として注目されており、特異抗体の開発はこの分子の発現と病態進行との関係を調べる研究および線維症をはじめとするCTGF過剰生産と関連した疾病に対する分子標的治療法開発にとって重要な鍵になると考えられる。しかし、活性を保持した抗原タンパク質を確保する目的で該分子を組換えタンパク質として大量に生産および精製することは難しいうえに、CTGF分子に対して従来の抗体作製法で抗体を作製することは非常に難しかった。実際、市販のCTGF抗体は存在するが、特異性が低いため使用に適さない。
【0011】
このような状況において、本発明の目的は、天然型CTGFを特異的に認識することができる抗体を提供することである。
【0012】
本発明の別の目的は、上記抗体を含む医薬組成物又は診断用組成物を提供することである。
【0013】
本発明のさらに別の目的は、上記抗体の作製方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、当初、ヒトCTGFをコードするDNAを組換えバキュロウイルスを感染させた昆虫細胞を用いて発現し、アフィニティカラムによって精製した組換えヒトCTGFを作製し、この組換え蛋白を抗原としてマウス及びニワトリに免疫したが、期待された抗体は産生されなかった。もとより天然型高次構造を保持した該蛋白を認識する抗体を得るために、次にDNA免疫によるマウスでの抗体作製を試みたが、フローサイトメトリーによるマウスの抗血清解析の結果、抗体価が低いことが確認された。
【0015】
本発明者らはさらに、DNA免疫法において免疫増強シグナルペプチドをコードするDNAを発現ベクターに挿入し、免疫による抗体価上昇を調べた。しかしながら、顕著なCTGF抗体価上昇は認められなかった。その原因として、発現産物であるCTGF抗原濃度が非常に低濃度であったため、免疫系の誘起に十分でないことが予想された。CTGFは粘着性の高い蛋白であり、このような特性が影響したかもしれない。そこで、細胞表面に一定時間高濃度でCTGFを留まらせることを考え、免疫増強シグナルの直前に局在シグナルをコードするDNAを付加したプラスミドを作製し、同様に免疫したところ、CTGF抗体価が顕著に上昇し、実用的なCTGF抗体の作製に成功するとともに、従来にないほどに高親和性で天然型ヒトCTGF構造を特異的に認識する抗体を提供することを可能にした。ヒトCTGFは、構造的にも、また高粘着性という性質の点でも、特異な特性をもつ蛋白である。これまで、CTGFに対する抗体が市販されているが、使用に耐えないほどに特異性の低い抗体である。また、CTGFは、その特異な性質のために、抗体が極めて得られ難いという特性を有しているため、従来特許文献や刊行物等で開示される方法では、抗体が得られないか、或いは非常に低い抗体価で実用性のない抗体が得られるだけであった。これに対して、本発明の方法は、再現よくかつ特異的なヒトCTGF抗体を作製することを可能にする。このような方法は、これまで当業者が想到しえなかったものであり、実用的レベルで生産を可能にし、かつ天然型ヒトCTGFを特異的に認識する抗体を供給可能にしたことは、CTGFに関して画期的なことである。
【0016】
したがって、本発明は、要約すると、以下の特徴を有する。
本発明は、第1の態様において、結合組織増殖因子(CTGF)を特異的に認識することができる、DNA免疫によって作製された抗体又はその断片を提供する。
【0017】
その一の実施態様において、上記CTGFがヒトCTGFである。
その別の実施形態において、本発明の抗体がヒト抗体又はヒト化抗体である。
【0018】
本明細書中、ヒト抗体は、完全ヒト型抗体を指し、ヒト抗体遺伝子が産生する抗体と同一の抗体である。また、ヒト化抗体は、ヒト抗体の一部と他の動物の抗体の一部とに由来するキメラ抗体であり、例えばヒト抗体のうち超可変領域のCDRの一部又は全部が、非ヒト動物(例えばマウス)の対応物と置換されたような抗体である。
【0019】
その別の実施形態において、上記DNA免疫が、上記CTGFをコードするDNA又はその機能性断片を発現可能に含む発現ベクターを非ヒト動物に免疫することを含むものである。
【0020】
上記ベクターは、分泌シグナルペプチドをコードするDNAをさらに含むことができる。
上記ベクターは、局在シグナル及び免疫増強シグナルを含むペプチドをコードするDNAをさらに含むことができる。
【0021】
好ましくは、上記ベクターは、分泌シグナルペプチド、局在シグナルペプチド、免疫増強シグナルペプチド、CTGFタンパク質の各々をコードするDNAを、5'末端側からこの順序で含む。
【0022】
本明細書中で使用される分泌シグナルペプチドは、細胞内で発現、翻訳されたCTGFを細胞膜に輸送する働きのあるペプチドであって、シグナルペプチダーゼによるプロセシングによって切断されるペプチドである。このとき、CTGFは細胞外に分泌される。好ましいペプチドは、CTGFのシグナルペプチドである。
【0023】
本明細書中で使用される局在シグナルペプチドは、細胞内で発現、翻訳されたCTGFを細胞膜に移行し、かつ分泌されたCTGFを細胞膜上にアンカーする働きを有する任意のペプチドである。
【0024】
本明細書中で使用される免疫増強シグナルペプチドは、CTGFの免疫原活性又は抗原活性を高めるための任意のペプチドである。
【0025】
本発明において、上記機能性断片の例は、CTGFのモジュールである。ここで、モジュールとは、CTGF蛋白において、機能、働き又は作用をもつ構成要素を指す。そのようなモジュールの例は、インスリン様成長因子結合要素、フォンヴィルブラントC型要素、トロンボスポンジン1型リピート要素、C末端システインノット要素、ヘパリン結合要素、などである。具体的には、図1に示されるような、ヒトCTGFのモジュール1、モジュール2、モジュール3又はモジュール4をを含む。
【0026】
本明細書中で使用されるDNAという用語には、cDNA及びゲノムDNAの両方が含まれる。cDNAは、動物の組織又は細胞内のmRNAからcDNAクローニングによって合成されうる。
【0027】
その別の実施形態において、上記全長ヒトCTGFをコードするDNA又はその機能性断片が、配列番号2、4、6、8又は10によって示される塩基配列を含むものである。
その別の実施形態において、上記動物が哺乳動物である。
その別の実施形態において、上記哺乳動物がマウスである。
【0028】
好ましくは、上記マウスはヒト抗体産生トランスジェニックマウスである。このマウスは、ヒト人工染色体を用いる遺伝子組換え技術によってマウス染色体上のマウス抗体遺伝子に代えてヒト抗体遺伝子が導入され、これによって完全ヒト抗体を産生することが可能なトランスジェニックマウスである。
【0029】
その別の実施形態において、本発明の抗体が上記CTGF分子の天然型高次構造を特異的に認識することができる。
【0030】
本明細書中、CTGFの天然型高次構造は、そのアミノ酸配列中のリッチなシステイン残基間で形成される天然位置でのジスルフィド結合によって形成されるCTGFが生体内で採るネイティブな高次構造(コンフォメーションとも称する)を意味する。
【0031】
また、本明細書中、CTGFの天然型高次構造を特異的に認識するとは、本発明の抗体が、天然型高次構造をもつCTGFの連続的又は不連続的な表面抗原エピトープを、天然CTGFの精製又は遺伝子組換えの際に分子内ジスルフィド結合組換えによる構造的変性が生じたような変性型CTGFの表面抗原エピトープと比べて、より良く認識することを意味する。ここで、特異的とは、天然型高次構造をもつCTGFを認識するが上記変性型CTGFを認識しないか、或いは上記変性型CTGFよりも天然型高次構造をもつCTGFを相対的に認識しやすいことを意味する。このように相対的に高い認識度(又は免疫学的反応性)、言い換えれば10倍以上、好ましくは100倍以上、さらに好ましくは1,000倍以上高い結合能を、本明細書中では、特異的に認識するという。
【0032】
本明細書中、DNA免疫は、CTGFをコードするDNA又はその機能性断片を発現可能に組み込んだ発現ベクターを非ヒト動物、好ましくは哺乳動物、の皮下に注入し、細胞内で発現し分泌された該タンパク質の異種性のために、動物内でそのタンパク質に対する抗体が産生することを含む一連の手法を意味する。
【0033】
本発明の抗体は、タンパク質性又はペプチド性抗原を動物の皮下に直接注入する従来の抗体作製法ではなく上記のDNA免疫法を使用することによって得ることができるという知見は、本発明の特徴の1つでもあり、本願出願前、当業者が全く予想していなかったことである。
【0034】
本明細書中、発現可能にとは、調節配列の制御下で、上記CTGFをコードするDNA又はその機能性断片が発現されて、対応するタンパク質又はペプチドがin vivoで生成することを意味する。
【0035】
その別の実施形態において、本発明の抗体は、上記ヒトCTGFのモジュール1、モジュール2、モジュール3又はモジュール4のいずれか1つを特異的に認識することができる。
【0036】
その別の実施形態において、本発明の抗体が、前記CTGFに対する結合定数(KA)3.0×107M-1以上及び/又は解離定数(KD)5.6×10-9M以下を有するものである。
【0037】
従来の免疫法によって作製された(ポリクローナル又はモノクローナル)抗体の天然型ヒトCTGFに対する結合定数はこれまで具体的に報告されていないが、そのような抗体がヒトCTGFと交差反応しにくく低親和性であることが知られている(例えばJ. Biochem, 2004, 135:347-354)。本発明の抗体はいずれも、従来の免疫法によって作製された抗体と比べてより高いヒトCTGFに対する結合定数、或いはより低い解離定数、をもつことによって特徴付けられる。
【0038】
本発明はまた、第2の態様において、上で説明したような本発明の抗体又はその断片を含む医薬組成物を提供する。
【0039】
その一の実施形態において、本発明の抗体がモノクローナル抗体である。
その別の実施形態において、本発明の抗体がヒト抗体又はヒト化抗体である。
その別の実施形態において、本発明の抗体が治療用薬剤と結合されている。
【0040】
このような抗体と治療用薬剤とのコンジュゲートは、いわゆる分子標的を目的とした医薬である。本発明の抗体と治療用薬剤は、該抗体によって疾患標的部位に輸送され、CTGFが関係する疾患の治療又は予防のために作用することができる。
【0041】
そのような疾患の例には、線維症又は線維化に伴う硬化症、或いは細胞増殖性疾患がある。具体的には、上記線維症又は線維化に伴う硬化症は、例えば腎線維症、肺線維症、肝線維症、又は強皮症(又は皮膚線維症)を含む。また、上記細胞増殖性疾患は、例えば癌である。
【0042】
本発明はさらに、第3の態様において、上で説明したような本発明の抗体又はその断片を含む診断用組成物を提供する。
【0043】
その一の実施形態において、本発明の抗体がモノクローナル抗体である。
その別の実施形態において、本発明の組成物は線維症又は線維化に伴う硬化症、或いは細胞増殖性疾患の診断のために使用される。
【0044】
上記線維症又は線維化に伴う硬化症は、例えば腎線維症、肺線維症、肝線維症又は強皮症(又は皮膚線維症)である。また、上記細胞増殖性疾患が癌である。
【0045】
その別の実施形態において、本発明の抗体が、Mouse-Mouse hybridoma CTGF-m11(FERM ABP-10454)、Mouse-Mouse hybridoma CTGF-m12(FERM ABP-10455) 又はMouse-Mouse hybridoma CTGF-m21(FERM ABP-10456)のハイブリドーマ由来のモノクローナル抗体である。
【0046】
本発明はさらに、第4の態様において、Mouse-Mouse hybridoma CTGF-m11(FERM ABP-10454)ハイブリドーマ由来のモノクローナル抗体を提供する。
【0047】
本発明はさらに、第5の態様において、Mouse-Mouse hybridoma CTGF-m12(FERM ABP-10455)ハイブリドーマ由来のモノクローナル抗体を提供する。
【0048】
本発明はさらに、第6の態様において、Mouse-Mouse hybridoma CTGF-m21(FERM ABP-10456)ハイブリドーマ由来のモノクローナル抗体を提供する。
【0049】
本発明はさらに、第7の態様において、CTGFをコードするDNA又はその機能性断片を発現可能に含む発現ベクターを非ヒト動物に免疫し、該CTGFを認識する抗体を含む体液、或いは該抗体を産生する細胞、を取り出し、該CTGFを認識するポリクローナル又はモノクローナル抗体を得ることを含む、上記の本発明抗体の作製方法を提供する。
【0050】
その実施形態において、上記CTGFがヒトCTGFである。
その別の実施形態において、上記非ヒト哺乳動物がげっ歯類又は有蹄類である。
その別の実施形態において、上記げっ歯類がマウスである。
その別の実施形態において、上記マウスがヒト抗体産生トランスジェニックマウスである。
【0051】
その別の実施形態において、上記ベクターが分泌シグナルペプチドをコードするDNAをさらに含むことができる。
その別の実施形態において、上記ベクターが局在シグナル及び免疫増強シグナルを含むペプチドをコードするDNAをさらに含むことができる。
【0052】
好ましくは、上記ベクターは、分泌シグナルペプチド、局在シグナルペプチド、免疫増強シグナルペプチド、CTGFタンパク質の各々をコードするDNAを、5'末端側からこの順序で含む。
【0053】
その別の実施形態において、上記抗体を産生する細胞が脾臓細胞、B細胞又はリンパ細胞である。
その別の実施形態において、上記有蹄類がウシである。
その別の実施形態において、上記体液が血清又は乳汁である。
【0054】
その別の実施形態において、上記ポリクローナル又はモノクローナル抗体が、前記ヒトCTGFに対する結合定数(KA)3.0×107M-1以上及び/又は解離定数(KD)5.6×10-9M以下を有することによって特徴付けられる。
【0055】
また、上記機能性断片の例は、ヒトCTGFのモジュール1、モジュール2、モジュール3又はモジュール4をコードするDNAである。
【0056】
その別の実施形態において、本発明の方法は、上記抗体を産生する細胞或いは前記ハイブリドーマをフローサイトメトリーにて選抜することをさらに含む。
【発明の効果】
【0057】
本発明により、抗原を動物に直接免疫する従来の抗体産生法によって得られた抗体と比較して、天然型高次構造を有するCTGFに対する結合親和性が顕著に高い及び該CTGFの生物活性を特異的かつ高度に阻害する抗体が提供される。このような抗体を見出したことは、当該分野の当業者にとって非常に驚くべきことである。本発明の抗体が、特にヒト抗体産生トランスジェニック動物においてin vivoで産生されるときは、ヒト抗体が得られ、これは、ヒトにおいてCTGFが関連する疾患、例えば線維症や細胞増殖性疾患、の有効な治療のために、拒絶反応なしに使用可能である。このように、本発明は、従来の抗体産生法で作製された抗体では十分な効果が期待できなかった上記のような新規な特性の抗体を提供しうる点で、上記疾患の治療、診断等のために産業上有益かつ有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0058】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
CTGF
CTGFは、ヒト、マウス、ラット、ブタ、ウシなどの哺乳動物、ニワトリなどの鳥類で同定されており、細胞から分泌され、その特異的細胞表面受容体と相互作用し、これによって、特に結合組織細胞の増殖及び細胞外マトリックスの合成に関与する活性をもつ増殖因子の1つである。
【0059】
本発明において、CTGFは動物、特に脊椎動物、好ましくは哺乳動物、さらに好ましくはヒト由来のCTGFである。例えば哺乳動物由来のCTGFのアミノ酸及び塩基配列は、GenBankデータベース(NCBI)から入手可能である。例えばCTGF配列は、ヒトでは受託番号CAA63267, X92511, P29279, NM001554, NM001901;マウスではNP034347;ラットではNP071602, NM022266;ウシではNP776455, NM174030;ブタではAAD00174として登録されている。
【0060】
ヒトCTGFは、322アミノ酸(但し、シグナルペプチドを含むとき349アミノ酸)からなる糖タンパク質であり、ヒト由来の糖鎖に加えて、39個のリッチなシステイン残基を有し、少なくとも5個のジスルフィド結合が存在することを特徴とする。また、図1に示すように、このタンパク質は、4つの機能性ドメイン、すなわちインスリン様成長因子結合タンパク質であるモジュール1、フォンヴィルブラントC型因子であるモジュール2、トロンボスポンジン1型リピートであるモジュール3、C末端システインノット様ドメイン(CTCK)であるモジュール4を含む。
【0061】
ヒトCTGFのアミノ酸配列、並びにそれをコードする塩基配列は、後述の配列表に配列番号1及び配列番号2、配列番号11として示されている。また、モジュール1〜4のアミノ酸配列及びそれらをコードする塩基配列はそれぞれ、モジュール1について配列番号3及び4、モジュール2について配列番号5及び6、モジュール3について配列番号7及び8、モジュール4について配列番号9及び10に示されている。
【0062】
本発明では、CTGFの突然変異体、例えば多型性やスプライス変異などの変異のために個体内で生じる突然変異体が存在する場合、そのような突然変異体もCTGFと同様に本発明の対象となりうる。そのような突然変異体は、CTGF又は機能性断片(例えばモジュール、好ましくはヒトCTGFのモジュール1〜4)で示されるアミノ酸配列又は塩基配列において、1若しくは複数、例えば数個、のアミノ酸又はヌクレオチドの置換、欠失又は付加を含むことができる。ここで、数個とは2〜10個の整数を表す。或いは、そのような突然変異体は、上記アミノ酸配列又は塩基配列と80%以上、90%以上、95%以上、98%以上の同一性を有するものである。ここで、%同一性は、ギャップの導入を考慮しうるBLASTプログラムなどの公知のプログラムを用いて容易に決定できる(S. Karlinら, Proceedings of the Natinal Academic Sciences USA 90:5873-5877 (1993))。
【0063】
以下の説明では、CTGF及びその突然変異体を総称的にCTGFと称する。
DNA免疫法による抗体の産生
本発明の抗体の作製は、DNA免疫法を使用することによって達成される。
DNA免疫法では、ヒトなどの動物の組織又は細胞(例えば皮膚繊維芽細胞、内皮細胞)からCTGFタンパク質をコードするDNAをクローニングし、得られたcDNAを動物用発現ベクターに挿入し、このベクターを動物に免疫する。このとき、動物体内で該DNAの発現により得られたヒトCTGFに対する抗体が産生される。
【0064】
本発明は、DNA免疫法を使用することによって、CTGFがin vivoでネイティブな状態で産生され、それに対する抗体が産生されることを特徴とする。ネイティブな状態とは、CTGFの天然型高次構造(ジスルフィド結合、糖鎖など)を採ることを意味する。したがって、本発明で作製される抗体は、天然型CTGFに対する抗体である。好ましい抗体は、天然型ヒトCTGFに対する抗体である。
【0065】
CTGFをコードするDNAのクローニングは、次のように行うことができる。
データバンク又は文献記載のCTGFのcDNA塩基配列に基づいて、その5'末端及び3'末端側の配列からなるプライマーを設計し合成する。プライマーは、通常、15〜25塩基程度のサイズを有しており、該CTGFのセンス鎖及びアンチセンス鎖に対してアニーリングすることができる2つのプライマーを用意する。プライマーの合成は、市販のDNA自動合成機を用いて行うことができる。
【0066】
ヒトなどの動物の組織又は細胞(例えば皮膚繊維芽細胞、内皮細胞)から全RNAをクロロホルム/フェノール法にて調製し、オリゴdTセルロースカラムクロマトグラフィー処理にてポリA(+)RNA(mRNA)を取得し、逆転写酵素の存在下でcDNA合成を行う。cDNA合成及びクローニングキットは例えばAmersham社、Invitrogen社などから市販されているので、これらのキットを利用すると便利である。このようにして合成されたcDNAを鋳型にし、上記のように作製されたプライマーを用いて、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行い、CTGFをコードするcDNAを増幅する。
【0067】
PCRは、市販のサーマルサイクラー(例えばPerkin Elmer-9600,Eppendorf-Master cycler gradientなど)を使用して実施するのがよい。PCR条件として、例えば10×PCR buffer (100mM Tris (pH 8.3),500mM KCl,15mM MgCl2及び0.1% (W/V)ゼラチン)、dNTPs 2mM、プラーマー2.5μM〜10μM中、Taqポリメラーゼなどの耐熱性DNAポリメラーゼ(1〜2.5単位;rTaq (Takara), Ampli Taq(Promega)など)を添加して反応を行う。PCRは、例えば95℃、2〜5分での1回の変性サイクルの後、95℃、0.2〜1分での変性、50〜65℃、0.5〜1分でのアニーリング、及び72℃、0.5〜2分での伸長を1サイクルとして15〜40サイクルを行い、最後に、72℃、5分の伸長を行うことを含む。
【0068】
cDNAクローニング及びPCRについては、Sambrookら、Molecular Cloning A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory (1989)、Ausubelら, Current Protocols in Molecular Biology (1989)などに記載されており参照可能である。
【0069】
ある種のCTGFの機能性断片の配列は、すでに機能及び配列が公知のCTGFとの同一性の比較に基づいて決定しうる。比較は、上記のBLASTプログラムを使用して行うことができる。また、公知のCTGFの機能性断片は、例えばヒトCTGFのモジュール1〜4である。機能性断片をコードするDNAは、自動DNA合成機を用いて合成することができる。
【0070】
上記のようにして得られたCTGF又はその機能性断片(例えばヒトCTGFやそのモジュール1〜4)をコードするDNAは、次いで、発現ベクターに挿入される。
【0071】
ベクターは、例えば、プラスミド、ウイルス、ファージなどの形態をとることができる。好ましいベクターは、動物細胞発現ベクター、例えば昆虫細胞発現ベクター又は哺乳動物細胞発現ベクター、好ましくは哺乳動物細胞発現ベクターである。ベクターは市販されており、本発明で使用できる。哺乳動物細胞発現ベクターの例は、アデノウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクターなどのウイルスベクター、pcDNA3.1(Invitrogen)、pCI(Promega)などのプラスミドベクターなどである。
【0072】
発現ベクターは、プロモーター、エンハンサー、複製開始点、リボソーム結合部位、ポリアデニル化部位、又はターミネーター、などの調節配列を含むことができる。宿主の細胞内でプロモーターにRNAポリメラーゼが結合することによって転写が開始され、目的のタンパク質又はペプチドに翻訳される。好ましいプロモーターの例は、ウイルスプロモーター、例えばCMV(サイトメガロウイルス)プロモーター、RSV(ラウス肉腫ウイルス)プロモーター、EBV(Epstein-Barrウイルス)などである。
【0073】
本発明において、上記ベクターには、局在シグナル及び免疫増強シグナルを含むペプチドをコードするDNAを含むことが好ましい。
【0074】
免疫増強シグナルは、上記定義のとおり、CTGFの免疫原活性又は抗原活性を高めるための任意のペプチドである。このようなぺプチドは、免疫アジュバント活性を有するペプチド、T細胞エピトープなどを含む。T細胞エピトープは、T細胞レセプターを認識し、これに結合することができるものである。免疫増強シグナルは、例えば種々のウイルス抗原、種々の細菌毒素などのエピトープ、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)、オボアルブミン(OVA)、ウシ血清アルブミン(BSA)などのT細胞依存性抗原のエピトープなどを含む。
【0075】
免疫増強シグナルの例は、以下のものであるが、これらに限定されないものとする(R.S. Chambers及びS.A. Johnston, Nature Biotechnology 21(9):1088-1092 (2003))。
【0076】
GlnAlaValHisAlaAlaHisAlaGluIleAsnGlu(配列番号12);
GlnTyrIleLysAlaAsnSerLysPheIleGlyIleThrGluLeu(配列番号13);
PheAsnAsnPheThrValSerPheTrpLeuArgValProLysValSerAlaSerHisLeuGluGlnTyr(配列番号14);及び
AsnGlnArgGlyThrGluLeuArgSerProSerValAspLeuAsnLysProGlyArgHis(配列番号15)。
【0077】
本発明において、免疫増強シグナルは、1つ又は複数を組み合わせて使用できる。
局在シグナルは、細胞内で発現、翻訳されたCTGFを細胞膜に移行し、かつ分泌されたCTGFを細胞膜上にアンカーする働きを有する任意のペプチドである。本発明においては、局在シグナルは重要な構成要素の1つであり、高抗体価のCTGF抗体が産生されるように、発現されたCTGFを細胞表面に一定時間高濃度で留まらせるために必要である。局在シグナルの例は、MetGlyCys及びMetGlyCysCys(配列番号16)であり、ミリストイル化された1位のGly残基を介して細胞膜への移行を可能とするとともに、パルミチン化された3位,4位のCys残基を介してターゲットタンパクを細胞膜上にアンカーさせることを可能とする(Zuber, M. X., Strittmater, S. M及びFishman, M. C. (1989) Nature 341, 345-348; Skene, J. H. P.及びVirag, I. (1989) J. Cell Biol. 108, 613-624; Liu, Y.ら, (1993) Biochemistry 72, 10714-10719)。本発明で使用可能な局在シグナルは、上記の例に限定されないものとし、同様のアンカー作用があればいずれのシグナルも使用できる。
【0078】
局在シグナルと免疫増強シグナルは、N末端側からこの順序で連結されることが好ましい。これら2つのシグナル間に1〜数個の任意のアミノ酸からなるリンカーが結合されてもよい。また、局在シグナル及び免疫増強シグナルを含むペプチドのC末端側に、場合により1〜数個の任意のアミノ酸からなるリンカーを介在させて、CTGF又はその機能性断片を連結するように配置される。
【0079】
ベクターはさらに、細胞内で発現したCTGF又はその機能性断片を細胞膜に輸送するための分泌シグナルペプチドをコードするDNAを連結することが好ましい。このようなシグナルペプチドの好適な例は、CTGFのシグナルペプチド、例えばヒトCTGFのシグナルペプチド(配列番号1の1位〜27位の配列)である。
【0080】
本発明において、好ましいベクターは、プロモーターの下流に、分泌シグナルペプチド、局在シグナルペプチド、免疫増強シグナルペプチド及びCTGFをN末端側からこの順序で含む融合蛋白が発現されるように、該融合蛋白をコードするDNAを含む。細胞内で発現された融合蛋白は、細胞膜に移行し、シグナルペプチドから切断されて分泌され、細胞膜にアンカーとして留まる。その結果、CTGFに対する抗体が生成しやすくなる。
【0081】
ベクターにはさらに、必要に応じて、目的のDNAの発現を検出するためのタグ、例えばFLAGタグ、ヒスチジンタグ(例えばHis6〜His10)などをコードする塩基配列を、目的DNAの5'端又は3'端に結合することができる。特にFLAGタグなどの蛍光性タグは、目的タンパク質の発現の検出のために役立つ。
【0082】
CTGF又はその機能性断片をコードするDNAを含む発現ベクターは、動物の身体部分、例えば皮下、に注入される。注入は、約1〜2週間置きに数回、例えば約1〜2ヶ月にわたって行うことができる。ベクターの注入量は、例えば17.5μg抗原/回である。
【0083】
動物は、脊椎動物(魚類、爬虫類、両生類、鳥類、哺乳類)を指し、好ましい動物は鳥類及び非ヒト哺乳動物である。より好ましい動物は非ヒト哺乳動物、例えばげっ歯類(例えばマウス、ラット、ハムスター、モルモットなど)、有蹄類(例えばウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ヤギなど)、ウサギなどである。
【0084】
本発明は、抗体の産生を目的とするため、ヒト抗体又はヒト化抗体を産生可能な動物(ヒトを除く)が好ましく使用される。そのような動物は、ヒト抗体産生トランスジェニック動物であり、例えばマウスやウシなどで知られている(特表平4-504365号公報、特表平6-500233号公報、米国特許第5,545,806号、米国特許第5,569,825号、L.L. Green, J. Immunol. Methods 231:11-23 (1999)など)。特に、KMマウス(キリンビール社)、Xenomouse (Abjenix社)などは、ヒト抗体を産生するトランスジェニックマウスとして知られている。これらのマウスでは、マウスの本来の抗体遺伝子の全部又は一部がヒト由来の抗体遺伝子と置換されており、これによってマウスはヒト抗体又はヒト化抗体を産生することができる。すなわち、ヒト抗体は、免疫グロブリンの重鎖及び軽鎖の可変領域及び定常領域がいずれもヒト免疫グロブリン遺伝子に由来するものである。また、ヒト化抗体(又はキメラ抗体)は、ヒト抗体分子において、ヒト免疫グロブリン遺伝子に由来する重鎖又は軽鎖の可変領域及び定常領域の一部、好ましくは超可変領域のCDRの一部又は全部が、マウスなどのヒト以外の動物の免疫グロブリン遺伝子に由来する対応する重鎖又は軽鎖の可変領域及び定常領域の一部、好ましくは超可変領域のCDRの一部又は全部、によって置換されたようなキメラ免疫グロブリンである。
【0085】
ヒト化抗体の作製については、例えば動物を使わないでヒト化抗体を作製する手法もある。すなわち、ヒト化抗体は、例えば、チェーンシャフリング法により、またはファージディスプレイ技術を用いて得ることができる。例えば、CTGFに特異的な非ヒト抗体の重鎖もしくは軽鎖可変ドメインを含むポリペプチドを、ヒト補体(軽もしくは重)鎖可変ドメインのレパートリーと結合させる。目的の抗原に特異的なハイブリッド対合を選択する。続いて選択した対合からのヒトの鎖を、ヒト補体可変ドメイン(重もしくは軽)のレパートリーと結合させ、そしてヒト化抗体ポリペプチド二量体を、抗原に対する結合特異性について選択し得る。本発明の方法に使用し得るヒト化抗体の作製について記載された技法は、例えば、米国特許第5,565,332号、第5,585,089号、第5,694,761号、および第5,693,762号に開示されている。
【0086】
本発明によりDNA免疫法で免疫された動物では、一過的に発現されたCTGF又はその機能性断片対する抗体の産生が誘発される。抗体の産生後、動物の体液、例えば血清、血漿、乳汁などから目的の抗体を回収する。ここで得られる抗体は、ポリクローナル抗体である。抗体のアイソタイプはIgG、IgM、IgA、IgD、IgEなどのいずれでもよい。また、抗体のクラスは、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2などであり、軽鎖はκ鎖、λ鎖などである。このような抗体の種類は、モノクローナル抗体でも同様である。
【0087】
本発明はさらに、上記抗体又は下記のモノクローナル抗体の断片も包含する。このような断片の例は、Fc、Fd、Fab、Fab'、(Fab')2などを含む。例えばパパイン、トリプシン、ペプシンなどのプロテアーゼによる分解によって断片を得ることができる。
【0088】
本発明のモノクローナル抗体は、以下のようにして一般的なモノクローナル抗体の作製方法によって調製することができる。
【0089】
上記のDNA免疫法で免疫された動物(ヒトを除く)、好ましくはマウス、さらに好ましくはヒト抗体産生トランスジェニックマウス、から脾臓細胞、B細胞又はリンパ細胞(もしくはリンパ節)を取り出し、これらの細胞と骨髄腫細胞(ミエローマ細胞ともいう)、好ましくはマウス骨髄腫細胞、とを融合させてハイブリドーマを作製する。細胞融合のためには、例えばポリエチレングリコールなどの細胞凝集性媒体が使用される。
【0090】
その結果得られたハイブリドーマの中から、天然型CTGF、好ましくはCTGFの天然型高次構造、を特異的に認識する抗体を選抜する。選抜には、フローサイトメトリーが好ましく使用できる。検出のために、ヒト又はマウスの免疫グロブリンと特異的に結合する蛍光標識二次抗体を使用することができる。
【0091】
樹立したハイブリドーマをヌードマウスに腹腔内注射し、腹水を採取し、腹水をプロテインA又はプロテインGセファロースカラムに通して、高純度の目的のモノクローナル抗体を回収することができる。
【0092】
モノクローナル抗体の作製法については、Kohlerら, Nature, 256:495 (1975)、Ausubelら, Current Protocols in Molecular Biology (1989)、Kozborら, Immunology Today 4:72 (1983)、Coleら, Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, 77-96 (1985)、 Antibodies,A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,Chapter 8,1988などに記載されており、本発明の実施のために参照することができる。
【0093】
したがって、本発明により、CTGFをコードするDNA又はその機能性断片(例えばCTGFを構成するモジュールをコードするDNA)を発現可能に含む発現ベクターを非ヒト動物に免疫し、該CTGFを認識する抗体を含む体液、或いは該抗体を産生する細胞、を取り出し、該CTGFを認識するポリクローナル又はモノクローナル抗体を得ることを含む、上記の抗体の作製方法が提供される。
【0094】
本発明の実施形態によれば、上記非ヒト動物は、好ましくは哺乳動物、より好ましくはげっ歯類又は有蹄類である。げっ歯類の例はマウス、好ましくはヒト抗体産生トランスジェニックマウスである。また、有蹄類は、ウシ、ヤギ、ヒツジなど、好ましくはヒト抗体産生トランスジェニックウシである。
上記方法において、体液は、例えば血清又は乳汁である。
【0095】
また、本発明の実施形態によれば、上記抗体を産生する細胞は脾臓細胞、B細胞又はリンパ細胞である。これらの細胞は、上記のとおり、骨髄腫細胞と融合しハイブリドーマを形成し、本発明のモノクローナル抗体を作製するために使用される。
【0096】
さらに、本発明の実施形態によれば、本発明の方法は、上記抗体を産生する細胞或いは前記ハイブリドーマをフローサイトメトリーにて選抜することをさらに含む。検出のために、ヒト又はマウスの免疫グロブリンと特異的に結合する蛍光標識二次抗体を使用することができる。この選抜法によって得られる抗体の中から、ヒトに対し副作用を及ぼすような有害な抗体は排除される。
【0097】
抗モジュール抗体は、DNA免疫法により全長CTGF遺伝子発現によってin vivoで誘発された抗CTGFポリクローナル又はモノクローナル抗体群の中から免疫吸収法又はフローサイトメトリーなどの選択手法を用いて選抜することによっても得ることができる。
【0098】
抗体の特徴
本発明により、上記のようなDNA免疫法によって、天然型高次構造を保持するCTGF又はその機能性断片(例えばモジュール)を特異的に認識する抗体(すなわち、ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体)が得られる。特に、ヒト抗体産生トランスジェニック動物(例えばマウス、ウシ)に対してDNA免疫を実施するときには、天然型高次構造を保持するヒトCTGF又はその各モジュールを特異的に認識するヒト抗体又はヒト化抗体を得ることができる。
【0099】
そのような抗体として、例えばヒトCTGFのモジュール1及びモジュール2の各々に対するモノクローナル抗体、すなわちMouse-Mouse hybridoma CTGF-m11(FERM ABP-10454)由来のモノクローナル抗体、Mouse-Mouse hybridoma CTGF-m12(FERM ABP-10455)及びMouse-Mouse hybridoma CTGF-m21(FERM ABP-10456)由来のモノクローナル抗体などを作製した。しかし、本発明は、これらの特定の抗体に制限されるものではなく、例えばヒト抗体産生トランスジェニック動物を使用してヒトCTGF又はモジュール1〜4の各々に対するヒト抗体の作製を実施し、同様に目的のヒト抗体を取得することも可能である。
【0100】
本発明の抗体は、BIAcore(登録商標)の表面プラズモン共鳴法で測定するとき、天然型CTGFに対する結合定数3.0×107M-1以上、5.0×107M-1以上、好ましくは1.0×108M-1以上、1.8×108M-1以上、3.0×108M-1以上、さらに好ましくは5.0×108M-1以上、特に好ましくは1.0×109M-1以上、並びに/或いは、天然型CTGFに対する解離定数5.6×10-9M以下、好ましくは3.5×10-9M以下、3.0×10-9M以下、さらに好ましくは2,5×10-9M以下、2,0×10-9M以下、特に好ましくは1.0×10-9M以下、5.0×10-10M以下を有することを特徴とする。
【0101】
本発明の抗体は、CTGF、好ましくはヒトCTGF、の天然型高次構造を特異的に認識することができる。ここで特異的とは、天然型高次構造をもつCTGFを認識するが上記変性型CTGFを認識しないか、或いは上記変性型CTGFよりも天然型高次構造をもつCTGFを相対的に認識しやすいことを意味する。このように相対的に高い認識度(又は免疫学的反応性)、言い換えれば10倍以上、好ましくは100倍以上、さらに好ましくは1,000倍以上高い結合能を、本明細書中では、特異的に認識するという。従来の免疫法では達成されなかった天然型ヒトCTGFに対する高い結合親和性のために、in vivoでヒトCTGFの生物活性を実用的レベルで有意に阻害又は抑制することが可能になる。ここで、生物活性とは、線維性結合組織の増殖、血管新生を含む細胞増殖亢進などを含む。
【0102】
医薬組成物
本発明はさらに、有効量の上記の本発明の抗体を含む医薬組成物も提供する。
本発明の医薬組成物で使用される抗体は、好ましくはヒトCTGF又はその機能性断片(例えばモジュール1〜4)に対する抗体であり、好ましくはヒト抗体又はヒト化抗体であり、特に好ましくはヒト抗体である。また、抗体はポリクローナル抗体でもよいし、或いはモノクローナル抗体でもよいが、好ましくはモノクローナル抗体である。
【0103】
フローサイトメトリーによって、正常細胞又は組織に実質的に悪影響を与えずに、疾患細胞や組織に対してのみ有効に作用するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを選抜することができる。
【0104】
本発明の組成物は、線維症又は線維化に伴う硬化症、或いは細胞増殖性疾患の治療又は予防のために使用することができる。
【0105】
上記線維症又は線維化に伴う硬化症は、例えば腎臓、肺、肝臓、眼球、心臓などの臓器の線維症、強皮症、間質性線維症、硬膜外線維症などである。CTGFの異常な発現は、一般的な組織瘢痕化、皮膚の腫瘍様増殖、血管の持続的瘢痕化に伴ってみられ、それは血液運搬能の悪化、高血圧症、肥大などを導く。また、CTGFが関係する他の疾患には、皮膚線維腫を含む癌、内皮細胞異常発現に関連する症状、乳癌線維形成性腫、血管脂肪腫、血管平滑筋腫、アテローム性動脈硬化症、全身性硬化症(アテローム硬化性斑、炎症性腸疾患、クローン病、血管新生など)、関節炎、及びその他の疾患症状、緑内障に関与する血管新生、炎症(関節炎など)、腫瘍増殖転移、間質性疾患、皮膚疾患、関節炎(慢性関節リウマチなど)、動脈硬化症、糖尿病(糖尿病性神経障害など)、高血圧症、その他の腎障害、外科手術、化学療法、放射線処理、同種異系移植片拒絶反応、移植拒絶反応など多様な疾患、障害又は症状が含まれる。
【0106】
線維症は、上記のような臓器又は器官に線維性結合組織の増殖が起こり組織の硬化と萎縮をきたし、正常の臓器又は器官構造の破壊と荒廃が生じた状態をいう。線維症は種々の損傷又は疾患によって生じ得るが、種々の器官の移植に関係する慢性移植拒絶反応により生じることが多い。線維症は、一般には、細胞間質マトリックス成分の異常な産生、蓄積又は沈着が含まれ、例えばコラーゲンとフィブロネクチンの過剰産生及び沈着増加を引き起す。
【0107】
上記細胞増殖性疾患は、異常増殖性の癌である。CTGFは、血管新生を亢進する作用があり、特に悪性腫瘍(すなわち癌)での血管新生に関与していると言われている(特許文献4)。癌には、例えば急性リンパ芽球性白血病、皮膚線維腫、乳癌、乳癌腺異形成、血管脂肪腫、血管平滑筋腫、癒着性癌、前立腺癌、卵巣癌、結腸直腸癌、膵癌、胃腸系癌、肝臓癌、他の腫瘍増殖及び転移を含む癌などが含まれる。
【0108】
CTGFがその細胞表面受容体に結合し増殖シグナルを伝達するのを阻害又は抑制することができれば、線維症又は線維化に伴う硬化症、血管新生などのCTGFが関係する種々の疾患又は障害の治療又は予防に役立つと考えられる。このための阻害剤又は抑制剤の1つが、ヒトCTGF又はその表面抗原エピトープに対する抗体である。
【0109】
本発明の実施形態により、上記抗体に治療用薬剤を結合させることができる。抗体は、CTGFが存在する標的疾患部位又はその近傍に薬剤を運搬するとともに、CTGFの機能を阻害又は抑制し、一方、薬剤は、疾患の症状を治癒、軽減又は改善する。このような形態の医薬は、いわゆる分子標的薬である。
【0110】
薬剤は、上記疾患の治療薬剤として使用されている、又は使用されようとする、すべての薬剤を含む。そのような薬剤は、例えば合成又は天然の、低分子量又は高分子量の、タンパク質性又は非タンパク質性の、或いは核酸又はヌクレオチド性の物質である。例えば、線維症の治療薬剤の例は、プロスタグランジンE1、ステロイド剤、PPARリガンド、アンアンギオテンシンII型 I 受容体アンタゴニスト、可溶性TGFII型受容体、HGFなど、また、抗癌剤の例は、アルキル化剤、例えばイホスファミド、ニムスチン、シクロホスファミド、ダカルバジン、ラニムスチンなど、代謝拮抗剤、例えばゲムシタビン、フルオロウラシルなど、抗癌性抗生物質、例えばダウノルビシン、ドキソルビシン、ブレオマイシン、マイトマイシンCなど、植物アルカロイド、例えばパクリタキセル、ビンクリスチン、ビンブラスチンなど、白金錯体、例えばシスプラチンなどを含む。
【0111】
抗体と薬剤との結合は、好ましくはリンカーを介して行われる。リンカーは、例えば置換又は未置換の脂肪族性アルキレン鎖を含み、その両末端に、抗体又は薬剤の官能基と結合可能な基、例えばN-ヒドロキシスクシンイミド基、エステル基、チオール基、イミドカルボネート基、アルデヒド基などを含むものである(抗体工学入門、地人書館、1994年)。
【0112】
必要に応じて、医薬を細胞内に運搬しやすくするために、リポソームに封入することもできる。好ましいリポソームは、正電荷リポソーム、正電荷コレステロール、膜透過性ペプチド結合リポソームなどである(中西守ら,蛋白質核酸酵素44:1590-1596 (1999)、二木史朗,化学と生物43:649-653 (2005)、Clinical Cancer research 59:4325-4333 (1999)など)。
【0113】
投与は、非経口投与、例えば静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、経皮投与などである。
非経口投与のための製剤としては、滅菌された生理食塩水溶液、緩衝塩水溶液、有機溶剤含有水溶液などの水溶液中の、溶液剤、懸濁剤、乳剤などが挙げられる。有機溶剤の例は、エタノール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油、およびオレイン酸エチルなどの脂肪酸エステルなどを含む。また、製剤中には、栄養剤、電解質液、保存剤、抗酸化剤などの添加剤が含まれてもよい。
【0114】
抗体の有効成分量は、1回の用量あたり100〜2,500μg/mlである、或いはヒト成人患者体重1kgあたり1.0〜10mgの量であるが、これらに限定されないものとする。
【0115】
投与回数は、例えば1〜2週間に1回の頻度で数回の投与又は2〜3週間に1回の投与で約2ヶ月間である。
【0116】
診断用組成物
本発明はさらに、上記抗体を含む診断用組成物を提供する。
本発明の組成物は、例えば線維症又は線維化に伴う硬化症、或いは細胞増殖性疾患の診断のために使用されるが、これらに限定されず、上記の他の疾患、障害の検出のためにも使用可能である。このような疾患では、CTGFの発現が正常値又は標準値よりも高い状態となり、結合組織の異常増殖、組織の硬化と萎縮、臓器又は器官構造の破壊が生じる。このために、CTGFの存在又は量を、本発明の上記抗体を用いて測定することにより、上記のような疾患を診断することができる。抗体は、ヒトCTGFに対する抗体だけでなく、ヒトを除く動物、好ましくは哺乳動物のCTGFに対する抗体も使用できる。CTGFは哺乳動物間で高い配列同一性を有しており、例えばヒトとマウスではアミノ酸レベルで93.5%の同一性がある。
【0117】
アッセイの例としては、慣用の一般的アッセイ法、例えば酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、蛍光抗体アッセイ、放射性免疫アッセイ、放射性免疫沈降法、ドットブロットアッセイ、阻害または競合アッセイ、サンドイッチアッセイ、ラテックスビーズ凝集アッセイなどが挙げられるが、これらに制限されない。
【0118】
本発明の抗体は、天然型CTGF(好ましくはヒトCTGF)を特異的に認識することによって特徴付けられ、特にCTGFの天然型高次構造の連続的又は不連続的な細胞表面抗原エピトープを特異的に認識することができる。
【0119】
高い特異性を達成するためには、モノクローナル抗体が好ましい。疾患の診断又は検出を目的とするため、抗体はヒト抗体又はヒト化抗体である必要はなく、例えばマウスモノクローナル抗体でよい。このような抗体の例は、以下のものに限定されないが、Mouse-Mouse hybridoma CTGF-m11(FERM ABP-10454)、Mouse-Mouse hybridoma CTGF-m12(FERM ABP-10455)、Mouse-Mouse hybridoma CTGF-m31、Mouse-Mouse hybridoma CTGF-m32、Mouse-Mouse hybridoma CTGF-m33、Mouse-Mouse hybridoma CTGF-m41のハイブリドーマ由来のモノクローナル抗体である(後述の実施例参照)。
【0120】
本発明の方法で検出可能な線維症又は線維化に伴う硬化症は、例えば腎線維症、肺線維症、肝線維症、又は皮膚線維症(強皮症ともいう)などの線維症、また、細胞増殖性疾患は、例えば癌であるが、これらに限定されない。
【0121】
サンプルは、生物学的サンプル、例えば、疾患部位の組織又は細胞生検、血液、血清、血漿、リンパ液、尿などの体液、などである。これらのサンプルを、必要に応じて均質化、遠心分離、或いは希釈を行い、適切な緩衝液中で、本発明の抗体を添加し、抗原であるヒトCTGFと抗体との複合体を上記のアッセイ法にて検出する。この場合、本発明の抗体を標識してもよいし、或いは標識二次抗体を使用することもできる。
【0122】
標識は、酵素(例えば西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼなど)、放射性同位元素(例えば32P、35S、3H、125Iなど)、蛍光性物質(例えばローダミン、フルオレサミン、ダンシルクロリド、それらの誘導体など)などである。
【0123】
以下の実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって制限されないものとする。
【実施例】
【0124】
(1)発現ベクターの構築
ヒトCTGFの全長遺伝子(配列番号2)またはそれを構成する各々のmodule 1(配列番号4), module 2(配列番号6), module 3(配列番号8)、およびmodule 4(配列番号10)の各遺伝子断片を、FLAGタグ付の哺乳動物発現ベクター(VV8;Invitrogen社)に組込んだ。発現ベクターはまた、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、局在シグナル配列(MetGlyCys)及び免疫増強シグナル配列(ニワトリOVAエピトープ;R.S. ChambersとS.A. Johnston, Nature Biotechnology 21(9):1088-1092 (2003))からなるペプチドをコードするDNAを含む。
【0125】
ヒトCTGFの高次構造を認識しかつその生物生理活性を阻害するモノクローナル抗体を得るために、ヒトCTGF全長遺伝子が入った構築物であるvv8/CTGFが最適な免疫用抗原遺伝子となるが、そのほか、module 1, module 2, module 3, module 4のいずれかが挿入された構築物も免疫抗原遺伝子として使用できる。
【0126】
構築した遺伝子構築物(すなわち、vv8/ヒトCTGF全長遺伝子、vv8/module 1, vv8/module 2, vv8/module 3およびvv8/module 4)が設計した通りに細胞表面に発現されているかどうかについて免疫実施前にヒト腎臓由来哺乳動物細胞(HEK293T)を用いて検証した。すなわち、構築した遺伝子構築物を哺乳細胞に一過性発現導入した。導入した哺乳細胞を 5%CO2インキュベータ中、10%FCS添加D-MEM培地で、24時間、37℃で培養し、フローサイトメトリー(FCM)解析に用いた。FCM解析する際、上記の導入遺伝子に付加しているタグに対するFLAG M2抗体(Sigma-ardrich社)を遺伝子導入した培養細胞懸濁液に加え、30分間静置した。その後、1次抗体を特異的に認識する蛍光標識した抗マウスIg抗体(Beckmancoulter社)を上記反応液に添加し、30分間静置してからFCM解析に使用した。
【0127】
その結果、本発明により構築した5つの遺伝子構築物がすべて細胞表面に発現していることが証明された。
【0128】
(2)DNA免疫法による抗体の作製
DNA免疫法は、上記遺伝子構築物を単独または混合して、免疫動物に対して様々な遺伝子導入法(例えば筋肉注射、エレクトロポレーション、遺伝子銃など)のいずれかを用いて、動物(マウス又はヒト抗体産生トランスジェニックマウス)の皮下に注入し、細胞内に取り込ませた。
【0129】
ヒトCTGF全長遺伝子導入細胞を認識する強い特異抗体を産生している動物を解剖し、定法に従いB細胞を単離してモノクローナル抗体を作製した。具体的には、次のように行った。
【0130】
ハイブリドーマは免疫したBalb/cマウスの脾臓もしくはリンパ節から得られた免疫細胞と骨髄腫細胞を融合して作製された。骨髄腫細胞はマウスから得られた株化細胞である、8-アザグアニン耐性マウス(BALB/c由来)骨髄腫細胞株P3-X63Ag8-U1(P3-U1)[Eur.J.Immunol.,6,511(1976)]、SP2/0-Ag14(SP-2)[Nature,276,269(1978)]、P3-X63-Ag8653(653)[J.Immunol.,123,1548(1979)]、P3-X63-Ag8(X63)[Nature,256,495(1975)]など、イン・ビトロ(in vitro)で増殖可能な骨髄腫細胞であればいかなるものでもよい。これらの細胞株の培養および継代については、公知の方法[アンチボディズーア・ラボラトリー・マニュアル(Antibodies,A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,Chapter 8,1988);に従い、細胞融合時までに2×107個以上の細胞数を確保した。
【0131】
免疫したマウスから得られた抗体産生細胞と骨髄腫細胞とを洗浄したのち、ポリエチレングリコール−1000(PEG-1000)などの細胞凝集性媒体を加え、細胞を融合させ、培地中に懸濁させた。細胞の洗浄には、MEM培地またはPBS(リン酸二ナトリウム1.83g、リン酸一カリウム0.21g、NaCl 7.65g、蒸留水1リットル、pH7.2)などを用いた。また、融合細胞を懸濁させる培地としては、目的の融合細胞のみを選択的に得られるように、HAT培地[グルタミン(4mM)、15%牛胎児血清(FCS)、ヒポキサンチン(10-4M)、チミジン(1.5×10-5M)およびアミノプテリン(4×10-7M)を含むD-MEM培地]を用いた。
【0132】
培養後、培養上清の一部をとり、強制発現細胞による酵素免疫測定法(CELISA)およびFCMにより、抗原蛋白質に反応し、非抗原蛋白質に反応しないサンプルを選択した。ついで、限界希釈法によりクローニングを行い、安定して高い抗体価の認められたものをモノクローナル抗体産生ハイブリドーマ株として選択した。
【0133】
強制発現を用いた酵素免疫測定法は、次のようにして行った。抗原蛋白質を強制発現した細胞を96ウェルプレートにコートし、ハイブリドーマ培養上清を第一抗体として反応させ、第一抗体反応後、プレートを洗浄して第二抗体を添加した。ここで、第二抗体とは、第一抗体のマウスイムノグロブリンを認識できる抗体であり、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)で標識した抗体である。反応後、第二抗体を標識した酵素に応じた蛍光基質を添加し、蛍光測定プレートリーダーで解析した。
【0134】
次に、腹水からのモノクローナル抗体の大量調製を次のようにして実施した。プリスタン0.5mlで前処理したBalb/cマウスに0.5mlのリン酸緩衝生理食塩水、pH7.4中の1〜3×106クローン化ハイブリドーマ細胞を腹腔内注射した。およそ2週間後に、腹水を集め、モノクローナル抗体をプロテインAまたはプロテインGで親和精製した。
【0135】
DNA免疫で樹立した数多くのハイブリドーマ細胞株の中から、ヒトCTGFの天然型高次構造を認識するモノクローナル抗体を生産するハイブリドーマ細胞株を選抜するために、上記(1)と同様にFCM解析系を用いた。
【0136】
上記の手法によって作製されたモノクローナル抗体は、以下のとおりである。
Mouse-Mouse hybridoma CTGF-m11ハイブリドーマ由来のclone 30D2;
Mouse-Mouse hybridoma CTGF-m12ハイブリドーマ由来のclone 30E9;
Mouse-Mouse hybridoma CTGF-m21ハイブリドーマ由来のclone 1;
Mouse-Mouse hybridoma CTGF-m31ハイブリドーマ由来のclone 22D10;
Mouse-Mouse hybridoma CTGF-m32ハイブリドーマ由来のclone 21C12;
Mouse-Mouse hybridoma CTGF-m33ハイブリドーマ由来のclone 21H12;
Mouse-Mouse hybridoma CTGF-m41ハイブリドーマ由来のclone 8E7。
【0137】
clone 30D2及びclone 30E9はヒトCTGF module 1を特異的に認識するモノクローナル抗体(MAb)、clone 1はヒトCTGF module 2を特異的に認識するMAb、clone 22D10、clone 21C12及びclone 21H12はヒトCTGF module 3を特異的に認識するMAb、clone 8E7はヒトCTGF module 4を特異的に認識するMAbである。
【0138】
作製されたハイブリドーマのうち、Mouse-Mouse hybridoma CTGF-m11(FERM ABP-10454)、Mouse-Mouse hybridoma CTGF-m12(FERM ABP-10455)及びMouse-Mouse hybridoma CTGF-m21(FERM ABP-10456)の各ハイブリドーマを、平成17年(2005年)11月25日付けで独立行政法人産業技術総合研究所、特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地中央第6)に寄託した。
【0139】
さらにまた、上記手法において、通常のマウスに代えてヒト抗体産生トランスジェニックマウスを入手し試験的に使用することによって、天然型ヒトCTGF、そのmodule 1、module 2、module 3,及びmodule 4を特異的に認識することができる完全ヒト抗体を作製することができた。
【0140】
(3)抗体の特徴分析
作製したハイブリドーマの精製免疫グロブリンの詳細解析のために、エピトープ解析、表面プラズモン共鳴法(SPR)解析、in vivo皮膚線維症に対する抑制効果試験(mouse fibrosis model;T. Moriら, J. Cellular Physiology 18:153-159 (1999))を実施した。
【0141】
エピトープ解析は、module 1, module 2, module 3, module 4遺伝子のいずれかを導入した哺乳細胞を、上記(1)と同様に、5%CO2インキュベータに24時間培養して、同様にFCM解析をすることによって行われた(図2〜図9)。図から明らかなように、5,000倍又は10,000倍希釈であっても各モジュールを特異的に認識する高親和性モノクローナル抗体(IgG1)が得られた。
【0142】
SPRでは、Biacore社のCM5チップ表面に各々の精製免疫グロブリンを固相化した。各種免疫グロブリンを固相化したCM5チップの流路に、精製した組換えヒトCTGF抗原(哺乳動物細胞HEK293Tから慣用法により作製した天然型高次構造をもつCTGF)を流した。この測定系により非変性ヒトCTGFタンパク質と本発明で作製したモノクローナル抗体との解離定数及び結合定数を測定した。
【0143】
測定条件は、以下のとおりである。
測定機器:Biacore 2000(ビアコア社);
リガンド固相化チップ:CM5センサーチップ;
リガンド(抗体)希釈buffer:10mM酢酸緩衝液(pH5.0)(この緩衝液にてリガンドを最終濃度25μg/mlに調整した。);
Running buffer:HBS-EP buffer (10mM HEPES, pH7.5, 0.15M NaCl, 3mM EDTA, 0.005% surfactant P20(Tween 20), pH7.4)。
結果を表1に示す。
【0144】
【表1】
【0145】
上記の表1から明らかなように、本発明の抗体(MAb)は、形質転換哺乳動物細胞HEK293Tから作製した組換えヒトCTGFを抗原とする結合定数及び解離定数はそれぞれ、1.0×108M-1以上、5.6×10-9 M以下となり、非常に高い親和性を示した。
【0146】
なお、汎用の昆虫(カイコ)細胞で作製した組換えヒトCTGFを抗原として用いて本発明の抗体の結合定数及び解離定数を測定したときには、おそらく糖鎖構造の影響のために、module 1、module 2、module 3及びmodule 4の結合定数は3.0〜8.0×107M-1、解離定数は1.0〜3.2×10-8Mとなり、哺乳動物細胞で作製された組換えヒトCTGFと比べて親和性が低下する傾向を示した。
【0147】
さらに、本発明の抗体の生物学的活性について調べた。具体的には、皮膚線維症モデルを用いて、本発明抗体による該疾患の抑制効果についてin vivoで試験した。
【0148】
Balb/cマウス(生後7日)にTGFβ3 800ngを3日間皮下注射したのち、CTGF 400ngを4日間皮下注射することによって、皮下組織に線維化を誘導した。
【0149】
本発明の抗体(抗module 2抗体)4μgをCTGFと混和してすぐに皮下注射した。対照区には、マウスIgGを同量同様に皮下注射した。
【0150】
非免疫したマウスより得た免疫グロブリン(陰性対照)を投与した対照区と比べ、本発明で得たヒトCTGF抗体はマウスにおいてin vivo皮膚線維症に対する有意の抑制効果を示した(図10及び図11)。すなわち、図10は対照区を示しており、図の中央を横に縦断している川のような部分が線維化した組織を表す。図11に示されるように、本発明の抗体で処理された試験区では、線維化された部分は、対照区と比べて約1/3に大きく減少した。このことから、本発明の抗体は、線維症の抑制のために有効であることが証明された。
【0151】
(比較例1)
ヒトCTGFを組換えバキュロウイルスを感染させた昆虫細胞を用いて発現し、アフィニティカラムによって精製した組換えヒトCTGFを作製した。この組換えCTGFをマウス及びニワトリに免疫した結果、ヒトCTGFに対する抗体は産生されなかった。
【0152】
(比較例2)
ヒトCTGFをコードするDNAを発現可能に含むpcDNA3.1プラスミド(Invitrogen社)由来のVV6発現ベクターを用いてDNA免疫法によるマウスでの抗体作製を試みた。FCSによるマウスの抗血清解析の結果、CTGF抗体の抗体価がかなり低いことが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0153】
本発明により、従来法では抗体を作り難かった、特殊な構造と粘着性をもつ天然型ヒトCTGFを特異的に認識する抗体(ヒト抗体を含む)が容易に作製することができた。これによって、本発明の抗体は、CTGFが関係する線維症や細胞増殖性疾患などの治療又は診断のために有用である。
【図面の簡単な説明】
【0154】
【図1】ヒトCTGFの基本構造を示す。
【図2】mouse polyclonal anti-CTGFポリクローナル抗体(抗原:全長CTGF)のFCM解析結果を示す。
【図3】Mouse-Mouse hybridoma CTGF-m11由来のモノクローナル抗体clone 30D2のFCM解析結果を示す。
【図4】Mouse-Mouse hybridoma CTGF-m12由来のモノクローナル抗体clone 30E9のFCM解析結果を示す。
【図5】Mouse-Mouse hybridoma CTGF-m21由来のモノクローナル抗体clone 1のFCM解析結果を示す。
【図6】Mouse-Mouse hybridoma CTGF-m31由来のモノクローナル抗体clone 22D10のFCM解析結果を示す。
【図7】Mouse-Mouse hybridoma CTGF-m32由来のモノクローナル抗体clone 21C12のFCM解析結果を示す。
【図8】Mouse-Mouse hybridoma CTGF-m33由来のモノクローナル抗体clone 21H12のFCM解析結果を示す。
【図9】Mouse-Mouse hybridoma CTGF-m41由来のモノクローナル抗体clone 8E7のFCM解析結果を示す。
【図10】Balb/cマウス(生後7日)のin vivo皮膚線維症に対する抑制効果試験における、非免疫マウス由来の免疫グロブリン(陰性対照)を投与した対照区を示す。
【図11】Balb/cマウス(生後7日)のin vivo皮膚線維症に対する抑制効果試験における、本発明の抗体を投与した試験区を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、結合組織増殖因子(Connective Tissue Growth Factor; CTGF)を特異的に認識することができる抗体に関する。
【0002】
本発明はまた、上記抗体の作製方法、並びに、上記抗体を含む医薬組成物又は診断用組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
ヒトCTGFは、322アミノ酸(但し、シグナルペプチドを含むとき349アミノ酸)からなる、39個のシステイン残基を有する結合組織増殖因子であり、そのアミノ酸及び塩基配列は1991年以来知られている(非特許文献1〜2)。このタンパク質は創傷治癒作用があることが知られる一方、細胞増殖性疾患、線維性疾患、アテローム性硬化症、緑内障などの疾患や障害に関係することが知られている(特許文献1〜7、非特許文献2〜4)。このような疾患や障害の治療又は診断のために、ヒトCTGFに対する抗体の使用が提案されている(特許文献1〜7、非特許文献4)。
【0004】
一般に、抗体の作製のために、タンパク質またはペプチドを抗原として動物に免疫し抗体を作製する方法が使用される。In vivoでの抗体産生は、免疫される動物が、その抗原を異物として認識することによって、抗原提示細胞に抗原を提示し、T細胞にシグナル伝達されこれを活性化し、活性化されたT細胞はさらにB細胞を刺激し、抗体産生細胞へと導くことによって行われる。
【0005】
しかし、ヒトCTGFを抗原として動物に直接免疫する従来の抗体産生法で抗体を作製する試みは、本発明者らの経験では、多くの場合、失敗するか、或いは非常に抗体価の低いものであった。これは、例えばヒトCTGFを哺乳動物でけでなくニワトリに免疫した場合にも同様に認められた。その原因は明らかではないが、CTGFは本来粘着性の強い蛋白であるため、種々の表面に付着し、その結果十分な免疫化が行われなかったことが原因の1つとして推定される。
【0006】
ヒトCTGFはまた、この蛋白が固有にもつ特殊な構造、すなわち39個のシステイン残基を有し、少なくとも5個のジスルフィド結合が存在する構造のために、分子内ジスルフィド結合の組み換えを起こしやすい特性を抱えている。そのため、この蛋白が非天然環境(例えば精製環境)に晒されたときには、そのような組み換えを起こし、それによって蛋白本来の高次構造が変化し、その結果、蛋白の変性が生じることが推定される。このような特殊な構造特性のために、ヒトCTGFの天然型高次構造を特異的に認識する抗体を得ることを可能にすることも、今後の課題の1つである。
【0007】
ヒトCTGFに対する抗体に関する上記のような特許文献や刊行物は存在するが、大量に該抗体を作製するための方法は皆無であるし、また、その天然型高次構造を特異的に認識する抗体を実際に得ることが難しいため、それが望まれているにも拘らず実用的な抗体は未だ出現していないのが現状である。
【0008】
本願ではDNA免疫法(又は遺伝子免疫法)を利用して抗体を作製する方法を提供するが、DNA免疫法については、例えば特許文献8、非特許文献5〜8などに記載されている。DNA免疫法は、in vivoで、ある種の抗原に対する抗体が産生するように、該抗原をコードするDNAをベクターに発現可能に挿入し、このベクターをヒトなどの動物に接種する、いわゆる遺伝子ワクチン接種を指す。そのような抗原には、例えばウイルス抗原、腫瘍関連抗原、原虫抗原、微生物抗原が含まれる。接種後、DNAが発現され、抗原が生成し、生体内の免疫系に取り込まれて抗体が生じる。
【0009】
DNA免疫の応用として、非特許文献9は、DNA免疫法を利用したポリクローナル抗体の作製を記載している。この方法は、抗原蛋白のN末端側に分泌リーダーと抗原性タグを連結したような融合蛋白をコードするDNAを発現可能にベクターに組込み、そのベクターにて動物を免疫することを含む。抗原性タグはアジュバントのような役割をもち、in vivoではタグに対する抗体も生成する。
【特許文献1】特表平11-507332号公報
【特許文献2】特開平11-180895号公報
【特許文献3】特開2004-132974号公報
【特許文献4】特表2002-529066号公報
【特許文献5】特表2002-504332号公報
【特許文献6】特表2005-505757号公報
【特許文献7】特表2002-524422号公報
【特許文献8】特表2000-582427号公報
【非特許文献1】D.M. Bradhamら, J. Cell Biol. 114:1285-1294 (1991)
【非特許文献2】A. Igarashiら, Mol. Biol. Cell 4:637-645 (1993)
【非特許文献3】M. Minatoら, J. Biochem. 135:347-354 (2004)
【非特許文献4】T. Moriら, J. Cellular Physiology 181:153-159 (1999)
【非特許文献5】J.S. Boyleら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94:14626-14631 (1997)
【非特許文献6】S. Gurunathanら, Annu. Rev. Immunol.18:927-974 (2000)
【非特許文献7】D.C. Tangら, Nature 356:152-154 (1992)
【非特許文献8】H. Tigheら, Immunol. Today 19:89-97(1998)
【非特許文献9】R.S. Chambers及びS.A. Johnston, Nature Biotechnology 21(9):1088-1092 (2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ヒトCTGFは、CCNファミリーに属し、4つのモジュールにより形成されている増殖因子の一つとして多彩な生体機能をもつことが知られている。特に、CTGFは皮膚線維症などの線維症における前硬化性分子として注目されており、特異抗体の開発はこの分子の発現と病態進行との関係を調べる研究および線維症をはじめとするCTGF過剰生産と関連した疾病に対する分子標的治療法開発にとって重要な鍵になると考えられる。しかし、活性を保持した抗原タンパク質を確保する目的で該分子を組換えタンパク質として大量に生産および精製することは難しいうえに、CTGF分子に対して従来の抗体作製法で抗体を作製することは非常に難しかった。実際、市販のCTGF抗体は存在するが、特異性が低いため使用に適さない。
【0011】
このような状況において、本発明の目的は、天然型CTGFを特異的に認識することができる抗体を提供することである。
【0012】
本発明の別の目的は、上記抗体を含む医薬組成物又は診断用組成物を提供することである。
【0013】
本発明のさらに別の目的は、上記抗体の作製方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、当初、ヒトCTGFをコードするDNAを組換えバキュロウイルスを感染させた昆虫細胞を用いて発現し、アフィニティカラムによって精製した組換えヒトCTGFを作製し、この組換え蛋白を抗原としてマウス及びニワトリに免疫したが、期待された抗体は産生されなかった。もとより天然型高次構造を保持した該蛋白を認識する抗体を得るために、次にDNA免疫によるマウスでの抗体作製を試みたが、フローサイトメトリーによるマウスの抗血清解析の結果、抗体価が低いことが確認された。
【0015】
本発明者らはさらに、DNA免疫法において免疫増強シグナルペプチドをコードするDNAを発現ベクターに挿入し、免疫による抗体価上昇を調べた。しかしながら、顕著なCTGF抗体価上昇は認められなかった。その原因として、発現産物であるCTGF抗原濃度が非常に低濃度であったため、免疫系の誘起に十分でないことが予想された。CTGFは粘着性の高い蛋白であり、このような特性が影響したかもしれない。そこで、細胞表面に一定時間高濃度でCTGFを留まらせることを考え、免疫増強シグナルの直前に局在シグナルをコードするDNAを付加したプラスミドを作製し、同様に免疫したところ、CTGF抗体価が顕著に上昇し、実用的なCTGF抗体の作製に成功するとともに、従来にないほどに高親和性で天然型ヒトCTGF構造を特異的に認識する抗体を提供することを可能にした。ヒトCTGFは、構造的にも、また高粘着性という性質の点でも、特異な特性をもつ蛋白である。これまで、CTGFに対する抗体が市販されているが、使用に耐えないほどに特異性の低い抗体である。また、CTGFは、その特異な性質のために、抗体が極めて得られ難いという特性を有しているため、従来特許文献や刊行物等で開示される方法では、抗体が得られないか、或いは非常に低い抗体価で実用性のない抗体が得られるだけであった。これに対して、本発明の方法は、再現よくかつ特異的なヒトCTGF抗体を作製することを可能にする。このような方法は、これまで当業者が想到しえなかったものであり、実用的レベルで生産を可能にし、かつ天然型ヒトCTGFを特異的に認識する抗体を供給可能にしたことは、CTGFに関して画期的なことである。
【0016】
したがって、本発明は、要約すると、以下の特徴を有する。
本発明は、第1の態様において、結合組織増殖因子(CTGF)を特異的に認識することができる、DNA免疫によって作製された抗体又はその断片を提供する。
【0017】
その一の実施態様において、上記CTGFがヒトCTGFである。
その別の実施形態において、本発明の抗体がヒト抗体又はヒト化抗体である。
【0018】
本明細書中、ヒト抗体は、完全ヒト型抗体を指し、ヒト抗体遺伝子が産生する抗体と同一の抗体である。また、ヒト化抗体は、ヒト抗体の一部と他の動物の抗体の一部とに由来するキメラ抗体であり、例えばヒト抗体のうち超可変領域のCDRの一部又は全部が、非ヒト動物(例えばマウス)の対応物と置換されたような抗体である。
【0019】
その別の実施形態において、上記DNA免疫が、上記CTGFをコードするDNA又はその機能性断片を発現可能に含む発現ベクターを非ヒト動物に免疫することを含むものである。
【0020】
上記ベクターは、分泌シグナルペプチドをコードするDNAをさらに含むことができる。
上記ベクターは、局在シグナル及び免疫増強シグナルを含むペプチドをコードするDNAをさらに含むことができる。
【0021】
好ましくは、上記ベクターは、分泌シグナルペプチド、局在シグナルペプチド、免疫増強シグナルペプチド、CTGFタンパク質の各々をコードするDNAを、5'末端側からこの順序で含む。
【0022】
本明細書中で使用される分泌シグナルペプチドは、細胞内で発現、翻訳されたCTGFを細胞膜に輸送する働きのあるペプチドであって、シグナルペプチダーゼによるプロセシングによって切断されるペプチドである。このとき、CTGFは細胞外に分泌される。好ましいペプチドは、CTGFのシグナルペプチドである。
【0023】
本明細書中で使用される局在シグナルペプチドは、細胞内で発現、翻訳されたCTGFを細胞膜に移行し、かつ分泌されたCTGFを細胞膜上にアンカーする働きを有する任意のペプチドである。
【0024】
本明細書中で使用される免疫増強シグナルペプチドは、CTGFの免疫原活性又は抗原活性を高めるための任意のペプチドである。
【0025】
本発明において、上記機能性断片の例は、CTGFのモジュールである。ここで、モジュールとは、CTGF蛋白において、機能、働き又は作用をもつ構成要素を指す。そのようなモジュールの例は、インスリン様成長因子結合要素、フォンヴィルブラントC型要素、トロンボスポンジン1型リピート要素、C末端システインノット要素、ヘパリン結合要素、などである。具体的には、図1に示されるような、ヒトCTGFのモジュール1、モジュール2、モジュール3又はモジュール4をを含む。
【0026】
本明細書中で使用されるDNAという用語には、cDNA及びゲノムDNAの両方が含まれる。cDNAは、動物の組織又は細胞内のmRNAからcDNAクローニングによって合成されうる。
【0027】
その別の実施形態において、上記全長ヒトCTGFをコードするDNA又はその機能性断片が、配列番号2、4、6、8又は10によって示される塩基配列を含むものである。
その別の実施形態において、上記動物が哺乳動物である。
その別の実施形態において、上記哺乳動物がマウスである。
【0028】
好ましくは、上記マウスはヒト抗体産生トランスジェニックマウスである。このマウスは、ヒト人工染色体を用いる遺伝子組換え技術によってマウス染色体上のマウス抗体遺伝子に代えてヒト抗体遺伝子が導入され、これによって完全ヒト抗体を産生することが可能なトランスジェニックマウスである。
【0029】
その別の実施形態において、本発明の抗体が上記CTGF分子の天然型高次構造を特異的に認識することができる。
【0030】
本明細書中、CTGFの天然型高次構造は、そのアミノ酸配列中のリッチなシステイン残基間で形成される天然位置でのジスルフィド結合によって形成されるCTGFが生体内で採るネイティブな高次構造(コンフォメーションとも称する)を意味する。
【0031】
また、本明細書中、CTGFの天然型高次構造を特異的に認識するとは、本発明の抗体が、天然型高次構造をもつCTGFの連続的又は不連続的な表面抗原エピトープを、天然CTGFの精製又は遺伝子組換えの際に分子内ジスルフィド結合組換えによる構造的変性が生じたような変性型CTGFの表面抗原エピトープと比べて、より良く認識することを意味する。ここで、特異的とは、天然型高次構造をもつCTGFを認識するが上記変性型CTGFを認識しないか、或いは上記変性型CTGFよりも天然型高次構造をもつCTGFを相対的に認識しやすいことを意味する。このように相対的に高い認識度(又は免疫学的反応性)、言い換えれば10倍以上、好ましくは100倍以上、さらに好ましくは1,000倍以上高い結合能を、本明細書中では、特異的に認識するという。
【0032】
本明細書中、DNA免疫は、CTGFをコードするDNA又はその機能性断片を発現可能に組み込んだ発現ベクターを非ヒト動物、好ましくは哺乳動物、の皮下に注入し、細胞内で発現し分泌された該タンパク質の異種性のために、動物内でそのタンパク質に対する抗体が産生することを含む一連の手法を意味する。
【0033】
本発明の抗体は、タンパク質性又はペプチド性抗原を動物の皮下に直接注入する従来の抗体作製法ではなく上記のDNA免疫法を使用することによって得ることができるという知見は、本発明の特徴の1つでもあり、本願出願前、当業者が全く予想していなかったことである。
【0034】
本明細書中、発現可能にとは、調節配列の制御下で、上記CTGFをコードするDNA又はその機能性断片が発現されて、対応するタンパク質又はペプチドがin vivoで生成することを意味する。
【0035】
その別の実施形態において、本発明の抗体は、上記ヒトCTGFのモジュール1、モジュール2、モジュール3又はモジュール4のいずれか1つを特異的に認識することができる。
【0036】
その別の実施形態において、本発明の抗体が、前記CTGFに対する結合定数(KA)3.0×107M-1以上及び/又は解離定数(KD)5.6×10-9M以下を有するものである。
【0037】
従来の免疫法によって作製された(ポリクローナル又はモノクローナル)抗体の天然型ヒトCTGFに対する結合定数はこれまで具体的に報告されていないが、そのような抗体がヒトCTGFと交差反応しにくく低親和性であることが知られている(例えばJ. Biochem, 2004, 135:347-354)。本発明の抗体はいずれも、従来の免疫法によって作製された抗体と比べてより高いヒトCTGFに対する結合定数、或いはより低い解離定数、をもつことによって特徴付けられる。
【0038】
本発明はまた、第2の態様において、上で説明したような本発明の抗体又はその断片を含む医薬組成物を提供する。
【0039】
その一の実施形態において、本発明の抗体がモノクローナル抗体である。
その別の実施形態において、本発明の抗体がヒト抗体又はヒト化抗体である。
その別の実施形態において、本発明の抗体が治療用薬剤と結合されている。
【0040】
このような抗体と治療用薬剤とのコンジュゲートは、いわゆる分子標的を目的とした医薬である。本発明の抗体と治療用薬剤は、該抗体によって疾患標的部位に輸送され、CTGFが関係する疾患の治療又は予防のために作用することができる。
【0041】
そのような疾患の例には、線維症又は線維化に伴う硬化症、或いは細胞増殖性疾患がある。具体的には、上記線維症又は線維化に伴う硬化症は、例えば腎線維症、肺線維症、肝線維症、又は強皮症(又は皮膚線維症)を含む。また、上記細胞増殖性疾患は、例えば癌である。
【0042】
本発明はさらに、第3の態様において、上で説明したような本発明の抗体又はその断片を含む診断用組成物を提供する。
【0043】
その一の実施形態において、本発明の抗体がモノクローナル抗体である。
その別の実施形態において、本発明の組成物は線維症又は線維化に伴う硬化症、或いは細胞増殖性疾患の診断のために使用される。
【0044】
上記線維症又は線維化に伴う硬化症は、例えば腎線維症、肺線維症、肝線維症又は強皮症(又は皮膚線維症)である。また、上記細胞増殖性疾患が癌である。
【0045】
その別の実施形態において、本発明の抗体が、Mouse-Mouse hybridoma CTGF-m11(FERM ABP-10454)、Mouse-Mouse hybridoma CTGF-m12(FERM ABP-10455) 又はMouse-Mouse hybridoma CTGF-m21(FERM ABP-10456)のハイブリドーマ由来のモノクローナル抗体である。
【0046】
本発明はさらに、第4の態様において、Mouse-Mouse hybridoma CTGF-m11(FERM ABP-10454)ハイブリドーマ由来のモノクローナル抗体を提供する。
【0047】
本発明はさらに、第5の態様において、Mouse-Mouse hybridoma CTGF-m12(FERM ABP-10455)ハイブリドーマ由来のモノクローナル抗体を提供する。
【0048】
本発明はさらに、第6の態様において、Mouse-Mouse hybridoma CTGF-m21(FERM ABP-10456)ハイブリドーマ由来のモノクローナル抗体を提供する。
【0049】
本発明はさらに、第7の態様において、CTGFをコードするDNA又はその機能性断片を発現可能に含む発現ベクターを非ヒト動物に免疫し、該CTGFを認識する抗体を含む体液、或いは該抗体を産生する細胞、を取り出し、該CTGFを認識するポリクローナル又はモノクローナル抗体を得ることを含む、上記の本発明抗体の作製方法を提供する。
【0050】
その実施形態において、上記CTGFがヒトCTGFである。
その別の実施形態において、上記非ヒト哺乳動物がげっ歯類又は有蹄類である。
その別の実施形態において、上記げっ歯類がマウスである。
その別の実施形態において、上記マウスがヒト抗体産生トランスジェニックマウスである。
【0051】
その別の実施形態において、上記ベクターが分泌シグナルペプチドをコードするDNAをさらに含むことができる。
その別の実施形態において、上記ベクターが局在シグナル及び免疫増強シグナルを含むペプチドをコードするDNAをさらに含むことができる。
【0052】
好ましくは、上記ベクターは、分泌シグナルペプチド、局在シグナルペプチド、免疫増強シグナルペプチド、CTGFタンパク質の各々をコードするDNAを、5'末端側からこの順序で含む。
【0053】
その別の実施形態において、上記抗体を産生する細胞が脾臓細胞、B細胞又はリンパ細胞である。
その別の実施形態において、上記有蹄類がウシである。
その別の実施形態において、上記体液が血清又は乳汁である。
【0054】
その別の実施形態において、上記ポリクローナル又はモノクローナル抗体が、前記ヒトCTGFに対する結合定数(KA)3.0×107M-1以上及び/又は解離定数(KD)5.6×10-9M以下を有することによって特徴付けられる。
【0055】
また、上記機能性断片の例は、ヒトCTGFのモジュール1、モジュール2、モジュール3又はモジュール4をコードするDNAである。
【0056】
その別の実施形態において、本発明の方法は、上記抗体を産生する細胞或いは前記ハイブリドーマをフローサイトメトリーにて選抜することをさらに含む。
【発明の効果】
【0057】
本発明により、抗原を動物に直接免疫する従来の抗体産生法によって得られた抗体と比較して、天然型高次構造を有するCTGFに対する結合親和性が顕著に高い及び該CTGFの生物活性を特異的かつ高度に阻害する抗体が提供される。このような抗体を見出したことは、当該分野の当業者にとって非常に驚くべきことである。本発明の抗体が、特にヒト抗体産生トランスジェニック動物においてin vivoで産生されるときは、ヒト抗体が得られ、これは、ヒトにおいてCTGFが関連する疾患、例えば線維症や細胞増殖性疾患、の有効な治療のために、拒絶反応なしに使用可能である。このように、本発明は、従来の抗体産生法で作製された抗体では十分な効果が期待できなかった上記のような新規な特性の抗体を提供しうる点で、上記疾患の治療、診断等のために産業上有益かつ有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0058】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
CTGF
CTGFは、ヒト、マウス、ラット、ブタ、ウシなどの哺乳動物、ニワトリなどの鳥類で同定されており、細胞から分泌され、その特異的細胞表面受容体と相互作用し、これによって、特に結合組織細胞の増殖及び細胞外マトリックスの合成に関与する活性をもつ増殖因子の1つである。
【0059】
本発明において、CTGFは動物、特に脊椎動物、好ましくは哺乳動物、さらに好ましくはヒト由来のCTGFである。例えば哺乳動物由来のCTGFのアミノ酸及び塩基配列は、GenBankデータベース(NCBI)から入手可能である。例えばCTGF配列は、ヒトでは受託番号CAA63267, X92511, P29279, NM001554, NM001901;マウスではNP034347;ラットではNP071602, NM022266;ウシではNP776455, NM174030;ブタではAAD00174として登録されている。
【0060】
ヒトCTGFは、322アミノ酸(但し、シグナルペプチドを含むとき349アミノ酸)からなる糖タンパク質であり、ヒト由来の糖鎖に加えて、39個のリッチなシステイン残基を有し、少なくとも5個のジスルフィド結合が存在することを特徴とする。また、図1に示すように、このタンパク質は、4つの機能性ドメイン、すなわちインスリン様成長因子結合タンパク質であるモジュール1、フォンヴィルブラントC型因子であるモジュール2、トロンボスポンジン1型リピートであるモジュール3、C末端システインノット様ドメイン(CTCK)であるモジュール4を含む。
【0061】
ヒトCTGFのアミノ酸配列、並びにそれをコードする塩基配列は、後述の配列表に配列番号1及び配列番号2、配列番号11として示されている。また、モジュール1〜4のアミノ酸配列及びそれらをコードする塩基配列はそれぞれ、モジュール1について配列番号3及び4、モジュール2について配列番号5及び6、モジュール3について配列番号7及び8、モジュール4について配列番号9及び10に示されている。
【0062】
本発明では、CTGFの突然変異体、例えば多型性やスプライス変異などの変異のために個体内で生じる突然変異体が存在する場合、そのような突然変異体もCTGFと同様に本発明の対象となりうる。そのような突然変異体は、CTGF又は機能性断片(例えばモジュール、好ましくはヒトCTGFのモジュール1〜4)で示されるアミノ酸配列又は塩基配列において、1若しくは複数、例えば数個、のアミノ酸又はヌクレオチドの置換、欠失又は付加を含むことができる。ここで、数個とは2〜10個の整数を表す。或いは、そのような突然変異体は、上記アミノ酸配列又は塩基配列と80%以上、90%以上、95%以上、98%以上の同一性を有するものである。ここで、%同一性は、ギャップの導入を考慮しうるBLASTプログラムなどの公知のプログラムを用いて容易に決定できる(S. Karlinら, Proceedings of the Natinal Academic Sciences USA 90:5873-5877 (1993))。
【0063】
以下の説明では、CTGF及びその突然変異体を総称的にCTGFと称する。
DNA免疫法による抗体の産生
本発明の抗体の作製は、DNA免疫法を使用することによって達成される。
DNA免疫法では、ヒトなどの動物の組織又は細胞(例えば皮膚繊維芽細胞、内皮細胞)からCTGFタンパク質をコードするDNAをクローニングし、得られたcDNAを動物用発現ベクターに挿入し、このベクターを動物に免疫する。このとき、動物体内で該DNAの発現により得られたヒトCTGFに対する抗体が産生される。
【0064】
本発明は、DNA免疫法を使用することによって、CTGFがin vivoでネイティブな状態で産生され、それに対する抗体が産生されることを特徴とする。ネイティブな状態とは、CTGFの天然型高次構造(ジスルフィド結合、糖鎖など)を採ることを意味する。したがって、本発明で作製される抗体は、天然型CTGFに対する抗体である。好ましい抗体は、天然型ヒトCTGFに対する抗体である。
【0065】
CTGFをコードするDNAのクローニングは、次のように行うことができる。
データバンク又は文献記載のCTGFのcDNA塩基配列に基づいて、その5'末端及び3'末端側の配列からなるプライマーを設計し合成する。プライマーは、通常、15〜25塩基程度のサイズを有しており、該CTGFのセンス鎖及びアンチセンス鎖に対してアニーリングすることができる2つのプライマーを用意する。プライマーの合成は、市販のDNA自動合成機を用いて行うことができる。
【0066】
ヒトなどの動物の組織又は細胞(例えば皮膚繊維芽細胞、内皮細胞)から全RNAをクロロホルム/フェノール法にて調製し、オリゴdTセルロースカラムクロマトグラフィー処理にてポリA(+)RNA(mRNA)を取得し、逆転写酵素の存在下でcDNA合成を行う。cDNA合成及びクローニングキットは例えばAmersham社、Invitrogen社などから市販されているので、これらのキットを利用すると便利である。このようにして合成されたcDNAを鋳型にし、上記のように作製されたプライマーを用いて、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行い、CTGFをコードするcDNAを増幅する。
【0067】
PCRは、市販のサーマルサイクラー(例えばPerkin Elmer-9600,Eppendorf-Master cycler gradientなど)を使用して実施するのがよい。PCR条件として、例えば10×PCR buffer (100mM Tris (pH 8.3),500mM KCl,15mM MgCl2及び0.1% (W/V)ゼラチン)、dNTPs 2mM、プラーマー2.5μM〜10μM中、Taqポリメラーゼなどの耐熱性DNAポリメラーゼ(1〜2.5単位;rTaq (Takara), Ampli Taq(Promega)など)を添加して反応を行う。PCRは、例えば95℃、2〜5分での1回の変性サイクルの後、95℃、0.2〜1分での変性、50〜65℃、0.5〜1分でのアニーリング、及び72℃、0.5〜2分での伸長を1サイクルとして15〜40サイクルを行い、最後に、72℃、5分の伸長を行うことを含む。
【0068】
cDNAクローニング及びPCRについては、Sambrookら、Molecular Cloning A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory (1989)、Ausubelら, Current Protocols in Molecular Biology (1989)などに記載されており参照可能である。
【0069】
ある種のCTGFの機能性断片の配列は、すでに機能及び配列が公知のCTGFとの同一性の比較に基づいて決定しうる。比較は、上記のBLASTプログラムを使用して行うことができる。また、公知のCTGFの機能性断片は、例えばヒトCTGFのモジュール1〜4である。機能性断片をコードするDNAは、自動DNA合成機を用いて合成することができる。
【0070】
上記のようにして得られたCTGF又はその機能性断片(例えばヒトCTGFやそのモジュール1〜4)をコードするDNAは、次いで、発現ベクターに挿入される。
【0071】
ベクターは、例えば、プラスミド、ウイルス、ファージなどの形態をとることができる。好ましいベクターは、動物細胞発現ベクター、例えば昆虫細胞発現ベクター又は哺乳動物細胞発現ベクター、好ましくは哺乳動物細胞発現ベクターである。ベクターは市販されており、本発明で使用できる。哺乳動物細胞発現ベクターの例は、アデノウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクターなどのウイルスベクター、pcDNA3.1(Invitrogen)、pCI(Promega)などのプラスミドベクターなどである。
【0072】
発現ベクターは、プロモーター、エンハンサー、複製開始点、リボソーム結合部位、ポリアデニル化部位、又はターミネーター、などの調節配列を含むことができる。宿主の細胞内でプロモーターにRNAポリメラーゼが結合することによって転写が開始され、目的のタンパク質又はペプチドに翻訳される。好ましいプロモーターの例は、ウイルスプロモーター、例えばCMV(サイトメガロウイルス)プロモーター、RSV(ラウス肉腫ウイルス)プロモーター、EBV(Epstein-Barrウイルス)などである。
【0073】
本発明において、上記ベクターには、局在シグナル及び免疫増強シグナルを含むペプチドをコードするDNAを含むことが好ましい。
【0074】
免疫増強シグナルは、上記定義のとおり、CTGFの免疫原活性又は抗原活性を高めるための任意のペプチドである。このようなぺプチドは、免疫アジュバント活性を有するペプチド、T細胞エピトープなどを含む。T細胞エピトープは、T細胞レセプターを認識し、これに結合することができるものである。免疫増強シグナルは、例えば種々のウイルス抗原、種々の細菌毒素などのエピトープ、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)、オボアルブミン(OVA)、ウシ血清アルブミン(BSA)などのT細胞依存性抗原のエピトープなどを含む。
【0075】
免疫増強シグナルの例は、以下のものであるが、これらに限定されないものとする(R.S. Chambers及びS.A. Johnston, Nature Biotechnology 21(9):1088-1092 (2003))。
【0076】
GlnAlaValHisAlaAlaHisAlaGluIleAsnGlu(配列番号12);
GlnTyrIleLysAlaAsnSerLysPheIleGlyIleThrGluLeu(配列番号13);
PheAsnAsnPheThrValSerPheTrpLeuArgValProLysValSerAlaSerHisLeuGluGlnTyr(配列番号14);及び
AsnGlnArgGlyThrGluLeuArgSerProSerValAspLeuAsnLysProGlyArgHis(配列番号15)。
【0077】
本発明において、免疫増強シグナルは、1つ又は複数を組み合わせて使用できる。
局在シグナルは、細胞内で発現、翻訳されたCTGFを細胞膜に移行し、かつ分泌されたCTGFを細胞膜上にアンカーする働きを有する任意のペプチドである。本発明においては、局在シグナルは重要な構成要素の1つであり、高抗体価のCTGF抗体が産生されるように、発現されたCTGFを細胞表面に一定時間高濃度で留まらせるために必要である。局在シグナルの例は、MetGlyCys及びMetGlyCysCys(配列番号16)であり、ミリストイル化された1位のGly残基を介して細胞膜への移行を可能とするとともに、パルミチン化された3位,4位のCys残基を介してターゲットタンパクを細胞膜上にアンカーさせることを可能とする(Zuber, M. X., Strittmater, S. M及びFishman, M. C. (1989) Nature 341, 345-348; Skene, J. H. P.及びVirag, I. (1989) J. Cell Biol. 108, 613-624; Liu, Y.ら, (1993) Biochemistry 72, 10714-10719)。本発明で使用可能な局在シグナルは、上記の例に限定されないものとし、同様のアンカー作用があればいずれのシグナルも使用できる。
【0078】
局在シグナルと免疫増強シグナルは、N末端側からこの順序で連結されることが好ましい。これら2つのシグナル間に1〜数個の任意のアミノ酸からなるリンカーが結合されてもよい。また、局在シグナル及び免疫増強シグナルを含むペプチドのC末端側に、場合により1〜数個の任意のアミノ酸からなるリンカーを介在させて、CTGF又はその機能性断片を連結するように配置される。
【0079】
ベクターはさらに、細胞内で発現したCTGF又はその機能性断片を細胞膜に輸送するための分泌シグナルペプチドをコードするDNAを連結することが好ましい。このようなシグナルペプチドの好適な例は、CTGFのシグナルペプチド、例えばヒトCTGFのシグナルペプチド(配列番号1の1位〜27位の配列)である。
【0080】
本発明において、好ましいベクターは、プロモーターの下流に、分泌シグナルペプチド、局在シグナルペプチド、免疫増強シグナルペプチド及びCTGFをN末端側からこの順序で含む融合蛋白が発現されるように、該融合蛋白をコードするDNAを含む。細胞内で発現された融合蛋白は、細胞膜に移行し、シグナルペプチドから切断されて分泌され、細胞膜にアンカーとして留まる。その結果、CTGFに対する抗体が生成しやすくなる。
【0081】
ベクターにはさらに、必要に応じて、目的のDNAの発現を検出するためのタグ、例えばFLAGタグ、ヒスチジンタグ(例えばHis6〜His10)などをコードする塩基配列を、目的DNAの5'端又は3'端に結合することができる。特にFLAGタグなどの蛍光性タグは、目的タンパク質の発現の検出のために役立つ。
【0082】
CTGF又はその機能性断片をコードするDNAを含む発現ベクターは、動物の身体部分、例えば皮下、に注入される。注入は、約1〜2週間置きに数回、例えば約1〜2ヶ月にわたって行うことができる。ベクターの注入量は、例えば17.5μg抗原/回である。
【0083】
動物は、脊椎動物(魚類、爬虫類、両生類、鳥類、哺乳類)を指し、好ましい動物は鳥類及び非ヒト哺乳動物である。より好ましい動物は非ヒト哺乳動物、例えばげっ歯類(例えばマウス、ラット、ハムスター、モルモットなど)、有蹄類(例えばウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ヤギなど)、ウサギなどである。
【0084】
本発明は、抗体の産生を目的とするため、ヒト抗体又はヒト化抗体を産生可能な動物(ヒトを除く)が好ましく使用される。そのような動物は、ヒト抗体産生トランスジェニック動物であり、例えばマウスやウシなどで知られている(特表平4-504365号公報、特表平6-500233号公報、米国特許第5,545,806号、米国特許第5,569,825号、L.L. Green, J. Immunol. Methods 231:11-23 (1999)など)。特に、KMマウス(キリンビール社)、Xenomouse (Abjenix社)などは、ヒト抗体を産生するトランスジェニックマウスとして知られている。これらのマウスでは、マウスの本来の抗体遺伝子の全部又は一部がヒト由来の抗体遺伝子と置換されており、これによってマウスはヒト抗体又はヒト化抗体を産生することができる。すなわち、ヒト抗体は、免疫グロブリンの重鎖及び軽鎖の可変領域及び定常領域がいずれもヒト免疫グロブリン遺伝子に由来するものである。また、ヒト化抗体(又はキメラ抗体)は、ヒト抗体分子において、ヒト免疫グロブリン遺伝子に由来する重鎖又は軽鎖の可変領域及び定常領域の一部、好ましくは超可変領域のCDRの一部又は全部が、マウスなどのヒト以外の動物の免疫グロブリン遺伝子に由来する対応する重鎖又は軽鎖の可変領域及び定常領域の一部、好ましくは超可変領域のCDRの一部又は全部、によって置換されたようなキメラ免疫グロブリンである。
【0085】
ヒト化抗体の作製については、例えば動物を使わないでヒト化抗体を作製する手法もある。すなわち、ヒト化抗体は、例えば、チェーンシャフリング法により、またはファージディスプレイ技術を用いて得ることができる。例えば、CTGFに特異的な非ヒト抗体の重鎖もしくは軽鎖可変ドメインを含むポリペプチドを、ヒト補体(軽もしくは重)鎖可変ドメインのレパートリーと結合させる。目的の抗原に特異的なハイブリッド対合を選択する。続いて選択した対合からのヒトの鎖を、ヒト補体可変ドメイン(重もしくは軽)のレパートリーと結合させ、そしてヒト化抗体ポリペプチド二量体を、抗原に対する結合特異性について選択し得る。本発明の方法に使用し得るヒト化抗体の作製について記載された技法は、例えば、米国特許第5,565,332号、第5,585,089号、第5,694,761号、および第5,693,762号に開示されている。
【0086】
本発明によりDNA免疫法で免疫された動物では、一過的に発現されたCTGF又はその機能性断片対する抗体の産生が誘発される。抗体の産生後、動物の体液、例えば血清、血漿、乳汁などから目的の抗体を回収する。ここで得られる抗体は、ポリクローナル抗体である。抗体のアイソタイプはIgG、IgM、IgA、IgD、IgEなどのいずれでもよい。また、抗体のクラスは、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2などであり、軽鎖はκ鎖、λ鎖などである。このような抗体の種類は、モノクローナル抗体でも同様である。
【0087】
本発明はさらに、上記抗体又は下記のモノクローナル抗体の断片も包含する。このような断片の例は、Fc、Fd、Fab、Fab'、(Fab')2などを含む。例えばパパイン、トリプシン、ペプシンなどのプロテアーゼによる分解によって断片を得ることができる。
【0088】
本発明のモノクローナル抗体は、以下のようにして一般的なモノクローナル抗体の作製方法によって調製することができる。
【0089】
上記のDNA免疫法で免疫された動物(ヒトを除く)、好ましくはマウス、さらに好ましくはヒト抗体産生トランスジェニックマウス、から脾臓細胞、B細胞又はリンパ細胞(もしくはリンパ節)を取り出し、これらの細胞と骨髄腫細胞(ミエローマ細胞ともいう)、好ましくはマウス骨髄腫細胞、とを融合させてハイブリドーマを作製する。細胞融合のためには、例えばポリエチレングリコールなどの細胞凝集性媒体が使用される。
【0090】
その結果得られたハイブリドーマの中から、天然型CTGF、好ましくはCTGFの天然型高次構造、を特異的に認識する抗体を選抜する。選抜には、フローサイトメトリーが好ましく使用できる。検出のために、ヒト又はマウスの免疫グロブリンと特異的に結合する蛍光標識二次抗体を使用することができる。
【0091】
樹立したハイブリドーマをヌードマウスに腹腔内注射し、腹水を採取し、腹水をプロテインA又はプロテインGセファロースカラムに通して、高純度の目的のモノクローナル抗体を回収することができる。
【0092】
モノクローナル抗体の作製法については、Kohlerら, Nature, 256:495 (1975)、Ausubelら, Current Protocols in Molecular Biology (1989)、Kozborら, Immunology Today 4:72 (1983)、Coleら, Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, 77-96 (1985)、 Antibodies,A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,Chapter 8,1988などに記載されており、本発明の実施のために参照することができる。
【0093】
したがって、本発明により、CTGFをコードするDNA又はその機能性断片(例えばCTGFを構成するモジュールをコードするDNA)を発現可能に含む発現ベクターを非ヒト動物に免疫し、該CTGFを認識する抗体を含む体液、或いは該抗体を産生する細胞、を取り出し、該CTGFを認識するポリクローナル又はモノクローナル抗体を得ることを含む、上記の抗体の作製方法が提供される。
【0094】
本発明の実施形態によれば、上記非ヒト動物は、好ましくは哺乳動物、より好ましくはげっ歯類又は有蹄類である。げっ歯類の例はマウス、好ましくはヒト抗体産生トランスジェニックマウスである。また、有蹄類は、ウシ、ヤギ、ヒツジなど、好ましくはヒト抗体産生トランスジェニックウシである。
上記方法において、体液は、例えば血清又は乳汁である。
【0095】
また、本発明の実施形態によれば、上記抗体を産生する細胞は脾臓細胞、B細胞又はリンパ細胞である。これらの細胞は、上記のとおり、骨髄腫細胞と融合しハイブリドーマを形成し、本発明のモノクローナル抗体を作製するために使用される。
【0096】
さらに、本発明の実施形態によれば、本発明の方法は、上記抗体を産生する細胞或いは前記ハイブリドーマをフローサイトメトリーにて選抜することをさらに含む。検出のために、ヒト又はマウスの免疫グロブリンと特異的に結合する蛍光標識二次抗体を使用することができる。この選抜法によって得られる抗体の中から、ヒトに対し副作用を及ぼすような有害な抗体は排除される。
【0097】
抗モジュール抗体は、DNA免疫法により全長CTGF遺伝子発現によってin vivoで誘発された抗CTGFポリクローナル又はモノクローナル抗体群の中から免疫吸収法又はフローサイトメトリーなどの選択手法を用いて選抜することによっても得ることができる。
【0098】
抗体の特徴
本発明により、上記のようなDNA免疫法によって、天然型高次構造を保持するCTGF又はその機能性断片(例えばモジュール)を特異的に認識する抗体(すなわち、ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体)が得られる。特に、ヒト抗体産生トランスジェニック動物(例えばマウス、ウシ)に対してDNA免疫を実施するときには、天然型高次構造を保持するヒトCTGF又はその各モジュールを特異的に認識するヒト抗体又はヒト化抗体を得ることができる。
【0099】
そのような抗体として、例えばヒトCTGFのモジュール1及びモジュール2の各々に対するモノクローナル抗体、すなわちMouse-Mouse hybridoma CTGF-m11(FERM ABP-10454)由来のモノクローナル抗体、Mouse-Mouse hybridoma CTGF-m12(FERM ABP-10455)及びMouse-Mouse hybridoma CTGF-m21(FERM ABP-10456)由来のモノクローナル抗体などを作製した。しかし、本発明は、これらの特定の抗体に制限されるものではなく、例えばヒト抗体産生トランスジェニック動物を使用してヒトCTGF又はモジュール1〜4の各々に対するヒト抗体の作製を実施し、同様に目的のヒト抗体を取得することも可能である。
【0100】
本発明の抗体は、BIAcore(登録商標)の表面プラズモン共鳴法で測定するとき、天然型CTGFに対する結合定数3.0×107M-1以上、5.0×107M-1以上、好ましくは1.0×108M-1以上、1.8×108M-1以上、3.0×108M-1以上、さらに好ましくは5.0×108M-1以上、特に好ましくは1.0×109M-1以上、並びに/或いは、天然型CTGFに対する解離定数5.6×10-9M以下、好ましくは3.5×10-9M以下、3.0×10-9M以下、さらに好ましくは2,5×10-9M以下、2,0×10-9M以下、特に好ましくは1.0×10-9M以下、5.0×10-10M以下を有することを特徴とする。
【0101】
本発明の抗体は、CTGF、好ましくはヒトCTGF、の天然型高次構造を特異的に認識することができる。ここで特異的とは、天然型高次構造をもつCTGFを認識するが上記変性型CTGFを認識しないか、或いは上記変性型CTGFよりも天然型高次構造をもつCTGFを相対的に認識しやすいことを意味する。このように相対的に高い認識度(又は免疫学的反応性)、言い換えれば10倍以上、好ましくは100倍以上、さらに好ましくは1,000倍以上高い結合能を、本明細書中では、特異的に認識するという。従来の免疫法では達成されなかった天然型ヒトCTGFに対する高い結合親和性のために、in vivoでヒトCTGFの生物活性を実用的レベルで有意に阻害又は抑制することが可能になる。ここで、生物活性とは、線維性結合組織の増殖、血管新生を含む細胞増殖亢進などを含む。
【0102】
医薬組成物
本発明はさらに、有効量の上記の本発明の抗体を含む医薬組成物も提供する。
本発明の医薬組成物で使用される抗体は、好ましくはヒトCTGF又はその機能性断片(例えばモジュール1〜4)に対する抗体であり、好ましくはヒト抗体又はヒト化抗体であり、特に好ましくはヒト抗体である。また、抗体はポリクローナル抗体でもよいし、或いはモノクローナル抗体でもよいが、好ましくはモノクローナル抗体である。
【0103】
フローサイトメトリーによって、正常細胞又は組織に実質的に悪影響を与えずに、疾患細胞や組織に対してのみ有効に作用するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを選抜することができる。
【0104】
本発明の組成物は、線維症又は線維化に伴う硬化症、或いは細胞増殖性疾患の治療又は予防のために使用することができる。
【0105】
上記線維症又は線維化に伴う硬化症は、例えば腎臓、肺、肝臓、眼球、心臓などの臓器の線維症、強皮症、間質性線維症、硬膜外線維症などである。CTGFの異常な発現は、一般的な組織瘢痕化、皮膚の腫瘍様増殖、血管の持続的瘢痕化に伴ってみられ、それは血液運搬能の悪化、高血圧症、肥大などを導く。また、CTGFが関係する他の疾患には、皮膚線維腫を含む癌、内皮細胞異常発現に関連する症状、乳癌線維形成性腫、血管脂肪腫、血管平滑筋腫、アテローム性動脈硬化症、全身性硬化症(アテローム硬化性斑、炎症性腸疾患、クローン病、血管新生など)、関節炎、及びその他の疾患症状、緑内障に関与する血管新生、炎症(関節炎など)、腫瘍増殖転移、間質性疾患、皮膚疾患、関節炎(慢性関節リウマチなど)、動脈硬化症、糖尿病(糖尿病性神経障害など)、高血圧症、その他の腎障害、外科手術、化学療法、放射線処理、同種異系移植片拒絶反応、移植拒絶反応など多様な疾患、障害又は症状が含まれる。
【0106】
線維症は、上記のような臓器又は器官に線維性結合組織の増殖が起こり組織の硬化と萎縮をきたし、正常の臓器又は器官構造の破壊と荒廃が生じた状態をいう。線維症は種々の損傷又は疾患によって生じ得るが、種々の器官の移植に関係する慢性移植拒絶反応により生じることが多い。線維症は、一般には、細胞間質マトリックス成分の異常な産生、蓄積又は沈着が含まれ、例えばコラーゲンとフィブロネクチンの過剰産生及び沈着増加を引き起す。
【0107】
上記細胞増殖性疾患は、異常増殖性の癌である。CTGFは、血管新生を亢進する作用があり、特に悪性腫瘍(すなわち癌)での血管新生に関与していると言われている(特許文献4)。癌には、例えば急性リンパ芽球性白血病、皮膚線維腫、乳癌、乳癌腺異形成、血管脂肪腫、血管平滑筋腫、癒着性癌、前立腺癌、卵巣癌、結腸直腸癌、膵癌、胃腸系癌、肝臓癌、他の腫瘍増殖及び転移を含む癌などが含まれる。
【0108】
CTGFがその細胞表面受容体に結合し増殖シグナルを伝達するのを阻害又は抑制することができれば、線維症又は線維化に伴う硬化症、血管新生などのCTGFが関係する種々の疾患又は障害の治療又は予防に役立つと考えられる。このための阻害剤又は抑制剤の1つが、ヒトCTGF又はその表面抗原エピトープに対する抗体である。
【0109】
本発明の実施形態により、上記抗体に治療用薬剤を結合させることができる。抗体は、CTGFが存在する標的疾患部位又はその近傍に薬剤を運搬するとともに、CTGFの機能を阻害又は抑制し、一方、薬剤は、疾患の症状を治癒、軽減又は改善する。このような形態の医薬は、いわゆる分子標的薬である。
【0110】
薬剤は、上記疾患の治療薬剤として使用されている、又は使用されようとする、すべての薬剤を含む。そのような薬剤は、例えば合成又は天然の、低分子量又は高分子量の、タンパク質性又は非タンパク質性の、或いは核酸又はヌクレオチド性の物質である。例えば、線維症の治療薬剤の例は、プロスタグランジンE1、ステロイド剤、PPARリガンド、アンアンギオテンシンII型 I 受容体アンタゴニスト、可溶性TGFII型受容体、HGFなど、また、抗癌剤の例は、アルキル化剤、例えばイホスファミド、ニムスチン、シクロホスファミド、ダカルバジン、ラニムスチンなど、代謝拮抗剤、例えばゲムシタビン、フルオロウラシルなど、抗癌性抗生物質、例えばダウノルビシン、ドキソルビシン、ブレオマイシン、マイトマイシンCなど、植物アルカロイド、例えばパクリタキセル、ビンクリスチン、ビンブラスチンなど、白金錯体、例えばシスプラチンなどを含む。
【0111】
抗体と薬剤との結合は、好ましくはリンカーを介して行われる。リンカーは、例えば置換又は未置換の脂肪族性アルキレン鎖を含み、その両末端に、抗体又は薬剤の官能基と結合可能な基、例えばN-ヒドロキシスクシンイミド基、エステル基、チオール基、イミドカルボネート基、アルデヒド基などを含むものである(抗体工学入門、地人書館、1994年)。
【0112】
必要に応じて、医薬を細胞内に運搬しやすくするために、リポソームに封入することもできる。好ましいリポソームは、正電荷リポソーム、正電荷コレステロール、膜透過性ペプチド結合リポソームなどである(中西守ら,蛋白質核酸酵素44:1590-1596 (1999)、二木史朗,化学と生物43:649-653 (2005)、Clinical Cancer research 59:4325-4333 (1999)など)。
【0113】
投与は、非経口投与、例えば静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、経皮投与などである。
非経口投与のための製剤としては、滅菌された生理食塩水溶液、緩衝塩水溶液、有機溶剤含有水溶液などの水溶液中の、溶液剤、懸濁剤、乳剤などが挙げられる。有機溶剤の例は、エタノール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油、およびオレイン酸エチルなどの脂肪酸エステルなどを含む。また、製剤中には、栄養剤、電解質液、保存剤、抗酸化剤などの添加剤が含まれてもよい。
【0114】
抗体の有効成分量は、1回の用量あたり100〜2,500μg/mlである、或いはヒト成人患者体重1kgあたり1.0〜10mgの量であるが、これらに限定されないものとする。
【0115】
投与回数は、例えば1〜2週間に1回の頻度で数回の投与又は2〜3週間に1回の投与で約2ヶ月間である。
【0116】
診断用組成物
本発明はさらに、上記抗体を含む診断用組成物を提供する。
本発明の組成物は、例えば線維症又は線維化に伴う硬化症、或いは細胞増殖性疾患の診断のために使用されるが、これらに限定されず、上記の他の疾患、障害の検出のためにも使用可能である。このような疾患では、CTGFの発現が正常値又は標準値よりも高い状態となり、結合組織の異常増殖、組織の硬化と萎縮、臓器又は器官構造の破壊が生じる。このために、CTGFの存在又は量を、本発明の上記抗体を用いて測定することにより、上記のような疾患を診断することができる。抗体は、ヒトCTGFに対する抗体だけでなく、ヒトを除く動物、好ましくは哺乳動物のCTGFに対する抗体も使用できる。CTGFは哺乳動物間で高い配列同一性を有しており、例えばヒトとマウスではアミノ酸レベルで93.5%の同一性がある。
【0117】
アッセイの例としては、慣用の一般的アッセイ法、例えば酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、蛍光抗体アッセイ、放射性免疫アッセイ、放射性免疫沈降法、ドットブロットアッセイ、阻害または競合アッセイ、サンドイッチアッセイ、ラテックスビーズ凝集アッセイなどが挙げられるが、これらに制限されない。
【0118】
本発明の抗体は、天然型CTGF(好ましくはヒトCTGF)を特異的に認識することによって特徴付けられ、特にCTGFの天然型高次構造の連続的又は不連続的な細胞表面抗原エピトープを特異的に認識することができる。
【0119】
高い特異性を達成するためには、モノクローナル抗体が好ましい。疾患の診断又は検出を目的とするため、抗体はヒト抗体又はヒト化抗体である必要はなく、例えばマウスモノクローナル抗体でよい。このような抗体の例は、以下のものに限定されないが、Mouse-Mouse hybridoma CTGF-m11(FERM ABP-10454)、Mouse-Mouse hybridoma CTGF-m12(FERM ABP-10455)、Mouse-Mouse hybridoma CTGF-m31、Mouse-Mouse hybridoma CTGF-m32、Mouse-Mouse hybridoma CTGF-m33、Mouse-Mouse hybridoma CTGF-m41のハイブリドーマ由来のモノクローナル抗体である(後述の実施例参照)。
【0120】
本発明の方法で検出可能な線維症又は線維化に伴う硬化症は、例えば腎線維症、肺線維症、肝線維症、又は皮膚線維症(強皮症ともいう)などの線維症、また、細胞増殖性疾患は、例えば癌であるが、これらに限定されない。
【0121】
サンプルは、生物学的サンプル、例えば、疾患部位の組織又は細胞生検、血液、血清、血漿、リンパ液、尿などの体液、などである。これらのサンプルを、必要に応じて均質化、遠心分離、或いは希釈を行い、適切な緩衝液中で、本発明の抗体を添加し、抗原であるヒトCTGFと抗体との複合体を上記のアッセイ法にて検出する。この場合、本発明の抗体を標識してもよいし、或いは標識二次抗体を使用することもできる。
【0122】
標識は、酵素(例えば西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼなど)、放射性同位元素(例えば32P、35S、3H、125Iなど)、蛍光性物質(例えばローダミン、フルオレサミン、ダンシルクロリド、それらの誘導体など)などである。
【0123】
以下の実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって制限されないものとする。
【実施例】
【0124】
(1)発現ベクターの構築
ヒトCTGFの全長遺伝子(配列番号2)またはそれを構成する各々のmodule 1(配列番号4), module 2(配列番号6), module 3(配列番号8)、およびmodule 4(配列番号10)の各遺伝子断片を、FLAGタグ付の哺乳動物発現ベクター(VV8;Invitrogen社)に組込んだ。発現ベクターはまた、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、局在シグナル配列(MetGlyCys)及び免疫増強シグナル配列(ニワトリOVAエピトープ;R.S. ChambersとS.A. Johnston, Nature Biotechnology 21(9):1088-1092 (2003))からなるペプチドをコードするDNAを含む。
【0125】
ヒトCTGFの高次構造を認識しかつその生物生理活性を阻害するモノクローナル抗体を得るために、ヒトCTGF全長遺伝子が入った構築物であるvv8/CTGFが最適な免疫用抗原遺伝子となるが、そのほか、module 1, module 2, module 3, module 4のいずれかが挿入された構築物も免疫抗原遺伝子として使用できる。
【0126】
構築した遺伝子構築物(すなわち、vv8/ヒトCTGF全長遺伝子、vv8/module 1, vv8/module 2, vv8/module 3およびvv8/module 4)が設計した通りに細胞表面に発現されているかどうかについて免疫実施前にヒト腎臓由来哺乳動物細胞(HEK293T)を用いて検証した。すなわち、構築した遺伝子構築物を哺乳細胞に一過性発現導入した。導入した哺乳細胞を 5%CO2インキュベータ中、10%FCS添加D-MEM培地で、24時間、37℃で培養し、フローサイトメトリー(FCM)解析に用いた。FCM解析する際、上記の導入遺伝子に付加しているタグに対するFLAG M2抗体(Sigma-ardrich社)を遺伝子導入した培養細胞懸濁液に加え、30分間静置した。その後、1次抗体を特異的に認識する蛍光標識した抗マウスIg抗体(Beckmancoulter社)を上記反応液に添加し、30分間静置してからFCM解析に使用した。
【0127】
その結果、本発明により構築した5つの遺伝子構築物がすべて細胞表面に発現していることが証明された。
【0128】
(2)DNA免疫法による抗体の作製
DNA免疫法は、上記遺伝子構築物を単独または混合して、免疫動物に対して様々な遺伝子導入法(例えば筋肉注射、エレクトロポレーション、遺伝子銃など)のいずれかを用いて、動物(マウス又はヒト抗体産生トランスジェニックマウス)の皮下に注入し、細胞内に取り込ませた。
【0129】
ヒトCTGF全長遺伝子導入細胞を認識する強い特異抗体を産生している動物を解剖し、定法に従いB細胞を単離してモノクローナル抗体を作製した。具体的には、次のように行った。
【0130】
ハイブリドーマは免疫したBalb/cマウスの脾臓もしくはリンパ節から得られた免疫細胞と骨髄腫細胞を融合して作製された。骨髄腫細胞はマウスから得られた株化細胞である、8-アザグアニン耐性マウス(BALB/c由来)骨髄腫細胞株P3-X63Ag8-U1(P3-U1)[Eur.J.Immunol.,6,511(1976)]、SP2/0-Ag14(SP-2)[Nature,276,269(1978)]、P3-X63-Ag8653(653)[J.Immunol.,123,1548(1979)]、P3-X63-Ag8(X63)[Nature,256,495(1975)]など、イン・ビトロ(in vitro)で増殖可能な骨髄腫細胞であればいかなるものでもよい。これらの細胞株の培養および継代については、公知の方法[アンチボディズーア・ラボラトリー・マニュアル(Antibodies,A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,Chapter 8,1988);に従い、細胞融合時までに2×107個以上の細胞数を確保した。
【0131】
免疫したマウスから得られた抗体産生細胞と骨髄腫細胞とを洗浄したのち、ポリエチレングリコール−1000(PEG-1000)などの細胞凝集性媒体を加え、細胞を融合させ、培地中に懸濁させた。細胞の洗浄には、MEM培地またはPBS(リン酸二ナトリウム1.83g、リン酸一カリウム0.21g、NaCl 7.65g、蒸留水1リットル、pH7.2)などを用いた。また、融合細胞を懸濁させる培地としては、目的の融合細胞のみを選択的に得られるように、HAT培地[グルタミン(4mM)、15%牛胎児血清(FCS)、ヒポキサンチン(10-4M)、チミジン(1.5×10-5M)およびアミノプテリン(4×10-7M)を含むD-MEM培地]を用いた。
【0132】
培養後、培養上清の一部をとり、強制発現細胞による酵素免疫測定法(CELISA)およびFCMにより、抗原蛋白質に反応し、非抗原蛋白質に反応しないサンプルを選択した。ついで、限界希釈法によりクローニングを行い、安定して高い抗体価の認められたものをモノクローナル抗体産生ハイブリドーマ株として選択した。
【0133】
強制発現を用いた酵素免疫測定法は、次のようにして行った。抗原蛋白質を強制発現した細胞を96ウェルプレートにコートし、ハイブリドーマ培養上清を第一抗体として反応させ、第一抗体反応後、プレートを洗浄して第二抗体を添加した。ここで、第二抗体とは、第一抗体のマウスイムノグロブリンを認識できる抗体であり、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)で標識した抗体である。反応後、第二抗体を標識した酵素に応じた蛍光基質を添加し、蛍光測定プレートリーダーで解析した。
【0134】
次に、腹水からのモノクローナル抗体の大量調製を次のようにして実施した。プリスタン0.5mlで前処理したBalb/cマウスに0.5mlのリン酸緩衝生理食塩水、pH7.4中の1〜3×106クローン化ハイブリドーマ細胞を腹腔内注射した。およそ2週間後に、腹水を集め、モノクローナル抗体をプロテインAまたはプロテインGで親和精製した。
【0135】
DNA免疫で樹立した数多くのハイブリドーマ細胞株の中から、ヒトCTGFの天然型高次構造を認識するモノクローナル抗体を生産するハイブリドーマ細胞株を選抜するために、上記(1)と同様にFCM解析系を用いた。
【0136】
上記の手法によって作製されたモノクローナル抗体は、以下のとおりである。
Mouse-Mouse hybridoma CTGF-m11ハイブリドーマ由来のclone 30D2;
Mouse-Mouse hybridoma CTGF-m12ハイブリドーマ由来のclone 30E9;
Mouse-Mouse hybridoma CTGF-m21ハイブリドーマ由来のclone 1;
Mouse-Mouse hybridoma CTGF-m31ハイブリドーマ由来のclone 22D10;
Mouse-Mouse hybridoma CTGF-m32ハイブリドーマ由来のclone 21C12;
Mouse-Mouse hybridoma CTGF-m33ハイブリドーマ由来のclone 21H12;
Mouse-Mouse hybridoma CTGF-m41ハイブリドーマ由来のclone 8E7。
【0137】
clone 30D2及びclone 30E9はヒトCTGF module 1を特異的に認識するモノクローナル抗体(MAb)、clone 1はヒトCTGF module 2を特異的に認識するMAb、clone 22D10、clone 21C12及びclone 21H12はヒトCTGF module 3を特異的に認識するMAb、clone 8E7はヒトCTGF module 4を特異的に認識するMAbである。
【0138】
作製されたハイブリドーマのうち、Mouse-Mouse hybridoma CTGF-m11(FERM ABP-10454)、Mouse-Mouse hybridoma CTGF-m12(FERM ABP-10455)及びMouse-Mouse hybridoma CTGF-m21(FERM ABP-10456)の各ハイブリドーマを、平成17年(2005年)11月25日付けで独立行政法人産業技術総合研究所、特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地中央第6)に寄託した。
【0139】
さらにまた、上記手法において、通常のマウスに代えてヒト抗体産生トランスジェニックマウスを入手し試験的に使用することによって、天然型ヒトCTGF、そのmodule 1、module 2、module 3,及びmodule 4を特異的に認識することができる完全ヒト抗体を作製することができた。
【0140】
(3)抗体の特徴分析
作製したハイブリドーマの精製免疫グロブリンの詳細解析のために、エピトープ解析、表面プラズモン共鳴法(SPR)解析、in vivo皮膚線維症に対する抑制効果試験(mouse fibrosis model;T. Moriら, J. Cellular Physiology 18:153-159 (1999))を実施した。
【0141】
エピトープ解析は、module 1, module 2, module 3, module 4遺伝子のいずれかを導入した哺乳細胞を、上記(1)と同様に、5%CO2インキュベータに24時間培養して、同様にFCM解析をすることによって行われた(図2〜図9)。図から明らかなように、5,000倍又は10,000倍希釈であっても各モジュールを特異的に認識する高親和性モノクローナル抗体(IgG1)が得られた。
【0142】
SPRでは、Biacore社のCM5チップ表面に各々の精製免疫グロブリンを固相化した。各種免疫グロブリンを固相化したCM5チップの流路に、精製した組換えヒトCTGF抗原(哺乳動物細胞HEK293Tから慣用法により作製した天然型高次構造をもつCTGF)を流した。この測定系により非変性ヒトCTGFタンパク質と本発明で作製したモノクローナル抗体との解離定数及び結合定数を測定した。
【0143】
測定条件は、以下のとおりである。
測定機器:Biacore 2000(ビアコア社);
リガンド固相化チップ:CM5センサーチップ;
リガンド(抗体)希釈buffer:10mM酢酸緩衝液(pH5.0)(この緩衝液にてリガンドを最終濃度25μg/mlに調整した。);
Running buffer:HBS-EP buffer (10mM HEPES, pH7.5, 0.15M NaCl, 3mM EDTA, 0.005% surfactant P20(Tween 20), pH7.4)。
結果を表1に示す。
【0144】
【表1】
【0145】
上記の表1から明らかなように、本発明の抗体(MAb)は、形質転換哺乳動物細胞HEK293Tから作製した組換えヒトCTGFを抗原とする結合定数及び解離定数はそれぞれ、1.0×108M-1以上、5.6×10-9 M以下となり、非常に高い親和性を示した。
【0146】
なお、汎用の昆虫(カイコ)細胞で作製した組換えヒトCTGFを抗原として用いて本発明の抗体の結合定数及び解離定数を測定したときには、おそらく糖鎖構造の影響のために、module 1、module 2、module 3及びmodule 4の結合定数は3.0〜8.0×107M-1、解離定数は1.0〜3.2×10-8Mとなり、哺乳動物細胞で作製された組換えヒトCTGFと比べて親和性が低下する傾向を示した。
【0147】
さらに、本発明の抗体の生物学的活性について調べた。具体的には、皮膚線維症モデルを用いて、本発明抗体による該疾患の抑制効果についてin vivoで試験した。
【0148】
Balb/cマウス(生後7日)にTGFβ3 800ngを3日間皮下注射したのち、CTGF 400ngを4日間皮下注射することによって、皮下組織に線維化を誘導した。
【0149】
本発明の抗体(抗module 2抗体)4μgをCTGFと混和してすぐに皮下注射した。対照区には、マウスIgGを同量同様に皮下注射した。
【0150】
非免疫したマウスより得た免疫グロブリン(陰性対照)を投与した対照区と比べ、本発明で得たヒトCTGF抗体はマウスにおいてin vivo皮膚線維症に対する有意の抑制効果を示した(図10及び図11)。すなわち、図10は対照区を示しており、図の中央を横に縦断している川のような部分が線維化した組織を表す。図11に示されるように、本発明の抗体で処理された試験区では、線維化された部分は、対照区と比べて約1/3に大きく減少した。このことから、本発明の抗体は、線維症の抑制のために有効であることが証明された。
【0151】
(比較例1)
ヒトCTGFを組換えバキュロウイルスを感染させた昆虫細胞を用いて発現し、アフィニティカラムによって精製した組換えヒトCTGFを作製した。この組換えCTGFをマウス及びニワトリに免疫した結果、ヒトCTGFに対する抗体は産生されなかった。
【0152】
(比較例2)
ヒトCTGFをコードするDNAを発現可能に含むpcDNA3.1プラスミド(Invitrogen社)由来のVV6発現ベクターを用いてDNA免疫法によるマウスでの抗体作製を試みた。FCSによるマウスの抗血清解析の結果、CTGF抗体の抗体価がかなり低いことが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0153】
本発明により、従来法では抗体を作り難かった、特殊な構造と粘着性をもつ天然型ヒトCTGFを特異的に認識する抗体(ヒト抗体を含む)が容易に作製することができた。これによって、本発明の抗体は、CTGFが関係する線維症や細胞増殖性疾患などの治療又は診断のために有用である。
【図面の簡単な説明】
【0154】
【図1】ヒトCTGFの基本構造を示す。
【図2】mouse polyclonal anti-CTGFポリクローナル抗体(抗原:全長CTGF)のFCM解析結果を示す。
【図3】Mouse-Mouse hybridoma CTGF-m11由来のモノクローナル抗体clone 30D2のFCM解析結果を示す。
【図4】Mouse-Mouse hybridoma CTGF-m12由来のモノクローナル抗体clone 30E9のFCM解析結果を示す。
【図5】Mouse-Mouse hybridoma CTGF-m21由来のモノクローナル抗体clone 1のFCM解析結果を示す。
【図6】Mouse-Mouse hybridoma CTGF-m31由来のモノクローナル抗体clone 22D10のFCM解析結果を示す。
【図7】Mouse-Mouse hybridoma CTGF-m32由来のモノクローナル抗体clone 21C12のFCM解析結果を示す。
【図8】Mouse-Mouse hybridoma CTGF-m33由来のモノクローナル抗体clone 21H12のFCM解析結果を示す。
【図9】Mouse-Mouse hybridoma CTGF-m41由来のモノクローナル抗体clone 8E7のFCM解析結果を示す。
【図10】Balb/cマウス(生後7日)のin vivo皮膚線維症に対する抑制効果試験における、非免疫マウス由来の免疫グロブリン(陰性対照)を投与した対照区を示す。
【図11】Balb/cマウス(生後7日)のin vivo皮膚線維症に対する抑制効果試験における、本発明の抗体を投与した試験区を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結合組織増殖因子(CTGF)を特異的に認識することができる、DNA免疫によって作製された抗体又はその断片。
【請求項2】
前記CTGFがヒトCTGFである、請求項1記載の抗体又はその断片。
【請求項3】
前記抗体がヒト抗体又はヒト化抗体である、請求項1又は2記載の抗体又はその断片。
【請求項4】
前記CTGF分子の天然型高次構造を特異的に認識することができる、請求項1〜3のいずれか1項記載の抗体又はその断片。
【請求項5】
前記DNA免疫が、前記CTGFをコードするDNA又はその機能性断片を発現可能に含む発現ベクターを非ヒト動物に免疫することを含むものである、請求項1〜4のいずれか1項記載の抗体又はその断片。
【請求項6】
前記ベクターが分泌シグナルペプチドをコードするDNAをさらに含む、請求項5記載の抗体又はその断片。
【請求項7】
前記ベクターが局在シグナル及び免疫増強シグナルを含むペプチドをコードするDNAをさらに含む、請求項5又は6記載の抗体又はその断片。
【請求項8】
前記機能性断片が、前記CTGFのモジュールをコードするDNAである、請求項5〜7のいずれか1項記載の抗体又はその断片。
【請求項9】
前記CTGFをコードするDNA又はその機能性断片が、配列番号2、4、6、8又は10によって示される塩基配列を含む、請求項5〜8のいずれか1項記載の抗体又はその断片。
【請求項10】
前記動物が哺乳動物である、請求項5記載の抗体又はその断片。
【請求項11】
前記哺乳動物がマウスである、請求項10記載の抗体又はその断片。
【請求項12】
前記マウスがヒト抗体産生トランスジェニックマウスである、請求項11記載の抗体又はその断片。
【請求項13】
前記ヒトCTGFのモジュール1、モジュール2、モジュール3又はモジュール4のいずれか1つを特異的に認識することができる、請求項1〜12のいずれか1項記載の抗体又はその断片。
【請求項14】
前記抗体が、前記CTGFに対する結合定数(KA)3.0×107M-1以上及び/又は解離定数(KD)5.6×10-9M以下を有する、請求項1〜13のいずれか1項記載の抗体又はその断片。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか1項記載の抗体又はその断片を含む医薬組成物。
【請求項16】
前記抗体がモノクローナル抗体である、請求項15記載の医薬組成物。
【請求項17】
前記抗体がヒト抗体又はヒト化抗体である、請求項15又は16記載の医薬組成物。
【請求項18】
前記抗体が治療用薬剤と結合されている、請求項15〜17のいずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項19】
線維症又は線維化に伴う硬化症、或いは細胞増殖性疾患の治療又は予防用である、請求項15〜18のいずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項20】
前記線維症又は線維化に伴う硬化症が、腎線維症、肺線維症、肝線維症又は強皮症である、請求項19記載の医薬組成物。
【請求項21】
前記細胞増殖性疾患が癌である、請求項19記載の医薬組成物。
【請求項22】
請求項1〜14のいずれか1項記載の抗体又はその断片を含む診断用組成物。
【請求項23】
前記抗体がモノクローナル抗体である、請求項22記載の診断用組成物。
【請求項24】
線維症又は線維化に伴う硬化症、或いは細胞増殖性疾患の診断用である、請求項22又は23記載の診断用組成物。
【請求項25】
前記線維症又は線維化に伴う硬化症が、腎線維症、肺線維症、肝線維症又は強皮症である、請求項24記載の診断用組成物。
【請求項26】
前記細胞増殖性疾患が癌である、請求項24記載の診断用組成物。
【請求項27】
前記抗体が、Mouse-Mouse hybridoma CTGF-m11(FERM ABP-10454)、Mouse-Mouse hybridoma CTGF-m12(FERM ABP-10455)又はMouse-Mouse hybridoma CTGF-m21(FERM ABP-10456)のハイブリドーマ由来のモノクローナル抗体である、請求項22〜26のいずれか1項記載の診断用組成物。
【請求項28】
Mouse-Mouse hybridoma CTGF-m11(FERM ABP-10454)のハイブリドーマ由来のモノクローナル抗体。
【請求項29】
Mouse-Mouse hybridoma CTGF-m12(FERM ABP-10455) のハイブリドーマ由来のモノクローナル抗体。
【請求項30】
Mouse-Mouse hybridoma CTGF-m21(FERM ABP-10456) のハイブリドーマ由来のモノクローナル抗体。
【請求項31】
CTGFをコードするDNA又はその機能性断片を発現可能に含む発現ベクターを非ヒト動物に免疫し、該CTGFを認識する抗体を含む体液、或いは該抗体を産生する細胞、を取り出し、該CTGFを認識するポリクローナル又はモノクローナル抗体を得ることを含む、請求項1〜14のいずれか1項記載の抗体又はその断片の作製方法。
【請求項32】
前記CTGFがヒトCTGFである、請求項31記載の方法。
【請求項33】
前記非ヒト動物が哺乳動物である、請求項31記載の方法。
【請求項34】
前記哺乳動物がげっ歯類又は有蹄類である、請求項33記載の方法。
【請求項35】
前記げっ歯類がマウスである、請求項34記載の方法。
【請求項36】
前記マウスがヒト抗体産生トランスジェニックマウスである、請求項35記載の方法。
【請求項37】
前記ベクターが分泌シグナルペプチドをコードするDNAをさらに含む、請求項31〜36のいずれか1項記載の方法。
【請求項38】
前記ベクターが局在シグナル及び免疫増強シグナルを含むペプチドをコードするDNAをさらに含む、請求項31〜37のいずれか1項記載の方法。
【請求項39】
前記抗体を産生する細胞が、脾臓細胞、B細胞又はリンパ細胞である、請求項31記載の方法。
【請求項40】
前記有蹄類がウシである、請求項34記載の方法。
【請求項41】
前記体液が血清又は乳汁である、請求項31記載の方法。
【請求項42】
前記抗体を産生する細胞を骨髄腫細胞と融合しハイブリドーマを形成することをさらに含む、請求項31〜41のいずれか1項記載の方法。
【請求項43】
前記ポリクローナル又はモノクローナル抗体が、前記CTGFに対する結合定数(KA)3.0×107M-1以上及び/又は解離定数(KD)5.6×10-9M以下を有する、請求項31〜42のいずれか1項記載の方法。
【請求項44】
前記機能性断片が、CTGFのモジュールをコードするDNAである、請求項31記載の方法。
【請求項45】
前記抗体を産生する細胞或いは前記ハイブリドーマをフローサイトメトリーにて選抜することをさらに含む、請求項31〜44のいずれか1項記載の方法。
【請求項1】
結合組織増殖因子(CTGF)を特異的に認識することができる、DNA免疫によって作製された抗体又はその断片。
【請求項2】
前記CTGFがヒトCTGFである、請求項1記載の抗体又はその断片。
【請求項3】
前記抗体がヒト抗体又はヒト化抗体である、請求項1又は2記載の抗体又はその断片。
【請求項4】
前記CTGF分子の天然型高次構造を特異的に認識することができる、請求項1〜3のいずれか1項記載の抗体又はその断片。
【請求項5】
前記DNA免疫が、前記CTGFをコードするDNA又はその機能性断片を発現可能に含む発現ベクターを非ヒト動物に免疫することを含むものである、請求項1〜4のいずれか1項記載の抗体又はその断片。
【請求項6】
前記ベクターが分泌シグナルペプチドをコードするDNAをさらに含む、請求項5記載の抗体又はその断片。
【請求項7】
前記ベクターが局在シグナル及び免疫増強シグナルを含むペプチドをコードするDNAをさらに含む、請求項5又は6記載の抗体又はその断片。
【請求項8】
前記機能性断片が、前記CTGFのモジュールをコードするDNAである、請求項5〜7のいずれか1項記載の抗体又はその断片。
【請求項9】
前記CTGFをコードするDNA又はその機能性断片が、配列番号2、4、6、8又は10によって示される塩基配列を含む、請求項5〜8のいずれか1項記載の抗体又はその断片。
【請求項10】
前記動物が哺乳動物である、請求項5記載の抗体又はその断片。
【請求項11】
前記哺乳動物がマウスである、請求項10記載の抗体又はその断片。
【請求項12】
前記マウスがヒト抗体産生トランスジェニックマウスである、請求項11記載の抗体又はその断片。
【請求項13】
前記ヒトCTGFのモジュール1、モジュール2、モジュール3又はモジュール4のいずれか1つを特異的に認識することができる、請求項1〜12のいずれか1項記載の抗体又はその断片。
【請求項14】
前記抗体が、前記CTGFに対する結合定数(KA)3.0×107M-1以上及び/又は解離定数(KD)5.6×10-9M以下を有する、請求項1〜13のいずれか1項記載の抗体又はその断片。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか1項記載の抗体又はその断片を含む医薬組成物。
【請求項16】
前記抗体がモノクローナル抗体である、請求項15記載の医薬組成物。
【請求項17】
前記抗体がヒト抗体又はヒト化抗体である、請求項15又は16記載の医薬組成物。
【請求項18】
前記抗体が治療用薬剤と結合されている、請求項15〜17のいずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項19】
線維症又は線維化に伴う硬化症、或いは細胞増殖性疾患の治療又は予防用である、請求項15〜18のいずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項20】
前記線維症又は線維化に伴う硬化症が、腎線維症、肺線維症、肝線維症又は強皮症である、請求項19記載の医薬組成物。
【請求項21】
前記細胞増殖性疾患が癌である、請求項19記載の医薬組成物。
【請求項22】
請求項1〜14のいずれか1項記載の抗体又はその断片を含む診断用組成物。
【請求項23】
前記抗体がモノクローナル抗体である、請求項22記載の診断用組成物。
【請求項24】
線維症又は線維化に伴う硬化症、或いは細胞増殖性疾患の診断用である、請求項22又は23記載の診断用組成物。
【請求項25】
前記線維症又は線維化に伴う硬化症が、腎線維症、肺線維症、肝線維症又は強皮症である、請求項24記載の診断用組成物。
【請求項26】
前記細胞増殖性疾患が癌である、請求項24記載の診断用組成物。
【請求項27】
前記抗体が、Mouse-Mouse hybridoma CTGF-m11(FERM ABP-10454)、Mouse-Mouse hybridoma CTGF-m12(FERM ABP-10455)又はMouse-Mouse hybridoma CTGF-m21(FERM ABP-10456)のハイブリドーマ由来のモノクローナル抗体である、請求項22〜26のいずれか1項記載の診断用組成物。
【請求項28】
Mouse-Mouse hybridoma CTGF-m11(FERM ABP-10454)のハイブリドーマ由来のモノクローナル抗体。
【請求項29】
Mouse-Mouse hybridoma CTGF-m12(FERM ABP-10455) のハイブリドーマ由来のモノクローナル抗体。
【請求項30】
Mouse-Mouse hybridoma CTGF-m21(FERM ABP-10456) のハイブリドーマ由来のモノクローナル抗体。
【請求項31】
CTGFをコードするDNA又はその機能性断片を発現可能に含む発現ベクターを非ヒト動物に免疫し、該CTGFを認識する抗体を含む体液、或いは該抗体を産生する細胞、を取り出し、該CTGFを認識するポリクローナル又はモノクローナル抗体を得ることを含む、請求項1〜14のいずれか1項記載の抗体又はその断片の作製方法。
【請求項32】
前記CTGFがヒトCTGFである、請求項31記載の方法。
【請求項33】
前記非ヒト動物が哺乳動物である、請求項31記載の方法。
【請求項34】
前記哺乳動物がげっ歯類又は有蹄類である、請求項33記載の方法。
【請求項35】
前記げっ歯類がマウスである、請求項34記載の方法。
【請求項36】
前記マウスがヒト抗体産生トランスジェニックマウスである、請求項35記載の方法。
【請求項37】
前記ベクターが分泌シグナルペプチドをコードするDNAをさらに含む、請求項31〜36のいずれか1項記載の方法。
【請求項38】
前記ベクターが局在シグナル及び免疫増強シグナルを含むペプチドをコードするDNAをさらに含む、請求項31〜37のいずれか1項記載の方法。
【請求項39】
前記抗体を産生する細胞が、脾臓細胞、B細胞又はリンパ細胞である、請求項31記載の方法。
【請求項40】
前記有蹄類がウシである、請求項34記載の方法。
【請求項41】
前記体液が血清又は乳汁である、請求項31記載の方法。
【請求項42】
前記抗体を産生する細胞を骨髄腫細胞と融合しハイブリドーマを形成することをさらに含む、請求項31〜41のいずれか1項記載の方法。
【請求項43】
前記ポリクローナル又はモノクローナル抗体が、前記CTGFに対する結合定数(KA)3.0×107M-1以上及び/又は解離定数(KD)5.6×10-9M以下を有する、請求項31〜42のいずれか1項記載の方法。
【請求項44】
前記機能性断片が、CTGFのモジュールをコードするDNAである、請求項31記載の方法。
【請求項45】
前記抗体を産生する細胞或いは前記ハイブリドーマをフローサイトメトリーにて選抜することをさらに含む、請求項31〜44のいずれか1項記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−67678(P2009−67678A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−353628(P2005−353628)
【出願日】平成17年12月7日(2005.12.7)
【出願人】(000232612)日本農産工業株式会社 (8)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年12月7日(2005.12.7)
【出願人】(000232612)日本農産工業株式会社 (8)
【Fターム(参考)】
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