説明

結晶の成長方法

【課題】結晶の成長方法を提供すること。
【解決手段】複数の塩結晶の連続層によってカプセル化された、対象物質を含む組成物が提供され、層は対象物質に不浸透性である。また複数の塩結晶の連続層を製造する方法が提供され、塩はカチオンとアニオンを含み、方法は、
(i)カチオンのための複数の負に荷電した結合部位および/またはアニオンのための複数の正に荷電した結合部位を含む基体を提供すること、
(ii)カチオンおよびアニオンを含む塩結晶の核形成を複数の前記結合部位にもたらす条件下で、基体を塩の溶液と接触させること
を含み、複数の荷電した結合部位は、得られる複数の塩結晶が連続層を形成するのに十分な密度で基体の表面に存在する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の塩結晶の連続層によってカプセル化された対象物質を含む組成物に関し、層は対象物質に不浸透性である。また、塩結晶の不浸透性層を提供する方法が提供される。
【背景技術】
【0002】
医薬品および栄養補助食品など多くの経口投与活性物質は味が悪く、かつ/または腸への送達に至る環境から保護しなければならない。この問題を解決するために様々な技術が開発された。例えば、多くの錠剤はコーティングを有する。しかし、固体剤の形態にコーティングをするのは高価な工程である。活性分子をカプセル化する代替の手法はリポソーム等を使用することである。しかし、リポソームは「漏れやすく」、活性物質、特に低分子量の物質の損失を招く。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
我々は基体上での鋳型結晶成長(templating crystal growth)によって塩結晶の不浸透性カプセルを成長させる方法を開発した。塩イオンのための荷電した結合部位を有する適切な基体を選択することによって、連続的な不浸透性層を形成するのに十分な密度で結晶を基体上に核形成させることができる。カプセルはアスコルビン酸などの低分子量の活性物質に不浸透性である。この方法は任意の適切な基体形態を用いて望ましい幾何形状の不浸透性結晶層を発生させるのに利用することができる。
【課題を解決するための手段】
【0004】
したがって、本発明は複数の塩結晶の連続層を製造する方法を提供し、塩はカチオンとアニオンを含み、方法は、
(i)カチオンのための複数の負に荷電した結合部位および/またはアニオンのための複数の正に荷電した結合部位を含む基体を提供すること、
(ii)前記複数の結合部位にカチオンおよびアニオンを含む塩結晶の核形成をもたらす条件下で、基体を塩の溶液に接触させること
を含み、複数の荷電した結合部位は、得られる複数の塩結晶が連続層を形成するのに十分な密度で基体の表面に存在する。
【0005】
結合部位の間の平均間隔は、塩結晶の少なくとも1個の格子面のイオン間の間隔と実質的に同等であることが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
好ましい実施形態において、基体は複数の懸濁粒子を含む。基体は薬理学的に活性な物質、食材、食餌補助食品、芳香分子、殺生物剤および/または皮膚活性剤などの対象物質をさらに含むことが好ましい。
【0007】
連続層は、100〜1000g/モルの分子量を有する分子に実質的に不浸透性であることが好ましい。
【0008】
関連態様において、本発明は本発明の方法によって得られる複数の塩結晶の連続層を提供する。
【0009】
また、本発明は複数の塩結晶の連続層によってカプセル化された対象物質を含む組成物も提供し、層は対象物質に実質的に不浸透性である。
【0010】
好ましい実施形態において、組成物は、
(i)複数の懸濁粒子を含む基体を提供し、基体は、塩のカチオンのための複数の負に荷電した結合部位および/または塩のアニオンのための複数の正に荷電した結合部位を有し、かつ対象物質を含むこと、
(ii)前記複数の結合部位にカチオンおよびアニオンを含む塩結晶の核形成をもたらす条件下で、基体を塩の溶液に接触させること
を含む方法から得られる/得ることが可能であり、複数の荷電した結合部位は、得られる複数の塩結晶が連続層を形成するのに十分な密度で基体の表面に存在する。
【0011】
基体はゲル化したポリマーであることが好ましい。塩は酸のpHに溶解することが好ましい。
【0012】
好ましい実施形態において、対象物質は、薬理学的に活性な物質、食材、食餌補助食品、芳香分子、殺生物剤および/または皮膚活性剤などの対象物質である。
【0013】
また、本発明は、薬剤として適合性のある担体または希釈剤と共に、対象物質が薬理学的に活性な組成物である、本発明の組成物を含む医薬組成物を提供する。
【0014】
本発明は、化粧品として適合性のある担体または希釈剤と共に、対象物質が芳香分子、殺生物剤、および/または皮膚活性剤である、本発明の組成物を含む化粧品組成物をさらに提供する。
【0015】
さらに、本発明は本発明の組成物を含む食材を提供する。
【0016】
前記医薬組成物、食材、および/または化粧品組成物中に、本発明の組成物が0.1〜90重量%存在することが好ましく、1〜50重量%がさらに好ましく、少なくとも5重量%が最も好ましい。
【0017】
特記しない限り、本明細書に使用される技術的および科学的用語は当業者によって通常理解される同じ意味を有する。
【0018】
連続的な結晶層を成長させるためのテンプレートとして働く基体は任意の望ましい幾何形状とすることができる。基体は、結晶層が表面全体に形成することができ、基体をカプセル化することができるように三次元であることが好ましい(例えば基体を実質的に球とすることができる)。基体は典型的に固体またはゲルである。
【0019】
好ましい実施形態において、基体はゲル化したポリマー粒子など、粒子の懸濁物として提供される。基体は、例えば沈殿、結晶化、またはゲル化等によって溶解性材料からin situに、すなわち、溶液中に形成することができる。
【0020】
基体は、基体上に成長させたい塩のカチオンおよび/またはアニオンのための荷電した結合部位を含む。これらの結合部位は、それらがアニオンまたはカチオンにそれぞれ結合されるかどうかによって正または負に荷電されるであろう。結合部位の例には、塩基性基および酸性基が含まれる。特定の例はヒドロキシル基、アミン、カルボキシラートを含む。
【0021】
基体は表面の全体または大部分を荷電することができる。例えば、荷電されていない基体を荷電した化合物でコーティングして、本発明の方法で使用するのに適した基体を形成することができる。
【0022】
基体は、得られる結晶が互いに接触し/重なり合うのに十分な高密度で塩結晶が核形成し、連続的な不浸透性層を形成することを確実にするために、十分高密度の荷電した結合部位を有しなければならない。典型的に、これは結合部位間の平均間隔が、結晶格子の少なくとも一面上でイオン間の間隔の10倍未満、好ましくは5倍未満である場合に達成することができる。例えば、結合部位間の平均間隔は典型的に5nm未満である。
【0023】
好ましい基体はポリマー、特にゲル化性ポリマーを含む。ペクチン、カラギーナンおよびアルギン酸ナトリウムなどのゲル化性バイオポリマーを用いることが特に好ましい。
【0024】
一実施形態において、基体は対象物質を含む。したがって、結晶層が基体の周囲に形成されるとき、対象物質は層内部にカプセル化される。対象物質の例には、薬理学的に活性な物質、ビタミンなどの栄養補助食品、抗酸化剤および他の微小栄養剤、他の食材、芳香分子および皮膚に適用することが望ましい他の化粧品剤、抗細菌/殺生物剤および他の皮膚活性剤が含まれる。
【0025】
他の実施形態において、基体は対象物質である。例えば、我々は、溶液からの没食子酸エピガロカテキン(EGCg)結晶化に続いて、EGCgなどのポリフェノールを炭酸カルシウムでカプセル化できることを見出した。対象物質が基体である場合、典型的には、対象物質を適切な溶媒に溶解し、結晶層の形成に必要なイオン添加の前に準安定な飽和溶液を形成する。対象物質は、添加されたカチオンまたはアニオンと錯形成して結晶を形成するのに十分な極性があることが好ましく、例えば、Ca2+と錯体を作るヒドロキシル基およびエステル基を有することが好ましい。
【0026】
他の実施形態において、基体は対象物質ではない。
【0027】
本発明の方法は、結晶化を行う塩のイオンを含む溶液に、これらのイオンを含む塩結晶の核形成をもたらす条件下で、基体を接触させることを含む。溶液から塩を結晶化するには様々な方法があることが認識されよう。例えば、核形成部位を提供する基体を塩の過飽和溶液に置くことによって結晶成長がもたらされるであろう。代りに、過飽和溶液は基体を溶液に接触/浸漬した後に生成させることができる。これは、例えば、化学反応を開始させることによって、または追加の塩が溶解するように条件を変化させる、例えばpHまたは温度を変化させることによって達成することができる。他の方法は、2種類の可溶性塩を混合して不溶性の対象の塩を形成する、二重分解反応を含む。
【0028】
カプセル化物などの得られた結晶層は、数回、例えば少なくとも3回溶媒で洗浄して、過剰の反応物および/または組み込まれなかった対象物質を除去することが一般に好ましい。
【0029】
得られる結晶層は任意選択的に例えば冷凍乾燥によって乾燥することができる。
【0030】
したがって、本発明の内容において、「塩の溶液」は基体上に結晶化を行う塩またはその前駆体のイオンを含む溶液を意味する。したがって、例えば、アルカリが重炭酸塩に作用すると炭酸塩が形成されるので、重炭酸イオンは炭酸イオンの前駆体である。基体上に結晶化を行う塩のイオンは、結晶化の前に溶液中に過渡的に存在できるか、または異なるアニオン/カチオンと組み合わせて最初に溶液に溶解することができる。この特別な例は実施例1に与えられており、塩化カルシウム溶液(カルシウムイオンの供給源)を重炭酸ナトリウム(重炭酸塩は炭酸塩の前駆体である)の溶液と混合し、次いでNaOHで処理して、基体上に結晶化される塩である炭酸カルシウムの過飽和を誘起する。
【0031】
基体がゲル化性ポリマーとして提供される場合、溶液へのイオンの添加をポリマーのゲル化に用いることができる。例えば、カルシウムイオンはペクチンおよびアルギン酸塩をゲル化し、ナトリウムイオンはκ-カラギーナンをゲル化する。
【0032】
好ましいカチオンは、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、またはカルシウムイオンなどのI族およびII族の金属イオン、ならびに遷移金属イオンである。好ましいアニオンは炭酸、リン酸および硫酸イオンである。最も好ましいアニオンは炭酸イオンである。
【0033】
一実施形態において、塩は胃のpHおよび/またはヒトの汗のpHで溶解性があるが、中性のpHおよびそれ以上では不溶性である。したがって、それらの塩から形成された層およびカプセル化物は、それらが胃に到達したとき、または皮膚上の汗をかく領域に適用されたときに崩壊せず、より高いpHでは無傷のままである。それらの塩は、酸の存在で化学反応を起こす、単純に溶解するものではない炭酸塩などの塩を含む。
【0034】
得られる結晶層は単一の塩または塩の混合物から形成することができる。基体が対象物質である場合、或る場合には不浸透性結晶層は基体の塩形態を含むこともできることが予測される。例えば、カチオンがカルシウムでありアニオンが炭酸塩であり、対象の基体[X]がカルシウム塩を形成することができるならば、結晶層は炭酸カルシウムと[X]のカルシウム塩の両方を含むことができる。
【0035】
好ましい実施形態において、形成された結晶は食品グレードおよび/または薬剤として許容される。
【0036】
酸化および/または劣化/不活性化しやすい対象物質をカプセル化するとき、カプセル化工程の間および適用後に、1つまたは複数の以下の注意を払うことが好ましい。
・ すべての流体と装置から酸素を除去し、溶媒および保持溶液に可溶性酸化防止剤を加えること。
・ 工程全体を、沈殿する塩が不溶性であり薬剤が劣化しないpHと化学的領域に保つこと。
・ 溶媒から沈殿物(得られる粒子状カプセル化物)を除去し、繰り返し洗浄と攪拌を行って粒子内部の化学物質を除去すること。
・ 沈殿物を塩が完全に不溶性である条件で保存すること。
【0037】
本発明の方法によって形成された層のような複数の塩の連続層は、100〜1000g/モルの分子量を有する分子などの低分子量分子に実質的に不浸透性であることを特徴とする。これは、複数の結晶が互いに密接な接触および多くの場合重なり合いを形成して連続的に焼結構造を形成することに由来する。これは、基体上の結合部位が多くの結晶を高密度の核形成に導くので、本発明の方法を用いて達成することができる。
【0038】
本発明の結晶層の不浸透性の程度は、100〜1000g/モルの分子量を有する対象物質(水溶性であり層に不可逆的に結合しない対象物質)がそれらの層内にカプセル化され、次いで得られたカプセルを水中で7日間定温放置した場合に、少なくとも90%、さらに好ましくは95%、最も好ましくは97、98、または99%の対象物質がカプセル中に保持されるような程度が好ましい。
【0039】
不浸透性の適切な試験は以下のように行うことができる。対象物質を、試験を行う結晶層の内部にカプセル化し、次いで得られる粒子を少なくとも3回水中で洗浄し、粒子の外側をコーティングしている過剰の対象物質を除去する。次いで粒子を2個のバッチに分ける。第1バッチを水の中に7日間置く。第2バッチを第1バッチの所定の容積の水の中で化学的または物理的に(典型的には酸の添加など化学的に)破壊し、残存する屑を例えば遠心分離などで除去し、放出された対象物質の量を測定する。7日後、第1バッチを少なくとも3回洗浄し、同じ容量の水に再懸濁させ、粒子を破壊して放出された対象物質の量を測定する。次いで、不浸透性の%は、第1バッチから放出された対象物質の量を第2バッチから放出された対象物質の量で割り、得られた値を100倍することによって求めることができる。
【0040】
結晶成長および形態は、溶液中に成長修正剤を存在させることによって任意選択的に修正することができる。これらは酒石酸、アスコルビン酸、ガラクツロン酸(炭酸カルシウムで六方晶形のプリズムを生成する)、フマル酸、リンゴ酸、アスパラギン酸、ソルビン酸(炭酸カルシウムで偏三角面体(scalenohedra)を生成する)などの低分子量の有機酸を含む。好ましい成長修正剤は食品グレードおよび/または医薬品グレードである。
【0041】
本発明の方法は、例えば、1種または複数の対象物質を塩結晶の不浸透性層中にカプセル化して、粒子を形成するのに用いることができる。
【0042】
一実施形態において、対象物質は水溶性であり、かつ/または100〜1000g/モルの分子量を有する。
【0043】
カプセル化物はカプセル化物に存在する結晶化塩のmgあたり、少なくとも1μgの対象物質を含むことが好ましく、少なくとも10または100μgがさらに好ましい。
【0044】
それらの粒子には様々な用途がある。例えば、それらは薬理学的に活性な物質を経口でヒトまたは動物に送達することができる。塩は胃のpHには溶解/分解するが、口または食道のより高いpHでは溶解/分解しないように選択すべきである。粒子は典型的に薬剤として適合性のある担体または希釈剤と混合され、医薬組成物を生成するであろう。それらの担体および希釈剤は、当技術分野でよく知られている。粒子は固体、液体、またはゲル剤の形態として処方することができる。
【0045】
同様に、粒子はビタミン(例えばビタミンC)などの食餌補助剤、ポリフェノールなどの抗酸化剤(例えば没食子酸エピガロカテキン(EGCg))、および他の微小栄養剤などを送達するのに使用することができる。ここでも、粒子は固体、液体、またはゲル剤の形態として処方することができる。
【0046】
また、粒子は食材の中に組み込むこともできる。
【0047】
これらの場合、対象物質のカプセル化は味をマスクすることを可能にし、また、影響を受けやすい活性物質を酸化等から保護することもできる。
【0048】
他の実施形態において、粒子は対象物質を個人の皮膚に送達するのに使用することができる。塩は、それが汗との接触で溶解/分解するように選択しなければならない。対象物質は芳香分子および皮膚に適用するのが望ましい他の化粧品剤、抗細菌/殺生物剤、および他の皮膚活性剤を含むであろう。
【0049】
粒子は、典型的に化粧品的/皮膚科学的に許容された担体と混合され、局所の適用に適した製品を形成するであろう。それらの担体は当技術分野でよく知られている。局所的な組成物は広範囲の製品の種類にすることができる。これらにはローション、クリーム、ゲル、棒、噴霧、軟膏、およびペーストがあるが、これらだけに限定されない。これらの製品の種類には、これらだけに限定するものではないが、溶液、乳液、ゲルおよび固体を含む担体系のいくつかの種類がある。
本発明を、例示のみであり非限定的な以下の実施例を参照してさらに詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明のカプセル化物の電子顕微鏡写真を示し、Aは基体が高メトキシペクチンであり、Bは基体が低メトキシペクチンであり、Cは基体がκ-カラギーナンである。
【図2】本発明のカプセル化物の電子顕微鏡写真である。
【実施例】
【0051】
(実施例1)
0.01Mの塩化カルシウム(CaCl2)溶液5mlを、0.02Mの重炭酸ナトリウム(NaHCO3)中の0.2%(w/w)のバイオポリマー溶液5mlに電磁従動機(magnetic follower)を用いて攪拌しながら加えた。使用したバイオポリマーは低メトキシペクチン、高メトキシペクチン、κ-カラギーナンおよびアルギン酸ナトリウムを含む。
【0052】
溶液に存在するイオンは直ちにバイオポリマーをゲル化するか、濃厚にする。カルシウムイオンはペクチンとアルギン酸塩をゲル化し、ナトリウムイオンはκ-カラギーナンをゲル化する。
【0053】
1Mの水酸化ナトリウム(NaOH)を用いてpHを10.5まで高めた。これは炭酸カルシウム(CaCO3)の過飽和を誘起し、数十分の時間経過後、前に形成されたバイオポリマー上に炭酸カルシウムの核形成をもたらす。多くの別個のCaCO3結晶から構成される結晶殻がそれによってゲルのテンプレート上に成長する。CaCO3の核形成速度および成長速度、したがって結晶殻の厚さは、バイオポリマーおよび薬剤の相対濃度によって適度になる。
【0054】
溶液を細菌の成長を遅くするため4℃で保存した。サンプルを0.1MのNaOHで洗う前に最低3日間放置し、着色し、イメージングした。結晶殻およびカプセルの実施例を図1に示す。3番目のパネルについては、カプセルに高圧を与え、いくつかの球を破壊させた。球の中空性質は容易に明らかである。
【0055】
(実施例2)
0.01Mの塩化カルシウム(CaCl2)溶液5mlを、0.02Mの重炭酸ナトリウム(NaHCO3)中の0.2%(w/w)のアルギン酸と20%(w/w)のアスコルビン酸溶液5mlに電磁従動機を用いて攪拌しながら加えた。溶液に存在するイオンは直ちにアルギン酸ナトリウムをゲル化した。
【0056】
1Mの水酸化ナトリウム(NaOH)を用いてpHを10.5まで高めた。これは炭酸カルシウム(CaCO3)の過飽和を誘起し、数十分の時間経過後、前に形成されたバイオポリマー上に炭酸カルシウムの核形成をもたらす。多くの別個のCaCO3結晶から構成される結晶殻がそれによってゲルのテンプレート上に成長する。CaCO3殻の結晶形態は、アルギン酸テンプレート上の結晶の核形成と溶液中のアスコルビン酸の成長修正効果によって決定し、アルギン酸粒子から八面体の先端を有する長いCaCO3結晶が成長した。
【0057】
サンプルを0.1MのNaOHで洗う前に最低3日間放置し、着色し、イメージングした。結晶殻およびカプセルの実施例を図2に示す。
【0058】
(考察)
炭酸カルシウム(または他の塩)は、その溶液が特定の過飽和を超えた場合に、塩からの結合したカチオンまたはアニオンを有する酸性 (例えばカルボン酸) 基または塩基性(例えばアミン)基を含むテンプレートの存在下で核形成する。これは、化学反応による炭酸カルシウム(または他の塩)の形成によって、または例えばpHの変化による追加の炭酸カルシウム(または他の塩)の溶解によって達成することができる。
【0059】
基体中のカルシウム、炭酸または適切なカチオンもしくはアニオンの存在は、それらが過飽和の高まった領域として働き、それによって結晶核のような挙動をするので、結晶成長の優先的な部位を形成する。
【0060】
酸性基または塩基性基の平均間隔はポリマーゲル基体上に形成された炭酸カルシウム結晶の結晶性質に強い影響を与え、または決定さえすると考えられている。例えば、溶液中のポリ(アクリル酸)のカルボン酸基の間隔は0.503nmであり、これは、炭酸カルシウムがポリ(アクリル酸)の存在下で成長するときに示す(110)結晶面のカルシウム原子の間隔と一致する。この場合使用されるバイオポリマー系については、0.503nmは酸基の最小間隔であり、ある場合にはかなり大きくなるであろう。
【0061】
(実施例3:基体としての対象物質)
最適化した手順は以下の通りである。
・ 対象物質の準安定な飽和溶液を作製する。対象物質は、添加された塩のカチオンまたはアニオンと錯形成して結晶を形成するのに十分な極性があり、例えば、Ca2+と錯体を作るヒドロキシル基およびエステル基を有する。
・ すべての流体と装置から酸素を除去し、溶媒および保持溶液に可溶性酸化防止剤を加える。
・ その中に対象物質を有する溶液に、攪拌しながら、カプセル化する連続層を提供する塩のイオンの高度に過飽和の溶液を加える。
・ 工程全体を、沈殿する塩が不溶性であり薬剤が劣化しないpHおよび化学的領域に保つ。溶媒から沈殿物を除去し、繰り返し洗浄と攪拌を行って粒子内部の化学物質を除去する。
・ 塩が完全に不溶性であり活性が劣化しにくい条件で沈殿物を保存する。
【0062】
上記の工程を、緑茶粉、テアフラビン混合物、または精製した没食子酸エピガロカテキン(EGCg)で別々に実施した。
【0063】
酸化防止剤としてL-アスコルビン酸を有するエステル化した緑茶粉成分の60〜90%に、モル当量の塩化カルシウムおよび混合物を中和するのに十分な炭酸ナトリウムを加えて、炭酸カルシウムで沈殿させた。沈殿物は、3回の洗浄の後、酸化防止剤としてアスコルビン酸カルシウムと共に窒素パージした脱イオン水中に静置したとき、安定であった。すべての液体および装置は窒素でパージした。
【0064】
緑茶粉の場合、カプセル化した材料の分析は没食子酸カテキンの良好なカプセル化を示した。典型的な装填能力は、600mgのカルシウム中にEGCg600〜800mgであった。
【0065】
テアフラビン混合物の場合、テアフラビンの良好なカプセル化を示し、カルシウムイオンと錯体を作る極性エステル基を含む没食子酸部位が存在するため、没食子酸テアフラビンが優先的にカプセル化された。
【0066】
本発明の様々な特徴と実施形態は、上記の個々の部分を参照して、適切に、必要な変更を加えて、他の部分に適用される。したがって、一部分で特定化された特徴は、他の部分で特定化された特徴と適切に組み合わせることができる。
【0067】
当業者であれば、本発明の範囲から逸脱しないで、説明した本発明の方法と製品の様々な修正と変更は明らかであろう。本発明は特定の好ましい実施形態と共に説明したが、請求された本発明はそれらの特定の実施形態に不当に限定されないことを理解すべきである。実際に、本発明を実施するために説明された態様の、関連分野の当業者に明らかな様々な修正は、請求項の範囲内であることが意図されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物質に対して実質的に不浸透性である、複数の塩結晶の連続層によってカプセル化された対象物質を含む組成物。
【請求項2】
基体がゲル化したポリマーである請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記基体が対象物質である請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記塩が酸のpHで溶解する請求項1から3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記塩がI族金属塩およびII族金属塩から選択される請求項1から4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記対象物質が薬理学的に活性な物質、食材、食餌補助食品、芳香分子、殺生物剤および/または皮膚活性剤である請求項1から5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記対象物質が、薬剤として適合性のある担体または希釈剤と共に、薬理学的に活性な物質である請求項1から5のいずれか一項に記載の組成物を含む医薬組成物。
【請求項8】
前記対象物質が、化粧品として適合性のある担体または希釈剤と共に、芳香分子、殺生物剤、および/または皮膚活性剤である請求項1から5のいずれか一項に記載の組成物を含む化粧品組成物。
【請求項9】
請求項1から5のいずれか一項に記載の組成物を含む食材。
【請求項10】
複数の塩結晶の連続層を製造する方法であって、前記塩はカチオンとアニオンを含み、前記方法は、
(i)カチオンのための複数の負に荷電した結合部位および/またはアニオンのための複数の正に荷電した結合部位を含む基体を提供すること、
(ii) 前記複数の結合部位に、カチオンおよびアニオンを含む塩結晶の核形成をもたらす条件下で、基体を塩の溶液と接触させること、
を含み、前記複数の荷電した結合部位が、得られる複数の塩結晶が連続層を形成するのに十分な密度で基体の表面に存在する方法。
【請求項11】
前記結合部位の間隔が、前記塩結晶の格子面の少なくとも1つの間隔と実質的に同等な請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記基体が複数の懸濁した粒子を含む請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
前記基体がゲル化したポリマーである請求項10から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記塩が酸のpHで溶解する請求項10から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記カチオンがI族金属イオンおよびII族金属イオンから選択される請求項10から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記アニオンが、リン酸塩、炭酸塩および硫酸塩から選択される請求項10から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記基体が対象物質をさらに含む請求項10から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記層が100〜1000g/モルの分子量を有する分子に対して実質的に不浸透性である請求項10から17のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−67130(P2012−67130A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−288110(P2011−288110)
【出願日】平成23年12月28日(2011.12.28)
【分割の表示】特願2005−143299(P2005−143299)の分割
【原出願日】平成17年5月16日(2005.5.16)
【出願人】(590003065)ユニリーバー・ナームローゼ・ベンノートシヤープ (494)
【Fターム(参考)】