説明

結晶性エポキシ樹脂の製造方法

【課題】 常温で固体であり、低溶融粘度を有し、硬化性に優れ、機械強度、耐熱性、耐湿性に優れた硬化物を与える、新規な結晶性エポキシ樹脂の製造方法を提供する。
【解決手段】 1,4−ジヒドロアントラハイドロキノン化合物のアルカリ金属塩をエピハロヒドリンと反応させることを特徴とする、一般式(I)
【化1】


(I)
(式中、R〜R10は水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を示す。nは0以上の整数を示す。)で表される新規な結晶性エポキシ樹脂の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、常温で固体であり取り扱い性に優れ、かつ溶融状態において極めて低溶融粘度を有し、硬化性に優れており、機械的強度、耐熱性及び耐湿性に優れた硬化物を与える新規エポキシ樹脂及びその製造方法に関し、さらに、電気・電子部品の封止材料、成形材料、注型材料、積層材料、複合材料、接着剤及び粉体塗料等の用途に有用である、本発明の新規結晶性エポキシ樹脂を含有してなる硬化性エポキシ樹脂組成物及びその硬化体に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ化合物は種々の硬化剤で硬化させることにより、機械的性質、耐湿性、電気的性質などに優れた硬化物を与えるので電気・電子部品の封止材料、成形材料、注型材料、積層材料、複合材料、接着剤及び粉体塗料等などの幅広い分野に利用されている。しかしながら、技術の進歩に伴い、エポキシ化合物の高性能化に対する要求が高まってきており、従来のエポキシ化合物ではその要求に対応できなくなってきた。例えば、電気・電子用途の分野においては電子部品の小型化、薄型化技術の進展に伴い、低粘度のエポキシ樹脂が望まれているが、これは小型化した部品内部の狭い空隙にも十分に樹脂を送り込ませる必要があるためである。低粘度のエポキシ樹脂としてはビスフェノールAのジグリシジルエーテルやビスフェノールFのジグリシジルエーテル等が広く用いられているが、これらのエポキシ樹脂は常温で液状又は粘稠であり、用途によっては取り扱いが困難であり作業が劣る。さらに、これらのエポキシ樹脂を用いた硬化体は機械的強度や耐熱性及び耐湿性が十分でない。
これらの問題点を解決するために、常温以上で結晶性を有するエポキシ樹脂を用いる技術が提案されている。例えば、テトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂(特許文献1)、スチルベン型エポキシ樹脂(特許文献2)などである。しかし、これらのエポキシ樹脂はエポキシ基の近くに嵩高い置換基がついているので溶融粘度が高く、さらに硬化性の点で十分とはいえない。また、これらのエポキシ樹脂を用いた硬化体は耐熱性や耐湿性につき、前述のビスフェノールA型エポキシ樹脂を用いた硬化体に比べ、幾分向上するが、用途によっては不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公平7-53791号公報
【特許文献2】特開平9-12674号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、常温で固体であり取り扱い性に優れ、かつ溶融状態において極めて低溶融粘度を有し、硬化性に優れており、機械的強度、耐熱性及び耐湿性に優れた硬化物を与える新規エポキシ樹脂及びその製造方法に関し、さらに、電気・電子部品の封止材料、成形材料、注型材料、積層材料、複合材料、接着剤及び粉体塗料等の用途に有用である、本発明の新規エポキシ樹脂を主成分として含有してなる硬化性エポキシ樹脂組成物及びその硬化体を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、前記の課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定の化学構造を持つエポキシ樹脂が常温で結晶であるので固体状を維持でき、融点以上では極めて低い粘度を有すること、及びその新規結晶性エポキシ樹脂を用いた硬化性エポキシ樹脂組成物は硬化性に優れ、機械的強度、耐熱性及び耐湿性に優れた硬化体を与えることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、以下の各発明のうち、下記一般式(I)で表される結晶性エポキシ樹脂の製造方法の発明から選択される発明に関する。
【0006】
(1)一般式(I)
【化1】

(I)
(式中、R〜R10は水素原子又は炭素数1〜6までのアルキル基を示す。nは0以上の整数を示す。)
で表される結晶性エポキシ樹脂。
(2)前記一般式(I)において、式中のR〜R10の全てが水素原子であるか、又はR、Rがメチル基でその他が水素原子である、(1)項に記載された結晶性エポキシ樹脂。
【0007】
(3)一般式(II)
【化2】

(II)
(式中、Aはカリウム原子又はナトリウム原子を示し、R〜R10は水素原子又は炭素数1から6までのアルキル基を示す。)
で表されるジヒドロアントラハイドロキノン化合物のアルカリ金属塩をエピハロヒドリンと反応させることを特徴とする、(1)項に記載された一般式(I)で表される結晶性エポキシ樹脂の製造方法。
【0008】
(4)前記一般式(II)において、式中のR〜R10が全て水素原子であるか、又はR、Rがメチル基でその他が水素原子である、ジヒドロアントラハイドロキノン化合物のアルカリ金属塩をエピハロヒドリンと反応させることを特徴とする、(3)項に記載の結晶性エポキシ樹脂の製造方法。
【0009】
(5)一般式(II)で表される、ジヒドロアントラハイドロキノン化合物のアルカリ金属塩物をエピハロヒドリンと反応させてエポキシ化合物を製造するにあたり、ジヒドロアントラハイドロキノン化合物のアルカリ金属塩を水溶液として反応系内に供給する、(3)項又は(4)項に記載された結晶性エポキシ樹脂の製造方法。
【0010】
(6)エピハロヒドリンと反応させるジヒドロアントラハイドロキノン化合物のアルカリ金属塩水溶液が濃度5〜50質量%水溶液である、(5)項に記載された結晶性エポキシ樹脂の製造方法。
【0011】
(7)ジヒドロアントラハイドロキノン化合物1モルに対し、エピハロヒドリンを4〜40モル使用して均一な溶液とし、これにジヒドロアントラハイドロキノン化合物1モル当たり1.8〜5モルのアルカリ金属水酸化物を加えて反応させる、(3)項〜(6)項のいずれか1項に記載されたエポキシ化合物の製造方法。
【0012】
(8)一般式(III)
【化3】

(III)
(式中、R〜R10は水素原子又は炭素数1〜6までのアルキル基を示す。)
で表されるジヒドロアントラハイドロキノン化合物をエピハロヒドリンと反応させることを特徴とする、(1)項に記載された前記一般式(I)で表される結晶性エポキシ樹脂の製造方法。
(9)前記一般式(III)において、式中のR〜R10の全てが水素原子であるか、又はR、Rがメチル基で、その他が水素原子であるジヒドロアントラハイドロキノン化合物をエピハロヒドリンと反応させることを特徴とする、(8)項に記載の結晶性エポキシ樹脂の製造方法。
【0013】
(10)(a)分子中2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂、(b)硬化剤、及び(c)硬化促進剤を必須成分とする硬化性エポキシ樹脂組成物であり、(a)のエポキシ樹脂中に、(1)項又は(2)項に記載された結晶性エポキシ樹脂を5〜100質量%含む、硬化性エポキシ樹脂組成物。
(11)10項に記載された硬化性エポキシ樹脂組成物を硬化させた硬化体。
【発明の効果】
【0014】
本発明のエポキシ樹脂は結晶性であり、常温で固形であるので取り扱い性に優れ、かっ溶融状態において極めて低溶融粘度を有する。また、そのエポキシ樹脂を用いた硬化性エポキシ樹脂組成物は硬化性に優れ、また機械的強度、耐熱性及び耐湿性に優れた硬化体を与えるので、電気・電子部品の封止材料、成形材料、注型材料、積層材料、複合材料、接着剤及び粉体塗料等の用途に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】参考例1で得られたエポキシ樹脂のH−NMRスペクトルを示すチャートである。
【図2】参考例1で得られたエポキシ樹脂のIRスペクトルを示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
前記一般式(I)で表される本発明のエポキシ樹脂は、一般式(III)で表されるジヒドロアントラハイドロキノン化合物とエピハロヒドリンとをアルカリ金属水酸化物の存在下に反応させて得ることができる。例えば、不活性ガス気流下、ジヒドロアントラハイドロキノン化合物1モル当たり4〜40モルに相当する量のエピハロヒドリンに溶解させて均一な溶液とする。ついで、その溶液を攪拌しながら、これにジヒドロアントラハイドロキノン化合物1モル当たり1.8〜5モル量のアルカリ金属水酸化物を固体又は水溶液で加えて反応させる。この反応は、常圧下又は減圧下で行わせることができ、反応温度は通常、常圧下の反応の場合は30〜120℃であり、減圧下の反応の場合は30〜80℃である。反応は、必要に応じて所定の温度を保持しながら反応液を共沸させ、揮発する蒸気を冷却して得られた凝縮液を油/水分離し、水分を除いた油分を反応系へ戻す方法により脱水することができる。アルカリ金属水酸化物の添加は、急激な反応を抑えるために、1〜8時間かけて少量ずつを断続的もしくは連続的に添加する。その全反応時間は、通常、1〜10時間である。なお、反応が終了するまで系内は不活性ガス雰囲気であることが望ましい。ここでいう不活性ガスとは、例えば、窒素、アルゴンなどをいう。
【0017】
本発明の新規エポキシ樹脂の製造において、本発明の特長である結晶性と低粘度性を両立させるためには、例えば、ジヒドロアントラハイドロキノン化合物に対するエピハロヒドリンのモル比で制御することができる。ジヒドロアントラハイドロキノン化合物1モルに対するエピハロヒドリンのモル比は好ましくは4〜40モル、より好ましくは8〜20モルである。このモル比が4より低いとエポキシ化合物の溶融粘度が高くなり、40より高くてもエポキシ化合物の粘度はそれ以上低くならないばかりか、未反応のエピハロヒドリンの留去に手間がかかり非効率的である。
反応終了後、不溶性の副生塩を濾別して除くか、水洗により除去した後、未反応のエピハロヒドリンを減圧留去して除くと、目的のエポキシ樹脂が得られる。
この反応におけるエピハロヒドリンとしては、通常、エピクロルヒドリン又はエピブロモヒドリンが用いられる。アルカリ金属水酸化物としては通常、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムが用いられる。
【0018】
また、この反応においては、テトラメチルアンモニウムクロリド、テトラエチルアンモニウムブロミドなどの第4級アンモニウム塩;ベンジルジメチルアミン、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールなどの第3級アミン;2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾールなどのイミダゾール類;エチルトリフェニルホスホニウムアイオダイドなどのホスホニウム塩;トリフェニルホスフィンなどのホスフィン類等の触媒を用いても良い。
さらに、この反応においては、エタノール、2−プロパノールなどのアルコール類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル類;メトキシプロパノールなどのグリコールエーテル類;ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドなどの非プロトン性極性溶媒等の不活性な有機溶媒を単独又は2種以上組み合わせて使用しても良い。
さらに、上記のようにして得られたエポキシ樹脂の可鹸化ハロゲン量が多すぎる場合は、再処理して十分に可鹸化ハロゲン量が低下した精製エポキシ樹脂を得ることができる。つまり、その粗製エポキシ樹脂を、2−プロパノール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、キシレン、ジオキサン、メトキシプロパノール、ジメチルスルホキシドなどの不活性な有機溶媒に再溶解しアルカリ金属水酸化物を固体又は水溶液で加えて約30〜120℃の温度で0.5〜8時間再閉環反応を行った後、水洗等の方法で過剰のアルカリ金属水酸化物や副生塩を除去し、さらに有機溶媒を減圧留去して除くと、精製されたエポキシ化合物が得られる。
【0019】
また、本発明のエポキシ樹脂は、あらかじめ調製したジヒドロアントラハイドロキノン化合物のアルカリ金属塩をエピハロヒドリンと反応させて製造することもできる。この場合、ジヒドロアントラハイドロキノン化合物のアルカリ金属塩は、そのまま、あるいは、水溶液でエピハロヒドリン中に添加するが、急激な反応を防ぐために、少量づつ分割して系内へ添加することが望ましい。
また、水溶液として供給した場合は、閉環反応を十分に進行させるために、途中で系内の水を除去した後、アルカリ金属水酸化物を固形又は水溶液で添加してエポキシ化率をあげることが望ましい。
また、そのジヒドロアントラハイドロキノン化合物のアルカリ金属塩水溶液の濃度は5〜50質量%、望ましくは15〜30質量%である。5質量%より低濃度では、系内に持ち込む水の量が増え、エポキシ化反応の進行を阻害することがある。50質量%より多いと、水溶液の流動性が低下し、装置の配管を閉塞するなどのおそれがあるのでよくない。
また、ジヒドロアントラハイドロキノン化合物のアルカリ金属塩水溶液は、安定化のために、塩を形成させるに必要な当量以上のアルカリ金属水酸化物を含むことができる。また、この水溶液にはその安定性を損なわないのであれば、他の有機溶媒、例えばアルコール類を添加しても差し支えない。
ジヒドロアントラハイドロキノン化合物のアルカリ金属塩あるいはその水溶液を出発物質とする場合も、前記ジヒドロアントラハイドロキノン化合物のエポキシ化反応と同様な各種条件、各種反応触媒、各種有機溶剤及び操作を用いてエポキシ化合物を得ることができる。また、粗エポキシ樹脂を精製エポキシ樹脂にする場合も、前述の方法が利用できる。
【0020】
通常、反応溶剤の留去はエポキシ化合物の融点近傍かそれ以上の温度で実施されるため、溶剤留去直後のエポキシ樹脂は溶融状態である。この溶融状態のエポキシ樹脂を結晶させ固形物とする方法としては特に指定がなく公知の方法を用いることができる。例えば、高温で溶融状態のエポキシ樹脂をバット等に抜き出し自然冷却により結晶固形化する方法、抜き出した後、あらかじめ用意したそのエポキシ樹脂の結晶固形物を結晶核として少量添加し結晶化を促進する方法、溶融状態のエポキシ樹脂を攪拌したり、振動を与えるなどにより結晶化を促進する方法、ニーダーなどで強い外力を加えながら抜き出す方法、過冷却にならないように温度を管理しながら結晶化を促進させる方法などが上げられ、これらの方法を単独あるいは複数組み合わせて行うことができる。本発明の新規エポキシ樹脂についても上記のような操作を行い、結晶化を促進することが、生産性の観点から望ましい。
また、エポキシ樹脂の更なる低粘度化や高純度化のために、反応で得られた粗エポキシ樹脂ないし精製エポキシ樹脂を適当な溶剤を用いて再結晶してもよい。
【0021】
上記反応に用いるジヒドロアントラハイドロキノン化合物は、一般式(II)において、置換基R〜R10は水素原子又は炭素数1〜6までのアルキル基である。このうち、R〜R10が水素原子又はメチル基が好ましく、特に好ましくはR〜R10のすべてが水素原子の場合である(1,4一ジヒドロアントラハイドロキノン)。これより得られるエポキシ樹脂は80〜120℃を示す結晶性であり、融点以上の温度において速やかに溶融するとともに極めて低い粘度となるので、取扱性に優れる。
また、ジヒドロアントラハイドロキノン化合物のアルカリ金属塩を反応に用いる場合も上記と同様に、一般式(III)において置換基R〜R10は水素原子又は炭素数1から6までのアルキル基であり、このうち、R〜R10が水素原子又はメチル基が好ましく、特に好ましくはR〜R10のすべてが水素原子の場合である(1,4−ジヒドロアントラハイドロキノンのアルカリ金属塩)。
ここで、塩を形成するアルカリ金属としては、カリウムないしナトリウムがあげられ、一般的には水酸化物(水酸化カリウムないし水酸化ナトリウム)として、そのまま、あるいは水ないしアルコールなどの溶剤に溶解させた形態で供給される。
【0022】
本発明の新規エポキシ樹脂の原料である、ジヒドロアントラハイドロキノン化合物の製造方法としては公知の方法が使用できる。例えば、1,4−ナフトキノンとブタジエンとのディールスアルダー反応により得られた1,4,4a,9a−テトラヒドロアントラキノンを、溶媒としてベンゼンやキシレンなどの芳香族炭化水素、触媒としてパラトルエンスルホン酸を用い、80〜100℃、30分〜3時間かけて異性化反応させた後、冷却して結晶として得る方法(特開昭54-122263号公報)などがある。
同様に、ジヒドロアントラハイドロキノン化合物のアルカリ金属塩の製造方法としては公知の方法が使用できる。例えば、上記の方法により得られたジヒドロアントラハイドロキノン化合物を少なくとも当量(ジヒドロアントラハイドロキノン化合物の2倍モル)のアルカリ金属水酸化物が溶解した水溶液に溶解して得る方法や、1,4−ナフトキノンとブタジエンとのディールスアルダー反応により得られた1,4,4a,9a−テトラヒドロアントラキノンを少なくとも当量(1,4,4a,9a−テトラヒドロアントラキノンの2モル倍)のアルカリ金属水酸化物を溶解した水溶液と接触させることにより、1,4,4a,9a−テトラヒドロアントラキノンが異性化し、ジヒドロアントラハイドロキノン化合物のアルカリ金属塩物の水溶液として得ることができる。また、前述の一般式(III)においてR〜R10が水素原子である、1,4−ジヒドロアントラハイドロキノンのジナトリウム塩の水溶液は、すでにパルプ蒸解助剤などの用途に世界で広く使用されているので、これをそのまま使用することもできる。
【0023】
本発明の硬化性エポキシ樹脂組成物は(a)1分子中にエポキシ基を2個以上有するエポキシ樹脂、(b)硬化剤、及び(c)硬化促進剤を必須成分としてなり、(a)のエポキシ樹脂中に、本発明の新規エポキシ樹脂を含むことが特徴である。また、(a)エポキシ樹脂中には、本発明の新規エポキシ樹脂以外に1分子中にエポキシ基を2個以上有するエポキシ樹脂を併用することができ、そのエポキシ樹脂としては公知のエポキシ樹脂を用いることができる。例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビフェニル型、テトラメチルビフェニル型、クレゾールノボラック型、フェノールノボラック型、ビスフェノールAノボラック型、ジシクロペンタジエンフェノール縮合型、フェノールアラルキル縮合型などのエポキシ樹脂や脂環式エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂があげられる。これらエポキシ樹脂1種或いは2種以上を混合して用いることができるが、本発明のエポキシ化合物の配合量はエポキシ樹脂全体中5〜100質量%である。配合量が5質量%より低いと本発明の効果が十分に発揮されない。
【0024】
(b)硬化剤としては、特に指定はなく、公知のエポキシ樹脂硬化剤を用いることができる。それらのエポキシ樹脂硬化剤としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、チオジフェノール、ハイドロキノン、レゾルシン、ビフェノール、テトラメチルビフェノール、ジヒドロキシナフタレン、ジヒドロキシジフェニルエーテルなどの多価フェノール類、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールAノボラック樹脂、ナフトールノボラック樹脂、種々のフェノール類とベンズアルデヒド、ヒドロキシベンズアルデヒド、クロトンアルデヒド、グリオキザールなどの種々のアルデヒド類との縮合反応で得られるフェノール樹脂等、フェノールアラルキル樹脂、フェノール変性キシレン樹脂、フェノールテルペン樹脂、ジシクロペンタジエンフェノール樹脂などの各種フェノール樹脂類、各種フェノール(樹脂)類のフェノール性水酸基の全部もしくは一部をベンゾエート化あるいはアセテート化などのエステル化により得られた活性エステル化合物、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、無水ピロメリット酸、メチルナジック酸などの酸無水物類、ジエチレントリアミン、イソホロジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、ジシアンジアミド等のアミン類があげられる.硬化剤は、1種単独でも、2種以上併用しても良い。使用される硬化剤の使用量は、(a)エポキシ樹脂全成分中のエポキシ基1モルに対して、全硬化剤中のエポキシ基と反応する基が0.5〜2.0モルになる量が好ましく、より好ましくは0.7〜1.2モルである。
【0025】
(c)硬化促進剤としては、特に指定はなく、公知の硬化促進剤を用いることができる。その硬化促進剤としては、例えば、トリブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリス(ジメトキシフェニル)ホスフィン、トリス(ヒドロキシプロピル)ホスフィン、トリス(シアノエチル)ホスフィンなどのホスフィン化合物、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、メチルトリブチルホスホニウムテトラフェニルボレート、メチルトリシアノエチルホスホニウムテトラフェニルボレートなどのホスホニウム塩、2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、2,4−ジシアノ−6−[2−メチルイミダゾリル−(1)]−エチル−s−トリアジン、2,4−ジシアノ−6−[2−ウンデシルイミダゾリル−(1)]−エチル−s−トリアジンなどのイミダゾール類、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾリウムトリメリテート、2−メチルイミダゾリウムイソシアヌレート、2−エチル−4−メチルイミダゾリウムテトラフェニルボレート、2−エチル−1,4−ジメチルイミダゾリウムテトラフェニルボレートなどのイミダゾリウム塩、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、ベンジルジメチルアミン、テトラメチルブチルグアニジン、N−メチルピペラジン、2−ジメチルアミノ−1−ピロリンなどのアミン類、トリエチルアンモニウムテトラフェニルボレートなどのアンモニウム塩、11,5−ジアザビシクロ〔5,4,0〕−7−ウンデセン、1,5−ジアザビシクロ〔4,3,0〕−5−ノネン、1,4−ジアザビシクロ〔2,2,2〕−オクタンなどのジアザビシクロ化合物、それらジアザビシクロ化合物のテトラフェニルボレート、フェノール塩、フェノールノボラック塩、2−エチルヘキサン酸塩などがあげられる。それらの硬化促進剤となる化合物の中では、ホスフィン化合物、イミダゾール化合物、ジアザビシクロ化合物、及びそれらの塩が好ましい。それらの硬化促進剤は、単独で、又は、2種以上混合して用いられ、その使用量は、全エポキシ化合物に対して、0.1〜7質量%である.
【0026】
また、本発明のエポキシ化合物の硬化性樹脂組成物には、必要に応じて充填材、カップリング剤、難燃剤、難燃助剤、可塑剤、溶剤、反応性希釈剤、顔料等を適宜に配合することができる。
本発明の硬化性エポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤など、全配合成分が均一に混合されていれば良く、従来より知られている方法と同様の方法を用いて組成物とすることができる。その方法としては、例えば、ニーダー、ロールやエクストルーダーを用いた溶融混練や粉体状の成分を混合するドライブレンドがあげられる。このようにして得られた組成物は必要に応じて粉砕、分級などを行っても良い。
また、本発明の硬化性エポキシ樹脂組成物をアセトン、メチルエチルケトン、メチルセロソルブ、ジメチルホルムアミド、トルエン、キシレンなどの溶剤に溶解させ、ワニス状組成物とすることもできる。ガラス繊維、カーボン繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、紙などの基材に含浸させ加熱乾燥してできたプリプレグを熱プレス成形して硬化体を得ることができる。
本発明の硬化体は、本発明の硬化性エポキシ樹脂組成物を熱硬化させることで得ることができ、成型物、積層物、注型物、接着剤、塗膜、フィルムなどの形態になる。例えば、形態が成型物の場合は、その組成物を注型あるいはトランスファー成形機、射出成形機などを用い30〜250℃で30秒〜10時間加熱することにより硬化体を得ることができ、形態がワニス状の場合は、ガラス繊維、カーボン繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、紙などの基材に含浸させ加熱乾燥してできたプリプレグを熱プレス成形して硬化体を得ることができる。
【0027】
以上述べたように、本発明の新規エポキシ樹脂は、常温で固体であり、取り扱い性に優れ、かつ溶融状態において極めて低溶融粘度を有し、硬化性に優れており、この樹脂を用いた硬化性エポキシ樹脂組成物は、機械的強度、耐熱性及び耐湿性に優れた硬化体を与えることができるので、電気・電子部品の封止材料、成形材料、注型材料、積層材料、複合材料、接着剤及び粉体塗料等の用途に有用である。
【実施例】
【0028】
以下、実施例を上げて本発明を詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限りこれらの実施例に限定されるものではない。
(参考例1)
攪拌装置、環流冷却管及び温度計を備えた容量3Lの4つ口フラスコにエピクロルヒドリン1050g、2−プロパノール410gを仕込み、系内を減圧窒素置換した。これに、窒素雰囲気下、1,4−ジヒドロアントラハイドロキノン200gを加え40℃に昇温して均一に溶解させた後、48.5質量%の水酸化ナトリウム水溶液180gを90分かけて滴下した。その間に徐々に昇温し、滴下終了後には系内が65℃になるようにした。
その後、65℃で30分保持し反応を完了させ、水洗により副生塩及び過剰の水酸化ナトリウムを除去した。ついで、生成物から減圧下で過剰のエピクロルヒドリンと2−プロパノールを留去して、粗製エポキシ樹脂混合物を得た。
この粗製エポキシ樹脂混合物をメチルイソブチルケトン460gに溶解させ、48.5質量%の水酸化ナトリウム水溶液7gを加え、65℃の温度で1時間反応させた。その後、反応液に第一リン酸水素ナトリウム水溶液を加えて、過剰の水酸化ナトリウムを中和し、水洗して副生塩を除去した。なお、水洗時は液温が65〜90℃になるように温度制御した。次いで、加温減圧下でメチルイソブチルケトンを完全に除去したのち、溶融状態の樹脂状物をバットに抜き出し、ガラス棒で十数回攪拌したのち、室温下にて自然冷却させた。約2時間後には全体が結晶固化しており、これをとりだし、黄色結晶状エポキシ樹脂285gを得た。得られたエポキシ樹脂のエポキシ当量176g/eq、加水分解性塩素450ppm、150℃における溶融粘度は16mPa・s、DSC測定による融点は104℃であった。室温において固形であり取扱性は良好であった。得られたエポキシ樹脂のH-NMRスペクトルを図1−1に示し、式(V)に示す各ピークの帰属を表1に示した。また、得られたエポキシ樹脂のIRスペクトルを図2に示した。以上より、下記化学式(IV)で表され、n=0.1(GPCより)であるエポキシ樹脂が得られたことを確認した。
図1は、参考例1で得られた樹脂のH−NMRスペクトルを示す。
図2は、参考例1で得られたエポキシ樹脂のIRスペクトルを示す。
【0029】
【化4】

(IV)
【0030】
【表1】

【0031】
【化5】

(V)
【0032】
(参考例2)
参考例1において1,4−ジヒドロアントラハイドロキノン200gのかわりに1,4−ジヒドロ−2,3−ジメチルアントラハイドロキノン225gを用い、実施例1と同様の操作を行い、化学式(VI)で表されるエポキシ樹脂306gを得た。得られたエポキシ樹脂のエポキシ当量194g/eq、加水分解性塩素435ppm、150℃における溶融粘度は17mPa・s、DSC測定による融点は94℃であった。GPCより化学式(VI)中、n=0.1であった。室温において黄色結晶性の固形であり取扱性は良好であった。
【0033】
【化6】

(VI)
【0034】
(実施例1)
攪拌装置、環流冷却管及び温度計を備えた容量3Lの4つ口フラスコにエピクロルヒドリン1050g、2−プロパノール410gを仕込み、系内を減圧窒素置換し、温度を40℃に維持した。これに、窒素雰囲気下、1,4−ジヒドロアントラハイドロキノンナトリウム塩の28質量%水溶液900gを90分かけて滴下した。その間に徐々に昇温し、滴下終了後には系内が65℃になるよう温度制御した。その後、65℃で30分保持した後、液液分離により副性塩を含む水を排出した。次に、系内を65℃に保持したまま、48.5質量%水酸化ナトリウム水溶液32gを15分かけて滴下し、続いて30分かけて反応を完了させた。この後水洗により副性塩を除去し、さらに生成物から減圧下で過剰のエピクロルヒドリンと2−プロパノールを留去して、粗製エポキシ樹脂混合物を得た。
この粗製エポキシ樹脂混合物をメチルイソブチルケトン460gに溶解させ、48.5質量%の水酸化ナトリウム水溶液7gを加え、65℃の温度で1時間反応させた。その後、反応液に第一リン酸水素ナトリウム水溶液を加えて、過剰の水酸化ナトリウムを中和し、水洗して副生塩を除去した。次いで、加温減圧下でメチルイソブチルケトンを完全に除去したのち、溶融状態の樹脂状物をバットに抜き出し、ガラス棒で十数回攪拌したのち、室温下にて自然冷却させた。約2時間後には全体が結晶固化しており、これをとりだし、黄色結晶状エポキシ化合物290gを得た。得られたエポキシ化合物のエポキシ当量174g/eq、加水分解性塩素390ppm、150℃における溶融粘度は15mPa・s、DSC測定による融点は106℃であり、室温において固形であり取扱性は良好であった。得られたエポキシ樹脂のH−NMR及びIRスペクトルは参考例1で得られたエポキシ樹脂とほぼ同一であり、これらより化学式(IV)で表され、n=0.08(GPCより)であるエポキシ樹脂が得られたことを確認した。
【0035】
(実施例2〜4)
参考例1,2及び実施例1で得られたエポキシ樹脂と、硬化剤としてフェノールノボラック樹脂(軟化点84℃、水酸基当量103g/eq)及びフェノールアラルキル樹脂(軟化点83℃、水酸基当量175g/eq)を用い所定量をガラスビーカー内で120℃にて溶融混合し、さらに硬化促進剤としてトリフェニルホスフィンを所定量添加してよく混合して得られた組成物を、注型し、175℃、7時間アフターキュアさせ硬化物を得た。得られた硬化物の諸物性を表2に示した。
【0036】
(比較例1及び2)
実施例2において参考例1で得られたエポキシ樹脂の代わりに、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(常温で液状、150℃における粘度は10mPa・s)、テトラメチルビフェノール型エポキシ樹脂(融点105℃、150℃における粘度は15mPa・s)をそれぞれ用い、実施例4と同様に硬化体を得、硬化物性を測定した結果を表2に示す。
以上より、本発明のエポキシ化合物は結晶性樹脂であり、常温で固形であるので取り扱い性に優れ、溶融状態で極めて低粘度であった。また、そのエポキシ樹脂を用いた硬化性エポキシ樹脂組成物は硬化性、機械的強度、耐熱性及び耐湿性に優れた硬化体を与えるという結果が得られた。
【0037】
【表2】


(*1)熱板法,175℃
(*2)TMAを用いて測定した.
(*3)JISK6911に従ってテストを行った.
(*4)85℃、85%RH72hr後の吸湿率.
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明のエポキシ化合物は、結晶性を有し、常温で固体であるので取り扱い性に優れ、低溶融粘度を有し、これを用いた組成物は硬化性に優れ、機械強度と耐熱性、耐湿性に優れた硬化体を与えるので、封止材料、成形材料、接着剤、塗料等に有用である。








































【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)
【化1】

(I)
(式中、R〜R10は水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を示す。nは0以上の整数を示す。)
で表されるエポキシ樹脂の製造方法であって、
一般式(II)
【化2】

(II)
(式中、R〜R10は水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を示す。Aはカリウム原子又はナトリウム原子を示す。)
で表されるジヒドロアントラハイドロキノン化合物のアルカリ金属塩をエピハロヒドリンと反応させることを特徴とする、結晶性エポキシ樹脂の製造方法。
【請求項2】
前記一般式(II)及び一般式(I)におけるR〜R10の全てが水素原子であるか、又はR〜R10のうちR及びRがメチル基で、その他が水素原子であることを特徴とする、請求項1記載の結晶性エポキシ樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記一般式(II)で表されるジヒドロアントラハイドロキノン化合物のアルカリ金属塩は、水溶液として反応系に供給してエピハロヒドリンと反応させることを特徴とする、請求項1又は2に記載の結晶性エポキシ樹脂の製造方法。
【請求項4】
前記ジヒドロアントラハイドロキノン化合物のアルカリ金属塩の水溶液は、濃度5〜50重量%の水溶液であることを特徴とする、請求項3に記載の結晶性エポキシ樹脂の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−102664(P2009−102664A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−31083(P2009−31083)
【出願日】平成21年2月13日(2009.2.13)
【分割の表示】特願2003−335204(P2003−335204)の分割
【原出願日】平成15年9月26日(2003.9.26)
【出願人】(000246239)ジャパンエポキシレジン株式会社 (38)
【Fターム(参考)】