説明

結晶性ポリスチレン/ポリフェニレンオキシドブレンドフイルムの製造方法

【課題】結晶性イソタクチックポリスチレンとポリフェニレンオキシドの配合割合が、モル比で9:1〜5:5である樹脂組成物から構成した、フイルムの延伸方向と垂直な方向の強度がフイルムを構成する結晶性イソタクチックポリスチレンの未延伸フイルムと同程度の強度であり、フイルムの延伸方向の強度がフイルムを構成する結晶性イソタクチックポリスチレンの未延伸フイルムの強度を凌ぐ一軸延伸フイルムの製造方法を提供する。
【解決手段】結晶性イソタクチックポリスチレンとポリフェニレンオキシドの配合割合が、モル比で9:1〜5:5である樹脂組成物をフイルム化した後に一軸延伸し、熱処理することにより、結晶性イソタクチックポリスチレンの結晶がフイルムの延伸方向に高配向し、ポリフェニレンオキシドの分子鎖がランダムに配向した結晶性イソタクチックポリスチレン及びポリフェニレンオキシドを含む一軸延伸フイルムを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶性ポリスチレン及びポリフェニレンオキシドを含む樹脂組成物から構成した、新規な性状を有する一軸延伸フイルム、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子のフイルムやロッドを一方向に延伸することにより、延伸方向に強化された材料を作製することは周知であり、多数の高分子材料に適用されている。この延伸法は、高強度繊維等の一次元的な材料を作製するには好適な方法であるが、延伸方向と垂直な方向の強度が低下するために、三次元形状の材料に適用されて実用化されることは稀である。
一方、ポリマーブレンドには、構成成分が互いに溶け合う相溶性ブレンドと、構成成分が溶け合わない非相溶性ブレンドの2種類があるが、後者の場合には容易に界面において破壊が生じるために、相溶化剤などにより界面を強化して利用する場合が多い。
【0003】
結晶性ポリスチレンとポリフェニレンオキシド(PPO)からなる系は、相溶性ポリマーブレンドであることが知られているが、PPOは非晶性高分子であり、この系では結晶性ポリスチレンのみが結晶化するものと考えられる。また、結晶性ポリスチレン/PPOブレンドでは優れた力学特性が期待されるものの、この系を使用した結晶性配向膜は知られていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、本発明は、結晶性ポリスチレン及びポリフェニレンオキシドを含む樹脂組成物から構成した、フイルムの延伸方向と垂直な方向の強度がフイルムを構成する結晶性ポリスチレンの未延伸フイルムと同程度の強度であり、フイルムの延伸方向の強度がフイルムを構成する結晶性ポリスチレンの未延伸フイルムの強度を凌ぐ一軸延伸フイルム、ならびに該一軸延伸フイルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明では、上記の課題を解決するために、次のような構成を採用するものである。
1.結晶性ポリスチレン及びポリフェニレンオキシドを含む樹脂組成物を一軸延伸したフイルムにおいて、結晶性ポリスチレンの結晶がフイルムの延伸方向に高配向し、ポリフェニレンオキシドの分子鎖がランダムに配向したものであることを特徴とする一軸延伸フイルム。
2.結晶性ポリスチレンがイソタクチックポリスチレンであることを特徴とする1に記載の一軸延伸フイルム。
3.結晶性ポリスチレンの配向度が0.6〜1であることを特徴とする1又は2に記載の一軸延伸フイルム。
4.結晶性ポリスチレンとポリフェニレンオキシドの配合割合が、モル比で9:1〜5:5であることを特徴とする1〜3のいずれかに記載の一軸延伸フイルム。
5.フイルムの延伸方向と垂直な方向の強度がフイルムを構成する結晶性ポリスチレンの未延伸フイルムと同程度(0.8倍以上)の強度であり、フイルムの延伸方向の強度がフイルムを構成する結晶性ポリスチレンの未延伸フイルムの強度の2倍程度以上であることを特徴とする1〜4のいずれかに記載の一軸延伸フイルム。
6.結晶性ポリスチレン及びポリフェニレンオキシドを含む樹脂組成物をフイルム化した後に一軸延伸し、熱処理することを特徴とする1〜5に記載の一軸延伸フイルムの製造方法。
7.結晶性ポリスチレン及びポリフェニレンオキシドを有機溶媒に均一に溶解した溶液をフイルム化し、加熱して該フイルムを溶融した後に急冷して得られた非晶質のフイルムを一軸延伸後熱処理することを特徴とする6に記載の一軸延伸フイルムの製造方法。
【0006】
本発明において、フイルムの強度、弾性率及び結晶配向度は、以下のものを意味する。
(強度)
幅2mm、長さ25mmの試験片を切りだし、引張り試験機のつかみ具(チャック)に固定する。つかみ具(チャック)間の距離を10mmに設定し、毎分2mmの一定速度で試料を引っ張り、試料が破断する時の応力を強度とする。
(弾性率)
幅2mm、長さ20mmの試験片を切りだし、動的粘弾性測定装置のつかみ具(チャック)に固定する。つかみ具間距離は7〜10mm程度に設定する。試料に、周波数5Hz振幅約2μm程度の周期的な応力を付加し、周期的な応力とひずみの関係から弾性率を求める。
(結晶配向度)
延伸方向と分子鎖の方向のなす角度をφとすると、配向度fは次式で定義される。
【0007】
【数1】

【0008】
〈〉は全空間において平均をとることを意味する。また、f=0は全く配向していない状態に対応し、f=1は分子鎖が完全に延伸方向に配向している状態に対応する。試料を回転しながらX線回折強度の方位角(φ)依存性を測定する。回折強度の方位角依存性をI(φ)とすると、次式から配向度を求める。
【0009】
【数2】

【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、フイルムの延伸方向と垂直な方向の強度がフイルムを構成する結晶性ポリスチレンの未延伸フイルムと同程度の強度であり、フイルムの延伸方向の強度がフイルムを構成する結晶性ポリスチレンの未延伸フイルムの強度を凌ぐ、結晶性ポリスチレン及びポリフェニレンオキシドを含む樹脂組成物から構成した一軸延伸フイルムを得ることができる。このフイルムは、包装用の強化フイルムや各種構造材料を構成するフイルムとして、広範な用途に応用可能なものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明によれば、結晶性ポリスチレン及びポリフェニレンオキシドを含む樹脂組成物から一軸延伸フイルムを製造する際に、延伸による配向制御と熱処理による結晶化を組み合わせることにより、目的とする性状を有するフイルムを製造することができる。
具体的には、例えば結晶性ポリスチレンとしてイソタクチックポリスチレンを使用し、ポリフェニレンオキシドと混合した樹脂組成物をクロルベンゼン等の有機溶媒に溶解した溶液を、基板に展開して溶媒を気化させることによりキャスト膜を作製する。つぎに、窒素、アルゴン等の不活性ガスでパージされた気密性のある容器内にプレス成型器を保持し、不活性ガスの雰囲気下でキャスト膜を再度溶融プレスし、プレス後氷水中へ投入し急冷することによって、両成分がガラス状態を保ったままの非晶性フイルムを作製する。そして、得られた非晶性フイルムを延伸して配向膜を製造するが、この段階でのブレンドフイルムは、結晶化する場合もあるが結晶化度は低く、ほぼ非晶質である。(図4参照)
【0012】
つぎに、形態を拘束して配向膜を熱処理すると、イソタクチックポリスチレンの結晶化が起こり、結晶化度の高い配向膜が得られる(図4,5参照)。このとき、イソタクチックポリスチレンは高い配向度を保っているが、ポリフェニレンオキシドの配向は乱れほとんどランダム配向した膜となる(図1参照)。このようにして、高配向したイソタクチックポリスチレンの結晶組織とランダム配向したポリフェニレンオキシドからなる一軸延伸フイルムを作製することができる。得られた一軸延伸フイルムは、従来のフイルムには無い性状を有するものであり、種々の用途に利用可能なものである。
【0013】
一軸延伸フイルムを構成するイソタクチックポリスチレンとポリフェニレンオキシドの混合割合は、モル比で9:1〜5:5、特に8:2〜6:4とすることが好ましい。イソタクチックポリスチレンの量が多すぎると、ポリフェニレンオキシドをブレンドすることにより得られる効果が小さくなる。一方、イソタクチックポリスチレンの量が少なすぎると、得られるフイルムが結晶化しなくなる。 また、一軸延伸フイルムは、上記の両成分の他に少量の相溶性のある他のポリマーを配合した樹脂組成物からも形成することができる。
【0014】
樹脂組成物からキャスト膜を製造するために使用する溶媒としては、イソタクチックポリスチレンとポリフェニレンオキシドを溶解する溶媒であれば特に制限はないが、好ましい溶媒としてはクロルベンゼン等の有機溶媒が挙げられる。
非晶性フイルムを延伸して配向膜を作製する際の延伸温度は、樹脂組成物の配合比により変化し、ポリフェニレンオキシドの配合割合が増加するにつれて高くなる。例えば、イソタクチックポリスチレンのみから一軸延伸フイルムを製造するには100〜120℃、イソタクチックポリスチレンとポリフェニレンオキシドの配合比が7:3である場合には125〜145℃、イソタクチックポリスチレンとポリフェニレンオキシドの配合比が5:5である場合には155〜175℃程度の温度が使用されるが、通常は、100〜160℃とすることが好ましい。
配向膜の熱処理には、延伸温度と同程度の温度が使用される。
【実施例】
【0015】
つぎに実施例により本発明をさらに説明するが、以下の具体例は本発明を限定するものではない。
(実施例1)
重量平均分子量400,000のイソタクチックポリスチレン(iPS)と重量平均分子量50,000のポリフェニレンオキシド(PPO)をモル比7:3で混合し、熱クロルベンゼンに溶解してキャスト膜を作製した。つぎに、窒素ガス雰囲気下において熱プレスで溶融成形し、フイルムを氷水中へ投入することにより、非晶性フイルムを作製した。得られた非晶性フイルムを135℃において5倍に一軸方向に延伸し、膜厚約150μmの非晶性配向膜を作製した。さらに、135℃において24時間形態を拘束しながら熱処理することにより、iPS成分が結晶化するとともに高度に配向し、一方、PPO成分はほとんど配向していないブレンドフイルムを作製することができた。
このフイルムの延伸方向の強度と弾性率は、それぞれ90.3MPa及び4.05GPaであり、垂直方向の強度と弾性率は、それぞれ59.3MPa及び2.27GPaであった。これらの強度を、iPSを熱プレスにより溶融成形し、フイルムを氷水中に投入することにより急冷して作製した厚さ約200μmのiPSのみからなる未延伸フイルムの強度(45.6MPa)と比較すると、ブレンド配向フイルムでは、垂直方向の強度が低下することなく延伸方向の強度が約2倍に向上していることがわかる。
得られたブレンド配向フイルムの偏光IRスペクトルを図1に、また応力−ひずみ曲線を図2に示す。
【0016】
(比較例1)
重量平均分子量400,000のiPSを窒素ガス雰囲気下において熱プレスで溶融成形し、フイルムを氷水中へ投入することにより、非晶性フイルムを作製した。得られた非晶性フイルムを100℃で5倍に延伸することにより、結晶化度の低い膜厚約150μmの配向膜を作製した。さらに、100℃において24時間、形態を拘束しながら熱処理することにより、結晶化度の低い膜厚約150μmの配向膜を作製した。
このフイルムの延伸方向の強度と弾性率は、それぞれ109.5MPa及び4.67GPaであり、垂直方向の強度と弾性率は、それぞれ13.8MPa及び2.28GPaであった。これらの強度を、上記のiPSのみからなる未延伸フイルムの強度(45.6MPa)と比較すると、延伸方向の力学特性は向上するものの、垂直方向の強度が著しく低下した。このフイルムの応力−ひずみ曲線を図3に示す。
【0017】
(実施例2)
iPOとPPOの混合比を5/5としたほかは、実施例1と同様にして、ブレンド配向フイルムを作製した。
【0018】
(フイルムの結晶化度の延伸比依存性)
フイルムの結晶化度の延伸比依存性をみるために、上記の実施例及び比較例で得られた各フイルムの、熱処理前及び熱処理後の結晶化度と延伸比の関係を測定した結果を図4に示す。
図4において、図中の記号は、以下のものを表す。
○:iPS、熱処理前
●:iPS、熱処理後
□:iPS/PPO=7/3、熱処理前
■:iPS/PPO=7/3、熱処理後
▲:iPS/PPO=5/5、熱処理後
【0019】
(フイルムの配向度の延伸比依存性)
フイルムの配向化度の延伸比依存性をみるために、上記の実施例及び比較例で得られた各フイルムの、熱処理前及び熱処理後の配向度と延伸比の関係を測定した結果を図5に示す。
図5において、図中の記号は、以下のものを表す。
○:iPS、熱処理前
●:iPS、熱処理後
□:iPS/PPO=7/3、熱処理前
■:iPS/PPO=7/3、熱処理後
▲:iPS/PPO=5/5、熱処理後
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明で得られるフイルムの偏光IRスペクトルを示す図である。図中、実線は平行偏光、点線は垂直偏光を示す。
【図2】図1のフイルムの応力−ひずみ曲線を示す図である。図中、実線はiPS/PPOの延伸・熱処理試料、点線はiPSの未延伸試料を示す。
【図3】本発明の比較例で得られるフイルムの応力−ひずみ曲線を示す図である。
【図4】本発明で得られるフイルムの結晶化度の延伸比依存性を示す図である。
【図5】本発明で得られるフイルムの配向度の延伸比依存性を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性イソタクチックポリスチレンとポリフェニレンオキシドの配合割合が、モル比で9:1〜5:5である樹脂組成物をフイルム化した後に一軸延伸し、熱処理することを特徴とする、フイルムの延伸方向における結晶性イソタクチックポリスチレンの配向度が0.6〜1であり、ポリフェニレンオキシドの分子鎖がランダムに配向した一軸延伸フイルムの製造方法。
【請求項2】
結晶性イソタクチックポリスチレンとポリフェニレンオキシドの配合割合が、モル比で9:1〜5:5となるように有機溶媒に均一に溶解した溶液をフイルム化し、加熱して該フイルムを溶融した後に急冷して得られた非晶質のフイルムを一軸延伸後熱処理することを特徴とする請求項1に記載の一軸延伸フイルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−137955(P2006−137955A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−341888(P2005−341888)
【出願日】平成17年11月28日(2005.11.28)
【分割の表示】特願2001−351201(P2001−351201)の分割
【原出願日】平成13年11月16日(2001.11.16)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成13年度、独立行政法人新エネルギー産業技術総合開発機構 委託研究、「<材料ナノテクノロジープログラム>精密高分子技術プロジェクト高性能材料の基盤研究開発」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】