説明

結晶性ポリ乳酸樹脂組成物およびそれからなる成形体

【課題】 優れた機械的強度、成形性や耐熱性を具備し、柔軟性を向上させた環境配慮型熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 ポリ乳酸樹脂(A)と結晶核剤(B)とを含有する樹脂組成物であって、ポリ乳酸樹脂(A)と結晶核剤(B)の質量比(A/B)が90/10〜99.9/0.1であり、ポリ乳酸樹脂(A)が(メタ)アクリル酸エステル化合物(C)と過酸化物(D)とともに溶融混練されてなり、結晶核剤(B)がスルホイソフタル酸カリウムジメチルおよび/またはスルホイソフタル酸ナトリウムジメチルであることを特徴とする結晶性ポリ乳酸樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた機械的強度、成形性や耐熱性を具備し、柔軟性を向上させたポリ乳酸樹脂を含有する樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、成形用の原料としては、ポリプロピレン樹脂(PP)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS)、ポリアミド樹脂(PA6、PA66等)、ポリエステル樹脂(PET、PBT等)、ポリカーボネート樹脂(PC)等が使用されている。このような樹脂から製造された成形体は成形性、機械的強度に優れているが、廃棄する際、ゴミの量を増すうえに、自然環境下で殆ど分解されないために、埋設処理しても半永久的に地中に残留する。
【0003】
そこで、近年、環境保全の見地から、生分解性ポリエステル樹脂が注目されている。中でもポリ乳酸、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートなどは、大量生産可能なためコストも安く、有用性が高い。特に、ポリ乳酸は既にトウモロコシやサツマイモ等の植物を原料として工業生産が可能となっており、使用後に焼却されても、これらの植物の生育時に吸収した二酸化炭素を考慮すると、炭素の収支として中立であることから、地球環境への負荷の低い樹脂とされている。
【0004】
ポリ乳酸は、結晶化を充分進行させることにより耐熱性が向上し、広い用途に適用可能となるが、ポリ乳酸単独ではその結晶化は極めて遅いものである。そこで、通常、結晶化速度を向上させることを目的として、ポリ乳酸に各種結晶核剤の添加や、ポリ乳酸の架橋処理がなされてきた。
【0005】
すなわち、上記ポリ乳酸の結晶化を促進するために結晶核剤を添加する手法として、特許文献1には特定分子構造のカルボン酸アミドまたはエステルを添加することが、また特許文献2にはトリシクロヘキシルトリメシン酸アミドを添加することが、また特許文献3にはエチレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミドを添加することが、さらに特許文献4には芳香族スルホン酸塩を添加することが開示されている。
【0006】
また、ポリ乳酸の結晶化を促進するためにポリ乳酸を架橋する手法として、例えば、特許文献5には、メタアクリル酸エステル化合物を配合することが、また、特許文献6には、イソシアネート化合物を配合することがそれぞれ開示されている。
【0007】
しかしながら、前記のようにポリ乳酸に結晶核剤を添加したり、架橋処理を施しても、結晶化速度の向上は認められるものの、その効果は不十分で、射出成形時の成形サイクルが長く、ポリ乳酸成形体を製造する際の生産性は、従来の樹脂成形体の場合に比較して低くならざるを得ないことがあった。また実使用に耐えうる耐熱性や柔軟性を付与することができない場合もあった。
【特許文献1】国際公開第2006/137397号パンフレット
【特許文献2】特開2006−328163号公報
【特許文献3】特開2003−226801号公報
【特許文献4】国際公開第2005/068554号パンフレット
【特許文献5】特開2003−128901号公報
【特許文献6】特開2002−3709号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明の目的は、前記課題を解決しようとするものであり、優れた機械的強度、成形性や耐熱性を具備し、柔軟性を向上させた環境配慮型熱可塑性樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ポリ乳酸樹脂を架橋するとともに、結晶核剤として、スルホイソフタル酸カリウムジメチルおよび/またはスルホイソフタル酸ナトリウムジメチルを配合することによって前記課題が解決されることを見いだし、本発明に到達した。
すなわち本発明の要旨は、下記の通りである。
(1)ポリ乳酸樹脂(A)と結晶核剤(B)とを含有する樹脂組成物であって、ポリ乳酸樹脂(A)と結晶核剤(B)の質量比(A/B)が90/10〜99.9/0.1であり、ポリ乳酸樹脂(A)が(メタ)アクリル酸エステル化合物(C)と過酸化物(D)とともに溶融混練されてなり、結晶核剤(B)がスルホイソフタル酸カリウムジメチルおよび/またはスルホイソフタル酸ナトリウムジメチルであることを特徴とする結晶性ポリ乳酸樹脂組成物。
(2)ポリ乳酸樹脂(A)が、その100質量部に対して、(メタ)アクリル酸エステル化合物(C)0.01〜20質量部と、過酸化物(D)0.02〜20質量部とともに溶融混練されてなることを特徴とする(1)記載の樹脂組成物。
(3)ポリ乳酸樹脂(A)100質量部に対して、カルボジイミド化合物、エポキシ化合物およびオキサゾリン化合物から選ばれる1種以上の反応性化合物(E)0.1〜10質量部を含有することを特徴とする(1)または(2)に記載の樹脂組成物。
(4)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の樹脂組成物を成形してなる成形体。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、成形性、耐熱性、柔軟性に優れた結晶性ポリ乳酸樹脂組成物を提供することができる。この樹脂組成物を電気製品の筐体などに用いることで、低環境負荷材料であるポリ乳酸樹脂の使用範囲を大きく広げることができ、産業上の利用価値はきわめて高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に使用されるポリ乳酸樹脂(A)としては、主成分としてポリ(L−乳酸)、ポリ(D−乳酸)、および、これらの混合物または共重合体を用いることが望ましい。生分解性の観点からは、ポリ(L−乳酸)を主体とすることが好ましい。
【0012】
また、ポリ(L−乳酸)を主体とするポリ乳酸樹脂(A)の融点は、光学純度によってその融点が異なるが、本発明においては、成形体の機械的特性や耐熱性を考慮すると、融点を160℃以上とすることが好ましい。ポリ(L−乳酸)を主体とするポリ乳酸樹脂において融点を160℃以上とするためには、D体含有量を約3%未満とすればよい。
【0013】
さらに本発明においては、ポリ乳酸樹脂(A)のD体含有量は0.6%以下であるか、または、99.4%以上であることが好ましい。D体含有量がこの範囲外であるポリ乳酸樹脂を用いた場合、成形時の金型温度を90〜120℃より低く設定すると、耐熱性を有する成形体を得ることができないことがある。D体含有量は0.3%以下であるか、または、99.7%以上であることがより好ましい。
本発明において、D体含有量が0.6%以下であるポリ乳酸樹脂(A)を使用する際に、ポリ乳酸樹脂として、D体含有量が0.08%未満のものを入手あるいは作製することが困難になることがあるが、本発明においては、D体含有量が0.08%未満のポリ乳酸樹脂も使用することもできる。同様に、D体含有量が99.4%以上であるポリ乳酸樹脂(A)を使用する際に、ポリ乳酸樹脂として、D体含有量が99.92%を超えるものを入手あるいは作製することが困難になることがあるが、本発明においては、D体含有量が99.92%を超えるポリ乳酸樹脂も使用することもできる。
【0014】
本発明において、ポリ乳酸樹脂(A)のD体含有量とは、ポリ乳酸樹脂(A)を構成する総乳酸単位のうち、D乳酸単位が占める割合(%)である。したがって、例えば、D体含有量が0.6%のポリ乳酸樹脂(A)の場合、このポリ乳酸樹脂(A)は、D乳酸単位が占める割合が0.6%であり、L乳酸単位が占める割合が99.4%である。
【0015】
本発明においては、ポリ乳酸樹脂(A)のD体含有量は、後述するように、ポリ乳酸樹脂(A)を分解して得られるL乳酸とD乳酸を全てメチルエステル化し、L乳酸のメチルエステルとD乳酸のメチルエステルとをガスクロマトグラフィー分析機で分析する方法により算出した。
【0016】
本発明においてポリ乳酸樹脂(A)としては、市販の各種ポリ乳酸樹脂を用いることができ、また、通常公知の溶融重合法によって、あるいは固相重合法を併用して製造され、さらに、乳酸の環状2量体であるラクチドのうち、D体含有量の充分低いL−ラクチド、または、L体含有量の充分低いD−ラクチドを原料に用いて、作製したものを使用することもできる。
なお、本発明においては、ポリ乳酸樹脂(A)として、2種以上のポリ乳酸樹脂を組み合わせてもよい。たとえば、D体含有量が0.6%を超えるポリ乳酸樹脂と、D体含有量が0.6%以下のポリ乳酸樹脂とを併用してもよく、この場合にも、併用して得られるポリ乳酸樹脂(A)において、そのD体含有量が0.6%以下であることが好ましい。同様に、D体含有量が99.4%未満のポリ乳酸樹脂と、D体含有量が99.4%以上のポリ乳酸樹脂とを併用してもよく、この場合にも、併用して得られるポリ乳酸樹脂(A)において、そのD体含有量が99.4%以上であることが好ましい。
【0017】
本発明においてポリ乳酸樹脂(A)の190℃、荷重21.2Nにおけるメルトフローレートは、0.1〜50g/10分、好ましくは0.2〜20g/10分、最適には0.5〜10g/10分である。メルトフローレートが50g/10分を超える場合には、溶融粘度が低すぎて成形物の機械的特性や耐熱性が劣る場合がある。一方、メルトフローレートが0.1g/10分未満の場合は成形加工時の負荷が高くなりすぎ、操業性が低下する場合がある。
メルトフローレートを所定の範囲に調節する方法として、メルトフローレートが大きすぎる場合は、少量の鎖長延長剤、例えば、ジイソシアネート化合物、ビスオキサゾリン化合物、エポキシ化合物、酸無水物などを用いて樹脂の分子量を増大させる方法が挙げられる。逆に、メルトフローレートが小さすぎる場合はメルトフローレートの大きなポリエステル樹脂や低分子量化合物と混合する方法が挙げられる。
【0018】
ポリ乳酸樹脂(A)には、主たる構成成分以外のモノマーが共重合されていてもよい。
例えば、酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,5−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、メチルテレフタル酸、4,4′−ビフェニルジカルボン酸、2、2′−ビフェニルジカルボン酸、4,4′−ビフェニルエーテルジカルボン酸、4,4′−ジフェニルメタンジカルボン酸、4,4′−ジフェニルスルフォンジカルボン酸、4,4′−ジフェニルイソプロピリデンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アゼライン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、アイコサン二酸、水添ダイマー酸などの飽和脂肪族ジカルボン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、メサコン酸、シトラコン酸、ダイマー酸等の不飽和脂肪族ジカルボン酸およびこれらの無水物、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、2,5−ノルボルネンジカルボン酸、テトラヒドロフタル酸などの脂環式ジカルボン酸などが挙げられる。
また、ジオール成分として、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,10−デカンジオール等の脂肪族ジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,2−シクロヘキサンジメタノール等の脂環式ジオール、ビスフェノールAやビスフェノールS等のビスフェノール類又はそれらのエチレンオキサイド付加体、ハイドロキノン、レゾルシノール等の芳香族ジオール等が共重合されていても構わない。
さらには、p−ヒドロキシ安息香酸、p−(2−ヒドロキシエトキシ)安息香酸、6−ヒドロキシカプロン酸、3−ヒドロキシ酪酸、3−ヒドロキシ吉草酸、等のヒドロキシカルボン酸や、δ−バレロラクトン、γ−ブチロラクトン、ε−カプロラクトン等のラクトン化合物が共重合されていても構わない。
また、難燃性を付与するために有機リン化合物が共重合されていてもよい。
【0019】
本発明において、ポリ乳酸樹脂(A)は、(メタ)アクリル酸エステル化合物(C)と過酸化物(D)とともに溶融混練されることが必要である。(メタ)アクリル酸エステル化合物(C)と過酸化物(D)とともに溶融混練してポリ乳酸樹脂(A)を架橋することによって、結晶化を促進することができ、また得られる樹脂組成物に柔軟性を付与することができる。
【0020】
本発明において、(メタ)アクリル酸エステル化合物(C)は、前述のように、樹脂組成物の結晶化を促進し、耐熱性を改善するとともに、柔軟性を付与することを目的として配合されるものである。
具体的な化合物としては、ポリ乳酸樹脂(A)との反応性が高く、モノマーが残りにくく、かつ、毒性が少なく、樹脂の着色も少ないことから、分子内に2個以上の(メタ)アクリル基を有するか、または、1個以上の(メタ)アクリル基と1個以上のグリシジル基もしくはビニル基を有する化合物が好ましい。
(メタ)アクリル酸エステル化合物(C)の具体例としては、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、グリセロールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、アリロキシポリエチレングリコールモノアクリレート、アリロキシ(ポリ)エチレングリコールモノメタクリレート、(ポリ)エチレングリコールジメタクリレート、(ポリ)エチレングリコールジアクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジメタクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジアクリレート、(ポリ)テトラメチレングリコールジメタクリレート、または、これらのアルキレングリコール部が様々な長さのアルキレンの共重合体、ブタンジオールメタクリレート、ブタンジオールアクリレート等が挙げられる。
(メタ)アクリル酸エステル化合物(C)の添加量は、ポリ乳酸樹脂(A)100質量部に対して、0.01〜20質量部であることが好ましく、0.05〜1質量部であることがより好ましい。添加量が0.01質量部未満では、目的とする耐熱性が得られず、また、添加量が20質量部を超えると、混練時の操業性が低下する。
【0021】
本発明において、過酸化物(D)は、(メタ)アクリル酸エステル化合物(C)とポリ乳酸樹脂(A)との反応を促進し、耐熱性を改善し、柔軟性を付与することを目的として配合されるものである。
過酸化物(D)の具体例としては、ベンゾイルパーオキサイド、ビス(ブチルパーオキシ)トリメチルシクロヘキサン、ビス(ブチルパーオキシ)シクロドデカン、ブチルビス(ブチルパーオキシ)バレレート、ジクミルパーオキサイド、ブチルパーオキシベンゾエート、ジブチルパーオキサイド、ビス(ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、ジメチルジ(ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジメチルジ(ブチルパーオキシ)ヘキシン、ブチルパーオキシクメンなどが挙げられる。
過酸化物(D)の添加量は、ポリ乳酸樹脂(A)100質量部に対して、0.02〜20質量部であることが好ましく、0.1〜10質量部であることがより好ましい。添加量が0.02質量部未満では、目的とする効果が得られず、また、添加量が20質量部を超えると、混練時の操業性が低下する場合がある。
【0022】
本発明の樹脂組成物は、ポリ乳酸樹脂(A)の結晶化を促進することを目的として、結晶核剤(B)としてスルホイソフタル酸カリウムジメチルおよび/またはスルホイソフタル酸ナトリウムジメチルを含有する。そして、結晶核剤(B)は、ポリ乳酸樹脂(A)と結晶核剤(B)の質量比(A/B)が、90/10〜99.9/0.1、好ましくは、95/5〜99.9/0.1、さらに好ましくは、97/3〜99.9/0.1となるように配合される。結晶核剤(B)の配合量が、0.1質量%未満であると、効果が乏しく、10質量%を超えると結晶核剤としての効果が飽和し、経済的に不利であるだけでなく、生分解後の残渣分が増大するため、環境面でも好ましくない。
【0023】
本発明の樹脂組成物は、反応性化合物(E)を含有することが好ましい。反応性化合物(E)を含有することにより、樹脂組成物の耐久性を向上させ、その難燃性および耐熱性を長期間、安定的に維持することができる。
本発明において反応性化合物(E)としては、カルボジイミド化合物、エポキシ化合物、およびオキサゾリン化合物から選ばれる1種以上を使用することができる。
【0024】
カルボジイミド化合物としては、種々のものを用いることができ、分子中に1個以上のカルボジイミド基を持つものであれば特に限定されず、例えば、脂肪族モノカルボジイミド、脂肪族ポリカルボジイミド、脂環族モノカルボジイミド、脂環族ポリカルボジイミド、芳香族モノカルボジイミド、あるいは、芳香族ポリカルボジイミドなど、この範囲の全てのものを用いることができる。さらに、分子内に各種複素環、あるいは、各種官能基を持つものであっても構わない。
カルボジイミド化合物を製造する方法としては、特に限定されず、イソシアネート化合物を原料に製造する方法など、多くの方法が挙げられる。
カルボジイミド化合物としては、イソシアネート基を分子内に有するカルボジイミド化合物、およびイソシアネート基を分子内に有していないカルボジイミド化合物のどちらも区別無く用いることができる。
カルボジイミド化合物のカルボジイミド骨格としては、N,N′−ジ−o−トリルカルボジイミド、N,N′−ジオクチルデシルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,6−ジメチルフェニルカルボジイミド、N−トリル−N′−シクロヘキシルカルボジイミド、N−トリル−N′−フェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−p−ニトロフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−p−ヒドロキシフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−シクロヘキシルカルボジイミド、N,N′−ジ−p−トリルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−ジ−o−トリルカルボジイミド、4,4′−ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド、テトラメチルキシリレンカルボジイミド、N,N−ジメチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミドなど、多くのカルボジイミド骨格が挙げられる。
カルボジイミド化合物の具体例としては、多くのものが挙げられるが、例えば、前記分類の脂環族モノカルボジイミドとしては、ジシクロヘキシルカルボジイミドなどが挙げられ、また、前記分類の脂環族ポリカルボジイミドとしては、4,4′−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートに由来するポリカルボジイミドなどが挙げられ、また、前記分類の芳香族モノカルボジイミドとしては、N,N′−ジフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミドなどが挙げられ、また、前記分類の芳香族ポリカルボジイミドとしては、フェニレン−p−ジイソシアネートに由来するポリカルボジイミド、1,3,5−トリイソプロピル−フェニレン−2,4−ジイソシアネートに由来するポリカルボジイミドなどが挙げられる。
なお、ポリカルボジイミドにおいては、その分子の両端あるいは分子中の任意の部位が、イソシアネート基等の官能基を有する、あるいは、分子鎖が分岐しているなど他の部位と異なる分子構造となっていても構わない。
【0025】
エポキシ化合物の具体例としては、N−グリシジルフタルイミド、N−グリシジル−4−メチルフタルイミド、N−グリシジル−4,5−ジメチルフタルイミド、N−グリシジル−3−メチルフタルイミド、N−グリシジル−3,6−ジメチルフタルイミド、N−グリシジル−4−エトキシフタルイミド、N−グリシジル−4−クロルフタルイミド、N−グリシジル−4,5−ジクロルフタルイミド、N−グリシジル−3,4,5,6−テトラブロムフタルイミド、N−グリシジル−4−n−ブチル−5−ブロムフタルイミド、N−グリシジルサクシンイミド、N−グリシジルヘキサヒドロフタルイミド、N−グリシジル−1,2,3,6−テトラヒドロフタルイミド、N−グリシジルマレインイミド、N−グリシジル−α,β−ジメチルサクシンイミド、N−グリシジル−α−エチルサクシンイミド、N−グリシジル−α−プロピルサクシンイミド、N−グリシジルベンズアミド、N−グリシジル−p−メチルベンズアミド、N−グリシジルナフトアミド、N−グリシジルステラミド、N−メチル−4,5−エポキシシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸イミド、N−エチル−4,5−エポキシシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸イミド、N−フェニル−4,5−エポキシシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸イミド、N−ナフチル−4,5−エポキシシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸イミド、N−トリル−3−メチル−4,5−エポキシシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸イミド、オルソフェニルフェニルグリシジルエーテル、2−メチルオクチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、3−(2−キセニルオキシ)−1,2−エポキシプロパン、アリルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、ラウリルグリシジルエーテル、ベンジルグリシジルエーテル、シクロヘキシルグリシジルエーテル、α−クレシルグリシジルエーテル、p−t−ブチルフェニルグリシジルエーテル、メタクリル酸グリシジルエーテル、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、スチレンオキサイド、オクチレンオキサイド、ヒドロキノンジグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールA−ジグリシジルエーテルなどが挙げられ、さらには、テレフタル酸ジグリシジルエステル、テトラヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、フタル酸ジメチルジグリシジルエステル、フェニレンジグリシジルエーテル、エチレンジグリシジルエーテル、トリメチレンジグリシジルエーテル、テトラメチレンジグリシジルエーテル、ヘキサメチレンジグリシジルエーテルなどが挙げられる。
これらのエポキシ化合物の中から1種または2種以上の化合物を任意に選択すればよいが、反応性の点でエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、フェニルグリシジルエーテル、オルソフェニルフェニルグリシジルエーテル、p−t−ブチルフェニルグリシジルエーテル、N−グリシジルフタルイミド、ヒドロキノンジグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールA−ジグリシジルエーテルなどが好ましい。
【0026】
オキサゾリン化合物の具体例としては、2−メトキシ−2−オキサゾリン、2−エトキシ−2−オキサゾリン、2−プロポキシ−2−オキサゾリン、2−ブトキシ−2−オキサゾリン、2−ペンチルオキシ−2−オキサゾリン、2−ヘキシルオキシ−2−オキサゾリン、2−ヘプチルオキシ−2−オキサゾリン、2−オクチルオキシ−2−オキサゾリン、2−ノニルオキシ−2−オキサゾリン、2−デシルオキシ−2−オキサゾリン、2−シクロペンチルオキシ−2−オキサゾリン、2−シクロヘキシルオキシ−2−オキサゾリン、2−アリルオキシ−2−オキサゾリン、2−メタアリルオキシ−2−オキサゾリン、2−クロチルオキシ−2−オキサゾリン、2−フェノキシ−2−オキサゾリン、2−クレジル−2−オキサゾリン、2−o−エチルフェノキシ−2−オキサゾリン、2−o−プロピルフェノキシ−2−オキサゾリン、2−o−フェニルフェノキシ−2−オキサゾリン、2−m−エチルフェノキシ−2−オキサゾリン、2−m−プロピルフェノキシ−2−オキサゾリン、2−p−フェニルフェノキシ−2−オキサゾリン、2−メチル−2−オキサゾリン、2−エチル−2−オキサゾリン、2−プロピル−2−オキサゾリン、2−ブチル−2−オキサゾリン、2−ペンチル−2−オキサゾリン、2−ヘキシル−2−オキサゾリン、2−ヘプチル−2−オキサゾリン、2−オクチル−2−オキサゾリン、2−ノニル−2−オキサゾリン、2−デシル−2−オキサゾリン、2−シクロペンチル−2−オキサゾリン、2−シクロヘキシル−2−オキサゾリン、2−アリル−2−オキサゾリン、2−メタアリル−2−オキサゾリン、2−クロチル−2−オキサゾリン、2−フェニル−2−オキサゾリン、2−o−エチルフェニル−2−オキサゾリン、2−o−プロピルフェニル−2−オキサゾリン、2−o−フェニルフェニル−2−オキサゾリン、2−m−エチルフェニル−2−オキサゾリン、2−m−プロピルフェニル−2−オキサゾリン、2−p−フェニルフェニル−2−オキサゾリンなどが挙げられ、さらには、2,2′−ビス(2−オキサゾリン)、2,2′−ビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2′−ビス(4,4′−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2′−ビス(4−エチル−2−オキサゾリン)、2,2′−ビス(4,4′−ジエチル−2−オキサゾリン)、2,2′−ビス(4−プロピル−2−オキサゾリン)、2,2′−ビス(4−ブチル−2−オキサゾリン)、2,2′−ビス(4−ヘキシル−2−オキサゾリン)、2,2′−ビス(4−フェニル−2−オキサゾリン)、2,2′−ビス(4−シクロヘキシル−2−オキサゾリン)、2,2′−ビス(4−ベンジル−2−オキサゾリン)、2,2′−p−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2′−m−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2′−o−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2′−p−フェニレンビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2′−p−フェニレンビス(4,4′−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2′−m−フェニレンビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2′−m−フェニレンビス(4,4′−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2′−エチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2′−テトラメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2′−ヘキサメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2′−オクタメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2′−デカメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2′−エチレンビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2′−テトラメチレンビス(4,4′−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2′−9,9′−ジフェノキシエタンビス(2−オキサゾリン)、2,2′−シクロヘキシレンビス(2−オキサゾリン)、2,2′−ジフェニレンビス(2−オキサゾリン)などが挙げられる。
さらには、上記した化合物をモノマー単位として含むポリオキサゾリン化合物など、例えばスチレン・2−イソプロペニル−2−オキサゾリン共重合体などが挙げられる。これらのオキサゾリン化合物の中から1種または2種以上の化合物を任意に選択すればよい。耐熱性および反応性や樹脂との親和性の点で2,2′−m−フェニレンビス(2−オキサゾリン)や2,2′−p−フェニレンビス(2−オキサゾリン)が好ましい。
【0027】
反応性化合物(E)の添加量は、ポリ乳酸樹脂(A)100質量部に対して、0.1〜10質量部であることが好ましく、0.2〜5質量部であることがより好ましい。添加量が0.5質量部未満では目的とする耐久性が得られない場合があり、また、添加量が20質量部を超えると、耐熱性が低下し、また経済的にも好ましくなく、さらには、色調が大きく損なわれる場合もある。
【0028】
本発明の樹脂組成物は、ポリ乳酸樹脂(A)と(メタ)アクリル酸エステル化合物(C)と過酸化物(D)とを溶融混練して、架橋ポリ乳酸樹脂を調製し、これに結晶核剤(B)を混合することによって製造することができ、また、ポリ乳酸樹脂(A)と結晶核剤(B)とを混合し、これに(メタ)アクリル酸エステル化合物(C)と過酸化物(D)とを添加して溶融混練することによっても製造することができる。
ポリ乳酸樹脂(A)と(メタ)アクリル酸エステル化合物(C)と過酸化物(D)とを溶融混練したり、ポリ乳酸樹脂(A)と結晶核剤(B)とを混合したり、さらにこれらに反応性化合物(E)とを混合する手段は、特に限定されないが、一軸あるいは二軸の押出機を用いて溶融混練する方法を挙げることができる。混練状態をよくする意味で二軸の押出機を使用することが好ましい。混練温度は(ポリ乳酸樹脂(A)の融点+5℃)〜(ポリ乳酸樹脂(A)の融点+100℃)の範囲が、また、混練時間は20秒〜30分が好ましい。この範囲より低温や短時間であると、混練や反応が不充分となったり、逆に、高温や長時間であると樹脂の分解や着色が起きる場合があり、ともに好ましくない。
【0029】
本発明の樹脂組成物には、その特性を大きく損なわない限りにおいて、顔料、熱安定剤、酸化防止剤、無機充填材、植物繊維、強化繊維、耐候剤、可塑剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤、耐衝撃剤、相溶化剤などを配合することができる。
【0030】
熱安定剤や酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール類、ヒンダードアミン、イオウ化合物、銅化合物、アルカリ金属のハロゲン化物などが例示される。
無機充填材としては、例えば、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、ワラストナイト、アルミナ、マグネシア、ケイ酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カルシウム、アルミノ珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、ガラスバルーン、カーボンブラック、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、ゼオライト、ハイドロタルサイト、金属繊維、金属ウイスカー、セラミックウイスカー、チタン酸カリウム、窒化ホウ素、グラファイト、炭素繊維、層状珪酸塩などが例示される。層状珪酸塩を配合することにより、樹脂組成物のガスバリア性を改善することができる。
植物繊維としては、例えば、ケナフ繊維、竹繊維、ジュート繊維、その他のセルロース系繊維などが例示される。
強化繊維としては、例えば、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、液晶ポリマー繊維などの有機強化繊維などが挙げられる。
可塑剤としては、例えば、脂肪族エステル誘導体または脂肪族ポリエーテル誘導体から選ばれた1種以上の可塑剤などが挙げられる。具体的な化合物としては、例えば、グリセリンジアセトモノカプレート、グリセリンジアセトモノラウレートなどが挙げられる。可塑剤を配合することにより、結晶核剤(B)のポリ乳酸樹脂(A)への分散を促進することができる。
滑剤としては、各種カルボン酸系化合物を用いることができ、中でも、各種脂肪酸金属塩、特に、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウムなどが好ましい。
離型剤としては、各種カルボン酸系化合物、中でも、各種脂肪酸エステル、各種脂肪酸アミドなどが、好適に用いられる。
耐衝撃剤としては、特に限定されず、コアシェル型構造を持つ(メタ)アクリル酸エステル系耐衝撃剤など、種々のものを用いることが出来る。具体的な市販の商品としては、例えば、三菱レイヨン製メタブレンシリーズなどが挙げられる。
相溶化剤としては、特に限定されないが、例えば、オレフィン系共重合樹脂を主鎖に持つグラフト共重合体が挙げられ、具体的な化合物としては、例えば、ポリ(エチレン/グリシジルメタクリレート)−ポリメチルメタクリレートグラフト共重合体、あるいは、ポリ(エチレン/グリシジルメタクリレート)−ポリ(アクリロニトリル/スチレン)グラフト共重合体などが挙げられる。具体的な市販の商品としては、例えば、日本油脂製モディパーシリーズなどが挙げられる。
【0031】
本発明の樹脂組成物には、ポリ乳酸樹脂(A)の副成分として、ポリグルコール酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリブチレンサクシネートテレフタレート等から選ばれる一種または二種以上の生分解性樹脂を混合して使用してもよい。
【0032】
また、本発明の樹脂組成物に、ポリ乳酸樹脂(A)以外の樹脂を配合して、ポリ乳酸樹脂(A)とのアロイとすることも可能である。
ポリ乳酸樹脂(A)のアロイ相手材となる樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリ(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)共重合体、液晶ポリマー、ポリアセタールなどが挙げられる。
ポリオレフィンとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、などが挙げられる。
ポリアミドとしては、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6Tなどが挙げられる。
ポリエステルとしては、各種芳香族ポリエステル、各種脂肪族ポリエステルをはじめ多くのものが挙げられる。芳香族ポリエステルとしては、具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアリレート、ポリブチレンアジペートテレフタレートなどが挙げられ、脂肪族ポリエステルとしては、具体的には、ポリブチレンサクシネート、ポリ(ブチレンサクシネート−乳酸)共重合体、ポリヒドロキシ酪酸などが挙げられる。
この他のポリエステル系のものとしては、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレンイソフタレートコテレフタレート、ポリブチレンイソフタレートコテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート/シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、シクロヘキシレンジメチレンイソフタレートコテレフタレート、p−ヒドロキシ安息香酸残基とエチレンテレフタレート残基からなるコポリエステル、植物由来の原料である1,3−プロパンジオールからなるポリトリメチレンテレフタレート等などが挙げられる。
【0033】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物にこれらを混合する方法は特に限定されない。
【0034】
本発明の樹脂組成物は、射出成形、ブロー成形、押出成形、インフレーション成形、インブロ、発泡シート成形、および、シート加工後の真空成形、圧空成形、真空圧空成形等の成形方法により、各種成形体とすることができる。すなわち、射出成形してなる成形体、あるいは、押出し成形してなるフィルム、シート、および、これらフィルム、シートから加工してなる成形体、あるいは、ブロー成形してなる中空体、および、この中空体から加工してなる成形体などとすることができる。
【0035】
本発明においては、とりわけ、射出成形法を採ることが好ましく、一般的な射出成形法のほか、ガス射出成形、射出プレス成形等も採用できる。本発明の樹脂組成物に適した射出成形条件の一例を挙げれば、シリンダ温度を樹脂組成物の融点または流動開始温度以上、好ましくは170〜250℃、最適には170〜230℃の範囲とし、また、金型温度は樹脂組成物の(融点−40℃)以下とするのが適当である。シリンダ温度が低すぎると成形品にショートが発生するなど操業性が不安定になったり、過負荷に陥りやすく、逆に、成形温度が高すぎると樹脂組成物が分解し、得られる成形体の強度が低下したり、着色する等の問題が発生しやすく、ともに好ましくない場合がある。
【0036】
本発明の樹脂組成物は、成形の際に結晶化を促進させることにより、その耐熱性をさらに高めることができる。このための方法としては、例えば、射出成形時に金型内で結晶化を促進させる方法があり、その場合には、樹脂組成物のガラス転移温度以上、(融点−40℃)以下に保たれた金型内で、一定時間、成形品を保持した後、金型より取り出す方法が好適である。また、このような方法をとらずに金型より取り出された成形品であっても、あらためて、ガラス転移温度以上、(融点−40℃)以下で熱処理することにより、結晶化を促進することができる。
【0037】
本発明の成形体の具体例としては、パソコン筐体部品および筐体、携帯電話筐体部品および筐体、その他OA機器筐体部品、コネクター類等の電化製品用樹脂部品;バンパー、インストルメントパネル、コンソールボックス、ガーニッシュ、ドアトリム、天井、フロア、エンジン周りのパネル等の自動車用樹脂部品をはじめ、コンテナーや栽培容器等の農業資材や農業機械用樹脂部品;浮きや水産加工品容器等の水産業務用樹脂部品;皿、コップ、スプーン等の食器や食品容器;注射器や点滴容器等の医療用樹脂部品;ドレーン材、フェンス、収納箱、工事用配電盤等の住宅・土木・建築材用樹脂部品;花壇用レンガ、植木鉢等の緑化材用樹脂部品;クーラーボックス、団扇、玩具等のレジャー・雑貨用樹脂部品;ボールペン、定規、クリップ等の文房具用樹脂部品等が挙げられる。
また本発明の樹脂組成物は、フィルム、シート、パイプ等の押出成形品、中空成形品等とすることもできる。その例としては、農業用マルチフィルム、工事用シート、各種ブロー成形ボトルなど多数挙げられる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。原料、あるいは、実施例および比較例の樹脂組成物の評価に用いた測定法は次のとおりである。
(1)D体含有量:
ポリ乳酸樹脂(A)または樹脂組成物の約0.3gを1N−水酸化カリウム/メタノール溶液6mLに加え、65℃にて充分撹拌した後、硫酸450μLを加えて、65℃にて撹拌し、ポリ乳酸を分解させた。このサンプル5mL、純水3mL、および、塩化メチレン13mLを混合して振り混ぜた。静置分離後、下部の有機層を約1.5mL採取し、孔径0.45μmのHPLC用ディスクフィルターでろ過後、HewletPackard製HP−6890SeriesGCsystemでGC測定した。乳酸メチルエステルの全ピーク面積に占めるD−乳酸メチルエステルのピーク面積の割合(%)を算出し、これをD体含有量(%)とした。
(2)メルトフローレート(MFR):
ポリ乳酸樹脂(A)または樹脂組成物をJIS K7210に準拠し、190℃において測定した。
(3)成形サイクル:
射出成形機(東芝IS−80G)でASTMダンベル型試験片の成形試験を実施した。成形温度190℃で溶融し、溶融樹脂を金型に充填した。成形サイクルは、樹脂組成物が金型内に射出(充填、保圧)、冷却された後、成形体が金型に固着、または、抵抗なく取り出すことができ、突き出しピンによる変形がなく、良好に離型できるまでの時間(秒)とした。成形サイクル80秒以下であるのが好ましく、より好ましいのは60秒以下である。
(4)曲げ強度、弾性率、破断歪:
ISO準拠の試験片を射出成型機において所定の成形条件で成形し、ISO 178に準拠して測定した。
(5)シャルピー衝撃値:
ISO準拠の試験片を射出成型機において所定の成形条件で成形し、ISO 179に準拠して測定した。
(6)熱変形温度:
ISO準拠の試験片を射出成型機において所定の成形条件で成形し、ISO 75に準拠し、熱変形温度を荷重0.45MPaで測定した。
(7)耐久性:
成形したISO試験片を50℃50%RHの高温高湿度環境に100h曝して、ISO 178に準拠して曲げ強度を測定した。暴露前の値に対する保持率が、95%以上のものを◎、80%以上、95%未満を○、50%以上、80%未満を△、50%未満を×として評価した。
【0039】
実施例、比較例に用いた各種原料は次の通りである。
(1)ポリ乳酸樹脂(A)
・S−06:トヨタ社製、D体含有量=0.2%、MFR=4
・S−12:同社製、D体含有量=0.1%、MFR=8
・A−1:同社製、D体含有量=0.6%、MFR=2
・TE−4000:ユニチカ社製、D体含有量=1.4%、MFR=10
・TP−4000:同社製、D体含有量=1.4%、MFR=2
・合成例1:
D体含有量0.08%のL−ラクチド2,000g、ヘキサンジオール1.4gをガラス製重合管内に入れ、窒素気流下、加熱融解した後、ジオクチル錫0.4gを加え、撹拌しながら180℃で1時間反応させた。30分後、5hPaにした後、生成したポリL−乳酸樹脂を払い出した。得られたポリL−乳酸樹脂について、前記の測定方法によって測定したところ、D体含有量は0.08%、MFRは15であった。
【0040】
(2)結晶核剤
・5−スルホイソフタル酸カリウムジメチル:竹本油脂社製
・5−スルホイソフタル酸ナトリウムジメチル:東京化成工業社製
・5−スルホイソフタル酸バリウムジメチル:竹本油脂社製
・N,N′−エチレンビス(12−ヒドロキシステアリン酸)アミド:川研ファインケミカル社製WX−1
・N,N′,N″−トリシクロヘキシルトリメシン酸アミド:新日本理化社製TF−1
【0041】
(3)(メタ)アクリル酸エステル化合物(C)
・エチレングリコールジメタクリレート:日本油脂社製ブレンマーPDE−50
(4)過酸化物(D)
・ジ−t−ブチルパーオキサイド:日本油脂社製パーブチルD
(5)反応性化合物(E)
・イソシアネート変性カルボジイミド:日清紡社製LA−1(イソシアネート基含有率1〜3%)
・カルボジイミド:松本油脂製薬社製EN−160
【0042】
実施例1
ポリ乳酸樹脂(A)としてS−12を99.5質量部、結晶核剤(B)として5−スルホイソフタル酸カリウムジメチルを0.5質量部用いて、これらをドライブレンドして二軸押出機(東芝機械社製TEM37BS型)の根元供給口から供給し、また、混練機途中から(メタ)アクリル酸エステル化合物(C)0.1質量部、過酸化物(D)0.2質量部を混合した溶液を注入し、バレル温度180℃、スクリュー回転数200rpm、吐出15kg/hの条件で、ベントを効かせながら押出しを実施し、樹脂組成物ペレットを得た。
得られたペレットを70℃×24時間真空乾燥したのち、東芝機械社製IS−80G型射出成形機を用いて、金型表面温度を80℃に調整し、一般物性測定用試験片(ISO型)を成形した。
試験片作製の際、成形サイクルを測定した。その後、作製した試験片を各種測定に供した。また、試験片の一部は、50℃50%RHの高温高湿度環境に100h曝し、曲げ物性を測定した。
【0043】
実施例2〜11、比較例1〜9
ポリ乳酸樹脂、結晶核剤、(メタ)アクリル酸エステル化合物、過酸化物、反応性化合物の配合の有無、種類、量や、金型温度を変えた以外は実施例1と同様にして樹脂組成物ペレットを得た。
得られたペレットを乾燥後、射出成形によって、一般物性測定用試験片(ISO型)を成形し、同時に、成形サイクルを測定した。作製した試験片を各種測定に供した。
【0044】
実施例1〜11、比較例1〜9の評価結果をまとめて表1に示した。
【0045】
【表1】

【0046】
表1から明らかなように、実施例においては柔軟性に優れた樹脂組成物が得られ、成形性、耐熱性も良好であった。また、実施例5、6においては、反応性化合物(E)としてカルボジイミド化合物を配合がされているため、優れた耐久性が得られた。なお、実施例3においては、結晶核剤(B)の配合量が6質量部と特に高いが、他の実施例と比較して、成形性における顕著な効果は認められなかったが、柔軟性に優れる結果となった。
比較例1、6においては、結晶核剤(B)の量が本発明で規定する量を満たしていないため、成形性、柔軟性に劣る結果となった。比較例2において、結晶核剤(B)が本発明の規定量を超え、本発明の効果が飽和する結果となった。比較例3〜5においては、本発明で規定する結晶核剤(B)を使用しなかったため、柔軟性に劣る結果となった。比較例7〜9においては、ポリ乳酸樹脂(A)を(メタ)アクリル酸エステル化合物(C)と過酸化物(D)とともに溶融混練しなったため、柔軟性に劣る結果となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸樹脂(A)と結晶核剤(B)とを含有する樹脂組成物であって、ポリ乳酸樹脂(A)と結晶核剤(B)の質量比(A/B)が90/10〜99.9/0.1であり、ポリ乳酸樹脂(A)が(メタ)アクリル酸エステル化合物(C)と過酸化物(D)とともに溶融混練されてなり、結晶核剤(B)がスルホイソフタル酸カリウムジメチルおよび/またはスルホイソフタル酸ナトリウムジメチルであることを特徴とする結晶性ポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項2】
ポリ乳酸樹脂(A)が、その100質量部に対して、(メタ)アクリル酸エステル化合物(C)0.01〜20質量部と、過酸化物(D)0.02〜20質量部とともに溶融混練されてなることを特徴とする請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
ポリ乳酸樹脂(A)100質量部に対して、カルボジイミド化合物、エポキシ化合物およびオキサゾリン化合物から選ばれる1種以上の反応性化合物(E)0.1〜10質量部を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂組成物を成形してなる成形体。

【公開番号】特開2009−269991(P2009−269991A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−121273(P2008−121273)
【出願日】平成20年5月7日(2008.5.7)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】