説明

結晶成長方法

【構成】シリコン乃至ゲルマニウム単結晶の基板4上に、所定の原料ガスを供給して単結晶膜9、10を結晶成長する際に、予めビスマス吸着層8を形成したのち、その表面に所定の原料ガス供給して上記ビスマス吸着層8下で単結晶膜の結晶成長を行うようにした結晶成長方法。
【効果】ビスマス吸着層8によって、三次元島状成長或は表面偏析を抑制して結晶成長させるため、シリコン単結晶或はゲルマニウム単結晶の基板4の表面に、従来は困難であった低不純物濃度の原子層オーダーで平坦且つ急峻なヘテロ界面を有する結晶層を形成できる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、シリコンとゲルマニウム或は両者の混晶を交互に積層したナノメートルオーダの微細な超格子構造をシリコン単結晶或はゲルマニウム単結晶基板上に作製する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】シリコンとゲルマニウム或は両者の混晶を交互に積層した超格子構造を結晶成長する際に、シリコンとゲルマニウムを交互に供給する従来の技術では、三次元島状成長が起こり表面に数十原子層に及ぶ凹凸が生じたり、表面偏析が起こったりしてシリコンとゲルマニウムが混じり合うために、原子層オーダーで平坦で急峻なヘテロ界面を作製することが困難であった。
【0003】このような困難を克服するために、シリコンとゲルマニウム以外の第3の物質を表面を覆うことによって表面を改質して、上記の問題点を解決する方法が検討されている(Phys,Rev,B,42(18),1990 pp11682-11689 参照) 。
【0004】この第3の物質をサーファクタント、サーファクタントを利用する結晶成長方法をサーファクタントエピタキシーと呼び、砒素、アンチモン、ガリウムなどがサーファクタントとして効果があることが知られている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記物質を用いた従来のサーファクタントエピタキシーでは、サーファクタントが一部結晶中に取り込まれて高濃度不純物となり、成長した結晶の電気的、光学的特性が悪化する。
【0006】また、上記従来の方法では、表面に存在するサーファクタントが、シリコン或はゲルマニウムの表面拡散を阻害するために、成長した結晶の結晶性が悪化する。
【0007】これを防ぐには、ヘテロ界面近傍の成長時のみにサーファクタントを利用し、それ以外のときにはサーファクタントを蒸発させて除くのが有効だが、従来知られたサーファクタントはシリコン表面からの蒸発温度が高く、サーファクタントを蒸発させると、高温の効果でヘテロ界面が劣化する等の難点がある。
【0008】この発明は、上記の問題点を解決するためになされたもので、シリコン単結晶或はゲルマニウム単結晶基板上に低不純物濃度で、しかも良質なへテロ界面を有する単結晶膜を形成する方法を提案することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】以上の課題を解決するために、この発明ではシリコン乃至ゲルマニウム単結晶の基板或はシリコン・ゲルマニウム混晶の基板上に、所定の原料ガスを供給して単結晶膜を結晶成長する際に、予めビスマス吸着層を形成したのち、その表面に所定の原料ガス供給して上記ビスマス吸着層下で単結晶膜の結晶成長を行うようにした結晶成長方法を提案するものである。
【0010】即ち、この発明に係る結晶成長方法は、真空度の調節可能な真空室内にシリコン・ゲルマニウム混晶の基板を含むシリコン単結晶或はゲルマニウム単結晶の基板を配置し、この基板上に例えばシリコン、ゲルマニウム等の原料ガスを供給してそれぞれの単結晶膜を結晶成長させるに際して、予めビスマス吸着層を形成したのち、その表面に所定の原料ガスを供給するものである。
【0011】
【作用】このようにすると、供給された原料ガスはビスマス吸着層に潜り込み、ビスマス吸着層の下で単結晶膜を結晶成長させることができ、したがってビスマス吸着層によって原料ガスの表面拡散が抑えられるので、3次元島状成長を防ぐことができ、またこの場合ビスマスは表面偏析効果が著しいので、単結晶膜中には取り込まれず、したがって低不純物濃度の良質な単結晶膜が形成される。
【0013】また、上記のようにビスマス吸着層の下に第1の単結晶膜を形成した後、ビスマス吸着層の表面に第2の原料ガスを供給すると、第2の原料ガスはビスマス吸着層に潜り込み、第1の単結晶膜上に第2の単結晶膜が結晶成長するが、この場合ビスマス吸着膜によって第1の単結晶膜を構成する原子と第2の単結晶膜を構成する原子との置き替わりが抑えられ、第1の単結晶膜を構成する原子の表面偏析を防ぐことができ、したがって第1の単結晶膜と第2の単結晶膜との間に平坦で急峻なヘテロ界面が形成される。
【0014】なお、以上のようにビスマス吸着層は良質なヘテロ界面を形成するのには有効であるが、原料ガスの表面拡散が抑えられるので、結晶性が悪化する欠点がある。
【0015】このような場合には、第1の単結晶膜と第2の単結晶膜とのヘテロ界面を形成した後、基板温度を上げてビスマス吸着層を蒸発除去すれば、第2の原料ガスの表面拡散が促進され、第2の単結晶膜の結晶成長性を向上させることができる。
【0016】なお、この場合ビスマスの蒸発温度は低いので、形成されたヘテロ界面が基板温度の上昇で劣化されるようなことはない。
【0017】
【実施例】以下、この発明を図示の実施例に基づいて詳細に説明する。図1は、この発明の結晶成長方法に用いる結晶成長装置の一例を示すものであり、この結晶成長装置1は排気装置2により内部の真空度を調整できる真空室3を有し、真空室3内にはシリコン基板4とシリコン基板4の表面への原料供給装置5、6が収容され、更にシリコン基板4の背面には必要な基板温度に保持するためのヒータ乃至冷却装置7が設けられている。
【0018】次に、この発明の結晶成長方法の原理についてシリコン基板上にゲルマニウムとシリコンを交互に積層した例を図2を用いて説明する。
【0019】先ず、原料供給装置5よりビスマスを供給してシリコン基板4の表面にビスマスを吸着させてビスマス吸着層8を形成し(図2a)、更に原料供給装置6よりこの表面にゲルマニウムを供給すると、ビスマス吸着層8の下にゲルマニウムが潜り込んでシリコン基板上にゲルマニウム層9ができる(図2b)。この場合、ビスマス吸着層8によってゲルマニウムの表面拡散が抑えられるので、3次元島状成長を防ぐことができ、シリコン基板4の表面に平坦なゲルマニウム層9が形成される。
【0020】次に、原料供給装置5よりシリコンを供給すると、ビスマス吸着層8の下にシリコンが潜り込んでゲルマニウム層9の上にシリコン層10ができる(図2c)。この場合、ビスマス吸着層8によってシリコンとゲルマニウムの置き替わり抑えられるのでゲルマニウムの表面偏析を防ぐことができ、良質なヘテロ界面が形成できる。
【0021】なお、以上のようにヘテロ界面を形成する際にはビスマスが有効であるが、供給材料の表面拡散が抑えられるので結晶性が悪化する欠点がある。そこで、これを防ぐためにヘテロ界面を形成した後に、基板温度を上げてビスマスを蒸発させる(図2d)。この場合、ビスマスの蒸発温度が低いので、成長したヘテロ界面が劣化することはない。
【0022】ビスマスを除去した表面に更にシリコンを供給し、結晶性が良く平坦なシリコン層を形成する(図2R>2e)。
【0023】上記図2a〜図2eに示す工程を繰り返すことによって、原子層オーダーで平坦且つ急峻な界面を持ったシリコンとゲルマニウムの交互積層構造を作製することができる。
【0024】この発明によってビスマスの吸着後、ゲルマニウムの分布が急峻になり、またビスマスは結晶表面に偏析して結晶中には殆ど取り込まれないことを図3で説明する。
【0025】即ち、図3はシリコン基板上にゲルマニウムとシリコンを交互に結晶成長させ、基板側から3番目のゲルマニウム層を成長した上に1ML のビスマスを吸着させて、引き続きシリコンとゲルマニウムを交互に成長させて形成した超格子の2次イオン質量分析(SIMS)の結果を示すものであるが、これによればビスマスを吸着させたのちに、ゲルマニウムの分布曲線aが急峻になっており、またビスマスの分布曲線bは結晶表面付近以外では検出されず、殆どのビスマスが表面に偏析して、結晶中に残らないことが明らかである。
【0026】また、以上のように結晶に吸着させたビスマスは基板温度を一定以上に昇温することにより結晶表面から容易に除去できることを図4で説明する。
【0027】即ち、図4はシリコン基板にビスマスを吸着させたのち、ビスマスの供給を停止してシリコン基板温度を昇温した場合の基板温度に対する基板表面上のビスマス量の時間変化を示すものであり、これによればビスマスは基板温度575 ℃以上で急激に蒸発して除去されることが明らかである。
【0028】図5は、この発明の他の実施例を示す量子ドット構造の作製例であり、先ずシリコン基板4上にゲルマニウムを意図的に3次元島状成長させ、シリコン基板4上にゲルマニウムの島11, …を形成する(図5a)。
【0029】次に、その表面にビスマスを吸着させてビスマス吸着層8を形成し(図5b)、更にシリコンを供給してゲルマニウムの島11, …をシリコン層10で埋め込む(図5c)。
【0030】シリコン基板4の温度を上げてビスマス吸着層8を除去し(図5d)、シリコンを供給してシリコン層10の表面を平坦化する(図5e)。
【0031】図5a〜図5eの工程を繰り返すことによって、ゲルマニウムの島をシリコン中に埋め込んだ量子ドット構造を作製することができる。
【0032】図6は、この発明の更に他の実施例を示す不純物ドーピング例であり、シリコン基板4の表面にビスマスを吸着させてビスマス吸着層8を形成し(図6a)、その表面にシリコンと砒素、アンチモン、ホウ素、ガリウム等のドーピング不純物を同時に供給する。これによってビスマス吸着層8の下にシリコンとドーピング不純物が潜り込んで、ドーピング不純物の偏析を抑えて所望の不純物濃度を持ったシリコン層10が形成される(図6b)。
【0033】図7は、この発明の更に他の実施例を示すデルタドーピング例であって、シリコン基板4の表面にドーピング不純物を吸着させてデルタドープ層12を形成し、(図7a)、その表面にビスマスを吸着させてデルタドープ層12上にビスマス吸着層8を形成する(図7b)。
【0034】更に、その表面にシリコンを供給する。これによってビスマス吸着層8の下にシリコンが潜り込んでデルタドープ層12上にシリコン層10ができる(図7c)。この場合、ビスマス吸着層8がドーピング不純物の偏析を抑えるので、ドーピング不純物を狭い範囲に埋め込んだデルタドープ層12ができる。
【0035】
【発明の効果】以上要するに、この発明によればビスマス吸着層によって、三次元島状成長或は表面偏析を抑制して結晶成長させるため、シリコン単結晶或はゲルマニウム単結晶の基板の表面に、従来は困難であった低不純物濃度の原子層オーダーで平坦且つ急峻なヘテロ界面を有する結晶層を形成できる。
【0036】また、ビスマス吸着層を蒸発除去して表面拡散を促進させながら結晶成長を進行させることにより、結晶性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明を実施するための結晶成長装置の一例を示す概略構成図
【図2】この発明の一実施例を示す結晶成長方法の説明図
【図3】この発明を利用して作製した結晶構造中のゲルマニウムとビスマスとの分布図
【図4】各基板温度におけるビスマスの吸着量と蒸発時間との関係を示す図
【図5】この発明の他の実施例を示す量子ドット構造の作製例の説明図
【図6】この発明の更に他の実施例を示す不純物ドーピング例の説明図
【図7】この発明の更に他の実施例を示すデルタドーピング例の説明図
【符号の説明】
1 結晶成長装置
2 排気装置
3 真空室
4 シリコン基板
5,6 原料供給装置
7 ヒータ乃至冷却装置
8 ビスマス吸着層
9 ゲルマニウム層
10 シリコン層
11, … ゲルマニウムの島
12 デルタドープ層

【特許請求の範囲】
【請求項1】 シリコン乃至ゲルマニウム単結晶の基板或はシリコン・ゲルマニウム混晶の基板上に、所定の原料ガスを供給して単結晶膜を結晶成長する際に、予めビスマス吸着層を形成したのち、その表面に所定の原料ガス供給して上記ビスマス吸着層下で単結晶膜の結晶成長を行うようにしたことを特徴とする結晶成長方法。
【請求項2】 ビスマス吸着層下で形成された第1の単結晶膜上に第2の単結晶膜を結晶成長するに際して、第1の単結晶膜と第2の単結晶膜とのヘテロ界面を形成した後、ビスマス吸着層を蒸発除去してから、上記ヘテロ界面上に第2の単結晶膜の結晶成長を行わせるようにしたことを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の結晶成長方法。

【図1】
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【図2】
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【図6】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【公開番号】特開平6−283432
【公開日】平成6年(1994)10月7日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−34541
【出願日】平成5年(1993)1月29日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 1992年9月16日〜9月19日、社団法人応用物理学会主催の「1992年秋季第53回応用物理学会学術講演会」において文書をもって発表
【出願人】(000001144)工業技術院長 (75)
【指定代理人】
【氏名又は名称】工業技術院電子技術総合研究所長