結晶方位の方位差分布の測定方法及び塑性ひずみの局所分布の測定方法
【課題】 金属材料の結晶方位の測定誤差を低減し、塑性ひずみにより発生する結晶方位差の局所分布をより明確に同定できるようにする。
【課題解決の手段】 電子後方散乱回折を用いて金属材料の表面観察を行い、当該表面観察により得られた結晶方位の分布から結晶方位差の局所分布を測定する方法に於いて、先ず、金属材料表面の測定領域全体をRA×RA個のピクセルで構成される複数の格子状のサブ領域に分割して各ピクセルで電子後方散乱回折により結晶方位を測定すると共に、サブ領域毎に結晶方位測定値の平均値を算出し、次に、サブ領域毎に算出される平均化された結晶方位から局所方位差を算出する。
【課題解決の手段】 電子後方散乱回折を用いて金属材料の表面観察を行い、当該表面観察により得られた結晶方位の分布から結晶方位差の局所分布を測定する方法に於いて、先ず、金属材料表面の測定領域全体をRA×RA個のピクセルで構成される複数の格子状のサブ領域に分割して各ピクセルで電子後方散乱回折により結晶方位を測定すると共に、サブ領域毎に結晶方位測定値の平均値を算出し、次に、サブ領域毎に算出される平均化された結晶方位から局所方位差を算出する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所謂電子後方散乱回折による結晶方位差分布の測定から金属材料に於ける塑性ひずみの局所分布を測定する方法に関するものであり、材料の表面観察で得られた結晶方位の分布から先ず複数の結晶方位の平均値を求め、この平均値から結晶回転量(方位差)を算出することにより、金属材料の結晶方位の測定誤差の影響を低減させ、これによって結晶方位の局所分布をより明確に同定できるようにし、更に金属材料の塑性ひずみの局所分布を測定する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、原子力発電所や各種のプラント、橋梁、構造物等を構成する多くの金属製構造材には、溶接時や成形加工時等に所謂塑性ひずみが加えられており、この塑性ひずみが構造材の応力腐食割れに大きな影響を与えるものであることが知られている。
そのため、塑性ひずみの程度と応力腐食割れの進展速度等との関係を解明することは、原子力発電プラント等の安全性を確保する上で不可欠な事項となっており、その中でも、特に塑性ひずみの局所分布を簡単且つ正確に同定できるようにした技術は、早急な確立が要望されている。
【0003】
一般に、多結晶体では金属材料の変形特性の異方性や結晶粒界により、巨視的には均一に変形した場合でも、微視組織レベルでの塑性ひずみの分布は一様でなく、結晶粒界や粒界3重点等に塑性ひずみの分布が集中する傾向を示す。そのため、塑性ひずみの応力腐食割れに及ぼす影響等について検討をする場合には、応力腐食割れの加速要因となっている塑性ひずみの局所的な分布を同定することが必要となる。
【0004】
而して、金属材料の塑性ひずみを測定する方法としては、電子後方散乱回折(Electron Backscatter Diffraction、以下、EBSDと呼ぶ)を用いて得られた結晶方位データを定量化し、多結晶材料のマクロな塑性ひずみを同定するようにした方法が知られている(例えば、非特許文献1及び非特許文献2等参照)。
【0005】
前記EBSDは、走査型電子顕微鏡に於ける電子線回折の一種で、回折パターンから試料表面付近の結晶方位や結晶構造を同定することができる。
従って、塑性ひずみにより発生した材料内部の結晶粒の局所的な方位変化(方位差)を前記EBSDによって測定することで、その部分に於ける変形の程度、即ち塑性ひずみの局所分布を知ることができる。
【0006】
上記EBSDを用いることによって得られる方位差の局所分布(局所方位差)は、金属材料内の局所的な変形を評価するための有用なパラメータであることが指摘されているが、局所方位差の定量的な評価には幾つかの問題が存在する。
【0007】
例えば、塑性ひずみの局所分布と局所方位差との対応関係が明確でないことが、問題点の一つとして挙げられる。何故なら、単位長さ当りの変形量である塑性ひずみと、転位によって生じる局所方位差とが一致する必然性は、認められないからである。
又、EBSD測定に於ける結晶方位の同定誤差も定量的な評価を困難にしている。何故なら、金属材料の局所的な結晶方位差は微少であり、EBSDの分解能と言われる1°を下回る場合が多いからである。一般に、EBSDで同定される方位差の誤差は、0.5°〜1°程度と言われており、微少な方位差を測定する場合は誤差の影響が無視できなくなる。特に、局所方位差は、結晶方位測定点間の距離(以下、ステップサイズと云う)に依存することから、測定の空間分解能を上げるほど誤差の影響が大きくなることになる。
【0008】
【非特許文献1】日本機械学会論文集A、71、1722(2005).
【非特許文献2】Nuclear Engineering and Design,235,713(2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従前のEBSDを用いた金属材料の塑性ひずみの局所分布の測定方法に於ける上述の如き問題、即ち、測定により得られた結晶方位には多くの誤差が含まれ、塑性ひずみの局所分布の定量化を困難にしていると云う問題を解決せんとするものであり、金属材料の表面観察により得られた結晶分布から結晶方位差の局所分布を算出するに際して、複数の結晶方位の平均を算出することで方位測定誤差の影響を低減させ、これによって塑性ひずみにより発生する結晶方位差の局所分布をより正確に同定できるようにした結晶方位の方位差分布の測定方法と、これを用いた塑性ひずみの局所分布の測定方法を提供することを発明の主目的とするものである。
より具体的には、2つの結晶方位の方位差を算出する場合、方位差が小さくなると結晶方位の測定誤差の影響が大きくなる。結晶方位差の局所分布を評価するためには、局所的な方位差分布を評価することが必要となり、そのときに空間的な分解能を向上させる程、評価する方位差が小さくなり、誤差が大きくなると云う問題がある。そのため、結晶方位の測定誤差を少なくすると共に、この結晶方位を用いて算出される結晶方位差の誤差を少なくすることにより、結晶方位差の局所分布観察の空間分解能を向上させることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者等は、EBSDによる金属材料の塑性ひずみの局所分布の定量化について、永年に亘って様々な研究並びに実験を積み重ねて来た結果、EBSDによる結晶方位の測定誤差がなくなれば、その結晶方位を用いて算出される結晶方位差の誤差もなくなり、これによって局所方位差の局所分布観察の空間分解能を高め得ることに着目し、複数の結晶方位の測定値の平均を使用することで、結晶方位の測定誤差の影響を低減させることを着想し、当該着想に基づいて多数の実験研究を実施した。
【0011】
本発明は、上述の如き着想とこれに基づく試験研究の結果から創作されたものであり、本発明の請求項1の発明は、電子後方散乱回折を用いて金属材料の表面観察を行い、当該表面観察により得られた結晶方位の分布から結晶方位差の局所分布を測定する方法に於いて、先ず、金属材料表面の測定領域全体をRA×RA個のピクセルで構成される複数の格子状のサブ領域に分割して各ピクセルで電子後方散乱回折により結晶方位を測定すると共に、サブ領域毎に結晶方位測定値の平均値を算出し、次に、サブ領域毎に算出される平均化された結晶方位から局所方位差を算出するようにしたことを発明の基本構成とするものである。
【0012】
本発明の請求項2の発明は、請求項1の発明に於いて、一つのサブ領域を構成するRA×RA個のピクセルの前記RAをRA=5とするようにしたことに特徴がある。
【0013】
本発明の請求項3の発明は、請求項1の発明に於いて、局所方位差の算出式を次の(1)式とするようにしたものである。
【数2】
ここで、β(i,k)は、点iとkの方位差、点pi は図4に示す点p0 を中心にして隣接する四つのデータ点を示すものである。
【0014】
本発明の請求項4の発明は、請求項1の発明に於いて、金属材料を結晶粒を粗大化した純銅とするようにしたものである。
【0015】
本発明の請求項5の発明は、ひずみ応力を印加した金属材料の表面状態の変化から画像解析によって予めひずみ量を同定しておき、当該同定したひずみ量と算出した局所方位差との対応を調査するようにしたことに特徴がある。
【発明の効果】
【0016】
本発明の方法に於いては、引張試験中の金属材料の表面状態の変化から画像解析により局所的なひずみ量を同定し、次に、金属材料表面の測定領域全体を格子状のサブ領域に分割して各ピクセルで電子後方散乱回折により結晶方位を測定すると共に、サブ領域毎に結晶方位測定値の平均値を算出し、更に、サブ領域毎に算出される平均化された結晶方位から局所方位差を算出するようにしている。
【0017】
その結果、本発明の方法に於いては、電子後方散乱回折により測定された結晶方位の測定誤差の影響が少なくなると共に、その測定誤差の影響を少なくした結晶方位を用いて算出された結晶方位差も誤差のより少ないものとなり、塑性ひずみの局所分布を精度よく測定することができる。又、塑性ひずみと局所方位差との対応関係をより明確にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は本発明の方法を実施するための工程を示す説明図であり、図1に於いて、1は供試試料準備工程、2はひずみ分布の同定工程、3は結晶方位測定工程、4は結晶方位の測定データ処理工程、5は算出した局所方位差と工程2で同定したひずみ分布との対応調査工程である。
【0019】
前記供試試料準備工程1では、ひずみの不均一分布の観察が容易な結晶粒を粗大化した純銅が試料として用いられている。即ち、先ず、加工と熱処理により結晶粒を粗大化した純銅をゲージ長さ10mm、断面1.5mm×3mmの平板試験片に加工し、当該平板試験片の表面をコロイダルシリカによる鏡面仕上げ研磨を行った後、当該表面の組織観察を行うために50%硝酸メタノール溶液で腐食させて供試試料を作成した。
尚、平板試験片を形成する純銅の平均的な結晶粒径は、おおよそ300μmである。
【0020】
次に、ひずみ分布の同定工程2に於いては、引張試験中の試験片の表面状態の変化から画像解析により局所的な変形量、つまりひずみ量を同定する。
先ず、CCDカメラを装備した光学顕微鏡上の小型試験装置により平板試験片の引張試験を実施した。この引張試験に於いては、平板試験片に毎分0.1mmのクロスヘッド移動速度で公称塑性ひずみが3.2%になるまで変形を加えた。この公称塑性ひずみは、平板試験片の表面に形成したビッカース圧痕間距離の変化から算出した。
又、変形中の平板試験片の表面の様子は、CCDカメラによりデジタル画像として保存し、後述するイメージ相関法によるひずみ分布の同定に用いた。
【0021】
図2は引張試験前後の平板試験片の表面の光学顕微鏡写真を示し、(a)は引張試験前の平板試験片表面の光学顕微鏡写真、(b)は引張試験後の平板試験片表面の光学顕微鏡写真である。図2からも明らかなように、引張試験により平板試験片に塑性ひずみを付与することによって、平板試験片の表面にすべり線が発生していることが判る。
尚、すべり線の間隔、角度等は、結晶粒によって異なり、又、同一結晶粒内に於いても場所によって現れ方が異なる場合がある。特に、結晶粒界近傍に於いてすべり線が消滅している部分が多く見られる。
【0022】
そして、CCDカメラで取得した平板試験片の表面のデジタル画像から、LaVison社製の画像処理ソフトウエアを用いてイメージ相関法(変形後の画像から変形前の画像とよく似たパターンの場所を見つける方法)によりひずみ分布の同定を行う。
LaVison社製の画像処理ソフトウエアでは、変形前後の画像で認識される輝度値分布の変化から、任意の位置の変形量と方向を同定する。具体的には、画像中のある領域を設定し、その変形後の画像から最も良い相関を示す領域を探すことで、その領域の変位を求める。試行錯誤の結果、24ピクセル角の領域を設定することで、良好なひずみ分布を得ることができた。
【0023】
図3はイメージ相関法によって同定された平板試験片の表面の荷重方向のひずみ分布を示す図ある。平板試験片の巨視的な塑性ひずみは3.2%であることから、図3に於けるひずみは塑性ひずみと略等しい。図3を参照して、ひずみは、局所的には9%を超える部分が見られる等不均一な分布をしている。ひずみの相対的に小さい図中の破線部は、図2の(b)ではすべり線が不明瞭な部分となっている。逆に、ひずみの大きい部分では明瞭なすべり線が観察できる。
【0024】
次に、結晶方位測定工程3に於いては、EBSDを用いた装置によって平板試験片の結晶方位を測定した。
先ず、結晶方位の測定は、電界放射型電子銃を装備した走査型電子顕微鏡(ELIONIX ERA−8900FE)に設置されたEBSD装置(TSL社製)を用いて行い、加速電圧25kVの条件で、平板試験片の表面をステップサイズ1.5μmで測定した。
尚、測定試料である平板試験片は、引張試験後の状態(以後、ひずみ材と呼ぶ)、平板試験片の表面のすべり線等を研磨で除去した状態(以後、ひずみ研磨材と呼ぶ)、塑性ひずみを付与していない試料(以後、無ひずみ材と呼ぶ)の3種類を準備し、夫々の平板試験片について結晶方位を測定した。
【0025】
そして、測定された結晶方位のデータは、結晶方位の測定データ処理工程4に於いて処理される。
即ち、結晶方位の測定データ処理工程4に於いては、前記EBSD装置によって測定された結晶方位のデータを、本願発明者が開発した処理ソフトウエアを用いて処理し、結晶方位分布図及び局所方位差分布図の作成を行う。
【0026】
本発明では、局所方位差を次式(1)によって算出した。
【数3】
ここで、β(i,k)は、点iとkの方位差を表す。点pi は図4に示すように点p0 を中心に隣接する四つのデータ点を示す。但し、β(p0 ,pi )≧5°の場合はp0 とpi の間に粒界が存在すると定義し、局所方位差の計算から除外した。
【0027】
ところで、一般に、EBSDで同定される方位差は、0.5°〜1°程度の誤差を含むことから、詳細な方位差分布を得るには誤差の影響を排除する必要がある。
そこで、本発明では、結晶方位の同定精度を向上させるため、以下に示すデータ処理法を開発・適用した。方位差は絶対値として算出されることから、誤差に対して実際の方位差が小さい場合、方位差の平均は必ずしも誤差の減少に寄与しない。方位差の誤差は、その算出に用いる結晶方位測定値の誤差に起因し、その誤差はEBSD測定や結晶方位同定時に生じる。
【0028】
そこで、本願発明者は、結晶方位測定値を平均化処理することで、方位差同定精度の向上を試みた。図5に手法の概念図を示す。
先ず、測定範囲全体をRA×RA個のピクセルで構成されるサブ領域に分割する。ここで、RAは平均化の範囲を示す(図5ではRA=5としている)。
そして、サブ領域毎に、結晶方位測定値の平均値を算出する。結晶方位の自由度は3で、更に立方晶の場合には等価な24通りの角度変数の組み合わせが存在することから、結晶方位の平均値算出には工夫を要する。
【0029】
本発明では、4元数による平均値計算と、最小ノルム法による等価角度変数の同定を行うことで方位平均を算出した。サブ領域内に結晶粒界が存在する場合は、数の多い側の結晶粒の平均方位を算出する。このように複数の結晶方位測定結果の平均を用いることで、結晶方位測定時に発生する誤差を平均化し、方位差同定の精度を向上させることができる(以後、この方法を領域平均法と呼ぶ)。この領域平均法を適用することによって、方位差分布のステップサイズはRA倍される。
【0030】
図6は上述した領域平均法によって得られた測定試料(ひずみ材、ひずみ研磨材、無ひずみ材)の結晶方位分布図を示し、(a)はひずみ材の結晶方位分布図、(b)はひずみ研磨材の結晶方位分布図、(c)は無ひずみ材の結晶方位分布図である。結晶方位は、測定面に対して垂直な方向から観察したものを示している。又、方位差5°以上の結晶粒界を実線で示している。
【0031】
ところで、測定データの中には、試料材料等によりEBSDパターンが不鮮明で、同定された方位の信頼性の低いデータも含まれる。そのような測定方位は、周囲と大きく異なることになる。
そこで、本発明では、結晶粒を構成する測定点が10個以下の場合は、そこに含まれる測定点のデータはブランク点と定義し、以後実施する計算(局所方位差の算出)には使用しないこととした。
【0032】
図6を参照して、ひずみ材では、すべり線等によって表面状態が変化しているため、ブランク点となった小さい結晶粒が多く見られる。又、ひずみ研磨材に於いては、研磨作業中に発生した傷によると思われる箇所でブランク点が多くなった。研磨によって結晶粒の形状が若干変化しているが、ひずみ材とひずみ研磨材は略同じ領域を観察している。塑性ひずみを加えた材料では、結晶方位が局所的に変化していることが判る。又、無ひずみ材の場合にも、研磨傷によると思われる方位差が帯状に発生している。
【0033】
図7はひずみ材に於ける局所方位差の分布図であり、(a)は領域平均法を適用しない場合の局所方位差分布図、(b)は5×5個のサブ領域分割による領域平均法を適用した場合の局所方位差分布図である。
図7からも明らかなように、測定データから直接に局所方位差を算出した場合、方位差が大きい色の濃い部分が無数に点在しており、分布の特徴を見出すことは難しい(図7(a)参照)。
これに対して、局所方位差の算出に領域平均法を適用することで、局所方位差が不均一に分布している様子を明瞭に観察することができる(図7(b)参照)。
【0034】
図8は領域平均法を適用したひずみ研磨材及び無ひずみ材の局所方位差の分布図であり、(a)はひずみ研磨材の局所方位差分布図、(b)は無ひずみ材の局所方位差分布図である。
図8からも明らかなように、ひずみ研磨材では、表面を研磨することで、全体的に方位差が減少し、粒界近傍での不均一な分布がより鮮明になるが、研磨傷の影響も無視できない。又、無ひずみ材でも、図5で観察された研磨傷によると思われる方位差が観察される。
本発明では、測定対象となる局所方位差が相対的に小さいため、僅かな研磨傷でもその影響が大きく現れた。
【0035】
図9は試験片表面の荷重方向に垂直な線に沿った局所方位差を示すグラフであり、(a)はひずみ材の局所方位差を示すグラフ、(b)は無ひずみ材の局所方位差を示すグラフである。
図9のグラフからも明らかなように、領域平均法を適用しない場合(RA1の場合)は、方位差がランダムに変化している。このランダムな方位差は、実際に発生している方位差ではなく、結晶方位測定誤差によって生じていると考えられる。
これに対して、領域平均法を適用した場合(RA5の場合)は、誤差による方位差の変化を減少させることができる。尚、無ひずみ材であっても、0.2°程度の方位差が存在する。
【0036】
次に、塑性ひずみと局所方位差の関係、領域平均法よる誤差低減効果及びステップサイズの影響について述べる。
【0037】
[塑性ひずみと局所方位差の関係]
図7(b)の破線で囲んだ部分の局所方位差の大きい部分と、図3に示した塑性ひずみの相対的に大きい部分は概ね一致している。
しかし、詳細に見ると、局所方位差は、粒界部分で最大値を示しているのに対し、ひずみは粒界ではなくその近傍で大きくなっている。図7(b)の破線部分と図2(b)のすべり線を比較すると、当該部分ではすべり線が粒界近傍で消滅していることが判る。
【0038】
図10は局所方位差と塑性ひずみ(すべり線)の関係を模式的に示した図である。
図10を参照して、結晶粒がすべり方向にせん断力を受けると、結晶粒は転位の移動を伴い変形する。転位が完全に結晶粒を抜けた場合は、結晶粒は変形するが局所方位差は発生しない。又、表面にすべり線が出現する。
それに対して、結晶粒界等で転位の動きが止まり、転位が蓄積する場合は、方位差が発生する。多結晶体の変形では、夫々の結晶粒が不均一に変形し、更に粒界での幾何学的な連続性を保つために結晶粒内部に於いても局所的に変形する。
そして、局所的な変形を実現するために、図10に示すような所謂GN転位(Geometrically Necessary Dislocations)が発生することになる。転位の蓄積され易い粒界近傍では見かけ上の変形は少ないのですべり線も少ない。
【0039】
以上のことから、EBSDで測定される局所方位差は、見かけ上の変形量よりむしろ転位の蓄積との相関が大きい。変形の大きな箇所では、発生する転位も多くなることから、大局的には局所方位差は塑性ひずみの大きい箇所の近傍で大きくなる。
塑性ひずみの応力腐食割れに及ぼす影響としては、見かけ上の変形量よりも転位発生等の材料内部の変化が本質的である。
従って、転位密度と相関のある局所方位差は、応力腐食割れ(SCC)の機構を考察する上で有効なパラメータとなると考えられる。
【0040】
[領域平均法による誤差低減効果]
図11はひずみ材の局所方位差の度数分布を示すグラフである。図11のグラフを参照して、分布が対数正規分布で近似できることが判る。尚、図は省略するが、ひずみ研磨材と無ひずみ材の局所方位差の度数分布も同様であった。
そこで、測定領域全体の局所方位差の対数平均を局所方位差平均(Mave)として以下の数式(2)ように定義した
【数4】
ここで、Nはデータ数を示す。このMaveと領域平均法に於ける平均化範囲RAとの関係を図12に示す。
【0041】
図12のグラフからも明らかなように、無ひずみ材では、RAの増加に伴い局所方位差平均Maveが減少していることが判る。これは、図9(b)に示したように領域平均法による方位測定誤差の低減により方位差の誤差が減少したことに対応している。しかし、その減少はおおよそRA=5で飽和している。例え、無ひずみ材であっても、結晶方位は全く同一である訳ではない。又、方位差算出精度向上にも限界があることから、RAを大きくしても方位差が零とはならない。
本発明では、RAを大きくしても残る方位差をバックグラウンド誤差と呼ぶ。無ひずみ材のバックグラウンド誤差は局所方位差平均Maveではおおよそ0.27°であるが、図9(b)からは局所的には0.2°程度と推測される。
【0042】
一方、ひずみ材及びひずみ研磨材については、図12に示すようにRA<4では、無ひずみ材と同様にRAの増加に伴い局所方位差平均Maveは減少するが、RA≧4では局所方位差平均Maveが増加する傾向を示した。これは、RAの増加に伴いステップサイズも大きくなることから、転位によって発生した方位差が大きくなったためと考えられる。又、単位長さ当りの方位差の変化が一定であった場合、理想的には局所方位差はステップサイズに比例して増加することに対応している。
更に、ひずみ材の局所方位差平均Maveは試料状態の問題により、ひずみ研磨材の値より大きくなっている。そして、二つの試料の偏差は、領域平均法によって解消されないバックグラウンド誤差となっている。これは、領域平均法が方位測定誤差を低減するのに対して、ひずみ材の表面状態は測定される方位そのものに影響を及ぼしているためと考えられる。
【0043】
図13は転位によって発生した方位差、方位測定誤差、バックグラウンド誤差とRAの関係を模式的に示した図である。図13を参照して、方位測定誤差は、RAにより小さくできるが、バックグラウンド誤差は領域平均法によって解決できないため、RAに依存せずに存在することになる。図12の局所方位差平均Maveの変化は、これらの因子が重畳した結果である。
【0044】
[ステップサイズの影響]
図14はひずみ研磨材でのRAによる局所方位差分布の変化を示すグラフである。図8(a)に示すようにひずみ研磨材の当該部分での局所方位差はx=0.25W付近で大きくなっている。そして、その部分の局所方位差はRAの増加に伴って大きくなっていることが判る。RA=5に対してRA=10では局所方位差は略2倍となっており、局所方位差がRAに比例する傾向が見られる。ここでRAを大きくすることは、ステップサイズを大きくすることに対応している。
一方、局所方位差が0.2°付近で変化しているようなバックグラウンド誤差が支配的と考えられる部分ではRAの依存性が小さい。
【0045】
図15はRA=10とした場合のひずみ研磨材の局所方位差分布を示す図であるが、図8(a)と比較して局所方位差が粒界近傍に集中している様子が明確となり、図8(a)で見られた研磨傷の影響が相対的に小さくなっている。
このように、ステップサイズを大きくすることで、バックグラウンド誤差を相対的に小さくでき、転位に起因する局所方位差の分布のコントラストを大きくすることができる。
【0046】
本発明では、局所方位差と局所的な塑性ひずみ分布との対応を調べるために、引張試験中に於ける試験片表面画像の変化を元に、イメージ相関法を用いてひずみの分布を同定した。そして、算出した局所方位差と画像解析により同定したひずみ分布との対応、検討等を通して局所方位差の同定精度を向上させるために領域平均法を開発し、その適用条件について検討した結果、以下の結論を得ることができた。
(1)領域平均法を適用することによって局所方位差の分布を明瞭に観察できる。
(2)局所方位差は、材料表面での変位量(塑性ひずみ)より、変形により発生した転位の密度との相関が大きい。
(3)局所方位差は、塑性ひずみの大きい箇所の近傍の結晶粒界で大きくなる傾向を示す。
(4)領域平均法に於ける平均化範囲(RA)をRA≧5とすることで、方位測定誤差を十分小さくできる。
(5)領域平均法を適用した場合でも、0.2°程度のバックグラウンド誤差が存在する。ステップサイズを大きくすることで、バックグラウンド誤差の影響は小さくできる。
【0047】
上記説明及び実施結果からも明らかなように、本発明に於いては、電子後方散乱回折により測定された結晶方位の測定誤差がなくなると共に、その結晶方位を用いて算出される結晶方位差の誤差もなくなる。その結果、結晶方位差の分布が正確に測定できることになり、塑性ひずみの局所分布等も精度よく測定することができる。又、塑性ひずみと局所方位差との対応関係を明確にすることができる。
【0048】
更に、本発明に於いては、本発明で用いた結晶方位測定装置の測定結果処理プロセスに、本発明の平均方位差算出機能、平均方位差に基づく結晶方位差算出機能を追加することで、塑性ひずみの局所分布評価装置を容易に構成することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、発電プラントや各種の生産プラント、道路構造物、橋梁構造物等の全ての分野に於ける結晶方位差の分布の測定に適用でき、塑性ひずみの局所分布の高精度な測定を可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の方法を実施するための工程を示す説明図である。
【図2】引張試験前後の平板試験片表面の光学顕微鏡写真である。
【図3】イメージ相関法によって同定された平板試験片表面の荷重方向のひずみ分布を示す図である。
【図4】局所方位差の定義を示す説明図である。
【図5】領域平均法の手法を示す概略図である。
【図6】領域平均法によって得られた測定試料(ひずみ材、ひずみ研磨材、無ひずみ材)の結晶方位分布図である。
【図7】ひずみ材に於ける局所方位差の分布図である。
【図8】領域平均法を適用したひずみ研磨材及び無ひずみ材の局所方位差の分布図である。
【図9】試験片表面の荷重方向に垂直な線に沿った局所方位差を示すグラフである。
【図10】局所方位差と塑性ひずみ(すべり線)の関係を模式的に示した説明図である。
【図11】ひずみ材の局所方位差の度数分布を示すグラフである。
【図12】局所方位差平均Maveと領域平均法に於ける平均化範囲RAとの関係を示すグラフである。
【図13】転位によって発生した方位差、方位測定誤差、バックグラウンド誤差とRAの関係を模式的に示した図である。
【図14】ひずみ研磨材でのRAによる局所方位差分布の変化を示すグラフである。
【図15】RAを10とした場合のひずみ研磨材の局所方位差分布を示す図である。
【符号の説明】
【0051】
1は供試試料準備工程、2はひずみ分布の同定工程、3は結晶方位測定工程、4は結晶方位の測定データ処理工程、5は測定データ処理工程で算出した局所方位差とひずみ分布同定工程で同定したひずみ分布との対応調査工程。
【技術分野】
【0001】
本発明は、所謂電子後方散乱回折による結晶方位差分布の測定から金属材料に於ける塑性ひずみの局所分布を測定する方法に関するものであり、材料の表面観察で得られた結晶方位の分布から先ず複数の結晶方位の平均値を求め、この平均値から結晶回転量(方位差)を算出することにより、金属材料の結晶方位の測定誤差の影響を低減させ、これによって結晶方位の局所分布をより明確に同定できるようにし、更に金属材料の塑性ひずみの局所分布を測定する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、原子力発電所や各種のプラント、橋梁、構造物等を構成する多くの金属製構造材には、溶接時や成形加工時等に所謂塑性ひずみが加えられており、この塑性ひずみが構造材の応力腐食割れに大きな影響を与えるものであることが知られている。
そのため、塑性ひずみの程度と応力腐食割れの進展速度等との関係を解明することは、原子力発電プラント等の安全性を確保する上で不可欠な事項となっており、その中でも、特に塑性ひずみの局所分布を簡単且つ正確に同定できるようにした技術は、早急な確立が要望されている。
【0003】
一般に、多結晶体では金属材料の変形特性の異方性や結晶粒界により、巨視的には均一に変形した場合でも、微視組織レベルでの塑性ひずみの分布は一様でなく、結晶粒界や粒界3重点等に塑性ひずみの分布が集中する傾向を示す。そのため、塑性ひずみの応力腐食割れに及ぼす影響等について検討をする場合には、応力腐食割れの加速要因となっている塑性ひずみの局所的な分布を同定することが必要となる。
【0004】
而して、金属材料の塑性ひずみを測定する方法としては、電子後方散乱回折(Electron Backscatter Diffraction、以下、EBSDと呼ぶ)を用いて得られた結晶方位データを定量化し、多結晶材料のマクロな塑性ひずみを同定するようにした方法が知られている(例えば、非特許文献1及び非特許文献2等参照)。
【0005】
前記EBSDは、走査型電子顕微鏡に於ける電子線回折の一種で、回折パターンから試料表面付近の結晶方位や結晶構造を同定することができる。
従って、塑性ひずみにより発生した材料内部の結晶粒の局所的な方位変化(方位差)を前記EBSDによって測定することで、その部分に於ける変形の程度、即ち塑性ひずみの局所分布を知ることができる。
【0006】
上記EBSDを用いることによって得られる方位差の局所分布(局所方位差)は、金属材料内の局所的な変形を評価するための有用なパラメータであることが指摘されているが、局所方位差の定量的な評価には幾つかの問題が存在する。
【0007】
例えば、塑性ひずみの局所分布と局所方位差との対応関係が明確でないことが、問題点の一つとして挙げられる。何故なら、単位長さ当りの変形量である塑性ひずみと、転位によって生じる局所方位差とが一致する必然性は、認められないからである。
又、EBSD測定に於ける結晶方位の同定誤差も定量的な評価を困難にしている。何故なら、金属材料の局所的な結晶方位差は微少であり、EBSDの分解能と言われる1°を下回る場合が多いからである。一般に、EBSDで同定される方位差の誤差は、0.5°〜1°程度と言われており、微少な方位差を測定する場合は誤差の影響が無視できなくなる。特に、局所方位差は、結晶方位測定点間の距離(以下、ステップサイズと云う)に依存することから、測定の空間分解能を上げるほど誤差の影響が大きくなることになる。
【0008】
【非特許文献1】日本機械学会論文集A、71、1722(2005).
【非特許文献2】Nuclear Engineering and Design,235,713(2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従前のEBSDを用いた金属材料の塑性ひずみの局所分布の測定方法に於ける上述の如き問題、即ち、測定により得られた結晶方位には多くの誤差が含まれ、塑性ひずみの局所分布の定量化を困難にしていると云う問題を解決せんとするものであり、金属材料の表面観察により得られた結晶分布から結晶方位差の局所分布を算出するに際して、複数の結晶方位の平均を算出することで方位測定誤差の影響を低減させ、これによって塑性ひずみにより発生する結晶方位差の局所分布をより正確に同定できるようにした結晶方位の方位差分布の測定方法と、これを用いた塑性ひずみの局所分布の測定方法を提供することを発明の主目的とするものである。
より具体的には、2つの結晶方位の方位差を算出する場合、方位差が小さくなると結晶方位の測定誤差の影響が大きくなる。結晶方位差の局所分布を評価するためには、局所的な方位差分布を評価することが必要となり、そのときに空間的な分解能を向上させる程、評価する方位差が小さくなり、誤差が大きくなると云う問題がある。そのため、結晶方位の測定誤差を少なくすると共に、この結晶方位を用いて算出される結晶方位差の誤差を少なくすることにより、結晶方位差の局所分布観察の空間分解能を向上させることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者等は、EBSDによる金属材料の塑性ひずみの局所分布の定量化について、永年に亘って様々な研究並びに実験を積み重ねて来た結果、EBSDによる結晶方位の測定誤差がなくなれば、その結晶方位を用いて算出される結晶方位差の誤差もなくなり、これによって局所方位差の局所分布観察の空間分解能を高め得ることに着目し、複数の結晶方位の測定値の平均を使用することで、結晶方位の測定誤差の影響を低減させることを着想し、当該着想に基づいて多数の実験研究を実施した。
【0011】
本発明は、上述の如き着想とこれに基づく試験研究の結果から創作されたものであり、本発明の請求項1の発明は、電子後方散乱回折を用いて金属材料の表面観察を行い、当該表面観察により得られた結晶方位の分布から結晶方位差の局所分布を測定する方法に於いて、先ず、金属材料表面の測定領域全体をRA×RA個のピクセルで構成される複数の格子状のサブ領域に分割して各ピクセルで電子後方散乱回折により結晶方位を測定すると共に、サブ領域毎に結晶方位測定値の平均値を算出し、次に、サブ領域毎に算出される平均化された結晶方位から局所方位差を算出するようにしたことを発明の基本構成とするものである。
【0012】
本発明の請求項2の発明は、請求項1の発明に於いて、一つのサブ領域を構成するRA×RA個のピクセルの前記RAをRA=5とするようにしたことに特徴がある。
【0013】
本発明の請求項3の発明は、請求項1の発明に於いて、局所方位差の算出式を次の(1)式とするようにしたものである。
【数2】
ここで、β(i,k)は、点iとkの方位差、点pi は図4に示す点p0 を中心にして隣接する四つのデータ点を示すものである。
【0014】
本発明の請求項4の発明は、請求項1の発明に於いて、金属材料を結晶粒を粗大化した純銅とするようにしたものである。
【0015】
本発明の請求項5の発明は、ひずみ応力を印加した金属材料の表面状態の変化から画像解析によって予めひずみ量を同定しておき、当該同定したひずみ量と算出した局所方位差との対応を調査するようにしたことに特徴がある。
【発明の効果】
【0016】
本発明の方法に於いては、引張試験中の金属材料の表面状態の変化から画像解析により局所的なひずみ量を同定し、次に、金属材料表面の測定領域全体を格子状のサブ領域に分割して各ピクセルで電子後方散乱回折により結晶方位を測定すると共に、サブ領域毎に結晶方位測定値の平均値を算出し、更に、サブ領域毎に算出される平均化された結晶方位から局所方位差を算出するようにしている。
【0017】
その結果、本発明の方法に於いては、電子後方散乱回折により測定された結晶方位の測定誤差の影響が少なくなると共に、その測定誤差の影響を少なくした結晶方位を用いて算出された結晶方位差も誤差のより少ないものとなり、塑性ひずみの局所分布を精度よく測定することができる。又、塑性ひずみと局所方位差との対応関係をより明確にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は本発明の方法を実施するための工程を示す説明図であり、図1に於いて、1は供試試料準備工程、2はひずみ分布の同定工程、3は結晶方位測定工程、4は結晶方位の測定データ処理工程、5は算出した局所方位差と工程2で同定したひずみ分布との対応調査工程である。
【0019】
前記供試試料準備工程1では、ひずみの不均一分布の観察が容易な結晶粒を粗大化した純銅が試料として用いられている。即ち、先ず、加工と熱処理により結晶粒を粗大化した純銅をゲージ長さ10mm、断面1.5mm×3mmの平板試験片に加工し、当該平板試験片の表面をコロイダルシリカによる鏡面仕上げ研磨を行った後、当該表面の組織観察を行うために50%硝酸メタノール溶液で腐食させて供試試料を作成した。
尚、平板試験片を形成する純銅の平均的な結晶粒径は、おおよそ300μmである。
【0020】
次に、ひずみ分布の同定工程2に於いては、引張試験中の試験片の表面状態の変化から画像解析により局所的な変形量、つまりひずみ量を同定する。
先ず、CCDカメラを装備した光学顕微鏡上の小型試験装置により平板試験片の引張試験を実施した。この引張試験に於いては、平板試験片に毎分0.1mmのクロスヘッド移動速度で公称塑性ひずみが3.2%になるまで変形を加えた。この公称塑性ひずみは、平板試験片の表面に形成したビッカース圧痕間距離の変化から算出した。
又、変形中の平板試験片の表面の様子は、CCDカメラによりデジタル画像として保存し、後述するイメージ相関法によるひずみ分布の同定に用いた。
【0021】
図2は引張試験前後の平板試験片の表面の光学顕微鏡写真を示し、(a)は引張試験前の平板試験片表面の光学顕微鏡写真、(b)は引張試験後の平板試験片表面の光学顕微鏡写真である。図2からも明らかなように、引張試験により平板試験片に塑性ひずみを付与することによって、平板試験片の表面にすべり線が発生していることが判る。
尚、すべり線の間隔、角度等は、結晶粒によって異なり、又、同一結晶粒内に於いても場所によって現れ方が異なる場合がある。特に、結晶粒界近傍に於いてすべり線が消滅している部分が多く見られる。
【0022】
そして、CCDカメラで取得した平板試験片の表面のデジタル画像から、LaVison社製の画像処理ソフトウエアを用いてイメージ相関法(変形後の画像から変形前の画像とよく似たパターンの場所を見つける方法)によりひずみ分布の同定を行う。
LaVison社製の画像処理ソフトウエアでは、変形前後の画像で認識される輝度値分布の変化から、任意の位置の変形量と方向を同定する。具体的には、画像中のある領域を設定し、その変形後の画像から最も良い相関を示す領域を探すことで、その領域の変位を求める。試行錯誤の結果、24ピクセル角の領域を設定することで、良好なひずみ分布を得ることができた。
【0023】
図3はイメージ相関法によって同定された平板試験片の表面の荷重方向のひずみ分布を示す図ある。平板試験片の巨視的な塑性ひずみは3.2%であることから、図3に於けるひずみは塑性ひずみと略等しい。図3を参照して、ひずみは、局所的には9%を超える部分が見られる等不均一な分布をしている。ひずみの相対的に小さい図中の破線部は、図2の(b)ではすべり線が不明瞭な部分となっている。逆に、ひずみの大きい部分では明瞭なすべり線が観察できる。
【0024】
次に、結晶方位測定工程3に於いては、EBSDを用いた装置によって平板試験片の結晶方位を測定した。
先ず、結晶方位の測定は、電界放射型電子銃を装備した走査型電子顕微鏡(ELIONIX ERA−8900FE)に設置されたEBSD装置(TSL社製)を用いて行い、加速電圧25kVの条件で、平板試験片の表面をステップサイズ1.5μmで測定した。
尚、測定試料である平板試験片は、引張試験後の状態(以後、ひずみ材と呼ぶ)、平板試験片の表面のすべり線等を研磨で除去した状態(以後、ひずみ研磨材と呼ぶ)、塑性ひずみを付与していない試料(以後、無ひずみ材と呼ぶ)の3種類を準備し、夫々の平板試験片について結晶方位を測定した。
【0025】
そして、測定された結晶方位のデータは、結晶方位の測定データ処理工程4に於いて処理される。
即ち、結晶方位の測定データ処理工程4に於いては、前記EBSD装置によって測定された結晶方位のデータを、本願発明者が開発した処理ソフトウエアを用いて処理し、結晶方位分布図及び局所方位差分布図の作成を行う。
【0026】
本発明では、局所方位差を次式(1)によって算出した。
【数3】
ここで、β(i,k)は、点iとkの方位差を表す。点pi は図4に示すように点p0 を中心に隣接する四つのデータ点を示す。但し、β(p0 ,pi )≧5°の場合はp0 とpi の間に粒界が存在すると定義し、局所方位差の計算から除外した。
【0027】
ところで、一般に、EBSDで同定される方位差は、0.5°〜1°程度の誤差を含むことから、詳細な方位差分布を得るには誤差の影響を排除する必要がある。
そこで、本発明では、結晶方位の同定精度を向上させるため、以下に示すデータ処理法を開発・適用した。方位差は絶対値として算出されることから、誤差に対して実際の方位差が小さい場合、方位差の平均は必ずしも誤差の減少に寄与しない。方位差の誤差は、その算出に用いる結晶方位測定値の誤差に起因し、その誤差はEBSD測定や結晶方位同定時に生じる。
【0028】
そこで、本願発明者は、結晶方位測定値を平均化処理することで、方位差同定精度の向上を試みた。図5に手法の概念図を示す。
先ず、測定範囲全体をRA×RA個のピクセルで構成されるサブ領域に分割する。ここで、RAは平均化の範囲を示す(図5ではRA=5としている)。
そして、サブ領域毎に、結晶方位測定値の平均値を算出する。結晶方位の自由度は3で、更に立方晶の場合には等価な24通りの角度変数の組み合わせが存在することから、結晶方位の平均値算出には工夫を要する。
【0029】
本発明では、4元数による平均値計算と、最小ノルム法による等価角度変数の同定を行うことで方位平均を算出した。サブ領域内に結晶粒界が存在する場合は、数の多い側の結晶粒の平均方位を算出する。このように複数の結晶方位測定結果の平均を用いることで、結晶方位測定時に発生する誤差を平均化し、方位差同定の精度を向上させることができる(以後、この方法を領域平均法と呼ぶ)。この領域平均法を適用することによって、方位差分布のステップサイズはRA倍される。
【0030】
図6は上述した領域平均法によって得られた測定試料(ひずみ材、ひずみ研磨材、無ひずみ材)の結晶方位分布図を示し、(a)はひずみ材の結晶方位分布図、(b)はひずみ研磨材の結晶方位分布図、(c)は無ひずみ材の結晶方位分布図である。結晶方位は、測定面に対して垂直な方向から観察したものを示している。又、方位差5°以上の結晶粒界を実線で示している。
【0031】
ところで、測定データの中には、試料材料等によりEBSDパターンが不鮮明で、同定された方位の信頼性の低いデータも含まれる。そのような測定方位は、周囲と大きく異なることになる。
そこで、本発明では、結晶粒を構成する測定点が10個以下の場合は、そこに含まれる測定点のデータはブランク点と定義し、以後実施する計算(局所方位差の算出)には使用しないこととした。
【0032】
図6を参照して、ひずみ材では、すべり線等によって表面状態が変化しているため、ブランク点となった小さい結晶粒が多く見られる。又、ひずみ研磨材に於いては、研磨作業中に発生した傷によると思われる箇所でブランク点が多くなった。研磨によって結晶粒の形状が若干変化しているが、ひずみ材とひずみ研磨材は略同じ領域を観察している。塑性ひずみを加えた材料では、結晶方位が局所的に変化していることが判る。又、無ひずみ材の場合にも、研磨傷によると思われる方位差が帯状に発生している。
【0033】
図7はひずみ材に於ける局所方位差の分布図であり、(a)は領域平均法を適用しない場合の局所方位差分布図、(b)は5×5個のサブ領域分割による領域平均法を適用した場合の局所方位差分布図である。
図7からも明らかなように、測定データから直接に局所方位差を算出した場合、方位差が大きい色の濃い部分が無数に点在しており、分布の特徴を見出すことは難しい(図7(a)参照)。
これに対して、局所方位差の算出に領域平均法を適用することで、局所方位差が不均一に分布している様子を明瞭に観察することができる(図7(b)参照)。
【0034】
図8は領域平均法を適用したひずみ研磨材及び無ひずみ材の局所方位差の分布図であり、(a)はひずみ研磨材の局所方位差分布図、(b)は無ひずみ材の局所方位差分布図である。
図8からも明らかなように、ひずみ研磨材では、表面を研磨することで、全体的に方位差が減少し、粒界近傍での不均一な分布がより鮮明になるが、研磨傷の影響も無視できない。又、無ひずみ材でも、図5で観察された研磨傷によると思われる方位差が観察される。
本発明では、測定対象となる局所方位差が相対的に小さいため、僅かな研磨傷でもその影響が大きく現れた。
【0035】
図9は試験片表面の荷重方向に垂直な線に沿った局所方位差を示すグラフであり、(a)はひずみ材の局所方位差を示すグラフ、(b)は無ひずみ材の局所方位差を示すグラフである。
図9のグラフからも明らかなように、領域平均法を適用しない場合(RA1の場合)は、方位差がランダムに変化している。このランダムな方位差は、実際に発生している方位差ではなく、結晶方位測定誤差によって生じていると考えられる。
これに対して、領域平均法を適用した場合(RA5の場合)は、誤差による方位差の変化を減少させることができる。尚、無ひずみ材であっても、0.2°程度の方位差が存在する。
【0036】
次に、塑性ひずみと局所方位差の関係、領域平均法よる誤差低減効果及びステップサイズの影響について述べる。
【0037】
[塑性ひずみと局所方位差の関係]
図7(b)の破線で囲んだ部分の局所方位差の大きい部分と、図3に示した塑性ひずみの相対的に大きい部分は概ね一致している。
しかし、詳細に見ると、局所方位差は、粒界部分で最大値を示しているのに対し、ひずみは粒界ではなくその近傍で大きくなっている。図7(b)の破線部分と図2(b)のすべり線を比較すると、当該部分ではすべり線が粒界近傍で消滅していることが判る。
【0038】
図10は局所方位差と塑性ひずみ(すべり線)の関係を模式的に示した図である。
図10を参照して、結晶粒がすべり方向にせん断力を受けると、結晶粒は転位の移動を伴い変形する。転位が完全に結晶粒を抜けた場合は、結晶粒は変形するが局所方位差は発生しない。又、表面にすべり線が出現する。
それに対して、結晶粒界等で転位の動きが止まり、転位が蓄積する場合は、方位差が発生する。多結晶体の変形では、夫々の結晶粒が不均一に変形し、更に粒界での幾何学的な連続性を保つために結晶粒内部に於いても局所的に変形する。
そして、局所的な変形を実現するために、図10に示すような所謂GN転位(Geometrically Necessary Dislocations)が発生することになる。転位の蓄積され易い粒界近傍では見かけ上の変形は少ないのですべり線も少ない。
【0039】
以上のことから、EBSDで測定される局所方位差は、見かけ上の変形量よりむしろ転位の蓄積との相関が大きい。変形の大きな箇所では、発生する転位も多くなることから、大局的には局所方位差は塑性ひずみの大きい箇所の近傍で大きくなる。
塑性ひずみの応力腐食割れに及ぼす影響としては、見かけ上の変形量よりも転位発生等の材料内部の変化が本質的である。
従って、転位密度と相関のある局所方位差は、応力腐食割れ(SCC)の機構を考察する上で有効なパラメータとなると考えられる。
【0040】
[領域平均法による誤差低減効果]
図11はひずみ材の局所方位差の度数分布を示すグラフである。図11のグラフを参照して、分布が対数正規分布で近似できることが判る。尚、図は省略するが、ひずみ研磨材と無ひずみ材の局所方位差の度数分布も同様であった。
そこで、測定領域全体の局所方位差の対数平均を局所方位差平均(Mave)として以下の数式(2)ように定義した
【数4】
ここで、Nはデータ数を示す。このMaveと領域平均法に於ける平均化範囲RAとの関係を図12に示す。
【0041】
図12のグラフからも明らかなように、無ひずみ材では、RAの増加に伴い局所方位差平均Maveが減少していることが判る。これは、図9(b)に示したように領域平均法による方位測定誤差の低減により方位差の誤差が減少したことに対応している。しかし、その減少はおおよそRA=5で飽和している。例え、無ひずみ材であっても、結晶方位は全く同一である訳ではない。又、方位差算出精度向上にも限界があることから、RAを大きくしても方位差が零とはならない。
本発明では、RAを大きくしても残る方位差をバックグラウンド誤差と呼ぶ。無ひずみ材のバックグラウンド誤差は局所方位差平均Maveではおおよそ0.27°であるが、図9(b)からは局所的には0.2°程度と推測される。
【0042】
一方、ひずみ材及びひずみ研磨材については、図12に示すようにRA<4では、無ひずみ材と同様にRAの増加に伴い局所方位差平均Maveは減少するが、RA≧4では局所方位差平均Maveが増加する傾向を示した。これは、RAの増加に伴いステップサイズも大きくなることから、転位によって発生した方位差が大きくなったためと考えられる。又、単位長さ当りの方位差の変化が一定であった場合、理想的には局所方位差はステップサイズに比例して増加することに対応している。
更に、ひずみ材の局所方位差平均Maveは試料状態の問題により、ひずみ研磨材の値より大きくなっている。そして、二つの試料の偏差は、領域平均法によって解消されないバックグラウンド誤差となっている。これは、領域平均法が方位測定誤差を低減するのに対して、ひずみ材の表面状態は測定される方位そのものに影響を及ぼしているためと考えられる。
【0043】
図13は転位によって発生した方位差、方位測定誤差、バックグラウンド誤差とRAの関係を模式的に示した図である。図13を参照して、方位測定誤差は、RAにより小さくできるが、バックグラウンド誤差は領域平均法によって解決できないため、RAに依存せずに存在することになる。図12の局所方位差平均Maveの変化は、これらの因子が重畳した結果である。
【0044】
[ステップサイズの影響]
図14はひずみ研磨材でのRAによる局所方位差分布の変化を示すグラフである。図8(a)に示すようにひずみ研磨材の当該部分での局所方位差はx=0.25W付近で大きくなっている。そして、その部分の局所方位差はRAの増加に伴って大きくなっていることが判る。RA=5に対してRA=10では局所方位差は略2倍となっており、局所方位差がRAに比例する傾向が見られる。ここでRAを大きくすることは、ステップサイズを大きくすることに対応している。
一方、局所方位差が0.2°付近で変化しているようなバックグラウンド誤差が支配的と考えられる部分ではRAの依存性が小さい。
【0045】
図15はRA=10とした場合のひずみ研磨材の局所方位差分布を示す図であるが、図8(a)と比較して局所方位差が粒界近傍に集中している様子が明確となり、図8(a)で見られた研磨傷の影響が相対的に小さくなっている。
このように、ステップサイズを大きくすることで、バックグラウンド誤差を相対的に小さくでき、転位に起因する局所方位差の分布のコントラストを大きくすることができる。
【0046】
本発明では、局所方位差と局所的な塑性ひずみ分布との対応を調べるために、引張試験中に於ける試験片表面画像の変化を元に、イメージ相関法を用いてひずみの分布を同定した。そして、算出した局所方位差と画像解析により同定したひずみ分布との対応、検討等を通して局所方位差の同定精度を向上させるために領域平均法を開発し、その適用条件について検討した結果、以下の結論を得ることができた。
(1)領域平均法を適用することによって局所方位差の分布を明瞭に観察できる。
(2)局所方位差は、材料表面での変位量(塑性ひずみ)より、変形により発生した転位の密度との相関が大きい。
(3)局所方位差は、塑性ひずみの大きい箇所の近傍の結晶粒界で大きくなる傾向を示す。
(4)領域平均法に於ける平均化範囲(RA)をRA≧5とすることで、方位測定誤差を十分小さくできる。
(5)領域平均法を適用した場合でも、0.2°程度のバックグラウンド誤差が存在する。ステップサイズを大きくすることで、バックグラウンド誤差の影響は小さくできる。
【0047】
上記説明及び実施結果からも明らかなように、本発明に於いては、電子後方散乱回折により測定された結晶方位の測定誤差がなくなると共に、その結晶方位を用いて算出される結晶方位差の誤差もなくなる。その結果、結晶方位差の分布が正確に測定できることになり、塑性ひずみの局所分布等も精度よく測定することができる。又、塑性ひずみと局所方位差との対応関係を明確にすることができる。
【0048】
更に、本発明に於いては、本発明で用いた結晶方位測定装置の測定結果処理プロセスに、本発明の平均方位差算出機能、平均方位差に基づく結晶方位差算出機能を追加することで、塑性ひずみの局所分布評価装置を容易に構成することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、発電プラントや各種の生産プラント、道路構造物、橋梁構造物等の全ての分野に於ける結晶方位差の分布の測定に適用でき、塑性ひずみの局所分布の高精度な測定を可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の方法を実施するための工程を示す説明図である。
【図2】引張試験前後の平板試験片表面の光学顕微鏡写真である。
【図3】イメージ相関法によって同定された平板試験片表面の荷重方向のひずみ分布を示す図である。
【図4】局所方位差の定義を示す説明図である。
【図5】領域平均法の手法を示す概略図である。
【図6】領域平均法によって得られた測定試料(ひずみ材、ひずみ研磨材、無ひずみ材)の結晶方位分布図である。
【図7】ひずみ材に於ける局所方位差の分布図である。
【図8】領域平均法を適用したひずみ研磨材及び無ひずみ材の局所方位差の分布図である。
【図9】試験片表面の荷重方向に垂直な線に沿った局所方位差を示すグラフである。
【図10】局所方位差と塑性ひずみ(すべり線)の関係を模式的に示した説明図である。
【図11】ひずみ材の局所方位差の度数分布を示すグラフである。
【図12】局所方位差平均Maveと領域平均法に於ける平均化範囲RAとの関係を示すグラフである。
【図13】転位によって発生した方位差、方位測定誤差、バックグラウンド誤差とRAの関係を模式的に示した図である。
【図14】ひずみ研磨材でのRAによる局所方位差分布の変化を示すグラフである。
【図15】RAを10とした場合のひずみ研磨材の局所方位差分布を示す図である。
【符号の説明】
【0051】
1は供試試料準備工程、2はひずみ分布の同定工程、3は結晶方位測定工程、4は結晶方位の測定データ処理工程、5は測定データ処理工程で算出した局所方位差とひずみ分布同定工程で同定したひずみ分布との対応調査工程。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子後方散乱回折を用いて金属材料の表面観察を行い、当該表面観察により得られた結晶方位の分布から結晶方位差の局所分布を測定する方法に於いて、先ず、金属材料表面の測定領域全体をRA×RA個のピクセルで構成される複数の格子状のサブ領域に分割して各ピクセルで電子後方散乱回折により結晶方位を測定すると共に、サブ領域毎に結晶方位測定値の平均値を算出し、次に、サブ領域毎に算出される平均化された結晶方位から局所方位差を算出するようにしたことを特徴とする結晶方位の方位差分布の測定方法。
【請求項2】
一つのサブ領域を構成するRA×RA個のピクセルの前記RAをRA=5とするようにした請求項1に記載の結晶方位の方位差分布の測定方法。
【請求項3】
局所方位差の算出式を次の(1)式とするようにした請求項1に記載の結晶方位の方位差分布の測定方法。
【数1】
ここで、β(i,k)は、点iとkの方位差、点pi は図4に示す点p0 を中心にして隣接する四つのデータ点を示すものである。
【請求項4】
金属材料を、結晶粒を粗大化した純銅としたことを特徴とする請求項1に記載の結晶方位の方位差分布の測定方法。
【請求項5】
ひずみ応力を印加した金属材料の表面状態の変化から画像解析によって予めひずみ量を同定しておき、当該同定したひずみ量と算出した局所方位差との対応を調査するようにした塑性ひずみの局所分布の測定方法。
【請求項1】
電子後方散乱回折を用いて金属材料の表面観察を行い、当該表面観察により得られた結晶方位の分布から結晶方位差の局所分布を測定する方法に於いて、先ず、金属材料表面の測定領域全体をRA×RA個のピクセルで構成される複数の格子状のサブ領域に分割して各ピクセルで電子後方散乱回折により結晶方位を測定すると共に、サブ領域毎に結晶方位測定値の平均値を算出し、次に、サブ領域毎に算出される平均化された結晶方位から局所方位差を算出するようにしたことを特徴とする結晶方位の方位差分布の測定方法。
【請求項2】
一つのサブ領域を構成するRA×RA個のピクセルの前記RAをRA=5とするようにした請求項1に記載の結晶方位の方位差分布の測定方法。
【請求項3】
局所方位差の算出式を次の(1)式とするようにした請求項1に記載の結晶方位の方位差分布の測定方法。
【数1】
ここで、β(i,k)は、点iとkの方位差、点pi は図4に示す点p0 を中心にして隣接する四つのデータ点を示すものである。
【請求項4】
金属材料を、結晶粒を粗大化した純銅としたことを特徴とする請求項1に記載の結晶方位の方位差分布の測定方法。
【請求項5】
ひずみ応力を印加した金属材料の表面状態の変化から画像解析によって予めひずみ量を同定しておき、当該同定したひずみ量と算出した局所方位差との対応を調査するようにした塑性ひずみの局所分布の測定方法。
【図1】
【図5】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図14】
【図15】
【図5】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2009−52993(P2009−52993A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−219149(P2007−219149)
【出願日】平成19年8月27日(2007.8.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年5月20日に社団法人日本材料学会の第56期学術講演会にて発表
【出願人】(595035131)株式会社原子力安全システム研究所 (10)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年8月27日(2007.8.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年5月20日に社団法人日本材料学会の第56期学術講演会にて発表
【出願人】(595035131)株式会社原子力安全システム研究所 (10)
【Fターム(参考)】
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