説明

結核菌および非結核性抗酸菌検出試薬

【課題】結核菌と非結核性抗酸菌とを一度に判定し、同時に薬剤耐性も判定するための試薬を提供すること。
【解決手段】本発明の結核菌および非結核性抗酸菌を検出するためのキットは、結核菌およびMAC(M. aviumおよびM. intracellulare)およびM. kansasiiの野生型rpoB遺伝子にそれぞれ特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプローブが固定された試験片を含む。さらに、この試験片には、リファンピシン耐性を検出するために、rpoB遺伝子の変異を有する領域に特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプローブも固定され得る。さらに、本発明のキットは、発色用試薬およびrpoB遺伝子増幅用プライマー対も含み得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗酸菌の同定に関し、特に、結核菌と非結核性抗酸菌とを同時に同定するための検出試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
非結核性抗酸菌症は、感染すると発熱、咳、痰、血痰、体重減少などの症状が現れる。非結核性抗酸菌症の症状や画像所見は、結核と似ており、両者の鑑別は困難である。現在のところ、検出された菌を同定することによって診断されている。非結核性抗酸菌は、結核と違って、ヒトからヒトへと感染せず、毒力も比較的弱い。しかし、発症するとその多くは治療が難しく、慢性的に経過しながら少しずつ肺を蝕んでいくのが特徴である。
【0003】
非結核性抗酸菌症の代表的な原因菌としては、M. avium complex(MAC)およびM. kansasiiがある。MACは、M. aviumとM. intracellulareとを一括した名称である。従来は生化学的性状で区別できなかったが、近年、遺伝子検査により分類が可能となった。これらは、ほとんどの抗結核薬に感受性がなく、難治性の感染症と考えられている。クラリスロマイシン(CAM)に、抗結核薬であるエタンブトール(EB)とリファンピシン(RFP)とストレプトマイシン(SM)とを併用する治療が行われている。一方、M. kansasiiは、多くの薬剤に感受性を示し、リファンピシン(RFP)を中心に抗結核薬を使用した治療が行われ、良好な結果が報告されている。したがって、結核菌と非結核性抗酸菌との鑑別だけでなく、菌種としてM. kansasiiを同定することは、治療方針の決定ならびに予後の予測に重要である。
【0004】
ところで、抗酸菌は、M. tuberculosis(結核菌)に代表される結核菌群(4種類)と非結核性抗酸菌(約100種類)とに大別され、いずれも塗抹検査(抗酸菌染色)で赤く染まる。喀痰検査に供された試料において、抗酸菌のうち70〜50%が結核菌であり、30〜50%が非結核性抗酸菌である。非結核性抗酸菌のうち、MACは70〜80%およびM. kansasiiは約20%であり、これらが大部分を占める。したがって、喀痰検査で結核菌、MAC、およびM. kansasiiを鑑別できることが望まれる。
【0005】
従来の喀痰検査においては、喀痰を前処理し、ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社のアンプリコア(登録商標)マイコバクテリウムを用いて、まず結核菌であるかどうかを同定し、結核菌陰性の場合には、さらにM. aviumおよびM. intracellulare(MAC)について同定している。結核菌陰性の場合にのみMAC検出の保点請求が可能であるからであり、結核菌群の検出をした後にMACの検出を行っている。あるいは、ジェノスカラー・Rif TB(ニプロ株式会社)を用いて、リファンピシン(RFP)への感受性に着目してrpoB遺伝子の変異を検出することにより結核菌およびRFP感受性を同時に検査される。この場合も、結核菌陰性の場合には、喀痰に別の前処理をした後、上記のアンプリコア(登録商標)マイコバクテリウムを用いてMACを検出する。このように、いずれの検査においても2度の検査が必要であるが、M. kansasiiを同定することはできない。
【0006】
抗酸菌の同定については種々の研究が行われており、rpoB遺伝子の解析と16SrRNA解析とを組み合わせて、97.4%の抗酸菌を同定したことが報告されている(非特許文献1)。しかし、喀痰検査において、これらの検査を行うことは実用的ではない。
【0007】
薬剤耐性菌は、特定遺伝子が変異することにより薬剤耐性を獲得することが報告されている。そのため、特定遺伝子の変異を検出することによる薬剤耐性菌の検出法が開発されている。例えば、結核治療用薬剤に感受性である野生型結核菌およびいずれかの薬剤に耐性を有する変異型結核菌における結核菌ゲノム上の結核治療用薬剤耐性関連遺伝子の塩基配列に基づいて合成されたオリゴヌクレオチドを固定化した基板を含む結核菌診断キットが開示されている(特許文献1)。現在開発されているDNAマイクロアレイキット「Oligo Array」(日清紡績株式会社)は、イソニアジド(INH)、リファンピシン(RFP)、ストレプトマイシン(SM)、カナマイシン(KM)、およびエタンブトール(EB)の5薬剤に対する耐性に関与する遺伝子変異を検出し得るキットである。しかし、このキットでは、非結核性抗酸菌の同定はできない。
【特許文献1】特開2001−103981号公報
【非特許文献1】鹿住祐子ら、結核,2006年,81巻,9号,551-558頁
【非特許文献2】Siddiqiら、Antimicrob. Agents Chemother., 46巻, p.443-450 (2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、結核菌と非結核性抗酸菌とを一度に判定し、同時に薬剤耐性も判定するための試薬を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、結核菌および非結核性抗酸菌を検出するための試験片を提供し、該試験片には、少なくとも4つのプローブが固定されており、
該プローブのうちの少なくとも1つのプローブが、結核菌のrpoB遺伝子の野生型塩基配列からなる任意の領域とハイブリダイズし得るが、非結核性抗酸菌の該rpoB遺伝子の野生型塩基配列からなる任意の領域とハイブリダイズし得ないオリゴヌクレオチドからなり、
該プローブのうちの少なくとも1つのプローブが、非結核性抗酸菌M. aviumのrpoB遺伝子の野生型塩基配列からなる任意の領域とハイブリダイズし得るが、結核菌および他の非結核性抗酸菌の該rpoB遺伝子の野生型塩基配列からなる任意の領域とハイブリダイズし得ないオリゴヌクレオチドからなり、
該プローブのうちの少なくとも1つのプローブが、非結核性抗酸菌M. intracellulareのrpoB遺伝子の野生型塩基配列からなる任意の領域とハイブリダイズし得るが、結核菌および他の非結核性抗酸菌の該rpoB遺伝子の野生型塩基配列からなる任意の領域とハイブリダイズし得ないオリゴヌクレオチドからなり、そして
該プローブのうちの少なくとも1つのプローブが、非結核性抗酸菌M. kansasiiのrpoB遺伝子の野生型塩基配列からなる任意の領域とハイブリダイズし得るが、結核菌および他の非結核性抗酸菌の該rpoB遺伝子の野生型塩基配列からなる任意の領域とハイブリダイズし得ないオリゴヌクレオチドからなり、
該プローブは、それぞれ該試験片の異なる位置に固定されている。
【0010】
ある実施態様では、さらに、上記少なくとも4つのプローブとは異なるプローブであって、上記結核菌のrpoB遺伝子の野生型塩基配列の任意の領域とハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチドからなる少なくとも1つのプローブが、上記試験片の異なる位置に固定されている。
【0011】
ある実施態様では、さらに、上記結核菌のrpoB遺伝子のリファンピシン耐性変異を有する塩基配列の任意の領域とハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチドからなる少なくとも1つのプローブが、上記試験片の異なる位置に固定されている。
【0012】
1つの実施態様では、上記結核菌のrpoB遺伝子の野生型塩基配列からなる任意の領域とハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチドは、配列表の配列番号1に記載の塩基配列またはその相補配列である。
【0013】
1つの実施態様では、上記非結核性抗酸菌M. aviumのrpoB遺伝子の野生型塩基配列からなる任意の領域とハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチドは、配列表の配列番号2に記載の塩基配列またはその相補配列である。
【0014】
1つの実施態様では、上記非結核性抗酸菌M. intracellulareのrpoB遺伝子の野生型塩基配列からなる任意の領域とハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチドは、配列表の配列番号3に記載の塩基配列またはその相補配列である。
【0015】
1つの実施態様では、上記非結核性抗酸菌M. kansasiiのrpoB遺伝子の野生型塩基配列からなる任意の領域とハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチドは、配列表の配列番号4に記載の塩基配列またはその相補配列である。
【0016】
1つの実施態様では、上記少なくとも4つのプローブとは異なるプローブにおいて、上記結核菌のrpoB遺伝子の野生型塩基配列の任意の領域とハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチドは、配列表の配列番号5、6、7、8、および9からなる群より選択される塩基配列またはその相補配列である。
【0017】
1つの実施態様では、上記結核菌のrpoB遺伝子のリファンピシン耐性変異を有する塩基配列の任意の領域とハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチドは、配列表の配列番号10、11、12、および13からなる群より選択される塩基配列またはその相補配列である。
【0018】
本発明はまた、上記のいずれかの試験片を含む、結核菌および非結核性抗酸菌の検出用キットを提供する。
【0019】
1つの実施態様では、上記キットは、さらに、発色用試薬およびrpoB遺伝子増幅用プライマー対を含む。
【0020】
ある実施態様では、上記rpoB遺伝子増幅用プライマー対は、配列表の配列番号14、16、17および19からなる群より選択されるフォワードプライマーと、配列表の配列番号15、18および20からなる群より選択されるリバースプライマーである。
【0021】
本発明はさらに、結核菌および非結核性抗酸菌を検出する方法を提供し、該方法は、
試料中の結核菌および非結核性抗酸菌のrpoB遺伝子を抽出する工程、
該抽出したrpoB遺伝子を上記のいずれかの試験片と接触させて、該試験片に固定されたプローブに結合させる工程、および
該プローブに結合したrpoB遺伝子を発色させる工程
を含む。
【0022】
1つの実施態様では、上記rpoB遺伝子を抽出する工程は、
配列表の配列番号14および16のフォワードプライマーと配列表の配列番号15のリバースプライマーとを用いてPCRを行う工程、および
得られたPCR増幅産物について、配列表の配列番号17および19のフォワードプライマーと配列表の配列番号18および20のリバースプライマーとを用いてPCRを行う工程、
を含む。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、結核菌と非結核性抗酸菌とを一度に判定することができる。さらに、同時に薬剤感受性(特に、リファンピシン感受性)も判定することもできる。したがって、検査において、簡便に治療方針の決定ならびに予後の予測を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明において、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)のリファンピシン(RFP)感受性遺伝子とは、結核治療用薬剤リファンピシン(RFP)の作用に関連する遺伝子をいう。RFP耐性菌では、この野生型のRFP感受性遺伝子に変異が生じ、RFPの作用に対する薬剤耐性が獲得される。具体的には、変異を持つRFP感受性遺伝子から発現した酵素では、構成するアミノ酸配列において置換、挿入および/または欠落が生じているため、酵素活性の低下や薬剤結合部位の構造変化が生じ、RFPの効果が抑制される。
【0025】
結核菌のRFP耐性は、RNAポリメラーゼβサブユニットをコードするrpoB遺伝子の変異により生じ得る。野生型の結核菌が保有するrpoB遺伝子の塩基配列は、配列表の配列番号21に記載の塩基配列またはその相補的な配列である。配列番号21に記載の塩基配列1位〜3位の塩基GTGはタンパク質合成の開始コドンに該当し、3532位〜3534位は終止コドンに該当する。すなわち、この1〜3534位はRNAポリメラーゼβサブユニットのコード配列であり、RNAポリメラーゼβサブユニットのアミノ酸配列は、配列表の配列番号22に示すとおりである。
【0026】
RFP耐性菌となり得るrpoB遺伝子の変異の位置は、配列表の配列番号21に記載の塩基配列のコード配列中(1位から3534位まで)に存在し得るrpoB遺伝子の変異が挙げられる。RFP耐性を誘導するrpoB遺伝子の変異は既知のものが多数存在しており、これらは、例えば、非特許文献2に開示されている。これらの変異のうち、いずれか1つの変異があれば、RFP耐性結核菌となり得る。
【0027】
結核菌のrpoB遺伝子において、RFP耐性に関与する変異を有する塩基配列があり、かつ非結核性抗酸菌のrpoB遺伝子との相同性が比較的低い領域として、例えば、配列表の配列番号21に記載の塩基配列のコード配列の1322位から1741位までの塩基配列(420塩基:配列表の配列番号23として示す)が挙げられる。この領域に対応する非結核性抗酸菌のrpoB遺伝子の塩基配列は、M. aviumは配列表の配列番号24に、M. intracellulareは配列表の配列番号25に、およびM. kansasiiは配列表の配列番号26にそれぞれ示す。本明細書においては、非結核性抗酸菌については、代表的な原因菌であるM. avium complex(MAC)およびM. kansasiiについて詳細に説明するが、他の非結核性抗酸菌についても、同様に任意の領域を設定できる。
【0028】
rpoB遺伝子上の上記変異を検出する方法としては、Nollauら, Clin. Chem., 43, 1114-1120 (1997)、「突然変異検出のための研究室プロトコル」(Landegren, U.ら, Oxford University Press (1996))、および「PCR」第2版(Newtonら, BIOS Scientific Publishers Limited (1997))などに記載されている通常用いられる手段が適用できる。具体的には、例えば、PCR断片シークエンシング法、一本鎖高次構造多型法(SSCP法:Orita, M.ら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 86(8), 2766-2770 (1989))、ヘテロ二本鎖変性剤濃度勾配ゲル電気泳動法(DGGE法:Sheffield, V. C.ら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 86(1), 232-236 (1989))、インベーダー法(Griffin, T. J.ら, Trend Biotech, 18, 77 (2000))、SniPerTM法(Amersham pharmacia biotech)、タックマンPCR法(Livak, K. J., Genel. Anal., 14, 143 (1999);Morris, T.ら, J. Clin. Microbiol., 34, 2933(1996))、MALDI−TOF/MS法(Griffin, T. J.ら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 96(11), 6301-6 (1999))、制限酵素長多型解析法(RFLP:Murray, J. C.ら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 80(19), 5951-5955 (1983))、DNAチップハイブリダイゼーション法(Kokoris, K.ら, J. Med. Genet., 36, 730 (1999))、MasscodeTM法(Qiagen Genomics)などに例示される公知の方法から選択され得るが、これらに限定されるものではない。遺伝子変異を検出する方法であれば、あらゆる手段を適用することができる。例えば、PCR−配列特異的オリゴプローブ(SSOP:sequence-specific oligonucleotide probes)法を用いることもできる。PCR−SSOP法とは、変異部位を含む約10〜約30塩基の、一方の対立遺伝子配列に完全相補的なプローブを作製し、変異部位を含むDNAをPCR法によりで増幅した後、ハイブリダイゼーションを行い、ハイブリッド形成の有無により遺伝子多型を判別する方法である。
【0029】
(プローブ)
本発明の結核菌および非結核性抗酸菌ならびに必要に応じてRFP感受性を検出するための試験片に用いられるプローブとしては、結核菌および非結核性抗酸菌のそれぞれの野生型のrpoB遺伝子の任意の領域に結合し得るオリゴヌクレオチドプローブ(以下、「野生型プローブ」という場合がある)、ならびに結核菌のrpoB遺伝子の変異を有する領域と結合し得るオリゴヌクレオチドプローブ(以下、「変異プローブ」という場合がある)が挙げられる。各プローブの長さは、結合(ハイブリダイズ)させる時の温度にもよるが、一般的には10〜30ヌクレオチド長、好ましくは12〜26ヌクレオチド長である。
【0030】
本発明においては、結核菌および非結核性抗酸菌の野生型プローブは、互いに他の菌の塩基配列の領域とハイブリダイズしない。例えば、結核菌のrpoB遺伝子の野生型塩基配列からなる任意の領域とハイブリダイズする野生型プローブは、非結核性抗酸菌の該rpoB遺伝子の野生型塩基配列からなる任意の領域とハイブリダイズし得ず;非結核性抗酸菌M. aviumのrpoB遺伝子の野生型塩基配列からなる任意の領域とハイブリダイズする野生型プローブは、結核菌および他の非結核性抗酸菌の該rpoB遺伝子の野生型塩基配列からなる任意の領域とハイブリダイズし得ず;非結核性抗酸菌M. intracellulareのrpoB遺伝子の野生型塩基配列からなる任意の領域とハイブリダイズする野生型プローブは、結核菌および他の非結核性抗酸菌の該rpoB遺伝子の野生型塩基配列からなる任意の領域とハイブリダイズし得ず;そして非結核性抗酸菌M. kansasiiのrpoB遺伝子の野生型塩基配列からなる任意の領域とハイブリダイズする野生型プローブは、結核菌および他の非結核性抗酸菌の該rpoB遺伝子の野生型塩基配列からなる任意の領域とハイブリダイズし得ない。言い換えれば、野生型プローブは、それぞれの菌のrpoB遺伝子に特異的にハイブリダイズする。
【0031】
また、結核菌のrpoB遺伝子の野生型塩基配列からなる任意の領域とハイブリダイズする野生型プローブは複数存在することが好ましい。1つのプローブ以外は、変異プローブの検出との対比を明確にするために、変異プローブと同じ領域またはほぼ重複する領域にハイブリダイズするように設計することが好ましい。
【0032】
本発明において、変異プローブは、RFP耐性変異を有する領域に結合(ハイブリダイズ)可能であり、このような変異を有する領域は、変異以外の塩基の配列は野生型である。この領域が野生型である場合ならびに他の変異を含む場合には、変異プローブはこの領域に結合できない。また、確実に変異を認識するために、変異プローブを構成するオリゴヌクレオチドの中程に変異の位置が存在するように設計することが好ましい。
【0033】
本発明において、野生型プローブは、野生型のrpoB遺伝子の任意の領域と結合し得る。RFP感受性を検出するためには、少なくともRFP耐性菌に関連する上記の変異をもれなく検出することが重要である。そこで、本発明において、好適には、野生型プローブは、変異プローブがハイブリダイズする領域のほぼ全体を網羅するように設計される。例えば、結核菌のrpoB遺伝子については、配列表の配列番号23に記載の塩基配列の205位から281位またはこれに相補的な塩基配列のコード配列のほぼ全体を網羅するように、合計77塩基に結合(ハイブリダイズ)可能なように設計される。
【0034】
例えば、隣接するプローブと約4〜7塩基重なるように配置すれば、その配置する領域の境界位置に変異が存在したとしても、どちらかのプローブが結合することができるので、好ましい。したがって、例えば、合計67塩基を検出するための全プローブ数は、全てのプローブの長さを20に統一し、各プローブが隣接するプローブと4塩基ずつ重なると想定すれば、少なくとも4個以上であり、好ましくは5個以上である。
【0035】
上記の各プローブは、標準的なプログラムおよびプライマー解析ソフトウェア、例えばPrimer Express(Perkin Elmer社)を用いることにより得ることができ、自動化オリゴヌクレオチドシンセサイザーなどの標準的な方法を用いて合成することができる。
【0036】
さらに、各プローブは、以下で詳述するように、試験片に固定するために5’または3’末端のいずれか一方が修飾されていてもよい。
【0037】
(試験片)
本発明の、結核菌および非結核性抗酸菌ならびに必要に応じてRFP感受性を検出するための試験片は、少なくとも4つのプローブが固定されている。固定されているプローブのうちの少なくとも1つのプローブは、結核菌のrpoB遺伝子の野生型塩基配列からなる任意の領域と特異的にハイブリダイズし得、少なくとも1つのプローブは、非結核性抗酸菌M. aviumのrpoB遺伝子の野生型塩基配列からなる任意の領域と特異的にハイブリダイズし得、少なくとも1つのプローブは、非結核性抗酸菌M. intracellulareのrpoB遺伝子の野生型塩基配列からなる任意の領域と特異的にハイブリダイズし得、少なくとも1つのプローブは、非結核性抗酸菌M. kansasiiのrpoB遺伝子の野生型塩基配列からなる任意の領域と特異的にハイブリダイズし得、そして各プローブは、それぞれ試験片の異なる位置に固定されている。
【0038】
上記のように、好適には、試験片に固定された結核菌のrpoB遺伝子の野生型プローブは、上記の少なくとも4つのプローブとは異なるプローブであって、RFP耐性変異を有する領域のほぼ全体を網羅するように設計されており、より好適には、プローブは、結合する塩基配列の順に上流側または下流側から一定の間隔で配置されている。さらに、発色を確認するためのコントロールまたはマーカーが固定されていてもよい。
【0039】
さらに好適には、結核菌のrpoB遺伝子のRFP耐性変異を有する塩基配列の任意の領域とハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチドからなる少なくとも1つのプローブが、試験片の異なる位置に固定されている。
【0040】
本発明の試験片は、上記プローブを担体表面上に物理的または化学的に固定して作成することができる。担体としては、ビニル系ポリマー、ナイロン、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ニトロセルロースなどの有機材料;ガラス、シリカなどの無機材料;金、銀などの金属材料などが挙げられ、特に限定されない。成形加工性が容易である点で、有機材料が好ましく、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル類がより好ましい。これらの担体は、発色法での検知において、その発色を視認しやすくするために白色であることが好ましい。
【0041】
上記プローブは、種類ごとに一定間隔で上記担体に配置される。これらの担体表面にプローブを物理的に固定化する方法としては、公知の種々の方法が用いられる。例えば、担体表面をポリリジンなどのポリカチオン性の高分子で被覆する方法があり、この方法によれば、ポリアニオンであるプローブとの静電相互作用により、固定化の効率を上げることができる。プローブの末端に無関係な塩基配列(ポリチミン鎖など)を付加し、固定されるプローブ自体の分子量を増大させることによって、固定化の効率を上げる方法もある。例えば、ポリチミン付加オリゴヌクレオチドプローブを含む溶液をディスペンサからニトロセルロース膜上に吐出して、紫外線を照射することによって、比較的容易に種々のプローブを固定化することができる。具体的には、各プローブをそれぞれ24ゲージの針を備えたディスペンサに入れ、0.5〜1.0μL/分の量を吐出させながら2.5〜8.5mm/秒の塗布速度で、それぞれ一定の間隔をあけてニトロセルロース膜上に塗布すると、各プローブが、一定の間隔で並んだ約1〜2mmの幅のストライプとして塗布される。このプローブのストライプが塗布された担体に紫外線を照射することによって、プローブが担体上に固定される。さらに、必要に応じて、これらのストライプを横断するように細く切断すると、各プローブが順に配置された多数の試験片を一挙に得ることができる。
【0042】
担体表面が金などの金属材料である場合には、2−アミノエタンチオールなどのアミノ基を有するチオールもしくはジスルフィド化合物などで担体表面を処理することにより、ポリアニオンであるプローブとの静電相互作用を介して固定化の効率がよくなることも知られている。
【0043】
プローブに官能基を導入して化学的に固定化する方法としては、公知の種々の方法が用いられる。例えば、担体の材料がガラス、シリコンなどの無機材料の場合には、プローブの末端をトリメトキシシラン、トリエトキシシランなどのシランカップリング反応が可能な官能基で修飾する方法があり、修飾プローブを含む溶液に担体を24〜48時間浸漬し、取り出した後、洗浄することにより試験片が得られる。あるいは、ガラス、シリコンなどの無機材料担体をアミノエトキシシランなどのアミノ基を有するシランカップリング剤で処理することにより、担体の表面をアミノ化し、次いで、末端にカルボン酸を導入したプローブとアミノカップリング反応させることにより、プローブを固定化する方法もある。さらに、担体の材料が金、銀などの金属材料の場合には、プローブの末端をチオール基、ジスルフィド基などの金属と結合可能な官能基で修飾し、この修飾プローブを含む溶液に担体を24〜48時間浸漬し、取り出した後、洗浄することにより固定化することができる。
【0044】
また、合成されたプローブを固定するのでなく、リソグラフィー技術を利用して、所望の配列を有するプローブを担体表面上で直接合成する方法も知られている。
【0045】
(試験片を用いた結核菌および非結核性抗酸菌ならびにRFP感受性の検出方法)
1.検体
本発明において、「検体」は、通常、非結核性抗酸菌検査および結核菌の薬剤感受性検査に用いる検体であればよい。例えば、喀痰、咽頭ぬぐい液、胃液、気管支肺胞洗浄液、気管内吸引物、喉からの拭取物および/または組織生検物などの体液、ならびにこれらから培養して得られた培養物などが挙げられる。
【0046】
2.検体の前処理(DNAの抽出)
上記検体からのDNAの抽出は、公知の方法で行うことができる。例えば、フェノール抽出法、グアニジンチオシナネート抽出法、バナジルリボヌクレオシド複合抽出法などが挙げられる。検体を前処理したものを本明細書において「試料」という。
【0047】
3.核酸の増幅
PCR法で核酸を増幅する場合、例えば、以下の工程で行われる:(1)2本鎖ゲノムDNAを約92〜95℃、約30秒〜1分間の反応条件で熱処理することにより1本鎖にする変性工程;(2)該1本鎖DNAのそれぞれに約50〜65℃を約20秒〜1分間の反応条件で、少なくとも2種類の増幅プライマーを結合させることによりPCRの反応開始点となる2本鎖部分を作製するアニール工程;(3)約70〜75℃を約20秒〜5分間の反応条件でDNAポリメラーゼを用いて反応させる鎖伸張工程;ならびに(1)〜(3)の工程を通常の方法により20〜40回繰り返す工程。rpoB遺伝子をPCRで増幅するために用いられるプライマー対として、任意の変異部位を含むrpoB遺伝子を増幅し得るように、該変異部位を含む配列部位よりも上流の配列と該部位よりも下流の配列とを含む、同一または相補的な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドが挙げられる。好ましいプライマー対の例としては、結核菌については、配列表の配列番号17および18のオリゴヌクレオチドまたはその相補的な配列を有するオリゴヌクレオチドが挙げられ、一方、非結核性抗酸菌については、例えば、配列表の配列番号19および20のオリゴヌクレオチドまたはその相補的な配列を有するオリゴヌクレオチドが挙げられる。なお、非結核性抗酸菌については、その種類によって異なる塩基配列に応じて、適切なプライマーを設計し得るが、非結核性抗酸菌用のプライマー対のうちの片側が、結核菌についてのプライマーの片側であってもよい。例えば、結核菌のrpoB遺伝子の配列表の配列番号23に記載の塩基配列の205位から271位に対応する非結核性抗酸菌M. kansasiiの塩基配列は、結核菌のフォワードプライマー(配列番号17)と非結核性抗酸菌のリバースプライマー(配列番号20)とのプライマー対によって増幅される。
【0048】
また、測定の感度を向上させるために、例えば、検体から直接DNAを増幅させる場合、上記PCR反応の前にさらにNestedPCR法(特公平6−81600号公報)などで核酸を増幅してもよい。NestedPCR法におけるプライマーは、上記PCR反応において用いたプライマーよりも外側の配列を選択することができる。例えば、rpoB遺伝子の増幅の場合には、結核菌については、配列表の配列番号14および15のオリゴヌクレオチドまたはその相補的な配列を有するオリゴヌクレオチドが挙げられ、一方、非結核性抗酸菌については、配列表の配列番号16および15のオリゴヌクレオチドまたはその相補的な配列を有するオリゴヌクレオチドが挙げられる。
【0049】
上記のプローブおよびプライマーの配列は、標準的なプログラムおよびプライマー解析ソフトウェア、例えばPrimer Express(Perkin Elmer社製)を用いることにより得ることができ、自動化オリゴヌクレオチドシンセサイザーなどの標準的な方法を用いて合成することができる。
【0050】
4.結核菌および非結核性抗酸菌ならびにRFP感受性の検出方法
本発明において、結核菌および非結核性抗酸菌ならびにRFP感受性は、PCR−SSOP法によって検出することができる。より簡便には、固定されたプローブの位置と、PCR−SSOP法において検出されたスポットの位置を比較することにより検出することもできる。例えば、上記のプローブが固定された試験片を使用する場合、PCR−SSOP法におけるハイブリダイズは、非特異吸着反応が起きにくい点で、約60〜65℃の温度で行うことが好ましい。検出されたスポットの位置が、結核菌が固定されたプローブの位置と同じ位置であれば、結核菌であり、検出スポットの位置がいずれかの非結核性抗酸菌が固定された位置と同じであれば、いずれかの非結核性抗酸菌であると判断することができる。また、結核菌の複数の野生型プローブのすべてが検出されれば、RFP感受性であると判定され、固定された野生型プローブのうち検出されないものがある場合、あるいは固定された変異型プローブと同じ位置にスポットが検出された場合には、RFP耐性であると判定される。
【0051】
PCR−SSOP法において検出されたスポットを容易に検出するためには、放射性同位体、蛍光物質、化学発光物質などの標識物質を修飾したプライマー対を用いて遺伝子を増幅することが好ましい。上記標識物質を用いた検出方法のうち、比較的安価で容易に実施できる点で、ニトロブルーテトラゾリウム(NBT)/5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルホスファターゼp−トルイジニル塩(BCIP)発色法が好ましい。具体的には、以下のとおりに行われる。まず、上記プライマーの3’または5’末端にビオチンを修飾したプライマー対を用いて、末端にビオチンを有する遺伝子を増幅する。次いで、増幅した遺伝子と試験片に固定されたプローブとのハイブリダイゼーションによってプローブに結合させ、さらにアルカリホスファターゼ標識ストレプトアビジンに接触させて、プローブと結合している遺伝子の末端に存在するビオチンに結合させる。さらに、NBT/BCIPを加えてアルカリホスファターゼと反応させることにより、プローブに結合しているアルカリホスファターゼが存在する位置で発色させる。この発色は視認可能である。
【0052】
(試験片を含む検出用キット)
本発明の検出用キットは、上記の試験片を含む。好適には、結核菌および非結核性抗酸菌ならびにRFP感受性を検出するために適切な任意の試薬類を含み得る。例えば、上記のDNAの抽出のための試薬、遺伝子増幅用試薬、プローブへの遺伝子の結合を検出するための試薬などが挙げられる。具体的なキットとして、上記のPCR−SSOP法を実施するためのキットを例示する。
【0053】
本発明のキットに含まれ得るDNAの抽出のための試薬は、上記の任意の手法で用いられる試薬である。
【0054】
薬剤感受性遺伝子をPCRで増幅するためのプライマー対も、本発明のキットに含まれ得る。プライマー対は、任意の変異部位を含むrpoB遺伝子を増幅し得るように、変異部位を含む配列部位よりも上流の配列と、該部位よりも下流の配列とを含む、同一または相補的な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドである。RFP感受性の検出には、好ましいプライマー対の例としては、結核菌については、配列表の配列番号17および18のオリゴヌクレオチドまたはその相補的な配列を有するオリゴヌクレオチドが挙げられ、一方、非結核性抗酸菌については、配列表の配列番号19および20のオリゴヌクレオチドまたはその相補的な配列を有するオリゴヌクレオチドが挙げられる。測定の感度を向上させるためのNestedPCR法におけるプライマー対はとしては、例えば、結核菌については、配列表の配列番号14および15のオリゴヌクレオチドまたはその相補的な配列を有するオリゴヌクレオチドが挙げられ、一方、非結核性抗酸菌については、配列表の配列番号16および15のオリゴヌクレオチドまたはその相補的な配列を有するオリゴヌクレオチドが挙げられる。
【0055】
さらに、上記プライマー対は、PCR−SSOP法において検出を容易にするために、放射性同位体、蛍光物質、化学発光物質などで修飾されていることが好ましい。
【0056】
また、遺伝子の増幅は、PCR法以外にも、LAMP法、ICAN法などの公知の技術が挙げられる。本発明においては、これらのいずれかの手法を用いてもよく、本発明にはこれらの手法で用いられる任意の試薬を含むキットも含まれる。
【0057】
さらに、本発明のキットは、検出のための試薬類を含み得る。例えば、NBT/BCIP発色法を採用する場合は、ストレプトアビジン修飾アルカリホスファターゼ、NBT、およびBCIPが挙げられる。
【実施例】
【0058】
(実施例1:試験片の作製)
1.プローブの設計
3種の非結核性抗酸菌(M. avium、M. intracellulare、およびM. kansasii)および結核菌のそれぞれの野生型rpoB遺伝子のみを検出し得るプローブとして以下に示すプローブavi、intra、kan、およびTB(それぞれ配列番号2、3、4および1に対応)を構築した。また、結核菌のRFP感受性を検出し得るプローブとして以下に示すプローブS1〜S5(それぞれ配列番号5〜9に対応)を構築した。さらに、結核菌のRFP耐性を検出し得るプローブとして以下に示すプローブR2、R4a、R4b、およびR5(それぞれ配列番号10〜13に対応)を構築した。図1に、これらのプローブの位置関係を示す。なお、図1において、非結核性抗酸菌の塩基配列中のハイフン「−」で表される位置は、結核菌と同じ塩基であることを示す。
【0059】
プローブavi tccgtccagt cgtggcggc (配列番号2)
プローブintra ggccggtcgt cgccg (配列番号3)
プローブkan gccagctctc ccagttcat (配列番号4)
プローブTB gtggaggcga tcacacc (配列番号1)
プローブS1 gccagctgag ccaattcat (配列番号5)
プローブS2 ttcatggacc agaacaaccc g (配列番号6)
プローブS3 ccgctgtcgg ggttgacc (配列番号7)
プローブS4 gacccacaag cgccgact (配列番号8)
プローブS5 cgactgtcgg cgctgggg (配列番号9)
プローブR2 aattcatggt ccagaacaac cc(配列番号10)
プローブR4a gttgacctac aagcgccga (配列番号11)
プローブR4b ttgaccgaca agcgccgact (配列番号12)
プローブR5 cgactgttgg cgctggg (配列番号13)
【0060】
2.プローブの固定化
上記の各プローブ(配列番号2〜4、1、および5〜13に記載の塩基配列)のそれぞれの5’末端にターミナルトランスフェラーゼ(Promega社)を用いて、ポリチミンの付加を行った。具体的には、ターミナルトランスフェラーゼ(30unit/μL)を0.4μL、チミジン三リン酸(10pmol/μL)を2μL、オリゴヌクレオチドプローブ(50mM)を2μL、製品添付の反応緩衝液を2μL、および精製水3.6μLを混合して反応溶液を調製し、37℃で4時間反応させた後、10×SSC緩衝液90μLを加えることにより、ポリチミン付加されたオリゴヌクレオチドプローブ1pmol/μLを得た。
【0061】
次いで、ポリチミン付加されたプローブをそれぞれ24ゲージの針を備えたディスペンサに入れ、0.7μL/分の量を吐出させながら2.5mm/秒の塗布速度で、2mmの幅のストライプになるようにニトロセルロース膜(縦75mm×横150mm:Whatman社)上に2mm間隔で縦方向に塗布した。その後、ニトロセルロース膜に312nmの紫外線を2分間照射して、プローブを固定化した。次いで、ニトロセルロース膜を、全てのストライプを含むように切断して、5mm×150mmの試験片を作成した。
【0062】
(実施例2:試験片を用いた結核菌および非結核性抗酸菌ならびにRFP感受性の検出)
1.rpoB遺伝子の増幅
本実施例では、結核菌および3種の非結核性抗酸菌(M. avium、M. intracellulare、およびM. kansasii)のそれぞれの培養物を検体とし、これらの菌の同定ならびに結核菌のRFP感受性の検出を行った。用いた検体の結核菌および非結核性抗酸菌はすべて野生型であった。RFP感受性を検出するために、検体中に存在し得るrpoB遺伝子を増幅する必要がある。そこで、まず、NestedPCR法によって、検体からrpoB遺伝子を増幅した。NestedPCRのプライマーとして、以下のものを使用した(図1を参照のこと)。
【0063】
結核菌用外側プライマーF tacggtcggc gagctgatcc(配列番号14)
非結核性抗酸菌用外側プライマーF gagctgatcc agaaccagat c(配列番号16)
結核菌/非結核性抗酸菌用外側プライマーR tacaccgaca gcgagccgat cag(配列番号15)
【0064】
NestedPCRの反応条件は、変性工程を90℃、60秒、アニール工程を55℃、60秒、鎖伸長工程を27℃、60秒とし、これらの工程を30サイクル行って、rpoB遺伝子の一部の領域の遺伝子を増幅した。
【0065】
次いで、上記NestedPCR法で増幅した遺伝子をテンプレートとして、以下のプライマーを用いて(図1を参照のこと)、PCR法でさらにrpoB遺伝子を増幅し、DNA溶液を得た。配列表の配列番号17に記載の塩基配列からなる結核菌用内側プライマーFおよび配列番号19に記載の塩基配列からなる非結核性抗酸菌用内側プライマーF、配列番号18に記載の塩基配列からなりかつ5’末端にビオチンを結合させた結核菌用内側プライマーRおよび配列番号20に記載の塩基配列からなりかつ5’末端にビオチンを結合させた非結核性抗酸菌用内側プライマーR、ならびにTaq DNAポリメラーゼ(ロシュ・ダイアグノスティクス社)を用いたPCR法により、rpoB遺伝子の増幅を行った。各プライマーの塩基配列は以下に示すとおりである。
【0066】
結核菌用内側プライマーF ggatggagcg ggtggtccgg ga(配列番号17)
非結核性抗酸菌用内側プライマーF gtcgtccgcg agcggatgac ca(配列番号19)
結核菌用内側プライマーR gcacgtcgcg gacctccagc (配列番号18)
非結核性抗酸菌用内側プライマーR ttgggaccct ccggggtctc ga(配列番号20)
【0067】
PCRの反応条件は、変性工程を94℃、30秒、アニール工程を55℃、20秒、鎖伸長工程を72℃、20秒とし、これらの工程を30サイクル行って、rpoB遺伝子を増幅した。これにより増幅されたDNAには、末端にビオチンが結合している。
【0068】
2.プローブを用いた検出
増幅したDNA溶液10μLに、水酸化ナトリウム(5M)、エチレンジアミン四酢酸(0.05M)の溶液(10μL)を加えてよく攪拌し、5分間放置して、増幅したDNAを1本鎖に変性した。この試料溶液中に、ドデシル硫酸ナトリウム(0.01w/v%)、塩化ナトリウム(1.8w/v%)、クエン酸ナトリウム(1.0w/v%)の溶液(1mL)、および上記実施例1で作成した試験片を加え、反応温度62℃の下で30分間振とうして反応させた。その後、アルカリホスファターゼ標識ストレプトアビジンを加え、試験片上の各プローブと結合している遺伝子の末端に存在するビオチンに結合させた。さらに、ニトロブルーテトラゾリウム(NBT)および5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルホスファターゼp−トルイジニル塩(BCIP)を加えて、試験片上の各プローブに結合したアルカリホスファターゼが存在する位置で発色させた。結果を図2に示す。
【0069】
野生型結核菌が検体である場合については、上記実施例1で調製した試験片のプローブTBおよびプローブS1〜S5のすべての位置で発色が確認されたが、非結核性抗酸菌のプローブおよび変異プローブの位置には発色を確認できなかった。したがって、検体が結核菌であり、RFP感受性であると判定できた。また、3種の非結核性抗酸菌が検体である場合には、それぞれの非結核性抗酸菌に対応するプローブおよびプローブS2の位置に発色を確認した。このように、上記の試験片を用いることにより、結核菌および非結核性抗酸菌ならびにRFP感受性について正しい判定を行うことができた。
【0070】
(実施例3:試験片を用いた結核菌のRFP耐性の検出)
本実施例では、RFP耐性を有する結核菌のそれぞれの培養物を検体とし、上記実施例2と同様に操作してrpoB遺伝子を増幅し、実施例1で調製した試験片を用いて、結核菌のRFP耐性の検出を行った。RFP耐性を有する結核菌は、図1のプローブR2、R4a、R4b、およびR5の領域内に変異を有するRFP耐性結核菌ならびにプローブS1およびS3の領域内に変異を有するRFP耐性結核菌であった。RFP感受性を検出するために、検体中に存在し得るrpoB遺伝子を増幅する必要がある。そこで、まず、NestedPCR法によって、検体からrpoB遺伝子を増幅した。結果を図3に示す。
【0071】
プローブR2、R4a、R4b、およびR5の領域内に変異を有するRFP耐性結核菌の場合は、結核菌の検出プローブTBの位置で発色が見られ、変異プローブについては、それぞれの変異プローブの位置のみに発色が見られた。しかし、変異を有する領域に対応する野生型プローブの位置には発色は見られなかった。非結核性抗酸菌のプローブの位置にも発色はなかった。なお、変異のない領域については、野生型プローブの位置にも発色が見られた。
【0072】
また、プローブS1およびS3の領域内に変異を有するRFP耐性結核菌の場合は、野生型のRFP感受性結核菌と同様に、プローブTBの位置で発色が見られ、プローブS1〜S5プローブのうち、変異に対応するプローブS1またはS3の位置においてのみ発色が見られなかった。なお、変異プローブの位置には、発色は見られなかった。非結核性抗酸菌のプローブの位置にも発色はなかった。
【0073】
このように、上記の試験片を用いることにより、RFP耐性結核菌について正しい判定を行うことができた。
【0074】
(実施例4:臨床検査用検体における検出の検討)
結核感染患者50症例および非結核性抗酸菌症患者72症例のそれぞれの喀痰を検体として、上記実施例1で調製した試験片を用いて結核菌および非結核性抗酸菌についての同定を行った。なお、これらの検体として、アキュプローブ(極東製薬工業株式会社)により、予め原因菌が特定されたものを用いた。
【0075】
まず、検体である喀痰の一部を前処理してDNAを抽出し、上記実施例2と同様の操作を行ってrpoB遺伝子を増幅し、実施例1で調製した試験片を用いて、結核菌および非結核性抗酸菌の検出を行った。結果を表1に示す。
【0076】
【表1】

【0077】
表1から明らかなように、本発明の試験片による検査結果は、既存の手段の結果と一致した。MACについては、2種を明らかに区別することが可能であった。また、M. kansasiiについても、確実に同定することができることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明によれば、結核菌と非結核性抗酸菌とを一度に判定することができる。さらに、同時に薬剤感受性(特に、リファンピシン感受性)も判定することもできる。したがって、検査において、治療方針の決定ならびに予後の予測を簡便に行うことができる。その結果、患者に、適切な治療を提供することができる。したがって、不要な薬剤投与や検査を防ぐことができ、患者の負担が軽減化され、さらに無駄な医療費を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1A】結核菌および非結核性抗酸菌のrpoB遺伝子の塩基配列および設計したプローブの位置の関係を示す図である。
【図1B】結核菌および非結核性抗酸菌のrpoB遺伝子の塩基配列および設計したプローブの位置の関係を示す図である。
【図2】本発明の試験片を用いた、野生型結核菌および3種の非結核性抗酸菌(M. avium、M. intracellulare、およびM. kansasii)ならびに結核菌のRFP感受性の検出の結果を示す写真である。
【図3】本発明の試験片を用いた、RFP耐性結核菌のRFP耐性の検出の結果を示す写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結核菌および非結核性抗酸菌を検出するための試験片であって、
少なくとも4つのプローブが固定されており、
該プローブのうちの少なくとも1つのプローブが、結核菌のrpoB遺伝子の野生型塩基配列からなる任意の領域とハイブリダイズし得るが、非結核性抗酸菌の該rpoB遺伝子の野生型塩基配列からなる任意の領域とハイブリダイズし得ないオリゴヌクレオチドからなり、
該プローブのうちの少なくとも1つのプローブが、非結核性抗酸菌M. aviumのrpoB遺伝子の野生型塩基配列からなる任意の領域とハイブリダイズし得るが、結核菌および他の非結核性抗酸菌の該rpoB遺伝子の野生型塩基配列からなる任意の領域とハイブリダイズし得ないオリゴヌクレオチドからなり、
該プローブのうちの少なくとも1つのプローブが、非結核性抗酸菌M. intracellulareのrpoB遺伝子の野生型塩基配列からなる任意の領域とハイブリダイズし得るが、結核菌および他の非結核性抗酸菌の該rpoB遺伝子の野生型塩基配列からなる任意の領域とハイブリダイズし得ないオリゴヌクレオチドからなり、そして
該プローブのうちの少なくとも1つのプローブが、非結核性抗酸菌M. kansasiiのrpoB遺伝子の野生型塩基配列からなる任意の領域とハイブリダイズし得るが、結核菌および他の非結核性抗酸菌の該rpoB遺伝子の野生型塩基配列からなる任意の領域とハイブリダイズし得ないオリゴヌクレオチドからなり、
該プローブが、それぞれ該試験片の異なる位置に固定されている、
試験片。
【請求項2】
さらに、前記少なくとも4つのプローブとは異なるプローブであって、前記結核菌のrpoB遺伝子の野生型塩基配列の任意の領域とハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチドからなる少なくとも1つのプローブが、前記試験片の異なる位置に固定されている、請求項1に記載の試験片。
【請求項3】
さらに、前記結核菌のrpoB遺伝子のリファンピシン耐性変異を有する塩基配列の任意の領域とハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチドからなる少なくとも1つのプローブが、前記試験片の異なる位置に固定されている、請求項1または2に記載の試験片。
【請求項4】
前記結核菌のrpoB遺伝子の野生型塩基配列からなる任意の領域とハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチドが、配列表の配列番号1に記載の塩基配列またはその相補配列である、請求項1から3のいずれかの項に記載の試験片。
【請求項5】
前記非結核性抗酸菌M. aviumのrpoB遺伝子の野生型塩基配列からなる任意の領域とハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチドが、配列表の配列番号2に記載の塩基配列またはその相補配列である、請求項1から4のいずれかの項に記載の試験片。
【請求項6】
前記非結核性抗酸菌M. intracellulareのrpoB遺伝子の野生型塩基配列からなる任意の領域とハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチドが、配列表の配列番号3に記載の塩基配列またはその相補配列である、請求項1から5のいずれかの項に記載の試験片。
【請求項7】
前記非結核性抗酸菌M. kansasiiのrpoB遺伝子の野生型塩基配列からなる任意の領域とハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチドが、配列表の配列番号4に記載の塩基配列またはその相補配列である、請求項1から6のいずれかの項に記載の試験片。
【請求項8】
前記少なくとも4つのプローブとは異なるプローブにおいて、前記結核菌のrpoB遺伝子の野生型塩基配列の任意の領域とハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチドが、配列表の配列番号5、6、7、8、および9からなる群より選択される塩基配列またはその相補配列である、請求項2から7のいずれかの項に記載の試験片。
【請求項9】
前記結核菌のrpoB遺伝子のリファンピシン耐性変異を有する塩基配列の任意の領域とハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチドが、配列表の配列番号10、11、12、および13からなる群より選択される塩基配列またはその相補配列である、請求項2から8のいずれかの項に記載の試験片。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかの項に記載の試験片を含む、結核菌および非結核性抗酸菌の検出用キット。
【請求項11】
さらに、発色用試薬およびrpoB遺伝子増幅用プライマー対を含む、請求項10に記載のキット。
【請求項12】
前記rpoB遺伝子増幅用プライマー対が、配列表の配列番号14、16、17および19からなる群より選択されるフォワードプライマーと、配列表の配列番号15、18および20からなる群より選択されるリバースプライマーである、請求項11に記載のキット。
【請求項13】
結核菌および非結核性抗酸菌を検出する方法であって、
試料中の結核菌および非結核性抗酸菌のrpoB遺伝子を抽出する工程、
該抽出したrpoB遺伝子を請求項1から9のいずれかの項に記載の試験片と接触させて、該試験片に固定されたプローブに結合させる工程、および
該プローブに結合したrpoB遺伝子を発色させる工程
を含む、方法。
【請求項14】
前記rpoB遺伝子を抽出する工程が、
配列表の配列番号14および16のフォワードプライマーと配列表の配列番号15のリバースプライマーとを用いてPCRを行う工程、および
得られたPCR増幅産物について、配列表の配列番号17および19のフォワードプライマーと配列表の配列番号18および20のリバースプライマーとを用いてPCRを行う工程、
を含む、請求項13に記載の方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−189283(P2009−189283A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−32474(P2008−32474)
【出願日】平成20年2月13日(2008.2.13)
【出願人】(000135036)ニプロ株式会社 (583)
【Fターム(参考)】