説明

結核菌検出オリゴヌクレオチドプローブ及びそれを利用した検出方法

【課題】 結核菌由来16S rRNA又はその遺伝子を高感度かつ特異的に検出すること。
【解決手段】 結核菌由来16S rRNA又はその遺伝子の一部と相同的な配列を有する第一のプライマー、相補的な配列を有する第二のプライマーからなるオリゴヌクレオチドの組み合わせを用いて核酸増幅を行い、増幅された核酸をオリゴヌクレオチドプローブにて検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、迅速、高感度かつ特異的に結核菌の16S rRNA又はその遺伝子を検出するためのオリゴヌクレオチドプローブ及びそれを利用した検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
結核は結核菌によって発症する感染性疾患である。感染性疾患の診断には感染起因菌の迅速で確実な同定が必要であることから、結核菌同定検査は臨床上極めて重要である。
【0003】
従来、結核菌の同定検査は培養法により行われていたが、核酸増幅法を利用した迅速同定検査法が開発され、短時間で結核菌を同定することが可能となった。利用されている核酸増幅法の一例として、PCR法(特許文献1、2、及び3参照)が挙げられる。しかしPCR法は、急激に反応温度を昇降させる必要があり、自動化の際の反応装置の省力化や低コスト化のための障壁となっていた。
【0004】
一定温度で核酸を増幅する方法も知られている。そのような方法として、LAMP法(非特許文献1参照)、NASBA法(特許文献4及び5参照)、TMA法(特許文献6参照)等が報告されている。これらの核酸増幅方法では、核酸増幅後、電気泳動又は検出可能な標識を結合させたオリゴヌクレオチドプローブを用いたハイブリダイゼーション法などにより、増幅された核酸を検出するが、これらの検出法は操作が煩雑であり、再現性良く定量できないという課題がある。
【0005】
簡便にRNAを増幅及び検出する方法としては、標的となるRNAに対してプロモーター配列を含むプライマー、逆転写酵素及び必要に応じてリボヌクレアーゼH(RNase H)により、プロモーター配列を含む2本鎖DNAを合成し、RNAポリメラーゼによって標的となるRNAの特定塩基配列を含むRNAを合成し、該RNAを引き続きプロモーター配列を含む2本鎖DNA合成の鋳型とする連鎖反応を行う方法がある(特許文献7及び非特許文献2参照)。この方法では、インターカレーター性蛍光色素で標識され、標的核酸と相補的2本鎖を形成するとインターカレーター性蛍光色素が相補的2本鎖部分にインターカレートすることによって蛍光特性が変化するように設計されたオリゴヌクレオチドプローブの存在下、蛍光特性の変化を検出するものであり、簡便、一定温度、かつ一段階でRNA増幅及び検出を同時に実施することが可能である。
【0006】
以上の各方法は、いずれもオリゴヌクレオチドプローブを使用して核酸を増幅するものであるが、結核菌16S rRNA又はその遺伝子においては、結核菌に特異的な領域にダイマーやループ等の高次構造を形成しやすい箇所が含まれているため(例えば、GenBank番号BX842576の塩基番号89008から89017で示される領域)、結核菌16S rRNA又はその遺伝子を高感度かつ特異的に検出するプローブを設計することは極めて困難である。中でも比較的低温の一定温度(40から50℃が好ましい)条件下で標的とするRNAの増幅検出を行うことが可能な増幅方法を利用する場合、プローブが高次構造を形成しやすくなるため、プローブを設計することは特に困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第4,683,195号
【特許文献2】米国特許第4,683,202号
【特許文献3】米国特許第4,965,188号
【特許文献4】特許2650159号公報
【特許文献5】特許3152927号公報
【特許文献6】特許3241717号公報
【特許文献7】特開2000−14400号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Thai H.T.C.et al.J.Clin.Microbiol.42,1956−61(2004)
【非特許文献2】Ishiguro T.et al.Anal.Biochem.314,77−86(2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで本発明の目的は、臨床上重要な結核菌を特異的に検出するためのオリゴヌクレオチドプローブと、該オリゴヌクレオチドプローブを利用する結核菌の検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。即ち本発明は、試料中に存在する結核菌由来16S rRNA又はその遺伝子の特定塩基配列を検出する方法であって、配列番号2、7、又は9に示した配列又はそれらの相補的配列からなるオリゴヌクレオチドプローブを用いることを特徴とする。また本発明は、結核菌由来16S rRNAの検出試薬であって、配列番号13に示した配列からなる第一のプライマー、配列番号21、22又は23のいずれかに示した配列からなる第二のプライマー、及び、配列番号2、7又は9のいずれかに示した配列又はその相補的配列からなるオリゴヌクレオチドプローブを含むことを特徴とする。以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明は、喀痰、胃液、血液、尿、便、体腔液、組織、気管支洗浄液、気管支肺胞洗浄液等の生体由来サンプルから抽出された核酸を試料として、又はかかるサンプルをそのまま試料として、試料中に結核菌由来16S rRNA又はその遺伝子の特定塩基配列が存在するか否か、更には存在量を検出するものである。なお、前記サンプルをそのまま試料とする場合及びサンプルから核酸を抽出後試料とする場合のいずれの場合においても、結核菌由来16S rRNAを増幅し、その過程で又はその後に検出する場合には、後述する増幅のための酵素の活性を妨害する物質等を除去等しておくことが好ましい。
【0012】
本発明は、結核菌由来16S rRNA又はその遺伝子の特定塩基配列の存在等を検出するものであるが、特定塩基配列は結核菌由来16S rRNA又はその遺伝子に特異的に見出される塩基配列であり、かつ、特にrRNAにおいては、高次構造を取りにくい領域に存在する塩基配列である。前述のように、16S rRNA上で結核菌に特異的であり、かつ、高次構造を取りにくい領域は極めて限られる。なお、rRNAを増幅して検出する場合には、第一のプライマーとの相同領域の5’末端から第二のプライマーとの相補領域の3’末端までの塩基配列に相同な塩基配列ということもできる。言い換えれば、RNAの増幅工程を実施する場合には、特定塩基配列又はその相補的配列のRNA転写産物が増幅される(産生される)ことになり、該RNA転写産物を転写するための鋳型となる2本鎖DNAは、RNAポリメラーゼのプロモーター配列下流のセンス鎖又はアンチセンス鎖に特定塩基配列を有することになる。
【0013】
本発明は、配列番号2、7又は9に示した配列又はその相補的配列からなるオリゴヌクレオチドプローブ、更には、ストリンジェントな条件でこれらにハイブリダイゼーション可能な配列のオリゴヌクレオチドプローブである。ストリンジェントな条件とは、既知の条件から選定可能で、特に限定されるものではないが、例えば、42℃における50%(v/v)ホルムアミド、0.1%ウシ血清アルブミン、0.1%フィコール、0.1%のポリビニルピロリドン、50mMリン酸ナトリウムバッファー(pH6.5)、150mMの塩化ナトリウム、75mMクエン酸ナトリウム等が共存する条件下でハイブリダイズ可能であることを意味する。
【0014】
本発明のオリゴヌクレオチドプローブを用いる検出は、例えば電気泳動や液体クロマトグラフィーを用いた方法により行うことができる。その他にも、オリゴヌクレオチドを例えば検出可能な標識物質と結合等し、ハイブリダイゼーション法により検出を行うことも可能である。標識物質としては例えば酵素、蛍光色素、放射性同位元素、発光色素等、公知のものを使用することができる。本発明では、以上と比較してより簡便な検出操作を可能とするmolecular beacon(米国特許5925517号、米国特許6103476号)、TaqManプローブ(米国特許5210015号、米国特許5487972号)、Q−Probe(特許3437816号)、サイクリングプローブ(米国特許5011769号、米国特許5403711号)、インターカレーター性蛍光色素標識プローブ(特許文献7及び非特許文献2参照)が特に好ましいオリゴヌクレオチドプローブとして例示できる。中でもインターカレーター性蛍光色素で標識され、かつ標的核酸と相補的2本鎖を形成するとインターカレーター性蛍光色素部分が前記相補的2本鎖部分にインターカレートすることによって蛍光特性が変化するように設計されたオリゴヌクレオチドプローブは、後述する増幅工程の過程で検出を行うことができるため、後述するオリゴヌクレオチドDNA、プライマー、酵素及び酵素基質等を含む試薬類とともに容器に投入するだけで増幅工程と検出工程を実施することが可能である。この結果、上記の試薬等を予め容器に投入しておき、一定量の試料を分注するという操作のみで本発明を迅速に実施可能であり、しかも、例えば蛍光色素が発する信号を外部から検出可能なように容器の一部を透明な材料で構成しておけば、試料を分注した後に容器を密閉し、試料間のコンタミネーションを防止することもできる。
【0015】
インターカレーター性蛍光色素としては特に限定されず、オキサゾールイエロー、チアゾールオレンジ、エチジウムブロマイド又はこれらの誘導体を使用することが例示できる。例えばオキサゾールイエローは、2本鎖DNAにインターカレートすることによって510nmの蛍光(励起波長490nm)が顕著に増加する色素である。このような色素は、オリゴヌクレオチドプローブの末端、リン酸ジエステル部又は塩基部分に適当なリンカーを介してオリゴヌクレオチドと結合すれば良い。なお、増幅工程の過程で検出を行う場合、オリゴヌクレオチドは、その3’末端の水酸基からの伸長を防止する目的で当該水酸基を修飾しておくことが好ましい。
【0016】
通常、試料中に結核菌由来の16S rRNA又はその遺伝子の特定塩基配列が存在下としても、その存在量は微量である。従って本発明は、前記したようなオリゴヌクレオチドプローブを使用して16S rRNA又はその遺伝子を検出する工程(以下「検出工程」ということがある)に加え、16S rRNA又はその遺伝子の特定塩基配列を増幅する工程(以下「増幅工程」ということがある)を実施することを含むものである。増幅工程に採用し得る核酸増幅方法としては、PCR法、LAMP法、TRC法、NASBA法又はTMA法を例示できるが、本発明のオリゴヌクレオチドプローブが高次構造を取りにくい領域に存在する特定塩基配列に向けられたものであることから、一定温度(比較的低温)で簡便かつ迅速に実施可能なTRC法、NASBA法、TMA法が好ましい。
【0017】
特に好適な増幅工程は、特定塩基配列の一部と相同的な配列を有する第一のプライマー、及び特定塩基配列の一部と相補的な配列を有する第二のプライマーを用い(ここで前記第一又は第二のプライマーのいずれか一方はその5’末端にRNAポリメラーゼのプロモーター配列が付加されてなる)を使用し、以下(1)から(5)の各ステップを行うものである。
(1)RNAを鋳型とする、RNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素による特定塩基配列に相補的なcDNAを合成する工程、
(2)リボヌクレアーゼH(RNase H)活性を有する酵素によるRNA−DNA2本鎖のRNAを分解する工程(1本鎖DNAの生成)、
(3)1本鎖DNAを鋳型とする、DNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素による、特定塩基配列、あるいは特定塩基配列に相補的な配列のRNAを転写可能なプロモーター配列を有する2本鎖DNAを生成する工程、
(4)RNAポリメラーゼ活性を有する酵素による前記2本鎖DNAを鋳型とするRNA転写産物を生成する工程、及び、
(5)該RNA転写産物が、前記RNA−DNA2本鎖を生成する工程におけるcDNA合成の鋳型となることで、連鎖的にRNA転写産物を生成する工程。
【0018】
以上のような増幅工程は、1本鎖RNAを鋳型とするRNA依存DNAポリメラーゼ活性を有する酵素(逆転写酵素)、RNase H活性を有する酵素、1本鎖DNAを鋳型とするDNA依存DNAポリメラーゼ活性を有する酵素及びRNAポリメラーゼ活性を有する酵素により進行する。これらの酵素は、いくつかの活性を合わせ持つ酵素を使用しても良く、それぞれの活性を持つ複数の酵素を使用しても良い。例えば、1本鎖RNAを鋳型とするRNA依存DNAポリメラーゼ活性、RNase H活性及び1本鎖DNAを鋳型とするDNA依存DNAポリメラーゼ活性の三つの活性を有する逆転写酵素と二本鎖DNAを鋳型とするRNA合成酵素を組み合わせて使用することが例示できる。もっとも、この三つの活性を有する逆転写酵素とRNA合成酵素に、必要に応じてRNase H活性を有する酵素を更に添加する等しても良い。三つの活性を有する逆転写酵素として、例えばAMV逆転写酵素、MMLV逆転写酵素、HIV逆転写酵素又はこれらの誘導体、中でもAMV逆転写酵素又はその誘導体が特に好ましい。RNAポリメラーゼ活性を有する酵素としては、分子生物学的実験などで汎用されているバクテリオファージ由来のT7 RNAポリメラーゼ、T3 RNAポリメラーゼ、SP6 RNAポリメラーゼ又はこれらの誘導体が例示できる。
【0019】
上記の増幅工程を進行させるためには、試料と前記各酵素に加えて、更に、緩衝剤、マグネシウム塩、カリウム塩、ヌクレオシド−三リン酸及びリボヌクレオシド−三リン酸を添加し、必要に応じて反応効率を調節するためにジメチルスルホキシド(DMSO)、ジチオスレイトール(DTT)、ウシ血清アルブミン(BSA)及び糖等を添加し、適当な条件下で酵素反応を進行させる。例えばAMV逆転写酵素及びT7 RNAポリメラーゼを用いる場合、35から65℃の範囲、好ましくは40℃から50℃の範囲で反応温度を設定すれば良い。
【0020】
上記した増幅工程において、第一のプライマーにプロモーター配列が付加されている場合、RNA転写産物は鋳型となるRNAと相同の配列を含み、第二のプライマーにプロモーター配列が付加されている場合、RNA転写産物は鋳型となるRNAの相補的配列を含むことになる。プロモーター配列としては、RNAポリメラーゼが結合して転写を開始し得る配列であれば良く、種々のRNAポリメラーゼに特異的な公知のプロモーター配列を使用することができる。例えば、T7プロモーター、SP6プロモーター、T3プロモーター等の分子生物学的実験で通常用いられるプロモーター配列が特に制限なく使用できる。なおプロモーター配列に加えて、更に、エンハンサー等の転写効率に関わる付加配列を含んでいてもよい。
【0021】
上記した増幅工程によって配列番号2、7又は9のいずれかに示した配列又はその相補的配列からなるオリゴヌクレオチドプローブによる検出対象となる特定塩基配列を増幅するための第一及び第二のプライマーの組み合わせとして、配列番号17に示した配列中の連続する23塩基以上からなる第一のプライマーと配列番号19に示した配列中の連続する18塩基以上からなる第二のプライマーの組み合わせを例示することができるが、好ましくは配列番号16に示した配列中の連続する23塩基以上からなる配列であって配列番号13に示した配列を含む第一のプライマーと配列番号21に示した配列中の連続する18塩基以上からなる配列であって配列番号20に示した配列を含む第二のプライマーの組み合わせであり、更に好ましくは配列番号13に示した配列からなる第一のプライマーと配列番号21、22又は23に示したいずれかの配列からなる第二のプライマーの組み合わせである。
【0022】
前記した増幅工程を実施する場合、第一又は第二のプライマーのいずれか一方にプロモーター配列を付加しておけば良いが、第一のプライマーにプロモーター配列を付加する場合には、結核菌由来16S rRNAを鋳型としてcDNAを合成するステップ(前記したステップ(1))に先立ち、又は当該ステップと同時に、該RNAを特定塩基配列の5’末端部位で切断しておくことが好ましい。このように特定塩基配列の5’末端部位で切断しておくことで、cDNA合成後に、cDNAにハイブリダイズした第一のプライマーのプロモーター配列に相補的なDNA鎖を、cDNAの3’末端を伸長させることで効率的に合成でき、結果として効率的に機能的な2本鎖DNAプロモーター構造を形成することができるからである。切断方法としては、当該部位を特異的に切断できれば特に限定されないが、結核菌由来16S rRNA内の特定塩基配列の5’末端部位(該特定塩基配列内の5’末端部位を含む部分配列)に重複し、かつ5’方向に隣接する領域に対して相補的な配列を有するオリゴヌクレオチドDNA(以下、「切断用オリゴヌクレオチドDNA」とする)を添加してRNA−DNA2本鎖を形成させ、当該2本鎖中のRNA部分をリボヌクレアーゼH(RNase H)活性を有する酵素などにより切断する方法が、切断特異性及び簡便性から好ましい。また切断用オリゴヌクレオチドDNAの3’末端にある水酸基は、伸長反応を防止するために、例えばアミノ化等、適当な修飾を行っておくことが好ましい。
【0023】
切断用オリゴヌクレオチドDNAとして、配列番号29に示した配列中の連続する24塩基以上からなるものが例示でき、更に好ましくは配列番号30に示した配列からなるものが例示できる。
【0024】
増幅工程を更に実施する場合、検出工程は、増幅の過程で又は増幅の後、前記したように配列番号2、7又は9のいずれかに示した配列又はその相補的配列からなるオリゴヌクレオチドプローブを用い、RNA転写産物を検出すれば良い。また増幅の過程で検出工程を実施する、即ちRNAの増幅とRNA転写産物の検出を同時に実施するためには、オリゴヌクレオチドプローブとして、前記したインターカレーター性蛍光色素標識プローブを使用することが特に好ましい。
【0025】
増幅工程を実施する本発明の結核菌由来の16S rRNAの検出は、好ましくは切断用オリゴヌクレオチドDNAとして配列番号29に示した配列中の連続する24塩基以上からなるオリゴヌクレオチド、第一のプライマーとして配列番号17に示した配列中の連続する23塩基以上からなるオリゴヌクレオチド、第二のプライマーとして配列番号19に示した配列中の連続する19塩基以上からなるオリゴヌクレオチド、そして、インターカレーター性蛍光色素で標識した配列番号2、7又は9のいずれかに示した配列からなるオリゴヌクレオチドを使用して実施される。更に好ましくは、切断用オリゴヌクレオチドDNAとして配列番号29に示した配列中の連続する24塩基以上からなるオリゴヌクレオチド、第一のプライマーとして配列番号16に示した配列中の連続する23塩基以上からなる配列であって配列番号13に示した配列を含むオリゴヌクレオチド、第二のプライマーとして配列番号21に示した配列中の連続する18塩基以上からなる配列であって配列番号20に示した配列を含むオリゴヌクレオチド、インターカレーター性蛍光色素で標識した配列番号2、7又は9のいずれかに示した配列からなるオリゴヌクレオチドを使用して実施される。特に好ましくは、切断用オリゴヌクレオチドDNAとして配列番号30に示した配列からなるオリゴヌクレオチド、第一のプライマーとして、配列番号13に示した配列からなるオリゴヌクレオチドであって、その5’末端にプロモーター配列を有するオリゴヌクレオチド(配列番号14のオリゴヌクレオチド)、第二のプライマーとして配列番号21、22又は23のいずれかに示した配列からなるオリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチドプローブとして、インターカレーター性蛍光色素で標識した配列番号2、7又は9のいずれかに示した配列からなるオリゴヌクレオチドを使用して実施される。
【発明の効果】
【0026】
本発明のオリゴヌクレオチドプローブを使用することにより、結核菌由来16S rRNA中に見出される、結核菌に特異的な配列(特定塩基配列)を検出することが可能である。しかもこのオリゴヌクレオチドプローブは、40℃から50℃という、比較的低温条件でもダイマーやループ等の高次構造を形成しにくいため、温度変化を必要としないRNAを特異的に増幅する増幅方法を用いて増幅工程を実施し、その過程で特定塩基配列を検出する際に特に有効である。
【0027】
本発明のオリゴヌクレオチドプローブとして、特に好ましくはインターカレーター性蛍光色素で標識したオリゴヌクレオチドの存在下で増幅工程を行い、その過程で蛍光強度を経時的に検出すれば、有意な蛍光増加が認められた任意の時間で検出を終了することが可能であり、増幅に要する時間を加えても、なお結核菌由来16S rRNAを30分程度で終了することが可能である。
【0028】
このように、本発明によれば、試料中に含まれる結核菌由来16S rRNA又はその遺伝子を迅速、高感度かつ特異的に検出することが可能となる。
【0029】
以下実施例により本発明の実施の形態を説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【実施例】
【0030】
実施例1 インターカレーター性蛍光色素で標識したオリゴヌクレオチドの調製
インターカレーター性蛍光色素で標識されたオリゴヌクレオチドプローブを非特許文献2に記載の方法を参照して作製した。
【0031】
配列番号1に記載の配列の5’末端から10番目のC、配列番号2に記載の配列の5’末端から7番目のA、配列番号3に記載の配列の5’末端から6番目のC、配列番号4に記載の配列の5’末端から12番目のC、配列番号6に記載の配列の5’末端から14番目のT、配列番号8に記載の配列の5’末端から7番目のG、配列番号9に記載の配列の5’末端から6番目のA、配列番号10に記載の配列の5’末端から11番目のA、配列番号11に記載の配列の5’末端から14番目のT、配列番号12に記載の配列の5’末端から9番目のCの位置に、市販の試薬(Label−ON Reagents、Clontech製)を用いてアミノ基を導入し、さらに3’末端をビオチンで修飾した。導入したアミノ基にインターカレーター性蛍光色素であるオキサゾールイエローを結合し、オキサゾールイエローで標識したオリゴヌクレオチド(配列番号1から4、6、8から12)を調製した。
【0032】
また、同文献を参照して、配列番号5に記載の配列の5’末端から13番目のCと14番目のA、配列番号7に記載の配列の5’末端から4番目のCと5番目のAとの間のリン酸ジエステル部分に、リンカーを介してオキサゾールイエローを結合させたオキサゾールイエローで標識したオリゴヌクレオチドを調製した。
【0033】
実施例2 結核菌由来16S rRNA検出用オリゴヌクレオチドの評価
表1に示した組み合わせのインターカレーター性蛍光色素で標識されたオリゴヌクレオチド(以下、「INAFプローブ」と記載する)、第一のプライマー、第二のプライマー及び切断用オリゴヌクレオチドを用いて、(1)から(5)に示す方法でRNAの検出を行い、検出性能と特異性について評価を行った。
【0034】
(1)結核菌16S rRNA、M.avium 16S rRNA及びM.kansasii 16S rRNAについては、それぞれ16S rRNA遺伝子をクローニングし、インビトロ転写した後、精製により作製した(以下、「標準RNA」と記載する)。M.marinum RNAについては、OD600=0.1の培養液を市販の抽出試薬(EXTRAGEN MB、東ソー株式会社製)で抽出することにより作製した。
【0035】
(2)RNA希釈液(10mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)、1mM EDTA、0.25U/μL リボヌクレアーゼインヒビター、5.0mM DTT)を用いて、結核菌16S rRNAは10コピー/5μL、M.avium 16S rRNAは10コピー/5μL、M.kansasii 16S rRNAは10コピー/5μLとなるように希釈し、これらを試料として用いた。一方、M.marinumは、抽出物の原液をRNA試料として用いた。
【0036】
(3)以下の組成の反応液20μLを市販の0.5mL容量PCR用チューブ(Individual Dome Cap PCR Tube、SSI製)に分注し、これに前記RNA試料5μLを添加した。また、RNA試料の代わりに注射用水5μLを添加した場合をネガティブコントロール(以下「Nega」と記載する)とした。
【0037】
反応液の組成:濃度は酵素液添加後(30μL中)の最終濃度
60mM Tris−HCl緩衝液(pH8.6)
17mM 塩化マグネシウム
100mM 塩化カリウム
1mM DTT
各0.25mM dATP、dCTP、dGTP、dTTP
各3mM ATP、CTP、UTP、GTP
3.6mM ITP
0.16μM 切断用オリゴヌクレオチドDNA
(3’末端の水酸基をアミノ基で修飾)
1μM 第一のプライマー
(各配列番号記載の塩基配列の5’末端にT7プロモータ配列(配列番号15)を付加したもの)
1μM 第二のプライマー
10nM INAFプローブ
(実施例1で調製したもの)
10.4% DMSO
(4)上記の反応液を43℃で5分間保温後、予め43℃で2分間保温した酵素液(組成は以下に記載)5μLを添加した。
【0038】
酵素液の組成:反応時(30μL中)の最終濃度
2.0% ソルビトール
6.4U AMV逆転写酵素 (ライフサイエンス製)
142U T7 RNAポリメラーゼ (インビトロジェン製)
3.6μg 牛血清アルブミン
(5)引き続きPCRチューブを直接検出可能な温調機能付き蛍光分光光度計に供し、43℃で反応させると同時に反応溶液の蛍光強度(励起波長470nm、蛍光波長520nm)を経時的に30分間検出した。
【0039】
表1に、結核菌に対する検出性能評価及び非結核性抗酸菌(M.avium、M.kansasii、M.marinum)に対する特異性評価の結果を示す。検出性能評価については結核菌のRNA試料及びNegaを検出し、酵素添加時を0分として反応液の蛍光強度比(所定時間の蛍光強度値をバックグラウンドの蛍光強度値で割った比)が1.3以上の場合を陽性とし、そのときの時間を検出時間とした。蛍光強度比1.3未満の場合は陰性とし、「(−)」と表記した。また、結核菌の標準RNAにおける30分後の蛍光強度比の値も示した。
【0040】
特異性評価については、非結核性抗酸菌のRNA試料を検出した際の30分後の蛍光強度比が、Negaを検出した際の30分後の蛍光強度比+0.2以上の場合を陽性、+0.2未満の場合を陰性とし、非結核性抗酸菌のいずれかに対して陽性となった場合を「+」、いずれの菌に対しても陰性となった場合を「(−)」と表記した。

【0041】
【表1】

【0042】
表1の結果より、2、6又は8の組み合わせが結核菌に対する検出性能が良く、Negaで陰性を示し、さらに非結核性抗酸菌の高濃度RNAに対して交差反応性を示さない組み合わせであることが分かる。組み合わせ2のオリゴヌクレオチドプローブ(配列番号2に示した配列からなるオリゴヌクレオチド)は、組み合わせ1のオリゴヌクレオチドプローブ(配列番号1に示した配列からなるオリゴヌクレオチド)の3‘末端側を3塩基削ったものであり、組み合わせ6のオリゴヌクレオチドプローブ(配列番号7に示した配列からなるオリゴヌクレオチド)と組み合わせ5のオリゴヌクレオチドプローブ(配列番号6に示した配列からなるオリゴヌクレオチド)は17塩基が同じ配列であり、組み合わせ8のオリゴヌクレオチドプローブ(配列番号9に示した配列からなるオリゴヌクレオチド)は組み合わせ7のオリゴヌクレオチドプローブ(配列番号8に示した配列からなるオリゴヌクレオチド)の5‘末端側を2塩基削ったものである。このように、似通った配列のオリゴヌクレオチドプローブであっても検出性能と特異性が大きく変化すること、即ち結核菌由来16S rRNAを特異的かつ高感度に検出するためには、極めて厳密な配列を有するオリゴヌクレオチドプローブが必須であることが分かる。
【0043】
実施例3 結核菌由来16S rRNA検出用プライマーセット及び切断用オリゴヌクレオチドDNAの検討
表2に示した組み合わせのINAFプローブ、第一のプライマー、第二のプライマー及び切断用オリゴヌクレオチドDNAを用いて、実施例2と同様にして標準RNAの検出(5コピー/5μL、10コピー/5μL、30コピー/5μL、100コピー/μL、5及び10コピーはn=4、30及び100コピーはn=3)を行い、検出率を調査した。結果を表2に示す。
【0044】
【表2】

【0045】

表2から、組み合わせ12(配列番号30に示した配列からなる切断用オリゴヌクレオチドDNA、配列番号13に示した配列からなる第一のプライマー)、組み合わせ13(配列番号31に示した配列からなる切断用オリゴヌクレオチドDNA、配列番号16に示した配列からなる第一のプライマー)、組み合わせ14(配列番号32に示した配列からなる切断用オリゴヌクレオチドDNA、配列番号17に示した配列からなる第一のプライマー)では、30コピー/テスト以上で検出率100%となり、これらの切断用オリゴヌクレオチドDNAと第一のプライマーの組み合わせによれば結核菌由来16S rRNAを良好に検出できることが分かる。また、組み合わせ12と組み合わせ13では10コピー/テストを検出でき、特に組み合わせ12によれば高感度の検出が可能であることが分かる。
【0046】
実施例 4
実施例3における組み合わせ12の切断用オリゴヌクレオチドDNAと第一のプライマーを用いて、これらと最適な組み合わせとなる第二のプライマーを探索するために、表3に示したオリゴヌクレオチドの組み合わせを用い、実施例2と同様にして結核菌に対する検出性能(10コピー/5μL)及びM.aviumに対する特異性(10コピー/5μL)を調査した。結果を表3に示す。
【0047】
【表3】

【0048】

表3から、組み合わせ12、16、17、18又は19(配列番号21から25のいずれかに示した配列からなる第二プライマー)では検出時間に差がなく、第二のプライマーとして良好であることが分かる。また、組み合わせ12、16又は17が、特異性の面で特に良好であることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中に存在する結核菌由来16S rRNA又はその遺伝子の特定塩基配列を検出する方法であって、配列番号2、7又は9に示した配列又はそれらの相補的配列からなるオリゴヌクレオチドプローブを用いることを特徴とする、結核菌由来16S rRNA又はその遺伝子を検出する方法。
【請求項2】
請求項1に記載の結核菌由来16S rRNAの検出方法であって、前記特定塩基配列の一部と相同的な配列を有する第一のプライマー、及び特定塩基配列の一部と相補的な配列を有する第二のプライマー(ここで前記第一又は第二のプライマーのいずれか一方はその5’末端にRNAポリメラーゼのプロモーター配列が付加されてなる)を使用し、以下(1)から(5)の工程によりRNAを増幅し、増幅の過程で又は増幅の後、配列番号2、7又は9のいずれかに示した配列又はその相補的配列からなるオリゴヌクレオチドプローブを用いて前記RNA転写産物を検出することを特徴とする方法。
(1)RNAを鋳型とする、RNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素による特定塩基配列に相補的なcDNAを合成する工程、
(2)リボヌクレアーゼH(RNase H)活性を有する酵素によるRNA−DNA2本鎖のRNAを分解する工程(1本鎖DNAの生成)、
(3)1本鎖DNAを鋳型とする、DNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素による、特定塩基配列、あるいは特定塩基配列に相補的な配列のRNAを転写可能なプロモーター配列を有する2本鎖DNAを生成する工程、
(4)RNAポリメラーゼ活性を有する酵素による前記2本鎖DNAを鋳型とするRNA転写産物を生成する工程、及び、
(5)該RNA転写産物が、前記RNA−DNA2本鎖を生成する工程におけるcDNA合成の鋳型となることで、連鎖的にRNA転写産物を生成する工程。
【請求項3】
配列番号17に示した配列中の連続する23塩基以上からなる第一のプライマーと、配列番号19に示した配列中の連続する18塩基以上からなる第二のプライマーを用いて結核菌由来16S rRNAの特定塩基配列を増幅する工程を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の結核菌由来16S rRNAの検出方法。
【請求項4】
配列番号16に示した配列中の連続する23塩基以上からなる配列であって配列番号13に示した配列を含む第一のプライマーと、配列番号21に示した配列中の連続する18塩基以上からなる配列であって配列番号20に示した配列を含む第二のプライマーを用いて結核菌由来16S rRNAの特定塩基配列を増幅する工程を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の結核菌由来16S rRNAの検出方法。
【請求項5】
配列番号13に示した配列からなる第一のプライマーと、配列番号21、22又は23に示したいずれかの配列からなる第二のプライマーを用いて結核菌由来16S rRNAの特定塩基配列を増幅する工程を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の結核菌由来16S rRNAの検出方法。
【請求項6】
前記特定塩基配列中の第一のプライマーとの相同領域の5’末端部位と重複して該部位から5’方向に隣接する領域に相補的な切断用オリゴヌクレオチドDNAとRNase Hにより前記特定塩基配列の5’末端部位で前記RNAを切断する工程を、5’末端にプロモーター配列を付加した前記第一のプライマーと前記第二のプライマーを用いて結核菌由来16S rRNAの特定塩基配列を増幅する工程に先立ち又は同時に行う、請求項3から5のいずれかに記載の方法であって、該切断用オリゴヌクレオチドDNAが、配列番号29に示した配列中の連続する24塩基以上からなることを特徴とする、結核菌由来16S rRNAの検出方法。
【請求項7】
前記切断用オリゴヌクレオチドDNAが、配列番号30に示した配列からなることを特徴とする、請求項6に記載の結核菌由来16S rRNAの検出方法。
【請求項8】
結核菌由来16S rRNAの検出試薬であって、配列番号13に示した配列からなる第一のプライマー、配列番号21、22又は23のいずれかに示した配列からなる第二のプライマー、及び、配列番号2、7又は9のいずれかに示した配列又はその相補的配列からなるオリゴヌクレオチドプローブを含むことを特徴とする、前記試薬。

【公開番号】特開2012−135234(P2012−135234A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−288888(P2010−288888)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】