説明

結節性座瘡治療用アジスロマイシン

【解決手段】 アジスロマイシンの全身投与は尋常性座瘡に伴う結節に対する有効な治療である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は皮膚疾患を治療する抗生物質療法、具体的にはアジスロマイシンの分野に関し、更に具体的には尋常性座瘡を治療するアジスロマイシンの使用に関する。特に、本発明は例えば結節性座瘡が原因の座瘡結節治療分野に関し、より具体的には重度結節性尋常性座瘡治療に関する。
【背景技術】
【0002】
尋常性座瘡は、単に座瘡と称されることが多いが、一般的な皮膚疾患であり、これに限定するものではないが、一般的には若年者が罹患するものである。治療されない場合、ほとんどの症例の座瘡は数年間持続し、その後通常個人が20歳代半ばになる時点で自然寛解する。
【0003】
座瘡の病因には複数の要因がある。本疾患は、主に、皮脂産生の増加、毛胞脂腺漏斗の過剰角化、特にPropionibacterium acnesなどの微生物叢の増殖、およびそれに続く感染が原因で生じると考えられている。角質化と呼ばれる表皮成熟化の正常過程は、皮膚孔と皮膚腺を一列に並ばせる細胞の成長および脱落を伴う。座瘡では、この過程が乱れ、皮脂腺管毛胞漏斗の上皮細胞過剰産生(過角質化症)が生じ、孔の閉塞を形成される。
【0004】
結果として生じた病変は炎症性病変および非炎症性病変に分けられる。非炎症性病変は開放面皰および閉鎖面皰に分類され、それぞれ黒ニキビ(blackheads)および白ニキビ(whiteheads)として一般に知られている。非炎症性病変のみを呈する座瘡症例は軽度座瘡と呼ばれることがある。
【0005】
炎症性病変は一般細菌であるPropionibacterium acnesの過剰成長および皮膚の正常油分(皮脂)と前記細菌の相互作用の結果であり、炎症反応を引き起こす副産物生成がもたらされる。これらの主な病変に加えて、患者は炎症性病変の合併症としての瘢痕にも苦しむ場合がある。
【0006】
座瘡の炎症性病変は2つのグループに分けられる。座瘡のより重度でない症例は非炎症性病変を伴う膿疱および丘疹が伴う。丘疹とは頭部のない炎症を起こした赤く柔らかい隆起であり、直径2〜5mmの範囲のものである。膿疱は表在性で化膿物質を著しく含む丘疹であり、すなわち白色または黄色の中心を有する頭部を有する。存在する丘疹数および膿疱数によって、丘疹膿疱性座瘡症例は中等度から重度座瘡の範囲に段階付けされてもよい。丘疹膿疱性座瘡の重症例である個人は、1個または2個の座瘡結節もしくは座瘡嚢胞も有する可能性がある。
【0007】
座瘡重症例には主病変として結節および嚢胞を伴う。そのような個人は3個もしくはそれ以上の結節を呈し、一般的に、膿疱や丘疹のような複数の他の炎症性病変および面皰のような非炎症性病変も有する。嚢胞および結節は皮脂腺の閉塞であり、近隣の組織に勢いよく開き炎症および膿を生成したものである。結節は、皮膚表面下または皮膚表面内にある5mmもしくはそれ以上の直径の大型の硬い隆起であり、疼痛があり何ヶ月も持続する場合がある。嚢胞は結節と類似しているが膿が溜まったものである。嚢胞および/または結節を有し炎症性座瘡を呈する座瘡症例はしばしば重度座瘡と呼ばれる。しかしながら、「重度座瘡」という用語に対して受け入れられた定義がなく、丘疹性または膿疱性座瘡が重度座瘡としてしばしば呼ばれるので、嚢胞および/または結節を有する座瘡症例をより特定的な「結節性座瘡」という用語で呼ぶことが望ましい。
【0008】
食品医薬品局(Food and Drug Administration:FDA)は結節性座瘡が他の軽度の座瘡の形態とは独立させて考慮されるべき別個の存在であると認めている。The U.S. Department of Health and Human Services,Food and Drug Administration,Center for Drug Evaluation and Research(CDER)により2005年9月に発行された業界向けガイダンス案−尋常性座瘡:治療用薬剤開発(Draft Guidance for Industry−Acne Vulgaris:Developing Drugs for Treatment)では、尋常性座瘡用IGA基準が局所薬剤臨床試験のために非結節性座瘡の重症度を段階付けするのに使用された。前記業界向けガイダンス案(Draft Guidance for Industry)に記載された尋常性座瘡用IGA基準を表1に示す。
【0009】
【表1】

【0010】
前記業界向けガイダンス案で、IGA基準のすぐ下に、FDAがさらに結節嚢胞性座瘡を他の形態と区別し、「尋常性座瘡患者には結節嚢胞性座瘡患者を含めないことを薦める」と述べている。前記業界向けガイダンス案はまた、結節性座瘡用治療に関しては特定の情報が必要であるため、出願人は結節性/結節嚢胞性座瘡を対象にした治療に関しFDAにさらなるガイダンスを求めるべきであると述べている。
【0011】
軽度座瘡は一般的には局所洗浄剤および過酸化ベンゾイルで治療される。中等度炎症性座瘡はしばしば洗浄剤、およびレチノイド(トレチノイン、アダパレン、またはタザロテン)、サリチル酸またはアルファヒドロキシ酸などの角質溶解剤または面皰溶解剤でしばしば治療され、局所または全身性抗生物質としばしば併用される。テトラサイクリン、ミノサイクリン、ドキシサイクリン、エリスロマイシンおよびアジスロマイシンを含む全身性抗生物質が膿胞性または丘疹性座瘡の治療にうまく使用されている。2006年5月、食品医薬品局は非結節性中等度〜重度座瘡治療用SOLODYN(商標)(塩酸ミノサイクリン、Medicis Pharmaceutical Corps.、Scottsdale、アリゾナ州)を認可した。FDAによって認可されたSolodyn(商標)添付文書の処方情報には、具体的に「Solodyn(商標)は非結節性中等度〜重度尋常性座瘡の炎症性病変のみの治療用であることを指示する。」と述べてある。現在までに、結節性座瘡治療用に対して有効性が示された、またはFDAによって認可された抗生物質はない。
【0012】
結節性座瘡の場合、皮膚科医はイソトレチノイン(ACCUTANE(登録商標)、Roche Laboratories,Inc.、Nutley、ニュージャージー州)を処方することが多い。イソトレチノインは結節性座瘡病変を消失させるのに有効であることが見出されている。前記薬剤は、より少ない油分が生成され尚且つ細菌の増殖が減少するように、皮脂腺の大きさを減少させることによって作用する。
【0013】
しかしながら、イソトレチノインを使用においては、深刻な不利益が有る。イソトレチノインは胎児の発達に先天異常を引き起こすことが示されており、従って、妊娠女性はイソトレチノインを使用するべきではない。更に、イソトレチノインには使用者の鬱病および自殺念慮が伴う。イソトレチノイン使用に伴う危険性のため、FDAは、登録薬局および登録医療提供者のみにイソトレチノイン調剤を許可し、かつ前記処方およびイソトレチノイン摂取患者に起こるあらゆる副作用を厳密に監視するプログラムを開始している。
【0014】
イソトレチノインの重度の副作用のため、安全であり認可された結節性尋常性座瘡用の治療法は現在ない。
【0015】
Pigattoらによる"嚢胞性座瘡におけるイソトレチノイン対ミノサイクリン:脂質代謝試験"、Dermatologia、172:154−159(1986)では、結節性嚢胞性座瘡治療の有効性について、イソトレチノインと、抗生物質テトラサイクリンファミリーの一員であるミノサイクリンとを比較した。Pigattoはイソトレチノインが結節性嚢胞性座瘡治療において非常に効果的であることを見出した。これとは対照的に、Pigattoは、ミノサイクリンが最初に結節や嚢胞の数や大きさを減少させるのに有効であるが、4週間以上ミノサイクリンで治療しても結果としてさらなる改善は得られないことを見出した。さらに、ミノサイクリンによる治療は、この試験中のいずれの時点においても、重度よりも低いとみなされるであろうレベルまでに嚢胞の数または大きさを減少させることはなかった。Pigattoによる図1に示すように、ミノサイクリン治療によって治療の最初の10週間に嚢胞数が平均20から10に減少したが、更なるミノサイクリン治療によって患者の嚢胞数がさらに減少することはなかった。同様に、最初の10週のミノサイクリン治療によって嚢胞の平均直径が15mmから8mmに減少したが、さらに治療してもさらなる直径の減少は生じなかった。実際、20週間の治療後、平均嚢胞直径は再び10mmまで増加した。Pigattoの試験はミノサイクリンが結節性座瘡治療に有効な治療法ではないことを確立している。
【0016】
ミノサイクリンが更なる抗座瘡治療法と組み合わせて使用される場合に、結節性座瘡の有効な治療薬剤になり得るかどうかという疑問については、Gollnickらによる"Comparison of Combined Azaleic Acid Cream Plus Oral Minocycline with Oral Isotretinoin in Severe Acne"、Eur.J.Dermatol.、11:538−544(2001)において研究されている。Gollnickは、経口ミノサイクリンと局所塗布したアゼライン酸クリームの組み合わせで6ヶ月治療した患者を評価し、この組み合わせでの2ヶ月の治療後には重度の座瘡病変(嚢胞および結節)数が60%に減少し、4ヵ月後には100%減少することを見出した。従って、ミノサイクリンはアゼライン酸の局所塗布と組み合わせた場合、結節性座瘡の有効な治療法となる。
【0017】
座瘡病変治療におけるミノサイクリンおよび他のテトラサイクリン抗生物質の作用機序は不明確である。Ashleyによる米国特許出願第2004/0147492号は、ミノサイクリンおよびドキシサイクリンを含むテトラサイクリン化合物を実質的に抗生物質効果のない量で個人に投与した場合に座瘡治療に有効であることを開示している。Ashleyのデータは、テトラサイクリンの抗座瘡作用機序がいかなるものであるかは決定されていないが、その機序は好ましい抗座瘡効果を提供するこれらの薬剤の抗生物質効果以外の何かであることを示す。抗座瘡効果を提供するのはこれらの化合物の抗生物質効果ではないため、座瘡治療におけるテトラサイクリン抗生物質の有効濃度をテトラサイクリン族の一員ではない抗生物質に当てはめることはできないことは明らかである。
【0018】
アジスロマイシンはエリスロマイシンAに由来する広い薬効範囲の抗生物質の9−デオキソ−9a−アザ−9a−メチル−9a−ホモエリスロマイシンAの一般名である。このアジスロマイシンはBrightによる米国特許第4,474,768号明細書、およびKobrehelによる米国特許第4,517,359号明細書によって独立して発見されており、これらにおいてはN−メチル−11−アザ−10−デオキソ−10−ジヒドロエリスロマイシンAの名前で呼ばれていた。BrightおよびKobrehelはアジスロマイシンを吸湿性の形態として開示した。Allenによる米国特許第6,268,489号明細書はアジスロマイシンの非吸湿性二水和物形態を開示している。一水和物形態および二水和物形態のいずれもが全身投与された場合細菌感染を治療するのに有効である。
【0019】
炎症性座瘡病変治療におけるアジスロマイシンの有効性に関する研究が複数の科学論文に公開されている。Fernandez−Obregon,"Azithromycin for the Treatment of Acne,"International Journal of Dermatology,39:45−50(2000)には、パルス用量療法で投与されたアジスロマイシンが炎症性座瘡病変治療の試験における他の抗生物質を同じように有効性があるということを開示している。
【0020】
Fernandez−Obregonはアジスロマイシンの週3回投与とドキシサイクリン、エリスロマイシン、ミノサイクリンおよびテトラサイクリンの毎日の全身投与を比較し、アジスロマイシン治療法は、炎症性座瘡病変を治療において、アジスロマイシンが他の抗生物質よりもかなり少ない頻度で投与されるにもかかわらず、他の抗生物質の毎日の治療法を同じように有効であることを見出した。
【0021】
アジスロマイシンを用いた座瘡治療は、ミノサイクリン及びドキシサイクリンの使用者が経験する広範囲の有害な副作用のため、ミノサイクリンまたはドキシサイクリンよりもむしろ望ましい。ミノサイクリンの使用には皮膚の脱色、眩暈およびシュードモーターセレブリ(pseudomotor cerebri)などの中枢神経系への影響、ループス様症候群が伴う。ドキシサイクリンの使用には胃腸障害、びらん性食道炎および光感受性が伴う。ミノサイクリンおよびドキシサイクリンのいずれにおいてもカンジダ膣炎を伴う。アジスロマイシンの使用がカンジダ膣炎を引き起こすか否かに関してはいくつかの疑問があるが、アジスロマイシンがミノサイクリンまたはドキシサイクリンに関連した上記以外の副作用を引き起こすことは知られていない。更に、ミノサイクリンおよびドキシサイクリンは胎児危険度分類Dに入り、このカテゴリーは顕著な危険性を有し、更に妊娠中に別の手段ではより悪化してしまう場合にのみ使用されるべきである薬剤を含むものである。これとは対照的に、アジスロマイシンは胎児危険度分類Bの薬剤であり、このカテゴリーは妊娠中に日常的かつ安全に使用される薬剤を含み、更に薬剤の臨床的必要性がある場合の使用は安全であるとみなされるものである。
【0022】
Fernandez−Obregonの研究では丘疹、膿疱または嚢胞と定義される炎症性座瘡病変を少なくとも12個患った患者を治療した。患者は各治療に関連した病変数の減少で段階付けした。Fernandez−Obregonの文献では炎症性病変の様々な種類の間では区別を行っておらず、可能性は低いとしても、いずれの治療患者においても結節または嚢胞病変がないか、或いは多くてもそのような病変が1個または2個のみである可能がある。また、結節性または嚢胞性座瘡は特定の治療が必要とされる別の形態の座瘡であるとみなされ、更にFernandez−Obregonの研究は、アジスロマイシンと、丘疹および膿疱炎症性病変に効果があるが結節性または嚢腫には効果がないということが従来技術において周知である他の抗生物質との有効性を比較することを意図するものであり、Fernandez−Obregonの試験における治療患者は、1または2個の嚢腫を有していた可能性はあるが、前記治療患者が1もしくはそれ以上の明確であり尚且つより重度の結節性座瘡を患っていた場合には、この試験には含まれていなかったであろうということが当業者には明らかである。
【0023】
同様の研究がSinghi,MK,et al,"Comparison of Oral Azithromycin Pulse with Daily Doxycycline in the Treatment of Acne Vulgaris,"Indian Journal of Dermatology,Venereology,andLeprology,69(4):274−276(2003)によって報告された。Singhiは中等度〜重度炎症性座瘡を患った個人の集団に、10日のサイクル中3日間連続で500mg量のアジスロマイシン投与と、毎日のドキシサイクリン投与とを比較した。また、各個人はこの試験の間中、局所エリスロマイシン治療を受けた。
【0024】
各々の前記患者は治療開始前および治療後、座瘡重症度で段階付けした。座瘡重症度は面皰、丘疹、膿疱、浸潤、嚢腫の数を数え、各種の病変数に病変重症度指数(面皰に対して0.5、丘疹に対して1、膿疱に対して2、浸潤病変に対して3、嚢胞に対して4)を掛けて、結果を合計して段階付けした。
【0025】
Fernandez−Obregonのように、Singhiは、試験対象が結節性座瘡を患っていたかは開示しておらず、対象のいずれかが複数の座瘡結節を有したとの示唆はない。Singhiの結果はFernandez−Obregonの結果と同様なものを開示しており、アジスロマイシンは中等度〜重度尋常性座瘡治療に有効な薬であるということを示した。
【0026】
Fernandez−ObregonおよびSinghiの開示から、彼らの試験において結節性座瘡が治療されなかったことは明らかである。重度副作用のないイソトレチノインの結節性座瘡に対する有効な治療法が長い間探求されているため、そのような研究のいずれかが結節または嚢胞性座瘡に対する有効な抗生物質治療法を示していたのであれば、その結果は座瘡治療における飛躍的進歩として明らかにしていたはずである。
【0027】
従って、例えばイソトレチノインおよびテトラサイクリン族抗生物質療法によっても起こる可能性のある副作用など、重度の副作用のない結節性座瘡に対する有効な治療法に対する必要性は現在においても持続している。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0028】
発明者は予想外にアジスロマイシン全身投与が、例えば結節性尋常性座瘡を患う患者において、座瘡に伴う結節を治療するのに有効であることを発見した。発明者はさらにアジスロマイシン全身投与が重度結節性尋常性座瘡の症状を治療するのに有効であることを発見した。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本願明細書で使用される場合、「座瘡」という用語は尋常性座瘡を意味する。
【0030】
本願明細書で使用される場合、本願の文脈において「結節」という用語は直径5mm以上の触診可能な固い病変でであり皮膚内への深度を有する座瘡病変を指す。
【0031】
本願明細書で使用される場合、「結節を有する座瘡(または炎症性座瘡)」という用語は1もしくはそれ以上の座瘡結節が皮膚にある尋常性座瘡を指す。
【0032】
本願明細書で使用される場合、「結節性座瘡」または「結節性尋常性座瘡」という用語は3もしくはそれ以上の座瘡結節が皮膚にある尋常性座瘡を指す。
【0033】
本願明細書で使用される場合、「重度結節性座瘡」または「重度結節性尋常性座瘡」という用語は、尋常性座瘡を患った個人が5もしくはそれ以上の座瘡結節を皮膚に有する尋常性座瘡症例を指す。通常、1もしくはそれ以上の座瘡結節を有する患者は複数の丘疹または膿疱性病変を含む炎症性座瘡の更なる徴候を有する。
【0034】
本発明は結節性尋常性座瘡などの座瘡結節の治療方法である。本発明の方法によると、例えば結節性尋常性座瘡などの座瘡結節を患った患者において、患者の皮膚にある座瘡結節数を減少させるのに十分な量と時間でアジスロマイシンを全身投与する。これにより、患者の外見および自己像が改善され、座瘡結節にしばしば伴う顕著な痛みおよび不快感が減少または除去される。前記患者は、結節のある座瘡に苦しむものであるか、または例えば結節性尋常性座瘡または更に重度結節性尋常性座瘡などのより重度の座瘡形態に苦むものであっても良い。
【0035】
投与されるアジスロマイシンは細菌感染または座瘡治療に有効であるアジスロマイシンの薬学的に許容されるいかなる形態であってもよい。望ましいアジスロマイシンの形態は米国特許第4,474,768号、第4,517,359号および第6,268,489号明細書で開示されるている物などの一水和物および二水和物の形態を含む。
【0036】
本発明の方法における患者は一般的にはヒトであるが、イヌやネコなどの動物患者であってもよい。本発明のヒト患者は男性または女性であってもよく、いかなる人種及び年齢であってもよい。本発明のヒト患者は12歳未満の若い個人および25歳より年長の個人であっても本方法に適するが、典型的には12歳から25歳である。
【0037】
本発明に従ったアジスロマイシン投与は、アジスロマイシンが全身投与されるあらゆる経路を取る。本発明に従った投与経路の実施例は筋肉または皮下注入などの非経口経路、およびアジスロマイシン含有錠剤、カプセル、液体または粉末の嚥下によるなどの経口経路を含む。
【0038】
尋常性座瘡および細菌性疾患を治療するためのアジスロマイシン投与の多数の異なる治療法が使用されてきた。そのような治療法のいずれであっても本発明の方法と関連させてうまく使用することが可能であると考えられる。本発明に従って投与されるアジスロマイシンの量は結節性または重度結節性尋常性座瘡に苦しむ個人の結節数を減少させるのに有効である。
【0039】
従って、アジスロマイシンはパルス投薬治療法により投与されてもよい。例えば、250mgのアジスロマイシンを3、4日間投与した後、3〜7日間のアジスロマイシンの非投与期間、更にその後3又は4日間の投与および3〜7日間の非投与のサイクルが繰り返されてもよい。必要に応じて、例えば500mgなどのアジスロマイシンの負荷量が毎日の250mgアジスロマイシン開始前に投与されてもよい。代替的なパルス投薬治療法は、250mgのアジスロマイシンを毎日一週間投与した後に、一週間のアジスロマイシン非投与の繰り返しサイクルによるものである。
【0040】
本発明の方法に従ったアジスロマイシンのより望ましい投与方法はアジスロマイシンの毎日投薬、すなわち非パルス投薬である。この投与方法では、結節座瘡の症状が軽減するまたは除去されるまでアジスロマイシン量は毎日投与される。アジスロマイシンの1日投与量は座瘡結節治療に有効であるいかなる量であってもよい。アジスロマイシンの1日投与量の例は以下の実施例において説明する。
【0041】
使用される投薬療法に関らず、アジスロマイシン投与は結節性尋常性座瘡の兆候および症状を減少または除去させるのに十分な持続時間続けられてもよい。望ましくは、本発明に従った治療後の結節数は、治療開始時の結節数に比較して、66%もしくはそれ以上の減少する。より望ましくは、前記減少は75%もしくはそれ以上である。もっとも望ましくは、前記減少は80%もしくはそれ以上である。もっとも望ましい実施形態において、結節は治療後残らない。結節座瘡の改善がわずか1週後または2週後に得られる場合があるが、本発明による治療法の一般的な持続時間は1ヶ月もしくはそれ以上、および2、3ヶ月、もしくはそれ以上のことも多い。
【0042】
必要であれば、アジスロマイシンは座瘡の症状を治療するのに有用な、例えば経口などの、他の局所または全身、薬剤または治療法と組み合わせて投与されてもよい。例えば過酸化ベンゾイルまたはアゼライン酸などの皮膚洗浄剤および殺菌剤、例えばサリチル酸、アルファヒドロキシ酸などの面皰溶解薬および角質溶解薬、並びにトレチノイン、アダパレン及びタザロテンなどのレチノイドが座瘡治療にしばしば使用される。エリスロマイシン、クリンダマイシンまたはテトラサイクリンなどの局所抗生物質が塗布されてもよい。アジスロマイシン以外の全身性抗生物質は本発明に従うと投与されないのが望ましい。そのような組み合わせの全身性抗生物質療法は、望ましくないものであるが、本発明の範囲に入る。本願明細書に記載のように重度結節性座瘡治療のために経口イソトレチノインを併用してアジスロマイシンを使用することも本発明の範囲内である。アジスロマイシン投与により治療に必要なイソトレチノインの用量および持続時間を減少させる可能性があると考えられ、これはイソトレチノイン副作用の発生率と重症度を考えると重要な考慮すべき事項であり、またイソトレチノイン治療法全体の臨床的有効性を増加させる可能性がある。
【0043】
本発明は以下の限定されない実施例によって説明される。本実施例において、本試験に含まれる患者は、あらゆる人種の男女、16歳以上、20〜60個の炎症性病変(丘疹または膿疱)、20〜150個の非炎症性病変(面皰または白ニキビ)、および3〜10個の結節を呈すを対象とする。
【実施例1】
【0044】
複数の結節を呈示した重度尋常性座瘡を有する患者が非盲検臨床試験に参加し、各患者は本試験の3ヶ月間毎日経口量250mgのアジスロマイシンを摂取した。病変数を治療開始前基準時および治療開始後1、2および3ヶ月の時点で記録した。1ヶ月よりも長く本試験に残った18名の患者のうち、2名だけが治療に好ましい反応を示さなかった。これらの2名の患者は基準時にそれぞれ9個および8個の結節を有し、治療開始後2ヶ月の時点でそれぞれ8個および13個を有していた。好ましい反応を示した者のうち、3個の結節有する状態で本試験を開始した2名の患者は本試験3ヶ月後2個の結節を有していた。治療に良好に反応した残りの14名の患者は試験開始時に平均6.7個の結節(4〜10個の範囲)を有し、3ヶ月の治療経過後までに全く結節を有さないか(10名の患者)、或いは多くても1個の結節(4名の患者)のみしか有さないまでに改善した。
【実施例2】
【0045】
重度尋常性座瘡を有するもう一組の患者が、実施例1のように非盲検臨床試験に参加したが、但し各患者は1週間毎日経口量250mgのアジスロマイシンを摂取し、次の1週間はアジスロマイシンを摂取せず、このサイクルを本試験の3ヶ月間繰り返した。1ヶ月より長く本試験に残った18名の患者のうち、2名だけが治療に好ましい反応を示さなかった。この2名の患者は試験開始時にそれぞれ6個および10個の結節を有し、治療開始後2ヶ月でそれぞれ5個および8個の結節を有していた。3名の患者では本試験中結節の一部が消失した。これらの患者は基準時それぞれ9個、10個および6個の結節を持ち、本試験後それぞれ3個、4個および2個の結節を有していた。治療に好ましく反応した残りの13名の患者は試験開始時平均6.2個の結節(3〜10個の範囲)を有し、3ヶ月の治療経過後に全く結節を有さないか(10名の患者)、または多くても1個の結節(3名の患者)のみしか有さないまでに改善した。
【実施例3】
【0046】
重度尋常性座瘡を有するもう一組の患者が実施例1のように非盲検臨床試験に参加したが、但し各患者は本試験の3ヶ月間毎日経口量125mgのアジスロマイシンを摂取した。1ヶ月より長く本試験に残った20名の患者のうち、2名のみが治療に好ましい反応を示さなかった。この2名の患者は試験開始時にそれぞれ8個および3個の結節を有し、治療開始後2ヶ月でそれぞれ10個および4個の結節を有していた。治療に好ましい反応を示した残りの18名の患者は試験開始時平均5.1個の結節(3〜8個の範囲)を有し、3ヶ月の治療経過後に全く結節を有さないか(13名の患者)、または多くても1個の結節(5名の患者)のみしか有さないまでに改善した。
【0047】
実施例1〜3のデータを表2に纏める。
【0048】
【表2】

【0049】
実施例1〜3および表2に示すように、アジスロマイシン全身投与は重度結節性尋常性座瘡を含む結節性尋常性座瘡の治療に非常に効果がある。上記のデータは本発明に従って全身性アジスロマイシンで治療した重度結節性座瘡を患った個人の約90%がそのような治療に好ましい反応を示し、本治療に好ましい反応を示した個人において、90%より多くの結節が消失した。
【実施例4】
【0050】
更なる試験において、結節性座瘡の症状を患った12名の対象を3つのグループに分け、その各グループを、通常、細菌感染治療で使用される量を下回る量のアジスロマイシンにより毎日治療した。通常、アジスロマイシン500mgの量をパルス療法で数日間投与した後、数日間はアジスロマイシンを投与しないか、または250mgの量を週に数回投与する。一般的には、500mgの負荷量をアジスロマイシン治療開始時に投与する。
【0051】
本試験では、結節性座瘡治療のために、細菌感染治療の使用量を下回る量のアジスロマイシンを投与する。第1のグループは5名の対象を有し、彼らの各々を40mgのアジスロマイシンで毎日治療した。第2のグループは4名の対象を有し、彼らの各々を80mgのアジスロマイシンで毎日治療した。第3のグループは3名の対象を有し、彼らの各々を120mgのアジスロマイシンで毎日治療した。全ての治療は6週間であった。
【0052】
上記の治療プロトコールを始める前に、各対象の顔面結節を数えた。これらの病変数を治療21日目および42日目で再度数えた。更に、各顔面結節の場所を治療開始時に書き留め、治療期間中を通して各特定の結節の進行度を検討した。本試験結果を表3〜6に示し、以下において議論する。
【0053】
【表3】

【0054】
表3は低用量アジスロマイシン療法で治療される各対象の顔面座瘡結節数を示す。示したように、アジスロマイシン40、80、120mgのいずれかの治療後、治療21、42日目の両方で結節数の顕著な減少があった。毎日のアジスロマイシン40mgの治療により、5名の対象の顔面結節は21日後74%まで、42日後96%までに減少した。毎日、アジスロマイシン80mgの治療により、4名の対象の顔面結節は21日後62.5%まで、評価した2名の対象では42日後89%まで減少した。毎日、アジスロマイシン120mgの治療で、3名の対象の顔面結節は21日後70%まで減少した。
【0055】
表4は毎日のアジスロマイシン40mgにより治療した対象の各特定の座瘡結節の反応を示す。表4に示すように、治療開始時5名の対象の各々にあった各結節は、治療21日目または42日目のいずれかに消失した。5名の対象の結節の1個を除いた全ては治療21日目までに大きさが減少し、各個人の全ての結節は42日目にはもはや存在しなかった。さらに、これらの対象のうちの1名は治療期間中新しい結節の発達を経験した。
【0056】
【表4】

【0057】
表5は、毎日のアジスロマイシン80mgにより治療した対象の各特定の座瘡結節の反応を示す。毎日のアジスロマイシン80mgの投与により、4名の対象のうちの3名に治療開始時に最初にあった結節の全てが消失した。別の対象では21日で8個の結節のうちの2個が消失し、21日で残りの6個の結節のうち5個に改善があったが、42日では検査しなかった。4名の対象のうち2名においてさらなる結節の発達が見られ、21日に1名の患者に3個の新しい小さな結節が見られ、42日に1名の患者において1個の新しい大きな結節が見られた。
【0058】
【表5】

【0059】
表6は毎日のアジスロマイシン120mgにより治療した対象の各特定の座瘡結節の反応を示す。毎日のアジスロマイシン120mgの投与により、3名の対象のうちの2名に治療開始時に最初にあった全結節が消失した。これらの対象の結節の消失は治療21日までに完了した。1名の対象は治療に反応せず、治療開始時にこの対象にあった各結節は21日目に存在した。
【0060】
【表6】

【0061】
本試験結果は、アジスロマイシン全身投与が、細菌感染治療のための使用量をはるかに下回る量のアジスロマイシン濃度においてもなお、座瘡結節治療において以外にも有効であることを確立するものである。
【0062】
本発明の方法は、困難な座瘡症例の治療に対する治療法の選択肢において、イソトレチノイン使用の必要性を排除し、或いは別の方法では使用されるイソトレチノイン治療の用量また期間の減少を提供するものであるため、座瘡に伴う結節治療の有意な進歩を提供するものである。さらに、アジスロマイシンによる座瘡結節治療は、ミノサイクリンまたはドキシサイクリンなどのテトラサイクリン抗生物質による治療よりも有効である。本発明の方法は、従って、座瘡結節治療の価値のある代替法を提供するものであり、特にミノサイクリンおよびドキシサイクリン療法で生じる副作用を考慮すると非常に有利な方法である。
【0063】
本願明細書に記載される本発明のさらなる変形例、使用および用途は、当業者に明確であろう。そのような変形例は以下の請求項に包含されることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
尋常性座瘡結節を患った個人において前記尋常性座瘡結節を治療する方法であって、
前記個人の皮膚に存在する座瘡結節数を減少させるのに十分な量および時間で前記個人にアジスロマイシンを全身投与する工程
を有する方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法において、前記個人は1もしくはそれ以上の座瘡結節の存在を伴う炎症性座瘡を患ったものである。
【請求項3】
請求項1記載の方法において、前記個人は結節性尋常性座瘡を患ったものである。
【請求項4】
請求項1記載の方法において、前記個人は重度結節性尋常性座瘡を患ったものである。
【請求項5】
請求項1記載の方法において、アジスロマイシンは尋常性座瘡治療用に前記個人に全身投与される単一の薬剤である。
【請求項6】
請求項1記載の方法において、前記アジスロマイシン全身投与は経口である。
【請求項7】
請求項1記載の方法において、前記アジスロマイシンは1ヶ月もしくはそれ以上持続する投薬療法により前記個人に投与されるものである。
【請求項8】
請求項1記載の方法において、前記アジスロマイシンは毎日投与されるものである。
【請求項9】
請求項1記載の方法において、前記アジスロマイシンはパルス投薬療法により投与されるものである。
【請求項10】
請求項1記載の方法において、治療の間に投与される前記アジスロマイシン平均量は、1日あたり250mgもしくはそれ以下である。
【請求項11】
請求項10記載の方法において、前記アジスロマイシンは、治療の間、毎日、250mgもしくはそれ以下の量で投与されるものである。
【請求項12】
請求項11記載の方法において、前記アジスロマイシンは、治療の間、毎日、125mgもしくはそれ以下の量で投与されるものである。
【請求項13】
請求項12記載の方法において、前記アジスロマイシンは、1日あたり120mgもしくはそれ以下の量で投与されるものである。
【請求項14】
請求項13記載の方法において、前記アジスロマイシンは、1日あたり80mgもしくはそれ以下の量で投与されるものである。
【請求項15】
請求項14記載の方法において、前記アジスロマイシンは、1日あたり40mgもしくはそれ以下の量で投与されるものである。
【請求項16】
請求項1記載の方法において、前記アジスロマイシンは尋常性座瘡治療に有効な全身性薬剤を併用して投与されるものである。
【請求項17】
請求項16記載の方法において、前記全身性薬剤はイソトレチノインである。
【請求項18】
請求項1記載の方法において、前記アジスロマイシンは1もしくはそれ以上の局所抗座瘡の治療法または薬剤を組み合わせて投与されるものである。
【請求項19】
請求項18記載の方法において、前記局所抗座瘡薬剤はレチノイドである。

【公表番号】特表2010−505827(P2010−505827A)
【公表日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−531388(P2009−531388)
【出願日】平成19年9月24日(2007.9.24)
【国際出願番号】PCT/US2007/020583
【国際公開番号】WO2008/042139
【国際公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【出願人】(507353854)ドウ ファーマシューティカル サイエンシーズ (3)
【Fターム(参考)】