結腸ターゲッティング用の水不溶性ポリマー:デンプン系フィルムコーティング
本発明は、少なくとも水不溶性ポリマーと、20〜45%のアミロース含有率を有するデンプン、50〜80%のアミロース含有率を有する変性デンプン、およびマメ科植物デンプンからなる群から選択される少なくとも1つの成分を含むデンプン組成物と、の高分子混合物によりコーティングされた活性成分を含む、活性成分を制御放出するための制御放出性送達製剤を提供する。本発明は、その使用および製造方法にも関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性成分(複数可)を制御送達するための製剤に関する。本発明はまた、その使用および製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
結腸ターゲッティングは、クローン病(CD)や潰瘍性結腸炎(UC)のような炎症性腸疾患の治療をはじめとする多くの薬剤療法に非常に有用である可能性がある。
【0003】
局所作用性薬剤を従来の医薬製剤により経口投与した場合、後者は、胃の内容物中に急速に溶解され、薬剤は、放出されておそらく血流中に吸収される。これにより全身の薬剤濃度が上昇するので、望ましくない副作用の危険性が高くなると同時に結腸内の作用部位での薬剤濃度が低下し、結果的に治療効率が悪くなる。これらの制約は、薬剤放出が胃内および小腸内では抑制され、かつ結腸内では時間制御されるのであれば、克服可能である。結腸へのこのタイプの部位特異的薬剤送達はまた、タンパク質およびペプチドの薬剤が経口投与により体循環血流中に吸収される興味深い機会を与える可能性もある。
【0004】
結腸ターゲッティングを可能にするために、たとえば、薬剤を高分子マトリックス形成材中に包埋することが可能であるか、または薬剤担持型の錠剤もしくはペレット剤、たとえば直径約0.5〜1mmの球状ビーズ剤であることが可能であるか、または高分子フィルムでコーティングしたものであることが可能である。上部胃腸管(GIT)内では、薬剤に対する高分子網状構造の透過性は、低くなければならないが、巨大分子障壁は、結腸に達した時点で透過性にならなければならない。作用部位での高分子網状構造の薬剤透過性のこの増大は、(i)GITの内容物のpH変化、(ii)GITに沿った酵素の質および/もしくは量の変化、または(iii)所定の遅延時間後に生じる製剤内の有意な構造変化(たとえば、脈動的薬剤放出パターンを提供する低透過性フィルムコーティングの亀裂形成)により誘導可能である。‘’‘他の選択肢として、薬剤放出は、薬剤が結腸に達した時点で依然として製剤内にあることを保証するのに十分な程度に低速度で、すでに胃内で開始されてGIT全体にわたり持続されるようにしてもよい。
【0005】
結腸ターゲッティングの問題を解決する試みは、プレドニゾロンナトリウムメタスルホベンゾエートを送達するための制御放出性製剤に関する米国特許出願公開第2005/0220861号明細書に開示されている。この製剤は、ガラス状アミロースとエチルセルロースとジブチルセバケートとを含むコーティングに取り囲まれたプレドニゾロンナトリウムメタスルホベンゾエートを含む。ただし、アミロースとエチルセルロースとの比は、(1:3.5)〜(1:4.5)であり、かつアミロースは、トウモロコシまたはメイズのアミロースである。米国特許出願公開第2005/0220861号明細書とは対照的に、本発明に記載の系は、患者の疾患状態に適合化される。これは、きわめて重要な側面である。なぜなら、結腸ターゲッティングを可能にするために、製剤は、結腸に達した時点で薬剤に対してより透過性にならなければならないからである。これは、たとえば、上部胃腸管内での急速な薬剤放出を妨害する化合物を優先的に分解することにより保証可能である。この部位特異的分解は、上部胃腸管内に存在する酵素と結腸内の酵素との質および量の有意差に依拠することが可能である。この化合物は、上部胃腸管内では分解されてはならないが(かつ薬剤放出を妨害しなければないが)、結腸内では分解されなければならない(ひいては薬剤放出を可能にしなければならない)。このタイプの先進的薬剤送達系の性能は、基本的には、患者の結腸内の環境条件に、特定的には、結腸内に存在する酵素のタイプおよび濃度に依存している。疾患状態が胃腸管内の酵素分泌性微生物叢の質および量に有意な影響を及ぼす可能性があることは、周知でありかつ文献で十分に立証されている。これは、とくに、炎症性腸疾患に罹患している患者の結腸内の微生物叢の場合にあてはまる。すなわち、たとえば、患者の結腸内に存在する酵素の質および量は、健常被験者のものと有意に異なる可能性がある。したがって、このタイプの薬剤送達系の性能は、疾患状態により、有意な影響を受ける可能性がある。患者の結腸内での疾患状態において十分な濃度で存在しない酵素による優先的分解に依拠する系は、うまく機能しない。本発明は、病態生理学的条件下で、すなわち、炎症性腸疾患に罹患している患者の糞便中で、活性成分の制御送達を可能にする製剤について初めて報告する。したがって、この製剤の性能は、所与の病態生理学的条件下のin vivoで保証される。これは、治療の奏効性および安全性のために決定的に重要である。
【0006】
米国特許第6534549号明細書は、(1)水と(2)フィルム形成性ポリマーを単独で溶解可能な水混和性有機溶媒とを含む、溶媒系中の実質的に水不溶性のフィルム形成性ポリマーとアミロースとの混合物を活性材料に接触させて、得られた組成物を乾燥させることを含む、制御放出性組成物の製造方法に関する。この製剤は、治療剤を結腸に送達するのにとくに好適である。本発明とは対照的に、その開示は、有機溶媒を用いて調製される薬剤送達系を扱っている。これは、本発明の場合にはあてはまらない。有機溶媒の使用は、毒性および環境の問題さらには爆発の危険性をはじめとするいくつかの問題を抱えている。さらに、アミロースの使用は、このポリマーの抽出およびその安定化を伴う。アミロースは、加水分解工程および精製工程の後でデンプンから抽出される。このプロセスは、工業レベルでは複雑かつ使用困難である。この組成物は、炎症性腸疾患に罹患している患者での薬剤放出速度が考慮に入っていない。炎症性腸疾患の患者の結腸内に存在する細菌のタイプおよび量は健常被験者のものと有意に異なる可能性があることを指摘しておかなければならない。したがって、これらの細菌により分泌されて薬剤送達系に接触する酵素のタイプおよび量は、有意に異なる可能性がある。その結果、薬剤送達系の性能は、有意に異なる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許出願公開第2005/0220861号明細書
【特許文献2】米国特許第6534549号明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「マメ科植物デンプンの組成、構造、機能、および化学修飾:総説」 R.Hooverら
【非特許文献2】「新規エンドウデンプンの開発」 C−L Heydleyらの論文(Proceedings of the Symposium of the Industrial Biochemistry and Biotechnology Group of the Biochemical Society,1996,pp.77−87)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、活性成分、たとえば、限定されるものではないが、活性医薬成分、生物学的活性成分、化学的活性成分、栄養医薬活性成分、農学的活性成分、または栄養学的活性成分の送達の速度および程度を制御する送達製剤を提供することである。
【0010】
本発明の他の目的は、結腸への部位特異的薬剤ターゲティングを可能しかつ健常結腸を有する患者だけでなく炎症性腸疾患に罹患している患者にも使用可能である新しい高分子フィルムコーティングを提供することである。
【0011】
本発明のさらなる目的は、上部GIT内で受ける剪断応力(胃腸の運動に起因する)に耐えるのに十分な、かつ水性培地との接触時に系内への水透過に起因して製剤内で発生する可能性のある有意な静水圧に耐えるのに十分な、機械的安定性を有する新しい高分子フィルムコーティングを提供することである。実際に、公知のポリマーコーティングでは、偶発的な亀裂形成の問題は、水で満たされたチャネルを介する早期の薬剤放出を招く可能性がある。
【0012】
本発明のさらなる目的は、特定のタイプの薬剤治療の特定のニーズ、たとえば、薬剤の浸透活性および投与量に合わせて調整可能な新しい高分子フィルムコーティングを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、
o 少なくとも水不溶性ポリマーと
o 20〜45%、好ましくは25〜44%、さらにより好ましくは30〜40%のアミロース含有率を有するデンプン、50〜80%のアミロース含有率を有する変性デンプン、およびマメ科植物デンプンからなる群から選択される少なくとも1つの成分を含むデンプン組成物と
の高分子混合物によりコーティングされた活性成分を含む、活性成分を制御放出するための制御放出性送達製剤を提供する。
【0014】
好ましくは、制御放出性製剤は、経口製剤でありかつ胃耐性を有する。好ましい実施形態では、制御放出性医薬製剤は、固体、液体、または半液体の形態である。有利には、制御放出性医薬製剤は、固体分散体である。本発明によれば、高分子混合物は、水不溶性ポリマーとデンプン組成物との均質混合物であり、前記デンプンは、水不溶性ポリマー中で微粒子を形成しない。
【0015】
本発明の一実施形態では、制御放出性送達製剤の高分子混合物は、コーティング混合物であり、制御放出性送達製剤は、コアを含み、活性成分は、コア中および/またはコーティング混合物中に分散または溶解される。
【0016】
本発明のさらなる実施形態では、制御放出性送達製剤のデンプン組成物:水不溶性ポリマー比は、1:2〜1:8、好ましくは1:3〜1:6、より好ましくは1:4〜1:5である。
【0017】
好ましくは、デンプン組成物は、少なくとも50%、好ましくは70〜100%、より好ましくは70〜100%、さらにより好ましくは90〜100%のデンプン含有率を有する。
【0018】
典型的には、デンプン組成物は、20〜45%のアミロース含有率、好ましくは25〜44%、より好ましくは32〜40%のアミロース含有率を呈し、このパーセントは、前記組成物中に存在するデンプンの乾燥重量を基準にした乾燥重量で表される。
【0019】
本発明のさらなる実施形態では、デンプン組成物は、少なくとも1種のマメ科植物デンプンまたは穀物デンプンを含む。
【0020】
好ましくは、マメ科植物は、エンドウ、インゲン、ソラマメ(broad bean and horse bean)からなる群から選択される。
【0021】
他の有利な選択肢の形態によれば、マメ科植物は、少なくとも25重量%、好ましくは少なくとも40重量%のデンプン(乾量/乾量)を含む種子を与える植物、たとえば、さまざまなエンドウまたはソラマメである。好ましくは、マメ科植物デンプンは、顆粒状マメ科植物デンプンである。
【0022】
有利には、マメ科植物はエンドウである。エンドウデンプン顆粒は、2つの特質を有する。第1の特質は、顆粒の表面領域の改善ひいては結腸内での水および微生物叢酵素との接触の改善をもたらす大きい顆粒直径(たとえば、トウモロコシデンプン顆粒よりも大きい)である。それに加えて、エンドウデンプン顆粒は、その表面領域の改善、ひいては顆粒消化率の改善、さらにはその結果として結腸内での活性成分放出の改善をもたらす高い膨張能を有する。
【0023】
他の有利な選択肢によれば、マメ科植物デンプンは、天然マメ科植物デンプンである。
【0024】
有利には、デンプン組成物のこのデンプン含有率は、90%超(乾量/乾量)である。特定的には95%超、好ましくは98%超でありうる。
【0025】
本発明によれば、変性デンプンは、好ましくは安定化されたものである。実際に、本発明の好ましい実施形態によれば、フィルム形成性組成物の調製にとくに好適な化学処理は、「安定化」処理である。通常の安定化変性は、デンプン鎖に沿ってヒドロキシル基の一部をエステル化またはエーテル化することにより達成可能である。好ましくは、前記変性デンプンは、ヒドロキシプロピル化および/またはアセチル化されたものであり、場合により、化学加水分解処理または酵素加水分解処理である流動化処理をこれらの処理に追加することが可能である。好ましくは、前記変性デンプンは、たとえば酸処理により、流動化処理されたものである。したがって、本発明に係るデンプン組成物は、有利には、少なくとも1種の安定化デンプン、好ましくは、多くとも0.2の置換度(DS)を呈するヒドロキシプロピル化デンプンを含む。「DS」という用語は、本発明では、10個の無水グルコース単位あたりのヒドロキシプロピル基の平均数を意味するものとみなされる。この平均数は、当業者に周知の標準的分析法により決定される。
【0026】
本発明のさらなる実施形態では、デンプン組成物は、キシロオリゴサッカリド、イヌリン、オリゴフルクトース、フルクトオリゴサッカリド(FOS)、ラクツロース、ガラクトマンナンおよびその好適な加水分解物、不消化性ポリデキストロース、不消化性デキストリンおよびその部分加水分解物、trans−ガラクトオリゴサッカリド(GOS)、キシロオリゴサッカリド(XOS)、アセマンナン、レンチナンまたはβ−グルカンおよびそれらの部分加水分解物、ポリサッカリド−K(PSK)、ならびに不消化性マルトデキストリンおよびその部分加水分解物、好ましくは不消化性デキストリンまたは不消化性マルトデキストリンからなる群から選択される少なくとも1種の不消化性ポリサッカリドを追加的に含みうる。
【0027】
本発明によれば、不消化性マルトデキストリンまたは不消化性デキストリンは、15〜35%の1−>6グルコシド結合、20%未満の還元糖含有率、5未満の多分子指数、および多くとも4500g/molに等しい数平均分子質量Mnを有する。
【0028】
一変形形態によれば、前記不消化性マルトデキストリンの全部または一部は、水素化されている。
【0029】
一変形形態によれば、コアは、5%〜30%、好ましくは10%〜20%のコーティングレベルを有する。
【0030】
さらなる実施形態では、高分子混合物は、可塑剤を含む。好ましくは、可塑剤含有率は、水不溶性ポリマー含有率を基準にして25%〜30%w/wである。
【0031】
好ましくは、水不溶性ポリマーは、エチルセルロース、セルロース誘導体、アクリル酸および/またはメタクリル酸エステルポリマー、アクリレートまたはメタクリレートのポリマーまたはコポリマー、ポリビニルエステル、デンプン誘導体、ポリビニルアセテート、ポリアクリル酸エステル、ブタジエンスチレンコポリマー、メタクリル酸エステルコポリマー、セルロースアセテートフタレート、ポリビニルアセテートフタレート、シェラック、メタクリル酸コポリマー、セルロースアセテートトリメリテート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ゼイン、デンプンアセテートからなる群から選択される。
【0032】
さらなる実施形態によれば、可塑剤は水溶性可塑剤である。好ましくは、水溶性可塑剤は、単独でまたは相互の混合物として、ポリオール(グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、有機エステル(フタル酸エステル、ジブチルセバケート、クエン酸エステル、トリアセチン)、油/グリセリド(ヒマシ油、アセチル化モノグリセリド、分別ヤシ油)、ダイズレシチンからなる群から選択される。
【0033】
好ましい実施形態では、制御放出性製剤は多微粒子状製剤である。
【0034】
本発明はまた、請求項1〜12に特許請求されるように、結腸内微生物叢の不均衡を有する患者の結腸内または健常被験者の結腸内で活性成分を制御放出するための制御放出性送達製剤の製造方法を提供する。ただし、前記方法は、
o 以下の物質、すなわち、
・ 少なくとも1種の水不溶性ポリマーと
・ 20〜45%、好ましくは25〜44%、さらにより好ましくは30〜40%のアミロース含有率を有するデンプン、変性デンプン、50〜80%のアミロース含有率を有する変性デンプン、およびマメ科植物デンプンからなる群から選択される少なくとも1つの成分を含むデンプン組成物と
の高分子混合物を形成するステップと、
o 前記活性成分を高分子混合物でコーティングするステップと、
を含む。
【0035】
さらなる実施形態では、活性成分をコーティングするステップは、活性成分をコア中に分散もしくは溶解させた状態でコアをコーティングするステップであり、かつ/または活性成分をコーティングするステップは、高分子混合物中に活性成分を分散もしくは溶解させるステップである。
【0036】
炎症性腸疾患(たとえばクローン病および潰瘍性結腸炎)に罹患している患者の胃腸管内の状態は、健常被験者のものと有意に異なる可能性がある。個体内および個体間の変動は、GIT内容物のpH、酵素分泌性細菌のタイプおよび濃度、さらには種々のGITセグメント内の通過時間に関してかなり大きい可能性がある。たとえば、一般的には、健常被験者の結腸内にはかなりの量のビフィズス菌が存在し、複数の細胞外グリコシダーゼにより複合ポリサッカリドを分解することが可能である。しかしながら、疾患状態では、それらの濃度は、有意に低減される可能性がある。たとえば、糞便のグリコシダーゼ活性(特定的にはβ−D−ガラクトシダーゼ活性)は、クローン病に罹患している患者では低減され、結腸内微生物叢の代謝活性は、活動性疾患状態で強く撹乱されることが示された。したがって、病態生理の影響は、重大である可能性があり、薬剤治療の失敗をまねく可能性がある。
【0037】
炎症性腸疾患に罹患している患者への治療失敗を回避するために、部位特異的薬剤送達系は、患者の結腸の所与の状態に適合化されなければならない。たとえば、クローン病患者および潰瘍性大腸炎患者の糞便中に十分量で存在する酵素により分解される高分子フィルムコーティングを使用してもよい。しかしながら、依然として、どのタイプのポリマーがこれらの前提条件を満たすかは不明である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】(a)0.1M HClおよび(b)リン酸緩衝液pH6.8への暴露時のさまざまなタイプのポリマーブレンド(図中に示される)で構成される薄いフィルムの水含有率。可塑化エチルセルロースのみで構成されるフィルムは、比較のために示されている。
【図2】(a)0.1M HClおよび(b)リン酸緩衝液pH6.8への暴露時のさまざまなタイプのポリマーブレンド(図中に示される)で構成される薄いフィルムの乾燥質量。可塑化エチルセルロースのみで構成されるフィルムは、比較のために示されている。
【図3】パンクレアチンまたはラット腸からの抽出物を含有するかまたは含有しないリン酸緩衝液pH6.8への暴露時のエチルセルロースとブレンドされた分岐状マルトデキストリンまたはエンドウデンプンで構成される薄いフィルムの水含有率および乾燥質量。
【図4】培養培地、健常被験者の糞便が接種された培養培地、ならびにクローン病(CD)患者および潰瘍性結腸炎(UC)患者の糞便が接種された培養培地への暴露時のエチルセルロースとブレンドされたさまざまなタイプのポリサッカリドで構成される薄いフィルムの水含有率および乾燥質量(図中に示されるとおり)。可塑化エチルセルロースのみで構成されるフィルムは、比較のために示されている。
【図5】さまざまな組成物(図中に示される)の薄い高分子フィルムを炎症性腸疾患患者の糞便サンプルと共にインキュベートした時に発生した微生物叢の写真。
【図6】それぞれ0.1M HClおよびリン酸緩衝液pH6.8への暴露時の、PS HP−PG:エチルセルロースブレンドで構成される薄いフィルムの水取込みおよび乾燥質量損失。ポリマーブレンド比は、図中に示されている。比較のために、純粋(可塑化)エチルセルロースフィルムの挙動も示されている。
【図7】(a)0.1M HClおよび(b)リン酸緩衝液pH6.8への暴露時の薄いPS HP−PG:エチルセルロースフィルムの破断点エネルギーの変化。ポリマーブレンド比は、図中に示されている。比較のために、純粋(可塑化)エチルセルロースフィルムを用いて得られた結果も示されている。
【図8】それぞれ0.1M HClおよびリン酸緩衝液pH6.8への暴露時の、EURYLON(登録商標)7A−PG:エチルセルロースブレンドで構成される薄いフィルムの水取込みおよび乾燥質量損失。ポリマーブレンド比は、図中に示されている。比較のために、純粋(可塑化)エチルセルロースフィルムの挙動も示されている。
【図9】(a)0.1M HClおよび(b)リン酸緩衝液pH6.8への暴露時の、薄いEURYLON(登録商標)7A−PG:エチルセルロースフィルムの破断点エネルギーの変化。ポリマーブレンド比は、図中に示されている。比較のために、純粋(可塑化)エチルセルロースフィルムを用いて得られた結果も示されている。
【図10】それぞれ0.1M HClおよびリン酸緩衝液pH6.8への暴露時の、EURYLON(登録商標)6A−PG:エチルセルロースブレンドで構成される薄いフィルムの水取込みおよび乾燥質量損失。ポリマーブレンド比は、図中に示されている。比較のために、純粋(可塑化)エチルセルロースフィルムの挙動も示されている。
【図11】(a)0.1M HClおよび(b)リン酸緩衝液pH6.8への暴露時の、薄いEURYLON(登録商標)6A−PG:エチルセルロースフィルムの破断点エネルギーの変化。ポリマーブレンド比は、図中に示されている。比較のために、純粋(可塑化)エチルセルロースフィルムを用いて得られた結果も示されている。
【図12】それぞれ0.1M HClおよびリン酸緩衝液pH6.8への暴露時のEURYLON(登録商標)6 HP−PG:エチルセルロースブレンドで構成される薄いフィルムの水取込みおよび乾燥質量損失。ポリマーブレンド比は、図中に示されている。比較のために、純粋(可塑化)エチルセルロースフィルムの挙動も示されている。
【図13】(a)0.1M HClおよび(b)リン酸緩衝液pH6.8への暴露時の薄いEURYLON(登録商標)6 HP−PG:エチルセルロースフィルムの破断点エネルギーの変化。ポリマーブレンド比は、図中に示されている。比較のために、純粋(可塑化)エチルセルロースフィルムを用いて得られた結果も示されている。
【図14】(a)0.1M HClおよび(b)リン酸緩衝液pH6.8への暴露時の、薄いエンドウデンプン:エチルセルロースフィルムの水取込み速度。ポリマー:ポリマーブレンド比(w:w)は、図に示されている。
【図15】(a)0.1M HClおよび(b)リン酸緩衝液pH6.8への暴露時の、薄いエンドウデンプン:エチルセルロースフィルムの乾燥質量損失速度。ポリマー:ポリマーブレンド比(w:w)は、図に示されている。
【図16】乾燥状態の、薄いエンドウデンプン:エチルセルロースフィルムの機械的性質:(a)破断点突刺強度、(b)破断点伸び%、および(c)破断点エネルギー。ポリマー:ポリマーブレンド比(w:w)は、x軸上に示されている。
【図17】37℃での(a)0.1M HCl(2時間)または(b)リン酸緩衝液pH6.8(8時間)への暴露時の、薄いエンドウデンプン:エチルセルロースフィルムの破断点エネルギーの変化。ポリマー:ポリマーブレンド比(w:w)は、図に示されている。
【図18】上部胃腸管を介する通過をシミュレートした条件下での、すなわち、0.1M HClへの2時間暴露、それに続いてリン酸緩衝液pH6.8への9時間暴露を行った時の、エンドウデンプン:エチルセルロース1:2でコーティングされたペレット剤からの薬剤放出。コーティングレベル、さらには酵素(低pHで0.32%ペプシン、中性pHで1%パンクレアチン)の不在(実線の曲線)および存在(点線の曲線)は、図に示されている。
【図19】上部胃腸管を介する通過をシミュレートした条件下での、すなわち、0.1M HClへの2時間の暴露、それに続いてリン酸緩衝液pH6.8への9時間の暴露を行った時の、コーティング付きペレット剤からの薬剤放出に及ぼすエンドウデンプン:エチルセルロースブレンド比(w:w)およびコーティングレベル(図に示される)の効果。実線/点線の曲線は、酵素(低pHで0.32%ペプシン、中性pHで1%パンクレアチン)の不在/存在を表している。
【図20】全胃腸管を介する通過をシミュレートした条件下での、すなわち、0.1M HClへの2時間の暴露、それに続いてリン酸緩衝液pH6.8への9時間の暴露、それに続いて(a)炎症性腸疾患患者からの新しい糞便サンプルが接種された培養培地または(b)ビフィズス菌が接種された培養培地への10時間の暴露を行った時の、15%または20%(指定どおり)のコーティングレベルでエンドウデンプン:エチルセルロース1:4でコーティングされたペレット剤からの薬剤放出。比較のために、糞便サンプルを含まない培養培地への暴露時の薬剤放出もまた、(a)(点線の曲線)に示されている。
【図21】10%、15%、および20%のエンドウデンプン:エチルセルロース1:4でコーティングされたペレット剤の貯蔵安定性:1年間開放貯蔵の前(実線の曲線)および後(点線の曲線)の0.1M HCl(2時間)中およびリン酸緩衝液pH6.8(9時間)中への薬剤放出。
【図22】(A)直腸内に培地のみ(陰性対照群)、(B)直腸内にTNBS(陽性対照群)、(C)直腸内にTNBSかつ経口的にBMD:ECコーティング付きペレット剤、または(D)直腸内にTNBSかつ経口的にPentasa(登録商標)ペレット剤が投与されたラットの結腸の巨視的外観。TNBS/培地のみは、3日目に直腸内に投与された。5−ASAの経口投与用量は、150mg/kg/日であった。
【図23】(i)直腸内にTNBS、(ii)直腸内にTNBSかつ経口的にAsacol(登録商標)ペレット剤、(iii)直腸内にTNBSかつ経口的にPentasa(登録商標)ペレット剤、(iv)直腸内にTNBSかつ経口的にエンドウデンプン:エチルセルロースコーティング付きペレット剤、(v)直腸内にTNBSかつ経口的にBMD:エチルセルロースコーティング付きペレット剤が投与されたラットのAmehoスコア。TNBSは、3日目に直腸内に投与された。5−ASAの経口投与用量は、150mg/kg/日であった。
【図24】ラットの結腸組織の代表的な組織切片(正常な経壁切片、×200)。次のようなさまざまな層が示されている。M−粘膜、SM−粘膜下層、Mu−筋層。
【発明を実施するための形態】
【0039】
表1: 健常被験者および炎症性腸疾患患者の研究対象糞便サンプル中の細菌の濃度[log CFU/g]。
【0040】
表2: 室温での乾燥状態の薄いフィルムの機械的性質に及ぼす、エチルセルロースとブレンドされたポリサッカリドのタイプ、およびポリサッカリド:エチルセルロースのブレンド比の影響。
【0041】
表3: GITに沿ったpHの漸増をシミュレートするために使用した溶解培地。
【0042】
発明の詳細な説明
本発明の説明および特許請求では、本明細書中に明記された定義に従って以下の用語を使用する。
【0043】
本明細書中で用いられる場合、「活性成分」、「薬剤」、もしくは「薬理活性成分」という用語または任意の他の類似の用語は、(1)生物に対する予防効果を有しかつ望ましくない生物学的作用を予防すること、たとえば、感染を予防すること、(2)疾患により引き起こされる病態を緩和すること、たとえば、疾患の結果として引き起こされる疼痛もしくは炎症を緩和すること、および/または(3)生物に由来する疾患の緩和、低減、もしくは完全排除のいずれかを行うこと(ただし、これらに限定されるものではない)を包含しうる所望の生物学的または薬理学的な効果を誘導する、当技術分野ですでに公知の方法によるおよび/または本発明で教示された方法による投与に好適な任意の化学的または生物学的な材料または化合物を意味する。効果は、局部麻酔効果を提供するような局所的なものであってもよいし、全身的なものであってもよい。
【0044】
本明細書中で用いられる場合、腸内毒素症または腸内細菌異常増殖症とも呼ばれる「結腸内微生物叢の不均衡」という表現は、本発明では、胃腸管内の質的または量的な微生物の不均衡を意味するものとする。この現象は、結腸内に存在する酵素の質および量に反映される。特定的には、この変化した微生物叢は、クローン病(CD)や潰瘍性結腸炎(UC)のような炎症性腸疾患に罹患している患者の結腸で観測される。
【0045】
本明細書中で用いられる場合、「制御放出性送達」または「制御放出」という用語は、製剤からの活性成分の放出が時間に関して、または送達部位に関して、制御されることを意味する。
【0046】
「変性デンプン」という表現は、広義に解釈されるべきものであり、この表現は、たとえば、網状デンプンまたはアセチル化デンプンまたはヒドロキシプロピル化デンプンを意味する。
【0047】
「コーティングする」という用語は、本明細書中では、固体担体に対するコーティングのほかに流体および/または固体を取り囲むカプセルをも包含するように用いられ、また、「コーティング付き」という用語も同様に用いられる。
【0048】
「水不溶性ポリマー」という表現は、広義に解釈されるべきものであり、この表現は、水に完全には溶解しないポリマー、たとえば、エチルセルロース、特定のデンプン誘導体、またはアクリル酸/メタクリル酸誘導体などを意味する。
【0049】
本発明で用いられる「不消化性ポリサッカリド」という用語は、ヒト上部消化管(小腸および胃)内に存在する酸または消化酵素の作用により腸内で消化されないかまたは部分的に消化されるにすぎないが、ヒト腸内微生物叢により少なくとも部分的に発酵されるサッカリドを意味する。本発明の好ましい実施形態で利用可能な不消化性水溶性ポリサッカリドは、キシロオリゴサッカリド、イヌリン、オリゴフルクトース、フルクトオリゴサッカリド(FOS)、ラクツロース、ガラクトマンナンおよびその好適な加水分解物、不消化性ポリデキストロース、不消化性デキストリンおよびその部分加水分解物、trans−ガラクトオリゴサッカリド(GOS)、キシロオリゴサッカリド(XOS)、アセマンナン、レンチナンまたはβ−グルカンおよびそれらの部分加水分解物、ポリサッカリド−K(PSK)、ならびに不消化性マルトデキストリンおよびその部分加水分解物である。
【0050】
ポリサッカリド−Kはまた、日本ではポリサッカリド−クレスチン(PSK)としておよび中国ではポリサッカリド−ペプチド(PS−P)として知られる。両方とも、同一の化学特性および構造特性を有する。PSKは、多孔菌類のカワラタケ(Trametes versicolor)中に見いだされるプロテオグリカンであり、約35%の炭水化物(91%のβ−グルカン)、35%のタンパク質を含有し、残りの部分は、糖、アミノ酸、および湿分のような遊離残分である。PSKは、種々のペプチドに共有結合されたポリサッカリドの混合物であり、100キロダルトンの平均分子量を有する。ポリサッカリド成分は、グルコピラノースユニットで構成されたβ−グルカン類に属する。構造解析の結果、PSKは、1〜4個の結合の数個の残基あたり1個の分岐の頻度で3位および6位に分岐を有する1,4−グルカン配置を主なグルコシド部分として有することが示された。
【0051】
本明細書中で用いられる場合、「穀物」という用語は、本発明では、イネ科(Gramineae)に属する任意の植物、好ましくは、コムギ、イネ、ライムギ、オートムギ、オオムギ、トウモロコシ、モロコシ、および雑穀物を意味するものとする。
【0052】
「マメ科植物」という用語は、本発明では、ジャケツイバラ科(Caesalpinaceae)、ネムノキ科(Mimosaceae)、またはチョウケイカ科(Papilionaceae)に属する任意の植物、特定的には、チョウケイカ科(Papilionaceae)に属する任意の植物、たとえば、エンドウ、インゲン、ソラマメ(broad bean, horse bean)、ヒラマメ、アルファルファ、クローバー、またはルピナスなどを意味するものとする。
【0053】
「デンプン誘導体」という表現は、酵素処理または化学処理されたデンプンを意味する。
【0054】
「コーティングレベル」とは、パーセント単位の重量増加である、コーティング無しコアとコーティング付きコアとの間の重量差を意味する。
【0055】
この定義は、特定的には、「マメ科植物デンプンの組成、構造、機能、および化学修飾:総説」というタイトルのR.Hooverらの論文中に存在する表のいずれか1つに記載の植物をすべて包含する。
【0056】
「エンドウ」という用語は、その最広義の意味であるとみなされ、特定的には、
・ スムースエンドウのすべての野生種、ならびに
・ スムースエンドウおよびシワエンドウのすべての突然変異種(ただし、これは、一般に意図される前記品種の用途(ヒト用食物、動物栄養用食物、および/または他の用途)のいかんを問わない)
を包含する。
【0057】
前記突然変異種は、特定的には、「新規エンドウデンプンの開発」というタイトルのC−L Heydleyらの論文(Proceedings of the Symposium of the Industrial Biochemistry and Biotechnology Group of the Biochemical Society,1996,pp.77−87)に記載されるような「突然変異体r」、「突然変異体rb」、「突然変異体rug3」、「突然変異体rug4」、「突然変異体rug5」、および「突然変異体lam」として参照されるものである。
【0058】
「マメ科植物デンプン」という用語は、以上に定義されたマメ科植物から抽出され(ただし、これは方法のいかんを問わない)かつ40%超、好ましくは50%超、さらにより好ましくは75%超のデンプン含有率(ただし、これらのパーセントは、前記組成物の乾燥重量を基準にした乾燥重量で表される)を有する任意の組成物を意味するものとみなされる。
【0059】
さらに、本発明に従って選択された範囲内のアミロース含有率を天然で呈するデンプンを使用することが可能である。特定的には、マメ科植物に由来するデンプンは、好適である可能性がある。本発明によれば、このマメ科植物デンプンは、45%未満、より特定的には20 20〜45%、好ましくは25〜44%、さらにより好ましくは32〜40%のアミロース含有率を呈する。
【0060】
本発明の目的では、「不消化性マルトデキストリン(ingestible maltodextrin)」という用語は、マルトデキストリンに「分岐状マルトデキストリン」のような食物繊維と同等な追加の性質を付与する不消化性グルコシド結合を含有するマルトデキストリンを意味する。本明細書中で用いられる場合、「分岐状マルトデキストリン」という用語は、欧州特許第1006128号明細書(その出願会社は所有権者である)に記載の不消化性マルトデキストリン(ingestible maltodextrins)を意味するものとする。
【0061】
好ましい変形形態によれば、前記分岐状マルトデキストリンは、2%〜5%の還元糖含有率および2000〜3000g/molの数平均分子質量Mnを有する。
【0062】
分岐状マルトデキストリンは、AOAC法No.2001−03(2001)に従って決定した場合、乾量基準で50%以上の全繊維含有率を有する。
【0063】
本発明は、炎症性腸疾患に罹患している患者の疾患状態に適合化された結腸ターゲッティング用の新規な高分子フィルムコーティングを提供する。
【0064】
本発明に係る新規な高分子フィルムは、健常患者でも炎症性腸疾患に罹患している患者でも結腸内細菌に対する基質として機能し、おそらく患者のGITの生態系に有益な効果を呈するであろう。高分子フィルムは、疾患状態においても標的部位の状態に特異的に適合化され、薬理活性成分を特定的に結腸に送達可能である。
【0065】
以下では、以下の実施例さらには図面を利用して本発明を例示する。
【実施例】
【0066】
実施例1
A. 材料および方法
A.1. 材料
分岐状マルトデキストリン(BMD)[非消化性グリコシド結合:α−1,2およびα−1,3を有する分岐状マルトデキストリン、NUTRIOSE(登録商標)FB06 Roquette Freres]、エンドウデンプン(顆粒状エンドウデンプンN−735)(35%アミロース)、アルファ化ヒドロキシプロピルエンドウデンプン(PS HP−PG)(LYCOAT(登録商標)RS780)、マルトデキストリン(MD)(GLUCIDEX(登録商標)1,Roquette Freres)、EURYLON(登録商標)7A−PG(アセチル化およびアルファ化高アミロースメイズデンプン(70%アミロース)(Roquette Freres,Lestrem,France)、EURYLON(登録商標)6A−PG(アセチル化およびアルファ化高アミロースメイズデンプン)(60%アミロース)(Roquette Freres,Lestrem,France)およびEURYLON(登録商標)6HP−PG(ヒドロキシプロピル化およびアルファ化高アミロースメイズデンプン(60%アミロース)(Roquette Freres,Lestrem,France)、水性エチルセルロース分散体(Aquacoat(登録商標)ECD30、FMC Biopolymer,Philadelphia,USA)、トリエチルシトレート(TEC;Morflex(登録商標)、Greensboro,USA)、パンクレアチン(哺乳動物膵臓由来=アミラーゼとプロテアーゼとリパーゼとを含有する混合物、Fisher Bioblock,Illkirch,France)、ラット腸からの抽出物(アミラーゼとスクラーゼとイソマルターゼとグルコシダーゼとを含有するラット腸粉末、Sigma−Aldrich,Isle d’Abeau Chesnes,France)、Columbia血液寒天、肉牛および酵母からの抽出物、さらにはトリプトン(=カゼインの膵液消化物)(Becton Dickinson,Sparks,USA)、L−システイン塩酸塩水和物(Acros Organics,Geel,Belgium)、McConkey寒天(BioMerieux,Balme−les−Grottes,France)、システイン加リンゲル液(Merck,Darmstadt,Germany)。
【0067】
A.2. フィルムの作製
さまざまなタイプの水性ポリサッカリドと水性エチルセルロース分散体とのブレンドをテフロン(登録商標)成形型中にキャストし、続いて60℃で1日間乾燥させることにより、薄い高分子フィルムを作製した。水溶性ポリサッカリドを精製水に溶解させ(5%w/w)、1:3(ポリマー:ポリマー w:w)の比で可塑化エチルセルロース分散体とブレンドした(25%のTEC、一晩撹拌、15%w/wのポリマー含有率)。混合物を6時間攪拌してからキャストした。
【0068】
A.3. フィルムの特性解析
厚さゲージ(Minitest600、Erichsen,Hemer,Germany)を用いてフィルムの厚さを測定した。フィルムの平均厚さはすべて、300〜340μmの範囲内であった。水取込み速度および乾燥質量損失速度を、
(i)模擬胃液(0.1M HCl)
(ii)模擬腸液[1%のパンクレアチンまたは0.75%のラット腸からの抽出物を含むかまたは含まないリン酸緩衝液pH6.8(USP30)]
(iii)健常被験者からの糞便が接種された培養培地
(iv)炎症性腸疾患患者からの糞便が接種された培養培地
(v)比較のための糞便無し培養培地
への暴露時、重量測定法により測定した。
【0069】
1.5gの肉牛抽出物、3gの酵母抽出物、5gのトリプトン、2.5gのNaCl、および0.3gのL−システイン塩酸塩水和物を1Lの蒸留水(pH7.0±0.2)に溶解させ、続いてオートクレーブ中で滅菌することにより、培養培地を調製した。クローン病または潰瘍性結腸炎の患者の糞便さらには健常被験者の糞便をシステイン加リンゲル液で1:200に希釈し、この懸濁液2.5mLを培養培地で100mLに希釈した。100mLの予備加熱された培地が充填された120mLガラス容器に1.5×5cmのフィルム片を入れ、続いて37℃で水平振盪させた(GFL3033、Gesellschaft fur Labortechnik,Burgwedel,Germany)。嫌気的条件下(5%CO2、10%H2、85%N2)で糞便サンプルと共にインキュベーションを行った。所定の時間点でサンプルを抜き取り、過剰の水を除去し、フィルムを正確に秤量し(湿潤質量)、そして一定重量になるまで60℃で乾燥させた(乾燥質量)。時間tにおける水含有率(%)および乾燥フィルム質量(%)を以下のように計算した。
【0070】
【数1】
【0071】
A.4. 細菌学的分析
糞便サンプルの細菌学的分析のために、これをシステイン加リンゲル液で1:10に希釈した。システイン加リンゲル液で8つのさらなる10倍希釈液を調製し、0.1mLの各希釈液を非選択性改変Columbia血液寒天(全培養可能菌数を求めるため)およびMcConkey寒天(腸内細菌に対して選択性がある)にプレーティングした。Columbia血液寒天プレートを嫌気的条件下(5%CO2、10%H2、85%N2)37℃で1週間インキュベートした。コロニーの数は少なかった;主なコロニーを継代培養して、表現型同定基準に基づいて同定した。25枚のMcConkey寒天プレートを空気中37℃で48時間インキュベートした。コロニーの数は少なかったが、API 20Eシステム(BioMerieux,Balme−les−Grottes,France)を用いて同定した。新しい糞便でlog CFU/g(コロニー形成単位毎グラム)としてカウント数を表した。
【0072】
糞便サンプルと共にフィルムのインキュベーションを行った時に発生した微生物叢の細菌学的分析のために、グラム染色後、カメラ(Unit DS−L2,DS camera Head DS−Fi 1、Nikon,Tokyo,Japan)を備えたAxiostar plus顕微鏡(Carl Zeiss,Jena,Germany)を用いて顕微鏡写真を撮影した。嫌気的条件下、ごく少量のポリペプチドを含有する糖質フリーの培養培地(したがって、研究対象のポリサッカリドを基質として使用するのに有利である)中で、インキュベーションを行った。
【0073】
B. 結果および考察
B.1. 上部GIT内でのフィルムの性質
薬剤に対する高分子系の透過性は、巨大分子の密度および移動性を決定するその水含有率および乾燥質量に強く依存する。たとえば、乾燥ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)系マトリックス錠剤では、薬剤の見掛けの拡散係数はゼロに近づき、一方、完全水和HPMCゲルでは、水性溶液の場合と同程度の大きさの拡散率を達成可能である。水含有率の増加に伴って、巨大分子の移動性ひいては拡散に利用可能な自由体積は、有意に増大する。いくつかの系では、ポリマーは、臨界水含有率に到達し次第、ガラス相からゴム相への転移を起こす。これは、ポリマーおよび薬剤の移動性の有意な段階的増大を引き起こす。したがって、高分子フィルムコーティングの水含有率から巨大分子の移動性ひいては薬剤の透過性についての重要な見識を得ることが可能である。図1aおよび1bは、それぞれ、0.1N HCl中およびリン酸緩衝液pH6.8中での種々のタイプのポリサッカリド:ポリサッカリドエチルセルロースブレンドで構成される薄いフィルムの水取込み速度を示している。すべてのフィルムでエチルセルロースの存在により上部GIT内での早期溶解を回避することが可能である。研究対象のポリサッカリドはすべて水溶性であり、コーティングの周囲環境への薬剤透過性の感受性を提供することを目的とする。すなわち、結腸に達した時点で、ポリサッカリドは酵素分解され、薬剤放出が開始される。図1のポリサッカリド:ポリサッカリドエチルセルロースブレンド比は、一定すなわち1:3である。明らかなように、水取込み速度および水取込み率は、ポリサッカリドのタイプに有意に依存する。結腸ターゲッティングを可能にする理想的なフィルムコーティングは、上部GIT内での早期薬剤放出を防止するために、両方の培地でごく少量の水を低速度で取り込むものでなければならない。見てのとおり、エチルセルロースとBMDまたはエンドウデンプンとのブレンドは、この目的に最も有望である。水溶性ポリサッカリドを含まない可塑化エチルセルロースフィルム(白丸)は、わずかな量の水を取り込むにすぎない。
【0074】
水取込み速度のほかに、薄い高分子フィルムの乾燥質量損失挙動もまた、コーティングの薬剤に対する透過性ひいては上部GIT内で早期放出を抑制する可能性に対する指標として機能する。フィルムが放出培地への暴露時に有意量の乾燥質量を失う場合、コーティングは、多くの薬剤とくに5−アミノサリチル酸(5−ASA、153.1Da)のような低分子量のものに対して透過性になることが予想されうる。図2aおよび2bは、それぞれ、0.1N HClおよびリン酸緩衝液pH6.8への暴露時の、種々のポリサッカリド:ポリサッカリドエチルセルロースブレンド(一定比=1:3)で構成される薄いフィルムの実験的に決定された乾燥質量の損失を示している。理想的なフィルムは、わずかな量の乾燥質量を低速度で失うにすぎず(またはまったく質量を失わず)、これらの条件下で組込み薬剤に対して透過性の低い緻密高分子網状構造を確保する。見てのとおり、エンドウデンプン含有フィルムおよびBMD含有フィルムの乾燥質量損失は、これらの放出培地への8時間までの暴露の後でさえも非常に低い。観測された乾燥質量の減少は、少なくとも部分的には、バルク流体中への水溶性可塑剤トリエチルシトレート(TEC、水性エチルセルロース分散体を可塑化するために使用される)の浸出のためとすることが可能である。それに加えて、水溶性ポリサッカリドの一部は、フィルムから浸出する可能性がある。水溶性ポリサッカリドを含まない可塑化エチルセルロースフィルム(白丸)は、放出培地のタイプに関係なく、ごく少量の水を失うにすぎない。しかしながら、インタクトなエチルセルロースフィルムの透過性は、多くの薬剤に対して非常に低いことが知られており、これは、少なくとも部分的には、これらの系の低い水取込み速度および水取込み率のためとすることが可能である。このため、インタクトなエチルセルロースフィルムはまた、湿分保護コーティングとして使用される。ブレンド系の水取込み速度および水取込み率の増加(図1)は、ポリマー鎖の移動性のかなりの上昇ひいてはTECの移動性の増大を引き起こすので、バルク流体中への水溶性可塑剤TECの損失は、純粋(可塑化)エチルセルロースフィルムと比較して、25%(w/w)の水溶性ポリサッカリドを含有するフィルムではかなり顕在化すると予想されうることに留意されたい。
【0075】
図2に示された結果は一切の酵素の不在下で得られたことを指摘しておかなければならない。膵酵素が特定のポリサッカリドを分解可能であり、したがって、in vivo条件下で有意な質量損失および水取込みを誘導することにより、結果としてフィルムの薬剤に対する透過性が増大される可能性があることは周知である。この現象の重要性を明確化するために、リン酸緩衝液pH6.8中、パンクレアチン(=アミラーゼとプロテアーゼとリパーゼとを含有する混合物)の存在下、およびラット腸からの抽出物(アミラーゼとスクラーゼとイソマルターゼとグルコシダーゼとを含有する)の存在下で、薄いフィルムの水取込み速度および乾燥質量損失挙動をも測定した(図3)。明らかなように、これらの酵素の添加は、研究対象のフィルムの得られた水取込み速度および乾燥質量損失速度に有意な影響を及ぼさなかった。したがって、フィルムは、これらの酵素に対する基質として機能しない。
【0076】
B.2. 結腸内でのフィルムの性質
結腸に達した時点で、高分子フィルムコーティングは、薬剤に対して透過性にならなければならない。これは、たとえば、(部分的)酵素分解により誘導可能である。重要なこととして、特定の酵素の濃度は、上部GIT内よりも結腸内のほうがかなり多い。これは、結腸(GITのこの部分は胃および小腸よりもかなり多くの細菌を含有する)の天然微生物叢により生成される酵素を含む。しかしながら、炎症性腸疾患に罹患している患者の微生物叢は健常被験者の微生物叢と有意に異なる可能性があるので、このタイプの結腸ターゲッティング手法を使用する場合、多くの注意を払わなければならない。したがって、薬剤送達系は、患者の疾患状態に適合化されなければならない。表1は、たとえば、この試験に組み込まれた健常被験者、さらにはクローン病患者および潰瘍性大腸炎患者の糞便サンプルで決定された細菌の濃度を示している。重要なこととして、とくにビフィズス菌(複数の細胞外グリコシダーゼにより複合ポリサッカリドを分解可能である)および大腸菌(Escherichia coli)の濃度に関して有意差が存在し、これらの細菌は、炎症性腸疾患患者の糞便と比較して健常被験者の糞便ではかなり高濃度で存在していた。これとは対照的に、クローン病患者および潰瘍性大腸炎患者の糞便サンプルは、健常被験者では検出されなかったラクトース陰性の大腸菌(E. coli)、シトロバクター・フロインディー(Citrobacter freundii)、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)、クレブシエラ・オキシトカ(Klebsiella oxytoca)、およびエンテロバクター・クロアカエ(Enterobacter cloacae)を含有していた。したがって、微生物叢の質および量に関して基本的な差が存在し、これらを考慮に入れなければならない。すなわち、健常ボランティアにおいて生理学的条件下で結腸ターゲッティングを可能にする高分子フィルムコーティングは、患者の疾患状態では病態生理学的条件下でうまく機能しない可能性がある。ほとんどの場合無視されるこの非常に重大な問題点に対処するために、クローン病患者および潰瘍性大腸炎患者からの糞便サンプルさらには健常被験者の糞便への暴露時、ならびに比較のために純粋培養培地への暴露時の、種々のタイプのポリサッカリド:ポリサッカリドエチルセルロースブレンドで構成される薄いフィルムの水取込みおよび乾燥質量損失を調べた(図4)。適切なフィルムは、結腸内の炎症部位で薬剤放出を誘導するために、患者の糞便への暴露時にかなりの量の水を取り込みかつ有意な乾燥質量損失を示すものでなければならない。図4aおよび4bに見られるように、エチルセルロース:BMDおよびエチルセルロース:エンドウデンプン(これらは、上部GITの内容物をシミュレートした培地で得られた以上に記載の結果によれば、2つの最も有望なタイプのポリマーブレンドである)に基づくフィルムは、クローン病患者、潰瘍性結腸炎患者、さらには健常被験者の糞便への暴露時に有意な水取込みおよび乾燥質量損失を示す。他のタイプのポリマーブレンドもまた、糞便サンプルへの暴露時に呈したフィルムの水取込みおよび乾燥質量損失の挙動に関して有望である(さらにはエチルセルロース:BMDブレンドおよびエチルセルロース:エンドウデンプンブレンドよりも適切である)ように見える点に留意されたい。しかしながら、これらの系は、上部GITの内容物をシミュレートした培地との接触時に、すでにかなりの量の水を取り込みかつ乾燥質量を顕著に損失する(図1および2)。
【0077】
研究対象の高分子フィルムが炎症性腸疾患患者からの糞便中の細菌に対する基質として機能するという事実は、嫌気的条件下37℃で糞便サンプルへのフィルム暴露時に発生した微生物叢の分析によりさらに確認することが可能であった(図5)。明らかなように、特定のタイプの細菌は、ブレンドフィルムと共にインキュベートした時に増殖した。重要なこととして、この現象は、疾患状態の患者のGITの生態系にかなり有益で、結腸内の微生物叢を正常化することが期待できる。この非常に有望なプレバイオティクス効果は、薬剤ターゲティング効果に追加されて現れる。一切の高分子フィルムを用いずにまたは純粋(可塑化)エチルセルロースフィルムと共にインキュベートした生物学的サンプルは、かなり少ない細菌増殖を示した(図5)。
【0078】
結腸ターゲッティングが確認された新規な高分子フィルムコーティングは、患者の疾患状態に適合化された水不溶性ポリマー:ポリサッカリドブレンド、特定的には、エチルセルロース:BMDブレンド、エチルセルロース:エンドウデンプンブレンド、エチルセルロース:MDブレンド、エチルセルロース:EURYLON(登録商標)6A−PGブレンド、エチルセルロース:EURYLON(登録商標)6HP−PGブレンド、およびエチルセルロース:EURYLON(登録商標)7A−PGブレンドで構成される。重要なこととして、上部GITの内容物をシミュレートした培地中での水取込みおよび乾燥質量損失の速度および度合いが低いことと、炎症性腸疾患患者からの糞便との接触時に水取込みおよび乾燥重量損失が増大することと、を組み合わることが可能である。患者の結腸内の微生物叢の組成の変化から、これらのポリサッカリドは、疾患状態の結腸内細菌に対する基質として機能し、おそらく患者のGITの生態系に有益な効果を呈するであろうことが示唆される。したがって、得られた新しい知見は、薬剤を結腸に特異的に送達可能な新規高分子フィルムコーティングの開発の基礎を提供する。重要なこととして、これらの高分子障壁は、疾患状態の標的部位の病態に適合化される。
【0079】
実施例2
A. 材料および方法
A.1. 材料
アルファ化ヒドロキシプロピルエンドウデンプン(PS HP−PG)(LYCOAT(登録商標)RS780、Roquette Freres)、EURYLON(登録商標)7A−PG(アセチル化およびアルファ化高アミロースメイズデンプン(70%アミロース))(Roquette Freres,Lestrem,France)、EURYLON(登録商標)6A−PG(アセチル化およびアルファ化高アミロースメイズデンプン(60%アミロース))(Roquette Freres,Lestrem,France)およびEURYLON(登録商標)6HP−PG(ヒドロキシプロピル化およびアルファ化高アミロースメイズデンプン(60%アミロース))(Roquette Freres,Lestrem,France)、水性エチルセルロース分散体(Aquacoat ECD30、FMC Biopolymer,Philadelphia,USA)、トリエチルシトレート(TEC、Morflex,Greensboro,USA)。
【0080】
A.2. 薄い高分子フィルムの作製
さまざまなタイプのポリサッカリドと水性エチルセルロース分散体とのブレンドをテフロン(登録商標)成形型中にキャストし、続いて60℃で1日間乾燥させることにより、薄い高分子フィルムを作製した。水溶性ポリサッカリドを精製水(15%w/w、EURYLON(登録商標)7 A−PG、EURYLON(登録商標)6 A−PG、およびEURYLON(登録商標)6 HP−PGの場合は熱水)に溶解させ、指定どおり1:2、1:3、1:4、1:5(ポリマー:ポリマー w:w)の比で可塑化水性エチルセルロース分散体とブレンドした(エチルセルロース含有率を基準にして25.0、27.5、または30.0%w/wのTEC、一晩撹拌、15%w/wのポリマー含有率)。混合物を6時間攪拌してからキャストした。
【0081】
A.3. フィルムの特性解析
厚さゲージ(Minitest600、Erichsen,Hemer,Germany)を用いてフィルムの厚さを測定した。フィルムの平均厚さはすべて、300〜340μmの範囲内であった。フィルムの水取込み速度および乾燥質量損失速度を、0.1M HClおよびリン酸緩衝液pH6.8(USP30)への暴露時、次のように重量測定法により測定した。すなわち、100mLの予備加熱された培地が充填された120mLプラスチック容器に1.5×5cmの部片を入れ、続いて37℃で水平振盪させた(80rpm、GFL3033、Gesellschaft fuer Labortechnik,Burgwedel,Germany)。所定の時間点でサンプルを抜き取り、過剰の水を除去し、フィルムを正確に秤量し(湿潤質量)、そして一定重量になるまで60℃で乾燥させた(乾燥質量)。時間tにおける水含有率(%)および乾燥フィルム質量(%)を以下のように計算した。
【0082】
【数2】
【0083】
A.4. 薄いフィルムの機械的性質
テクスチャーアナライザー(TAXT.Plus、Winopal Forschungsbedarf,Ahnsbeck,Germany)および突刺試験を用いて乾燥状態および湿潤状態のフィルムの機械的性質を調べた。フィルム試料をフィルムホルダーに取り付けた(n=6)。突刺プローブ(球状端:直径5mm)をロードセル(5kg)に固定し、0.1mm/sのクロスヘッド速度でフィルムホルダーの孔の中心に向けて下方駆動させた。荷重対変位曲線をフィルムの破壊まで記録し、これを用いて次のような機械的性質を調べた。
【0084】
【数3】
【0085】
式中、Fは、フィルムを突刺するのに必要な荷重であり、かつAは、経路内に位置するフィルムの縁部の断面積である。
【0086】
【数4】
【0087】
式中、Rは、ホルダーの円筒孔内に露出したフィルムの半径を表し、かつDは、変位を表す。
【0088】
【数5】
【0089】
式中、AUCは、荷重対変位曲線下の面積であり、かつVは、フィルムホルダーのダイキャビティー内に位置するフィルムの体積である。
【0090】
B. 結果および考察
B.1. PS HP−PG:エチルセルロースブレンド
図6は、それぞれ0.1M HClおよびリン酸緩衝液pH6.8への暴露時のさまざまなタイプのPS HP−PG:エチルセルロースブレンドで構成される薄いフィルムの重量測定法により決定された水取込み速度および乾燥質量損失速度を示している。PS HP−PGは、アルファ化変性デンプンである。MDの場合と同様に、系中への水浸透の得られた度合いおよび速度は、ポリサッカリド:エチルセルロース比を1:5から1:2に増加させた場合、有意に増加した(図12、上側の図)。この場合も、これは、エチルセルロースと比較してポリサッカリドのより高い親水性のためとすることが可能である。高い初期PS HP−PG含有率で上部GIT内での易水溶性低分子量薬剤の早期放出を抑制するためには、おそらくコーティングレベルを適切に上昇させことが必要になるであろう。また、フィルムの乾燥質量損失の速度および度合いは、部分的なTECおよびポリサッカリドの浸出に起因して、PS HP−PG含有率の増加に伴って有意に増加した。いずれの場合も、水浸透および乾燥質量損失の速度および度合いは、以上で述べたようにSDSのpH依存的イオン化が原因で、0.1M HClと比較してリン酸緩衝液pH6.8では、より大きかった。MD:エチルセルロースブレンドの場合と同様に、PS HP−PG:エチルセルロースフィルムの機械的安定性は、初期エチルセルロース含有率を変化させることにより効果的に調整可能である。このことは、室温で乾燥状態での突刺強度、破断点伸び%、および破断点エネルギー(表2)、さらには0.1M HClおよびリン酸緩衝液pH6.8への暴露時の湿潤状態での機械的耐性(図7)についてもいえることであった。この場合も、時間に伴う破断点エネルギーの減少は、放出培地のタイプに関係なく、バルク流体中への部分的な可塑剤およびポリサッカリドの浸出のためとすることが可能である。
【0091】
B.2. EURYLON(登録商標)7A−PG:エチルセルロースブレンド
0.1M HClおよびリン酸緩衝液pH6.8中での1:2〜0:1のEURYLON(登録商標)7A−PG:エチルセルロースブレンドで構成される薄いフィルムの水取込み速度および乾燥質量損失速度は、図8に示されている。EURYLON(登録商標)7A−PGは、アセチル化およびアルファ化高アミロースメイズデンプン(70%アミロース)(Roquette Freres,Lestrem,France)である。見てのとおり、MD:エチルセルロースブレンドおよびPS HP−PG:エチルセルロースブレンドの場合と同一の傾向が観測された。すなわち、(i)水取込みの速度および度合いは、エチルセルロース含有率の減少に伴って増加し、(ii)乾燥質量損失の速度および度合いは、ポリサッカリド含有率の増加に伴って増加し、(iii)これらの効果は、0.1M HCl中よりもリン酸緩衝液pH6.8中のほうが顕著であった。重要なこととして、リン酸塩への2時間暴露時のフィルムの水含有率は、かなり大きく、約50%w/wであった。したがって、高い初期EURYLON(登録商標)7A−PG含有率では、上部GIT内での易水溶性低分子量薬剤の早期放出を抑制するために、おそらく高いコーティングレベルが必要になるであろう。重要なこととして、室温で乾燥状態では、EURYLON(登録商標)7A−PG:エチルセルロース系フィルムの機械的耐性は、MD:エチルセルロースブレンドおよびPS HP−PG:エチルセルロースブレンドで構成されるフィルムのものよりも有意に高かった(表2)。しかしながら、これらの差は、フィルムを0.1M HClおよびリン酸緩衝液pH6.8に暴露した場合、放出培地のタイプに関係なく、副次的なものとなった(図9)。重要なこととして、この場合も、ポリマーブレンド比を変化させることにより、フィルムの機械的安定性を効率的な調整することが可能であった。
【0092】
B.3. EURYLON(登録商標)6A−PG:エチルセルロースブレンドおよびEURYLONの(登録商標)6HP−PG:エチルセルロースブレンド
EURYLON(登録商標)6A−PGは、アセチル化およびアルファ化高アミロースメイズデンプン(60%アミロース)(Roquette Freres,Lestrem,France)であり、EURYLON(登録商標)6HP−PGは、ヒドロキシプロピル化およびアルファ化高アミロースメイズデンプン(60%アミロース)(Roquette Freres,Lestrem,France)である。興味深いことに、EURYLON(登録商標)6A−PG:エチルセルロースブレンドおよびEURYLONの(登録商標)6HP−PG:エチルセルロースブレンドで構成される薄いフィルムの乾燥質量損失は、それぞれ0.1M HClおよびリン酸緩衝液pH6.8への暴露時、他方の研究対象のポリマーブレンドほど顕著ではなかった(図10および12、下側の図)。このことは、乾燥質量損失の速度および度合いのいずれについても、さらにはすべての研究対象のポリマーブレンド比でもいえることであった。これとは対照的に、これらのフィルムの水取込みの速度および度合いは、さまざまな放出培地への暴露時、他のポリサッカリド:エチルセルロースブレンドのものに類似しており、高い初期ポリサッカリド含有率の場合、リン酸緩衝液pH6.8への1〜2時間暴露後、約50%w/wの水含有率に達した(図10および12、上側の図)。したがって、EURYLON(登録商標)6A−PG:エチルセルロースブレンドおよびEURYLON(登録商標)6HP−PG:エチルセルロースブレンドでは、低い初期エチルセルロース含有率で上部GIT内での易水溶性低分子量薬剤の早期放出を抑制するために、おそらく高いコーティングレベルが必要になるであろう。表2に見られるように、室温で乾燥状態のこれらのタイプのポリマーブレンドで構成される薄いフィルムの機械的性質は、同一のブレンド比のEURYLON(登録商標)7A−PG:エチルセルロースブレンドのものに類似していた。後者のブレンドの場合と同様に、0.1M HClまたはリン酸緩衝液pH6.8への暴露の結果、放出培地のタイプおよびポリマーのブレンド比に関係なく、巨大分子網状構造の機械的安定性の減少を生じた(図11および13)。重要なこととして、所望の系安定性は、この場合も、ポリマーブレンド比を変化させることにより効果的に調整可能である。
【0093】
結腸への部位特異的薬剤送達を提供する興味深い可能性を示す(かつ炎症性腸疾患患者の病態生理に適合化される)ポリサッカリド:水不溶性ポリマーブレンドで構成される薄い高分子フィルムの主要な性質は、ポリマーのブレンド比およびポリサッカリドのタイプを変化させることにより効果的に調整可能である。これは、上部GITの内容物をシミュレートした水性培地への暴露前および暴露時の水取込み速度、および乾燥質量損失速度、さらにはフィルムの機械的性質を含む。したがって、広範囲のフィルムコーティングの性質を容易に提供することが可能であるので、それぞれの薬剤治療のニーズ(たとえば、コア配合物の浸透活性および投与量)に適合化させることが可能である。
【0094】
実施例3
A. 材料および方法
A.1. 材料
エンドウデンプンN−735(エンドウデンプン、Roquette Freres,Lestrem,France)、Aquacoat ECD30(水性エチルセルロース分散体、FMC Biopolymer,Brussels,Belgium)、トリエチルシトレート(TEC、Morflex,Greensboro,NC,USA)、5−アミノサリチル酸(5−ASA、Sigma−Aldrich,Isle d’Abeau Chesnes,France)、微結晶性セルロース(Avicel PH101、FMC Biopolymer)、ベントナイトおよびポリビニルピロリドン(PVP、Povidone K30)(Coopertation Pharmaceutique Francaise,Melun,France)、パンクレアチン(哺乳動物膵臓由来=アミラーゼとプロテアーゼとリパーゼとの混合物)およびペプシン(Fisher Bioblock,Illkirch,France)、肉牛および酵母からの抽出物さらにはトリプトン(=カゼインの膵液消化物)(Becton,Dickinson and Company,Franklin Lakes,NJ,USA)、L−システイン塩酸塩水和物(Acros Organics,Geel,Belgium)、システイン加リンゲル液(Merck,Darmstadt,Germany)。
【0095】
A.2. フリーフィルムの作製
エンドウデンプンと水性エチルセルロース分散体(25%のTECで可塑化されている)とのブレンドをテフロン(登録商標)成形型上にキャストしてから制御下で乾燥(60℃で1日間)を行うことにより、薄いフリーフィルムを作製した。エンドウデンプンを65〜75℃で精製水中に分散させた(5%w/w)。25%のTEC(w/w、分散体の固形分含有率を基準にして)を用いて水性エチルセルロース分散体(15%w/w固形分含有率)を24時間可塑化した。次の比、すなわち、1:2、1:3、1:4、および1:5(ポリマー:ポリマー、w:w)でエンドウデンプンおよびエチルセルロース分散体を室温でブレンドした。混合物を6時間攪拌してからキャストした。
【0096】
A.3. フリーフィルムの特性解析
厚さゲージ(Minitest600、Erichsen,Hemer,Germany)を用いてフィルムの厚さを測定した。フィルムの平均厚さはすべて、300〜340μmの範囲内であった。
【0097】
次のように、37℃で(i)模擬胃液(0.1M HCl)および(ii)模擬腸液[リン酸緩衝液pH6.8(USP32)]への暴露時、フィルムの水取込み速度および乾燥質量損失速度を重量測定法により測定した。100mLの予備加熱された培地が充填された120mLプラスチック容器に1.5cm×5cmの断片を入れ、続いて37℃で水平振盪させた(80rpm、GFL3033、Gesellschaft fuer Labortechnik,Burgwedel,Germany)。所定の時間点でサンプルを抜き取り、過剰の水を除去し、フィルムを正確に秤量し(湿潤質量)、そして一定重量になるまで60℃で乾燥させた(乾燥質量)。時間tにおける水含有率(%)および乾燥フィルム質量(%)を以下のように計算した。
【0098】
【数6】
【0099】
乾燥状態でならびに0.1M HClおよびリン酸緩衝液pH6.8への暴露時(湿潤状態で)、テクスチャーアナライザー(TAXT.Plus、Winopal Forschungsbedarf,Ahnsbeck,Germany)および突刺試験を用いて、フィルムの機械的性質を調べた。フィルム試料をフィルムホルダーに取り付けた(n=6)。突刺プローブ(球状端:直径5mm)をロードセル(5kg)に固定し、0.1mm/sのクロスヘッド速度でフィルムホルダーの孔の中心に向けて下方駆動させた。荷重対変位曲線をフィルムの破壊まで記録し、これを用いて次のような機械的性質を調べた。
【0100】
【数7】
【0101】
式中、Fは、フィルムを突刺するのに必要な荷重であり、かつAは、経路内に位置するフィルムの縁部の断面積である。
【0102】
【数8】
【0103】
式中、Rは、ホルダーの円筒孔内に露出したフィルムの半径を表し、かつDは、変位を表す。
【0104】
【数9】
【0105】
式中、AUCは、荷重対変位曲線下の面積であり、かつVは、フィルムホルダーのダイキャビティー内に位置するフィルムの体積である。
【0106】
A.4. コーティング付きペレット剤の作製
押出しおよびそれに続く球状化により、薬剤(5−アミノサリチル酸、5−ASA)担持ペレット剤スターターコア(直径:0.7〜1.0mm、60%5−ASA、32%微結晶性セルロース、4%ベントナイト、4%PVP)を次のように作製した。すなわち、それぞれの粉末を高速グラニュレーター(Gral10、Collette,Antwerp,Belgium)でブレンドし、均一塊が得られるまで精製水を添加した(100gの粉末ブレンドに対して41gの水)。湿潤混合物をシリンダー押出し機(SK M/R、孔:直径1mm、厚さ3mm、回転速度:96rpm、Alexanderwerk,Remscheid,Germany)に通した。続いて、押出し物を520rpmで2分間球状化し(Spheroniser Model15、Calveva,Dorset,UK)、流動床(ST15、Aeromatic,Muttenz,Switzerland)を用いて40℃で30分間乾燥させた。篩分けによりサイズ画分0.7〜1.0mmを得た。次に、さまざまなエンドウデンプン:エチルセルロースブレンドを用いて、Wursterインサートを備えた流動床コーター(Strea1、Aeromatic−Fielder,Bubendorf,Switzerland)により、5、10、15、または20%(w/w)の重量増加が達成されるまで、これらの薬剤担持スターターコアにコーティングを施した。フィルムキャスティングで使用した分散体と同一の方式でコーティング配合物を調製した(第2.2節のフリーフィルムの作製で記載したとおり)。プロセスパラメーターは次のとおりであった。入口温度=39±2℃、生成物温度=40±2℃、スプレー速度=1.5〜3g/分、アトマイゼーション圧力=1.2bar、ノズル直径=1.2mm。その後、ペレット剤をさらに10分間流動化させ、続いて、60℃のオーブン中で24時間硬化させた。
【0107】
A.5. コーティング付きペレット剤からの薬剤放出
下の胃腸管内の状態をシミュレートした培地でコーティング付きペレット剤からの薬剤放出を測定した。
【0108】
上部胃腸管: 100mL溶解培地、すなわち、最初の2時間の間、0.1M HCl(場合により0.32%のペプシンを含有していてもよい)、続いて9時間の間、リン酸緩衝液pH6.8(USP32)(場合により1%のパンクレアチンを含有していてもよい)が充填された120mLプラスチック容器にペレット剤を入れた。水平振盪機(80rpm、GFL3033)を用いてフラスコを撹拌した。所定の時間点で3mLのサンプルを抜き取って薬剤含有率に関してUV分光光度法により分析した(0.1M HCl中ではλ=302.6nm、リン酸緩衝液pH6.8中ではλ=330.6nm)(UV−1650、Shimadzu,Champs sur Marne,France)。UV測定前、酵素の存在下で、サンプルを11000rpmで15分間遠心分離し、続いて濾過した(0.2μm)。各実験を三重反復方式で行った。
【0109】
全胃腸管: USP装置3(Bio−Dis、Varian,Paris,France)(浸漬速度=10dpm)を用いて、ペレット剤を0.1M HCl(USP32)に2時間暴露し、続いてリン酸緩衝液pH6.8に9時間暴露した。その後、(i)炎症性腸疾患患者からの糞便が接種された100mL培養培地、(ii)ビフィズス菌が接種された培養培地、または(iii)比較のために糞便および細菌を含まない培養培地が充填された120mLフラスコにペレット剤を移した。嫌気的条件下(5%CO2、10%H2、85%N2)37℃でサンプルを撹拌した(50rpm)。1.5gの肉牛抽出物、3gの酵母抽出物、5gのトリプトン、2.5gのNaCl、および0.3gのL−システイン塩酸塩水和物を1Lの蒸留水(pH7.0±0.2)に溶解させ、続いてオートクレーブ中で滅菌することにより、培養培地を調製した。クローン病または潰瘍性結腸炎に罹患している患者の糞便をシステイン加リンゲル液で1:200に希釈し、この懸濁液2.5mLを培養培地で100mLに希釈した。所定の時間点で、2mLサンプルを抜き取り、13000rpmで5分間遠心分離し、濾過し(0.22μm)、そしてその薬剤含有率に関してHPLCにより分析した(ProStar230、Varian)。移動相は、10%のメタノールと90%の水性酢酸溶液(1%w/v)とで構成されるものであった(Siew et al.,2000a)。サンプルをPursuit C18カラム(150×4.6mm、5μm)に注入した。流量は1.5mL/minであった。λ=300nmでUV分光光度法により薬剤を検出した。
【0110】
新たに作製されたペレット剤(とくに明記されていないかぎり)さらには開放ガラスバイアル中で室温(23±2℃)かつ周囲相対湿度(55±5%)で1年間貯蔵したペレット剤からの薬剤放出を測定した。
【0111】
B. 結果および考察
B.1. 薄いフィルムの水取込みおよび乾燥質量損失
理想的には、結腸への部位特異的薬剤送達を可能にする高分子フィルムコーティングは、胃腸管の上部すなわち胃および小腸での薬剤放出を効果的に抑制するものでなければならない。したがって、フィルムコーティング(これは薬剤保持体を取り囲む)は、これらの器官の内容物をシミュレートした培地への暴露時、薬剤に対して透過性が悪くなければならない(早期薬剤放出およびそれに続く血流中への吸収を回避するため)。高分子フィルムコーティングがバルク流体への暴露時に有意量の水を取り込むかまたはかなりの量の乾燥質量を損失する場合、薬剤分子に対するその透過性は、著しく増大することが予想されうる[]。このため、(a)0.1M HCl(胃の内容物をシミュレートしたもの)への2時間の暴露時および(b)リン酸緩衝液pH6.8(小腸の内容物をシミュレートしたもの)への8時間の暴露時、薄いエンドウデンプン:エチルセルロースフィルムの水取込み速度および乾燥質量損失速度をモニターした。図14は、時間の関数としてフィルムの実験的に決定された水含有率を示している。エンドウデンプン:エチルセルロースブレンド比は、指定どおり1:2〜1:4で変化させた。比較のために、(可塑化)エチルセルロースのみで構成されるフィルム(黒三角)も試験した。見てのとおり、水取込みの速度および度合いは、このポリマーの親水性に起因してエンドウデンプン含有率の増加に伴って増加した。重要なこととして、水取込みは、いずれの場合も制限された(30%未満)。pH1.2と比較してpH6.8でわずかに高い水取込みの速度および度合い(図14b対14a)は、おそらく、フィルムの作製に使用された水性エチルセルロース分散体中に存在してこの分散体の安定化剤として機能するナトリウムドデシルスルフェート(SDS)の存在のためとすることが可能である。低pHでは、SDSは、プロトン化されて非荷電であるが、pH6.8では、脱プロトン化されるので負荷電である。そのため、その親水性は増加され、フィルム中への水浸透は促進される[]。
【0112】
図15は、(a)0.1M HClおよび(b)リン酸緩衝液pH6.8への暴露時の、種々のエンドウデンプン:エチルセルロースフィルムの実験的に測定された乾燥質量損失速度を示している。見てのとおり、乾燥質量損失の速度および度合いは、エンドウデンプン含有率の増加に伴ってわずかに増加した。この原因は、このポリサッカリドが水との接触時に有意に膨張することにより、周囲のバルク流体中への水溶性フィルム化合物(たとえば、水溶性可塑剤TEC[])の浸出が促進されることにある。最小の質量損失は、培地のタイプに関係なく、エンドウデンプンフリーのフィルムで観測された。これは、エチルセルロースが水性培地との接触時に劣った膨潤性および浸透性を示すという事実のためとすることが可能である。それは、水溶性化合物の浸出を効果的に妨害する。
【0113】
したがって、エンドウデンプン:エチルセルロースフィルムの観測された水取込みおよび乾燥質量損失の速度は、胃内および小腸内で薬剤放出を妨害する障壁膜としてこのフィルムを使用する可能性に関して非常に有望である。所要により、フィルム厚さおよび/またはエチルセルロース含有率を増加させてもよい。しかしながら、十分量のエンドウデンプンがコーティング中に存在するように注意を払わなければならない。なぜなら、この化合物は、結腸内での薬剤放出の開始を誘導するために意図されているからである(結腸内細菌から分泌される酵素により分解される)。
【0114】
B.2. 薄いフィルムの機械的性質
制限された水取込みおよび乾燥質量損失に加えて、結腸への部位特異的薬剤送達を目的とする高分子フィルムコーティングは、十分な機械的安定性を提供しなければならない。胃および小腸の生理的運動に起因して、機械的応力がコーティング付き製剤に加わる。フィルムコーティングが脆弱である場合、亀裂形成を生じて、水で満たされたチャネルを介して薬剤が急速に放出される。研究対象のエンドウデンプン:エチルセルロースブレンドの機械的安定性を評価するために、テクスチャーアナライザーおよび突刺試験を使用した。図16は、(a)破断点突刺強度、(b)破断点伸び%、および(c)乾燥状態の薄い高分子フィルムの破断に必要なエネルギーを示している。明らかなように、フィルムの機械的安定性は、エチルセルロース含有率の増加に伴って有意に増大した。興味深いことに、すべての値が比較的高いことから、通常の厚さを有するフィルムコーティングは、in vivoで胃腸管内で受ける機械的応力に耐えられることが示唆される。
【0115】
しかしながら、図16に示される結果は、乾燥フィルムを用いて得られたものであることを指摘しておかなければならない。水性バルク流体との接触時、高分子フィルムコーティングの機械的性質は、たとえば、周囲のバルク流体中への化合物浸出および/または水の可塑化効果に起因して、有意に変化する可能性がある[Erreur ! Signet non defini.,Erreur ! Signet non defini]。図17aおよび17bは、さまざまな組成の湿潤フィルムの破断に必要なそれぞれのエネルギーを示している。明らかなように、すべてのフィルムの機械的強度は、バルク流体のタイプに関係なく、暴露時間の増加に伴って低下した。これは、少なくとも部分的には、バルク流体中への水溶性可塑剤TECの浸出のためとすることが可能である[Erreur ! Signet non defini.]。予想どおり、エチルセルロース含有率の増加は、両方の培地でフィルムの破断に必要なエネルギーの増大を引き起こした。重要なこととして、すべてのフィルムコーティングは、おそらく、湿潤状態でも胃腸管内でin vivoで受ける機械的応力に耐えるであろうことが観測値から示唆される(一般に使用されるコーティングレベルで)。
【0116】
B.3. 上部胃腸管内での薬剤放出
理想的には、薬剤は、胃内および小腸内で製剤からまったく放出されないかまたはごくわずかに放出されるものでなければならない。図18の実線の曲線は、37℃で0.1M HCl(2時間)中へのそれに続いてリン酸緩衝液pH6.8(9時間)中への、0、5、10、15、および20%(w/w)のコーティングレベルでエンドウデンプン:エチルセルロース1:2でコーティングされたペレット剤からの実験的に決定された薬剤放出速度を示している。見てのとおり、5−アミノサリチル酸は、コーティング無しペレット剤さらには5%のエンドウデンプン:エチルセルロース1:2のみでコーティングされたペレット剤から急速に放出された。これは、少なくとも部分的には、高分子障壁の不十分な厚さと共に、放出培地への暴露時のこれらのフィルムコーティングの水取込みおよび乾燥質量損失のためとすることが可能である(図14および15)。重要なこととして、10%(w/w)以上のコーティングレベルでは、薬剤放出は、効果的に遅延された(おそらく拡散経路長の増加およびフィルムコーティングの機械的安定性の増加に起因して)。
【0117】
しかしながら、in vivoで胃腸管内の酵素の存在が、たとえば部分的なポリマー分解に起因して、フィルムコーティングの性質に有意な影響を及ぼす可能性があることを指摘しておかなければならない。このため、(i)0.32%のペプシンを含有する0.1M HCl(2時間)それに続いて(ii)1%のパンクレアチンを含有するリン酸緩衝液pH6.8(9時間)でもコーティング付きペレット剤からの薬剤放出を測定した。それぞれの結果は、図18に点線の曲線で示されている。明らかなように、いずれの場合も、薬剤放出速度は、ごくわずかに増加した。したがって、in vivoでのそのような酵素分解の重要性は、おそらく限られたものであろう。
【0118】
フィルムの相対エチルセルロース含有率を増加させた結果、水取込みおよび乾燥質量損失の速度および度合いの低下(図14および15)さらには乾燥状態および湿潤状態のフィルムの機械的安定性の増大(図16および17)を生じたので、さまざまなコーティングレベルでエンドウデンプン:エチルセルロース1:3、1:4、および1:5ブレンドでコーティングされたペレット剤からの薬剤放出を測定した(図19)。興味深いことに、これらの場合、わずか5%(w/w)のフィルムコーティングでさえも、薬剤放出の速度を低下させることが可能である。しかしながら、10%以上のコーティングレベルは、薬剤放出が観測期間内でほとんど完全に抑制されるので、より適切である。
【0119】
得られた結果(図14〜19)に基づいて、15%および20%のコーティングレベルでエンドウデンプン:エチルセルロース1:4でコーティングされたペレット剤を選択してさらなる試験に供した。
【0120】
B.4. 全胃腸管内での薬剤放出
製剤が結腸に達した時点で、フィルムコーティングは、薬剤に対して透過性にならなければならず、かつ時間制御された形で薬剤を放出しなければならない。図20aは、(i)2時間の間、0.1M HCl、続いて(ii)9時間の間、リン酸緩衝液pH6.8、さらには(c)10時間の間、炎症性腸疾患患者からの糞便サンプルが接種された培養培地中への、15%および20%(w/w)のコーティングレベルでエンドウデンプン:エチルセルロース1:4でコーティングされたペレット剤からの5−アミノサリチル酸の実験的に測定された放出を示している(実線の曲線)。比較のために、糞便を含まない培養培地への暴露時の薬剤放出も示されている(点線の曲線)。明らかなように、薬剤放出は、ペレット剤が糞便サンプルに接触し次第、開始された。これは、患者の結腸中に存在する細菌により分泌された酵素によるエンドウデンプンの(少なくとも部分的な)分解のためとすることが可能である。ポリマー分子量の減少およびそれに続く周囲のバルク流体中への分解産物の拡散は、残りの巨大分子網状構造をより動きやすくする。したがって、フィルムコーティング内の薬剤分子の移動性も増大するので、放出速度が増加する。これとは対照的に、糞便を含まない培養培地への暴露時、薬剤放出速度は、低いままであった(図20aの点線の曲線)。このことから、薬剤放出は、IBD患者の結腸中に存在する酵素が引き金となって起こることが確認される。実用的な観点から、15%のコーティングレベルは、20%のコーティングレベル(結腸内で低すぎる薬剤放出を生じる可能性がある)よりも好ましいように思われる。
【0121】
炎症性腸疾患患者からの新しい糞便サンプルの定期的な供給を確保するのは困難であるので(しかも微生物叢の有意な損傷を伴うことなくサンプルを急速冷凍または凍結乾燥することはできないので)、患者の結腸内の状態をシミュレートした代替的なタイプの放出培地を提供することがきわめて望ましい。細菌酵素の存在に敏感な薬剤送達系では、バルク流体が決定的なタイプおよび量の細菌を含有することに注意を払わなければならない。この試験では、新しい糞便サンプルが接種された培養培地の有力な代替手段として、ビフィズス菌が接種された培養培地を試験した。図20bは、0.1M HCl(2時間)、リン酸緩衝液pH6.8(9時間)、およびビフィズス菌が接種された培養培地(10時間)への暴露時の図20aに示されたのと同一タイプのペレット剤からの観測された薬剤放出速度を示している。図20aおよび20bを比較すると、ビフィズス菌が接種された培養培地は、とくに定型的な用途(たとえば大規模生産での品質管理)で、IBD患者からの新しい糞便サンプルの代用として有望な可能性を示すことが明らかになる。
【0122】
可塑剤としてジブチルセバケートを用いて類似の結果が得られたことから(データは示さず)、制御放出性送達でのエンドウデンプンの効率は、可塑剤依存性でないことが確認される。
【0123】
B.5. 貯蔵安定性
実用的な観点から非常に重要な側面は、制御薬剤送達系の長期安定性である。製剤は、理想的には、少なくとも3年間にわたり安定でなければならない。ポリマーコーティング付き送達システムの場合、得られる薬剤放出速度は、たとえば、フィルムコーティング中への薬剤のマイグレーションに起因して、最終的に、貯蔵期間の増加に伴って増加する可能性がある。図21は、開放ガラスバイアル中での1年間の貯蔵の前および後(実線および点線の曲線)の10、15、および15%(指定どおり)のコーティングレベルでエンドウデンプン:エチルセルロース1:4でコーティングされたペレット剤からの薬剤放出速度を示している。系を0.1M HClに2時間暴露し、続いてリン酸緩衝液pH6.8に9時間暴露した。見てのとおり、放出速度は、長期貯蔵時、変わらずに保持された。10、15、および20%のコーティングレベルでエンドウデンプン:エチルセルロース1:2、1:3、および1:5でコーティングされたペレット剤でも、同じことが言える(データは示さず)。したがって、提案された薬剤送達系は、長期間安定である。
【0124】
C. 結論
エンドウデンプン:エチルセルロース系フィルムコーティングは、結腸への部位特異的薬剤送達に関してかなり有望な可能性があるものとして提案された。コーティング付きペレット剤からの薬剤放出は、胃および小腸の内容物をシミュレートした培地中で効果的に抑制可能である。しかしながら、本考案物が糞便サンプルに接触し次第、炎症性腸疾患患者の結腸内に存在する細菌から分泌される酵素によるエンドウデンプンの部分的な分解に起因して、薬剤放出が開始され、かつ時間制御される。したがって、このタイプの先進的な送達システムは、上部胃腸管内での早期薬剤放出(およびそれに続く血流中への吸収)を回避できるようにすると同時に、作用部位での薬剤の放出を確保できるようにする。したがって、人体の残りの部分での望ましくない副作用は、最小限に抑えられることが予想されうると同時に、薬剤の治療効果は、おそらく最適化されるであろう。
【0125】
実施例4
A. 材料および方法
A.1 材料
2,4,6−トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)(Sigma−Aldrich,Isle d’Abeau Chesnes,France)、システイン加リンゲル液(Merck,Darmstadt,Germany)、BMD(NUTRIOSE(登録商標)FB06、Roquette Freres,Lestrem,France)、エンドウデンプンN−735(エンドウデンプン、Roquette Freres,Lestrem,France)、水性エチルセルロース分散体(Aquacoat ECD30、FMC Biopolymer,Philadelphia,USA)、トリエチルシトレート(TEC、Morflex,Greensboro,USA)、5−アミノサリチル酸(5−ASA、Sigma−Aldrich,Isle d’Abeau Chesnes,France)、微結晶性セルロース(Avicel PH101、FMC Biopolymer,Brussels,Belgium)、ポリビニルピロリドン(PVP、Povidone K30)(Cooperation Pharmaceutique Francaise,Melun,France)、Pentasa(登録商標)(コーティング付きペレット剤、Ferring、バッチ番号:JX155)、Asacol(登録商標)(コーティング付き顆粒剤、Meduna、バッチ番号:TX143)。
【0126】
A.2 BMD:エチルセルロースコーティング付きペレット剤およびエンドウデンプン:エチルセルロースコーティング付きペレット剤の作製
押出しおよびそれに続く球状化により5−アミノサリチル酸(5−ASA)担持ペレット剤スターターコア(直径:0.7〜1.0mm、60%5−ASA、32%微結晶性セルロース、4%ベントナイト、4%PVP)を次のように作製した。すなわち、それぞれの粉末を高速グラニュレーター(Gral10、Collette,Antwerp,Belgium)でブレンドし、均一塊が得られるまで精製水を添加した(100gの粉末ブレンドに対して41gの水)。湿潤混合物をシリンダー押出し機(SK M/R、孔:直径1mm、厚さ3mm、回転速度:96rpm、Alexanderwerk,Remscheid,Germany)に通した。続いて、押出し物を520rpmで2分間球状化し(Spheroniser Model15、Calveva,Dorset,UK)、流動床(ST15、Aeromatic,Muttenz,Switzerland)を用いて40℃で30分間乾燥させた。篩分けによりサイズ画分0.7〜1.0mmを得た。
【0127】
続いて、Wursterインサートを備えた流動床コーター(Strea1、Aeromatic−Fielder,Bubendorf,Switzerland)を用いて、15%(w/w)(BMD:ECコーティング付きペレット剤)または20%(w/w)(エンドウデンプン:ECコーティング付きペレット剤)の重量増加が達成されるまで、得られた薬剤担持スターターコアをBMD:エチルセルロース1:4ブレンド(BMD:ECコーティング付きペレット剤)またはエンドウデンプン:エチルセルロース1:2ブレンド(エンドウデンプン:ECコーティング付きペレット剤)でコーティングした。
【0128】
BMDを精製水に溶解させ(5%w/w)、1:4の比(w/w、非可塑化ポリマー乾燥質量を基準にして)で可塑化水性エチルセルロース分散体とブレンドし(25%TEC、一晩撹拌、15%w/wポリマー含有率)、コーティング前に6時間攪拌した。Wursterインサートを備えた流動床コーター(Strea1、Aeromatic−Fielder,Bubendorf,Switzerland)を用いて、15%(w/w)の重量増加が達成されるまで薬剤担持ペレット剤コアにコーティングを施した。プロセスパラメーターは次のとおりであった。入口温度=39±2℃、生成物温度=40±2℃、スプレー速度=1.5〜3g/分、アトマイゼーション圧力=1.2bar、ノズル直径=1.2mm。コーティング後、ビーズをさらに10分間流動化させ、続いて、60℃のオーブン中で24時間硬化させた。
【0129】
エンドウデンプンを65〜75℃で精製水中に分散させた(5%w/w)。25%のTEC(w/w、分散体の固形分含有率を基準にして)を用いて水性エチルセルロース分散体(15%w/w固形分含有率)を24時間可塑化した。エンドウデンプンおよびエチルセルロース分散体を次の比すなわち1:2(ポリマー:ポリマー、w:w)で室温でブレンドした。混合物を6時間攪拌してからコーティングした。Wursterインサートを備えた流動床コーター(Strea1、Aeromatic−Fielder,Bubendorf,Switzerland)を用いて、20%(w/w)の重量増加が達成されるまで薬剤担持ペレット剤コアにコーティングを施した。プロセスパラメーターは次のとおりであった。入口温度=39±2℃、生成物温度=40±2℃、スプレー速度=1.5〜3g/分、アトマイゼーション圧力=1.2bar、ノズル直径=1.2mm。その後、ペレット剤をさらに10分間流動化させ、続いて、60℃のオーブン中で24時間硬化させた。
【0130】
A.3 結腸炎の誘導および試験デザイン
雄ウィスターラット(250g)をin vivo試験に使用した。この試験は、政府ガイドライン(86/609/CEE)に準拠してInstitut Pasteur de Lilleの公認施設(A35009)で行った。1ケージあたり4匹の動物を飼育した。ラットはすべて、水道水を自由に利用できた。
【0131】
実験の開始時(0日目)、ラットを6群(5〜8匹の動物/群)に分けた。2つの群は、標準飼料を摂取した(陰性および陽性の対照群)。他の群は、Pentasa(登録商標)ペレット剤(n=8)、Asacol(登録商標)ペレット剤(n=8)、BMD:エチルセルロースコーティング付きペレット剤(n=8)、またはエンドウデンプン:エチルセルロースコーティング付きペレット剤(n=8)のいずれかを含む食物を摂取した。「食物混合」技術を用いて、これらの4つの異なる飼料を調製した。系はすべて、150mg/kg/日の5−ASAの用量が得られるように添加された。
【0132】
3日目、以下のように結腸炎を誘導した:ペントバルビタール(40mg/kg)を用いてラットを90〜120分間麻酔し、水性0.9%NaCl溶液と100%エタノールとの1:1混合物に溶解されたTNBS(250μl、20mg/ラット)の直腸内投与を施した。対照ラット(陰性対照)には媒体のみ(水性0.9%NaCl溶液と100%エタノールとの1:1混合物)の直腸内投与を施した。直腸内TNBS投与または直腸内媒体投与の3日後(6日目)、動物を屠殺した。
【0133】
A.4 結腸炎の巨視的および組織学的な評価
結腸炎の巨視的および組織学的な指標を2名の研究者により盲検的に評価した。Ameho基準に従って組織学的評価を行うために、肛門管から正確に4cm上に位置する結腸検体を使用した。0〜6の尺度に基づくこの等級付けは、炎症浸潤の度合い、糜爛、潰瘍、または壊死の存在、ならびに病変の深さおよび表面積を考慮に入れる。
【0134】
A.5 統計
ノンパラメトリック検定(マン・ホイットニー検定)を用いてすべての比較を解析した。P値が<0.05であった場合、差は、統計学的に有意であると判断された。
【0135】
B 結果および考察
TNBS起因性結腸炎は、BMD:エチルセルロースコーティング付きペレット剤およびエンドウデンプン:エチルセルロースコーティング付きペレット剤で治療することにより改善される。
【0136】
直腸内TNBS投与が施された動物における結腸炎の進行を特徴付けた。媒体のみ(水性0.9%NaCl溶液と100%エタノールとの1:1混合物)の直腸内投与の3日後に屠殺された対照ラット(陰性対照群)は、結腸内に巨視的病変を有していなかった(図22A)。これとは対照的に、TNBS投与の3日後程度の早い時期に重篤な結腸炎が誘導された(図22B)。組織学的レベルに関して、対照ラットでは異常は検出されなかった(図24:対照=陰性対照群)。これとは対照的に、TNBS投与の3日後、結腸組織構造は、好中球浸潤を伴う大きい潰瘍面積により特徴付けられ、筋層の深部にまで壊死が広がった(図24:TNBS)。BMD:エチルセルロースコーティング付きペレット剤で処理された動物の結腸は、病変の有意な減少を示した(図22)。この結果は、エンドウデンプン:エチルセルロースコーティング付きペレット剤で処理されたラットの場合(データは示さず)と類似していた。さらに、TNBS起因性結腸病変に及ぼすPentasa(登録商標)ペレット剤、Asacol(登録商標)ペレット剤、BMD:エチルセルロースコーティング付きペレット剤、およびエンドウデンプン:エチルセルロースコーティング付きペレット剤による処理の影響を、Amehoスコアを用いて検討した(図29)。結腸炎を有する未処理ラットを比較のために調べた。最適効果は、BMD:エチルセルロースコーティング付きペレット剤を用いた場合およびエンドウデンプン:エチルセルロースコーティング付きペレット剤を用いた場合に得られた。結腸炎誘導の3日後、結腸炎を有する未処理ラットと比較して、BMD:エチルセルロースコーティング付きペレット剤およびエンドウデンプン:エチルセルロースコーティング付きペレット剤の投与が予防的に施されたラットで、巨視的病変スコアの有意な減少が観測された。巨視的炎症に対応して、組織学的分析によっても、(i)直腸内にTNBS、(ii)直腸内にTNBSかつ経口的にPentasa(登録商標)ペレット剤、(iii)直腸内にTNBSかつ経口的にAsacol(登録商標)ペレット剤、(v)直腸内にTNBSかつ経口的にBMD:エチルセルロースコーティング付きペレット剤、および(v)直腸内にTNBSかつ経口的にエンドウデンプン:エチルセルロースコーティング付きペレット剤で処理された動物間に主要な差が確認された(図24)。これは、TNBS投与の3日後のAmeho炎症スコアの有意な減少に反映された(図23)。明らかなように、BMD:エチルセルロースコーティング付きペレット剤およびエンドウデンプン:エチルセルロースコーティング付きペレット剤の投与は、より小さい多型炎症性浸潤、限局的な浮腫、および小さい巣状壊死病変で構成される炎症性病変を低減させた(図24)。TNBS、TNBSかつPentasa(登録商標)ペレット剤、およびTNBSかつAsacol(登録商標)ペレット剤で処理した場合、固有層での顕著な炎症性浸潤ならびに筋層および漿膜層の深部にまで広がる壊死を伴う結腸壁の肥厚がはっきりと認められる。
【0137】
これらの結果から、in vivoでの結腸ターゲッティング用に提案された新規なフィルムコーティングの有効性が明確に実証される。
【0138】
【表1】
【0139】
【表2】
【0140】
【表3】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性成分(複数可)を制御送達するための製剤に関する。本発明はまた、その使用および製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
結腸ターゲッティングは、クローン病(CD)や潰瘍性結腸炎(UC)のような炎症性腸疾患の治療をはじめとする多くの薬剤療法に非常に有用である可能性がある。
【0003】
局所作用性薬剤を従来の医薬製剤により経口投与した場合、後者は、胃の内容物中に急速に溶解され、薬剤は、放出されておそらく血流中に吸収される。これにより全身の薬剤濃度が上昇するので、望ましくない副作用の危険性が高くなると同時に結腸内の作用部位での薬剤濃度が低下し、結果的に治療効率が悪くなる。これらの制約は、薬剤放出が胃内および小腸内では抑制され、かつ結腸内では時間制御されるのであれば、克服可能である。結腸へのこのタイプの部位特異的薬剤送達はまた、タンパク質およびペプチドの薬剤が経口投与により体循環血流中に吸収される興味深い機会を与える可能性もある。
【0004】
結腸ターゲッティングを可能にするために、たとえば、薬剤を高分子マトリックス形成材中に包埋することが可能であるか、または薬剤担持型の錠剤もしくはペレット剤、たとえば直径約0.5〜1mmの球状ビーズ剤であることが可能であるか、または高分子フィルムでコーティングしたものであることが可能である。上部胃腸管(GIT)内では、薬剤に対する高分子網状構造の透過性は、低くなければならないが、巨大分子障壁は、結腸に達した時点で透過性にならなければならない。作用部位での高分子網状構造の薬剤透過性のこの増大は、(i)GITの内容物のpH変化、(ii)GITに沿った酵素の質および/もしくは量の変化、または(iii)所定の遅延時間後に生じる製剤内の有意な構造変化(たとえば、脈動的薬剤放出パターンを提供する低透過性フィルムコーティングの亀裂形成)により誘導可能である。‘’‘他の選択肢として、薬剤放出は、薬剤が結腸に達した時点で依然として製剤内にあることを保証するのに十分な程度に低速度で、すでに胃内で開始されてGIT全体にわたり持続されるようにしてもよい。
【0005】
結腸ターゲッティングの問題を解決する試みは、プレドニゾロンナトリウムメタスルホベンゾエートを送達するための制御放出性製剤に関する米国特許出願公開第2005/0220861号明細書に開示されている。この製剤は、ガラス状アミロースとエチルセルロースとジブチルセバケートとを含むコーティングに取り囲まれたプレドニゾロンナトリウムメタスルホベンゾエートを含む。ただし、アミロースとエチルセルロースとの比は、(1:3.5)〜(1:4.5)であり、かつアミロースは、トウモロコシまたはメイズのアミロースである。米国特許出願公開第2005/0220861号明細書とは対照的に、本発明に記載の系は、患者の疾患状態に適合化される。これは、きわめて重要な側面である。なぜなら、結腸ターゲッティングを可能にするために、製剤は、結腸に達した時点で薬剤に対してより透過性にならなければならないからである。これは、たとえば、上部胃腸管内での急速な薬剤放出を妨害する化合物を優先的に分解することにより保証可能である。この部位特異的分解は、上部胃腸管内に存在する酵素と結腸内の酵素との質および量の有意差に依拠することが可能である。この化合物は、上部胃腸管内では分解されてはならないが(かつ薬剤放出を妨害しなければないが)、結腸内では分解されなければならない(ひいては薬剤放出を可能にしなければならない)。このタイプの先進的薬剤送達系の性能は、基本的には、患者の結腸内の環境条件に、特定的には、結腸内に存在する酵素のタイプおよび濃度に依存している。疾患状態が胃腸管内の酵素分泌性微生物叢の質および量に有意な影響を及ぼす可能性があることは、周知でありかつ文献で十分に立証されている。これは、とくに、炎症性腸疾患に罹患している患者の結腸内の微生物叢の場合にあてはまる。すなわち、たとえば、患者の結腸内に存在する酵素の質および量は、健常被験者のものと有意に異なる可能性がある。したがって、このタイプの薬剤送達系の性能は、疾患状態により、有意な影響を受ける可能性がある。患者の結腸内での疾患状態において十分な濃度で存在しない酵素による優先的分解に依拠する系は、うまく機能しない。本発明は、病態生理学的条件下で、すなわち、炎症性腸疾患に罹患している患者の糞便中で、活性成分の制御送達を可能にする製剤について初めて報告する。したがって、この製剤の性能は、所与の病態生理学的条件下のin vivoで保証される。これは、治療の奏効性および安全性のために決定的に重要である。
【0006】
米国特許第6534549号明細書は、(1)水と(2)フィルム形成性ポリマーを単独で溶解可能な水混和性有機溶媒とを含む、溶媒系中の実質的に水不溶性のフィルム形成性ポリマーとアミロースとの混合物を活性材料に接触させて、得られた組成物を乾燥させることを含む、制御放出性組成物の製造方法に関する。この製剤は、治療剤を結腸に送達するのにとくに好適である。本発明とは対照的に、その開示は、有機溶媒を用いて調製される薬剤送達系を扱っている。これは、本発明の場合にはあてはまらない。有機溶媒の使用は、毒性および環境の問題さらには爆発の危険性をはじめとするいくつかの問題を抱えている。さらに、アミロースの使用は、このポリマーの抽出およびその安定化を伴う。アミロースは、加水分解工程および精製工程の後でデンプンから抽出される。このプロセスは、工業レベルでは複雑かつ使用困難である。この組成物は、炎症性腸疾患に罹患している患者での薬剤放出速度が考慮に入っていない。炎症性腸疾患の患者の結腸内に存在する細菌のタイプおよび量は健常被験者のものと有意に異なる可能性があることを指摘しておかなければならない。したがって、これらの細菌により分泌されて薬剤送達系に接触する酵素のタイプおよび量は、有意に異なる可能性がある。その結果、薬剤送達系の性能は、有意に異なる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許出願公開第2005/0220861号明細書
【特許文献2】米国特許第6534549号明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「マメ科植物デンプンの組成、構造、機能、および化学修飾:総説」 R.Hooverら
【非特許文献2】「新規エンドウデンプンの開発」 C−L Heydleyらの論文(Proceedings of the Symposium of the Industrial Biochemistry and Biotechnology Group of the Biochemical Society,1996,pp.77−87)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、活性成分、たとえば、限定されるものではないが、活性医薬成分、生物学的活性成分、化学的活性成分、栄養医薬活性成分、農学的活性成分、または栄養学的活性成分の送達の速度および程度を制御する送達製剤を提供することである。
【0010】
本発明の他の目的は、結腸への部位特異的薬剤ターゲティングを可能しかつ健常結腸を有する患者だけでなく炎症性腸疾患に罹患している患者にも使用可能である新しい高分子フィルムコーティングを提供することである。
【0011】
本発明のさらなる目的は、上部GIT内で受ける剪断応力(胃腸の運動に起因する)に耐えるのに十分な、かつ水性培地との接触時に系内への水透過に起因して製剤内で発生する可能性のある有意な静水圧に耐えるのに十分な、機械的安定性を有する新しい高分子フィルムコーティングを提供することである。実際に、公知のポリマーコーティングでは、偶発的な亀裂形成の問題は、水で満たされたチャネルを介する早期の薬剤放出を招く可能性がある。
【0012】
本発明のさらなる目的は、特定のタイプの薬剤治療の特定のニーズ、たとえば、薬剤の浸透活性および投与量に合わせて調整可能な新しい高分子フィルムコーティングを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、
o 少なくとも水不溶性ポリマーと
o 20〜45%、好ましくは25〜44%、さらにより好ましくは30〜40%のアミロース含有率を有するデンプン、50〜80%のアミロース含有率を有する変性デンプン、およびマメ科植物デンプンからなる群から選択される少なくとも1つの成分を含むデンプン組成物と
の高分子混合物によりコーティングされた活性成分を含む、活性成分を制御放出するための制御放出性送達製剤を提供する。
【0014】
好ましくは、制御放出性製剤は、経口製剤でありかつ胃耐性を有する。好ましい実施形態では、制御放出性医薬製剤は、固体、液体、または半液体の形態である。有利には、制御放出性医薬製剤は、固体分散体である。本発明によれば、高分子混合物は、水不溶性ポリマーとデンプン組成物との均質混合物であり、前記デンプンは、水不溶性ポリマー中で微粒子を形成しない。
【0015】
本発明の一実施形態では、制御放出性送達製剤の高分子混合物は、コーティング混合物であり、制御放出性送達製剤は、コアを含み、活性成分は、コア中および/またはコーティング混合物中に分散または溶解される。
【0016】
本発明のさらなる実施形態では、制御放出性送達製剤のデンプン組成物:水不溶性ポリマー比は、1:2〜1:8、好ましくは1:3〜1:6、より好ましくは1:4〜1:5である。
【0017】
好ましくは、デンプン組成物は、少なくとも50%、好ましくは70〜100%、より好ましくは70〜100%、さらにより好ましくは90〜100%のデンプン含有率を有する。
【0018】
典型的には、デンプン組成物は、20〜45%のアミロース含有率、好ましくは25〜44%、より好ましくは32〜40%のアミロース含有率を呈し、このパーセントは、前記組成物中に存在するデンプンの乾燥重量を基準にした乾燥重量で表される。
【0019】
本発明のさらなる実施形態では、デンプン組成物は、少なくとも1種のマメ科植物デンプンまたは穀物デンプンを含む。
【0020】
好ましくは、マメ科植物は、エンドウ、インゲン、ソラマメ(broad bean and horse bean)からなる群から選択される。
【0021】
他の有利な選択肢の形態によれば、マメ科植物は、少なくとも25重量%、好ましくは少なくとも40重量%のデンプン(乾量/乾量)を含む種子を与える植物、たとえば、さまざまなエンドウまたはソラマメである。好ましくは、マメ科植物デンプンは、顆粒状マメ科植物デンプンである。
【0022】
有利には、マメ科植物はエンドウである。エンドウデンプン顆粒は、2つの特質を有する。第1の特質は、顆粒の表面領域の改善ひいては結腸内での水および微生物叢酵素との接触の改善をもたらす大きい顆粒直径(たとえば、トウモロコシデンプン顆粒よりも大きい)である。それに加えて、エンドウデンプン顆粒は、その表面領域の改善、ひいては顆粒消化率の改善、さらにはその結果として結腸内での活性成分放出の改善をもたらす高い膨張能を有する。
【0023】
他の有利な選択肢によれば、マメ科植物デンプンは、天然マメ科植物デンプンである。
【0024】
有利には、デンプン組成物のこのデンプン含有率は、90%超(乾量/乾量)である。特定的には95%超、好ましくは98%超でありうる。
【0025】
本発明によれば、変性デンプンは、好ましくは安定化されたものである。実際に、本発明の好ましい実施形態によれば、フィルム形成性組成物の調製にとくに好適な化学処理は、「安定化」処理である。通常の安定化変性は、デンプン鎖に沿ってヒドロキシル基の一部をエステル化またはエーテル化することにより達成可能である。好ましくは、前記変性デンプンは、ヒドロキシプロピル化および/またはアセチル化されたものであり、場合により、化学加水分解処理または酵素加水分解処理である流動化処理をこれらの処理に追加することが可能である。好ましくは、前記変性デンプンは、たとえば酸処理により、流動化処理されたものである。したがって、本発明に係るデンプン組成物は、有利には、少なくとも1種の安定化デンプン、好ましくは、多くとも0.2の置換度(DS)を呈するヒドロキシプロピル化デンプンを含む。「DS」という用語は、本発明では、10個の無水グルコース単位あたりのヒドロキシプロピル基の平均数を意味するものとみなされる。この平均数は、当業者に周知の標準的分析法により決定される。
【0026】
本発明のさらなる実施形態では、デンプン組成物は、キシロオリゴサッカリド、イヌリン、オリゴフルクトース、フルクトオリゴサッカリド(FOS)、ラクツロース、ガラクトマンナンおよびその好適な加水分解物、不消化性ポリデキストロース、不消化性デキストリンおよびその部分加水分解物、trans−ガラクトオリゴサッカリド(GOS)、キシロオリゴサッカリド(XOS)、アセマンナン、レンチナンまたはβ−グルカンおよびそれらの部分加水分解物、ポリサッカリド−K(PSK)、ならびに不消化性マルトデキストリンおよびその部分加水分解物、好ましくは不消化性デキストリンまたは不消化性マルトデキストリンからなる群から選択される少なくとも1種の不消化性ポリサッカリドを追加的に含みうる。
【0027】
本発明によれば、不消化性マルトデキストリンまたは不消化性デキストリンは、15〜35%の1−>6グルコシド結合、20%未満の還元糖含有率、5未満の多分子指数、および多くとも4500g/molに等しい数平均分子質量Mnを有する。
【0028】
一変形形態によれば、前記不消化性マルトデキストリンの全部または一部は、水素化されている。
【0029】
一変形形態によれば、コアは、5%〜30%、好ましくは10%〜20%のコーティングレベルを有する。
【0030】
さらなる実施形態では、高分子混合物は、可塑剤を含む。好ましくは、可塑剤含有率は、水不溶性ポリマー含有率を基準にして25%〜30%w/wである。
【0031】
好ましくは、水不溶性ポリマーは、エチルセルロース、セルロース誘導体、アクリル酸および/またはメタクリル酸エステルポリマー、アクリレートまたはメタクリレートのポリマーまたはコポリマー、ポリビニルエステル、デンプン誘導体、ポリビニルアセテート、ポリアクリル酸エステル、ブタジエンスチレンコポリマー、メタクリル酸エステルコポリマー、セルロースアセテートフタレート、ポリビニルアセテートフタレート、シェラック、メタクリル酸コポリマー、セルロースアセテートトリメリテート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ゼイン、デンプンアセテートからなる群から選択される。
【0032】
さらなる実施形態によれば、可塑剤は水溶性可塑剤である。好ましくは、水溶性可塑剤は、単独でまたは相互の混合物として、ポリオール(グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、有機エステル(フタル酸エステル、ジブチルセバケート、クエン酸エステル、トリアセチン)、油/グリセリド(ヒマシ油、アセチル化モノグリセリド、分別ヤシ油)、ダイズレシチンからなる群から選択される。
【0033】
好ましい実施形態では、制御放出性製剤は多微粒子状製剤である。
【0034】
本発明はまた、請求項1〜12に特許請求されるように、結腸内微生物叢の不均衡を有する患者の結腸内または健常被験者の結腸内で活性成分を制御放出するための制御放出性送達製剤の製造方法を提供する。ただし、前記方法は、
o 以下の物質、すなわち、
・ 少なくとも1種の水不溶性ポリマーと
・ 20〜45%、好ましくは25〜44%、さらにより好ましくは30〜40%のアミロース含有率を有するデンプン、変性デンプン、50〜80%のアミロース含有率を有する変性デンプン、およびマメ科植物デンプンからなる群から選択される少なくとも1つの成分を含むデンプン組成物と
の高分子混合物を形成するステップと、
o 前記活性成分を高分子混合物でコーティングするステップと、
を含む。
【0035】
さらなる実施形態では、活性成分をコーティングするステップは、活性成分をコア中に分散もしくは溶解させた状態でコアをコーティングするステップであり、かつ/または活性成分をコーティングするステップは、高分子混合物中に活性成分を分散もしくは溶解させるステップである。
【0036】
炎症性腸疾患(たとえばクローン病および潰瘍性結腸炎)に罹患している患者の胃腸管内の状態は、健常被験者のものと有意に異なる可能性がある。個体内および個体間の変動は、GIT内容物のpH、酵素分泌性細菌のタイプおよび濃度、さらには種々のGITセグメント内の通過時間に関してかなり大きい可能性がある。たとえば、一般的には、健常被験者の結腸内にはかなりの量のビフィズス菌が存在し、複数の細胞外グリコシダーゼにより複合ポリサッカリドを分解することが可能である。しかしながら、疾患状態では、それらの濃度は、有意に低減される可能性がある。たとえば、糞便のグリコシダーゼ活性(特定的にはβ−D−ガラクトシダーゼ活性)は、クローン病に罹患している患者では低減され、結腸内微生物叢の代謝活性は、活動性疾患状態で強く撹乱されることが示された。したがって、病態生理の影響は、重大である可能性があり、薬剤治療の失敗をまねく可能性がある。
【0037】
炎症性腸疾患に罹患している患者への治療失敗を回避するために、部位特異的薬剤送達系は、患者の結腸の所与の状態に適合化されなければならない。たとえば、クローン病患者および潰瘍性大腸炎患者の糞便中に十分量で存在する酵素により分解される高分子フィルムコーティングを使用してもよい。しかしながら、依然として、どのタイプのポリマーがこれらの前提条件を満たすかは不明である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】(a)0.1M HClおよび(b)リン酸緩衝液pH6.8への暴露時のさまざまなタイプのポリマーブレンド(図中に示される)で構成される薄いフィルムの水含有率。可塑化エチルセルロースのみで構成されるフィルムは、比較のために示されている。
【図2】(a)0.1M HClおよび(b)リン酸緩衝液pH6.8への暴露時のさまざまなタイプのポリマーブレンド(図中に示される)で構成される薄いフィルムの乾燥質量。可塑化エチルセルロースのみで構成されるフィルムは、比較のために示されている。
【図3】パンクレアチンまたはラット腸からの抽出物を含有するかまたは含有しないリン酸緩衝液pH6.8への暴露時のエチルセルロースとブレンドされた分岐状マルトデキストリンまたはエンドウデンプンで構成される薄いフィルムの水含有率および乾燥質量。
【図4】培養培地、健常被験者の糞便が接種された培養培地、ならびにクローン病(CD)患者および潰瘍性結腸炎(UC)患者の糞便が接種された培養培地への暴露時のエチルセルロースとブレンドされたさまざまなタイプのポリサッカリドで構成される薄いフィルムの水含有率および乾燥質量(図中に示されるとおり)。可塑化エチルセルロースのみで構成されるフィルムは、比較のために示されている。
【図5】さまざまな組成物(図中に示される)の薄い高分子フィルムを炎症性腸疾患患者の糞便サンプルと共にインキュベートした時に発生した微生物叢の写真。
【図6】それぞれ0.1M HClおよびリン酸緩衝液pH6.8への暴露時の、PS HP−PG:エチルセルロースブレンドで構成される薄いフィルムの水取込みおよび乾燥質量損失。ポリマーブレンド比は、図中に示されている。比較のために、純粋(可塑化)エチルセルロースフィルムの挙動も示されている。
【図7】(a)0.1M HClおよび(b)リン酸緩衝液pH6.8への暴露時の薄いPS HP−PG:エチルセルロースフィルムの破断点エネルギーの変化。ポリマーブレンド比は、図中に示されている。比較のために、純粋(可塑化)エチルセルロースフィルムを用いて得られた結果も示されている。
【図8】それぞれ0.1M HClおよびリン酸緩衝液pH6.8への暴露時の、EURYLON(登録商標)7A−PG:エチルセルロースブレンドで構成される薄いフィルムの水取込みおよび乾燥質量損失。ポリマーブレンド比は、図中に示されている。比較のために、純粋(可塑化)エチルセルロースフィルムの挙動も示されている。
【図9】(a)0.1M HClおよび(b)リン酸緩衝液pH6.8への暴露時の、薄いEURYLON(登録商標)7A−PG:エチルセルロースフィルムの破断点エネルギーの変化。ポリマーブレンド比は、図中に示されている。比較のために、純粋(可塑化)エチルセルロースフィルムを用いて得られた結果も示されている。
【図10】それぞれ0.1M HClおよびリン酸緩衝液pH6.8への暴露時の、EURYLON(登録商標)6A−PG:エチルセルロースブレンドで構成される薄いフィルムの水取込みおよび乾燥質量損失。ポリマーブレンド比は、図中に示されている。比較のために、純粋(可塑化)エチルセルロースフィルムの挙動も示されている。
【図11】(a)0.1M HClおよび(b)リン酸緩衝液pH6.8への暴露時の、薄いEURYLON(登録商標)6A−PG:エチルセルロースフィルムの破断点エネルギーの変化。ポリマーブレンド比は、図中に示されている。比較のために、純粋(可塑化)エチルセルロースフィルムを用いて得られた結果も示されている。
【図12】それぞれ0.1M HClおよびリン酸緩衝液pH6.8への暴露時のEURYLON(登録商標)6 HP−PG:エチルセルロースブレンドで構成される薄いフィルムの水取込みおよび乾燥質量損失。ポリマーブレンド比は、図中に示されている。比較のために、純粋(可塑化)エチルセルロースフィルムの挙動も示されている。
【図13】(a)0.1M HClおよび(b)リン酸緩衝液pH6.8への暴露時の薄いEURYLON(登録商標)6 HP−PG:エチルセルロースフィルムの破断点エネルギーの変化。ポリマーブレンド比は、図中に示されている。比較のために、純粋(可塑化)エチルセルロースフィルムを用いて得られた結果も示されている。
【図14】(a)0.1M HClおよび(b)リン酸緩衝液pH6.8への暴露時の、薄いエンドウデンプン:エチルセルロースフィルムの水取込み速度。ポリマー:ポリマーブレンド比(w:w)は、図に示されている。
【図15】(a)0.1M HClおよび(b)リン酸緩衝液pH6.8への暴露時の、薄いエンドウデンプン:エチルセルロースフィルムの乾燥質量損失速度。ポリマー:ポリマーブレンド比(w:w)は、図に示されている。
【図16】乾燥状態の、薄いエンドウデンプン:エチルセルロースフィルムの機械的性質:(a)破断点突刺強度、(b)破断点伸び%、および(c)破断点エネルギー。ポリマー:ポリマーブレンド比(w:w)は、x軸上に示されている。
【図17】37℃での(a)0.1M HCl(2時間)または(b)リン酸緩衝液pH6.8(8時間)への暴露時の、薄いエンドウデンプン:エチルセルロースフィルムの破断点エネルギーの変化。ポリマー:ポリマーブレンド比(w:w)は、図に示されている。
【図18】上部胃腸管を介する通過をシミュレートした条件下での、すなわち、0.1M HClへの2時間暴露、それに続いてリン酸緩衝液pH6.8への9時間暴露を行った時の、エンドウデンプン:エチルセルロース1:2でコーティングされたペレット剤からの薬剤放出。コーティングレベル、さらには酵素(低pHで0.32%ペプシン、中性pHで1%パンクレアチン)の不在(実線の曲線)および存在(点線の曲線)は、図に示されている。
【図19】上部胃腸管を介する通過をシミュレートした条件下での、すなわち、0.1M HClへの2時間の暴露、それに続いてリン酸緩衝液pH6.8への9時間の暴露を行った時の、コーティング付きペレット剤からの薬剤放出に及ぼすエンドウデンプン:エチルセルロースブレンド比(w:w)およびコーティングレベル(図に示される)の効果。実線/点線の曲線は、酵素(低pHで0.32%ペプシン、中性pHで1%パンクレアチン)の不在/存在を表している。
【図20】全胃腸管を介する通過をシミュレートした条件下での、すなわち、0.1M HClへの2時間の暴露、それに続いてリン酸緩衝液pH6.8への9時間の暴露、それに続いて(a)炎症性腸疾患患者からの新しい糞便サンプルが接種された培養培地または(b)ビフィズス菌が接種された培養培地への10時間の暴露を行った時の、15%または20%(指定どおり)のコーティングレベルでエンドウデンプン:エチルセルロース1:4でコーティングされたペレット剤からの薬剤放出。比較のために、糞便サンプルを含まない培養培地への暴露時の薬剤放出もまた、(a)(点線の曲線)に示されている。
【図21】10%、15%、および20%のエンドウデンプン:エチルセルロース1:4でコーティングされたペレット剤の貯蔵安定性:1年間開放貯蔵の前(実線の曲線)および後(点線の曲線)の0.1M HCl(2時間)中およびリン酸緩衝液pH6.8(9時間)中への薬剤放出。
【図22】(A)直腸内に培地のみ(陰性対照群)、(B)直腸内にTNBS(陽性対照群)、(C)直腸内にTNBSかつ経口的にBMD:ECコーティング付きペレット剤、または(D)直腸内にTNBSかつ経口的にPentasa(登録商標)ペレット剤が投与されたラットの結腸の巨視的外観。TNBS/培地のみは、3日目に直腸内に投与された。5−ASAの経口投与用量は、150mg/kg/日であった。
【図23】(i)直腸内にTNBS、(ii)直腸内にTNBSかつ経口的にAsacol(登録商標)ペレット剤、(iii)直腸内にTNBSかつ経口的にPentasa(登録商標)ペレット剤、(iv)直腸内にTNBSかつ経口的にエンドウデンプン:エチルセルロースコーティング付きペレット剤、(v)直腸内にTNBSかつ経口的にBMD:エチルセルロースコーティング付きペレット剤が投与されたラットのAmehoスコア。TNBSは、3日目に直腸内に投与された。5−ASAの経口投与用量は、150mg/kg/日であった。
【図24】ラットの結腸組織の代表的な組織切片(正常な経壁切片、×200)。次のようなさまざまな層が示されている。M−粘膜、SM−粘膜下層、Mu−筋層。
【発明を実施するための形態】
【0039】
表1: 健常被験者および炎症性腸疾患患者の研究対象糞便サンプル中の細菌の濃度[log CFU/g]。
【0040】
表2: 室温での乾燥状態の薄いフィルムの機械的性質に及ぼす、エチルセルロースとブレンドされたポリサッカリドのタイプ、およびポリサッカリド:エチルセルロースのブレンド比の影響。
【0041】
表3: GITに沿ったpHの漸増をシミュレートするために使用した溶解培地。
【0042】
発明の詳細な説明
本発明の説明および特許請求では、本明細書中に明記された定義に従って以下の用語を使用する。
【0043】
本明細書中で用いられる場合、「活性成分」、「薬剤」、もしくは「薬理活性成分」という用語または任意の他の類似の用語は、(1)生物に対する予防効果を有しかつ望ましくない生物学的作用を予防すること、たとえば、感染を予防すること、(2)疾患により引き起こされる病態を緩和すること、たとえば、疾患の結果として引き起こされる疼痛もしくは炎症を緩和すること、および/または(3)生物に由来する疾患の緩和、低減、もしくは完全排除のいずれかを行うこと(ただし、これらに限定されるものではない)を包含しうる所望の生物学的または薬理学的な効果を誘導する、当技術分野ですでに公知の方法によるおよび/または本発明で教示された方法による投与に好適な任意の化学的または生物学的な材料または化合物を意味する。効果は、局部麻酔効果を提供するような局所的なものであってもよいし、全身的なものであってもよい。
【0044】
本明細書中で用いられる場合、腸内毒素症または腸内細菌異常増殖症とも呼ばれる「結腸内微生物叢の不均衡」という表現は、本発明では、胃腸管内の質的または量的な微生物の不均衡を意味するものとする。この現象は、結腸内に存在する酵素の質および量に反映される。特定的には、この変化した微生物叢は、クローン病(CD)や潰瘍性結腸炎(UC)のような炎症性腸疾患に罹患している患者の結腸で観測される。
【0045】
本明細書中で用いられる場合、「制御放出性送達」または「制御放出」という用語は、製剤からの活性成分の放出が時間に関して、または送達部位に関して、制御されることを意味する。
【0046】
「変性デンプン」という表現は、広義に解釈されるべきものであり、この表現は、たとえば、網状デンプンまたはアセチル化デンプンまたはヒドロキシプロピル化デンプンを意味する。
【0047】
「コーティングする」という用語は、本明細書中では、固体担体に対するコーティングのほかに流体および/または固体を取り囲むカプセルをも包含するように用いられ、また、「コーティング付き」という用語も同様に用いられる。
【0048】
「水不溶性ポリマー」という表現は、広義に解釈されるべきものであり、この表現は、水に完全には溶解しないポリマー、たとえば、エチルセルロース、特定のデンプン誘導体、またはアクリル酸/メタクリル酸誘導体などを意味する。
【0049】
本発明で用いられる「不消化性ポリサッカリド」という用語は、ヒト上部消化管(小腸および胃)内に存在する酸または消化酵素の作用により腸内で消化されないかまたは部分的に消化されるにすぎないが、ヒト腸内微生物叢により少なくとも部分的に発酵されるサッカリドを意味する。本発明の好ましい実施形態で利用可能な不消化性水溶性ポリサッカリドは、キシロオリゴサッカリド、イヌリン、オリゴフルクトース、フルクトオリゴサッカリド(FOS)、ラクツロース、ガラクトマンナンおよびその好適な加水分解物、不消化性ポリデキストロース、不消化性デキストリンおよびその部分加水分解物、trans−ガラクトオリゴサッカリド(GOS)、キシロオリゴサッカリド(XOS)、アセマンナン、レンチナンまたはβ−グルカンおよびそれらの部分加水分解物、ポリサッカリド−K(PSK)、ならびに不消化性マルトデキストリンおよびその部分加水分解物である。
【0050】
ポリサッカリド−Kはまた、日本ではポリサッカリド−クレスチン(PSK)としておよび中国ではポリサッカリド−ペプチド(PS−P)として知られる。両方とも、同一の化学特性および構造特性を有する。PSKは、多孔菌類のカワラタケ(Trametes versicolor)中に見いだされるプロテオグリカンであり、約35%の炭水化物(91%のβ−グルカン)、35%のタンパク質を含有し、残りの部分は、糖、アミノ酸、および湿分のような遊離残分である。PSKは、種々のペプチドに共有結合されたポリサッカリドの混合物であり、100キロダルトンの平均分子量を有する。ポリサッカリド成分は、グルコピラノースユニットで構成されたβ−グルカン類に属する。構造解析の結果、PSKは、1〜4個の結合の数個の残基あたり1個の分岐の頻度で3位および6位に分岐を有する1,4−グルカン配置を主なグルコシド部分として有することが示された。
【0051】
本明細書中で用いられる場合、「穀物」という用語は、本発明では、イネ科(Gramineae)に属する任意の植物、好ましくは、コムギ、イネ、ライムギ、オートムギ、オオムギ、トウモロコシ、モロコシ、および雑穀物を意味するものとする。
【0052】
「マメ科植物」という用語は、本発明では、ジャケツイバラ科(Caesalpinaceae)、ネムノキ科(Mimosaceae)、またはチョウケイカ科(Papilionaceae)に属する任意の植物、特定的には、チョウケイカ科(Papilionaceae)に属する任意の植物、たとえば、エンドウ、インゲン、ソラマメ(broad bean, horse bean)、ヒラマメ、アルファルファ、クローバー、またはルピナスなどを意味するものとする。
【0053】
「デンプン誘導体」という表現は、酵素処理または化学処理されたデンプンを意味する。
【0054】
「コーティングレベル」とは、パーセント単位の重量増加である、コーティング無しコアとコーティング付きコアとの間の重量差を意味する。
【0055】
この定義は、特定的には、「マメ科植物デンプンの組成、構造、機能、および化学修飾:総説」というタイトルのR.Hooverらの論文中に存在する表のいずれか1つに記載の植物をすべて包含する。
【0056】
「エンドウ」という用語は、その最広義の意味であるとみなされ、特定的には、
・ スムースエンドウのすべての野生種、ならびに
・ スムースエンドウおよびシワエンドウのすべての突然変異種(ただし、これは、一般に意図される前記品種の用途(ヒト用食物、動物栄養用食物、および/または他の用途)のいかんを問わない)
を包含する。
【0057】
前記突然変異種は、特定的には、「新規エンドウデンプンの開発」というタイトルのC−L Heydleyらの論文(Proceedings of the Symposium of the Industrial Biochemistry and Biotechnology Group of the Biochemical Society,1996,pp.77−87)に記載されるような「突然変異体r」、「突然変異体rb」、「突然変異体rug3」、「突然変異体rug4」、「突然変異体rug5」、および「突然変異体lam」として参照されるものである。
【0058】
「マメ科植物デンプン」という用語は、以上に定義されたマメ科植物から抽出され(ただし、これは方法のいかんを問わない)かつ40%超、好ましくは50%超、さらにより好ましくは75%超のデンプン含有率(ただし、これらのパーセントは、前記組成物の乾燥重量を基準にした乾燥重量で表される)を有する任意の組成物を意味するものとみなされる。
【0059】
さらに、本発明に従って選択された範囲内のアミロース含有率を天然で呈するデンプンを使用することが可能である。特定的には、マメ科植物に由来するデンプンは、好適である可能性がある。本発明によれば、このマメ科植物デンプンは、45%未満、より特定的には20 20〜45%、好ましくは25〜44%、さらにより好ましくは32〜40%のアミロース含有率を呈する。
【0060】
本発明の目的では、「不消化性マルトデキストリン(ingestible maltodextrin)」という用語は、マルトデキストリンに「分岐状マルトデキストリン」のような食物繊維と同等な追加の性質を付与する不消化性グルコシド結合を含有するマルトデキストリンを意味する。本明細書中で用いられる場合、「分岐状マルトデキストリン」という用語は、欧州特許第1006128号明細書(その出願会社は所有権者である)に記載の不消化性マルトデキストリン(ingestible maltodextrins)を意味するものとする。
【0061】
好ましい変形形態によれば、前記分岐状マルトデキストリンは、2%〜5%の還元糖含有率および2000〜3000g/molの数平均分子質量Mnを有する。
【0062】
分岐状マルトデキストリンは、AOAC法No.2001−03(2001)に従って決定した場合、乾量基準で50%以上の全繊維含有率を有する。
【0063】
本発明は、炎症性腸疾患に罹患している患者の疾患状態に適合化された結腸ターゲッティング用の新規な高分子フィルムコーティングを提供する。
【0064】
本発明に係る新規な高分子フィルムは、健常患者でも炎症性腸疾患に罹患している患者でも結腸内細菌に対する基質として機能し、おそらく患者のGITの生態系に有益な効果を呈するであろう。高分子フィルムは、疾患状態においても標的部位の状態に特異的に適合化され、薬理活性成分を特定的に結腸に送達可能である。
【0065】
以下では、以下の実施例さらには図面を利用して本発明を例示する。
【実施例】
【0066】
実施例1
A. 材料および方法
A.1. 材料
分岐状マルトデキストリン(BMD)[非消化性グリコシド結合:α−1,2およびα−1,3を有する分岐状マルトデキストリン、NUTRIOSE(登録商標)FB06 Roquette Freres]、エンドウデンプン(顆粒状エンドウデンプンN−735)(35%アミロース)、アルファ化ヒドロキシプロピルエンドウデンプン(PS HP−PG)(LYCOAT(登録商標)RS780)、マルトデキストリン(MD)(GLUCIDEX(登録商標)1,Roquette Freres)、EURYLON(登録商標)7A−PG(アセチル化およびアルファ化高アミロースメイズデンプン(70%アミロース)(Roquette Freres,Lestrem,France)、EURYLON(登録商標)6A−PG(アセチル化およびアルファ化高アミロースメイズデンプン)(60%アミロース)(Roquette Freres,Lestrem,France)およびEURYLON(登録商標)6HP−PG(ヒドロキシプロピル化およびアルファ化高アミロースメイズデンプン(60%アミロース)(Roquette Freres,Lestrem,France)、水性エチルセルロース分散体(Aquacoat(登録商標)ECD30、FMC Biopolymer,Philadelphia,USA)、トリエチルシトレート(TEC;Morflex(登録商標)、Greensboro,USA)、パンクレアチン(哺乳動物膵臓由来=アミラーゼとプロテアーゼとリパーゼとを含有する混合物、Fisher Bioblock,Illkirch,France)、ラット腸からの抽出物(アミラーゼとスクラーゼとイソマルターゼとグルコシダーゼとを含有するラット腸粉末、Sigma−Aldrich,Isle d’Abeau Chesnes,France)、Columbia血液寒天、肉牛および酵母からの抽出物、さらにはトリプトン(=カゼインの膵液消化物)(Becton Dickinson,Sparks,USA)、L−システイン塩酸塩水和物(Acros Organics,Geel,Belgium)、McConkey寒天(BioMerieux,Balme−les−Grottes,France)、システイン加リンゲル液(Merck,Darmstadt,Germany)。
【0067】
A.2. フィルムの作製
さまざまなタイプの水性ポリサッカリドと水性エチルセルロース分散体とのブレンドをテフロン(登録商標)成形型中にキャストし、続いて60℃で1日間乾燥させることにより、薄い高分子フィルムを作製した。水溶性ポリサッカリドを精製水に溶解させ(5%w/w)、1:3(ポリマー:ポリマー w:w)の比で可塑化エチルセルロース分散体とブレンドした(25%のTEC、一晩撹拌、15%w/wのポリマー含有率)。混合物を6時間攪拌してからキャストした。
【0068】
A.3. フィルムの特性解析
厚さゲージ(Minitest600、Erichsen,Hemer,Germany)を用いてフィルムの厚さを測定した。フィルムの平均厚さはすべて、300〜340μmの範囲内であった。水取込み速度および乾燥質量損失速度を、
(i)模擬胃液(0.1M HCl)
(ii)模擬腸液[1%のパンクレアチンまたは0.75%のラット腸からの抽出物を含むかまたは含まないリン酸緩衝液pH6.8(USP30)]
(iii)健常被験者からの糞便が接種された培養培地
(iv)炎症性腸疾患患者からの糞便が接種された培養培地
(v)比較のための糞便無し培養培地
への暴露時、重量測定法により測定した。
【0069】
1.5gの肉牛抽出物、3gの酵母抽出物、5gのトリプトン、2.5gのNaCl、および0.3gのL−システイン塩酸塩水和物を1Lの蒸留水(pH7.0±0.2)に溶解させ、続いてオートクレーブ中で滅菌することにより、培養培地を調製した。クローン病または潰瘍性結腸炎の患者の糞便さらには健常被験者の糞便をシステイン加リンゲル液で1:200に希釈し、この懸濁液2.5mLを培養培地で100mLに希釈した。100mLの予備加熱された培地が充填された120mLガラス容器に1.5×5cmのフィルム片を入れ、続いて37℃で水平振盪させた(GFL3033、Gesellschaft fur Labortechnik,Burgwedel,Germany)。嫌気的条件下(5%CO2、10%H2、85%N2)で糞便サンプルと共にインキュベーションを行った。所定の時間点でサンプルを抜き取り、過剰の水を除去し、フィルムを正確に秤量し(湿潤質量)、そして一定重量になるまで60℃で乾燥させた(乾燥質量)。時間tにおける水含有率(%)および乾燥フィルム質量(%)を以下のように計算した。
【0070】
【数1】
【0071】
A.4. 細菌学的分析
糞便サンプルの細菌学的分析のために、これをシステイン加リンゲル液で1:10に希釈した。システイン加リンゲル液で8つのさらなる10倍希釈液を調製し、0.1mLの各希釈液を非選択性改変Columbia血液寒天(全培養可能菌数を求めるため)およびMcConkey寒天(腸内細菌に対して選択性がある)にプレーティングした。Columbia血液寒天プレートを嫌気的条件下(5%CO2、10%H2、85%N2)37℃で1週間インキュベートした。コロニーの数は少なかった;主なコロニーを継代培養して、表現型同定基準に基づいて同定した。25枚のMcConkey寒天プレートを空気中37℃で48時間インキュベートした。コロニーの数は少なかったが、API 20Eシステム(BioMerieux,Balme−les−Grottes,France)を用いて同定した。新しい糞便でlog CFU/g(コロニー形成単位毎グラム)としてカウント数を表した。
【0072】
糞便サンプルと共にフィルムのインキュベーションを行った時に発生した微生物叢の細菌学的分析のために、グラム染色後、カメラ(Unit DS−L2,DS camera Head DS−Fi 1、Nikon,Tokyo,Japan)を備えたAxiostar plus顕微鏡(Carl Zeiss,Jena,Germany)を用いて顕微鏡写真を撮影した。嫌気的条件下、ごく少量のポリペプチドを含有する糖質フリーの培養培地(したがって、研究対象のポリサッカリドを基質として使用するのに有利である)中で、インキュベーションを行った。
【0073】
B. 結果および考察
B.1. 上部GIT内でのフィルムの性質
薬剤に対する高分子系の透過性は、巨大分子の密度および移動性を決定するその水含有率および乾燥質量に強く依存する。たとえば、乾燥ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)系マトリックス錠剤では、薬剤の見掛けの拡散係数はゼロに近づき、一方、完全水和HPMCゲルでは、水性溶液の場合と同程度の大きさの拡散率を達成可能である。水含有率の増加に伴って、巨大分子の移動性ひいては拡散に利用可能な自由体積は、有意に増大する。いくつかの系では、ポリマーは、臨界水含有率に到達し次第、ガラス相からゴム相への転移を起こす。これは、ポリマーおよび薬剤の移動性の有意な段階的増大を引き起こす。したがって、高分子フィルムコーティングの水含有率から巨大分子の移動性ひいては薬剤の透過性についての重要な見識を得ることが可能である。図1aおよび1bは、それぞれ、0.1N HCl中およびリン酸緩衝液pH6.8中での種々のタイプのポリサッカリド:ポリサッカリドエチルセルロースブレンドで構成される薄いフィルムの水取込み速度を示している。すべてのフィルムでエチルセルロースの存在により上部GIT内での早期溶解を回避することが可能である。研究対象のポリサッカリドはすべて水溶性であり、コーティングの周囲環境への薬剤透過性の感受性を提供することを目的とする。すなわち、結腸に達した時点で、ポリサッカリドは酵素分解され、薬剤放出が開始される。図1のポリサッカリド:ポリサッカリドエチルセルロースブレンド比は、一定すなわち1:3である。明らかなように、水取込み速度および水取込み率は、ポリサッカリドのタイプに有意に依存する。結腸ターゲッティングを可能にする理想的なフィルムコーティングは、上部GIT内での早期薬剤放出を防止するために、両方の培地でごく少量の水を低速度で取り込むものでなければならない。見てのとおり、エチルセルロースとBMDまたはエンドウデンプンとのブレンドは、この目的に最も有望である。水溶性ポリサッカリドを含まない可塑化エチルセルロースフィルム(白丸)は、わずかな量の水を取り込むにすぎない。
【0074】
水取込み速度のほかに、薄い高分子フィルムの乾燥質量損失挙動もまた、コーティングの薬剤に対する透過性ひいては上部GIT内で早期放出を抑制する可能性に対する指標として機能する。フィルムが放出培地への暴露時に有意量の乾燥質量を失う場合、コーティングは、多くの薬剤とくに5−アミノサリチル酸(5−ASA、153.1Da)のような低分子量のものに対して透過性になることが予想されうる。図2aおよび2bは、それぞれ、0.1N HClおよびリン酸緩衝液pH6.8への暴露時の、種々のポリサッカリド:ポリサッカリドエチルセルロースブレンド(一定比=1:3)で構成される薄いフィルムの実験的に決定された乾燥質量の損失を示している。理想的なフィルムは、わずかな量の乾燥質量を低速度で失うにすぎず(またはまったく質量を失わず)、これらの条件下で組込み薬剤に対して透過性の低い緻密高分子網状構造を確保する。見てのとおり、エンドウデンプン含有フィルムおよびBMD含有フィルムの乾燥質量損失は、これらの放出培地への8時間までの暴露の後でさえも非常に低い。観測された乾燥質量の減少は、少なくとも部分的には、バルク流体中への水溶性可塑剤トリエチルシトレート(TEC、水性エチルセルロース分散体を可塑化するために使用される)の浸出のためとすることが可能である。それに加えて、水溶性ポリサッカリドの一部は、フィルムから浸出する可能性がある。水溶性ポリサッカリドを含まない可塑化エチルセルロースフィルム(白丸)は、放出培地のタイプに関係なく、ごく少量の水を失うにすぎない。しかしながら、インタクトなエチルセルロースフィルムの透過性は、多くの薬剤に対して非常に低いことが知られており、これは、少なくとも部分的には、これらの系の低い水取込み速度および水取込み率のためとすることが可能である。このため、インタクトなエチルセルロースフィルムはまた、湿分保護コーティングとして使用される。ブレンド系の水取込み速度および水取込み率の増加(図1)は、ポリマー鎖の移動性のかなりの上昇ひいてはTECの移動性の増大を引き起こすので、バルク流体中への水溶性可塑剤TECの損失は、純粋(可塑化)エチルセルロースフィルムと比較して、25%(w/w)の水溶性ポリサッカリドを含有するフィルムではかなり顕在化すると予想されうることに留意されたい。
【0075】
図2に示された結果は一切の酵素の不在下で得られたことを指摘しておかなければならない。膵酵素が特定のポリサッカリドを分解可能であり、したがって、in vivo条件下で有意な質量損失および水取込みを誘導することにより、結果としてフィルムの薬剤に対する透過性が増大される可能性があることは周知である。この現象の重要性を明確化するために、リン酸緩衝液pH6.8中、パンクレアチン(=アミラーゼとプロテアーゼとリパーゼとを含有する混合物)の存在下、およびラット腸からの抽出物(アミラーゼとスクラーゼとイソマルターゼとグルコシダーゼとを含有する)の存在下で、薄いフィルムの水取込み速度および乾燥質量損失挙動をも測定した(図3)。明らかなように、これらの酵素の添加は、研究対象のフィルムの得られた水取込み速度および乾燥質量損失速度に有意な影響を及ぼさなかった。したがって、フィルムは、これらの酵素に対する基質として機能しない。
【0076】
B.2. 結腸内でのフィルムの性質
結腸に達した時点で、高分子フィルムコーティングは、薬剤に対して透過性にならなければならない。これは、たとえば、(部分的)酵素分解により誘導可能である。重要なこととして、特定の酵素の濃度は、上部GIT内よりも結腸内のほうがかなり多い。これは、結腸(GITのこの部分は胃および小腸よりもかなり多くの細菌を含有する)の天然微生物叢により生成される酵素を含む。しかしながら、炎症性腸疾患に罹患している患者の微生物叢は健常被験者の微生物叢と有意に異なる可能性があるので、このタイプの結腸ターゲッティング手法を使用する場合、多くの注意を払わなければならない。したがって、薬剤送達系は、患者の疾患状態に適合化されなければならない。表1は、たとえば、この試験に組み込まれた健常被験者、さらにはクローン病患者および潰瘍性大腸炎患者の糞便サンプルで決定された細菌の濃度を示している。重要なこととして、とくにビフィズス菌(複数の細胞外グリコシダーゼにより複合ポリサッカリドを分解可能である)および大腸菌(Escherichia coli)の濃度に関して有意差が存在し、これらの細菌は、炎症性腸疾患患者の糞便と比較して健常被験者の糞便ではかなり高濃度で存在していた。これとは対照的に、クローン病患者および潰瘍性大腸炎患者の糞便サンプルは、健常被験者では検出されなかったラクトース陰性の大腸菌(E. coli)、シトロバクター・フロインディー(Citrobacter freundii)、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)、クレブシエラ・オキシトカ(Klebsiella oxytoca)、およびエンテロバクター・クロアカエ(Enterobacter cloacae)を含有していた。したがって、微生物叢の質および量に関して基本的な差が存在し、これらを考慮に入れなければならない。すなわち、健常ボランティアにおいて生理学的条件下で結腸ターゲッティングを可能にする高分子フィルムコーティングは、患者の疾患状態では病態生理学的条件下でうまく機能しない可能性がある。ほとんどの場合無視されるこの非常に重大な問題点に対処するために、クローン病患者および潰瘍性大腸炎患者からの糞便サンプルさらには健常被験者の糞便への暴露時、ならびに比較のために純粋培養培地への暴露時の、種々のタイプのポリサッカリド:ポリサッカリドエチルセルロースブレンドで構成される薄いフィルムの水取込みおよび乾燥質量損失を調べた(図4)。適切なフィルムは、結腸内の炎症部位で薬剤放出を誘導するために、患者の糞便への暴露時にかなりの量の水を取り込みかつ有意な乾燥質量損失を示すものでなければならない。図4aおよび4bに見られるように、エチルセルロース:BMDおよびエチルセルロース:エンドウデンプン(これらは、上部GITの内容物をシミュレートした培地で得られた以上に記載の結果によれば、2つの最も有望なタイプのポリマーブレンドである)に基づくフィルムは、クローン病患者、潰瘍性結腸炎患者、さらには健常被験者の糞便への暴露時に有意な水取込みおよび乾燥質量損失を示す。他のタイプのポリマーブレンドもまた、糞便サンプルへの暴露時に呈したフィルムの水取込みおよび乾燥質量損失の挙動に関して有望である(さらにはエチルセルロース:BMDブレンドおよびエチルセルロース:エンドウデンプンブレンドよりも適切である)ように見える点に留意されたい。しかしながら、これらの系は、上部GITの内容物をシミュレートした培地との接触時に、すでにかなりの量の水を取り込みかつ乾燥質量を顕著に損失する(図1および2)。
【0077】
研究対象の高分子フィルムが炎症性腸疾患患者からの糞便中の細菌に対する基質として機能するという事実は、嫌気的条件下37℃で糞便サンプルへのフィルム暴露時に発生した微生物叢の分析によりさらに確認することが可能であった(図5)。明らかなように、特定のタイプの細菌は、ブレンドフィルムと共にインキュベートした時に増殖した。重要なこととして、この現象は、疾患状態の患者のGITの生態系にかなり有益で、結腸内の微生物叢を正常化することが期待できる。この非常に有望なプレバイオティクス効果は、薬剤ターゲティング効果に追加されて現れる。一切の高分子フィルムを用いずにまたは純粋(可塑化)エチルセルロースフィルムと共にインキュベートした生物学的サンプルは、かなり少ない細菌増殖を示した(図5)。
【0078】
結腸ターゲッティングが確認された新規な高分子フィルムコーティングは、患者の疾患状態に適合化された水不溶性ポリマー:ポリサッカリドブレンド、特定的には、エチルセルロース:BMDブレンド、エチルセルロース:エンドウデンプンブレンド、エチルセルロース:MDブレンド、エチルセルロース:EURYLON(登録商標)6A−PGブレンド、エチルセルロース:EURYLON(登録商標)6HP−PGブレンド、およびエチルセルロース:EURYLON(登録商標)7A−PGブレンドで構成される。重要なこととして、上部GITの内容物をシミュレートした培地中での水取込みおよび乾燥質量損失の速度および度合いが低いことと、炎症性腸疾患患者からの糞便との接触時に水取込みおよび乾燥重量損失が増大することと、を組み合わることが可能である。患者の結腸内の微生物叢の組成の変化から、これらのポリサッカリドは、疾患状態の結腸内細菌に対する基質として機能し、おそらく患者のGITの生態系に有益な効果を呈するであろうことが示唆される。したがって、得られた新しい知見は、薬剤を結腸に特異的に送達可能な新規高分子フィルムコーティングの開発の基礎を提供する。重要なこととして、これらの高分子障壁は、疾患状態の標的部位の病態に適合化される。
【0079】
実施例2
A. 材料および方法
A.1. 材料
アルファ化ヒドロキシプロピルエンドウデンプン(PS HP−PG)(LYCOAT(登録商標)RS780、Roquette Freres)、EURYLON(登録商標)7A−PG(アセチル化およびアルファ化高アミロースメイズデンプン(70%アミロース))(Roquette Freres,Lestrem,France)、EURYLON(登録商標)6A−PG(アセチル化およびアルファ化高アミロースメイズデンプン(60%アミロース))(Roquette Freres,Lestrem,France)およびEURYLON(登録商標)6HP−PG(ヒドロキシプロピル化およびアルファ化高アミロースメイズデンプン(60%アミロース))(Roquette Freres,Lestrem,France)、水性エチルセルロース分散体(Aquacoat ECD30、FMC Biopolymer,Philadelphia,USA)、トリエチルシトレート(TEC、Morflex,Greensboro,USA)。
【0080】
A.2. 薄い高分子フィルムの作製
さまざまなタイプのポリサッカリドと水性エチルセルロース分散体とのブレンドをテフロン(登録商標)成形型中にキャストし、続いて60℃で1日間乾燥させることにより、薄い高分子フィルムを作製した。水溶性ポリサッカリドを精製水(15%w/w、EURYLON(登録商標)7 A−PG、EURYLON(登録商標)6 A−PG、およびEURYLON(登録商標)6 HP−PGの場合は熱水)に溶解させ、指定どおり1:2、1:3、1:4、1:5(ポリマー:ポリマー w:w)の比で可塑化水性エチルセルロース分散体とブレンドした(エチルセルロース含有率を基準にして25.0、27.5、または30.0%w/wのTEC、一晩撹拌、15%w/wのポリマー含有率)。混合物を6時間攪拌してからキャストした。
【0081】
A.3. フィルムの特性解析
厚さゲージ(Minitest600、Erichsen,Hemer,Germany)を用いてフィルムの厚さを測定した。フィルムの平均厚さはすべて、300〜340μmの範囲内であった。フィルムの水取込み速度および乾燥質量損失速度を、0.1M HClおよびリン酸緩衝液pH6.8(USP30)への暴露時、次のように重量測定法により測定した。すなわち、100mLの予備加熱された培地が充填された120mLプラスチック容器に1.5×5cmの部片を入れ、続いて37℃で水平振盪させた(80rpm、GFL3033、Gesellschaft fuer Labortechnik,Burgwedel,Germany)。所定の時間点でサンプルを抜き取り、過剰の水を除去し、フィルムを正確に秤量し(湿潤質量)、そして一定重量になるまで60℃で乾燥させた(乾燥質量)。時間tにおける水含有率(%)および乾燥フィルム質量(%)を以下のように計算した。
【0082】
【数2】
【0083】
A.4. 薄いフィルムの機械的性質
テクスチャーアナライザー(TAXT.Plus、Winopal Forschungsbedarf,Ahnsbeck,Germany)および突刺試験を用いて乾燥状態および湿潤状態のフィルムの機械的性質を調べた。フィルム試料をフィルムホルダーに取り付けた(n=6)。突刺プローブ(球状端:直径5mm)をロードセル(5kg)に固定し、0.1mm/sのクロスヘッド速度でフィルムホルダーの孔の中心に向けて下方駆動させた。荷重対変位曲線をフィルムの破壊まで記録し、これを用いて次のような機械的性質を調べた。
【0084】
【数3】
【0085】
式中、Fは、フィルムを突刺するのに必要な荷重であり、かつAは、経路内に位置するフィルムの縁部の断面積である。
【0086】
【数4】
【0087】
式中、Rは、ホルダーの円筒孔内に露出したフィルムの半径を表し、かつDは、変位を表す。
【0088】
【数5】
【0089】
式中、AUCは、荷重対変位曲線下の面積であり、かつVは、フィルムホルダーのダイキャビティー内に位置するフィルムの体積である。
【0090】
B. 結果および考察
B.1. PS HP−PG:エチルセルロースブレンド
図6は、それぞれ0.1M HClおよびリン酸緩衝液pH6.8への暴露時のさまざまなタイプのPS HP−PG:エチルセルロースブレンドで構成される薄いフィルムの重量測定法により決定された水取込み速度および乾燥質量損失速度を示している。PS HP−PGは、アルファ化変性デンプンである。MDの場合と同様に、系中への水浸透の得られた度合いおよび速度は、ポリサッカリド:エチルセルロース比を1:5から1:2に増加させた場合、有意に増加した(図12、上側の図)。この場合も、これは、エチルセルロースと比較してポリサッカリドのより高い親水性のためとすることが可能である。高い初期PS HP−PG含有率で上部GIT内での易水溶性低分子量薬剤の早期放出を抑制するためには、おそらくコーティングレベルを適切に上昇させことが必要になるであろう。また、フィルムの乾燥質量損失の速度および度合いは、部分的なTECおよびポリサッカリドの浸出に起因して、PS HP−PG含有率の増加に伴って有意に増加した。いずれの場合も、水浸透および乾燥質量損失の速度および度合いは、以上で述べたようにSDSのpH依存的イオン化が原因で、0.1M HClと比較してリン酸緩衝液pH6.8では、より大きかった。MD:エチルセルロースブレンドの場合と同様に、PS HP−PG:エチルセルロースフィルムの機械的安定性は、初期エチルセルロース含有率を変化させることにより効果的に調整可能である。このことは、室温で乾燥状態での突刺強度、破断点伸び%、および破断点エネルギー(表2)、さらには0.1M HClおよびリン酸緩衝液pH6.8への暴露時の湿潤状態での機械的耐性(図7)についてもいえることであった。この場合も、時間に伴う破断点エネルギーの減少は、放出培地のタイプに関係なく、バルク流体中への部分的な可塑剤およびポリサッカリドの浸出のためとすることが可能である。
【0091】
B.2. EURYLON(登録商標)7A−PG:エチルセルロースブレンド
0.1M HClおよびリン酸緩衝液pH6.8中での1:2〜0:1のEURYLON(登録商標)7A−PG:エチルセルロースブレンドで構成される薄いフィルムの水取込み速度および乾燥質量損失速度は、図8に示されている。EURYLON(登録商標)7A−PGは、アセチル化およびアルファ化高アミロースメイズデンプン(70%アミロース)(Roquette Freres,Lestrem,France)である。見てのとおり、MD:エチルセルロースブレンドおよびPS HP−PG:エチルセルロースブレンドの場合と同一の傾向が観測された。すなわち、(i)水取込みの速度および度合いは、エチルセルロース含有率の減少に伴って増加し、(ii)乾燥質量損失の速度および度合いは、ポリサッカリド含有率の増加に伴って増加し、(iii)これらの効果は、0.1M HCl中よりもリン酸緩衝液pH6.8中のほうが顕著であった。重要なこととして、リン酸塩への2時間暴露時のフィルムの水含有率は、かなり大きく、約50%w/wであった。したがって、高い初期EURYLON(登録商標)7A−PG含有率では、上部GIT内での易水溶性低分子量薬剤の早期放出を抑制するために、おそらく高いコーティングレベルが必要になるであろう。重要なこととして、室温で乾燥状態では、EURYLON(登録商標)7A−PG:エチルセルロース系フィルムの機械的耐性は、MD:エチルセルロースブレンドおよびPS HP−PG:エチルセルロースブレンドで構成されるフィルムのものよりも有意に高かった(表2)。しかしながら、これらの差は、フィルムを0.1M HClおよびリン酸緩衝液pH6.8に暴露した場合、放出培地のタイプに関係なく、副次的なものとなった(図9)。重要なこととして、この場合も、ポリマーブレンド比を変化させることにより、フィルムの機械的安定性を効率的な調整することが可能であった。
【0092】
B.3. EURYLON(登録商標)6A−PG:エチルセルロースブレンドおよびEURYLONの(登録商標)6HP−PG:エチルセルロースブレンド
EURYLON(登録商標)6A−PGは、アセチル化およびアルファ化高アミロースメイズデンプン(60%アミロース)(Roquette Freres,Lestrem,France)であり、EURYLON(登録商標)6HP−PGは、ヒドロキシプロピル化およびアルファ化高アミロースメイズデンプン(60%アミロース)(Roquette Freres,Lestrem,France)である。興味深いことに、EURYLON(登録商標)6A−PG:エチルセルロースブレンドおよびEURYLONの(登録商標)6HP−PG:エチルセルロースブレンドで構成される薄いフィルムの乾燥質量損失は、それぞれ0.1M HClおよびリン酸緩衝液pH6.8への暴露時、他方の研究対象のポリマーブレンドほど顕著ではなかった(図10および12、下側の図)。このことは、乾燥質量損失の速度および度合いのいずれについても、さらにはすべての研究対象のポリマーブレンド比でもいえることであった。これとは対照的に、これらのフィルムの水取込みの速度および度合いは、さまざまな放出培地への暴露時、他のポリサッカリド:エチルセルロースブレンドのものに類似しており、高い初期ポリサッカリド含有率の場合、リン酸緩衝液pH6.8への1〜2時間暴露後、約50%w/wの水含有率に達した(図10および12、上側の図)。したがって、EURYLON(登録商標)6A−PG:エチルセルロースブレンドおよびEURYLON(登録商標)6HP−PG:エチルセルロースブレンドでは、低い初期エチルセルロース含有率で上部GIT内での易水溶性低分子量薬剤の早期放出を抑制するために、おそらく高いコーティングレベルが必要になるであろう。表2に見られるように、室温で乾燥状態のこれらのタイプのポリマーブレンドで構成される薄いフィルムの機械的性質は、同一のブレンド比のEURYLON(登録商標)7A−PG:エチルセルロースブレンドのものに類似していた。後者のブレンドの場合と同様に、0.1M HClまたはリン酸緩衝液pH6.8への暴露の結果、放出培地のタイプおよびポリマーのブレンド比に関係なく、巨大分子網状構造の機械的安定性の減少を生じた(図11および13)。重要なこととして、所望の系安定性は、この場合も、ポリマーブレンド比を変化させることにより効果的に調整可能である。
【0093】
結腸への部位特異的薬剤送達を提供する興味深い可能性を示す(かつ炎症性腸疾患患者の病態生理に適合化される)ポリサッカリド:水不溶性ポリマーブレンドで構成される薄い高分子フィルムの主要な性質は、ポリマーのブレンド比およびポリサッカリドのタイプを変化させることにより効果的に調整可能である。これは、上部GITの内容物をシミュレートした水性培地への暴露前および暴露時の水取込み速度、および乾燥質量損失速度、さらにはフィルムの機械的性質を含む。したがって、広範囲のフィルムコーティングの性質を容易に提供することが可能であるので、それぞれの薬剤治療のニーズ(たとえば、コア配合物の浸透活性および投与量)に適合化させることが可能である。
【0094】
実施例3
A. 材料および方法
A.1. 材料
エンドウデンプンN−735(エンドウデンプン、Roquette Freres,Lestrem,France)、Aquacoat ECD30(水性エチルセルロース分散体、FMC Biopolymer,Brussels,Belgium)、トリエチルシトレート(TEC、Morflex,Greensboro,NC,USA)、5−アミノサリチル酸(5−ASA、Sigma−Aldrich,Isle d’Abeau Chesnes,France)、微結晶性セルロース(Avicel PH101、FMC Biopolymer)、ベントナイトおよびポリビニルピロリドン(PVP、Povidone K30)(Coopertation Pharmaceutique Francaise,Melun,France)、パンクレアチン(哺乳動物膵臓由来=アミラーゼとプロテアーゼとリパーゼとの混合物)およびペプシン(Fisher Bioblock,Illkirch,France)、肉牛および酵母からの抽出物さらにはトリプトン(=カゼインの膵液消化物)(Becton,Dickinson and Company,Franklin Lakes,NJ,USA)、L−システイン塩酸塩水和物(Acros Organics,Geel,Belgium)、システイン加リンゲル液(Merck,Darmstadt,Germany)。
【0095】
A.2. フリーフィルムの作製
エンドウデンプンと水性エチルセルロース分散体(25%のTECで可塑化されている)とのブレンドをテフロン(登録商標)成形型上にキャストしてから制御下で乾燥(60℃で1日間)を行うことにより、薄いフリーフィルムを作製した。エンドウデンプンを65〜75℃で精製水中に分散させた(5%w/w)。25%のTEC(w/w、分散体の固形分含有率を基準にして)を用いて水性エチルセルロース分散体(15%w/w固形分含有率)を24時間可塑化した。次の比、すなわち、1:2、1:3、1:4、および1:5(ポリマー:ポリマー、w:w)でエンドウデンプンおよびエチルセルロース分散体を室温でブレンドした。混合物を6時間攪拌してからキャストした。
【0096】
A.3. フリーフィルムの特性解析
厚さゲージ(Minitest600、Erichsen,Hemer,Germany)を用いてフィルムの厚さを測定した。フィルムの平均厚さはすべて、300〜340μmの範囲内であった。
【0097】
次のように、37℃で(i)模擬胃液(0.1M HCl)および(ii)模擬腸液[リン酸緩衝液pH6.8(USP32)]への暴露時、フィルムの水取込み速度および乾燥質量損失速度を重量測定法により測定した。100mLの予備加熱された培地が充填された120mLプラスチック容器に1.5cm×5cmの断片を入れ、続いて37℃で水平振盪させた(80rpm、GFL3033、Gesellschaft fuer Labortechnik,Burgwedel,Germany)。所定の時間点でサンプルを抜き取り、過剰の水を除去し、フィルムを正確に秤量し(湿潤質量)、そして一定重量になるまで60℃で乾燥させた(乾燥質量)。時間tにおける水含有率(%)および乾燥フィルム質量(%)を以下のように計算した。
【0098】
【数6】
【0099】
乾燥状態でならびに0.1M HClおよびリン酸緩衝液pH6.8への暴露時(湿潤状態で)、テクスチャーアナライザー(TAXT.Plus、Winopal Forschungsbedarf,Ahnsbeck,Germany)および突刺試験を用いて、フィルムの機械的性質を調べた。フィルム試料をフィルムホルダーに取り付けた(n=6)。突刺プローブ(球状端:直径5mm)をロードセル(5kg)に固定し、0.1mm/sのクロスヘッド速度でフィルムホルダーの孔の中心に向けて下方駆動させた。荷重対変位曲線をフィルムの破壊まで記録し、これを用いて次のような機械的性質を調べた。
【0100】
【数7】
【0101】
式中、Fは、フィルムを突刺するのに必要な荷重であり、かつAは、経路内に位置するフィルムの縁部の断面積である。
【0102】
【数8】
【0103】
式中、Rは、ホルダーの円筒孔内に露出したフィルムの半径を表し、かつDは、変位を表す。
【0104】
【数9】
【0105】
式中、AUCは、荷重対変位曲線下の面積であり、かつVは、フィルムホルダーのダイキャビティー内に位置するフィルムの体積である。
【0106】
A.4. コーティング付きペレット剤の作製
押出しおよびそれに続く球状化により、薬剤(5−アミノサリチル酸、5−ASA)担持ペレット剤スターターコア(直径:0.7〜1.0mm、60%5−ASA、32%微結晶性セルロース、4%ベントナイト、4%PVP)を次のように作製した。すなわち、それぞれの粉末を高速グラニュレーター(Gral10、Collette,Antwerp,Belgium)でブレンドし、均一塊が得られるまで精製水を添加した(100gの粉末ブレンドに対して41gの水)。湿潤混合物をシリンダー押出し機(SK M/R、孔:直径1mm、厚さ3mm、回転速度:96rpm、Alexanderwerk,Remscheid,Germany)に通した。続いて、押出し物を520rpmで2分間球状化し(Spheroniser Model15、Calveva,Dorset,UK)、流動床(ST15、Aeromatic,Muttenz,Switzerland)を用いて40℃で30分間乾燥させた。篩分けによりサイズ画分0.7〜1.0mmを得た。次に、さまざまなエンドウデンプン:エチルセルロースブレンドを用いて、Wursterインサートを備えた流動床コーター(Strea1、Aeromatic−Fielder,Bubendorf,Switzerland)により、5、10、15、または20%(w/w)の重量増加が達成されるまで、これらの薬剤担持スターターコアにコーティングを施した。フィルムキャスティングで使用した分散体と同一の方式でコーティング配合物を調製した(第2.2節のフリーフィルムの作製で記載したとおり)。プロセスパラメーターは次のとおりであった。入口温度=39±2℃、生成物温度=40±2℃、スプレー速度=1.5〜3g/分、アトマイゼーション圧力=1.2bar、ノズル直径=1.2mm。その後、ペレット剤をさらに10分間流動化させ、続いて、60℃のオーブン中で24時間硬化させた。
【0107】
A.5. コーティング付きペレット剤からの薬剤放出
下の胃腸管内の状態をシミュレートした培地でコーティング付きペレット剤からの薬剤放出を測定した。
【0108】
上部胃腸管: 100mL溶解培地、すなわち、最初の2時間の間、0.1M HCl(場合により0.32%のペプシンを含有していてもよい)、続いて9時間の間、リン酸緩衝液pH6.8(USP32)(場合により1%のパンクレアチンを含有していてもよい)が充填された120mLプラスチック容器にペレット剤を入れた。水平振盪機(80rpm、GFL3033)を用いてフラスコを撹拌した。所定の時間点で3mLのサンプルを抜き取って薬剤含有率に関してUV分光光度法により分析した(0.1M HCl中ではλ=302.6nm、リン酸緩衝液pH6.8中ではλ=330.6nm)(UV−1650、Shimadzu,Champs sur Marne,France)。UV測定前、酵素の存在下で、サンプルを11000rpmで15分間遠心分離し、続いて濾過した(0.2μm)。各実験を三重反復方式で行った。
【0109】
全胃腸管: USP装置3(Bio−Dis、Varian,Paris,France)(浸漬速度=10dpm)を用いて、ペレット剤を0.1M HCl(USP32)に2時間暴露し、続いてリン酸緩衝液pH6.8に9時間暴露した。その後、(i)炎症性腸疾患患者からの糞便が接種された100mL培養培地、(ii)ビフィズス菌が接種された培養培地、または(iii)比較のために糞便および細菌を含まない培養培地が充填された120mLフラスコにペレット剤を移した。嫌気的条件下(5%CO2、10%H2、85%N2)37℃でサンプルを撹拌した(50rpm)。1.5gの肉牛抽出物、3gの酵母抽出物、5gのトリプトン、2.5gのNaCl、および0.3gのL−システイン塩酸塩水和物を1Lの蒸留水(pH7.0±0.2)に溶解させ、続いてオートクレーブ中で滅菌することにより、培養培地を調製した。クローン病または潰瘍性結腸炎に罹患している患者の糞便をシステイン加リンゲル液で1:200に希釈し、この懸濁液2.5mLを培養培地で100mLに希釈した。所定の時間点で、2mLサンプルを抜き取り、13000rpmで5分間遠心分離し、濾過し(0.22μm)、そしてその薬剤含有率に関してHPLCにより分析した(ProStar230、Varian)。移動相は、10%のメタノールと90%の水性酢酸溶液(1%w/v)とで構成されるものであった(Siew et al.,2000a)。サンプルをPursuit C18カラム(150×4.6mm、5μm)に注入した。流量は1.5mL/minであった。λ=300nmでUV分光光度法により薬剤を検出した。
【0110】
新たに作製されたペレット剤(とくに明記されていないかぎり)さらには開放ガラスバイアル中で室温(23±2℃)かつ周囲相対湿度(55±5%)で1年間貯蔵したペレット剤からの薬剤放出を測定した。
【0111】
B. 結果および考察
B.1. 薄いフィルムの水取込みおよび乾燥質量損失
理想的には、結腸への部位特異的薬剤送達を可能にする高分子フィルムコーティングは、胃腸管の上部すなわち胃および小腸での薬剤放出を効果的に抑制するものでなければならない。したがって、フィルムコーティング(これは薬剤保持体を取り囲む)は、これらの器官の内容物をシミュレートした培地への暴露時、薬剤に対して透過性が悪くなければならない(早期薬剤放出およびそれに続く血流中への吸収を回避するため)。高分子フィルムコーティングがバルク流体への暴露時に有意量の水を取り込むかまたはかなりの量の乾燥質量を損失する場合、薬剤分子に対するその透過性は、著しく増大することが予想されうる[]。このため、(a)0.1M HCl(胃の内容物をシミュレートしたもの)への2時間の暴露時および(b)リン酸緩衝液pH6.8(小腸の内容物をシミュレートしたもの)への8時間の暴露時、薄いエンドウデンプン:エチルセルロースフィルムの水取込み速度および乾燥質量損失速度をモニターした。図14は、時間の関数としてフィルムの実験的に決定された水含有率を示している。エンドウデンプン:エチルセルロースブレンド比は、指定どおり1:2〜1:4で変化させた。比較のために、(可塑化)エチルセルロースのみで構成されるフィルム(黒三角)も試験した。見てのとおり、水取込みの速度および度合いは、このポリマーの親水性に起因してエンドウデンプン含有率の増加に伴って増加した。重要なこととして、水取込みは、いずれの場合も制限された(30%未満)。pH1.2と比較してpH6.8でわずかに高い水取込みの速度および度合い(図14b対14a)は、おそらく、フィルムの作製に使用された水性エチルセルロース分散体中に存在してこの分散体の安定化剤として機能するナトリウムドデシルスルフェート(SDS)の存在のためとすることが可能である。低pHでは、SDSは、プロトン化されて非荷電であるが、pH6.8では、脱プロトン化されるので負荷電である。そのため、その親水性は増加され、フィルム中への水浸透は促進される[]。
【0112】
図15は、(a)0.1M HClおよび(b)リン酸緩衝液pH6.8への暴露時の、種々のエンドウデンプン:エチルセルロースフィルムの実験的に測定された乾燥質量損失速度を示している。見てのとおり、乾燥質量損失の速度および度合いは、エンドウデンプン含有率の増加に伴ってわずかに増加した。この原因は、このポリサッカリドが水との接触時に有意に膨張することにより、周囲のバルク流体中への水溶性フィルム化合物(たとえば、水溶性可塑剤TEC[])の浸出が促進されることにある。最小の質量損失は、培地のタイプに関係なく、エンドウデンプンフリーのフィルムで観測された。これは、エチルセルロースが水性培地との接触時に劣った膨潤性および浸透性を示すという事実のためとすることが可能である。それは、水溶性化合物の浸出を効果的に妨害する。
【0113】
したがって、エンドウデンプン:エチルセルロースフィルムの観測された水取込みおよび乾燥質量損失の速度は、胃内および小腸内で薬剤放出を妨害する障壁膜としてこのフィルムを使用する可能性に関して非常に有望である。所要により、フィルム厚さおよび/またはエチルセルロース含有率を増加させてもよい。しかしながら、十分量のエンドウデンプンがコーティング中に存在するように注意を払わなければならない。なぜなら、この化合物は、結腸内での薬剤放出の開始を誘導するために意図されているからである(結腸内細菌から分泌される酵素により分解される)。
【0114】
B.2. 薄いフィルムの機械的性質
制限された水取込みおよび乾燥質量損失に加えて、結腸への部位特異的薬剤送達を目的とする高分子フィルムコーティングは、十分な機械的安定性を提供しなければならない。胃および小腸の生理的運動に起因して、機械的応力がコーティング付き製剤に加わる。フィルムコーティングが脆弱である場合、亀裂形成を生じて、水で満たされたチャネルを介して薬剤が急速に放出される。研究対象のエンドウデンプン:エチルセルロースブレンドの機械的安定性を評価するために、テクスチャーアナライザーおよび突刺試験を使用した。図16は、(a)破断点突刺強度、(b)破断点伸び%、および(c)乾燥状態の薄い高分子フィルムの破断に必要なエネルギーを示している。明らかなように、フィルムの機械的安定性は、エチルセルロース含有率の増加に伴って有意に増大した。興味深いことに、すべての値が比較的高いことから、通常の厚さを有するフィルムコーティングは、in vivoで胃腸管内で受ける機械的応力に耐えられることが示唆される。
【0115】
しかしながら、図16に示される結果は、乾燥フィルムを用いて得られたものであることを指摘しておかなければならない。水性バルク流体との接触時、高分子フィルムコーティングの機械的性質は、たとえば、周囲のバルク流体中への化合物浸出および/または水の可塑化効果に起因して、有意に変化する可能性がある[Erreur ! Signet non defini.,Erreur ! Signet non defini]。図17aおよび17bは、さまざまな組成の湿潤フィルムの破断に必要なそれぞれのエネルギーを示している。明らかなように、すべてのフィルムの機械的強度は、バルク流体のタイプに関係なく、暴露時間の増加に伴って低下した。これは、少なくとも部分的には、バルク流体中への水溶性可塑剤TECの浸出のためとすることが可能である[Erreur ! Signet non defini.]。予想どおり、エチルセルロース含有率の増加は、両方の培地でフィルムの破断に必要なエネルギーの増大を引き起こした。重要なこととして、すべてのフィルムコーティングは、おそらく、湿潤状態でも胃腸管内でin vivoで受ける機械的応力に耐えるであろうことが観測値から示唆される(一般に使用されるコーティングレベルで)。
【0116】
B.3. 上部胃腸管内での薬剤放出
理想的には、薬剤は、胃内および小腸内で製剤からまったく放出されないかまたはごくわずかに放出されるものでなければならない。図18の実線の曲線は、37℃で0.1M HCl(2時間)中へのそれに続いてリン酸緩衝液pH6.8(9時間)中への、0、5、10、15、および20%(w/w)のコーティングレベルでエンドウデンプン:エチルセルロース1:2でコーティングされたペレット剤からの実験的に決定された薬剤放出速度を示している。見てのとおり、5−アミノサリチル酸は、コーティング無しペレット剤さらには5%のエンドウデンプン:エチルセルロース1:2のみでコーティングされたペレット剤から急速に放出された。これは、少なくとも部分的には、高分子障壁の不十分な厚さと共に、放出培地への暴露時のこれらのフィルムコーティングの水取込みおよび乾燥質量損失のためとすることが可能である(図14および15)。重要なこととして、10%(w/w)以上のコーティングレベルでは、薬剤放出は、効果的に遅延された(おそらく拡散経路長の増加およびフィルムコーティングの機械的安定性の増加に起因して)。
【0117】
しかしながら、in vivoで胃腸管内の酵素の存在が、たとえば部分的なポリマー分解に起因して、フィルムコーティングの性質に有意な影響を及ぼす可能性があることを指摘しておかなければならない。このため、(i)0.32%のペプシンを含有する0.1M HCl(2時間)それに続いて(ii)1%のパンクレアチンを含有するリン酸緩衝液pH6.8(9時間)でもコーティング付きペレット剤からの薬剤放出を測定した。それぞれの結果は、図18に点線の曲線で示されている。明らかなように、いずれの場合も、薬剤放出速度は、ごくわずかに増加した。したがって、in vivoでのそのような酵素分解の重要性は、おそらく限られたものであろう。
【0118】
フィルムの相対エチルセルロース含有率を増加させた結果、水取込みおよび乾燥質量損失の速度および度合いの低下(図14および15)さらには乾燥状態および湿潤状態のフィルムの機械的安定性の増大(図16および17)を生じたので、さまざまなコーティングレベルでエンドウデンプン:エチルセルロース1:3、1:4、および1:5ブレンドでコーティングされたペレット剤からの薬剤放出を測定した(図19)。興味深いことに、これらの場合、わずか5%(w/w)のフィルムコーティングでさえも、薬剤放出の速度を低下させることが可能である。しかしながら、10%以上のコーティングレベルは、薬剤放出が観測期間内でほとんど完全に抑制されるので、より適切である。
【0119】
得られた結果(図14〜19)に基づいて、15%および20%のコーティングレベルでエンドウデンプン:エチルセルロース1:4でコーティングされたペレット剤を選択してさらなる試験に供した。
【0120】
B.4. 全胃腸管内での薬剤放出
製剤が結腸に達した時点で、フィルムコーティングは、薬剤に対して透過性にならなければならず、かつ時間制御された形で薬剤を放出しなければならない。図20aは、(i)2時間の間、0.1M HCl、続いて(ii)9時間の間、リン酸緩衝液pH6.8、さらには(c)10時間の間、炎症性腸疾患患者からの糞便サンプルが接種された培養培地中への、15%および20%(w/w)のコーティングレベルでエンドウデンプン:エチルセルロース1:4でコーティングされたペレット剤からの5−アミノサリチル酸の実験的に測定された放出を示している(実線の曲線)。比較のために、糞便を含まない培養培地への暴露時の薬剤放出も示されている(点線の曲線)。明らかなように、薬剤放出は、ペレット剤が糞便サンプルに接触し次第、開始された。これは、患者の結腸中に存在する細菌により分泌された酵素によるエンドウデンプンの(少なくとも部分的な)分解のためとすることが可能である。ポリマー分子量の減少およびそれに続く周囲のバルク流体中への分解産物の拡散は、残りの巨大分子網状構造をより動きやすくする。したがって、フィルムコーティング内の薬剤分子の移動性も増大するので、放出速度が増加する。これとは対照的に、糞便を含まない培養培地への暴露時、薬剤放出速度は、低いままであった(図20aの点線の曲線)。このことから、薬剤放出は、IBD患者の結腸中に存在する酵素が引き金となって起こることが確認される。実用的な観点から、15%のコーティングレベルは、20%のコーティングレベル(結腸内で低すぎる薬剤放出を生じる可能性がある)よりも好ましいように思われる。
【0121】
炎症性腸疾患患者からの新しい糞便サンプルの定期的な供給を確保するのは困難であるので(しかも微生物叢の有意な損傷を伴うことなくサンプルを急速冷凍または凍結乾燥することはできないので)、患者の結腸内の状態をシミュレートした代替的なタイプの放出培地を提供することがきわめて望ましい。細菌酵素の存在に敏感な薬剤送達系では、バルク流体が決定的なタイプおよび量の細菌を含有することに注意を払わなければならない。この試験では、新しい糞便サンプルが接種された培養培地の有力な代替手段として、ビフィズス菌が接種された培養培地を試験した。図20bは、0.1M HCl(2時間)、リン酸緩衝液pH6.8(9時間)、およびビフィズス菌が接種された培養培地(10時間)への暴露時の図20aに示されたのと同一タイプのペレット剤からの観測された薬剤放出速度を示している。図20aおよび20bを比較すると、ビフィズス菌が接種された培養培地は、とくに定型的な用途(たとえば大規模生産での品質管理)で、IBD患者からの新しい糞便サンプルの代用として有望な可能性を示すことが明らかになる。
【0122】
可塑剤としてジブチルセバケートを用いて類似の結果が得られたことから(データは示さず)、制御放出性送達でのエンドウデンプンの効率は、可塑剤依存性でないことが確認される。
【0123】
B.5. 貯蔵安定性
実用的な観点から非常に重要な側面は、制御薬剤送達系の長期安定性である。製剤は、理想的には、少なくとも3年間にわたり安定でなければならない。ポリマーコーティング付き送達システムの場合、得られる薬剤放出速度は、たとえば、フィルムコーティング中への薬剤のマイグレーションに起因して、最終的に、貯蔵期間の増加に伴って増加する可能性がある。図21は、開放ガラスバイアル中での1年間の貯蔵の前および後(実線および点線の曲線)の10、15、および15%(指定どおり)のコーティングレベルでエンドウデンプン:エチルセルロース1:4でコーティングされたペレット剤からの薬剤放出速度を示している。系を0.1M HClに2時間暴露し、続いてリン酸緩衝液pH6.8に9時間暴露した。見てのとおり、放出速度は、長期貯蔵時、変わらずに保持された。10、15、および20%のコーティングレベルでエンドウデンプン:エチルセルロース1:2、1:3、および1:5でコーティングされたペレット剤でも、同じことが言える(データは示さず)。したがって、提案された薬剤送達系は、長期間安定である。
【0124】
C. 結論
エンドウデンプン:エチルセルロース系フィルムコーティングは、結腸への部位特異的薬剤送達に関してかなり有望な可能性があるものとして提案された。コーティング付きペレット剤からの薬剤放出は、胃および小腸の内容物をシミュレートした培地中で効果的に抑制可能である。しかしながら、本考案物が糞便サンプルに接触し次第、炎症性腸疾患患者の結腸内に存在する細菌から分泌される酵素によるエンドウデンプンの部分的な分解に起因して、薬剤放出が開始され、かつ時間制御される。したがって、このタイプの先進的な送達システムは、上部胃腸管内での早期薬剤放出(およびそれに続く血流中への吸収)を回避できるようにすると同時に、作用部位での薬剤の放出を確保できるようにする。したがって、人体の残りの部分での望ましくない副作用は、最小限に抑えられることが予想されうると同時に、薬剤の治療効果は、おそらく最適化されるであろう。
【0125】
実施例4
A. 材料および方法
A.1 材料
2,4,6−トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)(Sigma−Aldrich,Isle d’Abeau Chesnes,France)、システイン加リンゲル液(Merck,Darmstadt,Germany)、BMD(NUTRIOSE(登録商標)FB06、Roquette Freres,Lestrem,France)、エンドウデンプンN−735(エンドウデンプン、Roquette Freres,Lestrem,France)、水性エチルセルロース分散体(Aquacoat ECD30、FMC Biopolymer,Philadelphia,USA)、トリエチルシトレート(TEC、Morflex,Greensboro,USA)、5−アミノサリチル酸(5−ASA、Sigma−Aldrich,Isle d’Abeau Chesnes,France)、微結晶性セルロース(Avicel PH101、FMC Biopolymer,Brussels,Belgium)、ポリビニルピロリドン(PVP、Povidone K30)(Cooperation Pharmaceutique Francaise,Melun,France)、Pentasa(登録商標)(コーティング付きペレット剤、Ferring、バッチ番号:JX155)、Asacol(登録商標)(コーティング付き顆粒剤、Meduna、バッチ番号:TX143)。
【0126】
A.2 BMD:エチルセルロースコーティング付きペレット剤およびエンドウデンプン:エチルセルロースコーティング付きペレット剤の作製
押出しおよびそれに続く球状化により5−アミノサリチル酸(5−ASA)担持ペレット剤スターターコア(直径:0.7〜1.0mm、60%5−ASA、32%微結晶性セルロース、4%ベントナイト、4%PVP)を次のように作製した。すなわち、それぞれの粉末を高速グラニュレーター(Gral10、Collette,Antwerp,Belgium)でブレンドし、均一塊が得られるまで精製水を添加した(100gの粉末ブレンドに対して41gの水)。湿潤混合物をシリンダー押出し機(SK M/R、孔:直径1mm、厚さ3mm、回転速度:96rpm、Alexanderwerk,Remscheid,Germany)に通した。続いて、押出し物を520rpmで2分間球状化し(Spheroniser Model15、Calveva,Dorset,UK)、流動床(ST15、Aeromatic,Muttenz,Switzerland)を用いて40℃で30分間乾燥させた。篩分けによりサイズ画分0.7〜1.0mmを得た。
【0127】
続いて、Wursterインサートを備えた流動床コーター(Strea1、Aeromatic−Fielder,Bubendorf,Switzerland)を用いて、15%(w/w)(BMD:ECコーティング付きペレット剤)または20%(w/w)(エンドウデンプン:ECコーティング付きペレット剤)の重量増加が達成されるまで、得られた薬剤担持スターターコアをBMD:エチルセルロース1:4ブレンド(BMD:ECコーティング付きペレット剤)またはエンドウデンプン:エチルセルロース1:2ブレンド(エンドウデンプン:ECコーティング付きペレット剤)でコーティングした。
【0128】
BMDを精製水に溶解させ(5%w/w)、1:4の比(w/w、非可塑化ポリマー乾燥質量を基準にして)で可塑化水性エチルセルロース分散体とブレンドし(25%TEC、一晩撹拌、15%w/wポリマー含有率)、コーティング前に6時間攪拌した。Wursterインサートを備えた流動床コーター(Strea1、Aeromatic−Fielder,Bubendorf,Switzerland)を用いて、15%(w/w)の重量増加が達成されるまで薬剤担持ペレット剤コアにコーティングを施した。プロセスパラメーターは次のとおりであった。入口温度=39±2℃、生成物温度=40±2℃、スプレー速度=1.5〜3g/分、アトマイゼーション圧力=1.2bar、ノズル直径=1.2mm。コーティング後、ビーズをさらに10分間流動化させ、続いて、60℃のオーブン中で24時間硬化させた。
【0129】
エンドウデンプンを65〜75℃で精製水中に分散させた(5%w/w)。25%のTEC(w/w、分散体の固形分含有率を基準にして)を用いて水性エチルセルロース分散体(15%w/w固形分含有率)を24時間可塑化した。エンドウデンプンおよびエチルセルロース分散体を次の比すなわち1:2(ポリマー:ポリマー、w:w)で室温でブレンドした。混合物を6時間攪拌してからコーティングした。Wursterインサートを備えた流動床コーター(Strea1、Aeromatic−Fielder,Bubendorf,Switzerland)を用いて、20%(w/w)の重量増加が達成されるまで薬剤担持ペレット剤コアにコーティングを施した。プロセスパラメーターは次のとおりであった。入口温度=39±2℃、生成物温度=40±2℃、スプレー速度=1.5〜3g/分、アトマイゼーション圧力=1.2bar、ノズル直径=1.2mm。その後、ペレット剤をさらに10分間流動化させ、続いて、60℃のオーブン中で24時間硬化させた。
【0130】
A.3 結腸炎の誘導および試験デザイン
雄ウィスターラット(250g)をin vivo試験に使用した。この試験は、政府ガイドライン(86/609/CEE)に準拠してInstitut Pasteur de Lilleの公認施設(A35009)で行った。1ケージあたり4匹の動物を飼育した。ラットはすべて、水道水を自由に利用できた。
【0131】
実験の開始時(0日目)、ラットを6群(5〜8匹の動物/群)に分けた。2つの群は、標準飼料を摂取した(陰性および陽性の対照群)。他の群は、Pentasa(登録商標)ペレット剤(n=8)、Asacol(登録商標)ペレット剤(n=8)、BMD:エチルセルロースコーティング付きペレット剤(n=8)、またはエンドウデンプン:エチルセルロースコーティング付きペレット剤(n=8)のいずれかを含む食物を摂取した。「食物混合」技術を用いて、これらの4つの異なる飼料を調製した。系はすべて、150mg/kg/日の5−ASAの用量が得られるように添加された。
【0132】
3日目、以下のように結腸炎を誘導した:ペントバルビタール(40mg/kg)を用いてラットを90〜120分間麻酔し、水性0.9%NaCl溶液と100%エタノールとの1:1混合物に溶解されたTNBS(250μl、20mg/ラット)の直腸内投与を施した。対照ラット(陰性対照)には媒体のみ(水性0.9%NaCl溶液と100%エタノールとの1:1混合物)の直腸内投与を施した。直腸内TNBS投与または直腸内媒体投与の3日後(6日目)、動物を屠殺した。
【0133】
A.4 結腸炎の巨視的および組織学的な評価
結腸炎の巨視的および組織学的な指標を2名の研究者により盲検的に評価した。Ameho基準に従って組織学的評価を行うために、肛門管から正確に4cm上に位置する結腸検体を使用した。0〜6の尺度に基づくこの等級付けは、炎症浸潤の度合い、糜爛、潰瘍、または壊死の存在、ならびに病変の深さおよび表面積を考慮に入れる。
【0134】
A.5 統計
ノンパラメトリック検定(マン・ホイットニー検定)を用いてすべての比較を解析した。P値が<0.05であった場合、差は、統計学的に有意であると判断された。
【0135】
B 結果および考察
TNBS起因性結腸炎は、BMD:エチルセルロースコーティング付きペレット剤およびエンドウデンプン:エチルセルロースコーティング付きペレット剤で治療することにより改善される。
【0136】
直腸内TNBS投与が施された動物における結腸炎の進行を特徴付けた。媒体のみ(水性0.9%NaCl溶液と100%エタノールとの1:1混合物)の直腸内投与の3日後に屠殺された対照ラット(陰性対照群)は、結腸内に巨視的病変を有していなかった(図22A)。これとは対照的に、TNBS投与の3日後程度の早い時期に重篤な結腸炎が誘導された(図22B)。組織学的レベルに関して、対照ラットでは異常は検出されなかった(図24:対照=陰性対照群)。これとは対照的に、TNBS投与の3日後、結腸組織構造は、好中球浸潤を伴う大きい潰瘍面積により特徴付けられ、筋層の深部にまで壊死が広がった(図24:TNBS)。BMD:エチルセルロースコーティング付きペレット剤で処理された動物の結腸は、病変の有意な減少を示した(図22)。この結果は、エンドウデンプン:エチルセルロースコーティング付きペレット剤で処理されたラットの場合(データは示さず)と類似していた。さらに、TNBS起因性結腸病変に及ぼすPentasa(登録商標)ペレット剤、Asacol(登録商標)ペレット剤、BMD:エチルセルロースコーティング付きペレット剤、およびエンドウデンプン:エチルセルロースコーティング付きペレット剤による処理の影響を、Amehoスコアを用いて検討した(図29)。結腸炎を有する未処理ラットを比較のために調べた。最適効果は、BMD:エチルセルロースコーティング付きペレット剤を用いた場合およびエンドウデンプン:エチルセルロースコーティング付きペレット剤を用いた場合に得られた。結腸炎誘導の3日後、結腸炎を有する未処理ラットと比較して、BMD:エチルセルロースコーティング付きペレット剤およびエンドウデンプン:エチルセルロースコーティング付きペレット剤の投与が予防的に施されたラットで、巨視的病変スコアの有意な減少が観測された。巨視的炎症に対応して、組織学的分析によっても、(i)直腸内にTNBS、(ii)直腸内にTNBSかつ経口的にPentasa(登録商標)ペレット剤、(iii)直腸内にTNBSかつ経口的にAsacol(登録商標)ペレット剤、(v)直腸内にTNBSかつ経口的にBMD:エチルセルロースコーティング付きペレット剤、および(v)直腸内にTNBSかつ経口的にエンドウデンプン:エチルセルロースコーティング付きペレット剤で処理された動物間に主要な差が確認された(図24)。これは、TNBS投与の3日後のAmeho炎症スコアの有意な減少に反映された(図23)。明らかなように、BMD:エチルセルロースコーティング付きペレット剤およびエンドウデンプン:エチルセルロースコーティング付きペレット剤の投与は、より小さい多型炎症性浸潤、限局的な浮腫、および小さい巣状壊死病変で構成される炎症性病変を低減させた(図24)。TNBS、TNBSかつPentasa(登録商標)ペレット剤、およびTNBSかつAsacol(登録商標)ペレット剤で処理した場合、固有層での顕著な炎症性浸潤ならびに筋層および漿膜層の深部にまで広がる壊死を伴う結腸壁の肥厚がはっきりと認められる。
【0137】
これらの結果から、in vivoでの結腸ターゲッティング用に提案された新規なフィルムコーティングの有効性が明確に実証される。
【0138】
【表1】
【0139】
【表2】
【0140】
【表3】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
o 少なくとも水不溶性ポリマーと
o 25〜45%のアミロース含有率を有するデンプン、50〜80%のアミロース含有率を有する変性デンプン、およびマメ科植物デンプンからなる群から選択される一成分を含むデンプン組成物と
の高分子混合物でコーティングされた活性成分を含む、活性成分を制御放出するための制御放出性送達製剤。
【請求項2】
コアを含み、前記活性成分が前記コア中に分散または溶解されている、請求項1に記載の制御放出性送達製剤。
【請求項3】
デンプン組成物:水不溶性ポリマー比が1:2〜1:8である、請求項1または2に記載の制御放出性送達製剤。
【請求項4】
前記デンプン組成物が、25〜45%のアミロース含有率を呈し、このパーセントが、前記組成物中に存在するデンプンの乾燥重量を基準にした乾燥重量により表される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の制御放出性送達製剤。
【請求項5】
前記デンプン組成物が、少なくとも1種のマメ科植物デンプンまたは穀物デンプンを含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の制御放出性送達製剤。
【請求項6】
前記デンプン組成物が少なくとも1種の変性デンプンを含み、前記変性デンプンが安定化されている、請求項1〜5のいずれか1項に記載の制御放出性送達製剤。
【請求項7】
前記コアが5%〜30%のコーティングレベルを有する、請求項2〜6に記載の制御放出性送達製剤。
【請求項8】
前記コアが10%〜20%のコーティングレベルを有する、請求項7に記載の制御放出性送達製剤。
【請求項9】
前記高分子混合物が、好ましくは水不溶性ポリマー含有率を基準にして25%〜30%w/wの含有率で、可塑剤を含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の制御放出性送達製剤。
【請求項10】
前記水不溶性ポリマーが、アクリル酸および/またはメタクリル酸エステルポリマー、アクリレートまたはメタクリレートのポリマーまたはコポリマー、ポリビニルエステル、ポリビニルアセテート、ポリアクリル酸エステル、およびブタジエンスチレンコポリマー、メタクリル酸エステルコポリマー、エチルセルロース、セルロースアセテートフタレート、ポリビニルアセテートフタレート、シェラック、メタクリル酸コポリマー、セルロースアセテートトリメリテート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ゼイン、デンプンアセテートからなる群から選択される、請求項1〜9のいずれか1項に記載の制御放出性送達製剤。
【請求項11】
前記可塑剤が水溶性可塑剤であり、前記可塑剤が、好ましくは、単独でまたは相互の混合物として、ポリオール、有機エステル、油またはグリセリド、ダイズレシチンからなる群から選択される、請求項9または請求項10に記載の制御放出性送達製剤。
【請求項12】
前記制御放出性送達製剤が多微粒子状製剤である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の制御放出性送達製剤。
【請求項13】
請求項1〜12に記載の、結腸内微生物叢の不均衡を有する患者の結腸内または健常被験者の結腸内で活性成分を制御放出するための制御放出性送達製剤の製造方法であって、
o 以下の物質、すなわち、
・ 少なくとも1種の水不溶性ポリマーと
・ 25〜45%のアミロース含有率を有するデンプン、50〜80%のアミロース含有率を有する変性デンプン、およびマメ科植物デンプンからなる群から選択される少なくとも1つの成分を含むデンプン組成物と
の高分子混合物を形成するステップと、
o 前記活性成分を前記高分子混合物でコーティングするステップと、
を含む、方法。
【請求項1】
o 少なくとも水不溶性ポリマーと
o 25〜45%のアミロース含有率を有するデンプン、50〜80%のアミロース含有率を有する変性デンプン、およびマメ科植物デンプンからなる群から選択される一成分を含むデンプン組成物と
の高分子混合物でコーティングされた活性成分を含む、活性成分を制御放出するための制御放出性送達製剤。
【請求項2】
コアを含み、前記活性成分が前記コア中に分散または溶解されている、請求項1に記載の制御放出性送達製剤。
【請求項3】
デンプン組成物:水不溶性ポリマー比が1:2〜1:8である、請求項1または2に記載の制御放出性送達製剤。
【請求項4】
前記デンプン組成物が、25〜45%のアミロース含有率を呈し、このパーセントが、前記組成物中に存在するデンプンの乾燥重量を基準にした乾燥重量により表される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の制御放出性送達製剤。
【請求項5】
前記デンプン組成物が、少なくとも1種のマメ科植物デンプンまたは穀物デンプンを含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の制御放出性送達製剤。
【請求項6】
前記デンプン組成物が少なくとも1種の変性デンプンを含み、前記変性デンプンが安定化されている、請求項1〜5のいずれか1項に記載の制御放出性送達製剤。
【請求項7】
前記コアが5%〜30%のコーティングレベルを有する、請求項2〜6に記載の制御放出性送達製剤。
【請求項8】
前記コアが10%〜20%のコーティングレベルを有する、請求項7に記載の制御放出性送達製剤。
【請求項9】
前記高分子混合物が、好ましくは水不溶性ポリマー含有率を基準にして25%〜30%w/wの含有率で、可塑剤を含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の制御放出性送達製剤。
【請求項10】
前記水不溶性ポリマーが、アクリル酸および/またはメタクリル酸エステルポリマー、アクリレートまたはメタクリレートのポリマーまたはコポリマー、ポリビニルエステル、ポリビニルアセテート、ポリアクリル酸エステル、およびブタジエンスチレンコポリマー、メタクリル酸エステルコポリマー、エチルセルロース、セルロースアセテートフタレート、ポリビニルアセテートフタレート、シェラック、メタクリル酸コポリマー、セルロースアセテートトリメリテート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ゼイン、デンプンアセテートからなる群から選択される、請求項1〜9のいずれか1項に記載の制御放出性送達製剤。
【請求項11】
前記可塑剤が水溶性可塑剤であり、前記可塑剤が、好ましくは、単独でまたは相互の混合物として、ポリオール、有機エステル、油またはグリセリド、ダイズレシチンからなる群から選択される、請求項9または請求項10に記載の制御放出性送達製剤。
【請求項12】
前記制御放出性送達製剤が多微粒子状製剤である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の制御放出性送達製剤。
【請求項13】
請求項1〜12に記載の、結腸内微生物叢の不均衡を有する患者の結腸内または健常被験者の結腸内で活性成分を制御放出するための制御放出性送達製剤の製造方法であって、
o 以下の物質、すなわち、
・ 少なくとも1種の水不溶性ポリマーと
・ 25〜45%のアミロース含有率を有するデンプン、50〜80%のアミロース含有率を有する変性デンプン、およびマメ科植物デンプンからなる群から選択される少なくとも1つの成分を含むデンプン組成物と
の高分子混合物を形成するステップと、
o 前記活性成分を前記高分子混合物でコーティングするステップと、
を含む、方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図5】
【図22】
【図23】
【図24】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図5】
【図22】
【図23】
【図24】
【公表番号】特表2012−506850(P2012−506850A)
【公表日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−532670(P2011−532670)
【出願日】平成21年10月27日(2009.10.27)
【国際出願番号】PCT/EP2009/064166
【国際公開番号】WO2010/049433
【国際公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【出願人】(592097428)ロケット・フルーレ (58)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年10月27日(2009.10.27)
【国際出願番号】PCT/EP2009/064166
【国際公開番号】WO2010/049433
【国際公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【出願人】(592097428)ロケット・フルーレ (58)
【Fターム(参考)】
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