結腸直腸癌の治療におけるプロガストリン阻害剤
本発明は、プロガストリン分泌細胞およびベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路が構成的に活性である細胞を提示する結腸直腸癌、腺腫性ポリープ症または転移を治療および/または予防するための、ICATのプロガストリン誘導抑制の阻害剤に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結腸直腸癌、腺腫性ポリープ症および転移を治療および予防するための方法および組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト結腸の腫瘍形成は、症例の66%で腫瘍抑制遺伝子大腸腺腫性ポリポーシス(APC)の体細胞変異に、またはベータカテニン遺伝子に関係している(以下の文献リストから算出された平均値:(Conlinら、2005年;De Filippoら、2002年;Huangら、1996年;Johnsonら、2005年;Kimら、2003年;Luchtenborgら、2005年;Mikamiら、2006年;Morinら、1997年;Powellら、1992年;Rowanら、2000年;SegditsasおよびTomlinson、2006年;Shitohら、2004年;Smithら、2002年;Sparksら、1998年;Suraweeraら、2006年;Takayamaら、2001年))。これらの変異は、散在性結腸直腸癌を患っている患者に生じる結腸直腸発癌の初期事象と考えられる。apc遺伝子における生殖細胞変異は、家族性大腸ポリポーシス、腸癌のリスクの高さに関連した遺伝性症候群の原因でもある。これらの変異は、接着接合タンパク質ベータカテニンの細胞質プールの調節欠陥をもたらし、Tcf-4媒介転写経路の構成的活性化をもたらす。この構成的活性化により、c-mycまたはサイクリンD1などのTcf-4標的遺伝子の高レベルの転写がもたらされる。この経路の可能性のある他の標的は、プロガストリンプロホルモンをコードするGAST遺伝子である。
【0003】
この遺伝子の転写は、インビトロで、ベータカテニン/Tcf-4複合体の活性化後に増加することが示された(Kohら、2000年)。
【0004】
結腸発癌におけるプロガストリンの役割は、プロガストリンが結腸直腸腫瘍の抽出物中に検出され(Finleyら、1993年;Kochmanら、1992年;Nemethら、1993年)、プロガストリンの血漿中濃度が結腸直腸腫瘍を患っている患者の約75%で上昇することが示されたが、対照では検出されなかった(Ciccotostoら、1995年;Konturekら、2002年;Siddheshwarら、2001年;Van Solingeら、1993年)15年位前に初めて示唆された。これらの観察結果に基づき、プロガストリンが結腸の腫瘍形成に関与している可能性があるという理論が、インビトロとインビボの双方で研究されてきた。研究はまず、グリシン伸長ガストリン(プロガストリン成熟化産物の1つ)が、増殖に正の効果を有したことを示すことによって開始された(Hollandeら、1997年;Kohら、1999年;Litvakら、1999年;Singhら、1994年;Stepanら、1999年)。その間に、より小型ペプチドへのプロガストリンの成熟が生じ得ない肝臓中のプロガストリンの過剰発現が、腸の上皮に有糸分裂誘発を誘導することが示された(Wangら、1996年)。この同じ遺伝子導入マウスを用いて、プロガストリンの過剰発現がアゾキシメタン誘導の発癌に対する感受性を誘導することが実証された(Singhら、2000年)。しかし、この観察結果は、ガストリン遺伝子のノックダウンによってもまた、発癌に対して同じ感受性が誘導されたことが示されたときに(Cobbら、2002年)、問題となった。しかし、ラットの腸細胞系IEC6に対して、プロガストリンの増殖効果がインビトロで(Brownら、2003年)、fabpプロモーターの制御下でプロガストリンの腸過剰発現を示す遺伝子導入マウスモデルに対してインビボで(Cobbら、2004年)、さらに実証された。しかしながら、このマウスモデルの主な欠点は、プロガストリンが腸上皮の分化細胞において過剰発現し、増殖細胞においてではないということである。2003年および2005年に、Ottewellらは、プロガストリンがDNA損傷後にマウスの結腸上皮の有糸分裂を刺激するという事実、および、インビボでマウスの結腸上皮の有糸分裂刺激にとって、プロガストリンのCOOH-末端の26個のアミノ酸残基が十分であるという事実についてのデータを提供した(Ottewellら、2005年;Ottewellら、2003年)。
【0005】
主に過剰発現実験からのこれらのデータに基づき、プロガストリンは腸上皮細胞上の「成長因子」として受容された。対照的に、細胞の欠失(delete)を試みた研究はインビトロで3件だけであり、インビボでは1件だけであった。インビトロでは、2つのプロガストリン産生細胞系にガストリン遺伝子アンチセンスがトランスフェクトされ、ヌードマウスで、結腸形成、ならびに腫瘍移植の減少が示された(Singhら、1996年)。しかし、重要なことに、これらのブロック効果がどのガストリン遺伝子産物に起因するかが実証されていない。プロガストリン欠失(deletion)により、腸上皮細胞における安定な接着および密接な接合の回復が可能となり、プロガストリンが移動の活性化と結び付くことが、最近の研究により実証されている(Hollandeら、2003年)。最後に、最近のインビトロ研究は、プロガストリンの成熟産物であるグリシン伸長ガストリン17の役割に焦点を当てた。その研究に使用された細胞が、このペプチドを大量に分泌し、プロガストリンはきわめてわずかしか分泌しないからである(Hollandeら、1997年)。インビボでKOマウスは、上記のとおり、より腫瘍形成しやすかった。
【0006】
ベータカテニン/Tcf-4複合体とペプチドのガストリンファミリーとの間の関連性を報告している2つだけの研究が、Tcf-4転写経路の活性化のみが(Kohら、2000年)、特に、Rasと関連したものが(Chakladarら、2005年)、ガストリン遺伝子プロモーターの活性化および該遺伝子の転写増加を導くことをインビトロで実証したことは重要である。対照的に、本明細書に提供されたデータ以前には、ベータカテニン/Tcf-4経路の異常活性化の際に結腸内に分泌されるガストリン遺伝子誘導ペプチドの実際の性質に関しては何も知られておらず、プロガストリン機能のブロックによりこの経路の活性化が反転する可能性についての報告はされておらず、また、ヒト結腸直腸癌患者において、その腫瘍内のこの経路の活性化を示す者とガストリン遺伝子の発現が増強した者との間の関連性は確立されていなかった。その結果、プロガストリンの欠失が構成的なベータカテニン/Tcf4の活性化により誘導された結腸直腸の発癌を反転させ得ることを示す十分な科学的証拠を提供している先行データはないようである。本発明の説明において、このようなデータが下記に提供されている。
【0007】
ガストリンおよびプロガストリン
ガストリンは古典的な腸のペプチドホルモンであり、元々は胃酸分泌の刺激物質として同定された。ガストリンは、主に胃幽門洞のG細胞によって産生され、種々の程度で小腸上部に、また、はるかに少量が結腸および膵臓に産生される。最近数年にわたり、結腸直腸発癌におけるペプチドのガストリンファミリーの役割に対する関心が増大している。特に、以前は不活性であると考えられていたガストリンの前駆形態(プロガストリンおよびグリシン伸長ガストリン)が、結腸直腸癌の発現にある役割を果たしている証拠が蓄積している(上記の解説を参照)。ガストリンは種々の分子形態で見出される。ヒトCOOH末端アミド化ガストリン、G17およびG34は、101-アミノ酸前駆体分子であるプレプロガストリンから翻訳後修飾によって生じる。プレプロガストリンは、小胞体へと同時翻訳的に転座し、そこでシグナルペプチドが迅速に開裂して、プロガストリンが生じる。プロガストリンは引き続き、プロホルモンのコンバターゼおよびカルボキシペプチダーゼEにより開裂して、COOH末端グリシン残基を有するペプチド、すなわち、G34-Glyが生じ、さらに開裂してペプチドG17-Glyが生じる。G34-Glyは、ペプチジルアルファアミド化モノオキシゲナーゼにより、COOH末端アミド化ペプチドG34へと変換することができ、同様に開裂してG17が生じ得る。G17またはGアミドは、ガストリンの主な洞性形態であり、非アミド化前駆体(プロガストリン、グリシン伸長ガストリン)は、ヒトにおける全分泌ペプチドの10%未満を一般に含む。しかし、処理過程が損なわれている一定の臨床状況においては、より高い割合の非アミド化ガストリンが分泌される。例えば、上記の結腸直腸癌に罹っている一部の患者では、プロガストリンの組織中濃度および血漿中濃度が上昇する(Ciccotostoら、1995年;Konturekら、2002年;Siddheshwarら、2001年;Van Solingeら、1993年)。
【0008】
国際公開第9919353号には、胃腸粘膜の細胞増殖の自己分泌刺激活動亢進に関連した病態の治療方法が示唆されている。該方法は、細胞内ガストリン/CCK-C受容体または他のプロガストリン受容体に対するプロガストリン結合のアンタゴニストの有効量を、このような治療を必要としている哺乳動物に投与する工程を含む。米国特許第6165990号は、結腸癌を治療するための方法を開示している。結腸癌によるガストリンの発現は、アンチセンスガストリン発現の使用によって抑制される。
【0009】
国際公開第2004/089976A号には、非アミド化ガストリンのレベル上昇に関連した病態を治療するための方法および組成物が開示されている。一態様において、グリシン伸長ガストリン17、プロガストリンまたはプロガストリン誘導ペプチドのいずれか1つまたは複数に対する第二鉄イオンの結合を阻害する能力を有するが、アミド化ガストリンの活性を阻害せず、それによって、非アミド化ガストリンの活性を阻害する化合物の有効量を、このような治療を必要としている哺乳動物に投与する工程を、該方法は含む。グリシン伸長ガストリン17に対する第二鉄イオンの結合を阻害する能力がその生物活性を低下させるという主張を裏付けるデータは提供されているが、プロガストリンの生物活性に及ぼす効果に関するデータは提供されていない。
【0010】
国際公開第2006/032980A号は、プロガストリン結合性分子が、ガストリン-17(G17)、ガストリン-34(G34)、グリシン伸長ガストリン-17(G17-Gly)、またはグリシン伸長ガストリン-34(G34-Gly)に結合しない、プロガストリンに選択的に結合するプロガストリン結合分子、特にプロガストリンおよびそれらを産生するハイブリドーマに選択的なモノクローナル抗体を保護することを目的にしている。上記の抗体を用いて生体液中のプロガストリン濃度を定量化する方法が開示されているが、この主張は、任意の生体液中のプロガストリンを選択的に検出するこれらの抗体の能力に関しては、いずれのデータによっても裏付けられていない。抗体の投与を含む、ガストリンに促進された疾患または病態を予防または治療するための方法も開示されているが、これらの抗体がプロガストリンの生物活性を変化させる任意の選択的能力を示すという主張を裏付けるデータはない。本明細書は、このような抗体の特異性を確立するための唯一の方法を提供している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第9919353号
【特許文献2】米国特許第6165990号
【特許文献3】国際公開第2004/089976A号
【特許文献4】国際公開第2006/032980A号
【特許文献5】US2006058321
【特許文献6】国際公開第2004052373号
【特許文献7】米国特許第6214813号
【特許文献8】米国特許第6177273号
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】HannonおよびRossi、Nature、2004年9月16日;431(7006):371〜8頁
【非特許文献2】Remington;The Science and Practice of Pharmacy
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
現在まで、結腸直腸癌、転移および腺腫性ポリープ症を治療および/または予防する有効かつ特異的方法は稀である。したがって、結腸直腸癌、転移または腺腫性ポリープ症を治療および/または予防する改善された方法を提供することが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この目的を達成するために、ベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路が構成的に活性であるプロガストリン分泌細胞から生じる結腸直腸癌、腺腫性ポリープ症または転移を治療および/または予防するための方法が提供され、該方法は、ベータカテニンおよびTcf-4結合阻害物質(ICAT)のプロガストリン誘導抑制の阻害剤の有効量をそれを必要としている個体に投与する工程を含む。
【0015】
本発明はまた、プロガストリン分泌細胞およびベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路が構成的に活性である細胞を提示する結腸直腸癌、腺腫性ポリープ症または転移を治療および/または予防するための方法を提供し、該方法は、ベータカテニンおよびTcf-4結合阻害物質(ICAT)のプロガストリン誘導抑制の阻害剤の有効量をそれを必要としている個体に投与する工程を含む。
【0016】
GAST遺伝子の任意の他の産物ではなく、プロガストリンの欠失が、ベータカテニン/Tcf-4活性の構成的活性化に直接作用することにより、腫瘍形成を反転させることができることを、本発明はまさに初めて記載している。この反転は、高プロガストリン条件では低く、プロガストリン欠失条件では高い、ICAT発現の調節を含む。ICATが高い場合、ICATがTcf-4からベータカテニンを乗っ取ることにより、ベータカテニン/Tcf-4活性の構成的活性化は著しく低下する。
【0017】
したがって、ベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路が構成的に活性であるプロガストリン分泌細胞から生じる結腸直腸癌、腺腫性ポリープ症または転移、およびプロガストリン分泌細胞およびベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路が構成的に活性である細胞を提示する結腸直腸癌、腺腫性ポリープ症または転移に対して、プロガストリンの欠失がきわめて効率的な療法であることが、初めて実証されている。したがって、低ICAT発現、構成的ベータカテニン/Tcf-4媒介活性、および高プロガストリン発現を有するヒト結腸直腸腫瘍、腺腫性ポリープ症または転移の集団を、抗プロガストリン療法に関して選択することができる。
【0018】
本発明はまた、結腸直腸癌、腺腫性ポリープ症または転移を患っている患者がベータカテニンおよびTcf-4結合阻害物質(ICAT)のプロガストリン誘導抑制の阻害剤による治療に応答性であるかどうかを判定する方法であって、ベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路が構成的に活性であるプロガストリン分泌細胞から結腸直腸癌、腺腫性ポリープ症または転移が生じるかどうかを判定する工程を含む。
【0019】
本発明はまた、該療法に応答性である可能性の高い特定の患者集団の選択と、結腸直腸癌、腺腫性ポリープ症または転移の治療および/または予防とを組み合わせる方法を提供する。
【0020】
また、ベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路が構成的に活性であるプロガストリン分泌細胞から生じる結腸直腸癌、腺腫性ポリープ症または転移の治療および/または予防のための医薬の製造における、ベータカテニンおよびTcf-4結合阻害物質(ICAT)のプロガストリン誘導抑制の阻害剤の使用も提供される。
【0021】
また、プロガストリン分泌細胞およびベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路が構成的に活性である細胞を提示する結腸直腸癌、腺腫性ポリープ症または転移を治療および/または予防するための医薬の製造における、ベータカテニンおよびTcf-4結合阻害物質(ICAT)のプロガストリン誘導抑制の阻害剤の使用も提供される。
【0022】
本発明の他の実施形態において、ベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路が構成的に活性であるプロガストリン分泌細胞から生じる結腸直腸癌、腺腫性ポリープ症または転移の治療および/または予防のための化合物のスクリーニングのための方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】プロガストリン欠失により、Balbc/ヌードマウスにおけるヒトCRC細胞系の腫瘍形成が減少し、APCΔ14マウスの腸における自然な腫瘍発現が阻害されることを示す図である。(A)棒グラフは、SW480/βgal(-)およびSW480/GAST(-)(shRNA非感受性プレプロガストリンcDNA(cPG)を発現する、または発現しないクローン[1]および[2])細胞におけるGAST mRNA定量化を示す。結果は、SW480/βgal(-)において見られたレベルのパーセンテージとして表されている(*、SW480/GAST(-)に比較してp<0.05、n=3)。下表、SW480/βgal(-)およびSW480/GAST(-)細胞によって分泌されるプロガストリン、グリシン伸長ガストリンおよびアミド化ガストリンのRIA定量化(pモル/l/24時間)。(B)BALB/cヌードマウスにおけるDLD-1/VO細胞、DLD-1/ASG細胞、SW480/GAST(-)細胞またはSW480/βgal(-)細胞の皮下注射後の経時的腫瘍容積の進展。2種のクローン/細胞系(マウス4匹/クローン)の平均値±s.e.m、(*、DLD-1/VO細胞または SW480/βgal(-)細胞に比較してp<0.05、スチューデントのt検定)。(C〜D)3カ月齢のAPCΔ14マウスを、マウスGast遺伝子またはルシフェラーゼ遺伝子のいずれかを標的にしたsiRNAにより2週間処理した(9匹のマウス/群)。結果は、RT-QPCRを用いて定量化した、回腸(C)または結腸(D)における腫瘍粘膜/健常粘膜におけるGast遺伝子発現間の比率として表されている(左枠)。回腸(C)および結腸(D)においてメチレンブルー染色後に、腺腫の数およびサイズを定量化し、各サイズ群に関する腫瘍の総数として表している(右枠)。多数の腸腫瘍を有するマウスにおいて採取されたサンプルAにおいて、GAST siRNAは、Gast遺伝子発現のレベル低下を生じさせなかった(C)。「B」および「C」は、それぞれ、結腸腫瘍または回腸腫瘍を有さなかったマウスに相当する(D)。
【図2】プロガストリンがヒトCRC細胞においてβ-カテニン/Tcf-4活性を刺激することを示す図である。(A)非処理のSW480/βgal(-)細胞およびSW480/GAST(-)細胞(クローン[1]および[2])(黒色棒)において、または5nMの組換えプロガストリンによって72時間処理した同じ細胞(rPG、明灰色棒)において、またはshRNA非感受性プレプロガストリンcDNAをトランスフェクトした同じ細胞(cPG、暗灰色棒)においてTOP/FOPルシフェラーゼレポーター遺伝子アッセイ(Morinら、1997年)を用いて、Tcf-4転写活性を定量化した。値は、平均値±4つの同様な実験のs.e.mである(*、SW480/GAST(-)細胞に比較してp<0.05)。図S2に示されるように、これらすべての細胞において、Tcf-4および脱リン酸化β-カテニンのレベルは同様であった。(B)72時間、5nMのプロガストリン処理をした、またはしなかったSW480/βgal(-)細胞およびSW480/GAST(-)細胞におけるβ-カテニン(緑)、Tcf-4(赤)、およびDAPI(青)の独立および重ね合わせの共焦点画像。バーは40μmを表す。部分的反転のより良好な視覚化を提供するために、プロガストリン処理細胞に関しては、より高い倍率を用いている。(C)Aにおけるように、SW480/GAST(-)クローン[1]および[2]を処理したか、または処理しなかった。アクチンおよびTcf-4標的遺伝子c-Myc、サイクリンD1、Sox-9およびCLDN1によってコードされたタンパク質の発現レベルを、対照としてSW480/βgal(-)細胞を用い、免疫ブロット法によって定量化した(補足の図S3におけるmRNAの発現も参照)。値(ローディング対照としてアクチンを用い正規化)は、3つの独立した実験からの平均値±s.e.m.。スチューデントのt検定、SW480/GAST(-)細胞と比較してp<0.05、(*)。
【図3】プロガストリンがインビトロおよびインビボでICAT発現を下方制御することを示す図である。(A〜B)プロガストリン欠失SW480/GAST(-)細胞(クローン[1]および[2])を、コドン最適化、shRNA非感受性プレプロガストリンcDNA(cPG)をトランスフェクトしたか、またはトランスフェクトしなかった。次いで、ICAT mRNAレベルを、SW480/βgal(-)細胞と比較してRT-QPCRにより定量化し(A)、cPGによる一時的トランスフェクションの前(明灰色棒)または後(灰色棒)のSW480/GAST(-)細胞におけるICATタンパク質の発現を、SW480/βgal(-)(黒色棒)と比較して、免疫ブロット法によって分析した(B)。(C)プロガストリンの腸特異的過剰発現を示しているマウス(Tg/Tg)(Cobbら、2004年)ならびに同じ遺伝子背景からの対照マウス(野生型)の結腸上皮から得られた組織切片において、免疫組織化学および免疫蛍光染色により、ICAT発現を分析した。バーは40μmを表す。
【図4】デノボICAT発現が、プロガストリン欠失CRC細胞におけるβ-カテニン-Tcf-4活性の減少の原因であることを示す図である。(A)上枠:SW480/βgal(-)およびSW480/GAST(-)±組換えプロガストリン(rPG、5nM、72時間)からの脱リン酸β-カテニン免疫沈降物を、脱リン酸化β-カテニン、Tcf-4およびICATに関して調べた。下枠:2つの独立したクローンに対して実施した3つの同様な実験からの定量化(SW480/βgal(-)およびSW480/GAST(-)に比較して、それぞれ、## p<0.01および*p<0.05、スチューデントのt検定)。(B)72時間、5nMのプロガストリン処理をした、またはしなかったSW480/βgal(-)細胞およびSW480/GAST(-)細胞におけるβ-カテニン、ICAT、およびDAPIの独立および重ね合わせの共焦点画像。バーは40μmを表す。(C〜D)Tcf-4ルシフェラーゼレポーターアッセイ(TOP/FOP)(C)およびc-Myc(上)およびサイクリンD1(下)のmRNAおよびタンパク質の定量化(D)を、shRNA非感受性ICAT cDNA(+cICAT)の再発現をした、またはしないSW480/GAST(-)/Luc(-)細胞およびSW480/GAST(-)/ICAT(-)細胞において実施した。
【図5】ICAT発現は、マウスおよびヒトの腫瘍において、プロガストリンレベルおよびβ-カテニン-Tcf-4標的遺伝子発現に逆相関していることを示す図である。(A)図1のとおり、3カ月齢のAPCΔ14マウスを、マウスGAST遺伝子またはルシフェラーゼ遺伝子のいずれかを標的にするsiRNAによって、2週間処理した。RNA抽出のために腸腺腫を処理し、ICAT mRNA発現を、同じ動物(n=5)からのマッチする上皮(Ep)における発現と相対的に定量化した(Ad)。(B)Tcf-4の標的サイクリンD1、CD44およびC-Mycの発現を、同じ遺伝子背景からの対照マウスの腸上皮と比較して、同じ動物からの腺腫(Ad)および肉眼的に完全な上皮(Ep)において、ウェスタン免疫ブロット法を用いて分析した(補足の図S5における定量化を参照)。(C)LucまたはGASTに特異的なsiRNAによって処理したAPCΔ14動物からの腺腫を、パラフィン埋め込みし、c-MycおよびICATの免疫組織化学的検出のために処理した。回腸において採取したGAST(-)およびLuc-腺腫からの代表的な画像が提供されている。バーは20μmを表す。(D)CRCを有する23名の患者からの顕微切開された腫瘍におけるGASTおよびICAT mRNAの発現(黒色棒)を、各患者に関し1に正規化した、それらそれぞれのマッチする健常上皮に見られた量(白色棒)と相対化させて表した。値は、3つの独立した実験の平均±s.e.m.である。挿入図:GASTおよびICATの発現の対数値を、回帰曲線およびその信頼区間と共に、互いに対してプロットした。スピアマンの相関係数(r)が、その有意性(p)の程度と共に提供されている。(E)上枠:CRCを有する4名の患者からの健常(H)サンプルまたは腫瘍(T)サンプルにおけるプロガストリン免疫ブロット(IB)。下枠:高(4名の患者)または低(22名の患者)腫瘍プロガストリン発現を有するICAT、c-Myc、クローディン-1、およびCD44患者に関する代表的な免疫組織化学(IHC)(WBにおける陽性対照は、組換えプロガストリン(rPG)であった);陽性対照に関して曝露時間は20秒、ヒトサンプルに関しては10分)。試験した11名の患者からのサンプルについて、同様なIBおよびIHCの結果が得られた。バーは20μmを表す。
【図6】ICATの抑制が、ヒトCRC細胞におけるプロガストリンの腫瘍促進の役割に必須であることを示す図である。(A)上枠:SW480/βgal(-)細胞、SW480/GAST(-)細胞、SW480/GAST(-)/ICAT(-)細胞およびSW480/GAST(-)/Luc(-)細胞間のコロニーサイズにおける著しい違いによって示されるように、ICATの下方制御は、軟寒天中のプロガストリン欠失細胞の減少した増殖速度を反転させる。下枠:1クローン当たりランダムに選択された10の領域からの平均±s.e.m.として表された3つの同様な実験の定量化。(B)SW480/GAST(-)/Luc(-)細胞およびSW480/GAST(-)/ICAT(-)細胞を、BALB/cヌードマウスの後足に注入し、腫瘍増殖を定期的に測定した。各4クローンの平均値±s.e.m.。*、SW480/GAST(-)/Luc(-)細胞に比較して、p<0.05、スチューデントのt検定。
【図7】PI3k/ILK経路の活性化が、プロガストリンによるICATの抑制に必須であることを示す図である。(A)ヒトCRC細胞において、プロガストリンに誘導されたICAT抑制にとって、PI3k活性化は必須である。示されているように、5nMのプロガストリン(PG)および/またはPI3kキナーゼ阻害物質LY-294002(LY)による処理あり、または処理なしでのSW480/βgal(-)細胞およびSW480/GAST(-)細胞において、以前記載されたように、ICAT mRNA発現を測定し(左)、Akt/PKBのリン酸化をウェスタンブロット法により分析した(右)。(B)プロガストリン欠失ヒトCRC細胞において、ILKの発現および活性が減少する。上枠:組換えプロガストリンによる処理(5nM、72時間)あり、または処理なしでの、SW480/βgal(-)細胞およびSW480/GAST(-)細胞のライセートからのILK免疫沈降後、ILK発現(ウェスタンブロット)および酵素活性(ミエリン塩基性タンパク質(MBP)のインビトロリン酸化)を分析した。中央枠は、上記細胞におけるILK発現の変化に関して補正した後、3つの独立した実験に対して実施したILK活性の定量化を示している。下枠は、ILK標的β1-インテグリンのリン酸化が、抗ホスホセリン抗体およびβ1-インテグリンに対する抗体によって、β1-インテグリン-免疫沈降物を経時的に探査することによって分析されたものである。ライセートが免疫前ウサギ血清によって免疫沈降された場合、ILK、β1-インテグリン、およびMBPリン酸化は検出されなかった(示されていない)。(C)ヒトCRC細胞において、プロガストリン媒介ICAT抑制にとってILK活性化は必須である。示されているように、ICAT mRNAの発現(左枠)およびSer473に関するAkt/PKB のリン酸化(右枠)を、ドミナントネガティブILK(ΔN-ILK)をトランスフェクトした、またはトランスフェクトしない、および5nMの外因性プロガストリン(PG)によって処理した、または処理しないSW480/βgal(-)細胞およびSW480/GAST(-)細胞において定量化した。すべての枠に関し、SW480/βgal(-)細胞(#)、SW480/GAST(-)細胞(*)、またはプロガストリン処理SW480/GAST(-)細胞(°)に比較して、p<0.05。
【図8】プロガストリン欠失は、インビトロでヒトCRC細胞の分化およびアポトーシスを誘導し、インビボでAPCΔ14マウスの腸において腫瘍の分化を促進することを示す図である。(A)SW480/GAST(-)細胞の2種のクローンにおいてPTENの核局在化を示し、SW480/βgal(-)細胞においては示していない代表的な実験。(B)GASTまたはβガラクトシダーゼを標的にしたsiRNAをトランスフェクトした48時間後のSW480細胞におけるMuc-2、腸アルカリホスファターゼ(ALP)、およびクロモグラニンA(CgA)mRNA発現の定量化。(C)GAST特異的であるが、βガラクトシダーゼ特異的ではないsiRNAの一時的トランスフェクション後のSW480 CRC細胞におけるMuc-2発現およびカスパーゼ-3活性化。細胞は、GAST(矢印)またはβガラクトシダーゼ(矢じり)を標的にしたローダミンタグ付きsiRNA(赤)をトランスフェクトし、5nMの組換えプロガストリンにより処理したか、または処理しなかった。Muc-2発現(A488、緑)および活性化カスパーゼ-3(Cy-5、ここでは赤で示されている)を、免疫蛍光染色により検出し、細胞核は、DAPIによって染色した(青)。DLD-1細胞によって、同様な結果を得た。バーは20μmを表す。(D)図1のように、3カ月齢のAPCΔ14マウスを、マウスGAST遺伝子またはルシフェラーゼ遺伝子のいずれかを標的にしたsiRNAにより2週間処理した。腸腺腫をパラフィン埋め込みし、粘液産生細胞(Muc2およびアルシアンブルー)およびアポトーシス経路に関与している細胞(活性化カスパーゼ3、黒矢じり)の免疫組織化学的検出のために処理した。回腸において採取されたGAST(-)腺腫およびLuc(-)腺腫からの代表的な画像が提供されている。バーは20μmを表す。
【図9】APC変異した結腸直腸癌細胞における、β-カテニン/Tcf-4転写複合体の活性化の減少とプロガストリン欠失とをつなぐシグナル伝達経路を示す図である。(A)CRC細胞は内因性プロガストリンを産生し分泌し、次いでそれが腫瘍細胞に作用してPI3キナーゼおよびILKを活性化し、それによってICATを抑制し、APC変異によって開始されたβ-カテニン/Tcf-4転写活性の増幅を促進する。この過程はプロガストリンをコードする遺伝子などの標的遺伝子の最大転写をもたらし、したがって、自己増幅活性化ループを生じさせる。(B)GAST遺伝子((1))のsiRNAサイレンシングにより誘導されたものなどのプロガストリン作用の阻害は、PI3キナーゼおよびILK((2))の活性を著しく減少させ、ICAT((3))の強い上方制御をもたらす。β-カテニンに対する結合に関するこの小型阻害物質とTcf-4との競合は、腫瘍細胞((4))におけるTcf-4標的の転写を強く下方制御する上で十分である。
【図10】示されるように増加する濃度の抗原で96ウェルプレートを被覆し(詳細は「方法」の節を参照)、次いでプロガストリン(1〜80)のN末端(上枠)またはC末端(下枠)に対する選択的抗体と共にインキュベートした図である。試験された抗原は、抗体を作出するために用いられた元の免疫原であり(上枠:SWKPRSQQPDAPLGT、下枠:FGRRSAEDEN)、アミド化ガストリン17、グリシン伸長ガストリン17、プロガストリンのC末端フランキングペプチド(SAEDEN)、およびキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)は、免疫化過程におけるキャリアタンパク質として用いられた。結果は、二次抗体およびOPD基質とのインキュベーション後に、直接492nmの読取り値として表されている。
【図11】方法の節に記載されたように、SW480結腸直腸癌細胞を、対照抗体またはプロガストリンのC末端またはN末端に対する抗体(1/5,000希釈)で30時間処理した図である。細胞溶解後、ICAT、c-MycおよびサイクリンD1に関するmRNAの発現を、RT-qPCRを用いて定量化した。結果は、C末端(灰色棒)またはN末端(白色棒)プロガストリン抗体によって処理された細胞と各遺伝子発現レベルを1の値に定めた(本明細書では水平軸によって表されている)対照抗体によって処理された細胞中の発現の間の比率として表されている。
【図S1】APCΔ14マウスの腺種におけるプロガストリンの過剰発現およびマウスGAST遺伝子に選択的なsiRNAにより2週間処理した後の炎症誘発性応答の欠損を示す図である。(A)放射免疫アッセイによって定量化された、3.5カ月齢のAPCΔ14マウスの健常な腸粘膜および腺種におけるアミド化ガストリンおよびグリシン伸長ガストリンのレベル。(B)同じ遺伝子背景からの対照マウスと比較した、Luc遺伝子またはGAST遺伝子に特異的なsiRNAによって処理した3.5カ月齢のAPCΔ14マウスからの健常な腸粘膜および腺種のタンパク質抽出物(50μg)における代表的なプロガストリン免疫ブロット(マウスプロガストリンの定量化に現在RIAは利用できない)。フィルムを30分間曝露した。C57/BL6動物の結腸および回腸と相対化した、1群当たり4匹の動物の結腸および回腸で採取した腺腫におけるPGの定量化の棒グラフ(各々の腸セグメントに関して、C57/BL6#またはAPCΔ14Luc(-)*におけるそれぞれの値に比較して、p<0.05)。(C)Colo-26マウスCRC細胞および若成体マウス結腸(TAMC)細胞に、マウスGAST配列に特異的なsiRNA(mGAST siRNA)またはヒトGAST配列に特異的なsiRNA(hGAST siRNA)をトランスフェクトし、RT-QPCRを用いて、GASTmRNAの発現を定量化した。(D)LucまたはGAST siRNAによって処理されたマウスにおける血漿のIL-6(黒)およびTNFα(白)のレベルをまとめた散布図。これら2群間に有意な差異は認められず、双方のサイトカインのレベルは炎症の非存在を反映している。
【図S2】CRC細胞において、プロガストリンはβ-カテニン/Tcf-4転写活性を刺激するが、アミド化ガストリンまたはグリシン伸長ガストリンは刺激しないことを示す図である。(A)(上枠)DLD-1/VO、DLD-1/ASG(クローン[1]および[2])、SW480/βgal(-)およびSW480/GAST(-)(クローン[1]および[2])細胞におけるTOP/FOPルシフェラーゼレポーター遺伝子アッセイ(31)を用いて、Tcf-4転写活性を定量化した。値は、4つの同様な実験の平均値±s.e.m.である。免疫ブロット(ローディング対照としてアクチンを使用)によって示されるように、これらすべての細胞系において、脱リン酸化β-カテニン(中央枠)およびTcf-4(下枠)のレベルは同様であった。(B)CCK-B受容体構築体をトランスフェクトしたCOS-7細胞からのサンプルにおいて、RT-PCRにより、ヒトアミド化ガストリン(CCK-B)受容体mRNAが検出されたが、DLD-1細胞およびSW480細胞または陰性対照(逆転写なしのCOS-7/CCK-B)においては検出されなかった。
【図S3】ヒトCRC細胞において、Tcf-4標的遺伝子c-Myc、サイクリンD1、Sox-9およびCLDN1のmRNA発現は、プロガストリンによって調節されることを示す図である。SW480/GAST(-)クローン[1]および[2]を、5nMのプロガストリン(rPG)で72時間処理したか、または処理しなかったか、もしくはコドン最適化shRNA非感受性プレプロガストリンcDNA(cPG)をトランスフェクトした。SW480/βgal(-)細胞を対照として用いて、RT-QPCRにより、Tcf-4標的c-Myc、サイクリンD1、Sox-9およびクローディン-1(Tcf-4標的遺伝子のリストは(9)で入手できる)のmRNA発現を定量化した。値は、3つの独立した実験の平均値±s.e.m.である。スチューデントのt検定、SW480/GAST(-)細胞と比較して、p<0.05(*)。
【図S4】CRC細胞におけるICAT発現の実験的調節を示す図である。対照shRNA(SW480/GAST(-)/Luc(-)、灰色棒)、またはICATに選択的なshRNA(SW480/GAST(-)/ICAT(-)細胞、黒色棒)をトランスフェクトした、またはトランスフェクトしない、プロガストリン欠失CRC細胞(SW480/GAST(-)、白色棒)の2種のクローンそれぞれにおいて、ならびにコドン最適化shRNA非感受性ICAT cDNA(+c.ICAT)を一時的にトランスフェクトしたSW480/GAST(-)/ICAT(-)細胞(暗灰色棒)において、ICATのmRNAレベル(A)およびタンパク質レベル(B)を定量化した(SW480/GAST(-)/Luc(-)(*)、またはSW480/GAST(-)/ICAT(-)(#)に比較して、p<0.05、スチューデントのt検定、n=3)。
【図S5】APCΔ14マウスの腸腺腫におけるTcf-4標的遺伝子の発現増加は、プロガストリン標的siRNA処理後に減少することを示す図である。図1にあるように、3カ月齢のAPCΔ14マウスを、マウスのGAST遺伝子またはルシフェラーゼ遺伝子のいずれかを標的にしたsiRNAによって、2週間処理した。腸腺腫をタンパク質抽出のために処理し、Tcf-4標的サイクリンD1(上)、c-Myc(中央)およびCD44(下)の発現を、同じ遺伝子背景からの対照マウスの腸上皮と比較して、腺腫(Ad)および同じ動物からの肉眼的に完全な上皮(Ep)におけるウェスタン免疫ブロット後に定量化した(代表的な免疫ブロットは図5Bに示されている)。値は、4匹の動物/群からの腺腫の平均値±semである。腸のセグメント各々に関して、C57/BL6#またはAPCΔ14 Luc(-)*におけるそれぞれの値に比較して、p<0.05。
【図S6】結腸サンプルのレーザー捕捉顕微切開に用いられた患者集団を示す図である。(A)レーザー捕捉顕微切開の前(原物)および後(顕微切開された)の典型的に健常な組織および腫瘍結腸組織の代表的な顕微鏡写真。(B)GAST遺伝子およびICAT遺伝子の発現レベル判定に用いられた患者集団の特徴に、TNM分類に従ったそれらの腫瘍の病態スコアリングを含めた。腫瘍局在化は、PC(近位結腸)、MC(中位結腸)、DC(遠位結腸)、S字結腸または直腸として表されている。手術時の転移(MS)、後期に転移(M)、および死亡患者(DC)を、以下の記号(0:なし;1:あり)で示してある。
【図S7】SW480/βgal(-)細胞において、PI3kの薬理学的阻害によって、Tcf-4転写活性が阻害されることを示す図である。SW480/βgal(-)細胞を、10μMのLY294002によって処理したか、または処理せず、Tcf-4活性を上記のとおり定量化した。値は、3つの独立した実験からの平均値±s.e.m.である。スチューデントのt検定、非処理SW480/βgal(-)細胞と比較して、p<0.05(*)。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、プロガストリン分泌細胞およびベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路が構成的に活性である細胞を提示する結腸直腸癌、腺腫性ポリープ症または転移の治療および/または予防のための方法を提供し、該方法は、ベータカテニンおよびTcf-4結合阻害物質(ICAT)のプロガストリン誘導抑制の阻害剤の有効量をそれを必要としている個体に投与する工程を含む。
【0025】
また、プロガストリン分泌細胞およびベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路が構成的に活性である細胞を提示する結腸直腸癌、腺腫性ポリープ症または転移を治療および/または予防するための医薬の製造におけるベータカテニンおよびTcf-4結合阻害物質(ICAT)のプロガストリン誘導抑制の阻害剤の使用も提供される。
【0026】
典型的には、プロガストリン分泌細胞およびベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路が構成的に活性である細胞は、結腸細胞である。一般的には、プロガストリン分泌細胞と、ベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路が構成的に活性である細胞とは同じであり得る。
【0027】
本発明はまた、ベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路が構成的に活性であるプロガストリン分泌細胞から生じる結腸直腸癌、腺腫性ポリープ症または転移を治療および/または予防するための方法が提供され、該方法は、ベータカテニンおよびTcf-4結合阻害物質(ICAT)のプロガストリン誘導抑制の阻害剤の有効量をそれを必要としている個体に投与する工程を含む。
【0028】
一般的には、プロガストリン分泌細胞は結腸細胞である。
【0029】
また、ベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路が構成的に活性であるプロガストリン分泌細胞から生じる結腸直腸癌、腺腫性ポリープ症または転移を治療および/または予防するための医薬の製造における、ベータカテニンおよびTcf-4結合阻害物質(ICAT)のプロガストリン誘導抑制の阻害剤の使用が提供される。
【0030】
結腸直腸癌の転移は患者死亡の重要な原因であり、それらがアクセス困難であるために、または外科手術による除去は直に患者の生存にとって重大なリスクをもたらすことが考えられるため、手術されることは稀である。これは特に、転移塊が重要な動脈に密接して増殖した場合に言えることである。本発明による治療によって、これらの転移の退縮が誘導され、したがって、転移本体を完全に取り除くことによって、または少なくとも転移を縮小させて該動脈から遠ざけることにより手術による除去を可能にすることによって、きわめて有用である。さらに、結腸直腸癌細胞におけるプロガストリン合成の下方制御により、結腸直腸腫瘍細胞の接着能力が回復し、それらの移動可能性の減少に至る(Hollandeら、2003年)。典型的には、処理された転移は、手術により除去できない。転移は、ベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路の活性化状態が不明である原発腫瘍に生じ得る。典型的には、転移が生じる原発腫瘍は結腸腫瘍である。
【0031】
個体とは、動物またはヒトを意味する。
【0032】
構成的に活性であるベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路とは、ベータカテニンとTcf-4との間の転写複合体形成を導き、細胞質ベータカテニンの分解不足によるTcf-4標的遺伝子の転写増強をもたらす経路の永続的で非調節的な活性化を意味する。
【0033】
ベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路が構成的に活性である細胞の例は、大腸腺腫性ポリポーシス(APC)腫瘍サプレッサー遺伝子が変異している細胞か、またはベータカテニンの正常な分解を防ぐようにベータカテニン遺伝子が変異している細胞である。
【0034】
一般的には、結腸直腸癌、腺腫性ポリープ症または転移に罹っている患者に本発明による治療方法を適用する前に、該結腸直腸癌、腺腫性ポリープ症または転移が、ベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路が構成的に活性であるプロガストリン分泌細胞から生じるかどうか、または該結腸直腸癌、腺腫性ポリープ症または転移が、プロガストリン分泌細胞およびベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路が構成的に活性である細胞を提示するかどうかを判定するために、診断試験を実施することができる。このような前治療診断試験を実施することにより、患者が本発明による治療方法に応答性であるかどうかを判定することが可能である。
【0035】
このような診断試験を実施することは、当業者の能力の範囲内にある。一般的には、血漿中のプロガストリン濃度が上昇している患者のみを治療するために、患者の血液中の血漿中プロガストリン濃度を判定することができる。血漿中プロガストリンの検査は、腫瘍および/または転移の再発可能性を検出するために用いることもできる。結腸直腸腫瘍は、新たな血管の形成を促進する因子(VEGFなど)を生涯分泌し、それによって、腫瘍が十分量の栄養を受けて最大の増殖に達することを確実にする(Wrayら、2004年)。また、これらの新血管の存在により、腫瘍が種々の因子を血流に放出することを可能にするが、これは特にプロガストリンの場合に言えることである。したがって、プロガストリン標的療法は、血漿中プロガストリン濃度の測定を含み得る。
【0036】
代替として、または追加して、APC遺伝子またはベータカテニン遺伝子の変異を検出することができ、または例えば、c-MycおよびサイクリンD1などのTcf標的遺伝子の異常レベルの転写を、患者から採取した組織スライドにおけるこれらのマーカーに対する染色によって、または例えば、マイクロアレイ技法を用いることによって判定することができる。
【0037】
本発明はまた、ベータカテニンおよびTcf-4結合阻害物質(ICAT)のプロガストリン誘導抑制の阻害剤による治療に対して、結腸直腸癌、腺腫性ポリープ症または転移を患っている患者が応答性であるかどうかを判定する方法であって、ベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路が構成的に活性であるプロガストリン分泌細胞から結腸直腸癌、腺腫性ポリープ症または転移が生じるかどうか、あるいは結腸直腸癌、腺腫性ポリープ症または転移が、プロガストリン分泌細胞およびベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路が構成的に活性である細胞を提示するかどうかを判定する工程を含む方法に関する。
【0038】
通常、ベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路が構成的に活性であるプロガストリン分泌細胞から結腸直腸癌、腺腫性ポリープ症または転移が生じるかどうか、あるいは結腸直腸癌、腺腫性ポリープ症または転移が、プロガストリン分泌細胞およびベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路が構成的に活性である細胞を提示するかどうかを判定する工程は、前記患者のプロガストリンの血漿中濃度を測定する工程を含む。追加して、または代替として、ベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路が構成的に活性であるプロガストリン分泌細胞から結腸直腸癌、腺腫性ポリープ症または転移が生じるかどうか、あるいは結腸直腸癌、腺腫性ポリープ症または転移が、プロガストリン分泌細胞およびベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路が構成的に活性である細胞を提示するかどうかを判定する工程は、APC遺伝子もしくはベータカテニン遺伝子の変異またはTcf標的遺伝子の異常レベルの転写を検出する工程を含む。
【0039】
通常、プロガストリンアッセイは、プロGRPに関して記載された(Nordlundら、2007年)ような時間分解免疫蛍光定量アッセイ(TR-IFMA)であり得る。このタイプのアッセイにより、結腸直腸腫瘍を患っている患者において測定されるプロガストリン血漿中濃度の範囲内の値である、16ng/lから20,000ng/lの範囲での定量化が可能である。2種のモノクローナル抗体を用いてよく、一方は、プロガストリンのN末端に特異的であり、他方はC末端に特異的である。N末端抗体はビオチン化することができ、固相抗体として用いられる。C末端抗体は、Eu3+により標識化することができ、トレーサー抗体として用いられる。
【0040】
ICATのプロガストリン誘導抑制の阻害剤の例は、結腸細胞内のプロガストリンの発現を下方制御する薬剤、プロガストリンに対する抗体、ホスファチジルイノシトール3キナーゼ(PI3K)の阻害剤およびインテグリン結合キナーゼ(ILK)の阻害剤からなる群の中で選択することができる。
【0041】
本発明の一実施形態において、ICATのプロガストリン誘導抑制の阻害剤は、結腸細胞におけるプロガストリンの発現を下方制御する薬剤である。一般的に、結腸細胞内のプロガストリンの発現を下方制御する薬剤は、プロガストリンの発現に干渉する核酸を含む。
【0042】
このような薬剤の例は、アンチセンス分子または前記アンチセンス分子を含むベクターである。アンチセンス分子は、mRNAの小型セグメントの相補鎖である。有効なアンチセンス分子を設計する方法はよく知られており(例えば、米国特許第6165990号を参照)、結腸細胞内のプロガストリンの発現を下方制御することのできるアンチセンス分子の設計は、当業者の能力の範囲内にある。プロガストリンの発現を下方制御する薬剤のさらなる例は、例えば、低分子干渉RNA(siRNA)および低分子ヘアピンRNA(shRNA)などのRNA干渉(RNAi)分子である。RNAiとは、遺伝子産物、ここでの場合はプロガストリンを標的とする相同二本鎖RNAを導入し、ヌルまたは低次形態表現型をもたらすことを指す。有効なRNAi分子を設計する方法はよく知られており(総説に関しては、HannonおよびRossi、Nature、2004年9月16日;431(7006):371〜8頁を参照)、結腸細胞内のプロガストリンの発現を下方制御することのできるRNAi分子の設計は、当業者の能力の範囲内にある。
【0043】
結腸細胞内のプロガストリンの発現を下方制御することのできるsiRNAの例は、以下の配列の1つを含む核酸分子である:
siRNA hPG:
センス:5'-GAAGAAGCCUAUGGAUGGATT-3'(配列番号27)
アンチセンス:5'-UCCAUCCAUAGGCUUCUUCTT-3'(配列番号28)
siRNA mPG:
センス:5'-GAAGAGGCCUACGGAUGGTT-3'(配列番号29)
アンチセンス:5'-CCAUCCGUAGGCCUCUUCTT-3'(配列番号30)
クローン細胞におけるプロガストリンの発現を下方制御することができるshRNAの例は、以下の配列の1つを含む核酸分子である:
shRNA hPG:
センス:5'GAAGAAGCCTATGGATGGATTCAAGAGAAGGTAGGTATCCGAAGAAGTTTTTT3'(配列番号1)
アンチセンス:5'AATTAAAAAACTTCTTCGGATACCTACCTTCTCTTGAATCCATCCATAGGCTTCTTCGGCC3'(配列番号2)。
【0044】
本発明の一実施形態は、配列番号27、配列番号28、配列番号29および配列番号30からなる群から選択される配列の1つを含むsiRNAを含む医薬に関する。一般的に、該医薬は1対のsiRNAを含み得る。siRNA対の例は、配列番号27を含む第1の核酸と配列番号28を含む第2の核酸、または配列番号29を含む第1の核酸と配列番号30を含む第2の核酸である。
【0045】
本発明の一実施形態は、配列番号1および配列番号2からなる群から選択される配列の1つを含むshRNAを含む医薬に関する。一般的に、該医薬は1対のshRNAを含み得る。shRNA対の例は、配列番号1を含む第1の核酸と配列番号2を含む第2の核酸である。
【0046】
本発明のさらなる実施形態において、ICATのプロガストリン誘導抑制の阻害剤は、ガストリンのアミド化形態およびグリシン伸長形態を認識しない、プロガストリンに対する抗体またはその生物学的活性断片もしくは誘導体である。当業者は、このような特異的抗体を製造するための標準的方法を認識するであろう。例えば、特異的抗体またはその生物学的活性断片もしくは誘導体は、プロガストリンまたはプロガストリンの断片によって動物を免疫化し、プロガストリンに結合しガストリンのアミド化形態およびグリシン伸長形態を認識しない抗体を選択することにより作出できる。好ましい一実施形態において、プロガストリン断片は、プロガストリンに特異的なアミノ酸配列である。これらの配列の長さは、8個と15個との間のアミノ酸を含み得る。これらの配列は、ガストリン形態G17およびG34-Glyに存在しないプロガストリンのCOOH末端アミノ酸残基またはNH2末端アミノ酸残基を含み得る。これらの配列は、プロホルモンコンバターゼまたはカルボキシペプチダーゼEの開裂部位を含み得る。
本発明の一実施形態において、該抗体またはその生物学的活性断片もしくは誘導体は、プロガストリンのCOOH末端の10アミノ酸残基またはプロガストリンのCOOH末端の15アミノ酸残基に結合する。プロガストリンのCOOH末端の10アミノ酸残基の例は、FGRRSAEDEN(配列番号31)である。代替の一実施形態において、該抗体またはその生物学的活性断片もしくはその誘導体は、プロガストリンのNH2末端の40アミノ酸残基に結合する。一般的に、該抗体またはその生物学的活性断片もしくはその誘導体は、SWKPRSQQPDAPLGT(配列番号32)に結合し得る。これらのアミノ酸配列は、ガストリン形態G17、G17-gly、G34およびG34-Glyに存在しないため、プロガストリンに特異的である。
【0047】
当業者は、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体の双方ならびにそれらの生物学的活性断片および誘導体を製造するための標準的方法を認識するであろう。それらの生物学的活性断片または誘導体とは、該抗体と同じエピトープ、ここでの場合はプロガストリンのエピトープに結合できることを意味する。抗体断片、特にFab断片ならびにエピトープ結合能力および特異性を保持する他の断片もまた、キメラ抗体、および該抗体の構成的(抗原に対する特異性を決定しない)領域が他の種からの類似領域または同様な領域によって置換されている「ヒト化」抗体など、よく知られている。したがって、マウスで作出された抗体を「ヒト化」して、ヒト対象への投与の際に生じ得る負の作用を減少させることができる。キメラ抗体は、今日許容された治療様式であり、現在いくつかが市販されている。したがって本発明は、F(ab')2、F(ab)2、Fab、FvおよびFd抗体断片、1つまたは複数の領域が相同的なヒトまたは非ヒト部分によって置換されたキメラ抗体などの、プロガストリンに特異的な抗体の使用を包含する。当業者はまた、例えば、ScFv断片および二価のScFvタイプの分子など、生物学的活性抗体誘導体を、組換え法を用いて調製できることも認識するであろう。放射性ヨウ素など、好適に放射性標識であるか、または蛍光標識もしくは化学発光標識であり得る検出可能なマーカーで該抗体を標識することができる。当業者は、好適な放射性標識、蛍光標識または化学発光標識を選択することができるであろう。
本発明の一実施形態は、プロガストリンのCOOH末端の15アミノ酸残基、またはプロガストリンのNH2末端の40アミノ酸残基に結合する抗体またはその生物学的活性断片もしくは誘導体を含む医薬に関する。
【0048】
一般的に、抗体またはその生物学的活性断片もしくは誘導体は、FGRRSAEDEN(配列番号31)またはSWKPRSQQPDAPLGT(配列番号32)に結合する。
【0049】
健常なヒトでは、プロガストリンは10%未満の循環ガストリンを含み、プロガストリンに関連する生理学的役割はない。その結果、抗体またはその生物学的活性断片もしくは誘導体によって特異的にプロガストリンを標的化することにより、治療の副作用は、たとえ避けられないとしても減少する。
【0050】
本発明のさらなる実施形態において、ICATのプロガストリン誘導抑制の阻害剤は、PI3Kの阻害剤である。PI3Kの阻害剤はよく知られている。LY294002、ワートマニンおよびケルセチンは、一般的に用いられるPI3Kの阻害剤である。例えばUS2006058321および国際公開第2004052373号は、PI3Kの阻害剤のファミリーを開示している。アンチセンス、RNAi分子、PI3Kのドミナントネガティブ形態、PI3Kに対する抗体、それらの生物学的活性断片および誘導体もまた、PI3Kの阻害剤として用いることができる。
【0051】
本発明のさらなる実施形態において、ICATのプロガストリン誘導抑制の阻害剤は、ILKの阻害剤である。ILKの阻害剤はよく知られている。KP-392およびQLT-0267は、一般的に用いられるILKの阻害剤である。例えば、ILKの小型分子阻害剤は、米国特許第6214813号に記載されている。ILKのアンチセンス阻害剤は、米国特許第6177273号に記載されている。RNAi分子、ILKのドミナントネガティブ形態およびILKに対する抗体、それらの生物学的活性断片および誘導体もまた、ILKの阻害剤として用いることができる。
【0052】
一般的に、本発明による医薬は、薬学的に許容できる担体と共に、ベータカテニンおよびTcf-4結合(ICAT)の阻害物質のプロガストリン誘導抑制の阻害剤を含む。当業者は、好適な担体を認識するであろう。所望の経路による投与のための好適な製剤は、例えば、Remington;The Science and Practice of Pharmacyなどの周知のテキストを参照にして、標準的方法によって調製することができる。
【0053】
本発明の他の実施形態において、ベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路が構成的に活性であるプロガストリン分泌細胞から生じる結腸直腸癌、腺腫性ポリープ症または転移を治療および/または予防するための化合物をスクリーニングする方法であって、
a)ベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路が構成的に活性であるプロガストリン分泌細胞を提供する工程と、
b)スクリーニングする化合物を加える工程と、
c)ICAT発現を誘導する化合物を選択する工程と
を含む方法が提供される。
【0054】
本発明の代替実施形態において、ベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路が構成的に活性であるプロガストリン分泌細胞から生じる結腸直腸癌、腺腫性ポリープ症または転移を治療および/または予防するための化合物をスクリーニングする方法であって、
a)プロガストリン感受性細胞を提供する工程と、
b)該細胞を含有する培地に、プロガストリンを加える工程と、
c)スクリーニングする化合物を加える工程と、
d)ICAT発現を誘導する化合物を選択する工程と
を含む方法が提供される。
【0055】
一般的に、プロガストリン分泌細胞またはプロガストリン感受性細胞は結腸細胞である。
【0056】
プロガストリン感受性細胞とは、プロガストリンが培養培地中に存在する場合、ベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路が活性である細胞を意味する。
【0057】
当業者は、これらの方法を実施するための標準的方法を認識するであろう。一般的に、ICAT発現は、RT定量的PCRによって判定することができる。
【0058】
以下、下記の実施例ならびに図によって本発明を説明する。
【実施例】
【0059】
<実施例1>
以下の説明において、詳細なプロトコルが提供されていないすべての分子生物学の実験は、標準的プロトコルに従って実施される。
【0060】
概要
背景および目的:β-カテニン/Tcf-4転写複合体の異常な活性化は、結腸クリプトにおける分化から増殖へバランス移動する結腸直腸発癌に関する初期事象となる。ここで、本発明者らは、この複合体の標的遺伝子にコードされる内因性プロガストリンが、次いで、APC変異細胞におけるβ-カテニン/Tcf-4活性を調節できるかどうかを評価し、インビボで腸の腫瘍増殖に及ぼす局所のプロガストリン欠失の影響を分析した。
【0061】
方法:
プロガストリンを過剰発現するが、アミド化またはグリシン伸長ガストリンは過剰発現しないヒト腫瘍細胞およびヘテロ接合Apc変異(APCΔ14)を有するマウスにおいて、GAST遺伝子の安定なまたは一時的なRNAサイレンシングを導入した。
【0062】
結果:
内因性プロガストリン産生の欠失は、腫瘍細胞において、構成的β-カテニン/Tcf-4活性の著しい阻害により、インビボでの腸の腫瘍増殖を大きく低下させる。この作用は、プロガストリン欠失細胞におけるインテグリン結合キナーゼ(ILK)の下方制御に起因するβ-カテニンおよびTcf-4の阻害物質(ICAT)のデノボ発現により媒介された。したがって、ICATの下方制御は、ヒト結腸直腸腫瘍におけるプロガストリンの過剰発現およびTcf-4標的遺伝子の活性化に関連しており、ICAT抑制は、腫瘍傾向性のプロガストリン過剰発現マウスの結腸上皮に検出された。APCΔ14マウスにおいて、siRNAに媒介されたプロガストリン欠失により、腸腫瘍のサイズおよび数が減少しただけでなく、残留腺腫におけるゴブレット系分化および細胞アポトーシスが増加した。
【0063】
結論:
したがって、内因性プロガストリンの欠失は、ICAT発現を促進し、それによってTcf-4活性に対抗することにより、インビボでAPC変異CRC細胞の腫瘍形成を阻害する。プロガストリン標的化方法は、結腸直腸癌の分化療法に関して、大いに有望な見通しを提供するはずである。
【0064】
序論
腫瘍細胞の分化誘導によって腫瘍の発達を減少させることを目指す種々の方法が近年開発されており、動物モデルおよびヒト患者においてきわめて有望な結果を提供している。特に、全トランスレチン酸の使用は、急性前骨髄球性白血病の治療にきわめて有用であることが実証されており(Lallemand-Breitenbachら、2005年;WangおよびChen、2000年)、進行した甲状腺癌において腫瘍分化させる有望な方法と考えられている(Coelhoら、2005年)。腸においては、細胞の増殖と分化の制御に関与する2つの主要な経路、すなわち、NotchカスケードおよびWnt/β-カテニン/Tcf-4経路を調節する薬剤に対して、大きな希望が寄せられている(RadtkeおよびClevers、2005年;van EsおよびClevers、2005年)。
【0065】
しかし、NotchとWntの活性化の間の微調整された相互作用は、腸のクリプトのホメオスターシスにとって重要であるため、結腸腫瘍におけるこれらのシグナル伝達経路の直接的な標的化を目指すアプローチは、腸全体の生理に対して有害な作用を及ぼす可能性が高い。腫瘍細胞において選択的に活性化されているか、または強く刺激されている一方、周囲の組織には存在しないか、または非活性である標的を特定する能力から、このような方法が大きな利益を得ることが理想的である。腸の腫瘍細胞において特に活性化された標的の中で、グリシン伸長ガストリンおよびプロガストリンなどの部分的に処理されたガストリン遺伝子(GAST)産物は、腫瘍増殖の選択的標的化にとって興味深い見通しを提供する。実際、GAST遺伝子それ自体が、結腸直腸癌において活性化され相乗的に作用することの多い2つの経路(Janssenら、2006年)、Tcf-4およびK-Ras双方の標的であり(Chakladarら、2005年;Kohら、2000年)、これらのGAST由来のペプチドは、腫瘍細胞上のオートクリン/パラクリンループを介して増殖を刺激すると考えられる(Hollandeら、1997年;Hollandeら、2003年)。Gglyの増殖効果は、この数年の間に発見され(Sevaら、1994年)、より最近では、プロガストリンが増殖を刺激し(Ottewellら、2005年;Singhら、2000年)、上皮の細胞/細胞接着および移動を調節すること(Hollandeら、2003年;Hollandeら、2005年)が示された。また、GAST遺伝子の欠失標的化された動物を用いた実験からは矛盾した結果が出ている。実際、この欠失により、化学的発癌物質、アゾキシメタンにより誘導された腫瘍形成が強く増強され(Cobbら、2002年)、他方、APC+/minマウスの遺伝子背景におけるポリープ数の減少がもたらされた(Kohら、2000年)。しかし彼らは、これらのペプチドの機能を欠損させて、予め存在している腫瘍の増殖を緩徐化または反転させる治療の可能性についての知見はほとんど提供していない。プロガストリンが、ヒト結腸直腸腫瘍および腫瘍細胞系のほぼ80%でかなりの量が産生され分泌されている一方、生理学的条件下では、その分泌がほとんど検出レベル未満に低下することは重要である(Ciccotostoら、1995年;Konturekら、2002年;Siddheshwarら、2001年;Van Solingeら、1993年)。したがって、Wntシグナル伝達経路の構成的活性化が、散発性CRC、ならびに腺腫性ポリープ症の遺伝性病態の特徴を表している(Foddeら、2001年)ため、また、GAST遺伝子がそれ自体、Tcf-4の標的であるため、本発明者らは、プロガストリンが次に、APC変異に駆動された腫瘍形成を調節することが可能かどうか、および標的プロガストリンが腸の腫瘍増殖を減少させる関連方法となり得るかどうかを調べた。
【0066】
本発明者らは、RNA干渉媒介プロガストリン欠失が、インビボで、APC遺伝子の変異に誘導された腫瘍増殖を抑制できたことを示す。次いで本発明者らは、この抑制が、腫瘍細胞におけるβ-カテニン/Tcf-4転写活性のレベルを、APC変異によって引き起こされたその構成的活性化にかかわらず調節するプロガストリンの能力を反映したことを実証する。β-カテニンおよびTcf-4結合阻害物質(ICAT)のデノボ発現は、β-カテニン/Tcf-4転写経路の阻害およびプロガストリン欠失腫瘍細胞における腫瘍形成の減少に役立っており、一方、ICATの抑制は、プロガストリン過剰発現マウス結腸粘膜、ならびにヒトおよびマウスの腸腫瘍において検出された。最後に、GAST特異的siRNAによる治療は、インビトロで、ヒトCRC細胞のみならず、Apc遺伝子のヘテロ接合変異を有するマウスのプロガストリン分泌腸腺腫のゴブレット細胞系への最終分化を誘導した。
【0067】
結果
プロガストリン欠失は、インビボで、APC変異により誘導された腫瘍増殖を反転させる。
既存腫瘍における内因性プロガストリンの選択的標的化を目指す方法が、インビボで、Tcf-4に促進された腫瘍増殖に拮抗することができるかどうかを評価するために、結腸直腸細胞系SW480からのBalbc/ヌードマウス異種移植(Morinら、1997年)、ならびに自然発生腸腫瘍形成のマウスモデル、APCΔ14(Colnotら、2004年)を用いた。大多数のヒト結腸直腸腫瘍に見られる(Korinekら、1997年)のと同様に、これら2種の実験モデルは、APCの変異を有し、その結果、β-カテニン/Tcf-4経路の構成的活性化を示す。
【0068】
対照のSW480/βgal(-)およびDLD-1/VO細胞は、高プロガストリンレベルを発現するが、ガストリンのアミド化およびグリシン伸長形態はほとんど発現しないことが示された(表1)。Balbc/ヌードマウスにおける皮下注射7週間以内に、これらの細胞は、大型の腫瘍を生じた(図1B)。対照的に、GAST遺伝子に特異的な短ヘアピンRNA(shRNA)の安定な発現によってプロガストリンの分泌が下方制御された場合、同じタイムスパン内で腫瘍を形成する能力は大きく低下した(SW480/GAST(-)細胞、図1A〜1B)。以前に特徴づけされた(Hollandeら、2003年)、アンチセンスGAST遺伝子cDNAを発現するDLD-1結腸直腸癌細胞の注入後、同様な結果が得られた(図1B)。
【0069】
【表1】
【0070】
次に本発明者らは、APCΔ14マウスを用い、より病理学的に関連した文脈で、プロガストリン阻害が既存の腸腫瘍の増殖を減少させることを実証した。これらの動物は、ヒトの家族性腺腫性ポリープ症および散発性結腸直腸癌患者に見られるものと同様の、Apc遺伝子の切断変異を有する。これらの動物はまた、回腸に自然発生の腫瘍を発現させるが、APCmin+/-モデルより多くの結腸腫瘍もまた発現させるため(Colnotら、2004年)、これらの患者に見られる腸上皮表現型を部分的に再利用する。3カ月齢のAPCΔ14マウスは、回腸および結腸に常に複数の腺腫を示し(データは示していない)、これらの腺腫において、プロガストリン濃度が上昇しているのが見られるが、アミド化またはグリシン伸長ガストリンでは見られない(図S1)。したがって、これらの動物は、Tcf-4に促進された腫瘍増殖に対するプロガストリン調節の役割を具体的に試験するための理想的なインビボモデルを本発明者らに提供した。
【0071】
以前、マウスの細胞に有効であることが示された(図S1)マウスGAST遺伝子に特異的なsiRNA(APCΔ14/GAST(-))による毎日2週間の処理により、ルシフェラーゼに特異的なsiRNA(APCΔ14/Luc(-))による処理後に見られたものと比較して、腸腺腫におけるGAST遺伝子およびプロガストリン発現の減少が誘導された(図1C〜1D、およびS1)。APCΔ14/GAST(-)動物の腸において、GAST発現の減少に関連し、対照に比較して、腫瘍サイズの有意な減少が検出された(カイ平方、p<0.0001、1群当たりn=9)。この減少は特に回腸で著しかった(図1C)が、結腸でも、この領域に位置した腫瘍数が少なかったために有意には達しなかったものの同様の傾向を見ることができた(フィッシャーの精密検定、p=0.228)(図1D)。また、対照動物に比較して、APCΔ14/GAST(-)マウス全体で、腸の腫瘍総数の20%の減少が検出された。特に、この減少は、APCΔ14/GAST(-)群の2匹の動物で激しく、回腸または結腸に腫瘍が無かった。対照的に、GAST特異的なsiRNA処理では、同一群の1匹のマウスにおけるGAST遺伝子レベルを下方制御することはできず、この動物は対照に見られるのと同様な腫瘍数および腫瘍サイズを示した(図1C)。したがって、プロガストリン産生のsiRNA媒介下方制御の効率はAPCΔ14/GAST(-)動物の間で変わるが、腫瘍のサイズおよび数は、プロガストリン濃度の低下を示すマウスでは一貫して減少した。
【0072】
以上をまとめると、これらの結果は、プロガストリンの分泌が、APC変異ヒトCRC細胞の腫瘍形成にとって必須であり、インビボでプロガストリン産生を阻害する処理により、腺腫性ポリープ症の早期およびヒト結腸直腸腫瘍形成を反復するマウスモデルにおける腫瘍増殖が大きく減少したことを示している。
【0073】
プロガストリンは、APC変異腸腫瘍細胞におけるβ-カテニン/Tcf-4転写活性のレベルを調節する。
プロガストリン標的化により、2つの異なるAPC変異腸腫瘍モデルにおける腫瘍増殖が抑制されたことを示したので、この効果が、APC変異によって構成的に活性化されることが知られているβ-カテニン/Tcf-4転写複合体の活性レベルを調節するプロガストリンの能力によるものであったと本発明者らは仮定した。ルシフェラーゼレポーター遺伝子の転写によって定量化されたこの活性(TOP/FOP)(Korinekら、1997年)は、対照細胞(SW480/βgal(-))において実際に上昇したが、プロガストリン欠失クローン(図2A)においては、β-カテニンまたはTcf-4レベルの検出可能な調節なしで(図S2)、有意に阻害された。同様な結果が以前に確立された(Hollandeら、2003年)アンチセンスGAST cDNAを発現するDLD-1細胞において得られた(図S2)。5nMの組換えプロガストリン、また、SW480/GAST(-)クローンにおけるコドン最適化したshRNA非感受性プレプロガストリン構築体の発現によって産生された内因性プロガストリンによる処理によって、ルシフェラーゼレポーター遺伝子の高レベルの転写回復が見られ、プロガストリンがこの転写経路を刺激する能力があることが確認された(図2A)。また、SW480/GAST(-)細胞におけるTcf-4および脱リン酸化β-カテニンの核量の顕著な減少および5nMの組換えプロガストリンによるこれらの細胞の処理に関連したβ-カテニン/Tcf-4活性の減少によって、β-カテニンおよびTcf-4の核区画化が部分的に回復することが、免疫蛍光染色により示された(図2B)。同様に、いくつかのTcf-4標的遺伝子(c-myc、サイクリンD1、Sox-9およびクローディン-1)(Blacheら、2004年;van de Weteringら、2002年)の発現が、プロガストリン欠失後に強く下方制御され、プロガストリンの再発現または組換えペプチドによる処理により有意に刺激された(図2CおよびS3)。対照的に、アミド化またはグリシン伸長ガストリン17またはアミド化ガストリン(CCK-B)受容体アンタゴニストL365、260による処理は、これらの細胞におけるβ-カテニン/Tcf-4活性に影響を与えることはなく(図S2)、ガストリンの短い処理形態は、これらの細胞におけるプロガストリンによるβ-カテニン/Tcf-4活性の調節を模することができないことが示されている。
【0074】
SW480 CRC細胞によって産生されたプロガストリンが、β-カテニン/Tcf-4複合体の活性を刺激することが、上記のデータにより明らかに実証される。上記のデータはまた、プロガストリン産生のブロックにより、APC変異細胞における構成的活性化にかかわらずこの転写経路の強力な阻害がもたらされることを示している。
【0075】
β-カテニンおよびTcf-4の阻害物質(ICAT)は、プロガストリンによるβ-カテニン/Tcf-4活性の調節を媒介する分子スイッチである。
使用されるCRC細胞におけるAPC遺伝子の変異状態から考えて、また、Tcf-4およびβ-カテニンの核区画化がプロガストリン欠失細胞において有意に変化すること(図2A)から、β-カテニン/Tcf-4活性の減少は、β-カテニンとそのもう一方のパートナーとの相互作用の増加に起因し得ると本発明者らは仮定した。これらのパートナーの1つ、ICAT(β-カテニンおよびTcf-4の阻害物質)は、これら2種のタンパク質間結合の直接的阻害物質として最近同定され(Tagoら、2000年)、DLD-1細胞およびSW480細胞において過剰発現された場合、増殖減少および細胞死増加の原因である(Sekiyaら、2002年)。プロガストリンの欠失により、SW480/GAST(-)細胞におけるICATのmRNAおよびタンパク質の強力な発現が誘導された(図3AおよびB)が、β-カテニンのもう一方の結合パートナーであるE-カドヘリンの発現は影響を受けなかった(データは示していない)。shRNA非感受性プレプロガストリンcDNAの再発現(図3AおよびB)により、ならびに5nMの組換えプロガストリンによる処理後(データは示していない)、ICATのデノボ抑制が誘導された。
【0076】
また、ヒトプロガストリンの組織特異的腸過剰発現を示す遺伝子導入マウス(Tg/Tg)の結腸上皮におけるICAT発現(Cobbら、2004年)は、それらの野生型同腹仔に検出されるものよりはるかに弱い(図3C)。これらのマウスにより発現したプロガストリンは、変異しており、したがって、処理酵素に非感受性であるため(Cobbら、2004年)、この結果は、完全長プロガストリンもまた、インビボでICAT発現を下方制御できることを示している。
【0077】
このように、内因性プロガストリンは、インビトロおよびインビボでICAT発現を抑制することができ、CRC細胞におけるプロガストリン欠失は、この阻害物質の強力なデノボ発現を誘導するには不十分である。
【0078】
したがって、本発明者らは、CRC細胞において、ICATが実際にプロガストリンによるβ-カテニン/Tcf-4の調節に関与する分子標的であるかどうかを調べた。共免疫沈降を用い、プロガストリン欠失SW480/GAST(-)細胞において、脱リン酸化β-カテニンとICATの細胞質同時局在化の出現(図4B)と並行したこれら2種のタンパク質間結合の有意な増加を検出した(図4A)。対照的に、脱リン酸化β-カテニンとTcf-4との共免疫沈降の量は、SW480/β-gal(-)に比較して有意に減少した(図4A)。次に、組換えプロガストリンによるSW480/GAST(-)細胞の処理後、β-カテニンは再びTcf-4に優先的に結合し、一方、ICATに対する結合およびこれら2種のタンパク質の同時局在化は減少した(図4A〜4B)。
【0079】
プロガストリン欠失細胞におけるICATの再発現が、機能的にβ-カテニン/Tcf-4転写活性阻害の原因であったことを確認するために、レトロウイルスに駆動されたshRNA発現を用いて、SW480/GAST(-)細胞におけるICATのmRNAおよびタンパク質のデノボ発現を実験的に阻止した(図S4)。得られたSW480/GAST(-)/ICAT(-)細胞において、β-カテニン/Tcf-4転写複合体の活性化回復が見られ(図4C)、それはまた、Tcf-4標的遺伝子の発現増加も示していた(図4D)。次に、SW480/GAST(-)/ICAT(-)細胞におけるICAT cDNAのコドン最適化型の過剰発現により、この増加が阻止され(図4C、4DおよびS4)、この過程におけるICATの特異性が示された。
【0080】
これらの結果により、ICAT発現レベルの調節が、プロガストリンによるβ-カテニン/Tcf-4活性調節の基礎をなす主要な分子事象であることが示される。
【0081】
インビボで、APCΔ14動物のプロガストリン過剰発現腸腫瘍において、低ICATレベル(図5Aおよび5C)およびTcf-4標的遺伝子の高い発現(図5B〜5C、および図S5)が検出された。対照的に、GAST(-)特異的siRNAによって処理されたマウスから採取された腺腫において、Tcf-4標的遺伝子の強力な抑制と同時に、ICAT発現が有意に増加した(図5A〜5C)。興味深いことに、APCΔ14/Luc(-)マウスの肉眼的に健常な上皮におけるサイクリンD1、c-MycおよびCD44の発現が、GAST(-)動物に比較して増加するのが見られ、単一Apc対立遺伝子の変異が、APCΔ14腸における標的遺伝子の発現を部分的に増加させる上で十分であること、およびこの前癌設定では、プロガストリン欠失がTcf-4活性の減少にすでに有効であることが示唆された(図5Bおよび図S5)。
【0082】
また、CRCを有する23名の患者から得られた、顕微切開されたヒト結腸腫瘍およびマッチする健常サンプルにおけるGAST mRNAのレベル(図S6)は、被験患者の78%の腫瘍(18/23)において、種々の程度で増加しており(図5D、上のグラフ)、一方、対応する腫瘍サンプルにおいてICAT発現が下方制御された(図5D、下のグラフ)。GAST遺伝子発現増加とICAT抑制との間には全体的に統計的に有意な相関が見られ(スピアマンの相関係数:r=-0.46、p=0.027)、インビボでのICATのプロガストリン誘導抑制の関連性を実証していた(図5D、挿入図)。低(例えば、患者22)または高(例えば、患者4)プロガストリン発現を有する患者からのサンプルに対する免疫組織化学により、この関連性が確認され、高プロガストリンレベルを発現する腫瘍においてはICATが抑制されており、Tcf-4標的遺伝子に対する免疫反応性が強いことが示された一方、これらの発現パターンは、低プロガストリンを有する腫瘍において反転した(図5E)。免疫組織化学により試験された11名の患者すべてからのCRCサンプルについて同様の結果が得られ、この相関は、インビトロで見られたICATレベルとβ-カテニン/Tcf-4活性との間の相関反転とよく似ている。
【0083】
APC変異細胞におけるβ-カテニン/Tcf-4複合体の構成的活性化にかかわらず、この経路の活性は、インビボおよびインビトロで、阻害物質ICATの再発現を介したプロガストリン欠失により阻害され得ることを、これらの結果は全体として実証している。本発明者らの知見では、これらの結果はまた、以前腫瘍サプレッサーとして記載された(DanielsおよびWeis、2002年)Tcf-4に対するβ-カテニン結合の小型阻害物質であるICAT(Tagoら、2000年)のホルモン性調節の最初の実証も提供する。
【0084】
CRC細胞におけるICAT発現の回復は、プロガストリン欠失により誘導された腫瘍形成減少の原因である。
結腸の腫瘍形成におけるβ-カテニン/Tcf-4転写活性の構成的活性化によって果たされる必須の役割から考えて、また、プロガストリン欠失腫瘍細胞において、ICATの再発現がTcf-4媒介転写減少の原因であることを本発明者らの結果が示したことから、本発明者らはさらに、プロガストリンの腫瘍促進活性の必須要素としてのICAT抑制の役割を、インビトロおよびインビボで調べた。
【0085】
インビトロで、SW480/GAST(-)/ICAT(-)細胞におけるICAT再発現の阻害により、軟寒天増殖アッセイにおいて、アンカー非依存性増殖に関するそれらの能力が、SW480/β-Gal(-)細胞に見られるのと同様のレベルまで増強するのが見られた(図6A)。インビボでは、SW480/GAST(-)/ICAT(-)細胞が腫瘍を形成する能力は、BALB/cヌードマウスにおける注入後、SW480/GAST(-)/Luc(-)細胞の能力よりはるかに高く(図6B)、SW480/β-Gal(-)細胞と同様であった(図1Bを参照)。
【0086】
全体として、CRC細胞における内因性プロガストリンによるICATの抑制がこのプロホルモンの腫瘍促進活性に役立つことが、これらの結果により明らかに実証されている。重大なことに、これらの結果はまた、プロガストリン欠失により誘導されたICATのデノボ発現が、β-カテニン/Tcf-4活性の有意な阻害を誘導し、したがって、インビトロおよびインビボで、腫瘍増殖を減少させる上で十分に強いことを示している。
【0087】
ホスファチジルイノシトール3-キナーゼに媒介されたインテグリン結合キナーゼの活性化は、ICAT抑制およびプロガストリンによるβ-カテニン/Tcf-4経路の調節の原因である。
プロガストリンは最近、腸細胞におけるホスファチジルイノシトール3-キナーゼ(PI3k)経路を活性化することがインビトロで(Hollandeら、2003年)、およびインビボで(Ferrandら、2005年)示されているため、この酵素の活性化が、SW480細胞におけるプロガストリンに誘導されたICAT抑制およびβ-カテニン/Tcf-4活性の刺激にとって必要であるかどうかを本発明者らは判定した。まず、選択的PI3k阻害物質LY294002とSW480/β-Gal(-)細胞のインキュベーションが、ICATの発現誘導に(図7A)、およびβ-カテニン/Tcf-4転写活性の減少に(図S7)十分であること(図7A)を本発明者らは見出し、これら2つの経路間の以前不明であった関連性を解明した。対照的に、10μMのPP2または1μMのPD98059をそれぞれ用いた、Src経路またはERK1/2経路の薬理学的阻害によって、ICAT発現またはβ-カテニン/Tcf-4活性は影響を受けなかった(データは示していない)。また、LY294002は、組換えプロガストリンによるSW480/GAST(-)クローンの処理によって誘導されたICATの下方制御を無効にし(図7A)、PI3kの活性化がプロガストリンによるICATの抑制にとって必須であることを示した。したがって、PI3kの下流標的であるAkt/PKBのセリン473-リン酸化は、プロガストリン欠失SW480/GAST(-)細胞において著しく減少したが、5nMの組換えプロガストリンとのインキュベーション後に復活した(図7A)。
【0088】
Akt/PKBのSer473は、インテグリンに結合したキナーゼ(ILK)の直接的なリン酸化標的であることが知られている(Delcommenneら、1998年)。ILKの活性化が、プロガストリンとICAT抑制との間のミッシング分子リンクであるかどうかを判定するために、本発明者らはまず、SW480細胞において、ILKの発現および/または活性がプロガストリンによって調節されたかどうかを評価した。SW480/GAST(-)細胞において、ILKの発現と活性の双方が有意に減少し、この阻害は、5nMの組換えプロガストリンによる処理後に部分的に反転した(図7B)。これらの結果は、SW480/GAST(-)クローンにおいて、ILKの下流標的であるインテグリンβ1(Mulrooneyら、2000年)のセリンリン酸化における大きな減少を示すデータによって実証された(図7B)。
【0089】
また、Akt/PKBリン酸化を抑制することが確認されているドミナントネガティブILK(DN-ILK)の一時的発現が、SW480/β-Gal(-)細胞におけるICAT発現を誘導でき(図7C)、この酵素が、ICAT遺伝子の発現を制御しているシグナル伝達経路に関与していることを示していることを見出した。これらのSW480/β-gal(-)/DN-ILK細胞におけるPI3kの薬理学的阻害によってICAT発現がさらに増加することはなく、これら2つの酵素は、ICAT遺伝子発現の調節における同じ経路に、または重複した経路に関与していることを示した(データは示していない)。
【0090】
さらに、組換えプロガストリンによるプロガストリン欠失SW480/GAST(-)細胞の処理によって誘導されたICATのmRNAおよびタンパク質の抑制およびAkt/PKBのリン酸化増加は、ILKのドミナントネガティブ媒介阻害によって阻止された(図7C)。対照的に、SW480/GAST(-)細胞におけるICATのshRNA媒介抑制(図S4に示されたような)はILKの発現または活性を変化させず(データは示していない)、ICATがプロガストリン媒介シグナル伝達におけるILKの下流に位置していることが確認された。
【0091】
これらの結果は、PI3kおよびILKの活性化が、CRC細胞におけるICATのプロガストリン媒介抑制に役立つことを明らかに実証している。
【0092】
インビトロおよびインビボでのプロガストリン欠失は、粘液産生ゴブレット細胞系で腸腫瘍細胞の最終分化を誘導する。
Wnt/β-カテニン/Tcf-4経路は腸クリプト下部における細胞の幹/前駆表現型の維持にとって重要であると考えられ、また、細胞の増殖と分化との間の分子スイッチとして広く認められている(RadtkeおよびClevers、2005年;van de Weteringら、2002年)ため、次に本発明者らは、プロガストリン欠失CRC細胞におけるその下方制御が、これらの細胞を分化へと駆動できたかどうかを判定した。
【0093】
細胞分化の初期プロモーターとしての最近記載された役割(ChungおよびEng、2005年)を考え、本発明者らはまず、安定なSW480/GAST(-)クローンにおけるPTEN(染色体10から欠失させたホスファターゼおよびテンシン相同体)の局在化を分析した。SW480/β-Gal(-)細胞における細胞質優勢の局在化とはきわめて対照的に、PTENは主として、SW480/GAST(-)クローンの核内に見られ(図8A)、局在化は、細胞分化におけるその役割に関係していると考えられた(LianおよびDi Cristofano、2005年)。
【0094】
安定なプロガストリン欠失クローンを発生させる過程により、最も分化していない非アポトーシス細胞が選択されることが予想されるため、GASTまたはβ-ガラクトシダーゼ遺伝子に特異的なローダミンタグ付きsiRNAオリゴヌクレオチドの一時的トランスフェクション後に、SW480細胞において、最終分化した腸細胞系に関係した遺伝子の発現を定量化した。クロモグラニンA(腸内分泌細胞において発現)または腸細胞特異的アルカリホスファターゼをコードする遺伝子の検出可能な変化なしに、ゴブレット細胞特異的遺伝子Muc-2の発現における有意な誘導が、SW480/GAST(-)において検出されたが、SW480/β-Gal(-)細胞では検出されなかった(図8B)。最後に、GAST(-)細胞におけるカスパーゼ3の活性の検出、および活性化カスパーゼ3に陽性の細胞はMuc2陽性でもあるとの発見(図8C)により、プロガストリン欠失は、インビトロでCRC細胞のアポトーシス促進の前に、CRC細胞を分泌系へと分化できたことが示された。組換えプロガストリンによる48時間の処理により、これらの表現型は反転した(図8C)が、アミド化およびグリシン伸長ガストリンは無効であった(データは示していない)。GAST特異的siRNAオリゴヌクレオチドをトランスフェクトしたDLD-1細胞で同様な結果が得られた(データは示していない)。このように、プロガストリン欠失は、CRC細胞をインビトロで最終分化およびアポトーシスへと駆動することができた。
【0095】
また本発明者らは、インビボでもプロガストリンレベルの減少が、β-カテニン/Tcf-4経路の構成的活性化によって誘導された腸腫瘍の分化誘導にとって十分である実証を試みた。ルシフェラーゼまたはGAST特異的siRNAによって処理したAPCΔ14マウスから採取したサンプルに対する免疫組織化学(図1を参照)により、APCΔ14/GAST(-)動物の小腸および結腸の残留腺腫が、対照に比較して、Muc-2およびアルシアンブルー陽性細胞の数の大きな増加を示し(図8D)、同じサンプルにおけるICATの発現増加およびc-Mycの発現減少(図5A〜5Cを参照)と合っていた。最後に、活性化カスパーゼ3に関して染色している細胞は、対照動物にはきわめてわずかであったが、APCΔ14/GAST(-)動物からの腺腫では、それらの数の大きな上昇が見られた(図8D)。これらの結果は、GAST遺伝子のsiRNA媒介下方制御が、腫瘍細胞をインビボで最終分化およびアポトーシスへと駆動できることを実証している。APCΔ14マウスにより発現した腸腺腫は、ガストリンのグリシン伸長形態またはアミド化形態を発現しない。組換えプロガストリンに対して増加させたポリクローナル抗体を用いた免疫ブロット法により、高分子量の工程中間体が検出されなかったため、また、完全長組換えプロガストリンが、インビトロでCRC細胞の分化を調節することが示されたため、GAST特異的siRNA処理後の腫瘍細胞の分化および腫瘍増殖の減少は、主に完全長プロガストリンの濃度減少によるものであると本発明者らは結論づけた。
【0096】
考察
本研究から、プロガストリン産生のブロックにより、ヒトCRC細胞における「構成的」ベータカテニン/Tcf-4転写活性が有意に阻害され、インビトロでのそれらのアンカー非依存性増殖ならびにヌードマウスにおけるそれらの腫瘍形成能力が減少し、それらの分化およびアポトーシスが促進されることが実証される。プロガストリンの欠失により、元はアフリカツメガエルにおいて同定され、ベータカテニンとTcf-4との相互作用を阻害することが示されていた小型ペプチドである「ベータカテニンおよびTcf-4の阻害物質」(ICAT)の再発現がもたらされた(GottardiおよびGumbiner、2004年;Tagoら、2000年)。また、組換えプロガストリンによる処理により、GAS遺伝子発現のスイッチが先に切られていた細胞において、ICATが下方制御され、ベータカテニン/Tcf-4活性が増加したことから、慢性的なプロガストリン分泌が、CRC細胞系におけるこの経路に関する高い活性化レベルの維持に関与していることが確認された。慢性的なプロガストリン分泌とICAT抑制との間の本明細書において解明された関連の生理学的関係性が、CRCを有する16名の患者群における結腸直腸腫瘍内のこれら2つの事象間の緊密な関連性を示す結果により、また、腫瘍になりやすいプロガストリン過剰発現マウスの結腸上皮においてICAT発現が下方制御された実証(Cobbら、2004年)により、インビボで強調された。
【0097】
このデータは、プロガストリンが結腸直腸腫瘍の発現を促進するという以前の観察結果と矛盾せず、ガストリン欠損APCmin+/-マウスにおいて見られた腺腫の数およびサイズの大きな減少(Kohら、2000年)に対する分子的説明を提供する。さらに、同様のバックグラウンドの野生型マウスと比較した、GAS遺伝子にヌル変異を有するマウスの胃壁細胞における標的遺伝子の発現プロファイルから、発現に差がある遺伝子の20%がWntおよびMycの標的遺伝子であることも知られていることが示され、これらのシグナル伝達経路間の関連性が強調された(Jainら、2006年)。
【0098】
CRCにおけるプロガストリン発現の増加が十分に文書化されている(Ciccotostoら、1995年;Konturekら、2002年;Siddheshwarら、2001年;Van Solingeら、1993年)。一方、本研究において記載されたICATの抑制は、この分野に関する唯一の先行報告(Koyamaら、2002年)と矛盾することに留意されたい。この矛盾は、Koyamaらによって報告されたICATの発現増加が、非顕微切開組織に対する半定量的RT-PCRを用いて測定された事実による可能性がある。健常な粘膜および腫瘍が上皮源である細胞によるICAT発現の直接的な比較が可能である本発明者らの結果は、腫瘍サプレッサーとしてのICATの記載された役割により一致すると思われる。実際、プロガストリン欠失CRC細胞において新たに合成されたICATは、ベータカテニンに対する結合に関してTcf-4と競合し、Tcf-4の転写活性の減少および腫瘍形成の減少をもたらすことが示されていて、このペプチドに関する先行報告データ(Sekiyaら、2002年)と一致しているため、プロガストリン媒介ICAT抑制は、腫瘍増殖にとって必須であると考えられる。
【0099】
不完全であるにもかかわらず、外因性プロガストリンを用いる処理によるICATの抑制およびベータカテニン/Tcf-4経路の活性化を回復させる能力は、膜受容体によって媒介されるオートクリン/パラクリンループの存在に有利な証拠となる。プロガストリンによるベータカテニン/Tcf-4活性のICAT媒介調節に関与するシグナル伝達事象の分析により、本発明者らは、CRC細胞におけるベータカテニン/Tcf-4経路とPI3キナーゼ/ILK経路との間の新規な関連性を確認することができた。実際、PI3kの薬理学的阻害およびILKシグナル伝達のドミナントネガティブ誘導阻害により、ICAT発現が増加し、このペプチドのプロガストリン媒介抑制が阻止された。Tanらによる以前の結果(Tanら、2001年)は、マキガイの抑制を通したILKの阻害により、ベータカテニン-Tcf/Lef依存性転写が抑制され、それによって、APC変異ヒト結腸癌細胞の膜におけるEカドヘリンの発現およびベータカテニンの動員が増加したことを実証している。本研究からの結果は、ベータカテニンの膜動員が低い非集密細胞においても、プロガストリン媒介ILKシグナル伝達が、ICAT発現の制御を介してベータカテニン/Tcf-4活性を調節することができることを示している。
【0100】
最後に、本発明者らの結果はまた、プロガストリンの機能に拮抗する薬剤が、結腸直腸癌における現在の外科手術的アプローチを支える新規治療オプションを提供することも示す。本明細書に提示された結果は、プロガストリンシグナル伝達の阻害が、結腸癌管理に関する特定の代替治療法を提供することを示す。プロガストリンは、腫瘍によってのみ分泌され、健常な上皮によっては分泌されないと考えられるため、そのような戦略は、頻繁なAPC変異の効果に対抗し、ベータカテニン/Tcf-4シグナル伝達の活性化を生理学的レベル近くまで低下させ、それによって、正常なクリプトの完全性の保持を助けるはずである。
【0101】
方法
細胞および細胞培養条件
結腸直腸癌細胞系DLD1およびSW480を、10%のウシ胎仔血清(Eurobio、フランス国、Les Ulis)、1%のL-グルタミンおよびペニシリン/ストレプトマイシンを添加したダルベッコの修飾イーグル培地(DMEM)中、37℃で維持した。
【0102】
材料
以下の一次抗体を用いた:マウス抗脱リン酸化ベータカテニン(クローン8E4;AG.Scientific)、マウス抗ベータカテニンおよび抗Eカドヘリン(Transduction Laboratories)、ヤギ抗Tcf-4(Santa Cruz Biotechnology)、ウサギ抗ICAT(C.Gottardi博士より恵与;(GottardiおよびGumbiner、2004年))、ポリクローナル抗PTEN(Upstate)、ウサギ抗ホスホセリン(Zymed)、ウェスタンブロット用(Cell Signaling)および免疫沈降用(Upstate)ウサギ抗ILK、マウス抗インテグリンβ1(Chemicon)、ウサギ抗Akt、抗Ser473リン酸化Akt、抗活性化カスパーゼ3(Cell Signaling)、抗Muc2モノクローナル抗体(Neomarkers)。
【0103】
ヒト組織採取
フランス政府の法令および地域委員会の指針に従って切除後、16名の患者からの結腸腫瘍および組織学的に正常な上皮(該腫瘍から有意な距離において採取)の検体を、病理学者から得られた。患者全員からインフォームドコンセントを得た。組織サンプルは、さらなる使用まで液体窒素中に保存した。
【0104】
組織切片、顕微切開およびRNA調製
液体窒素凍結腫瘍サンプルから組織切片を調製し、ヘマトキシリン/エオシン染色を行って、それらの品質、組織内の方向、および上皮含量を評価した。ベータカテニン、Tcf-4、c-mycおよびICATの免疫蛍光検出を、顕微切開に用いた切片に隣接した切片に対して実施した。Arcturus(Alphelys、フランス国、Plaisir)のPixCell(登録商標)IIe顕微切開器を用いて、1サンプル当たり、4切片から6切片に対して、レーザー捕捉顕微切開(LCM)を実施した。以下のレーザービーム設定を用いた:265mV、45mWh、直径15μm、18ms。次いで、顕微切開した組織を直接RNA溶解緩衝液中に採取し、RNAeasy Microkit(Qiagen、フランス国、Courtaboeuf)を用い、製造元の使用説明書に従ってRNAを調製した。回収したRNAの品質および量をRNA pico Labchips(Agilent Technologies、カリフォルニア州、パロアルト)を用いて評価した。
【0105】
安定トランスフェクション
DLD1細胞系へのガストリン遺伝子アンチセンスおよび対照cDNAのトランスフェクションは、(Hollandeら、2003年)に記載されている。プロガストリンshRNAを作出するために、以下のオリゴヌクレオチドをpサイレンサーベクター(Ambion)内にクローン化し、SW480細胞にトランスフェクトした:センス:5'-GAAGAAGCCTATGGATGGATTCAAGAGAAGGTAGGTATCCGAAGAAGTTTTTT-3'(配列番号1)およびアンチセンス:5'-AATTAAAAAACTTCTTCGGATACCTACCTTCTCTTGAATCCATCCATAGGCTTCTTCGGCC3'(配列番号2)。対照shRNAの作出に用いられたβガラクトシダーゼオリゴヌクレオチドは:センス:5'GATCCCAAGGCCAGACGCGAATTATTTTTCAAGAGAAAATAATTCGCGTCTGGCCTTTTTTTGGAAA3'(配列番号3);アンチセンス:5'AGCTTTTCCAAAAAAAGGCCAGACGCCAATTATTTTCTCTTGAAAAATAATTCGCGTCTGGCCTTGG3'(配列番号4)。5×104細胞/ウェルを接種し、24時間後、500ngのpサイレンサー/プロガストリン-shRNAまたはpサイレンサー/βガラクトシダーゼ-shRNA、50ngのpCDNA-3、および5μl/ウェルのExgen500(Euromedex)をトランスフェクトした。選択はネオマイシン(500ng/μl)により行った。SW480/GAS(-)細胞におけるICATまたはルシフェラーゼshRNAのレトロウイルス媒介トランスフェクション。ICATに関するshRNAオリゴヌクレオチド(センス5'GATCCGGATGGGATCAAACCTGACATTTTCAAGAGAAATGTCAGGTTTGATCCCATCTTTTTTG3'(配列番号5)およびアンチセンス5'AATTCAAAAAAGATGGGATCAAACCTGACATTTCTCTTGAAAATGTCAGGTTTGATCCCATCCG3'(配列番号6)およびルシフェラーゼ(センス5'GATCCGACATTAAGAAGGGCCCAGCTTTTCAAGAGAGCTGGGCCTTAATCTTTTTT3'(配列番号7)、およびアンチセンス5'AATTGATTAAGGCCCAGCTCTCTTGAAAAGCTGGGCCCTTCTTAATGTCG3'(配列番号8)を、pSIREN-retroQ(Clontech)にクローン化した。アンホトロピックパッケージング細胞系(ΦNX;Garry Nolan博士、スタンフォード大学、カリフォルニア州、スタンフォード)に、Pearらによって記載されたとおり(Pesrら、1993年)トランスフェクトした。トランスフェクションの48時間後、ウイルス含有培地を取り出し、1500rpmで5分間遠心分離し、細胞デブリをペレット化した。ウイルスを含有する2mlの遠心分離培地を、ポリブレン(8μg/ml)の存在下、標的細胞(6ウェルプレートにおける2.105/ウェル)に感染させた。陽性クローンを選択するために、感染細胞をプロマイシン(5μg/ml)で処理した。
【0106】
一時的トランスフェクション
トランスフェクションの前日、SW480細胞を24ウェルプレートに接種した(5×104細胞/ウェル)。製造元の使用説明書に従って、細胞に、100pモルのローダミンタグ付きGAS特異的またはβガラクトシダーゼ特異的shRNA、および5μl/ウェルのExgen500(Euromedex)をトランスフェクトした。トランスフェクションの48時間または72時間後、細胞を溶解させる(免疫ブロットおよびPCRのため)か、または免疫染色のために1%のパラホルムアルデヒドに固定した。
【0107】
アルシアンブルー染色
トランスフェクションの72時間後、カバーグラス上の細胞をPBSで洗浄し、アルシアンブルー(3%の酢酸中10g/l)と共に30分間インキュベートした。水中で細胞をすすぎ、カバーグラスをモウイオール(mowiol)中のガラススライド上に乗せ、使用するまで4℃で保存した。
【0108】
RT-定量的PCR
2.5μgの総RNAをDNアーゼRQ1(Promega)と共に、37℃で30分間予備処理し、M-MLV逆転写酵素(Invitrogen)による逆転写に用いた。LightCycler FastStart DNA MasterPlus SYBR Green Iキット(Roche Diagnostics、フランス国、Meylan)を用い、以下の条件下で定量的PCRを実施した。アクチン:95℃で10分間変性、増幅50サイクル:95℃で10秒、58℃で6秒、72℃で11秒。融解曲線:95℃で0秒、68℃で30秒、95℃で0秒および40℃で2分間の冷却。c-myc、ILK、クロモグラニンAおよびGAPDH増幅:95℃で10分間の変性、50サイクルの増幅:70℃で10秒、58℃で6秒、72℃で13秒。融解曲線は、95℃で0秒、80℃で30秒、95℃で0秒および冷却は40℃で2分間。プロガストリン、Muc-2、ALPおよびICAT増幅:95℃で10分間変性、50サイクルの増幅:70℃で10秒、95℃で6秒、72℃で11秒。融解曲線は、95℃で0秒、80℃で30秒、70℃で0秒および冷却は40℃で2分間。選択された遺伝子増幅に用いるプライマーは以下のものであった。GAPDH-センス:5'GGTGGTCTCCTCTGACTTCAACA3'(配列番号9)アンチセンス:5'GTTGCTGTAGCCAAATTCGTTGT3'(配列番号10);アクチン-センス:5'CGGGAATCTGCGTGACAT3'(配列番号11);アンチセンス:5'AAGGAAGGCTGGAAGAGTGC3'(配列番号12);ILK-センス:5'ATGACTGCCCGAATTAGCATG3'(配列番号13);アンチセンス:5'GCTACCCAGGCAGGTGCATA3'(配列番号14);ICAT-センス:5'GCTCTGGTGCTTTAGTTAGG3'(配列番号15);アンチセンス:5'GCACTTGGTTTCTTTCTTTTC3'(配列番号16);c-myc-センス:5'CGTCTCCACACATCAGAGCACAA3'(配列番号17);アンチセンス:5'TCTTGGCAGCAGGATAGTCCTT3'(配列番号18);ヒトプロガストリン-センス:5'AGAGGATCCAAATGCAGCGACTATGTGTGTATG3'(配列番号19);アンチセンス:5'GGCGAATTCCTAGGATTGTTAGTTCTCATCCTCAG3'(配列番号20);Muc-2-センス:5'TGGGTGTCCCTCGTCTCCTACA3'(配列番号21);アンチセンス:5'TGTTGCCAAACCGGTGGTA3'(配列番号22);アルカリホスファターゼ-センス:5'CTCCAACATGGACATTGACG3'(配列番号23);アンチセンス:5'CAGTGCGGTTCCACACATAC3'(配列番号24);クロモグラニンA-センス:5'ATCACCGCCACTGCCACCACCA3'(配列番号25);アンチセンス:5'CACCTTAGTGTCCCCTTTTGTCATAGGGCT3'(配列番号26)。
【0109】
軟寒天コロニー形成アッセイ
10%のウシ胎仔血清、1%のグルタミンおよびペニシリン/ストレプトマイシンを添加したDMEM-F12中、0.2%の寒天に1×105細胞を再懸濁し、固化下層を含有する(増殖培地中0.5%の寒天)6cmのペトリ皿に播いた。播いてから8日後、細胞を0.02%のクリスタルバイオレット中で染色し、コロニーのサイズおよび数を顕微鏡下で定量化した。クローンはすべて三重に接種し、各々について10の視野をカウントした。
【0110】
インビトロ試験
実験動物試験に関するフランス国の指針(Direction des Services Veterinaires、Ministere de l'Agriculture、Agreement NoB34-172-27)に従い、実験的腫瘍形成における動物の福祉に関するUKCCCR指針を満たして、インビボ実験を実施した。2×106細胞を6週齢の無胸腺BALB/c-nu/nu(ヌード)マウスに皮下注射した。以後、腫瘍増殖を定期的に追跡した(予測腫瘍容積=(長さ×幅×厚さ)/2)。
【0111】
APCΔ14マウスを通常の条件で収容し、2つの群に無作為化した。第1の群(n=9)は、マウスGAST mRNAに対し、250μg/kgのsiRNAの腹腔内投与により、1日1回処理した。対照マウス(n=9)は、ルシフェラーゼに対し、siRNAの同様な用量で処理した。(図S7オンラインのsiRNA配列)。siRNAの設計には、炎症誘発性応答およびインビボでの分解を最小化するために、3'オーバーハングを組み込み、5'UGUGU3'の配列を含めなかった(Judgeら、2005年;Marquesら、2006年)。処理10日後、マウスを殺処分し、それらの血液を採取し、それらの腸を切開して取り出した。腸および結腸における腺腫のスコアリングは、(Colnotら、2004年)に記載されている。健常な腸粘膜サンプル、ならびに腸および結腸の腺腫サンプルを、ウェスタンブロット、IHCまたはRNA抽出のために、4%のPFAに固定してパラフィン埋め込みを行うか、または液体窒素中に凍結させた。血漿を調製し、FACSarrayシステム(Becton Dickinson)を用いて、IL-6およびTNFαに関してアッセイした。
【0112】
ルシフェラーゼレポーター遺伝子アッセイ
TCF/LEF-1の転写活性測定に用いられるプロトコルは以前に記載されている(Morinら、1997年)。簡単に述べると、細胞に、500ngのTCF/LEF-1レポーター(pTOP-FLASH)、または対照ベクター(pFOP-FLASH)、および25ngのpCMV-Renillaをトランスフェクトした。二重ルシフェラーゼレポーターアッセイシステム(Promega)を用いて、ルシフェラーゼ活性を定量化し、Renillaの活性に対して正規化した。
【0113】
免疫蛍光染色
以前記載された(Hollandeら、2003年)とおりに免疫蛍光染色を実施した。次いで、×40油浸レンズを有するレーザー走査LEICA sp2共焦点顕微鏡を用いて、スライドを観察した。
【0114】
パラフィン組織切片に対する免疫化学
ヒトGAS遺伝子に関して遺伝子導入(Tg/Tg)したFVB/Nマウスまたは野生型同腹仔から、パラフィン組織切片を調製した(Cobbら、2004年)。脱蝋および水和の後、切片を、室温で20分間、ペルオキシダーゼにより予備処理した。サンプルを、10mMのトリス-1mMのEDTA、pH9中、20分間煮沸することにより抗原を回収した。スライドを室温まで放冷し、PBS +0.05%のBSA中、抗体と共に4℃で一晩インキュベートした。すべての場合で、第2の試薬として、Envision+キット(DAKO)を用いた。DAB(Sigma)を用いて染色を展開し、ヘマトキシリンまたはヌクレアファーストレッド(Nuclear Fast Red)により、スライドを対比染色しマウントした。
【0115】
タンパク質ライセート、免疫沈降、SDS-PAGEおよびウェスタン免疫ブロット
以前記載された(Hollandeら、2003年)とおり、タンパク質ライセート、免疫沈降および免疫ブロットを実施した。ECL Plus(Amersham Biosciences)を用いてタンパク質を可視化し、ImageJ 1.32J(NIH、メリーランド州、ベセスダ)を用いるデンシトメトリーにより、バンドを定量化した。
【0116】
免疫複合体キナーゼアッセイ
1チューブ当たり、0.5μgのATP(250mMのATP、1μCi[γ-32P]ATP)と共に、25μlのキナーゼ緩衝液(50mMのHepes pH7.0、1mMのMnCl2、1mMのオルトバナジン酸Na、2mMのNaF、5μgのミエリン塩基性タンパク質(Myelin Basic Protein)(Sigma))を加えることにより、該反応を開始させ、30℃で20分間インキュベートした。10μlの4×サンプル緩衝液の添加により該反応を終了させた。該チューブを、10,000gで1分間遠心分離し、該タンパク質を14%のSDS-pageゲル上で分離した。該基質のリン酸化を、オートラジオグラフィーにより可視化した(Marottaら、2003年)。
【0117】
放射免疫アッセイ
以前記載された(Hollandeら、1997年)とおり、細胞上清中のGAS遺伝子産物プロガストリン、グリシン伸長ガストリン(G-gly)およびアミド化ガストリン(G-NH2)を、放射免疫アッセイによって定量化した。
【0118】
統計解析
統計解析はすべて、Windows(Cary、米国、ノースカロライナ州)に関するSAS版9.1を用いて実施した。組換えプロガストリンによる処理の有無で、対照細胞とプロガストリン欠失細胞との間の差異の統計的有意性を判定するために、スチューデントのt検定を用いた。ヒト腫瘍におけるGASとICAT遺伝子発現との間の関連性を判定するために、ピアソンの相関係数(r)を判定する前に、変数を、それらの自然対数値を用いて正規化した。
【0119】
<実施例2>
プロガストリンに対する選択的抗体は、ICAT発現に対するプロガストリン抑制を反転し、c-myc発現の減少を誘導する。
【0120】
序論
本実施例は、プロガストリンに対する独立して作出された2つのポリクローナル抗体の特徴を記載し、それらが、完全長プロガストリン(1〜80)ペプチドを選択的に認識するが、アミド化ガストリン、グリシン伸長ガストリン、および6つのアミノ酸C末端フランキングペプチド(CFTP)など、ヒト血中に存在する可能性のある処理ペプチドは認識しないことを実証することを目的としている。この特徴づけは、ELISAアッセイを用いインビトロで実施した。
【0121】
本明細書下記の第2の工程は、ICATの発現およびベータカテニン/Tcf-4活性に及ぼすプロガストリンの作用は、選択的抗体によってブロックできるというコンセプト実証の検証であった。プロガストリン抗体のこのいわゆる中和活性を実証するために、apc遺伝子に変異を有し、構成的ベータカテニン/Tcf-4活性による内因性プロガストリンの分泌を示すヒトSW480結腸直腸腫瘍細胞を用いた。多量のプロガストリンおよびきわめて低レベルのアミド化ガストリンおよびグリシン伸長ガストリンを分泌するこれらの細胞の能力は表1に記載されている。
【0122】
これらの細胞を、1つはプロガストリンのN末端配列に特異的であり、他方はC末端配列に特異的である2つの異なるポリクローナル抗体によって独立して処理した。
該N末端配列は:SWKPRSQQPDAPLGT(配列番号32)であった。
該C末端配列は:FGRRSAEDEN(配列番号31)であった。
【0123】
結果
−抗体選択性:抗体の選択性を、方法の節で記載されたELISA試験によって評価した。結果(図10)は、双方のポリクローナル抗体とも、プロガストリンならびにそれらの産生に関する免疫原として用いられたそれぞれのペプチドを選択的に認識することを示している。それらは、グリシン伸長ガストリン、アミド化ガストリン、またはプロガストリンの成熟過程に由来し、ヒト血清中に検出される他のペプチドであるC末端フランキングペプチド(CTFP)(配列:SAEDEN)(Smith KA、Gastroenterology、2006年)には結合しない。
−プロガストリン抗体の中和活性:プロガストリンによるICATの抑制を阻害し、その結果、ベータカテニン/Tcf-4複合体の転写活性減少を誘導するプロガストリン抗体の能力を、SW480結腸直腸癌細胞において扱った。双方とも1/5000希釈の、プロガストリン(1〜80)のN末端対象物またはC末端対象物に特異的なウサギポリクローナル抗体の存在下で、細胞を30時間インキュベートした場合、ICAT mRNAの発現は大きく増加したが、c-MycおよびサイクリンD1のものは、同一濃度の非特異的ウサギポリクローナル抗体によって処理された細胞に比較して、著しく減少した。C-mycおよびサイクリンD1は、ベータカテニン/Tcf-4転写活性の認められた標的であり、それらの発現減少は、ベータカテニン/Tcf-4活性の減少の結果であると考えられる(図11)。
【0124】
結論
ICAT発現のプロガストリン阻害は選択的抗体に対するその結合によって反転させることができ、構成的ベータカテニン/Tcf-4活性の阻害がもたらされることを、これらの結果はインビトロで実証している。したがって本発明は、ICATおよびベータカテニン/Tcf-4活性を介して生じるプロガストリンの腫瘍形成促進作用をブロックするためにプロガストリン抗体を用いることができるというコンセプトの証明を初めて提供している。
【0125】
方法
ELISA
抗原をPBS中、指示された濃度に希釈し、その抗原100μlでマルチソルブ96ウェルプレートを4℃で一晩被覆した。翌日、ウェルを200μlのPBS/1% Tweenにより3回洗浄し、100μlのブロッキング溶液(PBS/1% Tween/0.1%BSA)を22℃で2時間加えた。PBS/1% Tweenによりさらに3回洗浄後、一次抗体をブロッキング溶液中で希釈し、100μlを22℃で2時間、該ウェルに加えた。抗体濃度は図に示されている。二次抗体を同じブロッキング緩衝液に希釈し、3回洗浄後、100μlを22℃で2時間、該ウェルに加えた。最後に、ウェルを、PBS/1% Tweenによって再度洗浄し、100μlのOPD溶液基質を22℃で20分間加えた。4NのH2SO4 50μlによって反応を停止させ、492nmにおいて読取りを行った。
【0126】
細胞培養およびプロガストリン選択的抗体による処理
10%のウシ胎仔血清(Eurobio、フランス国、Les Ulis)、1%のL-グルタミンおよびペニシリン/ストレプトマイシンを添加したダルベッコの修飾イーグル培地(DMEM)中、CRC細胞系SW480を37℃で維持した。SW480細胞を10%のFBS、1%の抗生物質および1%のグルタミンを含有するDMEM中、6ウェルプレートに播き(200,000細胞/ウェル)、37℃、5%CO2で一晩増殖させ、次いで、24時間血清不足にした。翌朝、該培地を、1/5,000希釈の対照またはプロガストリン選択的ポリクローナル抗体を含有しFBSなしのDMEMと置換し、引き続き、37℃、5%CO2でインキュベーションを行った。抗体を含有する培地は12時間後に取り替えた。30時間後、細胞をPBSで洗浄し、RNA抽出キット細胞溶解緩衝液によって細胞溶解させた。
【0127】
RNA調製およびRT-定量的PCR
RNeasy Protect Minikit(Qiagen France SA、フランス国、91974 Courtaboeuf)を用いて、SW480細胞からRNAを調製した。回収したRNAの品質および量を、RNA pico Labchips(Agilent Technologies、カリフォルニア州、パロアルト)を用いて評価した。逆転写には、各サンプルから2.5μgの総RNAをDNアーゼRQ1(Promega)により、37℃で30分間予備処理し、M-MLV(InVitrogen)と共にインキュベートした。LightCycler FastStart DNA MasterPlus SYBR Green Iキット(Roche Diagnostics)を用いて、1サンプル当たり2μlのcDNAから定量的PCRを実施した。GAPDH mRNAの発現を用いて、RNAローディングを検量した。
【0128】
定量的PCRのためのサイクル条件
−c-mycおよびGAPDH増幅に関して:95℃で10分間の変性、50サイクルの増幅:95℃で10秒、58℃で6秒、72℃で13秒。融解曲線は、95℃で0秒、80℃で30秒、95℃で0秒、冷却は、40℃で2分。
−ICAT増幅に関して:95℃で10分間の変性、50サイクルの増幅:95℃で10秒、60℃で6秒、72℃で11秒。融解曲線は、95℃で0秒、80℃で30秒、70℃で0秒、冷却は、40℃で2分。
−サイクリンD1増幅:95℃で10分間、50サイクルの増幅:95℃で10秒、70℃で6秒、72℃で11秒。融解曲線は、95℃で0秒、80℃で30秒、95℃で0秒、冷却は、40℃で2分。
【0129】
ヒト配列に対する定量的PCR用プライマー
GAPDH-センス:5'GGTGGTCTCCTCTGACTTCAACA3'(配列番号33)
GAPDH-アンチセンス:5'GTTGCTGTAGCCAAATTCGTTGT3'(配列番号34)
ICAT-センス:5'GCTCTGGTGCTTTAGTTAGG3'(配列番号35)
ICAT-アンチセンス:5'GCACTTGGTTTCTTTCTTTTC3'(配列番号36)
c-Myc-センス:5'CGTCTCCACACATCAGAGCACAA3'(配列番号37)
c-Myc-アンチセンス;5'TCTTGGCAGCAGGATAGTCCTT3'(配列番号38)
サイクリンD1-センス:5'-CCGTCCATGGGGAAGATC-3'(配列番号39)
サイクリンD1-アンチセンス:5'-ATGGCCAGCGGGAAGAC-3'(配列番号40)
【0130】
実施例1および実施例2についての全般的結論
ヒト結腸直腸腫瘍細胞のプロガストリン欠失により、構成的ベータカテニン/Tcf-4活性を有する細胞の分化およびアポトーシスが誘導されるため、ヒト結腸直腸腫瘍細胞のプロガストリン欠失により腫瘍形成が反転することを実証する十分かつ必要なデータが初めて提供される。これらの作用はプロガストリンに特異的である。これは、インビトロで2つの細胞系(DLD-1およびSW480)ならびにインビボでヌードマウスに移植した同じこれらの細胞系において、およびヒト腫瘍形成を再利用するマウスモデルにおいて示されている。実際、このマウスモデル(APCΔ14)において、apc遺伝子は、ベータカテニン/Tcf-4経路の活性化を導く変異を有し、マウスは自然に腺腫および腺癌を発現する。プレプロガストリンのmRNAを標的にするsiRNAにより、これらのマウスをインビボで処理した。これによって、腫瘍形成の反転がもたらされ、分化およびアポトーシスにより腫瘍の縮退に至った。この処理により、構成的ベータカテニン/Tcf-4活性が著しく阻害されることが示されている。したがって、apc遺伝子の変異によって開始された腫瘍形成の反転が示されるのはこれがまさに初めてである。プロガストリンの欠失はベータカテニン/Tcf-4転写活性の内因性阻害物質であるICATの再発現を誘導するため、プロガストリン欠失が抗腫瘍作用を有することが分子レベルで示されている。
【0131】
ヒト結腸直腸癌における、ベータカテニン/Tcf-4経路の活性化過剰と高レベルのガストリン遺伝子発現および低レベルのICAT発現との間の関連性事象を、本発明者らは初めて実証している。また、プロガストリン自体の過剰発現が、Tcf-4標的遺伝子レベルが上昇している腫瘍サンプルに示された。APCΔ14マウスの自然に生じる腸腺腫に、本発明者らはまた、高レベルのプロガストリン(グリシン伸長ガストリンおよびアミド化ガストリンではなく)およびICATの低発現を検出した。これらのパラメーターは、ガストリン遺伝子選択的siRNAによる処理後に反転した。
【0132】
最後に、プロガストリンに特異的であり、グリシン伸長ガストリンまたはガストリンには結合できない抗体によっても、プロガストリン作用のブロックを達成できることを実証するデータが提供されている。このように、ICATの発現を誘導し、構成的ベータカテニン/Tcf-4活性に関連した結腸腫瘍形成をブロックし反転させるための、siRNA、shRNAまたはプロガストリンを標的にする抗体のいずれかの使用に関するコンセプトの証明および十分な科学的データが提供されている。
【0133】
本出願を通して、種々の文献が、本発明に関連する先端技術を記述している。これらの文献の開示は、参照として本開示に援用されている。
(参考文献)
【技術分野】
【0001】
本発明は、結腸直腸癌、腺腫性ポリープ症および転移を治療および予防するための方法および組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト結腸の腫瘍形成は、症例の66%で腫瘍抑制遺伝子大腸腺腫性ポリポーシス(APC)の体細胞変異に、またはベータカテニン遺伝子に関係している(以下の文献リストから算出された平均値:(Conlinら、2005年;De Filippoら、2002年;Huangら、1996年;Johnsonら、2005年;Kimら、2003年;Luchtenborgら、2005年;Mikamiら、2006年;Morinら、1997年;Powellら、1992年;Rowanら、2000年;SegditsasおよびTomlinson、2006年;Shitohら、2004年;Smithら、2002年;Sparksら、1998年;Suraweeraら、2006年;Takayamaら、2001年))。これらの変異は、散在性結腸直腸癌を患っている患者に生じる結腸直腸発癌の初期事象と考えられる。apc遺伝子における生殖細胞変異は、家族性大腸ポリポーシス、腸癌のリスクの高さに関連した遺伝性症候群の原因でもある。これらの変異は、接着接合タンパク質ベータカテニンの細胞質プールの調節欠陥をもたらし、Tcf-4媒介転写経路の構成的活性化をもたらす。この構成的活性化により、c-mycまたはサイクリンD1などのTcf-4標的遺伝子の高レベルの転写がもたらされる。この経路の可能性のある他の標的は、プロガストリンプロホルモンをコードするGAST遺伝子である。
【0003】
この遺伝子の転写は、インビトロで、ベータカテニン/Tcf-4複合体の活性化後に増加することが示された(Kohら、2000年)。
【0004】
結腸発癌におけるプロガストリンの役割は、プロガストリンが結腸直腸腫瘍の抽出物中に検出され(Finleyら、1993年;Kochmanら、1992年;Nemethら、1993年)、プロガストリンの血漿中濃度が結腸直腸腫瘍を患っている患者の約75%で上昇することが示されたが、対照では検出されなかった(Ciccotostoら、1995年;Konturekら、2002年;Siddheshwarら、2001年;Van Solingeら、1993年)15年位前に初めて示唆された。これらの観察結果に基づき、プロガストリンが結腸の腫瘍形成に関与している可能性があるという理論が、インビトロとインビボの双方で研究されてきた。研究はまず、グリシン伸長ガストリン(プロガストリン成熟化産物の1つ)が、増殖に正の効果を有したことを示すことによって開始された(Hollandeら、1997年;Kohら、1999年;Litvakら、1999年;Singhら、1994年;Stepanら、1999年)。その間に、より小型ペプチドへのプロガストリンの成熟が生じ得ない肝臓中のプロガストリンの過剰発現が、腸の上皮に有糸分裂誘発を誘導することが示された(Wangら、1996年)。この同じ遺伝子導入マウスを用いて、プロガストリンの過剰発現がアゾキシメタン誘導の発癌に対する感受性を誘導することが実証された(Singhら、2000年)。しかし、この観察結果は、ガストリン遺伝子のノックダウンによってもまた、発癌に対して同じ感受性が誘導されたことが示されたときに(Cobbら、2002年)、問題となった。しかし、ラットの腸細胞系IEC6に対して、プロガストリンの増殖効果がインビトロで(Brownら、2003年)、fabpプロモーターの制御下でプロガストリンの腸過剰発現を示す遺伝子導入マウスモデルに対してインビボで(Cobbら、2004年)、さらに実証された。しかしながら、このマウスモデルの主な欠点は、プロガストリンが腸上皮の分化細胞において過剰発現し、増殖細胞においてではないということである。2003年および2005年に、Ottewellらは、プロガストリンがDNA損傷後にマウスの結腸上皮の有糸分裂を刺激するという事実、および、インビボでマウスの結腸上皮の有糸分裂刺激にとって、プロガストリンのCOOH-末端の26個のアミノ酸残基が十分であるという事実についてのデータを提供した(Ottewellら、2005年;Ottewellら、2003年)。
【0005】
主に過剰発現実験からのこれらのデータに基づき、プロガストリンは腸上皮細胞上の「成長因子」として受容された。対照的に、細胞の欠失(delete)を試みた研究はインビトロで3件だけであり、インビボでは1件だけであった。インビトロでは、2つのプロガストリン産生細胞系にガストリン遺伝子アンチセンスがトランスフェクトされ、ヌードマウスで、結腸形成、ならびに腫瘍移植の減少が示された(Singhら、1996年)。しかし、重要なことに、これらのブロック効果がどのガストリン遺伝子産物に起因するかが実証されていない。プロガストリン欠失(deletion)により、腸上皮細胞における安定な接着および密接な接合の回復が可能となり、プロガストリンが移動の活性化と結び付くことが、最近の研究により実証されている(Hollandeら、2003年)。最後に、最近のインビトロ研究は、プロガストリンの成熟産物であるグリシン伸長ガストリン17の役割に焦点を当てた。その研究に使用された細胞が、このペプチドを大量に分泌し、プロガストリンはきわめてわずかしか分泌しないからである(Hollandeら、1997年)。インビボでKOマウスは、上記のとおり、より腫瘍形成しやすかった。
【0006】
ベータカテニン/Tcf-4複合体とペプチドのガストリンファミリーとの間の関連性を報告している2つだけの研究が、Tcf-4転写経路の活性化のみが(Kohら、2000年)、特に、Rasと関連したものが(Chakladarら、2005年)、ガストリン遺伝子プロモーターの活性化および該遺伝子の転写増加を導くことをインビトロで実証したことは重要である。対照的に、本明細書に提供されたデータ以前には、ベータカテニン/Tcf-4経路の異常活性化の際に結腸内に分泌されるガストリン遺伝子誘導ペプチドの実際の性質に関しては何も知られておらず、プロガストリン機能のブロックによりこの経路の活性化が反転する可能性についての報告はされておらず、また、ヒト結腸直腸癌患者において、その腫瘍内のこの経路の活性化を示す者とガストリン遺伝子の発現が増強した者との間の関連性は確立されていなかった。その結果、プロガストリンの欠失が構成的なベータカテニン/Tcf4の活性化により誘導された結腸直腸の発癌を反転させ得ることを示す十分な科学的証拠を提供している先行データはないようである。本発明の説明において、このようなデータが下記に提供されている。
【0007】
ガストリンおよびプロガストリン
ガストリンは古典的な腸のペプチドホルモンであり、元々は胃酸分泌の刺激物質として同定された。ガストリンは、主に胃幽門洞のG細胞によって産生され、種々の程度で小腸上部に、また、はるかに少量が結腸および膵臓に産生される。最近数年にわたり、結腸直腸発癌におけるペプチドのガストリンファミリーの役割に対する関心が増大している。特に、以前は不活性であると考えられていたガストリンの前駆形態(プロガストリンおよびグリシン伸長ガストリン)が、結腸直腸癌の発現にある役割を果たしている証拠が蓄積している(上記の解説を参照)。ガストリンは種々の分子形態で見出される。ヒトCOOH末端アミド化ガストリン、G17およびG34は、101-アミノ酸前駆体分子であるプレプロガストリンから翻訳後修飾によって生じる。プレプロガストリンは、小胞体へと同時翻訳的に転座し、そこでシグナルペプチドが迅速に開裂して、プロガストリンが生じる。プロガストリンは引き続き、プロホルモンのコンバターゼおよびカルボキシペプチダーゼEにより開裂して、COOH末端グリシン残基を有するペプチド、すなわち、G34-Glyが生じ、さらに開裂してペプチドG17-Glyが生じる。G34-Glyは、ペプチジルアルファアミド化モノオキシゲナーゼにより、COOH末端アミド化ペプチドG34へと変換することができ、同様に開裂してG17が生じ得る。G17またはGアミドは、ガストリンの主な洞性形態であり、非アミド化前駆体(プロガストリン、グリシン伸長ガストリン)は、ヒトにおける全分泌ペプチドの10%未満を一般に含む。しかし、処理過程が損なわれている一定の臨床状況においては、より高い割合の非アミド化ガストリンが分泌される。例えば、上記の結腸直腸癌に罹っている一部の患者では、プロガストリンの組織中濃度および血漿中濃度が上昇する(Ciccotostoら、1995年;Konturekら、2002年;Siddheshwarら、2001年;Van Solingeら、1993年)。
【0008】
国際公開第9919353号には、胃腸粘膜の細胞増殖の自己分泌刺激活動亢進に関連した病態の治療方法が示唆されている。該方法は、細胞内ガストリン/CCK-C受容体または他のプロガストリン受容体に対するプロガストリン結合のアンタゴニストの有効量を、このような治療を必要としている哺乳動物に投与する工程を含む。米国特許第6165990号は、結腸癌を治療するための方法を開示している。結腸癌によるガストリンの発現は、アンチセンスガストリン発現の使用によって抑制される。
【0009】
国際公開第2004/089976A号には、非アミド化ガストリンのレベル上昇に関連した病態を治療するための方法および組成物が開示されている。一態様において、グリシン伸長ガストリン17、プロガストリンまたはプロガストリン誘導ペプチドのいずれか1つまたは複数に対する第二鉄イオンの結合を阻害する能力を有するが、アミド化ガストリンの活性を阻害せず、それによって、非アミド化ガストリンの活性を阻害する化合物の有効量を、このような治療を必要としている哺乳動物に投与する工程を、該方法は含む。グリシン伸長ガストリン17に対する第二鉄イオンの結合を阻害する能力がその生物活性を低下させるという主張を裏付けるデータは提供されているが、プロガストリンの生物活性に及ぼす効果に関するデータは提供されていない。
【0010】
国際公開第2006/032980A号は、プロガストリン結合性分子が、ガストリン-17(G17)、ガストリン-34(G34)、グリシン伸長ガストリン-17(G17-Gly)、またはグリシン伸長ガストリン-34(G34-Gly)に結合しない、プロガストリンに選択的に結合するプロガストリン結合分子、特にプロガストリンおよびそれらを産生するハイブリドーマに選択的なモノクローナル抗体を保護することを目的にしている。上記の抗体を用いて生体液中のプロガストリン濃度を定量化する方法が開示されているが、この主張は、任意の生体液中のプロガストリンを選択的に検出するこれらの抗体の能力に関しては、いずれのデータによっても裏付けられていない。抗体の投与を含む、ガストリンに促進された疾患または病態を予防または治療するための方法も開示されているが、これらの抗体がプロガストリンの生物活性を変化させる任意の選択的能力を示すという主張を裏付けるデータはない。本明細書は、このような抗体の特異性を確立するための唯一の方法を提供している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第9919353号
【特許文献2】米国特許第6165990号
【特許文献3】国際公開第2004/089976A号
【特許文献4】国際公開第2006/032980A号
【特許文献5】US2006058321
【特許文献6】国際公開第2004052373号
【特許文献7】米国特許第6214813号
【特許文献8】米国特許第6177273号
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】HannonおよびRossi、Nature、2004年9月16日;431(7006):371〜8頁
【非特許文献2】Remington;The Science and Practice of Pharmacy
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
現在まで、結腸直腸癌、転移および腺腫性ポリープ症を治療および/または予防する有効かつ特異的方法は稀である。したがって、結腸直腸癌、転移または腺腫性ポリープ症を治療および/または予防する改善された方法を提供することが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この目的を達成するために、ベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路が構成的に活性であるプロガストリン分泌細胞から生じる結腸直腸癌、腺腫性ポリープ症または転移を治療および/または予防するための方法が提供され、該方法は、ベータカテニンおよびTcf-4結合阻害物質(ICAT)のプロガストリン誘導抑制の阻害剤の有効量をそれを必要としている個体に投与する工程を含む。
【0015】
本発明はまた、プロガストリン分泌細胞およびベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路が構成的に活性である細胞を提示する結腸直腸癌、腺腫性ポリープ症または転移を治療および/または予防するための方法を提供し、該方法は、ベータカテニンおよびTcf-4結合阻害物質(ICAT)のプロガストリン誘導抑制の阻害剤の有効量をそれを必要としている個体に投与する工程を含む。
【0016】
GAST遺伝子の任意の他の産物ではなく、プロガストリンの欠失が、ベータカテニン/Tcf-4活性の構成的活性化に直接作用することにより、腫瘍形成を反転させることができることを、本発明はまさに初めて記載している。この反転は、高プロガストリン条件では低く、プロガストリン欠失条件では高い、ICAT発現の調節を含む。ICATが高い場合、ICATがTcf-4からベータカテニンを乗っ取ることにより、ベータカテニン/Tcf-4活性の構成的活性化は著しく低下する。
【0017】
したがって、ベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路が構成的に活性であるプロガストリン分泌細胞から生じる結腸直腸癌、腺腫性ポリープ症または転移、およびプロガストリン分泌細胞およびベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路が構成的に活性である細胞を提示する結腸直腸癌、腺腫性ポリープ症または転移に対して、プロガストリンの欠失がきわめて効率的な療法であることが、初めて実証されている。したがって、低ICAT発現、構成的ベータカテニン/Tcf-4媒介活性、および高プロガストリン発現を有するヒト結腸直腸腫瘍、腺腫性ポリープ症または転移の集団を、抗プロガストリン療法に関して選択することができる。
【0018】
本発明はまた、結腸直腸癌、腺腫性ポリープ症または転移を患っている患者がベータカテニンおよびTcf-4結合阻害物質(ICAT)のプロガストリン誘導抑制の阻害剤による治療に応答性であるかどうかを判定する方法であって、ベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路が構成的に活性であるプロガストリン分泌細胞から結腸直腸癌、腺腫性ポリープ症または転移が生じるかどうかを判定する工程を含む。
【0019】
本発明はまた、該療法に応答性である可能性の高い特定の患者集団の選択と、結腸直腸癌、腺腫性ポリープ症または転移の治療および/または予防とを組み合わせる方法を提供する。
【0020】
また、ベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路が構成的に活性であるプロガストリン分泌細胞から生じる結腸直腸癌、腺腫性ポリープ症または転移の治療および/または予防のための医薬の製造における、ベータカテニンおよびTcf-4結合阻害物質(ICAT)のプロガストリン誘導抑制の阻害剤の使用も提供される。
【0021】
また、プロガストリン分泌細胞およびベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路が構成的に活性である細胞を提示する結腸直腸癌、腺腫性ポリープ症または転移を治療および/または予防するための医薬の製造における、ベータカテニンおよびTcf-4結合阻害物質(ICAT)のプロガストリン誘導抑制の阻害剤の使用も提供される。
【0022】
本発明の他の実施形態において、ベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路が構成的に活性であるプロガストリン分泌細胞から生じる結腸直腸癌、腺腫性ポリープ症または転移の治療および/または予防のための化合物のスクリーニングのための方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】プロガストリン欠失により、Balbc/ヌードマウスにおけるヒトCRC細胞系の腫瘍形成が減少し、APCΔ14マウスの腸における自然な腫瘍発現が阻害されることを示す図である。(A)棒グラフは、SW480/βgal(-)およびSW480/GAST(-)(shRNA非感受性プレプロガストリンcDNA(cPG)を発現する、または発現しないクローン[1]および[2])細胞におけるGAST mRNA定量化を示す。結果は、SW480/βgal(-)において見られたレベルのパーセンテージとして表されている(*、SW480/GAST(-)に比較してp<0.05、n=3)。下表、SW480/βgal(-)およびSW480/GAST(-)細胞によって分泌されるプロガストリン、グリシン伸長ガストリンおよびアミド化ガストリンのRIA定量化(pモル/l/24時間)。(B)BALB/cヌードマウスにおけるDLD-1/VO細胞、DLD-1/ASG細胞、SW480/GAST(-)細胞またはSW480/βgal(-)細胞の皮下注射後の経時的腫瘍容積の進展。2種のクローン/細胞系(マウス4匹/クローン)の平均値±s.e.m、(*、DLD-1/VO細胞または SW480/βgal(-)細胞に比較してp<0.05、スチューデントのt検定)。(C〜D)3カ月齢のAPCΔ14マウスを、マウスGast遺伝子またはルシフェラーゼ遺伝子のいずれかを標的にしたsiRNAにより2週間処理した(9匹のマウス/群)。結果は、RT-QPCRを用いて定量化した、回腸(C)または結腸(D)における腫瘍粘膜/健常粘膜におけるGast遺伝子発現間の比率として表されている(左枠)。回腸(C)および結腸(D)においてメチレンブルー染色後に、腺腫の数およびサイズを定量化し、各サイズ群に関する腫瘍の総数として表している(右枠)。多数の腸腫瘍を有するマウスにおいて採取されたサンプルAにおいて、GAST siRNAは、Gast遺伝子発現のレベル低下を生じさせなかった(C)。「B」および「C」は、それぞれ、結腸腫瘍または回腸腫瘍を有さなかったマウスに相当する(D)。
【図2】プロガストリンがヒトCRC細胞においてβ-カテニン/Tcf-4活性を刺激することを示す図である。(A)非処理のSW480/βgal(-)細胞およびSW480/GAST(-)細胞(クローン[1]および[2])(黒色棒)において、または5nMの組換えプロガストリンによって72時間処理した同じ細胞(rPG、明灰色棒)において、またはshRNA非感受性プレプロガストリンcDNAをトランスフェクトした同じ細胞(cPG、暗灰色棒)においてTOP/FOPルシフェラーゼレポーター遺伝子アッセイ(Morinら、1997年)を用いて、Tcf-4転写活性を定量化した。値は、平均値±4つの同様な実験のs.e.mである(*、SW480/GAST(-)細胞に比較してp<0.05)。図S2に示されるように、これらすべての細胞において、Tcf-4および脱リン酸化β-カテニンのレベルは同様であった。(B)72時間、5nMのプロガストリン処理をした、またはしなかったSW480/βgal(-)細胞およびSW480/GAST(-)細胞におけるβ-カテニン(緑)、Tcf-4(赤)、およびDAPI(青)の独立および重ね合わせの共焦点画像。バーは40μmを表す。部分的反転のより良好な視覚化を提供するために、プロガストリン処理細胞に関しては、より高い倍率を用いている。(C)Aにおけるように、SW480/GAST(-)クローン[1]および[2]を処理したか、または処理しなかった。アクチンおよびTcf-4標的遺伝子c-Myc、サイクリンD1、Sox-9およびCLDN1によってコードされたタンパク質の発現レベルを、対照としてSW480/βgal(-)細胞を用い、免疫ブロット法によって定量化した(補足の図S3におけるmRNAの発現も参照)。値(ローディング対照としてアクチンを用い正規化)は、3つの独立した実験からの平均値±s.e.m.。スチューデントのt検定、SW480/GAST(-)細胞と比較してp<0.05、(*)。
【図3】プロガストリンがインビトロおよびインビボでICAT発現を下方制御することを示す図である。(A〜B)プロガストリン欠失SW480/GAST(-)細胞(クローン[1]および[2])を、コドン最適化、shRNA非感受性プレプロガストリンcDNA(cPG)をトランスフェクトしたか、またはトランスフェクトしなかった。次いで、ICAT mRNAレベルを、SW480/βgal(-)細胞と比較してRT-QPCRにより定量化し(A)、cPGによる一時的トランスフェクションの前(明灰色棒)または後(灰色棒)のSW480/GAST(-)細胞におけるICATタンパク質の発現を、SW480/βgal(-)(黒色棒)と比較して、免疫ブロット法によって分析した(B)。(C)プロガストリンの腸特異的過剰発現を示しているマウス(Tg/Tg)(Cobbら、2004年)ならびに同じ遺伝子背景からの対照マウス(野生型)の結腸上皮から得られた組織切片において、免疫組織化学および免疫蛍光染色により、ICAT発現を分析した。バーは40μmを表す。
【図4】デノボICAT発現が、プロガストリン欠失CRC細胞におけるβ-カテニン-Tcf-4活性の減少の原因であることを示す図である。(A)上枠:SW480/βgal(-)およびSW480/GAST(-)±組換えプロガストリン(rPG、5nM、72時間)からの脱リン酸β-カテニン免疫沈降物を、脱リン酸化β-カテニン、Tcf-4およびICATに関して調べた。下枠:2つの独立したクローンに対して実施した3つの同様な実験からの定量化(SW480/βgal(-)およびSW480/GAST(-)に比較して、それぞれ、## p<0.01および*p<0.05、スチューデントのt検定)。(B)72時間、5nMのプロガストリン処理をした、またはしなかったSW480/βgal(-)細胞およびSW480/GAST(-)細胞におけるβ-カテニン、ICAT、およびDAPIの独立および重ね合わせの共焦点画像。バーは40μmを表す。(C〜D)Tcf-4ルシフェラーゼレポーターアッセイ(TOP/FOP)(C)およびc-Myc(上)およびサイクリンD1(下)のmRNAおよびタンパク質の定量化(D)を、shRNA非感受性ICAT cDNA(+cICAT)の再発現をした、またはしないSW480/GAST(-)/Luc(-)細胞およびSW480/GAST(-)/ICAT(-)細胞において実施した。
【図5】ICAT発現は、マウスおよびヒトの腫瘍において、プロガストリンレベルおよびβ-カテニン-Tcf-4標的遺伝子発現に逆相関していることを示す図である。(A)図1のとおり、3カ月齢のAPCΔ14マウスを、マウスGAST遺伝子またはルシフェラーゼ遺伝子のいずれかを標的にするsiRNAによって、2週間処理した。RNA抽出のために腸腺腫を処理し、ICAT mRNA発現を、同じ動物(n=5)からのマッチする上皮(Ep)における発現と相対的に定量化した(Ad)。(B)Tcf-4の標的サイクリンD1、CD44およびC-Mycの発現を、同じ遺伝子背景からの対照マウスの腸上皮と比較して、同じ動物からの腺腫(Ad)および肉眼的に完全な上皮(Ep)において、ウェスタン免疫ブロット法を用いて分析した(補足の図S5における定量化を参照)。(C)LucまたはGASTに特異的なsiRNAによって処理したAPCΔ14動物からの腺腫を、パラフィン埋め込みし、c-MycおよびICATの免疫組織化学的検出のために処理した。回腸において採取したGAST(-)およびLuc-腺腫からの代表的な画像が提供されている。バーは20μmを表す。(D)CRCを有する23名の患者からの顕微切開された腫瘍におけるGASTおよびICAT mRNAの発現(黒色棒)を、各患者に関し1に正規化した、それらそれぞれのマッチする健常上皮に見られた量(白色棒)と相対化させて表した。値は、3つの独立した実験の平均±s.e.m.である。挿入図:GASTおよびICATの発現の対数値を、回帰曲線およびその信頼区間と共に、互いに対してプロットした。スピアマンの相関係数(r)が、その有意性(p)の程度と共に提供されている。(E)上枠:CRCを有する4名の患者からの健常(H)サンプルまたは腫瘍(T)サンプルにおけるプロガストリン免疫ブロット(IB)。下枠:高(4名の患者)または低(22名の患者)腫瘍プロガストリン発現を有するICAT、c-Myc、クローディン-1、およびCD44患者に関する代表的な免疫組織化学(IHC)(WBにおける陽性対照は、組換えプロガストリン(rPG)であった);陽性対照に関して曝露時間は20秒、ヒトサンプルに関しては10分)。試験した11名の患者からのサンプルについて、同様なIBおよびIHCの結果が得られた。バーは20μmを表す。
【図6】ICATの抑制が、ヒトCRC細胞におけるプロガストリンの腫瘍促進の役割に必須であることを示す図である。(A)上枠:SW480/βgal(-)細胞、SW480/GAST(-)細胞、SW480/GAST(-)/ICAT(-)細胞およびSW480/GAST(-)/Luc(-)細胞間のコロニーサイズにおける著しい違いによって示されるように、ICATの下方制御は、軟寒天中のプロガストリン欠失細胞の減少した増殖速度を反転させる。下枠:1クローン当たりランダムに選択された10の領域からの平均±s.e.m.として表された3つの同様な実験の定量化。(B)SW480/GAST(-)/Luc(-)細胞およびSW480/GAST(-)/ICAT(-)細胞を、BALB/cヌードマウスの後足に注入し、腫瘍増殖を定期的に測定した。各4クローンの平均値±s.e.m.。*、SW480/GAST(-)/Luc(-)細胞に比較して、p<0.05、スチューデントのt検定。
【図7】PI3k/ILK経路の活性化が、プロガストリンによるICATの抑制に必須であることを示す図である。(A)ヒトCRC細胞において、プロガストリンに誘導されたICAT抑制にとって、PI3k活性化は必須である。示されているように、5nMのプロガストリン(PG)および/またはPI3kキナーゼ阻害物質LY-294002(LY)による処理あり、または処理なしでのSW480/βgal(-)細胞およびSW480/GAST(-)細胞において、以前記載されたように、ICAT mRNA発現を測定し(左)、Akt/PKBのリン酸化をウェスタンブロット法により分析した(右)。(B)プロガストリン欠失ヒトCRC細胞において、ILKの発現および活性が減少する。上枠:組換えプロガストリンによる処理(5nM、72時間)あり、または処理なしでの、SW480/βgal(-)細胞およびSW480/GAST(-)細胞のライセートからのILK免疫沈降後、ILK発現(ウェスタンブロット)および酵素活性(ミエリン塩基性タンパク質(MBP)のインビトロリン酸化)を分析した。中央枠は、上記細胞におけるILK発現の変化に関して補正した後、3つの独立した実験に対して実施したILK活性の定量化を示している。下枠は、ILK標的β1-インテグリンのリン酸化が、抗ホスホセリン抗体およびβ1-インテグリンに対する抗体によって、β1-インテグリン-免疫沈降物を経時的に探査することによって分析されたものである。ライセートが免疫前ウサギ血清によって免疫沈降された場合、ILK、β1-インテグリン、およびMBPリン酸化は検出されなかった(示されていない)。(C)ヒトCRC細胞において、プロガストリン媒介ICAT抑制にとってILK活性化は必須である。示されているように、ICAT mRNAの発現(左枠)およびSer473に関するAkt/PKB のリン酸化(右枠)を、ドミナントネガティブILK(ΔN-ILK)をトランスフェクトした、またはトランスフェクトしない、および5nMの外因性プロガストリン(PG)によって処理した、または処理しないSW480/βgal(-)細胞およびSW480/GAST(-)細胞において定量化した。すべての枠に関し、SW480/βgal(-)細胞(#)、SW480/GAST(-)細胞(*)、またはプロガストリン処理SW480/GAST(-)細胞(°)に比較して、p<0.05。
【図8】プロガストリン欠失は、インビトロでヒトCRC細胞の分化およびアポトーシスを誘導し、インビボでAPCΔ14マウスの腸において腫瘍の分化を促進することを示す図である。(A)SW480/GAST(-)細胞の2種のクローンにおいてPTENの核局在化を示し、SW480/βgal(-)細胞においては示していない代表的な実験。(B)GASTまたはβガラクトシダーゼを標的にしたsiRNAをトランスフェクトした48時間後のSW480細胞におけるMuc-2、腸アルカリホスファターゼ(ALP)、およびクロモグラニンA(CgA)mRNA発現の定量化。(C)GAST特異的であるが、βガラクトシダーゼ特異的ではないsiRNAの一時的トランスフェクション後のSW480 CRC細胞におけるMuc-2発現およびカスパーゼ-3活性化。細胞は、GAST(矢印)またはβガラクトシダーゼ(矢じり)を標的にしたローダミンタグ付きsiRNA(赤)をトランスフェクトし、5nMの組換えプロガストリンにより処理したか、または処理しなかった。Muc-2発現(A488、緑)および活性化カスパーゼ-3(Cy-5、ここでは赤で示されている)を、免疫蛍光染色により検出し、細胞核は、DAPIによって染色した(青)。DLD-1細胞によって、同様な結果を得た。バーは20μmを表す。(D)図1のように、3カ月齢のAPCΔ14マウスを、マウスGAST遺伝子またはルシフェラーゼ遺伝子のいずれかを標的にしたsiRNAにより2週間処理した。腸腺腫をパラフィン埋め込みし、粘液産生細胞(Muc2およびアルシアンブルー)およびアポトーシス経路に関与している細胞(活性化カスパーゼ3、黒矢じり)の免疫組織化学的検出のために処理した。回腸において採取されたGAST(-)腺腫およびLuc(-)腺腫からの代表的な画像が提供されている。バーは20μmを表す。
【図9】APC変異した結腸直腸癌細胞における、β-カテニン/Tcf-4転写複合体の活性化の減少とプロガストリン欠失とをつなぐシグナル伝達経路を示す図である。(A)CRC細胞は内因性プロガストリンを産生し分泌し、次いでそれが腫瘍細胞に作用してPI3キナーゼおよびILKを活性化し、それによってICATを抑制し、APC変異によって開始されたβ-カテニン/Tcf-4転写活性の増幅を促進する。この過程はプロガストリンをコードする遺伝子などの標的遺伝子の最大転写をもたらし、したがって、自己増幅活性化ループを生じさせる。(B)GAST遺伝子((1))のsiRNAサイレンシングにより誘導されたものなどのプロガストリン作用の阻害は、PI3キナーゼおよびILK((2))の活性を著しく減少させ、ICAT((3))の強い上方制御をもたらす。β-カテニンに対する結合に関するこの小型阻害物質とTcf-4との競合は、腫瘍細胞((4))におけるTcf-4標的の転写を強く下方制御する上で十分である。
【図10】示されるように増加する濃度の抗原で96ウェルプレートを被覆し(詳細は「方法」の節を参照)、次いでプロガストリン(1〜80)のN末端(上枠)またはC末端(下枠)に対する選択的抗体と共にインキュベートした図である。試験された抗原は、抗体を作出するために用いられた元の免疫原であり(上枠:SWKPRSQQPDAPLGT、下枠:FGRRSAEDEN)、アミド化ガストリン17、グリシン伸長ガストリン17、プロガストリンのC末端フランキングペプチド(SAEDEN)、およびキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)は、免疫化過程におけるキャリアタンパク質として用いられた。結果は、二次抗体およびOPD基質とのインキュベーション後に、直接492nmの読取り値として表されている。
【図11】方法の節に記載されたように、SW480結腸直腸癌細胞を、対照抗体またはプロガストリンのC末端またはN末端に対する抗体(1/5,000希釈)で30時間処理した図である。細胞溶解後、ICAT、c-MycおよびサイクリンD1に関するmRNAの発現を、RT-qPCRを用いて定量化した。結果は、C末端(灰色棒)またはN末端(白色棒)プロガストリン抗体によって処理された細胞と各遺伝子発現レベルを1の値に定めた(本明細書では水平軸によって表されている)対照抗体によって処理された細胞中の発現の間の比率として表されている。
【図S1】APCΔ14マウスの腺種におけるプロガストリンの過剰発現およびマウスGAST遺伝子に選択的なsiRNAにより2週間処理した後の炎症誘発性応答の欠損を示す図である。(A)放射免疫アッセイによって定量化された、3.5カ月齢のAPCΔ14マウスの健常な腸粘膜および腺種におけるアミド化ガストリンおよびグリシン伸長ガストリンのレベル。(B)同じ遺伝子背景からの対照マウスと比較した、Luc遺伝子またはGAST遺伝子に特異的なsiRNAによって処理した3.5カ月齢のAPCΔ14マウスからの健常な腸粘膜および腺種のタンパク質抽出物(50μg)における代表的なプロガストリン免疫ブロット(マウスプロガストリンの定量化に現在RIAは利用できない)。フィルムを30分間曝露した。C57/BL6動物の結腸および回腸と相対化した、1群当たり4匹の動物の結腸および回腸で採取した腺腫におけるPGの定量化の棒グラフ(各々の腸セグメントに関して、C57/BL6#またはAPCΔ14Luc(-)*におけるそれぞれの値に比較して、p<0.05)。(C)Colo-26マウスCRC細胞および若成体マウス結腸(TAMC)細胞に、マウスGAST配列に特異的なsiRNA(mGAST siRNA)またはヒトGAST配列に特異的なsiRNA(hGAST siRNA)をトランスフェクトし、RT-QPCRを用いて、GASTmRNAの発現を定量化した。(D)LucまたはGAST siRNAによって処理されたマウスにおける血漿のIL-6(黒)およびTNFα(白)のレベルをまとめた散布図。これら2群間に有意な差異は認められず、双方のサイトカインのレベルは炎症の非存在を反映している。
【図S2】CRC細胞において、プロガストリンはβ-カテニン/Tcf-4転写活性を刺激するが、アミド化ガストリンまたはグリシン伸長ガストリンは刺激しないことを示す図である。(A)(上枠)DLD-1/VO、DLD-1/ASG(クローン[1]および[2])、SW480/βgal(-)およびSW480/GAST(-)(クローン[1]および[2])細胞におけるTOP/FOPルシフェラーゼレポーター遺伝子アッセイ(31)を用いて、Tcf-4転写活性を定量化した。値は、4つの同様な実験の平均値±s.e.m.である。免疫ブロット(ローディング対照としてアクチンを使用)によって示されるように、これらすべての細胞系において、脱リン酸化β-カテニン(中央枠)およびTcf-4(下枠)のレベルは同様であった。(B)CCK-B受容体構築体をトランスフェクトしたCOS-7細胞からのサンプルにおいて、RT-PCRにより、ヒトアミド化ガストリン(CCK-B)受容体mRNAが検出されたが、DLD-1細胞およびSW480細胞または陰性対照(逆転写なしのCOS-7/CCK-B)においては検出されなかった。
【図S3】ヒトCRC細胞において、Tcf-4標的遺伝子c-Myc、サイクリンD1、Sox-9およびCLDN1のmRNA発現は、プロガストリンによって調節されることを示す図である。SW480/GAST(-)クローン[1]および[2]を、5nMのプロガストリン(rPG)で72時間処理したか、または処理しなかったか、もしくはコドン最適化shRNA非感受性プレプロガストリンcDNA(cPG)をトランスフェクトした。SW480/βgal(-)細胞を対照として用いて、RT-QPCRにより、Tcf-4標的c-Myc、サイクリンD1、Sox-9およびクローディン-1(Tcf-4標的遺伝子のリストは(9)で入手できる)のmRNA発現を定量化した。値は、3つの独立した実験の平均値±s.e.m.である。スチューデントのt検定、SW480/GAST(-)細胞と比較して、p<0.05(*)。
【図S4】CRC細胞におけるICAT発現の実験的調節を示す図である。対照shRNA(SW480/GAST(-)/Luc(-)、灰色棒)、またはICATに選択的なshRNA(SW480/GAST(-)/ICAT(-)細胞、黒色棒)をトランスフェクトした、またはトランスフェクトしない、プロガストリン欠失CRC細胞(SW480/GAST(-)、白色棒)の2種のクローンそれぞれにおいて、ならびにコドン最適化shRNA非感受性ICAT cDNA(+c.ICAT)を一時的にトランスフェクトしたSW480/GAST(-)/ICAT(-)細胞(暗灰色棒)において、ICATのmRNAレベル(A)およびタンパク質レベル(B)を定量化した(SW480/GAST(-)/Luc(-)(*)、またはSW480/GAST(-)/ICAT(-)(#)に比較して、p<0.05、スチューデントのt検定、n=3)。
【図S5】APCΔ14マウスの腸腺腫におけるTcf-4標的遺伝子の発現増加は、プロガストリン標的siRNA処理後に減少することを示す図である。図1にあるように、3カ月齢のAPCΔ14マウスを、マウスのGAST遺伝子またはルシフェラーゼ遺伝子のいずれかを標的にしたsiRNAによって、2週間処理した。腸腺腫をタンパク質抽出のために処理し、Tcf-4標的サイクリンD1(上)、c-Myc(中央)およびCD44(下)の発現を、同じ遺伝子背景からの対照マウスの腸上皮と比較して、腺腫(Ad)および同じ動物からの肉眼的に完全な上皮(Ep)におけるウェスタン免疫ブロット後に定量化した(代表的な免疫ブロットは図5Bに示されている)。値は、4匹の動物/群からの腺腫の平均値±semである。腸のセグメント各々に関して、C57/BL6#またはAPCΔ14 Luc(-)*におけるそれぞれの値に比較して、p<0.05。
【図S6】結腸サンプルのレーザー捕捉顕微切開に用いられた患者集団を示す図である。(A)レーザー捕捉顕微切開の前(原物)および後(顕微切開された)の典型的に健常な組織および腫瘍結腸組織の代表的な顕微鏡写真。(B)GAST遺伝子およびICAT遺伝子の発現レベル判定に用いられた患者集団の特徴に、TNM分類に従ったそれらの腫瘍の病態スコアリングを含めた。腫瘍局在化は、PC(近位結腸)、MC(中位結腸)、DC(遠位結腸)、S字結腸または直腸として表されている。手術時の転移(MS)、後期に転移(M)、および死亡患者(DC)を、以下の記号(0:なし;1:あり)で示してある。
【図S7】SW480/βgal(-)細胞において、PI3kの薬理学的阻害によって、Tcf-4転写活性が阻害されることを示す図である。SW480/βgal(-)細胞を、10μMのLY294002によって処理したか、または処理せず、Tcf-4活性を上記のとおり定量化した。値は、3つの独立した実験からの平均値±s.e.m.である。スチューデントのt検定、非処理SW480/βgal(-)細胞と比較して、p<0.05(*)。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、プロガストリン分泌細胞およびベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路が構成的に活性である細胞を提示する結腸直腸癌、腺腫性ポリープ症または転移の治療および/または予防のための方法を提供し、該方法は、ベータカテニンおよびTcf-4結合阻害物質(ICAT)のプロガストリン誘導抑制の阻害剤の有効量をそれを必要としている個体に投与する工程を含む。
【0025】
また、プロガストリン分泌細胞およびベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路が構成的に活性である細胞を提示する結腸直腸癌、腺腫性ポリープ症または転移を治療および/または予防するための医薬の製造におけるベータカテニンおよびTcf-4結合阻害物質(ICAT)のプロガストリン誘導抑制の阻害剤の使用も提供される。
【0026】
典型的には、プロガストリン分泌細胞およびベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路が構成的に活性である細胞は、結腸細胞である。一般的には、プロガストリン分泌細胞と、ベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路が構成的に活性である細胞とは同じであり得る。
【0027】
本発明はまた、ベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路が構成的に活性であるプロガストリン分泌細胞から生じる結腸直腸癌、腺腫性ポリープ症または転移を治療および/または予防するための方法が提供され、該方法は、ベータカテニンおよびTcf-4結合阻害物質(ICAT)のプロガストリン誘導抑制の阻害剤の有効量をそれを必要としている個体に投与する工程を含む。
【0028】
一般的には、プロガストリン分泌細胞は結腸細胞である。
【0029】
また、ベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路が構成的に活性であるプロガストリン分泌細胞から生じる結腸直腸癌、腺腫性ポリープ症または転移を治療および/または予防するための医薬の製造における、ベータカテニンおよびTcf-4結合阻害物質(ICAT)のプロガストリン誘導抑制の阻害剤の使用が提供される。
【0030】
結腸直腸癌の転移は患者死亡の重要な原因であり、それらがアクセス困難であるために、または外科手術による除去は直に患者の生存にとって重大なリスクをもたらすことが考えられるため、手術されることは稀である。これは特に、転移塊が重要な動脈に密接して増殖した場合に言えることである。本発明による治療によって、これらの転移の退縮が誘導され、したがって、転移本体を完全に取り除くことによって、または少なくとも転移を縮小させて該動脈から遠ざけることにより手術による除去を可能にすることによって、きわめて有用である。さらに、結腸直腸癌細胞におけるプロガストリン合成の下方制御により、結腸直腸腫瘍細胞の接着能力が回復し、それらの移動可能性の減少に至る(Hollandeら、2003年)。典型的には、処理された転移は、手術により除去できない。転移は、ベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路の活性化状態が不明である原発腫瘍に生じ得る。典型的には、転移が生じる原発腫瘍は結腸腫瘍である。
【0031】
個体とは、動物またはヒトを意味する。
【0032】
構成的に活性であるベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路とは、ベータカテニンとTcf-4との間の転写複合体形成を導き、細胞質ベータカテニンの分解不足によるTcf-4標的遺伝子の転写増強をもたらす経路の永続的で非調節的な活性化を意味する。
【0033】
ベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路が構成的に活性である細胞の例は、大腸腺腫性ポリポーシス(APC)腫瘍サプレッサー遺伝子が変異している細胞か、またはベータカテニンの正常な分解を防ぐようにベータカテニン遺伝子が変異している細胞である。
【0034】
一般的には、結腸直腸癌、腺腫性ポリープ症または転移に罹っている患者に本発明による治療方法を適用する前に、該結腸直腸癌、腺腫性ポリープ症または転移が、ベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路が構成的に活性であるプロガストリン分泌細胞から生じるかどうか、または該結腸直腸癌、腺腫性ポリープ症または転移が、プロガストリン分泌細胞およびベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路が構成的に活性である細胞を提示するかどうかを判定するために、診断試験を実施することができる。このような前治療診断試験を実施することにより、患者が本発明による治療方法に応答性であるかどうかを判定することが可能である。
【0035】
このような診断試験を実施することは、当業者の能力の範囲内にある。一般的には、血漿中のプロガストリン濃度が上昇している患者のみを治療するために、患者の血液中の血漿中プロガストリン濃度を判定することができる。血漿中プロガストリンの検査は、腫瘍および/または転移の再発可能性を検出するために用いることもできる。結腸直腸腫瘍は、新たな血管の形成を促進する因子(VEGFなど)を生涯分泌し、それによって、腫瘍が十分量の栄養を受けて最大の増殖に達することを確実にする(Wrayら、2004年)。また、これらの新血管の存在により、腫瘍が種々の因子を血流に放出することを可能にするが、これは特にプロガストリンの場合に言えることである。したがって、プロガストリン標的療法は、血漿中プロガストリン濃度の測定を含み得る。
【0036】
代替として、または追加して、APC遺伝子またはベータカテニン遺伝子の変異を検出することができ、または例えば、c-MycおよびサイクリンD1などのTcf標的遺伝子の異常レベルの転写を、患者から採取した組織スライドにおけるこれらのマーカーに対する染色によって、または例えば、マイクロアレイ技法を用いることによって判定することができる。
【0037】
本発明はまた、ベータカテニンおよびTcf-4結合阻害物質(ICAT)のプロガストリン誘導抑制の阻害剤による治療に対して、結腸直腸癌、腺腫性ポリープ症または転移を患っている患者が応答性であるかどうかを判定する方法であって、ベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路が構成的に活性であるプロガストリン分泌細胞から結腸直腸癌、腺腫性ポリープ症または転移が生じるかどうか、あるいは結腸直腸癌、腺腫性ポリープ症または転移が、プロガストリン分泌細胞およびベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路が構成的に活性である細胞を提示するかどうかを判定する工程を含む方法に関する。
【0038】
通常、ベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路が構成的に活性であるプロガストリン分泌細胞から結腸直腸癌、腺腫性ポリープ症または転移が生じるかどうか、あるいは結腸直腸癌、腺腫性ポリープ症または転移が、プロガストリン分泌細胞およびベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路が構成的に活性である細胞を提示するかどうかを判定する工程は、前記患者のプロガストリンの血漿中濃度を測定する工程を含む。追加して、または代替として、ベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路が構成的に活性であるプロガストリン分泌細胞から結腸直腸癌、腺腫性ポリープ症または転移が生じるかどうか、あるいは結腸直腸癌、腺腫性ポリープ症または転移が、プロガストリン分泌細胞およびベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路が構成的に活性である細胞を提示するかどうかを判定する工程は、APC遺伝子もしくはベータカテニン遺伝子の変異またはTcf標的遺伝子の異常レベルの転写を検出する工程を含む。
【0039】
通常、プロガストリンアッセイは、プロGRPに関して記載された(Nordlundら、2007年)ような時間分解免疫蛍光定量アッセイ(TR-IFMA)であり得る。このタイプのアッセイにより、結腸直腸腫瘍を患っている患者において測定されるプロガストリン血漿中濃度の範囲内の値である、16ng/lから20,000ng/lの範囲での定量化が可能である。2種のモノクローナル抗体を用いてよく、一方は、プロガストリンのN末端に特異的であり、他方はC末端に特異的である。N末端抗体はビオチン化することができ、固相抗体として用いられる。C末端抗体は、Eu3+により標識化することができ、トレーサー抗体として用いられる。
【0040】
ICATのプロガストリン誘導抑制の阻害剤の例は、結腸細胞内のプロガストリンの発現を下方制御する薬剤、プロガストリンに対する抗体、ホスファチジルイノシトール3キナーゼ(PI3K)の阻害剤およびインテグリン結合キナーゼ(ILK)の阻害剤からなる群の中で選択することができる。
【0041】
本発明の一実施形態において、ICATのプロガストリン誘導抑制の阻害剤は、結腸細胞におけるプロガストリンの発現を下方制御する薬剤である。一般的に、結腸細胞内のプロガストリンの発現を下方制御する薬剤は、プロガストリンの発現に干渉する核酸を含む。
【0042】
このような薬剤の例は、アンチセンス分子または前記アンチセンス分子を含むベクターである。アンチセンス分子は、mRNAの小型セグメントの相補鎖である。有効なアンチセンス分子を設計する方法はよく知られており(例えば、米国特許第6165990号を参照)、結腸細胞内のプロガストリンの発現を下方制御することのできるアンチセンス分子の設計は、当業者の能力の範囲内にある。プロガストリンの発現を下方制御する薬剤のさらなる例は、例えば、低分子干渉RNA(siRNA)および低分子ヘアピンRNA(shRNA)などのRNA干渉(RNAi)分子である。RNAiとは、遺伝子産物、ここでの場合はプロガストリンを標的とする相同二本鎖RNAを導入し、ヌルまたは低次形態表現型をもたらすことを指す。有効なRNAi分子を設計する方法はよく知られており(総説に関しては、HannonおよびRossi、Nature、2004年9月16日;431(7006):371〜8頁を参照)、結腸細胞内のプロガストリンの発現を下方制御することのできるRNAi分子の設計は、当業者の能力の範囲内にある。
【0043】
結腸細胞内のプロガストリンの発現を下方制御することのできるsiRNAの例は、以下の配列の1つを含む核酸分子である:
siRNA hPG:
センス:5'-GAAGAAGCCUAUGGAUGGATT-3'(配列番号27)
アンチセンス:5'-UCCAUCCAUAGGCUUCUUCTT-3'(配列番号28)
siRNA mPG:
センス:5'-GAAGAGGCCUACGGAUGGTT-3'(配列番号29)
アンチセンス:5'-CCAUCCGUAGGCCUCUUCTT-3'(配列番号30)
クローン細胞におけるプロガストリンの発現を下方制御することができるshRNAの例は、以下の配列の1つを含む核酸分子である:
shRNA hPG:
センス:5'GAAGAAGCCTATGGATGGATTCAAGAGAAGGTAGGTATCCGAAGAAGTTTTTT3'(配列番号1)
アンチセンス:5'AATTAAAAAACTTCTTCGGATACCTACCTTCTCTTGAATCCATCCATAGGCTTCTTCGGCC3'(配列番号2)。
【0044】
本発明の一実施形態は、配列番号27、配列番号28、配列番号29および配列番号30からなる群から選択される配列の1つを含むsiRNAを含む医薬に関する。一般的に、該医薬は1対のsiRNAを含み得る。siRNA対の例は、配列番号27を含む第1の核酸と配列番号28を含む第2の核酸、または配列番号29を含む第1の核酸と配列番号30を含む第2の核酸である。
【0045】
本発明の一実施形態は、配列番号1および配列番号2からなる群から選択される配列の1つを含むshRNAを含む医薬に関する。一般的に、該医薬は1対のshRNAを含み得る。shRNA対の例は、配列番号1を含む第1の核酸と配列番号2を含む第2の核酸である。
【0046】
本発明のさらなる実施形態において、ICATのプロガストリン誘導抑制の阻害剤は、ガストリンのアミド化形態およびグリシン伸長形態を認識しない、プロガストリンに対する抗体またはその生物学的活性断片もしくは誘導体である。当業者は、このような特異的抗体を製造するための標準的方法を認識するであろう。例えば、特異的抗体またはその生物学的活性断片もしくは誘導体は、プロガストリンまたはプロガストリンの断片によって動物を免疫化し、プロガストリンに結合しガストリンのアミド化形態およびグリシン伸長形態を認識しない抗体を選択することにより作出できる。好ましい一実施形態において、プロガストリン断片は、プロガストリンに特異的なアミノ酸配列である。これらの配列の長さは、8個と15個との間のアミノ酸を含み得る。これらの配列は、ガストリン形態G17およびG34-Glyに存在しないプロガストリンのCOOH末端アミノ酸残基またはNH2末端アミノ酸残基を含み得る。これらの配列は、プロホルモンコンバターゼまたはカルボキシペプチダーゼEの開裂部位を含み得る。
本発明の一実施形態において、該抗体またはその生物学的活性断片もしくは誘導体は、プロガストリンのCOOH末端の10アミノ酸残基またはプロガストリンのCOOH末端の15アミノ酸残基に結合する。プロガストリンのCOOH末端の10アミノ酸残基の例は、FGRRSAEDEN(配列番号31)である。代替の一実施形態において、該抗体またはその生物学的活性断片もしくはその誘導体は、プロガストリンのNH2末端の40アミノ酸残基に結合する。一般的に、該抗体またはその生物学的活性断片もしくはその誘導体は、SWKPRSQQPDAPLGT(配列番号32)に結合し得る。これらのアミノ酸配列は、ガストリン形態G17、G17-gly、G34およびG34-Glyに存在しないため、プロガストリンに特異的である。
【0047】
当業者は、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体の双方ならびにそれらの生物学的活性断片および誘導体を製造するための標準的方法を認識するであろう。それらの生物学的活性断片または誘導体とは、該抗体と同じエピトープ、ここでの場合はプロガストリンのエピトープに結合できることを意味する。抗体断片、特にFab断片ならびにエピトープ結合能力および特異性を保持する他の断片もまた、キメラ抗体、および該抗体の構成的(抗原に対する特異性を決定しない)領域が他の種からの類似領域または同様な領域によって置換されている「ヒト化」抗体など、よく知られている。したがって、マウスで作出された抗体を「ヒト化」して、ヒト対象への投与の際に生じ得る負の作用を減少させることができる。キメラ抗体は、今日許容された治療様式であり、現在いくつかが市販されている。したがって本発明は、F(ab')2、F(ab)2、Fab、FvおよびFd抗体断片、1つまたは複数の領域が相同的なヒトまたは非ヒト部分によって置換されたキメラ抗体などの、プロガストリンに特異的な抗体の使用を包含する。当業者はまた、例えば、ScFv断片および二価のScFvタイプの分子など、生物学的活性抗体誘導体を、組換え法を用いて調製できることも認識するであろう。放射性ヨウ素など、好適に放射性標識であるか、または蛍光標識もしくは化学発光標識であり得る検出可能なマーカーで該抗体を標識することができる。当業者は、好適な放射性標識、蛍光標識または化学発光標識を選択することができるであろう。
本発明の一実施形態は、プロガストリンのCOOH末端の15アミノ酸残基、またはプロガストリンのNH2末端の40アミノ酸残基に結合する抗体またはその生物学的活性断片もしくは誘導体を含む医薬に関する。
【0048】
一般的に、抗体またはその生物学的活性断片もしくは誘導体は、FGRRSAEDEN(配列番号31)またはSWKPRSQQPDAPLGT(配列番号32)に結合する。
【0049】
健常なヒトでは、プロガストリンは10%未満の循環ガストリンを含み、プロガストリンに関連する生理学的役割はない。その結果、抗体またはその生物学的活性断片もしくは誘導体によって特異的にプロガストリンを標的化することにより、治療の副作用は、たとえ避けられないとしても減少する。
【0050】
本発明のさらなる実施形態において、ICATのプロガストリン誘導抑制の阻害剤は、PI3Kの阻害剤である。PI3Kの阻害剤はよく知られている。LY294002、ワートマニンおよびケルセチンは、一般的に用いられるPI3Kの阻害剤である。例えばUS2006058321および国際公開第2004052373号は、PI3Kの阻害剤のファミリーを開示している。アンチセンス、RNAi分子、PI3Kのドミナントネガティブ形態、PI3Kに対する抗体、それらの生物学的活性断片および誘導体もまた、PI3Kの阻害剤として用いることができる。
【0051】
本発明のさらなる実施形態において、ICATのプロガストリン誘導抑制の阻害剤は、ILKの阻害剤である。ILKの阻害剤はよく知られている。KP-392およびQLT-0267は、一般的に用いられるILKの阻害剤である。例えば、ILKの小型分子阻害剤は、米国特許第6214813号に記載されている。ILKのアンチセンス阻害剤は、米国特許第6177273号に記載されている。RNAi分子、ILKのドミナントネガティブ形態およびILKに対する抗体、それらの生物学的活性断片および誘導体もまた、ILKの阻害剤として用いることができる。
【0052】
一般的に、本発明による医薬は、薬学的に許容できる担体と共に、ベータカテニンおよびTcf-4結合(ICAT)の阻害物質のプロガストリン誘導抑制の阻害剤を含む。当業者は、好適な担体を認識するであろう。所望の経路による投与のための好適な製剤は、例えば、Remington;The Science and Practice of Pharmacyなどの周知のテキストを参照にして、標準的方法によって調製することができる。
【0053】
本発明の他の実施形態において、ベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路が構成的に活性であるプロガストリン分泌細胞から生じる結腸直腸癌、腺腫性ポリープ症または転移を治療および/または予防するための化合物をスクリーニングする方法であって、
a)ベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路が構成的に活性であるプロガストリン分泌細胞を提供する工程と、
b)スクリーニングする化合物を加える工程と、
c)ICAT発現を誘導する化合物を選択する工程と
を含む方法が提供される。
【0054】
本発明の代替実施形態において、ベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路が構成的に活性であるプロガストリン分泌細胞から生じる結腸直腸癌、腺腫性ポリープ症または転移を治療および/または予防するための化合物をスクリーニングする方法であって、
a)プロガストリン感受性細胞を提供する工程と、
b)該細胞を含有する培地に、プロガストリンを加える工程と、
c)スクリーニングする化合物を加える工程と、
d)ICAT発現を誘導する化合物を選択する工程と
を含む方法が提供される。
【0055】
一般的に、プロガストリン分泌細胞またはプロガストリン感受性細胞は結腸細胞である。
【0056】
プロガストリン感受性細胞とは、プロガストリンが培養培地中に存在する場合、ベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路が活性である細胞を意味する。
【0057】
当業者は、これらの方法を実施するための標準的方法を認識するであろう。一般的に、ICAT発現は、RT定量的PCRによって判定することができる。
【0058】
以下、下記の実施例ならびに図によって本発明を説明する。
【実施例】
【0059】
<実施例1>
以下の説明において、詳細なプロトコルが提供されていないすべての分子生物学の実験は、標準的プロトコルに従って実施される。
【0060】
概要
背景および目的:β-カテニン/Tcf-4転写複合体の異常な活性化は、結腸クリプトにおける分化から増殖へバランス移動する結腸直腸発癌に関する初期事象となる。ここで、本発明者らは、この複合体の標的遺伝子にコードされる内因性プロガストリンが、次いで、APC変異細胞におけるβ-カテニン/Tcf-4活性を調節できるかどうかを評価し、インビボで腸の腫瘍増殖に及ぼす局所のプロガストリン欠失の影響を分析した。
【0061】
方法:
プロガストリンを過剰発現するが、アミド化またはグリシン伸長ガストリンは過剰発現しないヒト腫瘍細胞およびヘテロ接合Apc変異(APCΔ14)を有するマウスにおいて、GAST遺伝子の安定なまたは一時的なRNAサイレンシングを導入した。
【0062】
結果:
内因性プロガストリン産生の欠失は、腫瘍細胞において、構成的β-カテニン/Tcf-4活性の著しい阻害により、インビボでの腸の腫瘍増殖を大きく低下させる。この作用は、プロガストリン欠失細胞におけるインテグリン結合キナーゼ(ILK)の下方制御に起因するβ-カテニンおよびTcf-4の阻害物質(ICAT)のデノボ発現により媒介された。したがって、ICATの下方制御は、ヒト結腸直腸腫瘍におけるプロガストリンの過剰発現およびTcf-4標的遺伝子の活性化に関連しており、ICAT抑制は、腫瘍傾向性のプロガストリン過剰発現マウスの結腸上皮に検出された。APCΔ14マウスにおいて、siRNAに媒介されたプロガストリン欠失により、腸腫瘍のサイズおよび数が減少しただけでなく、残留腺腫におけるゴブレット系分化および細胞アポトーシスが増加した。
【0063】
結論:
したがって、内因性プロガストリンの欠失は、ICAT発現を促進し、それによってTcf-4活性に対抗することにより、インビボでAPC変異CRC細胞の腫瘍形成を阻害する。プロガストリン標的化方法は、結腸直腸癌の分化療法に関して、大いに有望な見通しを提供するはずである。
【0064】
序論
腫瘍細胞の分化誘導によって腫瘍の発達を減少させることを目指す種々の方法が近年開発されており、動物モデルおよびヒト患者においてきわめて有望な結果を提供している。特に、全トランスレチン酸の使用は、急性前骨髄球性白血病の治療にきわめて有用であることが実証されており(Lallemand-Breitenbachら、2005年;WangおよびChen、2000年)、進行した甲状腺癌において腫瘍分化させる有望な方法と考えられている(Coelhoら、2005年)。腸においては、細胞の増殖と分化の制御に関与する2つの主要な経路、すなわち、NotchカスケードおよびWnt/β-カテニン/Tcf-4経路を調節する薬剤に対して、大きな希望が寄せられている(RadtkeおよびClevers、2005年;van EsおよびClevers、2005年)。
【0065】
しかし、NotchとWntの活性化の間の微調整された相互作用は、腸のクリプトのホメオスターシスにとって重要であるため、結腸腫瘍におけるこれらのシグナル伝達経路の直接的な標的化を目指すアプローチは、腸全体の生理に対して有害な作用を及ぼす可能性が高い。腫瘍細胞において選択的に活性化されているか、または強く刺激されている一方、周囲の組織には存在しないか、または非活性である標的を特定する能力から、このような方法が大きな利益を得ることが理想的である。腸の腫瘍細胞において特に活性化された標的の中で、グリシン伸長ガストリンおよびプロガストリンなどの部分的に処理されたガストリン遺伝子(GAST)産物は、腫瘍増殖の選択的標的化にとって興味深い見通しを提供する。実際、GAST遺伝子それ自体が、結腸直腸癌において活性化され相乗的に作用することの多い2つの経路(Janssenら、2006年)、Tcf-4およびK-Ras双方の標的であり(Chakladarら、2005年;Kohら、2000年)、これらのGAST由来のペプチドは、腫瘍細胞上のオートクリン/パラクリンループを介して増殖を刺激すると考えられる(Hollandeら、1997年;Hollandeら、2003年)。Gglyの増殖効果は、この数年の間に発見され(Sevaら、1994年)、より最近では、プロガストリンが増殖を刺激し(Ottewellら、2005年;Singhら、2000年)、上皮の細胞/細胞接着および移動を調節すること(Hollandeら、2003年;Hollandeら、2005年)が示された。また、GAST遺伝子の欠失標的化された動物を用いた実験からは矛盾した結果が出ている。実際、この欠失により、化学的発癌物質、アゾキシメタンにより誘導された腫瘍形成が強く増強され(Cobbら、2002年)、他方、APC+/minマウスの遺伝子背景におけるポリープ数の減少がもたらされた(Kohら、2000年)。しかし彼らは、これらのペプチドの機能を欠損させて、予め存在している腫瘍の増殖を緩徐化または反転させる治療の可能性についての知見はほとんど提供していない。プロガストリンが、ヒト結腸直腸腫瘍および腫瘍細胞系のほぼ80%でかなりの量が産生され分泌されている一方、生理学的条件下では、その分泌がほとんど検出レベル未満に低下することは重要である(Ciccotostoら、1995年;Konturekら、2002年;Siddheshwarら、2001年;Van Solingeら、1993年)。したがって、Wntシグナル伝達経路の構成的活性化が、散発性CRC、ならびに腺腫性ポリープ症の遺伝性病態の特徴を表している(Foddeら、2001年)ため、また、GAST遺伝子がそれ自体、Tcf-4の標的であるため、本発明者らは、プロガストリンが次に、APC変異に駆動された腫瘍形成を調節することが可能かどうか、および標的プロガストリンが腸の腫瘍増殖を減少させる関連方法となり得るかどうかを調べた。
【0066】
本発明者らは、RNA干渉媒介プロガストリン欠失が、インビボで、APC遺伝子の変異に誘導された腫瘍増殖を抑制できたことを示す。次いで本発明者らは、この抑制が、腫瘍細胞におけるβ-カテニン/Tcf-4転写活性のレベルを、APC変異によって引き起こされたその構成的活性化にかかわらず調節するプロガストリンの能力を反映したことを実証する。β-カテニンおよびTcf-4結合阻害物質(ICAT)のデノボ発現は、β-カテニン/Tcf-4転写経路の阻害およびプロガストリン欠失腫瘍細胞における腫瘍形成の減少に役立っており、一方、ICATの抑制は、プロガストリン過剰発現マウス結腸粘膜、ならびにヒトおよびマウスの腸腫瘍において検出された。最後に、GAST特異的siRNAによる治療は、インビトロで、ヒトCRC細胞のみならず、Apc遺伝子のヘテロ接合変異を有するマウスのプロガストリン分泌腸腺腫のゴブレット細胞系への最終分化を誘導した。
【0067】
結果
プロガストリン欠失は、インビボで、APC変異により誘導された腫瘍増殖を反転させる。
既存腫瘍における内因性プロガストリンの選択的標的化を目指す方法が、インビボで、Tcf-4に促進された腫瘍増殖に拮抗することができるかどうかを評価するために、結腸直腸細胞系SW480からのBalbc/ヌードマウス異種移植(Morinら、1997年)、ならびに自然発生腸腫瘍形成のマウスモデル、APCΔ14(Colnotら、2004年)を用いた。大多数のヒト結腸直腸腫瘍に見られる(Korinekら、1997年)のと同様に、これら2種の実験モデルは、APCの変異を有し、その結果、β-カテニン/Tcf-4経路の構成的活性化を示す。
【0068】
対照のSW480/βgal(-)およびDLD-1/VO細胞は、高プロガストリンレベルを発現するが、ガストリンのアミド化およびグリシン伸長形態はほとんど発現しないことが示された(表1)。Balbc/ヌードマウスにおける皮下注射7週間以内に、これらの細胞は、大型の腫瘍を生じた(図1B)。対照的に、GAST遺伝子に特異的な短ヘアピンRNA(shRNA)の安定な発現によってプロガストリンの分泌が下方制御された場合、同じタイムスパン内で腫瘍を形成する能力は大きく低下した(SW480/GAST(-)細胞、図1A〜1B)。以前に特徴づけされた(Hollandeら、2003年)、アンチセンスGAST遺伝子cDNAを発現するDLD-1結腸直腸癌細胞の注入後、同様な結果が得られた(図1B)。
【0069】
【表1】
【0070】
次に本発明者らは、APCΔ14マウスを用い、より病理学的に関連した文脈で、プロガストリン阻害が既存の腸腫瘍の増殖を減少させることを実証した。これらの動物は、ヒトの家族性腺腫性ポリープ症および散発性結腸直腸癌患者に見られるものと同様の、Apc遺伝子の切断変異を有する。これらの動物はまた、回腸に自然発生の腫瘍を発現させるが、APCmin+/-モデルより多くの結腸腫瘍もまた発現させるため(Colnotら、2004年)、これらの患者に見られる腸上皮表現型を部分的に再利用する。3カ月齢のAPCΔ14マウスは、回腸および結腸に常に複数の腺腫を示し(データは示していない)、これらの腺腫において、プロガストリン濃度が上昇しているのが見られるが、アミド化またはグリシン伸長ガストリンでは見られない(図S1)。したがって、これらの動物は、Tcf-4に促進された腫瘍増殖に対するプロガストリン調節の役割を具体的に試験するための理想的なインビボモデルを本発明者らに提供した。
【0071】
以前、マウスの細胞に有効であることが示された(図S1)マウスGAST遺伝子に特異的なsiRNA(APCΔ14/GAST(-))による毎日2週間の処理により、ルシフェラーゼに特異的なsiRNA(APCΔ14/Luc(-))による処理後に見られたものと比較して、腸腺腫におけるGAST遺伝子およびプロガストリン発現の減少が誘導された(図1C〜1D、およびS1)。APCΔ14/GAST(-)動物の腸において、GAST発現の減少に関連し、対照に比較して、腫瘍サイズの有意な減少が検出された(カイ平方、p<0.0001、1群当たりn=9)。この減少は特に回腸で著しかった(図1C)が、結腸でも、この領域に位置した腫瘍数が少なかったために有意には達しなかったものの同様の傾向を見ることができた(フィッシャーの精密検定、p=0.228)(図1D)。また、対照動物に比較して、APCΔ14/GAST(-)マウス全体で、腸の腫瘍総数の20%の減少が検出された。特に、この減少は、APCΔ14/GAST(-)群の2匹の動物で激しく、回腸または結腸に腫瘍が無かった。対照的に、GAST特異的なsiRNA処理では、同一群の1匹のマウスにおけるGAST遺伝子レベルを下方制御することはできず、この動物は対照に見られるのと同様な腫瘍数および腫瘍サイズを示した(図1C)。したがって、プロガストリン産生のsiRNA媒介下方制御の効率はAPCΔ14/GAST(-)動物の間で変わるが、腫瘍のサイズおよび数は、プロガストリン濃度の低下を示すマウスでは一貫して減少した。
【0072】
以上をまとめると、これらの結果は、プロガストリンの分泌が、APC変異ヒトCRC細胞の腫瘍形成にとって必須であり、インビボでプロガストリン産生を阻害する処理により、腺腫性ポリープ症の早期およびヒト結腸直腸腫瘍形成を反復するマウスモデルにおける腫瘍増殖が大きく減少したことを示している。
【0073】
プロガストリンは、APC変異腸腫瘍細胞におけるβ-カテニン/Tcf-4転写活性のレベルを調節する。
プロガストリン標的化により、2つの異なるAPC変異腸腫瘍モデルにおける腫瘍増殖が抑制されたことを示したので、この効果が、APC変異によって構成的に活性化されることが知られているβ-カテニン/Tcf-4転写複合体の活性レベルを調節するプロガストリンの能力によるものであったと本発明者らは仮定した。ルシフェラーゼレポーター遺伝子の転写によって定量化されたこの活性(TOP/FOP)(Korinekら、1997年)は、対照細胞(SW480/βgal(-))において実際に上昇したが、プロガストリン欠失クローン(図2A)においては、β-カテニンまたはTcf-4レベルの検出可能な調節なしで(図S2)、有意に阻害された。同様な結果が以前に確立された(Hollandeら、2003年)アンチセンスGAST cDNAを発現するDLD-1細胞において得られた(図S2)。5nMの組換えプロガストリン、また、SW480/GAST(-)クローンにおけるコドン最適化したshRNA非感受性プレプロガストリン構築体の発現によって産生された内因性プロガストリンによる処理によって、ルシフェラーゼレポーター遺伝子の高レベルの転写回復が見られ、プロガストリンがこの転写経路を刺激する能力があることが確認された(図2A)。また、SW480/GAST(-)細胞におけるTcf-4および脱リン酸化β-カテニンの核量の顕著な減少および5nMの組換えプロガストリンによるこれらの細胞の処理に関連したβ-カテニン/Tcf-4活性の減少によって、β-カテニンおよびTcf-4の核区画化が部分的に回復することが、免疫蛍光染色により示された(図2B)。同様に、いくつかのTcf-4標的遺伝子(c-myc、サイクリンD1、Sox-9およびクローディン-1)(Blacheら、2004年;van de Weteringら、2002年)の発現が、プロガストリン欠失後に強く下方制御され、プロガストリンの再発現または組換えペプチドによる処理により有意に刺激された(図2CおよびS3)。対照的に、アミド化またはグリシン伸長ガストリン17またはアミド化ガストリン(CCK-B)受容体アンタゴニストL365、260による処理は、これらの細胞におけるβ-カテニン/Tcf-4活性に影響を与えることはなく(図S2)、ガストリンの短い処理形態は、これらの細胞におけるプロガストリンによるβ-カテニン/Tcf-4活性の調節を模することができないことが示されている。
【0074】
SW480 CRC細胞によって産生されたプロガストリンが、β-カテニン/Tcf-4複合体の活性を刺激することが、上記のデータにより明らかに実証される。上記のデータはまた、プロガストリン産生のブロックにより、APC変異細胞における構成的活性化にかかわらずこの転写経路の強力な阻害がもたらされることを示している。
【0075】
β-カテニンおよびTcf-4の阻害物質(ICAT)は、プロガストリンによるβ-カテニン/Tcf-4活性の調節を媒介する分子スイッチである。
使用されるCRC細胞におけるAPC遺伝子の変異状態から考えて、また、Tcf-4およびβ-カテニンの核区画化がプロガストリン欠失細胞において有意に変化すること(図2A)から、β-カテニン/Tcf-4活性の減少は、β-カテニンとそのもう一方のパートナーとの相互作用の増加に起因し得ると本発明者らは仮定した。これらのパートナーの1つ、ICAT(β-カテニンおよびTcf-4の阻害物質)は、これら2種のタンパク質間結合の直接的阻害物質として最近同定され(Tagoら、2000年)、DLD-1細胞およびSW480細胞において過剰発現された場合、増殖減少および細胞死増加の原因である(Sekiyaら、2002年)。プロガストリンの欠失により、SW480/GAST(-)細胞におけるICATのmRNAおよびタンパク質の強力な発現が誘導された(図3AおよびB)が、β-カテニンのもう一方の結合パートナーであるE-カドヘリンの発現は影響を受けなかった(データは示していない)。shRNA非感受性プレプロガストリンcDNAの再発現(図3AおよびB)により、ならびに5nMの組換えプロガストリンによる処理後(データは示していない)、ICATのデノボ抑制が誘導された。
【0076】
また、ヒトプロガストリンの組織特異的腸過剰発現を示す遺伝子導入マウス(Tg/Tg)の結腸上皮におけるICAT発現(Cobbら、2004年)は、それらの野生型同腹仔に検出されるものよりはるかに弱い(図3C)。これらのマウスにより発現したプロガストリンは、変異しており、したがって、処理酵素に非感受性であるため(Cobbら、2004年)、この結果は、完全長プロガストリンもまた、インビボでICAT発現を下方制御できることを示している。
【0077】
このように、内因性プロガストリンは、インビトロおよびインビボでICAT発現を抑制することができ、CRC細胞におけるプロガストリン欠失は、この阻害物質の強力なデノボ発現を誘導するには不十分である。
【0078】
したがって、本発明者らは、CRC細胞において、ICATが実際にプロガストリンによるβ-カテニン/Tcf-4の調節に関与する分子標的であるかどうかを調べた。共免疫沈降を用い、プロガストリン欠失SW480/GAST(-)細胞において、脱リン酸化β-カテニンとICATの細胞質同時局在化の出現(図4B)と並行したこれら2種のタンパク質間結合の有意な増加を検出した(図4A)。対照的に、脱リン酸化β-カテニンとTcf-4との共免疫沈降の量は、SW480/β-gal(-)に比較して有意に減少した(図4A)。次に、組換えプロガストリンによるSW480/GAST(-)細胞の処理後、β-カテニンは再びTcf-4に優先的に結合し、一方、ICATに対する結合およびこれら2種のタンパク質の同時局在化は減少した(図4A〜4B)。
【0079】
プロガストリン欠失細胞におけるICATの再発現が、機能的にβ-カテニン/Tcf-4転写活性阻害の原因であったことを確認するために、レトロウイルスに駆動されたshRNA発現を用いて、SW480/GAST(-)細胞におけるICATのmRNAおよびタンパク質のデノボ発現を実験的に阻止した(図S4)。得られたSW480/GAST(-)/ICAT(-)細胞において、β-カテニン/Tcf-4転写複合体の活性化回復が見られ(図4C)、それはまた、Tcf-4標的遺伝子の発現増加も示していた(図4D)。次に、SW480/GAST(-)/ICAT(-)細胞におけるICAT cDNAのコドン最適化型の過剰発現により、この増加が阻止され(図4C、4DおよびS4)、この過程におけるICATの特異性が示された。
【0080】
これらの結果により、ICAT発現レベルの調節が、プロガストリンによるβ-カテニン/Tcf-4活性調節の基礎をなす主要な分子事象であることが示される。
【0081】
インビボで、APCΔ14動物のプロガストリン過剰発現腸腫瘍において、低ICATレベル(図5Aおよび5C)およびTcf-4標的遺伝子の高い発現(図5B〜5C、および図S5)が検出された。対照的に、GAST(-)特異的siRNAによって処理されたマウスから採取された腺腫において、Tcf-4標的遺伝子の強力な抑制と同時に、ICAT発現が有意に増加した(図5A〜5C)。興味深いことに、APCΔ14/Luc(-)マウスの肉眼的に健常な上皮におけるサイクリンD1、c-MycおよびCD44の発現が、GAST(-)動物に比較して増加するのが見られ、単一Apc対立遺伝子の変異が、APCΔ14腸における標的遺伝子の発現を部分的に増加させる上で十分であること、およびこの前癌設定では、プロガストリン欠失がTcf-4活性の減少にすでに有効であることが示唆された(図5Bおよび図S5)。
【0082】
また、CRCを有する23名の患者から得られた、顕微切開されたヒト結腸腫瘍およびマッチする健常サンプルにおけるGAST mRNAのレベル(図S6)は、被験患者の78%の腫瘍(18/23)において、種々の程度で増加しており(図5D、上のグラフ)、一方、対応する腫瘍サンプルにおいてICAT発現が下方制御された(図5D、下のグラフ)。GAST遺伝子発現増加とICAT抑制との間には全体的に統計的に有意な相関が見られ(スピアマンの相関係数:r=-0.46、p=0.027)、インビボでのICATのプロガストリン誘導抑制の関連性を実証していた(図5D、挿入図)。低(例えば、患者22)または高(例えば、患者4)プロガストリン発現を有する患者からのサンプルに対する免疫組織化学により、この関連性が確認され、高プロガストリンレベルを発現する腫瘍においてはICATが抑制されており、Tcf-4標的遺伝子に対する免疫反応性が強いことが示された一方、これらの発現パターンは、低プロガストリンを有する腫瘍において反転した(図5E)。免疫組織化学により試験された11名の患者すべてからのCRCサンプルについて同様の結果が得られ、この相関は、インビトロで見られたICATレベルとβ-カテニン/Tcf-4活性との間の相関反転とよく似ている。
【0083】
APC変異細胞におけるβ-カテニン/Tcf-4複合体の構成的活性化にかかわらず、この経路の活性は、インビボおよびインビトロで、阻害物質ICATの再発現を介したプロガストリン欠失により阻害され得ることを、これらの結果は全体として実証している。本発明者らの知見では、これらの結果はまた、以前腫瘍サプレッサーとして記載された(DanielsおよびWeis、2002年)Tcf-4に対するβ-カテニン結合の小型阻害物質であるICAT(Tagoら、2000年)のホルモン性調節の最初の実証も提供する。
【0084】
CRC細胞におけるICAT発現の回復は、プロガストリン欠失により誘導された腫瘍形成減少の原因である。
結腸の腫瘍形成におけるβ-カテニン/Tcf-4転写活性の構成的活性化によって果たされる必須の役割から考えて、また、プロガストリン欠失腫瘍細胞において、ICATの再発現がTcf-4媒介転写減少の原因であることを本発明者らの結果が示したことから、本発明者らはさらに、プロガストリンの腫瘍促進活性の必須要素としてのICAT抑制の役割を、インビトロおよびインビボで調べた。
【0085】
インビトロで、SW480/GAST(-)/ICAT(-)細胞におけるICAT再発現の阻害により、軟寒天増殖アッセイにおいて、アンカー非依存性増殖に関するそれらの能力が、SW480/β-Gal(-)細胞に見られるのと同様のレベルまで増強するのが見られた(図6A)。インビボでは、SW480/GAST(-)/ICAT(-)細胞が腫瘍を形成する能力は、BALB/cヌードマウスにおける注入後、SW480/GAST(-)/Luc(-)細胞の能力よりはるかに高く(図6B)、SW480/β-Gal(-)細胞と同様であった(図1Bを参照)。
【0086】
全体として、CRC細胞における内因性プロガストリンによるICATの抑制がこのプロホルモンの腫瘍促進活性に役立つことが、これらの結果により明らかに実証されている。重大なことに、これらの結果はまた、プロガストリン欠失により誘導されたICATのデノボ発現が、β-カテニン/Tcf-4活性の有意な阻害を誘導し、したがって、インビトロおよびインビボで、腫瘍増殖を減少させる上で十分に強いことを示している。
【0087】
ホスファチジルイノシトール3-キナーゼに媒介されたインテグリン結合キナーゼの活性化は、ICAT抑制およびプロガストリンによるβ-カテニン/Tcf-4経路の調節の原因である。
プロガストリンは最近、腸細胞におけるホスファチジルイノシトール3-キナーゼ(PI3k)経路を活性化することがインビトロで(Hollandeら、2003年)、およびインビボで(Ferrandら、2005年)示されているため、この酵素の活性化が、SW480細胞におけるプロガストリンに誘導されたICAT抑制およびβ-カテニン/Tcf-4活性の刺激にとって必要であるかどうかを本発明者らは判定した。まず、選択的PI3k阻害物質LY294002とSW480/β-Gal(-)細胞のインキュベーションが、ICATの発現誘導に(図7A)、およびβ-カテニン/Tcf-4転写活性の減少に(図S7)十分であること(図7A)を本発明者らは見出し、これら2つの経路間の以前不明であった関連性を解明した。対照的に、10μMのPP2または1μMのPD98059をそれぞれ用いた、Src経路またはERK1/2経路の薬理学的阻害によって、ICAT発現またはβ-カテニン/Tcf-4活性は影響を受けなかった(データは示していない)。また、LY294002は、組換えプロガストリンによるSW480/GAST(-)クローンの処理によって誘導されたICATの下方制御を無効にし(図7A)、PI3kの活性化がプロガストリンによるICATの抑制にとって必須であることを示した。したがって、PI3kの下流標的であるAkt/PKBのセリン473-リン酸化は、プロガストリン欠失SW480/GAST(-)細胞において著しく減少したが、5nMの組換えプロガストリンとのインキュベーション後に復活した(図7A)。
【0088】
Akt/PKBのSer473は、インテグリンに結合したキナーゼ(ILK)の直接的なリン酸化標的であることが知られている(Delcommenneら、1998年)。ILKの活性化が、プロガストリンとICAT抑制との間のミッシング分子リンクであるかどうかを判定するために、本発明者らはまず、SW480細胞において、ILKの発現および/または活性がプロガストリンによって調節されたかどうかを評価した。SW480/GAST(-)細胞において、ILKの発現と活性の双方が有意に減少し、この阻害は、5nMの組換えプロガストリンによる処理後に部分的に反転した(図7B)。これらの結果は、SW480/GAST(-)クローンにおいて、ILKの下流標的であるインテグリンβ1(Mulrooneyら、2000年)のセリンリン酸化における大きな減少を示すデータによって実証された(図7B)。
【0089】
また、Akt/PKBリン酸化を抑制することが確認されているドミナントネガティブILK(DN-ILK)の一時的発現が、SW480/β-Gal(-)細胞におけるICAT発現を誘導でき(図7C)、この酵素が、ICAT遺伝子の発現を制御しているシグナル伝達経路に関与していることを示していることを見出した。これらのSW480/β-gal(-)/DN-ILK細胞におけるPI3kの薬理学的阻害によってICAT発現がさらに増加することはなく、これら2つの酵素は、ICAT遺伝子発現の調節における同じ経路に、または重複した経路に関与していることを示した(データは示していない)。
【0090】
さらに、組換えプロガストリンによるプロガストリン欠失SW480/GAST(-)細胞の処理によって誘導されたICATのmRNAおよびタンパク質の抑制およびAkt/PKBのリン酸化増加は、ILKのドミナントネガティブ媒介阻害によって阻止された(図7C)。対照的に、SW480/GAST(-)細胞におけるICATのshRNA媒介抑制(図S4に示されたような)はILKの発現または活性を変化させず(データは示していない)、ICATがプロガストリン媒介シグナル伝達におけるILKの下流に位置していることが確認された。
【0091】
これらの結果は、PI3kおよびILKの活性化が、CRC細胞におけるICATのプロガストリン媒介抑制に役立つことを明らかに実証している。
【0092】
インビトロおよびインビボでのプロガストリン欠失は、粘液産生ゴブレット細胞系で腸腫瘍細胞の最終分化を誘導する。
Wnt/β-カテニン/Tcf-4経路は腸クリプト下部における細胞の幹/前駆表現型の維持にとって重要であると考えられ、また、細胞の増殖と分化との間の分子スイッチとして広く認められている(RadtkeおよびClevers、2005年;van de Weteringら、2002年)ため、次に本発明者らは、プロガストリン欠失CRC細胞におけるその下方制御が、これらの細胞を分化へと駆動できたかどうかを判定した。
【0093】
細胞分化の初期プロモーターとしての最近記載された役割(ChungおよびEng、2005年)を考え、本発明者らはまず、安定なSW480/GAST(-)クローンにおけるPTEN(染色体10から欠失させたホスファターゼおよびテンシン相同体)の局在化を分析した。SW480/β-Gal(-)細胞における細胞質優勢の局在化とはきわめて対照的に、PTENは主として、SW480/GAST(-)クローンの核内に見られ(図8A)、局在化は、細胞分化におけるその役割に関係していると考えられた(LianおよびDi Cristofano、2005年)。
【0094】
安定なプロガストリン欠失クローンを発生させる過程により、最も分化していない非アポトーシス細胞が選択されることが予想されるため、GASTまたはβ-ガラクトシダーゼ遺伝子に特異的なローダミンタグ付きsiRNAオリゴヌクレオチドの一時的トランスフェクション後に、SW480細胞において、最終分化した腸細胞系に関係した遺伝子の発現を定量化した。クロモグラニンA(腸内分泌細胞において発現)または腸細胞特異的アルカリホスファターゼをコードする遺伝子の検出可能な変化なしに、ゴブレット細胞特異的遺伝子Muc-2の発現における有意な誘導が、SW480/GAST(-)において検出されたが、SW480/β-Gal(-)細胞では検出されなかった(図8B)。最後に、GAST(-)細胞におけるカスパーゼ3の活性の検出、および活性化カスパーゼ3に陽性の細胞はMuc2陽性でもあるとの発見(図8C)により、プロガストリン欠失は、インビトロでCRC細胞のアポトーシス促進の前に、CRC細胞を分泌系へと分化できたことが示された。組換えプロガストリンによる48時間の処理により、これらの表現型は反転した(図8C)が、アミド化およびグリシン伸長ガストリンは無効であった(データは示していない)。GAST特異的siRNAオリゴヌクレオチドをトランスフェクトしたDLD-1細胞で同様な結果が得られた(データは示していない)。このように、プロガストリン欠失は、CRC細胞をインビトロで最終分化およびアポトーシスへと駆動することができた。
【0095】
また本発明者らは、インビボでもプロガストリンレベルの減少が、β-カテニン/Tcf-4経路の構成的活性化によって誘導された腸腫瘍の分化誘導にとって十分である実証を試みた。ルシフェラーゼまたはGAST特異的siRNAによって処理したAPCΔ14マウスから採取したサンプルに対する免疫組織化学(図1を参照)により、APCΔ14/GAST(-)動物の小腸および結腸の残留腺腫が、対照に比較して、Muc-2およびアルシアンブルー陽性細胞の数の大きな増加を示し(図8D)、同じサンプルにおけるICATの発現増加およびc-Mycの発現減少(図5A〜5Cを参照)と合っていた。最後に、活性化カスパーゼ3に関して染色している細胞は、対照動物にはきわめてわずかであったが、APCΔ14/GAST(-)動物からの腺腫では、それらの数の大きな上昇が見られた(図8D)。これらの結果は、GAST遺伝子のsiRNA媒介下方制御が、腫瘍細胞をインビボで最終分化およびアポトーシスへと駆動できることを実証している。APCΔ14マウスにより発現した腸腺腫は、ガストリンのグリシン伸長形態またはアミド化形態を発現しない。組換えプロガストリンに対して増加させたポリクローナル抗体を用いた免疫ブロット法により、高分子量の工程中間体が検出されなかったため、また、完全長組換えプロガストリンが、インビトロでCRC細胞の分化を調節することが示されたため、GAST特異的siRNA処理後の腫瘍細胞の分化および腫瘍増殖の減少は、主に完全長プロガストリンの濃度減少によるものであると本発明者らは結論づけた。
【0096】
考察
本研究から、プロガストリン産生のブロックにより、ヒトCRC細胞における「構成的」ベータカテニン/Tcf-4転写活性が有意に阻害され、インビトロでのそれらのアンカー非依存性増殖ならびにヌードマウスにおけるそれらの腫瘍形成能力が減少し、それらの分化およびアポトーシスが促進されることが実証される。プロガストリンの欠失により、元はアフリカツメガエルにおいて同定され、ベータカテニンとTcf-4との相互作用を阻害することが示されていた小型ペプチドである「ベータカテニンおよびTcf-4の阻害物質」(ICAT)の再発現がもたらされた(GottardiおよびGumbiner、2004年;Tagoら、2000年)。また、組換えプロガストリンによる処理により、GAS遺伝子発現のスイッチが先に切られていた細胞において、ICATが下方制御され、ベータカテニン/Tcf-4活性が増加したことから、慢性的なプロガストリン分泌が、CRC細胞系におけるこの経路に関する高い活性化レベルの維持に関与していることが確認された。慢性的なプロガストリン分泌とICAT抑制との間の本明細書において解明された関連の生理学的関係性が、CRCを有する16名の患者群における結腸直腸腫瘍内のこれら2つの事象間の緊密な関連性を示す結果により、また、腫瘍になりやすいプロガストリン過剰発現マウスの結腸上皮においてICAT発現が下方制御された実証(Cobbら、2004年)により、インビボで強調された。
【0097】
このデータは、プロガストリンが結腸直腸腫瘍の発現を促進するという以前の観察結果と矛盾せず、ガストリン欠損APCmin+/-マウスにおいて見られた腺腫の数およびサイズの大きな減少(Kohら、2000年)に対する分子的説明を提供する。さらに、同様のバックグラウンドの野生型マウスと比較した、GAS遺伝子にヌル変異を有するマウスの胃壁細胞における標的遺伝子の発現プロファイルから、発現に差がある遺伝子の20%がWntおよびMycの標的遺伝子であることも知られていることが示され、これらのシグナル伝達経路間の関連性が強調された(Jainら、2006年)。
【0098】
CRCにおけるプロガストリン発現の増加が十分に文書化されている(Ciccotostoら、1995年;Konturekら、2002年;Siddheshwarら、2001年;Van Solingeら、1993年)。一方、本研究において記載されたICATの抑制は、この分野に関する唯一の先行報告(Koyamaら、2002年)と矛盾することに留意されたい。この矛盾は、Koyamaらによって報告されたICATの発現増加が、非顕微切開組織に対する半定量的RT-PCRを用いて測定された事実による可能性がある。健常な粘膜および腫瘍が上皮源である細胞によるICAT発現の直接的な比較が可能である本発明者らの結果は、腫瘍サプレッサーとしてのICATの記載された役割により一致すると思われる。実際、プロガストリン欠失CRC細胞において新たに合成されたICATは、ベータカテニンに対する結合に関してTcf-4と競合し、Tcf-4の転写活性の減少および腫瘍形成の減少をもたらすことが示されていて、このペプチドに関する先行報告データ(Sekiyaら、2002年)と一致しているため、プロガストリン媒介ICAT抑制は、腫瘍増殖にとって必須であると考えられる。
【0099】
不完全であるにもかかわらず、外因性プロガストリンを用いる処理によるICATの抑制およびベータカテニン/Tcf-4経路の活性化を回復させる能力は、膜受容体によって媒介されるオートクリン/パラクリンループの存在に有利な証拠となる。プロガストリンによるベータカテニン/Tcf-4活性のICAT媒介調節に関与するシグナル伝達事象の分析により、本発明者らは、CRC細胞におけるベータカテニン/Tcf-4経路とPI3キナーゼ/ILK経路との間の新規な関連性を確認することができた。実際、PI3kの薬理学的阻害およびILKシグナル伝達のドミナントネガティブ誘導阻害により、ICAT発現が増加し、このペプチドのプロガストリン媒介抑制が阻止された。Tanらによる以前の結果(Tanら、2001年)は、マキガイの抑制を通したILKの阻害により、ベータカテニン-Tcf/Lef依存性転写が抑制され、それによって、APC変異ヒト結腸癌細胞の膜におけるEカドヘリンの発現およびベータカテニンの動員が増加したことを実証している。本研究からの結果は、ベータカテニンの膜動員が低い非集密細胞においても、プロガストリン媒介ILKシグナル伝達が、ICAT発現の制御を介してベータカテニン/Tcf-4活性を調節することができることを示している。
【0100】
最後に、本発明者らの結果はまた、プロガストリンの機能に拮抗する薬剤が、結腸直腸癌における現在の外科手術的アプローチを支える新規治療オプションを提供することも示す。本明細書に提示された結果は、プロガストリンシグナル伝達の阻害が、結腸癌管理に関する特定の代替治療法を提供することを示す。プロガストリンは、腫瘍によってのみ分泌され、健常な上皮によっては分泌されないと考えられるため、そのような戦略は、頻繁なAPC変異の効果に対抗し、ベータカテニン/Tcf-4シグナル伝達の活性化を生理学的レベル近くまで低下させ、それによって、正常なクリプトの完全性の保持を助けるはずである。
【0101】
方法
細胞および細胞培養条件
結腸直腸癌細胞系DLD1およびSW480を、10%のウシ胎仔血清(Eurobio、フランス国、Les Ulis)、1%のL-グルタミンおよびペニシリン/ストレプトマイシンを添加したダルベッコの修飾イーグル培地(DMEM)中、37℃で維持した。
【0102】
材料
以下の一次抗体を用いた:マウス抗脱リン酸化ベータカテニン(クローン8E4;AG.Scientific)、マウス抗ベータカテニンおよび抗Eカドヘリン(Transduction Laboratories)、ヤギ抗Tcf-4(Santa Cruz Biotechnology)、ウサギ抗ICAT(C.Gottardi博士より恵与;(GottardiおよびGumbiner、2004年))、ポリクローナル抗PTEN(Upstate)、ウサギ抗ホスホセリン(Zymed)、ウェスタンブロット用(Cell Signaling)および免疫沈降用(Upstate)ウサギ抗ILK、マウス抗インテグリンβ1(Chemicon)、ウサギ抗Akt、抗Ser473リン酸化Akt、抗活性化カスパーゼ3(Cell Signaling)、抗Muc2モノクローナル抗体(Neomarkers)。
【0103】
ヒト組織採取
フランス政府の法令および地域委員会の指針に従って切除後、16名の患者からの結腸腫瘍および組織学的に正常な上皮(該腫瘍から有意な距離において採取)の検体を、病理学者から得られた。患者全員からインフォームドコンセントを得た。組織サンプルは、さらなる使用まで液体窒素中に保存した。
【0104】
組織切片、顕微切開およびRNA調製
液体窒素凍結腫瘍サンプルから組織切片を調製し、ヘマトキシリン/エオシン染色を行って、それらの品質、組織内の方向、および上皮含量を評価した。ベータカテニン、Tcf-4、c-mycおよびICATの免疫蛍光検出を、顕微切開に用いた切片に隣接した切片に対して実施した。Arcturus(Alphelys、フランス国、Plaisir)のPixCell(登録商標)IIe顕微切開器を用いて、1サンプル当たり、4切片から6切片に対して、レーザー捕捉顕微切開(LCM)を実施した。以下のレーザービーム設定を用いた:265mV、45mWh、直径15μm、18ms。次いで、顕微切開した組織を直接RNA溶解緩衝液中に採取し、RNAeasy Microkit(Qiagen、フランス国、Courtaboeuf)を用い、製造元の使用説明書に従ってRNAを調製した。回収したRNAの品質および量をRNA pico Labchips(Agilent Technologies、カリフォルニア州、パロアルト)を用いて評価した。
【0105】
安定トランスフェクション
DLD1細胞系へのガストリン遺伝子アンチセンスおよび対照cDNAのトランスフェクションは、(Hollandeら、2003年)に記載されている。プロガストリンshRNAを作出するために、以下のオリゴヌクレオチドをpサイレンサーベクター(Ambion)内にクローン化し、SW480細胞にトランスフェクトした:センス:5'-GAAGAAGCCTATGGATGGATTCAAGAGAAGGTAGGTATCCGAAGAAGTTTTTT-3'(配列番号1)およびアンチセンス:5'-AATTAAAAAACTTCTTCGGATACCTACCTTCTCTTGAATCCATCCATAGGCTTCTTCGGCC3'(配列番号2)。対照shRNAの作出に用いられたβガラクトシダーゼオリゴヌクレオチドは:センス:5'GATCCCAAGGCCAGACGCGAATTATTTTTCAAGAGAAAATAATTCGCGTCTGGCCTTTTTTTGGAAA3'(配列番号3);アンチセンス:5'AGCTTTTCCAAAAAAAGGCCAGACGCCAATTATTTTCTCTTGAAAAATAATTCGCGTCTGGCCTTGG3'(配列番号4)。5×104細胞/ウェルを接種し、24時間後、500ngのpサイレンサー/プロガストリン-shRNAまたはpサイレンサー/βガラクトシダーゼ-shRNA、50ngのpCDNA-3、および5μl/ウェルのExgen500(Euromedex)をトランスフェクトした。選択はネオマイシン(500ng/μl)により行った。SW480/GAS(-)細胞におけるICATまたはルシフェラーゼshRNAのレトロウイルス媒介トランスフェクション。ICATに関するshRNAオリゴヌクレオチド(センス5'GATCCGGATGGGATCAAACCTGACATTTTCAAGAGAAATGTCAGGTTTGATCCCATCTTTTTTG3'(配列番号5)およびアンチセンス5'AATTCAAAAAAGATGGGATCAAACCTGACATTTCTCTTGAAAATGTCAGGTTTGATCCCATCCG3'(配列番号6)およびルシフェラーゼ(センス5'GATCCGACATTAAGAAGGGCCCAGCTTTTCAAGAGAGCTGGGCCTTAATCTTTTTT3'(配列番号7)、およびアンチセンス5'AATTGATTAAGGCCCAGCTCTCTTGAAAAGCTGGGCCCTTCTTAATGTCG3'(配列番号8)を、pSIREN-retroQ(Clontech)にクローン化した。アンホトロピックパッケージング細胞系(ΦNX;Garry Nolan博士、スタンフォード大学、カリフォルニア州、スタンフォード)に、Pearらによって記載されたとおり(Pesrら、1993年)トランスフェクトした。トランスフェクションの48時間後、ウイルス含有培地を取り出し、1500rpmで5分間遠心分離し、細胞デブリをペレット化した。ウイルスを含有する2mlの遠心分離培地を、ポリブレン(8μg/ml)の存在下、標的細胞(6ウェルプレートにおける2.105/ウェル)に感染させた。陽性クローンを選択するために、感染細胞をプロマイシン(5μg/ml)で処理した。
【0106】
一時的トランスフェクション
トランスフェクションの前日、SW480細胞を24ウェルプレートに接種した(5×104細胞/ウェル)。製造元の使用説明書に従って、細胞に、100pモルのローダミンタグ付きGAS特異的またはβガラクトシダーゼ特異的shRNA、および5μl/ウェルのExgen500(Euromedex)をトランスフェクトした。トランスフェクションの48時間または72時間後、細胞を溶解させる(免疫ブロットおよびPCRのため)か、または免疫染色のために1%のパラホルムアルデヒドに固定した。
【0107】
アルシアンブルー染色
トランスフェクションの72時間後、カバーグラス上の細胞をPBSで洗浄し、アルシアンブルー(3%の酢酸中10g/l)と共に30分間インキュベートした。水中で細胞をすすぎ、カバーグラスをモウイオール(mowiol)中のガラススライド上に乗せ、使用するまで4℃で保存した。
【0108】
RT-定量的PCR
2.5μgの総RNAをDNアーゼRQ1(Promega)と共に、37℃で30分間予備処理し、M-MLV逆転写酵素(Invitrogen)による逆転写に用いた。LightCycler FastStart DNA MasterPlus SYBR Green Iキット(Roche Diagnostics、フランス国、Meylan)を用い、以下の条件下で定量的PCRを実施した。アクチン:95℃で10分間変性、増幅50サイクル:95℃で10秒、58℃で6秒、72℃で11秒。融解曲線:95℃で0秒、68℃で30秒、95℃で0秒および40℃で2分間の冷却。c-myc、ILK、クロモグラニンAおよびGAPDH増幅:95℃で10分間の変性、50サイクルの増幅:70℃で10秒、58℃で6秒、72℃で13秒。融解曲線は、95℃で0秒、80℃で30秒、95℃で0秒および冷却は40℃で2分間。プロガストリン、Muc-2、ALPおよびICAT増幅:95℃で10分間変性、50サイクルの増幅:70℃で10秒、95℃で6秒、72℃で11秒。融解曲線は、95℃で0秒、80℃で30秒、70℃で0秒および冷却は40℃で2分間。選択された遺伝子増幅に用いるプライマーは以下のものであった。GAPDH-センス:5'GGTGGTCTCCTCTGACTTCAACA3'(配列番号9)アンチセンス:5'GTTGCTGTAGCCAAATTCGTTGT3'(配列番号10);アクチン-センス:5'CGGGAATCTGCGTGACAT3'(配列番号11);アンチセンス:5'AAGGAAGGCTGGAAGAGTGC3'(配列番号12);ILK-センス:5'ATGACTGCCCGAATTAGCATG3'(配列番号13);アンチセンス:5'GCTACCCAGGCAGGTGCATA3'(配列番号14);ICAT-センス:5'GCTCTGGTGCTTTAGTTAGG3'(配列番号15);アンチセンス:5'GCACTTGGTTTCTTTCTTTTC3'(配列番号16);c-myc-センス:5'CGTCTCCACACATCAGAGCACAA3'(配列番号17);アンチセンス:5'TCTTGGCAGCAGGATAGTCCTT3'(配列番号18);ヒトプロガストリン-センス:5'AGAGGATCCAAATGCAGCGACTATGTGTGTATG3'(配列番号19);アンチセンス:5'GGCGAATTCCTAGGATTGTTAGTTCTCATCCTCAG3'(配列番号20);Muc-2-センス:5'TGGGTGTCCCTCGTCTCCTACA3'(配列番号21);アンチセンス:5'TGTTGCCAAACCGGTGGTA3'(配列番号22);アルカリホスファターゼ-センス:5'CTCCAACATGGACATTGACG3'(配列番号23);アンチセンス:5'CAGTGCGGTTCCACACATAC3'(配列番号24);クロモグラニンA-センス:5'ATCACCGCCACTGCCACCACCA3'(配列番号25);アンチセンス:5'CACCTTAGTGTCCCCTTTTGTCATAGGGCT3'(配列番号26)。
【0109】
軟寒天コロニー形成アッセイ
10%のウシ胎仔血清、1%のグルタミンおよびペニシリン/ストレプトマイシンを添加したDMEM-F12中、0.2%の寒天に1×105細胞を再懸濁し、固化下層を含有する(増殖培地中0.5%の寒天)6cmのペトリ皿に播いた。播いてから8日後、細胞を0.02%のクリスタルバイオレット中で染色し、コロニーのサイズおよび数を顕微鏡下で定量化した。クローンはすべて三重に接種し、各々について10の視野をカウントした。
【0110】
インビトロ試験
実験動物試験に関するフランス国の指針(Direction des Services Veterinaires、Ministere de l'Agriculture、Agreement NoB34-172-27)に従い、実験的腫瘍形成における動物の福祉に関するUKCCCR指針を満たして、インビボ実験を実施した。2×106細胞を6週齢の無胸腺BALB/c-nu/nu(ヌード)マウスに皮下注射した。以後、腫瘍増殖を定期的に追跡した(予測腫瘍容積=(長さ×幅×厚さ)/2)。
【0111】
APCΔ14マウスを通常の条件で収容し、2つの群に無作為化した。第1の群(n=9)は、マウスGAST mRNAに対し、250μg/kgのsiRNAの腹腔内投与により、1日1回処理した。対照マウス(n=9)は、ルシフェラーゼに対し、siRNAの同様な用量で処理した。(図S7オンラインのsiRNA配列)。siRNAの設計には、炎症誘発性応答およびインビボでの分解を最小化するために、3'オーバーハングを組み込み、5'UGUGU3'の配列を含めなかった(Judgeら、2005年;Marquesら、2006年)。処理10日後、マウスを殺処分し、それらの血液を採取し、それらの腸を切開して取り出した。腸および結腸における腺腫のスコアリングは、(Colnotら、2004年)に記載されている。健常な腸粘膜サンプル、ならびに腸および結腸の腺腫サンプルを、ウェスタンブロット、IHCまたはRNA抽出のために、4%のPFAに固定してパラフィン埋め込みを行うか、または液体窒素中に凍結させた。血漿を調製し、FACSarrayシステム(Becton Dickinson)を用いて、IL-6およびTNFαに関してアッセイした。
【0112】
ルシフェラーゼレポーター遺伝子アッセイ
TCF/LEF-1の転写活性測定に用いられるプロトコルは以前に記載されている(Morinら、1997年)。簡単に述べると、細胞に、500ngのTCF/LEF-1レポーター(pTOP-FLASH)、または対照ベクター(pFOP-FLASH)、および25ngのpCMV-Renillaをトランスフェクトした。二重ルシフェラーゼレポーターアッセイシステム(Promega)を用いて、ルシフェラーゼ活性を定量化し、Renillaの活性に対して正規化した。
【0113】
免疫蛍光染色
以前記載された(Hollandeら、2003年)とおりに免疫蛍光染色を実施した。次いで、×40油浸レンズを有するレーザー走査LEICA sp2共焦点顕微鏡を用いて、スライドを観察した。
【0114】
パラフィン組織切片に対する免疫化学
ヒトGAS遺伝子に関して遺伝子導入(Tg/Tg)したFVB/Nマウスまたは野生型同腹仔から、パラフィン組織切片を調製した(Cobbら、2004年)。脱蝋および水和の後、切片を、室温で20分間、ペルオキシダーゼにより予備処理した。サンプルを、10mMのトリス-1mMのEDTA、pH9中、20分間煮沸することにより抗原を回収した。スライドを室温まで放冷し、PBS +0.05%のBSA中、抗体と共に4℃で一晩インキュベートした。すべての場合で、第2の試薬として、Envision+キット(DAKO)を用いた。DAB(Sigma)を用いて染色を展開し、ヘマトキシリンまたはヌクレアファーストレッド(Nuclear Fast Red)により、スライドを対比染色しマウントした。
【0115】
タンパク質ライセート、免疫沈降、SDS-PAGEおよびウェスタン免疫ブロット
以前記載された(Hollandeら、2003年)とおり、タンパク質ライセート、免疫沈降および免疫ブロットを実施した。ECL Plus(Amersham Biosciences)を用いてタンパク質を可視化し、ImageJ 1.32J(NIH、メリーランド州、ベセスダ)を用いるデンシトメトリーにより、バンドを定量化した。
【0116】
免疫複合体キナーゼアッセイ
1チューブ当たり、0.5μgのATP(250mMのATP、1μCi[γ-32P]ATP)と共に、25μlのキナーゼ緩衝液(50mMのHepes pH7.0、1mMのMnCl2、1mMのオルトバナジン酸Na、2mMのNaF、5μgのミエリン塩基性タンパク質(Myelin Basic Protein)(Sigma))を加えることにより、該反応を開始させ、30℃で20分間インキュベートした。10μlの4×サンプル緩衝液の添加により該反応を終了させた。該チューブを、10,000gで1分間遠心分離し、該タンパク質を14%のSDS-pageゲル上で分離した。該基質のリン酸化を、オートラジオグラフィーにより可視化した(Marottaら、2003年)。
【0117】
放射免疫アッセイ
以前記載された(Hollandeら、1997年)とおり、細胞上清中のGAS遺伝子産物プロガストリン、グリシン伸長ガストリン(G-gly)およびアミド化ガストリン(G-NH2)を、放射免疫アッセイによって定量化した。
【0118】
統計解析
統計解析はすべて、Windows(Cary、米国、ノースカロライナ州)に関するSAS版9.1を用いて実施した。組換えプロガストリンによる処理の有無で、対照細胞とプロガストリン欠失細胞との間の差異の統計的有意性を判定するために、スチューデントのt検定を用いた。ヒト腫瘍におけるGASとICAT遺伝子発現との間の関連性を判定するために、ピアソンの相関係数(r)を判定する前に、変数を、それらの自然対数値を用いて正規化した。
【0119】
<実施例2>
プロガストリンに対する選択的抗体は、ICAT発現に対するプロガストリン抑制を反転し、c-myc発現の減少を誘導する。
【0120】
序論
本実施例は、プロガストリンに対する独立して作出された2つのポリクローナル抗体の特徴を記載し、それらが、完全長プロガストリン(1〜80)ペプチドを選択的に認識するが、アミド化ガストリン、グリシン伸長ガストリン、および6つのアミノ酸C末端フランキングペプチド(CFTP)など、ヒト血中に存在する可能性のある処理ペプチドは認識しないことを実証することを目的としている。この特徴づけは、ELISAアッセイを用いインビトロで実施した。
【0121】
本明細書下記の第2の工程は、ICATの発現およびベータカテニン/Tcf-4活性に及ぼすプロガストリンの作用は、選択的抗体によってブロックできるというコンセプト実証の検証であった。プロガストリン抗体のこのいわゆる中和活性を実証するために、apc遺伝子に変異を有し、構成的ベータカテニン/Tcf-4活性による内因性プロガストリンの分泌を示すヒトSW480結腸直腸腫瘍細胞を用いた。多量のプロガストリンおよびきわめて低レベルのアミド化ガストリンおよびグリシン伸長ガストリンを分泌するこれらの細胞の能力は表1に記載されている。
【0122】
これらの細胞を、1つはプロガストリンのN末端配列に特異的であり、他方はC末端配列に特異的である2つの異なるポリクローナル抗体によって独立して処理した。
該N末端配列は:SWKPRSQQPDAPLGT(配列番号32)であった。
該C末端配列は:FGRRSAEDEN(配列番号31)であった。
【0123】
結果
−抗体選択性:抗体の選択性を、方法の節で記載されたELISA試験によって評価した。結果(図10)は、双方のポリクローナル抗体とも、プロガストリンならびにそれらの産生に関する免疫原として用いられたそれぞれのペプチドを選択的に認識することを示している。それらは、グリシン伸長ガストリン、アミド化ガストリン、またはプロガストリンの成熟過程に由来し、ヒト血清中に検出される他のペプチドであるC末端フランキングペプチド(CTFP)(配列:SAEDEN)(Smith KA、Gastroenterology、2006年)には結合しない。
−プロガストリン抗体の中和活性:プロガストリンによるICATの抑制を阻害し、その結果、ベータカテニン/Tcf-4複合体の転写活性減少を誘導するプロガストリン抗体の能力を、SW480結腸直腸癌細胞において扱った。双方とも1/5000希釈の、プロガストリン(1〜80)のN末端対象物またはC末端対象物に特異的なウサギポリクローナル抗体の存在下で、細胞を30時間インキュベートした場合、ICAT mRNAの発現は大きく増加したが、c-MycおよびサイクリンD1のものは、同一濃度の非特異的ウサギポリクローナル抗体によって処理された細胞に比較して、著しく減少した。C-mycおよびサイクリンD1は、ベータカテニン/Tcf-4転写活性の認められた標的であり、それらの発現減少は、ベータカテニン/Tcf-4活性の減少の結果であると考えられる(図11)。
【0124】
結論
ICAT発現のプロガストリン阻害は選択的抗体に対するその結合によって反転させることができ、構成的ベータカテニン/Tcf-4活性の阻害がもたらされることを、これらの結果はインビトロで実証している。したがって本発明は、ICATおよびベータカテニン/Tcf-4活性を介して生じるプロガストリンの腫瘍形成促進作用をブロックするためにプロガストリン抗体を用いることができるというコンセプトの証明を初めて提供している。
【0125】
方法
ELISA
抗原をPBS中、指示された濃度に希釈し、その抗原100μlでマルチソルブ96ウェルプレートを4℃で一晩被覆した。翌日、ウェルを200μlのPBS/1% Tweenにより3回洗浄し、100μlのブロッキング溶液(PBS/1% Tween/0.1%BSA)を22℃で2時間加えた。PBS/1% Tweenによりさらに3回洗浄後、一次抗体をブロッキング溶液中で希釈し、100μlを22℃で2時間、該ウェルに加えた。抗体濃度は図に示されている。二次抗体を同じブロッキング緩衝液に希釈し、3回洗浄後、100μlを22℃で2時間、該ウェルに加えた。最後に、ウェルを、PBS/1% Tweenによって再度洗浄し、100μlのOPD溶液基質を22℃で20分間加えた。4NのH2SO4 50μlによって反応を停止させ、492nmにおいて読取りを行った。
【0126】
細胞培養およびプロガストリン選択的抗体による処理
10%のウシ胎仔血清(Eurobio、フランス国、Les Ulis)、1%のL-グルタミンおよびペニシリン/ストレプトマイシンを添加したダルベッコの修飾イーグル培地(DMEM)中、CRC細胞系SW480を37℃で維持した。SW480細胞を10%のFBS、1%の抗生物質および1%のグルタミンを含有するDMEM中、6ウェルプレートに播き(200,000細胞/ウェル)、37℃、5%CO2で一晩増殖させ、次いで、24時間血清不足にした。翌朝、該培地を、1/5,000希釈の対照またはプロガストリン選択的ポリクローナル抗体を含有しFBSなしのDMEMと置換し、引き続き、37℃、5%CO2でインキュベーションを行った。抗体を含有する培地は12時間後に取り替えた。30時間後、細胞をPBSで洗浄し、RNA抽出キット細胞溶解緩衝液によって細胞溶解させた。
【0127】
RNA調製およびRT-定量的PCR
RNeasy Protect Minikit(Qiagen France SA、フランス国、91974 Courtaboeuf)を用いて、SW480細胞からRNAを調製した。回収したRNAの品質および量を、RNA pico Labchips(Agilent Technologies、カリフォルニア州、パロアルト)を用いて評価した。逆転写には、各サンプルから2.5μgの総RNAをDNアーゼRQ1(Promega)により、37℃で30分間予備処理し、M-MLV(InVitrogen)と共にインキュベートした。LightCycler FastStart DNA MasterPlus SYBR Green Iキット(Roche Diagnostics)を用いて、1サンプル当たり2μlのcDNAから定量的PCRを実施した。GAPDH mRNAの発現を用いて、RNAローディングを検量した。
【0128】
定量的PCRのためのサイクル条件
−c-mycおよびGAPDH増幅に関して:95℃で10分間の変性、50サイクルの増幅:95℃で10秒、58℃で6秒、72℃で13秒。融解曲線は、95℃で0秒、80℃で30秒、95℃で0秒、冷却は、40℃で2分。
−ICAT増幅に関して:95℃で10分間の変性、50サイクルの増幅:95℃で10秒、60℃で6秒、72℃で11秒。融解曲線は、95℃で0秒、80℃で30秒、70℃で0秒、冷却は、40℃で2分。
−サイクリンD1増幅:95℃で10分間、50サイクルの増幅:95℃で10秒、70℃で6秒、72℃で11秒。融解曲線は、95℃で0秒、80℃で30秒、95℃で0秒、冷却は、40℃で2分。
【0129】
ヒト配列に対する定量的PCR用プライマー
GAPDH-センス:5'GGTGGTCTCCTCTGACTTCAACA3'(配列番号33)
GAPDH-アンチセンス:5'GTTGCTGTAGCCAAATTCGTTGT3'(配列番号34)
ICAT-センス:5'GCTCTGGTGCTTTAGTTAGG3'(配列番号35)
ICAT-アンチセンス:5'GCACTTGGTTTCTTTCTTTTC3'(配列番号36)
c-Myc-センス:5'CGTCTCCACACATCAGAGCACAA3'(配列番号37)
c-Myc-アンチセンス;5'TCTTGGCAGCAGGATAGTCCTT3'(配列番号38)
サイクリンD1-センス:5'-CCGTCCATGGGGAAGATC-3'(配列番号39)
サイクリンD1-アンチセンス:5'-ATGGCCAGCGGGAAGAC-3'(配列番号40)
【0130】
実施例1および実施例2についての全般的結論
ヒト結腸直腸腫瘍細胞のプロガストリン欠失により、構成的ベータカテニン/Tcf-4活性を有する細胞の分化およびアポトーシスが誘導されるため、ヒト結腸直腸腫瘍細胞のプロガストリン欠失により腫瘍形成が反転することを実証する十分かつ必要なデータが初めて提供される。これらの作用はプロガストリンに特異的である。これは、インビトロで2つの細胞系(DLD-1およびSW480)ならびにインビボでヌードマウスに移植した同じこれらの細胞系において、およびヒト腫瘍形成を再利用するマウスモデルにおいて示されている。実際、このマウスモデル(APCΔ14)において、apc遺伝子は、ベータカテニン/Tcf-4経路の活性化を導く変異を有し、マウスは自然に腺腫および腺癌を発現する。プレプロガストリンのmRNAを標的にするsiRNAにより、これらのマウスをインビボで処理した。これによって、腫瘍形成の反転がもたらされ、分化およびアポトーシスにより腫瘍の縮退に至った。この処理により、構成的ベータカテニン/Tcf-4活性が著しく阻害されることが示されている。したがって、apc遺伝子の変異によって開始された腫瘍形成の反転が示されるのはこれがまさに初めてである。プロガストリンの欠失はベータカテニン/Tcf-4転写活性の内因性阻害物質であるICATの再発現を誘導するため、プロガストリン欠失が抗腫瘍作用を有することが分子レベルで示されている。
【0131】
ヒト結腸直腸癌における、ベータカテニン/Tcf-4経路の活性化過剰と高レベルのガストリン遺伝子発現および低レベルのICAT発現との間の関連性事象を、本発明者らは初めて実証している。また、プロガストリン自体の過剰発現が、Tcf-4標的遺伝子レベルが上昇している腫瘍サンプルに示された。APCΔ14マウスの自然に生じる腸腺腫に、本発明者らはまた、高レベルのプロガストリン(グリシン伸長ガストリンおよびアミド化ガストリンではなく)およびICATの低発現を検出した。これらのパラメーターは、ガストリン遺伝子選択的siRNAによる処理後に反転した。
【0132】
最後に、プロガストリンに特異的であり、グリシン伸長ガストリンまたはガストリンには結合できない抗体によっても、プロガストリン作用のブロックを達成できることを実証するデータが提供されている。このように、ICATの発現を誘導し、構成的ベータカテニン/Tcf-4活性に関連した結腸腫瘍形成をブロックし反転させるための、siRNA、shRNAまたはプロガストリンを標的にする抗体のいずれかの使用に関するコンセプトの証明および十分な科学的データが提供されている。
【0133】
本出願を通して、種々の文献が、本発明に関連する先端技術を記述している。これらの文献の開示は、参照として本開示に援用されている。
(参考文献)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロガストリン分泌細胞およびベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路が構成的に活性である細胞を提示する結腸直腸癌、腺腫性ポリープ症または転移を治療および/または予防するための医薬の製造における、ベータカテニンおよびTcf-4結合阻害物質(ICAT)のプロガストリン誘導抑制の阻害剤の使用。
【請求項2】
ベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路が構成的に活性であるプロガストリン分泌細胞から生じる結腸直腸癌、腺腫性ポリープ症または転移を治療および/または予防するための医薬の製造における、ICATのプロガストリン誘導抑制の阻害剤の使用。
【請求項3】
ベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路が構成的に活性である細胞は、大腸腺腫性ポリポーシス(APC)腫瘍サプレッサー遺伝子および/またはベータカテニン遺伝子が変異している細胞である、請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
ICATのプロガストリン誘導抑制の阻害剤が、結腸細胞におけるプロガストリンの発現を下方制御する薬剤、プロガストリンに対する抗体、ホスファチジルイノシトール3キナーゼ(PI3K)の阻害剤およびインテグリン結合キナーゼ(ILK)の阻害剤からなる群の中で選択される、請求項1から3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
ICATのプロガストリン誘導抑制の阻害剤が、結腸細胞におけるプロガストリンの発現を下方制御する薬剤である、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
結腸細胞におけるプロガストリンの発現を下方制御する薬剤が、配列番号27、配列番号28、配列番号29および配列番号30からなる群から選択される配列の1つを含むsiRNAである、請求項5に記載の使用。
【請求項7】
結腸細胞におけるプロガストリンの発現を下方制御する薬剤が、配列番号1および配列番号2からなる群から選択される配列の1つを含むshRNAである、請求項5に記載の使用。
【請求項8】
ICATのプロガストリン誘導抑制の阻害剤が、ガストリン17およびガストリン34のアミド化形態またはグリシン伸長形態を認識しない、プロガストリンに対する抗体またはその生物学的に活性な断片もしくは誘導体である、請求項4に記載の使用。
【請求項9】
前記抗体またはその生物学的に活性な断片もしくは誘導体が、プロガストリンのCOOH末端の15アミノ酸残基に結合する、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
前記抗体またはその生物学的に活性な断片もしくは誘導体が、FGRRSAEDEN(配列番号31)に結合する、請求項8に記載の使用。
【請求項11】
前記抗体またはその生物学的に活性な断片もしくは誘導体が、プロガストリンのNH2末端の40アミノ酸残基に結合する、請求項8に記載の使用。
【請求項12】
前記抗体またはその生物学的に活性な断片もしくは誘導体が、SWKPRSQQPDAPLGT(配列番号32)に結合する、請求項8に記載の使用。
【請求項13】
ICATのプロガストリン誘導抑制の阻害剤がPI3Kの阻害剤である、請求項4に記載の使用。
【請求項14】
ICATのプロガストリン誘導抑制の阻害剤がILKの阻害剤である、請求項4に記載の使用。
【請求項15】
請求項8から12のいずれか一項に規定される抗体またはその生物学的に活性な断片もしくは誘導体を含む医薬。
【請求項16】
請求項6に規定されるsiRNAまたは請求項7に規定されるshRNAを含む医薬。
【請求項17】
ベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路が構成的に活性であるプロガストリン分泌細胞から生じる結腸直腸癌、腺腫性ポリープ症または転移を治療および/または予防するための化合物をスクリーニングする方法であって、
a)ベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路が構成的に活性であるプロガストリン分泌細胞を提供する工程と、
b)スクリーニングする化合物を加える工程と、
c)ICAT発現を誘導する化合物を選択する工程と
を含む方法。
【請求項18】
ベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路が構成的に活性であるプロガストリン分泌細胞から生じる結腸直腸癌、腺腫性ポリープ症または転移を治療および/または予防するための化合物をスクリーニングする方法であって、
a)プロガストリン感受性細胞を提供する工程と、
b)前記細胞を含有する培地にプロガストリンを加える工程と、
c)スクリーニングする化合物を加える工程と、
d)ICAT発現を誘導する化合物を選択する工程と
を含む方法。
【請求項19】
結腸直腸癌、腺腫性ポリープ症または転移を患っている患者がベータカテニンおよびTcf-4結合阻害物質(ICAT)のプロガストリン誘導抑制の阻害剤による治療処理に応答性であるかどうかを判定する方法であって、ベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路が構成的に活性であるプロガストリン分泌細胞から結腸直腸癌、腺腫性ポリープ症または転移が生じるかどうか、あるいは結腸直腸癌、腺腫性ポリープ症または転移が、プロガストリン分泌細胞およびベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路が構成的に活性である細胞を提示するかどうかを判定する工程を含む方法。
【請求項20】
ベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路が構成的に活性であるプロガストリン分泌細胞から結腸直腸癌、腺腫性ポリープ症または転移が生じるかどうか、あるいは結腸直腸癌、腺腫性ポリープ症または転移が、プロガストリン分泌細胞およびベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路が構成的に活性である細胞を提示するかどうかを判定する工程が、前記患者のプロガストリンの血漿中濃度を測定する工程を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
ベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路が構成的に活性であるプロガストリン分泌細胞から結腸直腸癌、腺腫性ポリープ症または転移が生じるかどうか、あるいは結腸直腸癌、腺腫性ポリープ症または転移が、プロガストリン分泌細胞およびベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路が構成的に活性である細胞を提示するかどうかを判定する工程が、APC遺伝子もしくはベータカテニン遺伝子の変異またはTcf標的遺伝子の異常レベルの転写を検出する工程を含む、請求項19または20に記載の方法。
【請求項1】
プロガストリン分泌細胞およびベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路が構成的に活性である細胞を提示する結腸直腸癌、腺腫性ポリープ症または転移を治療および/または予防するための医薬の製造における、ベータカテニンおよびTcf-4結合阻害物質(ICAT)のプロガストリン誘導抑制の阻害剤の使用。
【請求項2】
ベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路が構成的に活性であるプロガストリン分泌細胞から生じる結腸直腸癌、腺腫性ポリープ症または転移を治療および/または予防するための医薬の製造における、ICATのプロガストリン誘導抑制の阻害剤の使用。
【請求項3】
ベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路が構成的に活性である細胞は、大腸腺腫性ポリポーシス(APC)腫瘍サプレッサー遺伝子および/またはベータカテニン遺伝子が変異している細胞である、請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
ICATのプロガストリン誘導抑制の阻害剤が、結腸細胞におけるプロガストリンの発現を下方制御する薬剤、プロガストリンに対する抗体、ホスファチジルイノシトール3キナーゼ(PI3K)の阻害剤およびインテグリン結合キナーゼ(ILK)の阻害剤からなる群の中で選択される、請求項1から3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
ICATのプロガストリン誘導抑制の阻害剤が、結腸細胞におけるプロガストリンの発現を下方制御する薬剤である、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
結腸細胞におけるプロガストリンの発現を下方制御する薬剤が、配列番号27、配列番号28、配列番号29および配列番号30からなる群から選択される配列の1つを含むsiRNAである、請求項5に記載の使用。
【請求項7】
結腸細胞におけるプロガストリンの発現を下方制御する薬剤が、配列番号1および配列番号2からなる群から選択される配列の1つを含むshRNAである、請求項5に記載の使用。
【請求項8】
ICATのプロガストリン誘導抑制の阻害剤が、ガストリン17およびガストリン34のアミド化形態またはグリシン伸長形態を認識しない、プロガストリンに対する抗体またはその生物学的に活性な断片もしくは誘導体である、請求項4に記載の使用。
【請求項9】
前記抗体またはその生物学的に活性な断片もしくは誘導体が、プロガストリンのCOOH末端の15アミノ酸残基に結合する、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
前記抗体またはその生物学的に活性な断片もしくは誘導体が、FGRRSAEDEN(配列番号31)に結合する、請求項8に記載の使用。
【請求項11】
前記抗体またはその生物学的に活性な断片もしくは誘導体が、プロガストリンのNH2末端の40アミノ酸残基に結合する、請求項8に記載の使用。
【請求項12】
前記抗体またはその生物学的に活性な断片もしくは誘導体が、SWKPRSQQPDAPLGT(配列番号32)に結合する、請求項8に記載の使用。
【請求項13】
ICATのプロガストリン誘導抑制の阻害剤がPI3Kの阻害剤である、請求項4に記載の使用。
【請求項14】
ICATのプロガストリン誘導抑制の阻害剤がILKの阻害剤である、請求項4に記載の使用。
【請求項15】
請求項8から12のいずれか一項に規定される抗体またはその生物学的に活性な断片もしくは誘導体を含む医薬。
【請求項16】
請求項6に規定されるsiRNAまたは請求項7に規定されるshRNAを含む医薬。
【請求項17】
ベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路が構成的に活性であるプロガストリン分泌細胞から生じる結腸直腸癌、腺腫性ポリープ症または転移を治療および/または予防するための化合物をスクリーニングする方法であって、
a)ベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路が構成的に活性であるプロガストリン分泌細胞を提供する工程と、
b)スクリーニングする化合物を加える工程と、
c)ICAT発現を誘導する化合物を選択する工程と
を含む方法。
【請求項18】
ベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路が構成的に活性であるプロガストリン分泌細胞から生じる結腸直腸癌、腺腫性ポリープ症または転移を治療および/または予防するための化合物をスクリーニングする方法であって、
a)プロガストリン感受性細胞を提供する工程と、
b)前記細胞を含有する培地にプロガストリンを加える工程と、
c)スクリーニングする化合物を加える工程と、
d)ICAT発現を誘導する化合物を選択する工程と
を含む方法。
【請求項19】
結腸直腸癌、腺腫性ポリープ症または転移を患っている患者がベータカテニンおよびTcf-4結合阻害物質(ICAT)のプロガストリン誘導抑制の阻害剤による治療処理に応答性であるかどうかを判定する方法であって、ベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路が構成的に活性であるプロガストリン分泌細胞から結腸直腸癌、腺腫性ポリープ症または転移が生じるかどうか、あるいは結腸直腸癌、腺腫性ポリープ症または転移が、プロガストリン分泌細胞およびベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路が構成的に活性である細胞を提示するかどうかを判定する工程を含む方法。
【請求項20】
ベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路が構成的に活性であるプロガストリン分泌細胞から結腸直腸癌、腺腫性ポリープ症または転移が生じるかどうか、あるいは結腸直腸癌、腺腫性ポリープ症または転移が、プロガストリン分泌細胞およびベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路が構成的に活性である細胞を提示するかどうかを判定する工程が、前記患者のプロガストリンの血漿中濃度を測定する工程を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
ベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路が構成的に活性であるプロガストリン分泌細胞から結腸直腸癌、腺腫性ポリープ症または転移が生じるかどうか、あるいは結腸直腸癌、腺腫性ポリープ症または転移が、プロガストリン分泌細胞およびベータカテニン/Tcf-4媒介転写経路が構成的に活性である細胞を提示するかどうかを判定する工程が、APC遺伝子もしくはベータカテニン遺伝子の変異またはTcf標的遺伝子の異常レベルの転写を検出する工程を含む、請求項19または20に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図S1】
【図S2】
【図S3】
【図S4】
【図S5】
【図S6】
【図S7】
【図2】
【図3】
【図4】
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【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図S1】
【図S2】
【図S3】
【図S4】
【図S5】
【図S6】
【図S7】
【公表番号】特表2009−537627(P2009−537627A)
【公表日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−511596(P2009−511596)
【出願日】平成19年5月21日(2007.5.21)
【国際出願番号】PCT/IB2007/001312
【国際公開番号】WO2007/135542
【国際公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.WINDOWS
【出願人】(507421810)アンセルム(アンスティチュート・ナシオナル・ドゥ・ラ・サンテ・エト・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・メディカル) (4)
【出願人】(500174661)サントル・ナショナル・ドゥ・ラ・レシェルシュ・サイエンティフィーク−セ・エン・エール・エス− (54)
【出願人】(508346778)ユニバーシテ・ドゥ・モンペリエ・1 (3)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年5月21日(2007.5.21)
【国際出願番号】PCT/IB2007/001312
【国際公開番号】WO2007/135542
【国際公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.WINDOWS
【出願人】(507421810)アンセルム(アンスティチュート・ナシオナル・ドゥ・ラ・サンテ・エト・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・メディカル) (4)
【出願人】(500174661)サントル・ナショナル・ドゥ・ラ・レシェルシュ・サイエンティフィーク−セ・エン・エール・エス− (54)
【出願人】(508346778)ユニバーシテ・ドゥ・モンペリエ・1 (3)
【Fターム(参考)】
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