説明

結膜組織系

本開示は、結膜幹細胞を含む結膜細胞を有する組織系を記述する。結膜組織系は、結膜細胞を含む単離された組織に由来し、かつ眼球表面の機能障害、特に損傷または罹患した結膜に起因する機能障害の回復に適している。組織系は、単純な単一培地培養スキーム、およびヒト羊膜等の支持物質を用いて生成される。生成された結膜組織系は、損傷または罹患した被験者の眼の眼球表面を治療するための移植に適している。損傷または罹患した患者の眼の眼球表面を治療するための方法であって、本願発明の方法によって生成される結膜組織系を前記眼球表面に移植することを含む、方法もまた提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の引用)
本願は、インド出願第267/MUM/2006号(2006年2月24日)に対する仮出願日の利益を主張する。インド出願第267/MUM/2006号は、本明細書中に全体に、参考として援用される。
【0002】
(発明の背景)
(発明の分野)
本開示は、損傷したまたは罹患した眼球表面を回復させるための結膜細胞を含む組織系、組織系を生成する方法、および組織系を用いる治療方法に関する。本開示の組織系は、哺乳類の結膜細胞、好ましくは、結膜の円蓋部に由来する前駆結膜細胞を含む。本開示は、特に、制御された培養条件下で羊膜等の適切な支持物質上での前駆結膜細胞の培養に関する。
【背景技術】
【0003】
(関連技術の説明)
幹細胞は、生物の生涯を通じて細胞交換および組織再生に関与する。幹細胞は分化細胞を生じる未分化細胞であり、かつ広範囲に及ぶ増殖力を有する。幹細胞の型によって、これらの細胞はいくつかの細胞系統に分化する可能性があり、および/または移植後に組織を再構築し得る。胚性幹(ES)細胞は、無制限の自己複製および多能性の可能性を有する中心的な幹細胞であり、胚盤胞期胚の内細胞塊に由来する。成体幹細胞は、特定未分化幹細胞であり、生後および成人期を通じて、生物内の細胞を交換し、組織を再生する能力を保持する。ES細胞と比べて成体幹細胞は、自己複製の能力が低く、複数の系統に分化し得るが、通常、多能性とは言われないと、一般的に理解されている。細胞治療は、細胞機能障害または損傷と関連するいかなる疾患を治療する潜在能を有し、罹患したもしくは損傷した組織を修復するまたは交換するために、ES細胞または成体幹細胞にかかわらず幹細胞を操作する潜在能を含むがこれに限定されない。この潜在能は、科学界、医学界、およびバイオテクノロジー界で大いなる刺激をもたらした。
【0004】
成体幹細胞(「組織特異的幹細胞」とも呼ばれる)は、以下を含む、成人体の種々の組織で発見されてきた:骨髄(非特許文献1)、神経組織(非特許文献2)、胃腸組織(非特許文献3)、表皮組織(非特許文献4)、肝組織(非特許文献5)、および間葉組織(非特許文献6)。哺乳類の眼の角膜強膜縁で見つかる成体幹細胞は、健康な眼球表面の維持に必須であり、健康な眼球および角膜の表面の動的平衡に関与する。
【0005】
眼の表面は、角膜、結膜、およびこれら2つの間の境界(強膜角膜連結部、すなわち縁として知られている)からなる。光学面は、角膜上皮および結膜上皮の2つの基本的な上皮表面を有する。結膜は、2〜3層の上皮であり、睫から始まる粘膜皮膚連結部から眼瞼の内表面へ広がり、眼固有の眼球表面を覆い、縁で終わる。結膜上皮を絶えず交換する幹細胞は、結膜円蓋に存在することが示されている。非特許文献7。強膜と眼瞼との間の円蓋部移行部で結膜の最上部領域と最下部領域にあるこれらの幹細胞は、結膜幹細胞または前駆結膜細胞として知られている。
【0006】
結膜の主要な役割は、ムチンが生成する杯細胞による涙の生成を介して水和および潤滑を眼球表面に提供することである。杯細胞は、結膜上皮細胞間に散在する高度に特殊化した上皮である。ムチンは、結膜に存在する杯細胞によって主に分泌される高度にグリコシル化されたタンパク質である。結膜表面の完全性は、杯細胞によって分泌される眼球のムチンの濃度によって影響される。ムチン産生は、結膜細胞の主要な特徴である。層状の結膜上皮の多重層は、散在する杯細胞とともに継続的に再生され、眼球表面の機能的完全性を維持する(非特許文献8;非特許文献9)。
【0007】
ムチン欠乏は、アルカリ熱傷、化学熱傷および熱による熱傷、スティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)、神経栄養性角膜炎、および眼瘢痕性類天疱瘡(OCP)で検出される。非特許文献10;非特許文献11;非特許文献12を参照。結膜は、また、角膜表面上の涙膜を補助するために、滑らかで濡れた細胞表面を提供し、それによって次に光学的に透明な光学面およびはっきりとした視覚をもたらす。このように、結膜は、角膜上皮の健康を支持している。はっきりとした視覚を維持するために、角膜上皮は健康的な結膜表面に依存するので、多くの眼球表面の疾患は、結膜損傷、それに続く角膜縁および角膜の二次損傷から始まる。重層化上皮は、一定の再構築を経る自己複製組織であり、高分化した表面細胞の連続的損失によって必要とされ、基底細胞増殖によって均衡が保たれる。従って、健康な上皮構造を維持するためには、細胞増殖と分化との間の重要な均衡が、常に達成されなければならない。
【0008】
組織培養技法は、ケラチノサイトの増殖および成熟期に重要と思われる因子の同定を始めるために、表皮および角膜等の重層化上皮に対して広く用いられた。この分野の研究者は、培養でウサギまたはウシの結膜上皮細胞を利用し、正常なヒト結膜ケラチノサイトの培養用のいくつかのモデルが開発された。一次ヒト結膜ケラチノサイトは、培地、および場合によっては線維芽細胞の支持細胞層を含む血清を使用し、死体眼から長期培養で増殖させた(非特許文献13.非特許文献14)。
【0009】
眼球外傷の臨床状況で結膜関与は、眼球結膜および円蓋部結膜を四半分に分割し、関与する範囲を決定することで推定された。眼球結膜および円蓋部結膜の関与は、眼球外傷または疾患後の最終的な結果にとって重要であると考えられる。非特許文献15;非特許文献16;非特許文献17。例えば、角膜および結膜上皮の残存が確実にゼロに近いくらい希薄である眼球熱傷4、5、および6度では、望ましい眼球対応として、角膜および結膜上皮の両覆いを交互に再建することで回復および再建の治療介入を試みることが可能である(非特許文献18を参照)。非特許文献19では、角膜環境の再建は、ヒト羊膜(HAM)上で培養した角膜縁幹細胞を移植することによって試みられ、良好な予後であった。非特許文献20;非特許文献21;非特許文献22も参照。また、文献には、結膜自家移植および眼球領域および円蓋部領域に由来する前駆細胞をHAM上で培養することに関して報告されている(非特許文献23;非特許文献24を参照)。
【0010】
結膜組織の同等物に関して、特許文献1は、結膜組織の同等物を生成するために3つの異なる培地を使用して複数ステップのプロセスによってHAM上で結膜細胞を培養することを開示する。結膜組織の同等物を調製するために用いられる3つの異なるステップは、結膜細胞の一次培地での培養、増殖用培地での増殖、および分化用培地で分化を含む。開示された3つ培地の種類のうち2つは、培地成分の1つとしてコレラ毒素を含む。潜在的な発癌物質であるコレラ毒素は、眼刺激症状を引き起こし得る。複数ステップのプロセスは、臨床移植用の結膜組織同等物の安定性を向上させるために用いられた。血清を含まない条件下でHAM上で培養された結膜組織同等物の効率は、異なる結膜表面障害を有する7名の患者にその移植片を移植した後、研究された。上皮化および移植片の完全性が研究された。非特許文献25。また、非特許文献26を参照。本特許は、3つのステップ(すなわち、培養、増殖、および分化)、該ステップ用に3つの異なる培地を使用することを記述している。分化用に使用される培地は、高カルシウム濃度およびさらにコレラ毒素を含む。
【0011】
組織同等物または組織系の大部分の研究は、由来組織の構造的および機能的な特徴を有する組織同等物を再構成する能力に焦点をおいた。これは、例えば、培養条件の修正およびエアリフトによって、培養で細胞を分化させることによって達成された。高分化細胞は、長期の増殖能力を制限しても、移植後の再生能が低い結果となる。さらに、眼球表面の移植での上皮組織構築物の使用は、外科的移植の間もしくは術後、細胞が直接的な機械力もしくはせん断力によってはげ落ちないように、下にある基質に十分に結合されることが必要である。従って、移植細胞の増殖能力を維持するために微妙な均衡が必要であると同時に、移植細胞が組織器官の必要な機能的特徴を有することを確実にする。理想的な組織構築物は、移植細胞が組織の細胞再生と交換のための長期再生能力を有するものである。
【0012】
開発された組織同等物は、例えば、移植片を眼球上に縫合する等の従来の方法によって移植され得るが一方、これは、レシピエントにとって不快感を引き起こし得る。さらに、罹患したまたは損傷した眼の部位は、はっきりと視覚化され得ないので、縫合には、さらに正確さを必要とし、ひいては縫合がより少ない方法が必要とされる。さらに、そのような移植は、通常、縫合部位に傷跡を残す。従って、従来の方法よりも好まれるより少ない縫合の移植は、縫合せずに移植部位に接着し得る他の技法または細胞に基づく膜送達系の開発を必要とする。非特許文献27は、フィブリン組織接着剤のみが角膜幹細胞の移植片を角膜縁のニッチに付着することが可能であることを見出した。
【特許文献1】米国特許第7,049,139号明細書
【非特許文献1】Weissman,Science 287:1442−1446,2000
【非特許文献2】Gage,Science 287:1433−1438,2000
【非特許文献3】Potten,Phil Trans R Soc Lond.B. 353:821−830,1998
【非特許文献4】Watt,Phil Trans R Soc Lond B. 353:831,1997
【非特許文献5】Alison and Sarraf,J Hepatol,29:678−683,1998
【非特許文献6】Pittenger et al.,Science 284:143−147,1999
【非特許文献7】Wei et al., Invest Ophthalmol Vis Sci. 34:1814−28,1993
【非特許文献8】Kessing, SV,Acta Ophthalmol 44:439−453,1966
【非特許文献9】Lemp, et al., Arch Ophthalmol.83:89−94,1970
【非特許文献10】Gilbard and Rossi,Ophthalmol.97:308−312;1990
【非特許文献11】Lemp,Int Ophthalmol Clin.13:185−189,1973
【非特許文献12】Tseng et al.,Ophthalmol. 91:545−552,1984
【非特許文献13】Lindberg K,Brown ME,Chaves HV,Kenyon KR,Rheinwald JG.In vitro propagation of human ocular surface epithelial cells for transplantation.Invest Ophthalmol Vis Sci. 1993;34:2672−2679
【非特許文献14】Tsai RJ,Ho YS,Chen JK.The effects of fibroblasts on the growth and differentiation of human bulbar conjunctival epithelial cells in an in vitro conjunctival equivalent. Invest Ophthalmol Vis Sci. 1994;35:2865−2875.
【非特許文献15】Argueso et al., Invest Ophthalmol Vis Sci. 43:1004−1011,2002
【非特許文献16】Dua et al., Br J Ophthalmol. 845:1379−1383,2001
【非特許文献17】Pfister,Opthalmology 90:1246−53,1983
【非特許文献18】Dua,Br J Opthalmol.82:1407−11,1998
【非特許文献19】Nakamura et al., Invest Ophthalmol Vis Sci 44(1):106−116,2003
【非特許文献20】Shimazaki et al., Ophthalmology 109(7):1285−1290,2003
【非特許文献21】Tseng et al., Arch Ophthalmol. 116:431−41,1998
【非特許文献22】Koizumi et al., Ophthalmology 108(9):1569−1574,2001
【非特許文献23】Grueterich et al., Surv Ophthalmol. 48(6):631−46,2003
【非特許文献24】Wei et al., Invest Ophthalmol Vis Sci 34:1814−1828,1993
【非特許文献25】Tan et al., Transplantation 77(11):1729−1734,2004
【非特許文献26】Ang et al.,(2004)Invest Ophthalmol Vis Sci 45(6):1789−1795
【非特許文献27】Pfister and Sommers, Cornea 24(5):593−598,2005
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
より望ましい結膜組織同等物の必要性に応えて、本開示は、眼球表面の損傷組織または罹患組織の細胞再生および細胞交換の長期再生能力を有する組織系を記述する。現在開示される結膜組織系の特定の利点は、その組織系が、培養、増殖、および分化のために用いられる単一の培地を使用する比較的単純な培養スキームを含み、コレラ毒素等の毒素および高カルシウム濃度を回避することにある。単一段階での細胞の培養は容易であり、かつヒト臨床試験の前にcGMP施設内で混入問題を最小化することが可能であり、また、無縫合法を用いて眼球表面に導入されることが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
(発明の簡単な要旨)
本開示は、生体適合性膜または細胞外基質等の適切な支持物質上で培養される結膜細胞、ならびにそのような結膜組織系を調製する方法を含む、組織系を記述する。好ましい実施形態では、結膜組織系を生成するために、結膜細胞はヒト羊膜(HAM)等の羊膜上で培養される。好ましくは、本明細書に開示される結膜組織系は、眼球表面の結膜組織の同等物である。驚くべきことに、本明細書に開示される結膜組織系は、単一の培地で結膜バイオプシーを培養することにより調製されることが可能であり、十分に安定し、重層であり、かつ粘着性があり、臨床移植で使用され得る。好ましくは、安定な結膜組織系は、レシピエントの眼に導入された後に分裂する可能性が低く、それによってこの方法の臨床的効果を高め、ならびにレシピエントの回復時間を短縮する。
【0015】
結膜組織系を調製する方法は、結膜細胞を培養する単一の培地を含み、それによって所望の結膜組織系を生成するための単純な系を提供する。好ましい実施形態では、単一ステップの培地は、結膜細胞を含む多重層組織系を生成することが可能である。好ましくは、結膜組織系は、結膜細胞のいくつかの層を含む重層扁平上皮を有する。他の好ましい実施形態では、結膜組織系は、各層の隣接細胞間で形成される1つまたは複数のデスモソーム構造によって結合される結膜細胞のいくつかの層を含む。結膜組織系は、また、尖端微絨毛、細胞間結合部、および/または通常の細胞骨格を含み得る。他の実施形態では、結膜組織系は、スライドガラスによる単純な培養スキームを用いてHAM等の支持物質上で結膜細胞を培養することによって生成され得る。
【0016】
本明細書で使用する場合、結膜細胞は、前駆結膜細胞、分化結膜細胞、またはこれら2つの細胞型の任意の組み合わせであり得る。特定の実施形態では、組織系は、組織系内の細胞の少なくとも20〜90%が前駆結膜細胞である、前駆結膜細胞を含む。好ましくは、組織系は、最大限でも約20%の高分化細胞を含む。本開示の他の実施形態では、結膜組織系は、眼球表面(例えば結膜)の損傷または疾患の部位に移植され、その部位で結膜表面を治療および/または修復する。特定の実施形態では、移植した細胞は、移植部位から離れてレシピエントの細胞構造内に移動する。これは、光学面の治療または修復を助長する。他の実施形態では、結膜組織同等物による治療は、特筆すべき合併症もなく、根底にある疾患を回復させ、および/または結膜上皮化を維持する。好ましくは、結膜組織系の完全性は、必要に応じて維持され、かつ術後に十分に上皮化された状態を保持する。好ましい臨床成果は、治療した眼の機能的および美容的に良好な結果である。
【0017】
種々の実施形態では、組織系で見られる結膜細胞は、例えば、Oct−4等の幹細胞マーカー遺伝子を1つまたは複数発現する。好ましくは、結膜組織系内の細胞の約30〜35%は、Oct−4陽性である。他の実施形態では、結膜組織系は、AE1、AE3、サイトケラチン4(KA)、サイトケラチン7(K7)、およびサイトケラチン19(K19)等のサイトケラチンマーカーに陽性である結膜細胞を含む。ケラチンは、上皮細胞によって発現される中間径フィラメントの細胞質タンパク質のファミリーである。サイトケラチンAE1およびAE3は、上皮細胞の特徴的な中間径フィラメントタンパク質のマーカーである。サイトケラチンK4は、非角質化、重層上皮のマーカーである。特定の実施形態では、結膜組織系は、MUC5ACおよびMUC4等のムチンマーカーに陽性である結膜細胞を含む。さらに他の実施形態では、組織系の細胞はP63等の細胞特異的マーカーを発現する。本開示は、また、上記のマーカーのうち1つまたは複数を用いて組織系に存在する結膜細胞の分子および細胞の特徴づけを提供する。一部の実施形態では、結膜組織系の細胞の約1%、2%、3%、4%、5%、10%、15%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%は、AE1、AE3、K4、K7、および/またはK19を発現させる。好ましくは、本開示の結膜組織系は、また、杯細胞を含む。開示される組織系の杯細胞密度は、100細胞あたり約2.5±1.1杯細胞であり得る。本開示の好ましい実施形態では、組織系は、生存可能前駆結膜細胞を、例えば、組織系内の約200万〜250万細胞の範囲内で含む。組織系内に存在する前駆結膜細胞の数は、レシピエントの必要に応じて増加または減少され得る。細胞の密度範囲は、患者の必要によって変化し、その範囲は、培養あたり1×10、1.5×10、および2×10〜2.5×10細胞の間である。
【0018】
種々の実施形態では、本開示は、結膜細胞の送達のための支持物質を含む組織系を提供する。支持物質は、また、羊膜(例えばHAM)等の適切な生体適合性膜を含み得る。本開示の組織系は、好ましくは、眼での使用に適し、通常の創傷治癒プロセスを妨げない生体適合性膜上で結膜細胞を培養することを含む。
【0019】
本明細書に開示される結膜組織系は、当技術分野で周知の方法を用いて眼の適切な部位に移植され得るが、本開示は、また、該結膜組織系を被験者の眼に送達するための無縫合法を記述する。本開示では、用語「被験者」、「患者」、および「レシピエント」は、交互に使用される。好ましい実施形態では、本開示は、被験者の眼の眼球表面に結膜組織系を無縫合で送達する方法を提供する。特定の実施形態では、組織系は、本開示の組織系をレシピエントの眼に接着するために組織接着剤または生体適合性接着剤を使用する。一部の実施形態では、生体適合性接着剤は、Amcrylateまたはフィブリン組織接着剤を含む。好ましい実施形態では、生体適合性接着剤は、ポリ乳酸、ポリ乳酸グリコール酸、ポリ乳酸とアクリル酸の共重合体、およびその任意の組み合わせから選択される無菌の組織接着剤である。他の実施形態では、生体適合性接着剤は、被験者の眼に対して生体適合性のあるいかなる接着剤を含む。生体適合性接着剤の使用は、縫合よりは滑らかで、扱いにくくなく、ならびにより安全であり得るので、レシピエントの眼に最小限の障害をもたらし、かつ移植細胞の少なくとも一部の統合によって外傷上に培養した結膜移植片を配置することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
添付の図面は、本発明の一部を形成し、本開示の重要な態様を実証しかつ示すために含まれる。本発明は、本明細書に提示される特定の実施形態の詳細な説明と添付の図面とを組み合わせることでより良く理解され得る。
【0021】
(発明の詳細な説明)
本開示は、損傷または疾患に起因する結膜上皮破壊を、結膜細胞(すなわち、前駆結膜細胞、分化結膜細胞、またはその組み合わせ)を含む組織系による処置を介して治療する新規の方法へ向けられる。好ましくは、結膜組織系は、また、楕円体の形状であって、ムチンを含む大きな分泌顆粒を含有することで特徴づけられる杯細胞を含む。本開示は、具体的に、結膜組織系の単離、増殖、および生成を扱う。好ましい実施形態では、結膜組織系は、該組織系のレシピエントの結膜の機能的完全性を回復させる。好ましくは、本明細書に開示される結膜組織系は、結膜細胞(例えば、バイオプシーまたは外植片)を含み、細胞をex vivoで増殖させて結膜組織同等物を形成する単純な単一ステップ方法を用いて組織から培養される。そのような方法が、臨床移植に必要な安定性を有する組織培養物を生成し得ることは、驚くべきことである。例えば、結膜組織系は、外科的処置および移植の後の構造的完全性を確保する細胞間の付着構造および細胞と基質との付着構造を含む。単一ステップ方法は、好ましくは、結膜バイオプシーまたは外植片での細胞の伸長、前駆結膜細胞を含む結膜細胞の増殖、ならびに罹患したもしくは損傷した結膜を治療するために使用され得る組織系の形成を支持することができる培地を利用する。特定の実施形態では、単一ステップ方法は、また、組織系の細胞の最終分化の適切なレベルを支持し得る。さらに、本開示は、組織接着剤または生体適合性接着剤を使用して結膜組織系を患者の光学面に送達する新規の方法を記述する。
【0022】
好ましい実施形態では、本開示の結膜組織系は、眼球損傷または眼球疾患、特に結膜の眼球表面機能障害を有する患者を治療的に処置するために使用される。眼への損傷は、外傷または外傷性傷害に起因し得る。本明細書で使用されるように、「結膜組織系」は、適切な支持物質(好ましくは、哺乳類の被験者への移植に適した)上の結膜細胞を含む細胞の集団である。好ましくは、本明細書に開示される結膜組織系は、眼球表面の結膜組織の同等物である。好ましい実施形態では、組織系は、細胞の多重層凝集体による移植片(例えば、外科移植片または複合移植片等)である。用語「移植する(transplant)」、「移植すること(transplanting)」、「移植した(transplanted)」、または「移植(transplantation)」は、本明細書では用語「移植する(implant)」、「移植すること(implanting)」、「移植した(implanted)」、「移植(implantation)」、「移植する(graft)」、「移植した(grafted)」、または「移植すること(grafting)」と交互に使用される。前駆細胞であるか分化細胞であるかにかかわらず結膜細胞は、任意の適切な哺乳類から採取され得るが、ヒト組織が特に好ましい供給源である。
【0023】
本明細書に開示される結膜組織系は、結膜の損傷または疾患を有する患者を、例えば眼球表面の水和および潤滑を回復させることによって治療するために使用され得る。好ましい実施形態では、結膜組織系は、外傷または疾患の部位でムチン産生杯細胞を回復させ、それによって涙を流すことで潤滑を改善する。好ましくは、結膜組織系は、被験者の滑らかで濡れた細胞表面を回復させ、角膜表面の涙膜を支持するように機能し、それによって視覚を改善する。好ましい実施形態では、結膜組織系は、角膜上皮を支持する健康な結膜を回復させることができる。従って、本明細書に開示される結膜組織系は、損傷または罹患した結膜上皮を治療するために使用され得るばかりでなく、角膜および角膜縁の二次損傷を防ぐことが可能であり、それによって角膜縁幹細胞の二次欠損を潜在的に防ぐ。本明細書に開示される結膜組織系による治療は、好ましくは、血管新生、慢性炎症、再発性上皮欠損、または間質瘢痕をほとんど起こさない。
【0024】
好ましい実施形態では、本明細書に開示される結膜組織系は、以下を治療するために使用され得る、アルカリ熱傷、化学熱傷および熱による熱傷、スティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)、神経栄養性角膜炎、および眼瘢痕性類天疱瘡(OCP)、眼の手術後(例えば、翼状片切除)の結膜の復元、緑内障手術(例えば、線維柱帯切除術またはセクトン手術(secton surgery))、網膜剥離および斜視手術、結膜母斑、持続漏出性の線維柱帯切除小水疱、上輪部角結膜炎、および他の眼球表面障害、または結膜が損傷する外傷。結膜組織系は、また、ムチン欠乏を有する部位を治療するために使用され得る。特定の実施形態では、眼球表面障害を治療するために本明細書に開示される結膜組織系の治療への応用は、例えば米国特許出願連番第11/043,019号(その開示内容全体が参考として本明細書で援用される)に開示されるように、角膜損傷および/または角膜縁幹細胞欠乏を治療するために第2の治療的処置と組み合わせられ得る。結膜組織系の治療への応用は、例えば、日数、週間、月間、年間等、期間を変えることによって角膜縁幹細胞欠乏のいかなる治療的処置に先行することが可能である。
【0025】
「結膜前駆細胞」、「前駆結膜細胞」、および「結膜幹細胞」は、本明細書では交互に使用され、眼の結膜の前駆細胞または幹細胞である。結膜前駆細胞の部位および分布は、マウスおよびウサギにおいて結膜の円蓋部にあることが示された(Diebold et al., Graefes Arch Clin Exp Opthalmol 235:268−276,1997;Pellegrini et al., J Cell Biol 145(4):769−782,1999)。これらの前駆細胞は、強膜と眼瞼の間の円蓋移行部で結膜の最上部および最下部の領域で主に見つかるようである。また、結膜表面の結膜上皮細胞間に散在するムチン産生杯細胞は、結膜前駆細胞にも由来すると考えられる。
【0026】
好ましい実施形態では、結膜組織系は前駆結膜細胞を含み、そこでは、この組織系内の細胞の少なくとも約20〜90%が前駆結膜細胞である。好ましくは、前駆結膜細胞は、この組織系内の細胞の少なくとも約20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、または99%を構成する。他の実施形態では、結膜組織系は、わずか約20%の高分化細胞を含む。好ましくは、結膜組織系は、高分化細胞(分化結膜細胞を含むがこれに限定されない)を多くても約50%、40%、30%、20%、15%、10%、または5%含む。
【0027】
種々の実施形態では、この組織系で見つかる結膜細胞は、例えばOct−4、p63、Connexin43等の幹細胞マーカー遺伝子を1つまたは複数発現させる。好ましくは、結膜組織系は、10〜20%、20〜30%、30〜35%、40〜45%、または45〜50%のOct−4陽性細胞を含む。他の実施形態では、この組織系内の結膜細胞は、AE1、AE3、K4、K7、およびK19等のサイトケラチンマーカーに対して、MUC5ACおよびMUC4などのムチンマーカーに対して陽性である。特定の実施形態では、結膜組織系内の細胞の約5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、または70%は、AE1陽性細胞、AE3陽性細胞、K4陽性細胞、K7陽性細胞、K19陽性細胞、MUC5AC陽性細胞、および/またはMUC4陽性細胞である。好ましい実施形態では、結膜組織系は、約75〜80%のP63陽性細胞、および約30〜35%のOct−4陽性細胞を含む。他の実施形態では、この組織系内の細胞は、例えば、P63、oct−4、connexing43、ABCG2(Budak MT,Alpdogan OS,Zhou M,Lavker RM,Akinci MA,Wolosin JM. Ocular surface epithelia contain ABCG2−dependent side population cells exhibiting features associated with stem cells. J Cell Sci. 2005 Apr 15;118(Pt8):1715−24)等の細胞特異的マーカーを1つまたは複数発現させる。好ましくは、結膜組織系は、P63陽性細胞を約40〜45%、45〜50%、50〜55%、55〜60%、60〜65%、65〜70%、70〜75%、75〜80%、80〜85%、85〜90%、または90〜95%含む。P63およびOct−4は、前駆結膜細胞のマーカーである。これらのマーカーが培養細胞に存在することは、前駆細胞と分化細胞との混合集団を実証する。これは、好ましい範囲で、この組織系にわずかに約20%の高分化細胞をもたらす。
【0028】
本開示の好ましい実施形形態では、結膜組織系は、杯脂肪を含む。開示される組織系の杯細胞濃度は、100細胞あたり約1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、または5個の杯細胞であり得る。特定の実施形態では、組織系は、約0.5%、1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%、20%、またはそれを越える杯細胞を含む。本開示の好ましい実施形態では、細胞系は、生存可能前駆結膜細胞(組織系に例えば、約200万〜250万の範囲の細胞)を含む。他の実施形態では、組織系内の前駆結膜細胞の範囲は、約50万〜100万の細胞、100万〜150万の細胞、150万〜200万の細胞、250万〜300万の細胞、または300万〜350万の細胞である。組織系内に存在する前駆結膜細胞の数は、レシピエントの必要に応じて、増減され得る。好ましくは組織系は、約20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、85%、90%、または95%の生存可能前駆結膜細胞を含む。一部の実施形態では、結膜組織系は、約1〜5%、5〜10%、10〜15%、15〜20%、20〜25%、25〜30%、30〜35%、35〜40%、40〜45%、45〜50%、または50〜55%のK4陽性細胞を含む。他の実施形態では、結膜組織系は、約1〜5%、5〜10%、10〜15%、15〜20%、20〜25%、25〜30%、30〜35%、35〜40%、40〜45%、45〜50%、または50〜55%のK7陽性細胞を含む。さらに他の実施形態では、結膜組織系は、約1〜5%、5〜10%、10〜15%、15〜20%、20〜25%、25〜30%、30〜35%、35〜40%、40〜45%、45〜50%、または50〜55%のK19陽性細胞を含む。好ましくは、結膜組織系は、ケラチンK12を発現させる細胞を含まないか、あるいはわずか数パーセント含む。他の実施形態では、本明細書に開示される結膜組織系は、透明であり、その表面には角質化した線条体がない。好ましくは、結膜組織系は、サイトケラチンK3(角膜特異的サイトケラチン)(Schermer et al., J Cell Biol 103:49−62,1986)を発現させる細胞を、あるとしたらわずかに含む。
【0029】
組織系に結膜前駆細胞が大きい集団でまたは高いパーセンテージで存在すると、哺乳類被験者への移植後この組織系の能力を大きく促進させ、損傷または罹患した眼球表面を回復させる。さらに、組織系に結膜前駆細胞が高比率であると、眼球表面を生存可能な結膜前駆細胞で連続的に再配置させることによって長期間安定した系となり得る。これは、眼球表面が健康に機能するために必要不可欠である。特定の実施形態では、組織系は、例えば、羊膜(例えばHAM)等の細胞外基質を含む複合移植片であり、複数の結膜前駆細胞が細胞外基質上でex vivo培養される複数の結膜前駆細胞および高分化細胞を有する。他の実施形態では、組織系は、生体適合性ポリマー上に結膜細胞を含む。さらに他の実施形態では、結膜細胞は、上皮組織を支持することが可能な人工基質上で増殖される。好ましくは、結膜細胞の増殖を支持するために使用される基質および結膜組織系の形成は、組織の層形成を促進する。特定の実施形態では、基質は、また、最終分化を支持し得る。
【0030】
好ましい実施形態では、結膜組織系を生成するために使用される結膜細胞のドナーは、その組織系移植片のレシピエントでもある(すなわち、自己組織系)。あるいは、結膜組織バイオプシーのドナーは、結膜組織系のレシピエントでないこともある(すなわち異種組織系)。異種組織系では、好ましくは、ドナーは、例えばレシピエントの近親者等の生体適合性ドナーであり、またはバイオプシーは、生体適合性(例えば組織適合性)の死体に由来(すなわち同種間組織系)し得る。組織拒絶反応の問題を回避するために、移植される細胞または組織は、移植片のレシピエントと遺伝的に同一であることが、通常、望ましい。
【0031】
本明細書に開示される組織系を生成するために、まず、結膜細胞または当業者にとって周知の方法で単離された結膜細胞を含むバイオプシーを収集または単離する必要がある。この組織系を生成するために使用される結膜組織は、特に好ましい供給源としてヒト組織を用いて任意の適切な哺乳類から単離され得る。例えば、結膜組織は、ヒト眼の円蓋領域(例えば円蓋結膜.)から単離され得る。好ましくは、結膜前駆細胞は、そのような単離組織から培養される。本明細書に開示される方法によって生成される組織系は、レシピエント(特に、片眼もしくは両眼にムチン欠乏、または他の外傷もしくは疾患を有するレシピエント)への移植に適しているであろう。他の好ましい実施形態では、レシピエントとドナーは、同一である。
【0032】
本明細書に開示するように組織系を得る供給源として結膜組織を使用する利点は、ドナーから結膜組織を得ることが比較的容易なことである。別の利点は、バイオプシーを得ることは、その後の角膜または角膜縁のいかなる損傷も最小リスクでもたらされることである。プロセスは、安全で簡単かつ効果的な小手術だけを必要とし、必要なのは結膜組織の小さいバイオプシーだけである。プロセスは、無菌状態下、ならびに局所麻酔下で実行される。好ましくは、バイオプシーは、上結膜円蓋上部または下結膜円蓋下深部から単離される。これらの部位は、最大密度の前駆結膜細胞を提供する。ヒト結膜バイオプシー試料は、例えば、鼻側翼状片(Girolamo et al., Br J Ophthalmol. 83:1077−1082,1999)または白内障の通例の手術を受ける患者から採取され得る。バイオプシーを得るために、正常な結膜の小片(例えば1×3mmの大きさ)を眼球上部(結膜縁から10〜15mm)から採取することが可能である。結膜細胞の付加的な代替源を得るために、第2の同様の大きさのバイオプシーを採取することもある。結膜組織系を生成するために結膜バイオプシーは、例えば、その組織系を移植する2週間以上前に採取される。バイオプシーは単離されてから、内在する間質がないよう精査され、輸送培地に置かれて、結膜組織系の調製のために研究室に送られ得る。
【0033】
ドナーから結膜細胞を含む組織を除去した後、本明細書に開示されるように組織系を生成するためにバイオプシーが培養され得るように、その組織は、例えば施設に輸送される必要がある。バイオプシーの十分な部分は、組織系がそれから得られるように、輸送の間生存可能な状態のままであることが重要である。細胞の生存能を維持するように設計された輸送装置の例は、米国特許出願連番第11/385,017号に開示される(参考として本明細書で援用される)。好ましくは、バイオプシーは、そのバイオプシーの生存能を維持する培地内で輸送または保管される。結膜組織バイオプシーは、採取後、できるだけ早急にプロセシングされなければならない。バイオプシーは、インタクトな外植片として、または培養に置かれる前にいくつかの片もしくは小片に切断されて、培養され得る。好ましい実施形態では、適切な支持物質が存在することにより、組織バイオプシー内の結膜細胞の結合が促進され、それによって結膜細胞の増殖が促進される。一実施形態では、輸送容器から取り出した後、バイオプシーはリン酸緩衝生理食塩水(PBS)内に置かれる。微細な切開鉗子または外科用メスを用いて、結膜バイオプシーは複数の小片(すなわち、外植片)に、例えば0.5mmの大きさに切断され得る。外植片は、次いで、培養用の支持物質上に置かれ、慎重に培地に浸され得る。HAM等の羊膜が支持物質である場合、外植片は、羊膜の基底膜側に配置され得る。次いで、培地は、通常外植片を取り除かぬように注意して、交換される。外植片からの細胞は、支持物質上でコンフルエントになるまで(通常、培養して数日後)増殖させておくことが可能である。
【0034】
組織系を生成する上記方法の好ましい実施形態では、結膜細胞は、結膜細胞(好ましくは、結膜前駆細胞)の増殖を支持する培地で培養される。好ましい実施形態では、単離された結膜細胞は、単一の培地で培養、増殖、および分化され、従って、培地の転移に関わる複雑な培地成分およびステップを回避する。好ましくは、培地は、非発癌性、非刺激性の成分を使用する。培地は、好ましくは、バイオプシーに存在する結膜細胞の生存能および増殖、ならびに前駆結膜細胞の分化能力を維持する必要がある。培地は、また、好ましくは前駆結膜細胞等の結膜細胞の優先的増殖を支持する。特定の実施形態では、培地は、また、上皮細胞表現型を発現させるために細胞の分化を促進する因子を含み得る。結膜組織系を調製するために本明細書に開示される培養方法は、いかなる支持細胞または支持細胞層の使用を除外する必要がある。
【0035】
好ましい実施形態では、本開示の組織系は、結膜細胞の培養、増殖、および分化するために単一の培地を使用することによって得られる。結膜組織系を生成するために本明細書に開示される手順は、好ましくは、移植に適する組織系の形態で結膜細胞の大きな集団をもたらす。構築された結膜組織同等物は、通常は、好ましくは、結膜細胞の間に散在する杯細胞を有する多重層状配列の結膜細胞を含む。当業者にとって周知の任意の適切な基本的培地は、結膜組織系を培養する培地を生成するために使用され得る。結膜細胞を培養するために使用される好ましい培地は、ダルベッコ改変必須培地(DMEM)、DMEM:F−12(1:1)培地、またはHam F−12(1:1)培地であり、好ましくは、栄養血清、例えば、細胞の増殖および生存能を維持するのに効果的な栄養素を供給する血清または血清を基にした溶液(例えば、ノックアウト血清、熱不活化ヒト血清、ヒト臍帯血血清、ヒト血清アルブミン)が補充される。培地の栄養血清の好ましいパーセンテージは、約0.5%〜25%、より好ましくは約15%〜20%である。
【0036】
培地は、また、増殖因子を補充され得る。本明細書で使用されるように、用語「増殖因子」は、細胞表面の受容体と結合し、細胞の増殖および分化を活性化する主要な結果をもたらすタンパク質を言う。好ましくは、任意の段階の結膜細胞を培養するために使用される増殖促進剤は、ヒトまたはヒト組換え由来である。結膜組織を培養するための好ましい増殖因子は、上皮増殖因子(EGF)(例えば、ヒトEGF、組換えヒトEGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、インスリン、亜セレン酸ナトリウム、またはヒトトランスフェリン、ならびにその組み合わせから選択される。種々の増殖因子の好ましい濃度は以下のとおりである:(1)約5〜15ng/mlのEGF、より好ましくは、約10ng/mlのEGF、(2)約2〜10ng/mlのbFGF、より好ましくは、約4ng/mlのbFGF、(3)約1〜10μg/mlのインスリン、より好ましくは約5μg/mlのインスリン、(4)約1〜10μg/mlのトランスフェリン、より好ましくは約5μg/mlのトランスフェリン、(5)約1〜10μg/mlの亜セレン酸ナトリウム、より好ましくは約5μg/mlの亜セレン酸ナトリウム、および(6)約1〜10μg/mlのヒドロコルチゾン、より好ましくは約0.5μg/mlのヒドロコルチゾン。
【0037】
好ましくは、培地は、さらにペニシリン、ストレプトマイシン、またはその組み合わせ等の抗生物質を含む。培地で使用される抗生物質については、抗生物質または抗生物質の混合物は、好ましくは、約40〜60IU/mlのペニシリン、約40〜60μg/mlのストレプトマイシン、40〜60μg/mlのゲンタマイシン、および/または40〜60ng/mlのアムホテリシンBを含む。特定の実施形態では、培地は、50U/mlのペニシリン−ストレプトマイシンを含む。さらに実施形態では、組織系は、眼刺激症状を引き起こし得るコレラ毒素等の発癌性物質を含まない培地成分を使用する。
【0038】
特定の実施形態では、培地は、DMEMまたはDMEM:F−12を含むことが可能であり、さらに栄養血清(例えば、ウシ胎仔血清(FBS)、ヒト血清アルブミン、またはヒト臍帯血血清)を補充され得る。好ましくは、培地は、1つまたは複数の可溶性因子(例えば、0.1%のジメチルスルホキシド(DMSO)、10ng/mlの組換えヒト上皮増殖因子(rhEGF)、5μg/mlのインスリン、5μg/mlの亜セレン酸ナトリウム、5μg/mlのトランスフェリン、5μg/mlのヒドロコルチゾン、4ng/mlのbFGF、および1つまたは複数の抗生物質等)を補充される。他の実施形態では、組織系を調製するために使用される培地(結膜組織バイオプシーを輸送するために使用される培地、そのバイオプシーを培養するために使用される培地、およびその組織系を輸送するために使用される培地を含む)は、いかなる血清も、または非ヒト動物由来の他の因子を含まない。これは、異種間成分を有する組織系が混入するいかなるリスクを最小限にするのに役立ち、それによりヒトに投与するためのより安全な組織系を生成する。
【0039】
特定の実施形態では、結膜組織は、細胞外基質または他の生体適合性ポリマー等の適切な支持物質上で培養される。それは、例えば細胞外基質担体またはバイオコートペトリ皿等のバイオコート表面を有し得る。好ましくは、細胞外基質は羊膜であり、より好ましくはHAMである。支持物質は、以下を含むがこれらに限定されない1つまたは複数の接合因子からバイオコートされ得る:フィブリノゲン、ラミニン、コラーゲンIV型、テネイシン、フィブロネクチン、コラーゲン、ウシ下垂体抽出物、EGF、肝細胞増殖因子、ケラチノサイト増殖因子、ヒドロコルチゾン、またはその任意の組み合わせ。他の実施形態では、支持物質は、結膜組織系それ自体の生成を促進するためにニトロセルロース濾過紙上に配置される。ニトロセルロース紙は、また、結膜組織系に対する支持をさらに提供し得る。支持物質が羊膜である場合、羊膜は、基底膜側を上にしてニトロセルロース濾過紙上に配置され得る。使用の前に、結膜細胞のその後の増殖を妨げ得るいかなる羊膜上皮細胞も除去するのに役立つディスパーゼによって、羊膜はインキュベートされ得る。
【0040】
好ましくは、支持物質は、適切な自然の眼球表面の特徴(透明であり、薄くて、弾力性があり、生体適合性、非血管性、および/または非抗原性であることを含むがこれらに限定されない特徴)を有する。さらに、支持物質は、好ましくは、前駆結膜細胞または分化結膜細胞にかかわらず、ならびに移植後の正常な分化および/または統合にかかわらず、結膜細胞の増殖を支持する。他の好ましい実施形態では、組織系の移植後、支持物質はin vivoで徐々に再吸収される。さらに、支持物質は、好ましくは、非抗原性である。
【0041】
羊膜、特にHAMは、バイオプシーの結膜組織を培養し、本明細書に記述される組織系を生成するために好まれる。ヒト羊膜を調製する方法は、当業者にとって周知である(例えば、米国特許第6,152,142号、およびTseng et al.,(1997)Am.J. Ophthalmol.124:765−774を参照。各々を参考として本明細書で援用される)。羊膜は、インタクトな上皮表面で、または上皮細胞を除去して使用され得る。例えば、羊膜は、凍結融解、酵素消化、および/または機械的に削り落として内在性の羊膜上皮細胞を除去することによって結膜細胞の増殖を増進させるように調製され、続いて、増殖因子、細胞外基質化合物、および/または粘着性増強分子によってその表面を処置され得る。羊膜は、結膜細胞の生存能および増殖を促進する天然基質であるので、組織系を生成するための好ましい基質である。一実施形態では、基底膜または間質側を上にした羊膜は、結膜細胞を培養する培養プレート上に滑らかに固着される。生体適合性膜は、眼に付着することが可能であり、培養細胞の存在を支援し得る物質から選択される。
【0042】
他の実施形態では、結膜組織系は、組織系を生成するための組織基部等の適切な支持物質上で培養される。好ましい実施形態では、組織基部は、哺乳類羊膜、Matrigel(登録商標)、ラミニン、コラーゲンIVもしくはコラーゲンIVシート、テネイシン、フィブリノゲン、フィブロネクチン、およびフィブリノゲンシートとトロンビンシート(フィブリン接着剤、Reliseal(登録商標))、またはその任意の組み合わせである。組織基部は、また、ヒト羊膜、ラミニン、コラーゲンIV、テネイシン、フィブリノゲン、トロンビン、フィブロネクチン、またはその組み合わせを含むがこれらに限定されない支持物質によってバイオコートされ得る。特定の好ましい実施形態では、組織基部は、ヒト羊膜、より好ましくは、バイオコートされたヒト羊膜である。結膜組織は、好ましくは、細胞が実質的に分化せずに増殖することができる培地で(例えば、栄養血清および/または1つまたは複数の可溶性増殖因子を補充した培地で)培養される。
【0043】
一部の実施形態では、適切な支持物質上で培養された結膜細胞は、前駆結膜細胞を単離するために支持物資から選別され得る。他の実施形態では、結膜細胞は、適切な支持物質上での培養の前もしくは後に、結膜前駆細胞および/または分化結膜細胞の集団を単離するために当業者にとって周知の方法、例えば、磁気細胞分離法(MACS)、または蛍光活性化細胞分離法(FACS)、または免疫標識法もしくは免疫蛍光染色法(固相吸着等)、を用いて選別される。上記方法の1つを用いて結膜細胞が豊富な集団を単離する実施形態では、単離された細胞は、好ましくは、損傷または罹患した眼の上に移植するために前駆細胞の増殖および組織系の開発を支持する状態下ならびに培地で培養される。
【0044】
好ましくは、結膜細胞を含む組織は、結膜組織系を生成するために10〜20日間、より好ましくは、12〜14日間培養される。細胞は、当業者にとって周知の状態下、例えば、水浸状態下またはエアリフト状態下で培養され得る。好ましくは、これらの状態下で培養される組織系は、少なくとも約30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、または95%の前駆結膜細胞を含む。好ましい実施形態では、単離された前駆結膜細胞は、前駆結膜細胞を用いて組織系を開発するために豊富な培地の存在下で支持物質上に培養される。好ましくは、組織支持物質は、自然の結膜組織に近い特徴を有し、かつ前駆結膜細胞の増殖、ならびに移植後の正常な分化を支持することも可能である。本明細書に開示される組織系は生成されてから、移植レシピエントの場所に輸送される必要がある。好ましくは、組織系を輸送するために使用される手段は、輸送後も組織系が移植片として有用であるようにその組織系の生存能を十分に維持する。
【0045】
好ましくは、組織系は、損傷または罹患した眼の上に移植され、特に、重症な結膜損傷または疾患を有する被験者の眼球表面の機能障害を修復することができる。本明細書で使用する場合、重症な結膜損傷または疾患を有する被験者は、損傷または罹患した眼に結膜前駆細胞が完全に欠如している可能性がある。結膜組織系は、角膜に隣接する部分を含み任意の部位で眼球表面を交換または支持するために移植され得る。好ましい実施形態では、結膜組織系は、強膜、光学面の円蓋または瞼板部分に移植される。結膜組織系は、また、現存する結膜とともに眼瞼の内面上に配置され得る。
【0046】
当業者にとって周知である種々の外科的アプローチは、レシピエントの眼においてそれらの適合した自然の解剖学的ニッチと同等の眼球組織を選択し、収集し、輸送するように進化してきた。移植の前に、罹患または損傷した結膜は、切除され、自己または異種結膜組織系がその結膜欠損上に配置され得る。結膜組織系の移植は、無菌状態下ならびに局所麻酔下で実行される。別の移植は、結膜組織系上に、例えば、保護パッチとして作用する付加的な羊膜パッチグラフトが配置され得る。別の実施形態では、移植を保護するために、コンタクトレンズが組織系上に配置され得る。組織系をレシピエントの眼に移植する外科手技は、当業者にとって周知である(Nguyen DQ,Hale J,Von Lany H,Harrad RA.Releasable conjunctival suture for adjustable suture surgery. J Pediatr Ophthalmol Strabismus. 2007 Jan−Feb;44(l):35−8. およびBahar I,Weinberger D,Dan G,Avisar R. Pterygium surgery:fibrin glue versus Vicryl sutures for conjunctival closure. Cornea. 2006 Dec;25(10):1168−72)。
【0047】
当業者にとって周知である多様な縫合および縫合術は、移植片を眼球表面に固定するために用いられ得る。総じて成功するとはいえ、薄い組織を眼球組織に縫合することは、組織間の並置、出血、炎症、視覚化、および眼球表面に露出する縫合からの患者の不快感に関する特別な問題を作り出す。縫合せずに生物学的に適した生成物を使用する最適な組織並置を達成する目標は、極めて望ましい。さらに、手術時間の減少は、施設経費の減少となる。
【0048】
適切な組織系は、眼球外傷または状態の修復に役立つように必要とされる一方、予後の改善、合併症の最小化、患者への快適さの提供、処置期間の短縮のために、様々な眼部処置において縫合を減らすまたは切り替えることが必要である。従って、特定の実施形態では、本開示は、無縫合で患者の眼への組織系の送達を提供する。プロセスは、組織接着剤として使用されることが可能な接着剤(例えばアムクリレート(amcrylate)またはフィブリン接着剤)等の生体適合性接着剤の使用を含む。この手法は、損傷または罹患した眼への角膜ならびに結膜細胞の送達で使用され得る。本明細書に開示される無縫合の組織系の送達は、また、米国特許出願連番第11/043,019号(その開示内容全体が参考として本明細書で援用される)に開示されるように、角膜縁に由来する未分化幹細胞を含む組織系で使用され得る。好ましい実施形態では、本開示は、結膜細胞を含む組織系のアムクリレートを使用する送達を提供する。他の好ましい実施形態では、生体適合性接着剤は、ポリ乳酸、ポリラクチドグリコール酸、ポリ乳酸とアクリル酸のコポリマー、またはその任意の組み合わせから選択される無菌の組織接着剤である。さらに他の実施形態では、レシピエントの眼への障害を最小化しながら、培養組織系が外傷上に配置され得るように、生体適合性接着剤は、眼と生体適合性があり、縫合よりもより滑らかで、より安全で、かつ煩わしが少ないいかなる接着剤を含む。好ましくは、組織系とともに接着剤の使用は、移植される細胞と損傷または罹患した眼との統合を促進する。
【0049】
本明細書に開示される結膜組織系は、治療への応用で(例えば、治療の必要に応じて被験者への移植として)利用され得る。本開示の組織系は、ヒト、霊長類、および家畜、飼育動物、ペット、またはスポーツ動物(イヌ、ウマ、ネコ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ラット、マウス等)を含むがこれらに限定されないいかなる被験者を治療するために使用され得る。本明細書で使用されるように、用語「治療上の」、「治療的に」、「治療する」、「処置」、「治療」は、治療的処置および予防的もしくは予防手段の両方を言う。治療的処置は、特定の疾患、状態、損傷、外傷もしくは障害の症状を低減もしくは排除する、または既存の疾患、状態、損傷、外傷もしくは障害の進行を遅らせるもしくは軽減させる、または治癒させることを含むがこれらに限定されない。好ましくは、そのような治療を必要とする被験者は、機能を回復させる、または再生するために治療上有効量の結膜組織系を用いて治療される。本明細書で使用されるように、結膜組織系の「治療上有効量」は、結膜細胞または組織の損失、損傷、機能不全、または変性に起因する被験者の生理的作用を停止させるまたは寛解させるのに十分な量である。
【0050】
使用される組織系の治療上有効量は、当業者にとって周知の種々の因子(被験者のニーズ、被験者の年齢、生理的状態と健康、所望の治療効果、治療の対象とされる組織の部分の大きさ、移植の部位、病態の程度、選択される送達経路、および治療戦略等)に依存する。当業者は、これらの因子を使用して、患者を治療するために必要とされる、本明細書に開示される組織系の治療上有効量を決定することができる。組織系は、好ましくは、組織系を目的とする部位に移植し、機能的欠損部分を再構成または再生することを可能にする方法で患者に投与される。
【0051】
特定の実施形態では、本開示は、スライドガラスを使用する典型的かつ単純な培養スキームでHAM上でヒト円蓋結膜前駆細胞および/または分化細胞を培養することに関する。調製した組織系を、眼球結膜熱傷のウサギモデルで特徴づけ、安全性を評価した。これは、縫合を含まなかった。結膜に由来する移植されたヒト細胞の生存可能および機能を、ウサギモデルで追跡した。実施例1および2を参照。本明細書に記述するように、移植片下の異常血管新生、および多形核白血球(PMN)浸潤に関して組織系の安全性を対照群と同時に比較した。結膜上皮の重症な両側破壊は、円蓋または結膜の他の部分から増殖させた杯細胞を有する結膜上皮の培養物の移植によって治療され得る。Shatos et al., IOVS 44(6):2477−2486,2003;Zieske,Eye 8:163−169,1994;Tsai et al., Prog Retinal Eye Res 16:227−241,1997。
【0052】
以下の実施例は、本開示の好ましい実施形態を示すために含まれる。以下の実施例で開示される技術は、本発明の実施に際して十分に機能することが本発明人によって見出された技術を表し、従って、その実施の好ましい様式を構成するものと考えられ得ることを当業者は認識する必要がある。しかしながら、当業者は、本開示を踏まえて、多くの変更が開示される特定の実施形態でなされる可能性があり、かつ本発明の趣旨および適用範囲から逸脱することなく類似もしくは同様の結果が依然として得られることを認識すべきである。
【実施例】
【0053】
実施例1:結膜組織系の生成
この実施例に開示されるように組織バイオプシーから結膜細胞を培養するプロセスは、非常に容易であり、かつ既存のミリセル(millicell)方法と異なる。Pellegrini et al., J. Cell Biol 145(4):769−782,1999;Belyakov et al., Proc. Natl. Acad. Sci USA 102(40):14203−208,2005を参照。倫理委員会の承認を得て、結膜バイオプシーの収集は、各患者およびドナーの事前の情報に基づく同意によって行った。その後のプロトコルは、ヘルシンキ宣言の教義に従い、リライアンスライフサイエンス(RLS)倫理委員会によって承認された。約2mmのヒト結膜組織を、Zee Eyeクリニック(Bandra,Mumbai,India)での眼周囲外科手術時に円蓋から外科的に除去した。結膜を、眼球の周辺および眼瞼の内表面からのみ慎重に収集した。次いで、切除した組織を、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、5%熱不活化ウシ胎仔血清(Hyclone USA)、および50μg/mlペニシリン−ストレプトマイシンからなる輸送培地に直ちに配置した。輸送培地のpHは、7〜7.4の範囲であった。バイオプシーを培養するまで、4℃で保存した。
【0054】
組織バイオプシーを提供した同じ患者から約2〜5mlの血液試料を採血し、各結膜バイオプシーとともに中央に位置するcGMP施設に輸送した。血液試料を、B型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)、梅毒、およびサトロメガロウイルス(CMV)を含む感染症の検査を直ちに行った。
【0055】
次いで、バイオプシー内で結膜細胞を培養するために、バイオプシーを適切な基質上に配置した。この基質(ヒト羊膜(HAM))を以下のように調製した。ドナーの事前の情報に基づく適切な同意を得て、ヘルシンキ宣言の教義に従って、ヒト胎盤を、帝王切開時に血清陰性ドナーから採取した。HAMを単離するために用いた方法は、Tseng et al., (Arch Ophthalmol. 116:431−41,1998)(参考として本明細書で援用される)によって記述される方法と同様であった。処理したHAMを無菌ニトロセルロース膜上で広げてから、5×5cmに切り分けた。切り分けた小片を、使用するまでグリセロールおよびFBSを含有するDMEMに−70℃で保管した。保管培地の無菌を、調製した当日と冷凍保管から14日目に確認した。使用前に、HAMを解凍し、上皮を除去するために0.5%トリプシン−EDTA(Gibco−BRL, USA)溶液で処置して、十分な培地を加えた無菌ペトリプレートに保持しておいた5×5cmの無菌スライドガラス上に広げた。
【0056】
結膜前駆細胞を培養および増幅するために、結膜上皮のバイオプシー組織を、まず、実体顕微鏡下で下にある間質から分離させた(ほぼ完全に)。上皮セグメントを細かく10の小片に切り分けて、PBSおよび25U/mlペニシリン−ストレプトマイシン(Giboc−BRL,USA)によるプレインキュベーション後に上皮を除去して広げたHAM上に配置した。結膜細胞を含むバイオプシーの小片をHAM上に同心円状に配置して、接触阻止によって細胞が重層化することを可能にした。0日目、バイオプシー組織を、DMEM:F12(1:1)、20%ウシ胎仔血清(hyclone,Logan UT)、0.1%DMSO(Sigma USA)、10ng/mlヒト上皮増殖因子(hEGF)(Sigma USA)、4ng/ml塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)(R&D MN)、5μg/mlのインスリン(Sigma USA)、トランスフェリン(Giboc−BRL,USA)と亜セレン酸ナトリウム(Sigma USA)を各0.5μg/ml、ヒドロコルチゾン(Sigma USA)、および50U/mlペニシリン−ストレプトマイシンからなる750μlの培地で覆った。2日目、2.5mlの培地をセットアップに加え、その後移植の準備が整うまで、培地を1日おきに変えた。細胞を5%COで、37℃で増殖させた。組織系を調製するためにこの単一の培地を用いた。
【0057】
そのような組織系に必要な構造的特徴を考慮すると、結膜細胞の増殖および分化のために同じ単一ステップ培地を使用する方法で、移植用の組織系を順調に生成できたことは驚きであった。単一ステップ培地の組み合わせによって、この培地は増殖および分化を維持する。本発明は、増殖型および分化型の細胞を同じ培養で達成した。インスリン、hEGF、およびヒドロコルチゾンはすべて、培養プロセスの間、線維芽細胞よりも結膜上皮細胞の増殖を促進するよう機能する。培養から14日後、広げた羊膜全体は、細胞によって覆われ、コンフルエントになった。
【0058】
広げた培養結膜組織系の5×5cmの半分を、実施例2に記述するように結膜外傷のウサギモデルで異種移植片として使用し、半分を3つの小片に切り分けた。特定の標識の発現が測定され、評価され得るように、1つの小片を用いて、RT−PCRのために細胞からRNAを収集した。第2の小片をパラフィンブロックで薄片を作るために調製した。最後の小片をホールマウントとして調製した。
【0059】
RNA単離およびRT−PCR:培養結膜細胞から全RNAをTRIzol法(Invitrogen,USA)によって単離し、単離したRNAから1μgをcDNA合成のためにRNase−OUTリボヌクレアーゼ阻害剤(Invitrogen,USA)で処置した。反応を刺激するために、Superscript逆転写酵素II(Invitrogen,USA)およびオリゴdT(Invitrogen,USA)を用いて逆転写を実行した。ムチンの発現を確認するために、細胞のRT−PCRをMUC5ACとMUC4遺伝子を用いて行った。2μgのcDNAを、2×Abgene PCRマスターミックス(Abgene,USA)と適切なプライマー(Shatos et al., IOVS 42(7):1455−1464, 2001;Shatos et al., IOVS 44(6):2477−2486,2003;各々を参考として本明細書で援用される)を用いてポリメラーゼ連鎖反応を30サイクル行って増幅させた。この反応で使用したプライマー配列は、以下の表1に示す。
【0060】
【表1】

結膜培養物のホールマウントの調製:培養結膜細胞を含む組織系の小片を、表面を乱さないようにカットガラススライド上に広げた。培地の痕跡を除去し、この試料を室温で30分間ホルムアルデヒド溶液中で固定した。続いて、固定した培養物を完全に空気乾燥させて、染色した。
【0061】
組織標識と組織病理学:組織系の特徴を決定するために、複合細胞培養物を4%パラホルムアルデヒド溶液中で10分間、室温で固定し、脱水して、パラフィン包埋した。約3μmパラフィン切片を調製した。免疫蛍光検査のために、脱パラフィン後、切片をマイクロ波で抗原回復を行い、1×PBSで10分間プレインキュベートした。切片を0.2%トリトンX−100で5分間処置して、PBSで15分間中間洗浄して、1%BSAで1時間ブロックした。一次抗体AE1(1:500)およびAE3(1:500)(Chemicon,CA)を切片に加えて、4℃で一晩インキュベートした。切片をそれぞれの二次抗体で、室温で1時間インキュベートした。切片をマウント培地(Sigma US)でマウントし、蛍光顕微鏡で分析した。過ヨウ素酸シッフ(PAS)染色のために、ホールマウントとともに脱パラフィン切片を0.5%ヨウ素酸で5分間処置し、次いでシッフ試薬で30分間室温で処置した。切片をヘマトキシンで対比染色した。
【0062】
上皮を除去した羊膜上で培養した結膜細胞の特徴づけ:本明細書に示すように、サイトケラチンおよび特定のムチン型(Ohno−Matsui et al., Molecular Vision 11:1−10,2005)のマーカーを、培養結膜細胞によって発現すると同定した。移植の前に、結膜組織系をin vitroで重層化した。バイオプシーをHAM上に配置した後、初代培養は、羊膜上の外植片から大きい細胞を出しながら3日齢の培養物内で増殖を開始したことを示した(図1A)。培養から14日後、広げたHAM全体は、細胞で覆われ、コンフルエントになった(図1B)。培養から20日後、培養物切片の免疫蛍光染色は、AE1およびAE3の細胞質発現を示した(図1Cおよび1D)。20日目の終わりに調製した結膜組織系のホールマウントのPAS染色は、杯細胞の増殖と分布を示した。杯細胞は、組織系内に均一に見られなかった(図1E)。結膜組織系内のMUC5ACおよびMUC4の発現を検出するための相補的RT−PCR解析で、結膜組織系ならびに結膜バイオプシー内にこれら2つのマーカーの発現を確認した(図2)。以下の実施例2に記述するように、移植した結膜組織系は、結膜外傷を治療することが可能であった。
【0063】
実施例2
本実施例は、実施例1に記述するように単純な培養スキームを用いて調製した結膜組織系の能力を調べ、組織系を異種移植された眼球結膜熱傷のウサギモデルの損傷した眼を治療する。組織接着剤を使用して、結膜組織系をウサギモデルに移植した。移植後、ヒト細胞の生着および統合を追跡し、組織病理学と免疫染色法を用いて評価した。表面下の異常血管新生ならびに多形核白血球(PMN)浸潤に関する結膜組織系の安全性を対照群と同時に調べた。
【0064】
化学傷害のウサギモデルを以下のように調製した。本明細書に記述するような動物プロトコルに対して、内部審査委員会(IRB)、施設内動物倫理委員会(IAEC)、および動物実験の統制と監督の目的を審査する委員会(CPCSEA)の事前承認を取得した。6匹のニュージーランドホワイトウサギ(体重1.5kg、6カ月齢)にケタミン(35mg/kg)とキシラジン(5mg/kg)を用いて麻酔をかけ、支持縫合を応用して眼瞼を縫縮した。図3Aは、ウサギの正常な眼を示す。球状眼瞼結膜上の外傷を、眼の当該部位にIN水酸化ナトリウムを染み込ませた無菌濾紙(60mm)を40秒間置くことで生成した(図3B)。濾紙を除去した後、傷害されたゾーンの残存上皮を手術用の刃で取り除き、傷口にPBSを大量に注いだ。外傷をウサギの片眼に作製した。15日後およびさらに10日後に、同じ部分で前回のように外傷を生成する方法を再度実行した。
【0065】
異種移植実験用の対照は2群であった。第1の対照群は、眼に外傷を与えて、45日間経過観察を行った動物であった(n=2)。第2の対照群は、眼に外傷を与え(図3C)、次いで、その上に培養結膜細胞のないHAMで覆った動物であった(n=2)。本明細書に記述するように、試験実験は、外傷上にヒト結膜組織系を移植した(図3Dと3E)。培養細胞による結膜組織系の小片(20mm)(上向きで)で外傷を覆い、Amcrylate(Concord Drugs Ltd,Andhra Pradeshによってインドで製造される)と呼ばれる無菌の組織接着剤を用いて縁を固定した。このポリマーは、2−シアノアクリル酸イソアミル(水分と接触すると重合するモノマー)であり、非毒性、生体適合性、および不活性物質であることが示されている。この組織接着剤を使用して、裸の結膜組織上に移植片を接着した。5μlの組織接着剤を4滴、外傷の四方の縁に滴下した。HAMを接着剤と接触させて配置し、細胞面を上に向けて移植片を置いた。
【0066】
外傷を与えてから15日間、一日2回、デキサメタゾン−ゲンタマイシン溶液を各眼に施した。手術後、0.5%シクロスポリンAと0.05%デキサメタゾン−ゲンタマイシンの溶液を点眼滴剤として第1週目は一日3回、その後は一日2回さした。動物を1カ月間経過観察した。対照動物と比較して、移植の効率を、外傷部位の再上皮化および杯細胞の再出現によって数量化した。
【0067】
動物実験の終了後、ウサギを犠牲にし、結膜組織とともに全眼球を摘出し、10%ホルマリン溶液中で固定した。心臓内注射によるチオペンタールナトリウム溶液の投薬量を使用してウサギを犠牲にした。組織病理学的評価のために、ヘマトキシリン・エオシン染色法で染色した約5ミクロンの薄切片を用いて、対照部位および処置部位からの結膜組織をルーチン的に処理し、修復の程度を顕微鏡によって観察した。免疫組織化学検査のために、切片を抗原回復にかけた後、切片を15分間3%H水溶液中で処理した。一次抗体の坑ヒトミトコンドリア抗体(Chemicon,CA)インキュベーションを4℃で一晩行った。染色の手順の残りは、使用したVectaStain Elite ABCキット(Vector Laboratories,Burlingame,CA)の説明書に従った。使用した基質は、ジアミノベンジジン(DAB)であった。ヒト細胞の細胞質内のスパゲッティ様ポジティブ染色パターン(茶色で示す)を、光学顕微鏡(Nikon E600)検査によって視覚化した。過ヨウ素酸シッフ染色のために、ホールマウントとともに脱パラフィンした切片を0.5%過ヨウ素酸を用いて5分間処置し、次いでシッフ試薬を用いて室温で30分間処置した。切片をヘマトキシリンを用いて対比染色した。
【0068】
外傷と移植後の臨床所見:外傷から24時間後、すべての眼は、外傷部位の周囲に極めて少量のうっ血、および外傷部位上に凝血を示した。48時間後、凝血の大きさは減少し(データを図示せず)、うっ血は減少し、外傷部位に境界を定めることができた。結膜組織系の移植後、アレルギー反応および拒絶反応の徴候は何ら観察されなかった。経過観察期間の間、眼は落ち着いていて、異常な血管新生は観察されなかった。外傷だけを有する眼を実験の終了日まで経過観察した。最初の外傷の三分の二が作製されたことを示した(図3F)。切開するために動物を犠牲にする直前、結膜ヒト細胞を含む組織系を移植した眼は、表面の完全性および移植部位の血管新生に関して健康に見えた(図3G)。
【0069】
ウサギモデルにおける傷害された眼を治癒する結膜組織系の能力を評価するために、図4Aに示すように、杯細胞の健康な集団を有する正常なウサギの結膜切片と傷害された眼を比較した。外傷後、杯細胞は、外傷部位には見つからず、上皮は分離している(図4B)。さらに、外傷だけを有する対照動物に由来する切片は、変形した上皮細胞および軽度のPMN浸潤で詰まった血管を示した。上皮を除去したHAMだけを外傷部位に移植した対照ウサギでは、上皮は再生せず、その部分の大半は分離していた(図4C)。その部位には杯細胞の痕跡はなく、血管は充血し、血管外遊出した赤血球(RBC)が多数の箇所で見られた。移植を受けなかった対照ウサギでは、血管外遊出したRBCが多数の箇所でみられた(図4D)。移植の前に、結膜組織系はin vitroで重層化されることを示した。組織系をウサギモデルに移植してから1カ月後、移植適用部位の細胞がインタクトだが連続してないことが分った(図4Eと4F)。結膜組織系を移植した試験眼に由来する切片から、ヒト細胞およびウサギ細胞の両方が分散した多重層上皮が明らかになった。杯細胞の再出現および点在する内皮細胞は、外傷部位の細胞の再生および治癒を示す。
【0070】
in vivoで保持され、残存するヒト細胞の検出:移植したヒト細胞を、組織系のHAM上のin situで同定し、および結膜組織系を移植したラットモデルの上皮下ゾーンに埋め込まれているのを同定した(図4I)。移植部位に散在するヒト細胞ならびにHAMから離れた動物組織内へ移動したヒト細胞の観察は、これらの細胞が外傷を治癒する重要な役割を果たしていることを示唆する。ヒト細胞を、坑ヒトミトコンドリア一次抗体を有するヒトミトコンドリアのスパゲティ様染色(茶色で示す)に基づいて検出した。移動する細胞のパーセンテージは、動物によって変化し、観察される移動のレベルと一致しない。保持されたヒト細胞は、動物細胞と比較すると細長くて大きく、明白に異なる。
【0071】
無菌組織接着剤Amcrylateを用いて実行した結膜組織系の無縫合送達は、この方法の安全性と利便性を実証した。この無菌組織接着剤は、血流に吸収さることはなく、静脈および動脈を再接合する美容外科で縫合の代わりにまたは縫合を補うために使用されてきた。移植後、顕微鏡下の検査は、ウサギの結膜切片のHAMセグメントの下に接着剤の痕跡がないことを示した。これは、移植片の統合の間、接着剤が洗い落とされたことを示唆する。移植片および組織接着剤の両安全性は、移植後、PMN浸潤および何らか異常血管新生が誘発されたかを観察することによって検査した。単離した組織から作製した切片の組織病理学的評価を、以下の表2に示す。
【0072】
【表2】

本明細書に開示される結膜組織系の基本的な新規の特徴は、記述されているとはいえ、当然のことながら、形式および詳細において種々の省略、置き換え、および変更が、本開示の趣旨から逸脱することなく可能である。例えば、同じ結果を出すために、実質的に同じ機能を実質的に同じ方法で実行する要素および/または方法ステップのすべての組み合わせは、本開示の範囲内であることが明示的に意図される。
【0073】
本明細書に開示され、主張される組成物および方法のすべては、本開示を踏まえて、過度の実験を行うことなく作製および実行され得る。本発明の組成物および方法は、好ましい実施形態に関して記述されているとはいえ、本発明の概念,趣旨、および適用範囲から逸脱することなく、本明細書に記述される組成物および/または方法および方法のステップおよびステップの順序に、変化が適用されることは、当業者にとって明らかである。より具体的には、化学的または生理学的に関連する特定の試薬は、同じまたは同様の結果が達成される間、本明細書に記述される試薬と置換され得ることは明らかである。当業者にとって明らかなそのような類似の置換および変更のすべては、添付する特許請求の範囲によって定義されるように、本発明の趣旨、適用範囲、および概念の範囲内であると見なされる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1−1】HAM上の結膜細胞培養の特徴づけ。図1Aは、HAMを押し出している結膜細胞の3日齢の培養物を示す。図1Bは、HAM上の14日齢の細胞のコンフルエントな培養を示す。図1Cは、培養部分のサイトケラチンAE1による免疫蛍光染色を示す。図1Dは、培養部分のサイトケラチンAE3による免疫蛍光染色を示す。図1Eは、20日齢培養物のホールマウントのPAS染色を示す。PASは、杯細胞をマゼンタ色に染色する。
【図1−2】HAM上の結膜細胞培養の特徴づけ。図1Aは、HAMを押し出している結膜細胞の3日齢の培養物を示す。図1Bは、HAM上の14日齢の細胞のコンフルエントな培養を示す。図1Cは、培養部分のサイトケラチンAE1による免疫蛍光染色を示す。図1Dは、培養部分のサイトケラチンAE3による免疫蛍光染色を示す。図1Eは、20日齢培養物のホールマウントのPAS染色を示す。PASは、杯細胞をマゼンタ色に染色する。
【図2−1】結膜組織系および結膜バイオプシー内のMUC5ACおよびMUC4の発現。MUC5AC(103塩基対)(レーン3、7)およびMUC4(102塩基対)(レーン4、8)マーカーをそれぞれ用いる結膜培養細胞および結膜バイオプシーの逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)解析。レーン1は、1k塩基DNAサイズのマーカーである。レーン2と6は、培養結膜細胞と結膜バイオプシー、それぞれのGAPDH(ハウスキーピング遺伝子)である。レーン5は、反応混合物にcDNAを付加されなかった陰性対照である。
【図2−2】結膜組織系および結膜バイオプシー内のMUC5ACおよびMUC4の発現。MUC5AC(103塩基対)(レーン3、7)およびMUC4(102塩基対)(レーン4、8)マーカーをそれぞれ用いる結膜培養細胞および結膜バイオプシーの逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)解析。レーン1は、1k塩基DNAサイズのマーカーである。レーン2と6は、培養結膜細胞と結膜バイオプシー、それぞれのGAPDH(ハウスキーピング遺伝子)である。レーン5は、反応混合物にcDNAを付加されなかった陰性対照である。
【図3】化学外傷作成と移植のウサギモデルで、外傷、移植、治療を示す。図3Aは、ウサギの正常な眼を示す。図3Bは、ウサギの結膜に配置された飽和NaOH濾過紙を示す。図3Cは、移植直前の外傷部位を示す。図3Dと3Eは、移植された部位を示す。図3Fは、施された外傷とフォローアップを有する対照眼を示し、外傷のトレースを示す。図3Gは、治療した外傷を示す。
【図4−1】外傷への移植の効果の評価およびin vivoで保持され、残存するヒト細胞の検出。図4Aは、PAS(杯細胞を検出するために)で染色した正常なウサギ結膜部分を示す。杯細胞はマゼンタ色に染色。図4Bは、外傷部位を示し、杯細胞がなく、かつ上皮がはげ落ちたことを示す。図4Cは、HAMだけを眼の上に移植する場合、眼内の上皮がない創傷治癒を示す。図4Dは、外傷だけで移植片のない眼内の創傷治癒を示す。図4Eは、培養結膜細胞を有する組織系を移植した後の外傷部位のヘマトキシリンとエオシン(H&E)染色を示す。図4Fは、移植部位の移植したヒト細胞およびウサギ細胞のPAS染色を示す。図4Gおよび4Hは、移植部位で検出されたヒト細胞(茶色で示す)の抗ヒトミトコンドリア抗体陽性を示す。図4Iは、ウサギ結膜の上皮下のゾーンに移動したヒト細胞を示す。
【図4−2】外傷への移植の効果の評価およびin vivoで保持され、残存するヒト細胞の検出。図4Aは、PAS(杯細胞を検出するために)で染色した正常なウサギ結膜部分を示す。杯細胞はマゼンタ色に染色。図4Bは、外傷部位を示し、杯細胞がなく、かつ上皮がはげ落ちたことを示す。図4Cは、HAMだけを眼の上に移植する場合、眼内の上皮がない創傷治癒を示す。図4Dは、外傷だけで移植片のない眼内の創傷治癒を示す。図4Eは、培養結膜細胞を有する組織系を移植した後の外傷部位のヘマトキシリンとエオシン(H&E)染色を示す。図4Fは、移植部位の移植したヒト細胞およびウサギ細胞のPAS染色を示す。図4Gおよび4Hは、移植部位で検出されたヒト細胞(茶色で示す)の抗ヒトミトコンドリア抗体陽性を示す。図4Iは、ウサギ結膜の上皮下のゾーンに移動したヒト細胞を示す。
【図4−3】外傷への移植の効果の評価およびin vivoで保持され、残存するヒト細胞の検出。図4Aは、PAS(杯細胞を検出するために)で染色した正常なウサギ結膜部分を示す。杯細胞はマゼンタ色に染色。図4Bは、外傷部位を示し、杯細胞がなく、かつ上皮がはげ落ちたことを示す。図4Cは、HAMだけを眼の上に移植する場合、眼内の上皮がない創傷治癒を示す。図4Dは、外傷だけで移植片のない眼内の創傷治癒を示す。図4Eは、培養結膜細胞を有する組織系を移植した後の外傷部位のヘマトキシリンとエオシン(H&E)染色を示す。図4Fは、移植部位の移植したヒト細胞およびウサギ細胞のPAS染色を示す。図4Gおよび4Hは、移植部位で検出されたヒト細胞(茶色で示す)の抗ヒトミトコンドリア抗体陽性を示す。図4Iは、ウサギ結膜の上皮下のゾーンに移動したヒト細胞を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一培地において支持物質上で結膜前駆細胞を含む組織の細胞を培養することを含む、結膜組織系を生成するための方法であって、該単一培地は、
(a)ダルベッコ改変必須培地(DMEM)、DMEM:F−12(1:1)培地、またはHam F−12(1:1)培地と、
(b)ノックアウト血清、熱不活化ヒト血清、ヒト臍帯血血清、ヒト血清アルブミン、およびウシ胎仔血清からなる群から選択される栄養血清と、
(c)上皮増殖因子(EGF)と、
(d)塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)と、
(e)インスリンと、
(f)亜セレン酸ナトリウムと、
(g)トランスフェリンと、
(h)抗生物質または抗生物質の混合物と、
を含み、該単一培地は、該支持物質上で該結膜前駆細胞が増殖および増幅して結膜組織系を形成するのを支持する、
方法。
【請求項2】
前記栄養血清が、ノックアウト血清である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記栄養血清が、熱不活化ヒト血清である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記栄養血清が、ヒト臍帯血血清である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記栄養血清が、ヒト血清アルブミンである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記栄養血清が、ウシ胎仔血清である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記EGFが、ヒトEGFまたは組換えヒトEGFである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記トランスフェリンが、ヒトトランスフェリンである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記単一培地が、さらにジメチルスホキシドを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記抗生物質または抗生物質の混合物が、ペニシリン、ストレプトマイシン、ゲンタマイシン、アムホテリシンB、およびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記単一培地が、
(a)15%〜20%の栄養血清と、
(b)5〜15ng/mlのEGFと、
(c)2〜10ng/mlのbFGFと、
(d)1〜10μg/mlのインスリンと、
(e)1〜10μg/mlの亜セレン酸ナトリウムと、
(f)1〜10μg/mlのトランスフェリンと、
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記単一培地が、
(a)20%の栄養血清と、
(b)10ng/mlのEGFと、
(c)4ng/mlのbFGFと、
(d)5μg/mlのインスリンと、
(e)5μg/mlの亜セレン酸ナトリウムと、
(f)5μg/mlのトランスフェリンと、
を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記単一培地が、さらに0.1%のジメチルスルホキシドを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記支持物質が、生体適合性の膜である、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記生体適合性の物質が、羊膜である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記羊膜が、ヒト羊膜である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記培養するステップが、前記羊膜の基底膜側の表面で行われる、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記培養するステップが、支持細胞なしで行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
結膜前駆細胞を含む前記組織が、前記結膜の円蓋部に由来する組織のバイオプシーによって単離される、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
損傷または罹患した患者の眼の眼球表面を治療するための方法であって、請求項1に記載の方法によって生成される結膜組織系を前記眼球表面に移植することを含む、方法。
【請求項21】
前記損傷または罹患した眼球表面が、アルカリ熱傷、化学熱傷、熱による熱傷、スティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)、神経栄養性角膜炎、眼瘢痕性類天疱瘡(OCP)、翼状片切除、緑内障手術、線維柱帯切除術、セクトン手術、網膜剥離、斜視手術、結膜母斑、持続漏出性線維柱帯切除小水疱、または上輪部角結膜炎に起因する、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記結膜組織系が、角膜または角膜に隣接する部分に移植される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記移植される結膜組織系を前記患者の眼に接着するために無菌の組織接着剤が使用される、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記無菌の組織接着剤が、2−シアノアクリル酸イソアミルである、請求項24に記載の方法。
【請求項25】
損傷または罹患した患者の眼の眼球表面を治療するための方法であって、
(i)結膜前駆細胞を含む組織のバイオプシーを単離するステップと、
(ii)単一培地において支持物質上で該組織を培養するステップであって、
(a)ダルベッコ改変必須培地(DMEM)、DMEM:F−12(1:1)培地、またはHam F−12(1:1)培地と、
(b)ノックアウト血清、熱不活化ヒト血清、ヒト臍帯血血清、ヒト血清アルブミン、およびウシ胎仔血清からなる群から選択される栄養血清と、
(c)上皮増殖因子(EGF)と、
(d)塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)と、
(e)インスリンと、
(f)亜セレン酸ナトリウムと、
(g)トランスフェリンと、
(h)抗生物質または抗生物質の混合物と、
を含み、該単一培地が、該支持物質上で該結膜前駆細胞が増殖および増幅して結膜組織系を形成するのを支持するステップ、と、
(iii)該結膜組織系を該患者の眼の前記損傷または罹患した眼球表面に移植するステップと、
を含む方法。
【請求項26】
前記栄養血清が、ノックアウト血清である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記栄養血清が、ヒト血清アルブミンである、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
前記EGFが、ヒトEGFまたは組換えヒトEGFである、請求項25に記載の方法。
【請求項29】
前記トランスフェリンが、ヒトトランスフェリンである、請求項25に記載の方法。
【請求項30】
前記単一培地が、さらにジメチルスホキシドを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項31】
前記抗生物質または抗生物質の混合物が、ペニシリン、ストレプトマイシン、ゲンタマイシン、アムホテリシンB、およびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項25に記載の方法。
【請求項32】
前記単一培地が、
(a)15%〜20%の栄養血清と、
(b)5〜15ng/mlのEGFと、
(c)2〜10ng/mlのbFGFと、
(d)1〜10μg/mlのインスリンと、
(e)1〜10μg/mlの亜セレン酸ナトリウムと、
(f)1〜10μg/mlのトランスフェリンと、
を含む、請求項25に記載の方法。
【請求項33】
前記単一培地が、
(a)20%の栄養血清と、
(b)10ng/mlのEGFと、
(c)4ng/mlのbFGFと、
(d)5μg/mlのインスリンと、
(e)5μg/mlの亜セレン酸ナトリウムと、
(f)5μg/mlのトランスフェリンと、
を含む請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記単一培地が、さらに0.1%のジメチルスルホキシドを含む、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記支持物質が、生体適合性の膜である、請求項25に記載の方法。
【請求項36】
前記生体適合性の物質が、羊膜である、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記羊膜が、ヒト羊膜である、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記培養するステップが、前記羊膜の基底膜側の表面で行われる、請求項36に記載の方法。
【請求項39】
前記組織のバイオプシーが、前記結膜の円蓋部から単離される、請求項25に記載の方法。
【請求項40】
前記組織のバイオプシーが、前記患者から単離される、請求項25に記載の方法。
【請求項41】
前記損傷または罹患した眼球表面が、アルカリ熱傷、化学熱傷、熱による熱傷、スティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)、神経栄養性角膜炎、眼瘢痕性類天疱瘡(OCP)、翼状片切除、緑内障手術、線維柱帯切除術、セクトン手術、網膜剥離、斜視手術、結膜母斑、持続漏出性線維柱帯切除小水疱、または上輪部角結膜炎に起因する、請求項25に記載の方法。
【請求項42】
前記結膜組織系が、前記角膜または前記眼球表面の前記角膜に隣接する部分に移植される、請求項25に記載の方法。
【請求項43】
前記移植される結膜組織系を前記損傷または罹患した眼球表面に接着するために無菌の組織接着剤が使用される、請求項25に記載の方法。
【請求項44】
前記無菌の組織接着剤が、2−シアノアクリル酸イソアミルである、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
損傷または罹患した患者の眼の眼球表面を治療するための方法であって、
(i)結膜前駆細胞を含む組織のバイオプシーを単離するステップと、
(ii)単一培地中で支持物質上にて前記組織を培養するステップであって、該単一培地が、該支持物質上で該結膜前駆細胞が増殖および増幅して結膜組織系を形成するのを支持するステップと、
(iii)該結膜組織系を該患者の眼の該損傷または罹患した眼球表面に移植するステップであって、該移植される結膜組織系を該損傷または罹患した眼球表面に接着するために無菌の組織接着剤が使用される、ステップと、
を含む、方法。
【請求項46】
前記単一培地が、
(a)ダルベッコ改変必須培地(DMEM)、DMEM:F−12(1:1)培地、またはHam F−12(1:1)培地と、
(b)ノックアウト血清、熱不活化ヒト血清、ヒト臍帯血血清、ヒト血清アルブミン、およびウシ胎仔血清からなる群から選択される栄養血清と、
(c)上皮増殖因子(EGF)と、
(d)塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)と、
(e)インスリンと、
(f)亜セレン酸ナトリウムと、
(g)トランスフェリンと、
(h)抗生物質または抗生物質の混合物と、
を含む、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記栄養血清が、ノックアウト血清である、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記栄養血清が、ヒト血清アルブミンである、請求項46に記載の方法。
【請求項49】
前記単一培地が、さらにジメチルスホキシドを含む、請求項46に記載の方法。
【請求項50】
前記単一培地が、
(a)15%〜20%の栄養血清と、
(b)5〜15ng/mlのEGFと、
(c)2〜10ng/mlのbFGFと、
(d)1〜10μg/mlのインスリンと、
(e)1〜10μg/mlの亜セレン酸ナトリウムと、
(f)1〜10μg/mlのトランスフェリンと、
を含む、請求項46に記載の方法。
【請求項51】
前記単一培地が、
(a)20%の栄養血清と、
(b)10ng/mlのEGFと、
(c)4ng/mlのbFGFと、
(d)5μg/mlのインスリンと、
(e)5μg/mlの亜セレン酸ナトリウムと、
(f)5μg/mlのトランスフェリンと、
を含む、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
前記単一培地が、さらに0.1%のジメチルスルホキシドを含む、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
前記支持物質が、生体適合性の膜である、請求項45に記載の方法。
【請求項54】
前記生体適合性の物質が、羊膜である、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
前記羊膜が、ヒト羊膜である、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
前記培養するステップが、前記羊膜の基底膜側の表面で行われる、請求項54に記載の方法。
【請求項57】
前記組織のバイオプシーが、前記結膜の前記円蓋部から単離される、請求項45に記載の方法。
【請求項58】
前記組織のバイオプシーが、前記患者から単離される、請求項45に記載の方法。
【請求項59】
前記損傷または罹患した眼球表面が、アルカリ熱傷、化学熱傷、熱による熱傷、スティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)、神経栄養性角膜炎、眼瘢痕性類天疱瘡(OCP)、翼状片切除、緑内障手術、線維柱帯切除術、セクトン手術、網膜剥離、斜視手術、結膜母斑、持続漏出性線維柱帯切除小水疱、または上輪部角結膜炎に起因する、請求項45に記載の方法。
【請求項60】
前記結膜組織系が、前記角膜または前記眼球表面の前記角膜に隣接する部分に移植される、請求項45に記載の方法。
【請求項61】
前記無菌の組織接着剤が、2−シアノアクリル酸イソアミルである、請求項45に記載の方法。
【請求項62】
損傷または罹患した患者の眼の眼球表面を治療するための方法であって、該患者の眼の該損傷または罹患した眼球表面に組織系を移植することを含み、該移植される組織系を該損傷または罹患した眼球表面に接着するために無菌の組織接着剤が使用される、治療方法。
【請求項63】
実施例および図面を参照して、本明細書に実質的に記述されるとおりの上記の請求項に従って結膜組織系を生成するための方法。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図3】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図4−3】
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【公表番号】特表2009−527250(P2009−527250A)
【公表日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−555952(P2008−555952)
【出願日】平成19年2月23日(2007.2.23)
【国際出願番号】PCT/IN2007/000075
【国際公開番号】WO2007/099556
【国際公開日】平成19年9月7日(2007.9.7)
【出願人】(506383722)リライアンス ライフ サイエンシーズ プライベイト リミテッド (9)
【Fターム(参考)】