説明

絞り機構

【課題】絞り径の再現性が良く、かつ経時変化の少ない絞り機構を提供する。
【解決手段】絞り板1aの正六角形の2つの辺3a、4aと、絞り板1bの正六角形の2つの辺3b、4bと、絞り板1cの正六角形の2つの辺3c、4cとで、正六角形の穴5が形成される。この正方形の穴5の中心をOを絞り中心とする。そして、絞り中心Oと正六角形の2つの辺3a、4aの交点Aとを結ぶ線を中心線X、絞り中心Oと正六角形の2つの辺3b、4bの交点Bとを結ぶ線を中心線X、絞り中心Oと正六角形の2つの辺3c、4cの交点Cとを結ぶ線を中心線Zとする。OA=OB=OCの関係を保ちながら、絞り板1a、1b、1cを、それぞれ中心線X、Y、Zに沿ってスライドさせることにより、正六角形の穴5の中心Oの位置を変えないで、正六角形の穴5の大きさを変えることができる。よって、開口の大きさを連続的に変化可能な絞り機構が実現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絞り機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光学装置等に用いられる絞り機構としては、種々のものが公知であるが、代表的なものが、実開平5−61735号公報(特許文献1)に記載されている。これは、複数枚の絞り羽根に固定軸、可動軸が植立されており、固定板の光軸を中心とする円周上に開けられた穴で固定軸が回転し、駆動板に設けられた溝を可動軸がスライドして、絞り径を調整するものである。
【0003】
また、特開平9−159935号公報には、正方形、又は菱形の一頂点を有する孔を持つ絞り板を2枚重ね合わせ、正方形又は菱形の絞り機構を構成する方法が記載されている。この原理を図4に示す。図4(a)は、1枚の絞り板の平面図である。絞り板11には、切り欠き部12が形成され、切り欠き部12の周辺の一部は、正方形の2つの辺13、14となっている。この絞り板を2枚、180°の角度を持たせて重ね合わせると図1(b)のようになる。絞り板11aの正方形の2つの辺13a、14aと、絞り板11bの正方形の2つの辺13b、14bとで、正方形の穴15が形成される。
【0004】
この正方形の穴15の中心をOとし、この点を絞り中心とする。そして、絞り中心Oと、正方形の2つの辺13a、14aの交点A、正方形の2つの辺13b、14bの交点Bとを結ぶ線を中心線Xとする。2つの辺13aと14aは、中心線Xに対して対称の関係にあり、2つの辺13b、14bも、中心線Xに対して対称の関係にある。
【0005】
図1(c)に示すように、OA=OBの関係を保ちながら、絞り板11a、11bを中心線Xに沿ってスライドさせることにより、正方形の穴15の中心Oの位置を変えないで、正方形の穴15の大きさを変えることができる。よって、正方形の穴15を絞りとして用いれば、開口の大きさを連続的に変化可能な絞り機構が実現できる。
【特許文献1】実開平5−61735号公報
【特許文献2】特開平9−159935号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば、レーザ共焦点顕微鏡のような光学機器に用いられる絞り機構においては、絞り径を0.1mm程度にする必要があり、かつ、高い再現性が求められる。特許文献1に記載されるような、複数枚の羽根が駆動される絞り機構では、駆動板に設けられた溝をピンがスライドして駆動板を駆動するようになっているので、摺動部のクリアランスに起因してガタが生じてしまう。このガタのため、絞り径を大きくする場合と小さくする場合とでは、絞り径の大きさに10μm程度の差が生じ、再現性が悪いという問題点がある。又、これらのガタを除去するために、駆動機構を一方向に付勢する付勢機構を設けたとしても、部材同士の接触により摩耗し、経時変化が起こるという問題点がある。
【0007】
また、特許文献2に記載される方法では、絞りの形状が正方形又は菱形であり、円形に近くないという問題点がある。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、絞り形状が円形に近く、再現性が良く、かつ経時変化の少ない絞り機構を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するための第1の手段は、絞り中心を中心として等間隔で放射状に伸びるn(nは3以上の整数)本の中心線を含むような切り欠き部(穴)を有するn個の絞り板が放射状に、重ね合わせて配置され、前記切り欠き部は、前記絞り中心を包含し、かつ、その周の少なくとも一部は2n角形の隣り合う2辺の形状を有し、前記隣り合う2辺は、前記中心線に対して対称とされ、その結果、これら絞り板により、前記絞り中心を中心とする2n角形の穴が形成され、かつ、前記絞り中心を中心として回転するカムが設けられ、当該カムは、回転中心を中心として同一形状のn個の部分に分けられ、各部分には前記回転中心からの距離が回転角の関数であるカム面が形成され、一方、前記絞り板にはカム追従部材が設けられ、当該カム追従部材は前記カム面に当接し、前記カムの回転に伴って、前記各々の絞り板は、前記2n角形の頂点が、前記絞り中心から等距離にあるように、揃って、前記中心線に沿って移動可能とされていることを特徴とする絞り機構である。
【0010】
なお、2n角形は正2n角形であることが好ましい。
【0011】
前記課題を解決するための第2の手段は、前記第1の手段であって、前記絞り板が、同じ形状を有する2枚の板の片方を反転させ、重ね合わせて形成されたものであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、絞り形状が円形に近く、再現性が良く、かつ経時変化の少ない絞り機構を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態の例を説明する。図1、図2は本発明の実施の形態の例を説明するための図である。図1(a)は、1枚の絞り板の平面図である。絞り板1には、切り欠き部(穴)2が形成され、切り欠き部2の周辺の一部は、正六角形の2つの辺3、4となっている。このような絞り板1a、1b、1cを3枚、120°の間隔で重ね合わせたものを図1(b)に示す。絞り板1aの正六角形の2つの辺3a、4aと、絞り板1bの正六角形の2つの辺3b、4bと、絞り板1cの正六角形の2つの辺3c、4cとで、正六角形の穴5が形成される。
【0014】
この正六角形の穴5の中心をOとし、この点を絞り中心とする。そして、絞り中心Oと正六角形の2つの辺3a、4aの交点Aとを結ぶ線を中心線X、絞り中心Oと正六角形の2つの辺3b、4bの交点Bとを結ぶ線を中心線Y、絞り中心Oと正六角形の2つの辺3c、4cの交点Cとを結ぶ線を中心線Zとする。2つの辺3aと4aは、中心線Xに対して対称の関係にあり、2つの辺3b、4bは、中心線Yに対して対称の関係にある。同様、2つの辺3c、4cは、中心線Zに対して対称の関係にある。
【0015】
OA=OB=OCの関係を保ちながら、絞り板1a、1b、1cを、それぞれ中心線X、Y、Zに沿ってスライドさせることにより、正六角形の穴5の中心Oの位置を変えないで、正六角形の穴5の大きさを変えることができる。よって、正六角形の穴5を絞りとして用いれば、開口の大きさを連続的に変化可能な絞り機構が実現できる。
【0016】
同様のことは、絞り板の枚数を増やしても成り立つ。則ち、絞り中心を中心として等間隔で放射状に伸びるn(nは3以上の整数)本の中心線を含むように、切り欠き部を有するn個の絞り板を放射状に、重ね合わせて配置し、切り欠き部を、絞り中心を包含し、少なくともその一部は正2n角形の隣り合う2辺の形状を有し、隣り合う2辺は、中心線に対して対称となるような構造とし、この隣り合う2辺の交点が、全ての絞り板について、絞り中心から等しい距離にあるように、絞り板を配置すれば、その結果、これら絞り板により、絞り中心を中心とする正2n角形の穴が形成される。そして、これら絞り板を、この正2n角形の頂点が、絞り中心から等距離にあるように、揃って、前記中心線に沿って移動することにより、絞り中心の位置を変えないで絞りの開口を可変することができる。絞り板の数が多くなるほど、正多角形の変数が増え、円に近くなるので好ましいが、その分、機構が複雑になる。
【0017】
以下、絞り板に前述のような動きをさせるメカニズムの例を図2を使用して説明する。図2において、絞り板1a、1b、1cの構成は図1(b)に示すものと同じであり、それぞれ、X軸、Y軸、Z軸に沿って滑らかに動くように直線ガイド機構8a、8b、8cに取り付けられている。これら絞り板1a、1b、1cを取り付けた直線ガイド機構8a、8b、8cの上には、それぞれガイドローラ6a、6b、6cが取り付けられ、全体が中空円盤状のカム7の中に収容されている。カム7は、その内周面が3等分され、3等分された内周面7a、7b、7cがカム面となっている。そして、ガイドローラ6a、6b、6cは、それぞれカム7の内周面7a、7b、7cに、付勢機構9a、9b、9cの付勢力によって当接するようになっている。カム7の内周面7a、7b、7cは同じ形状とされており、カム7は、絞り中心Oを中心として回転するようになっている。
【0018】
従って、図1(b)における正六角形の頂点A、B、Cと絞り中心との距離は常に同一に保たれ、カム7が回転すると、OA=OB=OCの関係を保ったまま、これらの大きさが変化し、中心にできる正六角形の穴5の大きさが連続的に変化する。内周面7a、7b、7cの形状は、カムとしての役割を果たすものであれば特に規制はないが、絞り中心Oを中心とする螺旋形状とすると、カム7の回転角と正六角形の穴5の大きさに比例関係が成り立つので好ましい。
【0019】
なお、図1(a)に示された切り欠き部2の向きを左右逆にして、正六角形の頂点を絞り板の中心側に配置し、図1(b)のように組み立てても、全く同じ作用効果が得られる。
【0020】
また、本実施の形態では、カム7の内周面にガイドローラ6a、6b、6cが当接するように配置しているが、円盤状のカムの外周面にガイドローラ6a、6b、6cが当接するように配置しても、全く同じ作用効果が得られる。
【0021】
また、本実施の形態では、3枚の絞り板を用いて正六角形を構成する場合は、2つの辺のなす角度が120°になるように設定しているが、単なる六角形を形成すれば良いのであれば、これに限られない。
【0022】
なお、図1(a)に示すような絞り板1を形成する場合に、切り欠き部2を機械加工で形成すると、以下のような問題が発生する場合がある。すなわち、絞り板1の切り欠き部2(穴)で隣り合う2辺3と4を形成しているため、隣り合う2辺3と4の交点部の形状は、切り欠き部2(穴)の加工精度に依存してしまう。理想的には隣り合う2辺3と4は交点で交わらなければならないが、現実にはエッチング等で加工した絞り板の隣り合う2辺3と4の交点付近には数十μmから100μm程度のRがついてしまっている。そのため、開口径を100μm以下まで小さくしていくと、このRの影響で開口の形状が2n角形から外れ、n角形に近づいていってしまう。つまり、小径では開口形状が円形からずれる方向になり、また、開口径変化の直線性もずれてしまう。
【0023】
これを避けるためには、絞り板1を、2枚の板を重ね合わせて形成することが好ましい。すなわち、図3(a)に示すように、正6角形の一つの辺となる部分8を含む開口部2’を有する1枚の板1’と、図3(b)に示すように、板1’と同型で、正6角形の一つの辺となる部分9を含む開口部2”を有する1枚の板1”を、板1”を反転させて重ね合わせ、図3(c)に示すように、図1(a)に示すものと同じ形状を有する絞り板1を形成する。このようにすると、正6角形の2つの辺3と4の交点部分は機械加工で形成されていなくなるので、前述のような問題の発生を防止することができる。
【0024】
一般にn枚の絞り板を使用して正2n角形の穴を形成したい場合は、絞り中心を中心として等間隔に放射状にのびるn本(nは3以上の整数)の中心線に対し、正2n角形の内角の1/2だけ+側に傾いた1辺を含み、かつ前記絞り中心を包含する切り欠き部を有する板と、正2n角形の内角の1/2だけ−側に傾いた1辺を含み、かつ前記絞り中心を包含する切り欠き部を有する板を2枚重ね合わせて1枚の絞り板とすることにより、正2n角形の隣り合う2辺を形成する。
【0025】
例えば正6角形の穴を形成する場合、板厚を0.03mmとすると最大0.18mm光軸方向のずれが生じる。しかし、コンフォーカル顕微鏡のピンホールにこの機構を用いる場合、ピンホール位置での焦点深度はこれより十分大きくなるので、このずれは問題にならない。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施の形態の例を説明するための図である。
【図2】本発明の実施の形態の例を説明するための図である。
【図3】絞り板の形成方法の例を示す図である。
【図4】従来の絞り機構の例を示す図である。
【符号の説明】
【0027】
1,1a,1b,1c…絞り板、1’,1”…板、2,2’,2”…切り欠き部、3,3a,3b,3c…辺、4,4a,4b,4c…辺、5…穴、6a,6b,6c…ガイドローラ、7…カム、7a,7b,7c…内周面、8,9…辺、8a,8b,8c…直線ガイド機構、9a,9b,9c…付勢機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絞り中心を中心として等間隔で放射状に伸びるn(nは3以上の整数)本の中心線を含むような切り欠き部(穴)を有するn個の絞り板が放射状に、重ね合わせて配置され、前記切り欠き部は、前記絞り中心を包含し、かつ、その周の少なくとも一部は2n角形の隣り合う2辺の形状を有し、前記隣り合う2辺は、前記中心線に対して対称とされ、その結果、これら絞り板により、前記絞り中心を中心とする2n角形の穴が形成され、かつ、前記絞り中心を中心として回転するカムが設けられ、当該カムは、回転中心を中心として同一形状のn個の部分に分けられ、各部分には前記回転中心からの距離が回転角の関数であるカム面が形成され、一方、前記絞り板にはカム追従部材が設けられ、当該カム追従部材は前記カム面に当接し、前記カムの回転に伴って、前記各々の絞り板は、前記2n角形の頂点が、前記絞り中心から等距離にあるように、揃って、前記中心線に沿って移動可能とされていることを特徴とする絞り機構。
【請求項2】
前記絞り板が、同じ形状を有する2枚の板の片方を反転させ、重ね合わせて形成されたものであることを特徴とする請求項1に記載の絞り機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−233331(P2007−233331A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−255524(P2006−255524)
【出願日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】