説明

給水ゴムローラ

【課題】全幅にわたって均一な給水が可能で、生産性および使用上の作業性もよい給水ゴムローラ10を提供する。
【解決手段】芯材11の外周部に形成するゴム層を、下巻きゴム層12と、該下巻きゴム層12より硬度が硬い上巻きゴム層14とからなる二層構造とし、前記上巻きゴム層14の両端に、少なくとも芯材11の外周部近傍まで延びて前記下巻きゴム層12の両端を覆う被覆部15を設けた構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オフセット印刷機などに使用する給水ゴムローラに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、オフセット印刷機は、図3に示すように、大型のローラ(版胴)1と、大口径のローラ(ブランケット胴)3と、複数の小径インキローラ群4と、小径の給水ゴムローラ7等からなる給水ゴムローラ群6とで構成されている。ローラ1は、インキによって図柄等を形成するために、表面にフォトレジスト処理を施したアルミニウム製の板等の刷版2が装着されている。大口径のローラ3は、前記刷版2からインキを受け取り、紙に転写するゴム板を巻回したものである。小径インキローラ群4は、前記刷版2にインキを供給するものである。給水ゴムローラ7は、刷版2の非画線部に水を供給するものである。なお、5はインキ壺、8はクロムローラ、9は水舟である。
【0003】
そのうち、前記給水ゴムローラ7は、刷版2上のインキに接触するため、耐インキ性を具備させる必要があり、一般に、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)を主体に充填剤(5〜15重量%)とフタル酸エステルやキシレン樹脂等の可塑剤(20〜40重量%)を加えた単層の合成ゴムで作られている。また、給水ゴムローラ7は、刷版2へ安定して最適な水量を供給するため、刷版2に所定圧力(例えば、線圧0.5〜1.0kg/cm)で所定ニップ巾(例えば、6〜8mm)となるように押圧する必要がある。同様に、給水ロムローラ7は、クロムローラ8から所定量の水を均一に得るために、該クロムローラ8に所定圧力で押圧する必要がある。そのため、従来においては、前記給水ゴムローラ7は、その硬度(JIS−A)を20°〜25°としている。
【0004】
しかし、前記給水ゴムローラ7を使用した給水ゴムローラ群6は、各ローラの軸方向であり幅方向である両端部分が中央部分より湿し水が多く供給され易い傾向にあり、この湿し水の不均一な供給が、印刷の品質に影響を与えるという問題がある。この問題が生じる原因の1つとしては、図4に示すように、クロムローラ8に対して給水ローラ7を所定圧力で押圧して吸水量を調整する際に、給水ローラ7の外周部のゴム層7aの端面が膨出するように変形し、その変形部分の水が充分に搾り取れないために生じると考えられている。言い換えれば、給水ローラ7の両端部での水上がりが多くなるために生じると考えられている。
【0005】
本発明はこの種の問題の発生を防止するものであり、その給水ゴムローラに関する先行技術文献情報としては次のものがある。
【0006】
【特許文献1】実開昭64−48237号公報
【0007】
この特許文献1では、表面に親水性ゴム層を設けた給水ローラにおいて、その両端に前記親水性ゴム層より硬度が硬いリング状ゴム層を固着した構成としている。これにより、給水ローラの両端部からの不必要な水上がりをなくし、全幅にわたって均一な量の湿し水を供給できるようにしている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記特許文献1に記載の給水ローラは、親水性を有するゴム層の両端部に位置するように、芯材に対して薄肉のリング状ゴム層を固着する必要があるが、その加工は非常に困難である。具体的には、前記リング状ゴム層は、薄肉であるため直径方向に力が加わると、芯材との固着が剥がれ易い。そのため、この芯材との固着を非常に強固にする必要があり、その加工が困難であるうえ、生産性が悪いという問題がある。
【0009】
また、前記特許文献1に記載の給水ローラは、外周部のゴム層が単層であるため、使用につれてその直径が収縮し、当初に設定した押し込み量では所定のニップ巾が得られなくなり、所定の印刷品質を得られなくなる。そのため頻繁に給水ゴムローラの刷版などへの押し込み量を調整しなければならず、作業性は勿論、生産効率が悪いという問題がある。
【0010】
そこで、本発明では、全幅にわたって均一な給水が可能で、生産性および使用上の作業性もよい給水ゴムローラを提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するため、本発明の給水ゴムローラは、芯材の外周部に形成するゴム層を、下巻きゴム層と、該下巻きゴム層より硬度が硬い上巻きゴム層とからなる二層構造とし、前記上巻きゴム層の両端に、少なくとも芯材の外周部近傍まで延びて前記下巻きゴム層の両端を覆う被覆部を設けた構成としている。
【0012】
この給水ゴムローラでは、前記下巻きゴム層を硬度(JIS−A)が30°以下で前記両ゴム層の合計厚さの60%以上の厚さとする一方、前記上巻きゴム層を可塑剤含有率を15重量%以下とすることにより硬度(JIS−A)を40°以上とし、かつ、その厚さを前記両ゴム層の合計厚さの40%以下とすることが好ましい。即ち、インキ等に直接接触する上巻きゴム層の可塑剤含有率を少なく(好ましくは零)して、可塑剤のインキ等による抽出量を少なくして給水ゴムローラの直径の収縮を出来るだけなくすように構成している。
【0013】
または、前記下巻きゴム層を硬度(JIS−A)が30°以下で前記両ゴム層の合計厚さの60%以上の厚さとする一方、前記上巻きゴム層を液状ポリマーの使用により非抽出性とし、硬度(JIS−A)を40°以上とし、その厚さを前記両ゴム層の合計厚さの40%以下とすることが好ましい。即ち、インキ等に直接接触する上巻きゴム層には抽出性のある可塑剤を含有させず、給水ゴムローラの直径の収縮は殆どない構成としている。
【0014】
また、前記被覆部の幅方向の寸法を15mm以上とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の給水ゴムローラでは、下巻きゴム層より硬度が硬い上巻きゴム層の両端に、前記下巻きゴム層の両端を覆う被覆部を設けているため、クロムローラなどに所定圧力で押圧して吸水した際に、ゴム層の端面が膨出するように変形することを防止できる。そのため、給水ゴムローラの幅方向全体にわたって均一な含有量で湿し水を吸水および給水でき、良好な印刷品質を得ることができる。また、下巻きゴム層の外周部を覆うように上巻きゴム層を形成することにより前記被覆部を形成できるため、その加工が容易で生産性を向上できる。さらに、軟質な下巻きゴム層の表面に硬質な上巻きゴム層を設けた構成であるため、所定のニップ巾を得ることができるうえ、使用につれて直径が収縮する問題も防止できる。その結果、刷版などへの押し込み量を調整する必要がなく、作業性は勿論、印刷に係る生産効率を向上できる。
【0016】
具体的には、前記下巻きゴム層を硬度(JIS−A)が30°以下で前記両ゴム層の全体厚さの60%以上とし、前記上巻きゴム層を硬度(JIS−A)40°以上で前記両ゴム層の全体厚さの40%以下としているため、給水ゴムローラの表面硬度は従来のものより硬いが、下巻きゴム層を硬度(JIS−A)30°以下と軟らかく、しかもその厚さを両ゴム層の合計厚さの60%以上と厚くして全体として従来の給水ゴムローラと同等の柔軟性になるようにしたことから所定線圧で所定ニップ巾を得ることができる。
【0017】
また、上巻きゴム層が、可塑剤含有率が15重量%以下(好ましくは零)のゴム材、あるいは、可塑剤の代りに液状ポリマーを添加したゴム材からなるため、使用中に、インキや湿し水により可塑剤等が抽出し、給水ゴムローラの直径が収縮することを抑制できる。その結果、この直径の収縮に基づく線圧、ニップ巾の変化は極めて少なく、単層で構成した従来においては、1ヶ月毎にニップ巾を調整する必要があったが、その調整期間を長期化することができる。
【0018】
特に、前記硬度設定および材料を含有させた給水ゴムローラでは、前記被覆部の幅方向の寸法を15mm以上で形成することにより、両端での膨出を確実に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面に従って説明する。
【0020】
図1(A),(B)は、本発明の実施形態に係る給水ゴムローラ10を示す。この給水ゴムローラ10は、両端から軸を突設した金属製の芯材11の外周部に、下巻きゴム層12と上巻きゴム層14とからなる二層構造のゴム層を形成したものである。
【0021】
前記下巻きゴム層12は、可塑剤含有率を比較的高くして硬度(JIS−A)を30°以下とした軟質ゴムからなる。この下巻きゴム層12の両端には、ライニング加工後に切削加工を施すことにより後述する上巻きゴム層14を固着するための段部13が形成されている。
【0022】
前記上巻きゴム層14は、可塑剤含有率を15重量%以下、好ましくは零とすることにより硬度(JIS−A)を40°以上とし、従来の単層構造の給水ゴムローラ10より硬く、また、前記下巻きゴム層12より硬い硬質ゴムからなる。この上巻きゴム層14は、前記下巻きゴム層12の表面に更にライニング加工を施すことにより、前記段部13上を含む筒状に形成される。これにより、上巻きゴム層14には、前記段部13の外周部に位置し、芯材11の外周部近傍まで延びるとともに、その端面が前記段部13の端面と面一に位置し、前記下巻きゴム層12の両端の大部分を覆う被覆部15が形成される。
【0023】
前記下巻きゴム層12の段部13は、その外周面から芯材11の外周面までの直径方向の寸法s1を2mm以下としている。ここで、2mm以下とは、段部13を形成しない零を含んでいる。即ち、段部13は必ずしも形成する必要はない。しかし、段部13を形成しない場合には、被覆部15の内端を芯材11に対して固着する必要があり、これらの固着強度を充分に確保する加工は非常に困難であるため、段部13を形成するのが好ましい。また、段部13を2mmより大きい寸法で形成した場合には、前記被覆部15の直径方向の寸法が小さくなり、下巻きゴム層12の外側への膨出を確実に防ぐことができないため、2mm以下とすることが好ましい。
【0024】
また、本実施形態では、前記給水ゴムローラ10の軸方向であり被覆部15の幅方向である寸法s2を15mm以上としている。さらに、下巻きゴム層12の厚さは、両ゴム層12,14の合計厚みの60%以上、上巻きゴム層14の厚さは、両ゴム層12,14の合計厚みの40%以下としている。但し、上巻きゴム層14の厚みは、ゴムローラ製作上、2mm以上であることが好ましい。
【0025】
前記被覆部15の幅方向の寸法s2、および、前記下巻きゴム層12と上巻きゴム層14との硬度および厚さの比率は、本願出願の発明者等が実験に基づいて検討した結果、見出したものである。具体的には、まず、下記の第1実験例により、下巻きゴム層12と上巻きゴム層14との硬度および厚さの比率の最適値を見出した。ついで、第2実験例により、給水ゴムローラ10の直径が収縮する原因となるフタル酸エステルやキシレン樹脂等の可塑剤の含有率に関する最適値を見出した。その後、第3実験例により、被覆部15の最適な幅方向の寸法s2を見出している。
【0026】
(第1実験例)
まず、本発明者等は、上下二層ゴム構造の給水ゴムローラ10と単層ゴム構造の給水ゴムローラ10において、その硬度、厚みと線圧−ニップ巾特性について検討した。検討給水ゴムローラ10は、直径が50mmの芯材11に、
ロ.硬度(JIS−A)50°、厚さ3mmの上巻きゴム層14と、硬度(JIS−A)20°、厚さ7mmの下巻きゴム層12とからなる第2の第1本発明品aと、
イ.硬度(JIS−A)40°、厚さ4mmの上巻きゴム層14と、硬度(JIS−A)30°、厚さ6mmの下巻きゴム層12とからなる第1の第2本発明品bと、
ハ.硬度(JIS−A)30°、厚さ10mmの単層からなる従来品である第1比較品cと、
ニ.硬度(JIS−A)50°、厚さ10mmの単層からなる第2比較品dと、
ホ.硬度(JIS−A)50°、厚さ5mmの上巻きゴム層14と、硬度(JIS−A)20°、厚さ5mmの下巻きゴム層12とからなる第3比較品e
の5種類の給水ゴムローラ10について、そのニップ巾−線圧特性を測定したところ、図2(A),(B)に示す結果となった。
【0027】
即ち、第1本発明品aは現在使用されている第1比較品cと同様の特性を示し、何ら問題なく使用できる。第2比較品dでは、第1比較品cと同一線圧で押さえるとニップ巾が非常に小さくなり、最適な水量を供給するための調整範囲が殆どなく、良好な印刷ができないばかりか、所定のニップ巾を確保するため線圧を大にすると水の供給量が少なくなり、必要な水量を供給することができなくなる。また、第3比較品eのように、ゴム層を第1本発明品aと同様硬度のゴムで二層構造としても、両ゴム層12,14の厚さをそれぞれ5mmとして、上巻きゴム層14の厚さが全体厚さの40%より大きくすれば、単層のものに近い特性となり、適正なニップ巾を確保することができない。これに対して第2本発明品bは、第1本発明品aと比較すると得られるニップ巾は低下するが、実際に使用して良好な印刷を得ることはできる。
【0028】
したがって、本発明品において、所定線圧で所定ニップ巾を確保するためには、他の実験結果等を考慮して上巻きゴム層14の厚さは両ゴム層の合計厚みの40%以下にする必要がある。
【0029】
(第2実験例)
つぎに、可塑剤の含有量とインキに対する抵抗性(抽出性)を確認するために、ゴムに対する可塑剤含有率を、0重量%,10.0重量%,15.0重量%,20.0重量%,30.0重量%とした5g立方体のゴムブロックをインキに浸漬して室内(室温20℃)に置き、15日後、30日後に取り出してその重量を測定し、その重量変化(パーセント)を調べたところ、表1に示す結果となった。
【0030】
【表1】

【0031】
また、可塑剤ではないが、前記可塑剤と同効を奏する添加剤として、例えば、液状NBR(ニトリルゴム系)、液状CR(ネオプレンゴム系)、液状BR(ブタジエン系)、液状ウレタン(ポリエステル系、ポリエーテル系)等の液状ポリマーがある。そして、この液状ポリマーはゴム中に添加しても非抽出性を示す。
【0032】
そこで、前記可塑剤の代りに液状ポリマー(例えば、液状NBR)を添加したゴムを、前述の可塑剤含有ゴムブロックと同様条件でインキに浸漬してその重量変化(パーセント)を調べたところ、表2に示す結果となり、インキに対して優れた抵抗性を示すことが判明した。
【0033】
【表2】

【0034】
即ち、上巻きゴム層14はその可塑剤含有率が15重量%以下であれば、可塑剤の抽出による重量の変化が少なく、また、可塑剤の代りに液状ポリマーを添加した上巻きゴム層14でも液状ポリマーの抽出による重量の変化が少なく、インキに対して優れた抵抗性を示すことが判明した。このことは使用中に、給水ゴムローラ10の直径が収縮しにくいことを示している。なお、湿し水に対しても同様効果を奏した。
【0035】
しかしながら、可塑剤の含有率を15重量%以下あるいは液状ポリマーのみを添加して硬度(JIS−A)を40°以上としたゴムは、従来の給水ゴムローラ10の硬度(JIS−A)より高いため、硬度(JIS−A)40°以上の前記ゴムを単層で構成した給水ゴムローラ10は、刷版2、その他のロール(クロムローラ8)に対して所定の線圧で所定のニップ巾を設定することはできない。
【0036】
したがって、本発明においては、上巻きゴム層14を硬度(JIS−A)40°以上とするものの下巻きゴム層12に軟質ゴムを適用することにより全体として十分な柔軟性を付与することで刷版2等に対し所定線圧で所定のニップ巾を得るようにしている。
【0037】
なお、前述の上巻きゴム層14において、可塑剤を含有させる場合においても、若干の液状ポリマーを添加してもよいことは勿論である。
【0038】
(第3実験例)
最後に、本発明者等は、直径が53mmの芯材11に、硬度(JIS−A)40°、厚さ6mmの上巻きゴム層14と、硬度(JIS−A)30°、厚さ4mmの下巻きゴム層12とからなり、かつ、前記段部13の寸法s1を2mmとした二層構造のゴム層に対し、前記被覆部15の幅方向の寸法s2を、0(零)mm、10mm、15mm、20mm、25mmとした給水ゴムローラ10について、各部分での湿し水の水上がり量を測定した。
【0039】
その結果、被覆部15の幅方向の寸法s2が0(零)mmの給水ゴムローラ10は、両端部分での水上がり量が中央部分より多く、不均一であるため良好な印刷品質を確保できない。また、寸法s2が10mmの給水ゴムローラ10は、被覆部15を形成していない0mmの給水ゴムローラ10と比較すると、両端部分での水上がり量と中央部分での水上がり量との差が少なくなったが、良好な印刷品質を充分に確保しているとは言えない。
寸法s2が15mmの給水ゴムローラ10は、両端部分と中央部分との水上がり量の差は有するが、良好な印刷品質は確保できる。寸法s2が20mmの給水ゴムローラ10は、両端部分と中央部分との水上がり量の差は若干有するが、良好な印刷品質は確保できる。寸法s2が25mmの給水ゴムローラ10は、両端部分と中央部分との水上がり量の差が殆どなく、良好な印刷品質を充分に確保できる。
【0040】
したがって、本発明において、給水ゴムローラ10での湿し水の水上がり量を均一とし、良好な印刷品質を確保するには、前記被覆部15の幅方向の寸法s2を15mm以上にする必要がある。
【0041】
このように、本発明の給水ゴムローラ10では、下巻きゴム層12より硬度が硬い上巻きゴム層14の両端に、前記下巻きゴム層12の両端を覆う被覆部15を設けているため、クロムローラ8などに所定圧力で押圧して吸水した際に、ゴム層の端面が膨出するように変形することを防止できる。そのため、給水ゴムローラ10の幅方向全体にわたって均一な含有量で湿し水を吸水および給水でき、良好な印刷品質を得ることができる。また、下巻きゴム層12の外周部を覆うように上巻きゴム層14を形成することにより前記被覆部15を形成できるため、その加工が容易で生産性を向上できる。特に、前記硬度設定および材料を含有させた給水ゴムローラ10では、前記被覆部15の幅方向の寸法を15mm以上で形成することにより、両端での膨出を確実に防止することができる。
【0042】
また、従来では、図4に示すように、給水ゴムローラ10の両端部分での水の過剰供給を考慮し、印刷を施す刷版2を備えたローラ1から該給水ゴムローラ10を経て給水側のクロムローラ8へ向かうにつれて各ローラの全長が長くなるように構成していた。しかし、本発明では、両端部分での過剰供給を防止できるため、該給水ゴムローラ10を搭載する機器では、前記構成を行う必要がない。言い換えれば、使用する機器での給水構造に必要な占有面積を削減し、機器の小型化をも図ることができる。
【0043】
さらに、表面硬度が前述のように従来の給水ゴムローラ10より硬いため、使用中にインキ滓や紙粉等が給水ゴムローラ10の表面に食い込みがなく、固着することがない。したがって、給水ゴムローラ10の表面への異物付着現象がなく、仮に付着しても食い込みがないため洗浄作業性が良好であるという効果も奏する。
【0044】
さらにまた、軟質な下巻きゴム層12の表面に硬質な上巻きゴム層14を設けた構成であるため、所定のニップ巾を得ることができるうえ、使用につれて直径が収縮する問題も防止できる。その結果、刷版などへの押し込み量を調整する必要がなく、作業性は勿論、印刷に係る生産効率を向上できる。
【0045】
具体的には、前記下巻きゴム層12を硬度(JIS−A)が30°以下で前記両ゴム層の全体厚さの60%以上とし、前記上巻きゴム層14を硬度(JIS−A)40°以上で前記両ゴム層の全体厚さの40%以下としているため、給水ゴムローラ10の表面硬度は従来のものより硬いが、下巻きゴム層12を硬度(JIS−A)30°以下と軟らかく、しかもその厚さを両ゴム層の合計厚さの60%以上と厚くして全体として従来の給水ゴムローラ10と同等の柔軟性になるようにしたことから所定線圧で所定ニップ巾を得ることができる。
【0046】
また、上巻きゴム層14が、可塑剤含有率が15重量%以下(好ましくは零)のゴム材、あるいは、可塑剤の代りに液状ポリマーを添加したゴム材からなるため、使用中に、インキや湿し水により可塑剤等が抽出し、給水ゴムローラ10の直径が収縮することを抑制できる。その結果、この直径の収縮に基づく線圧、ニップ巾の変化は極めて少なく、単層で構成した従来においては、1ヶ月毎にニップ巾を調整する必要があったが、その調整期間を長期化することができる。特に、上巻きゴム層14の硬度(JIS−A)が50°で可塑剤含有率が零のもの、あるいは可塑剤の代りに液状ポリマーを添加したものでは使用6ヶ月経ても調整作業を必要とせず、また、上巻きゴム層14の硬度(JIS−A)が50°で可塑剤含有率15重量%のものでも使用4ヶ月間は調整作業を必要としないという効果を奏する。
【0047】
なお、本発明の給水ゴムローラ10は前記実施形態の構成に限られず、種々の変更が可能である。特に、前記構成の給水ゴムローラ10の使用用途はオフセット印刷機に限られず、所定のローラに所定量の水を給水するものであれば適用でき、前記構成とすることにより、同様の作用および効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】(A),(B)は本発明の実施形態に係る給水ゴムローラの断面図である。
【図2】(A)は第1実験例の結果を示す図表、(B)は(A)をグラフ化した給水ゴムローラの線圧−ニップ巾特性図である。
【図3】オフセット印刷機の概略図。
【図4】従来の給水ゴムローラの問題点を示す部分断面図である。
【符号の説明】
【0049】
1…ローラ
2…刷版
8…クロムローラ
10…給水ゴムローラ
11…芯材
12…下巻きゴム層
13…段部
14…上巻きゴム層
15…被覆部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯材の外周部に形成するゴム層を、下巻きゴム層と、該下巻きゴム層より硬度が硬い上巻きゴム層とからなる二層構造とし、前記上巻きゴム層の両端に、少なくとも芯材の外周部近傍まで延びて前記下巻きゴム層の両端を覆う被覆部を設けたことを特徴とする給水ゴムローラ。
【請求項2】
前記下巻きゴム層を硬度(JIS−A)が30°以下で前記両ゴム層の合計厚さの60%以上の厚さとする一方、前記上巻きゴム層を可塑剤含有率を15重量%以下とすることにより硬度(JIS−A)を40°以上とし、かつ、その厚さを前記両ゴム層の合計厚さの40%以下としたことを特徴とする請求項1に記載の給水ゴムローラ。
【請求項3】
前記下巻きゴム層を硬度(JIS−A)が30°以下で前記両ゴム層の合計厚さの60%以上の厚さとする一方、前記上巻きゴム層を液状ポリマーの使用により非抽出性とし、硬度(JIS−A)を40°以上とし、その厚さを前記両ゴム層の合計厚さの40%以下としたことを特徴とする請求項1に記載の給水ゴムローラ。
【請求項4】
前記被覆部の幅方向の寸法を15mm以上としたことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の給水ゴムローラ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−175665(P2006−175665A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−369646(P2004−369646)
【出願日】平成16年12月21日(2004.12.21)
【出願人】(390003344)株式会社加貫ローラ製作所 (9)
【Fターム(参考)】