説明

給水冷却システム

【課題】 簡易な装置構成により、電力を使用することなく所定高さまで給水して冷却することが可能なため装置稼動コストの削減が可能であり、維持管理が容易である給水冷却システムを提供する。
【解決手段】 給水冷却システム10は、水を供給する水供給部11よりも所定高さ高い位置に設けられた多孔体13に接触するように通過し、水供給部よりも低い位置に設けられた水排出口12aまで延長する通水路を有し、通水路には水供給部から水排出口まで水を満たすための水補給管14、空気抜き管15及び開閉バルブ16,17,18が設けられ、多孔体は、大気圧下における空気侵入は防止する一方で、水蒸気又は水の流出は許容する微細な孔を有するものであり、多孔体の微細な孔から水蒸気又は水の流出により多孔体の周囲を冷却することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯水層、水路及び池等の水供給部から水を供給して周囲を冷却する給水冷却システムに関する。
【背景技術】
【0002】
都市部の気温が郊外よりも高くなるヒートアイランド現象が問題となっており、その原因としては、コンクリート構造物やアスファルト舗装等による蓄熱量の増加、緑地面積の減少に伴う蒸発潜熱の減少、人口集中による排熱量の増加等が挙げられる。このようなヒートアイランド現象を抑制するために、地下水を帯水層から汲み上げて舗装道路や植生へ散水することが考えられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、道路の舗装層内の保水部に地下水を供給する装置が提案されている。この装置は、太陽電池がコントローラを介して送電管により地下水送出ポンプと接続され、地下水送出ポンプのON/OFF制御がコントローラにより行われている。一般的に、太陽電池により発電された電力を利用する場合には、電流を変換する装置や、電気を蓄電する装置等の複雑な設備が必要であるため、これら装置やコントローラの維持管理は煩雑であり、手間が掛かることが考えられる。
【0004】
また特許文献2には、浸透性舗装に散水して外気温の上昇を抑制する舗装構造が提案されている。これは、傾斜した浸透性舗装よりも高い位置と低い位置の両方に貯水容器が設けられ、高い位置の貯水容器から浸透性舗装に放水し、傾斜に沿って低い位置の容器まで水を流すことにより、水の気化熱により舗装面の温度低下を図るものであり、低い位置の貯水容器からはポンプにより高い位置の貯水容器まで水を還流させるものである。
この舗装構造は、低所から高所に水を圧送するポンプを必要とするものであり、このポンプを稼動させるための電力コストは小さなものではない。またヒートアイランド現象の対策において、熱排出源でもある火力又は原子力発電所等から供給された電気を動力として使用することには抵抗感もある。
【特許文献1】特許第3872037号公報
【特許文献2】特開2003−82607号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上のような課題を鑑みて本発明の目的は、簡易な装置構成により、電力を使用することなく所定高さまで給水して冷却することが可能なため装置稼動コストの削減が可能であり、維持管理が容易である給水冷却システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では、水を供給する水供給部よりも所定高さ高い位置に設けられた多孔体に接触するように通過し、前記水供給部よりも低い位置に設けられた水排出口まで延長する通水路を有し、当該通水路には水供給部から水排出口まで水を満たすための水充填手段が設けられ、前記多孔体は、大気圧下における空気侵入は防止する一方で、水蒸気又は水の流出は許容する微細な孔を有するものであり、当該多孔体の微細な孔から水蒸気又は水の流出により当該多孔体の周囲を冷却することを特徴とする給水冷却システムが提供される。
ここで、前記通水路は、水供給部から10m高い位置を限界として通過させることが可能であるが、この限界高さは6m低度までとするのが好ましい。
【0007】
本発明の給水冷却システムにおいて、前記水充填手段は、前記通水路に水補給路及び空気抜き路をそれぞれ開閉バルブを介して接続することにより構成可能である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の給水冷却システムでは、水供給部の水面が水排出口よりも高い位置に設けられるため、水充填手段により通水路にいったん水を満たしてしまえば、これ以外に電力等によるエネルギーを与えなくても、水が水供給部から通水路に吸い上げられ、所定高さに設けられた多孔体内を通過して水排出口に至るまで継続的に水を流し続けることが可能になる。また通水路には、空気侵入は防止する一方で、水蒸気又は水の流出は許容する微細な孔を有する多孔体が設けられるので、多孔体の微細な孔から水蒸気又は水が流出することにより多孔体の周囲を冷却することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0010】
本発明の給水冷却システム10は、図1に示したように、水供給部としての水路11と、この水路11の水面11aよりも高い位置を通過し、水路11の水面11aよりも低い位置に設けられた水排出口12aまで延長する通水路としてのパイプ12と、パイプ12の途中に接続されて水を通過させ得る貫通孔を有する多孔体13と、水充填手段としての水補給管14、空気抜き管15及び開閉バルブ16,17,18とを備える。
【0011】
前記多孔体13は、内部に水を通過させることができる通水路としての貫通孔が形成されたものであれば良く、例えば、セラミックパイプを使用することが可能である。このセラミックパイプは、大気圧下における空気侵入は防止する一方で、水蒸気又は水の流出は許容する微細な孔を有するものを使用する。
また多孔体13は、セラミックパイプ以外にも、複数の貫通孔が並行して形成されたセラミック製の板体(図示せず)を使用することも可能であり、このような板体を公園などのベンチにおける座板や背もたれ、建物や通路などにおける床材として使用しても良い。
【0012】
前記パイプ12には、水供給部側の端部付近に開閉バルブ16を介して水補給管14を接続し、この水補給管14により水道等からの水を供給可能にする。ここで、開閉バルブ16は、水路11からの水をパイプ12内に通過させるときには水補給管14を閉鎖し、水補給管14からの水をパイプ12内に通過させるときには水路11からの管路を閉鎖することができるものを使用する。またパイプ12の比較的高い位置には空気抜き管15を接続し、この空気抜き管15の途中に開閉バルブ17を設け、さらに、パイプ12の水排出口12a付近に開閉バルブ18を設ける。
パイプ12は、一端が常に水路11の水面11aより下方に位置するように設け、水排出口12aは水路11の水面11aよりも低い位置(ΔH)まで延ばし、図示したように
J字状に曲げて下端開口から水がオーバーフローするように形成し、排水路19又は池(図示せず)に臨ませれば良く、特に、水排出口12aを水面19a下まで延ばす必要はない。この高低差ΔHは0.5cm以上であれば良いものであるが、ΔHを小さくすると水
の流出量を抑制できる一方で、地震等により外力が作用した場合には、パイプ12内における水供給側から排水側への水の流れに支障をきたす虞があり、これを防止するためには3cm以上とすることが好ましい。
【0013】
次に、本発明の給水冷却システム10の作用について説明する。
最初に、パイプ12及び多孔体13に水を満たすため、開閉バルブ16を操作して水路11からパイプ12への管路を閉鎖する一方で、水補給管14からパイプ12への管路は開放する。また開閉バルブ17は開放し、開閉バルブ18は閉鎖する。そして、水補給管14から水を供給すると、空気抜き管15からパイプ12内の空気が排出され、パイプ12内は水で満たされる。次に、開閉バルブ17を閉鎖した後に、開閉バルブ16を操作して水路11からパイプ12への管路を開放する一方で水補給管14からパイプ12への管路は閉鎖し、同時に、開閉バルブ18を開放する。これにより、パイプ12内の水は水排出口12aから排水路19に流れ落ちると共に、水路11の水が矢印で示したようにパイプ12内に吸い上げられ、所定高さに設けられた多孔体13内を通過して水排出口12aに至るまで継続的に水を流し続けることが可能になる。水は、多孔体13内を通過するときに、その微細な孔から水蒸気として流出し、その気化熱により多孔体13の周囲を冷却し、都市部におけるヒートアイランド現象を緩和する。
【0014】
なお、図示はしないが、給水冷却システム10を屋上緑化や人工地盤に適用することも可能である。図1では、給水冷却システム10の多孔体13を大気中に配置するものであったが、屋上緑化や人工地盤に適用する場合には、所定高さに設けられた土壌中に多孔体13を埋設し、多孔体13よりも下方の階層に水路11及び排水路19を配置し、パイプ12により水路11から多孔体13を介して排水路19まで連続する通水路を形成し、その他の構成を図1の給水冷却システム10と同様に設ければ良い。このとき、開閉バルブ16を操作して水路11からパイプ12への管路を閉鎖する一方で、水補給管14からパイプ12への管路は開放し、開閉バルブ17,18を閉鎖し、水補給管14から所定の圧力で水を供給すれば、多孔体13から流出する水量が増えて多孔体13の洗浄が可能になる。
【0015】
次に、上述のものとは異なる実施形態について図2を参照して説明する
図2の給水冷却システム30は、水供給部としての水路31と、水路31の水面31aよりも高い位置を通過し、水路31の水面31aよりも低い位置に水面32aを有する水路32まで延長する通水路としてのパイプ33と、パイプ33の途中に接続されて水を通過させる貫通孔を有する多孔体34と、開閉バルブ35を介してパイプ32に接続された吸引管36とを備える。
【0016】
ここで、多孔体34、パイプ33及び水路31,32が地中に敷設され、地上には植物が植えられる。多孔体34は図1と同様なセラミックパイプ又はセラミック製の板体を使用することが可能である。パイプ33の途中には、開閉バルブ37を介して給水管38を接続しても良く、この給水管38を通して水道水などをパイプ33に供給することが可能になる。
また両水路31,32内には凹部(図示せず)を形成するか、又は所定高さの仕切り壁(図示せず)を設け、これらの手段により水を溜めて水位が比較的高い箇所をそれぞれ形成し、これらの箇所にパイプ33の水送入口33a及び水排出口33bを延ばし、これら水送入口33a及び水排出口33bが常に水中に位置するようにする。図2に示したように、水路31内において水送入口33aが設けられた箇所の水位は、水路32内において水排出口33bが設けられた箇所の水位よりも、所定の高さΔH高くなるように設定され
る。ここで、この高低差ΔHは、3〜5cm以上とすることが好ましい。
【0017】
次に、給水冷却システム30の作用について説明する。
最初に、パイプ33及び多孔体34に水を満たすため、開閉バルブ35を開放し、開閉バルブ37を閉鎖し、吸引管36にポンプなどの吸引手段を接続してパイプ33内から空気を吸引して排出する。これにより、両水路31,32から水が吸い上げられて、パイプ33内が水で満たされる。次に、吸引手段を停止して開閉バルブ35を閉じると、パイプ33内の水が水排出口33bから水路32に流れ落ちると共に、水路31からは水送入口33aを介して水が吸い上げられ、これ以降、吸引手段を稼動させなくても、所定高さに設けられた多孔体34内を通過して水排出口32aに至る継続的な水の流れが形成される。水は、多孔体34内を通過するときに、その微細な孔から水として地中に流出し、地上の植物に給水されることにより、この周囲地面を冷却し、都市部におけるヒートアイランド現象を緩和する。
【0018】
さらに、図1及び図2とは異なる実施形態について図3を参照して説明する。
図3の給水冷却システム50では、擁壁51により支持された地盤上の歩道52等に適用されるものであり、水供給部としての帯水層53まで給水管54が延長され、この給水管54に連通する通水容器55が帯水層53の水位よりも高所である地上面付近に配置され、この通水容器55に連通する排水管56が帯水層53の水位よりも低い位置まで延長され、これら給水管54、通水容器55及び排水管56により通水路が構成されている。図3の実施形態においては、ポンプ等の吸引手段が水充填手段として用いられる。
【0019】
ここで、通水容器55は歩道等に沿って所定の長さ延長するものであり、上面が多孔体からなる板体55aで形成され、側部55b及び底部55cが非透水性の材料から形成され、この底部55cに給水管54及び排水管56が接続される。多孔体の板体55aは、大気圧下の空気侵入は防止する一方で、水蒸気又は水の流出は許容する微細な孔を有するものであれば良く、例えば、セラミック等を使用する。通水容器55の上には、格子状の穴開き鋼製板(グレーチング)等からなる保護用の蓋57を設ける。
【0020】
前記給水管54は、慣用の井戸内(図示せず)に設けることが好ましい。井戸は慣用のものを使用可能であり、特に図示はしないが、例えば、給水管54より太いケーシングを給水管54よりも深くまで延長するように設け、ケーシングは地下水が内部に浸透するような透水部を有し、透水部には慣用の井戸に適用されるスクリーンが使用され、スクリーンは管体に多数の孔が形成され、管体の外表面に複数の枕線が所定間隔で固定され、枕線の外周に捲線が巻回されたものであり、スクリーンの外側の地山面との間に、直径3〜9mm程度の砂利が充填される。以上のような構成により、井戸のケーシング内に設けられた給水管54には、帯水層の水位面とほぼ同じ高さまで地下水が満たされる。
【0021】
前記排水管56の下端には排水量を調整する開閉バルブ56aが設けられ、排水管56の下端はポンプ等の吸引手段(図示せず)が接続可能に形成される。排水管56の下端は、帯水層53の水位よりも3cm以上低い位置まで延ばされ、図示したようにJ字状に曲げられて下端開口から水がオーバーフローするように形成される。排水管56の下方には、ここから流れ落ちる水を受ける排水溝58が設けられる。
【0022】
次に、給水冷却システム50の作用について説明する。
最初に、給水管54、通水容器55及び排水管56からなる通水路に水を満たすため、開閉バルブ56aを開いて、排水管56の下端にポンプ等の吸引手段を接続し、吸引手段を稼動させる。これにより、通水路内の空気は排出され、帯水層53から給水管54を介して水が吸い上げられ、通水容器55及び排水管56が水で満たされる。
次に、吸引手段を停止して排水管56から取り外すと、排水管56内の水が排水溝58へ向けて流れ落ち、これ以降、吸引手段を稼動させなくても、給水管54を介して帯水層53から水が吸い上げられ、帯水層53よりも高い位置に設けられた通水容器55内を通過して排水管56に至る継続的な水の流れが形成される。水は、通水容器55内を通過するときに、多孔体からなる板体55aの微細な孔から蒸発し、その気化熱により板体55aの周囲を冷却し、都市部におけるヒートアイランド現象を緩和する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明にかかる給水冷却システムの断面図である。
【図2】図1とは異なる実施形態のを示す断面図である。
【図3】図1及び図2とは異なる実施形態の給水装置の断面図である。
【符号の説明】
【0024】
10 給水冷却システム
11 水路(水供給部)
11a 水供給部の水面
12 パイプ(通水路)
12a 水排出口
13 多孔体(通水路)
14 水補給管(水充填手段)
15 空気抜き管(水充填手段)
16 開閉バルブ(水充填手段)
17 開閉バルブ(水充填手段)
18 開閉バルブ(水充填手段)
30 給水冷却システム
31 水路(水供給部)
31a 水路31の水面
32 水路
32a 水路32の水面
33 パイプ(通水路)
33a 水送入口
33b 水排出口
34 多孔体(通水路)
35 開閉バルブ
36 吸引管
50 給水冷却システム
53 帯水層(水供給部)
54 給水管(通水路)
55 通水容器(通水路)
56 排水管(通水路)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を供給する水供給部よりも所定高さ高い位置に設けられた多孔体に接触するように通過し、前記水供給部よりも低い位置に設けられた水排出口まで延長する通水路を有し、当該通水路には水供給部から水排出口まで水を満たすための水充填手段が設けられ、前記多孔体は、大気圧下における空気侵入は防止する一方で、水蒸気又は水の流出は許容する微細な孔を有するものであり、当該多孔体の微細な孔から水蒸気又は水の流出により当該多孔体の周囲を冷却することを特徴とする給水冷却システム。
【請求項2】
前記水充填手段は、前記通水路の両端付近に設けられた開閉バルブと、前記通水路に水を補給する水補給路と、前記通水路内から空気を抜き取るための空気抜き路とを含むものである請求項1に記載の給水冷却システム。
【請求項3】
前記水充填手段は、通水路の水送入口と水排出口の両端を水面下に配置するための手段と、通水路に開閉バルブを介して接続された吸引管とを含むものである請求項1に記載の給水冷却システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−91871(P2009−91871A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−266316(P2007−266316)
【出願日】平成19年10月12日(2007.10.12)
【出願人】(303057365)株式会社間組 (138)
【Fターム(参考)】