説明

給電回路

【課題】応答速度が速く所望の給電特性が得られる給電回路を提供する。
【解決手段】負荷電流ILによって給電部10,20に発生する電圧降下に応じた電流は、電流ミラー42,44で検出され、加算部45で加算されて電流ミラー46に与えられる。電流ミラー46からノードNBに出力される電流IBは、抵抗51で電圧VBに変換される。電圧VBが上昇すると、その上昇分に応じた補償用の電流I70が過渡応答改善部70からノードNAに出力される。電圧VBが低下すると、その低下分に応じた補償用の電流I60が過渡応答改善部60からノードNAに出力される。補償用の電流I60,I70は、電流ミラー46から出力される本来の電流IAと加算され、交流成分がキャパシタ48で除去されて直流成分が駆動部30に与えられる。駆動部30は、電流IA,I60,I70に応じた制御信号を生成して給電部10,20の負荷電流ILを制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電話交換機の加入者回路等における給電回路、特に給電回路の過渡応答改善技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図2は、下記特許文献1に開示された従来の加入者回路の構成図である。
この加入者回路は、他装置の試験に利用する加入者回路の立ち上がり特性を改善するもので、トランジスタ101,102、抵抗103,104,105、増幅器106,107,108,109、カレントミラー回路110,111,112、変換器113、及びコンデンサ114からなる給電回路119を有している。
【0003】
また、この加入者回路は、給電回路119から試験線120に接続するためのスイッチ122,123と、この試験線120に供給される負荷電流ILの有無を検出してスキャニング情報SCNを出力する負荷電流検出回路116と、給電回路119を制御するスイッチ115を具備している。更に、この加入者回路には、カレントミラー回路110の端子S2側に接続されたコンデンサ14に絶えずある一定以上の充電を行う電流源124と、このカレントミラー回路110の端子S1側に絶えずある一定以上の充電を行う電流源125が設けられている。なお、電流源124,125は同一容量に設定されている。
【0004】
この加入者回路において、給電回路119は、負荷電流ILによって発生する電圧Va,Vbを、それぞれ増幅器108,109で検出し、変換器113に伝達する。変換器113は、伝達された電圧Va,Vbの情報を合計し、この合計電圧に比例した帰還電流I2をカレントミラー回路112から引き込む。カレントミラー回路112は、帰還電流I2に対して一定(α)の比率の帰還電流I3(=α×I2)を出力する。帰還電流I3は、電流I4,I5に分流し、電流I4は交流差動電圧変動分としてコンデンサ114に流れ、電流I5は抵抗105を介してカレントミラー回路110に流れる。
【0005】
カレントミラー回路110は、帰還電流I5に対して一定(β)の比率の帰還電流I1(=β×I5)を、カレントミラー回路111に出力する。カレントミラー回路111は、増幅器106,107に制御信号を出力し、これにより、トランジスタ101,102によって所望の負荷電流ILが供給される。
【0006】
このとき、試験線120の負荷である抵抗117がスイッチ118でオン・オフされるような状態(例えば電話機のダイヤルパルス生成時)において、スイッチ118がオフのときは、負荷電流ILが流れないので帰還電流I3は殆ど流れず、コンデンサ114の端子間の電圧Vcは低い。
【0007】
次に、スイッチ118がオンになると、負荷電流ILが流れるので帰還電流I3は増加する。但し、スイッチ118がオンになった当初は、帰還電流I3の大部分がコンデンサ114に対する充電電流I4として流れる。そして、充電電流I4の漸減と共に漸増する帰還電流I5に比例して負荷電流ILが増加するので、この負荷電流ILの過渡応答が遅くなる。
【0008】
ここで、過渡応答の遅延を緩和するために設けられた電流源124では、スイッチ118がオフの時にでも、コンデンサ114を絶えずある一定以上の電圧に充電するようにしている。これにより、帰還電流I5の立ち上がりが速くなる。但し、電流源124による定電流は、本来の電圧Va,Vbに基づいた電流ではないので給電特性がずれてしまう。このため、電流源125からカレントミラー回路110に電流源124と同じ定電流を流すことで電流源124の定電流をキャンセルし、所望の給電特性が確保される。
【0009】
【特許文献1】特開平6−225045号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、前記加入者回路は、次のような2つの課題があった。
1つ目は、電流源124,125が供給する定電流は、電流源のばらつきにより、必ずしも一致せず、給電特性が所望の特性にならないという課題である。
【0011】
2つ目は、コンデンサ114の充電期間のみを考慮しているので、加入者回路内または線路及び端末に容量成分が存在する場合に、負荷電流ILが変化するとその容量成分の充電により、応答速度が遅くなるという課題である。
【0012】
本発明は、応答速度が速く所望の給電特性が得られる給電回路を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の給電回路は、制御信号に従って負荷回路に負荷電流を供給する給電手段と、前記給電手段に生ずる電圧降下を監視して該電圧降下に応じた電流を出力する監視手段と、前記監視手段から出力される電流に応じて第1のノードに第1の電流を出力し第2のノードに第2の電流を出力する電流ミラー手段と、前記第1のノードに出力される第1の電流の交流成分を除去する容量手段と、前記第2のノードに出力される第2の電流に応じた電圧を出力する抵抗手段と、前記抵抗手段から出力される電圧が上昇したときにその上昇分に応じた第1の補償電流を前記第1のノードに出力する第1の過渡応答改善手段と、前記抵抗手段から出力される電圧が低下したときにその低下分に応じた第2の補償電流を前記第1のノードに出力する第2の過渡応答改善手段と、前記電流ミラー手段と前記第1及び第2の過渡応答改善手段から前記第1のノードに出力される電流に基づいて前記制御信号を出力する駆動手段とを備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、負荷回路に電流を供給する給電手段の電圧降下を監視手段で監視し、その監視結果に応じて電流ミラー手段から第1のノードに第1の電流を出力し、第2のノードに第2の電流を出力する。第2の電流は抵抗手段によって電圧に変換され、この電圧が上昇すると第1の過渡応答改善手段から、その上昇分に応じた第1の補償電流が第1のノードに出力される。また、抵抗手段から出力される電圧が低下すると、第2の過渡応答改善手段からその低下分に応じた第2の補償電流が第1のノードに出力される。
【0015】
第1のノードに出力された第1或いは第2の補償電流は、電流ミラー手段から出力される第1の電流と加算され、この第1のノード接続された容量手段で交流成分が除去されて駆動手段に与えられる。これにより、駆動手段から電圧変動補償分を含む制御信号が給電手段に与えられる。
【0016】
従って、負荷回路に容量成分が存在しても、負荷電流の変動に伴うその容量成分の充電電流は、第1または第2の過渡応答改善手段による補償電流によって補われるので、遅延のない速い応答速度が得られるという効果がある。また、負荷電流の変動がなければ、第1及び第2の過渡応答改善手段による補償電流は生じないので、所望の給電特性が得られるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
この発明の前記並びにその他の目的と新規な特徴は、次の好ましい実施例の説明を添付図面と照らし合わせて読むと、より完全に明らかになるであろう。但し、図面は、もっぱら解説のためのものであって、この発明の範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0018】
図1は、本発明の実施例を示す加入者回路の構成図である。
この加入者回路は、負荷回路である加入者線SLが接続される端子1,2を有している。この加入者線SLは、電話機を含む線路抵抗RL及びこの電話機に設けられたスイッチSWと、線路間のキャパシタンスCLで構成されていると考えることができる。
【0019】
端子1と接地電位GNDの間には、加入者線SLに負荷電流ILを供給するための給電手段である給電部10が接続され、端子2と電源電位VBB(例えば、−48V)の間には、この加入者線SLから流れ込む負荷電流ILを制御する給電部20が接続されている。給電部10は、端子1にコレクタが接続されたPNP型トランジスタ(以下、「PNP」という)11を有している。PNP11のエミッタは抵抗12を介して接地電位GNDに接続され、ベースは差動増幅器(以下、「OP」という)13の出力側に接続されている。PNP11のエミッタは、抵抗14を介してOP13の一方の入力側に接続され、このOP13の他方の入力側は、抵抗15を介して接地電位GNDに接続されている。
【0020】
給電部20は、給電部10と対称的な構成となっており、端子2にコレクタが接続されたNPN型トランジスタ(以下、「NPN」という)21を有している。NPN21のエミッタは抵抗22を介して電源電位VBBに接続され、ベースはOP23の出力側に接続されている。NPN21のエミッタは、抵抗24を介してOP23の一方の入力側に接続され、このOP23の他方の入力側は、抵抗25を介して電源電位VBBに接続されている。
【0021】
給電部10,20は、駆動手段である駆動部30から与えられる電流によって駆動されるようになっている。駆動部30は、電流ミラーで構成され、入力端子に与えられる電流に比例した電流を出力するものである。この駆動部30の第1の出力側は給電部10の抵抗15の一端に接続され、第2の出力側は給電部20の抵抗25の一端に接続されている。
【0022】
端子1は抵抗41を介して電流ミラー42の入力端子に接続され、端子2は抵抗43を介して電流ミラー44の入力端子に接続されている。電流ミラー42の出力端子は、加算部45の入力端子に接続され、電流ミラー44の出力端子は、この加算部45の出力端子に接続されている。加算部45の出力端子は、電流ミラー手段である電流ミラー46の入力端子に接続されている。加算部45は、電流ミラーで構成され、2つの電流ミラー42,44から出力される電流を加算した大きさの電流を、電流ミラー46から引き出すものである。これらの抵抗41,43、電流ミラー42,44、及び加算部45は、負荷電流ILによって給電部10,20に生ずる電圧降下V10,V20を監視してその電圧降下に応じた電流I46を出力する監視手段を構成している。
【0023】
電流ミラー46は、2つの出力端子を有しており、第1の出力端子はノードNAに接続され、このノードNAに抵抗47と容量手段であるキャパシタ48の一端が接続されている。キャパシタ48は、電流ミラー46からノードNAに出力される電流の交流成分を除去するものである。抵抗47の他端はPNP49のエミッタに接続され、キャパシタ48の他端がこのPNP49のベースとPNP50のエミッタに接続されている。PNP50のベースは電源電圧VEE(例えば、−8V)に接続され、コレクタは電源電圧VBBに接続されている。そして、PNP49のコレクタが、駆動部30の入力端子に接続されている。
【0024】
電流ミラー46の第2の出力端子はノードNBに接続され、このノードNBと接地電位GND間に抵抗手段である抵抗51が接続されている。抵抗51は、電流ミラー46からノードNBに出力される電流に応じた電圧VBを出力するものである。ノードNBには、更に、過渡応答改善手段である過渡応答改善部60,70が接続されている。
【0025】
過渡応答改善部60は、立ち下り時の過渡応答を改善するためのもので、一端がノードNBに接続された直流成分カット用のキャパシタ61を有している。キャパシタ61の他端はPNP62のベースに接続され、このPNP62のエミッタが抵抗63を介して電源電位VDD(例えば、5V)に接続されている。更に、PNP62のベースは抵抗64を介して電源電位VDDに接続され、このPNP62のコレクタは、後述するスイッチ部80に接続されている。
【0026】
一方、過渡応答改善部70は、立ち上がり時の過渡応答を改善するためのもので、一端がノードNBに接続された直流成分カット用のキャパシタ71を有している。キャパシタ71の他端はNPN72のベースに接続され、このNPN72のエミッタが抵抗73を介して接地電位GNDに接続されている。更に、NPN72のベースは抵抗74を介して接地電位GNDに接続され、このNPN72のコレクタが抵抗75を介して電源電位VDDに接続されている。NPN72のコレクタは、更にPNP76のベースに接続され、エミッタは抵抗77を介して電源電位VDDに接続されている。そして、PNP76のコレクタは、スイッチ手段であるスイッチ部80に接続されている。
【0027】
スイッチ部80は、過渡応答改善部60,70から出力される電流をノードNAに与えるか否かの制御を、制御信号CONに従って行うもので、任意にオン・オフが可能であり、この制御信号CONがベースに与えられるNPN81を有している。NPN81のベースは、抵抗82を介して接地電位GNDに接続され、エミッタは接地電位GNDに直接接続されている。NPN81のコレクタは、抵抗83を介して電源電位VDDに接続されると共に、スイッチ用のPNP84,85のベースに接続されている。PNP84は、過渡応答改善部60からの電流をオン・オフするもので、エミッタがPNP62のコレクタに接続され、コレクタがノードNAに接続されている。またPNP85は、過渡応答改善部70からの電流をオン・オフするもので、エミッタがPNP76のコレクタに接続され、コレクタがノードNAに接続されている。
【0028】
スイッチ部80は、制御信号CONがレベル“H”のときに、NPN81がオンとなってPNP84,85をオン状態にするものである。制御信号CONがレベル“L”のときはNPN81がオフとなり、PNP84,85はオフとなるように構成されている。
【0029】
次に動作を説明する。
先ず、定常給電状態(制御信号CONが“L”に設定され、スイッチ部80がオフとなっている状態)において、負荷電流ILによって端子1と接地電位GND間に電圧V10が生ずる。また、端子2と電源電位VBB間には、電圧V20が生ずる。これにより、端子1,2間の電圧(加入者線間電圧)VLは、次のようになる。
VL=VBB−V10−V20 ・・・(1)
【0030】
電圧V10は、抵抗41を介して電流ミラー42の入力端子に印加されるので、この抵抗41には電流I41が流れる。ここで、電流ミラー42における電圧降下は僅少であるので無視し、抵抗41の抵抗値をR41とすると、次式の関係が成り立つ。
V10=I41×R41 ・・・(2)
【0031】
同様に、電圧V20は、抵抗43を介して電流ミラー44の入力端子に印加されるので、この抵抗43には電流I43が流れる。ここで、電流ミラー44における電圧降下は僅少であるので無視し、抵抗43の抵抗値をR43とすると、次式の関係が成り立つ。
V20=I43×R43 ・・・(3)
【0032】
電流ミラー42,44のミラー比をαとすると、電流ミラー42の出力端子から流れ出る電流I42は、α×I41となる。また、電流ミラー44の出力端子に流れ込む電流I44は、α×I43となる。
【0033】
電流ミラー42から流れ出る電流I42は、加算部45の入力端子に流れ込むので、この加算部45の出力端子にも同じ大きさの電流が流れ込む。電流ミラー44と加算部45の出力端子に流れ込む電流は、電流ミラー46の入力端子から供給されるので、この電流ミラー46の入力端子から流れ出る電流I46は、次式のようになる。
I46=I42+I44=α×I41+α×I43
=α×(V10/R41+V20/R43) ・・・(4)
【0034】
電流ミラー46の入力端子に電流I46が流れることにより、電流ミラー46のミラー比をβ及びγとすると、第1の出力端子からノードNAにミラー比βの電流IAが流れ、第2の出力端子からノードNBにミラー比γの電流IBが流れる。従って、電流IA,IBは、次式のようになる。
IA=β×I46
=αβ×(V10/R41+V20/R43) ・・・(5)
IB=γ×I46
=αγ×(V10/R41+V20/R43) ・・・(6)
【0035】
この定常給電状態では、スイッチ部80からノードNAに流れる電流はないので、電流IAは抵抗47に流れる帰還電流である電流I47と、キャパシタ48に流れる交流差動電圧変動分である電流I48に分岐して流れる。電流I47はPNP49を介して駆動部30に送出され、この駆動部30から給電部10,20に制御信号が出力される。これにより、加入者線SLに所望の負荷電流ILが供給される。
【0036】
次に、加入者線SLに接続されたスイッチSWの過渡応答動作時の説明を、電話機等がダイヤル信号を送出する場合を一例として説明する。
【0037】
スイッチ部80に与えられる制御信号CONを“H”に設定すると、このスイッチ部80のPNP84,85がオンとなる。次に、電話機のダイヤル操作により、スイッチSWのオン・オフが繰り返えされる。
【0038】
ここで、スイッチSWがオフからオンに変化する場合を説明する。
スイッチSWがオフの状態では、負荷電流ILは流れないので、端子1,2間の電圧VLは電源電圧VBBにほぼ等しくなり、電圧V10,V20はほぼ0となる。従って、電流I41,I43もほぼ0となり、電流I46は殆ど流れない。このとき、キャパシタ48の端子間の電圧VCは低い。
【0039】
スイッチSWがオンに変化すると、負荷電流ILが流れるので、電圧VLが減少し、電圧V10,V20が増加する。これにより、電流I41,I43が増加し、電流I46が増加する。このとき、電流ミラー46から電流I46のγ倍の電流IBがノードNBを介して抵抗51に流れる。従って、ノードNBの電圧VBは、抵抗51の抵抗値をR51とすると、次式のように表される。
VB=IB×R51
=αγ×R51×(V10/R41+V20/R43) ・・・(7)
【0040】
上式で、α,γ,R51,R41,R43は固定値で、電圧V10,V20が増加しているので、ノードNBの電圧VBは上昇する。電圧VBの上昇により、過渡応答改善部70では、キャパシタ71を介してNPN73のベース電圧が上昇する。これにより、NPN73のベースから抵抗73に電流が流れてこのNPN73はオンとなり、抵抗75に電流が流れ、PNP76がオンとなる。
【0041】
このとき、スイッチ部80では、制御信号CONは“H”であるので、NPN81がオンとなりPNP85がオンとなって、抵抗77を通して電流I70が流れる。従って、ノードNAに流れ込む電流は、IA+I70となる。この内、電流I70は、主にキャパシタ48の充電電流となる。
【0042】
過渡応答改善部70を持たない従来の構成では、電流ミラー46からノードNAに供給される電流IAは、過渡状態ではキャパシタ48に対する充電電流として使用され、このキャパシタ48の充電に伴って充電電流が減少すると、抵抗47に流れる電流が増加して、負荷電流ILが増加するようになっていた。これに対し、過渡応答改善部70を付加することにより、この過渡応答改善部70から供給される電流I70によってキャパシタ48の充電が加速され、負荷電流ILの増加時間が短縮し、スイッチSWがオフからオンに変化する場合の過渡応答が速くなる。
【0043】
次に、スイッチSWがオンからオフに変化する場合を説明する。
スイッチSWがオンの状態では、加入者線SLの線路抵抗RLに負荷電流ILが流れるので、端子1,2間の電圧VLは、次のようになる。
VL=IL×RL ・・・(8)
【0044】
このとき、電流ミラー46からノードNAに流れる電流IAと、ノードNBに流れる電流IBによってこのノードNBに発生する電圧VBは、それぞれ(5)式と(7)式で表される。
【0045】
スイッチSWがオフに変化すると、負荷電流ILは減少し、電圧VLは増加する。電圧VLの増加により、加入者線SLの線路間のキャパシタンスCLと、加入者回路の端子1,2間のキャパシタンスCSを充電するための電流ICL,ICSが必要となる。これらの電流ICL,ICSは、給電部10,20から負荷電流ILとして供給される。
【0046】
スイッチSWがオフになって電圧V10,V20が減少し、電流ミラー46からノードNBに流れる電流IBが減少することにより、このノードNBの電圧VBも減少する。ノードNBの電圧低下は、過渡応答改善部60のキャパシタ61を介してPNP62のベースに伝達され、このPNP62はオン状態となる。このとき、スイッチ部80のPNP84はオンとなっているので、過渡応答改善部60からの電流I60が、このスイッチ部80を介してノードNAに流れ込む。
【0047】
即ち、ノードNAに流れ込む電流は、本来の電流IAに加えて、過渡応答改善部60からの電流I60が過渡的に追加される。この過渡的に追加された電流I60は、本来の電流IAと共に、抵抗47及びPNP49を介して駆動部30に与えられ、給電部10,20に対する制御信号に反映される。これにより、給電部10,20から供給される負荷電流ILが過渡的に増加し、キャパシタンスCL,CSに対する充電電流ICL,ICSとして使用され、これらのキャパシタンスCL,CSは、急速に所定の電圧に充電される。
【0048】
過渡応答改善部60を持たない従来の構成では、駆動部30から給電部10,20に与えられる制御信号は、電流ミラー46から出力される電流IAのみに対応しているので、スイッチSWがオンからオフに変化すると、給電部10,20から供給される負荷電流ILも減少するようになっていた。これに対し、過渡応答改善部60を付加することにより、この過渡応答改善部60から供給される電流I60によって駆動部30に与えられる電流が増加し、給電部10,20から供給される負荷電流ILが増加する。これにより、電圧VLの上昇時間が短縮し、スイッチSWがオンからオフに変化する場合の過渡応答が速くなる。
【0049】
スイッチSWのオン・オフ動作の後、端子1,2間の電圧VLの過渡応答が収束すると、電流ミラー46に流れる電流I46の変化も収束し、ノードNBの電圧VBも一定値に収束する。過渡応答改善部60,70は、それぞれキャパシタ61,71によってノードNBに交流接続されているので、ノードNBの電圧VBが一定値に収束すると、これらの過渡応答改善部60,70に流れる電流I60,I70は停止する。
【0050】
以上のように、本実施例の加入者回路は、立ち下り時の過渡応答を改善するための過渡応答改善部60と、立ち上がり時の過渡応答を改善するための過渡応答改善部70を有している。これにより、加入者線間電圧VLが急激に減少した場合には、過渡応答改善部70によってキャパシタ48の充電電流を増加させ、加入者線間電圧VLが急激に増加した場合には、過渡応答改善部60によって負荷電流ILを増加させることができる。従って、この加入者回路は、加入者線SLの状態変化に対する応答速度が速いという利点がある。
【0051】
また、過渡応答改善部60,70は、加入者線間電圧VLの変化が出力されるノードNBに交流的に結合してこの電圧VLが変化したときにのみ動作するように構成しているので、電圧VLが変動しない定常状態での給電特性に影響を与えず、所望の給電特性が得られるという利点がある。
【0052】
更に、過渡応答改善部60,70の出力をオン・オフ制御するスイッチ部80を備えているので、不必要な場合には過渡応答改善機能を停止させることができるという利点がある。
【0053】
なお、本発明は、上記実施例に限定されず、種々の変形が可能である。この変形例としては、例えば、次のようなものがある。
(a) 電話の加入者回路に適用した給電部の例を説明したが、一般的な給電回路としても適用可能である。
(b) 駆動部30や加算部45は、電流ミラーを用いたものとして説明したが、具体的な回路構成は、任意である。また、給電部10,20、過渡応答改善部60,70、及びスイッチ部80等の回路構成も、同様の機能を有する別の回路に置き換えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の実施例を示す加入者回路の構成図である。
【図2】従来の加入者回路の構成図である。
【符号の説明】
【0055】
1,2 端子
10,20 給電部
30 駆動部
42,44,46 電流ミラー
41,43,47,51 抵抗
48 キャパシタ
60,70 過渡応答改善部
80 スイッチ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御信号に従って負荷回路に負荷電流を供給する給電手段と、
前記給電手段に生ずる電圧降下を監視して該電圧降下に応じた電流を出力する監視手段と、
前記監視手段から出力される電流に応じて第1のノードに第1の電流を出力し第2のノードに第2の電流を出力する電流ミラー手段と、
前記第1のノードに出力される第1の電流の交流成分を除去する容量手段と、
前記第2のノードに出力される第2の電流に応じた電圧を出力する抵抗手段と、
前記抵抗手段から出力される電圧が上昇したときにその上昇分に応じた第1の補償電流を前記第1のノードに出力する第1の過渡応答改善手段と、
前記抵抗手段から出力される電圧が低下したときにその低下分に応じた第2の補償電流を前記第1のノードに出力する第2の過渡応答改善手段と、
前記電流ミラー手段と前記第1及び第2の過渡応答改善手段から前記第1のノードに出力される電流に基づいて前記制御信号を出力する駆動手段とを、
備えたことを特徴とする給電回路。
【請求項2】
前記第1及び第2の過渡応答改善手段は、前記第2のノードの電圧をキャパシタを介して検出することによって直流成分を除去し、該第2のノードの電圧が変動しないときには前記補償電流を出力しないように構成したことを特徴とする請求項1記載の給電回路。
【請求項3】
前記第1及び第2の過渡応答改善手段と前記第1のノードとの間に、前記補償電流の出力を制御するためのスイッチ手段を設けたことを特徴とする請求項1または2記載の給電回路。

【図1】
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【図2】
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