説明

絶縁シート

【課題】回転電機のコアと巻線コイルとの間、又は巻線コイルどうしの間の絶縁等に好適に用い得る、優れたすべり性を有するとともに裂け難さの向上された絶縁シートを提供する。
【解決手段】全芳香族ポリアミド繊維が用いられて形成された紙状シート2どうしが芳香族ポリアミド系の樹脂組成物1を介して貼り合わされてなり、前記紙状シートが前記樹脂組成物よりも低弾性率であることにより、優れたすべり性を有するとともに裂け難さを改善できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁シートに関し、特には、回転電機のコアと巻線コイルとの間、又は巻線コイルどうしの間の絶縁等に好適に用い得る絶縁シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モーターやジェネレーターなどの回転電機やトランスなどにおいてコアに巻き掛けられた状態で装着される巻線コイルとコアとの間、あるいは、相の異なる電流が流される巻線コイルどうしの間には、絶縁シートが介装されて絶縁信頼性を向上させることが行われている。
このような絶縁シートは、適度なコシと表面のすべり性が求められるような場合においては紙状のシートがその表面を構成する部材として用いられており、この紙状シートとしては、全芳香族ポリアミド繊維やポリエステル繊維などが用いられている。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、3層の積層構造を有する積層シートを絶縁シートに用いることが記載されており、芳香族ポリアミド樹脂系の樹脂組成物を介して紙状シートである全芳香族ポリアミド紙(アラミド紙)を2枚貼り合わせた積層シートが絶縁シートに好適に用いられることが記載されている。
この積層シートは、全芳香族ポリアミド紙が表面に配されていることによって優れたすべり性を有し、しかも、この全芳香族ポリアミド紙が芳香族ポリアミド樹脂系の樹脂組成物によって貼り合わされていることから優れた絶縁信頼性と耐熱性とを有し、特に自動車用モーターなど高負荷な用途における絶縁シートに好適に用いられうるものである。
【0004】
ところで、絶縁シートは、通常、金属製の部材などの硬質な部材と接する状態で用いられるとともに狭小な箇所に介装された状態で用いられており、鋭角に折り曲げられた状態で用いられることが多いことから、この折り曲げによって裂けてしまうおそれを有している。
このような“裂け”が生じてしまうと、本来期待される絶縁性が発揮されなくなることから、従来、裂け難さの向上された絶縁シートが求められている。
しかし、全芳香族ポリアミド紙を用いた絶縁シートは、従来、折り曲げ等によって裂けてしまいやすく、裂け難さを向上させることが困難な状況となっている。
【0005】
【特許文献1】特開2006−321183号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、優れたすべり性を有するとともに裂け難さの向上された絶縁シートの提供を課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記課題を解決すべく、全芳香族ポリアミド繊維が用いられて形成された紙状シートどうしが樹脂組成物を介して貼り合わされてなり、前記紙状シートが前記樹脂組成物よりも低弾性率であることを特徴とする絶縁シートを提供する。
【0008】
なお、本明細書中における“紙状シート”との用語は、狭義の“紙”を意図するものではなく、いわゆる“不織布”などと呼ばれるものまでをも含む広義の意味で用いている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、全芳香族ポリアミド繊維が用いられて形成された紙状シートが絶縁シートに用いられていることから、この紙状シートを表面に露出させることで優れたすべり性を絶縁シートに発揮させることができる。
しかも、本発明の絶縁シートは、この紙状シートが樹脂組成物を介して貼り合わされており、前記紙状シートが前記樹脂組成物よりも低弾性率であることから、絶縁シートに裂ける方向への応力が加えられた場合に、この紙状シートがその応力を緩和させるように作用して“裂け”が発生することを防止する。
すなわち、本発明によれば、優れたすべり性を有するとともに裂け難さの向上された絶縁シートを提供し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明の好ましい実施の形態について、説明する。
図1は、本実施形態における絶縁シートの断面図であり、この図にも示しているように本実施形態の絶縁シート1は、3層構造を有しており、二枚の紙状シート2がその表面側と裏面側との最外層に配され、この紙状シート2の間には樹脂組成物で形成された中間層3を有している。
本実施形態の絶縁シート1は、この二枚の紙状シート2が中間層3を形成している樹脂組成物によって貼り合わされて形成されたものであり、しかも、前記紙状シート2には、前記樹脂組成物よりも低弾性率なものが用いられて形成されている。
【0011】
前記紙状シート2としては、全芳香族ポリアミド樹脂繊維が用いられて形成された10μm〜300μmの範囲の内のいずれかの厚みを有するシートが好適に採用されうる。
特に、一般に“アラミド紙”などと呼ばれる紙状シートは、すべり性にも優れており好適である。
紙状シート2の厚みが上記のような範囲内であることが好ましいのは、紙状シートの厚みが10μm未満の場合には、絶縁シート1に適度なコシや表面のすべり性を付与することが困難となるおそれがあり、300μmを超える厚みとしても、必要以上に絶縁シート1の厚みを増大させるばかりでなくコシが強くなりすぎるおそれを有するためである。
【0012】
この紙状シート2として用いられるアラミド紙は、全芳香族ポリアミド樹脂繊維が主として用いられて形成されているものであれば、さらに他の合成繊維や天然繊維を含んでいるものであっても良く、この全芳香族ポリアミド繊維以外の繊維成分によって弾性率を樹脂組成物よりも低弾性率に調整することも可能である。
この全芳香族ポリアミド繊維以外の繊維としては、ポリフェニレンスルフィド繊維、ポリエーテルエーテルケトン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、アリレート繊維、ポリエチレンナフタレート繊維などの有機繊維やガラス繊維、ロックウール、アスベスト、ボロン繊維、アルミナ繊維、カーボン繊維などの無機繊維が挙げられる。
また、絹、木綿などの天然繊維や、セルロースなどの半合成繊維などもアラミド紙の形成に用いられうる。
ただし、アラミド紙の形成には、全芳香族ポリアミド樹脂繊維が全ての繊維の内の50重量%以上となる割合で用いられていることが好ましい。
【0013】
このアラミド紙としては、フェニレンジアミンとフタル酸との縮合重合物のごとく、アミド基以外がベンゼン環で構成された樹脂材料からなる繊維(全芳香族ポリアミド繊維)を主たる構成材として形成されたシート状物を用いることができる。
このアラミド紙としては、厚みが、50〜250μmのものが絶縁シート1に高い機械的特性を付与することができるとともに折り曲げ加工された際の保形性に優れることなどから紙状シート2として好適に用いられうる。
また、後述する中間層3に用いられる樹脂組成物にもよるが、通常、弾性率が1000〜2000MPaのアラミド紙が紙状シート2として好適に用いられうる。
なお、この“弾性率”は、JIS K7113における“引張弾性率”の測定方法に準じて求めることができ、例えば、幅15mm×長さ250mmの試料を作製し、チャック間180mmとなるように引っ張り試験機にセットして200mm/minの引張速度で引張り試験を実施し、得られる「引張応力−ひずみ曲線」の初めの直線部分を用いて、以下のようにして算出することができる。
【0014】
【数1】

(ただし、「Δσ」は、「直線上の2点間の元の平均断面積による応力の差」であり、「Δε」は、「同じ2点間のひずみの差」である。)
【0015】
アラミド紙の弾性率を1000〜2000MPaとするためには、アラミド紙を構成する全芳香族ポリアミド繊維等の繊維の含有量や、用いる全芳香族ポリアミド繊維等の太さ、用いる全芳香族ポリアミド繊維等の種類、用いる全芳香族ポリアミド繊維等の弾性率、アラミド紙の密度を調整する方法、及びその組み合わせなどが好適ではあるがこれらに限定されるものではない。
なお、一般的に市販されているアラミド紙は、2500MPa以上の弾性率を有している。
【0016】
前記中間層3の形成に用いられる樹脂組成物は、前記紙状シート2を貼り合わせ可能で、しかも、紙状シート2よりも高い弾性率を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば、アラミド紙の優れた特性を絶縁シート1に反映させるべく、アラミド紙に匹敵する高い耐熱性、耐加水分解性などを有することが好ましく、芳香族ポリアミド樹脂を含む樹脂組成物が好適である。
【0017】
例えば、芳香族ポリアミド樹脂とエポキシ基含有フェノキシ樹脂とが含有されている芳香族ポリアミド樹脂組成物が中間層3を形成させる樹脂組成物として好適である。
この樹脂組成物に用いられる芳香族ポリアミド樹脂としては、例えば、ジアミンとジカルボン酸との脱水縮合により重合されたものが挙げられ、このジアミン及びジカルボン酸の何れかに芳香族系のものが用いられたものが挙げられる。
前記ジアミンとしては、脂肪族ジアミン、脂環族ジアミン、芳香族ジアミンなどが例示され、脂肪族ジアミンあるいは脂環族ジアミンとしては、下記一般式(1)で表されるものの内、一種類を単独で、又は複数種類のものを混合して用いることができる。
なお、下記式中のR1は、Cn2n(n=6〜12)で表される脂肪族または脂環族のアルキルを示している。
2N−R1−NH2・・・(1)
このジアミンとしては、高温においても優れた特性を発揮させ得る点においてヘキサメチレンジアミン及び2−メチルペンタメチレンジアミンの混合物が好ましい。
【0018】
また、芳香族ジアミンとしては、キシリレンジアミンなどを用いることができる。
【0019】
前記ジカルボン酸としては、脂肪族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸などを用いることができ、脂肪族ジカルボン酸あるいは脂環族ジカルボン酸としては、下記一般式(2)で表されるものの内、一種類を単独で、又は複数種類のものを混合して使用することができる。
なお、下記式中のR2は、Cn2n(n=4〜25)であらわされる脂肪族または脂環族のアルキルを示している。
HOOC−R2−COOH・・・(2)
【0020】
また、芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、メチルテレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などを用いることができる。
この芳香族ジカルボン酸としては、高温においても優れた特性を発揮させ得る点においてテレフタル酸とイソフタル酸を混合して使用することが特に好ましい。
前記芳香族ポリアミド樹脂としては、これらのジアミンとジカルボン酸とを、それぞれ単独の種類のものを用いて得られるものや、それぞれ、複数の種類のものを組み合わせて用いて得られるものが挙げられる。さらに、要すれば、ジアミンとジカルボン酸以外の成分が含まれていてもよい。
【0021】
前記エポキシ基含有フェノキシ樹脂としては、下記一般式(3)で表されるものの内、一種類を単独で、又は複数種類のものを混合して使用することができる。
なお、式(3)の例示におけるR3、R4は、末端基を表し、少なくとも一方には、エポキシ基が導入されている。

【0022】
なお、このエポキシ基含有フェノキシ樹脂としては、通常、重量平均分子量(Mw)が40000〜80000のものを用いることができ、該重量平均分子量(Mw)は、GPC法により、例えば、下記条件にて測定される。
標準試薬:TSK標準ポリスチレン(A−500、A−2500、F−1、F−4、
F−20、F−128;東ソー社製)
溶媒 :THF
カラム :GF−1G7B+GF−7MHQ(昭和電工社製)
【0023】
また、芳香族ポリアミド樹脂との良好なる相溶性を示し分散が容易となる点ならびにポリアミド樹脂組成物の流れ性を押出し加工などに適したものに調整し得る点において前記重量平均分子量(Mw)は50000〜60000であることが好ましい。
このような範囲が好ましいのは、重量平均分子量が50000未満の場合は射出成形、押出し−Tダイ成形などにおける気泡の巻き込みが多くなり、一般的な加工方法で良好な中間層3を形成することができなくなるおそれを有し、60000を超える場合は、流れ性が不足して成形性が低下するおそれを有するためである。
【0024】
また、同じ配合量で芳香族ポリアミド樹脂組成物の流れ性をより効果的に調整し得る点、ならびに芳香族ポリアミド樹脂組成物の機械的特性を向上させ得る点から、エポキシ基含有フェノキシ樹脂としては、エポキシ当量が10000g/eq以上であることが好ましい。
エポキシ当量が10000未満の場合は射出、押出し−Tダイ成形における気泡の巻き込みが多くなり、一般的な加工方法で良好な中間層3を形成することができなくなるおそれを有する。
なお、前記エポキシ当量とはJIS K 7236により求められる値を意図している。
【0025】
本実施形態の絶縁シート1における前記中間層3の形成に用いられる芳香族ポリアミド樹脂組成物としては、このような芳香族ポリアミド樹脂とエポキシ基含有フェノキシ樹脂との合計量に占める前記エポキシ基含有フェノキシ樹脂が30〜50質量%であることが好ましい。
芳香族ポリアミド樹脂組成物に配合されるエポキシ基含有フェノキシ樹脂の好ましい配合量がこのような範囲とされるのは、30質量%未満の場合には、芳香族ポリアミド樹脂組成物の流れ性を抑制する効果が得られにくく中間層3に気泡などが形成されやすくなる結果、絶縁シート1の信頼性を低下させるおそれを有するためである。
また、エポキシ基含有フェノキシ樹脂を、50質量%を超えて配合した場合には、芳香族ポリアミド樹脂の優れた耐熱性、吸湿性などの特性が損なわれ絶縁シート1に経時劣化を発生させやすくなって信頼性を低下させるおそれを有する。
また、このような点に加え芳香族ポリアミド樹脂組成物の伸びや引張り強さなどの物理特性を高め得るにおいて、エポキシ基含有フェノキシ樹脂の配合量は、35質量%を超え45質量%以下であることが、さらに好ましい。
【0026】
また、芳香族ポリアミド樹脂組成物には、芳香族ポリアミド樹脂、エポキシ基含有フェノキシ樹脂以外の成分を配合することも可能である。
例えば、アルキルフェノール樹脂、アルキルフェノール−アセチレン樹脂、キシレン樹脂、石油樹脂、クマロン−インデン樹脂、テルペン樹脂、ロジンなどの粘着付与剤、ポリブロモジフェニルオキサイド、テトラブロモビスフェノールAなどの臭素化合物、塩素化パラフィン、パークロロシクロデカンなどのハロゲン系難燃剤、リン酸エステル、含ハロゲンリン酸エステルなどのリン系難燃剤、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどの水和金属化合物、または三酸化アンチモン、ホウ素化合物などの難燃剤、フェノール系、リン系、硫黄系の酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、顔料、架橋剤、架橋助剤、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤などの一般的なプラスチック用配合薬品や、シリカ、クレー、炭酸カルシウム、酸化アルミ、酸化マグネシウム、窒化硼素、窒化珪素、窒化アルミニウムといった無機フィラーなどが挙げられる。
【0027】
また、特にナノメーターレベル粒径のモンモリロナイトもしくは0.6mmのケブラーを、芳香族ポリアミド樹脂組成物100重量部に対して0.1〜5重量部入れることにより樹脂強度を、例えば、3倍以上に向上させることもできる。
【0028】
さらに、トリアリルイソシアネート、テトラ−n−ブトキシチタン、トリス(2,3−エポキシプロピル)イソシアネートの何れかを芳香族ポリアミド樹脂組成物100重量部に対して0.1〜5重量部入れることにより樹脂強度を、例えば、3倍以上に向上させることもできる。なお、このトリアリルイソシアネートとしては、日本化成社から「TAIC」の商品名で市販のもの、テトラ−n−ブトキシチタンとしては、日本曹達社から「B−1」の商品名で市販のもの、トリス(2,3−エポキシプロピル)イソシアネートとしては、日産化学社から商品名「TEPIC−G」で市販のものなどを例示できる。
【0029】
これらの配合物を用いて中間層3を形成させる芳香族ポリアミド樹脂組成物を得るには、ニーダー、加圧ニーダー、混練ロール、バンバリーミキサー、二軸押し出し機など一般的な混合手段を用いることができる。
【0030】
この芳香族ポリアミド樹脂組成物は、1000〜2000MPaの弾性率を有するアラミド紙が前記紙状シート2に用いられる場合には、2000MPaを超え、3000MPa以下の弾性率となるようにその配合が調整されていることが好ましい。
また、紙状シート2に50〜250μmの厚みのアラミド紙が用いられる場合には、この芳香族ポリアミド樹脂組成物によって形成される中間層3は、1〜400μmの厚みに形成されることが好ましい。
【0031】
この紙状シートと樹脂組成物とを用いて絶縁シートを形成するには、例えば、一枚の紙状シートの上に樹脂組成物を熱溶融させるかあるいは溶剤に溶解させるかして塗工し、もう一方の紙状シートを重ね合わせることにより、2枚の紙状シートを樹脂組成物を介して貼り合わせる方法を採用することができる。
【0032】
一般に、シートを、例えば、二つ折りにした場合には、折り目となる箇所に折り目と略直交する方向への張力が発生し、このシートが厚み方向に均質なものである場合には、通常、折り目の外側に位置する部分の方が内側に位置する部分よりも伸長度合いが高くなる。
このとき外側表面に加わる張力が部材の破断応力を超えた場合に表面にクラックが生じ、そのクラックが厚み方向に進展してシートが裂けてしまうこととなる。
このことについて表裏両面がより弾性率の高い素材で構成された場合、すなわち、本発明の絶縁シートとは、弾性率の関係が逆となるシートを例に考えると、折り目の最も伸長されやすい箇所が高い弾性率の素材で形成されていると、シートに加わる張力を外表面側に集中させることとなりシートが裂け易い状態となってしまう。
一方で、本実施形態の絶縁シートのごとく表裏両面が中間層よりも弾性率の低い紙状シートで形成されている場合には、シートに加わる張力が、主として折り目の外側に位置する紙状シートと中間層との界面部に作用することとなるが、この界面部に加わる張力は、紙状シートの弾性変形によって緩和された状態となっており、この応力緩和作用によって、折り曲げ時などにおける“裂け”の発生が抑制される。
しかも、本実施形態の絶縁シートには紙状シートが用いられていることから、適度なコシと優れたすべり性が付与されており、しかも、本実施形態の絶縁シートは、従来の絶縁シートに比べて裂け難さが向上されていることから狭小な箇所に介挿されて用いられるような場合により顕著にその有効性が発揮される。
例えば、モーターやジュネレーターなどの回転電機のコアと巻線コイルとの間や、相の異なる巻線コイル間の絶縁に用いられる場合のように複雑に曲折された状態で配されるような用途に好適に用いられうる。
【0033】
なお、本実施形態においては、詳述していないが従来公知の絶縁シートに採用されている技術事項を本発明の絶縁シートにも本発明の効果を著しく損ねない範囲において採用することができる。
【実施例】
【0034】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0035】
(紙状シート)
絶縁シートに用いる紙状シートとしては、下記の3通り(紙状シート1〜3)のものを用意した。
・紙状シート1:
厚み約50μmで、約3000MPaの弾性率を有しているデュポン帝人アドバンスドペーパー社製アラミド紙(ノーメックス(登録商標)紙)。
・紙状シート2:
下記製法によって作製されたシート。
特公昭52−151624号公報に記載のステーターとローターの組み合わせで構成される湿式沈殿機を用いる方法で、ポリメタフェニレンイソフタルアミドのファイブリッドを製造した。
これを、離解機、叩解機で処理した。
一方、デュポン社製メタアラミド繊維(ノーメックス(登録商標))を、長さ6mmに切断し抄紙用原料とした。
上記アラミドファイブリッドとアラミド短繊維をおのおの水中で分散しスラリーを作製した。
このスラリーを、ファイブリッド、アラミド短繊維を70:30(重量比)の配合比率で混合し、タッピー式手抄き機(断面積325cm2)にてシート状物を作製した。
次いで、これを金属製カレンダーロールにより温度280℃、線圧300kg/cmで熱圧加工し、厚み50μm、坪量40g/m2、密度0.8g/cm3のアラミド紙を作製した。
なお、このアラミド紙の弾性率を測定したところ2000MPaであった。
・紙状シート3
下記製法によって作製されたシート。
特公昭52−151624号公報に記載のステーターとローターの組み合わせで構成される湿式沈殿機を用いる方法で、ポリメタフェニレンイソフタルアミドのファイブリッドを製造した。
これを、離解機、叩解機で処理した。
一方、デュポン社製メタアラミド繊維(ノーメックス(登録商標))を、長さ6mmに切断し抄紙用原料とした。
上記アラミドファイブリッドとアラミド短繊維をおのおの水中で分散したスラリーを、ファイブリッド、アラミド短繊維を30:70(重量比)の配合比率で混合し、タッピー式手抄き機(断面積325cm2)にて厚み50μm、坪量13g/m2、密度0.26g/cm3のアラミド紙を得た。
なお、このアラミド紙の弾性率を測定したところ1200MPaであった。
【0036】
(中間層:樹脂組成物)
絶縁シートの中間層の形成に用いる樹脂組成物としては、下記の2通りの配合(配合1、2)のものを用意した。
・配合1:
ポリアミド樹脂組成物として、ヘキサメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、テレフタル酸の3元重合された芳香族ポリアミド樹脂と、重量平均分子量約52000の末端エポキシ化されたフェノキシ樹脂(エポキシ基含有フェノキシ樹脂)とを配合し、しかも、シート状に形成させた際の弾性率が約2500MPaとなるように配合割合を調整した樹脂組成物。
・配合2:
ポリアミド樹脂組成物として、ヘキサメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、テレフタル酸の3元重合された芳香族ポリアミド樹脂と、エラストマー成分とを配合し、しかも、シート状に形成させた際の弾性率が約2300MPaとなるように配合割合を調整した樹脂組成物。
【0037】
(絶縁シートの作製)
(比較例1)
配合1の樹脂組成物を加熱溶融して2枚の紙状シート1を貼り合わせて比較例1(紙状シート1の弾性率(3000MPa)>配合1の弾性率(2500MPa))の絶縁シートを作製した。
なお、このとき、配合1の樹脂組成物によって約70μmの厚みの中間層が形成されるように紙状シートの貼り合わせを行った。
(比較例2)
配合1の樹脂組成物に代えて配合2の樹脂組成物を用いたこと以外は、比較例1の絶縁シートと同様に比較例2(紙状シート1の弾性率(3000MPa)>配合2の弾性率(2300MPa))の絶縁シートを作製した。
(実施例1)
紙状シート1に代えて紙状シート2を用いること以外は比較例1の絶縁シートと同様に実施例1(紙状シート2の弾性率(2000MPa)<配合1の弾性率(2500MPa))の絶縁シートを作製した。
(実施例2)
配合2の樹脂組成物を用いたこと以外は、実施例1の絶縁シートと同様に実施例2(紙状シート2の弾性率(2000MPa)<配合2の弾性率(2300MPa))の絶縁シートを作製した。
(実施例3)
紙状シート3を用いたこと以外は、実施例1の絶縁シートと同様に実施例3(紙状シート3の弾性率(1200MPa)<配合1の弾性率(2500MPa))の絶縁シートを作製した。
(実施例4)
紙状シート3を用いたこと以外は、実施例2の絶縁シートと同様に実施例4(紙状シート3の弾性率(1200MPa)<配合2の弾性率(2300MPa))の絶縁シートを作製した。
【0038】
(“裂け”評価)
各実施例、比較例の絶縁シートについて、紙状シートのカレンダー方向(MD方向)と、該カレンダー方向と直交する方向(TD方向)における端裂強度を「JIS C2111.11.2 B法」によって測定した。
結果を下記表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
この表1からも本発明の絶縁シートが裂け防止に有効であることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】一実施形態の絶縁シートを示す概略断面図。
【符号の説明】
【0042】
1:絶縁シート、2:紙状シート、3:中間層(樹脂組成物)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
全芳香族ポリアミド繊維が用いられて形成された紙状シートどうしが樹脂組成物を介して貼り合わされてなり、前記紙状シートが前記樹脂組成物よりも低弾性率であることを特徴とする絶縁シート。
【請求項2】
前記樹脂組成物は、芳香族ポリアミド樹脂と分子内にエポキシ基を有するエポキシ基含有フェノキシ樹脂とを含有し、含有される樹脂成分に占める前記エポキシ基含有フェノキシ樹脂が30〜50質量%の内のいずれかである請求項1に記載の絶縁シート。
【請求項3】
回転電機のコアと巻線コイルとの間、又は巻線コイルどうしの間の絶縁に用いられる請求項1又は2に記載の絶縁シート。

【図1】
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【公開番号】特開2010−153120(P2010−153120A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−328044(P2008−328044)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(000190611)日東シンコー株式会社 (104)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【出願人】(596001379)デュポン帝人アドバンスドペーパー株式会社 (26)
【Fターム(参考)】