説明

絶縁検査装置および絶縁検査方法

【課題】高電圧の印加によって発生した不良箇所についてダメージを進行させることなく、検出する。
【解決手段】処理部10は、電圧生成部7を制御して予め決められた高電圧を検査用電圧VeHとして検査対象の導体パターン3,4間に印加させたときの導体パターン3,4間の絶縁抵抗Rに基づいて導体パターン3,4間の絶縁状態を検査する高圧検査処理を実行し、高圧検査処理において絶縁状態が良好であると判別された導体パターン3,4間に対して電圧生成部7を制御して高電圧よりも低い低電圧の検査用電圧VeLを印加させたときの導体パターン3,4間の絶縁抵抗Rに基づいて絶縁状態を検査する低圧検査処理を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回路基板の各導体パターン間の絶縁状態を検査する絶縁検査装置および絶縁検査方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の絶縁検査方法として、下記特許文献1に開示された回路基板(プリント配線板)の電気検査方法が知られている。この電気検査方法は、電子部品が実装されていない回路基板(いわゆるベアボード)に形成されている複数の導体パターンのうちから検査対象として選択した1対の導体パターン間(回路間)の絶縁検査を行う検査方法であって、検査対象として選択した1対の導体パターン間に低電圧の検査電圧を印加する検査を、検査対象データにより予め決められた検査対象となる全ての導体パターン間について連続して行い、その間、検査結果が不良である結果を記録しておき、この低電圧を用いた全検査対象の検査終了後、全検査対象データから不良となった検査対象を削除し、残った検査対象データについて、検査対象として選択した1対の導体パターンに高電圧の検査電圧を印加する検査を、残りの検査対象データによる検査対象となる全ての導体パターン間について連続して行うものである。
【0003】
この電気検査方法(絶縁検査方法)によれば、検査対象の絶縁不良の箇所、あるいは、断線になりかけている箇所を焼損させることなく、検査対象の検査を行うことが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−230058号公報(第3頁、第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記した絶縁検査方法には、以下の解決すべき課題が存在している。すなわち、従来の絶縁検査方法では、高電圧の検査電圧を印加する検査を最後に実行して、検査対象となる導体パターン間についての検査を完了させている。しかしながら、高電圧の検査電圧を印加して実行している検査中に導体パターン間の特定部位において不良状態が進行し、高電圧の検査電圧を印加し終えた後に、つまり高電圧の検査電圧を印加して実施する検査の終了後に、この特定部位が不良箇所と判別すべき状態に至るという現象が発生することがある。このため、従来の絶縁検査方法には、このようにして発生した不良箇所を検出できないという解決すべき課題が存在している。なお、この不良箇所については、再度、高電圧の検査電圧を印加する検査を実行することにより、検出することも可能ではあるが、高電圧の検査電圧を印加することによって不良箇所のダメージがより進行するため、好ましくない。
【0006】
本発明は、かかる解決すべき課題に鑑みてなされたものであり、高電圧の印加によって発生した不良箇所についてダメージを進行させることなく、検出し得る絶縁検査装置および絶縁検査方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成すべく請求項1記載の絶縁検査装置は、回路基板における検査対象の導体パターン間に印加する検査用電圧を生成する電圧生成部と、前記検査用電圧の印加によって生じる前記導体パターン間の物理量に基づいて当該導体パターン間の絶縁状態を検査する検査処理を実行する処理部とを備えた回路基板検査装置であって、前記処理部は、前記電圧生成部を制御して予め決められた高電圧を前記検査用電圧として前記検査対象の前記導体パターン間に印加させたときの当該導体パターン間の前記物理量に基づいて当該導体パターン間の絶縁状態を検査する高圧検査処理を実行し、当該高圧検査処理において前記絶縁状態が良好であると判別された前記導体パターン間に対して前記電圧生成部を制御して前記高電圧よりも低い低電圧を前記検査用電圧として印加させたときの当該導体パターン間の前記物理量に基づいて前記絶縁状態を検査する低圧検査処理を実行する。
【0008】
また、請求項2記載の絶縁検査装置は、請求項1記載の絶縁検査装置において、前記処理部は、前記高圧検査処理の実行に先立ち、前記電圧生成部を制御して前記高電圧よりも低い低電圧を前記検査用電圧として前記検査対象の前記導体パターン間に印加させたときの前記物理量に基づいて当該導体パターン間の絶縁状態を検査する一次低圧検査処理を実行し、当該一次低圧検査処理において前記絶縁状態が良好であると判別された当該導体パターン間に対して前記高圧検査処理を実行する。
【0009】
請求項3記載の絶縁検査方法は、回路基板における検査対象の導体パターン間に予め決められた高電圧を印加したときの当該導体パターン間の物理量に基づいて当該導体パターン間の絶縁状態を検査する高圧検査処理を実行し、当該高圧検査処理において前記絶縁状態が良好であると判別された前記導体パターン間に対して前記高電圧よりも低い低電圧を印加したときの前記物理量に基づいて前記絶縁状態を検査する低圧検査処理を実行する。
【0010】
また、請求項4記載の絶縁検査方法は、請求項3記載の絶縁検査方法において、前記高圧検査処理の実行に先立ち、前記高電圧よりも低い低電圧を前記導体パターン間に印加したときの前記物理量に基づいて前記絶縁状態を検査する一次低圧検査処理を実行し、前記一次低圧検査処理において前記絶縁状態が良好であると判別された前記導体パターン間に対して前記高圧検査処理を実行する。
【発明の効果】
【0011】
請求項1記載の絶縁検査装置および請求項3記載の絶縁検査方法では、検査対象の導体パターン間に対して、高圧検査処理および低圧検査処理をこの順序で実行する。したがって、この絶縁検査装置および絶縁検査方法によれば、高電圧の検査用電圧の印加によらなければ検査できない導体パターン間の絶縁状態の不良を検査可能としつつ、高電圧の検査用電圧の印加によって不良状態が進行し検査用電圧の印加後に不良箇所と判別すべき状態に至るという現象が導体パターン間の特定部位に発生した場合であっても、この特定部位に発生した絶縁不良を低圧検査処理においてダメージを進行させることなく確実に検出することができる。
【0012】
また、請求項2記載の絶縁検査装置および請求項4記載の絶縁検査方法によれば、高圧検査処理に先立って実行する一次低圧検査処理において、高電圧の検査用電圧が印加された際にダメージ焼損する虞のある不良箇所の存在を検出して、高圧検査処理の実行を回避することができるため、一対の導体パターン間に存在している不良箇所がダメージを受ける事態を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】絶縁検査装置1の構成を示す構成図である。
【図2】絶縁検査処理50のフローチャートである。
【図3】絶縁検査処理50Aのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、絶縁検査装置および絶縁検査方法の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
【0015】
最初に、絶縁検査装置1の構成について、図1を参照して説明する。なお、同図では、発明の理解を容易にするため、回路基板(ベアボード)2に一対の導体パターン3,4のみが図示されているが、この導体パターン3,4以外にも他の複数の導体パターンが形成されているものとする。
【0016】
絶縁検査装置1は、回路基板2に形成された複数の導体パターンのうちから選択された検査対象としての一対の導体パターン(配線パターン)3,4間の物理量(漏れ電流または絶縁抵抗。本例では一例として絶縁抵抗R)に基づいて、この導体パターン3,4間の絶縁状態を検査する装置であって、第1プローブ5、第2プローブ6、電圧生成部7、電流測定部8、放電部9、処理部10、記憶部11および出力部12を備えている。
【0017】
第1プローブ5は、処理部10によって制御される不図示の移動機構によって移動させられて、一対の導体パターン3,4のうちの一方の導体パターン3における予め規定された接触ポイントに接触可能に構成されている。第2プローブ6も同様にして、処理部10によって制御される不図示の移動機構によって移動させられて、一対の導体パターン3,4のうちの他方の導体パターン4における予め規定された接触ポイントに接触可能に構成されている。
【0018】
電圧生成部7は、処理部10によって制御されて、一対の出力端子(不図示)間に印加する検査用電圧(直流電圧)Veを生成して出力する。また、電圧生成部7は、処理部10によって制御されることにより、一例として、検査用電圧Veの電圧値を回路基板2に実装されるすべての電子部品の各電源電圧(DC5ボルトやDC12ボルトなど)よりも高い電圧(高電圧:予め決められた既知の電圧であって、例えば、約DC100ボルト)に規定して、検査用電圧Veとしての検査用電圧VeHを生成して出力する機能と、検査用電圧VeHよりも低い低電圧に規定して、検査用電圧Veとしての検査用電圧VeLを出力する機能とを備えている。本例では、一例として、検査用電圧VeLは、回路基板2に実装されるすべての電子部品の各電源電圧(DC±5ボルトやDC±12ボルトなど)の絶対値のうちの最小値と同一かまたはこの最小値未満の電圧(低電圧:予め決められた既知の電圧であって、例えば、約DC2ボルト)に規定されているが、不良箇所(例えば、ひげ状の細い導体パターン)が存在している一対の導体パターン間に印加されたときに、この不良箇所が焼損しない程度の低電圧であれば、任意の電圧とすることができる。また、一例として、電圧生成部7の一対の出力端子のうちの一方の出力端子が第1プローブ5に接続され、他方の出力端子が第2プローブ6に接続されている。この構成により、電圧生成部7は、生成した検査用電圧Veを、一対のプローブ5,6を介して一対の導体パターン3,4間に印加可能に構成されている。
【0019】
電流測定部8は、検査用電圧Veの印加に起因して一対の導体パターン3,4間に流れる漏れ電流Imを測定する。本例では、一例として、電流測定部8は、電圧生成部7の他方の出力端子(低電位側の端子)と第3プローブ6との間に介装されて、漏れ電流Imを測定する。また、電流測定部8は、測定した漏れ電流Imの電流値を示す電流データDiを処理部10に出力する。
【0020】
放電部9は、一例として、処理部10によってオン・オフ状態が制御されるスイッチ、およびこのスイッチに直列に接続された放電抵抗(いずれも図示せず)とで構成された直列回路を備え、この直列回路が一対の入力端子(不図示)間に接続されて構成されている。また、放電部9の一対の入力端子のうちの一方の入力端子が第1プローブ5に接続され、他方の入力端子が第2プローブ6に接続されている。この構成により、放電部9は、処理部10によって制御されることにより、一対のプローブ5,6を介して、一対の導体パターン3,4間の浮遊容量(不図示)に蓄積されている電荷を放電可能に構成されている。
【0021】
処理部10は、CPUで構成されて、各プローブ5,6を移動させる移動機構、電圧生成部7および放電部9に対する制御、並びに図2に示す絶縁検査処理50を実行することにより、一対の導体パターン3,4間の絶縁状態を検査する。記憶部11は、ROMおよびRAMで構成されて、回路基板2における検査対象とすべき各導体パターンに対して予め規定された検査ポイントの位置データ、処理部10のための動作プログラム、および絶縁抵抗Rに対する基準値(基準抵抗値)Aが予め記憶されている。また、記憶部11は、処理部10のワークメモリとしても機能する。出力部12は、一例として表示装置で構成されて、処理部10が実行した絶縁検査処理の結果を表示する。
【0022】
次に、絶縁検査装置1の動作について、絶縁検査方法と併せて図1,2を参照して説明する。
【0023】
絶縁検査装置1では、作動状態において、処理部10が、図2に示す絶縁検査処理50を実行する。この絶縁検査処理50では、処理部10は、まず、検査対象とすべき一対の導体パターン(一例として図1に示されている導体パターン3,4)についての検査ポイントの位置データを読み出すと共に移動機構を制御することにより、各プローブ5,6を移動させて、第1プローブ5については導体パターン3の検査ポイントに、第2プローブ6については導体パターン4の検査ポイントにそれぞれ接触させる(ステップ51)。
【0024】
次いで、処理部10は、高圧検査処理を実行する(ステップ52)。この高圧検査処理では、処理部10は、まず、電圧生成部7に対する制御を実行して、電圧生成部7から検査用電圧VeHを出力させる。これにより、一対のプローブ5,6を介して一対の導体パターン3,4間に検査用電圧VeHが印加された状態となり、電圧生成部7から第1プローブ5、導体パターン3、両導体パターン3,4間の絶縁抵抗R、導体パターン4および第2プローブ6を介して電圧生成部7に戻る電流経路に漏れ電流Imが流れる。この電流経路内に配設されている電流測定部8は、この漏れ電流Imを検出してその電流値を測定し、測定した漏れ電流Imの電流値を示す電流データDiを処理部10に出力する。
【0025】
次いで、処理部10は、既知の検査用電圧VeHの電圧値と、電流測定部8から出力されている電流データDiによって特定される漏れ電流Imの電流値とに基づいて、絶縁抵抗Rを算出する。また、処理部10は、電圧生成部7に対する制御を実行して、検査用電圧VeHの出力を停止させる。続いて、処理部10は、算出した絶縁抵抗Rと記憶部11に記憶されている基準値Aとを比較する。この比較の結果、処理部10は、算出した絶縁抵抗Rが基準値A以上のときには、導体パターン3,4間の絶縁状態が良好(正常)であると判別(この場合には仮判別)し、算出した絶縁抵抗Rが基準値A未満のときには、導体パターン3,4間の絶縁状態が不良(異常)であると判別(この場合には最終判別)して、判別結果を検査対象となっている導体パターン3,4の組に対応させて記憶部11に記憶させる。最後に、処理部10は、放電部9に対する制御を実行することにより、両導体パターン3,4間への検査用電圧VeHの印加に起因して両導体パターン3,4間に充電されている電荷を放電させる。これにより、高圧検査処理が完了する。
【0026】
次いで、処理部10は、記憶部11に記憶されている高圧検査処理での判別結果を参照して(ステップ53)、両導体パターン3,4についての絶縁状態が良好であるときには、同じ導体パターン3,4に対して低圧検査処理を実行し(ステップ54)、一方、絶縁状態が不良のときには、この導体パターン3,4に対して上記したように絶縁状態についての最終判別が成されているため、低圧検査処理を実行することなく、ステップ55に移行する。
【0027】
この低圧検査処理では、処理部10は、まず、電圧生成部7に対する制御を実行して、電圧生成部7から検査用電圧VeLを出力させる。これにより、一対のプローブ5,6を介して一対の導体パターン3,4間に検査用電圧VeLが印加された状態となり、電圧生成部7から第1プローブ5、導体パターン3、両導体パターン3,4間の絶縁抵抗R、導体パターン4および第2プローブ6を介して電圧生成部7に戻る電流経路に漏れ電流Imが流れる。この電流経路内に配設されている電流測定部8は、この漏れ電流Imを検出してその電流値を測定し、測定した漏れ電流Imの電流値を示す電流データDiを処理部10に出力する。
【0028】
次いで、処理部10は、既知の検査用電圧VeLの電圧値と、電流測定部8から出力されている電流データDiによって特定される漏れ電流Imの電流値とに基づいて、絶縁抵抗Rを算出する。また、処理部10は、電圧生成部7に対する制御を実行して、検査用電圧VeLの出力を停止させる。続いて、処理部10は、算出した絶縁抵抗Rと記憶部11に記憶されている基準値Aとを比較する。この比較の結果、処理部10は、算出した絶縁抵抗Rが基準値A以上のときには、導体パターン3,4間の絶縁状態が良好であると判別(この場合には最終判別)し、算出した絶縁抵抗Rが基準値A未満のときには、導体パターン3,4間の絶縁状態が不良であると判別(この場合には最終判別)して、判別結果を検査対象となっている導体パターン3,4の組に対応させて記憶部11に記憶させる。最後に、処理部10は、放電部9に対する制御を実行することにより、両導体パターン3,4間への検査用電圧VeLの印加に起因して両導体パターン3,4間に充電されている電荷を放電させる。これにより、低圧検査処理が完了する。
【0029】
この絶縁検査装置1では、高圧検査処理において、絶縁状態が良好であると判別された導体パターン3,4に対して、低圧検査処理を実行するため、高電圧の検査用電圧VeHを印加して実行している高圧検査処理中(検査中)に導体パターン3,4間の特定部位において不良状態が進行し、検査用電圧VeHを印加し終えた後に、つまり高圧検査処理の終了後に、この特定部位が不良箇所と判別すべき状態に至るという現象が発生した場合であっても、この不良箇所を低圧検査処理において確実に検出することが可能となっている。
【0030】
このようにして、1組の導体パターン3,4の絶縁状態についての最終判別が行われ、これにより、この1組の導体パターン3,4についての絶縁検査処理が完了する。
【0031】
処理部10は、ステップ55において、検査対象とすべきすべての導体パターンに対する検査が完了したか否かを判別し、未検査の導体パターンの組が存在しているときには、この未検査の導体パターンの組についての検査ポイントの位置データを記憶部11から読み出すと共に、上記のステップ51〜55を実行する。一方、ステップ55において、未検査の導体パターンの組が存在していない、つまり検査対象とすべきすべての導体パターンの組に対する検査が完了したと判別したときには、検査対象の各導体パターンの組についての絶縁状態についての判別結果を記憶部11から読み出すと共に、この判別結果を出力部12に出力する。本例では、出力部12が表示装置で構成されているため、判別結果を表示装置の画面上に表示させる(ステップ56)。これにより、絶縁検査処理が完了する。
【0032】
このように、この絶縁検査装置1および絶縁検査方法では、検査対象とすべき導体パターンの各組に対して、高圧検査処理(ステップ52)および低圧検査処理(ステップ54)をこの順序で実行する。したがって、この絶縁検査装置1および絶縁検査方法によれば、高電圧の検査用電圧VeHの印加によらなければ検査できない導体パターン間の絶縁状態の不良を検査可能としつつ、高電圧の検査用電圧VeHの印加によって不良状態が進行し検査用電圧VeHの印加後に不良箇所と判別すべき状態に至るという現象が導体パターン間の特定部位に発生した場合であっても、この特定部位に発生した絶縁不良を低圧検査処理においてダメージを進行させることなく確実に検出することができる。
【0033】
なお、上記の絶縁検査装置1および絶縁検査方法では、絶縁検査処理50において、最初に高圧検査処理を実行する構成を採用しているが、この構成においては、検査対象としている一対の導体パターン間に既に不良箇所が存在している場合(例えば、ひげ状の細い導体パターンが存在している場合)には、高圧検査処理において高電圧の検査用電圧VeHが印加されることにより、この不良箇所がダメージを受ける(例えば焼損する)という状態が発生する虞がある。このため、図3に示す絶縁検査処理50Aのように、高圧検査処理に先立ち、上記したステップ54での低圧検査処理とは別の低圧検査処理(一次低圧検査処理)をステップ61において実行する構成を採用することもできる。なお、以下、絶縁検査処理50と同様のステップについては同じ符号を付して重複した説明を省略する。
【0034】
この絶縁検査処理50Aにおいては、処理部10は、ステップ51を実行して、第1プローブ5については導体パターン3の検査ポイントに、第2プローブ6については導体パターン4の検査ポイントにそれぞれ接触させた後に、導体パターン3,4に対して低圧検査処理(一次低圧検査処理)を実行する(ステップ61)。
【0035】
この低圧検査処理では、処理部10は、まず、電圧生成部7に対する制御を実行して、電圧生成部7から検査用電圧VeLを出力させる。これにより、一対のプローブ5,6を介して一対の導体パターン3,4間に検査用電圧VeLが印加された状態となり、電圧生成部7から第1プローブ5、導体パターン3、両導体パターン3,4間の絶縁抵抗R、導体パターン4および第2プローブ6を介して電圧生成部7に戻る電流経路に漏れ電流Imが流れる。この電流経路内に配設されている電流測定部8は、この漏れ電流Imを検出してその電流値を測定し、測定した漏れ電流Imの電流値を示す電流データDiを処理部10に出力する。
【0036】
次いで、処理部10は、既知の検査用電圧VeLの電圧値と、電流測定部8から出力されている電流データDiによって特定される漏れ電流Imの電流値とに基づいて、絶縁抵抗Rを算出する。また、処理部10は、電圧生成部7に対する制御を実行して、検査用電圧VeLの出力を停止させる。続いて、処理部10は、算出した絶縁抵抗Rと記憶部11に記憶されている基準値Aとを比較する。この比較の結果、処理部10は、算出した絶縁抵抗Rが基準値A以上のときには、導体パターン3,4間の絶縁状態が良好であると判別(この場合には仮判別)し、算出した絶縁抵抗Rが基準値A未満のときには、導体パターン3,4間の絶縁状態が不良であると判別(この場合には最終判別)して、判別結果を検査対象となっている導体パターン3,4の組に対応させて記憶部11に記憶させる。最後に、処理部10は、放電部9に対する制御を実行することにより、両導体パターン3,4間への検査用電圧VeLの印加に起因して両導体パターン3,4間に充電されている電荷を放電させる。これにより、低圧検査処理(一次低圧検査処理)が完了する。この低圧検査処理の実行より、ひげ状の細い導体パターンなどの不良箇所が両導体パターン3,4間に既に存在している場合には、この不良箇所を検出することが可能となっている。
【0037】
次いで、処理部10は、記憶部11に記憶されている低圧検査処理での判別結果を参照して(ステップ62)、両導体パターン3,4についての絶縁状態が良好であるときには、同じ導体パターン3,4に対して高圧検査処理を実行すると(ステップ52)共に低圧検査処理を実行する(ステップ54)。一方、絶縁状態が不良のときには、この導体パターン3,4に対して絶縁状態についての最終判別が上記のように成されているため、このステップ62以降の高圧検査処理(ステップ52)および低圧検査処理(ステップ54)を実行することなく、ステップ55に移行する。この後、絶縁検査処理50と同様にして、ステップ56を実行する。
【0038】
この絶縁検査処理50Aを実行する絶縁検査装置1および絶縁検査方法によれば、高圧検査処理(ステップ52)に先立って実行する低圧検査処理(ステップ61)において、高電圧の検査用電圧VeHが印加された際にダメージを受ける虞のある不良箇所(例えば、ひげ状の細い導体パターン)の存在を検出して、高圧検査処理の実行を回避することができるため、一対の導体パターン間に存在している不良箇所がダメージを受ける事態を回避することができる。
【0039】
また、上記の各絶縁検査処理50,50Aでは、高圧検査処理(ステップ52)および各低圧検査処理(ステップ54,61)において、共通の基準値Aを使用して、算出した絶縁抵抗Rと比較する構成を採用しているが、高圧検査処理(ステップ52)において使用する基準値と各低圧検査処理(ステップ54,61)において使用する基準値とを相違させる構成を採用することもできる。具体的には、高圧検査処理(ステップ52)で算出される絶縁抵抗Rよりも各低圧検査処理(ステップ54,61)で算出される絶縁抵抗Rの方が経験的に小さい値となることから、低圧検査処理(ステップ54または/およびステップ61)において使用する基準値A(基準値AL)を、高圧検査処理(ステップ52)において使用する基準値A(基準値AH)よりも小さい値にすることができる。これにより、低圧検査処理(ステップ54または/およびステップ61)での絶縁状態の判別をより厳しい条件とすることができるため、特に、高圧検査処理(ステップ52)の後に実行する低圧検査処理(ステップ54)において、高電圧の検査用電圧VeHの印加によって不良状態が進行して検査用電圧VeHの印加後に不良箇所と判別すべき状態に至った不良箇所をより確実に検出することができる。
【0040】
また、上記の各絶縁検査方法については、複数のプローブを個別に移動させて導体パターンに接触させるフライングプローブタイプの絶縁検査装置に限らず、回路基板に形成された複数の導体パターンに対応して複数のプローブが設けられ、複数のプローブが共通の移動機構によって回路基板方向に移動させられて、対応する導体パターンに同時に接触する治具式の絶縁検査装置に適用することもできる。
【符号の説明】
【0041】
1 絶縁検査装置
2 回路基板
3,4 導体パターン
7 電圧生成部
10 処理部
Ve,VeH,VeL 検査用電圧

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回路基板における検査対象の導体パターン間に印加する検査用電圧を生成する電圧生成部と、
前記検査用電圧の印加によって生じる前記導体パターン間の物理量に基づいて当該導体パターン間の絶縁状態を検査する検査処理を実行する処理部とを備えた回路基板検査装置であって、
前記処理部は、前記電圧生成部を制御して予め決められた高電圧を前記検査用電圧として前記検査対象の前記導体パターン間に印加させたときの当該導体パターン間の前記物理量に基づいて当該導体パターン間の絶縁状態を検査する高圧検査処理を実行し、当該高圧検査処理において前記絶縁状態が良好であると判別された前記導体パターン間に対して前記電圧生成部を制御して前記高電圧よりも低い低電圧を前記検査用電圧として印加させたときの当該導体パターン間の前記物理量に基づいて前記絶縁状態を検査する低圧検査処理を実行する絶縁検査装置。
【請求項2】
前記処理部は、前記高圧検査処理の実行に先立ち、前記電圧生成部を制御して前記高電圧よりも低い低電圧を前記検査用電圧として前記検査対象の前記導体パターン間に印加させたときの前記物理量に基づいて当該導体パターン間の絶縁状態を検査する一次低圧検査処理を実行し、当該一次低圧検査処理において前記絶縁状態が良好であると判別された当該導体パターン間に対して前記高圧検査処理を実行する請求項1記載の絶縁検査装置。
【請求項3】
回路基板における検査対象の導体パターン間に予め決められた高電圧を印加したときの当該導体パターン間の物理量に基づいて当該導体パターン間の絶縁状態を検査する高圧検査処理を実行し、
当該高圧検査処理において前記絶縁状態が良好であると判別された前記導体パターン間に対して前記高電圧よりも低い低電圧を印加したときの前記物理量に基づいて前記絶縁状態を検査する低圧検査処理を実行する絶縁検査方法。
【請求項4】
前記高圧検査処理の実行に先立ち、前記高電圧よりも低い低電圧を前記導体パターン間に印加したときの前記物理量に基づいて前記絶縁状態を検査する一次低圧検査処理を実行し、
前記一次低圧検査処理において前記絶縁状態が良好であると判別された前記導体パターン間に対して前記高圧検査処理を実行する請求項3記載の絶縁検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−247788(P2011−247788A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−122240(P2010−122240)
【出願日】平成22年5月28日(2010.5.28)
【出願人】(000227180)日置電機株式会社 (982)
【Fターム(参考)】