説明

絶縁物および開閉装置

【課題】アークによって生じる分解ガスに対する耐性が高く且つ残留直流電圧を短時間で減衰させることができ高電圧機器に適した絶縁物および信頼性の高い開閉装置を提供すること。
【解決手段】電気絶縁性の基材9と、基材9の表面に設けられ基材9と同程度の体積抵抗率を有するダイヤモンドライクカーボン膜10とを備えている構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高電圧機器において高電圧導体を支持するのに適した絶縁物および前記絶縁物を用いた遮断器等の開閉装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高電圧機器においては、高電圧が印加される高電圧導体は絶縁物によって支持されて接地電位と絶縁されている。絶縁物には、印加される電圧と絶縁物の形状、材質および絶縁物周辺の電極配置とから決まる電界が印加される。
【0003】
近年、図7に示すように、絶縁性ガス1を充填し接地された密閉容器2内に、絶縁物3を用いて支持した高電圧導体4を配置した構造からなる密閉型開閉装置が多く用いられるようになっている。このような密閉型開閉装置は、交流電圧送電系統に数多く適用されている。
【0004】
密閉型開閉装置において、回路を開放して電流を遮断すると、電極5a,5b間に生じるアーク6によって分解ガス7が生じる。絶縁性ガス1としてSF6を用いた遮断器の場合には、SF4等の非常に活性の高い分解ガスが発生する。絶縁物3に到達した分解ガス7は、絶縁物3を構成する樹脂を劣化させたり絶縁物3に含まれる充填剤と樹脂との界面を劣化させたりして絶縁物3の絶縁性能や機械的性能を劣化させる恐れがある。
【0005】
これを防止するために、絶縁物3の表面に耐分解ガスコーティングを施す場合がある。従来の耐分解ガスコーティングは、耐分解ガス性能の高い樹脂を膜厚を厚くし且つピンホールや膜厚むらが生じないように丁寧に塗布する構成であり、材料や作業のコストの増大をもたらす要因となっている。
【0006】
一般に交流電圧送電系統に設けられる密閉型開閉装置は、交流電圧に対する電界分布を考慮して設計製作されるが、交流電圧送電系統に設けられた密閉型開閉装置においても直流電圧が印加される場合がある。特に、開閉装置の開放操作後には、高電圧回路に直流電圧が残留し、交流電圧用の高電圧機器にも直流電圧が長時間印加される可能性がある。
【0007】
すなわち、図8に示すように、開放状態の遮断器21に隣接する断路器22を開放する場合、断路器22と遮断器21の間の回路23には、図9に示すように残留直流電圧24が発生する。特にガス絶縁高電圧機器においては、絶縁性ガスの優秀な絶縁性能に起因して残留直流電圧の減衰時間が長く、その結果交流電圧用の機器においても直流電圧が絶縁物に長時間印加されることになり、絶縁物の直流耐電圧特性が重要になる場合が生じる。ガス絶縁密閉型開閉装置においては、コスト低減のために絶縁構成の合理化や3相一括化などによる一層の縮小化が指向されている。このため運転電界は高くなる傾向にあり、その結果、残留直流電圧による直流電界も高くなって、絶縁物の直流耐電圧に対する絶縁信頼性の重要性が増す傾向にある。
【0008】
一般に、直流電圧が印加された場合の絶縁物の電界分布は、交流電圧が印加された場合とは異なる。交流電界分布のみを考慮した絶縁構成にすると、残留直流電圧によって生じる直流電界分布において思わぬ電界集中部分を生じる場合がある。特に、抵抗率の異なる絶縁物の間の界面には、残留直流電圧によって電荷が蓄積しやすく、蓄積した電荷は局所的な電界集中の原因となりやすい。
【0009】
このため、運転電界を高くする場合には、交流電圧機器においても直流電圧に対する電界分布について配慮しておくことが必要となり、電荷が蓄積し難い構成とする必要がある。交流電圧機器の絶縁設計において、交流電圧に対する電界分布だけでなく、直流電圧に対する電界分布も考慮することは、絶縁寸法の縮小を難しくし、絶縁構成の合理化や3相一括化を進める上で障害となる可能性が大きい。
【0010】
このように、遮断器の近傍の回路においては、分解ガスによる絶縁物の劣化や電荷蓄積を防ぐ必要がり、従来これを防ぐことが絶縁寸法やコスト低減の妨げとなっている。
【0011】
ところで近年、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜の種々の分野への応用が進んでいる。DLC膜は、一般に、高硬度である、耐摩耗性に優れている、平面が平滑である、摩擦係数が小さい、離型性に優れている、耐薬品性・耐食性に優れている、近赤外域の透過性に優れている、絶縁性に優れている、といった特長を有している。DLC膜をプラスチックに施す技術も実用化され始めており、高いガスバリヤ特性をプラスチックにもたせる発明(特許文献1)やプラスチックテープに連続的にDLCコーティングする発明(特許文献2)がなされている。さらに、耐食性や耐プラズマ性を利用した金属へのDLCコーティングの発明(特許文献3,4)もなされている。
【特許文献1】特開2006-82814号公報
【特許文献2】特開2006-70238号公報
【特許文献3】特開2004-307894号公報
【特許文献4】特開2004-214370号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
DLC膜の持つガスバリヤ性能や耐食性が優れるという特性を、密閉型開閉装置の遮断器と同一ユニット内の分解ガスに曝される可能性の高い絶縁物の絶縁信頼向上のために応用するためには、下記のような課題がある。
【0013】
すなわちまず、実現されているDLC膜の体積抵抗率は一般に109〜1014Ωcmであるが、高電圧機器用絶縁物に効果的に適用できるのは、適切に選定された体積抵抗率のDLC膜である。通常の運転時、高電圧機器用絶縁物には商用交流電圧が印加される。DLC膜の体積抵抗率が低すぎるとDLC膜の耐電圧性能が低下して商用運転電圧で絶縁信頼性を確保し難くなる。DLC膜の体積抵抗率は、成膜時のイオン衝突エネルギーを左右する基板バイアス電圧によって変化することが知られている。バイアス電圧を変化させることによって種々の体積抵抗率のDLC膜を作成することができる。
【0014】
次に、DLC膜の一般な膜厚は10μm程度と薄い。これに対して、電力機器用絶縁物においては場合によって表面粗さが数10μm程度以上となる場合があり、高電圧機器用絶縁物の表面粗さが粗い場合には、表面の凹凸の凹部に膜の無い部分が生じて十分なガスバリヤ効果を得難い場合が生じる。
【0015】
また、DLC膜は、高硬度であるために応力によって割れを生じやすい。これに対して、高電圧機器は通電電流の変動や外気温度の変化によって温度変化を生じやすい。一般的に絶縁物の熱膨張係数はDLC膜よりも大きいため、温度変化によって基材である絶縁物とDLC膜界面に応力を生じてDLC膜に亀裂を生じやすい。亀裂が生じたDLC膜には十分なガスバリヤ性能は期待できない。
【0016】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、アークによって生じる分解ガスに対する耐性が高く且つ残留直流電圧を短時間で減衰させることができ高電圧機器に適した絶縁物および信頼性の高い開閉装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために本発明の絶縁物は、電気絶縁性の基材と、前記基材の表面に設けられ前記基材と同程度の体積抵抗率を有するDLC膜とを備えている構成とする。
【0018】
本発明の開閉装置は、前記絶縁物と、絶縁性ガスを保有する容器内において前記絶縁物によって支持された電気導体とを備えている構成とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、アークによって生じる分解ガスに対する耐性が高く且つ残留直流電圧を短時間で減衰させることができ高電圧機器に適した絶縁物および信頼性の高い開閉装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の5つの実施の形態について、図面を参照して具体的に説明する。なお、図8に示した従来のものと同一の部材に関しては同一符号を付し説明を省略する。
【0021】
(第1の実施の形態)
図1は本発明の第1の実施の形態に係る絶縁物および開閉装置の構成を示す断面図である。すなわち本実施の形態は、密閉容器2内に高電圧導体4を高電圧機器用絶縁物8で支持し絶縁性ガス1を封入してなる密閉型開閉装置において、高電圧機器用絶縁物8は、GFRP(ガラス繊維強化樹脂)基材9の表面に、体積抵抗率がGFRP基材9と同程度となるように調整したDLC膜10を設けたことを構成になっている。
【0022】
ガラス繊維の集合体にエポキシ樹脂等の樹脂を含浸して製作され優れた機械特性を有するGFRPは、高電圧機器用絶縁物として密閉型開閉装置に使用される場合がある。しかしながら、分解ガス7が存在する環境で使用する場合には、GFRP基材9を構成するガラス繊維は分解ガス7によって腐食されやすいため、耐分解ガスコーティングと組み合わせて使用される必要がある。
【0023】
耐分解ガスコーティングとGFRPとは一般に体積抵抗率が異なる。図2に示すように、一般に、体積抵抗率の異なる絶縁物11と絶縁物12を重ねた状態で直流電圧を印加すると、その界面13に電荷14が蓄積する。蓄積した電荷14は、雷インパルス電圧が印加された場合等に局所的に電界を増大させる効果を持つため、絶縁物の耐電圧性能を低下させる。GFRP基材9の表面にDLC膜10を設けた高電圧機器用絶縁物8において、絶縁物のGFRP基材9とDLC膜10の体積抵抗率をほぼ同程度にすると、直流電圧が印加された場合にGFRP基材9とDLC膜10の界面に電荷が蓄積するのを低減することができる。
【0024】
高電圧機器用絶縁物が商用運転電圧にさらされる場合、一般に絶縁物の表面層の体積抵抗率が1013Ωcmよりも低くなると絶縁性能が急激に低下する。ガラス繊維に樹脂含浸したGFRPの体積抵抗率は1015Ωcm程度の場合が多い。このことから、成膜時の基材バイアス電圧等を調整して体積抵抗率が1014〜1015Ωcm程度となるように調整したDLC膜10をGFRP基材9の表面に設けて、直流印加時にDLC膜10とGFRP基材9の界面への空間電荷の蓄積を抑制し商用電圧に対する絶縁性能の低下を防いでいる。DLC膜10とGFRP基材9の体積抵抗率が近いことから、直流印加時にこれらの界面に蓄積する電荷を小さく抑えることができる。
【0025】
その結果、耐分解ガス性能が向上し、同時に、残留直流電圧印加後に印加される可能性のある雷インパルス電圧に対しても絶縁信頼性を向上することができる。したがって本実施の形態によれば、分解ガスの存在する使用条件においても残留直流電圧に対して絶縁信頼性が高く且つ機械強度も高く高電圧機器に適した絶縁物および信頼性の高い開閉装置を提供することができる。
【0026】
(第2の実施の形態)
本発明の第2の実施の形態は、図3に示すように、密閉容器2内に高電圧導体4を高電圧機器用絶縁物8aで支持し絶縁性ガス1を封入してなる密閉型開閉装置において、高電圧機器用絶縁物8aは、体積抵抗率を調整した注形品基材15の表面に、体積抵抗率がこの注形品基材15と同程度となるように調整したDLC膜10を設けた構成である。
【0027】
エポキシ樹脂等の樹脂に熱膨張係数を小さく機械的強度を向上させるシリカ、アルミナ等の充填剤や液状ポリアミド樹脂や液状多硫化重合物等の付与剤を混合した混和物を注形してなる注形品基材15は耐熱性能や機械強度が優れるため、密閉型開閉装置に使用される場合が多い。しかしながら分解ガス7が存在する環境では、充填剤自身や、充填剤とエポキシ樹脂との界面が分解ガスによって腐食されて機械強度や表面層の絶縁抵抗が大きく低下する場合がある。絶縁物が商用運転電圧にさらされる場合、表面層の体積抵抗率が1013Ωcmよりも低くなると絶縁性能が急激に低下することが知られている。
【0028】
一般に、充填剤入りエポキシ樹脂を用いた注形絶縁物では、液状ポリアミド樹脂や液状多硫化重合物等の付与剤を10〜20phr調整付与することで体積抵抗率を変化できることが知られており、これらの使用により、体積抵抗率を1015Ωcm程度に調整した注形品基材15とすることができる。
【0029】
本実施の形態の高電圧機器用絶縁物8aは、このように体積抵抗率を調整した注形品基材15の表面に、成膜時の基材バイアス電圧等を調整して体積抵抗率が1014〜1015Ωcm程度となるように調整したDLC膜10を設けて、直流印加時にDLC膜10と注形品基材15との界面における空間電荷の蓄積を抑制し商用電圧に対して絶縁性能が低下することを防ぐ。DLC膜10と注形品基材15との体積抵抗率が近いことから、直流印加時に界面に蓄積する電荷を小さく抑えることができる。
【0030】
その結果、耐分解ガス性能を向上し、同時に、残留直流電圧印加後に印加される可能性のある雷インパルス電圧に対しても絶縁信頼性を向上することができる。したがって本実施の形態によれば、分解ガスの存在する使用条件においても残留直流電圧に対して絶縁信頼性が高く機械強度も高く高電圧機器に適した絶縁物および信頼性の高い開閉装置を提供することができる。
【0031】
(第3の実施の形態)
本発明の第3の実施の形態は、図4に示すように、密閉容器2内に高電圧導体4を高電圧機器用絶縁物8bで支持し絶縁性ガス1を封入してなる密閉型開閉装置において、高電圧機器用絶縁物8bは、GFRP基材9の表面に、体積抵抗率が1014〜1015Ωcm程度となるように付与剤を調整したエポキシ樹脂等の塗膜16を形成し、その上に体積抵抗率が1014Ωcmとなるように調整したDLC膜10を設けた構成である。
【0032】
ガラス繊維の集合体に樹脂を含浸して製作され優れた機械特性を有するGFRPからなる絶縁物は機械強度が優れるため、密閉型開閉装置に使用される場合がある。しかしながらガラス繊維は分解ガスによって腐食されやすいため、分解ガスが存在する環境で使用する場合には、耐分解ガスコーティングと組み合わせて使用される必要がある。高電圧機器用絶縁物が商用運転電圧にさらされる場合、高電圧機器用絶縁物の表面層の体積抵抗率が1013Ωcmよりも低くなると絶縁性能が急激に低下することが知られている。
【0033】
本実施の形態ではこれを考慮して、残留直流電圧を短時間で減衰させて高電圧機器用絶縁物に直流電圧が印加される時間を減少させて絶縁性能への影響を無くす目的で、高電圧機器用絶縁物8bを、GFRP基材9の表面に例えば液状ポリアミド樹脂や液状多硫化重合物等の付与剤を10〜20phr調整付与することで体積抵抗率が1014〜1015Ωcmとなるよう調整したエポキシ樹脂等の塗膜16を形成してある。
【0034】
この体積抵抗率を調整した樹脂塗膜16は厚いほど全体の抵抗値が低下して、より短時間で主回路に残留した直流電圧を漏洩させて減衰させることができ、直流電圧の影響で電荷の蓄積が生じるのを低減することができる。
【0035】
一般にDLC膜10を数μm以上に厚くするのは難しいが、本実施の形態の構成の場合には、DLC膜10を通して残留直流電圧を減衰させるわけではないので、DLC膜10の厚さは薄くても問題なく、樹脂塗膜16は比較的容易に厚膜化することができる。また、GFRP基材9の表面に施された樹脂塗膜16の表面粗さは一般に数μm以下と小さいので、薄いDLC膜でもピンホールなどの無い状態で成膜しやすく、ガスブロック上の弱点の発生を防ぐことができる。さらに、DLC膜10と樹脂塗膜16とGFRP基材9の体積抵抗率が近いことから、直流印加時にそれぞれの界面に蓄積する電荷を小さく抑えることができる。
【0036】
その結果、DLC膜10のガスブロック性を利用して耐分解ガス性能を向上し、同時に、残留直流電圧印加後に印加される可能性のある雷インパルス電圧に対しても絶縁信頼性を向上することができる。したがって本実施の形態によれば、分解ガスの存在する使用条件においても残留直流電圧に対して絶縁信頼性が高く機械強度も高く高電圧機器に適した絶縁物および信頼性の高い開閉装置を提供することができる。
【0037】
(第4の実施の形態)
本発明の第4の実施の形態は、図5に示すように、密閉容器2内に高電圧導体4を高電圧機器用絶縁物8cで支持し絶縁性ガス1を封入してなる密閉型開閉装置において、高電圧機器用絶縁物8cは、基材であるGFRP、注形品等の絶縁物17の表面に、エラストマー等の弾性樹脂18を塗布し、その上に成膜時の基材バイアス電圧等を調整して体積抵抗率が1014Ωcm程度となるように調整したDLC膜10を設けた構成である。
【0038】
DLC膜はガスバリヤ特性や耐食性を有するが、硬度が高く割れを生じやすい。これに対して、高電圧機器は通電電流の変動や外気温度の変化によって温度変化を生じやすい。一般の絶縁物の熱膨張係数はDLC膜よりも大きく、温度変化によって基材であるGFRP、注形品等の絶縁物17とDLC膜10の界面において応力を生じてDLC膜10に亀裂が入りやすい。亀裂が生じたDLC膜10にはガスバリヤ性能を期待し難い。
【0039】
本実施の形態では、絶縁物17とDLC膜10との間にエラストマー等からなる弾性樹脂15の層を設けることにより、GFRP等の絶縁物17とDLC膜10との界面に生じる応力を低減でき、DLC膜10の割れを防ぐことができる。さらに、高電圧機器用絶縁物が商用運転電圧にさらされる場合、表面層の体積抵抗率が1013Ωcmよりも低くなると絶縁性能が急激に低下することが知られているが、エラストマー等の弾性樹脂18からなる層の体積抵抗率は、例えば液状ポリアミド樹脂や液状多硫化重合物等の付与剤を10〜20phr調整付与することによって1014Ωcm程度に調整することができる。この体積抵抗率を調整した弾性樹脂18は厚いほど高電圧機器用絶縁物8cの抵抗値が低下して、より短時間で主回路に残留した直流電圧を漏洩させて減衰させることができ、直流電圧の影響で電荷の蓄積が生じるのを抑制することができる。
【0040】
本実施の形態では、DLC膜10を通して残留直流電圧を減衰させるわけではないので、DLC膜10の厚さは薄くても問題なく、弾性樹脂18は比較的容易に厚膜化することができる。また、エラストマー等で構成される弾性樹脂18の表面粗さは一般に数μm以下と小さいので、薄いDLC膜10でもピンホールや不連続部が無く成膜しやすく、ガスブロック上の弱点が生じ難い。さらに、DLC膜10と弾性樹脂18と絶縁物17の体積抵抗率が近いことから、直流印加時にそれぞれの界面に蓄積する電荷を小さく抑えることができる。
【0041】
その結果、耐分解ガス性能を向上し、同時に、残留直流電圧印加後に印加される可能性のある雷インパルス電圧に対しても絶縁信頼性を向上することができる。したがって、本実施の形態によれば、分解ガスの存在する使用条件においても残留直流電圧に対して絶縁信頼性が高く機械強度も高く高電圧機器に適した絶縁物および信頼性の高い開閉装置を提供することができる。
【0042】
(第5の実施の形態)
本発明の第5の実施の形態は、図6に示すように、密閉容器2内に高電圧導体4を高電圧機器用絶縁物8dで支持し絶縁性ガス1を封入してなる密閉型開閉装置において、高電圧機器用絶縁物8dは、GFRP、注形品等の絶縁物17の表面に、あらかじめPET(ポリエチレンテレフタレート)等のプラスチックテープにDLC膜を設けたDLCコーティッドテープ19を巻きつけ、その後、体積抵抗率が1014Ωcm程度となるように調整したエポキシ樹脂等を含浸して表面に樹脂塗膜16を形成した構成である。
【0043】
DLC膜はガスバリヤ特性や耐食性を有するが、硬度が高く割れを生じやすい。また、表面積の大きい絶縁物に、ピンホールのような隙間をなくしてDLC膜をコーティングすることは、大きな処理時間やコストを必要とする。
【0044】
これに対して、プラスチックテープのような限定された幅に連続的にDLC膜を均一に成膜することはより低いコストで実施することができる。DLC膜を設けたプラスチックテープを絶縁物に重ね巻きすると、絶縁物に直接DLC膜を設けたのと近い構造とすることができガスブロック性能を期待できるが、DLC膜の摩擦係数が小さいという特性のために、テープがずれやすい。テープがずれるとガスブロック性を期待し難い。
【0045】
本実施の形態は、DLCコーティッドテープ19をGFRP、注形品等の絶縁物17に巻き付けた後で抵抗率を調性したエポキシ樹脂等で含浸することにより、DLCコーティッドテープ19がずれることを防止することができる。
【0046】
高電圧機器用絶縁物8dが商用運転電圧にさらされる場合、表面層の体積抵抗率が1013Ωcmよりも低くなると絶縁性能が急激に低下するが、この含浸に使うエポキシ樹脂等の体積抵抗率を、例えば液状ポリアミド樹脂や液状多硫化重合物等の付与剤を10〜20phr調整付与することで1014Ωcm程度となるように調整することができる。この体積抵抗率を調整したエポキシ樹脂等の塗膜16が厚いほど高電圧機器用絶縁物8dの抵抗値が低下して、より短時間で主回路に残留した直流電圧を減衰させることができ、直流電圧の影響で電荷の蓄積が生じるのを低減することができる。
【0047】
本実施の形態では、DLC膜を通して残留直流電圧を減衰させるわけではないので、DLDコーティッドテープ18に設けるDLC膜の厚さは薄くても良い。さらに、DLC膜と含浸樹脂(エポキシ)とGFRP、注形品等の絶縁物17の体積抵抗率が近いことから、直流印加時にDLC膜と含浸樹脂(エポキシ)との界面に蓄積する電荷を小さく抑えることができる。
【0048】
その結果、耐分解ガス性能を向上し、同時に、残留直流電圧印加後に印加される可能性のある雷インパルス電圧に対しても絶縁信頼性を向上することができる。このようにして本実施の形態によれば、分解ガスの存在する使用条件においても残留直流電圧に対して絶縁信頼性が高く高電圧機器に適した絶縁物および信頼性の高い開閉装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の第1の実施の形態の絶縁物および開閉装置の構成を示す断面図。
【図2】体積抵抗率の異なる絶縁物の界面に蓄積する電荷を示し、本発明の第1の実施の形態の作用を説明する図。
【図3】本発明の第2の実施の形態の絶縁物および開閉装置の構成を示す断面図。
【図4】本発明の第3の実施の形態の絶縁物および開閉装置の構成を示し、(a)は断面図、(b)は(a)の(b)部分の拡大図。
【図5】本発明の第4の実施の形態の絶縁物および開閉装置の構成を示し、(a)は断面図、(b)は(a)の(b)部分の拡大図。
【図6】本発明の第5の実施の形態の絶縁物および開閉装置の構成を示す断面図。
【図7】従来の密閉型開閉装置の構造を示す断面図。
【図8】従来の密閉型開閉装置の回路図。
【図9】従来の密閉型開閉装置での残留直流電圧の発生を説明する波形図。
【符号の説明】
【0050】
1…絶縁性ガス、2…密閉容器、3…絶縁物、4…高電圧導体、5a,5b…電極、6…アーク、7…分解ガス、8,8a,8b,8c,8d…高電圧機器用絶縁物、9…GFRP基材、10…DLC膜、11,12…絶縁物、13…界面、14…電荷、15…注形品基材、16…樹脂塗膜、17…GFRP、注形品等の絶縁物、18…弾性樹脂、19…DLCコーティッドテープ、21…開放遮断器、22…開放操作断路器、23…断路器と遮断器の間の回路、24…残留直流電圧。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気絶縁性の基材と、前記基材の表面に設けられ前記基材と同程度の体積抵抗率を有するダイヤモンドライクカーボン膜とを備えていることを特徴とする絶縁物。
【請求項2】
前記基材はGFRPからなることを特徴とする請求項1に記載の絶縁物。
【請求項3】
前記基材は充填剤入り樹脂注形品であることを特徴とする請求項1に記載の絶縁物。
【請求項4】
前記基材と前記ダイヤモンドライクカーボン膜の間に、前記基材と同程度の体積抵抗率を有する樹脂塗膜または弾性樹脂層を備えていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の絶縁物。
【請求項5】
前記ダイヤモンドライクカーボン膜はプラスチックフィルムにダイヤモンドライクカーボンを塗布してなるテープの巻き付けによって形成されており、前記テープの巻き付け後、前記基材と前記ダイヤモンドライクカーボン膜の間に、前記基材と同程度の体積抵抗率を有する樹脂を含浸したことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の絶縁物。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の絶縁物と、絶縁性ガスを保有する容器内において前記絶縁物によって支持された電気導体とを備えていることを特徴とする開閉装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2009−77579(P2009−77579A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−245594(P2007−245594)
【出願日】平成19年9月21日(2007.9.21)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】