説明

絶縁電線及びその製造方法

【課題】絶縁皮膜の皮膜厚さを大きくしなくても耐電圧特性に優れた絶縁電線及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】導体10の表面にその30℃における粘度が0.005〜0.05Pa・sである絶縁塗料2を塗布した後、焼付けを行う操作を繰り返し、皮膜厚さが3〜15μmである絶縁皮膜を形成する。絶縁電線は、直径が0.035〜0.15mmの導体、及び該導体を被覆し、皮膜厚さが3〜6.5μmの絶縁皮膜を有する絶縁電線であって、絶縁皮膜はポリウレタン又はポリエステルイミドを含有し、JIS C3003により測定した絶縁皮膜の絶縁破壊電圧が、皮膜厚さ0.001mm当たり340V以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁電線及びその製造方法に関する。さらに詳しくは、絶縁皮膜の皮膜厚さを大きくしなくても耐電圧特性に優れた絶縁電線及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、絶縁電線は、導体の表面に絶縁塗料を塗布し、所定温度で焼付けを行って絶縁皮膜を形成することにより製造されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
絶縁電線を、例えば、自動車のイグニッションコイル用電線のように高電圧が印加される用途に用いる場合には、絶縁皮膜には耐電圧特性が要求される。絶縁皮膜の耐電圧特性は、その皮膜厚さに比例して向上することから、絶縁皮膜の皮膜厚さを大きくすることによって耐電圧特性の向上が図られている。
【0004】
【特許文献1】特開2007−149562号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、絶縁皮膜の皮膜厚さを大きくすると絶縁電線の外径が必然的に大きくなり、その結果、この絶縁電線を用いて製造されたコイルの寸法が大きくなることから、絶縁皮膜の皮膜厚さが小さくても絶縁性に優れた絶縁電線の開発が望まれている。
【0006】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、絶縁皮膜の皮膜厚さを大きくしなくても耐電圧特性に優れた絶縁電線の製造方法を提供することを課題とする。また、本発明は、絶縁皮膜の皮膜厚さが大きくなくても耐電圧特性に優れた絶縁電線を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の絶縁電線の製造方法は、導体及び該導体を被覆する絶縁皮膜を有する絶縁電線の製造方法であって、導体の表面にその30℃における粘度が0.005〜0.05Pa・sである絶縁塗料を塗布した後、焼付けを行う操作を繰り返し、皮膜厚さが3〜15μmである絶縁皮膜を形成することを特徴としている。この製造方法によれば、従来よりも低粘度の絶縁塗料をより多い回数で塗布及び焼付けを行うことにより、絶縁皮膜中のピンホールの発生を低減することができ、絶縁皮膜の皮膜厚さを大きくしなくても、耐電圧特性に優れた絶縁電線を得ることができる。
【0008】
本発明の絶縁電線の製造方法によれば、導体の直径が0.035〜0.2mmであっても、絶縁皮膜の皮膜厚さを大きくすることなく、絶縁性に優れた絶縁電線を得ることができる。
【0009】
本発明の絶縁電線の製造方法によれば、ポリウレタン又はポリエステルイミドを含有する絶縁塗料を用いることにより、耐電圧特性に優れるとともにはんだ付け性に優れた絶縁電線が得られる。
【0010】
本発明の絶縁電線は、直径が0.035〜0.15mmの導体、及び該導体を被覆し、皮膜厚さが3〜6.5μmの絶縁皮膜を有する絶縁電線であって、絶縁皮膜はポリウレタン又はポリエステルイミドを含有し、JIS C3003により測定した絶縁皮膜の絶縁破壊電圧が、皮膜厚さ0.001mm当たり340V以上である。本発明の絶縁電線は、絶縁被膜の厚さが3〜6.5μmと小さいにもかかわらず、耐電圧特性に優れているので、絶縁電線の外径を小さくすることができるという効果を奏する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の絶縁電線の製造方法によれば、絶縁皮膜の皮膜厚さを大きくしなくても耐電圧特性に優れた絶縁電線を得ることができる。また、本発明の絶縁電線は、絶縁皮膜の皮膜厚さが大きくなくても耐電圧特性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の絶縁電線の製造方法は、導体及び該導体上に形成された絶縁皮膜を有する絶縁電線の製造方法であって、導体の表面にその30℃における粘度が0.005〜0.05Pa・sである絶縁塗料を塗布した後、焼付けを行う操作を繰り返し、皮膜厚さが3〜15μmである絶縁皮膜を形成することを特徴としている。本発明の絶縁電線の製造方法は、前記特徴を有するので、絶縁皮膜の皮膜厚さを大きくしなくても耐電圧特性に優れた絶縁電線を製造することができる。したがって、本発明の絶縁電線は、例えば、自動車のイグニッションコイル用電線のように高電圧が印加される用途に好適に使用することができる。
【0013】
導体としては、特に限定がなく、例えば、銅線等が挙げられる。導体の直径(導体径)は、絶縁電線の強度を確保する観点から、好ましくは0.035mm以上、より好ましくは0.04mm以上である。また、使用する塗布装置の観点から、好ましくは0.1mm以下、より好ましくは0.06mm以下である。このように、本発明では、細線から太線にいたるまで幅広い直径を有する導体を用いることができる。なかでも特に、従来、耐電圧特性を付与することが困難であるとされている直径が0.035〜0.15mm、好ましくは0.04〜0.1mmである導体であっても、優れた耐電圧特性を付与することができる。
【0014】
本発明の絶縁電線の製造方法においては、まず、導体の表面にその30℃における粘度が0.005〜0.05Pa・sである絶縁塗料を塗布する。本発明は、このように絶縁塗料として、30℃における粘度が特定範囲内にある絶縁塗料を用いる点に、1つの大きな特徴がある。本発明においては、30℃における絶縁塗料の粘度を特定範囲内となるように調整し、その絶縁塗料を所定の皮膜厚さとなるように塗布と焼付けを繰り返すという操作が採られているので、上記粘度よりも高粘度の絶縁塗料を用いて同じ皮膜厚さを形成した場合と比較すると均一に塗布することができる。これによりピンホールの発生が少なくなり、耐電圧特性に優れた絶縁皮膜を形成することができる。
【0015】
絶縁塗料の粘度は、30℃における粘度で規定されている。絶縁塗料の粘度は、通常、その塗料の温度によって異なることから、絶縁塗料が30℃よりも高温で塗布される場合には、塗布時の粘度は30℃での粘度よりも低くなる。
【0016】
絶縁塗料を導体に塗布するときの絶縁塗料の温度は、使用する設備によっても異なるが、高くなるにしたがって絶縁塗料に含まれている溶媒が揮散し、塗布時の絶縁塗料の粘度に変動が生じやすくなる傾向があることから、通常、常温〜50℃であることが好ましい。
【0017】
絶縁塗料の粘度は、例えば、絶縁塗料の固形分量を調節することによって調整してもよく、あるいは絶縁塗料を導体に塗布するときの絶縁塗料の温度を調節することによって調整してもよい。
【0018】
絶縁塗料の30℃での粘度は、導体に均一に塗布する観点から、0.005Pa・s以上、好ましくは0.01Pa・s以上であり、生産性を向上させる観点から、0.05Pa・s以下、好ましくは0.04Pa・s以下である。なお、絶縁塗料の粘度は、ブルックフィールド型粘度計(ローターNo.2)を用い、絶縁塗料を30℃で測定したときの値である。したがって、導体に塗布するときの絶縁塗料の粘度は、塗布時の温度が30℃であれば、上記の粘度であり、塗布時の温度が30℃より高ければ、上記の粘度よりも低くなる。
【0019】
絶縁塗料としては、例えば、絶縁性を有する樹脂を有機溶媒に溶解させた絶縁塗料等が挙げられる。
前記樹脂としては、例えば、ポリエステルイミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリウレタン等が挙げられる。これらの中では、本発明の絶縁電線の耐電圧特性を高めるとともにハンダ付けを容易にする観点から、ポリウレタン及びポリエステルイミドが好ましい。
【0020】
ポリウレタンには、ポリエステル系ポリウレタンとポリエーテル系ポリウレタンとがある。ポリエステル系ポリウレタンは、例えば、アジピン酸と多価アルコールの重縮合によって得られるアジペートとジイソシアネートとの重付加反応させるによって得ることができる。ポリエーテル系ポリウレタンは、例えば、ポリ(オキシプロピレン)グリコール(PPG)やポリ(オキシテトラメチレン)グリコール(PTMG)等の二官能ポリエーテルとジイソシアネートとを反応させることにより得ることができる。
【0021】
ポリエステルイミドは、例えば、トリカルボン酸無水物とジアミンとの反応生成物であるイミドジカルボン酸と多価アルコールとを反応させることによって得ることができる。
【0022】
前記有機溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラメチル尿素、ヘキサエチルリン酸トリアミド、γ−ブチロラクトンなどの極性有機溶媒をはじめ、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロへキサノンなどのケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、シュウ酸ジエチルなどのエステル類;ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類;ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの炭化水素化合物;ジクロロメタン、クロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素化合物;クレゾール、クロロフェノールなどのフェノール類;ピリジンなどの第三級アミン類などが挙げられ、これらの有機溶媒は、それぞれ単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。有機溶媒の量は、導体の表面に塗布するときに絶縁塗料が所望の粘度を有するように調整することが好ましい。
【0023】
絶縁塗料を導体に塗布する際には、例えば、フエルト絞り方式、ダイス方式等の通常使用されている方式を採用することができる。
【0024】
絶縁塗料の1回あたりの塗布量は、絶縁塗料の種類や粘度等によって異なるので一概には決定することができない。本発明に用いられる絶縁塗料は、所定の粘度を有することから、通常、導体に絶縁塗料を塗布したときに、絶縁塗料の薄膜が形成される。なお、導体に均一な絶縁皮膜を形成させる観点から、導体の全面に絶縁塗料が塗布される。
【0025】
絶縁塗料を導体に塗布した後に、焼付けを行う。焼付けの際の焼付け温度は、絶縁塗料の種類によって異なるため一概には決定することができないが、耐電圧特性を高める観点から、通常、300〜450℃であることが好ましい。
【0026】
本発明では、絶縁塗料の導体への塗布とその焼付けが繰り返されるが、その繰り返し数(以下、塗布回数という)は、所望の絶縁皮膜の皮膜厚さとなるように調整される。したがって、その塗布回数は、塗布条件等によって異なるので一概には決定することができないが、通常、7〜30回程度である。
【0027】
以上のようにして絶縁塗料の導体への塗布とその焼付けを繰り返すことにより、導体上に絶縁皮膜が形成される。形成された絶縁皮膜の皮膜厚さは、本発明の絶縁電線の用途等によって異なるので一概には決定することができないが、通常、導体を保護する観点から、3μm以上、好ましくは5μm以上であり、絶縁電線を用いて製造されたコイルの大きさを小さくする観点から、15μm以下、好ましくは10μm以下である。なお、導体が、その直径が0.035〜0.15mmである細線である場合には、絶縁皮膜の皮膜厚さは、導体を保護する観点から、3μm以上、好ましくは4μm以上であり、得られる絶縁電線の直径が大きくなりすぎないようにする観点から、6.5μm以下、好ましくは6μm以下である。
【0028】
このようにして得られる本発明の絶縁電線は、絶縁皮膜の皮膜厚さが大きくなくても、耐電圧特性に優れているので、自動車のイグニッションコイル用電線のように高電圧が印加される用途に好適に使用することができる。
【実施例】
【0029】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0030】
実施例1
図1に示される絶縁電線の製造装置を用いて絶縁電線を作製した。絶縁電線の製造装置1は、絶縁塗料を一定量塗布するためにフエルト絞り方式を採用した横型の装置である。絶縁電線の製造装置1は、コーターロール3を備え、絶縁塗料2が満たされた塗料槽4で構成される絶縁塗料塗布部5と、絶縁塗料絞りフエルト部6と、焼付け炉7とで構成されている。
【0031】
コーターロール3は、直径が70mmであり、矢印A方向に回転している。絶縁塗料絞りフエルト部6は、フエルト8の厚さが10mm、導体の通過する幅が20mm、錘板9の重さが100gである。焼付け炉7は、炉の内部を電熱ヒーターで加熱する電熱式であって、入口、中央及び出口のゾーン別に温度管理が可能となっている。
【0032】
絶縁塗料2として、ポリウレタン〔大日精化工業(株)製、製品名:FS−144〕(主成分:ポリエステル系ポリウレタン、不揮発分含量:27重量%、粘度:0.06Pa・s〔30℃、ブルックフィールド型粘度計(ローターNo.2)〕、溶媒:クレゾール/キシレンを50/50の重量比で混合したもの)とクレゾールとキシレンとを77.8:11.1:11.1の重量比で混合したものを使用した。塗料槽4内の絶縁塗料2(液温:30℃)の不揮発分含量(樹脂濃度)は21重量%であって、30℃における粘度は0.02Pa・s〔ブルックフィールド型粘度計(ローターNo.2)〕であった。
【0033】
直径が約0.048mmの銅製の導体10を白抜きの矢印方向に線速210m/分で走行させ、矢印A方向に回転するコーターロール3によって導体10の表面に30℃の絶縁塗料2を塗布した。その後、絶縁塗料絞りフエルト部6を経て、焼付け炉7内を通過させることにより焼付けを行った。焼付け炉7内の温度(焼付温度)は、表1に示すように入口から出口へ進むにつれて高くなるように設定されている。この塗布と焼付けの操作を9回繰り返すことにより、表1に示す寸法(仕上外径、導体径及び皮膜厚さ)を有する絶縁電線を得た。
【0034】
ここで、寸法は、JIS C3003「5.2a 丸線」に準じて測定した。具体的には、仕上外径は、長さ約15cmの試験片を採り、導体軸に垂直な同一平面のほぼ等しい角度で直径をマイクロメータで3ヵ所測定し、これらの測定値の平均値で表した。
【0035】
導体径は、仕上外径を測った箇所の皮膜を炎で焼き、アルコールに浸漬して除去した後、前記「仕上外径」と同じ方法で測定し、その平均値で表した。
皮膜厚さは、前記仕上外径と前記導体径との差を求め、この差を2で除することによって求めた。
【0036】
得られた絶縁電線の物性として、外観、ピンホール、3%ピンホール、可とう性、密着性、伸び及び耐電圧特性(絶縁破壊電圧、皮膜厚さ0.001mm当たりの絶縁破壊電圧及びVT特性)を以下の方法に基づいて評価した。その結果を表1に示す。
【0037】
(1)外観
光沢の有無、気泡の有無及び傷の有無を拡大鏡を用いて目視にて観察し、光沢があり、気泡がなく、傷がないものを「○」とし、それ以外は「×」と評価した。
【0038】
(2)ピンホール
JIS C3003「6c ピンホール法」に準じて測定した。より具体的には、フェノールフタレインの3%アルコール溶液を滴下した0.2%食塩水中に、試験片として、長さが約5mの絶縁電線を浸した。そして、食塩水を正極、絶縁電線を負極とし、12Vの直流電圧を1分間印加し、発生したピンホールの数をカウントした。
【0039】
(3)3%伸長後のピンホール
長さが約1mの絶縁電線の長さを3%伸長させた後、前記(2)と同様にして発生したピンホールの数をカウントした。
【0040】
(4)可とう性
JIS C3003「7.2.1a 伸長」に準じて測定した。より具体的には、同一巻枠から長さ約35cmの絶縁電線3本を採り、それぞれについて標線間距離を250mmに設定し、絶縁電線の長さを3%伸長させ、絶縁皮膜に導体が見える程度の亀裂が発生していないかどうかを約15倍の拡大鏡で調べた。亀裂が生じていなければ「良」と判定し、亀裂が生じていれば「不良」と判定した。
【0041】
(5)密着性
JIS C3003「8.1a 急激伸長」に準じて測定した。より具体的には、標線間距離250mmの絶縁電線を破断するまで急激に伸長させ、その破断した絶縁電線に亀裂が発生していないかどうかを拡大鏡で調べた。亀裂の数が0個の場合に「良」と判定し、亀裂が生じた場合に「不良」と判定した。
【0042】
(6)破断時の伸び率
標線間距離250mmの絶縁電線を引張速さ100mm/分で引張り、破断時の長さをオートグラフにて測定し、式:
〔破断時の伸び率(%)〕=〔(破断時の長さ−250)÷250〕×100
に基づいて求めた。
【0043】
(7)耐電圧特性
(i)絶縁破壊電圧
JIS C3003「10.2b 2個より法」に準じて測定した。より具体的には、同一巻枠から長さ約50cmの絶縁電線3本を採り、その各々を2つに折り合わせ、0.0294Nの張力を加えながら、約12cmの長さの部分を50回撚り合わせた後、張力を取り去り、折り目部分を取り除いて2個よりの絶縁電線を作製した。この2個よりの絶縁電線の2本の導体間に50Hz又は60Hzの交流電圧を500V/sで昇圧しながら印加し、絶縁皮膜が破壊されて短絡したときの電圧(kV)を測定した。3本の絶縁電線の平均値を表1に示す。
【0044】
(ii)皮膜厚さ0.001mm当たりの絶縁破壊電圧
前記「寸法」で求めた皮膜厚さの値と、前記(i)で求めた絶縁破壊電圧の値とから、0.001mm当たりの絶縁破壊電圧を、式:
〔皮膜厚さ0.001mm当たりの絶縁破壊電圧(V)〕
=〔絶縁破壊電圧(kV)/皮膜厚さ(mm)×2〕
に基づいて求めた。
【0045】
(iii)VT特性
VT特性は、過電圧印加時の絶縁破壊電圧と破壊時間との関係を示す特性のことである。前記(i)の絶縁破壊電圧試験と同じ2個よりの絶縁電線を用い、2本の導体間に1.3kVの電圧を1kHzの周波数で連続的に印加し、絶縁皮膜が破壊されて短絡するまでの時間(秒)を測定した。3本の絶縁電線について測定し、その平均値を表1に示す。
【0046】
実施例2
実施例1において、絶縁塗料の塗布回数を9回から12回に変更したこと以外は、実施例1と同様にして絶縁電線を作製した。得られた各絶縁電線の物性を実施例1と同様にして調べた。その結果を表1に示す。
【0047】
実施例3
実施例1において、絶縁塗料の塗布回数を9回から15回に変更し、焼付け炉内の温度(入口/中央/出口)を320℃、330℃及び340℃の代わりにそれぞれ310℃、320℃及び330℃にしたこと以外は、実施例1と同様にして絶縁電線を作製した。得られた各絶縁電線の物性を実施例1と同様にして調べた。その結果を表1に示す。
【0048】
実施例4
実施例1において、絶縁塗料の塗布回数を9回から18回に変更し、焼付け炉内の温度(入口/中央/出口)を320℃、330℃及び340℃の代わりにそれぞれ310℃、320℃及び330℃にしたこと以外は、実施例1と同様にして絶縁電線を作製した。得られた各絶縁電線の物性を実施例1と同様にして調べた。その結果を表1に示す。
【0049】
比較例1
実施例1において、塗布時(30℃)における粘度が0.02Pa・sの絶縁塗料の代わりに、前述のポリウレタン樹脂〔不揮発分含量:27重量%、粘度:0.06Pa・s(30℃、ブルックフィールド型粘度計(ローターNo.2))〕を希釈せずに絶縁塗料として用い、焼付け炉内の温度(入口/中央/出口)を320℃、330℃及び340℃の代わりにそれぞれ340℃、350℃及び360℃にしたこと以外は、実施例1と同様にして絶縁電線を作製した。得られた絶縁電線の物性を実施例1と同様にして調べた。その結果を表2に示す。
【0050】
比較例2
実施例1において、塗布時(30℃)における粘度が0.02Pa・sの絶縁塗料の代わりに、0.06Pa・sの絶縁塗料を用い、絶縁塗料の塗布回数を9回から12回に変更し、焼付け炉内の温度(入口/中央/出口)を320℃、330℃及び340℃の代わりにそれぞれ330℃、340℃及び350℃にしたこと以外は、実施例1と同様にして絶縁電線を作製した。得られた各絶縁電線の物性を実施例1と同様にして調べた。その結果を表2に示す。
【0051】
比較例3
実施例1において、塗布時(30℃)における粘度が0.02Pa・sの絶縁塗料の代わりに、0.06Pa・sの絶縁塗料を用い、絶縁塗料の塗布回数を9回から15回に変更したこと以外は、実施例1と同様にして絶縁電線を作製した。得られた各絶縁電線の物性を実施例1と同様にして調べた。その結果を表2に示す。
【0052】
比較例4
実施例1において、塗布時(30℃)における粘度が0.02Pa・sの絶縁塗料の代わりに、0.06Pa・sの絶縁塗料を用い、絶縁塗料の塗布回数を9回から18回に変更し、焼付け炉内の温度(入口/中央/出口)を320℃、330℃及び340℃の代わりにそれぞれ310℃、320℃及び330℃にしたこと以外は、実施例1と同様にして絶縁電線を作製した。得られた各絶縁電線の物性を実施例1と同様にして調べた。その結果を表2に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【0055】
表1及び表2に示された結果から、各実施例で得られた絶縁電線は、塗布時の粘度が0.06Pa・sである絶縁塗料が用いられた各比較例で得られた絶縁電線と対比して、同じ皮膜厚さであるにもかかわらず、耐電圧特性として、絶縁破壊電圧及びVT特性、特にVT特性に優れていることがわかる。
【0056】
実施例5
実施例1において、絶縁塗料の塗布温度を30℃から40℃に変更することにより、塗布時の粘度を0.02Pa・sから0.018Pa・sに変更し、絶縁塗料の塗布回数を9回から12回に変更し、焼付け炉内の温度(入口/中央/出口)を270℃、300℃及び330℃の代わりにそれぞれ340℃、350℃及び360℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にして絶縁電線を作製した。なお、塗布時の絶縁塗料温度は40℃である。得られた絶縁電線の物性を実施例1と同様にして調べた。その結果を表3に示す。
【0057】
実施例6
実施例5において、絶縁塗料の塗布温度を40℃から45℃に変更することにより、塗布時の粘度を0.018Pa・sから0.014Pa・sに変更したこと以外は、実施例5と同様にして絶縁電線を作製した。得られた絶縁電線の物性を実施例1と同様にして調べた。その結果を表3に示す。
【0058】
【表3】

【0059】
表3に示された結果から、塗布時の絶縁塗料の温度を高くすることによって粘度が下げられた絶縁塗料を用いて絶縁電線を製造した場合にも、各比較例で得られた絶縁電線よりも耐電圧特性として、絶縁破壊電圧及びVT特性、特にVT特性に優れた絶縁電線が得られることがわかる。
【0060】
以上開示された実施の形態は、すべての点で例示的であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の絶縁電線の製造に使用される絶縁電線の製造装置の概略斜視図である。
【符号の説明】
【0062】
1 絶縁電線の製造装置
2 絶縁塗料
3 コーターロール
4 塗料槽
5 絶縁塗料塗布部
6 絶縁塗料絞りフエルト部
7 焼付け炉
10 導体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体及び該導体を被覆する絶縁皮膜を有する絶縁電線の製造方法であって、導体の表面にその30℃における粘度が0.005〜0.05Pa・sである絶縁塗料を塗布した後、焼付けを行う操作を繰り返し、皮膜厚さが3〜15μmである絶縁皮膜を形成することを特徴とする絶縁電線の製造方法。
【請求項2】
導体の直径が0.035〜0.2mmである請求項1に記載の絶縁電線の製造方法。
【請求項3】
絶縁塗料がポリウレタン又はポリエステルイミドを含有する請求項1又は2に記載の絶縁電線の製造方法。
【請求項4】
直径が0.035〜0.15mmの導体、及び該導体を被覆し、皮膜厚さが3〜6.5μmの絶縁皮膜を有する絶縁電線であって、
絶縁皮膜はポリウレタン又はポリエステルイミドを含有し、
JIS C3003により測定した絶縁皮膜の絶縁破壊電圧が、皮膜厚さ0.001mm当たり340V以上であることを特徴とする絶縁電線。

【図1】
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【公開番号】特開2009−129566(P2009−129566A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−300330(P2007−300330)
【出願日】平成19年11月20日(2007.11.20)
【出願人】(302068597)住友電工ウインテック株式会社 (22)
【Fターム(参考)】