説明

継手

【課題】樹脂製配管が挿入接続される継手において、樹脂製配管挿入時に、樹脂製配管が内筒体に設けられた肉盛部に当接した際の抵抗を軽減するための継手を提供する。
【解決手段】継手の内部に備えられる内筒体13において、該内筒体13には凹溝19,20が設けられると共に、該凹溝19,20には樹脂製配管の内周面と接して止水するための弾性シールリング21が嵌着され、前記凹溝19,20の前後には前記弾性シールリング21のはみ出しを防止するための肉盛部22,23が設けられている。前記肉盛部22,23の傾斜面には凹凸処理面40が設けられることで、樹脂製配管内周面と接触した場合の接触面積を低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば給水系や給湯系の配管システムにおいて使用され、樹脂製配管の端部間を接続したり、樹脂製配管の端部と水栓器具とを接続したりするための継手に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、この種の継手には、例えば、内筒体を備え、その内筒体には凹溝が設けられ、該凹溝には弾性シールリングが配置される構成が採用されていた。前記弾性シールリングは、挿入された樹脂製配管の内径面と接することで止水を行うものである。しかしながら、樹脂製配管の径寸法にはバラつきがあり、前記弾性シールリングは、内径上限値の樹脂製配管であっても、その内径面に接し、止水する事が可能な外径に設定する必要があった。そのため、内径下限値の樹脂製配管を挿入した場合、樹脂製配管の内径と弾性シールリング外径との差が大きくなり、樹脂製配管端面と前記弾性シールリングの接触面積,すなわち接触圧力が大きくなって、その結果、樹脂製配管の挿入にともなって弾性シールリングが凹溝から押し出されることがあった。さらには、管軸に対して斜めに切断された樹脂製配管を継手に挿入した場合、傾斜形状の切断端面の最先端部分によって、弾性シールリングは押圧される。そして、弾性シールリングの径方向に押圧された部分は、樹脂製配管のさらなる挿入によって、凹溝より押し出されて、はみ出る。
【0003】
そこで、従来、弾性シールリングのはみ出し防止を目的とした継手として、特許文献1に記載の継手が知られている。特許文献1に記載の継手は、内筒体に設けられた凹溝の前後に、弾性シールリングのはみ出し防止を目的とした肉盛部が設けられているものである。凹溝の前に設けられた前記肉盛部は、挿入された樹脂製配管を拡径させ、その結果、樹脂製配管の内径と弾性シールリングの外径との差は小さくなり、弾性シールリングのはみ出しが防止される。さらには、たとえ弾性シールリングがはみ出されようとしても、凹溝の後部に設けられた肉盛部によって保持されるため弾性シールリングのはみ出しが防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−308794号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された従来の継手において、肉盛部は樹脂製配管挿入時に大きな挿入抵抗となることがあった。
内筒体の溝の前後に設けられた肉盛部の高さは、弾性シールリングの外径よりも低く設定されるが、樹脂製配管の内径が下限値寄りの寸法である場合に、肉盛部は樹脂製配管の挿入に対して大きな抵抗となる。さらに、内筒体の寸法は1/100までの寸法及び寸法公差で設計されているため、いわば凹凸のない平滑面とされていた。そのため、切削加工又は金型によって成形された内筒体の表面も凹凸のない平滑面となり、その結果、樹脂製配管の挿入時には肉盛部と樹脂製配管の内周面との接触面積が広くなって、前記のように挿入時の抵抗となっていた。
【0006】
そこで本発明の目的とするところは、樹脂製配管挿入時に、樹脂製配管が、内筒体に設けられた肉盛部に当接した際の抵抗を軽減するための継手を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1に係る発明の継手は、略円筒状をなし、樹脂製配管が挿入される継手本体と、凹溝が設けられると共に、該凹溝内には樹脂製配管の内周面と接して止水するための弾性シールリングが嵌着される内筒体とを備え、前記内筒体の前記凹溝の前後位置には前記弾性シールリングのはみ出しを防止するための肉盛部が設けられている継手であって、前記肉盛部の外周面には、挿入力低減加工部が形成されていることを要旨とする。
【0008】
請求項2に係る発明の継手は、請求項1において、前記挿入力低減加工部は、凹溝の前側に設けられた肉盛部に対して設けられていることを要旨とする。
請求項3に係る発明の継手は、請求項1又は請求項2において、前記挿入力低減加工部は、凹凸処理であることを要旨とする。
【0009】
請求項4に係る発明の継手は、請求項1から請求項3のいずれか1項において、前記挿入力低減加工部にはグリス塗布されていることを要旨とする。
請求項5に係る発明の継手は、請求項1から請求項4のいずれか1項において、前記挿入力低減加工部は、内筒体成形にともなって形成されることを要旨とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の継手では、肉盛部と樹脂製配管の内径部との接触面積を低減し、樹脂製配管の内径が小径となっても、挿入抵抗が過度に増大することを軽減できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施形態における継手を示す断面図。
【図2】実施形態における継手の内筒体、凹溝、肉盛部、弾性シールリング部を拡大した断面図。
【図3】(a)〜(c)は、実施形態の継手において、樹脂製配管挿入時の状態を段階的に説明するための部分断面図。
【図4】別例として、内筒体の肉盛部に周溝を設けた状態を表す断面図。
【図5】(a)(b)は、別例として、内筒体の肉盛部に軸方向の切欠きを設けた状態を表す側面図及び断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態を図1〜図3に基づいて詳細に説明する。
図1に示すように継手10は、樹脂製配管11を差し込むだけで接続できるワンプッシュ式の継手である。継手本体12には、内筒体13が嵌入され、該内筒体13は、継手本体12に嵌着された外筒体14によって位置固定される。前記内筒体13と前記外筒体14の間には樹脂製配管11を挿入可能な環状の差込間隙15が設けられる。外筒体14は、透明樹脂で成形されることで、差込間隙15を目視可能とし、樹脂製配管11の挿入状況が確認できる。
【0013】
また、前記外筒体14の樹脂製配管接続部には、キャップ24が螺合されている。キャップ24の外端部内周と内筒体13の間には、樹脂製配管11が差込間隙15へ差込まれる開口25が設けられている。
【0014】
外筒体14とキャップ24との間には、ステンレス鋼等の金属で形成され、複数の歯を有する抜け止めリング26が介装されている。この抜け止めリング26とキャップ24の内周の傾斜面27との間には、別の抜け止めリング28が介装されている。これら抜け止めリング26、28によって継手10に挿入された樹脂製配管11の抜け止めがなされる。
【0015】
前記抜け止めリング26と前記凹溝19に嵌着された弾性シールリング21の間には、樹脂製配管11の先端面に押圧されて樹脂製配管11の挿入を案内する、挿入ガイド29が配置される。
【0016】
次に、内筒体と内筒体に設けられた肉盛部について説明する。
前記継手本体12の内周面と前記内筒体13の外周面は、内筒体13の外周面に設けられた凹溝16に嵌着された弾性シールリング17にて止水されている。該内筒体13及び継手本体12の内周には流体が流通する流通孔18が設けられている。
【0017】
前記内筒体13の外周面には一対の凹溝19,20が所定間隔をおいて設けられている。両凹溝19,20内には、継手10に対して挿入接続された樹脂製配管11の内周面と接して止水するための弾性シールリング21がそれぞれ嵌着されている。図2において左側の前記凹溝19の直前位置には、前の肉盛部22、右側の前記凹溝20の直後位置には後の肉盛部23が設けられている。肉盛部22、23は環状をなしている。それぞれの肉盛部の断面形状は、凹溝19、20側が最も高く、凹溝19、20から離れるにつれ徐々に肉盛部の高さが低くなる傾斜面を有し、その傾斜面には挿入力低減加工部としての梨地状の凹凸処理面40が設けられている。前記梨地状の凹凸処理面40は、内筒体13成形用の金型の成形面に設けられ、内筒体13成形時に形成される。
【0018】
以上のように構成された継手10についてその作用を説明する。
図3(a)に示すように、樹脂製配管11をキャップ24の開口25から挿入すると、樹脂製配管11の先端面が挿入ガイド29に当接する。さらに樹脂製配管11を挿入すると、図3(b)に示すように樹脂製配管11は前部側の肉盛部22に到達し、該前部側の肉盛部22によって拡径される。この際、肉盛部の表面に凹凸処理面40が設けられているため、樹脂製配管11の内周面と肉盛部22の接触面積を小さくすることができ、その結果、樹脂製配管内周面と肉盛部22との摩擦抵抗が減少し、樹脂製配管11の挿入が円滑になる。また、挿入ガイド29によって弾性シールリング21が縮径されるため、樹脂製配管11の先端部は、弾性シールリング21を押し出したり、傷つけたりすることなく、弾性シールリング21を円滑に乗り越えることが出来る。引き続き、図3(c)に示すように、樹脂製配管11をさらに差し込むと、挿入ガイド29が差込間隙15の最も奥まで進行して止まり、樹脂製配管11の差し込みが完了する。
【0019】
なお、前記継手本体12、内筒体13、外筒体14、キャップ24、抜け止めリング28、挿入ガイド29等は、ポリアセタール(POM)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)等の剛性を有する合成樹脂(エンジニアリングプラスチック)によって形成されている。
【0020】
以上の実施形態によって発揮される効果について、以下にまとめて説明する。
(1)肉盛部22,23の傾斜面に凹凸処理面40を設けることで、樹脂製配管11内周面との接触面積を低減することができる。その結果、樹脂製配管11内周面と肉盛部傾斜面との摩擦抵抗が減少するため樹脂製配管11の挿入に要する力が低下する。このため、樹脂製配管11の挿入を円滑に行う事ができる。
【0021】
(2)肉盛部22,23の傾斜面に凹凸処理面40を設けることで、樹脂製配管11先端面の切り口に付着した糸状の切り屑が凹凸処理面40の凹凸部にひっかかり、弾性シールリング21上に達しにくくなる。従来、切り屑が2つの弾性シールリング間に架設され、漏水につながることがあったが、このような構成とすることで、切り屑が2つの弾性シールリング21に亘って掛かるということがなくなり、漏水を抑制できる。
【0022】
(3)挿入力低減の目的で弾性シールリング21の前後位置にグリスを塗布する場合、肉盛部22及び23の傾斜面に凹凸処理面40を設けることで、グリスが凹凸部に保持されるため、より、グリスの効果を得られ易い。
【0023】
なお、本実施形態は、以下の形態に変更して具体化することも可能である。
・ 本実施形態では、挿入力低減加工として、梨地状の凹凸処理面40を採用したが、次に示す方法であても、本実施形態と同様な効果を得ることが出来る。例えば、図4に示すように肉盛部22,23に数本の周溝41が設けられてもよい。また、図5(a)及び(b)に示すように、肉盛部22、23に、軸方向に延びる複数の切欠き42を周方向に沿って並設してもよい。
【0024】
・本実施形態では、継手本体12と内筒体13は別部材としたが、内筒体は継手本体と一体的に設けられるものであってもよいし、インサート成形によって一体化されてもよい。また、内筒体は、継手本体に嵌入して、継手本体に嵌着された外筒体によって位置固定されるとしたが、例えば、ねじやCリング等で直接継手本体に固定されてもよい。
【0025】
・本実施形態では、継手本体及び内筒体は樹脂製としたが、それぞれが金属製であってもよく、両部材ともに金属製であってもよい。また、金属製と樹脂製を組み合わせてもよいし、金属製で一体形成されたものであってもよい。この場合、挿入力低減加工は、金型成形品であれば成形時に形成されてもよいし、切削加工後にショットブラストや薬剤処理によって設けられてもよい。
【0026】
・本実施形態では、弾性シールリング21が配設される凹溝19,20は2箇所設けられるものとしたが、本発明の実施形態はこれに限られない。例えば、凹溝は3箇所以上であっても良く、最低1箇所設けられていれば、止水効果を発揮する。
【符号の説明】
【0027】
10…継手、11…樹脂製配管、12…継手本体、13…内筒体、19…凹溝、20…凹溝、21…弾性シールリング、22…前部の肉盛部、23…後部の肉盛部、40…凹凸処理面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略円筒状をなし、樹脂製配管が挿入される継手本体と、凹溝が設けられると共に、該凹溝内には樹脂製配管の内周面と接して止水するための弾性シールリングが嵌着される内筒体とを備え、前記内筒体の前記凹溝の前後位置には前記弾性シールリングのはみ出しを防止するための肉盛部が設けられている継手であって、前記肉盛部の外周面には、挿入力低減加工部が形成されていることを特徴とする継手。
【請求項2】
前記挿入力低減加工部は、凹溝の前後位置に設けられた肉盛部のうち、凹溝の前側に設けられた肉盛部に対して加工されていることを特徴とする請求項1に記載の継手。
【請求項3】
前記挿入力低減加工部は、凹凸処理であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の継手。
【請求項4】
前記挿入力低減加工部には、グリスが塗布されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の継手。
【請求項5】
前記挿入力低減加工部は、内筒体成形にともなって形成される請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の継手。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−13105(P2012−13105A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−147760(P2010−147760)
【出願日】平成22年6月29日(2010.6.29)
【出願人】(000128968)株式会社オンダ製作所 (31)
【Fターム(参考)】