説明

継目無鋼管加工潤滑剤組成物

【課題】非浸炭性や、13クロム鋼やステンレス鋼等の難加工材に対する卓越した潤滑性を損なうことなく、貯蔵安定性、装置配管内での移送性、潤滑箇所へのスプレー性、高温マンドレルバーヘの均一付着性等の諸性質を総合的に満足する継目無鋼管加工用潤滑剤組成物を提供する。
【解決手段】粘度特性が下記の近似式で示される組成物とする。
Y=a・X、Y:粘度(mPa・s)、X:ずり速度(s−1)、静置保管中においてa:4000〜40000、b:−1.0〜−0.3、剪断終了時から90秒後においてa:1000〜20000、b:−1.0〜−0.15

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主としてマンネスマン製管法による継目無鋼管の製造に使用される熱間製管圧延用潤滑剤に関する。
【背景技術】
【0002】
マンネスマン製管法による継目無金属管の製造では、周知のとおり、加熱された中実ビレット又はブルームが穿孔機で中空管とされた後、その中空管が延伸圧延機、定径圧延機により製品管に仕上げられる。マンネスマン製管法の延伸圧延工程では、焼き付き防止等のために、管内面が潤滑剤により強制潤滑される。その潤滑剤としては、粒状黒鉛、鱗状黒鉛、土状黒鉛等を主体とする黒鉛系潤滑剤が、固体のまま、若しくはバインダーを混合した液体の状態で使用されている。
【0003】
黒鉛系潤滑剤を使用すると、被圧延材がステンレス鋼、高合金鋼等の難加工性材料の場合も潤滑性能に問題はない。しかし、これらの材料では、その耐食性が浸炭により阻害される。即ち、ステンレス鋼や高合金鋼の延伸圧延において、黒鉛系潤滑剤で管内面を潤滑すると、管内面が浸炭されるために、クロム炭化物の粒界析出による粒界及びその近傍の選択腐食が生じ、その耐食性が低下して製品の性能を損なうのである。
【0004】
この点を改善するために、従来の黒鉛系潤滑剤に代わって、特許文献1では酸化物系層状化合物、及び硼酸とアルカリ金属硼酸塩との組み合わせによる組成物が提案されている。また、特許文献2では天然、又は人工マイカ、バーミキュライト、ベントナイトと硼酸Li、Na、K、メタ硼酸塩、ピロ硼酸塩及びその水和物の組み合わせによる組成物が提案されている。これら酸化物系層状化合物と硼酸との組み合わせによる組成物は、潤滑性に優れた非浸炭性潤滑剤として有効である。
【0005】
一方、通常の黒鉛系潤滑剤では非浸炭性を必要としない。従って、これら黒鉛系潤滑剤は、通常の有機物増粘剤(例えば、水溶性アクリル系樹脂、ナトリウムカルボキシメチルセルロースのような水溶性セルロース)を充分に添加することにより、上記の諸性質を与えることが可能である。例えば、特許文献3では、水溶性高分子と水分散性高分子との両方を多量に配合することによって、上記の諸性質を満足する潤滑剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭64−16894号公報
【特許文献2】特開平5−171165号公報
【特許文献3】特開平2−51592号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記特許文献1及び2に開示されているこれらの潤滑剤は、固体のまま潤滑面に供給されたり、水に分散し工具(マンドレル)に塗布されて使用されたりする。従って、これらをマンドレルミル実装置に適応させるためには、潤滑剤製造後の貯蔵安定性、装置配管内での移送性、潤滑箇所へのスプレー性、高温マンドレルバーヘの均一付着性等の諸性質が総合的に必要となってくる。しかし、これらの性質を総合的に満足することは容易ではない。
【0008】
また、ステンレス鋼や高合金鋼の延伸圧延においては、耐食性の確保のためにはあくまでも非浸炭性が必要であり、上記した高分子を多量に配合することはできない。
【0009】
そこで本発明は、非浸炭性や、13クロム鋼やステンレス鋼等の難加工材に対する卓越した潤滑性を損なうことなく、貯蔵安定性、装置配管内での移送性、潤滑箇所へのスプレー性、高温マンドレルバーヘの均一付着性等の諸性質を総合的に満足する、継目無鋼管加工潤滑剤組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、粘度特性が下記の近似式で示される継目無鋼管加工潤滑剤組成物である。
Y=a・X Y:粘度(mPa・s)
X:ずり速度(s−1
静置保管中において a:4000〜40000
b:−1.0〜−0.3
剪断終了時から90秒後においてa:1000〜20000
b:−1.0〜−0.15
ここに、「剪断終了時から90秒後」とは、該組成物を攪拌して剪断を加える操作を行い、その操作終了時から30秒後に、所定のずり速度で測定を開始し、その測定開始からさらに60秒後のことをさす。したがって、「90秒後」は、上記30秒と60秒との合計値に対応するものである。また、「剪断終了時」とは、上記攪拌操作のためのプロペラの回転が停止したときのことをいうものとする。
【0011】
上記継目無鋼管加工潤滑剤組成物は、酸化物系層状化合物10〜40質量%、硼酸のアルカリ金属塩又はアミン塩の1種以上を5〜30質量%、この硼酸のアルカリ金属塩又はアミン塩の1種以上の水溶液に可溶な水溶性高分子1種以上を0.11〜3.0質量%、残部水からなることが好ましい。
【0012】
また、上記継目無鋼管加工潤滑剤組成物は、水溶性高分子として、シュードプラスチック流動性水溶性高分子、又は、シュードプラスチック流動性水溶性高分子とチクソトロピック流動性水溶性高分子とを含むことが好ましい。
【0013】
あるいは、上記継目無鋼管加工潤滑剤組成物は、水溶性高分子として、組成物全量基準でシュードプラスチック流動性水溶性高分子0.01〜1.0質量%、チクソトロピック流動性水溶性高分子0.1〜2.0質量%を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、非浸炭性や、13クロム鋼やステンレス鋼等の難加工材に対する卓越した潤滑性を損なうことなく、貯蔵安定性、装置配管内での移送性、潤滑箇所へのスプレー性、高温マンドレルバーヘの均一付着性等の諸性質を総合的に満足する継目無鋼管加工潤滑剤組成物を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】継目無鋼管加工潤滑剤組成物として、理想的な粘度形態を示す図である。
【図2】シュードプラスチック流動性水溶性高分子の一例の化学構造モデルを示す図である。
【図3】チクソトロピック流動性水溶性高分子の一例としての、グルコースがグルコシド結合した長鎖状ポリマーの化学構造モデルを示す図である。
【図4】シュードプラスチック流動性水溶性高分子の静的状態及び動的状態の粘度特性を示す図である。
【図5】チクソトロピック流動性水溶性高分子の静的状態及び動的状態の粘度特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の継目無鋼管加工潤滑剤組成物に主剤として使用される酸化物系層状化合物は、例えば、天然又は人工のマイカである。マイカとしては
カリウム四珪素マイカ {KMg2.5(Si10)F}
ナトリウム四珪素マイカ (NaMg2.5(Si10)F
天然金マイカ {KMg(AlSi10)(OH)
などがある。本発明の継目無鋼管加工潤滑剤組成物には、これらの一種又は二種以上が使用できる。また、マイカに代えて、あるいはマイカとともに、バーミキュライト、ベントナイト等を使用することもできる。本発明の継目無鋼管加工潤滑剤組成物に最も好ましいのは、ナトリウム四珪素マイカである。
【0017】
酸化物系層状化合物の平均粒径は1〜40μmで、好ましくは5〜30μmである。平均粒径が小さすぎると層間すべりの効果が少なくなる。一方、平均粒径が大きすぎると、スプレー時のノズル閉塞などの問題が生じる。酸化物系層状化合物の添加量は、本発明の継目無鋼管加工潤滑剤の組成中10〜40質量%で、好ましくは20〜30質量%である。酸化物系層状化合物の添加量が少なすぎると耐焼き付き性が低くなり、潤滑性に問題が出る。一方、酸化物系層状化合物の添加量が多すぎると組成物の粘度が高くなり過ぎて、作業性に問題が出て来る。
【0018】
組成物中の硼酸アルカリ金属塩、又はアミン塩は、主剤となる酸化物系層状化合物に沿って高温マンドレルバーにおけるその展着性を助け、また自ら補助潤滑剤として働く。硼酸アルカリ金属塩の例としては、硼酸リチウム、硼酸ナトリウム、及び硼酸カリウム等を挙げることができる。また、硼砂(Na・10HO)のように、メタ硼酸塩、若しくは、ピロ硼酸塩及び/又は水和物も使用することができる。
【0019】
組成物中における硼酸アルカリ金属塩、又はアミン塩の添加量は、5〜30質量%で、好ましくは10〜20質量%である。これらの塩の添加量が多すぎると、主剤の潤滑性を妨害する。また、これらの塩の添加量が少なすぎると、主目的である主剤のマンドレルバーにおける展着効果に不具合をきたすと共に、流体潤滑の不足から結果として潤滑不足を誘発する。
【0020】
本発明の継目無鋼管加工潤滑剤組成物に使用される水溶性高分子としては、本願発明の規定する粘度条件を満たす範囲で天然、半天然、あるいは合成の水溶性高分子を単独で、あるいは複数組み合わせて使用することもできる。これら水溶性高分子については後に具体的に説明する。
【0021】
次に、本願発明者等が見出した理想的な粘度形態を図1に示す。図1は、縦軸に粘度、横軸に時間をとり、
(i) :静置
(ii) 〜(iii) :定速剪断
(iii)〜(iv) :剪断停止
の各条件下、時間とともに変化する粘度をグラフ化したものである。
【0022】
本願発明者等は、継目無鋼管加工潤滑剤組成物が、以下の(1)〜(4)に示す粘度特性を有すればマンネスマン製管法による継目無金属管の製造にあたって、良好な潤滑性が得られることを見出した。すなわち
(1)酸化物系層状化合物などの固体粒子が均一安定に貯蔵されるためには、(i)の静置時の粘度が高いことが必要である。粘度が低いと、固体粒子が沈降してしまうからである。
(2)配管内の流動性や、スプレー性を確保するためには、(ii)〜(iii)の剪断中の粘度が低いことが必要である。
(3)潤滑性能に最も影響の深い流体の高温バーへの緻密、かつ均一な付着性は、(ii)の粘度が高いことが必要である。微視的に見ると、潤滑剤は工具表面に連続してスプレー塗布されている。その際、最初に到達し付着した潤滑被膜の上に、次に到達した潤滑剤がスプレー塗布されることになる。すなわち、最初に付着していた潤滑皮膜に剪断がかかることになるので、(ii)の粘度が低いと、スプレー圧力により削ぎ落とされるか、又は、飛散してしまうからである。
(4)工具表面において、固体粒子の均一安定な保持性を確保するためには、(iii)〜(iv)において剪断の終了後、直ちに粘度上昇に転じることが必要である。粘度が回復するまで時間がかかるか、あるいは回復しないままでは、潤滑剤が工具表面から流れ落ちてしまうからである。
【0023】
高分子を多量に添加することなく、貯蔵安定性、装置配管内での移送性、潤滑箇所へのスプレー性、高温マンドレルバーヘの均一付着性等の諸性質を満足する図1の粘度形態を実現するために、本願発明者等は下記式を満足することが必要であることを見出した。すなわち、上記諸性質を満足する本願発明の潤滑剤組成物の粘度特性を、後述する実施例に記載の粘度測定方法によって測定した結果、得られた粘度特性曲線が下記近似式のa及びbの範囲内であった。
Y=a・X Y:粘度(mPa・s)
X:ずり速度(s−1
静置保管中においてa:4000〜40000
b:−1.0〜−0.3
剪断終了時から90秒後においてa:1000〜20000
b:−1.0〜−0.15
近似式 Y=a・Xにあって、静置保管中において
a:4000〜40000、
b:−1.0〜−0.3
とした。aが4000未満では、潤滑剤組成物の静置時の粘度が低く、酸化物系層状化合物が保管中に沈降してしまうからである。また、aが40000を超えると、潤滑剤組成物の流動性がほとんどなくなり、移送上問題が生ずるからである。
【0024】
さらに、bが−0.3より大きいと、潤滑剤組成物の静置時の粘度と剪断時(移送やスプレー時)の粘度の差が小さく、移送やスプレーに問題が生ずる。また、bが−1.0未満では、潤滑剤組成物のスプレー時に粘度が下がり過ぎて工具に塗布したとき、付着した潤滑剤が潤滑剤自身の圧力により削ぎ落とされるか、又は飛散してしまう。より好ましくは、
a:7000〜30000
b:−0.5〜−0.8
である。
【0025】
ここで、近似式 Y=a・X を図1により説明すると、静置保管時(すなわちXの値が限りなく0に近い時)のaの値が大きく、bの値が小さい方が図1の(i)の粘度が高く、安定性は良好になる。例えば、
X=0.01、 a=100000、 b=−1
では
Y=10,000,000 mPa・s となる。
【0026】
近似式 Y=a・Xにあって、剪断終了時から90秒後において
a:1000〜20000
b:−1.0〜−0.15
とした。aが1000未満、あるいはbが−1.0未満では、水溶性高分子が剪断され、粘度が回復するまで時間がかるか、あるいは剪断され回復しないままで、工具に塗布したとき、潤滑剤が流れ落ちてしまうからである。また、aが20000を超えると、あるいはbが−0.15を超えると、移送時やスプレー時に問題が生じるためである。より好ましくは、
a:3000〜20000
b:−0.3〜−0.8
である。
【0027】
剪断時(すなわち攪拌直後のXの値が大きい時)のaの数値が大きく、bの数値が小さい方が、図1の(ii)〜(iii)の粘度が高い。aが大きすぎ、bが小さすぎると、粘度は低くならず、移送性、スプレー性に支障をきたす。例えば、
X=10、 a=100000、 b=−1
では
Y=10,000 mPa・s となる
剪断後(すなわち攪拌直後のXの値が小さい時)は、図1の(iv)であり、a及びbの数値が静置保管時の数値と同程度になれば粘度の回復が早い。この場合には、潤滑剤が工具に付着したとき、流れ落ちにくくなる。従って、以上に説明した、本願発明のような適切な粘度特性が必要となる。
【0028】
本願発明者らは、上述の粘度特性を満足する条件を鋭意検討した結果、本願発明の潤滑剤組成物に使用する水溶性高分子として、シュードプラスチック流動性水溶性高分子単独でも満足する場合があるが、シュードプラスチック流動性水溶性高分子とチクソトロピック流動性水溶性高分子の両方を添加すると満足しやすいことを発見した。
【0029】
シュードプラスチック流動性水溶性高分子としては、代表的なものにザンサンガム、ウエランガム、ラムザンガムのようなバイオガムがある。ザンサンガムの化学構造はグルコース2個、マンノース2個及びグルクロン酸1個からなる構成成分を単位として、結合ブロックの反復よりなる水溶性高分子多糖類である。その化学構造モデルを図2に示す。
【0030】
チクソトロピック流動性水溶性高分子としては、代表的なものに、カルボキシメチルセルロースの塩(Na塩、K塩、アミン塩)がある。一例としてグルコースがグルコシド結合した長鎖状のポリマーの化学構造モデルを図3に示す。
【0031】
シュードプラスチック流動性、及び/又は、チクソトロピック流動性は、上記以外にも分子量、他成分(例えば金属(Ca等)イオン)、pHの影響により明確な区別が困難な下記物質、例えば、ジュランガム、サクシノグルカン等のバイオガム、タマリンド、タラガム、ローカストビーンガム、カラギーナン等の天然多糖類、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロース誘導体、その他ポリアクリル酸の塩(Na塩、K塩、アミン塩)、アルギン酸の塩(Na塩、K塩、アミン塩)、等を潤滑剤組成物中に配合することによっても達成することができる。
【0032】
次に、シュードプラスチック流動性水溶性高分子の静的状態、及び動的状態の粘度特性を図4に、チクソトロピック流動性水溶性高分子のそれを図5に示す。シュードプラスチック流動性水溶性高分子のみでは、静的状態から動的状態への変化が直線的であり、本発明の範疇ではあるが充分に満足するものではない。一方、チクソトロピック流動性水溶性高分子の粘度変化は、シュードプラスチック流動性水溶性高分子の粘度変化に比し、静的状態から動的状態に移行した場合の粘度差が少なくゆるやかである。また、チクソトロピック流動性水溶性高分子は、動的状態が起きてから粘度低下を起こすまでに若干の時間(降伏値)が必要である。また、チクソトロピック流動性水溶性高分子は、動的から静的に移った場合の粘度上昇にも時間が必要である。このような粘度変化に時間がかかると、マンドレルバーにスプレーされた潤滑剤が乾燥迄の造膜過程において、理想的な造膜のための粘度変化ができない。その結果、マンドレルバーヘの均一密着に難をもたらす。従って、チクソトロピック流動性水溶性高分子のみでは、本発明の目的を充分に満足することはできない。
【0033】
図1に示した理想的な粘度形態の実現には、上述した2種類の高分子の両方を添加することが望ましい。具体的には、シュードプラスチック流動性水溶性高分子の添加割合は、組成物全量基準で0.01〜1.0質量%であり、それに対するチクソトロピック流動性水溶性高分子の添加割合は組成物全量基準で0.1〜2.0質量%である。より好ましくは、シュードプラスチック流動性水溶性高分子の割合は組成物全量基準で0.05〜0.5質量%であり、それに対するチクソトロピック流動性水溶性高分子の割合は組成物全量基準で0.5〜1.5質量%である。
【0034】
シュードプラスチック流動性水溶性高分子の添加割合がチクソトロピック流動性水溶性高分子の割合より多くなると、剪断による粘度変化が大きくなり過ぎ、マンドレルバーヘの均一付着性に難をきたす。また、チクソトロピック流動性水溶性高分子の割合が大きくなりすぎると、酸化物系層状化合物の分散安定性と高温マンドレルバーヘの展着性が悪くなり、均一密着性に難をきたす。
【0035】
この2種類の混合系の粘度形態は図4と図5とに示す粘度特性の合成形を持つ。その、定性的な粘度特性は以下のとおりである。すなわち、図1において、(i)の箇所ではシュードプラスチック流体の性質により静置時の粘度は高い。その後、剪断がかかるとシュードプラスチック流動とチクソトロピック流動状態の合成形をもった、(i)〜(iii)の粘度低下を示す。最後に、剪断が終了するや直ちに(iv)に示す粘度上昇に転じる。
【0036】
なお、両高分子の合計が組成物全量基準で3.0質量%を超えると浸炭の問題が生じ好ましくない。また両高分子の割合が組成物全量基準で0.11質量%未満では酸化物系層状化合物の分散安定性に難をきたし、本発明の潤滑剤組成物として完成しない。
【0037】
その他、一般的な消泡剤、分散剤の添加も有機物系の化合物は浸炭の危険性があるので少量(組成物全量基準で0.5質量%以下)の添加のみ許される。炭素を含まない、無機系のものにあっては本願発明の基本的性能に影響を与えなければ添加は許される。
【実施例】
【0038】
(1)評価用試料の作成
表1〜2に示す実施例18種、及び表3に示す10種の比較例、合計28種類の試料を作成した。これらの試料の近似式における静置保管時、及び剪断終了時から90秒後の固有の定数「a」、「b」の値もこれらの表1〜3に示す。
【0039】
(2)性能評価試験
1)粘度
(i) 測定条件
測定器:B型回転粘度計を使用した。
測定温度:25℃に設定した。
剪断条件:500mlビーカーに試料500mlを入れ、φ50mmのプロペラに
て3000rpmの条件の下、1分間攪拌を行った。
回転数:低回転(1.5rpm)[ずり速度:0.323〜0.366(s−1)]
高回転(60rpm)[ずり速度:12.9〜14.6(s−1)]
なお、上記ずり速度に数値の幅があるのは、プレート上にコーンを回転させて粘度を測定する回転粘度計において、各試料ごとに実際に使用したコーンが異なることに起因するものである。
(ii)測定方法
静置粘度:試料を攪拌後24時間静値したものを、低ずり速度で測定開始し、その測定開始から60秒後の粘度計の目盛りを読み取り係数を乗じた粘度と、引き続き高ずり速度で測定開始し、その測定開始から60秒後の目盛りを読み取り係数を乗じた粘度を静置粘度として記録した。
剪断粘度:試料をプロペラにより攪拌して剪断を与える操作を行い、その操作終了から30秒後に、低ずり速度で測定開始し、その測定開始から60秒後の粘度計の目盛りを読み取り係数を乗じた粘度と、再度試料を攪拌してから30秒後に、高ずり速度で測定開始し、その測定開始から60秒後の目盛りを読み取り係数を乗じた粘度を剪断粘度として記録した。
上記測定において、「剪断終了時から90秒後」とは、試料組成物を攪拌して剪断を加える操作を行い、その操作終了時から30秒後に、所定のずり速度で測定を開始し、その測定開始から60秒後のことをさす。すなわち、「90秒後」は、上記30秒と60秒との合計値に対応するものである。また、「剪断終了時」とは、上記攪拌操作のためのプロペラの回転が停止したときのことをいう。
(iii)固有の定数「a」、「b」の値の決定
近似式 Y=a・X において、両辺の対数をとると、
log(Y)=blog(X)+log(a)
一方、上記測定により得られたX、及びYについて、log(X)、及びlog(Y)を求め、これらをグラフのそれぞれ縦軸及び横軸に対応させてプロットすると、ほぼ直線関係(一次関数の関係)が得られる。プロットしたデータから最小自乗法により、一次関数の傾きである「b」と、縦軸切片である「a」を求めることができる。
【0040】
2)貯蔵安定性
(i) 試験方法
試料500mlをガラス容器に貯蔵し、7日間静置後の分離状況を観察した。
(ii) 評価方法:下記評価基準により評価を行った。
◎:上澄み発生無し、底部沈降無し。
○:上澄み5%未満発生、底部沈降無し。
△:上澄み5%以上発生、底部沈降無し。
×:上澄み発生に関係なく、底部沈降あり。
但し、「上澄み」とは固形物を含まないほぼ透明な液体部分をいう。その検出は、500mlビーカーの側面より観察し、試料液面から上澄みの高さを測定することにより行った。また、その上澄み高さを全液面高さの百分率で評価した。
また、「底部沈降」とは固体潤滑剤が底部に沈降し、流動性のないハードな層が確認できる状態をいう。
【0041】
3)浸炭性
(i) 試験方法
材質がSKD61で外径が140.5mm、有効部長さが18mのマンドレルバーに、実施例4、11、13と比較例6の4種類の潤滑剤をスプレー塗布し乾燥固化させ、マンドレルバー表面に膜厚100μmのほぼ均一な潤滑被膜を形成させた。潤滑剤を塗布したマンドレルバーを、下記詳細を有する素管に挿入し、7スタンドからなるマンドレルミルを用いて仕上げ圧延用素管に延伸圧延した。
延伸圧延前素管仕様
素材:オーステナイト系ステンレス鋼(SUS304L)
原加工:傾斜ロール穿孔圧延機で穿孔圧延
形状:外径181.0mm、肉厚16.0mm、長さ7000mm
延伸圧延後素管形状:外径151.0mm、肉厚5.0mm、長さ25300mm
マンドレルミルにより圧延した後、引き続き26スタンドからなるストレッチレデューサーで仕上げ圧延し、外径63.5mm、肉厚7.0mm、長さ40000mmの鋼管に仕上げた。この鋼管から、肉厚5mm、幅25mm、長さ50mmの円弧状の試験片を採取した。この試験片を用いて、JIS G0575に規定された硫酸−硫酸銅腐食試験を行い、内表面に発生した粒界腐食割れ状態を観察した。
(ii) 評価方法:下記評価基準により評価を行った。
◎:割れ無し。
×:割れあり。
【0042】
4)スプレー性
(i) 試験条件
スプレー方式:エアレススプレーにて行った。
吐出圧力:3.0MPaに設定した。
ノズル:1/4MVVP5010((株)池内製)
スプレーパターン:扇型
スプレー角度:50度(水をスプレーした時の、扇型に広がる角度)
試料温度:25℃に設定して評価した。
(ii) 評価:広がり性を、スプレー角度を測定して評価した。なお下記評価基準により評価結果を記録した。
◎:ほぼ所定角度にスプレーされる(50度)。
○:所定角度より若干狭い(40〜45度)。
△:所定角度よりかなり狭い(20〜39度)。
×:ほとんど広がらない(20度未満)又はスプレー粒子大。
【0043】
5)付着性(付着量)
(i) 試験条件
スプレー方式:エアレススプレーにて行った。
吐出圧力:3.0MPaに設定した。
ノズル:1/4MVVP5010((株)池内製)
スプレー角度:50度
試片温度:60、80、100、120℃に設定した。
ノズル−試片距離:250mmに設定して試験を行った。
試片速度:2m/秒とした。
(ii) 評価方法:試片(65mm×120mm×30mmの鋼板)に試験条件にてスプレーを行い、塗布後試片を120℃まで加熱し潤滑剤を乾燥させた後、20〜40℃に放冷し、潤滑剤皮膜をナイフにて剥ぎ取り重量測定し、付着面積(0.0078m)にて除した値を付着量とし、下記評価基準により評価を行った。
◎:均一に付着し、付着量50g/m以上。
○:ほぼ均一に付着し、付着量50g/m以上。
△:若干流れ落ち、付着量40g/m以上。
×:激しく流れ落ち、付着量30g/m以下。
××:ハジキにより付着性悪い、付着量30g/m以下。
【0044】
(3)試験結果
上記試験1)〜5)の結果を表1〜3に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】

【0047】
【表3】

CMC(A):分子量(100,000) 粘度(800/2%**
CMC(B):分子量(250,000) 粘度(1600/1%)
CMC(C):分子量(175,000) 粘度(2500/2%)
CMC(D):分子量(195,000) 粘度(3500/2%)
CMC(E):分子量(30,000) 粘度(15/2%)
ポリアクリル酸Na(A):分子量(500,000) 粘度(75/1%)
ポリアクリル酸Na(B):分子量(1,650,000) 粘度(300/0.2%)
*CMC=カルボキシメチルセルロースのNa塩
**:2%水溶液にした時の、25℃における粘度が800m
Pa・sであることを表す。
【0048】
(4)結論
以上の試験結果から、本発明例の潤滑油組成物は、貯蔵安定性、スプレー性、付着性のいずれの面においても良好な性能が確認された。これに対して、比較例に示した組成物群は、これらの点において満足すべき性能を得ることができなかった。
【0049】
以上、現時点において、最も、実践的であり、かつ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨あるいは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う継目無鋼管加工潤滑剤組成物もまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の継目無鋼管加工潤滑剤組成物は、主としてマンネスマン製管法による継目無鋼管の製造に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘度特性が下記の近似式で示される継目無鋼管加工潤滑剤組成物。
Y=a・X Y:粘度(mPa・s)
X:ずり速度(s−1
静置保管中において a:4000〜40000
b:−1.0〜−0.3
剪断終了時から90秒後においてa:1000〜20000
b:−1.0〜−0.15
【請求項2】
酸化物系層状化合物10〜40質量%、硼酸のアルカリ金属塩又はアミン塩の1種以上を5〜30質量%、この硼酸のアルカリ金属塩又はアミン塩の1種以上の水溶液に可溶な水溶性高分子1種以上を0.11〜3.0質量%、残部水からなる請求項1に記載の継目無鋼管加工潤滑剤組成物。
【請求項3】
前記水溶性高分子として、シュードプラスチック流動性水溶性高分子、又は、シュードプラスチック流動性水溶性高分子とチクソトロピック流動性水溶性高分子とを含む請求項2に記載の継目無鋼管加工潤滑剤組成物。
【請求項4】
前記水溶性高分子として、組成物全量基準でシュードプラスチック流動性水溶性高分子0.01〜1.0質量%、チクソトロピック流動性水溶性高分子0.1〜2.0質量%を含む請求項2に記載の継目無鋼管加工潤滑剤組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−287023(P2009−287023A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−112471(P2009−112471)
【出願日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【分割の表示】特願2004−256411(P2004−256411)の分割
【原出願日】平成16年9月3日(2004.9.3)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【出願人】(391045668)パレス化学株式会社 (8)
【Fターム(参考)】