説明

継続的摩耗量測定方法

【課題】駆動部位の微小摩耗量を継続的に測定する。
【解決手段】駆動部位を成して互いに相対移動する2つのスラストプレート16、17のうち、摩耗量を測定したい方のスラストプレート16を放射化し、放射化されたスラストプレート16の経時的な平均位置の変化が少ない方向Vから、放射線を検出可能に配置された検出器20によって、駆動部位を駆動させながら、放射化されたスラストプレート16から発せられる放射線を所定時間検出することにより、駆動部位の摩耗量を測定する。
これによれば、駆動部位を駆動させながら所定時間放射線を検出することで、放射化されたスラストプレート16と検出器20との経時的な平均位置変化による検出値のばらつきによる誤差を抑えて、駆動部位の微小摩耗量を継続的に測定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動部位の摩耗量を継続的に測定する摩耗量測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、各種製品の摩耗部において、摩耗形態が複雑化したり、摩耗の進行状態が変化したりしていることより、摩耗状態の変化を継続的に計測することの要求が高まっている。これは、従来のように別固体、別試験の結果から予想線を引くのではなく、一つの固体で分解することなく(つまり、非破壊にて)実稼働状態を再現しつつ、継続的に摩耗量を計測して実摩耗曲線を出したいという要求である。
【0003】
駆動部位の摩耗量を測定する方法として、例えば、下記特許文献1の段落番号:0010に記載されたラジオアイソトープ(以下、RIと略す)トレーサ法がある。このRIトレーサ法は、放射化された部材が摩耗することによって発生した摩耗粉をフィルタによって捕集し、該フィルタから発せられる放射線量を測定する累積法と、放射化された部材から発せられる放射線量の減少度合いを測定することにより摩耗量を測定する残留法とが知られている。
【特許文献1】特開平5−288529号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記累積法は、フィルタを用いて摩耗粉を捕集する必要があるが、フィルタによって摩耗粉を全量捕集することが困難であるため、微小摩耗量の定量的な評価が難しいという欠点がある。一方、上記残留法は、放射化された部材から発せられる放射線量を直接検出するので、累積法のような問題は発生しない。
【0005】
ところが、残留法を用いて駆動部位の微小摩耗量を同一の駆動部位で複数回、あるいは同一形状の複数の駆動部位を所定回数ずつ継続的に測定しようとすると、測定する毎に放射化された部材と検出器との位置関係が変化することにより、検出器で検出される放射線量が大きく変動してしまうため、微小摩耗量を測定しようとすると誤差が大きすぎるという問題がある。
【0006】
本発明は、上記のような問題点に鑑みて成されたものであり、駆動部位の微小摩耗量を継続的に測定可能な摩耗量測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するにあたり、請求項1に記載の発明は、駆動部位を成して互いに相対移動する2つの部材(16、17)のうち、摩耗量を測定したい方の部材(16)を放射化し、放射化された部材(16)の経時的な平均位置の変化が少ない方向(V)から、放射線を検出可能に配置された検出器(20)によって、駆動部位を駆動させながら、放射化された部材(16)から発せられる放射線を所定時間検出することにより、駆動部位の摩耗量を測定することを特徴としている。
【0008】
この請求項1に記載の発明によれば、駆動部位を駆動させながら所定時間放射線を検出することで、放射化された部材(16)と検出器(20)との経時的な平均位置変化による検出値のばらつきによる誤差を抑制できる。また、放射化された部材(16)の経時的な平均位置の変化が少ない方向(V)に配置された検出器(20)によって放射線を検出するため、駆動部位が駆動中に経時的に発生する放射化された部材(16)と検出器(20)との平均位置変化の影響を抑えて、駆動部位の微小摩耗量を継続的に測定することができる。
【0009】
より具体的には、請求項2、3に記載の発明のように、上記所定時間を駆動部位の駆動周期よりも長くし、上記経時的な平均位置の変化が少ない方向(V)を駆動部位の駆動面(16b)に対して垂直な方向とすると、より正確に駆動部位の微小摩耗量を継続的に測定することができる。
【0010】
また、請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の発明において、駆動部位がスラスト軸受であることを特徴としている。スラスト軸受は駆動面(16b)に対して直行する力を受けているため、駆動部位の駆動面(16b)に対して垂直な方向は、特に経時的な平均位置の変化が少なく、より正確に駆動部位の微小摩耗量を継続的に測定することができる。
【0011】
また、請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の発明において、検出器(20)が放射線を検出できる範囲を、放射化された部材(16)の駆動範囲と同等以上とすることを特徴としている。これにより、検出器(20)は常に放射化された部材(16)から放射線を検出することができ、より正確に駆動部位の微小摩耗量を継続的に測定することができる。
【0012】
また、請求項6に記載の発明は、請求項4または5に記載の発明において、検出器(20)は、放射線を検出する検出素子(21)と、検出素子(21)の入口に配置され、特定方向の放射線のみ検出素子(21)に入射させる開口(25)を有する放射線偏向器(24)を備え、放射線偏向器(24)の開口(25)の面積は、検出素子(21)の有効検出面積よりも大きいことを特長としている。
【0013】
これにより、より広範囲から放射線を検出することができ、検出器(20)との位置関係が変化する放射化された部材(16)の摩耗量を、より正確に継続的に測定することができる。
【0014】
また、請求項7に記載の発明は、所定の平面上の駆動部位を成す2つの部材(16、17)のうち、摩耗量を測定したい方の部材(16)を放射化し、所定の平面と直交する方向から放射線を検出可能に配置され、放射化された部材(16)の駆動範囲と同等以上に広い検出範囲を持つ検出器(20)によって、放射化された部材(16)から発する放射線を検出することにより、駆動部位の摩耗量を測定することを特徴としている。
【0015】
この請求項7に記載の発明によれば、放射化された部材(16)の拡大駆動範囲(駆動範囲+ガタ分)とほぼ同等に広い検出範囲を持つ検出器(20)によって、放射化された部材(16)から発する放射線を検出することで、駆動部位が駆動中であっても、駆動部位を停止させた後であっても、放射化された部材(16)と検出器(20)との周期的な位置変化による検出値のばらつきによる誤差を抑制できる。
【0016】
また、放射化された部材(16)の経時的な平均位置の変化が少ない方向(V)に配置された検出器(20)によって放射線を検出するため、駆動部位が駆動中に経時的に発生する放射化された部材(16)と検出器(20)との平均位置変化の影響を抑えて、駆動部位の微小摩耗量を継続的に測定することができる。
【0017】
また、請求項8に記載の発明は、駆動部位を成す2つの部材(2、26)のうち、摩耗量を測定したい方の部材(26)を放射化し、放射化された部材(26)の経時的な平均位置の変化が少ない方向(V)から放射線を検出可能に配置された検出器(20)によって、駆動部位の駆動を毎回必ず所定の位置で停止させて、放射化された部材(26)から発する放射線を検出することにより、駆動部位の摩耗量を測定することを特徴としている。
【0018】
この請求項8に記載の発明によれば、駆動部位の駆動を毎回必ず所定の位置で停止させて放射化された部材(26)から発する放射線を検出することで、放射化された部材(26)と検出器(20)との周期的な位置変化による検出値のばらつきによる誤差を抑制できる。
【0019】
また、放射化された部材(26)の経時的な平均位置の変化が少ない方向に配置された検出器(20)によって放射線を検出するため、駆動部位が駆動中に経時的に発生する放射化された部材(26)と検出器(20)との平均位置変化の影響を抑えて、駆動部位の微小摩耗量を継続的に測定することができる。なお、特許請求の範囲および上記各手段に記載の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態について、図1〜8を用いて詳細に説明する。本実施形態は、本発明の継続的摩耗量測定方法を、給湯器に用いられる縦置きスクロール型圧縮機のスラスト軸受の継続的な摩耗量測定に適用した実施例である。図1は、実施形態に係る縦置きスクロール型圧縮機100を示す側面断面図である。まず、圧縮機100の概略構造を説明する。
【0021】
圧縮機100は、耐圧密閉容器としてのハウジング1内に、電動機部と圧縮機構部とを収容して構成されている。また、この圧縮機100は、縦置きの圧縮機とされ、ハウジング1内の上方側に電動機部、下方側に圧縮機構部が配置されている。そして、電動機部によって圧縮機構部が駆動される電動圧縮機となっている。
【0022】
ハウジング1は、鉄管で作った円筒ハウジング1aの両端に、同じく鉄などの金属製の上部ハウジング1bと、下部ハウジング1cとを溶接で接合して構成されている。上部ハウジング1bには、吸入パイプ9が設けられている。この吸入パイプ9から、冷凍サイクルの低圧冷媒、および後述する各軸受を潤滑させるための潤滑油が、ハウジング1内に流入するようになっている。
【0023】
電動機部としてのモータ3は、ハウジング1の軸中心にシャフト2が配置され、シャフト2に固定された回転子と、この回転子の外周側の円筒ハウジング1aに固着された固定子などから成っている。モータ3には、図示しない外部電源から電力が供給されるようになっており、これにより回転子およびシャフト2が回転駆動するようになっている。
【0024】
圧縮機構部は、中間ハウジング4、可動部材としての旋回スクロール6、固定スクロール8および吐出室プレート14などから成っている。中間ハウジング4は、円筒ハウジング1aの内周面に固着されており、その電動機部側の中心部には、第1シャフト軸受部が形成されている。この第1シャフト軸受部には、ラジアル軸受5aが固定されている。
【0025】
一方、円筒ハウジング1aの上部には、第2シャフト軸受部を有するホルダプレートが設けられており、この第2シャフト軸受部にもラジアル軸受5bが固定されている。そして、シャフト2は、これらのラジアル軸受5a、5bによって回転可能に支持されている。
【0026】
シャフト2の下端には、軸中心に対して所定量だけ偏心したクランクピン2aが、一体に形成されている。クランクピン2aには、ブッシュ7が組み付けられている。このブッシュ7は、偏心孔が設けられた円筒状の部材であり、この偏心孔にクランクピン2aが回転可能に挿入されている。
【0027】
クランクピン2aに装着されたブッシュ7は、シャフト2の軸心に対して所定量偏心した状態にされており、シャフト2が回転駆動する際に、クランクピン2aに対する自転を許容されつつ、シャフト2の軸心のまわりを回転する。また、ブッシュ7には、回転駆動時における動的なアンバランスを相殺するためのバランサ7aが固定されており、バランサ7aは、ブッシュ7と共に回転するようになっている。
【0028】
中間ハウジング4の下側には、旋回スクロール6が設けられている。旋回スクロール6は、概ね円板状の端板部6aと、その端板部6aから軸線方向下方に突出させて一体に形成された渦巻形のスクロール歯6bと、端板部6aの上面側に一体に形成された円筒状のボス部6cなどから成っている。
【0029】
ボス部6cには、ブッシュ7が旋回スクロール軸受5cを介して挿着されている。このボス部6cとブッシュ7とが挿着されていることにより、旋回スクロール6はシャフト2に連結され、シャフト2の中心軸回りに公転運動をする。なお、図示しない部分に旋回スクロール6の公転運動のみを許す複数個の自転防止ピンがあり、旋回スクロール6が自転運動するのを阻止している。
【0030】
旋回スクロール軸受5cは、針状のころが用いられたラジアルころ軸受より構成されている。この旋回スクロール軸受5cにより、シャフト2の回転力が旋回スクロール6に旋回運動として円滑に伝達される。また、中間ハウジング4の下側面と、旋回スクロール6の端板部6aの上面との間には、スラスト軸受16、17が設けられている。
【0031】
このスラスト軸受16、17は、スクロール内での冷媒の圧縮によって旋回スクロール6に加わる軸方向の反力、即ち、スラスト荷重を受ける役割を果たすものである。また、このスラスト軸受16、17により、中間ハウジング4はハウジング1に固着された状態で旋回運動をする旋回スクロール6を支持可能になっている。
【0032】
スラスト軸受16、17は、重ね合わされた2枚のドーナツ状のスラストプレート16、17が互いに摺動することで軸受としての機能を果たすようになっている。下側のスラストプレート16は、固定ピン18によって旋回スクロール6の端板部6aに固定されており、上側のスラストプレート17は、固定ピン18によって中間ハウジング4に固定されている。
【0033】
なお、このスラスト軸受16、17は、すべり軸受でも転がり軸受でもどちらでも良く、潤滑油によって潤滑されていても良い。本実施形態では、駆動部位の摩耗量を継続的に測定する摩耗量測定の例として、このスラスト軸受16、17を対象としており、具体的な測定方法については後述する。
【0034】
旋回スクロール6の下側には、固定スクロール8が旋回スクロール6と相対して配設されている。この固定スクロール8は、旋回スクロール6と同様な端板部8aと、渦巻形のスクロール歯8bとを備えており、ボルトによって中間ハウジング4に固定されている。固定スクロール8の上側に形成されたスクロール歯8bは、旋回スクロール6のスクロール歯6bと嵌合して、略三日月状の圧縮室が複数形成される。
【0035】
つまり、旋回スクロール6のスクロール歯6bが、固定スクロール8のスクロール歯8bと角度をずらして噛み合い、それらの間に閉塞された圧縮室11を形成するように、両スクロール6、8のスクロール歯6b、8bが重ね合わされている。また、固定スクロール8の外周側には、中間ハウジング4側から流入する冷媒を圧縮室11へと導く吸入室10が設けられている。
【0036】
そして、冷凍サイクルの図示しない蒸発器から戻って来て、吸入ポート9からモータ3内を通過して吸入室10内へ導入された気体冷媒は、圧縮室11の外周側端部が吸入室10に向かって開いた時に、圧縮室11の内部に吸入される。そして、旋回スクロール6が公転する間に、旋回スクロール6および固定スクロール8の中心部に向かって圧縮室11が半径方向に移動しながら縮小することによって冷媒を圧縮する。
【0037】
最後に圧縮室11が中心部の空間に向かって開いた時に、吐出圧に達した冷媒が固定スクロール8の中央に設けられた吐出孔8cを通過して、端板部8aと吐出室プレート14とで形成された吐出室13内へ吐出される。吐出弁12は、吐出室13内の冷媒が吐出孔8cを介して逆流するのを防止する弁であり、端板部8a上に装着されている。吐出室13内へ吐出された高圧の冷媒は、吐出室13から外部へ連通させた吐出ポート15から冷凍サイクルの図示しない放熱器へ向けて吐出される。
【0038】
次に、駆動部位の摩耗量を継続的に測定する摩耗量測定の実施例を、図2を用いて説明する。図2は、第1実施形態における摩耗量測定を示す模式図である。摩耗量測定方法として、RIトレーサ法の残留法を用いている。上述した圧縮機100のスラスト軸受16、17を、駆動部位を成す2つの部材とし、特に、旋回スクロール6の端板部6a上に固定されたスラストプレート16を、摩耗量を測定したい方の部材としている。
【0039】
そして、スラストプレート16の摩耗を生じる駆動面16bに放射化した放射化部16cを形成して圧縮機100に組み込み、更にこの圧縮機100を図示しない給湯器の冷凍サイクルに組み込み、圧縮機100の所定位置に後述する放射線の検出器20を取り付ける。
【0040】
そして、給湯器を実稼働状態において、放射化部16cから発せられる放射線(γ線)量を、リアルタイムで継続的に検出器20で測定するものである。これにより、冷凍サイクルおよび圧縮機100を分解することなく(つまりは非破壊で)、放射線の減少度合いから摩耗量を定量的かつ継続的に測定することができる。
【0041】
放射化(RI)部16cは、サイクロトロンなどの粒子加速器から駆動面16bに向けてイオンビームを直接照射して、放射化層を形成している。なお、本実施例でのスラスト軸受16、17はすべり軸受であるため、以後駆動面は摺動面と言うこととする。
【0042】
放射線量を検出する検出器20は、沃化ナトリウム(Nal)を用いた検出素子21の周りを、鉛のシールド22で覆ったものであり、放射線が入る側にはコリメータ(放射線偏向器)24を配置して、開口25を絞ることにより、放射化部16cが発する放射線以外の影響を取り除いて検出素子21に入るようにしている。
【0043】
なお、検出素子21として、本実施形態では「光電子増倍管」を用いている。検出素子21で検出した放射線量は、放射線量計測システム23に入力される。放射線量計測システム23は、放射線量を設定した時間だけ積算カウントし、放射線量すなわち摩耗量の変化をリアルタイムに計測する。
【0044】
RIトレーサ法(残留法)における放射化強度、検出距離、検出時間および摩耗量検出精度の関係は、以下の関係となる。
・放射化強度∝放射線量
・精度=3√(2・放射線量・検出時間)/(放射線量・検出時間・検量線傾き)
・放射線量∝1/(検出距離^2)
・検量線傾き=放射線量の変化割合/放射化深さの変化量
次に、放射線の検出方向について説明する。本実施形態の測定対象であるスラストプレート16は、図2に示すように、固定ピン18によって旋回スクロール6の端板部6aに固定されており、スラストプレート16に穿設された固定孔16aと固定ピン18との間には、各寸法が公差内でばらついても組み付けが成り立つように隙を持たせてある。
【0045】
このため、旋回スクロール6の公転運動などに伴い、スラストプレート16は図2中の水平(H)方向に経時的な平均位置の変化が大きい特性、つまりは上記公転運動に伴い固定孔16aと固定ピン18とのガタ分だけ水平(H)方向に位置がずれ得る特性(変動幅:数百μm程度)を持っている。以後、スラストプレート16の駆動範囲に上記のガタによるずれ量を含めた範囲を、拡大駆動範囲と呼ぶこととする。また、この水平方向と直交する垂直(V)方向には、スクロール内での冷媒の圧縮により軸方向に力が加わるため、経時的な平均位置の変化が小さい特性(変動幅:数十μm程度)を持っている。
【0046】
図3は、経時的な平均位置の変化が大きい方向Hと平行な方向に検出器20を配置した場合の模式図であり、図4は、図3におけるH方向の動きに対する放射線量の増減率の変化を示すグラフである。また図5は、経時的な平均位置の変化が大きい方向Hと垂直な方向(V)に検出器20を配置した場合の模式図であり、図6は、図5におけるH方向の動きに対する放射線量の増減率の変化を示すグラフである。
【0047】
図4と図6とのグラフの比較から分かるように、経時的な平均位置の変化が少ない方向Vから放射線を検出することにより、放射化部16cの周期的な位置変化による検出値のばらつきによる誤差を抑制することができる。
【0048】
本実施形態の実稼働状態では、検出器20と計測対象の距離が大きくなり、計測精度が低下する影響を取り除くため、図2に示す本実施形態で用いたコリメータ24Aの開口25Aは、図3や図5に示す通常のコリメータ24Bの開口25Bよりも大きくして、検出器20に入る放射線量を増加させている。もちろん、スラストプレート16が公転運動をしているため、この放射化部が周期的な位置変化や変動まで含めて放射線検出可能範囲に入るように開口部を設定すれば、さらなる計測精度向上が可能である。
【0049】
放射線の検出時間は、スラストプレート16の駆動周期よりながく設定して時間平均できるようにしている。ただし、検出器20と駆動面16bの具体的な位置関係は、前記した精度算出の式に基づき、適宜設定すれば良い。
【0050】
次に、本実施形態での特徴と、その効果について述べる。まず、駆動部位を成して互いに相対移動する2つのスラストプレート16、17のうち、摩耗量を測定したい方のスラストプレート16を放射化し、放射化されたスラストプレート16の経時的な平均位置の変化が少ない方向Vから、放射線を検出可能に配置された検出器20によって、駆動部位を駆動させながら、放射化されたスラストプレート16から発せられる放射線を所定時間検出することにより、駆動部位の摩耗量を測定するようにしている。
【0051】
これによれば、放射化されたスラストプレート16の経時的な平均位置の変化が少ない方向Vに配置された検出器20によって放射線を検出するため、駆動部位が駆動中に経時的に発生する放射化されたスラストプレート16と検出器20との平均位置変化の影響を抑えて、駆動部位の微小摩耗量を継続的に測定することができる。
【0052】
より具体的には、上記所定時間を駆動部位の駆動周期よりも長くし、上記経時的な平均位置の変化が少ない方向Vを駆動部位の摺動面16bに対して垂直な方向とすると、より正確に駆動部位の微小摩耗量を継続的に測定することができる。また、駆動部位がスラスト軸受であるなら、スラスト軸受は摺動面16bに対して直行する力を受けているため、駆動部位の摺動面16bに対して垂直な方向は、特に経時的な平均位置の変化が少なく、より正確に駆動部位の微小摩耗量を継続的に測定することができる。
【0053】
また、検出器20が放射線を検出する範囲(具体的にはコリメータ24の開口25)を、放射化されたスラストプレート16の駆動範囲とほぼ同等としている。これにより、検出器20は常に放射化されたスラストプレート16から放射線を検出することができ、より正確に駆動部位の微小摩耗量を継続的に測定することができる。
【0054】
また、検出器20は、放射線を検出する検出素子21と、検出素子21の入口に配置され、特定方向の放射線のみ検出素子21に入射させる開口25を有するコリメータ24を備え、コリメータ24の開口25の面積は、検出素子21の有効検出面積よりも大きくしている。これにより、より広範囲から放射線を検出することができ、検出器20との位置関係が変化する放射化されたスラストプレート16の摩耗量を、より正確に継続的に測定することができる。
【0055】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について説明する。図7は、第2実施形態における縦置き圧縮機100でのラジアル軸受5aの摩耗量測定を示す模式図である。なお、以降の各実施形態においては、上述した第1実施形態と同一の構成要素には同一の符号を付して説明を省略し、異なる構成および特徴についてのみ説明する。
【0056】
本実施形態は、上述した縦置きスクロール型圧縮機100のシャフト2を支持しているラジアル軸受5aの摩耗量測定に、本測定方法を適用したものである。本実施形態のラジアル軸受5aは、内輪と外輪との間に転動するコロを設けた構成のものである。このようなラジアル軸受5aにおいて、例えば外輪内面の摩耗量を測定する場合、外輪内面の一部に放射化部16cを形成して実機に組み込み、試験運転の実稼働状態において放射化部16cから発せられる放射線量を、リアルタイムで継続的に測定することで、摩耗量を定量的に測定することができる。
【0057】
検出器20は、外輪の放射化部16cを設けた面に対して垂直なラジアル方向の圧縮機外部に配置することとなり、計測距離は前述したように適宜設定すれば良い。ラジアル軸受5aの外輪は、中間ハウジング4に固定されているため、第1実施形態のような経時的な平均位置の変化はない。なお、ラジアル軸受5aは、すべり軸受でも転がり軸受でもどちらでも良く、潤滑油によって潤滑されていても良い。
【0058】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態について説明する。図8は、第3実施形態における横置き圧縮機でのラジアル軸受5aの摩耗量測定を示す模式図である。上述した各実施形態と異なる特徴部分を説明する。本実施形態は、第1および第2実施形態のスクロール型圧縮機100を、横置きに配置したものである。検出器20は、第2実施形態と同様に、放射化部16cを設けた面に対して垂直なラジアル方向として、例えば圧縮機外部下方に配置することとなり、計測距離は前述したように適宜設定すれば良い。
【0059】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態について説明する。図9は、第4実施形態におけるスラストプレート16の摩耗量測定を示す模式図である。上述した各実施形態と異なる特徴部分を説明する。本実施形態では、第1実施形態と同様に、周期的な位置変化を持つスラストプレート16の放射化部16cの駆動範囲に対して、検出器20の検出範囲をほぼ同等に大きくしている。つまり、スラスト軸受に限定し、かつ検出範囲≧駆動範囲とすれば、駆動状態か停止状態かにかかわらず、停止位置を選ぶことなく計測できるようになる。なお、計測距離は前述したように適宜設定すれば良い。
【0060】
つまり、所定の平面上の駆動部位を成す2つのスラストプレート16、17のうち、摩耗量を測定したい方のスラストプレート16を放射化し、所定の平面と直交する方向から放射線を検出可能に配置され、放射化されたスラストプレート16の駆動範囲と同等以上に広い検出範囲を持つ検出器20によって、放射化されたスラストプレート16から発する放射線を検出することにより、駆動部位の摩耗量を測定するようにしている。
【0061】
これによれば、放射化されたスラストプレート16の駆動範囲とほぼ同等に広い検出範囲を持つ検出器20によって、放射化されたスラストプレート16から発する放射線を検出することで、駆動部位が駆動中であっても、駆動部位を停止させた後であっても、放射化されたスラストプレート16と検出器20との周期的な位置変化による検出値のばらつきによる誤差を抑制できる。
【0062】
また、放射化されたスラストプレート16の経時的な平均位置の変化が少ない方向Vに配置された検出器20によって放射線を検出するため、駆動部位が駆動中に経時的に発生する放射化されたスラストプレート16と検出器20との平均位置変化の影響を抑えて、駆動部位の微小摩耗量を継続的に測定することができる。
【0063】
(第5実施形態)
次に、第5実施形態について説明する。図10は、第5実施形態におけるスラスト軸受26の摩耗量測定を示す模式図である。上述した各実施形態と異なる特徴部分を説明する。本実施形態では、シャフト2の端面をスラスト軸受26で受けている例である。よって、本実施形態では、シャフト2も駆動部位を成す部材となる。
【0064】
つまり、駆動部位を成すシャフト2とスラスト軸受26のうち、摩耗量を測定したい方のスラスト軸受26を放射化し、放射化されたスラスト軸受26の経時的な平均位置の変化が少ない方向Vから放射線を検出可能に配置された検出器20によって、駆動部位の駆動を毎回必ず所定の位置で停止させて、放射化されたスラスト軸受26から発する放射線を検出することにより、駆動部位の摩耗量を測定するようにしている。
【0065】
これによれば、駆動部位の駆動を毎回必ず所定の位置で停止させて放射化されたスラスト軸受26から発する放射線を検出することで、放射化されたスラスト軸受26と検出器20との周期的な位置変化による検出値のばらつきによる誤差を抑制できる。また、放射化されたスラスト軸受26の経時的な平均位置の変化が少ない方向に配置された検出器20によって放射線を検出するため、駆動部位が駆動中に経時的に発生する放射化されたスラスト軸受26と検出器20との平均位置変化の影響を抑えて、駆動部位の微小摩耗量を継続的に測定することができる。
【0066】
ただし、図10に示したスラスト軸受26の放射化部16cには、前述したような周期的な位置変化が無いため、放射線の検出は駆動部位が駆動中であっても、駆動部位を所定の位置で停止させた後であっても良い。また、本測定方法の場合、スラスト軸受の駆動範囲よりも、放射線検出可能範囲が大きくなくても良い。また、本測定方法で測定するのは、スラスト軸受でもラジアル軸受でも、どちらでも良い。
【0067】
(その他の実施形態)
本発明は上述した実施形態にのみ限定されるものではなく、次のように変形または拡張することができる。例えば、上述の実施形態では、検出器20での検出面積を大きくするために、コリメータ24の開口25を大きくしているが、図9に示すように、検出器20内に配置された略円筒形の検出素子21を横向きとし、通常円筒端面を検出面としているのに対して円筒側面を検出面として検出面積を大きくしても良い。これに合せて、検出器20の放射線が入る側に配置したコリメータ24Cも、検出素子21の円筒側面の検出面に合せて大きな開口25Cとしている。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】実施形態に係る縦置きスクロール型圧縮機100を示す側面断面図である。
【図2】第1実施形態における摩耗量測定を示す模式図である。
【図3】経時的な平均位置の変化が大きい方向Hと平行な方向に検出器20を配置した場合の模式図である。
【図4】図3におけるH方向の動きに対する放射線量の増減率の変化を示すグラフである。
【図5】経時的な平均位置の変化が大きい方向Hと垂直な方向に検出器20を配置した場合の模式図である。
【図6】図5におけるH方向の動きに対する放射線量の増減率の変化を示すグラフである。
【図7】第2実施形態における縦置き圧縮機でのラジアル軸受5aの摩耗量測定を示す模式図である。
【図8】第3実施形態における横置き圧縮機でのラジアル軸受5aの摩耗量測定を示す模式図である。
【図9】第4実施形態におけるスラストプレート16の摩耗量測定を示す模式図である。
【図10】第5実施形態におけるスラスト軸受26の摩耗量測定を示す模式図である。
【符号の説明】
【0069】
2…シャフト(駆動部位を成す部材)
16…スラスト軸受(駆動部位を成す部材、摩耗量を測定したい方の部材、放射化された部材)
16b…摺動面(駆動面)
17…スラスト軸受(駆動部位を成す部材)
20…検出器
21…検出素子
24…コリメータ(放射線偏向器)
25…開口
26…スラスト軸受(駆動部位を成す部材、摩耗量を測定したい方の部材、放射化された部材)
V…経時的な平均位置の変化が少ない方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動部位を成す2つの部材(16、17)のうち、摩耗量を測定したい方の部材(16)を放射化し、
前記放射化された部材(16)の経時的な平均位置の変化が少ない方向(V)から、放射線を検出可能に配置された検出器(20)によって、
前記駆動部位を駆動させながら、前記放射化された部材(16)から発せられる放射線を所定時間検出することにより、前記駆動部位の摩耗量を測定することを特徴とする継続的摩耗量測定方法。
【請求項2】
前記所定時間は、前記駆動部位の駆動周期よりも長いことを特徴とする請求項1に記載の継続的摩耗量測定方法。
【請求項3】
前記経時的な平均位置の変化が少ない方向(V)とは、前記駆動部位の駆動面(16b)に対して垂直な方向であることを特徴とする請求項1または2に記載の継続的摩耗量測定方法。
【請求項4】
前記駆動部位は、スラスト軸受であることを特徴とする請求項3に記載の継続的摩耗量測定方法。
【請求項5】
前記検出器(20)が放射線を検出できる範囲を、前記放射化された部材(16)の駆動範囲と同等以上とすることを特徴とする請求項4に記載の継続的摩耗量測定方法。
【請求項6】
前記検出器(20)は、放射線を検出する検出素子(21)と、前記検出素子(21)の入口に配置され、特定方向の放射線のみ前記検出素子(21)に入射させる開口(25)を有する放射線偏向器(24)を備え、
前記放射線偏向器(24)の前記開口(25)の面積は、前記検出素子(21)の有効検出面積よりも大きいことを特徴とする請求項4または5に記載の継続的摩耗量測定方法。
【請求項7】
所定の平面上の駆動部位を成す2つの部材(16、17)のうち、摩耗量を測定したい方の部材(16)を放射化し、
前記所定の平面と直交する方向から放射線を検出可能に配置され、前記放射化された部材(16)の駆動範囲と同等以上に広い検出範囲を持つ検出器(20)によって、
前記放射化された部材(16)から発する放射線を検出することにより、前記駆動部位の摩耗量を測定することを特徴とする継続的摩耗量測定方法。
【請求項8】
駆動部位を成す2つの部材(2、26)のうち、摩耗量を測定したい方の部材(26)を放射化し、
前記放射化された部材(26)の経時的な平均位置の変化が少ない方向(V)から放射線を検出可能に配置された検出器(20)によって、
前記駆動部位の駆動を毎回必ず所定の位置で停止させて、前記放射化された部材(26)から発する放射線を検出することにより、前記駆動部位の摩耗量を測定することを特徴とする継続的摩耗量測定方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2009−42118(P2009−42118A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−208547(P2007−208547)
【出願日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】