説明

綿繊維の改質方法

【課題】 機能性無機系微粒子表面に何らの処理をすることなく、綿繊維表面に強固に付着させる方法を提供する。
【解決手段】 酸化亜鉛を主体とする無機系微粒子を水に分散させた水性分散液を得る。この水性分散液に綿繊維を浸漬させる。綿繊維が浸漬された水性分散液を、上部が開口した容器に入れた後、超臨界二酸化炭素装置に収納する。超臨界二酸化炭素装置に二酸化炭素を供給し昇圧及び昇温する。そうすると、容器中の水に二酸化炭素が溶解し、炭酸水が生成する。このとき、酸化亜鉛を主体とする無機系微粒子は炭酸水に溶解する。この状態で一定時間保持した後、超臨界二酸化炭素装置内の二酸化炭素を排出して、除圧すると、溶解していた酸化亜鉛を主体とする無機系微粒子が、綿繊維表面に析出する。これによって、綿繊維表面に酸化亜鉛を主体とする無機系微粒子が強固に付着した改質綿繊維が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、綿繊維に抗菌性や消臭性等の機能性を付与する綿繊維の改質方法に関し、特に、綿繊維表面に機能性無機系微粒子を強固に付着させる綿繊維の改質方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
天然の綿繊維は、本来持っている肌触りの良さや吸湿性の高さから、衣料素材や衛生材料素材として広く用いられているが、合成繊維に比べて、抗菌性や消臭性等のその他の機能を付与しにくいという憾みがあった。その理由は以下のとおりである。すなわち、合成繊維は、合成樹脂を溶融紡糸して得られるものであるから、合成樹脂中に抗菌剤や消臭剤を練り込んで溶融紡糸すれば、容易に抗菌性や消臭性を持つ合繊繊維を得ることができる。しかしながら、天然の綿繊維は溶融紡糸して得られるものではないため、かかる操作を行うことができない。
【0003】
天然の綿繊維の場合、その表面に抗菌剤や消臭剤を接着剤で付着させれば、抗菌性や消臭性を付与することができる。しかしながら、接着剤を用いると、綿繊維表面及び抗菌剤や消臭剤表面が接着剤皮膜で覆われてしまうため、綿繊維本来の肌触りや吸湿性が低下すると共に、抗菌性や消臭性も不十分なままとなる。
【0004】
このため、接着剤を使用せずに、綿繊維表面に機能性微粒子を付着させる方法が提案されている(特許文献1)。特許文献1に記載されている技術は、機能性微粒子の表面を親水性無機化合物で被覆して、綿繊維表面に機能性微粒子が吸着しやすいようにして付着させるというものである。しかしながら、機能性微粒子表面に親水性無機化合物で被覆すると、当該微粒子の本来の機能性が低下するという欠点が生じる。
【0005】
【特許文献1】特開2008−2 0 0 7 号公報(請求項8)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の課題は、機能性無機系微粒子表面に何らの処理をすることなく、綿繊維表面に強固に付着させる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を解決するため、本発明者は、種々研究を重ねていたところ、酸化亜鉛を主成分とする無機系微粒子が加圧して得られた炭酸水に溶解しやすいことを知見した。また、炭酸水を除圧すると、溶解していた無機系微粒子が析出することを知見した。本発明はかかる知見に基づいてなされたものである。
【0008】
すなわち、本発明は、無機系微粒子を水に分散させた水性分散液に、綿繊維を浸漬させた容器を密閉装置に収納した後、該密閉装置内に二酸化炭素を供給し昇圧及び昇温して、該二酸化炭素を水に溶解させて炭酸水を生成させると共に、該炭酸水に該無機系微粒子を溶解させた後、除圧して該綿繊維表面に無機系微粒子を析出させることを特徴とする綿繊維の改質方法に関するものである。
【0009】
本発明で用いる無機系微粒子は、一定の圧力及び温度下において、炭酸水に溶解するものであれば、どのようなものでも用いることができる。たとえば、酸化亜鉛を主成分とする無機系微粒子は、5MPa以上で50℃以上の炭酸水中に溶解する。また、無機系微粒子としては、種々の機能を持つものを採用するのが一般的である。たとえば、抗菌機能や消臭機能を持つものが採用される。
【0010】
無機系微粒子の平均一次粒子径は、100nm以下であるのが好ましい。100nmを超えると、炭酸水に溶解しにくくなる場合がある。なお、平均一次粒子径は以下の方法で測定される数平均である。すなわち、透過型電子顕微鏡により観察し、粒子100個を任意に抽出し、各粒子の粒子径を測定し、その平均値を算出したものである。
【0011】
無機系微粒子を水に分散させて水性分散液を得る。水は水道水や蒸留水が用いられるが、これに水酸化ナトリウム等のアルカリ物質を溶解させたアルカリ水溶液を用いてもよい。アルカリ水溶液を用いると、綿繊維が膨潤しやすいため、綿繊維表面により多くの無機系微粒子が析出する傾向となる。なお、水性分散液中の無機系微粒子の濃度は任意である。
【0012】
この水性分散液は開口を持つ容器に入れられ、水性分散液中に綿繊維を浸漬する。そして、綿繊維が浸漬している水性分散液が入れられた容器を、密閉装置内に収納する。この後、密閉装置内に二酸化炭素を供給し、密閉装置内の圧力及び温度を昇圧及び昇温する。密閉装置は膨張しないので、二酸化炭素の供給を続けると、昇圧する。また、昇温は密閉装置を外部から又は内部から加熱して行えばよい。密閉装置内を昇圧及び昇温すると、二酸化炭素は水性分散液中の水に溶解し、炭酸水となる。そして、この炭酸水に無機系微粒子が溶解する。前述したように、酸化亜鉛を主成分とする無機系微粒子の場合、密閉容器内の圧力を5MPa以上とし、温度を50℃以上とすると、炭酸水に溶解する。
【0013】
本発明において、密閉装置として超臨界二酸化炭素装置を用いるのが好ましい。超臨界二酸化炭素装置を用いると、当該装置内の圧力及び温度は、7.38MPa以上で31.0℃以上となる。そして、超臨界状態の二酸化炭素が水に溶解して炭酸水となり、無機系微粒子は炭酸水に溶解する。この際、超臨界二酸化炭素装置内の温度は、180℃以下にしておく。この理由は、温度を高くしすぎると、水が液体状態を維持しにくくなること、及び温度が高すぎると二酸化炭素の水に対する溶解度が下がるからである。
【0014】
無機系微粒子を炭酸水に溶解させて一定時間保持した後、密閉装置の排出口を開いて、二酸化炭素を外部へ排出して除圧し、最終的には密閉装置内を常圧にする。そうすると、炭酸水から二酸化炭素が抜けて、当初の状態すなわち水に戻る。この段階で、炭酸水に溶解していた無機系微粒子は、水に溶解しないので、水に浸漬されている綿繊維表面に析出して付着するのである。以上の方法で、綿繊維表面に無機系微粒子が付着した改質綿繊維が得られる。
【0015】
本発明において特異的なことは、綿繊維表面に多数の皺が形成されていることである。そして、無機系微粒子は、綿繊維表面の皺の窪みに付着し、取り除きにくくなっており、強固に付着していることである。したがって、綿繊維を洗濯しても、無機系微粒子は容易に脱落しない。かかる皺が形成される理由は定かではないが、密閉容器を昇圧及び昇温すると、炭酸水が綿繊維内部まで侵入し綿繊維が径方向に膨潤し、その後、除圧すると二酸化炭素と水が綿繊維の外部に排出され、綿繊維が径方向に収縮するからではないかと推定している。すなわち、綿繊維の膨潤及び収縮により、皺が形成されると推定している。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、一旦溶解した無機系微粒子を綿繊維表面に析出するものであるため、粒子径の揃った無機系微粒子が綿繊維表面に付着するという効果を奏する。また、綿繊維表面に皺が形成されるため、無機系微粒子が境地に付着するという効果を奏する。そして、無機系微粒子として抗菌機能又は消臭機能等を持つものを採用すれば、消臭性綿繊維や抗菌性綿繊維等の機能性綿繊維を得ることができるという効果を奏する。
【実施例】
【0017】
以下、実施例に基づいて本発明を説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。本発明は、無機系微粒子が加圧された炭酸水に溶解すること、及び除圧により溶解していた無機系微粒子が綿繊維表面に析出することという知見に基づくものとして、解釈されるべきである。
【0018】
まず、実施例で用いる原料及び装置について説明する。
[無機系微粒子]
使用した無機系微粒子は、株式会社井上事務所製の商品名「ナノファイン」である。「ナノファイン」は、酸化亜鉛の結晶にアルミ原子を埋め込んだものであり、平均一次粒子径は約80nmである。
[綿繊維]
使用した綿繊維は、オーストラリア産の原綿を精練及び漂白したものである。
[密閉装置]
使用した密閉装置は、超臨界二酸化炭素装置である。
【0019】
実施例1
無機系微粒子を蒸留水に分散させて、無機系微粒子の濃度が0.2質量%である水性分散液を得た。この水性分散液をセル(上部が開口した内容積50mlの容器である。)に入れ、水性分散液に綿繊維約2gを浸漬した。そして、このセルを密閉装置に収納した後、密閉装置内に二酸化炭素を供給し、約20分かけて密閉装置内の圧力を20MPaとした。また、密閉装置を内部から加熱して、密閉装置内の温度を37℃とした。そして、この圧力及び温度で60分間保持した後、密閉装置内の二酸化炭素を約10分で排出して、常圧及び常温に戻した。その後、セル内の綿繊維を取り出して自然乾燥して改質綿繊維を得た。この改質綿繊維の表面のSEM写真は、図1に示したとおり、多数の無機系微粒子が綿繊維表面に付着していた。なお、改質綿繊維表面を徹底的に洗浄して、無機系微粒子を除去すると、綿繊維表面は図2に示す如く、多数の凹凸の激しい皺が形成されていた。
【0020】
実施例2
水性分散液として、無機系微粒子を水酸化ナトリウム水溶液(濃度20質量%)に分散させて、無機系微粒子の濃度が0.2質量%であるものを使用すること、密閉装置内の温度を80℃とすること及び保持時間を30分間とする他は、実施例1と同一の条件で、改質綿繊維を得た。得られた改質綿繊維は、その表面に多数の無機系微粒子が付着していた。そして、この改質綿繊維を徹底的に洗浄して無機系微粒子を除去すると、綿繊維表面は図3に示す如く、多数の凹凸の激しい皺が形成されていた。なお、実施例1で形成された皺と、実施例2で形成された皺とを比較すると、実施例2で形成された皺の方がより微細でその数が多く、さらに凹凸の程度も激しいものと認められた。この理由は、水酸化ナトリウム水溶液を用いて水性分散液を作成したため、密閉装置内での昇圧及び昇温と、その後の除圧及び降温とにより、綿繊維の径方向への膨潤及び収縮が激しかったからであると推定している。
【0021】
比較例1
実施例1で用いた水性分散液をビーカーに入れた後、綿繊維を投入して、大気圧下で常温で60分間撹拌した後、綿繊維を取り出して自然乾燥した。綿繊維表面には、無機系微粒子が付着しているが、洗浄すれば簡単に脱落するものであった。脱落後の綿繊維表面のSEM写真は図4に示す如く、天然の綿繊維本来の皺が見られる程度であった。
【0022】
比較例2
実施例2で用いた水性分散液をビーカーに入れた後、綿繊維を投入して、大気圧下で常温で60分間撹拌した後、綿繊維を取り出して自然乾燥した。綿繊維表面には、無機系微粒子が付着しているが、洗浄すれば簡単に脱落するものであった。脱落後の綿繊維表面のSEM写真は図5に示す如く、天然の綿繊維本来の皺が見られる程度であった。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施例1で得られた改質綿繊維表面のSEM写真である。
【図2】実施例1で得られた改質綿繊維表面から無機系微粒子を除去した綿繊維表面のSEM写真である。
【図3】実施例2で得られた改質綿繊維表面から無機系微粒子を除去した綿繊維表面のSEM写真である。
【図4】比較例1で得られた綿繊維表面から無機系微粒子を除去したときのSEM写真である。
【図5】比較例2で得られた綿繊維表面から無機系微粒子を除去したときのSEM写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機系微粒子を水に分散させた水性分散液に、綿繊維を浸漬させた容器を密閉装置に収納した後、該密閉装置内に二酸化炭素を供給し昇圧及び昇温して、該二酸化炭素を水に溶解させて炭酸水を生成させると共に、該炭酸水に該無機系微粒子を溶解させた後、除圧して該綿繊維表面に無機系微粒子を析出させることを特徴とする綿繊維の改質方法。
【請求項2】
水がアルカリ水溶液である請求項1記載の綿繊維の改質方法。
【請求項3】
昇圧及び昇温の下限値が5MPa以上で50℃以上である請求項1記載の綿繊維の改質方法。
【請求項4】
密閉装置として超臨界二酸化炭素装置を用い、昇圧及び昇温の下限値が7.38MPa以上で31.0℃以上であり、昇温の上限値が180℃以下である請求項1記載の綿繊維の改質方法。
【請求項5】
無機系微粒子の平均一次粒子径が100nm以下である請求項1記載の綿繊維の改質方法。
【請求項6】
無機系微粒子が、酸化亜鉛を主成分とするものである請求項1記載の綿繊維の改質方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−112062(P2012−112062A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−260726(P2010−260726)
【出願日】平成22年11月23日(2010.11.23)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年9月6日 社団法人 化学工学会主催の「化学工学会 第42回秋季大会(2010)」において文書をもって発表
【出願人】(000157348)丸三産業株式会社 (15)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】