説明

緊急遮断弁

【課題】弁体の回転開始初期の動作をスムースにする。
【解決手段】回転弁の弁体2と一体に回転する弁軸5と、上下方向へ回動可能なアーム7及びウェイト6と、そのウェイト6の下降を阻止する保持手段10とを備えた緊急遮断弁1において、前記アーム7のアーム軸17は前記弁軸5の外周に同軸心に設けられてキー18及びそのキー溝19を介して噛み合っており、前記保持手段10によるウェイト6の下降阻止が解除された際に、弁軸5はアーム7が前記下降阻止状態から遊び角αだけ下方へ回動した後にアーム軸17との連動を開始して、その連動開始後、弁軸5が閉弁状態へ回転する構成とした。このため、前記下降阻止が解除された直後においてそのウェイト6の下降に勢いが付きやすく、アーム7は速やかに回動可能である。また、弁軸5が回転を開始する際には既にウェイト6の下降に勢いが付いているので、弁軸5に衝撃を加えて速やかに回転させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、上水道、水力発電所等の配管に設置され、大地震等の緊急時に自動的に又は手動でその管路を遮断する緊急遮断弁に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の緊急遮断弁として、例えば、特許文献1に記載の緊急遮断弁は、本発明の説明図である図1乃至3に基づいて説明すると、弁箱3の内部に挿通して設けた弁軸5に弁体2を取り付けた回転弁の前記弁箱3が、管路pに介在して設けられ、その弁軸5の一端に、その弁軸5とともにその軸周りに回動するアーム7を取り付け、アーム7の先端にはウェイト6を設けている。前記弁箱3に固定されたフレーム4に、保持手段10として長尺の係止レバー8が設けられ、その係止レバー8は上下方向に揺動可能にその長さ方向中程を支持ピン9で支持されており、前記係止レバー8の一端下面に、前記アーム7に設けたピン7aが嵌まる係止穴8aを形成している。
【0003】
この緊急遮断弁は、通常の状態においては、図1に示すように、アーム7が上向きの状態で、そのアーム7のピン7aに前記係止レバー8の係止穴8aを係止し、この係止により、ウェイト6の下降を阻止して弁体2の開弁状態を維持するようになっている。
【0004】
地震発生等の所定の信号を受信すると、電動アクチュエータ11が自動的に作動して係止レバー8を図中矢印A,Bの方向へ揺動させ、前記ア−ム7の係止によるウェイト6の下降阻止を解除する。下降阻止が解除されると、ウェイト6の自重によりア−ム7は矢印Cの方向へ回動し、図2に示すように、弁軸5を回転させて弁体2を閉弁して管路pの流れを遮断する。
このとき、フレーム4にピン13を介して緩衝装置12が取り付けられており、その緩衝装置12のロッドの先端がピン12aを介してアーム7の取付部材7bに接続されている。このため、ウェイト6は緩やかに落下して弁体2が緩やかな速度で閉弁するようになっている。
【0005】
また、図2に示す閉弁状態から、クラッチ40を備えた復帰装置30(図3参照)を操作することにより弁軸5及びアーム7が矢印Dの方向へ復帰し、弁軸5の回転とともに弁体2を開弁状態に復帰させる。
また、前記アーム7のピン7aが図中矢印Eの方向へ動けば、係止レバー8は図中矢印Fの方向へ押し上げられ、アーム7のピン7aが係止レバー8の係止穴8aに係止される。この係止により、アーム7及びウェイト6は当初の下降阻止状態に復帰する。
【特許文献1】特開2002−71039号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の緊急遮断弁によると、弁体2を開弁状態(全開状態)から緊急遮断する際に、その弁体2の回転開始初期における回転速度が遅く、閉弁状態(全閉状態)に至るまでに長い時間を要する場合がある。
これは、ウェイト6がその自重で下降しようとする力に対して、緩衝装置12の緩衝力が抵抗するため、あるいは、下降阻止が解除された直後のウェイト6は、そのウェイト6の鉛直下向きの重力に対する前記アームの回動方向への分力が小さいため、管路p内の流体に抗して弁体2を回転させる付勢力が不足しているためではないかと考えられる。
【0007】
緊急遮断弁に求められる性能として、緊急遮断の必要が生じた際にはできるだけ速やかに閉弁状態に至ることが望ましい。
【0008】
そこで、この発明は、緊急遮断弁の弁体が閉弁方向に回転する際におけるその弁体の回転開始初期の動作をスムースにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、この発明は、ウェイトの下降阻止を解除することによるアームの回動開始時期と、そのアームの回動によって連動して回転する弁軸の閉弁方向への回転開始時期との間に差を設けたのである。
すなわち、ウェイトの下降によりアームが回動を開始し、そのアームが遊び角だけ下方へ回動すれば弁軸との連動が開始され、その連動開始後、アームの回動に伴って弁軸が開弁状態から閉弁状態へと回転するようにしたものである。
【0010】
このようにすれば、ウェイトの下降阻止が解除された直後において、アームは弁軸とは連動しない状態で自由に回動可能であるため、ウェイトの下降に勢いが付きやすい。このため、緩衝装置等の抵抗にかかわらず、アームは速やかに回動可能である。
また、そのアームの回動が弁軸の回転と連動を開始する際には、既にウェイトの下降に勢いが付いており、そのウェイトの下降とともに回動するアームが、いわゆるハンマーブロー効果により軸周り静止している状態の弁軸に衝撃を加えて、その弁軸を速やかに閉弁方向に回転させることができる。このため、弁体の回転開始初期の動作をスムースにすることができる。
【発明の効果】
【0011】
この発明は、以上のようにしたので、緊急遮断弁の弁体が閉弁方向に回転する際におけるその弁体の回転開始初期の動作をスムースにすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
上記手段の具体的実施形態として、回転弁の弁体と一体に回転する弁軸と、上下方向へ回動可能でその回動により前記弁軸を回転させるアームと、そのアームと一体に回動するように設けられたウェイトと、そのウェイトの下降を阻止する保持手段とを備え、前記保持手段が前記ウェイトの下降を阻止することにより前記弁体を開弁状態に維持するとともに、前記保持手段による前記ウェイトの下降阻止が解除されると前記ウェイトはその自重により下降して前記アームを回動させ、そのアームの回動により前記弁軸を弁体の開弁状態から閉弁状態へと回転させる緊急遮断弁において、前記アームは、そのアームの上下方向への回動により軸周り回転するアーム軸を備え、前記弁軸は前記アーム軸の軸周り回転と連動して軸周り回転するようになっており、前記保持手段による前記ウェイトの下降阻止が解除された際に、前記弁軸は、前記アームが前記下降阻止状態から遊び角だけ下方へ回動した後に前記アーム軸との連動を開始して、その連動開始後、前記アームの回動に伴って前記弁軸が弁体の開弁状態から閉弁状態へと回転する構成を採用した。
【0013】
この構成において、前記弁軸と前記アーム軸とは同軸心に設けられて、その弁軸とアーム軸の一方にキーが設けられ他方には前記キーよりも周方向幅の広いキー溝が設けられており、前記キーとキー溝とが噛み合うことにより前記弁軸と前記アーム軸とが連動するとともに、そのキーの周方向端面と、そのキーの周方向端面に対向する前記キー溝の周方向端面との成す周方向の隙間により前記下降阻止状態から前記連動を開始するまでの前記遊び角が設定されている構成を採用することができる。
【0014】
ウェイトの下降阻止を解除することによるアーム及びアーム軸の回動開始時期と、そのアーム及びアーム軸の回動によって連動して回転する弁軸の閉弁方向への回転開始時期との間に、前記遊び角に相当する回転開始時期の差を設けるに際し、そのアーム軸と弁軸との連動方法にはギヤ機構、リンク機構などを用いた周知の手法を採用し得る。
【0015】
また、特に、前記アーム軸と弁軸とが同軸心であれば、キーとキー溝を用いた構成を採用することができる。例えば、弁軸の外周にアーム軸が位置する場合には、弁軸の外周にキーをアーム軸の内周にキー溝を設けても良いし、弁軸の外周にキー溝をアーム軸の内周にキーを設けても良い。また、アーム軸の外周に弁軸が位置する場合には、アーム軸の外周にキーを弁軸の内周にキー溝を設けても良いし、アーム軸の外周にキー溝を弁軸の内周にキーを設けても良い。
キーとキー溝を用いた構成によれば、前記遊び角は、そのキーとキー溝の周方向幅の組合わせにより適宜の角度に設定できるので、その遊び角の設定が比較的簡単でありアーム軸と弁軸とを連動させる装置を複雑化させない。
【0016】
また、緊急遮断弁の弁体を閉弁状態から開弁状態に復帰させるに際し、以下の構成を採用し得る。
すなわち、その緊急遮断弁は、前記弁体の閉弁状態から前記弁軸を軸周り回転させることにより前記弁体を開弁状態に復帰させるとともに前記アームを前記下降阻止状態に復帰させる機能を有する復帰装置を備えており、その復帰装置は、前記アームを前記下降阻止状態に復帰させた後、前記弁軸を閉弁状態側へ回転させることにより前記下降阻止状態から前記連動が開始するまでの前記遊び角を設定する構成を採用し得る。
【0017】
緊急遮断弁の弁体、弁軸、及びアーム等が閉弁状態に至った場合、弁体及び弁軸を開弁状態に、また、ウェイト、アーム及びアーム軸を前記保持手段による下降阻止状態に復帰させるとともに、次に緊急遮断の必要が生じた場合に備えて、前記弁軸とアーム軸との間に遊び角が設定された状態にしておく必要がある。
このため、前記弁体を開弁状態に復帰させ、前記アームを前記下降阻止状態に復帰させた後、前記弁軸を閉弁状態側へ回転させることができるようにし、その弁軸の閉弁方向への回転により、遊び角を設定できるようにしたのである。
【0018】
その復帰装置の具体的構成として、前記復帰装置は、手動又は駆動力で回転可能な操作軸と、その操作軸に設けられたウォームと、そのウォームに噛み合うとともにクラッチ軸周りに回転自在であるウォームホイールと、前記弁軸と一体に回転するとともに前記クラッチ軸周りに回転自在である軸クラッチ部材とを備え、前記弁体の閉弁状態から操作軸を軸周り一方へ回転させることにより、前記ウォームを介して前記ウォームホイールが前記クラッチ軸周りに回転し、その回転するウォームホイールが前記軸クラッチ部材に設けた第一被係止部に当たってその軸クラッチ部材を前記クラッチ軸周りに押して回転させることにより前記弁軸を開弁方向に回転させ、その弁軸の開弁方向への回転により、前記弁体を開弁状態に復帰させるとともに前記アームを前記阻止状態に復帰させる構成とする。
また、その後、前記操作軸を軸周り他方に回転させることにより、前記ウォームホイールが前記クラッチ軸周り逆方向に回転し、前記軸クラッチ部材に設けた第二被係止部に当たってその軸クラッチ部材を前記クラッチ軸周りに押して回転させることにより前記弁軸を閉弁方向に回転させ、その弁軸の閉弁方向への回転により、前記下降阻止状態から前記連動が開始するまでの前記遊び角を設定する構成を採用し得る。
【0019】
この構成によれば、弁体を閉弁状態から開弁状態に復帰させ、また、同時にアーム及びウェイトを下降阻止状態に復帰させる際には、操作軸の操作により回転するウォームホイールを介して、軸クラッチ部材及び弁軸をその開弁方向に回転させることができる。弁軸が開弁方向に回転すれば、その弁軸に連動して動くアーム軸、アーム、ウェイトを前記下降阻止状態に向けて回転させることができる。
また、そのアームの下降阻止状態への設定後、操作軸を逆方向に操作すればウォームホイールを介して軸クラッチ部材及び弁軸を閉弁方向に回転させることができる。このため、前記下降阻止状態のアーム軸と、弁軸との間に前記遊び角を設定することができる。
【0020】
また、弁体を緊急遮断させる際において、弁軸は、これらの手動又は駆動力に基づく復帰装置とは切り離されていることが必要である。弁軸と復帰装置とが切り離されていなければ(接続状態であれば)、弁軸が復帰装置によってロックされた状態となって、ウェイトが下降しようとする際に弁軸が閉弁方向に回転できないからである。
このため、緊急遮断弁は、その復帰装置と弁軸とを前記切離し状態及び前記接続状態に切り換え可能なクッチを備える必要がある。
この点、上記の構成によれば、弁体を閉弁状態から開弁状態に復帰させ、また、同時にアーム及びウェイトを下降阻止状態に復帰させる際にはウォームホイールが軸クラッチ部材の第一被係止部に当接し接続状態となる。また、その後、遊び角を設定するためにウォームホイールを逆方向に回転させるので、その逆回転により、ウォームホイールと軸クラッチ部材の第一被係止部とは離れて両者が切り離された状態となる。このため、上記の復帰装置がクラッチの機能を兼ね備えることができる。
【0021】
また、その復帰装置の構成において、前記軸クラッチ部材は断面扇形を成し、その断面扇形の対の母線が交わるカナメ部に前記クラッチ軸が設けられており、前記対の母線を含む前記軸クラッチ部材の両端面がそれぞれ前記第一被係止部及び前記第二被係止部を成すとともに、前記保持手段による前記下降阻止が解除されて前記弁軸が閉弁方向に回転した際に、前記第一被係止部が前記ウォームホイールに当たることによりその弁軸の回転が停止する構成を採用し得る。
【0022】
この構成によれば、その復帰装置が、緊急遮断時における弁軸の閉弁方向への回転を、弁体の全閉状態で止めるストッパ機能を兼ね備えることができる。
【実施例】
【0023】
一実施例の緊急遮断弁1を図1乃至図5に基づいて説明する。この緊急遮断弁1の主たる構成は従来例と同様であるので、以下、その従来例との差異点を中心に説明する。
【0024】
図1及び図2に示すように、ウェイト6を備えたアーム7は、その根元部に一体に軸周り回転する筒状のアーム軸17を備え、そのアーム軸17は、弁体2と一体に回転する弁軸5の外周に同軸心に設けられている。
その弁軸5の外周に、径方向に突出するキー18が設けられ、アーム軸17の内周には、前記キー18よりも周方向幅の広いキー溝19が設けられている。
【0025】
そのキー18がキー溝19内に入り込んで両者が噛み合うことにより、軸周りいずれの方向へも、前記弁軸5と前記アーム軸17とが連動して回転するようになっている(図4a(d)参照)。
すなわち、アーム軸17が図4a(c)に示す矢印Gの方向へ軸周り回転すれば、弁軸5側のキー18の周方向端面18aと、そのキー18の周方向端面18aに対向するアーム軸17側のキー溝19の周方向端面19aとが当接することにより、そのアーム軸17の軸周り回転に連動して弁軸5が軸周り同方向へ矢印Hの方向へ回転する。
また、弁軸5が図4b(c)に示す矢印Kの方向へ軸周り回転すれば、キー18の前記周方向端面18aの反対側の周方向端面18bと、キー溝19の前記周方向端面19aの反対側の周方向端面19bとが当接することにより、その弁軸5の軸周り回転に連動してアーム軸17が軸周り同方向へ矢印Jの方向へ回転する。
【0026】
また、その弁軸5とアーム軸17との連動に際し、キー18の周方向端面18aと前記キー溝19の周方向端面19a、又はキー18の周方向端面18bと前記キー溝19の周方向端面19bとの間に周方向の隙間があるので、その隙間がなくなるまでの範囲で弁軸5とアーム軸17とは軸周り相対回転が可能である。
【0027】
また、この緊急遮断弁1は、クラッチ40を内蔵した復帰装置30を備えている。その復帰装置30は、図3に示すように、手動開閉装置39のハンドル37による手動操作、又は電動開閉装置38によるモータ等の駆動力に基づく操作により、弁軸5を軸周りいずれの方向にも回転させることができるようになっている。
また、その復帰装置30はクラッチ40を備えているので、緊急遮断を行う際及びその緊急遮断の待機状態において、復帰装置30は弁軸5から切り離されている。このため、弁軸5の自由な回転を阻害しないようになっている。
【0028】
復帰装置30の詳細について説明すると、図4a(b)に示すように、ケーシング内において軸周り回転可能に支持された操作軸31と、その操作軸31に設けられたウォーム32と、そのウォーム32に噛み合うとともにクラッチ軸36周りに回転自在であるウォームホイール33と、前記弁軸5と一体に回転するとともに前記クラッチ軸36周りに回転自在である軸クラッチ部材35とを備えている。
【0029】
前記軸クラッチ部材35は中心角180度の断面扇形を成し、その断面扇形の対の母線が交わるカナメ部35cに前記クラッチ軸36が挿通されている。
また、前記対の母線を含む前記軸クラッチ部材35の両端面が、それぞれ開弁時用の第一被係止部35a、及び遊び角設定時用の第二被係止部35bを成している。
【0030】
また、ウォームホイール33は中心角90度の断面扇形を成し、その断面扇形の対の母線が交わるカナメ部に前記クラッチ軸36が挿通されている。
また、前記対の母線を含む前記ウォームホイール33の両端面が、それぞれ第一係止部33a及び第二係止部33bを成している。
【0031】
この緊急遮断弁1は、通常は、図1及び図4a(a)に示すように、弁体2が全開状態に維持されており、また、ウェイト6を備えたアーム7は、保持手段10により上向きの状態で下降しないように保持されている(下降阻止状態)。
この状態は、図5に示す模式図では、「1」〜「5」に示す各状態のうち「1」の状態となる。
【0032】
この下降阻止状態において、弁体2の緊急遮断の必要が生じた場合、例えば、図示しない地震計が所定値以上の震度を検知すると、その地震計から発信される緊急遮断信号を受けた所定の制御装置が電動アクチュエータ11のロッドを押し下げるように動作させる。
【0033】
電動アクチュエータ11のロッドが押し下げられると、図1に示すように、係止レバー8の他端8bが矢印Aのように下方へ動き、逆に、一端の係止穴8aが矢印Bのように上昇する方向へと揺動する。
【0034】
この揺動により、前記ピン7aが前記係止穴8aから抜け出されて、保持手段10による前記アーム7の係止が解除される。すなわち、ウェイト6の下降阻止が解除される。
アーム7の係止が解除されると、ウェイト6はその自重により、ア−ム7が下方へ回動するよう付勢され、ア−ム7は、図4a(c)に示す矢印Cの方向へ回動する。同時にアーム軸17は矢印Gの方向へ時計回りに回転する。
【0035】
アーム軸17が矢印Gの方向へ回転する際に、前記ウェイト6の下降阻止が解除された直後は、キー18の周方向端面18aと前記キー溝19の周方向端面19aとの間に隙間がある(図4a(d)参照)ので、アーム軸17のみが軸周り回転し弁軸5は回転しない。
【0036】
その後、アーム軸17が弁軸5に対して時計回りに遊び角αだけ相対回転すると、前記キー18の周方向端面18aと前記キー溝19の周方向端面19aとの隙間がなくなって、その端面18a,19a同士が当接する。
【0037】
この当接により、前記弁軸5は前記アーム軸17との連動を開始して、その連動開始後、前記アーム7の回動に伴って前記弁軸5が矢印Hの方向へ時計回りに回転する。この弁軸5の回転により、弁体2は開弁状態から閉弁状態へと一気に回転する。
【0038】
このとき、ウェイト6の下降阻止が解除された直後において、アーム7は弁軸5とは連動しない状態で自由に回動可能であるため、ウェイト6の下降に勢いが付きやすい。このため、前記両端面18a,19a同士が当接する際には、既にアーム軸17の回転にある程度の初速が付いている状態である。
すなわち、そのアーム7の回動が弁軸5の回転と連動を開始する際には、既にウェイト6の下降に勢いが付いているので、そのウェイト6の下降とともに回動するアーム7が、いわゆるハンマーブロー効果により軸周り静止している状態の弁軸5に衝撃を加える。このため、弁軸5は、弁体2が管路p内の流体から受ける抵抗などにかかわらず、速やかに閉弁方向に回転させることができる。
【0039】
また、弁軸5が回転すると、復帰装置30内の軸クラッチ部材35が、図4a(b)に示す矢印Iの方向へ回転し、その回転は、図4b(b)に示すように、軸クラッチ部材35の第一被係止部35aが、ウォームホイール33の第一係止部33aに当接したところで停止し、弁体2は全閉状態となる。
この軸クラッチ部材35の回転可能角度は、回転開始位置から90度に設定されているので、弁軸5は全開状態(図1参照)から全閉状態(図2参照)へと90度回転した位置でぴったりと止まるようになっている。
なお、この状態は、図5に示す模式図では「2」の状態である。
【0040】
この弁体2の全閉状態において、図4b(b)に示すように、復帰装置30のハンドル37の操作により操作軸31を回転させると、ウォームホイール33は図中矢印Lに示す方向へ反時計回りに回転する。この回転により、ウォームホイール33の第一係止部33aが軸クラッチ部材35の第一被係止部35aを押して、その軸クラッチ部材35を反時計回りに回転させる。
【0041】
軸クラッチ部材35の回転に伴い、前記弁軸5は、図4b(c)に矢印Kで示す方向に軸周り回転する。前記キー18の周方向端面18aと前記キー溝19の周方向端面19aとは当接しているので、その弁軸5の回転に連動して、アーム軸17が矢印Jに示す方向へ反時計回りに回転する。
この弁軸5の回転により、弁体2は、図4c(a)に示すように全開状態となり、また、図4c(c)に実線で示すように、アーム7及びウェイト6は前記保持手段10による下降阻止状態の直前の位置となる(図5の模式図で示す「3」の状態参照)。
【0042】
さらに、操作軸31を回転させて、ウォームホイール33を図中矢印Mに示す方向へ反時計回りに角度αだけ回転すると、図4c(c)に鎖線で示すように、アーム7及びウェイト6は保持手段10により下降阻止状態に復帰する(図5の模式図で示す「4」の状態参照)。
【0043】
その後、操作軸31を逆方向に回転すると、ウォームホイール33は、図4d(b)の矢印Qに示す方向へ時計回りに回転し、そのウォームホイール33の第二係止部33bが軸クラッチ部材35の第二被係止部35bに当接する。
その当接位置から、さらに操作軸31を回転させて、ウォームホイール33を前記矢印Qと同方向へ角度αだけ回転すると、軸クラッチ部材35は、図4d(d)に示す位置となり、前記弁軸5及び弁体2が全開状態である図4aに実線で示す状態に復帰する(図5の模式図で示す「5」の状態参照)。
【0044】
なお、この実施例では、保持手段10として揺動自在の係止レバー8を用い、その係止レバー8の一端下面に、前記アーム7に設けたピン7aが嵌まる係止穴8aを形成して、そのアーム7のピン7aに前記係止レバー8の係止穴8aを係止する構成としたが、保持手段10としては、この実施例に限らず、例えば、電磁ブレーキ等の他の周知の手段も採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】一実施例の開弁状態を示す正面図
【図2】同実施例の閉弁状態を示す正面図
【図3】図1の斜視図
【図4a】緊急遮断弁の作用を示す模式図
【図4b】緊急遮断弁の作用を示す模式図
【図4c】緊急遮断弁の作用を示す模式図
【図4d】緊急遮断弁の作用を示す模式図
【図5】緊急遮断弁の作用を示す模式図
【符号の説明】
【0046】
1 緊急遮断弁
2 弁体
3 弁箱
4 フレーム
5 弁軸
6 ウェイト
7 アーム
7a ピン
8 係止レバー
8a 係止穴
8b 他端
10 保持手段
11 電動アクチュエータ
12 緩衝装置
17 アーム軸
18 キー
19 キー溝
30 復帰装置
40 クラッチ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転弁の弁体2と一体に回転する弁軸5と、上下方向へ回動可能でその回動により前記弁軸5を回転させるアーム7と、そのアーム7と一体に回動するように設けられたウェイト6と、そのウェイト6の下降を阻止する保持手段10とを備え、前記保持手段10が前記ウェイト6の下降を阻止することにより前記弁体2を開弁状態に維持するとともに、前記保持手段10による前記ウェイト6の下降阻止が解除されると前記ウェイト6はその自重により下降して前記アーム7を回動させ、そのアーム7の回動により前記弁軸5を弁体2の開弁状態から閉弁状態へと回転させる緊急遮断弁1において、
前記アーム7は、そのアーム7の上下方向への回動により軸周り回転するアーム軸17を備え、前記弁軸5は前記アーム軸17の軸周り回転と連動して軸周り回転するようになっており、
前記保持手段10による前記ウェイト6の下降阻止が解除された際に、前記弁軸5は、前記アーム7が前記下降阻止状態から遊び角αだけ下方へ回動した後に前記アーム軸17との連動を開始して、その連動開始後、前記アーム7の回動に伴って前記弁軸5が弁体2の開弁状態から閉弁状態へと回転することを特徴とする緊急遮断弁。
【請求項2】
前記弁軸5と前記アーム軸17とは同軸心に設けられて、その弁軸5とアーム軸17の一方にキー18が設けられ他方には前記キー18よりも周方向幅の広いキー溝19が設けられており、前記キー18とキー溝19とが噛み合うことにより前記弁軸5と前記アーム軸17とが連動するとともに、そのキー18の周方向端面18aと、そのキー18の周方向端面18aに対向する前記キー溝19の周方向端面19aとの成す周方向の隙間により前記下降阻止状態から前記連動を開始するまでの前記遊び角αが設定されていることを特徴とする請求項1に記載の緊急遮断弁。
【請求項3】
前記緊急遮断弁は、前記弁体2の閉弁状態から前記弁軸5を軸周り回転させることにより前記弁体2を開弁状態に復帰させるとともに前記アーム7を前記下降阻止状態に復帰させる機能を有する復帰装置30を備えており、その復帰装置30は、前記アーム7を前記下降阻止状態に復帰させた後、前記弁軸5を閉弁状態側へ回転させることにより前記下降阻止状態から前記連動が開始するまでの前記遊び角αを設定することを特徴とする請求項1又は2に記載の緊急遮断弁。
【請求項4】
前記復帰装置30は、手動又は駆動力で回転可能な操作軸31と、その操作軸31に設けられたウォーム32と、そのウォーム32に噛み合うとともにクラッチ軸36周りに回転自在であるウォームホイール33と、前記弁軸5と一体に回転するとともに前記クラッチ軸36周りに回転自在である軸クラッチ部材35とを備え、
前記弁体2の閉弁状態から操作軸31を軸周り一方へ回転させることにより、前記ウォーム32を介して前記ウォームホイール33が前記クラッチ軸36周りに回転し、その回転するウォームホイール33が前記軸クラッチ部材35に設けた第一被係止部35aに当たってその軸クラッチ部材35を前記クラッチ軸36周りに押して回転させることにより前記弁軸5を開弁方向に回転させ、その弁軸5の開弁方向への回転により、前記弁体2を開弁状態に復帰させるとともに前記アーム7を前記下降阻止状態に復帰させ、
その後、前記操作軸31を軸周り他方に回転させることにより、前記ウォームホイール33が前記クラッチ軸36周り逆方向に回転し、前記軸クラッチ部材35に設けた第二被係止部35bに当たってその軸クラッチ部材35を前記クラッチ軸36周りに押して回転させることにより前記弁軸5を閉弁方向に回転させ、その弁軸5の閉弁方向への回転により、前記下降阻止状態から前記連動が開始するまでの前記遊び角αを設定することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の緊急遮断弁。
【請求項5】
前記軸クラッチ部材35は断面扇形を成し、その断面扇形の対の母線が交わるカナメ部35cに前記クラッチ軸36が設けられており、前記対の母線を含む前記軸クラッチ部材35の両端面がそれぞれ前記第一被係止部35a及び前記第二被係止部35bを成すとともに、前記保持手段10による前記下降阻止が解除されて前記弁軸5が閉弁方向に回転した際に、前記第一被係止部35aが前記ウォームホイール33に当たることによりその弁軸5の回転が停止することを特徴とする請求項4に記載の緊急遮断弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【図4c】
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【図4d】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−2408(P2009−2408A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−162660(P2007−162660)
【出願日】平成19年6月20日(2007.6.20)
【出願人】(000142595)株式会社栗本鐵工所 (566)
【Fターム(参考)】