説明

緑内障の視野改善治療薬

【課題】従来の治療改善薬よりも改善された効果を有する、新たな緑内障の視野改善治療薬の提供。
【解決手段】還元型グルタチオンを含む緑内障の視野改善治療用点眼薬であって、好ましくは還元型グルタチオンを0.1〜50g/Lの量で含み、更に、リン酸イオン及び/又はマグネシウムイオンを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、還元型グルタチオンを含有する緑内障による視野狭窄及び欠損の治療改善薬に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢化社会を迎え、眼疾患が増加している。特に緑内障の患者が急増しているので社会的に由々しき問題となっている。
【0003】
今まで緑内障の治療は、プロスタグランジン等の眼圧降下剤の点眼によるもの、あるいはダイアモックスの内服によるものが主流であり、視野狭窄、視野欠損の治療を目的として色々な治療が試みられたが、いずれも成功していない。例えば、メマンチンの長期間にわたる多数患者に対する治験は有効ではなかった。
【0004】
緑内障の中でも特に正常眼圧緑内障は、緑内障患者の中でも日本では70%以上と高率の発生率であるが、眼圧降下剤の点眼を行うのみで有効な視野狭窄改善の治療方法は今までになかった。視野改善作用のある点眼薬の開発が急務であり、これを開発できれば、失明の予防、医療費の高騰を抑制できる。
【0005】
BSSプラスは、アルコン社の製品で、オキシグルタチオンを主成分として、他にグルコースやナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、塩素イオン、リン酸イオン、炭酸イオンの電解質を特定の量で混合したものである。米国特許第6,261,545 号明細書(特許文献1)には、神経栄養因子BDNFとBSSプラスを混合した溶液で、正常眼圧緑内障の治療及び狭隅角緑内障の治療を行い、いずれも視野改善作用が認められたことが示されている。また、WO 00/76454 パンフレット(特許文献2)には、BSSプラス単独で緑内障治療が可能であったことが示されている。
しかしながら、従来の治療法は、その効果が必ずしも十分なものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第6,261,545 号明細書(2001年)
【特許文献2】WO 00/76454 パンフレット(2000年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、従来の治療改善薬よりも改善された効果を有する、新たな緑内障の視野改善治療薬を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、還元型グルタチオンを含む治療改善薬が、オキシグルタチオンを主成分とする混合液に比べて、より容易に、又は、より単純に準備でき、かつ、より有効な緑内障の視野改善作用を有することを発見した。
したがって、本願発明は、還元型グルタチオンを含む緑内障の視野改善治療用点眼薬である。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、より容易に又、より単純に準備でき、かつ、より有効な緑内障の視野改善作用を有する点眼薬が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】試験例1における患者の治療前のオクトパス1−2−3静的視野計による視野を示す。
【図2】試験例1における患者の比較例1のオキシグルタチオン水溶液による治療後のオクトパス1−2−3静的視野計による視野を示す。
【図3】試験例1における患者の実施例1の還元型グルタチオン水溶液による治療後のオクトパス1−2−3静的視野計による視野を示す。
【図4】試験例2における患者の右眼の治療前のオクトパス1−2−3静的視野計による視野を示す。
【図5】試験例2における患者の左眼の治療前のオクトパス1−2−3静的視野計による視野を示す。
【図6】試験例2における患者の右眼の実施例1の還元型グルタチオン水溶液による治療後のオクトパス1−2−3静的視野計による視野を示す。
【図7】試験例2における患者の左眼の実施例1の還元型グルタチオン水溶液による治療後のオクトパス1−2−3静的視野計による視野を示す。
【図8】試験例3における患者の右眼の治療前のオクトパス1−2−3静的視野計による視野を示す。
【図9】試験例3における患者の左眼の治療前のオクトパス1−2−3静的視野計による視野を示す。
【図10】試験例3における患者の右眼の実施例1の還元型グルタチオン水溶液による治療後のオクトパス1−2−3静的視野計による視野を示す。
【図11】試験例3における患者の左眼の実施例1の還元型グルタチオン水溶液による治療後のオクトパス1−2−3静的視野計による視野を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の緑内障の視野改善治療用点眼薬は、還元型グルタチオンを含む。還元型グルタチオンは、3つのアミノ酸からなるトリペプチドであり、市場から入手可能である。
【0012】
本発明の緑内障の視野改善治療用点眼薬における還元型グルタチオンの含有量は、好ましくは0.1〜50g/L、より好ましくは1〜40g/L、特に5〜40g/Lである。
【0013】
本発明の緑内障の視野改善治療用点眼薬は、有効成分として、還元型グルタチオン以外の緑内障治療薬を含んでも良いが、還元型グルタチオンのみでも有効である。
【0014】
本発明の緑内障の視野改善治療用点眼薬は、上記の有効成分及び任意成分の薬剤の他に通常の添加成分、例えば、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、コンドロイチン硫酸等の増粘剤、クロロブタノール、デヒドロ酢酸ナトリウム、塩化ベンザルコニウム、塩化セチルピリジウム、フェネチルアルコール、パラオキシ安息香酸メチル、塩化ベンゼトニウム、メチルパラベン、ソルビン酸等の保存剤、ホウ砂、ホウ酸、リン酸二水素カリウム、リン酸水素ナトリウム等のリン酸イオン、塩化マグネシウム等のマグネシウムイオン等の緩衝剤、ポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等の溶解補助剤、界面活性剤、エデト酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸塩等の安定化剤、メントール、カンフル、ハッカ水、ハッカ油、ボルネオール等の香料、サルファ剤、シコンエキス等の色素、防腐剤等を本発明の効果を損なわない範囲で適宜配合することができる。また、本発明の点眼薬は、涙液と等張にするのが好ましく、そのためには必要に応じ、塩化ナトリウム、塩化カリウム、グリセリン等の等張化剤を添加することができる。本発明の点眼薬のpHは、眼科的に許容される範囲であればよく、例えばpH5.0〜8.0程度の範囲が好ましい。所望のpHは例えばホウ砂、クエン酸、クエン酸ナトリウム、塩酸、水酸化ナトリウム等のpH調整剤を用いて得ることができる。
【0015】
本発明の点眼薬は、精製水等の点眼薬の担体として通常使用される溶媒中に上記有効成分を溶解することにより製造される。
【0016】
本発明の点眼薬の用法・用量は、患者の症状の種類及びその程度、年齢等により変化し得るが、通常1日1回〜数回を点眼し、1回当り25〜50μlの点眼薬を点眼する。
【実施例】
【0017】
以下、実施例及び試験例により本発明を説明する。
【0018】
(実施例1)
100mg/5ml(20g/L)の還元型グルタチオン水溶液として、アステラス製薬株式会社製の「タチオン(登録商標)点眼用2%」を用意した。
【0019】
(比較例1)
0.184mg/ml(0.184mg/L)のオキシグルタチオンと塩化カリウム、塩化カルシウム水和物、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、炭酸水素ナトリウム及びリン酸水素ナトリウムを含む水溶液として、日本アルコン株式会社製の「ビーエスエスプラス(登録商標)眼灌流液0.0184%」を用意した。
【0020】
(試験例1)
86才の男性患者は、左眼の白内障手術を8年前に受けており、眼圧がTos: 12mmHg〜20mmHgの間で変動しており、オクトパス1−2−3静的視野計にて視野狭窄が認められた(図1)。この患者に5ヶ月間眼圧降下剤のキサラタンを1日1回点眼し、比較例1のオキシグルタチオン水溶液の数滴を1日3回投与したが、視野狭窄はあまり改善しなかった(図2)。この患者に、キサラタン1日1回と実施例1の還元型グルタチオン水溶液の1滴を1日3回点眼投与を行ったところ、1週間という短期間で視野の改善効果がみられた(図3)。
【0021】
この試験例は、オキシグルタチオンを主成分とする比較例1の点眼液で緑内障の視野狭窄を治療した場合の効果と、実施例1の還元型グルタチオン水溶液の点眼治療で視野狭窄の治療を行った場合の効果を比較したものであり、これにより、オキシグルタチオン点眼よりも還元型グルタチオン点眼が有意に効果的であること、又はオキシグルタチオン点眼よりも還元型グルタチオン点眼が有意に短期間で有効であることが確認された。
【0022】
(試験例2)正常眼圧緑内障と診断された78才の女性
両眼白内障手術後、視神経乳頭陥凹があり、オクトパス1−2−3静的視野計による視野検査の結果、緑内障と診断された(図4,5)。
この患者に実施例1の還元型グルタチオン水溶液を1日4回1滴を1ヶ月間投与した所、両眼で視野改善が見られた(図6,7)。又、MD値も右眼1.7が−0.1と改善し、左眼MD値も1.0から0.4と改善した。このことより、正常眼圧緑内障の視野狭窄の治療に還元型グルタチオンの点眼が有効であることが確認された。
【0023】
(試験例3)狭隅角緑内障と診断された67才の女性
発作予防のため虹彩切除手術を行い、眼圧降下剤キサラタンを1日1回投与していたが、オクトパス1−2−3静的視野計による測定で視野の改善は見られなかった(図8,9)。
そこで、実施例1の還元型グルタチオン水溶液を1日4回1滴を28日間投与した所、両眼に視野の改善が見られた(図10,11)。また、MD値も右眼0.2が−1.1となり、左眼1.5が−1.4となり改善した。
このことから、狭隅角緑内障の視野狭窄の治療に対して還元型グルタチオンの点眼が有効であることが確認された。
試験例2及び3の症例から、眼圧が正常な緑内障及び眼圧が高い緑内障の視野狭窄の治療に還元型グルタチオンの点眼が有効であると確認された
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明によれば、より容易に、又は、より単純に準備でき、より有効な緑内障の視野改善効果を有する点眼薬が提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元型グルタチオンを含む緑内障の視野改善治療用点眼薬。
【請求項2】
還元型グルタチオンを0.1〜50g/Lの量で含む、請求項1に記載の緑内障の視野改善治療用点眼薬。
【請求項3】
更に、リン酸イオン及び/又はマグネシウムイオンを含む、請求項1又は2記載の緑内障の視野改善治療用点眼薬。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−219412(P2011−219412A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−90045(P2010−90045)
【出願日】平成22年4月9日(2010.4.9)
【出願人】(599081820)株式会社最先端医学研究所 (6)
【Fターム(参考)】