説明

緑茶抽出物の原料茶品種の鑑定方法

【課題】緑茶抽出物の原料茶品種の識別方法の提供。
【解決手段】所定の塩基配列を有する(1)〜(4)のうち少なくとも1つのプライマーセットと(5)及び(6)のうち少なくとも一方のプライマーセットとを用いて緑茶抽出物由来DNAを鋳型として核酸増幅を行い、さらに(6)のプライマーセットを用いて得られた増幅断片についてはそれを鋳型としてさらに所定の塩基配列を有する(7)のプライマーセットを用いて核酸増幅を行い、そして各プライマーセットによる核酸増幅パターンに基づいて茶品種を識別することを特徴とする、緑茶抽出物の原料茶品種の識別方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緑茶抽出物の原料茶品種の識別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
緑茶抽出物は茶飲料や緑茶加工品等に多く使用されている。PETボトルあるいは紙パック・缶等の茶飲料は近年急激に消費が伸び、2004年には清涼飲料の32%を占めるまでになっている。リーフ茶と異なり、現在のところ緑茶抽出物を使用した加工品について品種・原産地表示は義務付けられてはいないが、近年の消費量の増加から、表示義務化を求める声が強まっている。一方、茶において、機能性成分を含有する品種を使用した製品が発売されており、これらの製品では品種名の偽装が懸念される。このような社会的背景のもとに、茶飲料に用いられた品種を鑑定する手段が求められている。
【0003】
日本産茶品種のリーフ茶試料については、茶葉より抽出したDNAを鋳型としてCAPSマーカーDNAをPCRにより増幅し、その配列を比較することにより60品種が識別可能である(非特許文献1)。しかしPET飲料等の茶飲料においては、DNAがごく微量しか含まれないため、検出感度が不足し、この方法は適用できない。
【非特許文献1】Ujihara et al. Food Sci Technol Res 11:43-45, 2005
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、緑茶抽出物の原料茶品種を識別する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、緑茶飲料から抽出したDNAを鋳型として各種マーカーのPCR増幅を試みたが、良好な核酸増幅は得られなかった。そこで上記課題を解決するためさらに鋭意検討を重ねた結果、緑茶抽出物から抽出したDNAを鋳型として特定のSSRマーカーをPCR増幅することにより、良好な核酸増幅が得られ、その増幅パターンの相違により原料茶品種を識別できること、また緑茶飲料等の緑茶抽出物からのDNA抽出後、さらに低分子DNA選択的な精製を行うことによってDNAをSSRマーカーの増幅により適した状態で濃縮・純化することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は以下を包含する。
[1] 下記(1)〜(4)のうち少なくとも1つのプライマーセットと(5)及び(6)のプライマーセットとを用いて緑茶抽出物由来DNAを鋳型として核酸増幅を行い、さらに(6)のプライマーセットを用いて得られた増幅断片についてはそれを鋳型としてさらに(7)のプライマーセットを用いて核酸増幅を行い、そして各プライマーセットによる核酸増幅パターンに基づいて茶品種を識別することを特徴とする、緑茶抽出物の原料茶品種の識別方法。
【0007】
(1) (a)及び(b)を含むマーカーTMSLA10増幅用プライマーセット:
(a) 配列番号1で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー若しくはその相補配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー又はその標識物
(b) 配列番号2で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー若しくはその相補配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー又はその標識物
【0008】
(2) (c)及び(d)を含むマーカーTMSLA13増幅用プライマーセット:
(c) 配列番号3で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー若しくはその相補配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー又はその標識物
(d) 配列番号4で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー若しくはその相補配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー又はその標識物
【0009】
(3) (e)及び(f)を含むマーカーTMSLA17増幅用プライマーセット:
(e) 配列番号5で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー若しくはその相補配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー又はその標識物
(f) 配列番号6で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー若しくはその相補配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー又はその標識物
【0010】
(4) (g)及び(h)を含むマーカーTMSLA37増幅用プライマーセット:
(g) 配列番号7で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー若しくはその相補配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー又はその標識物
(h) 配列番号8で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー若しくはその相補配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー又はその標識物
【0011】
(5) (i)及び(j)を含むマーカーTMSLA55増幅用プライマーセット:
(i) 配列番号9で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー若しくはその相補配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー又はその標識物
(j) 配列番号10で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー若しくはその相補配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー又はその標識物
【0012】
(6) (k)及び(l)を含むマーカーSSR-1増幅用プライマーセット:
(k) 配列番号11で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー若しくはその相補配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー又はその標識物
(l) 配列番号12で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー若しくはその相補配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー又はその標識物
【0013】
(7) (k)及び(m)を含むマーカーSSR-1増幅用プライマーセット:
(k) 配列番号11で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー若しくはその相補配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー又はその標識物
(m) 配列番号13で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー若しくはその相補配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー又はその標識物
【0014】
上記方法では、茶品種の識別は、好ましくは、緑茶抽出物の原料茶品種が「やぶきた」、「ゆたかみどり」、「かなやみどり」、「さやまかおり」、「おくみどり」、「あさつゆ」、「やまかい」、「やまとみどり」、「おおいわせ」、「さやまみどり」、「めいりょく」、「おくひかり」、「さえみどり」、「さみどり」、「やまなみ」、及び「べにふうき」からなる群より選択される少なくとも1つであるか否かの判定でありうる。
【0015】
上記方法は、核酸増幅工程の前に、緑茶抽出物を濃縮し、アルコール沈殿し、DNAを抽出し、200bp以下のDNA断片を精製することにより、緑茶抽出物由来DNAを取得する工程をさらに含むことも好ましい。
【0016】
上記方法では、対照実験として、(n)及び(o)を含むマーカーcpSSR1増幅用プライマーセット:
(n) 配列番号14で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー若しくはその相補配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー又はその標識物
(o) 配列番号15で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー若しくはその相補配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー又はその標識物
を用いた核酸増幅を行うことをさらに含むことも好ましい。
上記方法は、例えば、緑茶抽出物の原料茶品種の真贋判定のための方法であってよい。
【0017】
[2] 下記(1)〜(4)のうち少なくとも1つのプライマーセットと(5)及び(6)のプライマーセットとを含む、緑茶抽出物の原料茶品種識別用キット。
【0018】
(1) (a)及び(b)を含むマーカーTMSLA10増幅用プライマーセット:
(a) 配列番号1で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー若しくはその相補配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー又はその標識物
(b) 配列番号2で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー若しくはその相補配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー又はその標識物
【0019】
(2) (c)及び(d)を含むマーカーTMSLA13増幅用プライマーセット:
(c) 配列番号3で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー若しくはその相補配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー又はその標識物
(d) 配列番号4で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー若しくはその相補配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー又はその標識物
【0020】
(3) (e)及び(f)を含むマーカーTMSLA17増幅用プライマーセット:
(e) 配列番号5で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー若しくはその相補配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー又はその標識物
(f) 配列番号6で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー若しくはその相補配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー又はその標識物
【0021】
(4) (g)及び(h)を含むマーカーTMSLA37増幅用プライマーセット:
(g) 配列番号7で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー若しくはその相補配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー又はその標識物
(h) 配列番号8で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー若しくはその相補配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー又はその標識物
【0022】
(5) (i)及び(j)を含むマーカーTMSLA55増幅用プライマーセット:
(i) 配列番号9で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー若しくはその相補配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー又はその標識物
(j) 配列番号10で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー若しくはその相補配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー又はその標識物
【0023】
(6) (k)〜(m)を含むマーカーSSR-1増幅用プライマーセット:
(k) 配列番号11で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー若しくはその相補配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー又はその標識物
(l) 配列番号12で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー若しくはその相補配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー又はその標識物
(m) 配列番号13で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー若しくはその相補配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー又はその標識物
このキットは、(n)及び(o)を含むマーカーcpSSR1増幅用プライマーセット:
(n) 配列番号14で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー若しくはその相補配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー又はその標識物
(o) 配列番号15で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー若しくはその相補配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー又はその標識物
をさらに含むことも好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明の方法では、緑茶飲料等の緑茶抽出物中にごく微量にしか含まれないDNAを鋳型として、原料茶品種の識別が可能なマーカーを高感度に核酸増幅することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明を詳細に説明する。
1.緑茶抽出物からのDNA調製
本発明の方法では、緑茶抽出物由来DNAを試料として品種識別を行う。本発明において「緑茶抽出物」とは、緑茶の茶葉(例えば、新鮮葉、又は製茶加工後の製茶葉)から、加熱されていてもいなくてもよい水性溶媒(例えば水、緩衝液等)で抽出して得られる抽出液又はその加工品をいう。緑茶抽出物の例としては、例えば茶飲料(PETボトル入り、紙パック入り、缶入り等の緑茶飲料)、緑茶エキス粉末、緑茶リキュール、緑茶エキス添加食品等が挙げられる。緑茶抽出物は、緑茶の抽出液に、糖、ビタミン、保存剤、着色料等の添加物が配合された加工品であってもよい。緑茶抽出物は、緑茶の抽出液を加熱、殺菌等したものを含んでいてもよい。
【0026】
本発明において「緑茶抽出物由来DNA」とは、緑茶抽出物から抽出したDNAをいう。緑茶抽出物由来DNAは、緑茶抽出物から抽出したDNAを、必要に応じてさらに精製等したDNA試料であってもよい。緑茶抽出物由来DNAは、通常はゲノムDNAと細胞質オルガネラDNAの両者を併せた全DNAをいうが、ゲノムDNAのみを含んでもよい。緑茶抽出物からのDNA抽出及び精製は、常法に従って行うことができる。例えば、緑茶抽出物からのDNA抽出は、植物からのDNA抽出に一般的に使用されるCTAB法(Cetyl trimethyl ammonium bromide法;Kaundun and Park, Crop Sci 42:594-601、Ohtsubo and Nakamura, J Agric Food Chem 55:1501-1509(大坪らの方法)など)、市販の植物DNA抽出用キット(例えば、キアゲン(QIAGEN)社のDNeasy Plant Mini Kit等のキット、ニッポンジーン社のISOPLANT II等のキットなど)により行うことができる。
【0027】
より具体的には、緑茶抽出物からDNAを抽出するまでの手順の一例としては、まず緑茶飲料等の緑茶抽出物を必要に応じて凍結乾燥法等により濃縮し、そこにイソプロピルアルコールやエタノール等のアルコールを加えてよく混和することによりアルコール沈殿を行い、それを遠心(例えば、15,000 rpm、15分間、15℃)して上清を廃棄し、得られたアルコール沈殿物を乾燥させ、それをバッファーに溶解した後、CTAB法等の任意のDNA抽出法によりDNAを抽出すればよい。CTAB法は、簡単に言うと、陽イオン性界面活性剤である臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)が、低塩濃度溶液中では核酸、酸性多糖を沈殿させ(このとき、タンパク質や中性多糖は溶液中に残る)、高塩濃度溶液中ではタンパク質や大部分の酸性多糖を不溶化し沈殿させる(このとき、核酸は溶液中に残る)という性質を有することを利用して、植物、真菌、細菌等の多糖を多く含む生物由来の試料からタンパク質や多糖類等の夾雑物を効率よく除去し、DNAを抽出する方法である。
【0028】
本発明の方法では、緑茶抽出物からDNAを抽出(例えばCTAB法で)した後、低分子DNA(好ましくは200bp以下、例えば10〜200bp)をより選択的に精製することにより、高分子物質(多糖類、ポリフェノール等)を除去した高純度な低分子DNAを取得し、それを緑茶抽出物由来DNAとして核酸増幅の鋳型とすることがさらに好ましい。本発明者らの分析では緑茶抽出物からCTAB法等のDNA抽出法により抽出されるDNAは100bp前後の断片長のものが主体であったことから、この方法によりSSRマーカーの鋳型として好適なDNAを特に高純度に得られるものと考えられる。そのような低分子DNAの精製は、限定するものではないが、例えば40〜50,000 bpの範囲のDNA断片の精製に特化したQIAEX II Gel Extraction Kit(QIAGEN)や、GFX PCR DNA and Gel Band Purification Kit(GEヘルスケア、回収可能断片は100〜10,000 bp)等を使用して行うことができる。この方法により、アミラーゼ処理やプロテイナーゼ処理等の酵素処理を行うことなく高純度な鋳型DNAを調製することができる。
【0029】
2.SSRマーカーの増幅
一般にSSRとは、マイクロサテライト配列とも呼ばれる単純反復配列(simple sequence repeats)であり、通常2〜6塩基を単位とした縦列反復配列であってゲノム中に多数散在するものである。SSRは反復単位の繰り返し数の変異が頻繁に生じることから、品種によって反復数が異なることが示されたSSRに隣接する特異的配列をプライマーとして用いて核酸増幅することにより得られた増幅断片を、SSRマーカーとして品種識別に用いることができる。
【0030】
本発明の方法では、上記通り調製した緑茶抽出物由来DNAを鋳型として、PCR法等によりSSRマーカーの増幅を行う。本発明の方法において原料緑茶の品種識別に用いることができるSSRマーカーは、以下に示すプライマーを用いて増幅することができる。
【0031】
(1) SSRマーカーTMSLA10(TMSLA10-S及びTMSLA10-L)
TMSLA10-S及びTMSLA10-Lは、以下のフォワードプライマー(a)とリバースプライマー(b)のプライマーセットを用いる核酸増幅法によって同時並行的に増幅することができる:
(a) 5'-TCATCATAGACCAATTAATCAACAAAGCA-3'(配列番号1)で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー、若しくはその相補配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー、又はその標識物
(b) 5'-TTTGCCACAAGTGAAAGGGTTTT-3'(配列番号2)で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー、若しくはその相補配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー、又はその標識物。
【0032】
(2) SSRマーカーTMSLA13(TMSLA13-S及びTMSLA13-L)
TMSLA13-S及びTMSLA13-Lは、以下のフォワードプライマー(c)とリバースプライマー(d)のプライマーセットを用いる核酸増幅法によって同時並行的に増幅することができる:
(c) 5'-GCGATTTCTAGCTCTCAACACTGTTC-3'(配列番号3)で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー、若しくはその相補配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー、又はその標識物
(d) 5'-TGATTTCCAGTTCTAGATCGCGAT-3'(配列番号4)で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー、若しくはその相補配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー、又はその標識物。
【0033】
(3) SSRマーカーTMSLA17
TMSLA17は、以下のフォワードプライマー(e)とリバースプライマー(f)のプライマーセットを用いる核酸増幅法によって増幅することができる:
(e) 5'-AACCACACCTGACACCAAGACTTCT-3'(配列番号5)で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー、若しくはその相補配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー、又はその標識物
(f) 5'-TGCCAGAGACTGGTGAGGTGTT-3'(配列番号6)で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー、若しくはその相補配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー、又はその標識物。
【0034】
(4) SSRマーカーTMSLA37
TMSLA37は、以下のフォワードプライマー(g)とリバースプライマー(h)のプライマーセットを用いる核酸増幅法によって増幅することができる:
(g) 5'-GGAGCCTTAAATTTTTGGTTTAGAAAGTG-3'(配列番号7)で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー、若しくはその相補配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー、又はその標識物
(h) 5'-TAGAAAAAATTATCAAAGCTCAAATTCTTGC-3'(配列番号8)で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー、若しくはその相補配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー、又はその標識物。
【0035】
(5) SSRマーカーTMSLA55
TMSLA55は、以下のフォワードプライマー(i)とリバースプライマー(j)のプライマーセットを用いる核酸増幅法によって増幅することができる:
(i) 5'-CCCGAACTGAAATTACTATTATACCCCT-3'(配列番号9)で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー、若しくはその相補配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー、又はその標識物
(j) 5'-CCCTACAATGAGTCAACAAATCCCTA-3'(配列番号10)で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー、若しくはその相補配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー、又はその標識物。
【0036】
(6) SSRマーカーSSR-1
SSR-1については、以下のフォワードプライマー(k)とリバースプライマー(l)のプライマーセットを用いて核酸増幅し、得られた増幅断片を鋳型としてさらに以下のフォワードプライマー(k)とリバースプライマー(m)のプライマーセットを用いて2回目の核酸増幅を行うことにより、再現性よく品種識別が可能な断片を増幅することができる:
(k) 5'-TTAAGCAAAGAAGTCGCG-3'(配列番号11)で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー、若しくはその相補配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー、又はその標識物
(l) 5'-CTAAAATCTCCACTCAGCT-3'(配列番号12)で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー、若しくはその相補配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー、又はその標識物
(m) 5'-GACCTACGTTAGATTTTAGATAGC-3'(配列番号13)で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー、若しくはその相補配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー、又はその標識物。
【0037】
本発明におけるSSRマーカー増幅用プライマーセットにおいて、「オリゴヌクレオチドプライマー」はDNAであってもRNAであってもよい。オリゴヌクレオチドプライマーがRNAである場合には、その塩基配列中の「T」は「U」と読み替えるものとする。あるいは「オリゴヌクレオチドプライマー」は修飾塩基等を含む人工核酸を含んでいてもよい。本発明の方法で用いる「オリゴヌクレオチドプライマー」は、限定するものではないが、通常は17bp〜40bpの塩基長のものであることが好ましい。
【0038】
本発明におけるオリゴヌクレオチドプライマーに関して「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」とは、MgCl21 mM、120 mM Tris-HCl (pH 8.0)、10 mM KCl、6 mM (NH4)2SO4、0.1 % Triton X-100、10 μg/ml BSAを含む溶液中、55℃で特異的なハイブリッド結合を形成できることを意味する。
【0039】
本発明におけるオリゴヌクレオチドプライマーに関して、上記の「その相補配列からなる核酸」とは、当該オリゴヌクレオチドプライマーの塩基配列に相補的な塩基配列からなる核酸を意味する。
【0040】
また、それらオリゴヌクレオチドプライマーの「標識物」とは、当該オリゴヌクレオチドプライマーに、検出を容易にする何らかの標識物質が付加されたものをいう。標識物質としては、限定するものではないが、例えば蛍光色素、発色色素、酵素、放射性同位体(35S、125I等)等が挙げられる。標識物質は、オリゴヌクレオチドプライマーの5'末端又は3'末端に付加されていてもよいし、その内部に組み込まれていてもよい。単一の反応系で使用する複数のプライマー(例えば、フォワードプライマーとリバースプライマー)の標識物質は相互に異なるものであるかあるいはいずれかのプライマーのみに付加されていることが好ましい。
【0041】
本発明の方法で使用するオリゴヌクレオチドプライマーは、公知の核酸合成法により合成することができ、例えば市販のDNA合成機を使用して合成することもできる。
【0042】
上記のようなプライマーセットを用いたSSRマーカーの増幅は、PCR等の通常の核酸増幅法に従って行えばよい。限定するものではないが、その核酸増幅の一例としては、まず緑茶抽出物由来DNAを鋳型として含むPCR反応液を、95℃で30秒の熱変性の後、94℃で30秒、アニーリング温度(1サイクル目を62℃とし、以後1サイクルごとに0.5℃ずつ低下させ、14サイクル目では55.5℃)で30秒、72℃で30秒のサイクルを14サイクル繰り返すPCR反応に供する。続いて、94℃で30秒、55℃で30秒、72℃で30秒のサイクルを20サイクル繰り返し、最後に72℃で10分間保持することにより核酸増幅を完了する。SSR-1マーカーについては、こうして得られた増幅断片(1回目の核酸増幅の産物)を希釈(例えば、100倍希釈)して鋳型とし、さらに上記の通り、より内側に設定したリバースプライマーを含むプライマーセットを用いて2回目の核酸増幅を行う。
【0043】
品種毎に異なるSSRマーカーの増幅パターンをより再現性よく得るためには、SSR-1以外のマーカーについても、得られた増幅断片を希釈(例えば、100倍希釈)して鋳型とし、2回目の核酸増幅を行うことが好ましい。SSR-1以外のマーカーについては、2回目の核酸増幅でも1回目の核酸増幅と同じプライマーセットを用いることができる。
【0044】
本発明の方法での核酸増幅は、単一の反応系内に複数のプライマーセットを加えて複数のSSRマーカーを増幅させることにより行ってもよい。増幅パターンの判別をより容易にするためには、本発明の方法での核酸増幅は、プライマーセット毎に別々の反応系で行う方が好ましい。
【0045】
本発明の方法では、原料茶品種の識別のためには、TMSLA10(TMSLA10-S及びTMSLA10-L)、TMSLA13(TMSLA13-S及びTMSLA13-L)、TMSLA17、TMSLA37、TMSLA55、SSR-1の全てについて核酸増幅を行う必要は必ずしも無い。例えば、安定した品種識別のためには、SSRマーカーとしてTMSLA10、TMSLA13、TMSLA17、TMSLA37のうち少なくとも1つと、増幅感度の良いTMSLA55及びSSR-1とを核酸増幅することが好ましい。さらに、より精密な識別を行うためには、TMSLA10、TMSLA13、TMSLA17、TMSLA37のうち2つ以上、より好ましくは3つ以上、特に好ましくは4つ全ての核酸増幅を行うことが有利である。TMSLA10とTMSLA13については1つのプライマーセットでそれぞれ2つのマーカーを増幅できることから、TMSLA10又はTMSLA13を増幅するプライマーセットを少なくとも用いて核酸増幅を行うとより手間が少なく多くのマーカーを調べることができ、便利である。
【0046】
本発明の方法では、これらの核酸増幅の対照として、別のSSRマーカーcpSSR1の核酸増幅を行ってもよい。cpSSR1は、(n) 5'-TTAGACGAGATTTTACGAACAAAAA-3'(配列番号14)で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー、若しくはその相補配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー、又はその標識物と、(o) 5'-CCGAATAAACATATAAATCGAATCAC-3'(配列番号15)で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー、若しくはその相補配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー、又はその標識物とからなるプライマーセットを用いて増幅することができる。これらのプライマーセットを用いた核酸増幅も、上記のPCR条件等に従って行うことができる。
【0047】
3.原料茶品種の識別
上記のようにして得られた核酸増幅断片は、電気泳動法等に基づく通常の核酸分離法によって増幅断片長毎に分離することができる。ここで用いる核酸分離法は、増幅断片の1〜2塩基長の差異まで検出可能な方法を用いることが好ましい。そのような核酸分離及びそれに基づく増幅断片の検出は、例えば、変性アクリルアミドゲル電気泳動や、キャピラリ電気泳動法を用いたDNAシークエンサーであるABI PRISM(R)310ジェネティックアナライザ(アプライドバイオシステムズジャパン、東京)等の市販の機器を用いたフラグメント解析によって行うことができる。このようにして、用いた緑茶抽出物由来DNAからいかなる長さの核酸断片が増幅されたか(核酸増幅パターン)を調べることができる。より具体的には、例えば、電気泳動結果に基づく核酸増幅パターンは、増幅断片を示すバンドのバンド長のパターン(増幅断片のバンドパターン)である。
【0048】
次に、得られた核酸増幅パターンに基づいて、それが各品種の核酸増幅パターンと一致するか否かを判定することにより、緑茶抽出物の原料茶品種を識別することができる。本発明の方法では、緑茶抽出物の原料茶品種が、日本産緑茶の「やぶきた」、「ゆたかみどり」、「かなやみどり」、「さやまかおり」、「おくみどり」、「あさつゆ」、「やまかい」、「やまとみどり」、「おおいわせ」、「さやまみどり」、「めいりょく」、「おくひかり」、「さえみどり」、「さみどり」、「やまなみ」、及び「べにふうき」からなる群より選択される少なくとも1つであるか否かを判定することができる。なお、これらの緑茶葉は、市販品として、あるいは独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構 野菜茶業研究所(静岡県)から品種標品として、入手することができる。
【0049】
各SSRマーカーを配列番号1〜15のプライマーを用いて増幅した場合の、各品種における増幅断片のサイズをまとめた表を、図1に示す。図1の表中、各々の欄に示された数値は検出された増幅断片のサイズ(bp)である。さらに、各SSRマーカーを配列番号1〜15のプライマーを用いて増幅した場合の各品種における増幅断片をDNAシークエンサーを用いて分析した場合のピークパターンを、図2〜5に示す。
【0050】
配列番号1〜15以外のプライマーを用いる場合でも、この図1の表に基づいて、得られる断片長を予測することができる。例えば、TMSLA17増幅用に、フォワードプライマーとして5'-AACCACACCTGACACCAAGACTTCT-3'(配列番号5)のプライマーの代わりにその5'末端側を2塩基短くしたプライマーを用い、リバースプライマーとしては5'-TGCCAGAGACTGGTGAGGTGTT-3'(配列番号6)のプライマーを用いる場合には、「やぶきた」の増幅断片は107bpと98bp、「ゆたかみどり」の増幅断片は107bpと92bpとなる。
【0051】
緑茶抽出物由来DNAについて得られた核酸増幅パターンを、図1の表に示される増幅断片長(又は配列番号1〜15以外のプライマーを用いる場合にはそこから予測される増幅断片長)及び/又は図2〜5のピークパターンと照合すれば、緑茶抽出物の原料として使用された緑茶品種を識別することができる。この品種識別のためには、TMSLA10(TMSLA10-S及びTMSLA10-L)、TMSLA13(TMSLA13-S及びTMSLA13-L)、TMSLA17、TMSLA37、TMSLA55、SSR-1の全ての核酸増幅パターンを照合してもよいが、必ずしも全てについて行わなくてもよい。安定した品種識別のためには、TMSLA10、TMSLA13、TMSLA17、TMSLA37のうち少なくとも1つと、増幅感度の良いTMSLA55及びSSR-1とを核酸増幅して得た核酸増幅パターンを照合することが好ましい。TMSLA10は1つのプライマーセットでTMSLA10-S及びTMSLA10-Lが増幅されるが、核酸増幅パターンの照合は、TMSLA10-S及びTMSLA10-Lのいずれかのみについて行ってもよい。同様に1つのプライマーセットでTMSLA13-S及びTMSLA13-Lの両方が増幅されるTMSLA13についても、TMSLA13-S及びTMSLA13-Lの一方の核酸増幅パターンのみについて照合を行えばよい。
【0052】
具体的には、例えば、ある緑茶抽出物由来DNAを試料とした場合に、配列番号3及び4のプライマーを用いて増幅したTMSLA13-Sの増幅断片長が79bpであり、配列番号9及び10のプライマーを用いて増幅したTMSLA55の増幅断片長が99bpと77bpであり、配列番号11〜13のプライマー(1回目の核酸増幅には配列番号11と12のプライマーセット、2回目の核酸増幅には配列番号11と13のプライマーセット)を用いて増幅したSSR-1の増幅断片長が129bpと117bpである場合には、図1の表と照合すると、その緑茶抽出物の原料茶品種は「おくひかり」である可能性が高いと判定される。あるいは、それらの増幅断片をDNAシークエンサー等でフラグメント解析して得られたピークパターンを図2〜5のピークパターンと照合しても同じ判定結果が得られる。
【0053】
なお、上記のように緑茶抽出物試料由来DNAにおけるSSRマーカーの核酸増幅パターンを、DNAシークエンサー(例えばApplied Biosystems社のABI PRISM 310 ジェネティックアナライザなど)等の電気泳動法(例えば、キャピラリー電気泳動法)に基づくフラグメント解析によって読み取る場合、ピークパターン中には、目的のSSRマーカーのアレルが正しく増幅された核酸断片のピーク(アレル・ピーク)の他に、スタッター・ピーク(stutter peak)と呼ばれるアーチファクト(人為的増幅産物)のピークが頻繁に生じる。これは、SSRマーカーが短い単位長のリピート(反復配列)を含むために、PCR反応の結果、その単位長毎(例えば、2bpのリピートであれば2bp毎)に伸長・短縮した複数のピークが連続してピーク群として現れてくるものである。アレル・ピークをこのようなスタッター・ピークと区別する方法は、当業者には周知である(例えば、Applied Biosystems社のABI PRISM 310 ジェネティックアナライザの取扱説明書の「GeneScan Reference Guide」等にも記載されている)。
【0054】
その概要を説明すれば、SSRマーカーのピーク群は、アレル・ピークを頂点として、リピート1単位ずつ増幅長が短くなるピークが左側に、リピート1単位ずつ増幅長が長くなるピークが右側に現れ、全体として外側に行くほどピーク高が低くなった三角形を構成する。但しアレル・ピークの右側のピークは弱かったり全く出なかったりすることもある。基本的には、そのようなピーク群の中で最もピーク高の高い(シグナルの強い)ピークをアレル・ピークとして読み取ればよい(例えば、後述の図7C(「やぶきた」)のTMSLA55のピーク群の、最も高いピーク(97bp)がアレル・ピーク)。但し、2以上のアレルの増幅断片が分析試料中に含まれる場合(当該アレルに関するヘテロ接合品種の場合や、複数品種の混合試料の場合など)であって、そのアレル・ピーク同士のサイズが近接しているときは、互いのピーク群が重なり、より短鎖のアレル・ピークにより長鎖のアレルのスタッター・ピークが加算されて、より短鎖のアレル・ピークがさらに高く現れることがある。このような場合には、ピーク群の中で最もピーク高の高いピークとその右側にある次に高いピークを、目的のアレル・ピークとして読み取ればよい(例えば、後述の図7B(「さえみどり」)のTMSLA55のピーク群の、最も高いピーク(95bp)とその右側のピーク(97bp)がアレル・ピーク)。アレル・ピークの判別のさらなる詳細については、上記「GeneScan Reference Guide」等を参照することができる。このようにしてアレル・ピークを判別することにより、これらのピークパターンから核酸増幅パターンを読み取ることができる。
【0055】
また本発明の方法は、試験する緑茶抽出物について、国内主要品種である「やぶきた」、「ゆたかみどり」、「かなやみどり」、「さやまかおり」、「おくみどり」、「あさつゆ」、「やまかい」、「やまとみどり」、「おおいわせ」、「さやまみどり」、「めいりょく」、「おくひかり」、「さえみどり」、「さみどり」、「やまなみ」、及び「べにふうき」のいずれか又はその2種以上の組み合わせを原料茶品種とすることが示されている(典型的には原料茶品種として表示されている)場合に、その原料茶品種表示の真贋を鑑定(判定)するために特に好適に使用することができる。
【0056】
例えば、ある緑茶抽出物の原料茶品種として示されている、「やぶきた」、「ゆたかみどり」、「かなやみどり」、「さやまかおり」、「おくみどり」、「あさつゆ」、「やまかい」、「やまとみどり」、「おおいわせ」、「さやまみどり」、「めいりょく」、「おくひかり」、「さえみどり」、「さみどり」、「やまなみ」、及び「べにふうき」のうちの特定の単一品種又は2種以上の品種について、上記のSSRマーカーを増幅して得られる核酸増幅パターン又はその組み合わせを図1の表(又は配列番号1〜15以外のプライマーを用いる場合にはそこから予測される増幅断片長)及び/又は図2〜5のピークパターンから予測した上で、その緑茶抽出物由来DNAを鋳型としてSSRマーカーを核酸増幅し、その核酸増幅パターンが予測した核酸増幅パターンと一致するかどうかを判定すればよい。判定の結果、予測と一致した場合には、原料茶品種がその原料茶品種表示と一致している可能性が高く原料茶品種表示は高い確率で真(適正)であると判断され、一方、予測と不一致であれば、原料茶品種がその原料茶品種表示と異なるものである可能性が高く、原料茶品種表示は高い確率で贋(不正又は不適正)であると判断されることとなる。
【0057】
同様に本発明の方法は、試験する緑茶抽出物について、国内主要品種である「やぶきた」、「ゆたかみどり」、「かなやみどり」、「さやまかおり」、「おくみどり」、「あさつゆ」、「やまかい」、「やまとみどり」、「おおいわせ」、「さやまみどり」、「めいりょく」、「おくひかり」、「さえみどり」、「さみどり」、「やまなみ」、及び「べにふうき」のいずれか又はその2種以上の組み合わせを原料茶品種とすることが推定される場合に、その原料茶品種の推定の当否を検証するためにも特に好適に使用することができる。
【0058】
このような緑茶抽出物についての原料茶品種の真贋判定方法や原料茶品種の推定の当否の検証方法は、緑茶抽出物の原料茶品種が「やぶきた」、「ゆたかみどり」、「かなやみどり」、「さやまかおり」、「おくみどり」、「あさつゆ」、「やまかい」、「やまとみどり」、「おおいわせ」、「さやまみどり」、「めいりょく」、「おくひかり」、「さえみどり」、「さみどり」、「やまなみ」、及び「べにふうき」からなる群より選択される少なくとも1つであるか否かを高い確率で判定する方法の一実施態様である。
【0059】
4.緑茶抽出物の原料茶品種識別用キット
本発明はさらに、上記のようなTMSLA10増幅用プライマーセット、TMSLA13増幅用プライマーセット、TMSLA17増幅用プライマーセット、及びTMSLA37増幅用プライマーセットのうち少なくとも1つと、TMSLA55増幅用プライマーセット及びSSR-1増幅用プライマーセットとを含を含めた緑茶抽出物の原料茶品種識別用キットも提供する。このキットは、上記のcpSSR1マーカー増幅用プライマーセットをさらに含んでもよい。このキットはまた、DNAポリメラーゼやPCR反応用バッファー等の、核酸増幅や増幅産物の分析等に用いる任意の試薬をさらに含んでもよい。
【0060】
このようなキットは、緑茶抽出物の原料茶品種が「やぶきた」、「ゆたかみどり」、「かなやみどり」、「さやまかおり」、「おくみどり」、「あさつゆ」、「やまかい」、「やまとみどり」、「おおいわせ」、「さやまみどり」、「めいりょく」、「おくひかり」、「さえみどり」、「さみどり」、「やまなみ」、及び「べにふうき」からなる群より選択される少なくとも1つであるか否かを判定するためのものであってよい。例えば、本発明のキットは、緑茶抽出物の原料茶品種の真贋判定用又は原料茶品種の推定の当否検証用のキットでありうる。
【実施例】
【0061】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0062】
[実施例1]茶品種識別用SSRマーカーの開発
1.茶葉からのDNA抽出
茶(Camellia sinensis)の一品種である「さえみどり」の単一品種のみを使用して製造された荒茶(緑茶製茶葉;野菜茶業研究所金谷茶業研究拠点の試験用製茶工場にて製茶)から、Ujihara et al.の方法(Ujihara T et al. Food Sci. Technol. Res. (2005) 11, 43-45)に従って、DNAを抽出した。簡単に説明すると、製茶葉を塩と臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)を含むDNA抽出溶液中で破砕後、クロロホルム抽出し、アルコール沈殿によりDNAを精製・回収した。さらに、「さえみどり」の新鮮葉を液体窒素下で破砕し、それを上記の抽出溶液に加えて、同様の方法でDNAを抽出した。また、「さえみどり」以外に、他の茶品種「やぶきた」、「ゆたかみどり」、「かなやみどり」、「さやまかおり」、「おくみどり」、「あさつゆ」、「やまかい」、「やまとみどり」、「おおいわせ」、「さやまみどり」、「めいりょく」、「おくひかり」、「さみどり」、「やまなみ」及び「べにふうき」についても、同様にして製茶葉と新鮮葉からDNAを抽出した。
【0063】
2.茶品種識別用SSRマーカーのPCR増幅及び増幅断片の検出
茶のゲノムDNA及び葉緑体DNAについて決定された塩基配列に基づき、茶品種間で多型が見られそうなSSRマーカーの候補領域を多数選び出した後、各マーカーを増幅するプライマーセットを設計した。次いで、設計したプライマーセットを用いて、上記で緑茶製茶葉から抽出したDNAを鋳型としてPCRによりSSRマーカー候補領域の増幅を行った。
【0064】
具体的には、PCR反応液としては、各品種の緑茶製茶葉由来のDNA溶液1μL(鋳型DNA)、dNTPs 0.16 mM、MgCl21 mM、反応バッファー(DNAポリメラーゼに添付の10xバッファーを使用説明書の記載に従い希釈したもの;すなわち120 mM Tris-HCl (pH 8.0), 10 mM KCl, 6 mM (NH4)2SO4, 0.1% Triton X-100, 10μg/ml BSA)、KOD DNAポリメラーゼ 0.375 U (TOYOBO、大阪)、各プライマー0.2 μMを含み、滅菌蒸留水を加えて全量を15μLに調製したものを用いた。PCR反応には、アプライドバイオシステムズ社GeneAmp 9700サーマルサイクラーを用いた。反応プログラムとしては、まず95℃で30秒の熱変性の後、94℃で30秒、アニーリング温度で30秒、72℃で30秒のサイクルを14サイクル繰り返した。アニーリング温度は、1サイクル目を62℃とし、以後1サイクルごとに0.5℃ずつ低下させ、14サイクル目では55.5℃とした。続いて、94℃で30秒、55℃で30秒、72℃で30秒のサイクルを20サイクル繰り返し、最後に72℃で10分間保持した。プライマー対の片方のプライマーには、5'末端を蛍光色素で標識したものを用いた。
【0065】
次いで、増幅反応後のPCR反応液1μLを、GeneScan 350 ROX Size Standard(アプライドバイオシステムズジャパン、東京)0.125 μL、ホルムアミド12.375μLと混和し、95℃で2分間加熱後、氷上に取り、急冷した。この試料について、ABI 310ジェネティックアナライザ(アプライドバイオシステムズジャパン、東京)を用い、機器の操作マニュアルに従ってフラグメント解析を行った。データ解析には機器に付属のソフトウェアGeneScanを使用した。
【0066】
その結果、増幅断片はそのサイズに応じて分画され、ピークとして検出された。このPCR増幅断片の検出結果を検討し、茶の各品種の識別に有用なSSRマーカーを選択した。
【0067】
3.本発明の茶品種識別用SSRマーカー
上記のように選択された茶品種の識別に有用な各SSRマーカーの両端配列に基づき、茶品種識別のためのSSRマーカー増幅用プライマーセットを設計した(表1)。
【0068】
【表1】

【0069】
これらのSSRマーカーを、表1に記載の増幅プライマーセットを用いて各品種の緑茶製茶葉由来DNAを鋳型として上記と同様のPCR条件で増幅した。ここで用いた被験品種は、「やぶきた」、「ゆたかみどり」、「かなやみどり」、「さやまかおり」、「おくみどり」、「あさつゆ」、「やまかい」、「やまとみどり」、「おおいわせ」、「さやまみどり」、「めいりょく」、「おくひかり」、「さえみどり」、「さみどり」、「やまなみ」、「べにふうき」であった。
【0070】
この増幅では、より再現性よく増幅断片を得るため、上記のようにPCR反応を1回(1回目のPCR)完了した後のPCR反応液の一部を採取して滅菌蒸留水で100倍に希釈し、その1μLを鋳型として用いて、さらに2回目のPCRを行った。このとき、マーカーSSR-1の増幅のための2回目のPCRには、SSR-1-Rvの代わりにSSR-1-Rv-2ndを用いた。cpSSR1の増幅については2回目のPCRは行わなかった。他のSSRマーカーの増幅のための2回目のPCRには、1回目と同じプライマーセットを用いた。
【0071】
2回目のPCR反応(cpSSR1については1回目のPCR)の完了後、そのPCR反応液1μLを試料として用いて、上記と同様に、ABI 310ジェネティックアナライザ(アプライドバイオシステムズジャパン、東京)でのフラグメント解析を行った。データ解析には機器に付属のソフトウェアGeneScanを使用した。
【0072】
この結果、品種毎に各SSRマーカーの増幅断片のサイズに相違が見られた。また、TMSLA10-Fw及びTMSLA10-Rvのプライマーセット、並びにTMSLA13-Fw及びTMSLA13-Rvのプライマーセット(表1)を用いて増幅したところ、比較的大きな増幅断片(TMSLA10-L、TMSLA13-L)と比較的小さな増幅断片(TMSLA10-S、TMSLA13-S)が認められた。これらは1遺伝子座の対立遺伝子が増幅されたものではなく、異なる遺伝子座が同時に増幅されたことにより得られた断片と考えられる。従って表1では、1つのプライマーセットで増幅されるSSRマーカーを2つずつ(TMSLA10-L[より大きな断片]とTMSLA10-S[より小さな断片]、TMSLA13-L[より大きな断片]とTMSLA13-S[より小さな断片])示した。
【0073】
こうしてABI 310ジェネティックアナライザでのフラグメント解析で示された、各品種でのSSRマーカーの増幅断片を示すピークを図2〜5に示した。図2は、TMSLA10(TMSLA10-S及びTMSLA10-L)の増幅断片を示すピークとその増幅断片サイズを示す。図3は、TMSLA13(TMSLA13-S及びTMSLA13-L)の増幅断片を示すピークとその増幅断片サイズを示す。図4は、TMSLA17及びTMSLA37の増幅断片を示すピークとその増幅断片サイズを示す。図5は、TMSLA55及びSSR-1の増幅断片を示すピークとその増幅断片サイズを示す。
【0074】
図2〜5に示されるように、これらのSSRマーカーの増幅断片のパターンは品種毎に大きく異なっていた。従ってこれらのパターンに基づけば、茶品種をうまく識別することができる。
【0075】
なお上記プライマーセットを用いて増幅したcpSSR1の増幅断片は、いずれも119bpであった。しかも、葉緑体DNAはコピー数が多く、PCRで容易に増幅されるため、このcpSSR1の増幅断片はDNA抽出が成功したかどうかの判定のために陽性コントロールとして使用できる。得られたcpSSR1増幅断片の塩基配列は配列番号16に示すものであり、「やぶきた」、「あさつゆ」、「かなやみどり」、「やまとみどり」、「やえほ」、「さみどり」、「さやまみどり」、「べにほまれ」が同一配列を有することが示されている。一般に葉緑体DNAは母性遺伝するため、葉緑体DNA上に存在するSSRであるcpSSR1は、ある品種とその種子親とした品種との間で同一の塩基配列を有すると考えられる。このことから、「あさつゆ」を種子親とする「ゆたかみどり」;「やぶきた」を種子親とする「さやまみどり」、「おくみどり」、「やまかい」、「めいりょく」、「おくひかり」、「さえみどり」;「やえほ」を種子親とする「おおいわせ」;「べにほまれ」を種子親とする「べにふうき」も、同様に配列番号16に示す塩基配列を有すると考えられる。なお外国産茶品種では上記プライマーセットを用いて増幅したcpSSR1の増幅断片長の長さが119bpでないものがあり(Ujihara T et al. Tea Research Journal (2007) 104, 15-23)、従ってcpSSR1マーカーは上記日本産茶品種をそのような外国産茶品種から区別するためにも使用できる。
【0076】
さらに、各品種について製茶葉由来DNAと新鮮葉由来DNAの双方について上記PCR増幅を行ったところ、同一のピークパターンが得られた。図6には、「さえみどり」の製茶葉と新鮮葉からそれぞれ抽出したDNAを鋳型として、TMSLA13-S、TMSLA-L、TMSLA-37、TMSLA-55を表1記載のプライマーセットを用いたPCRにより増幅して得られたピークパターンを示す。図6中、Aが「さえみどり」製茶葉由来DNA、Bが「さえみどり」新鮮葉由来DNAについてのピークパターンである。
【0077】
このことから、製茶葉由来DNAを用いて本発明の方法により茶品種識別が可能であることが示された。
【0078】
[実施例2]茶飲料に用いられた茶葉品種の分析
1.緑茶飲料からのDNA抽出及び精製
PETボトル入りの緑茶飲料500 mLを、1L容のナス型フラスコに取り、液体窒素を用いて凍結後、凍結乾燥機で乾燥させた。この緑茶飲料乾燥物を40 mLの水溶液とし、これに4 mLの3 M酢酸ナトリウム水溶液(pH 5.2)及び40 mLのイソプロピルアルコールを加えて混和した後、遠心(15,000 rpm、15分間、15℃)し上清を捨てた。得られた沈殿を4 mLの70 %エタノールで洗浄し、再度遠心(15,000 rpm、5分間、15℃)し上清を捨てた。得られた沈殿を10分程度風乾させた後、沈殿を1 mLのTEバッファーに溶解した(緑茶飲料アルコール沈殿物TEバッファー溶液)。
【0079】
続いて、この緑茶飲料アルコール沈殿物TEバッファー溶液を300μLずつ2本のエッペンドルフチューブに取り、それぞれに2 % CTAB抽出バッファー(2 % CTAB、100 mM Tris-HCl (pH 8.0)、20 mM EDTA、1.4 M NaCl、1 % ポリビニルピロリドン)300 μLと10 mg/mL RNase A溶液を2 μL加えて転倒混和し、65℃で20分間置いた。20分後、CIA(クロロホルム:イソアミルアルコールを24:1の容積比で混合したもの)を650μL加えて激しく振り混ぜ、遠心(6,000 rpm、3分間、室温)し、上清を新しいエッペンドルフチューブに取った。さらにCIA処理と遠心を上記と同様に繰り返し、上清を新しいエッペンドルフチューブに取った。これにエタノール500μLを加え、混和し、遠心(15,000 rpm、1分間、室温)した。上清を捨て、得られた沈殿を200μLの70 %エタノールで洗浄し、再度遠心(15,000 rpm、1分間、室温)し、上清を捨てた。得られた沈殿を5〜10分間風乾した後、エッペンドルフチューブ2本分の沈殿を30μLのTEバッファーに溶解した。
【0080】
こうして得られたCTAB抽出物を、さらにQIAGEN社QIAEX II Gel Extraction Kitを用いて精製した。操作はこのキット付属のプロトコルに従った。まずTEバッファーをさらに加えて全量を100μLとしたCTAB抽出物に、buffer QX1を300μL加え、さらに、良く懸濁したQIAEX IIを40 μL加えて激しく混和した後、50℃で10分間インキュベートした。インキュベートの間、2分毎に振り混ぜて懸濁した。これを遠心(13,000 rpm、30秒間、室温)し、上清を捨て、得られた沈殿を500μLのbuffer QX1に再度懸濁した後、再度遠心(13,000 rpm、30秒間、室温)した。上清を捨て、沈殿を500μLのbuffer PEに懸濁し、遠心(13,000 rpm、30秒間、室温)して上清を捨てた。得られた沈殿の500μLのbuffer PEへの懸濁、及び遠心を上記と同様に繰り返し、上清を捨て、沈殿が白っぽくなるまで風乾した。得られた沈殿を40μLのTEバッファーに懸濁し、室温で5分間静置した後遠心(13,000 rpm、30秒間、室温)し、上清を新しいエッペンドルフチューブに移した。得られた沈殿は再度40μLのTEバッファーに懸濁し、室温で5分間静置した後、遠心(13,000 rpm、30秒間、室温)し、その上清を採取してエッペンドルフチューブに移した上清(1回目の溶出液)に加えて、合計80μLのDNA溶液を得た。
【0081】
2.緑茶飲料より抽出・精製したDNAを用いたSSRマーカーの増幅・解析
上記で得た緑茶飲料由来のDNA溶液を鋳型とし、上記の表1に記載のプライマーセット(SSR-1についてはSSR1-FwとSSR1-Rvの組み合わせ)を用いて、SSRマーカーTMSLA10、TMSLA13、TMSLA37、TMSLA55、SSR-1をPCRにより増幅した(1回目のPCR)。PCR反応液としては、鋳型DNA 1μL(300〜800 ng程度)、dNTPs 0.16 mM、MgCl2 1 mM、反応バッファー(DNAポリメラーゼに添付の10xバッファーを使用説明書の記載に従い希釈したもの;すなわち120 mM Tris-HCl (pH 8.0), 10 mM KCl, 6 mM (NH4)2SO4, 0.1 % Triton X-100, 10 μg/ml BSA)、KOD DNAポリメラーゼ 0.375 U (TOYOBO、大阪)、各プライマー0.2 μMを含み、滅菌蒸留水を加えて全量を15μLに調製したものを用いた。PCR反応には、アプライドバイオシステムズ社GeneAmp 9700サーマルサイクラーを用いた。反応プログラムとしては、まず95℃で30秒の熱変性の後、94℃で30秒、アニーリング温度で30秒、72℃で30秒のサイクルを14サイクル繰り返した。アニーリング温度は、1サイクル目を62℃とし、以後1サイクルごとに0.5℃ずつ低下させ、14サイクル目では55.5℃とした。続いて、94℃で30秒、55℃で30秒、72℃で30秒のサイクルを20サイクル繰り返し、最後に72℃で10分間保持した。プライマー対の片方のプライマーには5'末端を蛍光色素で標識したものを用いた。
【0082】
より再現性よく増幅断片を得るため、さらに、こうして増幅が完了したPCR反応液の一部を採取して滅菌蒸留水で100倍に希釈し、その希釈液1μLを鋳型DNAとして、上記と同じ条件でPCR増幅を繰り返した(2回目のPCR)。2回目のPCRでも1回目のPCRと同じプライマーセットを使用した。但しSSR-1の増幅については、SSR1-Rvに代えて、SSR1-Rvよりも増幅断片の内側に位置するSSR1-Rv-2ndを用いた。
【0083】
こうして得た増幅反応後のPCR反応液1μLを、GeneScan 350 ROX Size Standard(アプライドバイオシステムズジャパン、東京)0.125μL、ホルムアミド12.375μLと混和し、95℃で2分間加熱後、氷上に取り、急冷した。この試料について、ABI 310ジェネティックアナライザ(アプライドバイオシステムズジャパン、東京)を用い、機器の操作マニュアルに従ってフラグメント解析を行った。データの解析には機器に付属のソフトウェアGeneScanを使用した。
【0084】
この結果の一例を図7に示す。図7に示したのは、C社製のPETボトル入り緑茶飲料H(図7A)、「さえみどり」の新鮮葉(図7B)、及び「やぶきた」の新鮮葉(図7C)からそれぞれ抽出したDNAについてのSSRマーカー TMSLA10-L、TMSLA13-L、TMSLA37、SSR-1の増幅断片を示すピークパターンである。
【0085】
原料として「さえみどり」の茶葉を100%使用したことが表示されているC社製のPETボトル入り緑茶飲料Hについての分析では、対照として用いた「さえみどり」の新鮮葉由来DNAと同じピークパターンが示された(図7中、Aが緑茶飲料H由来DNAについてのピークパターン、Bが「さえみどり」の新鮮葉由来DNAについてのピークパターン)。一方、「やぶきた」の新鮮葉由来DNAについて得られたピークパターン(図7C)は、緑茶飲料H由来DNA及び「さえみどり」新鮮葉由来DNAについてのものとは明らかに異なっていた。
【0086】
より詳細には、マーカーTMSLA10-Lについては、いずれの被験試料においても99bp/103bpの2本のピークが認められた。一方、TMSLA13-Lについては、緑茶飲料Hと「さえみどり」新鮮葉では152bp/154bpの2本のピークが認められたのに対し、「やぶきた」新鮮葉では、154bpのピークのみが認められた。またTMSLA37については、緑茶飲料H、「さえみどり」の新鮮葉、及び「やぶきた」新鮮葉のいずれにおいても104bp/118bpの2本のピークが認められた。さらにTMSLA55については、100bp弱の増幅断片のピークパターンを見ると、緑茶飲料Hと「さえみどり」新鮮葉では95bp/97bpの2本のピークが認められ、「やぶきた」新鮮葉では97bpの1本のピークが認められた。SSR-1については、緑茶飲料Hと「さえみどり」新鮮葉では126bpの1本のピークが認められ、「やぶきた」新鮮葉では117bp/126bpの2本のピークが認められた。
【0087】
このように、緑茶飲料Hの核酸増幅パターンは「さえみどり」の新鮮葉の核酸増幅パターンとも図1の表中の「さえみどり」の核酸増幅パターンとも一致していたことから、「さえみどり」の茶葉を100%使用したという緑茶飲料Hの表示は真実である可能性が非常に高いことが示された。また「やぶきた」新鮮葉について示された核酸増幅パターンも、図1の表に示されたパターンと一致しており、緑茶由来DNAの原料茶品種の識別が十分に可能であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の茶品種の識別方法は、緑茶飲料等の緑茶抽出物に含まれるごく微量なDNAを試料として茶の原料品種を識別するために使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】図1は、本発明で品種識別に使用可能なSSRマーカーと表1に記載のプライマーを用いて増幅したその増幅断片のパターン(核酸増幅パターン)を記載した表を示す。表中、数値は検出される増幅断片の塩基長(bp)を示す。「−」はピークが検出されなかったことを示す。
【図2】図2は、各茶品種についての、マーカーTMSLA10(TMSLA10-S及びTMSLA10-L)の増幅断片を示すピークパターン(左側)及びピークに対応する増幅断片のサイズ(右側)を示す図である。「−」はピークが検出されなかったことを示す。
【図3】図3は、各茶品種についての、マーカーTMSLA13(TMSLA13-S及びTMSLA13-L)の増幅断片を示すピークパターン及びピークに対応する増幅断片のサイズを示す図である。図3AがTMSLA13-S、図3BがTMSLA13-Lの増幅断片を示す。「−」はピークが検出されなかったことを示す。
【図4】図4は、各茶品種についての、マーカーTMSLA17(図4A)及びTMSLA37(図4B)の増幅断片を示すピークパターン及びピークに対応する増幅断片のサイズを示す図である。
【図5】図5は、各茶品種についての、マーカーTMSLA55(図5A)及びSSR-1(図5B)の増幅断片を示すピークパターン及びピークに対応する増幅断片のサイズを示す図である。
【図6】図6は、「さえみどり」の製茶葉及び新鮮葉のそれぞれに由来するDNAについてTMSLA13-S、TMSLA13-L、TMSLA-37、TMSLA-55を増幅して得られたピークパターンを示す。A:「さえみどり」製茶葉、B:「さえみどり」新鮮葉。SSRマーカーは、最左列から順にTMSLA13-S、TMSLA13-L、TMSLA37、TMSLA55である。
【図7】図7は、「さえみどり」を単一原料品種とすることが示された緑茶飲料H(A)、「さえみどり」の新鮮葉(B)、及び「やぶきた」の新鮮葉(C)のそれぞれに由来するDNAについて各種SSRマーカーを増幅して得られたピークパターンを示す。SSRマーカーは、最左列から順にTMSLA10-L、TMSLA13-L、TMSLA37、SSR-1、TMSLA55である。
【配列表フリーテキスト】
【0090】
配列番号1〜15の配列は、プライマーである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)〜(4)のうち少なくとも1つのプライマーセットと(5)及び(6)のプライマーセットとを用いて緑茶抽出物由来DNAを鋳型として核酸増幅を行い、さらに(6)のプライマーセットを用いて得られた増幅断片についてはそれを鋳型としてさらに(7)のプライマーセットを用いて核酸増幅を行い、そして各プライマーセットによる核酸増幅パターンに基づいて茶品種を識別することを特徴とする、緑茶抽出物の原料茶品種の識別方法。
(1) (a)及び(b)を含むマーカーTMSLA10増幅用プライマーセット:
(a) 配列番号1で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー若しくはその相補配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー又はその標識物
(b) 配列番号2で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー若しくはその相補配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー又はその標識物
(2) (c)及び(d)を含むマーカーTMSLA13増幅用プライマーセット:
(c) 配列番号3で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー若しくはその相補配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー又はその標識物
(d) 配列番号4で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー若しくはその相補配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー又はその標識物
(3) (e)及び(f)を含むマーカーTMSLA17増幅用プライマーセット:
(e) 配列番号5で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー若しくはその相補配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー又はその標識物
(f) 配列番号6で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー若しくはその相補配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー又はその標識物
(4) (g)及び(h)を含むマーカーTMSLA37増幅用プライマーセット:
(g) 配列番号7で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー若しくはその相補配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー又はその標識物
(h) 配列番号8で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー若しくはその相補配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー又はその標識物
(5) (i)及び(j)を含むマーカーTMSLA55増幅用プライマーセット:
(i) 配列番号9で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー若しくはその相補配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー又はその標識物
(j) 配列番号10で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー若しくはその相補配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー又はその標識物
(6) (k)及び(l)を含むマーカーSSR-1増幅用プライマーセット:
(k) 配列番号11で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー若しくはその相補配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー又はその標識物
(l) 配列番号12で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー若しくはその相補配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー又はその標識物
(7) (k)及び(m)を含むマーカーSSR-1増幅用プライマーセット:
(k) 配列番号11で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー若しくはその相補配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー又はその標識物
(m) 配列番号13で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー若しくはその相補配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー又はその標識物
【請求項2】
茶品種の識別が、緑茶抽出物の原料茶品種が「やぶきた」、「ゆたかみどり」、「かなやみどり」、「さやまかおり」、「おくみどり」、「あさつゆ」、「やまかい」、「やまとみどり」、「おおいわせ」、「さやまみどり」、「めいりょく」、「おくひかり」、「さえみどり」、「さみどり」、「やまなみ」、及び「べにふうき」からなる群より選択される少なくとも1つであるか否かの判定である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
核酸増幅工程の前に、緑茶抽出物を濃縮し、アルコール沈殿し、DNAを抽出し、200bp以下のDNA断片を精製することにより、緑茶抽出物由来DNAを取得する工程をさらに含む、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
対照実験として、(n)及び(o)を含むマーカーcpSSR1増幅用プライマーセット:
(n) 配列番号14で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー若しくはその相補配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー又はその標識物
(o) 配列番号15で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー若しくはその相補配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー又はその標識物
を用いた核酸増幅を行うことをさらに含む、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
緑茶抽出物の原料茶品種の真贋判定のための、請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
下記(1)〜(4)のうち少なくとも1つのプライマーセットと(5)及び(6)のプライマーセットとを含む、緑茶抽出物の原料茶品種識別用キット。
(1) (a)及び(b)を含むマーカーTMSLA10増幅用プライマーセット:
(a) 配列番号1で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー若しくはその相補配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー又はその標識物
(b) 配列番号2で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー若しくはその相補配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー又はその標識物
(2) (c)及び(d)を含むマーカーTMSLA13増幅用プライマーセット:
(c) 配列番号3で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー若しくはその相補配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー又はその標識物
(d) 配列番号4で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー若しくはその相補配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー又はその標識物
(3) (e)及び(f)を含むマーカーTMSLA17増幅用プライマーセット:
(e) 配列番号5で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー若しくはその相補配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー又はその標識物
(f) 配列番号6で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー若しくはその相補配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー又はその標識物
(4) (g)及び(h)を含むマーカーTMSLA37増幅用プライマーセット:
(g) 配列番号7で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー若しくはその相補配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー又はその標識物
(h) 配列番号8で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー若しくはその相補配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー又はその標識物
(5) (i)及び(j)を含むマーカーTMSLA55増幅用プライマーセット:
(i) 配列番号9で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー若しくはその相補配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー又はその標識物
(j) 配列番号10で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー若しくはその相補配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー又はその標識物
(6) (k)〜(m)を含むマーカーSSR-1増幅用プライマーセット:
(k) 配列番号11で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー若しくはその相補配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー又はその標識物
(l) 配列番号12で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー若しくはその相補配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー又はその標識物
(m) 配列番号13で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー若しくはその相補配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー又はその標識物
【請求項7】
(n)及び(o)を含むマーカーcpSSR1増幅用プライマーセット:
(n) 配列番号14で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー若しくはその相補配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー又はその標識物
(o) 配列番号15で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー若しくはその相補配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー又はその標識物
をさらに含む、請求項6記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−11764(P2010−11764A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−173529(P2008−173529)
【出願日】平成20年7月2日(2008.7.2)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、農林水産省、安全で信頼性、機能性が高い食品・農産物供給のための評価・管理技術の開発委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【Fターム(参考)】