説明

線維素原及び線維素溶解酵素としてのクロマルハナバチ毒液由来のセリンプロテアーゼ

【課題】血栓形成の主要成分のうちの一つである線維素原及び線維素を溶解できるクロマルハナバチ毒液由来のセリンプロテアーゼと、前記マルハナバチ毒液由来のセリンプロテアーゼを含む血栓症治療用組成物を提供する。
【解決手段】クロマルハナバチ毒液由来のセリンプロテアーゼはトロンビン前駆体を活性化させ、直接的に線維素原及び線維素を溶解できることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はトロンビン前駆体を活性化させ、直接的に線維素原及び線維素を溶解できるクロマルハナバチ毒液由来のセリンプロテアーゼに関する。
【背景技術】
【0002】
ハチは動物や昆虫のような侵略者または捕食者からそれらの集団を保護するために、効果的な防御手段であるハチ毒を有している。ハチ毒は様々な種類の毒液タンパク質もしくはペプチドにて構成されており、メリチン[Gauldie et al., Eur. J. Biochem., 61:369-376(1976)]、ホスホリパーゼA2(PLA2)[Six & Dennis, Biochim. Biophys. Acta 1488:1-19(2000)]、アパミン[Banks et al., Nature 282:415-417(1979)]、ヒアルロニダーゼ[Kreil, Protein Sci., 4:1666-1669(1995)]、セリンプロテアーゼ[Winningham KM et al. J Allergy Clin Immunol 2004;114:928-33]などが知られている。東洋では多様なハチ毒成分を医薬分野で利用するために、ハチ毒の薬理効果に対する研究を行っている[Mirshafiey A. Neuropharmacology 2007;53:353-61]。ハチの中でも人と最も関わりのある代表的なハチは、一般的に養蜂と花粉媒介昆虫として利用されているミツバチとマルハナバチである[Velthuis HHW et al. Apidologie 2006;37:421-51]。
【0003】
ミツバチはマルハナバチに比べて5倍以上の毒液を放出するが、マルハナバチは何度も毒液を放出でき、毒針を損失しない差異点がある[Hoffman DR et al. Ann Allergy 1984;52:276-8]。マルハナバチ毒液のセリンプロテアーゼ(Venom Serine Protease of Bombus ignites (Bi-VSP))はホスホリパーゼA2(PLA2)とボンボリチンと共にマルハナバチのハチ毒の主要構成成分である[Hoffman DR et al. J Allergy Clin Immunol 2001;108:855-60]。
【0004】
セリンプロテアーゼは多様な生物から発見され、触媒残基であるヒスチジン(His)、アスパラギン酸(Asp)、セリン(Ser)が保全された生化学的で構造的な毒性を有している。また、セリンプロテアーゼは多様な機能を有し、消化、免疫反応、補体活性、細胞分化、そして止血に主要な役割をする[Neurath H. et al. Science 1984;224:350-7; Krem MM. et al. Trends Biochem Sci 2002;27:67-74]。特に、ヘビ毒液のセリンプロテアーゼは主要毒成分の一つとして知られており、ヘビ毒液のセリンプロテアーゼはほ乳類内の止血、及び血栓症に関するものとして知られている[Braud S et al. Biochimie 82 (2000) 851-859; Matsui T et al. (2000) Biochim Biophys Acta 1477:146-156; Kini RM (2005) Pathophysiol Haemost Thrombo 34:200-204; Swenson S et al. (2005) Toxicon 45:1021-1039]。
【0005】
しかし、セリンプロテアーゼの遺伝子、及び止血と血栓症のメカニズムにおける役割は未だ明らかにされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】大韓民国特許出願第2009−13131号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Gauldie et al., Eur. J. Biochem., 61:369-376(1976)
【非特許文献2】Six & Dennis, Biochim. Biophys. Acta 1488:1-19(2000)
【非特許文献3】Banks et al., Nature 282:415-417(1979)
【非特許文献4】Kreil, Protein Sci., 4:1666-1669(1995)
【非特許文献5】Winningham KM et al. J Allergy Clin Immunol 2004;114:928-33
【非特許文献6】Mirshafiey A. Neuropharmacology 2007;53:353-61
【非特許文献7】Velthuis HHW et al. Apidologie 2006;37:421-51
【非特許文献8】Hoffman DR et al. Ann Allergy 1984;52:276-8
【非特許文献9】Hoffman DR et al. J Allergy Clin Immunol 2001;108:855-60
【非特許文献10】Neurath H. et al. Science 1984;224:350-7; Krem MM. et al.
【非特許文献11】Trends Biochem Sci 2002;27:67-74
【非特許文献12】Braud S et al. Biochimie 82 (2000) 851-859
【非特許文献13】Je et al., Biotechnol. Lett., 23:575-582(2001)
【非特許文献14】Choo et al., Mol. Cell. Neurisci., 38:224-235(2008)
【非特許文献15】Speijer H et al. J Biol Chem 1986;261:13258-67
【非特許文献16】Matsui T et al. Eur J Biochem 1998;252:569-75
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明の発明者はクロマルハナバチ毒液に含まれたセリンプロテアーゼがトロンビン前駆体を活性化させ、直接的に線維素原及び線維素を溶解でき、血液凝固メカニズムに影響を及ぼすことを発見することで、本発明を完成するに至った。
【0009】
従って、本発明の目的は、血栓形成の主要成分のうちの一つである線維素原及び線維素を溶解できる配列番号1によって表されたクロマルハナバチ毒液由来のセリンプロテアーゼを提供することにある。
【0010】
更に、本発明の目的は、前記クロマルハナバチ毒液由来のセリンプロテアーゼを含む血栓症治療用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明はトロンビン前駆体を活性化させ、直接的に線維素原及び線維素を溶解できる配列番号1のクロマルハナバチ毒液由来のセリンプロテアーゼをその特徴とする。
【0012】
更に、本発明は前記クロマルハナバチ毒液由来のセリンプロテアーゼを含む血栓症治療用組成物をまた別の特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明のクロマルハナバチ毒液由来のセリンプロテアーゼはトロンビン前駆体を活性化させ、直接的に線維素原及び線維素を溶解でき、血栓症治療用の開発に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】クロマルハナバチ毒液のセリンプロテアーゼ(Bi−VSP)のcDNAのヌクレオチド配列を表したものである。四角枠のATGは開始コドンを、下線のTAAは終結コドンを表す。
【図2】クロマルハナバチ毒液のセリンプロテアーゼ(Bi−VSP)のcDNAから演繹されたアミノ酸配列である。三角(▽)はシグナル配列であるプレペプチドとクリップ領域を含むプロペプチドを区分し、三角(▼)はクリップ領域を含むプロペプチドとセリンプロテアーゼ領域を区分する(クリップ領域は、三組のジスルフィド結合を形成する六つの完全に保存されたシステイン残基を有する)。
【図3a】クロマルハナバチ毒液のセリンプロテアーゼ(Bi−VSP)のゲノムDNAのヌクレオチド配列を表したものである。
【図3b】クロマルハナバチ毒液のセリンプロテアーゼ(Bi−VSP)のゲノムDNAのヌクレオチド配列を表したものである。
【図4】クロマルハナバチの働き蜂の脂肪体、中腸、筋肉及び毒腺からRNAを抽出してクロマルハナバチ毒液のセリンプロテアーゼ(Bi−VSP)cDNAをプローブにてノーザンブロット分析した結果である。
【図5】精製した組換えクロマルハナバチ毒液のセリンプロテアーゼ(Bi−proVSP)の電気泳動写真(SDS−PAGE)(左)及びバキュロウィルスに感染させた昆虫の細胞から精製した組換えクロマルハナバチ毒液のセリンプロテアーゼ(Bi−proVSP)をBalb/cハツカネズミに注射して製作された抗Bi−proVSP抗体を利用してウェスタンブロット分析した写真(右)である。
【図6】クロマルハナバチの働き蜂の毒腺、毒液嚢及び分泌された毒液のタンパク質の電気泳動写真(SDS−PAGE)(左)及びウェスタンブロット分析写真(右)である。左の矢印はBi−proVSPの位置を示す。Bi−proVSPはクロマルハナバチ毒液の非活性タンパク質分解酵素を表し、Bi−VSPは活性化されたタンパク質分解酵素を表す。
【図7】本発明のクロマルハナバチ毒液のセリンプロテアーゼ(Bi−VSP)のタンパク質電気泳動(SDS−PAGE)及び糖タンパク質染色写真である。糖タンパク質でないダイズトリプシン阻害剤が陰性対照として、糖タンパク質である西洋ワサビペルオキシターゼが陽性対照として使用されている。
【図8】クロマルハナバチ毒液のセリンプロテアーゼ(Bi−VSP)と既知のヘビ毒セリンプロテアーゼのアミノ酸配列を比較したものである。セリンプロテアーゼ領域に保全された三つの触媒、ヒスチジン(His)、アスパラギン酸(Asp)、セリン(Ser)は星印(*)にて表した。
【図9】実施例4で説明されるように、クロマルハナバチ毒液のセリンプロテアーゼ(Bi−VSP)とヒトのトロンビン前駆体を活性化させた後、時間の経過に従って14%SDS−PAGEゲルにて分析した結果である。数字はトロンビン前駆体がBi−VSPで培養された時間(分)を示す。
【図10】実施例5で説明されるように、クロマルハナバチ毒液セリンプロテアーゼ(Bi−VSP)でヒトの線維素原を加水分解させた後、時間の経過に従って14%SDS−PAGEゲルにて分析した結果である。数字は線維素原がBi−VSPで培養された時間(分)を示す。
【図11】実施例6で説明されるように、線維素プレート上のクロマルハナバチ毒液のセリンプロテアーゼ(Bi−VSP)の酵素活性の検出の写真である。様々な濃度のクロマルハナバチ毒液のセリンプロテアーゼ(Bi−VSP)を線維素プレートに滴下し、様々な時間の期間で培養する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明はクロマルハナバチ(Bombus ignitus)毒液に含まれており、トロンビン前駆体の活性化及び線維素及び線維素原の溶解機能を有するセリンプロテアーゼに関する。
【0016】
クロマルハナバチ毒液中のセリンプロテアーゼの遺伝子は、本発明の発明者らにより初めて分離されたものであり、未だその特徴は具体的にされておらず、本発明の発明者らは前記セリンプロテアーゼ領域を含む毒液セリンプロテアーゼコード化酵素のヌクレオチド配列を大韓民国特許出願第2009−13131号(2009.2.17)に出願したところがある。
【0017】
前記クロマルハナバチ毒液のセリンプロテアーゼ領域は配列番号1のように247個のアミノ酸からなる成熟(活性)タンパク質であり、既存のヘビ毒液セリンプロテアーゼ領域のアミノ酸の数やその配列自体で相当な差がある。
【0018】
前記クロマルハナバチ毒液のセリンプロテアーゼはクロマルハナバチの毒液嚢に貯蔵されている毒液を抽出して高速タンパク質液体クロマトグラフィを使用したゲルろ過クロマトグラフィにより分離される。
【0019】
前記クロマルハナバチ毒液のセリンプロテアーゼは血液凝固因子であるトロンビン前駆体をトロンビンに活性化でき、また、直接的に線維素原と反応して線維素原を線維素に溶解でき、漸次的に線維素を線維素溶解物に溶解できる。
【0020】
従って、本発明のセリンプロテアーゼは深部静脈血栓症と末梢動脈疾患などの治療に使用され、血管手術後に起き得る事故や血管の中に再発生し得る血栓症を減らすことができる。
【0021】
本発明は下記の実施例により、より具体的に理解することができる。しかし、下記の実施例は本発明を例示するためのものであり、本発明の保護範囲を制限するものではない。
【実施例1】
【0022】
クロマルハナバチ毒液のセリンプロテアーゼ遺伝子のクローニング
農村振興庁の国立農業科学院農業生物部から分譲されたクロマルハナバチの働き蜂の毒腺からSV Total RNA Isolation System(プロメガ社、米)を使用してトータルRNAを抽出した。抽出したトータルRNAからPolyATtract mRNA Isolation System(プロメガ社、米)を使用してプロメガ社が提示した方法に従って抽出したpoly(A)+mRNAをUni−ZAP XRベクターとGigapack III Gold Packaging Extract(ストラタジーン社、米)によりcDNAライブラリーを作製し、遺伝子発現配列タグ(expressed sequence tags、ESTs)を分析した。
【0023】
DNA抽出にはWizard mini−preparation Kit(プロメガ社、米)を使用した。DNA塩基配列は自動化DNA配列分析器(アプライドバイオシステムズ社、米)にて配列を分析した。その塩基配列はNCBI(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST)のBLASTプログラムにより比較した。その結果、クロマルハナバチの毒腺ESTs分析により360個のアミノ酸をコーティングしているクロマルハナバチ毒液のセリンプロテアーゼ(Bi−VSP)遺伝子の配列番号2の塩基配列を有するcDNAをクローニングした(図1)。クロマルハナバチ毒液のセリンプロテアーゼ(Bi−VSP)cDNAから演繹した配列番号3のアミノ酸配列(図2)のデータベース分析の結果、昆虫由来のPAP酵素グループであるのチョウセンクロコガネ (Holotrichia Diomphalia PPAF−I)(GenBank No.BAA34642)、チョウセンクロコガネ( H.Diomphalia PPAF−III)(GenBank No.BAC15604)、カイコ( Bombyx mori PPAF−3)(GenBank No.AAL31707)、キイロショウジョウバエ (Drosophila melanogaster MP1)(GenBank No.NP_649560)、キイロショウジョウバエ (D.melanogaster easter)(GenBank No.NP_524362)及びタバコスズメガ (Manduca sexta PAP−I)(GenBank No.AAX18636)と相同性が確認され、クリップ領域にシステイン残基が保全され、セリンプロテアーゼ領域にヒスチジン(H)、アスパラギン酸(D)、セリン(S)残基が保全されていることが確認された。前記分析を通してクロマルハナバチ毒液のセリンプロテアーゼ(Bi−VSP)は26のアミノ酸からなるシグナル配列であるプレペプチド領域と、クリップ領域を含む87のアミノ酸からなるプロペプチド領域と、247のアミノ酸からなる成熟タンパク質であるセリンプロテアーゼ領域とから構成されていることが確認された。
【0024】
更に、クロマルハナバチ毒液のセリンプロテアーゼ(Bi−VSP)cDNAの塩基配列を基に下記表1のプライマーを作製してPCRの増幅によりクロマルハナバチ毒液のセリンプロテアーゼ(Bi−VSP)遺伝子のゲノムDNAを合成した。
【0025】
【表1】

【0026】
Wizard Genomic DNA Purification Kit(プロメガ社、米)を使用してクロマルハナバチのゲノムDNAを単離し、前記プライマー及びPCR premix Kit(バイオニア、韓国)を使用してクロマルハナバチ毒液のセリンプロテアーゼ(Bi−VSP)遺伝子のゲノムDNAを増幅させた。このとき、PCR反応として、95℃で5分間の変性、60℃で1分間のアニーリング、72℃で3分間の重合反応の一連のサイクルを35サイクル実施した。
【0027】
PCR反応によって増幅させたDNAを自動化DNA配列分析器で分析した結果、クロマルハナバチ毒液のセリンプロテアーゼ(Bi−VSP)遺伝子のゲノムDNAは6個のエクソンと5個のイントロンで構成されており、開始コドンと終止コドンまでのDNAの全長は4505塩基対であることを確認した(図3a、図3b)。
【実施例2】
【0028】
クロマルハナバチ毒液のセリンプロテアーゼ(Bi−VSP)の毒腺の特異発現、切断及びO−糖鎖付加
クロマルハナバチの働き蜂の脂肪体、中腸、筋肉及び毒腺からRNAをトータルRNAIsolation キット(プロメガ社、米)を使用して抽出した。抽出したRNAはレーン当り5μgで1.0%ホルムアルデヒドアガロースゲルで電気泳動された後、そのゲルはナイロンブロッティングメンブレン(Schleicher & Schuell社、独)に転移され、Prime−It II Random Primer Labeling Kit(ストラタジーン社、米)を利用して[α−32P]dCTP(アマシャム社、米)で標識されたクロマルハナバチ毒液のセリンプロテアーゼ(Bi−VSP)のcDNAのプローブと42℃でハイブリダイゼーションしてノーザンブロット分析を実施した。その結果、クロマルハナバチ毒液のセリンプロテアーゼ(Bi−VSP)mRNAは毒腺のパターンで検出された(図4)。
【0029】
クロマルハナバチ毒液のセリンプロテアーゼ(Bi−VSP)の抗体を作製するために、クロマルハナバチ毒液のセリンプロテアーゼ(Bi−VSP)のcDNAを昆虫Autographa californica核多角体病ウイルス転移ベクターpBAC1(クロンテック社、米)の制限酵素BamHI−XhoI領域間に挿入した後、100ngの転移ベクターと500ngのbAcGOZAウイルスDNA[Je et al., Biotechnol. Lett., 23:575-582(2001)]と共に、リポフェクション(クロンテック社、米)を使用して昆虫細胞株Sf9(Spodoptera frugiperda9)にコトランスフェクションした。5日後、得られた培養液を回収してクロマルハナバチの組換え毒セリンプロテアーゼ(Bi−proVSP)を発現する組換えAutographa californica核多角体病ウイルスを作製した。組換えAutographa californica核多角体病ウイルスはSf9細胞株で増殖し、組換え毒セリンプロテアーゼ(Bi−proVSP)をHisTrap column(アマシャムバイオサイエンス社、米)を使用して分離した。分離された組換え毒セリンプロテアーゼ(Bi−proVSP)をBalb/cハツカネズミに注射してポリクローナル抗体を作製した[Choo et al., Mol. Cell. Neurisci., 38:224-235(2008)]。分離されたクロマルハナバチ毒液のセリンプロテアーゼ(Bi−VSP)と前記抗体を使用してウェスタンブロット分析を行った(図5)。
【0030】
毒腺、毒液嚢、放射された毒で毒タンパク質サンプルを準備して15%SDS−PAGEゲルで電気泳動した後、前記抗体を用いてウェスタンブロット分析を行った。その結果、毒腺では、不活性な形態のクロマルハナバチ毒液の毒セリンプロテアーゼ(Bi−ProVSP)と活性化された形態のクロマルハナバチ毒液の毒セリンプロテアーゼ(Bi−VSP)が存在し、毒液嚢と放射された毒には、活性化された形態のクロマルハナバチ毒液のセリンプロテアーゼ(Bi−VSP)だけが存在した(図6)。このような結果から、クロマルハナバチ毒液のセリンプロテアーゼ(Bi−VSP)は毒腺で発現し、活性化された形態に切断されて毒液嚢に貯蔵された後に放射されることが確認できた。
【0031】
クロマルハナバチ毒液のセリンプロテアーゼ(Bi−ProVSP)が活性化形態の毒セリン(Bi−VSP)から分離される領域を調べるために、34kDaのクロマルハナバチ毒液のセリンプロテアーゼ(Bi−VSP)をポリビニリデンジフルオライド(PVDF)膜(アプライドバイオシステムズ社、米)に転移させてエドマン分解法にてN−末端領域を分析した。このような結果、図2に表したように、クロマルハナバチ毒液のセリンプロテアーゼ(Bi−proVSP)は113番目のアミノ酸Argと114番目のアミノ酸Valとの間で切断されて、247個のアミノ酸からなるセリンプロテアーゼから構成された活性化形態の毒セリンプロテアーゼ(Bi−VSP)に転換されることが分かった。
【0032】
本発明のセリンプロテアーゼは配列番号1で示された247個のアミノ酸からなる活性化形態の毒セリンプロテアーゼである。
【0033】
247個のアミノ酸で構成されたセリンプロテアーゼの計算による推定分子量は27kDaである。しかし、SDS−PAGEゲル上で分子量は34kDaで表すが、これは約20%の糖を含むためである。クロマルハナバチ毒液のセリンプロテアーゼはN−糖鎖付加部位が存在しないが、O−糖鎖付加部位は存在した。これを確認するために、Gel/Code糖タンパク質染色キット(ピアース社、米)を用いて、活性化形態のクロマルハナバチ毒液のセリンプロテアーゼの糖タンパク質染色を行った。その結果、活性化形態のクロマルハナバチ毒液のセリンプロテアーゼはO−糖鎖付加された糖タンパク質であることが確認できた(図7)。
【実施例3】
【0034】
クロマルハナバチ毒液のセリンプロテアーゼとヘビ毒液のセリンプロテアーゼのアミノ酸配列の比較
クロマルハナバチ毒液のセリンプロテアーゼとヘビ毒のセリンプロテアーゼの塩基配列をNCBI(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST)のBLASTプログラムにより比較した。上記二つのセリンプロテアーゼのアミノ酸配列を比較した時、クロマルハナバチのセリンプロテアーゼ(Bi−VSP)は血液凝固メカニズムのトロンビン前駆体活性化因子として機能するOscutarin C(GenBank No.AY940204)、トロンビンと類似活性を有するバトロキソビン(Batroxobin)(GenBank No.AAA48553)、プラスミン前駆体をプラスミンに活性化させるTSV−PA(GenBank No.Q91516)、PA−BJ(GenBank No.P81824)、ハリステーゼ(Halystase)(GenBank No.P81176)及びRVV−V(GenBank No.P18964)と一定部分が相同性を有し、セリンプロテアーゼ領域にヒスチジン、アスパラギン酸、セリン残基がよく保全されていた(図8)。
【実施例4】
【0035】
クロマルハナバチ毒液のセリンプロテアーゼのトロンビン前駆体活性化因子としての役割
クロマルハナバチ毒液のセリンプロテアーゼ(Bi−VSP)の血液凝固の重要な役割を行うトロンビン前駆体であるプロトロンビンとの活性反応を審査するために、下記の実験を実施した。
【0036】
100mM のNaClと5mM CaCl2を緩衝材として含有している50mM Tris−HCl(pH8.0)にヒトの血液凝固因子であるトロンビン前駆体2μg(シグマ社)とクロマルハナバチの毒液嚢から精製した毒液のセリンプロテアーゼ2ngを希釈して、37℃で反応させて、その混合液を14%SDS−PAGEゲルに通過させて時間の経過による反応結果を確認した[Speijer H et al. J Biol Chem 1986;261:13258-67]。反応の5分後、トロンビン前駆体は活性化形態のトロンビンに変換し始め、反応の60分後にトロンビンに完全に変換されたことを確認した(図9)。これは血液凝固メカニズムで血液凝固因子Xa(Factor Xa)のメカニズムと類似していた。
【実施例5】
【0037】
クロマルハナバチ毒液のセリンプロテアーゼの線維素原溶解酵素としての役割
10μgのヒトの線維素前駆体である線維素原(MPバイオメディカル社、Solon、OH、米)とクロマルハナバチ毒液嚢から精製したセリンプロテアーゼ0.25μgを50mMの Tris−HCl(pH8.0)緩衝剤で希釈し、37℃で反応させて、その混合液を14%SDS−PAGEゲルに通過させて時間の経過による反応結果を確認した[Matsui T et al. Eur J Biochem 1998;252:569-75]。
【0038】
その結果、クロマルハナバチ毒液のセリンプロテアーゼ(Bi−VSP)は線維素の凝固現象を示さなかったが、線維素原Aα、Bβ、γ鎖を加水分解した。Aα鎖は反応から5分以内に完全に加水分解され、Bβ鎖とγ鎖は60分以内に完全に加水分解された。これはクロマルハナバチ毒液のセリンプロテアーゼ(Bi−VSP)が線維素原を加水分解するトロンビンのような酵素活性を有することを意味する。60分後から720分以内に線維素原から転換された線維素が完全に線維素分解物(FDP)に転換された。クロマルハナバチ毒液のセリンプロテアーゼ(Bi−VSP)が線維素分解が可能なタンパク質酵素であるプラスミンのような活性を有していることが確認された(図10)。
【実施例6】
【0039】
クロマルハナバチ毒液のセリンプロテアーゼの線維素原溶解酵素の検証
前記実施例5に示されたように、クロマルハナバチ毒液のセリンプロテアーゼ(Bi−VSP)に対する線維素原の反応実験を通して、クロマルハナバチ毒液のセリンプロテアーゼ(Bi−VSP)は線維素原を線維素に明確に溶解させるだけでなく、線維素を線維素分解物に変換させるということをSDS−PAGEゲル上で確認した。
【0040】
更に、クロマルハナバチ毒液のセリンプロテアーゼの線維素溶解能力に対する更に具体的で可視的な結果を導き出すために、フィブリン平板分析法を実施した。10mL当り0.6%の線維素原をホウ酸塩緩衝剤(pH7.8)に入れ、30℃で1時間溶解した後、10mLをプレートに移した。線維素原を線維素に転換させるために、トロンビン40ユニットを線維素原が入った平板に入れた後、よく希釈して室温で反応させて固めた[Astrup T. et al. Arch. Biochem. Biophys.(1991). 40, 346-351]。線維素プレートに精製したクロマルハナバチ毒液のセリンプロテアーゼを濃度別(0、1、2、3、5μg)に処理して、37℃で時間単位(3、5、7、9時間)で反応させて線維素に対する溶解能力を確認した結果、濃度別に溶解に対するホワイトゾーンの生成を確認した(図11)。これを通してクロマルハナバチ毒液のセリンプロテアーゼが効果的に線維素を溶解する活性があることが確認できた。
なお、本発明は、他の形式、構造、配列、及び割合で実施可能であり、他の成分、物質、構成要素を使用可能なことは当業者には明確である。従って、開示された実施例は全ての点で実例とみなされるが、本発明を制限するものではなく、また本発明の範囲は添付の請求項に示されているが、上記記載に制限されるものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トロンビン前駆体を活性化させることを特徴とする配列番号1のクロマルハナバチ毒液から単離したセリンプロテアーゼ。
【請求項2】
線維素原を線維素に溶解させることを特徴とする配列番号1のクロマルハナバチ毒液から単離したセリンプロテアーゼ。
【請求項3】
線維素溶解活性を有することを特徴とする配列番号1のクロマルハナバチ毒液から単離したセリンプロテアーゼ。
【請求項4】
請求項1乃至3から選択されたいずれか1項のクロマルハナバチ毒液から単離したセリンプロテアーゼを含むことを特徴とする血栓症治療用組成物。



【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−160793(P2011−160793A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−123262(P2010−123262)
【出願日】平成22年5月28日(2010.5.28)
【出願人】(510150385)ドン ア ユニバーシティー リサーチ ファンデーション フォー インダストリ アカデミー コーポレーション (1)
【Fターム(参考)】