説明

線量分布測定システム

【課題】回転ガントリーを有する粒子線治療装置の線量分布測定システムに関し、特に線量分布測定装置が複数ある場合、複数の線量分布測定装置と制御計算機とがシーケンサを介して制御命令および測定データの授受行う線量分布測定システムにおいて制御の共通化および自動化を可能とする。
【解決手段】シーケンサが、データ測定および線量分布測定装置を駆動するタイミングを決定するカウンタ制御シーケンサ16と、当該カウンタ制御シーケンサが決定した駆動タイミングに合わせ線量分布測定装置を駆動制御する駆動制御シーケンサ17a,17bとを備え、それぞれ密閉水槽5A,5B、駆動架台6a,6bを有する複数の線量分布測定装置を一括制御できるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、線量分布測定装置が複数ある場合に、制御計算機による制御をシーケンサを介して行うことで、制御の共通化および自動化を可能とするようにした線量分布測定システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の技術について説明する。放射線による癌治療前に、体内で実際に放射線線量分布がどのようになっているかをシミュレートするために放射線治療装置の線量分布測定が行われている。特に、加速器を用いる電子線、X線照射装置では、拡大されたビームを癌病巣に向けて照射すること、また、電子線、X線は体表面での影響が大きいため、癌組織だけでなく正常組織での被爆線量も測定する必要があり、また、陽子線や多価イオンを照射する粒子線治療においても体内での深度エネルギー分布を正確に調整することで正常組織の被爆量を抑えるため、この線量分布測定は重要である。
【0003】
これらの測定には、人体に模した上面が開放された箱型水槽に水を入れ、この水に対して放射線を照射し、水中に設けたセンサによってその線量を測定する方法が使用されている。図4に従来の線量分布測定装置の水槽の概要を示す。7は受けた放射線または粒子線(ここでは放射線)を電荷に換えるセンサ、8はセンサ7を搭載する駆動台、20は水の入った箱型水槽、21は駆動台8に搭載されたセンサ7をX軸方向に移動させるセンサX駆動軸、22はセンサX駆動軸21をY軸方向に平行移動する2本のセンサY駆動軸、23はZ軸方向にセンサY駆動軸22を平行移動させる4本のセンサZ駆動軸、24は放射線または粒子線ビーム(ここでは放射線ビーム)である。
【0004】
図に示したように、センサ7は、X軸方向には駆動台8とともにモータ(図示せず)によってセンサX駆動軸21上を移動し、また、Y軸方向にはセンサX駆動軸21がセンサY駆動軸22上を平行移動するとともに移動し、また、Z軸方向にはセンサY駆動軸22がセンサZ駆動軸23上を平行移動することで、放射線ビーム24に対してセンサ7を垂直および平行方向に移動して線量分布測定を行う。
【0005】
ここで線量分布測定には、OCR(Off Center Ratio)測定、また、PDD(深部量百分率)測定およびTPR(組織ピーク線量比)測定がある。図5、図6、図7にそれぞれOCR、PDD、TPR測定の方法を示す。図5において、25はOCR測定の際のセンサ7の移動部分である。図に示したように、OCR測定とは、放射線ビーム24に対して垂直方向の線量分布を測定する方法のことである。
【0006】
一方、図6はPDD測定の際の水槽の動きを表す側面図である。20aは移動した水槽の位置である。図6に示したように、センサ7の位置を固定したまま、水槽20を上下に駆動して水深を変化させることで線量分布を測定する方法である。
【0007】
また、図7はTPR測定の際のセンサの移動を表す側面図である。7aおよび7bは移動したセンサ7の位置である。図7に示したように、TPR測定では、水槽20は動かさずに水槽20中でセンサ7を上下に動かして水深を変化させることで線量分布を測定する方法である。
【0008】
これら方法により線量分布測定を行う際に、従来では上面が開放された水槽だったため、粒子線照射装置が回転ガントリーを有するものであっても、水槽を回転ガントリーとともに回転させることはできなかった。そのため、ガントリーが回転して斜め方向の放射線の線量分布測定を行う場合には、粒子線が水槽の水に入射してからセンサに達するまでの距離を測り、それによってデータを補正して回転ガントリーの線量分布測定を行うため、水面に対して垂直に放射線ビームを入射する場合と比べて精度が低いという問題点があった。
【0009】
また、回転ガントリー装置に密閉水槽を用いた場合は、測定範囲、即ち水槽中のセンサの移動範囲を確保するためには、センサ自体の大きさや駆動軸の幅などから水槽の容積を一定以上保つ必要があるが、水槽自体を上下に駆動する必要があるPDD測定を行う場合には、駆動装置や水槽に一定の強度が必要であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
この発明は以上のような問題点を解決するためになされたもので、回転ガントリーを有する粒子線治療装置の線量分布測定を行う線量分布測定システムにおいて、必要な測定範囲を確保しつつ水槽を小型化することで、駆動装置および水槽に課せられる強度条件を低減し、回転ガントリーを有する粒子線放射装置においてもOCR測定、TPR測定、およびPDD測定が可能な線量分布測定装置を提供すると共に、線量分布測定装置が複数ある場合に、それらの制御が個々に行われていた課題を解決するものである。
【0011】
この発明は、線量分布測定装置が複数ある場合に、制御計算機による制御をシーケンサを介して行うことで、制御の共通化および自動化を可能とすることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明は、複数の線量分布測定装置、当該複数の線量分布測定装置に電圧供給するための電源、当該複数の線量分布測定装置とシーケンサを介して制御命令および測定データの授受行う制御計算機、当該複数の線量分布測定装置の測定データをI/F変換して前記シーケンサに出力する複数のI/F変換器を有する線量分布測定システムであって、前記シーケンサはデータ測定および前記線量分布測定装置を駆動するタイミングを決定するカウンタ制御シーケンサと、当該カウンタ制御シーケンサが決定した駆動タイミングに合わせ前記線量分布測定装置を駆動制御する駆動制御シーケンサとを備え、複数の線量分布測定装置を一括制御するものである。
【発明の効果】
【0013】
この発明に係る線量分布測定システムによれば、複数の治療室の線量分布測定装置と、制御計算機とのインターフェースを、カウンタ制御シーケンサおよび各線量分布測定装置に対応した駆動制御シーケンサで行うことにより、測定機器の制御信号、入出力信号を単純化でき、また、制御の共通化が図れ、測定機器制御に関するコストが低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
実施の形態1
図1(a)および図1(b)はこの発明の実施の形態1に係わる粒子線治療装置における線量分布測定システムに使用される線量分布測定装置の構成を表すブロック図である。図において、1は粒子線照射口、2は放射線照射口1が設けられ、当該放射線照射口1と共に360度の回転を行う回転ガントリー、3は回転ガントリーの強度を保つフレーム、4は粒子線照射の際の基準点となるアイソセンタ、5は人体に模した円筒型の密閉水槽、6は密閉水槽5を設置する3つの駆動軸を有する駆動架台、7は水槽中に設けられた照射される粒子線を感知するセンサ、8はセンサ7を水槽中でモータ(図示せず)により上下に移動させるための駆動台、9は密閉水槽5をモータ(図示せず)により駆動架台6と共にX方向に移動させるためのX駆動軸、10はX駆動軸9を平行移動することで当該X駆動軸9上の密閉水槽5および駆動架台6をY方向に移動させるためのY駆動軸、11はY駆動軸10をZ方向に平行移動することで当該Y駆動軸10上の密閉水槽5および駆動架台6をZ方向に移動させるためのZ駆動軸である。
【0015】
また、図1(b)は回転ガントリーを回転した際の線量分布測定装置の斜視図である。図1(a)と同じ構成要素には同じ符号を付す。
【0016】
また、図2は密閉水槽5と駆動架台6と各駆動軸の構成を表す図である。図1(a)と同じ構成要素には同じ符号を付す。
【0017】
図2に示すように密閉水槽5を搭載した駆動架台6をX駆動軸9、Y駆動軸10、Z駆動軸11を組み合わせて3次元的に移動できるようにする。そして図1(a)に示すように、回転ガントリー2の床面にこれらを固定する。ここで、密閉水槽5中のセンサ7は水槽の上下方向にしか動かないようにし、回転ガントリー2が回転した際には、図1(b)に示したようにアイソセンタ4を中心に粒子線ビームが密閉水槽5に当たるように回転ガントリー2の床面における密閉水槽5の位置を定める。
【0018】
そして、従来OCR測定では水槽中をセンサ自体を移動して行っていたところ、回転ガントリーの各回転角において、センサ7の位置は固定したまま円筒型の密閉水槽5をX駆動軸9およびY駆動軸10に沿って移動させることで測定を行う。その際、密閉水槽5の円筒の半径を測定に必要な最低限の長さとすることで従来の水槽とくらべ駆動軸の幅やセンサの大きさを考慮する必要がないため、容積を減らすことができる。
【0019】
また、PDD測定については、Z駆動軸によって密閉水槽5を上下方向に移動し、密閉水槽5が移動した分だけセンサ7を逆方向に移動することでアイソセンタ4に対するセンサ7の位置は固定し、水深だけ変化させて測定を行う。これを回転ガントリーの回転角を変化させながら測定する。
【0020】
また、TPR測定については、密閉水槽5は固定したままセンサ7をセンサZ駆動軸11に沿って移動させ、各位置で測定を行う。これについても回転ガントリーの回転角を変化させながら測定する。
【0021】
以上のように、従来では水槽中にセンサ7に対してX,Y,Z方向の駆動軸を有していたため、水槽は箱型にする必要があり、かつセンサ自体の大きさやセンサの駆動軸の幅などの関係から本来必要な測定範囲以上の容積を必要としていたが、本実施の形態1では、センサ7の駆動軸をセンサZ駆動軸12のみにして、密閉水槽5はX駆動軸、Y駆動軸、Z駆動軸の3つの駆動軸を有する駆動架台6に設置し、OCR測定時に、センサ7は固定したまま円筒型の密閉水槽5を動かすこととしたため、水槽の小型化が図れ、OCR、PDD、TPRの各測定を行うことができる線量分布測定装置を得る。
【0022】
図3はこの発明の実施の形態1に係わる線量分布測定システムの構成を表すブロック図である。上記で説明した線量分布測定装置が複数ある場合に、制御計算機とのインターフェイスをシーケンサで行うことにより、測定機器の制御信号、入出力信号を単純化でき、測定機器制御に関するコストを低減することができる。図3において、5a、5bはそれぞれA治療室およびB治療室に設置された密閉水槽、6a、6bはそれぞれA治療室およびB治療室の密閉水槽の駆動架台、7a、7bはA治療室およびB治療室のセンサ、13a、13bはそれぞれセンサ7a、7bが受けた粒子線の量に応じて放出した電荷量をデータに変換するI/F変換器、14a、14bはセンサ7a、7bを稼動させる高圧電源、15はカウンタロジック回路、16は駆動架台6a、6bの駆動タイミングを決定するカウンタ制御シーケンサ、17a、17bはカウンタ制御シーケンサの決定した駆動タイミングに合わせてドライバ18a、18bにそれぞれ駆動架台6a、6bの移動量を出力するA治療室用、B治療室用の駆動制御シーケンサ、19はカウンタロジック回路15から測定データおよび測定終了信号を受け取り、また粒子線を放出する加速器(図示せず)の放出タイミング信号をカウンタロジック回路15に出力する制御計算機、24は粒子線ビームである。
【0023】
次に動作について説明する。本実施の形態では、A、B2つの治療室に設置された線量分布測定装置を一つの制御系で制御することを特徴とする。まず、A治療室において線量分布測定を行う場合は、加速器の粒子線放出のタイミング信号が制御計算機19から出力されるとカウンタ制御シーケンサ16が測定開始タイミングを駆動制御シーケンサ17aに出力する。駆動制御シーケンサ17aでは測定開始位置にセンサ7aおよび密閉水槽5aを位置するようドライバ18aに制御信号を出力し、密閉水槽5a、駆動架台6a、およびセンサ7aをそれぞれ初期位置に戻し、高圧電源14aから電力が供給されてセンサ7aの測定が開始される。加速器から放出された粒子線ビーム24がセンサ7aに到達すると、センサ7aはその線量に応じた電荷をI/F変換器13aに出力し、I/F変換器13aではその電荷量をデータに変換してカウンタロジック回路15に出力する。カウンタロジック回路15では、入力された測定データを制御計算機19に出力する。以上の行程を各測定法に応じて行い、測定データおよび測定終了時には測定終了信号を制御計算機19に出力する。A治療室において必要な測定が終了すれば、次にB治療室において同様の測定を行うなどする。
【0024】
ここで、加速器の粒子線放出がパルス状の場合には、粒子線ビーム24と次のビームの合間に、駆動軸を駆動させることで測定時間の短縮化を図ることができる。その際、駆動軸の移動が終了しないうちに粒子線ビーム24が出力された場合には、これを検知し不必要なデータを自動的に削除する。
【0025】
また、測定行程を自動化するだけでなく、I/F変換器13a、13bの出力レンジの切替えを制御計算機からシーケンサを通して自動化することで、測定の際に発生する、誤操作による測定ミスを軽減することが可能となる。
【0026】
また、高圧電源14a、14bが故障した際、電圧異常信号をカウンタ制御シーケンサ16に出力することで測定を中止し、アラーム信号を制御計算機19に出力する。
【0027】
本実施の形態では、説明の便宜上、治療室は2つのみの場合を示したが、実際は2つ以上の治療室に適用することができるのはいうまでもない。
【0028】
以上のように、本実施の形態1では、複数の治療室の線量分布測定装置と、制御計算機とのインターフェースを、カウンタ制御シーケンサおよび各線量分布測定装置に対応した駆動制御シーケンサで行うことにより、測定機器の制御信号、入出力信号を単純化でき、また、制御の共通化が図れ、測定機器制御に関するコストが低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】(a)本発明の実施の形態1にかかわる線量分布測定システムに使用される線量分布測定装置を粒子線治療装置の回転ガントリーに設置したときの側面図である。(b)回転ガントリーを回転したときの側面図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係わる線量分布測定システムに使用される線量分布測定装置の3つの駆動軸を有する駆動架台に設置された密閉水槽の斜視図である。
【図3】本発明の実施の形態1に係わる線量分布測定システムの構成を表すブロック図である。
【図4】従来の線量分布測定装置の水槽の斜視図である。
【図5】OCR測定の際のセンサの測定範囲を表す水槽の斜視図である。
【図6】PDD測定の際の水槽の動きを表す水槽の側面図である。
【図7】TPR測定の際のセンサの動きを表す側面図である。
【符号の説明】
【0030】
1:粒子線照射口、 2:回転ガントリー、 3:フレーム、
4:アイソセンタ、 5、5a、5b:密閉水槽、
6、6a、6b:駆動架台、 7、7a、7b:センサ、 8:駆動台、
9:X駆動軸、 10:Y駆動軸、 11:Z駆動軸、
13a、13b:I/F変換器、 14a、14b:高圧電源、
15:カウンタロジック回路、 16:カウンタ制御シーケンサ、
17a、17b:駆動制御シーケンサ、 18a、18b:ドライバ、
19:制御計算機、 20:従来の水槽、 21:センサX駆動軸、
22:センサY駆動軸、 23:センサZ駆動軸、
24:粒子線ビーム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の線量分布測定装置、当該複数の線量分布測定装置に電圧供給するための電源、当該複数の線量分布測定装置とシーケンサを介して制御命令および測定データの授受を行う制御計算機、当該複数の線量分布測定装置の測定データをI/F変換して前記シーケンサに出力する複数のI/F変換器を有する線量分布測定システムであって、
前記シーケンサはデータ測定および前記線量分布測定装置を駆動するタイミングを決定するカウンタ制御シーケンサと、
当該カウンタ制御シーケンサが決定した駆動タイミングに合わせ前記線量分布測定装置を駆動制御する駆動制御シーケンサを備え、複数の線量分布測定装置を一括制御することを特徴とする線量分布測定システム。
【請求項2】
前記I/F変換器は前記カウンタ制御シーケンサによって、出力信号の出力レンジ切り替えを行うことを特徴とする請求項1に記載の線量分布測定システム。
【請求項3】
前記線量分布測定装置は、粒子線治療装置からの粒子線の照射口が設けられると共に、前記粒子線治療装置の治療台に対して垂直な面内を回転移動する回転ガントリーと、前記粒子線のビーム軸上に設けられると共に、前記回転ガントリーとともに回転移動する密閉水槽と、この密閉水槽の水中に設けられたセンサと、このセンサを前記粒子線のビーム軸方向に移動させるセンサ移動手段と、前記密閉水槽を前記粒子線のビーム軸方向およびビーム軸に対して垂直方向にそれぞれ移動させる水槽移動手段とを備えたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の線量分布測定システム。
【請求項4】
前記密閉水槽は、回転ガントリーの床面に取り付けられたことを特徴とする請求項3に記載の線量分布測定システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−231071(P2006−231071A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−105254(P2006−105254)
【出願日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【分割の表示】特願2001−174336(P2001−174336)の分割
【原出願日】平成13年6月8日(2001.6.8)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】